【ラブライブ】凛と咲く花と (133)


当たり障りのない内容のつもり。

設定はアニメ、SIDごちゃまぜ。

都合のいい自己解釈、多少の改変あり。

性格がちょっと違ったりしているかも。

文章力がないので見るに耐えない出来かもしれません。

それでも構わないと言うお暇な方だけどうぞ。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1410714055


・・・はぁ・・・。

溜め息なんて数え切れない位ついてきたのに今日のはいつにも増して重い気がする

少し癖がついた毛先を人差し指でくるくると回す

何かしらつまらない時と
感情を自分の中で処理しきれなかったときによくやってしまうのだろう

私がよく、分かりにくいけど分かりやすいと言われる理由

4月の陽気に似つかわないため息は
きっとまだ私の周りを漂っている

こんな気持ちなんて
春の凛とした空気に紛れてどこか私の知らないところまで真っ直ぐ拐われてしまえばいい

そんなことを考えているうちに、校門が人差し指程度の大きさに見えるまで私は学校に近づいていた



出会いの季節、別れの季節
新しいことが始まる季節、終わる季節
何かしらの期待に胸躍り嬉々してしまう季節
単純に新年度の節目の月というだけなのに妙に色付いたり色褪せたりして見える季節

私はそんな春が
いや、そんな春だからこそあまり好きになれないのかもしれない

何か変わらなきゃいけない
去年の自分より成長しなくちゃいけない
妙な焦燥感に駆られてしまう

きっと私が私である以上
これは多分死ぬまで逃れられない運命の様なものなんだろう


…はぁ…。

疲れた
只でさえ気分が乗らないのに
こんなことを考えるのは今日1日くらいやめよう

もう少しで校門だ

あそこを通って教室に入り自分の名前の入った席に座って
少ししたら先生が来て入学式の軽い打ち合わせめいたものを皆に話して

まあ、入学式なんて立って座って会釈してを繰り返すだけだし、大して気にすることもないわ

たった一人新入生の代表挨拶をする私を除いてね

今日の重い溜め息の原因のひとつ
やっぱり考えないなんて無理だったわ

それでもいつも通りスマートにこなしてみせましょ


仕方ない

仕方のないことなのよ

人差し指大の校門が見えた後
軽く俯き気味で考え事をしながら歩いていたので、手前に着くまで校門の左端でもたついている女の子が居ることに気が付かなかった

何故かとてもおどおどしながら
携帯電話の画面を数秒見てその後校舎を見る行動を何度も繰り返し
その間に何かぶつぶつ呟いているようだった

いつもだったらこんな面倒くさそうな事スルーして済ませようとする筈なのに
さっき余計なことを考えて少し疲れていたからかもしれない

何故だろう、半ば引き寄せられるかのように女の子の近くに歩きながら寄っていた

その、ちいさなつぶやきが聴こえるくらいに


「凛ちゃんどうして返事してくれないんだろう…、もしかして何かあったのな…?
でも、入学式に遅れちゃうのも…ぁぁぁ…」

その後もどうしよう、どうしよう…
と、繰り返している女の子

どうやら一緒に入学するもう一人の友達を待っているが一向に現れもしないし連絡もつかないので困り果てて立ち往生しているようだ


…はぁ、面倒な子ね。

そう思った後
喉が軽く締まり声帯が震え、私が発した音は空気を伝わり声になって彼女の耳にも届いた


「こんなところで何してるの?あなたも新入生でしょ?」

少し自分でも驚いた
なんで声をかけたんだろう

小さい頃からあまり会話が続かないから
滅多なことがない限り私から話しかけるなんてしないのに
話しかけた後に少し後悔

ああ
きっとこの春の陽気と凛とした空気のせいだ
いつもならこんなあからさまな面倒事には自分から首を突っ込んではいかないのに

でも、なんだろう
その気持ちに勝ったものが私のなかにあったんだ

なんというか、放っておけない

そんな雰囲気をじわりじわりと醸し出している女の子だった

それが彼女にとって損なのか得なのかよくわからないが
話しかけてしまったものは仕方がない、中途半端になるのは嫌いだし話くらいはしよう

