福太郎「えーと……閻魔殿?」(19)
福太郎「あいたたた、なんや薄暗いなぁ。えーと……閻魔殿?」
鬼灯「あなた、そんなところで寝ていてはいけませんよ」
福太郎「おわっ! こいつは失礼しました」
福太郎(なんやチンピラみたいな兄ちゃんやな、大大家さんと同じ鬼っぽいけどがたいは普通やな、目つき悪いわー。しっかしここどこやねん、不思議町に閻魔殿なんてあったかな……。まあなんにせよ会話できる人みたいやし、ちょっと聞いてみるか)
福太郎「あのー、俺さっきまで街中におったんやけど、連れに殴られてひっくり返ってしもうてん。髪の白い兄ちゃんがおったと思うんですが……」
鬼灯「? いえ、私はいまあちらから歩いてきましたが、ほかには獄卒と亡者しか見ていませんよ。あなた街中にいたとおっしゃいましたね、どこの街です? もしやあなた……それより早くお立ちなさい、ほら」
福太郎「あ、手ぇありがとうございます。あれ、お兄さん社会保障ナンバー付けてへんの」
鬼灯「ああ、やっぱり。あなた現世から迷い込んだ生者ですね。どこから落ちてきたのか知りませんが、せっかくですから少しお話を聞いてから帰して差し上げますよ。こちらへどうぞ」
福太郎「え、現世て。そしたらここはなんなんですか、あの、俺絵描きで万魔学園美術教師の田村・福太郎です。あなたは一体」
鬼灯「これは失礼しました。ここは地獄の第5寝殿閻魔殿、私は閻魔大王の補佐官、鬼神の鬼灯と申します。あなたの身柄は私が保証しますのでご安心ください。さぁどうぞ、歓迎しますよ」
ーー閻魔殿 鬼灯の部屋
福太郎(クリスタルヒトシくんや……鬼もふしぎ発見見てるんか。すっごい生活感あるなー。鬼ちゅうても人間とそんなに生活スタイル変わらないんかな。そいやパンデモニウムもそんなファンタジーでもなかったな)
鬼灯「散らかっていてすみません。きちんとおもてなししたいところですが、ここの住民は生者に慣れていませんから人前に出るのはやめておきましょう。こちら地獄名物金魚草のお茶です」
福太郎「あ、どうもありがとうございます……なんやリポDとコーラに梅昆布茶足したみたいな味やな……」(あっか! これ腹大丈夫かな)
鬼灯「………人間でも飲めるようですね」(ぼそっ)
福太郎「? なにか」
鬼灯「いえいえお気になさらず。ところで、少し調べてきましたが福太郎さんのお話から類推するに、卍巴市の不思議町にある井戸から落ちた可能性が高いですね。ここは以前からふさいでしまおうと言っているのですが何分権力的に複雑な場所ですから手が出せないでいるのです。お戻りになってから、現世側から塞ぐなりしてくださいね」
福太郎「それはえらいすんまへんです。せや、帰るてことは、地獄から現世に行く方法があるんですね」
鬼灯「ええ、私など亡者に沙汰する立場ですから現世のあなた方の文化を学ぶためによく視察に行っています。罪を犯した事実は変わりませんが、その罪が現世でどうやって犯されるのか解らないと適切な裁判が行えませんからね。それよりあなたからお聞きしたいことがあるのですよ」
福太郎「俺が話せることならなんでも。助けてもらったお礼ができたらええんですけど」
鬼灯「では、大召喚後以前からいる人間と以後に生まれた人間の死後の世界に対する認識の違いなど聞かせて貰えませんか? 視察で推し量ることはできますが、ずばり質問できる内容では無いので」
福太郎「確かに、初対面の人間に聞かれたらびびりますなぁ。せやな、俺なんかは大召喚前に生まれて、悪いことすると地獄に落ちるんやでー言われて育ちましたわ。今の子は大召喚で地獄?が身近になった大人に育てられたから昔とは”地獄”のニュアンスがちょっとずれてる気ぃはしますね。たとえば、20年前に鬼灯さんが地上に出たらまぁ、良くてコスプレ悪くて大騒ぎやったと思うんですけど、今ならなーんも言われへんでしょうね」
