男「最近、夢に女の子がよく出てくる」(324)
女の子「……」もじもじ
男(これで三日連続か……)
男(オナ禁してもう一年になる。過去に淫夢も何度か見たことがある)
男(でもこんなに連続して見たことはないし)
女の子「……」そわそわ
男(この子は何もしてこないしで、何かおかしい)
男(まあ、朝最悪な気分で起きることも無いからいいんだけどさ)
男(ひたすら真っ白い空間で、正座して対面し続ける夢ってのもつまらないよな)
男「……なあ」
女の子「はひぃっ!」びくっ
男(うお、反応した)
男「この夢って、一体何なんだ? あと君は誰?」
女の子「え、と、あのですね」
女の子「う、あ、その」かああああ
女の子「ご、ごめんなさいっ」ふわっ
男「……消えた。夢だから何でもありなのか」
――同日昼、高校――
男「という夢を最近よく見る」
女「はあ。出てくる女の子は毎回同じなんですか?」
男「うん。でも見たことがないんだよな、あんな子」
女「脳が記憶の整理をしているときに夢を見るといいますから、それは不思議ですね」
女「どこかで見たその子が印象に残っているとか?」
男「そんなことは無い……はず。あったとしても忘れてるから、今はどうとも言えないな」
女「もしかしたら夢占いなど見てみると面白いかも、程度に考えたほうがいいかもしれませんね」
男「あ、それ面白そう。帰ったら調べるわ。……じゃ、授業はじまるしこれで」
女「ええ、また」
女「……まさか、ねぇ」
――夢――
男「また君か」
女の子「うあ、その、ごめんなさい」
男「あー、いやうんざりしてるとかそういうわけじゃなくて」
男「結局、この夢はなんなの? 夢診断とか夢占いとか軽く見たけどさっぱりだし」
女の子「その、あのっ」
女の子「私と、けっ……じゃない、お話しませんか」
男「……まあ、それくらいなら別に」
女の子「ありがとうございますっ」
男(質問の回答になってないけどな)
男「で、何の話をしようか」
女の子「……えーと、あ、性交の際に発生する快楽は果たして脳内麻薬によるものだけなのかとか――」
男「待った。……ごめん、そういう話は嫌いなんだ」
女の子「ごめんなさい……」
女の子「あ、じゃ、じゃあ性交時の快楽と接吻時の快楽の質の違いについてとか――」
男「それも駄目。……ごめん、それ関係は勘弁してくれ」
男「何故か分からないけど、吐き気がする」
女の子「う、あ、……ごめんなさい」ふわっ
男「……そろそろ朝かな」
―昼、高校―
男「あの夢、とりあえず会話が可能だということは分かったんだけど」
女「……」がつがつがつがつ
男「あの、女さん?」
女「むあ、らいおううへふ、ふふへへ」もっしゃもっしゃもっしゃ
男「……それ弁当箱二つ目っすよね」
女「ん……、ごちそうさま。その、最近ボディラインの改善のために運動を始めまして」
男「それで腹すかせていっぱい食べてたら意味無いんじゃないか」
女「ダイエットではありませんから。全身にある程度筋肉をつけて引き締まった身体を作るんですよ」
男「健全なシェイプアップだな。絶食ダイエットとかやってる奴に見せてやりたい」
女「そうですね。やはり食事制限のみで痩せようというのは甘えです。動くべきです」もそもそもそ
男「……カロリーメイト?」
女「何か」
男「いえ何も。ただ食事量増えすぎじゃないかなーとか驚いてた」
女「運動量もかなり増やしたんですよ。そのせいです。ええ」
男「……まあ、いいや。うん」
女「うーん。まだみたいですが、いずれ時が来るでしょうね」
――夢――
女の子「……あ、こ、こんばんはっ」
男「うお、今晩は」
女の子「今日は大丈夫です、話題を考えてきましたよっ」
女の子「人間の本を読んでいろいろ勉強してきました!」
男(……人外って設定なのかな)
女の子「まずは自己紹介ですよね。失念してました」てれてれ
女の子「えーと、私は淫魔姫といいます。第662代女王の実子で、第663代女王第一候補ですっ」
男(嫌な設定だ。中二病の再発とオナ禁による欲求不満が重なったのか)
淫魔姫「え、と、その」そわそわ
男「あ、俺の番か。俺は男。没個性な男子高校生だよ」
淫魔姫「はいっ、これからよろしくお願いしますねっ」にこっ
男「改めてよろしく」
淫魔姫「……」
男「……」
淫魔姫「……あう」
男(あ、途切れた)
淫魔姫「え、えーと、きょうはいい天気ですねー?」
男「……そうですねー。真っ白で雲どころか青空すら無くて」
淫魔姫「……出直してきますっ」ふわっ
男「マニュアルどおりは安全だけど危険だよね」
――昼、高校――
女「……」むしゃむしゃもりもり
男「……さっき早弁してなかったか」
女「ごきゅ。運動量を増やしたので」
男「それ早弁で空にしたのも含めて三つ目だよな」
女「運動量を増やしたから栄養をと」ごくごく
男「……水筒の中身、プロテインとか言わないよな」
女「まさか。ウィダーインゼリーをちょっとだけ薄めてもってきました」
男「そんなキャラだっけお前」
女「段々濃くなってはきましたが、まだみたいですね……」
――夢――
男「またこの夢か……って」
淫魔姫「うう……」
タキシード姿の女性「全く、確かに姫が奥手なのは承知しておりましたが、いくらなんでもまだ契約できていないなんて」
淫魔姫「だって、そういうの苦手みたいで……」
タキシード姿の女性「苦手だろうが苦瓜だろうが強引に迫ってしまえばいいんですよ! 相手も男、けだものなんですから」
男「……あのー」
タキシード姿の女性「貴方も!」びしぃっ
男「はいっ!?」
タキシード姿の女性「こんなにお美しい姫と一緒で何もしないとはどういうことですか!」
男「そういうの苦手なんだよ! ……というか、人の夢で何をいきなり説教を始めてるんだ」
タキシード姿の女性「これは失礼しました。私は女執事と申します」
女執事「普段は執事として、こちらの淫魔姫様のお世話をさせていただいております」
男「女の執事って……夢だからなんでもあり?」
女執事「いえ、実在しますよ。人間の社会にも、中東あたりにはいるらしいです」
女執事「それで、何故姫様に手を出さないんですか。こんなにも濃厚な淫気を放っていらっしゃるのに」
男「……淫気って、色気とか? そりゃあちょっと露出多いかな、とは思うけど」
女執事「……おや、効いていない?」
男「何が?」
女執事「魔力抵抗があるのか加護があるのか……契約の痕跡もありませんし、前者ですかね」
男(また中二か)
女執事「並みの淫魔でもインポ程度なら一発でビンビンになるのに、これはやはり貴方は何かしら特別な人間なのでしょう」
男「やはり、って?」
女執事「……そうですね。折角ですから、何故姫様が貴方の夢に現れたのかを説明しておきましょうか」
男「はあ……」
女執事「まず淫魔族の姫は、成人した後王族に相応しい伴侶を見つけなければなりません」
女執事「先日めでたく12歳の誕生日をお迎えになり、成人なさった姫様は……」
男「待った。この子12歳なの?」
淫魔姫「は、はい。人間の皆さんは20歳で成人するらしいですが、私達は12歳なんです」
女執事「人間についてたくさんお勉強なさったんですね……姫様、流石聡明でいらっしゃいます」
淫魔姫「えへへ……」
女執事「……こほん。さて、その選別方法はくじ引きです」
男「……雑すぎじゃね」
女執事「まさか! 地球上の人間の雄全個体を対象にしたくじを七十億回引いてはもどし引いてはもどしを繰り返すんですよ!」
男「は?」
女執事「その内、もっとも多い回数引かれた人間が伴侶として選ばれるのです」
男「それは何か……お疲れ様です」
女執事「全淫魔でローテーションして一ヶ月かかりましたからね」
女執事「さて、その結果、七十億回全て男さんが引かれたのです」
男「……冗談だろ」
女執事「私どももそう思いたいのですが、不正もありませんでしたしやり直す気もおきませんでしたし」
女執事「何より――」
淫魔姫「だから、きっとこれは運命なんです! 男さんと私は運命の導きにより何があっても結ばれるのです!」
女執事「こんなに目を輝かせている姫を見たらもう」
男「なるほど」
淫魔姫「だからどうか、男さん。私と結婚してください! そしてセッ」
男「ストップ」
淫魔姫「あう。……で、ではせめて契約だけでも」
男「……何すればいいの。魂でも捧げるの?」
淫魔姫「……」
質問すると、淫魔姫は俺に詰め寄る。思わず後ずさりしようとしたが、いつの間にか後ろに回りこんでいた女執事がそれを許さない。
そして淫魔姫は俺の顔を向いて、ほんのり頬を朱に染め、うるませていた目を閉じる。その後、すこしだけ口をすぼめてただ立っていた。
……これは、そういうことなのだろう。
男「……ごめん、やっぱりそういうの苦手で――」
直後。硬く重い一撃が、俺の後頭部を打った。
そういえば、女執事は硬そうな靴を履いていたな、と頭に過ぎったが、それとは関係なく俺の身体は前によろける。
唇が、触れて、押し付けられて、押し付けて。
キス、した。
彼女の唇は、柔らかくて、暖かくて。ほんのり湿っていて。
ふるふると、すこし震えていた。
男「……!」
だが。
みしみしと縮む胃はそんなことを意識することを許さない。
背筋で上体を反らす。ぴしりと筋が痛んだがそんなことは知らない。
ごぼりごぼりと湧き上がるものが口の端から出る前に身体を捻じ曲げて、床にうつぶせになって転がる。
床に倒れこんだ衝撃と共に、げぼりと胃酸を吐く。
淫魔姫に悪いとは思うが、これは罪悪感で止められる物ではない。
淫魔姫「へっ、えっ、えええっ!?」
淫魔姫が狼狽する声が聞こえるが、それでも吐瀉物はとめどなく流れ胃酸がのどを焼く。
じりじりとした痛みを頭に残しながらも、胃酸を全て吐き終えた。
淫魔姫「ひっ、うえ、ごめん、なさ」
男「ちがう、悪くない。君は、悪くない」
女執事「い、色々と言いたいことはありますが一度起きたほうが」ぱちん
………
男「が、ぼぁ」
目を覚ました俺はすぐさま身体を転がして吐瀉物を食道から追い出す。
寝たままであったら逆流して窒息してた。あぶないあぶない。
経験は幾度かあるけど。
次に夢を見たら、ちゃんと事情を言わなきゃな。
――昼、高校――
女「いやあ、とうとう。とうとうですね」にこにこ
男「珍しく上機嫌だな。何かあったのか」
女「ええ、もちろんです。という訳で、放課後時間をください」
男「いいけど、何か話でもあるのか」
女「はい。色々と話しておきたいので」すっ
女「……悪魔憑き仲間として」こそっ
男「……!」
女「兆候が見られてからずっと待ってたんですよ。本当は放課後と言わず今すぐお話したいのですが」
女「これを片付けなければならないので」ばくばくばくばく
――放課後、女の部屋――
男「えーと、そうだよな。他に聞かれたら不味い話なんだよな」
女「ええ。気が違っているのかと疑われます。あ、お菓子どうぞ」ごとん
男「大皿にカントリーマアム山積み……」
女「さて、昼に言ったとおりに、私も貴方と同じく悪魔憑きです」
女「普段話してる人が悪魔憑き仲間になるなんて夢にも思いませんでしたから、ちょっとあがっちゃってます」にこにこばくばく
男「……もしかして、その食事量は」
女「はい、これが私の悪魔がもたらす副作用によるものですよ」
男「でも俺、そういう副作用みたいなやつは感じてないぞ」
女「自分で気がついていないんですか? 今日、すれ違う女の子が皆貴方の事を見ていましたよ」
男(……そういえば、淫魔がどうとか)
女「なんとも形容しがたいのですが、何となく魅力的に見えるんです」
女「それ以外にも、悪魔が接触したような気配がびびっと」
男「何それ」
女「私にも何か、感じませんか?」
男「……暴食が印象に残りすぎてさっぱり」
女「あ、あはは……とにかく、これから悪魔憑き仲間として、より強い絆を!」さっ
男「……まあ、いいか。よろしく、先輩」がしっ
――夢――
男「……さて、と。あれ、淫魔姫は?」
女執事「……初恋の相手にあんな反応をされて、出てこられるわけが無いでしょう」ぬっ
男「どわっ」
女執事「一体どういうおつもりですか。あんなにお美しくかつ可愛らしく、淫気無しでも思わず交わりたくなるほどの女性である姫様にあんなことをするなんて」
女執事「貴方が仮にゲテモノ趣味だとしても、デリカシーがあまりにも欠損しています」
男「それを謝って、訳を話したくてここに来た」
女執事「……まず私に言ってみてください。貴方がまた姫を傷つけるかもしれない」
男「……性的なことが、嫌なんだ」
男「具体的に言うと、唇を重ねる、性的な目的で身体を触る、擬似性交を含む性交とか、想像すると、吐き気が、する」
男「一年前からずっとこうなんだ。理由は分からない。けれど、自分で抑えられるものじゃないんだ」
男「だから淫魔姫を傷つけたのは、女執事さんが言うとおり全部俺の責任だ」
男「淫魔姫に魅力が無いわけでもないし、俺が淫魔姫を嫌っているわけでもない」
男「淫魔姫は何も悪くないって、そう言いたかったんだ」
女執事「……わかりました。先ほどは勝手に無礼なことを言ってしまい、申し訳ございませんでした」
女執事「後ほど、私のほうから姫に伝えておきますので――」
淫魔姫「――その必要はありません、女執事」ふわっ
女執事「姫様! お体はもう大丈夫なのですか」
淫魔姫「大丈夫ですよ。何より、大好きな人がこの空間に来てくれたんです」
淫魔姫「顔を合わせる勇気はありませんでしたが……それでも、会いに行きたいと思うものでしょう?」にこっ
男「……改めて、謝らせてくれ。本当に申し訳ないことをした」
淫魔姫「私も、悪いところはありました。男さんはえっちなことが嫌だって、先に言ってましたから」
淫魔姫「ですから、今日のところはおあいこということにしてくれませんか?」
男「ああ、うん。ありがとう。ありがとう……」
淫魔姫「それで、その……駄目なことは分かったんですが、どこまでなら大丈夫です?」
男「へ?」
淫魔姫「手を、つなぐとかは」どきどき
男「ああ、そのくらいなら」すっ
淫魔姫「……っ! はいっ」きゅっ
男(両手でしっかりと……なんだろう、小動物的だ)
淫魔姫「あのっ、抱きつくのは大丈夫ですか!」
男「あー……いろいろ不自然に押し付けたりしなければ大丈夫なはず」
淫魔姫「し、しつれいしますっ」がばっ
男「うおっと」
淫魔姫「……えへへ」
男(……あ、いかん。ときめいてる。エロ方面のときめきじゃないから体調に問題は無いけど)
女執事「姫様……なんと健気な」ほろり
男(あと男と姫が抱き合ってるのを見て感涙する世話役もどうかと思う)
淫魔姫「男さぁん……」すりすり
男(……頬ずりくらいなら! 猫もやるし! 信頼を示すためにやるし!)
