小林立はうごかない~エピソード♯懺悔室~ (59)

知っている人が多かろうが少なかろうが、ごく一部の例外を除けば
それはどちらでもいいことなのですが、私の名は小林立。女子高生マンガ家です。

私は某誌に『咲-Saki-』というマンガを連載しており、
以前ちょっとした利き腕粉砕骨折で執筆を数ヶ月ほど中断したことがありました。
その中断期間中、ストーリーの新展開のため、取材旅行として北海道に数日間滞在したのですが…。

これからここに紹介するエピソードは、その時にこの小林立が偶然取材した
不思議な話であり『実際にこの耳で聞いた』恐怖の出来事なのです。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1413176651

皆さんは『懺悔室』というのをご存知でしょうか?

そう…教会に設置されている木製の電話ボックスのような部屋のことで
カーテンの閉まった一方の部屋に神父あるいはシスターが入り
もう一つの部屋には信者が、部屋と部屋の間にある小窓に向かって
懺悔(告解もしくは今はゆるしの秘跡とも言うそうですが)
すなわち過去に犯した「あやまち」をプライバシーを守られながら、告白することが出来るのです。

人は自分で考えるほど心に抱える秘密を何年も何年も隠し続けることなど決して出来ません。
単行本巻末でスペシャルサンクスしておきながら実は無許可だったり、
幼い娘を置いて失踪した末に麻雀劇画雑誌の編集長になっていたり…

抱える「あやまち」「秘密」が重大であればあるほど心は苦しみ悲鳴を上げるもの。
懺悔室はその魂の浄化の為の場所であり、昔の人の叡智なのです。

その日私はキタローみたいな髪型の女の子が手を組んで
「感謝します」と祈りを捧げるカットとか可愛いよねと思い
あるミッション系のスクールに依頼して色々と取材をさせてもらっていました。

そして、校内にある教会の備品デザインや材質を調べているうちに少し経験のために
実際に何か告白してみるのも悪く無いかなと考えて懺悔部屋に入ってみたのです。
体験はリアリティを作品に生みますから…

もっとも、基本的にコミュ障で引き籠もりの私に派手に犯した罪など無いので
『珍しく外出した際、ヘアゴムと間違えてパンツで髪を縛って外に出てしまいました』
とでも告白しようかと考えていると


ガタンッ ゴトンッ


立「…?」

コンコン


???「…シスター、告白に参りました…。私は…深い罪を犯しました…」

立「???…」キョロキョロ

???「うう…ううう……」

立「えっ…」

???「とても話さずにはいられません。少々長話になりますが、シスター…告白しなくては夜も眠れません!」

立「まさか…!」ガタッ


そう、私は間違えて「懺悔する側」ではなく、「懺悔を聞く側」の部屋に入ってしまったのです。
ですが、正直ラッキーだとも思いました。実際の懺悔を聞く機会などそうあるものでは無いのですから。

"体験はリアリティを作品に生む"

彼には秘密を告白してスッキリしてもらい、私は貴重な経験を得る。
お互いWin-Winの関係で進めば重畳というものです。


???「シスター?」

立「い、いえ…なんでもありません。どうぞ、続けてください…」


ここからの話は、登場人物に便宜上仮名を付けて彼自身に語ってもらいましょう。


一太「はい、どう話したものか…いや、あの夏の日の午後…そう、あの夏の日の午後に全ては起きたのです…

一太「とにかく、メールでURL送っときましたから。じゃあ」ピッ

一太「ふうっ、さて…と、試合が始まる前に選手控室に向かいますか。着く頃には動画も見終わってるだろうし」

一太「会長びっくりするぞー、まさか東京から電話していたとは思って無かっただろうからなあ」フフフ


私の母校の部活は当時ある人気競技で全国大会に出場していて、
学生議会副会長であった私は地元からの声援を選手たちに届ける役目を担う一方で
個人の立場としても応援したいと、議会長には内緒で現地に来ていました。


