「東中学出身の神。この中に信者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」 (109)

入学式後のクラスでの自己紹介の場であった。

俺の後ろに座っていた偉い美人が突拍子もない自己紹介をした。

彼女は、

「東中学出身の神。この中に信者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」

それだけ言うクラス中を品定めするように見渡すと席に座った。

美人だからお近づきになりたい様な、
触らぬ神に祟りなしとしておくべきか判断に困ったものだ。

結論から言えば後者だったのだ。

後に身をもって知る俺が言うんだから間違いがない。

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判断に迷っているうちに数日が経った。

そんなある日、後ろから声をかけられた。

「ねぇ」

声の主は出席簿上の名前は涼宮ハルヒになっている、自称神だ。

「なんだ?」

俺は当たり障りなく応じる。

「自己紹介のアレは聞いていたんでしょ?」

「アレってなんだ?」

「あたしが神って話よ」

「ああ、信者はお前の所に来いって奴だな」

「あんた、あたしの信者なの?」

大真面目な顔で聞いてきた。

「…違うけどさ」

「違うけど、今から信者になる?」

「…いや、遠慮しておく」

「遠慮しなくてもいいのよ。今なら入会金キャンペーン中よ?」

どう勧誘を避けようか思案していた俺は担任の岡部が入ってきたおかげで救われた。

クラスの何人かがこっちのほうを興味深げに眺めていやがった。
目が合うと実に意味深な半笑いで「やっぱりな」とでも言いたげな、
そして同情するかのごときうなずきを俺によこす。

とまあ、さすがに俺も涼宮ハルヒには関わらないほうがいいのではないかと思い始めてその思いが覆らないまま一週間が経過した。

涼宮ハルヒは何やかんやとクラス中を勧誘して回った。

「ねえ、あたしの信者にならない?今なら初年度の年会費九割引きよ」

「ならない」

「えー? なんでー?」

「知らない」

「いっぺん入ってみなよ、あーでも途中からじゃ解んないか。
 そうそう、だったら教えてあげようか、あたしの教義」

「うるさい」

こんな感じ。

俺は毎日、朝のHR前に勧誘されてるんだ。ちょっとは同情してくれるよな?

昼休みになると俺は中学が同じで比較的仲のよかった国木田と、
たまたま席が近かった東中出身の谷口という奴と机を同じくすることにしていた。

涼宮ハルヒの話題が出たのはその時である。

「お前、毎日、涼宮に話かけられてるな」

何気にそんな事を言い出す谷口。

「わけの解らんものに勧誘されてるだろう」

その通りだ。

谷口はゆで卵の輪切りを口に放り込み、もぐもぐしながら、

「もし迷っているなら、悪いことは言わん、やめとけ」

中学で涼宮と三年間同じクラスだったからよく知ってるんだがな、と前置きし、

「あいつは常軌を逸している。聞いたろ、あの自己紹介」

「あの神がどうとか言うやつ?」

焼き魚の切り身から小骨を細心の注意で取り除いていた国木田が口を挟んだ。

「そ。中学時代には校庭に意味不明の落書きをして新聞に載ってたな」

谷口は弁当の中身を次々と片付けつつ、

「他にも朝教室に行ったら机が全部廊下に出されていたこともあったな。
 校舎の屋上に星マークをペンキで描いたり、学校中に変なお札がベタベタ貼りまくられていたこともあった。
 流石にやべーよ」

谷口の話は続く。

「でもなぁ、あいつ美人だよな」

「それが何か関係あんの?」

問う国木田は谷口の半分も箸が進んでいない。

「下心があったり、純粋にファンクラブ感覚で信者になった奴らもそれなりには居たんだが、
 入会金一万、年会費一万五千、小遣いの十分の一、ここまで強制徴収で、
 わら半紙に神のお言葉とやらが一言だけ書いてある広報誌を千円で購読、
 不定期に開かれる柿の種が一袋だけでるパーティーの券を複数枚購入、
 信者勧誘ノルマ不達成の場合は一人につき千円の罰金、お年玉の九割没収、
 唐突な労働力提供、自称幸運グッズの販売ノルマ等は半分強制で、信者は尻の毛まで毟られた訳だ」

こいつも信者だったクチかもな。そんな俺の視線に気付いたか、谷口は慌てたふうに、

「聞いた話だって、マジで。三年になった頃にはみんな解ってるもんだから信者になろうなんて考える奴はいなかったけどな。
 でも高校だと金額を上げて同じことを繰り返す気がするぜ。だからな、お前が変な気を起こす前に言っておいてやる。
 やめとけ。こいつは同じクラスになったよしみで言う俺からの忠告だ」

