井之頭五郎「東京都某区のシュプリームS(シロタ)」 (5)


某月某日


今日もまた 俺はついていなかった

無事に商談を取り付け 帰ろうとしていた矢先だった
なんと殺人事件に巻き込まれたのだ

しかも ひとつ腹に入れて帰ろうとしたレストランでだ



コトは数時間前に遡る…


………
…………



依頼を受けたとき これはしめたものだと思った

何しろ依頼主が あの『シュプリームS(シロタ)』のオーナーである至郎田正影だったからだ

『成功を呼ぶ料理』……一度は食べてみたいとも思ったが
なんと予約が常に一年先まで入っているという人気店だった

うまいものは大好きだが
そこまで待って食べるのは正直好きではない

その時 その時で
気分にあったものを食べたい俺には
おそらく今後もずっと縁のない店だと思っていた……が

そんな折 くだんの依頼が舞い込んだのだった



…………
………
……

至郎田「どうも井之頭さん、お初にお目にかかります。私は当店オーナーシェフ至郎田と申します」

五郎「ご丁寧にどうも、井之頭です。では……こちら、名刺です」スッ

至郎田「はい、ではこちらも」スッ

至郎田「……ところで、井之頭さん。私の“成功を呼ぶ料理”……各方面でよく取り上げられるのですが、井之頭さんはご存じですか?」

五郎「ええ、それはもう。先日も雑誌のトップを飾っていましたね」

至郎田「ご存じでしたか、それは嬉しい限りです。よければ井之頭さんも、このあと食べていってください」

五郎「はい、ぜひ食べさせていただきます」




………

どうも……慇懃無礼というか、そんな印象を受ける
目つきに独特のぎらつきがあるような……

変な客に引っかかった……のだろうか
そうでないことを願おう



五郎「では、さっそくですが……ご希望に添えそうなグラスを数点、ピックアップしてリストにまとめました。こちらをどうぞ」

至郎田「おお、これは……なかなか……」ペラッ


至郎田「……素晴らしいチョイスでとても満足です。井之頭さんは、この仕事は長いのですか?」

五郎「ええ……まあ」

至郎田「なるほど。客の好みを察するための鋭い観察眼をお持ちのようだ」

至郎田「では、このベネチア製ワイングラスを6セット……」

至郎田「……あと、このマイセンのカップも10セットほど頂きましょう」

五郎「はい、では……ワイングラスにカップ、と……」

至郎田「……そうですね、ひとまずはそれでお願いします」


五郎「分かりました。では、数日中にご用意させていただきます」



至郎田「さて……仕事の話はこの辺にして。井之頭さんはついてますよ、私の料理を予約無しで食べられるのですから」

至郎田「先ほども言いましたが、私の料理を振る舞わせて頂きましょう。食べていってくれますね?」

五郎「そりゃあもう、願ってもないことですよ。是非とも」


ドタドタドタ…

バタン!


海野「店長! お話があります、すぐ厨房に……!」

至郎田「なんだ、騒々しい」

至郎田「……ああ、ご紹介が遅れました。彼は当店の副料理長、海野浩二です」

海野「あ、はい……どうも」

海野「とにかく店長、早く来てください。今回はきっちり話をつけさせてもらいます……!」

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