鬼灯「なるほど、地獄が身近。過去では我々はファンタジーの住人でしたが、いまや隣人同様ということでしょうね。確かに、最近の亡者は鬼を見てもあまり驚かないので困ります。まぁ、それを理由に刑罰を重くできてこちらは……おっと失礼、今のはお忘れください。たしかに地獄に堕ちても見慣れた存在がいるようでは、恐れもなにもありませんよね。裁判の段になれば亡者達も状況が解ってくるのでいいのですが」
福太郎「あの、やっぱほんまに裁判で刑罰を決めてお前は地獄行きやー!って仕組みなんですね。……もしよかったら、俺も地獄ってどないなってんのか聞きたいなーなんて」
鬼灯「そうですねぇ、まぁ、現世でも知られていることに多少の補足をする程度なら良いでしょう、いまの現世で口外しても、どうせ知っている者もいるでしょうしね、図解します」
すらすら
福太郎「あ、よかった。地獄でも使てる文字は同じですね。……八寒と八大それぞれに8つの小地獄を持つ16小地獄……こうして描かれるとほんま広いんやな」
鬼灯「ええ、地獄は広大です。福太郎さんはここに落ちて良かったですね。血の池や針山だったら大変なことになっていましたよ。具体的に言うと多分死んでます、地獄で生者が死亡した試しはないので助かりましたよ」
福太郎「ほ、ほかに迷い込んだ人っていてはるんですか? 小野篁なんかは地獄で閻魔の手伝いをしてたーちゅう伝説がありますけど」
鬼灯「おや、彼をご存じでしたか。ほかにいてもすぐに連れ戻されていると思いますよ。山から迷い込む場合は見てくれている方がいらっしゃいますから。先ほども言ったとおり、あなたが落ちた井戸のような抜け穴さえ塞いでしまえば、あなたがたがこちらに迷い込むということはそうそうありません。さ、見ましたね。残念ですが差し上げませんよ」
福太郎「ありがとうございます。残念ですわー、って、ほんまにこっちでわかることだけでしたね。死んだら観光とかできたら面白いと思いますわ」
鬼灯「そうですねぇ、死後あなたを職員としてスカウトできるような能力があれば、裁判ののち転生せずにここに留まって働いてもらうことになりますから、あなた次第ですね。なにか特筆するような特技はお持ちですか?」
福太郎「特技ちゅーか、能力?なら。地獄で役に立つかは分からんけど。あれ、死後でも使えるんかな」
鬼灯「生前でないと使えないのなら難しいですね、せっかくですから見せて頂けますか」
福太郎「ええ、ゆうても絵を描くだけなんですわ。……俺、ダブルマンで背中に獏がおるんです。そいつと一緒に白澤図を作ってるんです。ちょっと特殊なペンがあって、その縁で白澤図を作ってます、それで妖怪の絵を描くんですね。白澤図に載せるのはあれでも、似顔絵でも描きましょうか?」
鬼灯「おや、あなた白澤の宿主ですか。それは大変でしょう。私を白澤図に並べるのはお断りします。そうですね、私の絵は結構ですから、ちょっと描いて頂きたいものが、風景画はお得意ですか?」
福太郎「はい! イヤー実は風景の方が得意なんですわ。生きてる内に地獄の絵ぇ描けるなんて生きててよかったわーなんて」
鬼灯「喜んでいただけて何よりです、ただ描いてもらったものはこちらでいただきたい。それでもよろしいですか? あ、人に見せないでもらえれば写真でも」
福太郎「風景によりますけど……あ、もしかして地獄絵図ですか?」
鬼灯「とんでもない、美しい風景ですよ、さきほどあなたも飲んだ……」
ーーー閻魔殿 中庭
白澤「あれ、中庭通行禁止だ。ついたてまでしてある。金魚草になんかあったのかな」
茄子「えー? でも俺中庭に来いって鬼灯さまに呼ばれてるんだけどな」
唐瓜「絵の手伝いする準備してこいって言ってたし、なんかすごい人がお忍びで来てるのかもな、北斎とか」
