姫「世界の全てが敵になろうとも、私を守ってくれますか」
騎士「いやいやいや、それはない」
姫「……え? いや、え? ええ? ここは『約束するよ』とか云うところではないのですか? えええ?」
騎士「考えても見れくれよ、世界の全てが敵になる状況とか早々に起こり得ない、というか、そうなったらもうその人は相当やばいことやった大犯罪者だ。そんな人に味方するって、妄信とか崇拝とか、そんな域超えてるでしょ」
姫「ちなみに……アナタが私に向けてる感情はどんなものでしょうか」
騎士「友達未満恋人未満かな」
姫「それほとんど赤の他人ですよね!?」
騎士「まあそんなわけで」
姫「ポーズでも云って下さいよ……」
騎士「いやいや、だから言ってるじゃん。ポーズだろうが、そんなこと云うのは頭がオカシイやつか詐欺野郎なんだって。僕は発言に責任を持つからね。むしろ、姫様が世界全ての敵になったぶん殴ってあげるよ」
姫「ぶんなぐる……」
騎士「大丈夫。母親に男女差別をしてはいけないと教育されてるから、グーで行くね。グーで」
姫「ひぃ」
騎士「心配ご無用とはこのことだね」
姫「心配しか私の心中にはありませんよ!」
騎士「うーん、姫様はわがままだな」
姫「な、なにがわがままなものですか! ではなぜアナタは私お抱えの騎士をやっているのですか!?」
騎士「そりゃ、モチロン給金が良いからね」
姫「」
姫「きゅ、給金ですか?」
騎士「モチロンだよー、仕事をするに当たって一番大切なのは給金――お金だよ、お金」
姫「い、いえ! お金より大切なモノだってあるはずです!」
騎士「いやあ、お金が一番だって母親に教育されてるからねえ」
姫「便利ですね! アナタのお母様は!」
姫「そもそも! アナタは今までそんな口調でも性格でもなかったでしょう! 私の知っているアタナは寡黙で誠実で……なんというか、頼り甲斐のある騎士です!」
騎士「え? だって姫様がこのレストランで食事をする前に、ここでは騎士としてではなく一個人としてのアナタを見たいって云ったじゃん」
姫「アナタの素がこんなちゃらんぽらんだとは思わなかったのですよ!」
騎士「ええー、照れるなあ」
姫「当然、褒めてませんからね!」
姫「そもそも、なんで私の個人的なお誘いに乗ったのですか! 私はてっきり……」
騎士「てっきり?」
姫「アナタが私に忠誠以上の好意を感じているのかと……」
騎士「結果はどうでした?」
姫「忠誠心すら感じられませんでしたよ!」
騎士「いやー、姫様は手厳しいなあ」
姫「……だから、なぜアナタは私の誘いに乗ったのですか」
騎士「え? いやだって、姫様が僕を誘ったときはまだ姫様の命令は、お願いだろうと利かなければならない立場だったし、なにより……」
姫「……なにより?」
騎士「こんな高級料理店がタダだよ? なにがあろうと断らないって」
姫「やはりお金ですか!!!」
騎士「そりゃあ、お金だよ」
姫「はあ……アナタを誘わなければ良かったです、本当」
騎士「僕は誘ってくれて嬉しかったよ、ありがとう姫様」
姫「だからそれは私じゃなくて、この料理への感謝でしょうが!!!」
姫「はあー……はあー……」
騎士「息切れ? 大丈夫?」
姫「心配は嬉しいですけど、全てアナタのせいですからね」
騎士「騎士として、心配するのは当然です」キリッ
姫「騎士ならば、料理を口いっぱいに放り込みながら心配はしません」ハァー
騎士「今は騎士じゃないからね。ありのままの僕だよ」
姫「……体を張って、命を掛けて、私を守ってくれたアナタはどこに行ったというのですか」
姫「私を襲う刺客の剣を打ち払い、周りを敵に囲まれようと挫けず、ある時は傷を負ってまで私を守り通したアンタは……」
姫「『お怪我はありませんか、姫様』『姫様がご無事であることこそ、我々の最高の喜びなのです』『姫様……無事で、良かった……』」
