鳰「17学園に転校してきた走り鳰っス!」 (89)
このssは悪魔のリドルの二次創作です。
独自設定、キャラクターの崩壊、独自解釈が多分に含まれております。
原作の雰囲気を重視される方はご注意ください。
兎鳰です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1408804081
~17学園 兎角のクラス~
鳰「ミョウジョウ学園から17学園に転校してきました、走り鳰っス!」
鳰「みなさん気軽に鳰ちゃんって呼んでくださいっス!」
兎角「!?」
鳰「あっ、兎角~♪」
カイバ「なんだ、東の知り合いか?」
鳰「はいっス、親友っス」
兎角「は!?」
カイバ「おぉ、じゃあ東、おまえが走りの面倒みてやれ」
兎角「はあ!?」
カイバ「走りの席は、東の隣りな」
鳰「よろしくっス~兎角~♪」
級友A「あ、あの東さんを呼び捨て……?」
級友B「どんな関係なのかしら……?」
鳰「あははっ、兎角の初めてをもらっちゃったというか~」
級友A「」
級友B「」
兎角「ふざけるな!!」
鳰「え~、どうしたんスか兎角~」
兎角「なにを企んでるんだ!?」
鳰「企むって、なんスか~、あんなに激しい時間を過ごした仲じゃないっスか~」
カイバ「お前ら黙れ、特に東な。授業終わってからやれよ?」
鳰「あはは、怒られちゃいましたね~♪」
兎角「……」
黒組が終わって2ヶ月ほど経ったその日、わたしの日常は崩壊した。
兎角「おい!」
鳰「なんスか兎角~、声大きいっスよ?」
兎角「いろいろあるけど、なんでおまえがここにいるんだ」
鳰「転校してきたからっスけど?」
兎角「なんで転校してきた!なにを企んでる!?」
鳰「いやだなー、兎角~♪ウチがなにか企んだことなんて一度もないっスよ?」
兎角「ちっ……話にならないな」
鳰「あはは」
兎角「黒組の優勝報酬、まだ使ってない」
鳰「それがどうかしたんスか?」
兎角「おまえを追い払うことに使う」
鳰「うわっとぉお!もったいない、やめたほうがいいっスよ!お金にしたら億単位にはなりますよ?」
兎角「知るか……!だいたいおまえに呼び捨てにされるいわれは……」
鳰「あー、続きは後にしません?クラスのみなさんから注目集めちゃってるんでー」
兎角「く……!」
鳰「あ、教科書見せてくださいよぉぉ」
兎角「……」
~17学園学生寮 兎角の部屋~
鳰「お邪魔しまーっす」ガチャ
兎角「あ……?」
鳰「うーん、やっぱミョウジョウに比べると部屋は質素ですねぇ~」
兎角「入ってくるな」
鳰「あっでもトイレとバスルームは別々なんスね、一応湯船もある、とー」
兎角「……おい」
鳰「あ、今日からウチ、兎角と相部屋になるんでよろしくっス!」
兎角「は?」
鳰「カイバ先生と元ルームメイトの人は快諾してくれたんで♪」
兎角「わたしは絶対許可しない」
鳰「あっははは~」
兎角「失せろ」
鳰「あは、こわいっスね~♪でもどうでしょうねぇ~、そんなこと言ってたら晴ちゃんがひどい目にあっちゃうんじゃないっスかねぇ」
兎角「何、言ってる」
鳰「いやぁ~、関係ないんスけど、黒組の武智乙哉さん覚えてます?最初に予告状を出したシリアルキラーの」
兎角「武智がどうした」
鳰「いえいえ、退学するときですね、最後にウチに向かってこようとしたんスよ~」
鳰「あ、心配しなくてもウチはなんともなかったっスよ?」
兎角「してない。武智が一ノ瀬となんの関係がある」
鳰「そんときにですねぇ、ちょっと危ないんで武智さんに葛葉の呪術をかけたんですよ」
鳰「ウチを見ただけで恐怖心で頭がいっぱいになっちゃうようにしまして~」
兎角「だからそれが一ノ瀬となんの関係が!」
鳰「いやぁ~、長い黒組生活のなかで、ウチが晴ちゃんになにもしてないってこと、ありますかね~?」
兎角「おまえ……!」
鳰「たとえば、たとえばなんスけどぉ~、ウチが念じたら晴ちゃんが死んじゃう、とかぁ」
兎角「殺す……!」
鳰「それか、ウチに危害が及んだら晴ちゃんが同じ被害を受けるとかぁ」
兎角「くっ……!」
鳰「もしくは病気とか怪我かもしれないっスね?それか……」
兎角「教えろ、一ノ瀬になにをした」
鳰「いやいや~、たとえばですって!なんにもしてないかもしれないっスよぉ~?」
兎角「ふざけるな……!」
鳰「ものわかりが悪いっスねぇ~、兎角は~」
兎角「ふざけるな!!それに、呼び捨てやめろ!」
鳰「なんスか~?晴ちゃんがどうなってもいいんスか?」
兎角「くっ……」
鳰「ってわけで、ウチのお願い、聞いてくれますよね~?兎角~?」
兎角「……」
鳰「聞いてくれますよね~?」
兎角「……わかった」
鳰「おぉ~、友情に感謝っス!それじゃあ早速荷物持ってくるっス!」
兎角「くそ……!!」
*
*
*
鳰「それじゃ二段ベッド、ウチ上の段~!」
兎角「上はもともとわたしだ」
鳰「今からウチが上になりますんで」
兎角「おい」
鳰「え?なんスか?まさか早速逆らうんスか?」
兎角「……く」
鳰「う~ん、じゃあ兎角ぅ、購買でメロンパン買ってこいっス。5分以内で」
兎角「……」
鳰「反抗的な目つきですねぇ……晴ちゃんがどうなってもいいんスか?」
兎角「ふん……」
鳰「ダッシュ!兎角、ダーーーッシュ!」
ガチャ
鳰「あっははははは!いい気味っス!」
~45分後~
鳰「おせーーーーーーーっスね!!?」
鳰「メロンパン1個買ってくるのに、なんでこんな時間かかってんスか!」
鳰「ケータイの番号調べてありますし、かけますか」
ブーンブーンブーン
鳰「ケータイを携帯してないし!」
鳰「あ~もう~、購買まで片道10分もないのに……おっ」
ガチャ
兎角「ふう」
鳰「遅いっスよ!」
兎角「ああ」
鳰「ったく、はやくメロンパン!」
兎角「売り切れてた」
鳰「はい!?え、そのビニール袋の中身はなんスか!?」
兎角「これはわたしのカレーパンだ」
鳰「……メロンパンがないんならなんでもいいから買ってきてくれれば……」
兎角「いや、言われてないし」
鳰「ぐぐぐ……使えないっスねぇ……」
兎角「あんパンならあったな」
鳰「えっ、ウチ、あんパンも好きなんスよ!買ってきてっス!」
兎角「ちっ……」
鳰「早く!」
ガチャ
鳰「まったく……」
~40分後~