白澤「僕は薬の配達と牛頭に用事なんだけど、それならちょっと見てみたいかな。でも朴念仁に頼むのは癪だし」
唐瓜「それなら見なかったことにして配達しちゃった方がいいんじゃ……閻魔殿壊されるとちょっと」
白澤「壊すのはあいつだけどね! いや、それ以外にちょっと気になるにおい?がするんだよね。それでこっちまで来たんだけどさ」
茄子「ふーん、鬼灯さまお風呂入ってないのかな、まあいいや、鬼灯さまー、来ましたよー」
唐瓜「お前それ、聞いてたら失礼だぞ!」
ぱたん
鬼灯「どうも、非番のところ急に呼び出してすみません。ちゃんと入浴はしてますから大丈夫ですよ。お客人にあなたの話をしたら興味を持たれたので。あとは絵の手伝いを、と。唐瓜さんも良い機会ですからどうぞ。と………」
白澤「あ、胃潰瘍になったみたい……。あ、あのさ朴念仁。その中からすげー気になる気配がするんだけど」
鬼灯「ここでお前を殴って閻魔殿の修繕費がかかるのが癪だから許してやる。それ、多分あなたの眷属だと思いますよ。まあ、いいでしょう。入れ」
ーーー
茄子「あれ、お兄さんが鬼灯さまの言ってた絵描きさん? 俺茄子っていうんだ。お兄さんは? へー、油絵の具なんだ。俺岩絵の具がメインなんだよ。ちょっと使ってみたいかも」
福太郎「お、おお。茄子さんな。俺は田村・福太郎いいます。よろしくお願いします。うん、やり方は西洋画やね。日本画はがっつり勉強はしてへんけど見るのは好きやな。鬼に言うのもあれやけど、地獄絵図とか」
茄子「茄子でいいよ福太郎さん。あれねー。閻魔大王以外の十王とかみんな同じ顔なのこっちじゃどうなの?って感じだよ。西洋の地獄絵っておどろおどろしいよねぇ。ああいうのも好きだけど。地獄は観光した?」
福太郎「じゃあ茄子、よろしくな。それと、じつは俺……」
鬼灯「茄子さん、唐瓜さん、白豚。そちらの福太郎さんは手違いで迷い込んだ生者です。おおらかな時代とはいえイレギュラーですから口外しないこと。絵を描かれるというので記念に金魚草畑を描いてもらっています。あと、実は生者でも地獄に来られるというのは知られるとトラブルの原因になりかねません」
福太郎「だもんで、念のためこうして人払いまでしてもらってるんですわ。地獄の観光は死んでからのんびりしよう思ってるわ。茄子は獄卒って聞いてるから、世話にならんよう頑張るわ」
茄子「すげー! 篁さんといっしょだね! でも従兄弟が臨死体験してる生者乗せた話してたけど、生きてる人も普通だねー」
唐瓜「あ、すいません。こいつの父親朧車なんです、父方の従兄弟も朧車だから、乗せたってそういうことです。こいつ変なことばっかり言うけど……すいません……」
福太郎「ええよええよ! 地獄にもタクシードライバーがあるんやね(……あれ、そういや臨死体験なんかな、これ)」
鬼灯「あ、福太郎さんは体ごと落ちてきてますから大丈夫ですよ。向こうにあなたの死体が転がってたりはしませんから、安心してください」
福太郎「あ、ですよね。背中の獏が普通におるし」
白澤「あ、あのさ福太郎くん。きみもしかしてア・バオア・クー?」
福太郎「え? ああ、そうです。獏王・白澤が背中に召喚されました。えーと唐瓜さんは茄子の付き添いで、あなたは?」
白澤「僕も白澤なんだよ、天国で薬屋をやってるんだ。そっかー、白澤かぁ。ねえ、影響がなかったら作業中その獏とちょっと話がしたいんだけど、いい?」
ーーー
福太郎「………で、これに素描して色付けて、壁に貼りたいってことだからぐわーっと」
茄子「さきに別紙にスケッチしてからこっちにするなら俺が絵の具準備しておく? だったら色を先に……」
唐瓜「なんか水とかいるか?」
鬼灯「執務室に飾りたいので、色味は生々しくお願いします。あ、鳴かせます?」