こんな考えが頭を巡っている間に返事が来た


「あっ・・・、あの、そのっ、はじめましてっ!あなたも…1年生…だよね?」

軽く頷く
あたふたしながらもしっかりと挨拶をしてくれた
意外としっかりはしている子なのかもしれない


「 えっと…今日はせっかくだし一緒に校門から高校生活の第一歩を踏み出そうねって、やっ、約束してた友達がまだ来てなくて、連絡もつかなくて、、それで… 」

推測通りね
といってもこの子の声が聞こえる距離に行けば誰でも予想できそうなことだけど


「その友達を待ってるのもいいけどあなたが遅刻したら元も子もないんじゃないの?後15分もないわよ?集合時間まで。」

「でっ、でも…凛ちゃんと…約束したんだし…」

はぁやっぱり面倒だったわね
でもその凛って友達の事を相当大切に思っているみたいね
たかが一緒に校門を通るという約束くらいで、他人の私が見て判るほど迷ってるわ

その行動の自体は理解できるけど、そこまで迷うことなのかしら?

初日、しかも入学式に遅刻なんてしてみなさい?皆の注目の的よ?勿論悪い意味でね

それを話のネタに嬉々として話せるようなタイプの子でものいでしょうに
それでも待っていたい
よっぽどなのねあなたにとってのその友達は
ま、その友達があなたをどう思ってるかなんていう本心は知る余地も無いのだけれど

今は少し
そんな意地悪な考えを頭の隅に追いやり会話に戻る

「それで、どうするの?待ってるのもいいけど遅刻しちゃうわよ?初日に遅刻なんてしたらいいい笑い者よ?」


ほんの少しの沈黙

この時間が気にならないものになっていて、尚且つそれでお互いに心地好いと感じているならばその人と友好的な関係を築けているんだと思う

そんなこと事を考えていたら


「えへへ…そう、だよねっ。
…でも、私、今日は待っていたいんだ。
凛ちゃんは今まで約束守れなかったことは一度もないもん。
今日はきっとお寝坊しちゃって、起きて時間がぎりぎりだったから焦って飛び出してきて携帯電話忘れちゃってるんだと思うんだ」

春の陽気によく似合うとても柔らかい表情でその子は言った

なんだ
きっとこの子の中では初めから友達を待ってるつもりだったのね

新しいことばっかりで、ちょっとしたハプニングがあって考えがうまく纏まらなかっただけ


「えっと、あの、ありがとう。
あなたと少しお話したらちょっと落ち着いちゃった。
それに、凛ちゃんとなら少しくらい遅刻してもいいかな?
だってきっとそんな思い出も、何年かしたらいい笑い話にもなりそうだしっ」

少し眉を八の字にしてまた微笑む。

意外と肝が据わってるわね、この子
というか、その友達
凛って子と一緒ならなんでもこなしちゃう
親友ってやつなのかしら、信頼してるのねその子を


でも、どうするの?

もし今日来なかったら。

自分を置いてどこかにいってたりしたら。

信じてたものに裏切られたら。


私の悪い癖だ
いいことがあっても
いい考えがあっても
それに相反する最悪のケースを考えてしまう
リスクマネジメントとしては上々だ
そこで止まればいいものの、私はそれをよく口に出してしまう


素直になれないくせに
そんなことばかり口から出てしまう
お陰で相当の物好きやお人好しでもない限り私とは長く関わろうとはしなかった
当然だ
私だってそんな人間がが近くにいれば自分の視界にさえ入れたくない


「でも、―」

ああ、またやってしまう


初対面の相手にこんなこと言っちゃうなんて
全然成長してないや
もう、やんなっちゃうわ
ああ、でも仕方ないのかな…
もう、どうにでもなればいいか


ごめんね

高校生活初日に嫌な思いさせて
もしかしたら
偶然、今日このタイミングで出会わなかったら
友達になれたかもしれないのにね

やっぱり変な期待なんてするもんじゃないわ



「…―ょ――ん!!」

私の言葉を一瞬遮って声が聞こえた
気のせい?
と、思った数秒後同じ声の主であろう声がさっきより大きく後ろから聞こえた


「かーよちーん!!!」

かよちん?
なにそれ、意味わかんない
謎の単語を何度も発しながら、手をぶんぶん振ってこちらに軽快な足どりで向かってくる
いかにも元気が取り柄って感じのショートカットの女の子