一太「あれ?こっちの方だと思ったけど、いつまでたっても着かないぞ。どこかで道を間違えたかな?」

一太「その代わり、何やら趣のある戸構えの部屋は見えてきたけど…なになに?『永水女子高校控室』…」

一太「………」キョロキョロ

一太「…うん、事前に敵情視察をすることも必要だな」

一太「そもそも選手以外立ち入り禁止のフロアに入ってる時点で同じようなもんでしょ」


魔が差した、とでも言うのでしょうか。
その時の私は母校の力に少しでもなれれば、というそのことで頭がいっぱいでした。
気がついた時には内なる使命感の赴くままに引き戸になっている扉へ手をかけていたのです。


一太「はっちゃそー!」ガララッ

一太「おや、誰もいないのかな?全く不用心な。もし不審者が入ってきたらどうするんだろう…って、この子は確か…」

小蒔「」スースー…


期待に胸を躍らせて侵入してみたものの、意外にも人の気配は殆どなく
そこには一人の少女が静かに寝息を立てているだけでした。


一太「そうだ、神代小蒔!去年のインハイで大活躍した永水のエースだ!」

小蒔「」パチッ

一太「!!」

小蒔「…あれ?ええっと。…すみません、どなたでしょう。霞ちゃんたちはお出かけ中でしょうか?」

一太「ああ、えーっと…そう!そうです!僕は地元のボランティアで、その間にこの部屋の清掃をしようと!」

小蒔「そうですか、お仕事お疲れ様です。じゃあ私はもう少しお休みさせてもらいますね…」ウトウト

小蒔「zzzzzz」スヤー

一太「あーびっくりした…」ホッ

一太「うーん、惜しいなあ。このポヤッとした感じ、雰囲気的には文句なしなんだけど…」

一太「でも、何か神々しい気配が感じられるな。見ているとなんだかこう、心が浄化されていくような…」


常にない特殊な状況に知らず知らずのうち飲まれてしまっていたのでしょうか。
辺りを色々物色していくうち、目の前の光景になぜか幼いころの記憶が重なって
とても穏やかで安らいだ気持ちになり『ああ、このままロリ顔巨乳に流されるのも悪くないな…』
そう思った矢先でした。


小蒔「」カッ!

一太「え?」


ガシィッ!


一太「うわぁあ!!?」


突然目を見開いた彼女が、一瞬のちに恐ろしい表情に変貌し
とても少女とは思えないような力で私の首を片手で締め上げて来たのです。

一太「神代さん!?」

小蒔?「ワシはそんなチンケな名じゃねェ!ワシの名は荒覇吐(アラハバキ)!古来より蝦夷の地に宿りし神の一柱よ!」

一太「な、何を言っているのか全然分からないぞ!それに僕が何をしたっていうんだ!?」

小蒔(アラハ)「何をしたかだと!?おめェー、自分が犯した罪さえ忘れちまっているのかッ!?」

小蒔(アラハ)「今年の春!陸奥は白望山でのことを、よぉーく思い出して見ろッ!!」

一太「こ、今年の春ゥー……?」

(5月~白望山・中腹~)

