幼馴染「彼氏出来たから紹介するね」男「…え?」 (516)

男「え、嘘、何時から出来てた…感じ?」

幼馴染「昨日だよ。えへへ、じつは告られちゃいました」テレテレ

男「……」

幼馴染「それにそれに、男ちゃんもびっくりすると思う! その相手の名前に!」

男「っ…へ、へぇー一体誰かなぁ~?」

幼馴染「なんとっですな! んーふふ、実はですな!」ビシッ

男「うおおっ」ビクッ

幼馴染「写メ見て写メ。誰が写ってるでしょーか?」

男「……。先輩?」

幼馴染「あったりぃー! そうなんだよい、じっつはぁー男ちゃんの先輩さんだぜー!」

男「お、おお…」パチパチパチ

幼馴染「苦節十六年、やっとこさ私にも春が訪れましたぁー……今は夏だけどね、にひひ」

男「…なんかこう、なんて言ったら良いのか分からないけれど、おめでとう」

幼馴染「うん! ありがと、男ちゃん!」



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幼馴染「滅茶苦茶イチャラブしてやるぜ!」

男「…そっか」

幼馴染「うん? …どした元気ない?」

男「えっ!? いやいやいや、そんなこと無いって。ただ少しだけ驚いてるだけ、だから」

幼馴染「そなのけ? んじゃー特別に私の里芋の煮っころがしをあげよう、味わって食べなさい」ヒョイ

男「あ、ありがと」

幼馴染「うむ」コクコク

男「………」パクパク

幼馴染「…そーいうこと、だからね。男ちゃん」

男「あ、うん?」

幼馴染「今日から一緒にお昼ごはん食べるの、無理っぽくなりそうなんだ…」

男「…うん、大丈夫だよわかってる。初めて出来た恋人さんなんだし、ちゃんとイチャラブしないと」

幼馴染「ごめんね。今までずっとこーやってさ、一緒に過ごしてきたけれど──うん、身勝手に終わらせてごめん」

男「なんでそう謝るのさ。僕だって二人の仲を邪魔するつもりなんて無いし、」

男「…君がやりたいことをやって、誰かが悪いなんて言ったりすることなんて起こらないってば」

幼馴染「うん。ありがと、そう言ってくれると──安心できる」

男「うんっ」

幼馴染「なんかさ、私的に未来予想図って言うの? そのビュアーがあるんだけど、」

幼馴染「──私と先輩さんと男ちゃん、この三人で一緒にお昼ご飯食べれたならなぁーなんて、思うわけですよっ」

男「…そりゃまた凄い未来だ」

幼馴染「でしょ? 男ちゃんも先輩さんと仲良いし、何時かは叶うと良いなぁって」

男「……」

──ズキン

男「…そうだね、よーちゃんが叶えたいと思うのなら──きっと叶うことなんだろうって思う、頑張って」

男「あ、あはは。なんか人ごと見たいに言っちゃったけど僕のことでもあるんだよね、ごめんごめん」

男「はは、は」

男「──ははっ」



放課後 帰宅路


男「……」トボトボ

男(そっか、うん。まぁ分かってたことだけど──何もしなかった自分が悪いのもわかってる)

男(思い出せないぐらい昔から付き合いがあって、それこそ何時から出会ったのか忘れてしまってるぐらいに)

男「──けれど、そっか」

男「…こんな時、僕はどうしたらいいんだろう。泣いたらいいのか、怒ったらいいのか」

男(いいや、どっちも合わない気がする。どっちも少し違う気がする、そもそも僕自身が元より──)

男(──諦めかけていたってことが、原因なんだろうけど)


「よっ! 今帰りか?」ポン


男「うわぁっ!?」

男「だ、誰だ!?」

先輩「オイオイ誰だって失礼な。いや驚かせたのは俺か……すまんすまん、びっくりさせたか?」

男「え、先輩? ちょっとびっくりさせないでくださいよ…!」

先輩「いやーすまなかった。見知った背中が見えたもんで、思わず嬉しくなって話しかけたんだ…悪意はないぞ」

男「…今度からは普通に呼びかけてくださいよ」

先輩「肝に銘じる。では、早速ながら突然ながら、お前にご報告がある。ちょっと良いか?」

男「…。知ってますよ、彼女できたんでしょう」

先輩「やっぱり知ってたか。んーハッキリと言いやがるな、アイツもまた」

男(アイツ…)

先輩「まぁそんな性格だと思ってたからな。お前とアイツの関係なら、いち早く知られると思ってたが──ご、ごほんっ」

男「?」

先輩「もしや──俺の告白のシーンまでバラされて、ないよなっ?」

男「なんですか、もしかして滅茶苦茶緊張して噛みまくりながら告白したとでも…?」

先輩「やっぱりバラされてる!?」

男「別に聞いてませんし、タダの僕の勘です。やっぱりそうだったんですね、みっともない」

先輩「うぉおぉっ……!? 急激に一片に責められて俺の頭の処理が追いついてないぞ…!」ブルブル

男「気にしないでください。それよりも、おめでとうございます」

先輩「…おう。なんかスマンな」

男「ん、どうして謝るんですか?」

先輩「いや。お前には絶対に最初に謝ろうと心に決めていたんだ。どんな結果であっても」

男「…どうして?」

先輩「俺は昔からこんな性格で、ああ、お前が知ってる通りの奴だから──言っておかないと、正直色々と潰されそうになる」

先輩「お前の幼馴染、お前の時間から盗ってしまって──すまない」ペコリ

男「………」

先輩「キチンと言っておきたいんだ。お前には、ちゃんとな」

男「…相変わらず口調も含めて、古臭い人ですよね先輩」

先輩「…むぅ」

男「大丈夫ですよ。ちゃんと僕はよーちゃん居なくても生きてられますし、というか二人共僕のこと心配しすぎじゃないですか?」

先輩「アイツも言ってたのか?」

男「ええ、だから言ってやりましたよ。初めての彼氏なんだから、ちゃんと頑張ってよって」

男「──だから、その、僕は人でも平気ですから」

先輩「……。ああそっか、ありがとう──そう言ってもらえると安心できる」

男「……」

先輩「確かに気にしすぎているかもな。俺もアイツも、けれど長い間付き合いがあるだけ──やっぱり気にはなるんだ」

先輩「お前には感謝してる。俺とアイツの引きあわせてくれた奴なんだ、うむ、本当にな」

男「……はい」

先輩「もう一度言っておく。有難う、感謝している」

男「あはは。感謝しすぎですって、頑張ったのは先輩でしょう? ちゃんと告白をして好きだって言って……」

ズキン

男「…手に入れたのは、先輩さんが努力をしたからでしょうに」

男「…だから僕に感謝する必要なんて、ありませんよ」

先輩「変に謙虚だなお前も。まぁ知っていたけれど」

男「そういう奴なんですよ、うん」

先輩「ああ、知ってるさ──おっと、彼処で待ってるのは……妹かな」

男「えっ? 妹さんですか?」

先輩「今日はお袋から買い物を頼まれててな。一緒に済ませようとさっきメールで」

男「わかりました。じゃあこれで」

先輩「ああ、じゃあまた明日」

男「はい」フリフリ

先輩「──なぁ男!」

男「なんですか?」くるっ

先輩「……今度一緒に、三人で昼飯食べないか?」

男「……なぜまた急に?」

先輩「いや。なに……本当に突然だが、そう思ってな!」

男「………」

先輩「ダメならダメで良い。お前が決めていいことだし、無理強いはしない」

男「──ああ、良いですよ。きっと楽しいですよね、みんなでお昼ごはんなんて」

先輩「そ、そうか! 済まない呼び止めて、それだけだ」

男「はい。じゃあまた明日、先輩」


くるっ すたすた


男「……?」

先輩妹「……」じぃー

男「……」ペコリ

先輩妹「……」ニコリ

男(…初めて見たな先輩の妹。同じ学校だけど、名前だけしか知らなかったし)