鳰「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鳰「遅ーーーーーーーい!!ケータイ持たせておけばよかったっスぅぅぅ!!」
鳰「自分で購買に行ったら負けだと思いますし……それに入れ違いにでもなったらさらに面倒ですし……」
ガチャ
兎角「ふう」
鳰「あんパン!」
兎角「売り切れてた」
鳰「ええっ!?」
兎角「この時間は夜食用にパンを買う生徒が多いから」
鳰「っつーか!なんでこんなに時間かかってんスか!?さっきも!」
兎角「関係ないだろ」
鳰「いやあるっしょ!?何言ってんスか!?」
兎角「うるさいな」
鳰「晴ちゃん……どうなっても……」
兎角「はぁ……他のクラスの生徒から今度の休みに遊びに行こうと誘われて、断ってた」
鳰「はあ?女子高っスよねここ」
兎角「そうだな」
鳰「へぇ~、あるんスねぇそういうの。キモいっスね」
兎角「?」
鳰「さっきもっスか?」
兎角「そうだ」
鳰「モテますねえ、そういやクラスでも王子様みたいなポジションでしたしね」
兎角「??」
鳰「はあ……まあわかったっス」
兎角「ああ、それじゃわたしは学食に行ってくる」
ガチャ
鳰「ぐぐぐ……こんなはずでは……調子狂いますねー……晴ちゃんがいないとただの天然と化すんスね……」
*
*
*
鳰「あ、兎角~、遅いっスよ~?」
兎角「おまえ……本当にここで寝るのか……」
鳰「そりゃあそうっスよ。ウチの部屋、ここですから」
兎角「はあ……おまえ、なんで転校してきたんだ」
鳰「え~?プライベートなことはちょっと~」
兎角「制服はミョウジョウのままなんだな」
鳰「そうっスね、だって兎角とお揃いとか、あははははは!」
兎角「……」
鳰「それよりー、マッサージしてくださいよ。全身」
兎角「は……?」
鳰「兎角はお使いも出来ないんスから、マッサージくらいできないとぉ」
兎角「なんでおまえなんかに……」
鳰「晴ちゃん」
兎角「……」
鳰「はーやーくー」
兎角「……ちっ……」
鳰「それじゃ、まず肩揉みからっスよ?」
兎角「……」
鳰「あはははっ……っていだだだだだ!?」
兎角「おまえ、全く肩凝ってないぞ」
鳰「き、鍛えてるんで」
兎角「……ここも、ここも……何の問題もない」
鳰「な、なんスか」
兎角「マッサージする必要一切ないな、おまえ」
鳰「鍛えてるんで……」
兎角「わたしもそうだけどな。それじゃそろそろわたしは寝る」
鳰「あ、はあ」
~17学園 兎角のクラス~
カイバ「はい終わりー、プリント前の席に渡してください」
カイバ「……ふーむ……」
カイバ「走りと東、放課後面談室まで来いよー」
鳰「えっ!?なぜ!?」
兎角「……」
~17学園 面談室~
カイバ「さーて……走り、さっきのプリントとか、授業中の様子を見るにだな」
鳰「はあ」
カイバ「そうだな、関ヶ原の戦いで勝ったほうを言ってみろ、兎角は教えるなよ」
鳰「………………」
鳰「…………」
鳰「……えーっと、あの、将軍」
カイバ「……」
兎角「……」
鳰「な、なんスかその目はっ!?間違いでした!?歴史は苦手なんスよ!」
カイバ「関ヶ原は歴史じゃねー、一般常識だ」
鳰「」
カイバ「……では走り、植物の光合成に必要なものは光と水となんだ?」
鳰「………………」
鳰「…………」
鳰「……あっ、葉緑素?」
カイバ「……」
兎角「……」
カイバ「なるほどな」
鳰「正解っスか?」
カイバ「ああ、間違いだ。走りぃ、おまえ……」
カイバ「バカだな」
鳰「そんなことないっスよ!?それにここ、暗殺者の養成学校っスよね!?勉強なんて必要ないハズっス!」
カイバ「いいや、俺のクラスでバカは作らん。それにどこの世界でもデキるヤツは、少なくともバカじゃねー」
鳰「ぐぬ……」
カイバ「わかんねーことがあればネットで調べればいい世の中だが、中学校レベルの知識は頭にいれとけ」
カイバ「つーわけで兎角ぅ、おまえが走りの学力を上げろ、少なくとも義務教育修了レベルまで」
兎角「は!?」
カイバ「ミョウジョウで少しはマシになったみたいだが、おまえも別の意味でバカだしちょうどいいだろ」
兎角「……」
カイバ「おまえら親友なんだろ?できなかったら俺の授業の単位はナシだ。もちろん連帯責任な」
兎角「」
鳰「ぐぬぬ……」
兎角「……失礼しました」
バタン
兎角「はあ……」
鳰「ははっ、でもあの先生の授業って座学っスよねぇ?必修単位じゃないっスよね?」
兎角「担任の教科は必修だ、落としたら即留年する」
鳰「ぐあぁ……そんなの理事長にバレたら会わせる顔がないっスよぉ……」
鳰「で、でもあのミョウジョウ学園の関係者を留年させるなんて……」
兎角「カイバは言ったことは絶対実行するぞ」
鳰「ぐああ……」
兎角「仕方がない……勉強するぞ」
鳰「うぐぐ……はいっス……」
今日はここまでです。
読んでくれた方ありがとうございます。
百合展開は次回からになります。
~17学園学生寮 兎角の部屋~
兎角「それじゃ始めるぞ」
鳰「あ~~~い……」
兎角「科目は国語・数学・社会・理科・英語の5つだ」
鳰「数学……英語……吐きそうっス……」
兎角「最初にテストだ。どれくらいのレベルなのか知りたい」
鳰「テスト……目まいが……」
兎角「はじめるぞ、ひとつ終わったらすぐ次の科目のをはじめていいからな」
鳰「はーーい……」
*
*
*
兎角「採点が終わった」
鳰「聞きたくないっス!」
兎角「500点満点中41点だ」
鳰「聞きたくないっス!!」
兎角「そのうちの10点は国語の漢字の読み書き、あとの31点は4択や5択問題が稀に正解……」
兎角「……勘だろ」
鳰「いやいやいや!違いますよぉぉぉぉ」
兎角「数学、全部の解答欄に2って書いてあるけど」
鳰「いやぁ~、偶然は怖いっスねぇ~、計算したら全部そういう答えでしたっス!」
兎角「数学のテスト、10秒ぐらいで終わってたけど」
鳰「いやぁ……」
兎角「……」
鳰「……」
兎角「……」
鳰「すいません、問題全部わかんないっス!」
兎角「そうか」
鳰「勉強は苦手なんスよー」
兎角「でもおまえ、確かミョウジョウの生徒だったんだろ?」
鳰「一応そうっスけど、黒組以外では理事長のおかげで実質テスト免除されてましたんで……」
鳰「適当に解答欄埋めておけばそれなりの点数がついて返ってきてたっス」
兎角「そうか、じゃあその前は?」
