エルエルフ「……ここは」 (40)
「リーゼロッテェェェ!!!」
―――落ちていく。
十年前から抱き続けたたった一つの光が、己の全てを懸けて助けたいと願った彼女が。
「うそだ、こんな―――――――……!!」
こんな筈は無い。彼女が死ぬなんてことは有り得ない。だって―――
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「―――――っ!!」
覚醒する意識。
目に飛び込んできたのはヴァルヴレイヴでも、夜の闇に呑まれていくリーゼロッテの姿でもない。
(知らない天井。……寝かされているのか。ここは)
「あ……。よかった、気が付いたのですねミハエル」
―――だって、確かに彼女はここにいるんだから。
「エルエルフ!」
「時縞、ハルト―――……俺はどうなったんだ」
問いながらも、周囲の状況を確認し情報を集める。
年代物の汚れた壁。積み上げられた木箱。恐らく此処はロケット内の倉庫だろう。
出入り口の端末の時計は、最後に確認した時刻から約半日経ったことを示している。
「ぐ―――」
毛布を外すと全身には包帯が巻かれており、それ以外にも応急的な処置を施した跡が見受けられた。
「君は地球を脱出した途端、気を失って倒れたんだよ。酷い怪我だったから無理もないけれど」
「それから半日も眠りこけていたということか……情けない」
「ちょっ、起きちゃダメだ!まだ絶対安静って貴生川先生が」
「怪我の程度なら自分でも把握している。言っておくが俺はあの男より的確な診断が出来るぞ」
時縞の静止を一蹴して体を起こすと、願い続けた希望がそこにいた。
「ミハエル―――」
「リーゼロッテ……ああ、無事で良かった。本当に」
弱弱しく右手に添えられていた手をしっかりと握り返す。
(そうだ。あんなのは悪い夢。―――遂に、俺はやり遂げたんだ)
「―――跳ね橋は俺が何とかする。いいから進め!!」
『みんな、進路変更だ!エルエルフが橋を下ろしてくれる。滑走路として使うんだ!』
「開頭するぞ!五号機、壁を破壊しろ!」
「エルエルフ……!流石だよ、君は……」
「でも―――、ミハエルはどうするのでしょう」
「!」
「……助けます」
「僕が迎えに行く。でも、エルエルフのところまで行くのは危険だ。
リーゼロッテさんは降りて皆と待っていてください」
「―――いいえ。ハルトさん、私も一緒に行かせてください」
「何言ってるんですか!僕はエルエルフに貴女のことを頼まれたんです!」
「ミハエルはきっと死ぬつもりでいるのでしょう。ですがそんなことはさせられません。もしこのまま彼を失ってしまったら……」
「私はミハエルに二度も救われました。だから今度は、彼を私が助けたいのです」
「……、分かりました。誰かを助けたいって気持ちなら、僕にも判る」
「ありがとう、ハルトさん。―――安心してください。私はマギウス、重荷にはなりません」
「……助けます」
「僕が迎えに行く。でも、エルエルフのところまで行くのは危険だ。
リーゼロッテさんは降りて皆と待っていてください」
「―――いいえ。ハルトさん、私も一緒に行かせてください」
「何言ってるんですか!僕はエルエルフに貴女のことを頼まれたんです!」
「ミハエルはきっと死ぬつもりでいるのでしょう。
ですがそんなことはさせられません。もしこのまま彼を失ってしまったら……」
「私はミハエルに二度も救われました。だから今度は、私が彼を助けたいのです」
「……、分かりました。誰かを助けたいって気持ちなら、僕にも判る」
「ありがとう、ハルトさん。―――安心してください。私はマギウス、重荷にはなりません」
「まずい、ロケットが撃たれた!どうするエルエルフ!?」
「一号機で押せないのか!?」
「無理だ、こっちも熱量限界寸前なんだ!」
「ぐっ……」
「熱―――、さっき話していた弱点ですか?限界を超えるとどうなるのです?」
「機能停止だ。インパクトブースターも無い以上、ここで無理をすれば纏めて地上に墜落する」
「では、熱を放出……いえ、機体を冷却することが出来れば解決するのですね?」
「確かにそうだが……リーゼロッテ、一体何を」
「もう隠しておくことはできません。ミハエル、私の正体をここで貴方に見せましょう」
「リーゼロッテさん!?」
『―――■■■■■』
リーゼロッテの口から発せられた、どの時代のどの言語とも一致しない何らかのコトバ。
(この発声方法、以前何処かで……?)
その光景に既視感を感じた次の瞬間。
―――彼女の体から緑色の光が噴き出した。
同時に、その華奢な体が宙にふわりと浮く。
「な!?―――その光を、何故君が……!」
「見たことがあるのですね。……そうです、私は人間ではありません」
「人から人へ渡り、何百年もの時を永らえる存在。私達はマギウスという生き物なのです」
『わたしもおなじ。わたしたち、おなじいきもの』
「ピノ……」
「エルエルフ―――」
「……」
リーゼロッテの言に愕然としながらも、カルルスタインで鍛え抜かれた頭脳は情報を整理していく。
人間を渡る。カミツキと同じ能力。ヴァルヴレイヴと同じ光。ピノと同じ存在。
つまり彼女たちはルーンを操り、別の生き物に寄生して生きる情報生命体―――。
(だとすれば、俺がこの場で訊くべきことは)
「失望しましたか?……そうですよね。私は人間が化物と呼ぶ存在。
ごめんなさいミハエル、私は貴方をずっと欺いて、惑わせて―――「リーゼロッテ」
「――、はい」
「ひとつだけ答えてくれ。十年前、俺と初めて会った君は別の存在だったのか?」
これこそが最も大切なこと。その他のことなどどうでもいい。
彼女がリーゼロッテでないならば、俺のしたことは全くの無駄だったということになる。
十年前から、俺の人生はリーゼロッテの為にあった。その存在こそが俺の総てだ。だから、
「……いいえ。貴方と出会ったあの時、私は既にこの身体に乗り移っていました」
―――ならば、導き出される結論は。
「リーゼロッテ、俺はあの時の貴女に憧れた。三年前の貴女に惚れた」
「そして、今の貴方を愛している。その正体が何であろうと、俺はこれからも、貴女だけを―――」
「ミハエル……」
「―――ありがとう。私は、その言葉が貰えただけで」
そう言って優しく微笑んだリーゼロッテの背から、眩い光を放つ羽が伸びた。
途端。
捲れ上がった袖から覗く細い腕から、彼女の『ナニカ』が急速に漏れ出していた。
「リーゼロッテ!?」
とりあえずここまで
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