淫魔姫「……すー、はー」くんくん
男(……恋してるとどきどきするよね! 深呼吸もしたくなるよ!)びきびき
淫魔姫「男さんのにおい……あ、ん、あぁぁんっ」くちゅくちゅ
男(……無理)げぼぉ
……
男「ゲロ濡れの枕を洗って、俺の朝は始まる」きりっ
男「……決まらねー」
――昼、高校――
女「……」がつがつがつ
男「とうとう重箱か。……それ、金銭的には大丈夫なのか?」
女「ごきゅ。……はい、金運がいいので」
男(それも悪魔の能力、ってことか)
女「親が宝くじを当てましてね。食費に幾ら使っても文句を言われません」
男「恩恵が自分にめぐってくれば過程は問わないんだな」
女「ええ。しかし――」
女「この一週間で、すごいモテようですよね」
男「ああ、すごく困る。ボディタッチとか苦手なんだが」
女「相変わらずの潔癖っぷりで」
男「潔癖というか……なんなんだろう。分からん」
――夜、帰路――
男(女と自習してたら遅くなって、逆ナンパを避けてきたらもうこんな時間か)
男(ちょっと遠回りになったから、急いで帰らねば――)
??「そこの少年、止まれ」
男(何だ、また逆ナンパか?)くるっ
鎧「……」
男「は?」
男(全身西洋式の鎧姿。……逆ナンパじゃない。変質者だ)
男「すんません急いでるんで」だっ
鎧「まあ、待て」ごっ
男「があっ!?」どさっ
鎧「少年、悪魔憑きだろう」
鎧「この地に配属された当日に出会えるとは、これも神のお導きか」
男「ぐ、お」
鎧「突然すまないな。だが悪魔憑きは総じてクズだ」
鎧「よって、騎士団が一人、女騎士がお前を殺す」がしゃん
男(は、は。最近多くね、こういう中二展開)
男(妄想じゃなくて現実なのが、厄介だけど)がくがく
男(とりあえず、なんとかしなきゃな)
男「ちょっと待った。俺は何もしてないぞ」
鎧「悪魔と契約したではないか。気配は分かる。言い逃れできんぞ」
男「契約したけど、なんでそれだけで殴られなきゃいけないんだ」
鎧「それだけで罪なのだよ。悪魔を身に宿すということは」
鎧「それにな、少年。殴るのではない。殺すのだ」ゴォッ!
男(助走もなしに加速した!? 背中にジェットでもついてるのかよ!)
鎧「だから死ね」
男(あ、やばい、死んだ。避けれない)
かちり、と、何かが切り替わる音がした。
女騎士「……む?」
男「あれ?」
気づけば、俺は女騎士が突き出した拳の下に潜り込んでいた。
女騎士「なかなかいい反応速度じゃないか」ばばっ
反撃を警戒してか、女騎士は俺から数歩飛びのく。
……しかし、何が起こったのやら。
俺はただの高校生で、部活も運動部ではなく半分機能していない文芸部だ。
ゲームもあんまりやらないから動体視力がすぐれているわけでもない。
でも、先ほどの一撃を避けれたのは事実、なんだよな。
そしてあの鎧、見た目からは想像もつかないほど軽い動きを実現している。
つまり俺がやるべきことは、
男「逃げて、避けるッ!」だっ
女騎士「無駄だと言っているだろう!」ゴッ!
後に飛びのくと、予想通り直線で突っ込んでくる。
足も動かしてないみたいだし、爆音がしてるし、やはり推進器がある。
女騎士「着地は、どうだ!」
俺が着地した瞬間に、女騎士が右足を振り上げて俺の胴体を蹴り上げようとするのが、見えた。
すぐさまつま先だけで地面を蹴り、それから逃れることが、できた。
女騎士「なっ!」
女騎士が驚く。俺も驚いてる。
あんな速さの攻撃を見切るのも、あんな早さで地面を蹴るのも、これまでの俺にはできなかったことだ。
淫魔姫との契約で身体が強化されて、とかも思ったが、足の筋肉がやたら痛いから無茶な動きだったんだろう。
契約で何かが変わったのは分かるが、身体能力ではない。
男「いだだだだ」ふらふら
足以外にも、頭も痛い。
何となくじりじりとした痛みがある。
女騎士「せいっ!」ぎゅおっ
掛け声と共に、女騎士が右足を上げたまま左足で跳ねる。
そして背中のジェットで加速して突っ込んでくる。そんなに蹴りが好きか。
瞬間、足と頭の痛みを感じなくなった。心置きなく前に飛び込んで女騎士の下をくぐる。
くぐり終えるとまた痛みが。何なんだ。
女騎士「格闘技のおぼえがあっても、この速度は異常だ。おのれ悪魔憑きめ……」
でもこれ淫魔なんですよお姉さん。
女騎士「しかし避けてばかりということは……ふ、この鎧のバッテリー切れを狙っているな」
男「……」
図星だが、奴も馬鹿だ。
確かに俺はその鎧は一部機械仕掛けで装着者のアシストをしていると思った。
しかしそれはただの仮説であった。それを自分でばらしやがった。
男「そうだよ。作戦がばれたところでどうってことない」
ハッタリをかまして一時撤退してくれないかな、などと期待してみる。
だが、それは即時打ち砕かれることとなる。
女騎士「ならば、このアームガトリングによる弾幕でけりをつけよう」ガシャン
……いや、それは酷い。
女騎士「これならお前がどれだけ早く反応しても無駄だろう?」
そのとおりですが。
女騎士「では改めて死ね」キュイイイイ……
ドラムが回り始め、俺を殺す弾丸を放たんとする。
……まあ、人生最後の数日としては、波乱万丈で面白かったかな。
今まさに俺が死のうというその瞬間。
数秒後に俺が血糊と骨と脳漿をばらまくだろうというその時。
女騎士「ぶげぅっ!」がっしゃあん
女騎士が、何かに衝突されて真横にぶっ飛んでいった。
そして女騎士が先ほどまで立っていたところでは、
女「しゃあ……しゃあぁぁぁぁぁぁ!」
雄叫びを上げる我が学友が、背中に翅を生やしていた。
昆虫にあるような、透明で脈の走っているやつだ。
男「お、女、さん?」
女「おや男さん。無事ですか?」けろっ
男「いや、今何を」
女「大丈夫ですよ、防具があったみたいですし、そう大きな怪我にはなってないでしょう」
生身だったら死ぬ速度でぶっ飛んでいったんですが。
ぶつかった壁、ヒビ入ってるし。
女「流石に殺すまではやりませんよ。それでは行きましょう。折角ですし、私の悪魔の紹介も」にこにこ
男「……そんなキャラだっけお前」
――女の部屋――
男「前回来た時も思ったんだが、親は?」
女「私の金運で手に入れたお金で旅行してますよ」
女「あと、父は都会のほうに転勤になる予定で、母はそれについていきます」
女「私は学業を優先して残りますけど」
男「……つまり、暫く一人暮らしってことか」
女「ええ。お金もたくさん置いていってもらいましたし、食べるものには困りませんから問題はありません」
男「時間はどうなの。毎朝あの量の弁当作るのは大変そうに見えるんだけど」
女「おかげで時間短縮のテクニックがついてます」
女「さて、それでは本題に移りましょう。――来て下さい。蝿の王よ」
女が言うと、彼女の隣に半透明の映像が映る。
sf映画なんかでよく見るアレに近い。
それは、巨大な蝿であった。体の厚さが女の身長ほどもある、巨大な蝿であった。
蝿の王「よう少年。悪魔憑きライフはどうだ?」
そして思った以上にラフだった。
男「よく分からん。何が変わったかも分からないし」
女「おや、能力をまだ使えないんですか」
男「何それ」
蝿の王「おいおい、教えてもいないなんてどこの三流と契約したんだ?」
男「淫魔の姫とか言ってたけど」
というか、このくそでかい蝿と会話ができている俺も段々こういう環境に慣れてきてるってことなんだろうか。
蝿の王「王族でそれかよ。淫魔も随分堕落したもんだな、おい」
女「……その、淫魔って、あれですよね」
男「多分想像してるとおりで合ってるよ」
男「正直参ってる」
女「その、具体的にはどういう」どきどき
蝿の王「おや、お嬢ちゃんも年頃だからねぇ」
女「からかわないで下さいっ」
男「いや卑猥なことしようとしてくるけど、そういうの俺駄目だからさ」
男「毎朝ゲロ濡れの枕を洗ってるよ」はあ
女「あ、……なんか思ってたのとは違いますけど、大変そうですね」
男「全くだ」
蝿の王「お前さんも大変だが、淫魔のほうもまた厄介なのと契約したな」
女「それはそうと、はい、紹介でしたね」
蝿の王「それはいいがな。あまり無闇に手の内を晒すものじゃないぞ」
女「彼は私の友達ですから、大丈夫です」
男「ども。……面と向かって言われると恥ずかしいな」
女「えーと、私は今、蝿の王の能力の一部をコピーして使えます」
女「ひとまずは怪力と飛翔能力と、虫の使役ですね」
男「二つはさっきやってたからわかるんだけど、虫の使役?」
女「虫などの生き物と心を交わし、使役できるんです。さっき男さんを見つけてくれたのはこの蛾ですね」そっ
男「……今更だけど、虫とか平気なんだ」
女「こんなのがいつも傍にいれば、それは」
蝿の王「言うじゃないか、我が主も」くっくっ
女「で、さらにそれだけではなく――」
蝿の王「おっと、それ以上は言うなよ。流石に駄目だ」
蝿の王「何と言っても、この俺の最後の隠し球だからな」
女「む、なら仕方ありません。ちょっと興奮して話しすぎていたようです」
男「それにしても随分盛りだくさんなんだな。さっき言った以外にも金運が上がったりするし」
女「食費で相殺ですけどね。……男さんの能力は何なんでしょう」
蝿の王「やたらといい動きしてたが、アレか?」
男「多分そうだと思うんだけど、淫魔と何の関係が――」ふらっ
男「――あれ?」どたん
女「お、男さん? 大丈夫ですか?」
蝿の王「そりゃあ今日はあの鎧に追い掛け回されてたし、疲れてるんだろうよ」
女「大丈夫ですか、帰れますか」
男「うぐ、がんばってみる」もぞもぞ
蝿の王「何言ってんだ。泊めればいいじゃないか」
女「貴方こそ何言ってるんですか!」かあっ
蝿の王「おいおい、疲れてるこいつを連れてきて話につき合わせてたのはお前だろ」
蝿の王「それが無ければ、こいつは今頃家に帰れているだろうな」
女「うぐ。……男さん、父の寝室に運びます」がしっ
男「……おー、よろ、しく」
――夢――
男「……あれ」
淫魔姫「こんばんは、男さん」
男(……淫魔姫が俺の顔を上から覗き込んでる、ってことは)
男「膝枕?」
淫魔姫「はい。……っあ! 駄目でしたかっ?」あせあせ
男「いや。……しばらくこのままで頼む。まだ頭が痛いんだ」
淫魔姫「すみません、でもああするしか無くて……」
男「やっぱりあれって淫魔姫の?」
淫魔姫「はい。能力の説明ができなくて、申し訳ございませんでした」
男「いや、それは多分俺の責任でもあるし」
男「とりあえず、説明を頼む。またあんなやつに襲われたらたまらん」
淫魔姫「ええと、まず騎士団について説明したほうがいいでしょうか」
男「あれ、あいつってただの変質者じゃないの」
淫魔姫「一般人があんなにはいてく兵器を持っているわけないでしょう……」
淫魔姫「騎士団というのは、平たく言えば悪事を働く悪魔憑きを狩るための存在です」
淫魔姫「警察の手には負えませんし、軍隊を出すには大事過ぎます。そこで精鋭を集めて騎士団を編成したのです」
淫魔姫「……彼らが狩るのは『悪事を働く』ものだけのはずなのですが、どうしてでしょう」しょぼん
女執事「その実態が、悪魔憑き全てを害悪と見なす殺戮機関だからですよ」すっ
女執事「二世紀ほど前は、そんなことは無かったのですが。まあ組織の腐敗などめずらしいことではありませんし」
淫魔姫「ど、どうして教えてくれなかったんですか!」
女執事「それを教えたら、奥手な姫の事ですから、余計にこの方との契約にてこずるかと思いまして」
淫魔姫「うう……」
淫魔姫「すみません男さん、私の無知のせいで、こんな目にあわせてしまって」
男「……いや、あの変質鎧が悪いんだろ。淫魔姫は悪くない」
男「目をつけられたことは仕方ないし、その対策のためにも、能力について教えて欲しいんだ」
淫魔姫「男さん……」じゅんっ
男「ごめん足をもじもじさせるのやめて。深読みしてゲロる」
――朝、通学路――
男「今朝はいろいろありがとう」
女「ま、まあ、私にも責任がありましたし。朝ごはんくらいは提供しないと」
男「さすがの手際のよさだったよ」
女「毎日やってることですから、一般人一人分増えたところでどうということはないんですよ」
男(……そりゃあ、女は朝からあの量だからな)
女「ところで、能力の使い方は分かりましたか? 蝿の王から、淫魔は夢で契約者と関わると聞いたのですが」
男「うん、しっかり教えてもらったよ」
男(女執事にな。淫魔姫だとなんか勢いあまってゲロりそうだし。流石に人の家で吐くのはちょっと)
女「ほう。ほうほう」にやり
男「……何だよ」
女「いえ、何でも。それより今日の放課後もご一緒していいですか?」
男「? いいけど」
――夜、帰路――
男「……あの、女さん?」
女「はい、なんでしょうか」
男「ここ、襲われた場所なんですが」
女「そうですね。つまり――」
女騎士「また会ったな、貴様ら」がしゃん
