八月真生誕大歌舞伎 歌舞伎十八番の内『助六由縁江戸桜』 (49)

あらすじ

吉原三浦屋の見世先に傾城達が居並ぶところ、全盛の傾城揚巻(あげまき)がほろ酔いの体で歩み寄る。続いて揚巻の元へ通う髭の意休(ひげのいきゅう)が揚巻の妹分、白玉達を引き連れやって来て、揚巻の間夫の助六の悪口を言う。だが揚巻は気にもかけず、意休に悪態をつきその場から立ち去ろうとするので、白玉が押し止め、揚巻は見世の内へと入っていく。やがて尺八の音とともに、花川戸の助六(はなかわどのすけろく)が姿を現す…


出演

花川戸助六
 実は曽我五郎:菊地真

三浦屋揚巻:萩原雪歩

三浦屋白玉:秋月涼
傾城:日高愛
同 :水谷絵理

三浦屋女房お京:音無小鳥

くわんぺら門兵衛:我那覇響
福山かつぎ:高槻やよい
朝顔仙平:双海真美

通人里暁:天海春香

曽我満江:三浦あずさ

白酒売新兵衛
 実は曽我十郎:秋月律子

髭の意休
 実は伊賀平内左衛門:四条貴音



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春霞 立てるやいづこ 三吉野の

山口三浦うらうらと うら若草や初花に

根越して植えし江戸桜 匂い夕べの風につれ

鐘は上野か浅草に その名を伝う花川戸


愛「見てください皆さん!!!桜が満開です!!!とっても綺麗ですね!!!」

絵理「そうだね…」

愛「そういえば、雪歩先輩まだ来てないんですか?」

絵理「まだ、来てないね…そろそろ来ると思うけど…」

愛「…あっ!!!あの提灯の明かりは、雪歩先輩のだ!!!」

愛「おーい!!!雪歩せんぱーい!!!」


三浦屋揚巻(演 萩原雪歩)「……」


絵理「萩原さん、具合悪そうだけど…大丈夫ですか?」

雪歩「ご、ごめんなさい、ちょっと飲み過ぎて…お客さんが無理に飲ませてくるものだから…」

愛「そ、それはいけません!!!すぐに酔い覚ましの薬を!!!」

雪歩「大丈夫だよ、さっき飲んだから…今そっちに行くからね」

雪歩「ふぅ…」

三浦屋女房お京(演 音無小鳥)「雪歩ちゃん、真ちゃんのお母さんからお手紙が届いてるわよ」

雪歩「え?…小鳥さん、おもてなしの準備を」

小鳥「はい」

雪歩「…お義母さんは真ちゃん故、子故の闇。私は真ちゃん故、恋路の闇…本当に女って、儚いものだなぁ…」


三浦屋白玉(演 秋月涼)「着きましたよ、貴音さん」


髭の意休
 実は伊賀平内左衛門(演 四条貴音)「……」


貴音「あそこに居るのは、萩原雪歩ですか?」

涼「えぇ」

貴音「力業にも、金づくにも動かぬものは傾城の意気地。今宵もふらるる仲之町の花の雨、干すかたとなき袂と思えど、ふらるるもまた一興…ふふ、今宵も酒と討死に致しましょうか…」