男「…なんかイヤな視線だったな」


次の日 昼休み


幼馴染「男ちゃん!」

男「うわっ! どしたの急に?」

幼馴染「えっと、そのっ! ほ、本当?」

男「…ごめん何が?」

幼馴染「昨日ラインで先輩さんから教えてもらったんだけど──一緒にお昼ごはん、食べてくれるの?」

男「……ああ、うん。いいよ別に、もしかしてそれって今日?」

幼馴染「いやいや別に何時だって構いやしませんぜ! あい、うん、えっと、男ちゃんが気が向いた時で全然…!」

男「……本当は迷惑なんじゃないの?」

幼馴染「えっ?」

男「あ、う、ううん、別に……ただ今日は無理っぽいかな。ちょっと用事があってさ」

幼馴染「そ、そっかぁー……」ホゥ

男「…えっと」

幼馴染「あっ! いやっ! 違うよ!? 今のはそういった意味で安心したんじゃなくって、そんなんじゃなくってっ」ブンブンブン

男「…そうなの?」

幼馴染「あ、うん。ちょっと実は……ううっ……手作り弁当を作ってましてっ……男ちゃんに見られると恥ずいって言いますか……うん…」ツンツン

男「あーそういうこと。あはは、よーちゃんも女の子らしいシチュエーション考えたもんだね」

幼馴染「お、お恥ずかしい話でございます…」

男「そういうことなら頑張って。僕も陰ながら応援してるよ」

幼馴染「ははぁー! 恩に着ます! マジで! ハイパー超べりーまじで!」ペコペコ

男「うん。それじゃあファイトだよ、イチャラブ!」

幼馴染「イチャラブ! ではでは~! 行ってまいります!」

男「……行ってらっしゃい」フリフリ

~~~~~~

男(──コレでいいんだ、何も間違っちゃいない)

スタスタ スタスタ

男(自分は幼馴染で、後輩で、二人の距離は決まって──昔からこんなモンなんだ)


ガチャ キィ


男「ふぅ…何もしなかった僕が悪い」


『第四講義室』


男「…今日からまたお世話になります、第四講義室様」パタン

男「うん。埃っぽいけど全然衛生面大丈夫、今から掃除するし」パッパッ

男「うわぁ一年の頃に使ってた机と椅子がまだある…本当に誰も来ないんだ、ココって」

男(よーちゃんが部活を頑張ってた一年のころ、何かとここに来てた時も誰も来なかったし)ガタガタ

男「…懐かしいな、うん」

男「よしょっと、んぐぐ窓が固い…っ!!」ギチギチ

ガララ!

男「よっと、ふぅー…いい風が吹いてるぜ…」

男「………」


ズキン


男「痛っ──目にゴミが入った…」

男「いたた…最悪だもう、本当に最近は良いことが──」

男「──何言おうとしたんだ、違うだろそんなの…」

男「別に何か嫌なことがあったわけじゃない、だってそれが当たり前なんじゃないか、」

ポロポロ

男「何もしなかった僕が悪くて、誰も悪くなんて……うわぁ…ひっぐ、」

男「ああっ、くそっ……なんで流れるんだよ、泣くなんて違うだろ…っ」ゴシゴシ

男(このまま昼休み終わってよーちゃんに眼が赤くなってるのバレてしまう…)ゴシ…

男「…はぁーもう最悪だ、うん、今はとっても最悪に違いない」

男(このまま帰ってしまおうかな。見られてしまうぐらいなら───)チラリ

男「──あ」


幼馴染「──…」

先輩「…──」


男(っ……そっか、この教室だと南校舎の屋上よりも高いんだっけ)

男「……」


幼馴染「…──…」

先輩「──……」


男「…楽しそうに笑って、ははっ」グスッ

男「はぁーあ、なんだろう。本当に僕って馬鹿みたいだ」

男(帰ろう。こんな気持じゃよーちゃんに感づかれて迷惑がかかるし、)


ガタタ


男「…!? ドアが…!?」


ガタタ ギギギ


男(誰か入ってくる──!? 嘘だろ、まさかこんなタイミングで…!!)キョロキョロ

男「ロッカーの中に隠れるしか…!」ダダッ バタン


キィ ガチャ


男「っ………」ドッドッドッドッ


「──おかしいですね、物音はしてたんですが」

男(女の子の声…? 誰だ、聞いたこともない──)


「? 窓が開いてる…」


男(!? し、しまった開けっ放しだった! 隠れることしか頭になかったから……!)ドクン


「……。まぁそんなこともありますよね、うん」


男「…はぁ~…」ドッドッドッド


「ふんふーん。おや? おやおや~? またもや糞兄貴とお姉様がイチャコラしておりますよ、まったく」ブツブツブツ


男「…?」


「──糞忌々しいッ…血のつながりがあることも去ることながら、脳筋お花畑糞侍価値観野郎が──私のお姉様を盗るなんて…ッ!!」カチャ


男(一体なんだろう、なんだか聞いてはイケないことを聞いてしまってるような…)

「死にたいとなっても誰もテメーをお悔やみ申すことなんてねぇーですよっ!」

「──けれどキャーーーーーーーーー!!! 今日も麗しき最高の美少女お姉様ァーーーーー!!!」パシャパシャパシャパシャ


男「!?」


「なんなんですかその表情! 超レア! ビックレア! ウルトラレアのニューフェイス! 今の今まで最強のコレクションが出来上がりましたー!」パシャパシャパシャ


男「!?……!?」


「はぁはぁあへぐっふ…にへへ…なんですか、それは手作り弁当!? あの糞兄貴の為にお手製のお弁当!? なっ…なななななっ…」

「羨ましいなこのヤロウ! 畜生…畜生…なんなんですか…世界は不平等、神は人々を愛しては居ない…くそぅ…くそぅ…ッ」ガンガンガン


男「……っ…」ビクビク


「はぁーあ。ほんっと闇夜に紛れてあの糞兄貴をバットで脳髄地面にぶち撒けたい。」

「…叶わぬ恋ほど、私の気持ちは高まるばかり…」ぐすん 

男(た、大変だっ…とんでもない状況に僕はきっと居る…!)ガクガクガクガク


「ん~もしこの光景が誰かに見られでもしたら、うん、兄貴と同じ目に合わせよっと」

「まァーそんなことないだろうけどNE! HAHAHAHAHAHAHA!!」


男(もう絶対にバレちゃいけない!)ガタタ

男「んっ──!? しまっ」


「ん?」


男「ッ…ッ…!?」ドッドッドッドッドッドッ


「今──物音が──したような……?」


男(してないよ! 全然してないから!)


「……………………ロッカー怪しいな」スタスタ

男「あっ……」サァー

「……もしもーし? 誰かそこに居たりしますかー?」ガンガン

男「うっ…あっ…」ビクビク

「………。息遣い? 誰かいる──ってコト?」

男「っ」パシン

「…………」

男「………」

「…気のせいかな? こんな人気のない場所に誰か来るわけないし、うん」スッ

男「っ──……」


「良い写真とれたし、うっひゃー! お姉様チュッチュ! さーて帰ろっと、ふんふーん」スタスタ ギギギ パタン


男「……──……っ」

男(帰った…? 無事に住んだのか、僕…? はぁあぁあぁあ…良かったぁー…)

男「なんかこう、頭が振り切ってる人だったな。うん、どうしようもないぐらいに、見つかったら駄目なタイプだ」ギィ

男「──居るんだなぁあんな人。っていうかよーちゃんのことお姉様って言ってたのかな、あれって!?」パタン

男「ううっ…言ったほうがいいのかな…でも今は幸せでいっぱいだろうし───」チラリ


先輩妹「………」じぃー


男「──やっぱりいえ、ない………こと、……も………」


先輩妹「………」


男「……えっ? 嘘…?」

先輩妹「何が嘘何ですか? 見事間抜けに釣られて恥ずかしいですねぇ、先輩さん」

男「なん、で」

先輩妹「そりゃ勿論出て行くふりをしたんですよ。ああ、まぁ本当は最初からずっと気づいてましたけどね」

先輩妹「──先輩さん、この第四講義室でお弁当の匂いがしてるのって、おかしくありません?」

男「ッ…!?」

先輩妹「昔から鼻が良いもんですぐに気づきましたよ。あーそうそう、ついで言うと、というかそれこそ本題なんですけど」


先輩妹「──誰が頭が振り切ってるって? とんでもねーこと言わないでくださいよ、【あなた】が。貴方こそが言わないでくださいよ」


男「…っ…ちょっと待って、実は僕は…隠れてる時姿を見てないんだけど…さっきまで叫んでた人は…?」

先輩妹「そりゃ私でしょうに。他に誰が居るとでも言うんですか、というか居たら私が許しません。お姉様は私のお・ね・え・さ・ま、ですから」

男「…な、なら! どうして僕が居たって気づいてて、あんなことを…言って…っ」

先輩妹「………」

男「うっ……」ビクッ

先輩妹「先輩さん。私はきっと──壊れてるんですよ」

男「えっ? なに…?」

先輩妹「人が人を好きになるコトに、何故【異性】という絶対的道徳性が含まれるんですか?」

男「……そ、それは単純にそれが正しいことであって…その…」

先輩妹「正しい? 何故正しいと言い切れるんですか? 人は人ですよ、女性も男性も同じホモサピエンス───」

先輩妹「──まったくもって同じ肉の塊。少しばかり下半身に延長部分があるか否か、ぐらいの問題ですよ」

男「…お、おお…」

先輩妹「まぁ勿論お姉様は他の人間種族とは違って何段階もフィールを駆け上がった位置に居りますけれど、」

先輩妹「私は居たって疑問を感じてます。常識を当たり前に常識だと思える世の中全ての人々の脳みそに、私は不満を覚えているのです」

先輩妹「──わかりますか? 先輩さん?」

男「……ごめん、わからないよ……」

先輩妹「へェーそうですか。ま、良いですけども」ガタン

男「ひっ」

先輩妹「……。ちょっとビクつき過ぎじゃないですか、別に獲って喰おうなんて思ってませんよ」

男「うっ…」

先輩妹「貴方には全く興味なんてありませんから。いえ、ごめんなさい。興味はあります、けれど意味はありません」

男「意味…?」

先輩妹「そうですよ、貴方が私にとって意味ある存在となるのであれば──この興味を心から私は認めます」スタスタ

先輩妹「けれど私を失望させるのなら──真逆の意味で変わってくるでしょうね」

男「言ってる意味が…よく…」

先輩妹「先輩さん。貴方がもし、全ての人類が滅んでしまうと分かったら」

先輩妹「…貴方は【今できないことを、やれますか?】」

男「今できないことを…やれるか…?」

先輩妹「ええ。人は死にゆく運命を辿る、世界は崩壊を迎え、幸せな人も不幸せな人も、全て無に帰る」

先輩妹「──そんなとき、貴方は自分の隠された欲望を開放させる───」


先輩妹「……そんな壊れた人間に、なれる人間ですか?」


男「っ……ごめん、本当にごめんなさい。き、君が言ってることが要領がなさ過ぎて…僕には一体どう答えたら良いのか…っ」

先輩妹「………。わかりました、少しばかり反省します。これでもちょっと後悔してるんです、けれど、チャンスは今しかないから」

男「チャンス…? 君は本当に何を言って…」

先輩妹「では単刀直入で聞きますよ、覚悟はいいですか? 腹の力を込めて、私が言ったことに受ける衝撃の準備をしてください」

男「う、ぇっ、あ、うんっ」ギュッ

先輩妹「世の中全て運命で片付けられるのって、不満を覚えませんか?」

男「……ど、どうかな」

先輩妹「いや、貴方はきっと【絶対にそう思っってるはずです】。まるで磁石のN極S極のように、何度も何度も引き離そうと願っても」

先輩妹「──それが決まりかのよう、絶対にくっつき合う運命にある」

男「──………」

先輩妹「私は知ってるんですよ。そう……貴方と一緒で、私はそんな不条理を知っている」

男「………君は」

先輩妹「貴方はきっと思ってるでしょうね。【何にもしなかった自分が悪い】【誰も悪くない自分が悪い】【これが普通のことなんだ】って」



先輩妹「──そうですよね、だって貴方は【今まで自分の恋を成就させることを努力せず、あの二人を引き合わせないよう努力していたから】」

男「っ………」ズキン

先輩妹「どうですか先輩さん、教えて下さいよ。私は知っているけれど、私は貴方の口から聞きたいです」

男「…僕は…っ」

先輩妹「私はね先輩さん。お姉様を追いかけて、その側にいる貴方のことも観察してました」

先輩妹「──その手際、お姉様と糞兄貴を絶妙なトークで引き離させる様は、正直息を呑みました」

男「……っ…」

先輩妹「そして貴方の絶え間ぬ努力、度胸、行動力、全てが私にとってシンプルに心を揺さぶったものですよ」

男「…それが」

先輩妹「はい?」

男「それが例え君が思う……僕に対する印象であって、それを僕に言うことが何の意味があるのかな…」

先輩妹「いえ別に素直に褒めてるだけです。本当に、ただ一人の人間として素晴らしい能力をお持ちなのだなぁー…なんて」

男「……そっか」

先輩妹「けれど無意味でしたね。貴方は貴方が出来る限りのことをした、それは私が認めます。認めてあげるからこそ、言ってあげたいんです」

先輩妹「──何故嘘をつくんですか? 自分に、自分の思いに躍起になって食らいつかないんですか?」

男「えっ……?」

先輩妹「確かに貴方は素晴らしい能力をお持ちです。心構えもあこがれを覚えますよ、けれど、折れたらそれまで、次がない」


先輩妹「──何故怖がったんですか? 何故一度で諦めるんですか?」

先輩妹「──それは貴方が本当は信じてないからじゃないですか? それは心から認めてないからじゃないですか?」

先輩妹「──だから無様に泣いてしまうんじゃないですか? だから感情に整理がつかないじゃないんですか?」

先輩妹「──きっと貴方は気づいたふりをしてるだけ。きっと貴方は本当の失敗をしたくないだけ」



先輩妹「──貴方は本当の自分を認めず、信じず、諦めて、泣いて後から気づかないふりをしてる───」


男「っ……やめろ…!!」

先輩妹「ん、なんですか?」

男「……なんでそんなこと言うんだよ、やめてくれ、違う、君に何が分かる…!!」

先輩妹「わかってるから言ってると、言ったはずですけど?」

男「っ……いきなりこんなことを言われて、出会って間もない奴に散々ボロクソと言われて…はい、そうですかって言えるわけがないじゃないか…!」

先輩妹「…だから衝撃に耐えろと、言ったはずですけど?」

男「こっ──こんなこと言われる筋合いはないんだよ! なんなんだ君は…! 僕は僕で勝手に生きてるっ…だから、そのっ」

先輩妹「めんどくさい人ですね。自分に正直な方かと思ってましたが、話してみないとわからないこともあるもんですよ」

ガララ

先輩妹「もっと風がほしいところですが──まぁいいでしょう。今から少し本音を零しますね」

男「…えっ?」

先輩妹「…私は幼馴染さんが大好きです」

男「……っ…」

先輩妹「出会ってすぐに、私はこの人が好きだなと思いました。一目惚れです、馬鹿みたいに一途に惚れちゃいました」

先輩妹「幼馴染さんと挨拶するだけで、会話をするだけで、胸が高鳴ります。ちょっとした共通点なんか見つけた時は、必死になって知らない話題も覚えました」

先輩妹「あの人が好きなことは何だろう、あの人は何を言ったら喜んでくれるんだろう。……頑張って考えました、頑張って諦めずにアピールし続けました」

男「………」

先輩妹「私の原動力は──恋です。あの人が大好きだから、だから頑張ろうと思えます」

先輩妹「きっとこんな私は嫌われるんです。怖いな、なんて。頭が狂ってる、なんて──……」

先輩妹「…でも好きなんです。好きだから、壊れちゃうんです。今までの自分が自分じゃなくなっていく……その感覚を知ってしまったから」

男「…それは、」

先輩妹「はい?」

男「それは……分かる。好きだから、本当の自分が変わっていくって──感覚は、うん、わかる…と思う」

先輩妹「はい。ですよね」

男「…だから、けれど、」

先輩妹「認められないから、諦めるしか無い? ですか?」

男「……」コクリ

先輩妹「わかってますよそれぐらい。ダメだってことぐらい、もしかしたら誰よりもわかってると思いますよ」

先輩妹「──けれどそんなコトで否定なんて、されたくない」

先輩妹「それならいっそ、降られてしまったほうが良い。それならいっそ、嫌われた方がいい」

先輩妹「──私はそんな誰が決めたかも分からないことで、諦めたくなはないんです」

男「………」

先輩妹「先輩さん。先輩さん、私は何度も何度も言いました」

先輩妹「それは何故だと思いますか? 何故──貴方にここまで私は自分をさらけ出すと思いますか?」

先輩妹「私はここに居ます。一人の人間として、地面に立っていますよ」

先輩妹「──だから教えてください、貴方の本音を聞かせてください」


先輩妹「貴方は──誰のために【誰のためににもならない努力をしたんですか?】」


男「…っ…」

先輩妹「………」ジッ


ああ、自分は努力していた。

誰のためにもならない。きっと誰も救いはしない、そんな努力を。

幼馴染に彼氏が出来る。

それを一番避けたかった事を、一番自分がよく知っているからこそ、努力を重ねた。

非道だと思われたくない。最低なやつだと嫌われたくない。

だって好きだから。僕だって──……人と同じ、好きだって思いを持ってるから。


だけど、認められないから、自分は誰のためにもならない努力をする。



男「…一つ聞かせてくれないかな、どうしてわかったの?」

先輩妹「見れば一発ですよ。貴方が見つめる瞳は何時だって、どんな時だって、」

男「…あはは、恋する感じだった?」

先輩妹「ええ、それはそれは凄く十分に」ニコリ

男「そっか。誰にもバレてないと思ってたんだけどな、うん」


男「そうだよ、君が感づいてる通り──僕は好きなんだ」

男「──彼が、先輩が好きだ」

先輩妹「……」コク

男「出会って数年ちょっと。自分は何処かおかしいと思い始めて、どんなに否定しても──心は結局決まったままだった」

男「…多分僕は壊れてるんだよ。君が言ってる通り、君が思ってる通り、あはは、実は僕も壊れてる」

先輩妹「ええ知ってますとも」

男「…それが聞きたかったの? だから、こんなにも自分のことをさらけだして?」

先輩妹「はい。貴方の言葉聞きたかったんですよ、あの二人を数年間一度も付き合わせること無くやってのけた人の──」

先輩妹「──本音を聞きたかったんです、だから、頑張りました」

男「…そっか、変だね君も」

先輩妹「貴方が言わないでくださいよ。それこそ、私よりも頭が振り切ってる──あなたが」

男「うん。はぁーあ、このまま忘れてなかったコトにしたかったのに…」

がしっ

男「…どうして、こう……うん?」

先輩妹「……」ブンブン

男「え、なに? 無言で腕掴んで首を振られても……どうしたの?」

先輩妹「駄目です諦めたら駄目、何故そこで諦められるんですか?!」

男「え、えーだって彼女出来ちゃたし…僕の幼馴染だし…」

先輩妹「だしだしうるせーですよ! ほんっと何考えてるんですか? 数年ですよ、数年! 何の努力もしないで邪魔だけは一級品に仕上げた貴方が!」

男「あの、そういった言い方やめてくれないかな…」

先輩妹「だぁーもうなんでイジイジするんですか!?じゃあ正直に言いますよ! 私、初めて男の人をカッコイイと思っちまったんですよ!?」

男「え、ええっ!?」

先輩妹「むしろ尊敬の値に達しますよこれ! ほんっと、ガチで言ってますからね!? なのになのに、私が尊敬した人は一回の失敗で諦めちゃ困るんですよ!!」