女「こういうことですね」
男「……女の意図が掴めないんだけど」
女「修行の成果をみせてやれ! ってことですよ」ばひゅん
男「飛んだ! 逃げた!」
女騎士「くそ、速いな。仕方が無い、今日は貴様だけで我慢することにしよう」すっ
男「おのれ……」
女騎士「ちょこまかと避けられるのも面倒なのでな」がしゃん
男「またマシンガンかよ……」
女騎士「そうだ。いきなり悪いが死んでもらう」
男(……ノルアドレナリン過剰分泌。闘争か逃走かの態勢に)かちっ ぎゅん
女騎士「! このっ」がががががが
男(これで集中力と筋収縮速度が増加。前回の反応速度もこれのおかげらしい)
男(ちょっと無理して弾を避けてるが……鎧に攻撃が通るとも思えないし、逃げる)だっ
女騎士「ええい、まだ逃げるか!」しゅうううう ごっ
男(ジェット噴射からの打撃……)
男「それは何度も避けてるだろ!」さっ
女騎士「ちいっ!」がしゃん
男(ジェットで接近してマシンガン、を繰り返すつもりか)ばばっ
男(……なら、時間まで逃げ切るしかないよな)
……
男「……」ぜぇぜぇ
女騎士「……くっ」はあはあ
男(マシンガンの弾は、切れたみたいだな)
女騎士「せぇいっ!」ごっ ぎゅおん
男「うおっと」ひょい
女騎士「くそ、くそ……何で、息が」はーっ はーっ
男「……やっと効いてきたか」
女騎士「何を、した」
男「敵に教える馬鹿はいないさ」
男(……『淫気』って、これ普通はこういう使い方じゃないんだろうなあ)
男(身を守るために使うならこれしかないけど)ふう
男(淫気を周囲に噴出して周囲を包み込み、相手を徐々に蝕む)
男(淫気の効果で相手は次第に興奮して、)
女騎士「……」ふーっ ふーっ
男(結果、息も荒くなって体力の消費が激しくなる)
男「大丈夫か。一度引き上げたほうがいいんじゃないか」
女騎士「……っ、舐めるな!」ごぅっ
男「打撃の狙いもブレてきてるし」ひょい
女騎士「……うあ」ばたん
男「お?」
女騎士「……」はぁはぁ
男(疲れ果てた? ……いや)
女騎士「こんな、くそ、なんで」はーっ はーっ
女騎士「お願いだ、やめてくれ、こんなところで、私はっ」はーっ はーっ
男(これは……)
女騎士「もう、がまん、できなくなってしまっている……っ」ぴく ぴくん
男「むしろ俺がピンチ!」だっ
女騎士「ふあ、ああ」かちゃかちゃ がしゃん
女騎士「ふーっ、ふあ、ぅぅぅんっ」すりすり
男「やめろいやらしい声を出すなあああああああ」だだだだ
男「逃げ、きったか」ぜぇーっ ぜぇーっ
男「命があってよかったと、考えるべきなんだろうな」
女「お疲れ様です、男さん」ひょこっ
男「全くだ。くそ、少なくとも能力は主人公向きじゃないんだよ俺は」
女「その、あのですね」もじもじ
男「……まさかとは思うけどさ」
女「私も、淫気を吸ってしまったみたいで」かぁっ
男「ひっ」
女「ねえ、男さん……」ぽーっ
男(しかも自動的に発動する『誘惑』も入ってるし)
男(逃げようにも頭が痛いし)
男「……えひゃ」げぼぉ
――夢――
男(あの後、何とか自力で帰宅して無事に就寝できたけど)
淫魔姫「……」むすっ
男「……どうしたのさ、淫魔姫」
淫魔姫「女さんばっかりずるいです」
男「は?」
淫魔姫「私が男さんに甘えないように我慢してるのに……」ぷくっ
淫魔姫「女さんは男さんと夜道を一緒に歩いたり、男さんに迫ったりしてます」
男「いや一緒に歩いてたのは俺を戦わせるためだし、迫ってきたのは淫気のせいだし」
淫魔姫「分かってますけどー」
男「……あー、ごめんな、淫魔姫」なでなで
淫魔姫「……はぅ」とろん
男「今日のところはこれで許してくれないかな」なでなで
淫魔姫「男さんっ」がばっ
男「うおっ」
淫魔姫「男さん、男さん」すりすり
男「だから、それを、やめろと」ぷるぷる
淫魔姫「あっ、……すみません」ぱっ
男「ぶは。……よし、まだ大丈夫。耐えた」
淫魔姫「私も、我慢します」ぷるぷる
男「……やっぱり淫魔にとって、そういうのって当然なの?」
淫魔姫「契約者に対しては、挨拶代わりみたいなものです」ぷるぷる
男(正座して縮こまって……うん、やはり小動物的だ)
――休日、街――
男「今朝は久々に安眠できたから調子がいいし、ちょっとふらついてみようかな」
男(こんなに人目につく場所で襲ってくるような馬鹿もいないだろうし)
……
男(……逆ナンパは多いけどな)はぁ
スーツ姿の金髪女「やあ、そこの少年」にこにこ
男(またかよ、……って、この声は)
スーツ姿の金髪女「ちょっとそこの喫茶店でお茶でもしながら話をしないかい」ぽん
女騎士「……さもなくば、このまま肩を砕く」みしぃ
男「ひぃっ!?」
男(マジで女騎士さんですか!)
――個室喫茶――
女騎士「突然捕まえてしまって済まないな。今日は危害を加えるつもりはないから安心しろ」
男「既に肩がけっこう痛いんですが」
女騎士「何だ、それくらい。男だろう」
男「普通の女の子は出会い頭に肩を砕くとか言わない」
女騎士「つまり私は特別ということだ。騎士団の一員として生きると決めたとき、そうなると覚悟していた」
男「何でいきなりシリアスな方向に話を持っていくんだよ……」
女騎士「それはともかく、今日は話があってな」
男「……何」
女騎士「その……あの、昨日のことなんだが」
男「……ああ、あれな」
女騎士「あれを、何らかの記録媒体に保存してはいないだろうな?」
男「はあ?」
女騎士「たとえば、録音、録画、写真撮影。文章でも何でも、何かしら記録してはいないよな?」かぁぁ
男「……したいとも思わないよ。すぐ逃げただろ、俺」
女騎士「む、夢中で何も見えてなかったんだっ」
女騎士「って、あの、その、やっぱり今のは無しで」かぁっ
男「はあ」
男「とにかく、記録はしてないし、これからするつもりも、誰かに話すつもりも無い」
女騎士「そうか……よかった」ほっ
女騎士「話は以上だ。勤務中に会ったら、次は殺す」がたっ
男「……よし。待った」
女騎士「ん? ああ、代金は私が払っておこう」
男「俺の時間を、コーヒー一杯分の金で買った気でいるのか?」
女騎士「……何?」
男「俺も、お前には聞きたいことがあるんだよ」
女騎士「……当然だが、私はお前に話すことなど無い。我々の情報を漏らすわけにはいかないからな」
男「そうか。なら――普通にナンパとかしてみようかな」
男(こういうのは好きじゃないが……『魅了』!)すうっ
女騎士「何を言って……っ!?」どきっ
男「そうだな、綺麗な髪の色してるけど、地毛なの?」
女騎士「あ、ああ。生まれつきだ。一応手入れは怠らないぞ。礼儀として」そわそわ
男「へえ、手入れもしっかりしてるんだ。確かに艶があっていい」
女騎士「私個人としてはそう拘りたくないのだが、周りがうるさくてな」
男「そりゃあうるさく言うさ。目鼻立ちも綺麗なんだからもったいないし」
女騎士「なっ……、あ、ありがとう」かぁっ
男「でもこだわっていないって言うけど、憧れてる人とかいないの?」
女騎士「異性として憧れている人はいないが、隊長のことは尊敬しているぞっ!」
男(……釣れた!)
男「羨ましいねぇ、その隊長さん。どんな風に凄い人なんだ?」
女騎士「私も話に聞いただけなんだがな、百戦錬磨の猛者らしい」
女騎士「性格は少しクセがあるとも聞いたが、日々悪魔憑きと戦う勇者だ。きっと哲学的なのだろう」
女騎士「その傾いた十字が描かれた特殊型の騎士鎧が戦場に煌けば、我々の勝利が決まると言っていい!」
男「そいつは凄いな。でもあった事が無いってのは残念だよね?」
女騎士「ああ、それがだな! 来週こちらに赴任なさるらしい!」
女騎士「悪魔憑きを処分できなかった私の失態が原因だが、何にせよ実際に会えるのだ!」
男(……ぼろぼろ情報漏洩してるけど、魅了ってこんなに強力なの?)
男「そうか、色々と情報ありがとう」
男(……効きすぎて怖いし、そろそろやめておこう)しゅうっ
女騎士「……!? な、私は、何を言って……」
女騎士「貴様の仕業か。おのれ、卑怯な真似を……!」がたっ
男「ここで騒ぎを起こすと、色々と面倒になると思うんだけど」
女騎士「……ちっ」どかっ
男「女の子らしくない座りかただねえ」
女騎士「や、やかましい。早く消えうせろ」かぁっ
男「はいはい」がたっ
男「あ、伝票もらっていくぞ。そっちがくれた情報のほうが大きかったし」ぴらっ
女騎士「………」ぎりぎり
……
女騎士「くそ、何たる体たらくだ」
女騎士「ここ最近、まるで仕事が上手くいかないぞ。騎士団の中では上位なのに、これでは下の者に笑われる」ぐぐぐ
ウェイトレス「失礼します。チョコレートケーキを運んでまいりました」かちゃり
女騎士「……頼んでないが?」
ウェイトレス「先ほど同席なさっていたお客様が、お支払いと一緒に注文を。もちろんこちらの代金もその方が」
女騎士「……情報料のつもりか、これも」ぼそっ
ウェイトレス「しかし……お客様、彼氏さんとケンカでも?」
女騎士「なっ……はあ!?」
女騎士「私があんなクズに惚れるわけがないだろう!」ばんっ!
ウェイトレス「ひっ!? し、失礼しました」たたたっ
女騎士「……はっ、取り乱してしまった。まだ奴の術が残っているのか?」
女騎士「……それ無しにしても、何故奴は私の好みを知っているのだ」はあ
――数日後、昼、高校――
女「ああ、男さん。そういえば今朝ラブレターが届きましたよ」
男「唐突だな」
女「こんな感じの」ぺらっ
男「……思いっきり『果たし状』って書いてあるじゃん。達筆に」
女「ええ。男さんが前に言ってた、『隊長』とかいう人から」
女「一対一での果し合いをしたいらしいです」
男「……何かの罠じゃないのか。待ち合わせ場所に行ったら囲まれているとか」
女「それでも行ってみますよ。面白そうですし」けろっ
男「はぁ?」
女「それに、何人に囲まれても私が負けるとは思えませんからね」ぐっ
男「いやいや、それでも危険だろう」
女「無視したらいずれ向こうから襲ってきますよ。不意打ちされるよりはこちらから向かったほうがましです」
男「そりゃあ、そうかもしれないけど」
男「あ、じゃあ俺も一緒に――」
女「来てどうするんですか」はあ
男「……うぐ」
女「大丈夫ですよ。ちょっとでも危なくなったら全力で逃げますから」
女「それに、隠し球もありますからね」
男「……その隠し球、随分信頼してるみたいだけど」
女「はい。だから大丈夫なんですって」
女「それに……すごく、わくわくするんです。相手もそこそこ強いでしょうし」うずうず
――夢――
男「どうしたものか」
淫魔姫「どうかしましたか?」
男「……いや、使いこなすのが難しいんだよ、この能力」
男「特に、俺にとっては」
淫魔姫「すみません……」しょぼん
男「ああ、いや、淫魔姫が悪いんじゃ無くてな」
男「そうだ、何かさらに有効にこの能力を使う手段とか、一緒に考えてくれないかな」
淫魔姫「ふぇ、一緒に、ですか?」
男「うん。ほら、淫魔姫のほうが詳しいだろうし。頼らせてくれ」
淫魔姫「……はいっ」ぱあっ
男(……たぶん女執事のほうが詳しいけどな)
男「それで、何かあるかな。あの淫気の使い道」
淫魔姫「ええと、……何があるでしょうね?」
男「……よし、じゃあ特徴を整理しよう。何ができるんだっけ」
淫魔姫「はい。作用は相手を主に性的に興奮させること」
淫魔姫「あとは、放出のオン・オフと濃度、淫気の流れる方向ですね」
男「待て、流れる方向?」
淫魔姫「はい。聞いていませんでしたか?」
淫魔姫「淫気は霧のようなものではありますが、自然界を流れる風に左右されません」
淫魔姫「流れる方向を自由自在に操ることができますよ。向かい風の向こうにいる人もむらむらですっ」
男「……なるほど。やりようによっては戦術の幅が広がるかもしれない」
淫魔姫「本当ですかっ」ぱあっ
男「ああ。教えてくれてありがとう」
淫魔姫「えへへ……、あ」
男「どうかしたか?」
淫魔姫「すみません、男さん。契約者が使えるのは、その悪魔の能力の劣化コピーなんです」
男「……となると」
淫魔姫「……その、流れの操作は結構難解でして、その」
男「無理かもしれない、と」
淫魔姫「……はい」しゅん
男「……いやいや、でもちょっとはできるかもしれないし、知らないよりはよかったんだよ」なでなで
淫魔姫「はう、男さん……」じゅんっ
男「だから一々塗れるな股をこすりつけるな」けぽっ
――数日後、工場倉庫跡――
女(全方位を囲む頑丈な壁、地下にある割りにドーム球場並みに高い天井)
女(行き届いた証明設備……これ、本当にただの倉庫跡ですか)
女「来ましたよ。約束どおり、一人で」
『ふっふっふっふっ……』
女(……スピーカーから?)
『はっはっはっはっは……!』ウィーン
女(床の一部が、開いて……!)