やめとくも何も、そんな気ないんだがな。

ハルヒから勧誘を聞き流す日課をこなしていたら、ゴールデンウィークに入った。

キョンという珍妙なあだ名で俺を呼ぶ妹と田舎で過ごしていたら連休が明けていた。

連休でハルヒの勧誘に対する抵抗力が落ちていたのだろう。

その日は、ついハルヒに反応してしまった。

朝のHR前、何時もの様にハルヒが話しかけてきた。

「ねぇ?あたしの髪型を見て何か思うところはないの?」

関わらない方が良さそうだったので無視していたが、実はハルヒの髪型は曜日ごとに変わる。

「月曜日が結び目無しで、日を追うごとに結び目が増えることか?」

「そうよ!見てるじゃない!」

「なんでそんな事をしてるんだ?」

「そんなの不思議度アップの広報活動に決まってるじゃない」

「前から言おうと思っていたんだが、おまえがやってるのは神の仕事じゃない」

「なんでよ!」

「いいか?考えてもみろ。自分自身で直接、教団を作ったり、教団を運営する神様は居ないだろ?」

「そうなの?」

「まぁ、例外はあるかも知れんが、イスラム教は預言者だし。キリスト教だってキリスト自体は教会を運営してないだろ?」

「仏教は?」

「そもそも神様が信仰の中心じゃない」

ハルヒは「む~ん」と唸っている。

ここで担任の岡部がきた。ようやくハルヒから解放された。

その日の四時間目、英語の時間の時にハルヒが突然立ち上がり叫んだ。

「気がついた!」

興奮のあまりに立ち上がり、

「ないんだったら作らせればいいのよ!」

英語教師は溜息をつきながら、一応聞く。

「何をです?」

「教団よ!」

「授業中です」

女教師はそれだけ言うと板書に戻った。

その後の休み時間、俺はハルヒに登り屋上へ出るドアの前まで連れ出された。

「協力しなさい」

ハルヒは言った。

「何を協力するって?」

実は解っていたが、そう訊いてみた。

「あたしを信仰する教団作りよ」

「なぜ俺がお前の教団作りに協力しなければならんのか、それをまず教えてくれ」

「自分で信者の管理をしたり、お金を徴収したりして変だと思ってたのよね」

聞いちゃいねぇ。

「手続きその他諸々雑用は任せたわ!暫定的に事務局長に任命してあげる」

「待て!勝手に話を進めるな!」

「教団の幹部の人事とか教団本部、重要イベント等はあたしが決めるわ!あと、横領しちゃダメよ!」

ハルヒは一方的にまくし立てると、身を翻して軽妙な足取りでさっさかと階段を降りて行った。

その日の終業のチャイムが鳴るやハルヒは俺の腕を掴み教室の外へ引きずり出した。

「どこ行くんだよ」

 俺の当然の疑問に、

「教団本部っ」

ハルヒは短く答え、

文芸部。

と書かれたドアの前で立ち止まった。

ここ」

ノックもせずにハルヒはドアを引き、遠慮も何もなく入っていった。無論俺も。

この部屋では、一人の少女がパイプ椅子に腰掛けて分厚いハードカバーを読んでいた。

「これからこの部室が我々の教団本部よ!」

両手を広げてハルヒが重々しく宣言した。

「ちょっと待て。どこなんだよ、ここは」

「文化系部の部室棟よ。通称旧館。この部室は文芸部」

「じゃあ、文芸部なんだろ」

「でも新たに誰かが入部しないと休部が決定していた唯一のクラブなのよ。
 で、このコが一年生の新入部員」

「てことは休部になってないじゃないか」

「似たようなもんよ。一人しかいないんだから」

呆れた野郎だ。こいつはで部室を寄進してもらったわけですらないらしい。
俺は読書にふける文芸部一年生らしきその女の子に視線を振った。

眼鏡をかけた髪の短い少女である。

顔を上げようともしない。
動くのはページを繰る指先だけで俺たちの存在を完璧に無視してのけている。
これはこれで変な女だった。

俺は声をひそめてハルヒに囁いた。

「あの娘はどうするんだよ」

「別にいいのよ」

「何でだよ?」

「あの子はあたしを監視してるんだし、近い方がいいでしょ?」

一瞬文芸部の少女がビクッっとした様な気がした。

「なんだ?お前は被害妄想の気もあったのか?」

まぁ、キの字に目を付けられたと思ったら、それくらいの反応はするわな。

「なんでそうなるのよ!」

ハルヒはカチンときたのかまくし立てる。

「いい?この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。
 それが、あの子、長門有希って言うんだけど」

ここで一息置いて、

「有希の仕事はあたしを観察して、入手した情報を統合思念体に報告することなの!」

さらに続ける。

「産み出されてから三年間、有希はずっとそうやって過ごしてきたの!」

「情報統合思念体ってなんだ?」

「最初から情報として生まれ、情報を寄り合わせて意識を生み出し、
 情報を取り込むことによって進化してきた、実体を持たず、
 ただ情報としてだけ存在する何か………有体に言えば宇宙人ね!」

「なんで宇宙人がお前に興味を持つんだよ」

「情報統合思念体は自律進化の閉塞状態に陥っていたの。
 で、三年前、あたしが神に目覚めた時に大きな情報爆発が観測されて、当然その中心に居たのがあたし」

「………」

「情報統合思念体の一部は、あたしこそ人類の、
 ひいては自分たちに自律進化を与える存在としてあたしの解析をしてるんじゃないかしら?」

「彼女はどうみても人間だが?」

「だから、さっき言ったじゃない!対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースって!
 情報統合思念体はあの子を通して人間とコンタクトするんでしょ」

「……」

「あたしは自律進化の可能性を秘めている。あたしは自分の都合の良いように世界を操作する力がある。
 それが、あの子がここにいる理由だと思うの。おまけであんたがここにいる理由なんじゃない?」

