某月某日
今日もまた 俺はついていなかった
無事に商談を取り付け 帰ろうとしていた矢先だった
なんと殺人事件に巻き込まれたのだ
しかも ひとつ腹に入れて帰ろうとしたレストランでだ
コトは数時間前に遡る…
…
………
…………
依頼を受けたとき これはしめたものだと思った
何しろ依頼主が あの『シュプリームS(シロタ)』のオーナーである至郎田正影だったからだ
『成功を呼ぶ料理』……一度は食べてみたいとも思ったが
なんと予約が常に一年先まで入っているという人気店だった
うまいものは大好きだが
そこまで待って食べるのは正直好きではない
その時 その時で
気分にあったものを食べたい俺には
おそらく今後もずっと縁のない店だと思っていた……が
そんな折 くだんの依頼が舞い込んだのだった
…………
………
……
至郎田「どうも井之頭さん、お初にお目にかかります。私は当店オーナーシェフ至郎田と申します」
五郎「ご丁寧にどうも、井之頭です。では……こちら、名刺です」スッ
至郎田「はい、ではこちらも」スッ
至郎田「……ところで、井之頭さん。私の“成功を呼ぶ料理”……各方面でよく取り上げられるのですが、井之頭さんはご存じですか?」
五郎「ええ、それはもう。先日も雑誌のトップを飾っていましたね」
至郎田「ご存じでしたか、それは嬉しい限りです。よければ井之頭さんも、このあと食べていってください」
五郎「はい、ぜひ食べさせていただきます」
………
どうも……慇懃無礼というか、そんな印象を受ける
目つきに独特のぎらつきがあるような……
変な客に引っかかった……のだろうか
そうでないことを願おう
五郎「では、さっそくですが……ご希望に添えそうなグラスを数点、ピックアップしてリストにまとめました。こちらをどうぞ」
至郎田「おお、これは……なかなか……」ペラッ
至郎田「……素晴らしいチョイスでとても満足です。井之頭さんは、この仕事は長いのですか?」
五郎「ええ……まあ」
至郎田「なるほど。客の好みを察するための鋭い観察眼をお持ちのようだ」
至郎田「では、このベネチア製ワイングラスを6セット……」
至郎田「……あと、このマイセンのカップも10セットほど頂きましょう」
五郎「はい、では……ワイングラスにカップ、と……」
至郎田「……そうですね、ひとまずはそれでお願いします」
五郎「分かりました。では、数日中にご用意させていただきます」
至郎田「さて……仕事の話はこの辺にして。井之頭さんはついてますよ、私の料理を予約無しで食べられるのですから」
至郎田「先ほども言いましたが、私の料理を振る舞わせて頂きましょう。食べていってくれますね?」
五郎「そりゃあもう、願ってもないことですよ。是非とも」
ドタドタドタ…
バタン!
海野「店長! お話があります、すぐ厨房に……!」
至郎田「なんだ、騒々しい」
至郎田「……ああ、ご紹介が遅れました。彼は当店の副料理長、海野浩二です」
海野「あ、はい……どうも」
海野「とにかく店長、早く来てください。今回はきっちり話をつけさせてもらいます……!」
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