「とうっ!」がしゃん
隊長「よく来たな戦士よ! 私が騎士団最強、かつ人類最強の存在! 隊長である!」ジャキィィィン
女「いや渋みのある声のおっさんが効果音スピーカーから流すのはどうかと思いますが」
隊長「かっこいいだろう? 貴様用にも、部下にそれっぽいものを作らせてもいいが」ふふん
女「遠慮しておきます」
隊長「折角だ。君もかっこよく名乗りを上げることを許可する」
隊長「さあ、恥じることなく高らかに――」
女「いいから、さっさと始めませんか」
女「何人がかりでも構いませんから、さくっと終わらせましょう」
隊長「一対一の果し合いと言ったのは私だぞ、乙女よ」
隊長「この誉れ高き私が、そのような下劣な真似をするとでもお思いか!」
女「……っは、思い上がりも甚だしいですね」
女(一応、こっそり放っておいた虫たちからも何の連絡も無い。全員無事)
女(本当に、ヒーロー気取りですか)
隊長「私が思い上がっているかどうか、実際に確かめるのだろう、これから!」ビシィ
女「……はあ」
隊長「いざ!」
女「……?」
隊長「……じ、尋常に!」
女「……、勝負?」
隊長「よく言ったぁ! 勝負ッ!」ゴォッ
――街中――
男「うぉっと!」ひょいっ
女騎士「逃がさん!」ギュオッ
男「女を呼び出したのはこれが目的か!」さっ
男「俺たちを切り離して、各個撃破か」
女騎士「それもあるが、隊長が強者との一騎打ちを望んだことと」
女騎士「私が、貴様へのリベンジを果たすためでもある!」どがん
男(仕方ない、また淫気を撒いて……)さぁっ
女騎士「言っておくがな、今回の騎士鎧は特別製――」
女騎士「貴様が撒く毒のようなものを吸わずに済むよう、酸素ボンベを搭載した!」
男「よくやるよ、本当に」
女騎士「ちなみに激しい運動を続けても一週間は持つ」
男「……よくやるよ、本当に!」
――工場倉庫跡――
隊長「はあっ!」
短い雄叫びと共に、隊長の体が跳ねる。爆音も火も見えないため、女騎士が使っていたようなジェットによる突撃ではない。
にもかかわらず、
女「速すぎ、でしょう!?」
女騎士のそれと同程度の速度で、その隊長は突進してきた。
想定外の速さに度肝を抜かれた女は、すぐさま横に飛んでそれを回避する。
隊長「やるではないか、乙女よ! それでこそ私が求めた強敵!」
声を弾ませて、隊長は逃げる女を真っ直ぐに追いかける。
先ほどと変わりない、異常な速度だが、
女「もう、驚きませんよ」
翅を使って方向転換を行い、女はそれに真正面から飛び込む。
相手の突進の威力を活かし、一撃で仕留めるつもりだ。細腕を振りかぶり、隊長の身体を鎧ごと潰そうとした。
しかし、隊長はそれを難なく掌で受け止め、女の拳を掴む。
あろうことか、後ろに跳んで威力を殺すことまでやってのけた。
女「な……っ!」
女は驚愕するが、それだけでは終わらない。
掴まれた拳が、熱い。
隊長「シャイニングゥ……!」
がっしりと女の拳を掴みながら、隊長が高々と叫びだす。
悪寒が走り、女は隊長の腕を蹴り上げて逃れようとする。
隊長「フィンガー!」
何とか女が引き抜いた拳の先に、隊長の鎧の掌から噴出した光の刃が突き刺さる。
正しくは、高温で熱せられて真っ赤になった鉄の杭だが。
女「くっ……ああっ!」
付け根の辺りに焼けた穴が開いた中指を庇いながら、女は隊長と距離をとる。
隊長「ふっふっふ、やっぱりかぁっこいいなあー! わざわざコレのために義手にしただけはある!」
がしゃんがしゃんと杭を出し入れしながら、隊長は恍惚の表情を浮かべる。
よく見ると、それは鎧で覆われた図太い腕の延長上から出ている。
隊長「杭の通り道を考えると、こうやって掌を突き出さないと使えないのが欠点ではあるが……かっこいいからよし!」
新しいおもちゃを手に入れて遊ぶ子供のように、無邪気に言う。
それとは対照的に、女は苦悶の表情を浮かべていた。
隊長「どうした乙女よ。まさか、指一本で降参とはいうまいな」
勢いよく指をさしながら、隊長は女を挑発する。
確かに、女は彼を恐怖している。指を焼かれたことでなく、その言動に。
彼は明らかに遊んでいる。
先ほど、鉄の杭をがしゃがしゃと出し入れして遊んでいたが、それは杭を出すことに時間がかからないということを意味していた。
つまり、先ほど技名を叫ばず素直に杭を打ち込んでいれば、女はもっと深い傷を負っていた。
穴があくどころではなく、そのまま千切れていたかもしれない。
女「……私の悪魔を、あまり舐めないで下さい」
だが、女はその挑発に応じる。ぼこぼこと泡を吹きながら、ゆっくりと傷が癒えていく。
隊長「ほほう、中々面妖な。それでこそ面白い」
隊長は遊んでいる。それでも、こんなにも強い。
それが、恐ろしい異常に、楽しい。
女「それでは、反撃させてもらいます」
女は隊長の懐へ飛び込み、腹に拳を叩き込む。
硬質な音が鳴った直後に、続けて即頭部に回し蹴りを放つ。
隊長「おおっとぉ!」
腹への一撃で姿勢を崩されつつも、隊長は女の足を掴んで蹴りを止める。
女は直ぐに杭が打ち込まれると察する。
女(ここで、引くよりは!)
捨て身の覚悟で、女は掴まれている足を支えにして、もう一方の足で掴んでいる腕を蹴ろうとする。
だが、
隊長「必殺技っていうのはなあ、ほいほいと連発するものではないんだよ、乙女」
隊長は杭を打たず、宙に浮いた女の身体をそのまま床に叩きつける。
女「げ、ぁっ」
隊長「まあ、さっき使ったのは試射だから許せ」
痛む身体と空っぽの肺を引きずって、女は無理やり起き上がる。
そして、天上付近まで一気に飛翔する。
女「はーっ、はーっ」
隊長「ほお、中々根性のある動きではないか」
隊長が感心した様子で女を見上げる。
対して、女は空中で姿勢を保ちつつ、息を整える。
隊長「だが、逃がさんぞ」
隊長がそんな事を言うのが女の耳に届くと同時、隊長は両腕を大きく広げる。
隊長「この騎士鎧凄いよぉ! 流石我が騎士団の最新作ぅ!」
ふざけた調子でそんなことを言いながら、隊長は、一気に、飛び上がる。
女の、目の前まで。
女「はぁっ!?」
隊長「月光蝶である!」
隊長「神の世界への引導を渡してくれる!」
隊長は背中と足の裏にあるジェットを噴かせながら、真正面から女を殴る。
その拳も速い。腕にもジェットがついているようだ。
女「……ぎ、ぃぃ!」
だが、その拳は届かない。
隊長「……ぬ、お?」
ゆっくりと、背中から床に向かっていく。
その横腹には、矛が一本生えていた。
隊長「お、のぉぉぉぉれぇぇぇぇぇ!」
女「貴方にはこっちのほうが有効みたいですからね」
それはスレ立てし直すって意味?
書き直すって意味?
>>115 新しくスレ立てようとか思ってました。
やっぱり無駄なスレ立てを避けるためにこのスレの中で仕切り直しにしたほうがいいですかね。
というわけで>>78あたりから書き直してこのスレに書きます。
>>78-112は無かったことに。
>>78改変
女騎士「何を言って……っ!?」どきっ
男(意識して効果を強めたのは初めてだが……効いたみたいだ)
男「それにしても大変だよな。この辺の悪魔憑きは一人で担当してるのか?」
女騎士「あ、ああ。これでも騎士団では有力だからな。これくらいどうってことない」
男「おお、やっぱり強いのか。こんなに綺麗なのに」
女騎士「う、ぐ、……あり、がとう」
男「でも気になったんだが、何で悪魔憑きを狩ってるんだ」
女騎士「……悪魔憑きは、悪、だから、だ」
男「そっか、悪いからか。ちなみに具体例は?」
女騎士「例を挙げるまでも無い。悪魔に魂を捧げるような軟弱者が、正義であるわけがない」
男「……、根拠は?」
女騎士「根拠など――」
男「根拠も無しに、善悪を判断してるのか」
男「無害な悪魔憑きもいるかもしれない。逆に、有益な悪魔憑きもいるかもしれないだろ」
女騎士「かもしれない、という仮定の話をしていては、平和など到底守れない! そう教えられた!」
男「どうせ悪だから、で殺される奴の事、考えたこと、あるのかよ」
女騎士「――悪ではない一般市民が害を被るよりは、ましだ」
男「一般市民が悪ではないと、誰が決めたんだ」
女騎士「ぐ、……うるさい」
男「少し考えれば分かるだろ、間違っていることなんて」
女騎士「……そうか、お前も悪魔憑きだったな」
女騎士「そうやって私を騙して、混乱させようというのか!」がたっ
女騎士「ほら見ろ! これが答えだ! 悪魔憑きなんて皆、滅せられるべきなんだ!」がしっ
男「なっ……」
女騎士「だから死ね。私が殺す」
男(……っ、べ、淫気放出! 全力で!)ばしゅう
女騎士「……ッ!」びくん
男(……あれ、とっさにやったけどやりすぎたんじゃないかこれ)
女騎士「……ふーッ、ふーッ」がしっ
男「……あ」
女騎士「あ、ん、はぁん」ぎゅうっ
男(抱きしめられ、ってか、擦り付けられ)
女騎士「……お前のせいだ」どたん
女騎士「犯されろ。私が犯す」
男「ごぶ、ぉ」べしゃ
男「ぎ、ぃ、いいいいいいいいいい、がぼぉ」ばしゃばしゃ
男(――あ、ぐ)
女騎士「……へ?」
――女騎士の部屋――
男「……、あれ」
男(目が覚めると顔がべたついててゲロ臭い。……えーと、何があった)
男(俺が横になっているのは、硬いソファ。見慣れない部屋で、若干生活感がある)
男(で、通路の奥からシャワーの音。……)
男「ゲロって、失神して、女騎士の部屋に運ばれたってことか」
男「……あれ、これ逃げたほうがいいか」ぐっ
男(あ、駄目だ。身体ふらふらで立ち上がれない)どてん
女騎士「起きたか。少し待ってろ、着替える」ひょこっ
男「あ、はい、ども」
男(……って、何で普通に返事してるんだ俺)
女騎士「……少し話したいことがある。逃げずに待っててくれ」
男(……今のところは、大丈夫ってことか?)
女騎士「あ、い、言っておくがな! 私は何もしていないぞ! お前が倒れたから運んできただけだ!」
男「あ、はい」
……
女騎士「……その、具合はどうだ」
男「吐き気はもう無いけど、全身が気だるくて座ってるのがやっと」
女騎士「そうか……。あ、謝らんぞ。私は悪くない」
男「ああ。霧を使ったのも俺だし、倒れたのも俺だし」
女騎士「……その、いつも、こうなるのか」
男「いつも倒れてるわけじゃないけど、……性的なことをすると、こうなる」
女騎士「それなのに、その悪魔憑きとしての能力なんだよな」
男「ああ。そうだけど」
女騎士「……となると、普段は使えないわけだ」
男「うん。緊急回避にしか使えないな。使おうとも思わないし」
女騎士「うーむ……」
女騎士「もしかして、無害、なのか」
男「そうそう。他の悪魔憑きはどうか知らんが、少なくとも俺と女は無害だぞ」
女騎士「女? あの私を蹴り飛ばした悪魔憑きか」
女騎士「あんな怪力のどこが無害だと――」
男「見境無く乱暴する奴じゃないってこと」
男「その分では、かえって頼もしいんじゃないか?」
男(ついでに市場全体のお金の回りにも貢献してるし)
女騎士「……むう、なるほど」
女騎士「私も力は強いほうだが、正義のためにしか使わないからな」
女騎士「……私も、悪魔憑きに対する考えを改めなければいけないな」
女騎士「これまで、すまなかった」
男(やっぱり、悪い人じゃないんだな)
男「分かってくれてうれしいよ。それと、介抱してくれてありがとう」
女騎士「……む、うむ」
女騎士「今日はもう帰るといい。これからだんだん暗くなってくるからな」
男「そうするよ。……洗面台借りていいか。まだべたついてる」
――夢――
男(無事に帰宅して、課題とかやって、何とか寝たはいいが)
淫魔姫「……」むすっ
男(……またかよっ)
男「えーと、淫魔姫さん?」
淫魔姫「……他の女の子に魅了を使った上に淫気でいやらしくするなんて」
男「いや、仕方ないことで……」
淫魔姫「わかってますけどー」
淫魔姫「……むー」うずうず
男「……変なことするのはやめてくれよ?」ぎゅっ
淫魔姫「ふあっ……えへへ」にこっ
男(……さて、どれくらい持つか)
淫魔姫「仕方ないことですからねー、許します」にこにこ
淫魔姫「そのかいあって、あの人もしばらく襲ってこないでしょうし」ぐりぐり
男「ああ、そうだな。淫魔姫からもらった力があってこそだ」
男(胸に額を押し付ける程度でとどまってくれてるか……)
淫魔姫「そんな、男さんもお疲れ様です」
淫魔姫「元々は、私のせいですし」しゅん
男「そういうことを考えちゃいけないよ」
男「くじの事から考えて、淫魔姫とは何があってもこういう関係になる運命だったと思うし」
淫魔姫「運命、だなんて……その、私も、そう思ってますっ」かぁっ
男(かわいい……が)
淫魔姫「でも、男さんからそういってもらえて、すごく、その」もじもじ
淫魔姫「濡れますっ」
男「はいストップ。これ以上は危険だ」ぱっ
淫魔姫「……はっ。あう」しょぼん
男「……そういう種族だってことは分かってるけどね」
男「俺がこんな体質で、ごめんな。いつも応えられなくて」なでり
淫魔姫「すみません、私もいつもこんな事をしてしまって」
淫魔姫「……夢でしか会えないので、ちょっとはしゃいでしまうんです」
男「そっか。でも俺もずっと寝たままって訳にもいかないからな……」
淫魔姫「……あっ!」
男「どうかしたのか?」
淫魔姫「ありました、方法がっ! 簡単じゃないですかっ!」ぱあっ
――朝、高校――
男(……いや、何をするのかなーとか思ってはいたが)
淫魔姫「今日からこのクラスで一緒に勉強させていただきます、淫魔姫ですっ」
淫魔姫「至らないところも多いとは思いますが、これからよろしくお願いしますっ」ぺこり
男「……なんだこれ」
女「ただの学園ラブコメでは?」