遠目で何となく見える同じ制服
同じ色のリボン
校門前にはわたしと友達待ちの女の子だけ

「かよちん」と言うのが私の隣にいる
彼女のあだ名だというのに気付くのに時間はかからなかった


ああ
間に合ったのね
この子のお友達、凛って言ったかしら?
軽く彼女に目線を向けると嬉しい半面恥ずかしそうに手を振っていた


後少し二人の距離が20メートルもないくらいになってきた


…よかったじゃない。


「それじゃあ、私は行くわね」

軽く、小さな声で言い終わる前に校舎に向かって歩きだした


時計をみる、5分前
予定より少し遅くなったけどこの程度なら許容範囲ね

人が多い所に長時間居るのは好きじゃない
といって早めに動き過ぎれば後からどんどん人は増えていく
だから丁度5分前くらいに席について
準備してれば後数分
残り数分は一人でゆっくり落ち着く時間
朝も強い訳じゃないし

それでいいのよ。


10歩も歩かない内に女の子が声をかけてきた。

「えっ!?
あの、せっかくだし…あなたも…一緒に行かない…?それに、凛ちゃんにも、お友達ができたって…紹介したいし、あと!まだ――も―」


きっとこの子は勇気を振り絞って声をかけてくれたんだろう
でも

全部言い終わる前に聞こえなくなってしまった


私はもう歩き出していたから

振り向かずに軽く手1、2回振って


これでいいのよ、私には関わらない方がいいわ

かっこつけだとか、自惚れだとか、

そんなんじゃなくて

きっと後悔するから

嫌な思いするから

私以上にあなたたちの方が。







―――そのあと二人は一緒に校門を抜けた。


「かよちん、ごめんなさい!!
今日が入学式だって思ったら楽しみで寝られなくって、それで興奮冷ますためにお外走ってたり、運動したりしてたの!
それでも全然眠くならなくってね、そしたらなーんと!朝日が見えてきちゃったの!
凛、朝日が昇るところみるなんて初めてだったんだ!!
それで、それで、流石にまずいなーと思ってシャワーだけ浴びて少し横になってたら…という訳です。。」


「いいよ、凛ちゃん!
ちょっと危なかったけど、ちゃんと時間には間に合ったんだから!
それより慌てちゃったのはわかるけど、明日から携帯電話はちゃんと持ってきてね。
流石に連絡つかないと、花陽も何かあったんじゃないかって不安になっちゃうから」


「え!?凛、携帯も忘れてるの!?
ポケットにも鞄にもない!!
んー、、、、、、あっ!思い出した!!
かよちんからのメールと着信見たあと、時計をみてゾッとしてベッドに投げ捨ててきたんだにゃ!」


「あはは…凛ちゃん相当バタバタしてたんだね。
急いでくれたのは嬉しいけど、今度からは先ず一呼吸置いて連絡してね!勿論、私以外の時でも。
焦っちゃって、もし怪我なんかしたら大変だもん」


「はっ!了解しました!かよちん隊長!!
以後、気を付けるであります!!!」


「もー、凛ちゃんったらふざけないのー!」


「ふふふっ、ちゃーんとわかってるよー!
かよちんの言うことだもーん!!
ささ、急ご、急ご!お話ししてたら教室の集合時間まで後3分もないにゃ!」

「あっ!急に手を引っぱって走らないでよ~、凛ちゃーん!」


小走りしていた足を緩めて二人はまた話しだす

「ねーねー、かよちん」

前を向いたまま話しかける

「ん?どうしたの凛ちゃん?」

花陽は凛の方を軽く見て答える


「かよちんに声かけるとき、ちらっと赤い髪の毛した女の子がみえたんだけど、あの子、どうしたの?」

凛が不思議そうに
花陽を下から覗きこむように聞く


「あの女の子はね、きっと花陽が校門の前でおどおど不安そうにしてたから、見るに見かねてて。って感じなのかな?
凛ちゃんの来る10分前位に会ったから、あんまり長い間お話も出来なかったけど…」

花陽は少し顔を少し上にあげ前をみて
思い出すように話す


「ふーん、凛もお話したかったなー
で~、かよちーん、その子の名前はー?」

凛が手を腰の後ろに組んで話しを続ける


これはちょっと興味があるときにする凛ちゃんの癖だ

そう思い、花陽は答える

「うん、それがね、結局聴けずに先に行っちゃったんだ。
声もかけたんだけど、振り向かずに軽く手を振って行っちゃって…。
ちょっと残念だったけど、時間も押してたし仕方ない…かな?」

花陽は苦笑いし少し首を傾げる


「えーっ!?仕方なくないにゃー!!
せっかく入学式の前にお友達ができるなんて幸先よさそうな事があったかもしれないのにぃ!