テクテク ザクザクザク


一太「ふう、分け入っても分け入っても青い山…」

一太「カクラ様の伝承を調べにはるばる訪ねてみたけれど、この辺りの自然も長野に劣らずいいものだなあ」

一太「ん、あそこにあるのは…?」

アラハ「…」ポツーン

一太「土地の神を祀る祠だろうか、でもあまり大事にされていないのかな。随分古びているぞ」

一太「それにこれは…ご神体だろうか。お地蔵さまに似た石の像が置かれている」

一太「にしても、ちょっとぞんざいな扱いだなあ」

一太「気の毒に、像が倒れて祠から半分飛び出してる。首も取れかかっているじゃないか」


ゴトリ パッパッ


一太「うん、これでよし。あとで地元の人にキレイに直してもらうよう掛け合ってみるからね」

アラハ「///」グスッ

他の登山客「おいっ、オカッパでちっこい女の子がさっき向こうの坂を通ってったぜ!」

他の登山客「イタズラしたら叱ってくれそうな感じで、スッゲーかわいかった!!」

一太「えっ!?マジでー!!?」ポイッ 

アラハ(首)「」ヒューン

一太「うおおお!!イタズラして叱られるのは僕だーっ!!!」ダダダダダッ


…ボチャッ←近くの肥溜めに落下する音


ズブズブズブズブ…←そのまま底に沈んでいく音

とりあえず今日はここまででー
なお元ネタはもちろん「ピンクダークの少年」の作者さんです

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一太「う、うわぁあああ!!」ガクガクガク

小蒔「思い出したか!このキャベツ畑でつまづいてが!!」

小蒔「この小娘の身体は格好の依代だったぜーッ!今こそ恨み晴らさでおくべきかァ~!!」

一太「ち、ちがうんだー、あの時はついテンションが上がってしまって…!逆恨みはやめてくれぇええー」

小蒔「てめえーあれを逆恨みで済まそうっていうのか!てめーに与えられた暗闇と屈辱を逆恨みとッ!!」ギリギリギリ

一太「うううぅぅ、ぐっ…!!」

小蒔「だが…しかしながらッ!ワシは自分の魂を救うためにお前に恨みを晴らす!」

小蒔「だのにお前に逆恨みと思われたまま死なれるのは後味の良くないものを残す!」ブンッ


ズシャッ!


一太「ゲホッゲホッ!え…?」

小蒔「1つチャンスをやろう!ワシの恨みが公平なものかどうか運命に判断してもらうんだ…」

小蒔「お前に未来が残っているかどうか、お前の容量を試してみるんだ!」

小蒔「運命がお前に味方するというならワシの恨みは逆恨みということで諦めて消えてやる!」

小蒔「運命に審判を下してもらうというわけだ、どうだ!?『試す』か!?『試さない』か!?」

一太「ど、どういうことだ…何をどう試すって言うんだー!?」

小蒔「答える必要はねー!!てめーは試すか試さないかだけ口にすればいいんんだよォー!!」

小蒔「試さねーと言うならこのまま首をすっ飛ばす!!」

一太「や、やるよ~。やるしか無いんだろぉー!?」

小蒔「よおし!それじゃあ第一の試練だ!」


パッ


一太「部屋にあったテレビが勝手についた…?っていうか第一って何個も試練あるの!?」

小蒔「当たり前だろうが!てめーの命がかかってるんだぜーッ!?」

小蒔「高校生クイズやアメリカ横断ウルトラクイズ見たことねーのか!?」

小蒔「運命に打ち勝つのに必要なことは3つ!知力・体力・時の運だ!」

小蒔「まずは知力が審判される!!その足りねえ脳ミソ必死こいてグルグルかき回すんだなー!?」


『ジャジャ~ン!お兄ちゃんたちの知識を試しちゃうよー』

『シングルタイマンモード難易度MAXで始まり始まり~。10問先に正解した方の勝ちだよ!!』


一太「ク、クイズゲーム…?」

小蒔「そうだ!こいつで最高難易度のCPU相手に勝って見せろ!これが第一の試練だ!!」

一太「ちょ、ちょっと待ってくれ!この目の前に出てきたボタンで解答すればいいのか!?」

小蒔「モタモタしてるんじゃあねーぜッ!?もう審判は始まってるんだからよォォォ!?」

『それでは第1問です。数学におけるいわゆるミレニアム問題、既に証明済みなのは次のうちどれ?』

『A:リーマン予想 B:ヤン-ミルズ方程式と質量ギャップ問題 C:ポアンカレ予想 D:ナビエ-ストークス方程式の解の存在と滑らかさ』


ピンポーン!


CPU『Cのポアンカレ予想』

『パンパカパーン!正解でーす!!お兄ちゃんスゴーイ!』


小蒔「おいおい!問題が読み上げられてからボタンが押されるまで2秒とかかってねーぜッ!」

小蒔「これに勝つのは至難の業よのぉー!?」

一太「…まだ始まったばかりだろう、勝負はどうなるかわからないぞ…」


『それでは第2問です。外相タレーランの専属シェフとして、ウィーン会議の総料理長を務めたフランス料理人といえば?』

『A:ジョエル・ロブション B:ポール・ボキューズ C:オーギュスト・エスコフィエ D:アントナン・カレーム』


ピンポーン!


