平和な時間がいつまでも続くと思った?
なんの変哲もない、ほのぼのとした
誰もが笑って過ごせる毎日が永遠だとでも思った?
バカじゃないの?
そんなことあり得るわけがないじゃない
でもね
正直言ってこんな終わり方するなんて思わなかったわよ。私はね
『あんたはどう? 春香』
『……………………………』
聞いても答えは返ってこない
というよりも
そもそもこの場に『春香』なんていないしね
考えているうちに、春香は手に持った大きな武器を振り上げる
――どうして、こうなっちゃったのかしらね
※このSSはアイドルマスターのSSです
※ホラーのつもりです
※過激な描写が含まれる可能性があるので、苦手な方はお帰りください
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side1 高槻 やよい
『おはよーございまーすっ!』
元気良く扉を開け放って事務所へと飛び込む
できるだけ早く来て事務所のお掃除をするのが毎日の日課の私ですが
誰よりも早く。ということはあまりありません
事務所の鍵が開いているのが殆どで
その場合は必ず小鳥さんが来ているからです
『……あれ?』
でも、小鳥さんの返事が返ってきません
鍵の締め忘れかもしれないけど
小鳥さんまたはプロデューサーがそんなミスをするはずがありません
泥棒かもしれない
そう思った途端、ドクンッドクンッと
心臓の音は跳ね上がるように大きくなりました
差し足忍び足……あと何か
とりあえず慎重に事務所の中を進む
大して広くないし、開け放った上に大声を出したので手遅れかもしれないけど
しないよりはまし……だよね?
『…………小鳥さーん』
給湯室を覗き込んで一声
――誰もいない
隣の部屋のドアをゆっくりと空けて
小鳥さんの名前を呼んでみても、やっぱり誰もいない
プロデューサーも、社長も、小鳥さんも
誰もいない
いよいよ怖くなって戻ることも考えたけど
背中を向けるのも怖くて、勇気を出して踏み出す
すると
デスクと給湯室の間にあるソファに人の頭が見えた
『……雪歩さん?』
茶色の髪ということで
この事務所の中で該当する名前を呼ぶ
でも、反応はない
もしかしたら寝てるだけなのかもしれないと
不審者や強盗
様々な怖い想像を振り払って一息つく
『座ったままこんな場所で寝てると風邪ひきますよー?』
起こさないくらいの小さな声で言いながら
横を通って正面に回り込み
怖がらせた仕返しというか、見てみたいなぁなんていう気分で顔を覗く
『……ん? やよい?』
『は、春香さん?』
予想外だった
座ってたのは雪歩さんではなく、春香さんで
寝ていたわけではなかったなんて
『よ、呼んだら返事してくださいっ』
『返事? あぁ……ごめんね。慣れてなくて』
春香さんはそう言いながら苦笑すると
ぐっと背中を伸ばして私を見る
なんだかいつもと違うような気がするけど
気のせいかな?
『あの、ところで春香さん』
『ん?』
『小鳥さんは買い出しですか?』
春香さんがいるのなら
留守番を任せて何か買い出しに行くというのもなくはないと思う
そう思って聞いたんだけど
『小鳥さん……? あー私以外はまだ来てないよ』
……じゃぁ、誰が鍵を開けたんだろう?