男「それじゃ済まない気もする」
女「まあ、あの子悪魔みたいですからね。様子から察するに、男さんのですか?」
男「……まあ、うん」
男「……で、俺の隣なんだな」
淫魔姫「はい。女執事が手配してくれましたっ」
淫魔姫「具体的には、学校職員全員を……、えーと、骨抜きにして」
男「言葉、選んでくれてありがとう」
淫魔姫「えへへ……」てれてれ
男(……それにしても、何者だ女執事)
女「はじめまして、淫魔姫さん。女といいます」
淫魔姫「はい、知ってますよ、女さん。これまでも男さんを通して、いろいろ観てきましたから」
女「となると、勉強も大丈夫そうですね」
淫魔姫「そこそこついてはいけると思います。でも、教科書が無いので……その、男さん」
男「うん。俺のを見せるよ」
淫魔姫「ありがとうございますっ」
――放課後、高校――
淫魔姫「あの、女さん」
女「ん、どうかしましたか?」もぐもぐ
男(とうとう授業中以外は何か食ってるようになったか……)
淫魔姫「その、今日、これから少しお時間いただいてもよろしいでしょうか」
女「私は構いませんけど」もっしゃもっしゃ
淫魔姫「ありがとうございますっ。それでは男さん、また明日」
男「おう、あまり遅くまで引き止めるなよ?」
淫魔姫「あはは、そうします」
――帰路――
男(……なんか問題でも起こすかと思ったが、大したことは無かったな)
男(俺が吐くようなことも起こらなかったし)
男(……ただ、なあ)
男(クラスの男子がやたらと色めきだってたのにいらっときた)
男「……うわあ、はずかしい。何がとは言わないけど、なんか青い」
――夢――
男「……あれ、淫魔姫は?」
女執事「療養中です。実体化って、結構疲れるんですよ」
女執事「貴方が今寝ているように、彼女も今寝ているんです」
男「生活リズムを昼型に変えたってことか」
女執事「……まあ、それでいいでしょう」
男「しかし、女執事も大分無茶したみたいだけど」
女執事「ああ、それについてはご心配なく」
女執事「こういうときのために、我々がいるんですから」
男「我々、ってことは、流石に一人でやったわけじゃないのな」
女執事「まあ、堕落させて洗脳するくらいなら一般の淫魔にもできますからね」
男(……女騎士にばれたら、俺が殺されるんだろうか)
――数日後、高校――
男「……あれ、淫魔姫は?」
女「今日は見ていませんが。というか、私も男さんにそれを聞こうとしていましたよ」
男「休みかな。そういえば、実体化は疲れるとか言ってたような」
女「私の蝿の王もそんな事を言っていましたが……」がさがさ
女「それでも、早い気が」むしゃむしゃ
男「朝っぱらから肉まんですか」
女「ピザまんです」もりもり
男「……それでよくその体系保てるよな」
女「セクハラですか? まあ、栄養の大半は蝿の王のエネルギーに変換されているのですが」ぺろり
――夢――
男「あれ、こっちにもいないのか」
女執事「……何を暢気なことを」
男「へ?」
女執事「……蝿の王が、何故長期間実体化できるかを、考えなかったんですか」
男「……、あ。エネルギーが、十分あるから」
女執事「そうですね。では、分かりますね?」
男「淫魔姫、今どうしてる?」
女執事「眠っていますよ。昨晩から、ずっと」
女執事「うなされながら、ずっと」
男「……何か、俺にできることは――」
女執事「今の貴方には何もできません。おとなしく待っててください」
女執事「まあ、半年くらいで回復するでしょう」
男「……そんなに」
女執事「さて、何か質問はありますか」
男「その、淫魔にとってのエネルギー源って、やっぱり」
女執事「はい。性的接触による興奮と、唾液や精液などの摂取ですね」
女執事「口は上でも下でも後でも構いませんが」
男「っぐ、……そうか、そうだよなあ」
女執事「だからこそ、何もできないんです」
女執事「私たちからそれを与えようにも、元になっているのは他人の精ですから」
女執事「きっと、姫様も嫌がるでしょう」
男「……、うん、仕方ない。仕方ないんだよな」
女執事「はい。だから、そう気にせずに――」
男「頼みがある」
女執事「はい。何でしょうか」
男「……俺の体質を、克服したいんだ」
男「協力してくれ」
女執事「……それはつまり、いやらしいことに慣れたいということですか」
女執事「私は構いませんが、姫様の気持ちも考えてください」
男「いや、そうではなくて」
男「前から、起きたら枕がゲロ濡れ、ってことは何度もあったんだ」
男「確か、一年前くらいから。俺がこの体質になったのも、その頃だと思う」
男「……多分、何かあったんだ」
男「俺が忘れているだけで、何かが」
女執事「……はあ」
男「女執事、他人の記憶を遡ることはできるか?」
女執事「……はい?」
男「夢は、脳が記憶の整理を行っているときに見るって聞いたんだ」
男「夢の中にいる淫魔たちなら、夢を通してそういうこともできるんじゃないかって」
女執事「ええ。淫魔は夢魔とも呼ばれますから、それくらいは」
男「……頼む。俺も忘れているからできるか分からないけど、この体質の原因を探って欲しい」
――昼、高校――
男「……」ぐったり
女「だ、大丈夫ですか。カレーパン食べますか?」どさどさどさ
男「いや、それ食べると多分吐く」
男「それに限らず、何も食べたくない」ぐたっ
女「……どうしたんですか?」
男「いや、何も。それより、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
女「はい、なんでしょう」ばくばく
男「えーっと、淫魔姫が学校に来てたときさ、放課後はいつも女さんと何かしてただろ」
男「あれって、何だったんだ?」
女「あー、っと。本人には黙っておくように、と」
女「……でも、緊急みたいですからいいでしょう。話します」
女「異性を性対象として見ずに接するにはどうすればいいか、という相談を受けていました」
男「――あ。ああ」
男「ありがとう、分かった」
女「随分と理解が早いことで」
男「これで分からなきゃ、鈍いにも程があるよ」
女「まあ、それもそうですね」むっしゃむっしゃ
男(カレーパンの山がもう消えている……)
――夢――
女執事「昨晩は随分とうなされていましたが、まだやるんですか?」
男「……ああ。やっぱり過去に原因があった、っていうことは分かったけど、それだけじゃどうしようもないし」
女執事「貴方にあまり無理をさせると、私が文句を言われるのですが」
男「だからこそ、淫魔姫が動けない今なんだよ」
男「……こんなこと、しなくて済めばよかったんだけどさ」
女執事「仕方がありませんね。姫様には黙っておいてくださいよ?」
男「ありがとう。じゃあ、早速頼むよ」
女執事「それでは、昨日中断したところの直前から――」
――休日、喫茶店――
女騎士「……具合はどうだ」
男「なんとか。やっぱり気分転換の為でも、ふらふらになりながら町をうろつくものじゃないな」
女騎士「全く、この昼間にリビングデッドでも出たのかと思ったぞ」
男「……ちなみに、それってどんなやつ?」
女騎士「平たく言えばゾンビだな。フィクションでは怪力を持っていたりするが、全身が腐敗しているから歩くだけで精一杯な奴らだ」
女騎士「最も、理性も失っているから討伐対象だが」
男「……ところでさ、もし、とても善良な悪魔が、実体化して出てきたらどうする?」
女騎士「……それはまた、難しいな。善良といっても、ちょっとしたいさかいが大問題に繋がる恐れがある」
女騎士「それに、悪魔本体となると私一人で相手にできるかどうかも怪しい」
女騎士「応援を要請した上で、厳重に警戒するだろうな」
男「へえ、やっぱり結構大事になるんだな」
女騎士「まさか、実際に実体化しているとか、そういう話ではあるまいな」じろり
男「ははは、まっさかー」
男「……さて、俺はもうこの辺で――」
女騎士「待った。まだ姿勢が安定していない」
女騎士「もう少し、ゆっくりしてからにしろ」
男「……そこまで分かるんだ」
女騎士「身体の軸のブレを見れば、これくらいは容易い。戦闘で相手の隙をつくのにも必要だからな」ふふん
男「それを気遣いにも使えるっていうのが凄いよな」
女騎士「……む、褒めても何も出ないぞ。奢らないぞ」むすっ
――夢――
男「……う、ぐ」
女執事「少しでも吐いたなら、言ってくださいね。起こしますから」
男「いや、大丈夫。あと一歩、あと一歩なんだ」
女執事「……続けますか?」
男「頼む。もう、今晩中にけりをつけてしまいたいんだ」
女執事「……ただの、意気地なしの童貞かと思っていましたが」
女執事「中々かっこいいところもあるじゃないですか。姫様に見せてあげたい気分です」
男「それだと、女執事が叱られるんじゃなかったか?」
女執事「そうでしたね」くすくす
女執事「では、一息入れてから続きをしましょうか」
女執事「夜はまだ、これからですから」
……
再度、悪夢の中に沈んで数時間。
ぼやけた視界、そしてノイズの走る音の中から、確かな情報を拾い集める。
それをもとに、その周りにあるものを推測する。
それを反復。何度も、何度も、繰り返す。
マインスイーパに近い、かもしれない。作業を進めるごとに、精神への負荷が過剰に増えることを除いては。
モザイクとノイズを、段々と取り消して。
その概要がつかめた直後、一気に視界が晴れて。
男「――、あ」
モザイクが消えてノイズが消えて明確に見えて明確に聞こえて。
おれがぬりつぶしていたきおくがふっかつした。
男「あ、あ――」
男「あああああああ! うあああああああっ!」
からだがびくびくとふるえる。
しるはくちからじゃなく、めからでる。
ごぼごぼあふれるなみだ。めかくしをしようとする。
おれは、それをふりはらって、ふりはらって、めのまえを、見る。
逃げてはいけない。知らなければいけない。思い出さなくてはいけない。
俺の脳に打ち込まれたものが、何かを。
頭が痛い。脳の皺に、砂利を擦りこまれている。
心臓が痛い。血の変わりに鉛が流れている。
目が痛い。流れる濁流で削られている。
喉が痛い。続く振動で引きちぎられる。
耳が痛い。細い鉄の棒が貫通している。
それでも、見て、受け入れる。
これは紛れも無く、俺の体験であると。
そして、これは既に過去の事であると。
今になっても引きずる必要はどこにも無いと。
嫌悪するのはこのことだけで十分で。
関連の薄い今のことに繋げてはいけないと。
正直に言うと、ここまできついとは思わなかった。
それでも、やらなければならない。
自分のために。淫魔姫のために。
……
女執事「……もう朝だと思うのですが、起こしましょうか?」
男「いや、やめとくよ。こういうのは勢いも大事だし」
理由はもう一つあるが、それは黙っておくことにする。
早い内に、自分はあれを乗り越えたのだと確信しておきたいというのは、事実だし。
男「淫魔姫のところに、連れて行ってくれ」
女執事「畏まりました。決して、無理をなさらぬよう」
女執事が一礼をしてから、ぱん、と合掌する。
真っ白な世界がぐるりと反転する。そこはもう無機質なただの空間ではなく、豪華な洋館の廊下へと姿を変えていた。
女執事「こちらが、姫様のお部屋でございます」
女執事が示した扉。
この先に、淫魔姫がいる。そしてこれから、俺はこの部屋に入るのだ。
男「……っし」
自分を奮起させ、ドアの取っ手に手をかけ、ゆっくりと、捻る。
――淫魔姫の部屋――
そこは赤を基調としていて、暗く妖しい空気が漂っていた。
普段の彼女の笑顔からは想像もつかないが、淫魔だということを考えれば妥当な気もした。
部屋の奥には、天蓋つきのベッド。
下げられた薄い布を手で払うと、彼女はそこで横たわっていた。
男「……」
寝顔は童女のように無防備であり、疲れきった社会人のように活気を感じない。
その責任の一部は俺にあり、そしてそれを果たすため、ならびに俺のために、俺は今ここにいる。
心臓が、一際強く縮んだような気がした。
……大丈夫、あのトラウマなんかより怖くない。することも、あれと比べれば簡単なものだ。
そして簡単でありながら重要であり、やれるのは俺だけなのだ。
ここで引いていい道理は無い。
男「ん……よう、おはよう」
唇を離して、声をかける。
一応平静を装ってはいるが、残留している嫌悪感と、トラウマをある程度乗り越えたという達成感、さらに淫魔姫が目を覚ました喜びが混濁していて、奇妙な気分だ。
淫魔姫「おとこ、さん」
ぼんやりとした顔で、淫魔姫は俺の名を呼ぶ。
それから、俺の胴に腕を回し、くいくいと引き寄せようとしてきた。
恐る恐る、それに導かれるまま俺は淫魔姫にさらに近づく。
淫魔姫の両手が俺の背中に回されて、きゅっ、と軽く抱きしめられた。
淫魔姫「えへ、へ」
その声に、色気は無い。穏やかに、静かに、笑みをこぼしている。
身体を擦り付けてくることもない。こちらの身体をまさぐることも無い。
淫魔姫「よかった、です。いやらしい気持ちに、なりません」
本当に安心しているように、淫魔姫は言う。
その穏やかな声を聞いて、俺も思わずゆっくりと彼女を抱きしめた。やわらかく、包み込むように。
淫魔姫「頑張ったん、ですよ。女さんと、相談して」
男「……ああ。俺も、頑張ったよ」
ゆったりと、時間が流れる。
お互いに苦労したことを思い出しているはずだが、何故だかまどろみの底にいるような、落ち着いた気分だ。
淫魔姫「おかげさまで、ほら、男さんの傍にいられます」
男「俺も、これで、やっと君のそばにいられるよ」
軽く、口付けをする。
淫魔姫は、俺に身体を預ける。彼女の、童顔にそぐわず豊満な身体が俺に密着するが、不快感は無い。