CPU『Dのアントナン・カレーム』

『パンパカパーン!正解でーす!お兄ちゃんカッコいい!』

5問終了。正解数 一太:0問 CPU:5問


小蒔「ヒャハハハハ!こいつは、勝負にならねーなー」

一太「………」


『それでは第6問です。あまえ…


ピンポーン!


小蒔「…まだ問題文を言い終えてもいねーのに。ククク、ヤケになりやがったか!?」

一太「天江衣の代名詞的和了役である海底摸月、特に海底牌で一筒をツモ和了すると成立する古役を何というか?」

小蒔「!?」

一太「答えはBの『一筒撈月』」ピッ


『パンパカパーン!正解でーす!お兄ちゃん最高だよー!』


小蒔「何だとォー!!?」

幽白か

一太「5問目まで見てきて確信した…」

一太「オープニングとタイトル画面が飛ばされていたけど、この演出とフォント、そして司会進行役キャラのCVが深谷さん…」

一太「これは6月に稼働開始した『クイズマジカル☆キンダーガーデン3~運命奏者~』が、そのまま使われているな」

一太「マジキン3の問題数は全部で2万5000題。そのうち”あま”で始まるのは天江衣たんに関する3題しかない」

一太「解答はそれぞれ『一筒撈月』『127センチ』『片腹大激痛』の3つ」

小蒔「問題と解答の順序とパターンを全部記憶してやがる…ロリコニア!てめー、このゲームやりこんでいるなッ!?」

一太「答える必要はない」メガネクイ

正解数 一太:10問 CPU:5問

『お兄ちゃんの勝ちだよ!!大好き!!』


ピロリロリロリーン♪


一太「や、やった!どうだ、クリアしてやったぞ!!」

小蒔「ちっ、思った以上にしぶとい野郎だ…」

一太「こんなところで死んでたまるか!僕には保育園の先生になるという夢があるんだ!」

小蒔「フンッ!喜ぶのはあと2つの試練を乗り超えてからにするんだなぁ!次の審判は体力だ!」

今日はここまででー
次回でラストの予定です

>>22
幽白の海藤戦メッチャ好きです。タブーとクイズ、どっちも私的ベストバウト入り

一太「体力って何するんだ。自慢じゃないけど、僕は運動神経にあまり自信無いぞ!」

小蒔「安心しろ、絶対に無理な試練は与えられんわ。審判はあくまで公正なるものでなくてはならない」

穏乃「フーンフフーン♪一回戦も無事に通過したことだし、ラーメン食べに行こーっと」

穏乃「この辺、どんなお店があるのかなー」タッタッタッタ

小蒔「今、この部屋の前を通って建物出口に向かった娘が一瞬見えたな?」

一太「ああ、正確には阿知賀女子1年の高鴨穏乃ちゃん。4月8日生まれ16歳、身長139センチだな」

小蒔「そ、そうか。で、この東京国際フォーラム7階のガラス棟会議室から、あいつより早く地上階、東京駅方面の国旗掲揚塔に辿りつけ!」

一太「つまり追いかけっこってことか?」

小蒔「ただし、エレベーターやエスカレーターは使うんじゃあねえぜ…ゴールするまでに声をかけるのも禁止だ」

小蒔「これを破ったら…俺が手を下すまでもねえ!その瞬間に運命の審判がてめーの首をすっ飛ばすぜ!」

一太「わ、わかった…」ゴク

小蒔「ところで、こんなにのんびりしていていいのか?ほれほれ、相手はどんどん遠くに行っちまってるんだぜー!?」

一太「そ、そうだ!早く追いつかないと!」ダダッ

バターン!


一太「ええっと、穏乃ちゃんは…」キョロキョロ

穏乃「ラーメン、ラーメン、じゃんがらラーメン~♪」タッタッタッタ ←穏乃までの走行距離200メートル

一太「フロア端の階段にたどり着いて、5階に降りたところか!」

一太「吹き抜け構造になっていて位置が確認出来るのはありがたいけど、もうあんなところに!」ダッダッダッ

穏乃「ラーメン、ラーメン、家系ラーメン~♪」タタタタタッ ←距離300メートル

一太「は、速過ぎる!向こうは追いかけっこなんて意識はないはずなのにッ!くそう、こうなったら…」バッ

小蒔「なんだぁ~?急に方向転換して、入り口側の階段とは全然見当外れの方へ走って行きやがった」

小蒔「クケケケッ!追いつけないと自棄になったか!」

一太「思いだせ!きっと”ある”はずなんだ!」ダッダッダッ


キキーッ!