鳰「学校、行ったことないっス」
兎角「……そうか」
鳰「事情聞かないんスか?」
兎角「聞いてほしいか?」
鳰「いいえー、でもなんか気を使われてるみたいで」
兎角「わたしがおまえに?まさか」
鳰「あはは、まあいいっス」
兎角「じゃあ小学校の勉強からだな」
鳰「えーーーーー……屈辱っス……」
兎角「自分のペースでやるのは恥じゃない」
鳰「……まあそうっスねぇ……」
鳰「っていうか、兎角に上から目線で言われるのが屈辱っス!!」
兎角「そうか、じゃあはじめるぞ」
鳰「ぐっ」
~2時間後~
鳰「無理っス……もう無理っス……分数恐るべしっス……」
兎角「国語や社会はすぐ出来るようになりそうだな。目下の問題は算数か」
鳰「なんか顔熱いっスぅ……」
兎角「顔、赤いな」
鳰「んー、知恵熱ですかね……」
兎角「今日はここまでにしよう。わたしは食堂に行く」
鳰「……ウチは寝ます……」
兎角「そうか、じゃあな」
*
*
*
ガチャ
兎角「ん……?おい、ベッドの下の段はわたしの布団だぞ、上で寝ろ」
鳰「……」
兎角「ちっ、おい!」
鳰「ぐ、ぐぐ……」
兎角「!! すごい熱だ。風邪だな」
鳰「そんなわけねーっスぅ……ウチは鍛えてるっス……」
兎角「勉強のストレスで体調を崩したのか」
鳰「うぐぐ……」
兎角「ふう、ちょっと待て……ほら、薬」
鳰「……ほっといてください、寝てれば治ります」
兎角「じゃあ制服くらい脱げ」
鳰「いいっスから……」
兎角「このパジャマに着替えろ」
鳰「なんスかもう、いいって言ってるじゃないっスかぁ!」
兎角「わかった。じゃあわたしが着替えさせるからな」
鳰「っ、さわんな!!」
兎角「……」
鳰「……」
兎角「触らない。着替えさせるだけだ」
鳰「……体見られたくないっス」
兎角「じゃあ目隠しする。とにかく着替えだ」
鳰「……はあ……わかりました、自分で着替えますから、むこう向いててください」
兎角「わかった。それじゃ購買行ってくる」
鳰「あぐ……」
*
*
*
鳰「うー……うー……」
ガチャ
兎角「雑炊とみかんの缶詰とスポーツドリンク、買ってきた」
鳰「……いらねーっス……」
兎角「いいから食べろ、一口」
鳰「……」
兎角「……」
鳰「……じゃあ食べさせてください……」
兎角「わかった、本当に体調悪いんだな」
鳰「……冷まして」
兎角「ああ」
鳰「ん……味しねーっス……」
兎角「そういうものだ。次、みかん」
鳰「はい……」
兎角「あとはスポーツドリンク」
鳰「はい……」
兎角「ほら、薬。水もあるから」
鳰「あい……」
兎角「栄養と水分補給して薬飲んだらあったかくして寝ろ。タオル首に巻くぞ」
鳰「……あい……」
兎角「それじゃわたしは」
鳰「うっ……うっ……うう……」
兎角「」
兎角「ど、どうした、なんで泣いてる」
鳰「な、なんでもないっ、ス……ううっ……」
兎角「どこか痛むか?」
鳰「看病とか、は、はじめてされたっス……ううっ……」
兎角「……」
鳰「風邪ひいて寝てると、昔あった嫌なこと、いろいろ思い出すっス……うう……」
鳰「だれかに刺されたこととか、天涯孤独の身の上のこと、どうでもいいって言われたこととか……うぐっ、ぐすっ」
兎角「……わかった、悪かったよ」
鳰「うう……」
兎角「それじゃわたしは」
鳰「手」
兎角「は?」
鳰「ぐす、手、早く」
兎角「なんだ、手をつなぐのか……?」
鳰「……寝るまで、うぅ、このまま」
兎角「おい」
鳰「なんスか、晴ちゃん、どうなっても、ううっ……」
兎角「泣きながら脅すな……わかったから」
鳰「ううっ……ううう……」
兎角「まったく……なんなんだ」
~翌朝~
鳰「治ったっスーーーー!!」
鳰「いやーっ、やっぱりウチは鍛え方が違いますね!1晩で完治っス!」
鳰「……?右手があったかいっスね……?」
鳰「あ!!」
兎角「うるさい……」
鳰「あははは!どうしたんスか兎角~、そんなトコで寝てたんスか?」
兎角「おまえ……覚えてないのか……手を離そうとするたびに、物凄い力で握り締めて……」
鳰「あ、あははは!いやー、あははは!」
兎角「おかげでベッドの脇で一晩……げほっ、げほっ」
鳰「え、風邪っスか?」
兎角「……」
鳰「鍛え方が足りないっスよ~?暗殺者が風邪なんて~」
兎角「おまえ……もういいから、手を離せ」
鳰「あっ」
兎角「くっ……布団に入るから、どいてくれ」
鳰「えっ、ウチ寝てる間に汗いっぱいかいちゃったんで、ちょっと」
兎角「どうでもいい」
鳰「え~、上の段に……」
兎角「頼むから、早く寝させてくれ、頼む」
鳰「お、おぉ……兎角がウチに懇願とは……」
兎角「カイバに体調不良で欠席の連絡、頼む」
鳰「あ、はいっス。でもその前にウチ、シャワー浴びてきますんで」
鳰「のぞかないでくださいよ~?」
兎角「…………いいから、そういうの……」
*
*
*
鳰「連絡しときましたよー、カイバ先生から伝言っス」
鳰「『体調管理くらいやっとけよバーカ、1日ゆっくり休め』とのことっス」
兎角「……くそ……」
鳰「えっと、どうしたらいいっスか?まず雑炊でしたっけ」
兎角「なにが……?」
鳰「ウチが看病するっス!」
兎角「いらない……静かにしてろ」
鳰「いえいえ、借り作ったままなんてイヤなんで!」
兎角「……」
鳰「……」
兎角「……冷蔵庫に昨日の雑炊の残りがあるから温めてくれ。あと薬がテーブルに載ってるから」
鳰「了解っス!」
*
*
*
鳰「これでよしっと。ふぅ、看病したのも初めてっスよ」
兎角「……そうか」
鳰「あーーー、ウチ、えっとぉ、昨日はなんか熱にうなされてでたらめばっかり言っちゃいましたね!」
兎角「……」
鳰「全部うわごとっスから!ウソですからね?」
兎角「……泣いてたこともか?」
鳰「な、泣いてないっス、泣いてないっス」
兎角「……まあいいけど」
鳰「そういえば看病、ずいぶん手馴れてましたね?」
兎角「昔、祖母がわたしにしてくれたようにしただけだ……」
鳰「えっ、東のアズマのっスか?鬼のような人だって聞いてますけど」
兎角「わたしにとっては厳しいが優しい祖母だ」
鳰「ふーん、そんなもんスかねぇ、孫は特別なんスかね」
兎角「さあな……薬が効いてきたみたいだ、わたしは寝る」
鳰「はいー……」
本日はここまで!
読んでくれた方ありがとうございます!