むしろ、安心すらする。
俺がトラウマに打ち勝ったこと。彼女が性欲を抑えられていること。両方が重なり合って、安定する。
淫魔姫「不思議です。ああいうことをしなくても、こんなに満たされるなんて」
淫魔姫「……お腹は満たされないはずなんですけど、なんだか、もう何もいらない気もします」
彼女も、同じように感じているらしい。
ますます、幸せになってしまう。
だから。
男「なあ、淫魔姫」
彼女が望む、この言葉を。
淫魔姫「はい、なんでしょう。男さん」
言うのであれば。
男「結婚しよう。一緒に、生きていこう」
こんな勢いはどうだろうか、なんて。
この後、子孫を残すために男がもう一がんばりするのは別の話として。
おわり。
id変わったけど>>1です。
気が向いたら後でおまけを幾つか書きます。
正直に言うと、飽きてきたから打ち切った。飽きた状態でだらだら続けるのはあまり良くないし。
それと、おまけは男のトラウマの話。他にも説明不足なところあったら、言ってくだされば書きます。
それでは今からおまけを書きます。
……
男「それじゃ、俺はそろそろ起きなきゃ」ぱっ
淫魔姫「はい。名残惜しい気もしますが、これからは毎晩、こうしていられますからねっ」にこっ
淫魔姫「それに、その、私も段々変な気持ちになってきてしまいましたし」もじもじ
男「あー……、それには後々、応えられるようになりたいな」
淫魔姫「あ、あまり無理をなさらずに」おろおろ
男「いや、俺がやりたいからやるんだよ。それじゃあ、女執事。よろしく」
女執事「かしこまりました。……ご武運を」
ゆっくりとまどろみの中から醒めていく感覚。
もう少しすれば、俺はまた日常へと戻ることになる。
淫魔姫が学校に来ることは、少なくともしばらくは無いだろう。
まだ本調子では無いだろうし。
女にも、改めて礼を言わなければならない。
淫魔姫が世話になったし、そのおかげで、こうして幸せな気分に浸ることが出来るようになった。
女騎士にも、借りを返さなければ。
少し前まで敵だったのに、今ではよく気遣ってくれているし。
それと、もう一つ。
しなければいけないことが、もう一つ。
ほんの一時間、寝坊しただけだけれど。
俺にとっては一年ぶりの、正真正銘の現実と、対面しなければならない。
――番外編・さいしょのひとり――
――昨晩・悪夢――
男(はーっ、はーっ)
明瞭になった視界に、最初に映るもの。
??「あっ、んっ、男ぉっ」ぐちゅっ ずちゅっ
それは、俺を上から犯す、何者か。
騎乗位で、乱暴に腰を打ち付けてくる何者かを、俺は、やっと思い出す。
男『あね、き』
夢の中で、過去の俺が言う。
そう、俺には、姉がいる。
このときより少し前の俺は、まだ姉貴は家族の中で最もまともな人間だと、信じていた。
数年前まで、この家には父と母、そして姉が住んでいた。
ただし、俺も姉も、父との血のつながりは無い。母の再婚相手だ。
彼はそれなりに酒癖が悪く、それなりに金遣いの荒い人だった。
彼自身の収入が悪くなかったのが幸いか、夜に少し面倒な性格になるくらいで、家庭が乱れることは無かった。
けれど、それは再婚当初の話。
一緒に暮らすようになって暫くすると、徐々に化けの皮がはがれてくる。
しかしそんなことはどうでも良くて。
当時の俺にとって問題だったのは、それでもなお母が彼にべた惚れしていたことだ。
酒を飲まずとも暴れ、酒を飲むとさらに暴れるそんな彼を、母はうっとりと見つめていた。
その姿が恐ろしくて、不安だった。
ある晩。彼と母が、セックスをしているところを見た。
夜ではなく、白昼堂々と、居間で。
覗き見た俺を気にも留めず、性交に夢中になる二人から、俺は目をそらした。
途端に、何故だか悲しくなったのを覚えている。もう自分は十分に大人だと思っていたにもかかわらず、ぽろぽろと涙をこぼした。
目をこすってから自室に向かうと、姉と遭遇した。
真っ赤になった俺の目を見て仰天した姉は、駆け寄って心配してくれた。
それが、当時の俺にはとても嬉しくて。
気がつけば、姉に抱きしめられながら泣いていた。
その日から、俺は母の事を気にしなくなった。
同時に、周りにからかわれるほどに、姉に依存するようになってしまった。
……
姉「あ、雨降りそうだから洗濯物取り込まなきゃ――」
男「もうやっといたよ」
……
姉「あれ、脱衣かごが空に――」
男「洗濯物はもう干したよ」
……
姉「よし、じゃあご飯作るね」
男「うん。手伝うよ」
……
姉「あ、洗い物くらい私が――」
男「姉貴は料理してくれただろ? ゆっくりしてていいよ」
……
俺は、姉貴に一切頼らなくなった。
姉貴のためにも、家事の中で自分に出来ることを、すべてやった。
家事の手際も良くなってきた日の、その晩に。
平穏は、ひっくり返る。
男「う、ん……?」
姉「ん、む」
妙な感覚を覚えて目を覚ますと、姉が俺のモノを咥えていた。
何が起きているのか分からなかった。
男「姉貴、何して」
姉「ぷぁ……あ、起きたの、ね」
姉「いつも、男は頑張ってくれてるから」
姉「……私には、料理以外で男にしてあげられることって、これくらいしか」
無論、そんなことは無かった。
そこにいてくれるだけで。幸せだった。
もし、姉が食事を作ることが無かったとしても。
俺は少しだけ料理を勉強して、喜んでその代わりを果たした。
だからこんな事をする必要は無い。
家庭内での助け合いは、姉がそこにいるだけで完結しているのだ。
男「や、め」
ただ、姉の辛そうな顔を見ていると。
これをさせるのは、姉のためでもあるんじゃないか、と。そんな事を思ってしまう。
俺が何を思っていようと。
姉は、罪悪感を持っている。
思えば、以前は姉に頼りきりだった。
逆に言えば、姉にとって、俺に頼られることは日常の一部だった。
俺が急に積極的に行動するようになって、不安だったのだろう。
それまでの俺が、あまりにも頼りない男だったから。
俺のために、何かしてやりたい。
けれど、何もやることがない。その状況に、焦燥を覚えていたのだろう。
だから。
何かやらせてあげるのが、姉のためなのか。
男「う、ぐ」
姉「はじめてだけど、頑張るから」
姉「これから、上手になっていくからね」
しかしながら、コレは違う。
姉「いつも、私のためにありがとう」
姉「私も、男の事が大好きだよ」
俺は、姉の事が好きだ。
家族として、好きだ。
恋愛対象ではない。
まして、性欲の捌け口になどなり得ない。
家族として信頼している、大好きな、姉を。
姉「ん、あぁ、……んぅっ!」
俺の、モノが、穢した。
男「あ、ぁ、あ」
あああああ。
穢した。穢した。穢した。
流れる。血が。愛液で滲んだ血が。破瓜の血が。
歪む。顔が歪む。痛みで姉の顔が歪む。
快楽が走る。そんな残酷な状況だというのに。
そんな、そんな。姉が苦しみ、血を流しているのに。
俺の陰茎は、快楽を、むさぼろうとする。
姉「男、お――こ、―――よ」
うごきだす。姉が腰を浮かせる。下ろす。浮かせる。下ろす。
嫌だ。
穢したくない。快楽に浸る。快楽なんて感じたくない。こんな形で。こんな形で。
嫌だ。嫌だ。
こんなこと、家族とすることではない。
信頼しあう仲。一方が。一方が快楽を貪り。一方が苦痛を負うなど。
割に合わない。理不尽だ。
一方のみに苦痛をおしつけ、一方だけが得するなど。
男「ぃ、ぁ、だ」
嫌だ。
ひっくりかえって
みえなくなった
――男の部屋――
男「ぐ、いてて」
目を覚まして、身体を起こす。
腹の奥が、ちょっとちくちくする。トラウマから完全に脱した筈だが、やはり過去を思い出すと来るものがある。
男「……はあ、全く」
これが、全て。
これが、俺の中にあったもの。打ち付けた木の板の、裏に刻まれたもの。
思えば、その頃から姉の姿を見ていない。
あのことだけではなく、姉の存在を忘れていた。
男「……でも、ここからだ」
ここからが、一番の問題。俺がこれから対面する現実。
部屋を出て、廊下を歩きながら思考する。
そもそも、俺は料理が出来ない。
家庭科でキャベツをちぎったくらいしか経験が無い。
しかし、朝食はご飯と味噌汁。夕飯も、毎日メニューが変わる。学校に弁当も持っていく。
当然、ここは寮でも下宿でもなく、俺の自宅だ。
考えてみれば、食事を作った覚えは一切無い。
うまい味噌汁の作り方も、魚を焦がさずに焼く方法も、知らない。
それにもかかわらず、何故俺は毎食しっかりと食べていられるのか。
分かってしまえば、それは至極簡単なことで。
男「……っと」
台所には、人影がひとつ。
昨日までいなかった、見えていなかった、見ようとしなかった人影がひとつ。
男「あー……お、おはよう」
声をかけて数秒後。その人は振り向き、驚愕した様子で俺の顔を見る。
男「おはよう。……姉貴」
謝りたいことも、感謝したいこともたくさんあるが。
何から言えばいいのか分からなくて、そんな間抜けなことを言ってしまう。
姉「ぉ、おは、よう。男?」
半分声を裏返しながら、姉が応える。
……まあ、さっきの挨拶は。
これから何気ない日常に戻りたい、という意思表示ということで。
番外編その1、終了。
気が向いたらifルートとか書きます
追いついたら丁度終わってた、乙
スレの残り的にも第二部を個人的には期待したい感じ
……ifルート:もしもその後、下らないハーレムを形成したら
――数週間後、高校――
女「その後、彼女とはどうなんですか?」
男「あー……俺もあの子も、だんだん慣れてきたよ」
女「具体的には」
男「その、キスまでなら抵抗無く。向こうも十分は持つようになった」
女「それはそれは。淫魔姫さんも頑張っているのですね」
男「女さんのアドバイスがあってこそだよ。ありがとう」
女「いえいえ。……しかし、こんなに私と仲良くしていいのですか?」
男「どういうことだ?」
女「彼女と婚約していらっしゃるのでしょう。友人といえど、異性との会話は控えたほうがいいのでは?」
男「ああ、それなら大丈夫」
男「……伴侶が複数の異性に好意を持たれているということは、その伴侶がそれだけ有能だという証らしい」
女「……ふむ」
女「淫気とか、魅了とか、確かに伴侶に与えるにはすこしずれた能力ですし」
男「そういう文化なのかな。よくわからん」
女「簡単に酒池肉林を形成できそうですよね。男さんなら」
男「冗談はやめてくれ。一応吹っ切れたけど、それでもそういうのは嫌なんだよ」
女「しかし、安心しましたよ。私も貴方の友人をやめなければならないのかと思ってましたから」
女「貴方との会話は、何故だか心弾むものがありますから」
男「そりゃ、どうも」
女「何でしょうね。これ。恋心?」
男「……いや、いきなり何言ってますか」
女「いえ、割と真剣に」むぅ
女「しかし初恋のときとはまた違いますね」
女「あの頃はどきどきして息が止まりそうにもなりましたが、今は安心もしてますし」
男「まあ、ほら。気の置けない間柄ってことで」
女「そうそう、そんな感じですね」ぱぁっ
男「……」
男(くそ、これはこれですごく恥ずかしいぞ……!)
女「……あの、男さん」
男「な、何?」
女「私と、友達以上の関係になりませんか?」
男「なっ!?」
女「つまり、親友になりましょう、というお誘いです」
男「あ、ああ。そういう意味か。良かった」
男「それなら、喜んで。断る理由も無いしな」
女「……」はぁ
女「はい。これからもよろしくお願いします」
――数日後、女騎士の部屋――
女騎士「……ぬう」
男「大丈夫か? 一応アクエリとか買ってきたけど」
女騎士「すまないな、突然。迷惑をかける」
男(突然『部屋に来い 助けろ』ってメールが来たから、驚いて来てみれば)
男(風邪で倒れているとは)
男「病人は気を使わず寝てろ。元気な奴をあごで使え」
女騎士「ぐ……、ありがとう」
女騎士「早速悪いんだが、その、何か、食べ物を」
男「ああ、一応ヨーグルトを買ってきたんだ」がさがさ
男「料理はできないから、これで我慢してくれ」ことっ
女騎士「ありがとう。……いただきます」ぺりぺり
女騎士「はむ。……くそ、やはり味を感じない」
男「まあ、ほら。とりあえず腹を膨らませておけばいいさ」
女騎士「そうするよ。それだけでも落ち着く」
男「食べたらまた寝て、体を休めるように」
女騎士(……何か、ふわふわするな)
女騎士(熱が高いから、そうなるんだろう)
男「とりあえず、体拭き用のウェットティッシュ」こと
男「あと汗拭き用のタオルと、冷えピタと……」とさとさ
男「あ、小腹が空いた時のためにウィダーがあったほうがいいな。買ってくるよ」
女騎士「何から何まで、ほんとに、すまないな。ありがとう」
男「どーも。ウィダー買ってきたら、俺は家に帰るよ」
女騎士「……」
女騎士「……その、だな」
男「他に何か欲しいものがあるのか?」
女騎士「……風邪、ひくとな。凄く、心細くなるみたいだ」
女騎士「今までそんなこと、無かったんだが。なんか、今日はそんな気分だ」
女騎士「だから、……ぐぬ」
男「……あー、俺用のマスクも買ってこよう」
女騎士「っ、……ほんとうに、ありがとう」
酉テスト。
>>1です。これであってるのだろうか
ーー翌日、男の自室ーー
男「かっこつけておいてうつされるとは……」ごほごほ
がちゃり
姉「その、お、男? 大丈夫?」
男「ああ、大丈夫ーーじゃ、無い」
男「悪いけど、今日はいろいろ頼むよ」
姉「……!」ぱあっ
姉「うんっ! 今日は私に任せて!」
姉「男っ、おかゆ作ったよ」
男「ありがとう。……、おお」
男(ゆらゆらと登る湯気。ふんわりと広がった卵の金色と、艶のある米粒の白)
男(……くそ、鼻がつまってて香りがわからないじゃないか!)