涼「では、こちらです…」

愛「あっ、貴音さん!!!」

絵理「四条さん、今日もありがとうございます?」

貴音「ふふ、こちらこそ…」

雪歩「……」

愛「雪歩先輩、貴音さんが来ましたよ!!!」

雪歩「…四条さん、待っていましたよ」

貴音「待っていたとは、菊地真の事ですか?」

雪歩「え?」

貴音「知らないと思っているのですか?あなたがわたくしの眼を盗んで、真に逢っている事くらいお見通しですよ」

雪歩「…四条さんに一々了解を得る事でもありません。だって、私は真ちゃんの…」

貴音「萩原雪歩!あなたはあの女を何だと思っているのですか?あの菊地真と言う女は、盗人ですよ」

雪歩「盗人?」

貴音「真の喧嘩の仕方を見れば明白です。喧嘩と言いながら、人の腰の物に手をかける…これこそ巾着切の証拠です。あのような盗人といつまで楽しむつもりなのですか?」

雪歩「ふふふ、面白い事を言いますね」

貴音「…真が可愛いですか?」

雪歩「えぇ…因果な事ですね…」

貴音「これ以上あのような者と一緒に居れば、いつか真っ裸にされて道端に捨てられるのが落ちです…わたくしは、あなたが不憫だと思って言っているのですよ」

雪歩「親切なお客さんの言葉を無視して、間夫に逢うあの女は阿呆だと、言ってくれても構いません…でも、真ちゃんを盗人だなんて…いくら四条さんでもあんまりです!」

貴音「あんまり?何があんまりなのですか?わたくしは事実を述べただけです…これだけ言っても、あの盗人と逢い通す心なのですか?」

雪歩「…もう我慢できません!仲之町の真ん中で、踏まれようが蹴られようが殺されようが、私の心は絶対に変わりません!慮外ながら、萩原雪歩の悪態の初音…良く聞きなさい!!」

雪歩「あなたと真ちゃんをこう並べて見る時は、真ちゃんは立派な女ぶり、こっちは意地の悪そうな…ふふふ…例えて言うなら雪と墨、硯の海も鳴門の海も、海と言う字は一つでも、深いと浅いは客と間夫、間夫が無ければ女郎は闇…暗がりで見てもあなたと真ちゃん、見違える筈がありません!!ふふ…ふふふふ…」