~17学園学生寮 兎角の部屋~
金曜日の夜。
一ノ瀬からメールが来た。
ミョウジョウ学園での生活に関して聞いてほしいことがあるから、ということだった。
晴『兎角さん、日曜日の10時に駅で待ち合わせだからね!』
まったく、一ノ瀬はしょうがないやつだ。
鳰「ん?どうかしたんスかニヤけて?」
兎角「なんでもない」
鳰「ふ~ん?」
~日曜日 待ち合わせ場所~
晴「あっ、兎角さ~ん!こっちこっち~!」
兎角「……すまない一ノ瀬……」
晴「えっ!?に、鳰!?」
鳰「来ちゃった♪っスぅ~♪」
兎角「……」
*
晴「ふたりとも制服なんだ?」
鳰「……ええ」
兎角「こいつが無理矢理、私服じゃなくて制服にしろって」
鳰「ええ」
晴「あっ、ああ~」
兎角「なんだ?」
晴「な、なんでもない!」
鳰「え、え~っと、やっぱり晴は黒組のままってことは、1クラス1人ってことっスか~?」
兎角「マンツーマンか」
晴「そうなんだよぉ~、鳰が転校しちゃうんだもん」
鳰「あっははー」
晴「溝呂木先生の授業はわかりやすいんだけどほとんど1日中1対1だから……」
鳰「まぁ~、溝呂木センセほど無害な人間は他にいないんで、適任だと思いますがー」
兎角「……」
晴「でも、おかげで授業はどんどんすすんでるよ!高1の範囲はもう終わっちゃった」
鳰「うわぁお!すごいっスね~!」
兎角「……おまえ、もしかして」
晴「?」
鳰「ん?」
兎角「一ノ瀬と2人クラスになると、自分の学力の低さが際立つのが嫌だから転校したんじゃないか」
鳰「」
晴「と、兎角さん!?」
鳰「……そ、そんなことないっスよ?」
兎角「大変なんだ、こいつの面倒みるの」
鳰「なっ!?」
晴「あははっ、なんだか楽しそう!じゃあ兎角さん、鳰、お昼食べながらお話しようよ!」
兎角「ああ、このファミレスでいいか?」
晴「うん!鳰は?」
鳰「いいっスよ~」
*
*
*
鳰「ハンバーガーが850円……よっぽど美味しいんスかねぇ」
晴「どうだろうね?でも見本はすっごく美味しそうだよ?」
鳰「甘いっスね~、晴~、こういう見本は実物の倍は美味しそうに作ってあるんですよ?」
晴「あはは、そうだね!」
兎角「ビーフカレー」
晴「兎角さん、またカレー?」
兎角「そうだけど……?」
晴「うわ、不思議そうにしてるっ」
鳰「カレー人間かーい!」
晴「あはははは!」
兎角「……」
晴「うわぁ、ハンバーガー大きい!」
鳰「おおー、これならお値段に見合うかもしれないっス~」
鳰「お先にいただきますっス!」
晴「待って、切らないと大きいよ」
鳰「ハンバーガーにナイフとフォークなんてマナー違反っスよ?正しい作法は両手でつかんでかぶりつきっス!」
鳰「っはぐっ」
鳰「ふぅ~む、これはなかなか……」
晴「あっ、鳰!横からソースが」
鳰「うわっ、めっちゃこぼれてるっス!」
晴「鳰、服だいじょうぶ?」
鳰「だいじょぶっス、テーブルにこぼれただけで。あー、でも手にソースが……」
鳰「兎角~、その紙、取ってっス」
兎角「紙ナプキンだろ、ほら」
晴「えっ?」
鳰「あ」
兎角「っ」
晴「呼び方変わった?仲良しになったんだね!2人!」
鳰「ち、違いますよぉ」
兎角「誰がこんなやつと」
鳰「はい~?」
晴「ほらぁ、仲良しだよ!良かった~、兎角さんと鳰、前はすっごく仲悪かったから」
鳰「まぁ殺し合った仲ですしね」
晴「で、でもほんとに良かった!」
兎角「よくない」
晴「あ、あうぅ」
~17学園学生寮 兎角の部屋~
兎角「それじゃ勉強だな。遅れを取り戻すぞ」
鳰「んー……兎角、手」
兎角「……は?」
鳰「手」
兎角「手がどうした」
鳰「もーーー!言われたら早く手を出すっス!」
兎角「はあ……?」
鳰「晴ちゃんがどうなってもいい……」
兎角「わかった、わかったから」
鳰「あはっ、今後勉強は手をつないでやるっスよ、命令っスから」
兎角「なんで」
鳰「なんでもっス、さあ早く教えるっス!」
兎角「はあ……」
鳰「なんスか~?」
兎角「わかったから」
鳰「にひひ」
~1時間後~
兎角「おまえ頭は悪くないんだな、やりかた覚えたら上達が早い」
鳰「前から思ってたんスけどー」
兎角「なんだ」
鳰「ウチのことおまえ、とかこいつ、とかって呼ぶのやめてほしいんスけど」
兎角「なんで……いや、わかった、わかったから睨むな」
鳰「じゃあ親愛の情を込めて鳰ちゃん、でいいっスよ?」
兎角「それでこの問題だけど」
鳰「ちょっ、ちょっ」
兎角「なんだ……鳰」
鳰「えっ、あ、ああ~……どの問題でしたっけ?」
兎角「これだ」
鳰「えーと……」
~17学園学生寮 兎角の部屋~
鳰「兎角~」
兎角「なんだ」
鳰「購買行きますよー」
兎角「カレーパン頼む」
鳰「いや、一緒に行くんですよ?」
兎角「なんで」
鳰「本来は兎角が買いに行くんスよぉぉぉ?それを一緒に行くだけで済ませてあげようってウチの善意を……」
兎角「わかった、わかったから」
~17学園 購買~
鳰「ふーむ、あんま大きな声で言いませんが、品揃えは良くないっスねぇ」
兎角「ミョウジョウが凄すぎるんだろ、いろいろと」
鳰「そうっスねぇ、学食のメニューも充実してましたしね」
兎角「ウォータースライダーもあったしな」
鳰「あはは、そうっスね。まぁウォータースライダーは……」
女生徒「あの、東さんですよね?」
鳰「……」
兎角「……そうだけど」
女生徒「あ、あのっ、よければ次の空いてる日って教えてもらっていいですか?」
兎角「……わからない。休日は埋まってる」
女生徒「あっ、でしたら、放課後の……」
鳰「すんませ~ん、兎角はずっと空いてないっス」
女生徒「え、だれ?」
鳰「はい……?」
女生徒「私は東さんに……ひ、ひぃっ!?」
鳰「……」
兎角「おい、鳰」
女生徒「し、失礼しました!!」
兎角「戻るぞ、鳰」
~17学園学生寮 兎角の部屋~
兎角「鳰、購買で殺気飛ばすな。周囲も引いてた」
鳰「ウザったいっスねぇ、人が話してるときに。ああいうのが前回、ウチのあんパンの邪魔をしたんスね~」
兎角「……まあ」
鳰「兎角もはっきり言わないと~」
兎角「……いや、ああいうの、どうすればいいかわからなくて」
鳰「はぁ……それじゃあウチが守ってあげますよ、兎角」
兎角「は……?」
鳰「今日からウチが兎角の守護者になりますよ」
兎角「な、何言ってんだ、バカ!」
鳰「ん?どうかしました?」
兎角「……」
鳰「あはは!な~に照れてんスか!冗談っスよぉぉ」
鳰「そんじゃ、これから常に手はつないどきますかねー、さっきみたく話に割り込まれたくないんでー」
兎角「勝手にしろ……!」
鳰「あっは、勝手にしますぅ~」
兎角「なんなんだ……まったく……」
鳰「……」
兎角「……」
鳰「東兎角には誰も、触らせないっ」
兎角「うるさい!」
~別の日 17学園学生寮 兎角の部屋~
なんでこんなことになったんだ……?
深夜12時。わたしは今日は早めに寝ようと、自分の布団に入ろうとしていただけだ。それなのに……
鳰「なにしてんスか、兎角~?」
兎角「なにって、寝るんだけど」
風邪のとき以来、鳰はやっぱりこっちがいい、などと言って二段ベッドの下の段で寝ていた。
だから、わたしは上の段で寝るようになっていた。
鳰「そこでどうやってっスか?今日から寝るときは手をつないで寝るんですけど?」
兎角「は?」
鳰「枕持って集合っス~」
兎角「はあ……」
鳰「早く!」
こいつの要求は、どんどんわけがわからなくなっている。
多分何を言っても無駄なので、言われたとおりにしておく。
こいつが来てから、ろくなことがない。
わたしは布団に入り、壁側に移動する。鳰が枕をわたしの枕の横に置いた。
鳰「ふぅ、もうちょっとつめてもらえます?」
兎角「これで限界だ、一人用だぞ」
鳰「うーん、じゃあしょうがないっスね」
兎角「電気消してくれ」
鳰「はいっス」
鳰が部屋の明かりを消して、布団にもぐりこんできて、当然のようにわたしの手を握る。
兎角「……悪いが目覚ましセットするの忘れたから、もう一度つけてくれ」
鳰「えー、めんどいっスー」
兎角「登校する前にトレーニングするから、早く起きたいんだ」
鳰「あ、じゃあウチが起こしてあげますよ。2、3時間しか寝ない体質なんで」
兎角「そうなのか」
鳰「ええ、ウチ熟睡とかしないんでー。っていうか、寝てる間に変なことしないでくださいよー?」
兎角「しないから」
~翌朝~
なにかふわふわとしたものが顔に当たった感触がして、目が覚めた。
ずいぶんよく寝た気がする。ふと壁の時計に目をやった。
10時2分か。
……10時2分!?
