海未「幼馴染」 (10)
※男体化注意
東京都千代田区の秋葉原、神田、神保町に挟まれた地域にある私立音ノ木坂学院は古くからある伝統校である。だが現代の少子化に伴い、音ノ木も数年前から生徒数の減少の一途を辿っていた。伝統の一つでもであった女子校という看板を下ろしてまで共学にしたものの生徒は集まらずついに今年廃校になることが決定してしまっていた。
「穂乃果ちゃん、遅いねぇ」
「まったく…また遅刻でしょうか…」
今年二年生に上がったばかりの海未とことりは今日も待ち合わせの時間になっても現れない幼馴染を待っていた。
時計を見ながら眉間に皺を寄せる海未を宥めるようにことりは声をかける。
「まあまあ。いつものことだしね!高校二年生になっても廃校が決まっちゃってもいつもとなーんにも変わらない穂乃果ちゃんにことり、ちょっぴり安心しちゃうかも、なんて」
「またそんな事を言ってことりは穂乃果に甘すぎるんです!それにいつもと変わらず遅刻する事が安心だなんて甘やかしてばかりでは本人の為にもなりません!…仕方ないですね…やはりここは一つ私の道場で一から心身共に鍛え直して…」
「ダメだよぉ!男の子の海未ちゃんと女の子の穂乃果ちゃんとではぜんぜん体力も違うんだから…それに、この前穂乃果ちゃんが海未ちゃんのお稽古に付き合って倒れかけちゃった事忘れてないでしょ?」
言いながらことりは先日、海未の道場に久しぶりに穂乃果が見学に訪れていた日の事を思い出す。
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「うわーん!くやしい!また一本とられたぁー!」
「だから言ってるじゃないですか。穂乃果はブランクがある上に女の子で、対して私は男であの頃とは違うんですよ。稽古だって毎日つけてますし。敵うはずがありません」
心の底から悔しそうな穂乃果にどこか誇らしげに海未は笑う。そんな余裕の表情の海未が穂乃果の闘争心に更に火をつけてしまった。
「うぅー…よし!勝つまでやるったらやる!その前に海未ちゃん!その海未ちゃんが毎日つけてる稽古ってやつ穂乃果もやるよ!穂乃果がまだまだ現役だって事思い知らせてやるんだから!」
「えっ…穂乃果ちゃんそれはやめたほうが…」
「ふふ、いいでしょう…私に着いて来なさい穂乃果!久々に穂乃果と剣道だけではなく共に鍛える事が出来るなんて素直に嬉しいですよ!」
「ちょっと海未ちゃんまで!」
実は普段から頻繁に海未の道場を訪れ、差し入れなどをしていることりは海未が毎日行っている稽古という名の鍛錬の恐ろしさを知っていた。ただでさえ自分に厳しい海未が自分を追い込むかの如く独自に考えた稽古のメニューなのだ。先ほど海未が言ったようにブランクがあり女である穂乃果が着いていけるはずもなかった。
そしてその結果、意地を張ってしまった穂乃果は夢中になると周りが見えなくなってしまう海未に付き合い、振り回されて倒れる寸前のところでことりにより助けられたのである。
「うっ…冗談ですよ…それにやるとしてもあのときと同じようなことはさせません。そもそもあれは穂乃果が意地を張って私と同じメニューをやってみたいと言ったからであってですね…」
罰が悪そうに相変わらずぶつくさと文句をたれながらも穂乃果の話となるとどこか楽しそうな表情を見せる海未を見ていたことりが不意に海未の腕に抱きつく。
「こ、ことり?急にどうしたのですか…?」
「んーん。海未ちゃん、楽しそうだなぁって。…あのね、ことりね、ほんの少しかも知れないけどこの時間が…穂乃果ちゃんを毎朝待ってる海未ちゃんと二人きりの時間がすごく好ーーー」
「ごっめーん!遅れちゃって!」
頬を染めながら話すことりの言葉を遮るように穂乃果の大声が被さるのと同時にことりの腕を自然と振り払うような形で海未の身体が離れる。
「あっ…」
