「猿夢~猿夢でございます~」(23)

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「次は~ジュース~ジュースでございます~」

「お亡くなりの際は~忘れ物のないようご注意ください」


その声が電車のなかに響きわたると、乗客の一人が席から立ち、車両の前へと向かう

「それでは、こちらにどうぞ」

そう言われると、乗客は少し大きい透明な入れ物の中へと入っていく

そして、その中で体を縮こめるようにして座った

「···では、失礼しますね」

入れ物の上に、蓋が置かれる

すると

ギュイイイイイイイイイイン ガーーーーーーーーーーー


音をたてながら、入れ物の中がまるでミキサーのように高速で回り始めた

なんかすごい懐かしいな

ガーーーーガリガリガリガリガリガリガリガリ

人の体は、まず首がブチリと引きちぎれる

足が、バキッと音をたてる

手は、胴体との間に裂け目をつくりながら回転の流れに乗る


ガーガーガーガーガガガガガガガ


体のあちこちから、ぶしゅぶしゅと血が溢れでてくる

入れ物の下には、既に赤い液体が溜まっていた

ガーーーー ガーーーー 


胴体が裂け、首のあった場所からデロデロと内臓がでてくる

肺、食道、そして心臓

心臓にいたっては、少しすればぐちゃぐちゃとなり、辺りを赤く染色した


首は下でどんどん削れていき、鼻や耳や目玉は、原型が分からないまでになってしまった

その中から、脳ミソもドロドロ出てきて、一緒に出てきた液体と共に底へと溜まる


足はボロボロとなり、骨がバラバラになり、削れていく様子が見える

腕からは血管が飛び散り、荒ぶっているかのごとく血を撒き散らす

ギュイイイイイイイイイイイイイイン ガリガリガリガリガリガリ


胴体のお腹から、胃が出てきた

胃は、中からデロデロの液体を出しながら、底に溜まっていく

底の液体は、赤黒い液体と内臓の残骸とが混ざり、どんどんその量を増やしていく


脚からはばらばらの骨が飛び出していて、どんどんと削れていく

腕も、神経や血管が潰れて圧縮されていく

脳の残骸は、体のあちこちに付着していて、まるでなにかのソースのようだ

体のパーツ一つ一つが、粉々で、細かいものとなり、最後は普通のミキサーのように


ギュウウウウウウウウンン

と音を鳴らしていた



暫くして、そのミキサーのような入れ物は止まった

その後、入れ物の蓋を取る

中からはきつい臭いのした、少し何かが浮かんでいる赤黒い液体が出来上がっていた


「ジュース~ジュースでございます~」


「お亡くなり~有り難うございました~」

「次は~ラーメン~ラーメンございます~」

「お亡くなりの方は~忘れ物のないようご注意ください~」


そうアナウンスが流れると、乗組員らしき女性が前の車両からやって来た

その手には、ただ一つのナイフだけが握られていた

その女性は、あまり人気がない車両内を見渡す

まず、前から三番目に座っている乗客に目をつけ、その人の元へと近づく


「本日は当電車をご利用頂き、誠にありがとうございます」

·······

乗客からの返事はない

「ただいま、当電車では、あるサービスを設けさせて頂いております」


「体の中の余分な物を取り除く、というものなのですが···」


「首からにいたしますか」「それとも、背中からが宜しいでしょうか」


·······


「首からで御座いますね、承知いたしました」


女性はそう言うと、その乗客の後ろに回り込む

それから、その人の首のうなじ辺りを、吟味するように眺める


そして、首筋を手に持つナイフで突き立てると


ブサッ

ズズブ…


乗客の首筋に切り口を作ると、女性はナイフを抜いた

そして、その切り口から数cmくらい横にずらした部分に、平行線を描くようにまたナイフをブサリと刺した

彼女はそれぞれの切り口に、無理矢理指を食い込ませる

切り口から多くの血が流れようとも、お構いなしだ


ブブチイィィ!!