トレーニングどころか、完全に遅刻じゃないか。
起きようとして、なにかふわふわとしたものがまた顔に当たった。
こちらを向いて寝ていた鳰の髪だった。
鳰「んごー……んごー……」
兎角「おい、起きろ」
こいつ、なにが熟睡しないだ。全く起きる気配がない。
布団から起き上がろうとしたとき、自分の体が動かないことに気づく。
鳰に、身動きが取れないくらいに抱きつかれていた。
少なくとも腕はがっちり固定されている。
兎角「くそ……なんなんだ、もう」
仕方がないので身体を揺らしてこいつを起こそうと試みる。
兎角「おい……おい、起きろ、鳰」
鳰「んー……んんー……」
こいつが来てから、本当にろくなことがない。
兎角「おい、遅刻だぞ」
鳰「ん……んんんー……にひひ……」
これはダメだ。起きるようなそぶりを見せたが、すぐににやけながらわたしの胸に顔をうずめてしまった。
それにしてもしまりのない顔だったな。いや、そんなことはどうでもいい。
兎角「起きろ、おい」
鳰「んん~?朝からなんスか~、もう~」
兎角「もう朝じゃない」
鳰「ん~?…………ええっ、10時っスか!?」
兎角「あと離れろ、動けない」
鳰「えっ、うわっ、兎角、なんでウチに抱きついてるんスか!?」
兎角「どう見ても抱きついてるのはおまえだろ」
~17学園 面談室~
カイバ「ふ~ん」
兎角「……」
鳰「すいませんっス……」
カイバ「まあ二人とも遅刻は初めてだから、今回は多めにみる。二度とないようにしとけ」
兎角「はい……失礼します」
鳰「すんませんっス……失礼します」
鳰「睡眠薬とか、使ってないっスよね?」
兎角「……持ってないし、使うわけないだろ。わたしも寝てたんだから」
鳰「ですよねぇ~」
10時間も寝てしまったのは初めての経験だった。
鳰「初めてこんなに寝ましたよぉ~」
兎角「……わたしもだ」
それだけ安心して眠ってしまったのか?
こんなやつと……?
鳰「なんでっスかねぇ……」
結局、理由はわからなかった。
次の日からは、目覚ましをかけて一緒に寝ることになった。
別々に寝るというわたしの案は却下された。
こいつが来てから、ろくなことがない。
本日はここまで!
読んでくれた方ありがとうございます。
~17学園 兎角のクラス~
カイバ「よし、テストはこれで終わりだ」
鳰「んぁ~~~、終わったっスーーー!!」
カイバ「5分待ってろ、今の教科の採点するから」
鳰「はい~」
カイバ「500点満点中413点。8割以上なのでまあギリギリ合格だな」
鳰「よっしゃーーー!!」
カイバ「学期末にもう一回やるから、そのときは9割以上がボーダーな、気ぃ抜くなよ」
鳰「ぐああ……余韻が台無しっス……」
カイバ「まあ一ヶ月でここまでできるようになったんだから問題ないだろう」
鳰「はいっス……失礼しますっス」
カイバ「ああ、よくやったな走り」
~17学園学生寮 兎角の部屋~
鳰「ふぅー」
兎角「どうだった?」
鳰「合格でした!」
兎角「そうか、よかったな」
鳰「な、なんスかその笑顔……」
兎角「は、はあ?これでもう教えなくてすむから、それだけだ」
鳰「残念っスねぇ、学期末にもう一度テストあるんで、教えるのは続けてもらいますよー?」
兎角「はあ?」
鳰「っていうか、感謝の品とかなんもないんスかぁ?」
兎角「……?」
鳰「ウチが兎角の留年するところを助けてあげたわけですし~」
兎角「は?なんでそうなる」
鳰「テストで不合格でしたら二人とも即留年だったじゃないっスかぁ」
兎角「……おまえな……」
鳰「はぁぁ~~、し、しょうがないっスねぇぇ、うんうん」
兎角「なんだ……?どうした」
鳰「特別に、兎角がウチの抱き枕になるだけで勘弁してあげるっス!」
兎角「……もうしてるだろ……」
鳰「と、とにかく、今日から寝るときは抱き枕っスから!」
兎角「はあ……ああ、そういえば」
鳰「なんスか?」
兎角「前に睡眠時間2、3時間って言ってたけど。どうみても6時間は寝てるぞ」
鳰「いや~なんかウチもよくわかんないんスけどぉ……」
兎角「まあいいけど」
鳰「……枕が変わったからじゃないっスかね」
兎角「??」
鳰「な、なんでもないっスよ、なんでも!」
~ミョウジョウ学園金星寮 1号室~
晴「もしもし?鳰?」
鳰「晴、こんばんはっスー!」
晴「めずらしいね、鳰から電話くれるなんて」
鳰「それじゃあ早速、問題っス!」
晴「ええっ!?」
鳰「……一緒にいると手をつないだり抱きしめたくなったりする人って、なんていうでしょうか」
晴「えっ、兎角さんとそういうことしてるの?」
鳰「は、はいぃ!?兎角さんは関係ないっス!一般論で!」
晴「う~ん、その人とキスしたいって思う?」
鳰「え、え、あの」
晴「うん」
鳰「……はい……」
晴「えぇ~、それじゃあ答えは『恋人』以外ないと思うけど……?」
鳰「いやいや、まさかそんなの、あるわけないじゃないっスか~……ウチはそういうんじゃ、ないですし……」
晴「ん?最後なんて言ったの?とにかく鳰、おめでとう!鳰にも好きな人が……」
鳰「ちーがーいーまーすー、話にならないっスね!」
晴「うわ、切れちゃった。兎角さんもケータイでやってたし、なぞなぞ流行ってるのかなぁ……?」
~カフェ~
兎角「話したいことってなんだ?」
晴「うん、ミョウジョウ学園の理事長にならない?って言われてるんだぁ」
兎角「ミョウジョウの……?」
晴「うん、百合さんから。今から学校の合間に少しずつお仕事覚えて、大学卒業したら正式にって」
兎角「そうなのか」
鳰「……」
晴「やりがいあるお仕事だから、やってみようと思うんだ」
晴「晴に百合さんの言う能力があるのかわからないけど、もし力があるなら責任もあるから」
兎角「……」
晴「それにミョウジョウ学園には晴の家族もいるしね」
そう言ってわたしを見つめる一ノ瀬の瞳には決意のような力強いものが満ちていた。
こうなった一ノ瀬にわたしができることは、多分ない。
兎角「そうか、一ノ瀬が自分で決めたことならいいんじゃないか」
晴「うん、ありがとうっ」
鳰「……ちょっとウチお手洗いっス」
晴「あっ、うん!」
兎角「……」
晴「……」
兎角「……」
晴「でも、本当によかったよ。兎角さんと鳰が仲良しになって」
兎角「別に親しくないけど」