俺は二の句がつげない。………その時ドサッっと何かが落ちた音がした。

音のした方を見ると文芸部の少女が本を落としたまま、呆然とハルヒの方を見ていた。

誰だって、いきなり「あなたは宇宙人でストーカーです」って言われたらああなるよな。

俺はハルヒの方を向きなおし、

「正直に言おう。お前が何を言っているのか、俺にはさっぱり解らない」

「なに?あんた疑ってるの?信心が足りないんじゃないかしら?」

そもそも俺はハルヒの信者になった憶えはない。

「情報統合思念体が地球に置いているインターフェイスはあの子だけじゃないから。
 統合思念体が積極的な動きをして情報の変動を観測しようとしてもおかしくないかもね。
 あたしは朝倉辺りが怪しいと思うな。
 精々、刺されない様に気を付けなさい!」

こいつと親しくしてると朝倉に刺されると言いたいのか?
俺としてはむしろ朝倉に刺したいがな。何をだって?皆まで言わせんなよ、恥ずかしい。

兎に角、付き合いきれん。

俺はそろそろおいとまさせていただくことにした。

部室----ハルヒに言わせると教団の本部----から、

「これから放課後、この部室に集合ね。絶対来なさいよ。来なかったら死刑だから」

そんな声を背に受けて立ち去った。

ハルヒが文芸部の部室を乗っ取ってから、部室には様々な物が増えた。

一際目を引くのが、あの新型のパソコンだ。

思い切ってハルヒに聞いてみた。

「おい。パソコンがあるがどうしたんだ?」

「ああ、それ二件隣の部から贈り物。キョンも見習ったら?」

「ハルヒに贈り物とは随分と酔狂な奴も居るものだな」

「失礼ね!あそこの部長、あたしが中学生の時に信者だったの。
 年会費とか退会費その他諸々延滞してたから、それとここへのネット接続、
 それとホームページ作成で物納させたの」

「全然贈り物じゃないじゃないか!それにホームページ?」

「善意でくれたんだから贈り物でしょ?
 ホームページはある種の情報体を捕える為の罠よ」

善意と強制の境目がないようだ。こいつはそのうち捕まるんじゃないのか?

それに情報体だと?付き合いきれん。

またある日、今度は朝比奈さんにバニーガールの恰好をさせてビラを配って勧誘活動をしていた。

色気で誘うとは怪しい新興宗教そのものだった。

ハルヒが神かどうかは置いておいて、その理不尽さに限って言えば神に通じるものがある。

それにしても唯々諾々と応じる朝比奈さんは押しに弱いのだろうか?

一度、土下座をして先っちょだけとでも押し切ってみようか悩むところだ。

そんな感じの日々であったが、ハルヒがまた新たな人物を連れてきた。

放課後の部室、一人遅れてきたハルヒは後ろ手に人物を捕えていた。

「新しくここで働くことになった、その名も、」

言葉を句切り、顔で後は自分で言えとうながす。

「古泉一樹です。……よろしく」

さわやかなスポーツ少年のような雰囲気を持つ細身の男だった。

「入るのは別にいいんですが」

転校生の古泉一樹は落ち着いた笑みを絶やさずに言った。

「何をする集まりなんですか?」

「教えるわ。SOS団の活動内容、それは、」

ハルヒは一呼吸おいて、

「あたしの信者を集めて崇めさせることよ!」

と宣言した。

古泉は「はあ、なるほど」と何かを悟ったような口ぶりで呟いて、訳知り顔でうなずいた。

>>46 転校生は誤記です。


「古泉くん達が普段やってる活動と同じだから呑み込みが速いわね」

ハルヒの発言を聞いて古泉の笑顔が凍り付いた。
そりゃ、勝手に普段から崇めてることにされてはかなわない。

「『古泉くん達の普段やってる活動』とやらってのは、なんだ?」

古泉の代わりに聞いてやった。

「古泉くんの所属する組織はあたしを神に擬制してるの。あたしには願望を実現する能力があるんだって」

「流石は神だな」

皮肉を言ってやった。

「そうよ!ようやく解った?古泉くんはあたしがストレスを感じると発生する空間の拡大を超能力で阻止してるの」

皮肉が通用しなかった。

「その空間が広がり続けると世界が変わるかも知れないから、
 あんたも精々あたしにストレスを与えない様に気を付けることね」

「古泉くん達が普段やってる活動と同じだから呑み込みが速いわね」

ハルヒの発言を聞いて古泉の笑顔が凍り付いた。
そりゃ、勝手に普段から崇めてることにされてはかなわない。

「『古泉くん達の普段やってる活動』とやらってのは、なんだ?」

古泉の代わりに聞いてやった。

「古泉くんの所属する組織はあたしを神に擬制してるの。あたしには願望を実現する能力があるんだって」

「流石は神だな」

皮肉を言ってやった。

「そうよ!ようやく解った?古泉くんはあたしがストレスを感じると発生する空間の拡大を超能力で阻止してるの」

皮肉が通用しなかった。

「その空間が広がり続けると世界が変わるかも知れないから、
 あんたも精々あたしにストレスを与えない様に気を付けることね」

全世界が停止したかと思われた。

朝比奈さんは完全に硬化していた。目と口で三つの丸を作ってハルヒのハイビスカスのような笑顔を見つめたまま動かない。
動かないのは長門有希も同様で、首をハルヒへと向けた状態で電池切れを起こしたみたいに止まっている。
古泉に至っては先ほど凍り付いた笑顔そのままだった。