姫「こんな台詞を投げかけてくれたアナタは、どこに行ったと云うのですか!」
騎士「あ、それは『姫様を守った騎士のみが貰える給金』――いわゆるボーナスのためだね」
姫「」
姫「ボー……ナ、ス……?」
騎士「そうそうボーナス。ほら、刺客を撃退した後とか、大きな戦いの後に、一番活躍した騎士を国王様に訊かれなかった?」
姫「お父様にですか……はい、そういえば訊かれてましたね。それがなにか?」
騎士「うん。それで選ばれた騎士が毎回ボーナスを貰えるんだ」
姫「私……だいたいアナタを挙げてましたわ……」
騎士「ありだとう。儲けさせてもらったよ」
姫「ゲス顔やめてください!」
騎士「まあ、そんなわけで、僕が姫様を守っていた理由は給金によるものなわけだよ」
姫「そ、そんな……」
騎士「うん、そう、給金、だからさ、」
ボーイ「お次の料理を運びに参りました、こちらは――」
騎士「逆に云えば、私は給金さえ貰えれば姫様に忠誠を誓うというわけだ」ザシュッ
ボーイ「――ぁ、ぁあ……キ、キサマ」ドサッ
姫「ア、アナタ! なにを!」
騎士「――巧妙に偽装していたが、足の運びがボーイらしくない。戦場に生きるモノたちに染み付いている動きだった」
騎士「それ以外にも、明らかに剣を振るってきたモノの掌に加え、ボーイのソレとは云えない眼光」
騎士「元剣士で現役を引退しているにしては、筋肉の付き方に違和感が生まれる」
騎士「なにより、私の直感がこのモノがただのボーイではないと示唆していた」
騎士「加え、先ほどの殺気……」ゴソゴソ
騎士「やはり暗器を仕込んでいたか」カランッ
騎士「ま、おそらく貴族派のモノどもが雇った傭兵ないし暗殺者でしょう」
騎士「こう云った、騎士を連れ立っていない、それもプライベートな食事なんてヤツらの良い餌です」
騎士「私も姫様より受け賜わった、この仕立ての良いスーツを着ているので、騎士とは思われなかったのでしょう」
騎士「ある種、貴族派たちの牽制する意味では良い働きになったかもしれませんが……」
騎士「これ以降、この云った軽率な行動は控えていただきたい」
姫「……え? ああ、うん。……ええええ???」
姫「騎士、よね?」
騎士「はい、騎士でございます」
姫「あ、いや、私が知っている騎士はむしろ今のアナタなのですが、さっきまでとの差異があまりに大きすぎて……」
騎士「ふむ……伏兵はいないようだ。もとより貴族派も牽制のつもりだったか」
姫「あ、あの騎士……ありが――」
騎士「いやあ! ボーナスが楽しみだな!」
姫「台無しですよ!!!」
騎士「だから云ったでしょう? この国が私の給金をケチらない限り、私は姫様の味方ですよ」
騎士「給金が良ければ、それこそ世界の敵でしょうともね」
姫「……不純です」
騎士「不純で結構だよ。僕はそういう人間だ」
姫「けれど、」
騎士「けれど?」
姫「世界の全てが敵になっても守ってくれるのですよね」
騎士「ああ約束するよ。世界の全てが姫様の敵になっても僕は姫様を守り抜くさ、モチロン――」
姫「給金次第、でしょう」
騎士「ああ、そうとも」
姫「ふふふ、やっと初めてアナタのことがわかった気がします」
騎士「なにぜ騎士じゃなくて僕一個人をご所望だったからね」
騎士「どうだった? ありのままの僕は」
姫「落胆もしましたが……やっぱりアナタは有能です。手元に置き続けたい人材だと思ってます」
姫「でも、忠誠心じゃ縛れない」
騎士「そうだね、僕は騎士の誉れなんてちっとも理解できないし」
騎士「なら、どうするの?」
姫「とりあえず、手始めに――」
騎士「手始めに?」
姫「――今日の活躍をお父様に報告しようと思います」
騎士「うん、正解」
fin
詰まったから息抜きに書いたー。お目汚しになっていなけりゃ幸いでーす
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