男「困るって言われても困るんだけど…」

先輩妹「なのでだから手伝ってください!」

男「はい?」

先輩妹「あの糞兄貴からお姉様奪う手伝いしてください! お返しに──その、お姉様から糞兄貴を……う、奪う手伝いしますから……!」

男「うん、待て。凄く待って、君今とんでもないこと言ってるけど大丈夫?」

先輩妹「ほ、本気ですよこっちは! 凄く本気です! ウィーアーチャンピオン!」

男(どう見ても正気じゃない…)

男「…じゃあ一つ言わせてくれないかな、その事は君の大切なお、お姉様…を不幸せにすることなんだけど、」

先輩妹「うっ」

男「平気なの? それは君にとって許せることなのかな?」

先輩妹「それは…っ、しょの…」ツンツン

男「もし仮に許せるのなら、僕は手伝ってあげてもいい」

先輩妹「えっ?」

男「けれど別に僕は先輩を絶対に欲しいわけじゃないよ、うん、だから君が約束を守らなくていい」

男「だけど君が幸せになるために、よーちゃんを奪うっていうのなら、手伝ってあげる」


男「──それで、どうなのかな?」ニコ


先輩妹「っ……」ビクッ

男「うん? どうしたの?」

先輩妹「いえっ! すみません、ちょっと……急に雰囲気変わったような気がして…」

男「えっ? …ああごめん。この感覚、忘れようと思ってたのにすぐにコレだ」パンパン

先輩妹「………」チラチラ

男「よし、良いよ。それでどうするの? あんまりいい感じはしないけど…」

先輩妹「いえ! 決まりました。ええ覚悟は決めましたとも、是非ともお願いします! 先輩さん!」ペコーッ

男「…本当に? それでいいの?」

先輩妹「むしろ乗り気になられてしまったことに正直、驚きですよ此方は。やっぱり会話してみないと分からないことはたくさんあるんですね…うむむ」

男「そうだね。僕自身、少し驚いてる。多分、君がよーちゃんに対する思いの丈を言ってくれた……からだと思うけど、思わずこっちも乗り気なるよ」

先輩妹「……いえ、そこでノリ気なれる人なんて…本当にお姉様の幸せを考えるなら、それは……」ボソリ

男「うん?」

先輩妹「あ、いえいえ! なんでもないです!」

男「そっか。でも不思議なもんだよ、初めて会話するっていうのにさ。なんかこう……初めてじゃない気がするんだよね、君って」

先輩妹「そりゃだって本音を言い合った仲じゃないですか。腹を割って会話した者同士、同じ価値観なら尚更ですよ」

男「なるほどね。確かにその通りだ」

先輩妹「…それじゃあ、これからよろしくおねがいしますねっ?」

男「こちらこそ、ある程度頑張ってくれたら」スッ

先輩妹「何言ってるんですか。こっちは本気で糞兄貴を先輩さんとくっつけちゃいますよ」スッ


男「…うん、期待してる」

先輩妹「期待しててください」


ギュッ


先輩妹「…うっ!?」きゅるるぅ

男「あ。そうだお弁当食べないと」

先輩妹「…私も食べてませんでした」カァァ

男「じゃあ一緒に食べる? 今後の作戦会議も兼ねて、どう?」

先輩妹「勿論です。あーあ、出来ればこれがお姉さまになってくださればぁ……」

男「あはは。頑張ればきっと叶うよ、きっとね」


第一話 終

気まぐれに更新

ではではノシ

幼馴染「おはー」

男「おはよう」

幼馴染「今日もいい天気っすなぁ。うむ、実にいい天気」

男「そうだね、でも午後から少し崩れる心配があるそうだけどね」

幼馴染「そうなんけ? そりゃー困っちゃうなー部活ありますのにぃ」

男「あはは。よーちゃんは野球の鬼だもんね、なにせ多くの後輩から恐れられてるし」

幼馴染「怖がられてはおらんぜよ! ただ、まぁ、うん、挨拶の時に敬礼されるのはちょっと…色々と思わんでもないかな…?」

男「部活になると、普段とのギャップが凄いから……また勘違いされやすいんだと思うよ?」

幼馴染「…マジデスカ?」

男「マジですよ?」

幼馴染「グムム…」

男「だからさ──ほら、ね?」

幼馴染「うん?」

男「今回は彼氏が出来たわけなんだからさ、これからきっとよーちゃんの女らしさってのが、周りに知れ渡っていくと思うけどなぁー…なんて、」

幼馴染「ほんとにぃ? ほんとにほんと? …ありえるそんなこと?」

男「ありえるとも」コックリ

幼馴染「でもでもーそういっても~ワタシ的に、そういうの苦手だし…」

男「自信を持って! 怖がられてる要因は、まさしくそういった『女らしさ』を苦手としてる部分だよ!」

幼馴染「なんとッ!」

男「…だから、これから先輩さんと──うん、色々と頑張ってイチャコラすれば良いんだよ?」

幼馴染「……彼氏が出来れば後輩とも人間関係を円滑に進めるのね……!」

男「そう、彼氏とはそういったもの。まさしく女の子にとって最強の矛」

幼馴染「ぎぁー! いきなりの下ネタはやめて!」

男「えっ? あ、うん…?」

幼馴染「ウムム…で、では今日も今日とて……頑張ってい、イチャコラしてきますぞ…!」

男「頑張って! 応援してるよ!」

幼馴染「うぃー! では、ちょっくら早朝ミーティング行ってまいります!」ビシッ!

男「いってらっしゃい」フリフリ


男「ふぅー……」コキッ

男(……今の会話もし『彼女』に聞かれてたら、怒られるだろうな。あはは)

男(一体全体今のは何のつもりなんです? 私との約束はもう破り捨てられること前提で話は進んでるんですかっ! …なんて、)

男「彼女のためにも考えて置かないとな、よーちゃんとの距離も…」


「──よぉ、何してるんだ? こんなところで?」


男「あ…」

先輩「おはよう。今日もいい天気だな」

男「先輩おはようございます」

先輩「うむ。今朝は何時もどおり、早いなお前も」

男「まぁ習慣になってますしね、先輩もミーティングですか?」

先輩「無論だ。部長として己に課せられた責務を全うしてこそ、俺という人間なんだ」

男「…相変わらず堅苦しい、だから後輩から一つ距離を置かれるんですよ」

先輩「なん…だと…!?」

男「あれ? 知らなかったんですか? …あ、じゃあ忘れてください」スタスタ

先輩「待て待て待て待てッ! …え? ほんとに? 俺って距離置かれてる感じ?」

男「端から見ればそれはもう──まるで教師と生徒みたいな距離感ですけど?」

先輩「………えぇ…嘘……」

男「本当です」

先輩「じゃ、じゃあ……この前、後輩からジュースを一本奢ってもらったんだが……」

男「へぇーそうなんですか、どういう状況で?」

先輩「ソイツが自販機で買ってる時、挨拶したらいきなり手渡せれた──そういえばソイツ自分の分買ってなかったな…」

男「すみません。僕は少し勘違いしてたようです、教師と生徒じゃなくて、単純に恐怖の対象源みたいですね」

先輩「嘘だぁー! ほんとにっ? これほんとにそうのかっ?! 俺って尊敬されるちょっとクールな先輩じゃないのっ!?」ワナワナ

男「押しても引いても頑固にして強固、まさしく動く石像。生きる地蔵とも呼ばれてる……かもしれませんね」

先輩「やった可能性だ! 今だ可能性! これからかわれる!」

男「変わりたいと願うのなら、今がチャンスじゃないんですか?」

先輩「え? どうしてだ?」

男「彼女、できたんでしょう。それも部活の後輩にも認知されてる、だったら今こそ変われる時じゃないですか」

先輩「ほぉぉ、つまりは彼女が出来たから──俺は周りからの認識を変化されることが…?」

男「その通り。なので、頑張ってください先輩」

先輩「うむむ。成る程な、お前が言うのなら納得できる…頑張るべきなのかもしれない…」

男(あーもう……キュンキュンする、なんだろうこの人、本当に駄目なヒトだ)チラリ

先輩「有難う感謝するぞ。やはりこういったことは、お前からの助言に限るな」

男「えっ……な、何でですか?」

先輩「だってお前は包み隠さず俺に言ってくれるだろ? 今みたいに、後輩云々も──他の奴らなら絶対に言わないしな」

男「……」

男「まぁ、そうですね。だって僕先輩のこと普通に年上の先輩だと見てませんしね」

先輩「そこは包み隠そうか! いや、まぁ、分かってたがな……尊敬はされてないと、わかってはいたがな……」

男「………。ほら先輩時間大丈夫なんですか? ミーティング遅れるかもしれませんよ?」

先輩「お。そうだな、では先に行かせてもらうぞ」タタッ

男「頑張ってください、色々と」

先輩「ああ──そういえばお前に一つ良いたいことがあったんだ、えっとだな、」

男「はい?」

先輩「俺のいも……、ちょっと待ってくれ、話は後だ」

男「えっ?」

先輩「珍しい顔が見えた。些か数週間ぶりか──すまない、話は後だ」タタタタッ

男(……? ちょっと追いかけてみようかな)


たったったっ


先輩「久しぶりだな、珍しいじゃないかこんな時間に登校なんて」

「…あぁ? あーはいはい、おはようございますぅ部長サン」

先輩「おはよう、それで? 今の今まで何をしてたんだ?」

「はい? なにが、ですか?」

先輩「部活どころか学校にすら来ず、はたまた悪い連中とつるんでると噂になって──俺の耳にまで届いてるぞ」

「で?」

先輩「……だから」

「だから、なんなんですか? それが何? 部長サンとどんな関係があると? あ~なるほどね、つまりは──」

「──俺の大切な部員の一人だから、その大切な後輩が非行に走って行くのが見逃せないと、アッハハ! アンタ相変わらずだなァ」

先輩「………」

「もうとっくの昔に退部届は出してるハズなんだけど? 何? もしかして未だ受理されてないとか? いい加減にしてくださいよぉほんっと、マジで」

「そういった我が物顔で好き勝手するから、慕われても好かれないんだよ。知ってた? アンタ後輩からちっとも好意的に思われてないコト?」

先輩「それは…知らなかった、だが、今は俺の話はどうだっていい」

「あれ? そんなこと言っちゃう? ウソウソ、マジかよっ! じゃあほんとに知らないんだなアンタ……?」

先輩「……?」

「オレ、アンタのこと嫌いだから部活辞めたんだよ。アンタみたいな独裁者気分で頭ごなしに指図する人間、反吐が出るんだ」

「近くにいて一緒の空気を吸ってると考えるだけで虫酸が走るよ。アンタが行う動作が、一つ一つが癪に障る」

「…とーいうことでオレはアンタがキライだ。そういった話であって、つまりはオレが非行に走ったのは…アンタのせいだってワケ」

先輩「俺の…せい…?」

「クックック。ちょっと今更傷ついた顔なんてするなよな、笑えるから。別に責めないし、責める気もない。ただこうやって一々どうしようもなく──」

「──関わってくると文句の一つも出てきそうだ。だから、消えろよ。もう二度とオレの前に現れるな」

先輩「そん、なこと……」

「いいじゃん。晴れてこれで厄介者とはおさらば、なんだろ? 厄介者じゃないとは言わせないよ? 元々そういった風に見てるから、こうやって関わってくるんだろ?」

「部長サンの、アンタの──お前の決めつけた偏見がそっくりそのまま形になっただけだよ」

先輩「俺はただ、お前が頑張ってほしいと思ってただけであって…!」

「あーうるさいうるさい。良いよ説教なんて、お前の慕ってる馬鹿なハゲ坊主共に聞かせてろよ。ったく、面白い話を聞いたから登校したっていうのにコイツに出会うなんてさ──」チラリ

男「……っ」びくっ

「おー!おー! おおぉおー! なぁなぁなぁ! よぉよぉよぉー!」スタスタ

先輩「あ、おい…!」

「久しぶりー元気してた? オレのほうは全然元気、というかね、新しい友人が沢山出来て楽しい限りなんだ」スタ…

男「…あ、うん」

「なんだよ元気無さそうじゃん。今日も何時もどおり、ははっ、健気にアイツと時間を合わせて登校したんだろ?」

男「……」

「愛しい幼馴染とさ。元気いっぱいで笑顔あふれるかっわいー幼馴染ちゃんと……あれ? でもそれってどうなの?」スッ

男「っ……」びくっ

「──アイツ今、彼氏持ちなんだろ? それなのに仲良くアイツと登校って、お前どんな気持ちなワケ?」ボソリ

男「……」

「長年付き添って、何にもできないお前を甲斐甲斐しく守り続けてたアイツも──もはや他人の男のモノなんだよ」

男「…そんな言い方、良くないよ」

「良くない? ハハハッ! 待ってくれよお前が言うなって、良くないことを踏ん切りつけずに続けてる奴が言うセリフか?」

「なぁ聞かせてくれよ。大切な女が取られる気持ちって、どんな感じ? それも慕ってる奴に横から穫っさられる気分ってどーよ?」

「一つオレの聞かせてくれない? 今後の人生のために参考にさせてもらうからさ───」チラリ

男「………」

「──………」


男「………」じっ


「…なんだよ、その眼。相変わらず気持ち悪いな、お前」ドン

男「痛っ」

「あーツマンネ。お前が悲しんでる顔が見れると思ったのに、でも、アハハハ! でも楽しそうじゃないか、見てて笑えるよ」

男「………」

「これからお前がどんな風にしていくのか。実に気になるから、今度逐一電話して教えてくれよ。友達との話のねたになるからさ、くっく」スタスタ

男「…ねぇ学校はどうするの?」

「学校? いいよ別に、行かなくてもどうせ親父の跡継げば良いだけじゃん。勉強も地位も金も全部、まるっと通して努力せずに入ってくるからね」

男「……」

「努力なんて、出来ない奴が出来るためにする為に使う時間──その浪費に向かって使う言い訳だろ? つまりは、オレは平気ってコト」

「頑張れよ庶民。応援してるさ、じゃあねバイバイ」フリフリ

男「………」


チャーラララ リン リン


「はいもしもし? あーうん、今からそっちにいくよ。待ってて」

男「はぁ…」

先輩「アイツは本当に同しようもないやつだな、本当に」

男「あ、いえ。彼は昔からああいった感じでしたよ、減らず口って言うか何ていうか」

先輩「…未だに信じられん。アイツが君の幼馴染とは」

男(正確には僕とよーちゃん、との幼馴染ですけどね──うん、けれど印象は変わってないけど、雰囲気はだいぶ変わったなぁ)

男「…でも元気そうで良かった、同級生くん」


第四講義室 昼休み


男「もぐもぐ」


ガラリ!!


男「むおっ?」

先輩妹「先輩さん!! どーして黙ってたんですか!! プンスカぷんぷん丸ですけどこっちはー!!」

男「え? なにっ?」

先輩妹「今朝のことですけどぉー!? もぉーったくもぉーなんなんですか、マジでありえないっ」ガタリ

男「…もうちょい詳しく…」

先輩妹「聞きましたよ! 野球部の子に! なんかいざこざがあったみたいじゃないですか!」

男「いざこざ…? あったかな、そんな事」

先輩妹「誤魔化しても騙されませんよ。ほら、野球部で問題児で有名な──先輩の同級生の!」

男「ああ、ドウくんね」

先輩妹「……。その呼び方、もしかして先輩さんのお友達なんですか?」

男「そうだよ。むしろ幼馴染、よーちゃんとドウくんとじゃ幼稚園から一緒だよ」

先輩妹「なんとまぁお姉様とも……」

男「それで?」

先輩妹「あ。はい、そうですよなんで黙ってたんですか。ラインでもメールでもいいから、教えてくださっても良いのに!」

男「今朝のいざこざ、ってことを? なんでまた?」

先輩妹「だってほら! 良い実験材料じゃないですか!」

男「実験材料……?」

先輩妹「やっぱり忘れてたんですね……言ったじゃないですか、今回の作戦のために『一つ実験』を行おうって」

男「…そういえば、そうなってた気がする。確か先輩とよーちゃん、別れさせるためにはまず試しに、」

先輩妹「どこかのカップルを別れさせる実験をしよう、と」

男(つくづく思うけど、本当に最低だ。了承した僕も僕だけど)ズズズ

先輩妹「けれどいい標的が無かったからお流れになってましたけど──ぐふふ、居るじゃあないですか、適正マックスな人が!」

男「…もしかしてドウくんのこと?」

先輩妹「YES! その通り! あの人なら大丈夫、とんだゲス野郎でいい噂を全く聞きませんしね!」

男「どうかなー…そもそも彼に付き合ってる人が居るかどうかも分からないし、」

先輩妹「居ますよ? みっちり調べておきました、ええ、見てください!」


バラララ


男「…この写真どうしたの?」

先輩妹「授業サボって盗撮してきましたよ。些か危ない橋を渡る羽目になりましたけど、成果は順々ですね」ホクホク

男「……。凄いね、それしか言葉が見つからない」

男「それに、これは」ヒョイ

先輩妹「ええ、それが彼の交際している相手でしょう。名前は───」

男(これがドウ君の彼女か。髪は短い、茶髪に染めて…耳にピアス? けれど顔は小顔で可愛い系だ)

男(手に持ってるのはアイフォン。最新式だなぁ、ふむふむ)

男「それにしてもこの娘の顔──なんだか、」

先輩妹「………」じぃ

男「うわっ!? な、なに…?」

先輩妹「聞いてました? 結構喋ってましたが、ちゃんと聞いてましたか?」

男「あ。ごめん全然聞いてなかった…かも」

先輩妹「もぉーしっかりしてくださいよ。私達、今からおお仕事をしなくなちゃいけないんですよ?」

男「大仕事って……本当にやるつもりなの? 別れさせるって、そんなこと何の関わりあいもない僕らがやるの、難しいよ?」

先輩妹「……………………………」

男「ん、どうしたの?」

先輩妹「いえ、ちょっと考え事を。成る程、難しいのであれば考えるだけです。出来る事を、出来るようにするだけです」

男「考えるって言ってもなぁ。なんだかドウ君に悪いとしか思えなくて…」

先輩妹「あー言うと思ってましたよ、ええ、そんなこと言っちゃうと思ってました」

男「…まぁ普通はそう思うよ」

先輩妹「お姉様と糞兄貴を別れさせることを同意してくれた貴方が! 言っていいことでもありませんけどね!」

男(反論できない)

先輩妹「なのでして、実は考えてきました」

男「え、本当に?」

先輩妹「貴方が乗り気にならないことは予想できたので、今回の実験は私のサポートに回ってもらいましょう、と思いました」

男「へぇー……じゃあ聞かせてもらおうかな、その作戦とやらを」

先輩妹「フフン。これぞ完璧ですよ、まさしくあの良い噂の無い彼だからこそ──可能性が見いだせた作戦です!」


~~日曜日・駅前商店街~~


先輩妹「おはようございますっ」

男「…おはよう、えっと、うーん?」

先輩妹「どうかしましたか? えらく気分が優れてないようですけど…?」

男「…すぐれないっていうかね、その」


ガヤガヤ キャッテキャッウ ウフフアハハ


男(周りがカップルだらけなんだけど…)

先輩妹「やー人混みが凄いですね。まさに人ゴミ、歩く廃棄物、無意味な課せられた空気的責務を愛なんていう言い訳でまっとうに生きようとする輩が沢山です、反吐が出る」ペッペッ

男「あはは…」

先輩妹「早く行きましょう先輩さん。こんな場所ですけど、今から行く場所はもっと濃いところですからね。覚悟しましょう」ぐいっ

男「…腕は組まなきゃ駄目?」

先輩妹「何言ってるんですか、こちとら覚悟のうえですよ?」

男「ですよね…」チラリ


喫茶店


男(外から見える室内の配色を見るだけで、完全にカップル用の喫茶店だ…)

先輩妹「調査では既に中にいるはずです。さて、バッチリ証拠写真撮っちゃいますよ」