そんな場の空気を気にすることなくハルヒは続ける。

「次の土曜日! つまり明日! 朝九時に北口駅前に集合ね! 遅れないように。
 来なかった者は!六甲山の雑木林の木に括り付けて、メープルシロップをかけて一日放置するから!
 もちろんライトを当てた状況でね」

「おい!休日に何をするんだよ!」

無意味に休みを潰されてはかなわない。あと、初夏でもそれなりに虫はいる。冗談でも放置は止めて欲しい。

「布教よ!布教!」

それだけ言うとハルヒは部室から出て行った。

部室の時間は未だに停止しており、誰も言葉を発しない。

仕方がないので俺も帰ることにした。

翌日土曜日、九時前に駅前に俺は行った。

なんで態々行ったかって?

そりゃ、ハルヒは頭はアレでも美少女だし、朝比奈さんは巨乳で美少女だし、
長門はあれで神秘的な美少女で、おまけに古泉は美少年なんだぜ?

最後のは余計だったが、要するに特別金銭を要求されている訳でもなく、
ハルヒの相手をする手間と、下心を天秤にかけた結果としか言いようがない。

………別にハルヒの具体的な脅しに屈したわけじゃないぞ?……そう思いたい。

合流した俺にハルヒが開口一番、

「遅い」

「九時には間に合ってるだろ」

「たとえ遅れなくとも一番最後に来た奴は遅いの。それがわたしのルール」

「なんだそれ?」

「まぁ、いいわ。とりあえず、喫茶店に行くわよ」

一同はハルヒの言葉に従って喫茶店へと向かった。

喫茶店でのハルヒの提案はこうだった。

これから二手に分かれて市内で布教活動をする。以上。

どう布教するか具体的な話がないから困ったものだ。

「じゃあクジ引きね」

ハルヒは卓上の容器から爪楊枝を五本取り出し、店から借りたボールペンでそのうちの二本に印をつけて握り込んだ。

頭が飛び出た爪楊枝を俺たちに引かせる。長門は印入り。同じく古泉も印入り。後の三人が無印。


「ふむ、この組み合わせね……」

ハルヒは満足げに、

「ではそろそろ出発しましょ」

勘定書を俺に握らせ、店を出て行こうとした。

「おい!なんでだよ!」

俺の抗議に対して、

「あんたにお金任せてるでしょ!それ教団のお金から出しておいて」

と言って出て行った。

そうだったか?俺は嫌な予感を感じながらもとりあえず立て替えておいた。

店を出るとハルヒが、

「じゃあ、駅を中心にしてあたし達が西、古泉くん達は東をよろしくね」

と差配した。あちらの組だったらサボれたのにと思いながら渋々ハルヒに付いて行った。

ハルヒは近くを流れている川の河川敷を誰に声をかけることもなく北上しながら歩いていた。

そのうちにハルヒは突然何かを思い出したかのように、

「そうそう!キョンに言っておかないといけないことがあったわ!」

と振り返りながら言ってきた。

教団の金の事だろうか?

「ここじゃなんだから、どこかベンチにでも座りながら話してあげる」

と言って歩くペースを上げた。

桜の下のベンチの前で俺と朝比奈さんは並んで立っている。

立たされているという方が正確なのだが。

ハルヒはと言うと、俺たちの前にあるベンチに腰を掛けて左足を下げ、右足先を左大腿部にのせて足を組み、
折り曲げた右膝頭の上に右肘をつき、右手の指先を軽く右頬にふれている。

要するに半跏思惟像の様な格好だ。これでアルカイックスマイルでもしてくれていれば最高なのだが、
実際には横柄な笑みを浮かべながら、「どこから話してあげようかしら」等と一人ブツブツ言っている。

ハルヒは「うん、決めた」と言って、一息ついた。

「みくるちゃんはこの時代の人間ではありません。もっと、未来から来ました」

ハルヒの発言を聞いて朝比奈さんはビクッとした。

「いつ、どの時代からここに来たのかはどうでもいいわよね?」

ハルヒは語った。朝比奈さんはガタガタと震えている。ハルヒが怖いのだろう。俺もちょっと怖いです。

「みくるちゃんがこの時代に来た理由はね……」

朝比奈さんが生唾を飲んでいる。

「三年前。有希を紹介する時にも言った、あの時ね。
 あの時以上の過去に遡ることが出来なかったからその原因を調査する為にきたの」

朝比奈さんが「あわわ」と小さな声で呟いている。

「みくるちゃんがここに送られる少し前にその原因は解ったんだけど」

「それなら送られる必要がないじゃないか」

これ以上朝比奈さんを困惑させるわけにもいかず、突込みを入れる。

ハルヒは「チチチ」と言うと共に指を左右に揺らす。

「結論を焦ったらダメよ。その原因だけど、時間の歪みの中心にあたしが居たの。
 一人の人間が時間に干渉出来るなんて、みくるちゃん達には未だに理解出来ていないの。
 みくるちゃんはあたしの近くで新しい時間の異変が起きないかどうかを監視するために送られた……
 みくるちゃんは自分の行動が露見してたなんて全然自覚してなかった。
 そうよね?みくるちゃん」