貴音「言わせておけば…!」

雪歩「私を斬る気ですか?良いでしょう斬りなさい!例え斬られても、この真ちゃんへの想いは絶対に切る事は出来ません!さあ、早く斬りなさい!」

貴音「…今すぐわたくしの前から消えなさい」

雪歩「どこへ消えれば?」

貴音「真の所へでも行きなさい」

雪歩「言い分は?」

貴音「くっ…消えなさい!!」

雪歩「…ふふ」

涼「ま、待ってください雪歩さん!」

雪歩「何ですか?」

涼「雪歩さんがそのように腹を立てては、あなたの思うその人の、難儀になるかも知れません…ここは我慢して、どうか戻ってきて下さいお願いします!」

雪歩「…真ちゃんの所に行きたいけど、涼さんのたってのお願い…わかりました、今そっちへ戻ります」

涼「雪歩さん、ありがとうございます…」

雪歩「四条さん、もうあなたには逢いませんからね」

貴音「……」

雪歩「見世の中で休ませてもらいます…行きましょうか…」

涼「はい!」

愛「はぁ…一時はどうなる事かと…あれ?この尺八の音は…」

絵理「…あの姿は」

愛「も、もしかして…!!!」



思い染めたる五ツ所 



花川戸助六
 実は曽我五郎(演 菊地真)「……」



紋日待つ日のよすがさえ 子供がたより待合の

辻占茶屋に濡れてぬる 雨のみのわのさえ返る



愛「やっぱり真さんだ!!!」

絵理「あれ、真さんその」

愛絵理「鉢巻は?」

真「この鉢巻の、御不審か…」



この鉢巻は過ぎし頃 由縁の筋の紫も

君がゆるしの色見えて うつり変わらで常盤木の

松のはけ先すきびたい 堤八丁風さそう



真「はぁっ!!!」



目当ての柳花の雪 傘に積もりし山合は

富士と筑波をかざし草 草に音せぬ塗り鼻緒

一つ印籠一つ前 せくなせきゃるな

さよえ浮世はなぁ 車さよえ

廻る日並の約束に 籠へ立ちておとづれも

果ては口説か ありふれた手管に落ちて

睦言となりふりゆかし君ゆかし



真「君なら、君なら…」



しんぞ命を萩原の これ菊地真が前わたり

風情なりける次第なり


真「はぁっ!!!」

愛「わぁ!!!すごーい!!!」

絵理「真さん、待っていました?」

真「ふふ、皆今日も可愛くて素敵だよ。突然で悪いけど、お邪魔させてもらうから…」



「「「キャー!!真様―!!私の煙管受け取ってー!!」」」



真「こらこら、そんなに慌てなくても大丈夫だよ…でも、こんなに煙草に火を着けて、火事にならないか心配だね」

貴音「吸付煙草、わたくしも一服貰いましょうか」

絵理「お安い御用だけど…煙管がない?」

貴音「そこに沢山あるではありませんか」

愛「でも、この煙管には持ち主が居ます!!!」

貴音「その持ち主と言うのは?」

真「僕の事さ。大門に僕がちょっと顔を出しただけで、馴染の女郎からの吸付煙草で煙管の雨が降るようだよ。苦労するね、ははは!」

真「そこの人、さっき煙管が欲しいって言ってたよね。それなら、僕のを一本貸してあげるよ…お望みの吸付煙草だよ、ほら!」

貴音「……ふふふ、見かけは立派な女ですが、可哀想に手が不自由なのですね…だからそのように足で、煙管を渡そうとするのでしょう?」

貴音「良いですか?女伊達と言うものは、決して無礼をなさず意気地によって女を磨く事を、女伊達と言うのです。あなたのその振る舞いは、今すぐに改められるべきです。恥を知りなさい!」

真「ふん…つまらない御託をよくもまぁだらだらと喋れたものだね…無礼をするような奴は問答無用で下駄で打つ!もしまだ抵抗するようなら、唐竹割りにぶった斬るのが女伊達の極意なんだよ!」

真「あっ、そう言えば最近、この吉原に大きな蛇が出るんだってね」

愛「な、なんですかそれ!?」

絵理「こ、怖い…」

真「何も怖くなんてないさ、面はりきんで総白髪、765プロの四条貴音によーく似た蛇さ。この蛇が毎晩毎晩女郎に振られるのを恥とも思わない、執着の深い蛇だ。全くもの好きな奴も居たもんだね!」

?「嫌だ!嫌だ!」

くわんぺら門兵衛(演 我那覇響)「嫌だ!嫌だ!」

貴音「響、どうしたのですか?」

響「あっ、聞いてよ貴音!!こいつが自分を騙したんだ!!太え野郎だぞ!!」

小鳥「騙したなんて人聞きの悪い…そんな事はしてませんよぉ」

響「ば、馬鹿にするんじゃない!このくわんぺら響大王様が、風呂に召そうって御託宣だ!女郎を残らず湯に入れて、背中を流させようと思ったのに…いくら待っても一人も来ないじゃないか!今すぐあの安女郎共を連れてくるんだ!」

愛「むっ…安女郎呼ばわりとは失礼です!!!」

絵理「あなたみたいな失礼な人の所に、行く気はない?」

小鳥「あらら、振られちゃった」

愛「笑ってやりましょう!!!あはははは!!!」

絵理「ふふふ…」

響「よ、よくも笑ったな!!いや、笑い清め奉りやがったな!!もう了見がならないぞならないぞ!!」

小鳥「ら、乱暴しないでぇ!」


福山かつぎ(演 高槻やよい)「い、急がないと饂飩が延びちゃう…あっ!?ど、どいてくださーい!!」


響「え?…痛っ!?」

やよい「ご、ごめんなさい!!」

響「お、お前ぇ…人にけんどん箱をぶつけておいて、ごめんなさいで済むと…か、かわいい…」

やよい「つ、つい道を急いでたもので…ごめんなさい!!許して下さい!!」

響(そ、そうだ!良い事思い付いた…)