姉「……男? その、気に食わないこととかーー」
男「いや、あまりに美味そうで絶句してた」
姉「!」
姉「よかったぁ……」
……
姉「男ー、脱いでー」
男「……、はい?」びくびく
姉「?……っあ、違う! ほら! 体拭かなきゃだから!」ばたばた
男「ああ、よかった」ほう
男「えーと、上だけ頼む」ぬぎっ
姉「わぁ……」どきどき
男「……あの、姉貴?」
姉「うぁ、今やる、今ふく」ごっしごっし
男「いだだだだ!」
ーー夢ーー
淫魔姫「んふー……」にこにこ ぱたぱた
男「うーむ……」なでなで
男「今回はあまり、妬かないんだな」
淫魔姫「えー? それはですねー」
淫魔姫「今私は、たぶん誰よりも幸せだからです」
男「そういうものなのかね」
淫魔姫「はい。貴方がいくら他の人をはべらせても」
淫魔姫「私が一番なら、それでいいんです」にこっ
淫魔姫「私はほら、その、婚約者、ですし」
淫魔姫「正室として、側室には寛大であるべきです」
淫魔姫「そうすれば、男さんの心労も減るでしょうし」
男「何か感覚が違うな……、でも、そういう文化だもんな」
淫魔姫「はいっ」
淫魔姫「……その、側室にも嫉妬しないということの代わりと言っては何ですが、その、今日は……」もじもじ
男「……そうだな。今日は、……ええと、ペッテイングまでを目指そう」
淫魔姫「男さんっ!」がばぁっ
男「待て! まだ心の準備がーー!」がくがく
……
淫魔姫「すみませんっ! すみませんっ!」ぺこぺこ
男「いや、いいよ。吐く直前で止まってくれたし」ふるふる
淫魔姫「ごめんなさい……。その、私も自制がきくようになってきたと思っていたのですが」
淫魔姫「まだまだみたいです」しゅん
男「……止まってくれただけでも十分だよ」
男「そのまま逆レイプしそうな勢いだったし」
淫魔姫「あう……」
男「それに……俺も、早く慣れないと」
男「一応、その、最終的には、そういうところまでいってみたいし」
淫魔姫「男、さん……」
男「お互い、これからも頑張ろう」なでなで
淫魔姫「……優しすぎですよ、男さんは」にこっ
ーー数年後、遊園地ーー
男「……うーん」
姉「男っ、次はアレ、アレ乗ろう!」
女騎士「待った。男もそろそろ疲れているように見える」
淫魔姫「大丈夫ですか? 何か、飲み物とか……」
男「改めて思うが、何だこの状況」
女「福引で一等が当たったからですよ。丁度、人数分、連続で」
男「周りの視線が痛いんだが」
女「親友と一緒にいるのは不思議なことではありませんよ?」
姉「私もおねーちゃんだし。家族と遊園地ってよくあることじゃないの?」
女騎士「私は……その、ええと」
淫魔姫「遊園地でデートするのは基本って、人間さんの本に書いてありましたから」
女騎士「で、デートって、遊びに来てるだけだろう?」
淫魔姫「え? 恋人と遊びに行くことを、デートって言うんですよね」
女騎士「こっ……!? 男、付き合ってたのか!?」
男「おう。恋人っていうか、婚約者だけど」
姉「婚約っ!? その、おねーちゃん、それは進みすぎだと……」そわそわ
淫魔姫「大丈夫ですよ。男さんを独り占めにはしませんから」
淫魔姫「側室のみなさんも、ご安心ください」
女騎士「側室、って、はあっ!?」
淫魔姫「あれ、違うんですか? 男さんのこと、好きですよね」
女騎士「すっ、好きとか、そんなわけなかろう」
女騎士「そう……アレだ! こいつは無害だが、魔が差すかもしれん」
女騎士「それに備えてここにいるだけで、好きとかは、その、ありえん」
姉「ああ、男が女ったらしにっ!?」
女「賑やかですね。いいことです」
男「勘弁してくれ、全く」
女「いいじゃないですか。のどかで、やかましくて」
男「……まあ、いいか」
山も落ちもなくくだらない蛇足・おわり
一応これで書きたいのは書いたんで完結です。
ありがとうございました。
・ハーレムルート:淫魔姫とその他
――昼、高校――
女「やれやれ、やっと昼食ですか」ばりばりむしゃむしゃ
男「午前中もずっと食べてた奴が何言ってやがる」
淫魔姫「知ってはいましたが、本当にすごい食べっぷりですよね……」
女「食べた分は全て金運に回るので、なんの問題も無いんですよ」がつがつがつ
女「ところで、淫魔姫さんは表に出てきて平気なんですか?」
淫魔姫「はい。……その、男さんのおかげで」
淫魔姫「十分に補給できてますから、大丈夫です」
女「……ああ、ついにヤったんですね男さん」
男「そこまではやってない」
男「あー、うん。abcでいうaだな」
淫魔姫「ええと、隠語でキスって意味でしたよね、男さん」
男「そうだけど何故隠語を使ったかまで頭を回してくれ」
女「何だ、まだそこまでなんですか」ほう
男「……? 何で安心して……」
女「あ、その、すみません」
女「私が安心する理由も、意味もありませんでしたね」ぼそっ
淫魔姫「でもaっていうよりdって気もするんですよね、あれ」
男「確かにdなaではあったけど」
女「でも、男さんにしてはかなり頑張っているようですね」
男「おう。……しなくてすむのが一番だけど、そうもいかないし」
淫魔姫「すみません、私のせいで……」
男「ああ、いや、そういうことではなくて」
女「相手が誰であれ、恋人同士と性的接触なしにやっていくのは難しいものですよ」
女「まして、結婚を約束した仲なんですから」
男「あー、うん。こっぱずかしくはあるけど、慣れてきたら嫌じゃないし、嬉しくもなってきたし」
淫魔姫「男さん……」じゅんっ
男「久々だなおい」
女「……なんなら、処理の手伝いでもしましょうか?」
――数日後、街中――
淫魔姫「うーん……なんかこう、動きづらいです」むすっ
男「制服と変わらないと思うんだが」
淫魔姫「性的なイメージに繋がる衣服だと、身体に馴染んで心地よく着られるのですが」
男「……そういう服を着てると目立つから、厚着しなきゃならないんだ。我慢してくれ」
淫魔姫「大丈夫ですっ。デートの楽しさだけに気を向けていれば、気になりませんっ」くるんっ
男「おお。それじゃあ、もっと楽しんでもらわなきゃな」
男(……さて、問題は女騎士に遭遇せずに済むかどうか――)
女騎士「……」あんぐり
男(ですよねー)
女騎士「……おま、それ、なんだ」
男「……いやあ、彼女だよははは。俺もいまどきの若者だし、青春してるのさ」
女騎士「いや、その前に、だな」
淫魔姫「そうですよ、男さん。彼女であると同時に、婚約者です」
男(そうだけどそれは今言うことじゃない)
女騎士「……あ、あー、ごほん。男。ちょっとそこの喫茶店でお茶でもどうだろうか。彼女さんも一緒に」がしっ
男(もう言い逃れは出来ないだろうな……)
女騎士「というか来い。何の真似だ。こいつは何だ」ぼそっ
男「全部洗いざらい吐くんで肩を掴む力をゆるめてくれ」
――個室喫茶――
女騎士「……つまり」
女騎士「そいつは悪魔で、お前と契約していて」
女騎士「エネルギー供給が十分になされるようになったから、外に出てきていると」
淫魔姫「そうですよー、女騎士さん」
淫魔姫「貴女の事は、男さんを通してみさせてもらいました」
淫魔姫「……よくもまあ、男さんにいろいろとしてくれましたね」
女騎士「……」ぐっ
男(何だこの空気)
男「えー、と、二人とも、ここお店だからあんまり騒ぎになるようなことは――」
淫魔姫「うらやましいっ! ですっ!」
女騎士「は?」
淫魔姫「だって、私もこういうおしゃれな個室喫茶で男さんとお話したかったですし」
淫魔姫「男さんを自室で看病とかもう憧れなんですー」ぷー
女騎士「……は、はあ」
女騎士「って、違うぞ! 私は止むを得ずそういうことをしたのであって、決してそういう意図があったわけでは」
淫魔姫「否定しても無駄ですよー。一応淫魔ですから、色恋には聡いんです」
女騎士「なっ……お、おのれ悪魔め」ぎりっ
淫魔姫「……あれ、男さん、この人かわいいです」ひそひそ
男「何言ってんだお前」
淫魔姫「いえ、鎌かけたら上手い具合に」ひそひそ
男「……いやいや」ひそひそ
女騎士「と、いうか、だな」
女騎士「それに憧れるってことは、その、そういう仲でもあるのか?」
男(……彼女うんぬんの話は聞いていなかったのか?)
男(まあ、あそこまで驚いていれば無理はないか)
淫魔姫「んー……」にやり
淫魔姫「いえ、そういう関係ではありませんよ」
淫魔姫「……まだ、ね」にこっ
女騎士「っ!」
男(ああ、一応悪魔なんだな、淫魔姫も)
淫魔姫「ですから、……」すっ
淫魔姫「今のままでは、いられなくなるかもしれませんね?」ひそひそ
女騎士「なっ、何を、っ!」
女騎士「そ、そうか、私を狼狽させて、動きを鈍らせようというのだな」
女騎士「おのれ悪魔め、卑怯な!」
淫魔姫「あれ、狼狽してるんですか? 男さんに興味が無いのに」
女騎士「それ、は、……ぐう」
男「……あー、ほれ、女騎士さん。悪魔が白昼に歩き回ってることに関してはいいのか」
女騎士「そ、そうだ! 何を考えているんだ貴様は! もし何かあったらどう責任をとるつもりだ!」
男(よし、とりあえず話を変えた。これでなんとか女騎士を普段の調子にもどして)
男(それから俺は色々と煙に巻いてうやむやにしてお咎めなしに――)
淫魔姫「大丈夫ですよ、女騎士さん」
淫魔姫「ほら、私は男さんから離れませんから」だきっ
男「うぉっ」
女騎士「なぁっ!?」
淫魔姫「何なら、実体化しているときは常に男さんに抱きついていますよ」
淫魔姫「私も幸せ、貴女も余計な心配をしなくて済む。winwinですね」にっこり
女騎士「……だ、駄目だ」
女騎士「その、ほら」
女騎士「そう、男は、ほら、私が無害だと判断した上で見逃してやっている」
女騎士「しかし悪魔となれば話は別だ。その状態でも他者を堕落させるすべをもっているかもしれない」
淫魔姫「ありますけど、使いませんよ? 男さんがいればそれで十分ですし」ぎゅっ
女騎士「そ、その言葉の真偽を証明する手は無いはずだ!」
女騎士「つまり、ええと、可能な限り監視させていただく」
男「……はあ」
女騎士「それと、定期的に面談もさせてもらう」
女騎士「男の魂が蝕まれていないかも見なければならないからな」
淫魔姫「要するに」
淫魔姫「男さんの事をずっと見ていたくて、たまにはお話もしたいということですね」
女騎士「ばっ! そ、そういうことではないと言っているだろう!」
淫魔姫「え? そういう、っていいますと……どういう」
女騎士「それは、その、ええと」あたふた
淫魔姫「……いやぁ、面白いなあ」にまにま
女騎士「っ! 帰る!」がたんっ
男「淫魔姫、あんまり根拠のないことを言って怒らせるなよ」
男「ごめんな、女騎士。またこんど」
女騎士「あ、ああ。……その、勘定は、済ませておく」
――自宅――
男「ただいまー……」
淫魔姫「おじゃましまーす」
男「何故いる」
淫魔姫「え、いや、そういえば――」
姉「男っ、おかえり――?」
淫魔姫「はじめまして、お姉さんっ」にこっ
淫魔姫「――ご家族の方に挨拶をしていませんでしたし」
姉「ええと、はじめまして」ぺこり
男「ああ、その、ええと。この子は俺の恋人で、淫魔姫」
姉「こっ……!?」
淫魔姫「はい。男さんとお付き合いさせていただいております、淫魔姫と申します」ぺこり
姉「あ、はい、そりゃあ、どうも」ぺこぺこ
姉「男、……あとでちょっとお話しよう」
――淫魔姫が帰った後、男の部屋――
姉「ええと、いつの間に彼女つくったの?」
男「つい最近、だけど」
姉「……その、男はさ、えろい子が好き?」
男「いや正直に言うと、あの露出はなんとかしてほしい」
姉「そ、そうだよね! ちょっと肌色多すぎるって言うか、隠している面積より露出してる面積のほうが多いってすごいよね」
男「うん。目のやり場に困るし、そもそもそういうの苦手だし」
姉「っあ、ご、ごめん」
男「……あー、うん。アレはほら、もう気にしてないし、俺も悪かったから」
男「……そうだ」
男「こうやって姉貴と話が出来るようになったのも、あの子のおかげなんだ」
姉「……そう、なの?」
男「ああ。色々支えてもらったり、励ましてもらったり」
男「……ええと、精神科医を紹介してもらって、無料で診断を受けれるようにしてくれたり」
男(さすがに女執事うんぬんは信じられまい)
姉「うー、ん、じゃあ、感謝しないといけないね」
姉「いけないんだけど……うぁー」
男「いけないけど、何?」
姉「いやー……うーん」
姉「なんか、さ。ずっと一緒にいた家族が、誰かのところにいってしまうような」
姉「そういうの、ちょっと寂しくて」
男「……俺はどこにも行かないよ」
男「婿に行く予定もないし」
姉「……そっか、そうだよね。今から心配しても仕方ないよね」
男「あ、でも淫魔姫、けっこういいとこのお嬢さんだから可能性は」
姉「あるの!?」
姉「……これは、淫魔姫ちゃんに、お嫁に来てもらうしか」ぶつぶつ
――数日後――
姉「淫魔姫ちゃん、男のことは好き?」
淫魔姫「はいっ」きらきら
姉「ぬぐっ……」
姉「じゃあ、さ。男のために料理とかしてみない?」
淫魔姫「してみたいですっ!」
淫魔姫「今、女執事に教えてもらいながら特訓中ですけど」
淫魔姫「ゆくゆくは、毎日手料理で男さんのおなかを満たしてあげたいですね」きゃあきゃあ
姉「へ、へえ。じゃあ、今は何を習ってるの?」
淫魔姫「ええと――」
淫魔姫「魔頭亀――じゃなくて、えと、スッポンのお吸い物とかですね」
姉「もしかして牡蠣鍋とかも……」
淫魔姫「はいっ。味付けが男さんに合うかは分かりませんが、そういうものは作ったことありますっ」にこっ
……
姉「うんうん。いろんな料理を勉強してるんだ」
淫魔姫「えへへ……」てれてれ
姉「……全部精力増強系だけど」げんなり
淫魔姫「ふぇっ、駄目、でした?」
姉「毎日そういうクセの強いものじゃ、男も流石に疲れちゃうと思う」
姉「だから、その……わ、私がいろいろ教えてあげようか?」
姉「ほら、男の好みもちょっとは知ってるつもりだし」
淫魔姫「本当ですかっ!? ありがとうございますっ」
姉「……これで淫魔姫ちゃんと仲良くすれば男とも一緒に」ぶつぶつ
――数日後――
淫魔姫「ささ、どうぞ、食べてみてください」
男「うん。……お、旨い」
男(というか思ったよりまともで安心した)
淫魔姫「本当ですかっ!?」ずいっ
男「うお、おう、本当に美味しいよ」
淫魔姫「ありがとうございますっ! 義姉様っ」
姉「……あはは、気が早いなー淫魔姫ちゃんは」
男(そうでもないことは黙っておこう)
――数年後、街中――
女「おや、男さんではないですか」
男「おう。ここで会うのは珍しいな」
女「そうですね。普段学校でしか会いませんし、そのときも淫魔姫さんがセットですし」
女「そうだ、学校以外では淫魔姫さんはどんな感じなんですか?」
男「何故かは分からないけど、なんだかんだで上手くいってるみたいだ」
男「女騎士をからかって遊んでたりもするし」
女「ああ、あの人真面目そうですからね」
カランカラーン
男「お、福引やってんのか」
女「そうみたいですね」
女「……もうちょっと待ってみてください。多分、そろそろ父が福引券を大量に持って――」
女父「おお、女じゃないか。ちょうどそこでたくさん福引券もらってきたんだが、ガラガラしてくるか?」
女「ああ、お父さん。5回分だけでいいので下さい」
女父「そんなものでいいのか? まあ女がそういうならそっちのほうがいいんだろうけど」
女「ええ。いらないものはいりませんから」
男「……ええと」
女父「ん、君はもしかすると、男君か」
男「あ、はい。ども」
女父「娘が世話になっているようだな。君の話をときどき娘から聞くよ」
女父「やたらと女の子に人気だそうだね」
男「……ええまあ、困ったことに」
女父「なんと贅沢な。私があと二十歳若かったらぶんなぐっていた」はっはっは
男(……知り合いの父親って何を話せばいいんだ)
カランカランカラン
女父「お、女がまた何か当てたようだな」
女父「ここ最近、家はクジ運が強くてな」
女父「商品券とか、お米券とかけっこう当たるんだ」
男(それ、女のアレだよな)
カランカランカラン!
女父「おお、二回連続か?」
……カランカランカランカランカラン!