「穂乃果!遅いですよ!まったく毎朝毎朝、懲りもせずに寝坊だなんていい度胸ですね…」
「うっ、ち、違うよ!今日は寝坊じゃないんだよ!二人ともこれを見てこれ!」
海未の更なる怒声が降ってくる前に慌てて穂乃果は言葉を遮り、鞄の中から雑誌を取り出した。
「はぁ…なんですかこれは?」
「…雑誌、だよね?」
きょとんとした顔の二人を尻目に穂乃果はある一面記事を指差す。
「そう!この見出しのとこ!」
「「スクールアイドル?」」
「そう!スクールアイドル!」
穂乃果の意図することが読めずにぽかーんとした表情の二人に気にもせず穂乃果は続ける。
「このスクールアイドルで音ノ木を廃校の危機から救うんだよ!」
「と言いますと…?」
「穂乃果ちゃんスクールアイドル始めるの!?」
「何言ってるのことりちゃん!ことりちゃんも一緒にだよ?あ、海未ちゃんは男の子だから穂乃果たちのマネージャーさんかなぁ」
「えええええ!?」
「ちょっ、ちょっと待ってください!そのスクールアイドルを始めるのと廃校とどのような関係があるのですか?」
穂乃果はスクールアイドルが全国各地に存在していて今最も日本で注目されている事、若者を中心に人気を集めている事などを一から説明した。
廃校が決まってから一度ショックから気絶してしまったもののそれ以降その話題に触れなかったと思えば穂乃果は一人で必死に廃校を阻止しようと何か良い手はないか模索していたのだ。
普段からそうなのだが穂乃果のこういったときの行動力には二人とも圧倒されるし素直に感心もするしそんな穂乃果だからこそ二人とも着いて来ていたのだが…
「さ、さすがにアイドルなんて無理だよぉ!」
「そうですよ!いくらなんでも無謀過ぎます!アイドル部を作って生徒を集めるだなんて…」
いつも穂乃果に甘いことりでもこればっかりは無理だと首を振る。
「なんで!?ことりちゃんは可愛いしアイドルの素質も十分あるよ!穂乃果なんかよりもずっと!きっと穂乃果たちが活躍すれば音ノ木に興味を持ってくれる人も増えて入学希望者も今からでも増やせる!まだ一年もあるんだし!」
「二人が可愛いのは分かっています。しかし…穂乃果の言うようにスクールアイドルは全国にいて人気もあるのでしょう?その中でも有名になるなんてきっとそう簡単に上手くはいきませんよ…」
穂乃果の提案を否定するも真剣な顔で考え込みながら穂乃果とことりの事を可愛いと無意識にさらりと言いのけた海未を見て二人の顔が赤く染まる。
「か、可愛い…」
「も、もう!海未ちゃん!…ってそうじゃなくて、そんな事やってみなきゃ分かんないじゃん!それに海未ちゃんだって男の子の生徒も増えてほしいでしょ?」
「うっ…それは確かに…」
音ノ木坂学院はちょうど海未たちが入学する年から共学となった。その為、上の学年はまったく男子生徒がいない。
また海未の年にもギリギリに決まったことであった為かほとんどと言ってもいいほど男子生徒は集まらず、海未のクラスに海未を含め二人、隣のクラスにも二人と学年に四人しかいないのだ。
そこに追い打ちをかけるように共学になったばかりで男子がいないという噂を聞いてか一つ下の学年にも男子生徒は二人しか集まらず、ほぼ女子校のような状態となっている。
話だけ聞けばハーレムだと羨ましがられるかもしれない。海未には穂乃果とことりがいるからまだいいのだが他の男子生徒は実際にはとても肩身の狭い思いをしているというのが現状である。
「むむむ…あ、いや、待ってください、男子生徒を増やす云々の話はまず廃校を阻止してからの話になるのでは…」
「あっ、そっか!そうだよねぇ…やっぱりアイドルだよ!アイドル!可愛いものは女の子だって男の子だって好きなんだよ!ね!ことりちゃん!」
「……ねぇ…二人とも学校…」
「「あっ」」
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