霧の森には神様が住んでいる(23)
龍「……静かだな」
龍(最近は体が重くこの森の奥に寝たきり。儂ともあろうものが……少しばかり生き過ぎたか)
龍(土に還ることに刃向かう気はない。そうして命は巡るのだ。しかし…)
龍(最後に、あの娘に一目会いたい)ギュッ
龍「この赤い靴を残して行った、あの娘に……」ググッ
ズシン ズシン
龍(体がなかなか思うように動かんな……ん、あやつは…)
妖精「あらあら珍しい、龍が歩くところを見るのは何十年ぶりかしら?」ヒラヒラ
龍「……お前は」
妖精「あらあらお忘れ?私もこの森に住んで長いのに」
妖精「なぁに?その素敵な赤い靴。あなたには些か可愛すぎるんじゃあないかしら」クスクス
龍「…この靴の持ち主を知らぬか、小さな小さな人間の娘だ」
妖精「さぁ?たまに森を抜けて遊びに行くけど、心当たりは無いわね。
だいたい、そんな靴今どき珍しいんじゃないの?」
龍「……そうか」ズシン ズシン
妖精「あらあら、もう行っちゃうのね。まぁせいぜい無理しないことねぇ」
龍(しばらく横たわっている間に、これほどに森は変わるのか)
龍(見慣れない木ばかりだ…)ズシン ズシン
コマドリ「龍だ、龍だ」
ハツカネズミ「珍しいね、珍しいね」
ガマガエル「久しぶりに誰か来たのかもしれないね」
龍(儂が森から出るわけには行かない。誰かに訪ねていく他あるまい)ズシン ズシン
金髪「あぁ」
龍(これはめずらしいものに会った)
金髪「ドラゴンは初めて見られました。それはどこへ行くのですか」
龍「この靴の持ち主を探している。心の優しい、人間の娘だ」
金髪「私は知りません。技がその前にあなたを知らないので」
龍「……なんだお前は。この森のものではないな」
金髪「あぁ」
龍(これはめずらしいものに会った)
金髪「ドラゴンは初めて見られました。それはどこへ行くのですか」
龍「この靴の持ち主を探している。心の優しい、人間の娘だ」
金髪「私は知りません。私がその前にあなたを知らないので」
龍「……なんだお前は。この森のものではないな」
金髪「ちょうどそのように。 私が何も知らない行方 不明の子どもであるので」
龍「こんなに霧の深い森だ、幽霊すら迷う……何の用で来たのだ」
金髪「私は単に居眠りをしていました。 そして、それは心配させられました、卵隠しは行きました、どこに……」
龍「そんなものは見なかったぞ」
金髪「本当? しかし、それはよいです。 それがそのような状況へ慣れているので。
それは今回奇妙なクリケットに招待されないのがよいものですが」ニコ
金髪「長い間止めて、私はすまなく思います。
あなたがあなたの大切な人物に会うのは素晴らしいことです。さようなら」タタッ
龍「行ってしまったな……卵隠しとやらもいないのに」
龍「……さて、儂もまた歩かねば。何に尋ねるのがよいか…」ズッ
龍(…ん?なんだあれは。生き物達がやけに集まっている)ズシン ズシン
龍「……何があったのだ?」
ツグミ「誰が殺したんだ」シクシク
クモ「この矢はスズメだ、ズズメがやったのさ」
カブトムシ「可愛そう、可愛そうなコマドリ」シクシク
フクロウ「悲しいねぇ、痛かったろうにねぇ」
ガザッ
龍(何か歩いてくる……)
エルフ「あぁ、ここに落ちたか」スタスタ
バサッ カサカサ
龍(生き物たちが逃げてゆく…)
龍「スズメのご登場というわけか」
エルフ「クックロビンを射殺すのはスズメだと相場が決まっているからな」ヒョイ
エルフ「…思ったより小さいな」
龍「……」
エルフ「なんだ?森の主として、殺生は許せませんってか?」
龍「いや。それが自然の摂理というものだ」
エルフ「そういうことだ。食べるのは仕方ないし、食べられるのもまた仕方ない」
エルフ「そうしなければ俺たちエルフだってすぐに死ぬ。まぁいくら健康でもあんたのように長くは生きないがな」
エルフ「で、長い間岩みたいにうずくまってたあんたが今更、何しにどこへ行こうってんだ」
龍「人間の娘を探しているのだ…か弱い非力な人間の娘だ。もう儂は長くはない…最後に一目会いたいのだ」