響「ゆ、許してほしいなら、それ相応の事をしてもらわないとな!!」

やよい「どうすれば?」

響「自分と一緒に湯に入ってもらうぞ!!」

やよい「で、でもそんな事してたら饂飩が…」

響「嫌だって言うのか!!それならここは絶対に通せないぞ!!」

やよい「お、お願いします!!ここを通してください!!謝りますから!!」

響「嫌だぞ!!許してほしいなら、自分と一緒に来るんだ!!」

やよい「…これほど頼んでも、了見してくれませんか?」

響「知れた事だぞ!!」

やよい「…それなら仕方ありません!!勝手にしなさい!!」

響「な、何だと!?」

やよい「廓で通った福山の、暖簾に関わる事だから、けんどん箱の角立って、言わにゃあならねぇ喧嘩好き!!出前も早いが気も早い、かつぎが自慢の延びない内、水道の水で洗い上げた、肝の太打細打の、手際をここで見せてあげます!!」

やよい「憚りながらこう見えても、緋ちりめんの大巾です!!さぁ、かかって来なさい!!」

響「す、好き勝手言って…でも、これで好きに出来る…それならこうしてやるぞ!!この!!」

真「待った待った」

響「痛っ!?痛い痛い!!手放して!!」

真「いい加減、了見してあげなよ」

響「な、何だって…了見してあげなよだって?」

真「もういい加減に、堪忍してやんなよ」

響「堪忍してやんなよ?…その「よ」が気にくわない!!急に出しゃばってきて、お前自分を知らないのか!!」

真「まさか!この吉原で、君を知らない人が居る筈ないでしょ」

響「し、知ってるのか?」

真「…誰だか知らない」

響「こ、こいつ…人を上げたり下げたりして…」

真「お前みたいな安い奴を、誰が知るものか」

響「よ、よくも言ったな!!自分の名前を教えてやるから、耳の穴かっぽじってよーく聞け!!」

真「そんな事聞いてたら、饂飩が延びちゃうじゃないか。ほら、もう行きな」

やよい「はい!!」

響「こ、このくわんぺら響様を無視して…ここは絶対に通さないぞ!!」

真「これだけ言っても許してくれないって事は…なるほど、腹が減ってるんだな。丁度良い所にかつぎが来たから、一杯食おうって魂胆でしょ?それなら僕が御馳走してあげるよ」

響「か、勝手に話を進めるな!!」

真「僕のおごりだ、一杯やんなよ」

響「うるさい!!うるさい!!」

真「遠慮せずほら、まずは胡椒をかけて…」

響「ふ、ふぇ…ふぇっくしょん!!ぜ、絶対に嫌だぞ!!」

真「はぁ…もう勝手にしろ!!」


ベチャッ!


響「う、うぎゃあああっ!?」

やよい「ふん!!ざまあみやがれ!!」

真美「ひびきーん!」

響「真美…真美…斬られちゃった…」

真美「斬られた?…ひびきん、どこも斬られてなんかないよ?」

響「え?だって、こんなに血がダラダラ…あ!!血だと思ったら、饂飩をかけられただけだった!!」

真美「んもう、ひびきんは慌てん坊だな→」

響「う、うぅ…」

真美「とりあえず着替え持ってきたから、あっちで着替えてきなよ→」

響「わ、わかったぞ…」

真美「…むむっ!!」

真「……」

真美「お前だな→ひびきんをいじめたのは!ひびきんの敵は真美が討ってやる!お前なんかこうして、きゅっと!」

真「ふんっ!!」

真美「うげぇ!?い、痛い→!」

響「ま、真美!?どうした!!」

真美「こ、こいつに打たれたぁ!」

響「何だって!?…さ、さっきから自分達をこけにして…一体お前は、何者だ!!」

真美「いやさ→!」

響「何と言う!!」

響真美「野郎だ!!えぇ!!」

真「………」

真「なるほどねぇ…知らないのなら教えてあげるよ」

真「それと、僕の名前をよーく聞いておいた方が良いよ。吉原の大門を潜る時、僕の名前を掌に三回書いて飲めば、一生女郎に振られなくなる。特に、そこの大王様なんかは…」

響「な、なにをぉ!?」


真「ふふふ…見かけはケチな女だけど、肝が大きい。遠くは、八王子の炭焼売炭の歯っかけじじぃ近くは山谷の古やり手梅干婆ぁに至るまで茶呑み囃しの喧嘩沙汰女伊達の無尽のかけ捨てついにひけを取った事のない女だ!!」