話を振られた朝比奈さんは、卒倒した。

泡を吹きながら、「禁則事項ががが」と呟いている。

ハルヒは「これからがいい所だったのに」と口惜しそうに言った後で、

「これじゃあ今日の布教活動は無理そうね。とりあえず解散しましょ」

と言った。

「あんたはみくるちゃんの看護をしてあげて。あたしはもう帰るから」

その後、いいことみくるちゃんに悪戯したらダメよ!変な事をしたら、マジ雑木林に放置するから!
などと捨て台詞を吐いて帰って行った。

俺は朝比奈さんをベンチに寝かせ暫し見守った。

悪戯をしたい気持ちもあったが、雑木林にシロップをかけられた上での放置は勘弁だから我慢をした。

暫くしたら、朝比奈さんが目を覚まし、
俺の膝に頭を乗せていることに気が付いたのか赤面をして跳ね起きた。

頭をペコペコと下げながら、散々にお礼を言うと、

「禁則事項が禁則事項で禁則事項ですからとりあえず今日は帰ります」

と足早に立ち去った。

俺はその後ろ姿をハルヒの悪口でも言う為に喫茶店にでも誘えば良かったと思いながら見送った。

「さて、俺も帰るか」

気持ちを吹っ切るように独り言を言って俺も帰路に着いた。

翌週、月曜日の放課後の事。

一人遅れて部室にあらわれたハルヒは開口一番、

「今日は皆の疑問に答えてあげるわよ!」

ときたもんだ。ついに教団の金の存在を教えてくれるのだろうか?さもないと俺の財布が持たん。

「有希は宇宙人。古泉くんは秘密組織に所属する超能力者。そしてみくるちゃんは未来人」

朝比奈さんが「ひっ」と小さな声を出した。

「一人仲間外れがいることは皆解ってるわよね?」

一同の視線が俺に注がれる。
こいつらはハルヒが俺について、どんな妙な説明をすることか期待しているに違いない。

「知っての通り一般人な彼ですが、なんと三年前にあたしの作業を手伝ったのです!」

そんな事をした憶えはないぞ!完全に濡れ衣だ!

「まぁ、本人自身はまだかも知れないけど………ここで問題です!」

三年前の出来事なのに、俺はまだ体験してないらしい。良かった俺の記憶違いでは無いようだ。

「なんで過去に連れて行って手伝わせたのでしょうか?
 解答者は過去に連れて行ったみくるちゃんです!」

朝比奈さんは泣きそうな顔になって「禁則事項なんですぅ~」と小さな声で答えている。

ハルヒは意地悪な笑みを浮かべながら、「聞こえませぇ~ん」と言っている。

正直見ていられない。

「おい!いい加減にしろ!」

俺が止めると、露骨に不機嫌な顔をして睨みつけてきた。

「なによ!文句あるの!?」

「意味不明な事を言って朝比奈さんを困らせるな!」

「随分と庇うのね!」

「見ていられないだろ」

ハルヒは「フン」と鼻をならし、

「なんだか白けちゃった。あたし帰るわ。戸締りよろしくね」

と出て行った。

朝比奈さんが「あの………ありがとうございます」と俺に頭を下げていると古泉の携帯電話が鳴った。

古泉は、

「すみません。急なバイトが入ったので、お先に失礼します」

軽く会釈をして出て行った。

「なんだか、今日は解散な雰囲気になっちゃいましたね」

と朝比奈さんが恐縮している。全部ハルヒが悪いのだが。

俺としても今日は部室で精一杯時間を潰したかったので少々残念だ。

そう言うのも、今朝、下駄箱の中にノートの切れ端が入っていたのだ。

そこには、

『放課後誰もいなくなったら、一年五組の教室まで来て』

と、明らかな女の字で書いてあった。

そんな事を考えていたら、朝比奈さんも

「えっと、じゃあ私も帰ります。今日はありがとうございました」

とぺこりと可愛らしくお辞儀をして出て行った。

長門は我関せずと読書中だ。

ここに居て長門の邪魔をするのも悪い。

俺は「じゃあな」と軽く言って部室を後にした。

校内をぶらつき時間を潰した結果、五時半に教室の引き戸の前にやってくることとなった。

俺は深呼吸一つ、ことさら何でもなさそうに一年五組の引き戸を開けた。

教室の黒板の前にはやけにムッチリとしたふとももの持ち主が立っていた。

「遅いよ」

眉毛の太い委員長が笑いかける。通俗的には朝倉涼子と呼ばれている奴だ。

清潔そうなまっすぐの髪を揺らして、朝倉は教壇から降りた。

教室の中程に進んで歩みを止め、朝倉は笑顔をそのままに誘うように手を振った。

「入ったら?」

引き戸に手をかけた状態で止まっていた俺は、その動きに誘われるように朝倉に近寄る。

「お前か……」

「そ。意外でしょ」

くったくなく笑う朝倉。

「何の用だ?」

わざとぶっきらぼうに訊く。くつくつと笑い声を立てながら朝倉は、

「用があることは確かなんだけどね。ちょっと訊きたいことがあるの」

俺の真正面に朝倉の白い顔があった。

「人間はさあ、よく『やらなくて後悔するよりも、やって後悔するほうがいい』って言うよね。
 これ、どう思う?」

「よく言うかどうかは知らないが、言葉通りの意味だろうよ」

「じゃあさあ、たとえ話なんだけど、
 現状を維持するままではジリ貧になることは解ってるんだけど、
 どうすれば良い方向に向かうことが出来るのか解らないとき。あなたならどうする?」

「なんだそりゃ、日本の経済の話か?」

俺の質問返しを朝倉は変わらない笑顔で無視した。

「とりあえず何でもいいから変えてみようと思うんじゃない。
 どうせ今のままでは何も変わらないんだし」

「まあ、そういうこともあるかもしれん」

「でしょ?」

手を後ろで組んで、朝倉は身体をわずかに傾けた。

「でもね、上の方にいる人は頭が固くて、急な変化にはついていけないの。
 でも現場はそうもしてられない。手をつかねていたらどんどん良くないことになりそうだから。
 だったらもう現場の独断で強硬に変革を進めちゃってもいいわよね?」

何を言おうとしているんだ?