晴「あはは、前だったらこんなこと言われたら血相変えてたよ?」
兎角「……まあ、嫌いじゃない、別に」
晴「うんうん」
兎角「それだけだけど」
晴「心配してたんだよ。兎角さんのこと」
兎角「え?」
晴「友達できるのかなぁ、とか。でも鳰が一緒にいるなら大丈夫だよね」
兎角「……一人でも大丈夫だけど」
晴「え~、そうかなぁ~?」
兎角「ああ」
晴「……ねえ兎角さん、鳰ってふっと真顔になったり、けだるそうにしてたことがあったじゃない?」
兎角「いつの話だ?」
晴「黒組の頃だよ」
兎角「そうか?いつもへらへらしてたような」
晴「もう!兎角さん、だめだよ~、ちゃんと見てなきゃ」
兎角「……」
晴「それでね?今はそういう雰囲気がほとんどなくなってたから、良かったなぁって」
兎角「ふうん」
晴「ちゃんと見てあげなきゃだめだよ、兎角さん」
兎角「ああ」
晴「あとね、もうひとつだけ」
兎角「なんだ」
晴「兎角さんは言葉が足りないことがあるから、思ったことはちゃんと言ったほうがいいよ」
兎角「……そうか」
晴「あっ、ごめんね、お説教みたいになっちゃった」
兎角「いや、ありがとう。気をつける」
晴「それとね、兎角さん、黒組終わったけど、兎角さんはやりたいこと見つかった?」
兎角「……」
晴「……」
兎角「……いや」
晴「そっかぁ」
兎角「……考えてみる」
晴「うんうん、それとね……」
兎角「今度はなんだ?」
晴「黒組の頃、守ってくれてありがとう。兎角」
兎角「わたしが勝手にしただけだ。晴」
わたしと一ノ瀬はお互いにかたく握手をした。ようやく対等になれた気がした。
晴「だからこれからは、兎角さんが困ったことあったら、晴が力になるよ」
兎角「ああ」
晴「うん!今日話したかったことは、以上です!」
兎角「ああ、わかった」
鳰「おまたせ~っスぅ~」
ちょうど鳰がトイレから戻ってきた。
~17学園学生寮 兎角の部屋~
鳰「今日はずいぶんラブラブしてましたね~」
17学園の寮に帰ってから、今までわたしが話しかけてもあまり反応のなかった鳰が、口を開いた。
兎角「は?一ノ瀬のことか?」
鳰「ウチがいなかったら兎角、あんな笑顔するんスね、初めて見ました」
兎角「……そりゃあ」
鳰「そりゃあ晴ちゃんみたいに可愛い子とだったら手もつないじゃいますよね~」
兎角「あれは握手だ」
鳰「……」
兎角「鳰……?」
鳰「いや~、あはっ、冗談っスよぉ、兎角~」
兎角「……」
鳰が笑いながら大げさにおどけた。でもわたしには、無理矢理笑顔を作っているようにみえた。
鳰「ドッキリ成功っスね、それじゃウチ購買行ってきます」
鳰が話を流そうとしているのがわかった。
なんだか様子が変だ。このまま行かせたらもう戻ってこないような気がした。
兎角「待て、鳰」
鳰「……」
聞こえないふりをして外に出ようとしている鳰の腕を掴んだ。
鳰「……そうそう、晴ちゃんには呪いなんてかけてないっスよ。これで安心っスね!」
兎角「鳰、待ってくれ」
鳰「……だからもう、無理して名前呼びとかしなくていいっスよぉー」
兎角「鳰……」
鳰「……なんスか、もう」
兎角「……」
鳰「もう、頭ぐちゃぐちゃですよ、もう」
鳰「理事長には普通の学生やれなんて言われますし」
鳰「誰かさんをテキトーにからかって暇つぶししようとしたら、看病されたりしちゃいますし」
鳰「わけわかんないっス……大事なひと、とか、いらない、のに」
鳰が涙を流していた。わたしはなんでかわからないけど、こいつをこのままにしてはいけないと感じていた。
兎角「鳰……」
『兎角さんは言葉が足りないことがあるから、思ったことはちゃんと言ったほうがいいよ』
一ノ瀬の言葉が頭に響いた。
わたしは、自分の言葉を、鳰に伝えたいと思った。
掴んでいた鳰の腕を放して、鳰の手をとった。
兎角「鳰、おまえの悩みはわからないけど」
自分の気持ちを正確に、ゆっくりだけどありのまま言葉にする。
兎角「わたしでよければ話を聞く。解決法を一緒に考えよう」
なんだこの言葉。とても陳腐だ。自分の言葉がこんなに頼りないものだったなんて。
鳰「……なんでっスか」
……あれ、そういえばなんでだ?わたしはこいつのことが嫌いだったはずだ。
腐った海の匂いがして、三下で、わたしと殺し合った、走り鳰のことが。
それがなんで今、こいつの手を握って引き止めているんだろう。
今では、鳰がいなくなるのがイヤだ。
鳰の手をつなげなくなることも。
鳰の話を聞けなくなることも。
どうしてだろう。
鳰「……?」
なんだ。話して考えているうちに、ようやく自分の気持ちに気づいた。
ウザったいこいつといるのが楽しいんだ。わたしは。
鳰と一緒に寝たり、鳰の手をつないだり、鳰の話を聞くことが。
だってわたしは、こいつが。
兎角「鳰のこと、好きだからだ」
鳰「えっ、ええっ!?」
兎角「わたしの正直な気持ちだから」
鳰「でもウチ、レズじゃないですし……」
兎角「っ」
そう言われて、体の中を冷たいものが駆け巡った気がした。
思ったことなんて、言わなければよかったんじゃないか。
……でも考えてみれば当然だ。女同士なんだし。普通に考えてありえない。
自分に必死に言い聞かせる。
鳰「でも、その、ウチも正直な自分の気持ちを言います」
鳰「あの……レズじゃないっスよ?でも……好き、っス……兎角のこと」
そう言って、鳰はわたしの目を見ながら少し顔をわたしに近づけた。
わたしも鳰の綺麗な目を見ながら、少しだけ顔を鳰に近づける。
お互いの様子をうかがいながら、相手が拒んでいないかを確かめ合いながら。
わたしたちの唇の距離は少しずつなくなっていった。
お互いの髪が触れ合うようになると、鳰はゆっくり目を閉じて顔を少しだけ上に向けた。
その唇に、わたしはキスをしていた。
鳰がわたしの腰に手を回しているのがわかった。
わたしも鳰を抱きしめる。寮の部屋で、わたしたちは抱き合いながらキスし続けていた。
――ねーさんねーさん、手を組みましょうよー、ウチが手下になるッスよ!
――だれがねーさんだ
――おまえに呼び捨てされるいわれはないだろ。東さんと呼べ
――えー、いいじゃないっスか、クラスメイトのよしみってことでぇー
出会ったときは考えたこともなかった。こんなことになるなんて。
わたしと鳰は恋人同士になった。
本日はここまで!