凛が大袈裟に両手をバッと広げて言う


「あはは…そう、だよね。
私も、ちょっと後悔してんだるよ。
だって、もしかしたらこれからずっと仲良くできるかもしれないって思えたから」

「んー?何で何で?」

また不思議そうに凛が首を傾げる


「…んー、何となく…かな?」

花陽が続ける

「私ね、初めて見たり触れたり出来るものに対する直感ってすっごく大事なことだなって最近思うようになったんだ。
だってね、そこで初めて感じた気持ちって本当に自分の真っ直ぐな、心の真ん中から自然にスーっと溢れだしてきた、そんな想いだと思うの。
そんな気持ちだからこそ大切にしなくちゃって思えたの。
それで、高校生にもなったんだし心機一転、いままでのびびりんぼな花陽は卒業して自分の想いに真っ直ぐに、勇気を出して少しずつでもいろんな事に挑戦していこう!
って、意気込んだんだけどね…。
いきなり失敗しちゃった…あはは…」


「でもでも!かよちん自分から話しかけたんでしょ!?」

「んー、最初はあの子から話しかけてくれたんだけど…、名前を聞こうと思ったときは…そう、なるのかな?」


「かよちん前までなら初めて会った人やお友達になって日の浅い子には
緊張しちゃって自分から話しかけれた事殆どなかったにゃ!
かよちんはちゃんと勇気出せてるよ!!」

「あはは…わかってはいたけどそこまではっきり言わちゃうと、ちょっとだけへこんじゃうなぁ」

華奢な肩がガクッと落ちる


「あっ!ごめんね!
凛、かよちんを悲しませたかった訳じゃないんだよっ!本当だよ!?」

落とした肩をグッとつかんで凛が言う


「ふふっ、ありがと。
ちゃんとわかってるよ、凛ちゃん。
いいことも、わるいことも、素直に思ったことを相手に伝えられる。
それが凛ちゃんのいいところの一つだもん」

星屑を散りばめた様に瞳を爛々と輝かせて
凛がとびついてくる


「…っ…かよち~ん!」 ギュッ

「あははっ、凛ちゃんくすぐったいよお~」

「かよちん!かよちん!!かよちーん!!!」


「あははっ!はぁはぁ…っと、
凛ちゃん、嬉しいけど今遊んでたら本当に遅刻しちゃうよ」

「おお!そうだった!
ささ、教室まで全力ダッシュで競争にゃ!!」

今度の瞳は燃えに燃えている


「ええ~!?全力だなんて無理だよ~、
せっかく綺麗に制服きてるのに着崩れちゃうし、何より走って凛ちゃんに勝てっこないのに~!」

花陽が言い終わると同時に凛はその場で軽快に行っていた足踏みを止める


「っとと、そっか!
それじゃあまた一緒に行こ!
時間に間に合う位の、かよちんのペースに合わせるからっ!」

それなら、と花陽が頷き

また、小走りで教室へと向かっていった



走っている最中
花陽はさっきの赤髪の女の子のことを思い出していた

「(あーあ、もう少し私が頑張れてたら、あの子ともお友達になれたかもしれないのになぁ…
目もキリッとしてて綺麗で、スタイルもよくて、おまけに声も通ってかっこよかったし、
まるでアイドルみたいだったなぁ…)」

「(…、でもなんでだろう、凄く優しい目をしてたのに最後の声ちょっと悲しそうだった…、気になっちゃうな…)」




――――――――――――――――――――――――――



入学式から3週間、
あの子が初めて声をかけてくれた日から、
私はあの子の名前やあの子の事を少しだけ知ることができました。

…あの子って言うのはもう変かな?
同じクラスの西木野真姫さん。


出席番号は最初の方だから
多分お誕生日は最近だったのかな…?
新入生代表挨拶もしてたし勉強もよくできるみたい。
あと、背が高くて、格好よくて、声も綺麗で
今、私が西木野さんについて知っていることはこれだけ。