「何も変化しない観察対象に、わたしはもう飽き飽きしてるのね。だから……」

俺はあやうく朝倉の言うことを聞き漏らすところだった。

「あなたを引き抜いて涼宮ハルヒの出方を見る」

後ろ手に隠されていた朝倉の右手が一閃、俺の目の前にパンフレットを差し出した。

「情報統合思念教?なんだこれは?」

「最初から情報として生まれ、情報を寄り合わせて意識を生み出し、
 情報を取り込むことによって進化してきた超高度な知性を持つ情報生命体を信奉する団体よ」

自分を信仰しろと言うハルヒよりはマシなのか?目くそ鼻くそな気がするが。

「情報操作で色々と御利益があるかも知れないわよ?」

……いや、待て。この状況は何だ?なんで俺が朝倉に新興宗教のパンフレットを突きつけられねばならんのか。
待て待て、朝倉は何と言った。俺を引き抜く?ホワイ、なぜ?涼宮教徒扱いなのか?

「冗談はやめろ」

こういうときには常套句しか言えない。

「マジ危ないって! それが本物じゃなかったとしてもビビるって。だから、よせ!」

もうまったくワケが解らない。宗教ごっこが流行してるのか?
とりあえず危ない人に思われるだろうから注意をしておいた。

「冗談だと思う?」

朝倉はあくまで晴れやかに問いかける。それを見ていると本気かどうか解らない。
笑顔で宗教のパンフレットを向けてくる女子高生がいたら、それはとても怖い社会だと思う。

「ふーん」

朝倉はパンフレットを丸めて肩を叩いた。

コイツ本気じゃないな。熱心な信者が自分の信奉する宗教のパンフレットを丸めて肩を叩くはずがない。

「改宗っていや?わたしの太ももを触りたくない?わたしには有機生命体の宗教観がよく理解出来ないけど」

太ももは触りたいと思っていたら、朝倉が溜息一つして新たな紙を取り出した。

「ここにサインすれば、わたしの太ももに触れるくらいは出来るわよ?」

紙をよく見る。

「なぁ、一ついいか?」

俺は朝倉に質問をした。

「なに?」

「信仰の証として情報統合思念教ステッカー付きAppleⅡを二百五十万で買うことになっているのだが?」

「あら?見つかっちゃった?」

朝倉は悪戯が見つかった子供の様に小さく舌を出して笑った。

「とりあえず、こんな紙にサインはできん」

俺はきっぱりと断った。

「そう………仕方がないわね」

「ああ。二百五十万は払えんしな」

そう言って帰ろうとしたが体が動かない。

「最初からこうしておけばよかった」

俺の意思とは別に右手が動く。

ボールペンを握り始めた。

「あなたが改宗すれば、必ず涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。
 多分、大きな情報爆発が観測できるはず。またとない機会だわ」

こんな契約は無効だろ。そもそも俺は未成年だし。

「じゃあサインして」

ボールペンが紙に触れようかとした時、

「話しは聞かせて貰ったわ!!」

突然教室の引き戸が開けられた。

ハルヒだった。帰ったんじゃなかったのか?

「涼宮さん!?」

朝倉が心底驚いた様な声を上げた。

「まさか、手紙を出したのが朝倉だったとはね。みくるちゃんだと思ってイジメちゃったじゃない!」

こいつは俺の下駄箱をチェックしてるのか?

「あたしの信者を改宗させようなんて、あたしも舐められたものね」

朝倉がうぅ~とでも言いたげな顔をしている。

「有希!やっておしまい!!」

ハルヒがそう叫ぶとハルヒの後ろから長門がやってきた。

「長門さん!?」

朝倉は驚いてばっかりだ。

「あなたはわたしのバックアップのはず」

長門は読経のような平坦な声で、

「独断専行は許可されていない。わたしに従うべき」

「あなたも同門みたいなものじゃない?」

「それとこれは別」

二人が何か言い合っている。

「なぁ、お前は何しにここにきたんだ?」

そんな二人を無視してハルヒに話しかけた。

「べ、別に手紙が気になってずっとつけ回してた訳じゃないんだからね!」

ハルヒが口をへの字に曲げて、腕を組んだ上でそっぽを向いた。

「あたしはもう帰るから、あんたも有希たちの邪魔をしてないで帰りなさいよ!!」

追及を避ける様に足早に立ち去った。実際、下駄箱を覗くなと言うつもりだったのだが。

気が付けば体の自由を取り戻していた。

長門と朝倉に対して、聞き取れない様な早口で何かを言っている。

ここはハルヒの言う様に長門に任せて帰った方が良さそうだ。

俺も教室を後にした。

翌日、朝倉は登校してこなかった。

ハルヒは「カナダに転校したことにしたみたいよ」等とほざいていた。

まぁ、担任の岡部が、
「あー、朝倉くんだがー、お父さんの仕事の都合で、急なことだと先生も思う、転校することになった。
いや、先生も今朝聞いて驚いた。なんでも外国に行くらしく、昨日のうちに出立したそうだ」
と言っていて、驚いたがどこかで聞いたのだろう。

少々ハルヒの言い方が気になったが。

朝倉のあのご乱心は転校前の悪ふざけだったのだろうか?