一太「あった!非常用の避難口!」ガチャッ

小蒔「なんだとーッ!?」

一太「最初に永水の部屋に侵にゅ…訪問したときにチラッとだけど逃走経路も確認しておいた!」

一太「平時に簡単に開けられるつくりになっているかどうかは賭けだったけど、この階段は最短距離で地上に…」カンッカンッカン…


ザンッ


一太「繋がった!」

穏乃「ラーメン、ラーメン、青葉ラーメン~♪」シュタタタタタタッ ←穏乃までの走行距離30メートル

一太「大分縮められたのはいいけど、ここからゴールまでは特に障害物も無い直線。穏乃ちゃんもますます加速している!」

一太「でもやるしか無い!うおおおー!!超えろ、限界!」ダダダダダッ←穏乃までの走行距離20メートル

一太「今こそ極限まで小宇宙を燃やせ!自分へのご褒美を設定するんだ!!もし追いつくことが出来たら…」←距離10メートル

一太「穏乃ちゃんのジャージと僕の学生シャツを交換して、健闘を讃え合いながら一緒にお風呂に入ることが出来る!」カッ!


ビュウンッ!!


ゴール! 一着:一太 二着:穏乃

小蒔「ちっ、ギリギリで抜き去りやがったか…」

一太「ハア、ハア、ハア…いい勝負だったよ、穏乃ちゃん」クルッ

穏乃「え?お兄さん誰ですか?」

一太「今日は運良く僕が勝てたけど、次はどうなるか分からないな」

穏乃「???」

一太「さて、前置きはこれくらいにして早速ユニフォーム交換を…」ヌギヌギ

憧「シズに何すんのよ!シャイニングウィザード!!」ドゲシッ

一太「ぐはっ!!」ズシャー

穏乃「あれ、憧!何個か買いたいものあるから売店行くとか言って無かったっけ?」

憧「今買ってきたとこ。それよりシズこそ何してるのよ」

穏乃「今ラーメン屋さん行こうと思ってたんだ!この辺有名なお店いっぱいあるんだってさ!憧も一緒に行こうよ!」

憧「しょ、しょうがないわねー。一人で行かせるのも心配だし、付き合ってあげるわよ!」

穏乃「やったーっ!」バンザーイ

小蒔「…おい、生きてるか?ワシが殺す前にくたばるんじゃあねーぜ?」

一太「あ、当たり前だ…」フラ…

一太「プールサイドでタキシードを着て100人の美少女にモミクチャにされながらイノセントワールドを歌うって夢を叶えるまでは死んでたまるか…!」

小蒔「そんな薄汚れた夢は金輪際叶うことはねーだろうが、次が最後の審判『時の運』だ!」

一太「ああ、ここまで来たらなんだってやってやるさ!」

(再びガラス棟)