~~~~~

男「…どこらへんにいるのかな?」ボソリ

先輩妹「えーっと、多分あそこら辺に───あー居た! 居ましたよあそこ!」

男「あ。本当だ……本当に、違う子連れてる」

先輩妹「ですね、ガチで糞野郎でしたよ。この前の調査では完全とはいえずグレーでしたが、確信です。真っ黒くろでしたね」

男(あの席に座ってるのは、ドウ君。そして同席してるのは写真の子じゃない、見たこと無い娘だ)

男「二股ってことなのかな、これって」

先輩妹「違いますよ、言えば『4つ股』です。他にも二人の女性と関係性を持ってることが分かってます、証拠は抑えてませんがね」

男「…それは凄いや」

先輩妹「ええ凄いですね。何を喰って生きたらそんな地面に落ちてるタンカス以下の思考を持てるんでしょうか、不思議でたまりませんよ」

男「それはそれとして、写真は撮れそう? 人の目が多いから難しそうだけれど」

先輩妹「もう撮りましたよ? 舐めないでくださいよ先輩さん、証拠は確保しました」ビシッ

男「…お早いお仕事で。これで作戦はオシマイ?」

先輩妹「はい。後は残った二人の女性関係も押させておきたいところですけど、まぁー一枚で十分でしょう」

男(…あとはそれを、この写真に写った短髪の娘に見せるだけ、か)

先輩妹「こういった最低な人間だと別れさせるのも簡単なんですけどねー…けれど本命はあの二人です」

男「………」

先輩妹「お姉様も二股なんてガイキチがするようなことしませんし、糞兄貴もそんなことしませんし」

男「…けど」

先輩妹「はい?」

男「けど、変わりはしないよ。人は皆同じ人間だもの、どんなに性格が違ってどんなに最低な奴だとしてもさ」

男「結局は根本的に『求めてるモノ』は同じなんだと思う。ほら、絶対悪って言葉があるよね」

先輩妹「はぁ…」

男「ああいうのって、理由もなしにただ『悪いこと』をしたい。したがる人、悪意その物で、それ自体に意味が無いってことだけど」

男「そういうのって、人には当てはめられることはないよきっと。そんなの、病気だけで十分だよ」

先輩妹「…どうしてそんなこと、今言うんですか?」

男「うん? ただなんとなくだよ、意味なんて無い気がするし。それに意味を求めちゃ───」


男「──今は駄目な時だって、思うでしょ?」


先輩妹「そう、ですね。確かにその通りです、はい」

男「うん。それにしても凄い喫茶店だ、最近はこういったのが流行りなの?」

先輩妹「みたいですよ。私の友達も…かれしつくってーきゃーいきたいー、なんてアホ面ぶら下げて吐いてました」

男「…お友達にも厳しいんだね、君」

先輩妹「知ってますか先輩さん。女関係で友達とカテゴリされるのは、そも他人ですよ?」

男(聞きたくなかった事実…)

先輩妹「親友となってから晴れて世間一般的な友人となるんです。しかしそこからが荒波どころか垂直な壁をクライミングするかのような…一歩間違って踏み外せば、そのまま真っ逆さまに…」

男「う、うん! わかったありがとう、もういいよ…!」

先輩妹「お早いご理解感謝します」

男(けれど、そっか。友人はそも他人か)


自分は男だ。性別と身体と共に、世間ではそう決められたカテゴリに入る。

彼女が言っている言葉を理解すべきことなのか、それが自分が求めなくちゃいけない答えなのか。

けれどきっと自分が欲する答えじゃないことは、当にわかっていた。


男(女性の気持ちが別れば良い、って問題じゃないよね)

男「…男なのは今更変えようがない。もっと普通に考えてみれば、答えだって…」

先輩妹「はい? なにか言いました?」

男「ううん、大丈夫独り言だから。えっと、突然だけど幾つか聞いてもいいかな?」

先輩妹「なんでしょう? スリーサイズならお答えできませんけど?」

男「気にならないから別にいいよ」

先輩妹「それはそれで失礼ですけど?」

男「聞きたいことってのは彼の──ドウくんの事について、君が調べた限りのことでいいから聞いておきたいんだ」

先輩妹「へ? 彼のこと? なんでまた…」

男「ちょっとだけ気になることがあるんだ。もしかしたら、後々役に立つかもしれないから」

先輩妹「…わかりました先輩さんがそういのなら、えーっと」ガサゴソ

男「あーいいよ、わざわざ調べたものを出さなくて。僕が質問して間違ってたら否定する感じで」

先輩妹「はぁ…?」

男「ごめんね。聞きたいことは、単純なことだから」


男「───ドウ君ってこの喫茶店、初めて来たよね?」


先輩妹「……。ええ、そうですね確かにその通りです」

男「だと思った。彼ってああみえて、こういったチャラチャラした所に率先して来るような感じじゃないし」

先輩妹「………」

男「それで? どうして今日は彼がここに来ることになったのか、そしてそれを君が知り得たのかな?」

先輩妹「…それは、」

男「間違ってたら否定して欲しいんだけど、あのドウ君と一緒にいる娘って──さっき言ってた君の『友達』じゃない?」

先輩妹「…何のことでしょうか?」

男「言ってたじゃないか、友達が彼氏作ってここに来たいって」

先輩妹「あーはいはい、言ってましたねそんなこと。あっははーでもでも、そんなワケないじゃないですかー」

男「そんなワケないかな」

先輩妹「もしかしてあれですか? 私が、今回の証拠をつかむために──全てでっち上げたとでも言いたいわけですか?」

男「いやいや、そこまで言わないよ。ただ、君はこの場を作り上げた黒幕なんだろなーなんて、思ってるだけだから」

先輩妹「言ってることはおんなじ何ですケド」

男「なら言わせてもらうよ。今回の証拠、全く持って効果的な立件とはならないと思う。無駄…までは言わないけれど、多分無理だと思うな」

先輩妹「……」

男「君は友達を唆して、ドウ君に近づけさせた。親密な関係になったところで、この喫茶店を薦め──今日という日を待ち望んだ」

男「言わば簡易的な浮気現場を作り上げたんだね。数日前の昼休みの話から、今日までの君の頑張りは凄いと思うけど……」

先輩妹「…先輩さん」

男「うん、なに?」

先輩妹「…やっぱダメです?」

男「駄目だね。普通に考えて、こういったことは付き合ってる二人に同時に『罅』を入れるものじゃないと…即席の出会いじゃ、絆や愛なんて言葉で修復可能だよ」

先輩妹「うごごご」

男「…なんて言ってみたけれど、そんな落ち込まないで。僕だってわかったように言ってるけれど、ただ単に思ってることを言ってるだけだから」

先輩妹「いえ、いえいえ、分かってます十分私だってわかってました……そうですよね、こんなんじゃ到底別れさせることなんて無理ですよね……」

男「うーん、そうだね…」

先輩妹「でも、意外といい線行きません? 女の子に誘われてホイホイ付いていくアホな脳みそをお持ちの腐れクソ野郎ですよ? …幻滅ぐらいは…」

男「どうだろう? するだろうけれど、些か希望的観測かな?」

男「本来の目的は二人に距離を置かせる、じゃなくって、完全に途絶えさせるが答えだから。もっと単純に大きく、多大に響かせるような………」

先輩妹「………」

男「……あ、えっと、ごめんごめんっ…ちょっと変に言い過ぎたかな、僕」

先輩妹「大丈夫ですよ。私は平気です、むしろじゃんじゃん乗り気になってください!」ワクワク

男(その期待された瞳はなんなんだろう……?)

