会社員「君の言う、『社会』ってなんだい?」 (45)

 
 憎い。
ニートが憎い。
この国に蔓延る、ニートという名の害虫が憎い。


俺は、毎日必死に働いている。
朝は5時に起き、誰よりも早く職場に着き、
終電が出るギリギリまで仕事をしている。

それはそうだ。俺がいないとあの仕事は回らない。
俺は社会に必要な人間なんだ。社会が俺を必要としているんだ。
だからこそ俺は、私生活を犠牲にして働く。

俺も30歳になったが学生のとき以来、恋人はできていない。
いや、そもそも学生時代の友人とは、今は誰とも連絡を取っていない。
休日が少ないのだ。疎遠になるのは当然とも言えるだろう。

だが、俺はそれが誇らしい。


俺はそれだけ社会に貢献している。
働いて結果を出せば、それだけ社会に貢献しているのだ.
だからこそ、私生活を犠牲にすればするほど、
俺は社会人として完成されていくことを感じる。

だがニートという害虫は何も生まない。

私生活を犠牲にするどころか、仕事を一切しない。
この身を犠牲にして働いてこそ、社会に存在することが許されるのに、
奴らは働いていないことを当然の権利のようにのたまい、
自らを正当化する。
終いには、自分がニートなのは社会が悪い、親が悪い、
つまりは環境が悪いなどという戯言をぬかす。

ふざけるな。

貴様らに生きる価値などない。
この社会に身を粉にして貢献していくのが、社会人としてあるべき姿だ。


だからこそ、ニートは駆除しなければならない。

俺はネットで、ニートだと思われる書き込みには、
「社会のために、今すぐ自殺しろ」という書き込みを返している。
社会人として、当然の善行だ。
そう、ニートを自殺に追い込む度に、社会人としてのステータスが上がると感じている。
だが、ネットでは相手が本当にニートかどうかの確信が持てない。

だからこそ、俺はハローワークに足を運ぶことにした。

ハローワークにいる、いかにも引きこもりのような外見の人物を見つけ、声をかける。
ニートなわけだから、こちらが言葉を掛けると、挙動不審な言動・行動をとり、
口をモゴモゴと動かす。

それを見て、俺は相手がニートだと確信し、同時に社会に必要のない害虫だと認識する。


俺はそいつを逃がさないように、飲み物を奢って相手を油断させる。
そして、ハローワークの近くにある公園のベンチに二人で座る。
ニートはこちらと決して目を合わさず、飲み物をチビチビ飲んでいた。

そして俺は、行動に移る。

「あんた、今は何をしているんだ?」
「え……あの……高校を卒業して……それからずっと、家にいて……」
「えぇ! まさかこれまで働いたことがないのか!?」
「あ……う……」

わかっていたことだが、俺はわざと大声を出して、相手を威圧する。
これは同時に、相手に自分の罪深さを思い知らせるためでもある。
「働いていない」ということが、いかに異常かということを思い知らせるためである。


「今まで何をしていたんだ? なぜ働いていないんだ?」
「え……いや、祖父の介護とかを……」
「介護しながらだって、職は探せただろう? なぜそれをしなかったんだ?」
「いや……大変で……その……」

「言い訳するな!」

「ひいっ!」
「介護が大変だと!? そんなもの、両親や介護士などと交代でやればいいだろう!
 お前は祖父の介護を建前に、社会から逃げていただけだ!」
「そ、そんな……ちが……」
「そうに決まっている! おおかたお前みたいなやつは、
 学校でもいじめを受けて満足に通えていなかったのだろう!?
 それで、社会に出るのを恐れていたんだろう!?」

図星だったのか、ニートは涙目になりながら俯いている。


「それになんだ、その服装は!? 碌にサイズも合ってないし、毛玉だらけだ!
 自分で服も買えないのか!?」
「い、いやこれは、お金がなくて忙しかったからで……」
「ふざけるな! 祖父の介護だけでそんな忙しいわけあるか!」
「ほ、本当なんです。僕は片親で、母親がパートに行っているから……」
「言い訳をするんじゃない! いいか!? お前は社会に出ない限り、クズの底辺なんだ!
 就職しないかぎり、お前は存在してはいけない人間なんだ!」
「そ、そんな、僕だって就職活動をしてるけど、どこも雇ってくれなくて……」
「当たり前だ! お前みたいなクズを雇う企業がどこにある!?
 お前は失敗作なんだ! 社会のゴミだ!」
「ひ、ひどい……」

さて、これだけ言えばいいだろうか。
こういう時に、決して「自殺しろ」という直接的なワードを出してはならない。
自殺教唆になってしまうからな。
あくまで俺は社会人。法律に背いてはならない。
だが、ニートを自殺させるのは大いに社会貢献になる。
こうやってニートを自殺させていけば、俺はより社会人として……

「そこまでにしておきなよ」


その声に反応して、顔を前に向ける。
そこにいたのは、先ほどハローワークにいた求職者だった。
見るからに清潔そうな顔立ちをして、スーツを着ていることから、
どうやら転職活動をしているのだろう。だから、駆除対象からは外していた。
だが何だ? こいつも社会人なら、俺の行動を止める理由は何だ?

「先ほどから見ていたが、見るに堪えない。君の行動に何ら意味を見いだせなかった」

何だこいつは? 俺の行動に意味がないだと?