小蒔「ここに2つの饅頭がある」

小蒔「1つは普通のコシ餡入り、もう1つはメキシコのマサテコ族で成人の通過儀礼として使われる超激辛唐辛子入りだ」

一太「その部族はよく分からないけど、なんとなく次の展開は見えてきたぞ…」

小蒔「この2つを選手控室に置いておく!」

小蒔「ワシラが隣室のモニターでチェックしている間に入ってきた奴らが3人連続でこっちの激辛饅頭を食えば合格だ」

一太「というとクリアの確率は2分の1の3乗、12.5%か…やっぱり簡単にはやらせてくれないな…」

一太「…なあ、アラハバキ。饅頭のセッティングなんかは僕に決めさせてもらえるのか?」

小蒔「ふん、好きにしろ。だが優しさで言っておいてやる!あくまで決定するのは運命の審判だ!」

小蒔「『唐辛子入り』なんてメモを置いたり、あからさまに勝負を有利にするような小細工をすれば、その瞬間にてめーのッ…

一太「僕の首がすっ飛ぶぜ、だろ。心配するな、ちょっと手を加えさせてもらうだけだよ」

小蒔「けっ!だといいがなあー!?ほら最初の奴が来るぞ!!」

会場スタッフ「あ!宮永選手、お疲れ様でーす。あちらの部屋は予備の控室となっていますので自由に使ってください」

照「お疲れ様です、ありがとうございます(営業スマイル)」ニコッ

照「…今日はうちの試合は無いけど、なんだか会場まで来てしまった」

照「まあいいか。学校の部室だと長野代表の試合は見づらかったし…」

照「いつもはお菓子を食べ過ぎるなとか姿勢が悪いとかで注意してくる菫もいないことだし、たまには一人でゆっくり観戦しよう…」


ガチャリ

照「………」

小蒔「部屋に入って来たぞ!さあ、どっちの饅頭に手を出す、か…!?」


ヒョイ、パク。ヒョイ、パク


小蒔「なにーッ!?2ついっぺんにいきやがったーッ!!」


モグモグモグ


照「うん、これは生地もモチモチで、なかなかのなかなか………!!!」

照「ンー!○×△×!!!」プルプルプル


ガチャリ


菫「…見慣れた制服と角が控室に入っていくと思ったら、やはりお前だったか」

菫「まあここにいる理由は私と同じく、今日の試合を会場で観に来たのだとして…」

菫「なぜ口を手で抑えて震えながらうずくまっているかの説明を聞くのは、あとにした方が良さそうだな…」

一太「見たな!最初に手前の唐辛子入り、そのあとに奥のコシ餡入りの順番で口にしたぞ!」

小蒔「クソッタレめ!部屋に入った瞬間に2つとも手を出すとはなんて食い意地の張った奴だ…」

一太「チャンピオンのお菓子好きは有名だからな。お菓子を見つけたらすぐにどっちも食べると思っていた」

一太「その際にはとりえず目に入った近い方から手に取るともね。さあ、次は誰だ?」

小蒔「あんまり調子に乗ってるんじゃあねーぜッ!まだ二人残ってんだからよー!?」

泉「お手柔らかにお願いでっす」

ガチャ


泉「あっれー?みんなおらへんのかな…って、なんで饅頭が2つ…」

泉「………」キョロキョロ

小蒔「おい、今度はどんな小賢しいこと考えやがった!?」

一太「ん…?いや、なんとなく左側に置いただけだよ」

泉(饅頭か…あとから先輩方が来ること考えたら下手に手は出せへんな)

泉(でも、まあ…2つあるなら1つくらいは食べてもええか…)

泉(あとでなんか聞かれたら「最初から1つだったんで取っときましたー」って言えばええし…)

泉(さて、問題はどっちを食べるかや…)

泉(一見おんなじように見えても、味が違ってどっちかがより美味しいってのは有り得る話…)

泉(何かあると思ったら実はなんもないとか、その逆に無さそうに見えてやっぱりあるとか、そういうのって多々あるけど、今回はー)