彼女は首筋に、ポッカリと穴を開けてしまった

そこには、大量に溢れ出す血と、剥き出しにされた骨

そして



少し太く、黄色い、神経器官が見えた

それを見て、女性は少しにやけて、首筋から頭の方へとナイフを突き進めた


ズズズズ····ズブッ

ズチャ ズブチャ ズズズチャ

そうやって、何かを辿るようにして頭部を切り開いてゆく

頭蓋骨は、手で外して少しずつどかしていく

そうしてまた、ナイフで切っていく

そんな作業をしていく内に、とうとう終着点が見えてきた

精神器官の集合体、脳だ

それは見た目からとても弾力があることがわかる

そして、彼女はそれを手に取り、傷をつけないよう、そっ···と取り出した

脳を取り出すと、それについていくように首からのびる神経器官

彼女はそれにナイフをあて、スパッと切って、分断してしまった


その後、彼女は脳を乗客の横に置き、また切り開かれた頭と首を見た

彼女は精神器官の切断部分を、また手で掴んだ

次に彼女は、首の切り口に手を突っ込んだ


グチュ ズボッ!

ズズズ ジュジュジュジュ


彼女の腕は、どんどんと体内へ沈んでゆく

そして、手で何かを探り続ける


その後、一瞬彼女の動きが止まったかと思うと


ブチッ!

という音が、体の中から微かに聞こえた

その後、彼女は手をずるずると手を引っ張りあげる

手には、びっしりと真っ赤な血が付着していて、とても人間の腕とは思えない

そして、その手と一緒に、赤くて紐状の物が引き上げられていた


ようやくの思いで引き上げ終えると、彼女の手には赤い紐状の物がぶら下がっていた

当然、それも精神器官なのであろう

それから彼女は、乗客の横に置いていた脳や黄色い精神器官と、手に持つ赤いそれを混ぜ合わせた


ぐちゃぐちゃに混ざったその塊に、彼女はナイフで


ザクッ

脳を、切り離したあと


ザクッ

ザクッ


と、再び二度ほど切って、塊を分断させた

そのあと、彼女は何処からか器を取り出す

その中に、塊を分断させたものを全て放り込む

その後、今度は脳をナイフで切断していく


グチョ グチョ グチョ グチョ


その形は薄くスライスされていて、どんどんと脳が原型を留めなくなっていく


そして、彼女がナイフを止めると、十数枚のそれが出来上がった

それを先程の器の中へと入れる

そして、乗客の中から血をかき出して、器の中へと溜めてゆく


そうして、器の中には赤い池の様な物が完成したのである

「ラーメン~ラーメンでございます~」

「お亡くなり~有り難うございました~」

「次は~大根おろし~大根おろしでございます~」

「お亡くなりの方は~足元にお気をつけてお亡くなり下さい~」

そうアナウンスが流れると、薄暗い車両の中に彼女がやって来た

その手には、少し大きめの、奇妙な板を抱えていた

板には、等間隔に細かい穴が空いていて、その穴の一つ一つの周りに、無数の小さな刺が張り巡らされてい


そんな板の元に引き寄せられるように、一人の乗客が歩き出す

「それでは、仰向けに寝て少々お待ちくださいませ」

乗客は彼女の前に立つと、指示されるがままにその場で横になってしまった

「重いでしょうから、足をお持ちしますね」


そう言うと彼女は、手に持つ包丁で乗客の足を太股の付け根から


ザクッ、ザクッ、ザクッ!!


足は丸ごと切断され、体から取れてしまい、彼女は本来手に持つという事がありえない物を持ったのだ

彼女は、その後それを、例の奇妙な板の上に置いたのである

彼女は、奇妙な板の面に足を擦り付け始めた

ゴリ···ゴリ···ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ


膝から上の部位がぶらぶらと垂れ下がり、ボタボタと血をこぼす

べちゃべちゃと音を撒き散らしながら、彼女の腕にその動きを合わせる


彼女は、飛び散る血が自分の身体中にべたべたと塗りたくられようが、気にはしない


その目が見つめる先にあるのは、少しずつ粉々になって溜まっていく、肉片の集まりだけである

そうしていくうちに、足の擦りつける音が段々と変化していく


ゴリゴリゴリ····ガリガリガリガリガリガリ



足の表面からは、何もかもが剥き出しになっていく

骨、筋肉、血管 それらまでもが肉片の一部へと化すのである


様々な質感の物が混ざりあい、肉片の集まりは、尚も溜まり続けていく

ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ····

ベチャッベチャベチャベチャッ


彼女の腕と同じくらいの大きさだった足は、あっという間に彼女の手に納まってしまうくらい小さなものとなってしまった

尚も、それすら肉片へと姿を変えてゆく



そのうち、彼女の手が止まる


板の表面に敷き詰められた残骸を、それの集まりにボトボトと落とした

肉片になったその集まりは、元が人の足だったのかさえ、見分けがつかない程までなってしまった

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