福太郎「コレ見ながら仕事するってどうなん?」
ーーー福太郎の背後
白澤「獏王って夢とか記憶操作できるんだ。すごいなー、僕もやればできるんだろうけどからっきし。修行すればいいって鳳凰と麒麟には言われるんだけどね。女の子と遊んでる方が楽しいや」
獏「そうねぇ、多分神格はあなたの方が高いと思うわよ。でもそうね、あなた……まぁいいか」
白澤「えー、なにそれ。でも僕も召喚されなくてよかったよ。ヤローの体とくっつくのは僕は無理だな。女の子の体ならまだしも」
獏「そう言わないでよ、みんな苦労してるんだからね。こっちに来て拒絶反応を緩和する薬とか作ってよ」
白澤「いやいや、大召喚のあとに依頼があって今の現世でも作れるのを考えたってば。あれが効かなくなってるならまた調合考えるよ。拒絶反応じゃなくなってるのかもよ、宿主との関係が変わってきてるんじゃない? あー、でもそれならもう一回現世でちゃんと調査した方がいいかも。今度また行こうかな」
獏「この前福太郎と1ヶ月くらいふらふらしたけど、たしかにそう見えたわね。20年も経てば状況は変わるわよね」
白澤「20年かー、あのときはどこもかしこも大騒ぎだったねぇ。妖怪に食われた亡者がこっちでも鬼がいるから大騒ぎでさぁ。天地がひっくりかえったかと思ったよ。あ、ここは魔界とは位相が違うみたいだからここの住人はひっぱられてないよ」
獏「そうね、現世とは井戸で繋がってるようなとこだし」
白澤「あはは、そうだね。でも話ができて良かったよ。福タローくんが死んじゃったらこっちに遊びに来なよ。獏王と白澤で薬屋ってのも楽しいかもね」
獏「そうね、機会があったらやってみましょうか。そうだ、いいこと思いついたわ。福太郎ちょっと」
福太郎「ん? なんや」
獏「お絵かきしてるとこごめんなさい、こちらの白澤を白澤図に載せるってどうかしら」
福太郎「ほー、白澤を白澤図に。この兄ちゃんでええんかな、さっき鬼灯さん白豚って呼んでたけど」
獏「話してみると頭のいい妖怪よ、せっかくだしどうかと思ってね。困ったとき助けてくれるわよ、お腹痛いときとか」
福太郎「そ、それは助かるやんな! せやねー、じゃあこれ描くの時間かかりそうだから、いまやってまお」
白澤「僕白澤図に載るの! かっこよく描いてよね」
鬼灯「おや! それは十王の選定機ですね。実物は初めて見ました」
唐瓜「十王? 十王庁と関係あるんですか?」
福太郎「俺にもよーわからんけど、義鷹っちゅー鵺にもらったようなもんやな。これは模造品で本物はそいつのものなんや。これで相手を理解し、描くことで白澤図になる。それで、これで描いたものを作り出して助けてもらうことができる」
鬼灯「白ぶ……」
白澤「僕もできるよ! すごいねぇ! 現世にも使える人がいるんだ。やって見せてあげるよ」
猫好好「ニャ゛ーン」
福太郎「……………………………あ、味があってええですね!」
白澤「そうだろー!? そこの朴念仁にはこの良さがわかんないんだよ。かわいそうにねぇ~ぷくく、見たか!現世の人間にもの良さがわかるんだぜ? お前の目はぶべべ」がしゃーん
鬼灯「失礼しました、気にしないでください。あれがあの世の平均ではありませんので。さ、あの白い偶蹄目があれの正体です。理解するなら見た方が良いでしょう」
福太郎「その金棒重ないですか。ありがとうございま……す? ま、まあ地獄も色々あるやんな、飛んでってもうたけど白澤さん描くか」
かりかりがりがり
福太郎「できた。しっかしふわふわしてそうな毛並みや……こまにゃんには負けるけどな。さ、茄子待たせてごめんな、続きしよう」
ーーー
白澤「いてて、これだから常闇の朴念仁は! もう夕方じゃんか。そういえば描けたのかなぁ」