エルフ「はっ、女の子に会いたいだと?人喰いの化け物が随分と丸くなったな」フン
龍「何を……儂は今まで、人間など喰ったことは…」
エルフ「……生き過ぎてボケたか?お前は…まぁいい」
エルフ「お前が持ってる赤い靴は、その娘のものって訳か」
龍「……あぁ、そうだ」
エルフ「……その娘は、どこへ行った」
龍「わからぬ…娘が森に来たのも、もう数十年も前だ……」
エルフ「……そうか」
龍「儂はずっと待っていた…もしかしたら、その娘がもう一度森へ来るのではないのかと。
結局、娘は来なかった。だが儂は……」
龍「儂はもう一度、あの娘に会いたいのだ。あの優しい娘の美しい歌を最後に…聞きたいのだ」
エルフ「…………そうかよ。悪いが他当たれ、俺はそんな奴知らないな」
龍「……本当か?」
エルフ「は?」
龍「本当に、お前はあの娘を知らないのか?」
エルフ「……腐っても龍ってわけか。そんなところは変わらないか、皮肉めいてるな」フン
エルフ「……知らないほうが良いことだってある。満足いくまで、死ぬまで探せばいいさ、そしてそのまま、土に還れ」
龍「……お前は何を知っているというのだ」
エルフ「お前が何も知らないだけだ」
エルフ「そんなに気になるなら、妖精にでも聞けばいい。あいつらなら知ってることは教えてくれるだろうよ」
龍「……妖精か。それも良いだろう。だが、お前に…」
エルフ「おっと、これでおしまいだ。俺はもう行く。お前には付き合いきれねェよ。
俺のことも……覚えてないんだろう」ハッ
龍「……?」
エルフ「じゃあな、もう会うこともないだろう……せいぜい、満足のいく最期を目指すんだな」ザッ
龍(どこへ行った……完全に気配が消えた)
龍「また、別の奴を探す他あるまい……」ズシン ズシン
龍(体が重い…)ズシン ズシン
龍(ああ、体が痛い…儂はこんな思いをして、何処へ行こうと言うのだ。何をしようというのだ…) ズシン
龍「……」
龍(……ここは)
龍(この湖は、なんだったか?とても大切な場所だった気がする。とても……)
龍「最後に此処へ来たのは、いつだったか…」
龍(……?湖のほうから声が聞こえる。霧が深くて良く見えんな…)ズシン
???「♪One misty, moisty morning, When cloudy was the weather, I chanced to ...」
龍「……!」
龍「此処か、此処にいたと言うのか…!!」
???「♪...meet an old man Clothed all in leather.
He began to compliment, And I ...」
龍「おお、愛しい子!もっと近くで聞かせておくれ…!」ズシン
???「♪...began to grin How do you do...」
龍「ああ、可愛い子…姿をよく見せておくれ」ズシン
???「……」
龍(眼を開けていられん…どうしてだ、とても瞼が重い)ズ...
龍(それに、とても暖かくて…懐かしい)
龍(儂は…儂は何をしていたんだったか?)
龍(……もう、いいか。そんな事…)
龍(いくら探しても見つからないわけだ。ずっと此処にあった、ずっと此処にしかなかった…)
龍「……もうお前は、儂のなかにしかいなかったのだ」
霧の森には行っちゃ駄目よ。
あそこは遊ぶところじゃないの。
霧の森はお願いをするところ。
ずっとずっと昔から、あの森には神様がいるのよ。
神様に贈り物を渡して、お願いをするの。
お砂糖にスパイス、そして素敵なものをいっぱい持っていくのよ。ぼろきれやかたつむり、子犬のしっぽなんかじゃ駄目なんだから。
神様がぺろりと贈り物を平らげたら、きっと願いを叶えてくれるわ。
だから、霧の森には行っちゃいけないの。
おしまい
忘れられることは辛いけど、忘れることはもっと辛いのでしょうね。
そのくせ昔のことは鮮明に覚えていたり。へんな声が聞こえたりしてね。
長く生きてるとしかたないのでしょうか、そんな話。
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