読んでくれた方、書き込んでくれた方ありがとうございます。
恋人になったけど、わたしたちはあまりすることに変わりはなかった。
以前からいつも手をつないでいたし、寝るときは一緒に寝ていたし、
変わったことはキスするようになったことだけだった。
……もっとも手をつなぐにしてもその意味が全然変わったということはあったけど。
行為自体はあまり変わらなかったことは事実だった。
それで、わたしたちは恋人同士がするデートというものを試していた。
恋人ふたりで映画を見る、という普通なことを。
兎角「……」
鳰「……」
兎角「……なあ」
鳰「なんスかー」
兎角「その……」
鳰「あ、当てますよ、つまんないっスね、これ」
兎角「……ああ」
鳰「正確には、つまんないっていうかよくわからないっス」
兎角「ああ、わたしもだ」
鳰「恋愛映画はハードル高かったっスかねぇ……」
兎角「むずかしいな……」
鳰「やっぱり、ウチらにこういうのは無理なんスよ、あの海デート事件で学んだじゃないっスか」
鳰がケータイの画像を見せながら言った。
少し前に普通のデートをしよう、と海に行った記念の写真だった。
~海岸~
兎角「着いたな」
鳰「着きましたね~」
兎角「……」
鳰「……」
兎角「海だな」
鳰「海っスね」
兎角「……」
鳰「……なんの感想もないっスね、他に」
兎角「……ああ」
鳰「……」
兎角「どうしようか」
鳰「んー……帰ります?」
兎角「おい」
鳰「いや~……泳ぐ季節でもないですし……」
兎角「……」
鳰「記念に貝がらでも拾っていきます?」
兎角「そうだな、そうしよう」
わたしはやることができてほっとしてしまっていた。
普通の恋人は何をするんだろう。難しい。
鳰とふたりでよさそうな貝がらを探しながら海岸をしばらく歩く。
鳰「……ないっスね」
兎角「そうだな……」
鳰「たまに落ちてるビンのかけらが危ないっスね」
兎角「そうだな……」
鳰「なんか海って……」
兎角「ああ」
鳰「……臭くないっスか?」
兎角「……ああ……わたしも言おうか迷っていた」
鳰「あははっ、ですよね!臭いっスよ、磯の匂いだかわかんないっスけど」
鳰「服に匂いがうつっちゃいそうですし、帰ります?」
兎角「そうだな……」
わたしたちは海岸を引き返す。
鳰「このまま帰るのはさすがにどうかと思うんで~、写真撮っていきましょう」
兎角「……そうだな」
鳰「じゃあ撮りますよ?兎角、スマイル、スマイル!」
兎角「え、あ、ああ」
鳰がシャッターを切った。わたしは鳰のケータイをのぞきこんでみた。
そこには、海を背景に完璧な作り笑顔の鳰と、引きつった笑顔のわたしが並んで写っていた。
……そうだ。あの敗北からわたしたちは学んだ。
普通は無視して、わたしたちの好きなことをしようと。
兎角「なあ、映画のこのカフェで」
鳰「ん?」
兎角「ターゲット暗殺しろって命令きたらどうやる?」
鳰「おっ、シミュレーションっスか?ウチもたまにやりますよー」
兎角「オープンカフェ、ターゲットは中年男性。イスに座ってコーヒーを飲んでる」
鳰「ふむふむー、難易度は低いんですが人が多いのが問題っスね」
兎角「鳰ならどうやってやる?」
鳰「うーん、できれば近くの建物から狙撃っスねー。でもライフルなんて調達できないでしょうし~」
兎角「面倒だからぶつかるフリして、ナイフで刺せばいいんじゃないか」
鳰「えっ、それだと全員に目撃されますよ?その後どうするんスか?」
兎角「走って逃げる」
鳰「あはっ、走って逃げるて」
兎角「全力で走れば逃げ切れるだろ」
鳰「いやいや!そういう問題じゃないっスよ!」
兎角「そうかな」
鳰「そうっスよ!あははは!もう、原始人じゃないんスから~」
鳰が面白そうに笑うから、なんだかわたしも笑ってしまった。
映画の内容は覚えてないけど、鳰と楽しい時間を過ごせた。
こんな話をしているのが、わたしたちの普通なのかもしれない。
~17学園学生寮 兎角の部屋~
いつものように布団に一緒に入る。
二段ベッドの上の段はとっくに物を置く場所になっていた。
鳰がじっとわたしを見ていた。
鳰「……いつかの風邪のとき、触るなとか言ってごめんなさい」
兎角「え、どうした」
鳰「肌、見られたくなかったんです。ウチの体、葛葉の刺青がほぼ全身にいれてあって」
兎角「なるほど」
鳰「……だから、その、今でも、見られるの少し、怖くて」
兎角「見せて」
鳰「はい……っス、じゃあ、上半身だけ。目を閉じててください」
兎角「わかった」
鳰「どうぞ……」
目を開けると、ちょうど鳰が下着姿になったところだった。
鳰の体には鳳凰、だっけか。そんなのが彫ってあった。
でもそんなことより、わたしの恋人が下着姿になっているということのほうが遥かに重要だった。
兎角「なんだ、もっと怖いものかと思った」
鳰「……」
鳰がわたしの様子を伺っているのがわかった。わたしが次にどんな感想を言うのか、待っている。
兎角「そんなことより、胸すごいな」
鳰「……そっちかい!」
緊張した空気が一気にどこかへいった。
鳰「なんなんです、ウチがバカみたいじゃないっスか!」
鳰が興奮してまくしたてる度に胸が揺れていた。
鳰「うわぁ、めっちゃニヤけてるっス……」
兎角「そんなことないけど」
鳰「ありますから!まったく……」
鳰「……いえ、うれしかったです」
鳰「絶対気を使われると思ってたんで。普通にえっちな目で見てくれてうれしかったです」
兎角「礼を言われることじゃないな」
鳰「いやー、まったくっスね、あはははっ」
兎角「鳰」
鳰「……はいっス……」
わたしたちは強く抱き合う。
わたしは鳰の唇にキスして。首筋にキスして。
鳰の胸にキスしたとき、鳰がわたしの頭に両腕を回して、あやすように抱きしめた。
鳰「んん……兎角ぅ……」
鳰が甘ったるい声をあげた。
気持ちよくなってくれていることを実感してわたしは嬉しくなった。
わたしは鳰の腕をすりぬける。
おへそにキスして、さらに下に。
鳰「んっ……んんぅっ……」
兎角「鳰、下、だけど」
鳰「はい……いいっスよ……」
鳰がするっとパジャマを脱いだ。
……わたしの理性が保っていたのはそこまでだった。
それから、その、わたしたちは。
一晩中、お互いの身体を舐めあって、愛撫しあった。
~翌朝~
なにかふわふわとしたものが顔に当たった感触がして、目が覚めた。
……またか。
鳰の髪がわたしの鼻をくすぐっていた。
鳰「んごー……んごー……」
案の定、起きる気配がない。前回と違うのはお互い抱き合った姿勢なことだ。
鳰はわたしに抱きついて、幸せそうな顔で眠っていた。
壁の時計を見る。まだ起きる時間じゃない。
わたしは鳰の髪の匂いを嗅いで時間を過ごした。
いい匂いだ。同じシャンプーを使ってるはずなのにどうしてわたしと違う匂いがするんだろう。
…………
……
……そうだな、味もみておこう。
うーん……味はないが、ふわふわだな。
鳰「んー……?なんスかー……?え、ええっ!?」
しまった。
兎角「ああ」
鳰「ちょっ、なにしてるんスか!?」