先輩妹「てーことは、今回は全く持って無駄ってことですか。はぁーあ、何という時間の浪費でしょう……少しばかり悲しくなってきますよ、ほんっと」

男(そうかな、僕的には結構色々と知れたけど)チラリ


同級生「──……──…」ニコニコ


男「…随分と慣れたもんだね、こういった場所【本当は嫌い】だろうに」

先輩妹「先輩さん?」

男「あのさ、最後に一つだけ聞いてもいいかな」

先輩妹「なんですか?」


チャーラララ リン リン♪


男「さっきから室内で流れてる曲。これって、ラブソング?」


一時間後


先輩妹「っはぁー……店内の空気は至極最低でしたけど、ケーキはいけましたね。ええ、案外口に合いました」ホクホク

男「そうだね。三個も食べてたもんね」

先輩妹「普通に楽しんでしまいましたよ。これは不覚ですよ、まったくお仕事をしに来たのに私ってば」

男「これを参考に今度、よーちゃんと来ればいいじゃないか。意外と女性二人組のお客さんも多かったよ?」

先輩妹「ふぇっ!? お、お姉様と一緒に…っ!?」

男「う、うん?」

先輩妹「なっ…なっ…なんって、恐ろしいことを言うんですか……!?」ワナワナ

男「えっと、そんな怖いこと言ったかな?」

先輩妹「言ってますよばっかじゃないですかほんっと! 無理無理無理無理! 絶対無理! お姉様とこんな所にきたら…きてしまったら、ううっ」

先輩妹「…しんでしまいます…」

男「し、死んじゃうんだ…それはなんていうか、重症だね…」

先輩妹「ムリムリ…ゼッタイムリ…」ブツブツ

男(この娘は普段よーちゃんとどんな風に接してるんだろう……?)


先輩「よう」


男「──………え?」

先輩「こんなところで何してるんだ? 珍しいな、買い物中なのか?」

男「せんぱい──? え、なんで、」チラッ

先輩妹「あ、やばっ」ササッ

先輩「俺も実は隣町からの帰りで──うむ? うむむっ!?」

男「……えっとぉ…」

先輩「その、後ろにいる奴は……?」ズイズイ

先輩妹「……………」ササッ

先輩「うむッ?」ズイッ

先輩妹「……………」サササッ

先輩「………」ズズイ

先輩妹「……………」サササッ


くるくる くるくる くるくる


男「あ、あの…僕の周りをグルグルと回るやめてくれませんか…?」

先輩「なぁ男」がしっ

男「は、はいっ?」

先輩「…そうか、そういうことになっていたんだな」

男「…何がですか?」

先輩「いやッ! みなまで言うなッ! …わかってる、本来はこういったことは疎い方なんだがな」

先輩妹「……!」

先輩「──妹のことを、よろしく頼む。お前になら安心して任せられるぞ、どこぞの馬の骨とも知らない奴とは違ってな」

ぽん

男「…………」

男「え? 先輩、それはちょっと…」

先輩「兄としてずっと心配だったんだ。コイツは人見知りというか、人とあんまり関わっていこうとしない性格でな」

先輩「これでは彼氏の一人も出来無いと思っていたが、そうかそうか、一緒に買い物する男の一人も出来たわけだな…うむむ、感慨深い」

男(もしかして誤解されてる? 僕と彼女の関係を…)チラリ

先輩妹「………」ギュッ

男「……」

先輩「成る程な、少しばかり安心できた。本当に、色々と落ち着けたというか。うむ、うまく言葉に出来ないが…」

男「…先輩」

先輩「これは目出度い。家に帰って祝杯を…どうした?」

男「あはは。何か勘違いされてませんか? 違いますよ、僕は別に先輩の妹さんと──付き合ってるとか、そういうことではなくて」

先輩妹「…………」

男(──最近知り合って意気投合した友人、じゃあないんだよね、きっと)

男(それはきっと『答えじゃない』。彼女が求めてる本当のいい訳じゃなくて、もっと確信に近いモノを──言わなくちゃいけない)

先輩「付き合ってるわけじゃないのか?」

男「はい。違うんですよ、僕は彼女に頼まれてるんです──」


男「───貴方のことを、どうにかしたいって」


先輩妹「……っ……」

先輩「…どういう意味だそれは?」

男「言ったじゃないですか、数日前の今朝に。先輩って後輩から慕われて入るけれど、好かれてはいないと」

男「先輩さん。それって後輩でもある妹さんにとって、どう思うか……考えたことはありますか?」

先輩「まぁいい風に思ったりはしない、とわかるが…」

男「ですよね、じゃあ貴方の大切な──今の彼女はどう思いますか?」

先輩「彼女…? 幼馴染のことか?」

男「彼女もまた後輩ですよ。僕と妹さんと同じ、学年は違えど貴方と違って下の学年ですよね?」ニコ

先輩「……まさか」

男「ええ、そのとおりです先輩───」スッ


男「──貴方は胸を張って【よーちゃんもそうじゃないと、言い切れますか?】」

先輩「っ……それ、は」

男「付き合ってるから違う? 好き合ってる間柄だから、他の後輩と違って慕われているけれど好かれてはない、なんて、」

男「先輩さんは声を張って言い切れますか?」

先輩「……っ…」

男「もしかしたら以前貴方が経験した、自販機前で飲み物を奢ってくれた後輩と同じく───」

男「──よーちゃんもまた、貴方に恐れをなして告白を受けれいたことも有り得る、かもしれない」

先輩「…そんなはずは…っ」

男「言い切れます?」

先輩「ち、違うと俺は思う…っ」

男「本当に?」

先輩「違う、それは違う…っ」

男「なぜ?」

先輩「…俺は確かにっ…幼馴染からきちんと答えを貰った…! それが本当は嘘だったとは思えない、彼女が嘘を付けるような性格じゃないことは…!」

男「………」ジッ

先輩「っ………違うと思う……んだ……」


男「ええ、そのとおりですよ! その通り、よーちゃんはそんな器用な性格じゃありませんから!」

先輩「……え……?」

男「当たり前じゃないですか。違いますよ、よーちゃんはきっと本当に貴方が大好きで──」

男「──先輩が好きだから、告白をきちんと受け入れた。そこから今まで、一度も、先輩さんのことを怖がってることなんてありません」

先輩「お前…」

男「だから言ってあげたんです。彼女にも、妹さんにもね」

男「あんなお兄さんだから、いつかやっと出来た彼女さんにあきられてしまうかもしれない。だったら、その知り合いである僕に相談しておこうと…」

男「…休日に時間を合わせて、こうやって会いに来てくれた彼女だから、僕はまったくもって同じことを妹さんに言ってあげました」

男「『大丈夫。よーちゃんはそんな器用な性格じゃない、本当にお兄さんのことを好きだから付き合ってるんだ』って」

先輩「…そんなこと、考えてたのか…?」

先輩妹「………」

先輩「だから、このまえ『あんなことを』言ったのか……」

男「……。そういうことなんですよ、先輩さん。彼女もまた貴方を心配してたんです、だから…あはは、なんていうか」

男「今は妹さんのことを心配してる場合じゃないですよ? まずは自分、まずは自分の恋路です。先輩さん?」

先輩「お、おおっ……確かにその通りだ! 本当に実にお前の言うとおりだ、すまない、変な勘ぐりを入れてしまって…」

先輩妹「………」

先輩「すまん妹。お前も心配しててくれたんだな……」

男「わかってくれましたか? そういうことなので、先輩さん。僕は別に妹さんと付き合ってるわけじゃないことは…」

先輩「ああ、わかった。何度も言うが本当に悪かった」ペコリ

男「あはは。そうなんども謝らないでくださいよ、僕だって誤解が解けて嬉しい限りです。あ、それと最後に一つだけ」

先輩「ど、どうした? まだ何かあるのか…っ?」

男「なんで怯えてるんですか、違いますって。僕らからも言ってあげますけど、先輩さんは本当によーちゃんから好かれてますから安心してください」

先輩「ほ、本当かっ?」

男「本当です」

先輩「ふぅー…良かった…」

男「───けれど、」

先輩「えっ?」

男「気をつけてください。貴方は少しだけ気づいてるはずですよね、よーちゃんがなかなか自分らしさを出してくれないことを」

男「本来貴方が好きだと思えた活発で、元気な所を、何故か自分の前では少しばかり躊躇していることを」

先輩「……っ…彼女がお前に、なにか言ったのか…?」

男「まさか、そこまでの話を聞くなんて幼馴染でも出来ませんって。だけど僕は気づくぐらいだ、きっと彼女自体にも負担になる部分があるかも知れない……」

先輩「…それは単純に慣れてないだけ、だと俺は思ってたんだが…」

男「どうでしょうか。それは今だけ、なんて思えますか?」

先輩「……わからん、俺にははっきりと…」

男「ですよね。だから頑張ってください、僕は応援してますよ──それに、彼女もまた」

男「だよね? 妹さん?」ニコ

先輩妹「……」ビクッ

先輩「…そうか、お前には何度も迷惑をかけるな。不甲斐ない、自分がこういったことを苦手にしてるのは知っていたが…」

男「無理はしないぐらいの頑張りが、きっと良い結果を生むと思います。先輩さん、頑張り過ぎると斜めの方向に突き進もうとしますからね」

先輩「うむ。確かに自分でもそう思う、わかった。有り難い助言、感謝痛み入る」

男「いえいえ…」

男「──それでいいのなら、僕も嬉しい限りですっ」



~~~~


男「…一緒に帰らなくても良かったの?」

先輩妹「先輩さん」

男「なにかな?」

先輩妹「…先輩さん」

男「うん?」

先輩妹「…………」

男「……君が先輩と喧嘩してたのは、なんとなく気づいたよ」

男「だって君みたいな仲の良い兄妹で、誤解されるかもしれない時に限って何も言わないのは……不自然だったから」

先輩妹「私は…」

男「例え嫌いだと公言していたとしても、いや……僕の前だけかもしれないけれど、それでもね、僕が君と初めて会った時のこと覚えてるかな」

男「確かあの時は、君は先輩さんと一緒に親に頼まれて買い物をしてたはずだよね。僕的には、この年で親に頼まれたからって……」

男「一緒に買い物するってことは珍しいことだと思う。だから仲が良いことは何となく気づいてた」

先輩妹「…流石ですね」

男「あはは、ありがとう。だから───ここは単純に言い訳をするんじゃなくって、君のことも含めて、それにこれからのことも考えて」

男「先輩には言っておこうと思ったんだ。自分たちが何をしているのか、遠回しにでも分かってもらおうって」

先輩妹「そのことを全部……あの時一瞬で……?」

男「一瞬でってわけじゃあないけれど、以前からどうにかしたいなって思ってたりもしたよ。いい機会だなって思っただけだよ」

先輩妹「それでも瞬時に決行した貴方は、さすがですよ。流石私が尊敬した人です」

男「…そこまで褒めなくても」

先輩妹「じゃあ喧嘩した原因も分かってらっしゃるんですよね、きっと」

男「……。よーちゃんのことかな?」

先輩妹「はい。すみません、そのとおりです……ごめんなさい、せっかく先輩さんが手伝ってくれると言ってくれたのに、勝手にいざこざを起こしてしまってて…」

男「大丈夫。それもきっと先輩も分かってくれたと思う、それに……君が我慢できなかったことも何となく分かるから」

先輩妹「……」

男「大好きな人のことを、それもまた仲の良い人が……色々と気軽に話してくるのって、結構辛いよね」

先輩妹「…はい」

男「相手は自分のことも好意的に思ってくれてるから、思わず素直に言葉を漏らしてしまうんだ」

男「…自分だってそんなこと知ってるのに、むしろ自分のほうがもっと好きな所を言える、なんて…」

男「そんなどうしようもない感情が降って湧いて、けれど言い返せれる訳もなくって……そんなことを考えてしまう自分が、本当に辛い」

先輩妹「…先輩さんも」

男「うん?」

先輩妹「いえ、なにも…ないです」

男「そっか。でも我慢しなきゃ駄目だと思うよ、並大抵なことじゃないけれど、そんなこと……言わなくたって君なら知ってると思うけれど」

先輩妹「はい、ごめんなさい。本当に本当に……わかってるつもり、なんです」

男「そうだね。頑張らないとね、いっぱいいっぱい──頑張らないとね、ちゃんと」

先輩妹「…はい、頑張ります」

男「あ。そうだ、そういえばここの喫茶店に来る前にね。面白いお店を見つけたんだよ」

先輩妹「え?」

男「シュークリーム専門店だったかな? 二人組でとあるメニューを頼むとね、記念に小さなピアスを貰えるそうだよ」


先輩妹「ピアス、ですか?」

男「うん、そう──ピアスだよ、穴を開けなくていいタイプの奴らしいんだけど……今日は記念に一緒に買いに行ってみない?」

先輩妹「…どうして?」

男「期間限定らしいんだ。そういのって気になるんだ、僕。なんかこう……特別な気がして、少し楽しくなる気がして」

先輩妹「はぁ…別にいいですけど、先輩さんピアスとかするんです?」

男「あれ? 知らなかった?」

先輩妹「うぇ?」

男「あはは。冗談だよ、でも昔はするときはしてたよ? だって僕、元演劇部だったからね」

先輩妹「昔? それって中学の時、ですか?」

男「うん。小学生から続けてたんだけど、今じゃムリだろうなぁー演じるのって、難しいし」

先輩妹「……。そうでもないと思いますけど、先輩さんなら」

男「? どうして?」

先輩妹「だって先輩さん。さっきの糞兄貴を責めてた時に思いましたよ」

先輩妹「貴方、隠れドSでしょう?」

男「それは失礼な決めつけだと僕は思う」

先輩妹「いーえ絶対そうです私は思いましたよ、あの表情心から楽しんでました。糞兄貴が不安に駆られてる顔を悦として眺めてましたし!」

男「いやいやいや。そんなことはないって、本当だよ。まったく心外だよ」

~~~~~~

少しだけ昔話を思い返してみようと思う。

それは自分が小学生だった頃──未だ自分の特殊性に感づいていない、年相応な子供だった頃。


僕には二人の仲がよく、親友と呼べるほどの幼馴染が居た。


一人は同世代の男子に混じって、なんら体力差を感じさせずに活発に動きまわっていた女の子。

一人は同世代の子供達とは距離を取って、物静かで、けれど口を開けば罵詈雑言を放つ男の子。


その二人の友人を持つ僕。

周りの大人たちは不思議に思っていただろう。なんら関連性のない三人が、どうして仲がいいのか。


勿論とうの三人にも理由なんてわからない。
だけど何故か馬があって共通点の無いままに、自分たちは同じ時間を同じ空間で過ごしてきた。


『かけっこしようぜーちょうしようぜー』

『わけのわからないこというな。おれは本を読む』

『えっと、じゃあ本をよんでからかけっこってのは…どうかな?』


思えば本当に不思議だった。

皆が皆三人共不満を持たず過せたのは、多分、今思えば奇跡に近いことなんだと思ったりも出来る。

けれど一つだけ理由も分かったりする。

子供の時の自分たちは、あれこれ考えることも無かったのだろう。

何が駄目で何がおかしいのか。否定できるほどの、拒絶するほどの答えを持ってるわけじゃなく。


『───ただ【楽しい】と思えることが、本当に嬉しい事だと素直に感じていたから。』


年を取ることは大切なことだけど、世間と社会を知っていく上で重要な事だとわかっているけれど。

自分たちは大人になっていくに連れて、そんな単純な事も、簡単にでき無くなっていく。


経験は人と人の距離を大きく広げていくんだ。

悪いことも良いことも、決してどちらかが駄目だと言い切れない。


僕の二人の幼馴染は、【どちらも】同じく大きな過去を持っているから。


決して単純に事をなすことは難しい。
自分たちはきっと人よりも大きな事を背負わなければ、幸せになんかなれないんだと思う。


それを僕は知っている。二人の幼馴染。誰よりも幸せを望んでのに、本当の意味で素直になれない二人。

そしてまた僕も二人と同じく、誰よりも幸せを望んでいて、素直になれない一人。



※※※

男「──………そっか」

男「僕も同じで幸せを望んでる、だっけ。久しぶりに思い出してしまった……そんなこと忘れてしまっても良かったのに」

男(これも全部ドウくんのこと考えてたからだな。彼のことを考えるとそりゃあ思い返してしまうのも、仕方ないか)


