きょう、キョンが死んだ。 (16)

きょう、キョンが死んだ。もしかすると、昨日かも知れないけど、あたしには分からない。

古泉くんから電話を貰った。

「彼の死を悼みます。告別式は今日だそうです」

これでは何も分からない。恐らく昨日だったのだろう。

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斎場は学校から二キロの場所にある。バスに乗れば、すぐに着くだろう。

そうすれば、お通夜をして、明くる日から日常が帰って来る。

いつもの通り、SOS団に顔を出して、部室で、団活をした。

みんな私に対してひどくつらそうにしていた。

「彼は、かけがえがない」と有希があたしに云った。

私が学校を出るとき、みんな玄関まで送って来た。

あたしはバスに乗った。ひどく暑かった。

斎場はバス停から二百メートルのところにある。あたしはその道を歩いた。

直ぐにキョンに会いたいと思ったが、受け付けは両親に会わなければならないと、と云った。

キョンの両親が忙しかったので、しばらく待った。

その間じゅう、同級生が話しかけて来た。それからキョンの両親に会った。小柄な両親で、喪服を着ていた。

泣きはらした眼で、母親はあたしを見た。
それから私の手を握り、どうして手を引っ込ませようかと困ったほど長く、離さずにいた。

彼女は日記の頁をめくって、

「よく来てくださいました。あなたと出会ってから息子は本当に楽しそうでした。息子も喜ぶ事でしょう」

と云った。

あたしが何か言わないとと思っていたが、彼女は遮って、ぐっと抱きしめた。

あたしは通夜の場にやってきた。

遅れてやってきた古泉くんが、

「彼の為に焼香をしましょう」と云う。あたしは棺に近よったが、あたしは途中で止まった。

「焼香をしないのですか?」と云うから、「ええ」とあたしは答えた。

あたしはやめた。

ちょっとして、古泉くんはあたしを見つめ、「なぜです?」と尋ねたが、いかにも不思議だと云う様子で、別に非難の色はなかった。

「理由はないわ」とあたしは云った。

古泉くんは通夜の場に相応しく何時も笑顔ではない沈痛な面持ちで、あたしの方を見ずに、「わかります」とはっきり云った。

それからあとは、すべてごく迅速に、確実に、自然に事が運んだので、もう何も覚えていない。

ただひとつだけ、記憶がある。斎場の入口のところで、有希が私に語った。

有希は無表情に釣り合う抑揚のない平坦な声で

「ゆっくり行くと、熱中症に罹る懼れがある。急ぎ過ぎると、汗をかいて冷房で風邪をひく」と彼女は云った。

彼女は正しい。逃げ道はないのだ。この一日について私はなお若干の印象を忘れていない。

例えば、棺近く、最後に彼女がキョンの棺に縋りついた時の、みくるちゃんの顔。
苛立ちと苦痛からの大粒の涙が頬に溢れていた。涙はそのままぼろぼろと流れ落ちていた。

また、「キョンくん、起きてー」、「なんで何時までも寝てるのー?」、「夕ご飯が冷めちゃうよー?」と死が理解できていないキョンの妹。

家に帰り着いたとき、私はこれで横になれる、十二時間眠ろうと考えた。

昨日の一日で疲れていたので、起きるのがつらかった。

髪の毛を整えるあいだ、これから何をしようかと考え、泳ぎに行くことに決めた。

駅前にある市民プールへ行った。そこで、プールにとび込んだ。大勢の人がいた。

水のなかで谷口に会った。同じ中学の出身者で、当時は私に告白してきた。

だが、しばらくして、別れた。やっぱり、只の人間で面白くなかった。

あたしがプールからあがるのを手伝う振りをして、そのどさくさに胸を触ってきた。

あたしは何も言わずに谷口をプールに蹴り落とした。

そんなあたしの様子に、谷口は驚いたようだった。
 
あたしにショックはないのかと尋ねた。あたしはキョンが死んだと云った。

知っている、と谷口が言うので、「昨日」と呟いた。

谷口は、何も云わなかった。それは何ものをも意味しない。

いずれにしても、ひとはいつでも多少誤っているのだ。

カミュの異邦人か。

俺は原稿用紙から頭を上げて、ハルヒ編集長様に、

「………で?お前は誰を殺すんだ?」

何時もの文芸部の部室。俺たちが何をしているのかと言うと、

生徒会長から「文芸部として何か一つでもいい、早急に活動したまえ」等と言われて、

それが出来ないと文芸部が休部となるピンチになったので、文芸部会誌を急きょ作成してるって訳だ。

ハルヒ編集長様は暇になったのか、いきなりこいつを書いて俺に読めと言ってきた。

それがさっきの酷い原稿だ。

「あたしは殺さないわよ?殺人を犯すのは朝倉だもん」

ハルヒはさも当然と言った表情で答える。

「お前、この流れでそれはないだろ?」

「ここから話は過去に遡って、朝倉があんたを教室に呼び出して刺殺するの。それがあんたの死因」

なんだか見てきたかのような事を言っている。

「なんで朝倉が俺を殺すんだよ」

「あたしの普段の生活が気に入らなくて、とりあえずあんたを殺してみたわけ。
 裁判では、あんたが死んでからも普段と変わらないあたしを冷酷だって朝倉が批難して、
 裁判の最後では殺人の動機を『大きな情報爆発を観測したかったから』と述べるの」

なんだか色々と突込みたいが、明らかに藪蛇になりそうだ。

とりあえず、これを完結させるのは危険そうだから何とか止めさせないといけない。

ハルヒに書かされる事となった恋愛小説だけでも頭が痛いのに勘弁して欲しい。

「とりあえず、盗作だから駄目だ」

俺はハルヒに一言だけ言った。

ハルヒは唇を尖がらせ「ぶぅ」とでも言いたげだ。

そして思い出したかのように、

「あんた、さっさと書き上げなさいよ!書き上げずに穴が空いたらさっきのを書き上げて入れるからね!」

なんて怒鳴りつけられた。

やれやれ、長門の為にも頑張るか。



チラ裏SS オチマイ

付き合って頂いた皆様においては、お疲れ様でした。

>>8

言われる前に投稿を終わらせようとしたのに間に合わなかったかw

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