その疑問を感じ取ったのか
春香さんはカバンの中から事務所の鍵を取り出す
ついてるキーホルダーから小鳥さんのものだと直ぐに解った
『カバンの中にこれが入っててね。私が開けたんだよ』
『そうなんですか……』
春香さんも来るのが早い時は早い
というのも、
電車で結構時間がかかるみたいで
遅く来ると色々と混み合う時間になってしまうらしく
早く来るようにしているらしい
『小鳥さん、今日は遅いんでしょうか?』
『かもしれないね』
春香さんは苦笑してソファに深く座りこむ
ふと、机に置かれた携帯を見てみると
765プロのみんなのプロフィールページが表示されていた
『春香さん、どうしてプロフィール見てるんですか?』
『別に意味はないよ。ただの時間つぶし』
確かに早く来ても暇だよね
私は掃除をしたりするからあれだけど……
そうだ
『春香さんも一緒に掃除しませんか?』
『掃除? いつもやってるの?』
『そう、ですけど……してる途中に来た時は手伝ってくれてますよね?』
『あーごめん。今日はやよいに任せていいかな。疲れて頭が働いてないや』
そう言った春香さんは
顔の前で手を合わせて「ごめんね」と言うと
ソファの上で横になってしまった
……本当に疲れてるんだろうなぁ
終電ギリギリまで頑張ってるってプロデューサーも言ってたもんね
起こさないように気を付けよう
そう決めて静かに掃除を始めた
今日のところは終了
出来たら深夜にやるけど無理なら明日に続き
『は、はるる……ん?』
流石に亜美もその目に冗談を返せなかったのか
律子さんにイタズラがバレた時のような
少し怯えた声で春香さんの名前を呼ぶ
『……………………』
沈黙が怖い
見開かれた緑色の瞳が怖い
伊織ちゃん達でさえも
そのあまりの怖さに黙り込んでしまう
『あー邪魔だった? ごめんね』
ふとあたりを見渡した春香さんは
いつの間にか全員集合していると気づいて
ごめんごめん。と、苦笑しながら頭をかく
そこに今さっきの怖い春香さんの面影は全くありませんでした
春香さんが伊織ちゃんと仕事に向かったあと
残った私達で話し合うことになりました
議題? はさっきの春香さんについて
亜美と真美だけでなく
貴音さん達も違和感を感じたかららしいです
『では、この場はわたくしが取り仕切るということで』
『議長とか誰でもイイって。問題は春香が春香らしくなかったことだぞ』
『それとなく萩原さんに似ていたわね』
えぇっ!? と
雪歩さんは驚きながら「そんなことないよぉ」と手をパタパタと振る
雰囲気は全然違ってたけど
『髪型はそっくりでした』
『か、髪の色同じだからかな?』
『ボクの勘違いかもしれないけど、何か足りなかった気がするんだよね。さっきの春香』
『そ、それって私が春香ちゃんの下位互換ってことだよね……?』
『え、いやそうじゃ……』
『解ってるの……自分のことだから……いいよ。怒ったりしないから』
雪歩さんは違うってばって何度も否定する真さんに対して
ありがとう。となぜかお礼をいう
……もうお話に参加してないような気がする
『確かに真の言うとおりかもしれないわ』
『そうですね……普段とは確かに違っていました。元気があまりないというのもそうですが……』
『んーはるるんにとって大事なものがなかったような気がする』
『大事なもの……』
みんなそれぞれ呟いて
あれでもないこれでもないと言い合って
少しして「あっ、解ったの!」 と、美希さんが手を上げる
『リボンが無かったの! 春香の代名詞がない。あれはつまり偽物な――』
ポンッと美希さんの頭にファイルが置かれ
視線を上に上げると律子さんがため息をつく
『それだけで偽物だなんて言っちゃダメでしょ。髪の色変えたら美希じゃないって言われてるようなものよ?』
『メガネのない律っちゃんは』
『律っちゃんじゃないねっ!』
『怒るわよ!?』
普通だった
亜美真美のいたずらとか、からかった言葉に律子さんが怒って
2人はまた逃げろーって言ってはしゃいで
仕事は多くもなく少なくもない
まだ発展途上の765プロ
『……春香』
『貴音さん?』
響さん達みんなが笑う中で
貴音さんだけは、春香さんのことについて気になっているようでした
『普段の春香なら、疲れていても付き合ったと思うのですが……』
『ね、寝起きだったからじゃないですか?』
『ふむ……そういう理由ならば別に良いのですが。少々、気になります』
貴音さんの気にしすぎだって思いました
貴音さんは回転寿司ですら前は知らなかったらしいし
だから、ただちょっとした事に興味を持っただけだって。思いました
実際、伊織ちゃんとの仕事を終えて一旦戻ってきた春香さんは
白いリボンを頭にしっかりと付けて、今までと変わらない笑顔を見せてくれました
『んーっ! 気分爽快』
『もう夕方なのに元気ですねっ』
『だからこそだよ』
全部の仕事を終えた春香さんと私だけが残る事務所
もちろん、小鳥さんもいるけど
現在パソコンでお仕事しているみたいです
『そういえば、春香さん』
『なに?』
『あずささんが出た廃墟に行くホラー特番って録画してますか?』
なんの気もない
ただの話題のつもりだった
長介達が見たいって言ってたけど、見せてあげられなかったから
貸して欲しいかなーって
でも
『私、そういうの 大 嫌 い なんだよね』
そう言って見せた微笑みは
どう見ても、笑ってなんかいなかった
またあとで
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