兎角「ああ、いや」
鳰「いいから口!口、離してください!」
鳰「寝ながら咀嚼する人、はじめて見ましたよ!」
兎角「起きてたから」
鳰「いやいや、なお悪いっスよ!?」
~17学園 食堂~
鳰「兎角ー、席こっちっスー」
兎角「ああ」
鳰「うぁー、また和食っスかぁぁ」
兎角「そうだな」
鳰「ここの学食、メニュー固定なのが厳しいですねぇ」
兎角「全くだ」
鳰「兎角、カレー以外食べられるんスか?」
兎角「食べられるけど」
鳰「へぇ、好き嫌いとかはないんスか?」
兎角「……ないな」
鳰「いいですねー……うあ、野菜多いっスねぇ、もう」
兎角「好き嫌いするな」
鳰「はーい……」
兎角「野菜嫌いなのか?」
鳰「ええ、敵っスよ、敵。兎角、ピーマンだけ食べてほしいんスけど」
兎角「こっちの皿にいれておけば食べる」
鳰「あはー、助かりますー」
兎角「まったく仕方ないな」
鳰「すんませーん、えへへ」
*
兎角「ごちそうさま」
鳰「ごちそうさまー、ってあれ?梅干残ってますよ?」
兎角「……そうか?」
鳰「いえ、そうか?じゃなく。…………ははーん?」
兎角「な、なんだ」
鳰「梅干嫌いなんスね~?」
兎角「そんなことないぞ。こんなもの1粒、食べても意味が……」
鳰「あれー?好き嫌いするなって言ってた口が何か言ってますねー?」
兎角「栄養もないし……」
鳰「ふーーん、そうなんスかー、ググっていいっスか?」
兎角「ダメだ」
鳰「じゃあそれくらい食べちゃってくださいよぉぉぉ」
兎角「……」
鳰「……いえ、そんな目で見られても」
兎角「梅干だけは、昔からダメだ……」
鳰「はいはい、じゃあウチが食べてあげますよ」
兎角「ありがとう」
鳰「まったく仕方ないっスねー?」
兎角「ああ……」
~17学園 面談室~
カイバ「それじゃあ学期末の走りの学力テストの結果だが」
鳰「……」
兎角「……」
カイバ「500点満点中487点。問題なしだ」
兎角「よかったな」
鳰「兎角のおかげっスよ、あはは」
兎角「そんなことない」
鳰「いえいえ~」
カイバ「あ、あ~、お前たち、もう帰ってもいいぞ」
鳰「あっはい、それでは失礼しますっス!」
カイバ「ふーむ」
カイバ「嫌いな相手同士、共同生活送らせて適切な距離感を取れるようにしようとしたが」
カイバ「付き合ってんなぁ、あいつら。そうくるか……」
カイバ「……」
カイバ「まっ、いいか…………おっ、ピンゾロ」
~17学園学生寮 兎角の部屋~
部屋に戻って、ドアを閉めて、鳰とキスする。
わたしたちはふたりきりになったらキスをするのが習慣になっていた。
鳰「兎角ー」
兎角「なんだ?」
鳰「んー、なんでウチのこと好きになったんスか?」
兎角「……そういうのって、聞くか?」
鳰「あはは、いいじゃないっスかぁ」
兎角「好きっていうか気になりはじめたのは」
鳰「ふむふむ」
兎角「その、おまえがわたしのこと守るとか、変なこと言うから」
鳰「うわぁー……チョロいっスねぇ兎角」
兎角「うるさいぞ」
鳰「まぁ、風邪の看病されて意識しはじめちゃうウチも人のこと言えねーっスけど!」
兎角「そうだったのか。そうかもな、ふふ」
鳰「あははっ」
鳰と付き合いはじめてから、こうやって二人でよく笑いあうようになった。
兎角「なあ、鳰はなんでこの学園にきたんだ?」
鳰「……」
兎角「こっちを向け」
鳰「いやぁ~、あはは」
鳰「理事長に普通の学生やりなさいって言われまして~、でもやりたくなくて~」
兎角「そうか」
鳰「ウチを刺した兎角でもいじめてストレス解消しようかと……」
兎角「……」
鳰「ちょ、ナイフはちょっと!正直に言ったんで赦してほしいっス!」
兎角「はあ……ああ、赦す」
鳰「あはっ」
兎角「……悪かったな。わたしも鳰には色々言ったし、したから」
鳰「いいっスよ、もう」
兎角「ああ、ありがとう」
鳰「あはは……」
兎角「これからどうするんだ?」
鳰「そうっスねぇ~、いまさらミョウジョウに帰るのもアレですし、しばらくここにいますよ」
兎角「そうなのか、よかった」
鳰「よ、よかった、って」
兎角「でも帰らなくて大丈夫なのか?」
鳰「……理事長はウチに、鳥かごは開いているから自由にやりなさい、と言ってたんで」
兎角「そうか……それとなんだけど」
鳰「なんスか?」
兎角「黒組の報酬、使い道決めたんだ」
鳰「おっ、何に使うんスか~?」
兎角「それは……」
~数年後~
兎角「……今ならまだ引き返せるけど」
鳰「いえいえ、やっぱり家族の方にご挨拶くらいはしないと!」
兎角「しかし……」
鳰「なんスか~?晴ちゃんがどうなってもいいんスか~?」
兎角「懐かしいなそれ」
鳰「ですねぇ、何年ぶりかに言ってみたっス」
鳰は笑いながらわたしとつないでいた手を少し強く握った。
兎角「見えてきた、あそこだ」
鳰「? 兎角さん、家に連絡しましたっけ?」
兎角「いや」
鳰「門の前に誰かいますけど……」
兎角「……祖母だ」
鳰「うわー、めっちゃこっち見てますね、千里眼なんでしょうか」
兎角「この距離だと聞かれるぞ」
鳰「地獄耳でもあるんスねー、怖いっスねぇ」
鳰がどうしても挨拶をするというから、わたしは久しぶりに実家に戻ろうとしていた。
黒組の優勝報酬で、わたしは鳰と一緒に平和に暮らすことを選んだ。
暗殺者にはならなかった。
わたしと鳰はミョウジョウ学園の理事長である一ノ瀬のコネでミョウジョウ学園の教師をしている。
もちろん教師になるまでもなった後も、いろいろと……本当にいろいろとあった。
……たぶん一ノ瀬には一生頭が上がらない。
兎角「家業を継がなかったこと、責められるかもしれない……」
鳰「大丈夫っスよ~、ウチが守ってあげますから!」
兎角「ああ、ありがとう」
鳰「なしくずし、泣き落としは基本っスから!」
兎角「それは頼もしいな」
そういった駆け引きが苦手なわたしには鳰がそばにいることが本当に頼もしかった。
少し前に、この国でも同姓婚が認められるようになった。
一ノ瀬が言うには、英財閥から各政党に非常に強い圧力がかかったから、らしい。
だからかは知らないけど、この国の同姓婚の第一組目は、英純恋子と番場真昼だ。
わたしと鳰も、つい先日婚姻届を提出してきたばかりだ。
式も挙げなかったし姓もふたりとも元のままにしたから、あまり実感はないけど。
兎角「わたしも鳰を守るよ」
わたしは鳰の、薬指に結婚指輪のはまった手を握った。
鳰「あははっ、うれしいっス」
冗談抜きに、わたしたちの本当の戦いはこれからだと思う。
兎角の祖母「兎角!まったく、ろくに連絡もよこさないで!」
兎角「おばあ、こちら……」
鳰「はじめまして!兎角の妻の、走り鳰っス!」
兎角の祖母「!?」
おしまい
読んでくれた方、書き込んでくれた方、お付き合いくださりありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
鳰の睡眠時間が増えて本当によかった。
鳰ちゃん可愛いすぎ!!(≧∇≦)素晴らしい兎鳰SSだったッス