鬼灯「うん、すばらしい。上出来です。まさか現世にこんなすばらしい金魚草を描く方がいたなんて。福太郎さん、死後は閻魔殿で外観維持のために働きましょう」
福太郎「(なんや褒められとるんか?) 地獄はともかく、気に入って頂けてなによりですわ。俺が現世に早く帰れるように水彩にしようって茄子と唐瓜のアドバイスがあってこそできたんですわ。ほんま助かりましたわ、まさか鬼と絵が描けるなんて。貴重な体験させてもらいました」
茄子「死んだら地獄に来なよ! 俺また福太郎となんか作りたいよ-」
唐瓜「その言い方どーかと思うぜ……。でも、この絵ってそうしたら生者と鬼の合作になるんだよな。名義はどうするんですか?」
鬼灯「それはそれでいいのですが、執務室に個人的に飾るものですから特に公表はしないつもりです。閻魔大王の補佐官が地獄に迷い込んだ生者に絵を描かせたというのを公にするのもどうかと思いますし、ここは適当にごまかしますよ」
白澤「へー、なかなかやるじゃん」
猫好好「に゛ゃーん」
福太郎「………あ、ありがとな」
鬼灯「そうしたら、そろそろ現世へお帰りになりますかね。準備をしますから、すみませんが唐瓜さんと茄子さんと豚でついたてを片付けてしまってください。福太郎さんはこちらへ……おや、騒がしいですね」
ぱたぱた
お香「鬼灯様! こちらへいらしたのね」
鬼灯「お香さん、どうしました。ここはいま立ち入り禁止ですよ」
福太郎(めっちゃ美人! でも虎革ブラじゃないんか……いや、ラムちゃんは宇宙人やんな)
お香「緊急事態でしてよ、大王が私なら怒られないっておっしゃったから来たの。いま閻魔殿の真上に鵺が来ていて飛び回っているのよ。なにか探しているみたいで。現世で有名な鵺らしいんだけど私は知らなくて。確か猿田彦尊と縁があるとか、事情が分かるらしい方々が混乱していて向こうは大騒ぎよ」
鬼灯「鵺? 鵺というと」
福太郎「あっ! それって猫みたいな顔した、羽のいっぱいある?」
お香「(どちらさまかしら)え、ええ。そうよ。あなたなにかご存じなの?」
鬼灯「お迎えですかね。手間が省けてよかった。極楽蜻蛉さん、乗せて連れて行って差し上げてください」
白澤「あ、あいつ今見えたけど須美津冠者義鷹じゃん! あいつすげー凶暴で有名だよ! なんであんなのと福タローくんが知り合いなの……」
福太郎「あれでもええとこあるんですよ。鬼灯さん、茄子に唐瓜もちょっとの間でしたけどお世話になりました。死んだらまた会うってのもあれですけど、そのときはよろしくです。どうも早よいかなまずそうなので、これで。ほんまありがとうございました」
鬼灯「貴方を呵責せずに済むことを祈っておりますよ」
茄子「うん、またなー」
唐瓜「お元気で!」
鬼灯「お達者で」
福太郎「はい! そちらこそお元気で」
ーーー
白澤「あいつのとこいくの怖いよ~、でも、まあ仕方ないか。ほら乗りな」
どろん
福太郎「怒ってる感じはせんよ。向こうで怒られたみたいや。多分俺、井戸から落っことされたみたいだしな。ほなお願いします(やっぱふかふか! ……帰ってこまにゃん撫でたいわー)」
白澤「ん、そうだ。背中の獏もさ、君が天寿を全うしたらいっしょに遊びに来なよ。今度は辛気くさい地獄じゃなくて。地獄なんて衆合地獄のぱつんぱつんのお姉ちゃんくらいしか見所ないよ」
福太郎「はは、せやねえ。そうしたらまたお世話になりますわ」
白澤「気長に待ってるよ。あ、こっち来た」
義鷹「お、あんた白澤か。こっちの白澤は飛べるんだな。その背中のやつ帰してくれねぇ? いやー参ったぜ福太郎、悪かったな! まさか落っこちるとは思わなくてよ!」
福太郎「いやほんまびっくりしたわ。刑場に落ちてたらおだぶつや言われたんやで。でも楽しかったからええけどな、次は寿命終わったら行くわ」
白澤義鷹の脇に行き福太郎よじよじ
白澤(でかいでかいでかい怖い!)