真「江戸紫の鉢巻に髪は短め…相手が増えれば龍に水!金龍山の客殿から目黒不動の尊像までご存知の、大江戸八百八丁に隠れのない杏葉牡丹の紋付も桜に匂う仲之町、花川戸の真ともまた!!萩原の真とも言う若い者…間近く寄って面像拝み奉れえぃ!!」

響「ひえぇっ!?」

真美「ひゃあっ!?」

真「手前らみたいな奴らは、さっさと引っ込みやがれ」

響「こ、この野郎…真美、抜かるな!!」

真美「合点だ!!」

真「…ふん!!」

真美「げぇっ!?」

響「うぎゃああっ!?」

若い衆達「や、野郎めぇ!!」

真「これ以上やるって言うなら、たたっ殺すぞ!!」

愛「真さん大当たり!!!」

絵理「相変わらず、かっこいい?」

真「やっとことっちゃぁうんとこな!!」

真「そこの人、君の子分達は皆僕が倒してやったよ。さぁ次は君の番だ、かかって来いよ!!」

貴音「……」

真「…何も言わないって事は、死んじゃったのかなぁ…じゃあ、僕が引導を渡してあげようか」

真「僕からの手向けだ、下駄を頭に乗せてっと…あはは!君みたいな奴には、お似合いの格好だよ!南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…」

貴音「……こ、これは!?」

貴音「痴れ者が!!」

真「おっ!やっとやる気になったみたいだね…さぁ、刀を抜けよ!!さぁさぁさぁ!!」

貴音「……いえ、やめておきましょう」

響「ちょ、ちょっと貴音!?」

真美「お姫ちんがそんなに弱気じゃあ、真美達はどうすればいいのさ!」

貴音「響、真美、像が蟻を気にかけて歩いたりしますか?蟻の如き小さき者に、わたくしは構っていられるほど暇ではないのです。このような痴れ者は無視して然るべきなのです」

真「ふん、結局は親分も小物か…つまんないの」

貴音「響、真美、行きますよ…皆の者!!」

若い衆達「はっ!!野郎め!!」

真「まだやろうっての?…面白い、相手になってやるよ!!」

若い衆達「……」

真「どうした?かかって来い!!」

若い衆達「う、うぅ…に、逃げろ!!」

真「…口ほどにもない、弱い奴らだ」

?「……」

真「さてと、雪歩の部屋で一杯やろうかな…」

?「もしそこの姉さん、ちょっと待ってくださいな」

真「なに?姉さん?この僕を誰だと思っているんだ!!女伊達の総本寺花川戸の真だぞ!!」

?「女伊達の総本寺様、ちょっと待ってもらいましょう」

真「また呼びや…そこに居たのか!!僕の事を気安く呼ぶお前は、どこのどいつだ!!」

?「はい…」



白酒売り新兵衛
 実は曽我十郎(演 秋月律子)「私ですよ」


真「なに、私だ…げぇ!?り、律子…姉さん…」

律子「…あなたの目からも、姉に見える?」

真「ど、どうしてここに?」

律子「どうしたもこうしたもないわよ!!さっきから見てれば何よあれは!!煙管を足で人に渡そうとしたり、人の頭に下駄を乗せたりして…私達には、父上の敵を討つっていう大事な使命があるのに…」