彼ほどこの幼馴染の三人の中で【本当に心から幸せを望んでる】のは居ないだろう。

彼が抱えている過去は、僕だって知っていた。もう一人の彼女も知っているから、結構彼に対しては先輩よりも大目に見てる。


男「……うん」

男(少し明日話してみようかな。学校に来るかどうかわからないけれど、来なかった時は──そうだな、会いに行ってみようかな)



~~~~~~



先輩「…同級生の奴がどこに居るかって?」

男「はい。知りませんか? ちょっとした噂程度でも良いので…」

先輩「何でまたそんなことを聞く。会いに行くのか?」

男「まぁ、そんな感じですかね」

先輩「…うむ、俺が言うのも何だが、やめておいたほうがいいんじゃないか」

男「え、どうして?」

先輩「お前が昔アイツと仲が良かったのは、話に聞いてる。けどな…」

男「今はそんなやつじゃないから…やめとけ、と?」

先輩「ん」

男「大丈夫ですよ。心配しなくても彼は結構、昔のままですって」

先輩「…お前もそう言うんだな」

男「……。よーちゃんも何か言ってたんですか?」

先輩「え? あ、ああ。アイツも言っていた、心配しなくてもドーちゃんは昔のままだってな」

男「あはは。でしょうね、きっとそういうと思います」

先輩「お前もアイツも、ああいった輩には厳しい印象だったんだがな。けど同級生だけは特別らしい」

男「そりゃあ幼馴染ですから。先輩が知らないこともたくさんありますし、思い出補正だって強いですよ?」

先輩「…不安になることを言うな」

男「誰だって完璧な人間なんて居ませんから。こうであってほしい…なんて思うこともよーちゃんにだって、僕にだってあります」

先輩「…ますます教えたくならない事言うな、お前は……ったく相変わらずだよ、駅前のゲームセンターだ」

男「そこにいるんですね。ありがとうございます、先輩」

先輩「ああ。気をつけろよ、放課後向かうのなら時間帯的に──あまりよくない輩が多いと聞く」

男「わかりました、気をつけます」ペコリ

先輩「おっと、すまない最後に聞きたいことあるんだが…」

男「はい?」

先輩「…妹のこと何だがな、すまんが時折目にかけてやってくれ」

男「…どうしてまた」

先輩「アイツが男子生徒と一緒にいるのが、兄として珍しく思えてな。何かと色々……迷惑かけるかも知れんが、その、なんと言えばいいのか」

男「心配だから世話してくれと?」

先輩「う、うむ……まぁ端的に言えばそうなるな……」

男「そうですね。妹さんが良ければ僕だって構いません」ニコ

先輩「そ、そうか! 有り難い…よろしく頼む、事によっては──今後ともよろしく頼む状況になっても、一向に構わんぞ?」

男「……。そういうこと妹さんに絶対に話さないほうが良いですよ、一発で嫌われますから」

先輩「え? …駄目な感じか?」

男「駄目な感じです。よっぽど好かれてないと一生口を利いてもらえないかも」

先輩「き、肝に銘じるっ」


駅前 ゲームセンター


男「……」キョロキョロ

男(人が多いなぁ。けれどどこに居るかは見当は、なんとなくついてる)スタスタ

男「───あ、やっぱり居た」

同級生「……?」

男「やあ。久し振りだね、数日ぶりかな?」

同級生「…なんだどうしたよ、お前。ゲーセンなんてくる性格じゃないだろ」

男「そうだね」

同級生「……」

男「…なんだか元気ないけど大丈夫?」

同級生「要らない心配なんてするんじゃない。というかお前さ、何? 親しげに話しかけてきてるけど、もしかしてまだ幼馴染のきぶんで居るわけ?」

男「そうだけど…?」

同級生「ハン! 相変わらずお目出度い頭してるじゃないか、あの脳内お花畑女もお前も、全然変わってないんだな」

男「人間そう変われるもんじゃないからね、ほら君だってそうじゃないか」

同級生「なにが?」

男「こういった場所──騒がしい空間苦手だから、なるべく静かで暗い場所の自販機前で休んでる」

同級生「………チッ」

男「図星だった?」

同級生「うるさいよ、お前。用が無いのに話しかけたのなら黙って消えろ」

男「いいや用があって話しかけたんだ。ごめんね、別に怒らせるつもりなんて無かったんだ……ちょっと良いかな、少しだけ話しでも」

同級生「嫌だね。どうしてお前なんかと話をしなくちゃいけないんだよ──いや、待て、うん、良いよ特別に話をしてやるよ」

男「本当に? 断られると思ってたんだけど……ありがとう」

同級生「だけど条件がある」

男「条件?」

同級生「ああ。お前さ──今回のことどう思ってるんだよ、正直に話せよ」

男「今回のことって…」

同級生「決まってるじゃないか。幼馴染と、あの部長が付き合ったことだよ。お前の元から離れていなくなって、寂しくひとりぼっちになったんだろ?」

同級生「ハハハ、その今の気持ち教えてくれない? 勿論嘘なんてつくなよな、お前とアホ女じゃないけれど──嘘ぐらい見抜けるぞ、こっちも」

男「……。正直に言ったら、話をしくれるの?」

同級生「そう言ってるだろさっきから。ほら、言ってみなって。泣き言も愚痴も悪口も全部聞いてやるよ、だからホラホラ言ってみな」

男「………」

同級生「あん? どうした言えないっての?」

男「ううん。そうじゃなくって、」



男「──言わなくたって知ってるんじゃないかなって、僕の気持ちなんて、君になら」



同級生「……なん、だって…?」

男「……わざわざ口にしなくたって君なら知ってると思う。だから、僕はこう言っておくよ。そのままだよって」

同級生「…………」

男「…怒らないんだね」

同級生「チッ……」

男「…………」

同級生「…うるさいな、なんだよお前、本当になんなんだよ…ッ」

男「…それで話を聞いてもらえるのかな」

同級生「あーはいはいはい! 分かった聞いてやるよ、一体全体なんの話だよ…っ?」

男「今日は一緒にいるの?」キョロキョロ

同級生「は? 誰が?」

男「彼女さん。こういった場所に来てるってことは、一緒に遊びに来てるのかなって」

同級生「なんだよ、それがどうしたっていうんだよ。別に着てるけど…?」

男「そっか、なら話は早く済みそうだ──あのね、ドゥ君、一回しか言わないからちゃんと聞いてて欲しいんだけど」


男「──彼女さんを絶対に大切にする覚悟はある?」


同級生「……は? なに、急に……」

男「大切だよ、大切にする覚悟はあるのかなって聞いてるんだ。もし仮に、大切に出来ない原因があるとしたら……すっぱり捨て去った方がいい思う」

同級生「……なに、を」

男「後悔する前に、いや後悔なんて言葉はおかしいかもね。自分の罪なんだから、そういったことは後悔なんて使わずに──そう例えば【懺悔】とか」

同級生「……」

男「君が彼女に対して負い目に感じてる事があるのなら、ちゃんと精算してた方がいいと思う。後々……辛いことになると思うから」

同級生「お前……何いってんるだ……?」

男「もちろん僕は後悔しないためだよ。僕の方は後悔だ、君に対してちゃんとここで、きちんと話しておくことが大切だから……話しに来たんだ」

同級生「っ……」


ピリリリリ ピリリリリリ


男「…電話が鳴ってるよ?」

同級生「何か知ってるのか、お前」

男「知らないよ。ただその電話の相手先が誰なのかは……ちょっとだけ見当がついてる」

同級生「っ……なんだよお前ッ…言うのか…ッ? 言うつもり、なのか…?」

男「なにを?」

同級生「彼女にっ───やめろ、やめてくれっ……お前に対して嫌われるようなことをしたのは、わかってる、けれど…っ」

男「…僕は別に怒ってない。それにドウくんのことも嫌いになってもないよ、昔のまま幼馴染と思ってる」

同級生「……っ…」

男「これから先何が合っても大切な幼馴染だよ。君が何かを間違っても、何かを犯しても、僕は僕のままだと思う」

男「──だから頑張ってね。僕は素直に応援、うん、応援してるからさ」

同級生「…………」

男「…ごめんね変に脅すこと言って。これでも心配してるんだ、君のことを」チャラリ

ピッ ガタゴトン

男「僕は君のことを幼馴染として心配なんだ。他に意味なんて無い、面倒くさいやつだと思ってくれてもいいよ、けれど…気持ちはわかって欲しい」

同級生「……相変わらず…昔からそうだ、いっつもこんな時に限って……オレの目の前に居る…」

男「そうだったかな? えっと、はい。お詫びってのも変だけど……りんごジュース」スッ

同級生「…要らないよ、甘いのは嫌いなんだ」チラリ

男「そっか。そうだったね」


ピリリリリリ ピリリリリリ


男「…出なくていいの?」

同級生「…出るよ、お前が居なくなったらな」

男「わかった。じゃあこれで──またね、ドウ君」フリフリ

同級生「……………」

男「頑張ってね」


チラリ


男「…あれか、写真で見た通りの娘だ」

「───あははは……」

    「だよねぇ──……」

 「──……そうそうだからさぁ」


男(あれはお友達かな、全員が女の子。見た感じ僕とは違う学校の娘みたいだ)

男「…うん」コキッ

男「──おっとと…」ガサゴソ


チャリーン コロコロ…


「ん、落ちましたよぉ?」

男「あ。ごめんなさい、ありがとうございます」スッ

男(手のひらに擦り切れの跡。部活をやってるのかな、それでいて【ピアス】か)

男「……」くるっ

男「──ままならないなぁ、皆ただただ本当に……しあわせになりたいだけなのにね、本当に」


※※※


男「はいもしもし」

『先輩さん。今日はどうして講義室に来なかったんですかー?』

男「ああ、うん、ごめんね。ちょっとした用事があってさ。大したことじゃあ無いよ」

『そうですか、今日は是非ともご報告したいことがありましたのに』

男「うん?」

『なんとですねぇ! ええ掴みましたとも、茶番でもごまかしでもなく──れっきとした物的証拠を掴みあげました!』」

男「へぇーすると、他にいた二人の浮気相手の写真でも?」

『その通りです。他校だったので調べるのも大変でしたが……まぁお茶の子さいさいですよ、私に掛かればこれぐらい』

男「そっか。君がそういうのなら、本当に簡単だったんだろうね」

『あ、いえ──ごめんなさいちょっと見栄を張りました。一昨日の無様な件を帳消しにしたかったので、なんというか、ごめんなさい』

男「あはは。別にいいよ、証拠を掴んだのは事実なんだから。胸も見えも張っていいと思う」

『有り難いお言葉感謝します。それでーですね、先輩さん。あ、一応ラインで写真を送っておきます』

男「…うん、今届いた」ピロリン

『一枚目の女子生徒です。見てもらえればわかりますが、制服がうちの学校の生徒ですね』

男「うん。リボンの色を見ると──年上かな」

『二枚目が他校の生徒。制服を見ると本命さんの彼女さんと同じ学校と見ました』

男「そう……ちょ、ちょっと待ってコレ、着替え写真じゃないか。流石にこの写真を僕に送るのは……」

『何いってんですか。オトコがスキなくせに』

男「…少し訂正すると、僕は男性が好きなんじゃなくてね」

『そうなんですか? じゃあ糞兄貴限定なんですね、変ですね、頭おかしいですね』

男「…君は先輩関連だと本当に冷たいよ」

『それが私ですから。ですが無意味だとかは言いません、否定はしますが在り方を駄目だとは言いません』

男「…ありがとう、それで着替え中だということは……周りの感じだと体育の授業じゃなくって、これは……部活かな?」

『はいバスケ部のようですよ。ついでに言うと彼女さんもバスケ部です』

男「うん、知ってた」

『……? 知ってたんですか?』

男「それはいいとして、まぁこんな写真を撮れたということは──他にも色々と調べてると思うんだけれども」

『え? ああはい、なにか聞きたいことでも?』

男「うん。作戦としては決め手を手に入れた状況だから、むしろ無意味な質問からも知れないけれど」

『なにか含んだ言い方ですね……』

男「そうでもない、と思う。けど聞いておきたいことだから聞いておくね」

男「……この部活の担当教師って、男性?」

『え、ええ……そうですけど、それがなにか……?』

男「みたいだね」

『……』

男「薄々感づいたと思うけれど、とりあえず僕の話を聞いてくれるかな」

『…なんですか?』

男「僕はね、本当にドウ君には別れてほしくなんてないんだ。実験──なんてしてほしくないし、勿論、実のところよーちゃんと先輩の関係も壊したくなんか無いんだ」

『……知ってますよそれぐらい、けれど先輩さんは』

男「うん。君にはちゃんと答えた、約束はきちんと守るよ。君とよーちゃんをくっつけることを、僕はきちんと守る」

『……くっつけることを、守る?』

男「そうだよ。僕は『別れさせるつもりなんてこれっぽっちもない』。けれど君とよーちゃんは……また別の関係でもくっつけると思えるんだ」

『なんですか、それ。セフレにでもなれっていうんですか?』

男「……君は時々ものすっごくぶっちゃけるね。違うよ、そんなただれた関係じゃなくって、もっと単純に」

『…わかりません、何がいいたいんですか』

男「友達だよ」

『……先輩さん、私の話を覚えてらっしゃらないんですか?』

男「勿論覚えてる。これでもかってぐらいに、君がよーちゃんに対する思いの丈は十分に理解しているよ」」

『もし仮に、先輩さんが私とお姉さまの『今の関係性』をご心配されて、そのようなことを言ってるのであれば──それは、侮辱でしかありません』

『私は私です。私はきちんとした考えで今の状況を受け入れて、それから前へと進もうと足掻いています。だから先輩さんが言ってることは、今の私の頑張りを否定している』

男「………」

『存外、失望しました。そのようなお考えを持ってご協力をされているのであれば、今回のことは全て忘れてもらっても構いません。あの約束も無かったことにしてください』

男「じゃあ本気なんだね?」

『なにがですか?』


男「──本当に人の幸せを壊してまでも、自分の幸せを得るのに躊躇はしないんだね?」

『……私は以前から覚悟は……』

男「今一度聞いておきたかったんだ。今回の実験と称して行ってることも、一応はその確認も同じくできるから」

『…どういう意味ですか』

男「人の幸せに致命的な一撃を入れる、その感覚を知っておくべきだと思う。それが後で──後悔なんてならないように、君は知っておくべきだと思う」

男「人間は皆、どんな性格だって、嫌われ者も人気者も、全員等しく同じように──幸せの有り難みを理解してるんだ、僕だって君もそうだよ」

男「だから、それが壊れるときの悲しみも──それを壊してしまう苦しみも、なんとなく理解してる。けれどそれは予測の範囲内であって、わかってることにはならないんだ」

『…………』

男「言ったよね、僕たちは壊れてると。本当の幸せを求めようとしたら、絶対に幸せになれることなんて無いんだ」

男「だったら───その壊れているという自分自身の覚悟を、君は改めて誓えるかな」

男「君は、自分を壊れてると分かるために。他人を壊す覚悟はあるのかな?」

『………。それは私が貴方に言ったセリフです』

男「そうだったね。だから君にも聞いておきたい」

『……大丈夫ですよ、あります、何を聞いてるんですか。そんなこと言われなくたって知ってますし覚悟のうえです』

男「そっか、それはよかった。じゃあ作戦は……そうだね、明後日決行しようと思う、準備は──君がしていると思うけれど、一つだけ僕から頼みごとをしてもいいかな」

『…なんでしょうか?』

男「うん。それはね、今から言うものを用意して欲しいんだ───別に難しいことじゃないよ、君にならきっと簡単に出来ると思ってる」

男「……ドウ君の彼女さんのメルアド、それを明後日までに調べてて欲しい」

※※※

ドウ君は小学生まで、本当に孤立した存在だった。

孤独でもなく孤立。自分ができる範囲は自分でする、他人や大人たちの手助けも、出来る限り省いた思考回路を持っていた子供だった。

そんな子供が友達なんてものが出来るわけがなくて、勿論、彼自身望んでも居なかった。


──自分は強い存在だと、彼は信じて疑わなかったに違いない。


実際そうだと言えたと思う。彼は振りかかる問題を着々とこなしてこれた、一人で何事も解決していったから。

幸せは自分自身が掴み取るもの。それが彼が掲げる心情で、絶対的な目標であって。


彼のお手本のような、彼の『父親』が語っていた。


幼馴染の僕も一度しか目にしたことのない彼の父親は、まるで世界で自分は一人で生きてるだと言わんばかりに───

──絶対的な冷たい人なんだなと、子供ながらに感じていた。


子供なのに何でそんなことを分かるんだと言われれば困ってしまうが、それでも何となくわかってしまった。

ドウくんの父親はまるでロボットだった。食事は動くための燃料で、愛や友情は円滑に物事を進めるためのプログラムの一つなんだと。


けれど彼は、ドウ君は、そんな父親を慕っていた。

彼は父親の背中を見て生きている。それが彼の生き方で、それが出来無いモノは不必要。

───そして、それに着いていけない【人】は【愛】は【家族】は、全部全部間違っている、なんて、


男「…そっくりだったな、彼女さん」


僕が言えることは、それまでだ。全て憶測にすぎないし、人の感性や人生なんて、きっと語ってもどうしようもなく──それっぽく聞こえるだけ。

でもそれでも、ただひとつだけ、彼が抱えるものはわかってしまう。


男「彼女さん。彼の──ドウ君の──ああ、本当にそっくりだった」


そんな彼がどうして幸せになれないんだろう。

それはきっと、ああ、僕なんかが言えるわけがない。




明後日 放課後 南校舎屋上


男「うん。お疲れ様、妹さん」

先輩妹「…………」ピッ

男「これで二人は──ドウ君と彼女さんは互いに、この学校の体育館裏に来ると思う」

先輩妹「…まぁ作戦通りですね。ですけれど、二人を集める理由なんてあったんですか?」

男「単純に彼女さんに会って、その二人の写真を見せればいいだけかもしれないけどね。でも、もしかしたらってこともあるから」

先輩妹「確かに慎重に行って間違いなんて有りませんけど、しかしですね先輩さん」チラリ

男「うん?」

先輩妹「…こうやって体育館裏が覗ける屋上に来てまで、その状況を伺うのは些か趣味がいいとは思えませんけど」ワクワク

男「うん。ご期待に添えてよかったみたいだ」

先輩妹「人の不幸は蜜の味。昔の人はよく言ったものですよ、考えた人はとんだゲス野郎でしょう。見事に後人となる人々にピッタリな語群を残していったんですから」

男「………」

先輩妹「ですが、上手くいくでしょうか」

男「どうだろうね。二人をおびき寄せることが成功した時点で、結構作戦としては十分果たせたと思うけれど」

先輩妹「…今一度確認しておきましょうか、作戦事項を」

男「ん」

先輩妹「───作戦は、こうです」




同級生「…ん?」

「あ、ごめんね。待たせちゃった…?」


まずは二人を体育館に呼び出します。方法は手紙、ルートは友人関係を使わせてもらいました。

調べる関連で私はなるべく気をつけたことは、私という存在を気取られないようにすること。

同級生「どうしたんだよ、メールか何かで待ち合わせ決めればよかったじゃないか」

「うん、そうだよね。確かにそうなんだけど……ちょっとした野暮用があって」


だから今回はわざと表立ってかかわり合いを持ちました。理由はひとつ、友達として印象付けること。

私の友人から友人、そして友人、繋がりは多大ですよ。だって女同士の友情なんて──以前言った通り、たかが知れてますからね。


同級生「野暮用?」

「…うん、実は携帯を無くしちゃてて」


なのでして、だからです、【彼と彼女さんの関係に芳しくない友人を唆して携帯を盗んでもらいました】。

私は素直に同級生さんがやってしまったことを友人に告げただけです。どう解釈したかはわかりませんが、友情、あはは友情ってなんでしょうか。

わたし的に思うのは友情は【共通の敵】ではないでしょうか。


同級生「オイオイ、しっかりしろよ。あれ、新しいやつだったろ?」

「全く検討もつかないんだー……だから友達に頼んで手紙を送ってもらったの」


同じく憎む相手を同じレベルで憎む。それが女同士の完璧な友情です、面白ですよね。だって本当に友情なんですから。

少年漫画でもそうでしょう? 最初の敵が破れ、敵意を失い次なる強敵を打破するために共闘する。実に燃える展開、実に精算できる戦い。


同級生「…それで? 用って何?」

「あ、うん。それなんだけど……」

では何故盗んだのか。それは彼女さんがこの学校の体育館裏へとスムーズに来られるようにする為、です。

私は彼女さんに一枚の写真を送らせていただきました。勿論その写真は、同級生さんの浮気現場の写真です。


「──これ、ことなんだけど……写ってるのって同級生君だよね…?」

同級生「……っ……」


はい。これでチェックメイト、同級生さんと彼女さんに多大な罅を入れることが出来たってわけですよ。

わたし的にはこの瞬間は何時行われてもいいと思ってましたが、先輩さんがどうしても現場を見たいというので──


「どういうこと、かな。写ってる写真の子……この学校の子、だよね」

同級生「こ、これは…そのっ……」


彼女さんに送った写真、2枚あった内の『私達の学校の娘との浮気現場写真』にしました。そうすることによって、彼女さんはコチラの学校に来たがる事を予測して。

調べていく内にわかったことは、彼女さんはどうやら活発な方なご様子。ほらほら、クスクス、今もこう言ってらっしゃるんじゃあないですかね?


「…何か言い訳があるなら聞くけれど、私は直接その子と話してみたい」

同級生「………っ」


そして第二撃目です。断れば認めたことになり、会わせれば同じく状況を把握される。

逃げ場はなし、これで彼と彼女さんの関係に終止符を打たれたわけですねーあっはははー。


先輩妹「…まぁこんなもんでしょう。話の内容は屋上からは聞こえませんが、大体は予想がつきます」

男「…………」

先輩妹「ふむ。わかっていたことですけれども、人が何か多大なショックを受けるという瞬間の表情というものは───」

先輩妹「──売れているギャグ漫画よりも心に来るモノがありますよね、それが普段人を小馬鹿にしているような方がしているなら、尚更です」

男「…そうかな」

先輩妹「そうですともっ! あはは、何度も言ってるように私はアノような方は大っ嫌いです。自分のという立場を何を勘違いされてらっしゃるかわかりませんが…」

先輩妹「己の存在が世界で中心とでも思ってるのでしょうか。発言する全てが許され、認められ、受け止められるとでも?」

先輩妹「笑わせないでくださいよ、本当に。人間はそんなに甘くはない、誰にだって順当な価値が定められているんです。貴方だけの存在で否定なんて出来やしない」

先輩妹「いつかは罰せられるんです。甘い蜜だけを吸って生きる輩に、生殖本能に盛った雄猿に──幸せという世界を見続けることなんて、出来はしない」

先輩妹「──いや私がさせはしない、クスクス、いい気味ですよ、ざまーみろですよ。これを機に考えを改めろなんて言いませんよ、これを機に壊れてしまえばいい──」

先輩妹「多大な傷を負って死に絶えればいい。絶望すればいい。希望を失えばいい。全てに怯えながら、己の罪を毎晩毎晩数え続ければいいんです」

男「…今日は」

先輩妹「クスクス、はい? なんです?」

男「今日は一段とおしゃべりだね。まるで講義室で僕と初めて会った時ぐらいに──……君がよく喋ってる気がするよ」

先輩妹「え? …そうですかねっ? まぁー嬉しいんじゃないですかね、こうやって大仕事が大成功したわけですからっ」

男「うん。確かにその通りだ、君がやったことは成功して──今は二人の仲に罅を入れることが、できたんだと思う」

先輩妹「はいはいっ! ですからやれば出来るんですよ、うんうんっ! これにて先輩さんにも私がどれだけ本気かってことを分かっていただけたかと───」

男「だからね、思うんだ」

先輩妹「…はい?」

男「【思うんだよ妹さん。きっと君は成功したんだと思う、今この瞬間に罅を入れることが出来た。それはきっと何よりも大きな手柄なんだと思うんだ】」

先輩妹「ええ、ですから私は……」

男「言ったじゃないか、僕は君に言ったはずだよ。この世に人に対する───絶対悪なんてありはしないって」

男「そんなのは病気か何かで十分だって。理由のない悪意なんてものは、理由のない罪なんてものは……物語であっても、現実では決して無い」

男「こと──恋愛に関しては、そんなもは無いよ絶対に」

先輩妹「なっ……何を言ってるんですか、あはは、先輩さん? 見て下さいよ、この状況を見て下さいよっ?」

男「見てるよ。僕はちゃんと見てる」

先輩妹「ならっ! なぜそんなことを言うんですか…!? 意味がわかりません、不可解です、ちゃんとよく見て下さい!」

男「…………」

先輩妹「私はやってやりましたよ!? 私はきちんと二人の間を絶望に近い形で別れさせることをやってやりました…! なにが、何が気に喰わないんですか…!?」

男「…少し聞かせてくれるかな、妹さん」

先輩妹「っ……今は私が聞いてるんです!! 質問に質問で答えないでください!!」

男「じゃあ答えてくれたら教えてあげるよ。だからまずは君が教えてくれたら嬉しい」

先輩妹「くっ……じゃあなんなんですかっ!? 聞きたいことってなんですか!?」

男「うん。それはね、君はどうしてそんなに───」


男「──人には悪い部分があると信じたいのかな?」


先輩妹「信じ……たい……?」

男「出会ってから数日。もうちょっとで一ヶ月が経とうとしてるけれど、僕は君が──誰にだって悪いところがある。いや、悪い人は居るって……思おうとしてるようにみえる」

先輩妹「……」

男「君が僕の所に来た理由もそうだ。多分だけど、君は僕に対して……こんな悪い人が居るんだなと、思ったんじゃあ無いのかな?」

男「自分の幸せを掴もうとせず、他人の幸せを遠ざけようと努力する人間──そんな人に、そんな僕を見て……君は……」

先輩妹「え、ええ、思いましたよ。ですがそれが何かっ? 人はだれだって悪い部分を持ってるはずです!」

男「それはよーちゃんにも言えるのかな」

先輩妹「──ッッ……!?」

男「………。君は本当はきっと、とても優しい子なんだんと思う。幸せを手に入れたい為に、けれど人を否定することも───」

男「──それが駄目だと言える理由……そうだね【経験】が君には無いんだなぁって思うんだ」

先輩妹「何を言ってるんですか……私はちゃんと自分の考えで、ここに、…居ますよ…っ」

男「うん。しっかりしてるよ、君はしっかり自分の罪を理解してここにいる。人の醜い部分を知ろうと僕に近づいたわけなんだから」

男「先輩とよーちゃんを別れさせるために、二人の悪い部分を探すために───ううん、違うね」


男「二人に信じたくない見にくい部分があると、認めるために。優しい君は僕に相談したんだ」


先輩妹「───……………」

男「でもね、さっきも言ったけれど。人は絶対悪なんてありはしないんだ、勿論悪い部分が絶対にないとは言い切れないよ」

男「でも他人の僕達がとやかくいう程に、他人の僕達がドウ君を裁くほどの罪なんてものは───決して無いと思うんだ」

男「例えそれが浮気であっても。僕はそれを悪いことだと言い切れない、だってそれは──ちゃんと罪だと彼はわかってるから」

男「悪いことを悪いとわかってる。幸せを手に入れるためには、それを罪だとわかっていながらも……ちゃんと努力する人間には、当てはまらないんだよ」

先輩妹「…何を」

男「彼はね、今日という日を覚悟していた。ちゃんと確認もしたよ、黙っててごめん。以前に一度会ったんだ」

先輩妹「…えっ?」

男「彼の本命はちゃんと彼女だ。幾つか理由もある、一つ目は──そう着信音」

男「彼の着信音はどうやら一人ひとり違うみたいなんだ。その気じゃない娘、つまり浮気相手の娘の着信音は──内蔵された音」

男「けれど今子の下にいる本命の彼女さんは、違う。きちんとしたラブソングだった、それは勿論──」ピッ


チャーラララ リン リン


先輩妹「!」

男「今君が持っている彼女さんの携帯と同じメロディ。一つ言わせもらうと、彼はこういったラブソングが大嫌いなんだ」

男「──それに彼は他人に合わせるような性格でもない。彼は嫌いでも、嫌いであっても本気だから……その着信音に設定している」

男「自分の本命が彼女だと、自分自身に言い聞かせるためにじゃないかな」ピッ

先輩妹「…じゃ、じゃあこの浮気現場…の写真は…?」

男「それは本当に浮気現場だと思う。今回はね時期が悪かったんだと思うんだ、彼が本気に好きだと思える彼女と出会ってしまった時に……」

男「……この作戦を初めてしまったから、一つ聞きたいんだけど、君はその写真を撮った後のことは見たかな?」

先輩妹「……」フルフル

男「多分だけど、その後は──ドウ君は、その浮気相手さんに別れを告げていると思うよ。その理由に、君がこの短期間で写真を撮れた理由でもある、と思う」

先輩妹「っ……つまりは、私は浮気現場を撮ってたいんじゃあ無くて……別れ現場を……?」

男「断定は出来ないけれど、多分そうだと思う。だから証拠にホラ──見てみなよ、下の様子を」

同級生「───っっっ………!!」

「……」コクコク


男「ちゃんと仲直りができている。彼は彼女さんに言ってるんじゃあないかな、君が一番だってことを」

先輩妹「そ、そんな簡単に行くわけが……っ……だって浮気しているかも知れないと疑って、この学校に来るまでの彼女ですよ!?」

男「だから疑い深いって? 彼の言葉だけでは信じられない、かな? ううん、信じられるよ。信じられる理由があるんだ───でも、その前に今は君には知ってほしい」

先輩妹「…っ…何を…」

男「人は絶対悪なんてものはない。それはね、ちゃんと後から後悔するからなんだ。自分の罪に気づいて、ちゃんとどうにかしようとするからなんだ」

男「思うだけでいい。行動しなくてもいい。ただ、思うだけでそれは──絶対的悪じゃない、人は皆そうなんだと思うよ」

先輩妹「…っ…」

男「それに彼は行動もできた。それは相手を思う気持ちが罪を乗り越えたからだと僕は思う。浮気をしている自分を駄目だと思って、彼はちゃんとここにいる」

男「……それは悪いことじゃないって、君も思うでしょう?」

先輩妹「…先輩さんは分かってたんですか」

男「分かってたよ。これでも長い間幼馴染だからね、きっと彼はこうするんだろうなって」

先輩妹「……じゃあ敢えてなにも私に言わなかったのは、これを、このことを分からせる為に……?」

男「どうだろうね。きっとそんな風になればいいなぁって、少しは考えたと思うけれど」

先輩妹「………………」

男「………─────」