泉「まあええか、こっちの左っかわの方の饅頭食べよ♪」


ヒョイ、パク


泉「!!!!!!辛っらーっっ!辛っ辛っ!辛っらーっっ!!っっ!」

泉「なんっじゃこりゃー!!!辛すぎやろお!?うおおおお!!いっそ殺せーーーっ!!!!」ゴロゴロゴロ

一太「…なんか、さっきよりリアクション凄くなってないか…?」

小蒔「当然だ。1つ目より2つ目、2つ目より3つ目の饅頭と辛さが倍になっていくからな」

一太「びっくりするから、そういうことは先に言っておいてくれ…」

小蒔「しかし小僧!なんで左を取ると分かった!?」

一太「特に理由は無いよ。まあ、あの子ならこういう時に外すような星の下には生まれてないだろうなというか…」

小蒔「なんだかよくわからねーが、人選ミスだったみてーだな…」

小蒔「だが物事ってのは終わり方が一番難しいんだぜえーッ!最後まで油断するんじゃあねえぞ!?」

一太「ああ、もちろんだ…ってよりによって最後が…!」



衣「御出座至極!」トテテテテ

透華「清澄への応援。喜んでもらえたようで良かったですわね、衣」

衣「うん!咲やノノカたちの鼓吹も為果せたし、慊焉たる心地だ!」

透華「はじめたちは少し事務手続きをしてくる言っていましたし、あと一時間くらいどこかゆっくり出来る場所があればいいんですけれど…」

スタッフ「あ!ひょっとして龍門渕高校の…」

透華「あら、わたくしたち立入禁止フロアに入ってしまっていましたかしら?」

スタッフ「あ…はい。確かにこちらの部屋は本来選手用なんですが空き部屋に余裕はありますし、皆さんなら大丈夫だと思います」

スタッフ「どうぞ入っていただいて、中のお菓子も自由に召し上がって下さい」

透華「感謝いたしますわ。ではお言葉に甘えさせていただきましょうか」

衣「わーい!」


ガチャ

透華「ふむ、お菓子というのはこれですわね。衣、好きな方をお食べなさいな」

衣「うーんと…」

小蒔「さあもうすぐ手に取るぞ!」

一太「ああ、そうだな…」

小蒔「何を落ち着いてやがる!この選択にてめえの命がかかってるんだぜーッ!?」

一太「この勝負は僕の勝ちだ。だからあとは結果を確認するだけなのさ」

小蒔「勝手に余裕ぶっこいてんじゃあねーッ!何を根拠に言ってんだ、てめーはよーッ!?」

一太「さっき君が言っていたことだ、あの唐辛子は成人の通過儀礼として使われると」

小蒔「それがどうした!?」

一太「別に中身を教えたわけじゃないんだ。むしろ勝負を不利にする行為だったかもしれない」

小蒔「だからそれがどうしたって言ってんだよーッ!?……ハッ!!」

一太「ちょうどプライスカードに使えるような紙片があったから、ちょっと一筆したためただけさ」

一太「食べ物の用法は正確に記すのが思いやりというものだからね」ニヤリ


○【子ども用】←コシ餡饅頭      ○【大人用】←激辛饅頭

小蒔「イカサマだッ!!こんなことは許されない!!」

一太「いいや、僕の首は繋がっているぞ!運命は正当な行為だと判断したようだな。そして最後の審判がくだされる!」

衣「じゃあこっちにするっ!」ヒョイ

小蒔「ちくしょうっ、唐辛子入りを手に取りやがった!」

衣「♪」アーン

一太「ふう、長かった悪夢もこれで終わりだな。これで僕は晴れて、これで…これで…」

一太「いいわけっ、あるかああああああ!!!」ダダダダダッ

一太(さっきの泉って子でさえ、あれだけ悶えたんだ!その倍の辛さに、ころたんが耐えられるはずがない!)

一太(自分の為に守るべきものを犠牲にしてまで助かろうなんて、そんな甘っちょろいような奴は…)


バターン!


一太「真のロリコン紳士じゃあないなッ!その饅頭を食べるのちょっと待ったー!!!!」

衣「ふえっ!」ビクウッ

一太「お嬢ちゃん、いい子だからそれをお兄ちゃんにちょうだいねー!」バッ


ヒョイ、パクッ!


衣「あ…」

透華「あ…」

小蒔「あ…」

一太「ガハッ!ボハッ!(辛っれえええええええ!!!いや、辛いというかむしろ痛えええ!!)」

一太「ゲヘッ!ゲホッ!!(爆竹を口の中で炸裂させたような鋭い痛みとゆっくり重石を舌に積まれるような鈍い痛みが交互に!!)」

一太「ゴハッ!ゴフッ!!!(しかし、不安がらせてはいけない。僕は衣ちゃんの泣き顔じゃなく笑顔が見たいんだから!)」

一太「ぼへはは、はりまべんか?ぼびょうはん?(お怪我はありませんか?お嬢さん?)」ニコッ

衣「うわあーん!!衣のお饅頭ー!」ヒックヒック

透華「何がなんだかさっぱり分かりませんが、衣を泣かすことは許しませんわ!」

透華「ハギヨシっ!この不届き者を速やかに成敗なさい!!」パチンッ

ハギヨシ「はっ、透華お嬢様」シュタ

ハギヨシ「素敵滅法(アニメ版)!」ババババババ

一太「グフーッ!!」バッシャーン


ヒューン…ズシャッ!