真「……」

律子「それなのに、毎日毎日廓に入れ込んで喧嘩ばっかりして…もうあんたみたいな不肖の妹とは縁切りよ、縁を切らせてもらうわ!!」

真「確かに、その意見も尤もだけど…訳も聞かずに縁を切るなんてあんまりじゃないの?」

律子「え?」

真「僕は、親達への孝行の為に喧嘩をしてるのさ」

律子「孝行の為?」

真「かつて何者かに盗まれた源氏の重宝『友切丸』を探す為に、僕は喧嘩をしてるんだよ。廓は人が集まる所だし、無理に喧嘩を吹っ掛けて、刀を抜かせて友切丸の所在を突き止めようとしてたのさ」

律子「そ、そんな理由があったのね…」

真「それなのに、頭ごなしに縁を切るだなんて…そこまで言うなら仕方ないね。出家でもして、これまでの悪行を反省しようかな…南無阿弥陀南無阿弥陀…」

律子「え!?わ、悪かったわよ、謝るからそんな事言わないで…」

真「南無阿弥陀南無阿弥陀…」

律子「さっきは悪かったわよ。これでもあなたの事を心配して言った事なんだから、どうか許し…」

真「……」

律子「はぁ…聞き分けのない…もう了見してよ」

真「それなら、喧嘩をしても良い?」

律子「も、勿論よ!喧嘩はあなたによーく似合ってるから、もう好きなだけやっちゃいなさい!」

真「それなら…」

律子「はぁ…子供じゃないんだから…」

律子「それで、友切丸の行方は?」

真「まだ…」

律子「そう…それなら、私もあなたに協力するわ」

真「え?律子も喧嘩をするの?」

律子「えぇ」

真「出来るの?」

律子「喧嘩なんて、生まれてこの方した事ないけど…大丈夫よ!これでも侍の娘なんだからやろうと思えばいつでも出来るわよ!」

真「本当?…不安だなぁ…」

律子「大丈夫大丈夫!」

真「ん?…丁度良さそうなのが来た…じゃあ早速、喧嘩の売り方を教えるからちゃんと見ててね」

律子「わかったわ」



通人里暁(演 天海春香)「声かけてみました~♪新曲の『ステキハピネス』良い曲だなぁ…」


春香「それにしても、吉原仲之町のぶらぶら歩きも、中々乙なもんでございますなぁ!!それにこんなに大勢のお客さんが来てくださるなんて…嬉しい事ですねぇ!!」

真「おい、そこのリボン娘」

春香「え?このメインヒロインのわた、春香さんに何か用…」

真「股潜れ!!」

春香「…えぇ!?ま、股を潜れって、お姉さんそんな野暮な事言っちゃダメだよ!!股潜れだなんてはしたない…あれ、お姉さん野暮な事言うわりには、良い女だこと…でも私、この人どこかで見た事あるような…あっ!!似てるなんてもんじゃないよ!!あの765プロ一の良い女、菊地真ちゃんにそっくり!!」

春香「私もね、真ちゃんのファンだから潜れって言われたら潜る…こんな事言ったら雪歩に何されるか…そうだそうだ、記念に写真撮っちゃおう!!笑って笑ってぇ…はいチーズ!!」

真「ふふ…」

春香「写真写りもまぁ良い事…『菊地真ちゃんと写真撮っちゃいました(^o^)/マジ真ちゃん王子様www』ってTwitterに呟いとこ…」

春香「さぁ、長々とお待たせいたしました!!それでは早速、肝心の股潜りと行きましょうかね!!」

春香「お肌もすべすべで綺麗…引き締まった良いお足だこと…参りましょう、よっと!」

真「……」

律子「あ、あれを真似するのか…や、やってやろうじゃないの…」

春香「はぁ、まさか吉原で股を潜れなんて言われ…」

律子「ま、股を潜れ!」

春香「又又股を潜れってwwwって、こっちの人もどこかで見たことある…って今度は765プロが誇る敏腕プロデューサー、秋月律子さんにそっくり!!今日は何て良い日なんだろう!!こっちも写真撮っちゃお…パシャッと…」