~~~~~~

同級生「…ごめん、オレはお前に嘘をついてた」

「…うん」

同級生「だからどうにかしたいって、ずっと思ってたんだ。だから、その、なんていうか……許して欲しい」

「…悪いことだって、わかったんだよね?」

同級生「あ、ああ。分かってた、それに今もそう思ってる。だけど一番は……お前なんだって、気づいたんだ」

「…そっか」

同級生「………」ギュッ

「──なら、良いよ」

同級生「……え?」

「良いよ、うん、全然大丈夫だから。貴方の気持ちすっごくわかっちゃった、ちゃんと伝わったよ」

同級生「良いの…か…?」

「ちゃんとお別れ告げられたんだよね? きちんと、私は貴方の言葉を信じるよ。ごめんね、怒っちゃって…うん、ごめんなさい」

同級生「い、いや! 全部オレのせいだし……全然お前は悪くないっていうか、その、本当にごめんな」

「うん、うん、大丈夫。良いんだよー」

同級生「……ありがとうな、そして、ごめん」



ああ、だから人は頑張ることを忘れちゃいけない。

やってしまったことは、その罪は、絶対に逃げちゃいけないんだと。

本当の幸せを得るためには───何よりも誰の手助けを得ること無く、己の力で勝ち取っていくこと。

同級生「………」

「………」ギュッ


それが一番なんだ。それが大切なことなんだ────




男「──なんて、思ってるんだろうなぁ」




                        ピッ…





チャーラララ リン リン 
            チャーラララ リン リン
   チャーラララ リン リン           チャーラララ リン リン


チャーラララ リン リン   チャーラララ リン リン





同級生「………?」

「ッッ……!?」



同級生「…着信音……? このメロディって、オレの携帯か?」ガサゴソ

「………ッ…」

同級生「オレのじゃない……え、」

「…………」


チャーラララ リン リン


同級生「……お前の携帯が鳴ってない?」

「あ、ああっうんうん! わ、私みたい! ごめんね、ちょっとあれ……? もしかして失くしたと思ってたら持ってたのかも~」ガサゴソ

同級生「………」

「あ、あった! 実は私が持ってたよ! あっはは~何やってるんだろ私~」

同級生「…待てよ、それ、オレが知ってる携帯じゃないけど…」

「えっ……? あ、う、うん! 二つ持ってるんだ実は私! えっと、だからね、」

同級生「……。じゃあその携帯で呼び出せば良かったんじゃないのかよ」

「……あ、うん…そう、だよねぇ~!」

同級生「………」

「えっと……」

同級生「…見せろよ、ちょっとその携帯」ぐいっ

「えっ? イヤ! ダメだってば! なにすんのっ……やめてってば!!」

同級生「良いから貸せって…ッ」バッ

「あっ!」

同級生「っ───オイ誰だよコレ…誰からの着信だ…?」

「…し、知らないってば…見たこと無いし、それに連絡先に入ってない人だからっ…」

同級生「……。なんで黙ってたん、だよ」

「な、なにが?」

同級生「この携帯だよ! どうしてオレに秘密にしてたんだ…?」

「……だってそんなのこと言わなくたって、別にいいじゃない。わ、私は! 元々その携帯が無かったものとして考えてたから…っ」

同級生「……」

「だ、だって…新しい携帯持ってるじゃない? アイフォンの奴、だから、そろそろその携帯も解約しようとして、たの」

同級生「……」

「だから、別に……!! 何か疑ってるなら、それは絶対にない! 全然ないっ! だって私は……っ!!」

同級生「──……じゃあ何で…」

「…っ?」

同級生「じゃあどうしてだよ…! 教えてくれ、なら解約しようと思ってる携帯ならさ…?」

同級生「───なんであの曲を使ってるんだ……?」



~~~~~~


先輩妹「……何が、起こってるんですか…?」

男「うん。それはホントの破局だね」

先輩妹「本当の破局……?」

男「そうだよ、僕は君がこの作戦を持ちだした時から───【ずっとこうなるだろうと初めから想定していたよ】」

先輩妹「意味が…ごめんなさい、何を言ってらっしゃるんですか……?」

男「君はずっとドウ君のほうにばかりに目を向けていたけれど、そうじゃないんだ。問題はそこじゃない、根本的な軸は彼じゃない」

男「──彼女だ、ドウ君の彼女さん。彼女が抱えてる罪こそが、彼らの関係に終止符を打つ──そうだね、最大の罅を入れる瞬間なんだ」

男「つまりは浮気は彼だけじゃない。彼女もってコトだよ」

先輩妹「…なぜそれを…? 貴方が知ってらっしゃるんですか……? まさか私に黙って調べていたんですか……?」

男「まさか。僕は君みたいに器用に物事を調べ上げられるほど、情報収集能力に長けてるわけじゃないから」

男「…だからね、考えてみたんだ。君が持ってきてくれた写真と、ドウくんの性格。そして彼女さんの状況における不自然な部分」

男「考えれば考える程、おかしな所が沢山あったんだ。例えばそう──君がはじめに見せてくれた写真には、彼女さんはピアスをしていたよね?」

男「あれは見た限りだとお店で売られているような品物じゃなかった。見覚えないかな、ホラ、一緒にシュークリーム屋さんに行ったことを」

先輩妹「ッ……カップルで買われた時についてくる奴ですか……!?」

男「うん、その通り。男女カップルで買った時にだけついてくるもの──けれどおかしいんだ、彼は、【ドウ君は甘いモノが嫌い】なんだから」


なら彼女がそれを手にするは、ドウ君以外の男性と買わなければいけない。


先輩妹「ですが、それは…」

男「憶測だよ。勿論疑いの範疇を超えたりは出来ない、でもそれで十分なんだ。元よりその情報を知る前から、僕は彼女を疑っていたからね」

先輩妹「疑っていたって……」

男「その日を思い出せたのなら、じゃあ喫茶店の時のこと覚えてるかな。僕が君に聞いた一つの質問を思い出して欲しい」

先輩妹「質問、ですか? 確かあの時は────」



『──さっきから室内で流れてる曲。これって、ラブソング?』



先輩妹「……だったような、だから私は答えました」


先輩妹「──これは洋楽で、結構なマイナーな曲らしいです、と。ですが近頃『ここの喫茶店』で使われてるので、何気に人気を博してる…」


男「じゃあどうして彼が知ってるのかな、その曲を。言わせてもらうと彼は洋楽でしかもラブソングを聞く趣味は持ってないよ」

先輩妹「そ、それは勿論! 彼女さんが好きだから、彼女さんと同級生さんが互いにその曲を耳にしている──いや、待ってください…!」

男「うん。あの時もそうだったよね。この話が出たんだ、そう──彼はあの喫茶店には行ったことがない」

先輩妹「でもっ……き、聞き慣れて……好きになるほどに、彼女さんは喫茶店に行っている…?」

男「そうだね。彼があの曲を耳にしたのは彼女さんから、そして、彼女さんはあの喫茶店からになるんだ。二人は別に、個別に、一緒ではなくて───」

男「──ただただ、はっきりと、曲対する思い出は異なってる」

先輩妹「ま、待ってください! じゃあこれはどうです…!? 貴方はきっと彼女さんが別の男性とあの喫茶店に行かれたと思われてるでしょうけれど…!」

先輩妹「女友達と行かれたとは……どうして疑わないんですか!? 貴方はあの時おっしゃってました…! 女同士のお客さんも来ていたって…!」

男「それはないよ。その可能性は否定できる」

先輩妹「ど、どうして…?!」

男「だって彼女さんの友達関係。総入れ替わりしてたから」

先輩妹「……へ? そう、いれかわ、り?」

男「確認もちゃんと取っているよ。君には内緒にしてたけれど、一回ゲームセンターで彼女さんと出会った時に……」


彼女の周りに居た友達は全員、妹さんが調べた関係には該当しない人ばかりだった。


男「…まぁだからドウくんも疲れていた、ってこともあるんだろうけどね。結構人見知りっていうか、仲良くなるの苦手な部分あるから」

先輩妹「…………」

男「つまりはね? 彼女さんはここ最近において、仲良く喫茶店に行けるほどの友好関係を築けた友人が少なかったんだ」


あの喫茶店は女の子の中でもハードルが高い場所だ。出来れば彼氏と来たい店に、それ程仲良くない人と行ける可能性は低い。


男「──だって携帯を盗めたんだよね? その友達に、何時かの友達かはわからないけれど、でも結局は盗めるほどに──友好関係は冷め切っていた」

男「もうひとつ言わせてもらうと、君が今回呼び出す写真でこの学校の子を選んだというけれど。それはある意味正解なんだ」

男「だってもう一人の方。つまりは彼女さんと同じ学校の娘で、同じ部活の娘──ここは憶測だけれども、彼女さんは知っていたよ」


男「友達の娘がドウ君と浮気していたことを。それに友達も知っているんだ──彼女さんが部活の担当教師と関係を持っていることを」


先輩妹「……っ…!?」

男「つまりは、そう、そんなことなんだ。そういったことなんだよ妹さん」

男「言ってしまえば僕の妄想なんだ。確証なんてない、僕が見たこと知ったことをそのまま組み立てて、つなぎあわせて……出た結果がコレだった」ゴソリ

男「ありがとう。君が彼女さんのメルアドを調べてくれたから、彼女が二つ目の携帯を持ってることを知れた」

男「君が調べてくれたメルアドは、君が盗んだものとは違うものだった。さっきの着信音は改めて僕がその携帯を調べてから送ったものなんだ」

男「ピアスをしている時点で、初めて写真で彼女さんが持っている携帯を見た時から──浮気相手の経済力、そして人間関係、その他もろもろ大体予想が着いたよ」

先輩妹「…っ……つまり、は」

男「うん。つまりは──今回の浮気というものは二人が行っていて、」

男「彼は浮気を解決しようとし、彼女は浮気を誤魔化そうとして、人間関係が崩れていった」


男「彼は自分から問題を解決しようとして、自分から人間関係を壊した」

男「彼女は自分を守ろうとして、自分から人間関係を壊した」



男「──ただ、それだけのお話なんだって……思うんだよね、僕はさ」




先輩妹「………───」



『もぉーしっかりしてくださいよ。私達、今からおお仕事をしなくなちゃいけないんですよ?』

『大仕事って……本当にやるつもりなの? 別れさせるって、そんなこと何の関わりあいもない僕らがやるの、難しいよ?』

『……………………………』

『ん、どうしたの?』



先輩妹(──あの時の貴方は、こともなく何気なく普通にそれこそ当然のように………別れさせるのは【難しいと言った】)

先輩妹(私は正直、驚きました。なぜ難しいなんて言えたのか、私は貴方にしなくちゃいけないと言いながらも────)

先輩妹(【無理だ】【出来るわけがない】【関係のない自分たちに何が出来るのか】、と。諦め半分だったのに、いや本当に諦めていたというのに)

先輩妹「…先輩さん、貴方は」

男「うん?」

先輩妹「教えてください。どうか私に教えてください、それなら貴方は───わかるんですか……?」


自分が壊れていると知るために、人の幸せを壊す覚悟はあるか。

それは普通の幸せを得ることが出来ないとわかっているから───私が背負おうとしている、罪なのだ。


先輩妹「貴方は……このようなことを出来る……そんな壊れてる人間だと知っていて、私のような人間が近づいてきたとしても、」

先輩妹「…いえ【私のような人間が居ることを分かって、やる気になった貴方だからこそ、今の貴方だからこそ聞いておきたい】」


今、貴方がやったことは許されることじゃない。

きっと誰もが責めるだろう。隠そうとした者と治そうとした者。どちらも罪を抱えていたことは確かなのだけれど。


貴方はどんなに突き詰めようとも、他人なのだ。あの関係に関わりのない、ただの他人でしか無いのだ。

だから暴くことも壊すことも犯すことも全て、貴方は抱えなくちゃいけない悪行であって。


───唆した私も、貴方と一緒で、先輩さんと同じく悪行なのだ。

先輩妹「改めて教えて下さい──私は貴方を尊敬してるから、私は貴方を心から信じているから、言葉にして教えてください」


未だ夢心地であった私を叱咤するかのような、未だ信じられない遊び心いっぱいであった私を覚ますような。

──未だ過去に囚われ貴方という希望に縋っている、一人の『救われがたり屋』な私を壊してしまうような───








先輩妹「先輩さん。貴方は幼馴染さんとお兄ちゃんを別れさせられる──そんな罪を暴けるんですね?」


男「暴けるよ。君がそう望んだから、僕は先輩を陥れよう。よーちゃんの罪を暴き出そう。
  きっと僕は出来るんだろうから、だから君は安心して笑って過ごせばいい。だから僕は君をどうにか幸せにしてみせよう」




──ああ、そうやって貴方は悪魔のように微笑んだ。

──だから、そうやって私も悪魔のように微笑むよう努力した。

男「……」ニコ

先輩妹「……」


私はこれからゆっくりと貴方に飲み込まれていくのだろう。

尊敬するからこそ、信頼を寄せているからこそ、自分が壊れていると思うがために、ズルズルと。


男「ありがとう。これでやっと僕も──ちゃんと前を向ける気がする、幸せなんてものを求めたい──なんて思えた気がする、君の言葉でね」スッ

先輩妹「……? どこに行かれるんですか?」

男「勿論、後片付け。きちんと最後までやらなくちゃいけないと思って。ほら、前みたいに──」

男「──よーちゃんと先輩を付き合わせない努力を途中でやめてしまった、なんて過去を繰り返さないように、」

男「それと合わせて、今後の土石の為に歩き出すんだ」


スタスタ スタスタ


男「君は見ていればいいよ。静かに僕の背中を見ててくれれば、それだけでいいから」キィ

先輩妹「…先輩さん!!」

男「うん? なにかな?」

先輩妹「貴方は本当に……本当に、お兄ちゃんが……好きなんですか…?」

男「好きだよ」

先輩妹「…それじゃあ幼馴染さんは…?」

男「勿論好きだよ、友達としてね、それにドウくんも同じぐらいに大好きだ」

先輩妹「……。では『私』は?」

男「君? えっと、うーん難しいなぁ……考えたこともなかったから、ここは正直に言ったほうが良いの?」

先輩妹「………」コクリ

男「あ、うん。わかった、今ちょっと考えてみたけれど。コレしか無いと思う」





男「──どうでもいい、かな?」




~~~~~


全てが終わった。終わったことは自分がよくわかっている。

終わったと思ってしまったのなら、本当にそこでおしまいなんだ。

同級生「………」


幼少の頃からあらん限りのことを全て、一人で乗り越えてきた自分にとって。

終わりと分かったことは、もう、どうしようもないことだった。


同級生「…ザマァないな」


オレは一体何を欲しかったのだろうか。そんなの言葉にすることもタルかった。

もうこのまま消えてなく無って、何もかも捨て去って、壊し去りたかった。


同級生(──雨、が降ってきたな……)


既にアイツの姿は無い。オレが無言になればアイツも無言で去っていった。

言葉にしなくてもわかることは、幸せなことじゃなかったら──こんなにも心に響くのか、と。


同級生「……馬鹿だな、オレ」



「──風邪引いちゃうよ、ドウ君」

同級生「………」

「…ね」

同級生「……お前」

「うん」

同級生「なんでお前がここに居るんだよ……ハッ、そうか、そうなのか」

「………」

同級生「影で見て笑ってやがったのか…オレの間抜けな姿を愉快に頼んでたんだろ…」

「………」

同級生「……なんか言えよ、言ってくれよ、なんで何も言わないんだよ」

「ドウ君」

同級生「なんでなんだよ……どうして、どうしてお前が居るんだよ……っ……あの時だって、昔もオレの側に居たのはっ…絶対にお前だった…!!」

同級生「本当に居て欲しい奴は居なくて──なのに当たり前のようにどうでもいいっ……お前なんかが絶対に居る…! お前はっお前は……っ…」


ガッ!


同級生「──お前は一体なんなんだよッッ! お前はオレにとって何者なんだよッ! 教えろよなぁっ!? 教えてくれよッ!!」

「………」

同級生「ハァッ…ハァッ…! お前はッ……!」

「──だよ」

同級生「…あ?」

「友達だよドウ君。昔から変わってない、僕はずっと君の友達だ」

同級生「ッ……友達…ッ? ふざけるなそんなモン──」

「いらない、かな? 僕みたいな友達は……君には必要ないかもしれない、そんなことは知っているよ、けどね」スッ


ギュッ


「──辛い時は辛いって、誰かに言ってもいいんだよ」

同級生「…なん、だよそれッ…」

「言ってもいいんだ。君が強いことも一人で乗り越えられることも、うん、僕は知っているし──きっと君は本当に出来るんだろうね」

「けれど僕はもうひとつ知ってるから。君の本当の部分を、君が望んてたこと……君は幸せになりたいだけだから」


「…だから、また幸せになれなかった君を放ってはおけないよ」

同級生「………───」


ああ、またコイツはそうやって笑みを浮かべる。

あの日もまたこんな雨が降っていたっけ。

いつものように家に帰って、いつものように待っているはずの『あの人』が居なくなっていて。



いつの間にか居た父親が一言、『アイツは家を出て行った』なんて当然のように言いやがった。

そして気づけばオレは誰も居ない公園で、雨に打たれながら一人佇んでいた時。

当然のように、お前は、コイツはオレの前に居た。



この日とまったく同じようにコイツはオレの側に居た。



同級生「───お前はぁっ……なんでだよぉっ……オレはただ、ただっ幸せになりたいだけだったのにぃ…っ」

「うん」

同級生「ああっ…オレも悪いよっ…オレだって悪い、けど頑張ったんだっ…ちゃんとどうにかしようとしてっ…ちゃんと回りを整えようとしたんだ…っ」

「うん、うん、そうだね」ナデナデ

同級生「でも違った───……っ……オレは最初から間違ってたんだ、違うんだっ……オトコくんっ……オレは間違ってたんだよっ」

「それは? どうして、かな?」

同級生「オレは望んじゃいけなかったんだっ……幸せなんてものを、最初から望んじゃダメだった──オレは本当に駄目なやつなんだ、人として壊れてる、から」

「どうしてさ、そんなことは言い切れないはずだよ」

同級生「ち、違う言い切れる…っ! オレは誰にだってすぐに求めるんだ、馬鹿みたいに盛った猿みたいに……なんにも得られないってわかってる癖に、ただ、ただそれだけを求める…!」