何度か声をかけようとしたけど
私が途端に尻込みしちゃったり
視線があったら逸らされちゃったり
すれ違いばっかりです。


でも、西木野さんが意図的に私だけを避けてる訳じゃないのは何となく判るんだ。

私もあんまり人付き合いとか得意な方じゃないから、自然と人のいない方へといっちゃうし。

なんと言うか
新しくお友達をつくったり、仲良くしたくない訳じゃあ決してないんだけど
上手く最初の一歩が踏み出せない。

踏み込んでも、後になかなか続かない。


だから1人になって考えたり
静かに落ち着ける、自分の考えに浸れる場所を探してしまう。


お昼になるとたまにフラッと
ご飯も食べずに出ていってしまう
西木野さんの後を、
ぱたぱたと追いかけて辿り着いたのは
大きなグランドピアノが置いてある音楽室。


ここがきっと
西木野さんの落ち着ける場所。
まだ指折り数えれられる程度眺めただけなのに
椅子に軽く腰掛ける姿も様になって見えます。


私は、音楽室の扉の前でこっそりあの子を眺めている。

凛ちゃんにはお手洗いに行くって言ってからここに来ています。
先に食べててもいいよって言っても、ずっと待っててくれるからあんまり長居はできません。


私は少しだけそわそわしながら待っていました。
あの子がピアノを弾いてくれるのを。
あの子が歌ってくれるのを。

別に私の為に歌ってくれる訳でもないし、
ピアノを弾いてくれる訳でもないだけど。


だけど
綺麗な長い指が鍵盤を駆け
西木野さんの響かせる音が空気を伝って
旋律になって 声になって
ふたつの音がひとつになって
奏でるメロディが
私の耳に一番最初に、一番近くで届くから。


でもきっと今のままなら
私は西木野さんから遠いまま。
ちょっと似てるけど、どこか違う
西木野さんから遠いまま。


私は
道端に咲いてる何処でも見つかるような
小さな小さなお花。
そのお花の中でもちょっと離れて咲いている。
他の誇らしげに咲いている花の中で
自信がなくて恥ずかしいから離れて咲いてる小さいお花。


西木野さんはきっと
人の目も滅多に届かない様な場所に
ひっそり可憐に咲いている
とってもとっても綺麗なお花。

高嶺の花って言葉があるけどまさにその言葉がぴったりなんじゃないかな。


だからこれは
きっと奇跡の巡り合わせ。

知ることさえできなかったかもしれない。
出会うことさえできなかったかもしれない。
音と人と巡り会えた。


だけどそこからどうやって
うまく繋がっていけばいいか
まだ私にはわかりません。

だから私はこの数分間
西木野さんが奏でる
暖かくて綺麗なメロディを
聴けてるだけでいいんです。

近くて遠いこの扉の向こうから
奏でられる旋律にただそっと寄り添って。


―――今はまだこのままでいよう。
西木野さんの歌とピアノをまだ聴いていたい。
自分勝手な思いだけど
この音を独り占めしている気分に
この狡いままの感動に
もう少しだけ浸っていたい。

この見えない関係が壊れないように。


今はちょっと
新しいことだらけで充電切れ。
もう少し時間が経ったら
もう一度勇気を出してみよう。

嫌われたり、失敗したりするかもしれないけど
何度かお話すれば
きっと大丈夫だよね?


それでもし
西木野さんがお友達になってくれたら
凛ちゃんにももう一度紹介できたらいいな。
それで今度は
西木野さん1人じゃなくて
私たちと一緒にピアノを弾いて歌ってくれたら嬉しいかな?
歌うのはちょっと恥ずかしいけど歌は大好きだしっ。



あの時感じた気持ちを今も私は忘れていない

どんなときとずっと一緒にいられる
どんなときもずっと一緒にいたい
嬉しいときも 悲しいときも
会いたくなるような仲になれる

そんなお友達になれそうな予感が
あの時校門で私に声をかけてくれたときから
ずっとずっと私の心の中を
満たし続けてる


凛ちゃんが私に初めて声をかけてくれたときと凄く似てるこの気持ち

この奇跡の出逢いを この想いを
無かったことにして忘れるなんて
私は絶対したくない
立ち止まることはあっても
私はもう逃げ出したくないから


だからその時まで
もう少しだけ待っててくれたら嬉しいな
西木野さん。


――――放課後「音楽室」――――



…あの子今日のお昼も来てたわね 、
小泉さん?って言ってたかしら?自己紹介で。


あんなバレバレの尾行で何するのかと思ったら音楽室の前まで着いてきて
後は小動物みたいに窓から目だけ出して、
多分、私の歌とピアノ聞きに来てる?
のよね?出る頃には居なくなっちゃうし、邪魔されてる訳じゃあないし放っているけど…。


…でも、誰かに聴いてもらいながら弾くのも悪くないわね…。
1人っきりでスッキリしたいときに弾くのとは全然違う。


別にあの子の為に弾いてるわけじゃあないんだけど、悪い気はしない。
なんと言うか、
近くに小泉さんが居るとわかったら、何となく落ち着く。
何となくなんだけど…。

今までみたいにパパの自尊心の為に弾かされてたって気付いた頃とは違う…。
もっと小さい頃感じた
指をのせれば音が広がり心が弾け
嬉々としたあの頃と少し似てて。
とっても暖かい気持ちになるのよね。