春香「『今度は秋月律子さんだぁ!!マジおさげが海老フライwww』っと…」

春香「よし!!じゃあ股潜りの、ダブルヘッダーと参りましょう!!よいしょっと…」

春香「う…ゲホゲホッ!!オエェッ!!くっせ!!ファブリーズファブリーズ…」

律子「…春香」

春香「こ、これ以上やるとマジで殺されそうなので、ささっとやっちゃいましょう!!よっと!!」

律子「…覚えときなさい」

春香「おお、怖っ!はぁ、せっかく吉原で楽しもうと思ったのに、まさか股潜れだなんて…こんな事なら、千早ちゃんの所に行けば良かった…ぐへへ…帰ったら千早ちゃんと…じゃあ二人とも、私は帰るからあと頑張ってねー!!ばいばーい!!」

真「…変な奴だったね」

律子「ほんとにね…なんか凄い疲れた…」

真「僕もだよ…」


「一人じゃ危ないですよ!」


真「むっ!この声は雪歩…今日は客を取らずに待ってるって言ったのに…ちょっとお仕置きが必要みたいだね…」

?「……」

真「そこの侍、待ちやがれ!!」

雪歩「ま、真ちゃん!?粗相な事はしちゃ…」

真「うるさいぞこの売女が!!」

雪歩「えぇ!?な、なんでそんな酷い事…」

真「言ったらどうする?」

律子「言ったら狸の腹つづみ、ポンだ目に逢わせてやりなさい!」

真「おい侍、よくも僕の足を踏んだな!!鼻紙を出して拭いて行け!!」

雪歩「そ、そんな事言って、あとで後悔してもしらないよ…」

真「知った事か!!おい侍!!なんでさっきから黙っているんだ!!」

律子「のっぺらぼうかしら?」

真「第一、その編み笠を脱げ!!お前が脱がないって言うなら、僕が脱がして…」

?「……」

真「えっ…あ…あぁ!?」

律子「あれ?どうしたのよ急に…じゃあ次は私の番ね」

真「ちょ、ちょっと!!や、やめといた方が…」

律子「大丈夫よ、私に任せてあなたは後ろで見物してなさい!」

真「……」

律子「ふふふ、この私の握り拳で持って、お前の眼と鼻の間をきゅっと!…んなぁ!?あ、ああ!?…死んだ…私は死にました…」

?「花川戸の真殿。いえ、萩原の真殿でしたか?」



曽我満江(演 三浦あずさ)「良い身持ちでございますねぇ」


真「いえ…その…」

あずさ「この上は、母が相手になりましょう!さぁ打ちなさい、叩きなさい!」

真「うぅ…」

あずさ「朱に交われば赤くなると言いますが…そこの!よくも大事な娘をこのようにしてくれましたね。さぁ、隠れてないで顔を見せ…」

律子「……」

あずさ「あ、あなたは!」

律子「め、面目ありません…」

あずさ「し、姉妹揃って情ない…これも全て、母である私の不始末。亡き夫の墓前にて自害するより他はありません!」

律子「ま、待ってください!真、何でこんな事をしてるのか、早く説明して!」

真「母上、これも全て友切丸詮議の為。決して何の理由も無しに喧嘩をしているのではございません。お疑い晴らして下さりませ…」

あずさ「友切丸詮議の為に、喧嘩をしているというのですか?」

真「左様でござりまする」

あずさ「そうですか…それで安心しました…友切丸詮議の為ならば、あなたの身に怪我がないよう、この母が良いお守りをあげましょう」

真「お守り?」

あずさ「この紙衣は着なさい。この紙衣は、手荒くするとすぐ破けてしまいますからね」

律子「なるほど、それは良い堪忍のお守りですね。真、早く着替えなさい」

真「はい!」

あずさ「その紙衣を母と思い、決して無理はしないようにね…」