「あんた、こいつの味方をする気か? もしかして、あんたもニートなのか?」
「ちがうよ。僕は外回りの間に、こっそりハローワークに通っている単なる会社員さ」
「社会人なんだな? だったら、あんただってこいつに生きる価値などないことがわかるだろう!
 それとも何だ? 社会人っていうのは嘘なのか?」


俺の言葉に対し、スーツの男は大きなため息をついた。

「……君、すごく視野が狭いんだね。自分に反対したり、都合の悪いことを言う人間は、
 全てニートだと思っているのかい?」
「視野が狭いだと!? 俺の言っていることはどう考えても正しいだろう!
 こいつは社会に出ようとしないクズだ!」

その言葉に、ニートは耳を塞いだ。

「見ろ! 俺の言葉が図星だから、こうした反応を見せるんだ! 
 こいつは社会から逃げているんだ!」


「じゃあ聞くけど。君は家族の介護をしながら就職活動が出来るのかい?」



「……なんだと?」
「確かに個人差はあるだろう。だが、彼は経済的な理由からおじいさんを施設に入れたり、
 ホームヘルパーを雇うことが出来なかった。だから、彼ひとりで介護をせざるを得なかった。
 そんな状況がどういうものなのか想像もせずに、一方的に言葉を押し付けるのは、どうかと思うな」
「ふざけるな!」


「なぜ俺が、そんなことを考えなければならない!」


そうだ、ニートは問答無用でクズだ。社会のゴミだ。そんな奴の環境など考えたくもない。

「ニートはクズだ! 社会に必要ないんだ! 俺はそんな奴にはならない! 
 だからこいつの状況など想像する必要などない!」
「……なにそれ?」
「ああ!?」
「じゃあ、君はさ……」


「自分は絶対ニートにはならないから、ニートには何をしてもいいと考えているの?」


「当たり前だ! 俺がニートなんかに……」
「なら、聞くけどさ……」

「なんで君は、毎日ハローワークに通っているの?」

「……え?」
「僕は週一回のペースでハローワークに来ているけど、必ず君を見ている気がするんだよね。
 職員の人に聞いたら、毎日、ほぼ一日中、入り浸っているそうじゃない?
 しかも、仕事を探すのでもなく、ニートみたいな人を探しているみたいだって言っていた」
「そ、それは……」
「もしかして、君は仕事をしていないのかい? だから君は……」
「違う! 俺は社会人だ! 俺は社会に必要な人間なんだ!」
「さっきから、気になっていたんだけどさ」


「君の言う、『社会』ってなんだい?」


「……なに?」
「君は『社会』という言葉を連呼しているけどさ。君の言う『社会』とは何だ?」
「決まっている! それは……」

それは……何だ? あれ?

「君は『社会』、言うなれば周りの目を気にして生きているように見える。
 だからこそ、自分を必死に社会人として位置づけようとしていた。
 そして、ニートを罵倒することで、自分が社会に必要な人間だと思い込もうとしていた」
「思い込んでいるんじゃない! 俺は社会人だ!」


「仕事を失ったのは、俺の重要さに気づかないバカが力を持っているせいだ!」


「だからこそ、俺はそんなバカが力を持たないように、こうしてニートを……」
「それがさあ!」

「それが、意味がないっていっているんだよ」


意味がない? 俺の行動に意味がない?
馬鹿な! 俺はこの世からニートを排除しているんだ!
社会もそれを認めてくれるはずだ!
俺の偉業を!

「俺がしているのは、社会貢献だ! 俺は社会人だ!」
「だったら、君はなぜ仕事を探そうとしない? 
 仕事を持っているならば、誰もが君を社会人だと認めるはずだ」
「それよりも先に、ニートの排除だ! そうしないとまた……」
「また、君は仕事を失うって? つまり君はさ……」


「それを理由に、社会から逃げているんだね」


俺が社会から……逃げている?

「そうだろう? 君も人のことは言えない。自分より弱い存在を見下すことは出来ても、
 自分を高めようとはしない。自分の身の程を知るのが怖いからだ」
「お、俺は……」
「もうやめるんだ。君のしていることは無意味にもほどがある。
 誰も幸せにならないからだ。そこの彼も、もちろん君も」
「だからと言って! 今更……」

今更……俺に何が出来る!?
30歳の俺に再就職なんて……

「君は自分を追い詰め過ぎなんだ。ニートを見下すことで精神を保っていたから、
 自分が無職になったことが堪えられなかったんだ。
 でも、社会は四六時中、君を見張っているわけじゃない」

「いつだって、君を攻撃しているわけじゃない」


俺は、いつのまにか涙を流していた。
自分の状況をようやく認めることが出来た。
そうだ、俺は自分より下を見ることしか出来なかった。

自分より下の存在に対して、攻撃的になっていたから、
自分がそうなった時に、周りが全て敵に見えていたんだ。

「僕も、仕事しながら転職先を探している。良かったら、僕ら三人で一緒に活動しないか?」
「え、僕も……いいんですか?」
「もちろんだよ。一人だと気が滅入るからね」
「俺も……いいのか?」
「まあ、ギクシャクするかもしれないけど、まずはさ……」



そして俺は、ニートだと思っていた男に土下座して謝った。
その後、スーツの男の仕事が終わるのを待って、三人で呑んだ。
俺は社会は厳しいと思い込むことで、自分を守っていたのかもしれない。

そう思い込いこまないと、社会だ認めてくれないと思っていたのかもしれない。

実際、社会は厳しいのだろう。だとしても……


常時、俺を攻撃してくるわけではないのかもしれない。



終わり!

こういう終わり方もある。

そうか、そう言えばバッドエンドばかりだったもんな

>>41
まあそうだな。

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