あの子、入学式の日は私のこと友達って言ってくれてたっけ…。

…ちょっと、勿体ないことしちゃったかな…。


…駄目、きっとまた傷付ける。
この面倒な性格のせいで。
あんな優しい子を傷付ける。
そんなことになるくらいなら
1人でいた方がずっとマシよ。


繋がりをつくったって碌なことにならないのなんて目に見えてるじゃない。
今までだってそうだった。

…たった1人の文通相手を除いて…。


…小泉さんが尾崎さんと同じ訳じゃない。
そんなことは判りきっている。
…だけど…なのに
凄くモヤモヤする。

…何でだろう、よくわからない。


上手な友達のつくりかたなんて教わらなかった。
教科書にも載ってないし、
誰かに聞いてもあなた次第、
気付いたらなってるものとか。
上手く着地する場所のない
掴み所のない答えばかりで。

その掴み所のない解答を求めて
私の想いは縦横無尽に絡み合う。


だって、答えがないんだもの。
テストで満点とるより、ずっと難しいわ。


理にかなってない理不尽なことばっかりの
人間関係なのに
目に見えないものなのに。

それなのに皆
大切なものだとか、かけがえのないものだとか



…ああ、そっか。


だけど、きっと
だから、きっと

私はその答えを届けたいんだ。


あの咄嗟にかけられた
言葉に私は応えたいんだ。

こんな簡単な事さえも出来ず
自分の世界に潜り込んで。逃げ込んで。


1人でピアノを弾いている。



その近くにも扉を隔てて居てくれる
そんなあの子と繋がりたいんだ。

入学式の日諦めたつもりの
捨てきれてない淡い期待が
私の胸を焦がしてたのね。


もし小泉さんと友達になれたなら
歌を歌ってもらいましょう。

勿論私と一緒にね。
あんなに綺麗な声なんだから
歌わないのは勿体ないわ。

きっと恥ずかしがり屋だろうから
そうでもしないと歌ってくれそうにないし。


もしかしたら小泉さんから声をかけてくれるかもしれないけど
この私が何時までも誰かに甘えてばっかりな訳にはいかないわ。

小泉さんの勇気にちゃんと応えなくちゃ。


何度も嫌な気分にさせるかもしれない。
何度も喧嘩するかもしれない。
何度も傷付けるかもしれない。

そしたらその度、仲直りすればいいじゃない。
昔っからよく言うでしょ?喧嘩するほど仲が良いって。


小さい頃は当たり前みたいに出来てたことが
今になってできなくなるなんて
ほんと自分に呆れちゃうわ。
くだらないプライドばっかり大きくなっちゃって。


…少し待っててね、小泉さん。
私、あなたと友達になりたいみたい。
だから、上手く繋がる方法
もうちょっとだけ考えてみるから。


…ふぅ。

考え事をしながら弾いていたのに
妙に頭がスッキリしている


この心地好い気持ちのまま帰路に着こうと
目をゆっくり開いたのと同時に
乾いた音が窓の向こうから聞こえてきたのがわかった


ふと窓を見ると驚きと嬉しさを掛けて
2倍にも3倍にもしたような顔で拍手をしている人がいた


それに驚いてとんでもなく情けない声をあげてしまったが
そんなことは気にしないと言った感じで
その人は音楽室に入り込んできた


「凄いスゴいすごい!感動しちゃったよ!!」

「歌上手だね!ピアノも上手だねぇ!それにっ」


「アイドルみたいに可愛いっ!!」


…妙な人に見つかってしまった。
私は昔っからこう言う自分のペースに巻き込んでくるタイプの人が得意ではない。
今、私は自分でもわかるくらい顔が真っ赤になっているだろう。
宛ら私の好きなトマトみたいに。
だけどこの人は好きじゃない。
いきなりズカズカと音楽室に入り込んできて
私のテリトリーを侵してる。
リボンから察する2年生みたいだけど、
こう言う人には関わらない方が一番。
さっさと帰りましょ。


無視して立ち上がったら
今度は少しだけ遠慮気味に
サイドテールの先輩は私に話しかけてきた。


「ぅあのっ、…いきなりっなんだけど…」




あなた、アイドルやってみたいと思わない?



終。

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