男「三回連続ですね」
……カラン、カラン
女父「四回か」
………、………、カランカラン
男「あ、うなだれてる店員から女さんがベルひったくった」
女「はい男さん。プレゼントです」ぴっ
男「なにこれ。……遊園地フリーパス?」
女父「……娘よ。その、悪いとはいわないが、父親の前ですることか」
女「あ、一応四枚持っててください。淫魔姫さんと、女騎士さんと、あとお姉さんの分です」すっ
男「え、あ、はい、持ってます。配ります」
女父「……ちくしょう、ちょっとパパも引いてきちゃうぞ。そこの店のおにーちゃんいじめてきちゃうぞ」だだだだっ
女「それじゃ、再来週の休みあたり、皆で出かけましょうね」
男「……はい?」
女「淫魔姫さん的にいうと、正室と側室を連れた王様がバカンスに行くのです」
男「いや、ちょっと何が起こっているのか」
女「ちなみにさっきの運を引き出すために」
女「飢餓で苦しんでいる地域の人々が三年間おなかいっぱいで暮らせる量のカロリーが必要でした」
男「そんなに確立ひどいのかあのクジ」
女「実際にあたりが入っていただけマシです」
女「で、貴方はそれを無下に出来ませんよね」にっこり
男「……まあ、あんまり急だったからあれだけど、そうでなくても行くぞ」
男「仲のいいやつらと遊びに行くんだから、断る理由はないし」
淫魔姫「男さんっ」がばぁ
男「ぶわっ、どこから沸いてきた!」
淫魔姫「ふふふ、やっと淫魔たちの王としての自覚が出来たのですね」
男「……やっぱそうなるの? 王って何するんだ」
淫魔姫「それは後ほど」
淫魔姫「それより女さん、ゆーえんちって何ですか? 酒池肉林?」
女「もっと健全な場所ですから落胆してください」
淫魔姫「むー……」
男「でも皆で行くと凄く楽しいところだ」
淫魔姫「本当ですかっ!? なら行きましょう!」
淫魔姫「将来の側室達とのコミュニケーションのためにもっ!」
男「……あはは」
で、遊園地のくだりに続くとさ。
次はおめでた編。
――夢の中――
男「……ん、これで大丈夫か?」
淫魔姫「はい。十分に栄養をいただきました」にこっ
男「そっか。しかしまあ、俺も随分慣れてきたものだな」
淫魔姫「そ、そうですね」
男「……、どうかしたか?」
淫魔姫「い、いえ、えっと」
淫魔姫「……女執事、たすけて」
女執事「いけません。大切なことですから、姫自身の口から伝えるのです」
男「……?」
淫魔姫「……ぁううう」かあっ
男「……な、何」
淫魔姫「そ、その、男さんっ」がばぁ
男「うおっ、いきなりそういうのは――」
淫魔姫「おなか、さわってください」
男「お、おなか?」さすさす
淫魔姫の手に導かれるがまま、彼女の腹をさする。
さわり心地の良い、ゆったりとした生地だ。……生地?
そういえば、普段着ているような服と比べて露出度が低い。
というか、普通だ。普通のゆったりした服だ。
淫魔姫「うぅ……ど、どうですか」
どうですか、と聞かれたが、何も感じない。
服の話をしたいのであれば腹をさする必要は無い。
どう返事をしたものか――、と、おや。
何か、感じる。じんわりと、温かい。
女執事「……姫様。我々は胎生ではありません」
淫魔姫「え、た、胎生?」
女執事「人間は腹に子を宿しますのでそういった行為を行いますが、我々がそれをしても何も」
男「……いや、ちょっと温かい。じんわりする」
女執事「……! そうですね。あなたは姫様の運命のお方でした」にこっ
女執事の笑顔。なかなか珍しい……が。
胎生とか、子とか、ということは。
男「……ええと、子供が?」
淫魔姫「!……は、はいっ!」
……いやいや。
そもそも俺、淫魔姫とそういうことをしていないぞ。
女執事「ご心配なく。我々はパートナーとの肉体的・精神的接触で孕みますから」
女執事「寝込みを襲ったり、子種を抜き出して移植したりするような勝手な真似はしておりません」
不思議な生態だ。遺伝情報とかはどうなっているのだろう。
そもそも淫魔に遺伝子が存在するかも怪しいが。
……それにしても、そうか。子供か。
男「胎じゃないってことは、どこで育ってるんだ?」
淫魔姫「ええと、確か神殿の最奥にある女神像の中で、すくすくと」
女執事「正確にはそちらで育つのは全体の2%ほどでございます」
男「……成長の過程で移動でもするのか?」
女執事「? ……ああ、そうではなく、個体数の話です」
男「え、ぁ、は?」
女執事「平均出生数は一回当たり1000個体です」
女執事「そのうち2%、つまり平均20個体のみが姫とパートナーの性質を受け継ぎ、次期の女王候補となり」
女執事「その他の子供達は、一般の淫魔として生まれるのです」
男「つまり、何か。俺は千人の父になるのか」
女執事「左様でございますね」
女執事「ちなみに先代、先々代の王は絶倫であったため、自らの子全てと性交を行っておりました」
男「……なんで俺が選ばれたんだろうなー」
女執事「ああ、彼らがイレギュラーだっただけですのでご安心を」
淫魔姫「それより男さん、その、ちょっと来てください」ぐいっ
男「おお、引っ張るな。行くから。ちょっと衝撃的すぎて足ふらついてるけど行くから」
――神殿、地下――
薄闇の中、あまったるい香りに包まれていたのは、繭であった。
腰の高さほどの大きさの繭が当たり一面に――おそらく千にぎりぎり届かない程度に、ずらりと。
男「なんというか、圧巻だ」
淫魔姫「ええ。これら全て、私と、男様の、子です」
隣に立つ淫魔姫の顔は、いつになく凛々しいものであった。
小動物系というより、母犬のような。穏やかで、決意を感じさせる目。
淫魔姫「たとえこの子達が、男さんの血を継いでいなくても」
淫魔姫「男さんがいなければ、生まれなかった命です」
そういう彼女はどこか嬉しそうでもあり、悲しそうでもあった。
俺はただ驚くことしか出来ないが、こういった生まれ方が普通である淫魔の目に、この光景はどう写るのだろう。
淫魔姫「……さ、奥に進みましょうか」
――神殿、最奥――
男「――これが」
彼女らが女神と祭るその像は、おおよそ人間達にとっての女神とは遥かに異なるものであった。
煌びやかな装飾をあえて捨て去ったかのように、一糸纏わぬ姿。
大きく張りのある胸、尻。
そして、妖艶に挑発しているかのような目元、口元。
淫魔姫「はい。これが私達淫魔が崇める女神です」
淫魔姫「彼女を祖として、私達が生まれたとされています」
淫魔姫「……子供達は、あちらですね」
女神像の周囲を漂う、いくつかの球体。
それぞれ微妙に色や軌道が異なり、先程見た繭とはこの時点で一線を画している。
淫魔姫「女神の加護の元、この子達はすくすくと育ち」
淫魔姫「人間で言えば小学生くらいの外見になってから、生まれるのです」
淫魔姫「苦しみを伴う出産ではないので、男さんから見たら何の感慨も沸かないかもしれませんけど」ふふっ
男「いや、なんとなく分かるよ」
男「さっきの子達はいまいち分からなかったけど、この子達は間違いなく俺の子だ」
男「俺と、淫魔姫の、子供達だ」
淫魔姫「……っ!」
男「うん。なんとなくだけど、そういう感じがする」
目に見えない何かで繋がっているような。
目隠しをしていてもどこにいるか分かるような、そんな、繋がりを感じる。
男「どんな子になるんだろうな」
淫魔姫「男さんのいいところをたっぷり継いでくれるといいですね」
男「淫魔姫のいいところもたくさん継いでくれるといいな」
淫魔姫「女執事をあまり困らせなければいいのですが」
男「ヘマでもして女騎士にどつかれなければいいんだが」
淫魔姫「……ふふっ」
男「あはは」
男「どんな子でも、俺達の子供だから」
淫魔姫「きっと、愛おしいのでしょうね」
――数ヵ月後、神殿、最奥――
淫魔姫「――あっ」
とくん、と、ちいさな鼓動。
色とりどりの球体が、とくとくと拍動する。
男「生まれる、みたいだな」
それにしても、早い。
小学生くらいになってから出てくるとのことだったが、人間の出産より早いじゃないか。
いろんな意味で早熟、ということだろうか。
などと考えている間に、球体が霧に包まれる。……というより、球体が霧となって辺りを覆う。
淫魔姫「霧が晴れるまで、待ってくださいね」
淫魔姫「生まれた子供達は、あの霧が身体に馴染んでからやっと淫魔としての適性を手にするのです」そわそわ
男「……ああ。淫魔姫も落ち着いてな」そわそわ
段々と薄まっていく霧。
その向こう側に、幾つかの影が現れ――動く。
男「……お?」
霧が晴れるのを待たずに、獲物を見つけた獣のごとく影が突進してくる。
咄嗟に肉体の活性化を行い、抱きとめる。
男「っと、とと」
子淫魔a「はじめまして、パパっ」
飛び出てきたのは、獣などではなく、当然少女。
俺と、淫魔姫の、子供。
子淫魔b「パパだぁっ!」
子淫魔c「ぱ、ぱ」
子淫魔d「おとーさん!」
子淫魔e「お父様っ!」
わらわらぴょんぴょん。
最初の一人を皮切りに、無数の少女が飛び掛る。俺に。
男「……って、いやちょっと待て」
制止も聞かずに突進してきた娘達によって、俺は肉団子の核となった。
淫魔姫「お、男さーん、大丈夫ですかー……?」
男「なんとか……」
全身を固められながらも、何とか返事をする。
……しかし、まあ、何となく柔らかいところは子供でも淫魔らしいというか。
男「ところで、王としての仕事って何なんだ?」
気になっていたので、ついでに質問してみる。
まさか政治をやれとは言うまい。そもそも淫魔に政治という概念があるかも怪しいところだ。
淫魔姫「え、えぇと、その」もじもじ
淫魔姫「生まれたばかりの子供達に、生き抜くすべを教えるための、手伝いをしていただくといいますか」
男「……って、それって、その」
女執事「――誤解が無いように私めが説明いたしますと、姫様、もとい新女王様とのセックスを手本として」
女執事「次世代の女王候補の皆様にお見せするのです」
男「いやいつの間に――って、は?」
淫魔姫「はい、女執事のいうとおりです……」かぁっ
男「……ええと、つまりだな」
男「俺の初体験は、公開プレイになるってことか」
女執事「左様にございます」
女執事「ああ、新女王様も処女ですのでご安心を」
淫魔姫「ちょ、ちょっと女執事っ」
女執事「いいじゃないですか、同時に始めてを失うの。人間の純愛みたいで素敵ですよ?」
淫魔姫「そ、そうですかね」ぽっ
男「問題はそのシチュエーションにあってだな」
女執事「これだから童貞は」
男「至極真っ当な反応だと思うんだけど」
大体娘の前で堂々と行為を行う親はどうかと思う。
人間として。
女執事「ほら女王様、早くしないと姫様たちに童貞を奪われてしまいますよ」
淫魔姫「……へっ?」
女執事「一応方法だけは、彼女達も本能で覚っているでしょうから」
女執事「今もその肉団子の中でどさくさにまぎれてペニスをしゃぶっていてもおかしくはありません」
淫魔姫「な、ちょ、駄目っ」わたわた
淫魔姫「こら、はなれなさいっ」わたわた
彼女はそうは言うものの、実際に引き剥がそうとするのではなく軽く揺らす程度だ。
子供に対する加減が分かっていないのだろう。実際俺も暴れて引き剥がすことはできるけどできないし。
それにしても、大人しい。
実際に淫魔姫が危惧しているようなことは起こっていない。それはありがたい事ではあるのだが――、
子淫魔a「……んにゅ、ぱぱぁ」むにゃ
子淫魔c「……んー」すやすや
子淫魔e「おとう、さまぁ……」もそもそ
男「えっと、淫魔姫。この子達、寝てる」
女執事「おや? ……珍しい。本能に導かれて、目の前に異性が現れたら問答無用で犯すのが我々の幼体ですのに」
さっきの淫魔姫を焦らすための嘘じゃなかったのかよ。
淫魔恐ろしい。俺が淫魔姫に選ばれて良かった。他のやつの餌食になってたら窒息死する。
淫魔姫「霧を全て吸わぬうちに飛び出してきたからでしょうか」
女執事「いえ、毎回あの程度の量で十分なはずですが」
淫魔姫「……なら、きっと男さんのおかげですね」にこっ
男「……あ、そういえば俺、淫気が効いてないんだっけ」
女執事「成る程。つまり生まれた子らも、淫気の効きにくい、魔法に耐性のある体質になったのですね」ふむ
女執事「……しかし、それではこの子達は生きていけないのでは?」
男「そっか。そういうのが食料だったんだよな……」
淫魔姫「それでしたら、ご心配なく」
淫魔姫「私からこの子達に分ければいいんですよ」すっ
男「そういえばそういうことも出来るんだったっけ……って」
男「その、分けるエネルギーの元って」
淫魔姫「お、男さんのです」
男「……まあ、仕方ないよなぁ」
要するに、間接キスみたいなものだと思いたい。
性交とかそういうことはしていないし、まだ健全だろう。
女執事「そうするのであれば、普段のおままごとでは足りませんね、女王様」
女執事が笑みを浮かべる。
……ごく普通の微笑みにしか見えないけれど、なぜだろう。背筋が凍る。
男「足りないって、ええと」
淫魔姫「……はい」かぁっ
淫魔姫の頬が、ほんのりと紅く染まる。
恥らうように身を縮めてはいるが、口角が僅かに上がっているのが見えてしまった。
淫魔姫「おとこ、さん」ずいっ
彼女の顔が、眼前に迫る。
普段のキスと同程度の距離ではあるが、状況が状況なだけあって胃が引きつる。
男「あの、淫魔姫」
淫魔姫「私だって、ずっと我慢してたんですよ」
男「えっと、そういうのはちょっと――」
淫魔姫「おとこ、さん」
耳に届いた彼女の声は、震えていた。
それに驚いた後に、俺は彼女の目が潤んでいることに気づく。
淫魔姫「男さんが、なれてくれるまで頑張ろうって」
淫魔姫「そう思って、ずっと待ってたんです」
淫魔姫「でも、愛しい人と繋がりたいなんて」
淫魔姫「私達でなく、人間でも、思うことじゃないですか」
淫魔姫「それでも我慢してきたんですよ。男さん」
淫魔姫「だから、だから、ね?」はーっ はーっ
男「……淫魔姫」
確かに、淫魔姫の言い分も最もである。
彼女は淫魔だ。精を糧とする生き物だ。
かつて、彼女のエネルギーが枯渇して倒れのも。
そして今、この子達の将来が危ぶまれているのも、責任の一端は俺にある。
何度も嘔吐をするはめになったが、それは彼女の悪意によるものではない。
彼女は淫魔として、自然に振舞っただけなのであって、俺がそれを受け入れられなかっただけ。
彼女は自分の欲求を押さえ込み、俺のためにと尽くしてきてくれた。
ならば俺も、その想いに応えなければなるまい。
だが、駄目だ。
彼女は、愛しいものと繋がろうとするのは、人間にも淫魔にも共通した欲求だという。
確かに俺も、淫魔姫と繋がりたいという想いはある。
性欲がどうとか、トラウマがどうとか、そんなものは一切考えずに。
ただ愛しい人と、快感を与え合うということに意味がある。
子供を作るための性交ではなく、快楽を得るためのセックスではなく。
お互いの肌を触れ合わせ、お互いに大切なものを委ねあうという行為に意味がある。
だが、駄目だ。
そればかりはできない。
なぜならば――
男「――淫魔姫、女執事」
まだ、俺は。
男「まずこの子達をどけてくれ」ずしっ
娘達に埋もれたままなのだから。
以下セクロス。
おまけ終わり。
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