透華「ほら衣、泣くのはおやめなさいな。なーにお菓子の1つや2つ、すぐに別のものを用意しますわ!」

ハギヨシ「それでは人形焼など、いかがでしょうか?浅草に観光がてら向かわれるのがよろしいかと」

透華「では、それにいたしましょう。はじめたちにも連絡を!さっ、行きますわよ、衣!」

衣「グスグス…うん…」テクテクテク

一太(良かった…衣ちゃんは無事だったんだね…。それだけでも頑張った甲斐があったよ…)

一太(願わくば…君の幸せを想う一人のバカな男がいたことを、たまにでいいから思い出して欲しい…)


半ば薄れゆく意識の中でそれだけ確認し、これで良かったのだと自分に言い聞かせました。
そして…


小蒔「ははははははは!!『審判』は逆恨みでは無いと下ったぞ!!!!」

小蒔「これでワシの魂の救済はなった!死ねっ!!」ゴウッ!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

立「…………」

一太「……私のこと、生きているじゃあないか。そう思っていますね、シスター…」

一太「そこなんです。私が懺悔に参ったのは、そこのところなんですよ…」

一太「とても話さずにはいられません。私の犯した恐ろしい罪を…あのあとの出来事を…」

小蒔「これでワシの魂の救済はなった!死ねっ!!」ゴウッ!


ピラリッ


小蒔「ん?なんだあ、この紙きれはー!?」

一太(そ、それは永水の控室で色々物色していたときに手に入れた戦利品、かすみさん7さいのピンナップ…)

小蒔「なんだ…?写真を見ていると沸き上がってくる、このとても穏やかで安らいだ気持ちは…」

小蒔「守ってあげたい…この娘の成長を遠くからそっと見届けたいという暖かな心が溢れてくる…」

小蒔「ああ、こんな世界を知ってしまったら…ワシは、ワシはもう……」


・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大沼(アラハ)「おいッ!チンケな懺悔は、もう十分だろうがよ!」

大沼(アラハ)「せっかく校内に入ったんだから、さっさと探検しようじゃねえか!」

大沼(アラハ)「ウワサ通り、真屋由暉子たんの戦闘力は相当なものと見たぜ!」

一太「………」チラッ

立「……つまり、これがあなたの…」

一太「はい、シスター…これが私の犯した罪です」

一太「不可抗力とはいえ、自分が助かるのと引き換えに土地の神様を一人堕落させてしまいました…」

一太「そのついでに、たまたま解説で来ていて近くを歩いていた有名プロの身体も乗っ取ってしまうし…」

大沼(アラハ)「ワシがいいっつってるんだからいいんだよッ!全く、ロリ巨乳は最高だぜ!!」

一太「ハァー…せめて十曽ちゃんとかに憑いて喋ってくれないかなあ」

一太「何が悲しくて四六時中ジイさんと肩を並べて話さなきゃならないのか…」

大沼(アラハ)「バカがッ!蕾は離れて愛でるものだろうが!YESロリータNOタッチ!」

一太「それは確かにそうなんだけどさー」

一太「まあ、いいや。寮長さんに遭遇した時とかの上手い言い訳考えておいてくれよ?」スッ

一太「それじゃあ、いざゆかん。天使たちの園へ」スタスタスタ

大沼(アラハ)「おうよっ!!」ズダッズダッズダッ


キーッ、バタン←扉の閉まる音


立「…………」

これが、私が取材旅行中に体験した恐怖のエピソードの全てです。
この後彼らがどうなったのか、私はまだ知らない。
来年か再来年…また彼らに会いに取材に来てみるのもいいかもしれない。

神に取り憑かれても諦めず、わりと賑やかに人生を前向きに生きる男…。
彼は変態だと思うけれど、そこのところは尊敬出来ます。
そう思うのは私だけかもしれないし、このエピソードは本編に使えないでしょうが…。



『♯懺悔室』→→→カン

以上です。ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!

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