義鷹「ん、落ちるなよ。わりいな白澤さんよ。そう怯えるなってこいつ取りにきただけだから。いやさー井戸の前でオセロしてたら四隅取られてかっとなって突っついたら落ちてやんの、びっくりしたわ」
福太郎「おま、覚えてへんけどあれで怒ったんかい……まぁええわ、楽しかったけどちょっと疲れたな」
義鷹「そりゃ生身で地獄落ちしたらな。何が楽しかったか向こうで玉兎や仙に話してやれよ、あいつら泣いたりわめいたり大変だったから、あ、寝ちまったか」
白澤「あー、なんかこっちの子と絵を描いてたし、疲れが出たんだろうね。じゃあ、あとはよろしくね」
義鷹「おう、世話んなったな」
ーーー
鬼灯「彼も随分落ち着いたようで良かった。すばらしいものもできましたし、今日は良い日ですね。仕事に戻ってもがんばれそうです」
お香「? さっきの福太郎さん? ご存じでしたの」
鬼灯「過去に何度か臨死体験をしてこちらに来ています、忘れていたのでいいんですが、その頃よりも生者らしい様子だったので安心しましたよ。経緯が経緯だったので気になって引き留めて様子を見たのですが、あれなら再会までは当分かかりそうですね」
お香「それって……そうね、亡者にも色々ありますものね」
鬼灯「いや、まだ死んでませんよ。そうだ、これを飾るのを手伝って貰えませんか?」
お香「ええ、かまいませんわ。お手伝いします。綺麗な赤色ですわね」
鬼灯「彼に金魚草の良さが分かってもらえたようで良かったです、では脚立を取ってきますから、お香さんは………」
ーーーー
現世 不思議町卍巴市 足洗邸
お仙「福ちゃーん! おかえりー!」
義鷹「寝てんだから寝かしてやれよ。あ、起きた」
福太郎「むにゃむにゃ、やー、なんやええのか悪いのかわからん体験したわ。お仙ごめんな、心配かけたな」
玉兎「お仙だけ? あんた本当に地獄落ちてたのね、無事で良かったわね-。なんか変なにおいしてるけど向こうでなんか食べた? 口直しに好きなもの作ってあげようか」
こま「おかえりにゃー、義鷹がオセロなんかであんなことしたばっかりに……」
義鷹「ちゃんと拾いに行ったんだからいいだろ!」
メフィスト「西洋の地獄に落ちなくて良かったですネェ。閻魔殿あたりですか? 金魚草のにおいがしますが」
福太郎「ん、んーせやね。あんま人に言うなっていうことだからかいつまんで話すケド。地獄の閻魔殿前でえらくておっかない兄ちゃんに助けてもろてしばらく世話になったんよ。ふつーに?もてなしてもらってちょっといろんな人と話して、勉強になって楽しかったわ。でも次はちゃんと寿命終わってから行くわ」
義鷹「行きたきゃまた落ちればいいんじゃねーの……うわやめろこま! ひっかくんじゃねぇ!」
福太郎「いやいや、塞いどけ言われたからそうするわ。あ、こまにゃん、井戸は俺が塞ぐから資材だけ用意してもろてええかな。うん、ちょっと考えがあってな、俺に任せて欲しいんや」
ーーー
福太郎「これでええやろ、こっちはこっちで楽しいから、また今度な。次はじじいになってぎょーさん土産話持って行くわ」
ーーー
鬼灯「福太郎さんはちゃんと井戸を塞いでくれましたかね、ちょっと見てみましょう。おや、これはこれは。白豚は余計ですが、背景は現世の金魚草ですかね。私とお香さんと、茄子さんに唐瓜さんですか。粋な計らいで……次は、裁判所で会いましょう」
おわり。
アップしてみたら短くてびっくりした。
見てる人いるかわかんないけど福太郎の言葉遣いとか目をつむっていただければ。
あとは適当に落としてください。
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