その日の朝、またまた下駄箱に手紙が入っていた。

今度の手紙は一味違うぞ。二つに折ったノートの切れ端の名無しではない。
少女マンガのオマケみたいな封筒の裏にちゃんと名前が記入されている。

朝比奈みくる と。

封筒の中の便箋には、

『昼休み、部室で待ってます みくる』

と、書いてあった。

朝倉の転校もどこ吹く風、昼休みは部室に向かった。

土曜、昨日と朝比奈さんは俺にお礼を言いっぱなしだし、これは期待していいのか?

等と考えながら部室のドアを開けた。

長門はいなかった。それどころか朝比奈さんもいなかった。

校庭に面した窓にもたれるようにして、一人の女性が立っていた。
白いブラウスと黒のミニタイトスカーとをはいている髪の長いシルエット。足許は来客用のスリッパ。

その人は俺を見ると、顔中に喜色を浮かべて駆け寄り、俺の手を取って握りしめた。

「……久しぶり」

朝比奈さんじゃなかった。朝比奈さんにとてもよく似ている。
本人じゃないかと錯覚するほど似ている。実際、本人としか思えない。

でもそれは朝比奈さんではなかった。俺の朝比奈さんはこんなに背が高くない。
こんなに大人っぽい顔をしていない。ブラウスの生地を突き上げる胸が一日にして三割増になったりはしない。