真「母上…ありがとうございます…」

あずさ「…雪歩ちゃん、真ちゃんの事頼んだわよ」

雪歩「はい、お義母さんもお大事に…」

あずさ「では帰りましょうか…」

律子「真、友切丸の事頼んだわよ」

真「任せといてよ!」

あずさ「真ちゃん、早く帰ってきてね…」

真「母上…必ず…」



「雪歩!萩原雪歩!」


真「あの声は、貴音か!」

雪歩「真ちゃん!」

真「う…わ、わかったよ…」

雪歩「と、とりあえず、私の後ろに隠れて…」

貴音「萩原雪歩、ここに居たのですか」

雪歩「四条さんですか…」

貴音「さっきから呼んでいたのですよ。ここで何をしていたのですか?」

雪歩「ちょっと飲み過ぎたので、風に当たっていたんです」

貴音「それなら、わたくしも一緒に風に当たりましょうか…」

雪歩「……」

貴音「ふふ、もしわたくしとあなたが二人で居る所を、あの真が見たらさぞ気を揉む事でしょうねぇ…ゆき」

貴音「痛っ!?だ、誰ですかわたくしの足をつねったのは!!」

雪歩(ま、真ちゃん!?)

真(ざまあみやがれ!!)

雪歩「ね、鼠が噛みついたんじゃないですか?」

貴音「鼠…なるほど、鼠ですか…確かに居ますね、大きい溝鼠が…」

雪歩「え?」

貴音「そこに!!」

真「貴音!!」

貴音「真!!」

雪歩「真ちゃん!!決して…」

真「…わかってるよ」

貴音「真、あなたに聞きたい事があります」

真「聞きたい事?」

貴音「何故、盗みをするのですか?そのような根性で、父の仇が討てると思っているのですか!!」

真「なに!?」

貴音「あなたが菊地真一の娘、菊地真である事をわたくしは知っているのです。それでもあなたは武士の娘ですか!!この親不孝者が!!」

貴音「その性根、わたくしが叩き直してあげましょう…はぁ!!」

真「くっ…貴音、まさか僕の出自を知っているなんて…この母上が下さった紙衣がある限り、僕は何も出来ない…好きなだけ打てば良いさ…お前も恋敵を打てて、さぞ嬉しいだろうね」

貴音「…母からの紙衣を大切に思うその心、まだ孝行の心は残っているようですね」

貴音「真、この香炉台を見なさい。この香炉台には足が三つあります。真一には三人の兄弟が居る、その三人の兄弟がこの香炉台の足のように、力を合わせれば決して倒れず、崩れる事もないでしょう。ですが…離ればなれになるような事があれば!」

真「その刀は!?」

貴音「このように真っ二つとなり、大願成就など夢のまた夢!」

真「間違いない…その刀は…!!」

貴音「な!?は、離しなさい!!」

雪歩「二人とも!!」

貴音「…真、良く覚えておきなさい」

真「…雪歩、あの刀は」

雪歩「えぇ、間違いありません…友切丸です!」

真「それなら今すぐ、奥へ踏み込んで!!」

雪歩「ま、待って真ちゃん!耳を貸して…」

真「…それなら貴音の帰り際に!!」

雪歩「真ちゃん、さぁ早く!!」

真「あぁ!!」

雪歩「真ちゃん、御無事で…」

真「大丈夫だよ雪歩、必ず帰ってくるから…行ってきます」

雪歩「行ってらっしゃい…真ちゃん」

真「ありがとう、雪歩…はぁっ!!」

雪歩「真ちゃん…必ず、必ず帰ってきてね!!」


雪歩「真ちゃーん!!」


終わりです。拙い物ですが、読んで下さった皆様、ありがとうございました。


真誕生日おめでとう!

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