「あの……」

俺が朝比奈さんとの関係を聞こうとしたら、その女性の方から話してきた。

「あっと!いけない!長門さんから長居しない方が良いって言われてたんだ!」

続けて、

「これからあなたが何か困った状態に置かれたとき、白雪姫を思い出して欲しいんです」

と突然言った。

「わたしの用事はそれだけ」

入り口に向かう朝比奈さんに似た人に、俺は声をかけた。

「ちょっと待ってください!」

ドアを開こうとしてピタリと止まる朝比奈さんに似た後姿。

「朝比奈さんのお姉さん……ですか?」

振り返り、「わたしはわたし」と彼女は言った。

そして俺の方に向かってきた。

「証拠を見せてあげる」

やにわにブラウスのボタンを外しだした。第二ボタンまでを外してしまうと、面食らう俺に向けて胸元を見せつけ、

「ほら、ここに星形のホクロがあるでしょう? 付けボクロじゃないよ。触ってみる?」

左胸のギリギリ上に確かにそんな形のホクロが艶かしく付いていた。白い肌に一つだけ浮かんだアクセント。

その時、怒声と共にドアが乱暴に開かれた。

「ちょっと!!あんたたち何をしてるのよ!!!」

ハルヒだった。

「ふぇっ!?」

と朝比奈さんに似た女性が声をあげる。

ハルヒは俺たちの顔を交互に睨みつけ、泣きそうな顔をしたかと思うと、

「もう知らない!!」

と言って、ドアを乱暴に閉めていった。

部室には声をかけるのが憚られるほどに憔悴した朝比奈さんに似た女性と混乱している俺が取り残された。

「なんでこんなことになったのかしら?困ったわ」

なんて小声で言っているものだからどうしたものかと思っていたら、再びドアが開けられた。

今度の主は長門だった。

長門は女性を一瞥し、

「長居しない方が良いと警告したはず」

そういうと何時ものパイプ椅子に腰かけ読書を始めた。

女性は女性で長門に反応することもなくフラフラと部室を出て行った。

俺はその後ろ姿をぼんやりと見送った。

見送った後に、さっきのが困った時で、キスをせがまれてたのだろうかと自意識過剰な事を考えた。

部室を出て行こうとした時に、長門が声をかけてきた。

「sleeping beauty」

「川端康成のか?」

長門は首を横に振る。

「童話」

「ああ、美女が勝手に目を覚ましたり、眠ってる間に王子に悪戯をされて出産する話だな」

長門はジーッと俺を見て、

「朝比奈みくるの異時間同位体の話も私の話もディズニー」

それだけ言うと読書を再開した。

「なぁ、知ってるか?ディズニーの眠れる森の美女の原作はペローなのにキスで目を覚ますんだぜ?」

長門は本から目を離さずに「そう」とだけ答えた。

つまらん。俺は部室を後にした。

昼休みが終わり教室に帰るとハルヒと廊下ですれ違った。

鞄を持っており、どうしたものか声をかけると、

「帰る!!」

と一言だけ返事をしてドカドカと足音でも出しそうな歩き方で玄関の方に歩いていった。

女の子の日なのか?と俺は別段深く考えることもなくその日は過ごした。

その日の夜。自宅のベッドで寝ていた俺はハルヒの声で起こされた。

「起きなさい!」声と共に、頭をローファーで小突かれた様な衝撃で目を覚ます。

目を開けると制服姿にローファーを履いたハルヒが立っていた。

白とスカートの中の感想を抱きつつ体を起こす。

学校の様だ。妙な夢だと思っているとハルヒが声をかけてきた。

「ここは閉鎖空間。あたしがストレスを感じると生まれる空間よ」

「例の古泉が拡大を阻止してるとか言う設定のアレか?」

「そうよ。今回のはちょっと特別だから古泉くん達も入れないけどね」

なんとも酷い夢だ。

「そろそろ光る巨人が出てきて暴れるはずよ」

「なんだそれは?」

「百聞は一見に如かずよ!ついてきなさい!」

ハルヒはそう言うと俺の手を引っ張り校庭の方に連れ出す。

「そろそろ出てくるはずだわ」

ハルヒがそう言うと地面から光る何かが出てきてみるみる盛り上がった。

その光はハルヒの言う通り、巨大な人型となり、校舎の破壊を開始した。

「なんだあれ!?どうなってるんだよ!」

「今あるものを壊してるのよ。壊し終わったら世界が生まれ変わると思うわ」

ハルヒは平然と言ってのける。

夢とはいえ、放置しておくとトンでも無いことになる。

なんとなくだが俺にはそんな気がした。

白雪姫とかsleeping beautyとかは今なんだろうと根拠もなく思っているとハルヒが声をかけてき。

「『俺、実はポニーテール萌えだったんだ』なんて言って不意打ちでキスをするのは無しだからね」

そういうハルヒの耳は後ろから見ても解るくらいに真っ赤だった。

そしていつの間に結ったのかポニーテールにしている。

ああ、そう言えばこいつ髪の毛長かったんだよな。なんて思ったね。

「あのな、ハルヒ」

「………」

「俺、実は………」

「………」

ハルヒは無言だ。

小刻みに震えてる気がするがハルヒに限ってそんなことはないだろう。

「俺、実は仏像萌えなんだ」

「なによ!そんなの聞いたことがないわよ!」

ハルヒが振り返る。

「いつだったかのお前の半跏思惟像のポーズはそりゃもう反則なまでに似合ってたぞ」

「はぁ?そんな恰好をした憶えはないわよ!!」

ハルヒの抗議の声を強引に唇を重ねて押さえこんだ。

次の瞬間俺は不意に無重力下に置かれ、反転し、左半身を嫌と言うほどの衝撃が襲って、目を覚ます。

ベッドから落ちた衝撃で目を覚ましたようだ。

目覚し時計を持ち上げて現時刻を確認、午前二時十三分。

……寝よう。

翌日、一年五組の教室へ向かい、開けっ放しの戸口から三歩歩いたところで立ち止まった。

ハルヒはすでに座っていた。席替えもなく初期の席のままのハルヒの後頭部がよく見える。

頭頂部が盛り上がっている。肉髻のつもりだろうが無理がある。髪の毛を集めてるだけじゃないか。

さらにそれ以外の場所の髪の毛が丸く縮れている。螺髪のつもりだろうが只のパンチパーマじゃないか。

俺は席に座りハルヒの方をみた。

ハルヒは左足を下げ、右足先を左大腿部にのせて足を組み、折り曲げた右膝頭の上に右肘をつき、
右手の指先を軽く右頬にふれて思索する恰好をしながら、無表情ながら口角だけは微笑むアルカイク・スマイルだ。

そしてどうやっているのか、眩しい。まるで後光が射しているかのようだ。

「なぁ、ハルヒ」

「なに?」

ハルヒはアルカイク・スマイルを崩さずに応じる。

「ばーか」

ハルヒはアルカイク・スマイルを崩さずに

「仏の顔も三度までよ」

と答えてきた。

やっぱりこいつは仏気分らしい。三度繰り返してみたい気もしたが、それは少々怖いので本題に入ろう。

「お前は有名な菩薩像のポーズをしている様だが、その髪型は大仏の髪型を意識してるんじゃないのか?」

「それがどうしたの?」

「菩薩はお前の様な髪型にはしない」

「えっ!?」

「そして菩薩はまだ仏になってないから、仏の顔も三度までと言うのは不穏当だ」

「う、うるさいわね!如来だからこれでいいのよ!」

「そうするとお前の恰好がおかしいことになる」

「なんでよ!」

「右手の指先を軽く右頬にふれさせてるのは、無理に哲学的な思惟をしてると解釈しているが、
 本来は苦悩・懊悩を表す格好だ。有名な所では釈迦の誘惑に失敗したマーラ像とか坊主に相談しに行っている旦那とかだな。
 要するにどちらにしても如来みたいな悟った仏のする格好じゃない訳だ」

ハルヒが滅茶苦茶悔しそうな顔をして睨んでいる。


「なによ!それじゃあ、まるであたしが馬鹿みたいじゃない!」

「ああ、馬鹿みたいだったぞ」

俺がそう答えるとハルヒは腕を組み口をへの字に曲げてそっぽを向いてしまった。

何時ものハルヒに戻った様でなによりだ。

今日の古泉はバイトが忙しいんだろうなと考えていたら、担任がやってきた。






チラ裏SS オチマイ

付き合って頂いた皆様においては、お疲れ様でした。

少々マニアックな話も入っていますが、グーグル先生に相談すれば解決する一発で解決できるはず?

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