「……そっか」ナデナデ

同級生「…だけどやっと現れたと思った……アイツだけは本気になっていいやつだって、心からそう思えた……そうしたらオレはちゃんとしないとって、思った、のに」

「うん」

同級生「──やっぱり駄目なんだな、ああ、わかってたのに知らないふりをしていたんだ。ずっとずっと、オレはアホみたいに信じようとしてたんだ…」



同級生「オレだって幸せになってもいいんだって……」



情けない。心から思う、オレは情けない惨めったらしい弱小な人間だ。

口から吐いたセリフは全部戯言だ。いや戯言以下の腐った言い訳でしか無いのに。

だから、だから──早く消え去りたかった。こんなことを呟いてしまう自分を止めるために、いち早くコイツの側からいなくならなくては。



男「──大変だったね、辛かったね、ドウ君」


居なくならないと、いけない、のに、

同級生「──……お前は…」


    やめろ、


同級生「お前は……こんなオレを、こんなどうしようもないオレを、」


   言うな、口を開くな、


同級生「お前は……知って、見て、それでも……」


 間違えるな、信じるな、否定しろ、


同級生「……なのに……オレの、オレの……っ」ギュッ


ああ、どうかお願いだ、ここから立ち去る勇気を、オレに、



同級生「──お前はオレの側に居てくれるのか……?」


そんなことを口にしたって何が変わる。何も変わらない。だってそれは当たり前だ──


男「うん! 勿論、ずっと側に居るよ!」


──コイツは絶対にそういう筈なんだから。

同級生「あっ……あぁあぁあっ……」ストン

ギュッ

男「当たり前じゃないか、そんなこと言わなくたって───僕は君の側にちゃんと居るよ」

同級生「ううっ…うわぁっ…ひっぐ…っ」

男「だから、今だけは泣いて、叫んでもいいし、というかむしろ開き直って! ……うん、一緒に頑張ろうね」

同級生「っ……っっ…!」コクリ

男「うん」スッ


チラッ


先輩妹「………」ヒョイ

男「……」ニコ

先輩妹「……───」



『──どうでもいい、かな?』

『……。そうですか、何となくそう言うと思ってましたよ。ありがとうございます先輩さん』

『うん、そっか、ご期待に添えてよかったよ。じゃあ今から頑張ってくるね』フリフリ

『…後片付けと言ってましたが同級生さんの所へ行かれるのですか?』

『うん、まぁ、彼はねちょっとしたトラウマを持ってるんだ。だからそれを慰めに行ってくるよ』

『トラウマ?』

『…言っちゃうと【愛情依存】みたいな感じかな、あはは、そんな言葉が本当にあるかは知らないけれど…』

『ああ、ええ、でも言いたいことはわかります。成る程ですよ、それが同級生さんの浮気グセですか』

『うん。だからそれを、今から僕が貰う為に行ってくるんだ』

『…え?』

『僕に依存してもらおうって思う。それで全部オシマイだよ』

『……何故?』

『勿論、君が幸せになるための準備として。……どういう意味か、わかるよね?』




先輩妹「──先輩さん、貴方はこの世に【絶対悪】は無いとおっしゃってましたが……私にはそう思えません」


罪を後悔するだけで、人は誰しも悪人だと断定できないなら。


先輩妹「貴方こそが絶対悪ですよ。マジモンのキチガイってやつですね」クルッ


人をなんら後悔なく──ただどうでもいいと思い──更なる罪へと至らしめる人間。


先輩妹「…ああ、私も頑張らないとっ! ふぁいとです! うんっ!」

第二話 終


気まぐれに更新 

ではではノシ

第四講義室

先輩妹「こっちですか?」スッ

男「………」

先輩妹「…こっち?」

男「………」

先輩妹「うむむっ」

男「……」ニコニコ

先輩妹「わかりました。顔色を窺った心理作戦は無駄ってことですね、えーえーわかりましたともっ」


すっ…


先輩妹「何があろうと何だろうと! こっちがババですよてりゃーっ! つまりはこれはスペードのにぃいぃいぃいぃいぃいぃッ!!」バババッ

先輩妹「ぃいいぃいぃ…………い?」

男「はい残念でした」パサリ

先輩妹「嘘、ですよね? え、ほんとですかっ? うそうそっ! そんな展開あり得ないっ!」

男「うん。何度確認してもそれはババ、つまりジョーカーってこと」

先輩妹「ノー! うだぁーっマジで言ってるんですか!? のぉおぉおぉおぉおぉおぉお!」

男「何度も言うけれどこれで──僕の3勝目、だから君の負けってことになるかな」

先輩妹「うぐぐ…なんなんですか強すぎませんかっ…意味がわかりません理不尽です横暴です…っ」プルプル

男「そ、そうかな? そもそも勝負を言い出したのは君の方からだったし……僕としてはお互いにベストな戦いだったと思うけれど」

先輩妹「そんなワケあり得ません! だって…ッ!!」

男「──だって?」ニコニコ

先輩妹「えっ? あっ! えっとぉ~そのぉ~うーんっ? えへへ!」

男「まぁ君としては勝たなくちゃいけない試合だったのかもしれない。それこそ自分が絶対的優位に立つために───」スッ

男「───何かしら予めトランプに仕込んでいたとしても、それは君がやるべきことだった、確かなことだったのかもね」


シュッシュッシュッ


先輩妹「…っ……っ……っ……」ダラダラダラダラ

男「けれど勝負事は勝負事だから、勿論僕としても手を抜く訳にはいかない。真剣勝負として受けて立ったからには、ちゃんとしないとなって」コトリ

男「うん。切り終わったよ、勝負を続けるのなら僕は受け付けるし。それとも別のゲームを始めようか? 大富豪なんかどうかな、」

男「──ほら、それだと【トランプの裏の柄がよく見えるじゃあないか】。【まるで一緒の柄だけどまるで何処か違ってるような柄がよく見えるじゃあないか】」

先輩妹「せ、先輩さん……っ? あの、その、えーっと………降りさせてもらい、ます」ギュッ

男「そっか、じゃあ僕の勝ちってことで良いのかな?」

先輩妹「……ファイ…」しょんぼり

男「そんなに落ち込まないで、負けたってことは次頑張る目標が出来たってことだよ」

先輩妹「…それだったら成功して向上心を上げて、更なる高みを目指すほうが良いです…」

男「ふむ。確かにそういった考えのほうが前向きでいいかもね…けれど、負けたこと忘れようとしたら駄目なことだって思うけれど」

先輩妹「現実から目を背けるなってコトですよねっ! あーはいはいはいはい、わっかりました! えーえー仕組みましたともあれこれイカサマしましたとも!」

男「おお、それは良い反省だと思うな。失敗から分かる次への向上心って素晴らしいことなんだからね、むしろ、成功からよりもずっと良い」

先輩妹「…成功よりも失敗のほうが多くを学べる、とかですか? 聖者と愚者みたいなお話ですか?」

男「そんな難しい話じゃあ無いさ。もっと簡単に物事を捉えてもいいんだよ、つまりは──そうだね【慣れ】かな」

先輩妹「慣れ?」

男「そうだよ、慣れってものは本当に──強いんだ。多分考える限りどんな武器よりもずっと強い、心強い最強の武器に違いないと思う」

先輩妹「すみません、先輩さんが言ってるほうが難しくて分かりづらいんですか…?」

男「あ、あれ? そうかな……えっとわかりやすく言うとね、成功した時の経験よりも、失敗した時の経験のほうが、人間的に強いってことだよ」

男「まぁ今後に続けるため参考となる、つまりは挑戦思考からの心境変化には成功経験のほうがずっとプラスなことには変わりないのだけれど───」

男「──でも、それじゃあ続かない。きっと失敗が来る。きっと終りが来る。そして終わりに対応できない。そして失敗に対応できない」

男「成功からは多くの向上心がいっぱい手に入れられるけれど──失敗からは大して向上心はさほど手に入れられないけれど───」

男「成功からは失敗という【慣れ】は手に入らない。失敗からは失敗という【慣れ】は手に入るってコト、かな」

先輩妹「ええいっ! またまたまたもや長ったらしいですよこんちくしょうです! つまり……成功は続かないから、むしろ失敗して頑張れと言ってるんですね?」

男「あはは。凄い簡潔にまとめられちゃったね、うん、つまりはそういうこと」

先輩妹「っはぁ~わかりました、わかりましたとも。先輩さんが懇切丁寧にお慰めしてくださったので、些か気持ちが落ち着きました」

男「それは良かった。頑張って喋ったかいがあったよ」

先輩妹「なのでして、ええなのでして、今後とも頑張っていく方針でわたくし改めてニュー妹として人生を歩んで生きたいと思う所存です」

男「うん。誤魔化されないからね、罰ゲームはやってもらうからね」

先輩妹「………」

男「君から言い出したんだ、それこそ失敗から学ぶべきことは大きな慣れだよ。これから君がすることも、失敗から学べる慣れだから」

先輩妹「…ムリデス」

男「無理じゃないよ頑張ろう」

先輩妹「嫌です」ブンブン

男「そんな真剣な目をしてもダメだよ」

先輩妹「…ひっぐ…うぐっ…しぇ、しぇんぱいさぁん…っ」グス

男「……」ニコニコ

先輩妹「ケッ! これだからホモ野郎は駄目なんですよあーあー一体どんな腐った思考回路をお持ちなんですかね大層芳醇に醸ったホモホモ菌が繁殖されていることなんでしょう!」

男「やる気になった?」

先輩妹「やっぱ無理ですごめんなさい許してくださいぃい…ぃい…っ」ペコーッ

男「よし行こっか。負けたのなら僕としても容赦しないよ、ここは君の頑張りに全力で期待させてもらおうと思う」


男「───よーちゃんと先輩を、お昼ごはんに誘うんだ」

廊下

先輩妹「ううっ……すっごく行きたくない……っ」

先輩妹「私がお姉様とろくに喋れられないことぐらいあの人なら見破ってるのに…っ…ぐす…っ」



   回想


先輩妹「…どうしてお姉様を誘わなければならないんですか?」

男「うん。よーちゃんと先輩ね、一人じゃなくて二人だからね」

先輩妹「わかってますって。先程は言われた瞬間に咄嗟に『勝負で決めましょう!』なんて言っちゃったんで、説明もろくに聞いてなかったんですけど…」

男「早かったよね決断、本当にびっくりした。けどね今こうやってあらためて考えてみると、うん、君が誘いに入ったほうが良い展開になるかもしれないと思うんだ」

先輩妹「それは、なぜ?」

男「少しでも多い時間を使って『付き合ってる状態のよーちゃんと、仲良くなってもらうために』だよ」

先輩妹「……???」

男「君がどれほどまで以前、よーちゃんとの付き合いがあるのかはわからないけれど。ひとまずそれは置いておくとして、今は今だけの友好関係を結んでもらう」

先輩妹「…それが、なにか意味があると?」

男「勿論だよ。理由としては二つほどある──まずは『新しい認識』だね」ピッ

男「よーちゃんにとって先輩は、初めての彼氏。勝手がわからない寧ろ一般女子高生にしては知識量は乏しいぐらいなよーちゃんのことだから……」

男「……女性的な知識に飢えている、と見た方がいい」

先輩妹「あーあ~えっと、つまりは、私が恋の相談役になれと? ……私を[ピーーー]気ですか?」

男「そこら辺は大丈夫。よーちゃんはあれでも、あんな性格に見えて頑固なまでに秘密主義だから」

男「君が辛くなるような相談はしないと思う。ごめんね、ここらへんは僕の予想でしか無いから絶対とは言えない」

先輩妹「……わかりました、では、二つ目の理由は?」

男「ありがとう。うん、それで二つ目だけれども──君が気になってると思う部分、それは何故ここで更に友好関係を深めなくちゃいけないのかってこと」

先輩妹「はぁ……それは?」

男「……」チラリ

先輩妹「?」

男「──もうすぐ9月が終わるね、そろそろ」

先輩妹「まぁそうですね、残暑が厚かましく未だに残って微妙につらい時期ですよ」

男「じゃあ10月に何が待ってると思う?」

先輩妹「秋ですけど」

男「そうじゃなくって、もっとイベント的なことだよ」

先輩妹「………あ」

男「……」ニコニコ

先輩妹「お姉様の……誕生日……?」

男「正解。つまり君は『よーちゃんの誕生日までに友好関係を深めること』、それが君がしなくちゃいけないことなんだ」

先輩妹「…っ……それが、」

男「そう、それが君の幸せを得るための準備。あの二人の間を割って自分だけの幸福を捕まえる──その始まり、だね」

先輩妹「………」

男「とても大変なことを言ってると、僕だってわかってる。けどね、それこそ君が得る幸せがどれだけ大きいかを認識するチャンスでもあるんだ」

男「他人の笑顔を壊し、他人の友情を逆手取り、他人の言葉を言い包め、他人の常識を押し返す」


男「───君が幸せになるために、暴虐に横暴に強引に、他人を不幸に陥れようじゃあないか」


男「じゃあさっそく、どうして誕生日までに仲良くならなくちゃいけないかっていうと───」

先輩妹「…安心、」

男「うん?」

先輩妹「安心しても、良いんですか。貴方が言った言葉を信じ従って、全てを貴方に任せきって───」

先輩妹「──私は貴方におんぶにだっこでも、平気なんですか?」

男「……」コクリ

先輩妹「先輩さん。私は聞かないでおきます、何故そうしなきゃいけないのかって理由を──これが何の役に立つのかって理由を、聞かないでおきたいと思います」

男「…どうして?」

先輩妹「きっと聞かないほうが先輩さんのご迷惑にならないともうので。私は信じるために、貴方に全てを預けるために、心から信用するために、」

先輩妹「──貴方に何も聞きません。だから、私は黙って従いましょう」

男「…いい言葉だね」

先輩妹「難しいことが苦手なだけです。誤解されやすいんですけど、私って案外おバカさんなんですよ」

男「そうかな? 僕には君がとてもお馬鹿な……なんて言葉で片付けられるような人には決して見えないよ」

先輩妹「…えへへ、そうです?」

男「褒められると弱いよね、君。…まぁいいけれど、僕はね、君のさっきの言葉は少し引っかかりを覚えるな」

先輩妹「そうですか? ならごめんなさい、えっと、気に障ったのなら……」

男「ううん、そうじゃあなくって。僕は怒ってるわけじゃなくって、単に気になってるだけってことだから」フリフリ

先輩妹「…というと?」

男「うん、君が言ってくれた『何も聞きません。だから私は黙って従いましょう』って所かな。至って普通に受け止めれば単純にそういった意味なんだろうけども───」

男「───僕には【まるで僕を試してるように聞こえた】だけだから」

先輩妹「…………」

男「実にいいと思う。僕は怒ってないし気に障ってもない。だから君がどんな気持ちでああいったかは知らないけれど、確かに僕らは利用関係でしか無いからね」

先輩妹(テヘペロ、バレましたか)

男「あはは。じゃあ頑張っていこうか、僕達に残された時間はそれ程残ってないと思うから」

先輩妹「わかりました。ではでは、行ってきますよ~」


回想 終


先輩妹(なんてかっこ良く飛び出してきたものの、ひぅっ、全然心の準備出来てない…っ)プルプル

先輩妹「…時間は昼過ぎ。ちょうどお姉様と糞兄貴がお弁当を仲良くつつきあってる時間帯でしょうね」

先輩妹(そこに割って入る突然の彼氏の妹。しかもお姉様の知り合い! ビバ親族! ベリー気まずい通り越してラブラブ空間鎮火モノ!)

先輩妹「無茶です…無茶苦茶です…想像を絶する光景です…」


ドン!


先輩妹「あいたっ」

「痛っ」

先輩妹「あ。ごめんなさい、前を見てなくて───」


同級生「チッ、どこ見て歩いてるんだよ……あぁッ?」


先輩妹「───……あ…」

同級生「あ? 何見てるんだよ、なんか文句があるわけ? お前のほうからオレに、ぶつかって、きたんだけど?」ズイッ

先輩妹「あ、えっと、ごめん、なさい」

同級生「最初から素直に謝れよ。ッチ」


スタスタ


先輩妹「…なんだか元通りですね、あの人」

先輩妹(あんなことがあって──少しは落ち着きでもするかと思ってましたが、ああいった人間は変われないもんなんですね)

先輩妹「…先輩さんも何故、あんな人を…」スタスタ

先輩妹「…はぁ、なんだか難しいことばっかりですよ。まぁ求めたのは私の方なんですけどね…」


「いい溜息ね。恋の悩みかしら?」


先輩妹「…え?」

「ああ、ごめんなさいね。通りざまに心地の良いため息が聞こえたもんでさ、えと、ホント突然ごめんね?」

先輩妹「はぁ…」

「ううっと、うーん。あ、そうだ自己紹介しましょうか! うんうん! それがいいかも、あたし『占い同好会』の部長をしている──」

金髪「──まぁなんてーいうか、そうね、金髪とでも呼んでくれたら嬉しいかな?」

先輩妹「…金髪さんですか?」

金髪「そそ。こうやって出会ったのも何かのお導きだと思って、ちょいと占いされてみない? どぉっ? やってみる? どぉっ?」

先輩妹「…いや、えっと、あの、私これから大事な用事があるので、すみませんけど…」

先輩妹(なにこの人うっざ! 超うっざ! 押し売りセールス並に超ウザイんですけど! 変なのに捕まりましたよ、今日は何かとついてない…)

金髪「あれ。この感じものすっごくうざがられてない? あーもうほんっとごめん、あたしってよく言われんのよー『会話するだけで疲れる』ってさぁ」

先輩妹「…そうですか、じゃあこれで」

金髪「ちょっとお待ちになってーっ! うん、じゃあ少し試してみない? 私がどれほどまでの実力の持ち主かってコト、見てみたくない?」

先輩妹「…気にならないです」イラッ

金髪「じゃあハイこれ!」シュビ

先輩妹「……トランプ…」

金髪「そそ。トランプ、私がよく占いで使う道具なんだけど──これ良く切って、これでもかって切って、切って、切って、」パララララララ

金髪「ハイ。今貴方に一枚のカードを差し出しました、この絵柄を私は答えましょう」

先輩妹「……」

金髪「ウムム。ウム。わっかったわよー正解はスペードの5! どぉっ?」

先輩妹「当たりです」

金髪「でっしょー?! 凄いでしょう!? これでちょっとは信用してくれたんじゃない?」

先輩妹「…マーキングでしょうね」

金髪「うん?」

先輩妹「イカサマトランプではなくって、マーキングトリック。些かこのカード───使い込まれているのかキズが目立ちますよね」

金髪「うぇっ?」

先輩妹「貴方は一枚一枚のトランプのキズを覚えてるんでしょう。なのでして、裏面から見ても絵柄を言い当てることが出来る」

金髪「…………」

先輩妹「そもそれって占い関係なくないですか? むしろマジックのたぐいであって、なんら運勢云々とは無関係だと思うんですけど」

金髪「…あは」

先輩妹「ココらへんで失礼します。では、楽しいひと時でした」くる

先輩妹(大変なほどまでの時間ロス。これでは穏やかな先輩さんも怒るに決まってますよ)スタスタ


金髪「……あーあ」

金髪「うーん、話はこれからだったのになぁ」ポリポリ

金髪「───スペード5ね。あの娘、今日一日は思い通りに進まない一日でしょうね」

金髪「まぁちょいとお待ちになってますかねー、どっこいしょ」



数十分後



ザァー ァァアアァアァア


先輩妹「……」スタスタ

先輩妹(雨とか雨とか雨とか! なんなんっですか今日は! イカサマバレて変態口悪男に絡まれ変態金髪に絡まれて!)

先輩妹(最後は雨でお姉さま居ないし雨に濡れるしもう最悪ですよ髪シットシト!)

先輩妹「うぐぐ。はぁーもう嫌だ嫌ですもう嫌です…」


金髪「はろー!」


先輩妹「なっ──なん、なんですか、急に、というかまた…!」

金髪「そんな邪険にしないで、ねね、やっぱり外に用事あったの? 雨降ってきちゃったわよねー大変だったわよねー」

先輩妹「…失礼します」スタスタ

金髪「──今日は大人しくしてたほうが身のためよ、妹さん」

先輩妹「……」ピタ

金髪「何か目的のために外に用事があった。ううん、違うわね───そもそも何かに負けたから、貴方は背負わなくちゃいけないことをしに行っている」

先輩妹「……」チラリ

金髪「私の占いにはそう出てるわ。うん、バッチリ、はっきりと出てる」パララララララ

先輩妹「…私の今日の運勢が分かるとでも言うんですか」

金髪「ううん、それは違うわね。そんな単純で小さな大したことのないテレビ占いよりもちゃっちなコトじゃなくって──」



金髪「───貴方の人生、まるっきり全部よ」



先輩妹「………」

金髪「あ。でもそんな事言っても分かりづらいものね、じゃあ簡単に今日一日の運勢でも占ってみようかしら、好きなモノ何?」シャッシャッ

先輩妹「……苺ですけど」

金髪「苺ね。じゃあ好きな天気は?」

先輩妹「曇り空」

金髪「じゃあ最後に──好きな人は居る?」

先輩妹「……。居ますけど」

金髪「ありがと。じゃあ最後にこれを引いて頂戴、うん、引くだけでいいから」

先輩妹「……」ピッ

金髪「あとはコレとコレとコレを並べて──うん、準備は整ったわ」

先輩妹(このカード。さっきと違って新品だ…)

金髪「一枚目、うんそっか。二枚目、なるほねぇ。三枚目。ほっほー」

先輩妹「あの、」

金髪「わかった、それジョーカーでしょ?」

先輩妹「…!」

金髪「あっはーすっごいすっごい、本当にびっくり! ああごめんなさい、当てたことに自分で驚いてるわけじゃなくってね、」



金髪「──ありえないほどの悪い運勢ね、アナタ。なにかに取り憑かれてるってレベルで、不幸中の不幸じゃない」



先輩妹「なっ……」

金髪「一つ目、今からすぐに部室に戻らないほうが良いかも。見たくないもの見ることになるかもだから」

金髪「二つ目、今日アナタがやろうとしていたことは、今後絶対に叶うことはないわね。すっぱり諦めなさい」

先輩妹「…なにを、言ってるんですか、これ占いですよね? そんな断言してもいいんですか?」

金髪「いいわよー絶対当たるから」

先輩妹「…えらい自信ですね」

金髪「自信? 違う違う、これは自信とかそういう不確定要素な言葉で片付けられるようなことじゃないのよ」

金髪「──運命観測。人がそれぞれ辿るべき道標を、私がただただみえるってだけであってね」

金髪「自信だとかきっとだとかかもしれないとか、そんなやわな予想じゃないから」

先輩妹「……」

金髪「あっは。イキナリこんなこと言ってもわけわかんないわよねー、あはは! うん! じゃあ最後に言っておこうかなぁ~」ずぃっ




金髪「──アンタ、幼馴染先輩のこと『不幸』にしようとしてる?」





先輩妹「ッッ……!?」

金髪「あれビンゴ? あっは、あのね、昨日ためにしに彼氏ができて浮かれ気分の幼馴染先輩のことを占ったらさぁ」

金髪「──不幸を象徴が彼氏さんに出たんだ。あれ、でも、結果は微妙にずれてるなって、彼氏さんが不幸にするって出てるのにちょっと違うなって思ってさぁ」

金髪「そんでもうちょっと詳しく占ったらさ。くっく、、出るわ出るわ───彼氏さんの家族に不幸要素たっぷりもってる……アンタのことがさぁ」

先輩妹「なに、を……言って……そんなわけないでしょうに、というか、それは単なる占いであって…」

金髪「そっか」パッ

先輩妹「っ……」

金髪「アンタがそういうのなら、それでもいいわよ。全然構わないし、むしろ好都合だし、ねぇ? あっは、ふふふ!」

先輩妹「…何が言いたいんですか」

金髪「べっつにぃ? しらを切るならあたしもってだけよ? …うん、それじゃあちょっと可哀想かしら。あたしだけしってアンタだけが知らないってのも、ちょっと不便だし」

先輩妹「……」

金髪「あのね、さっきの占いは今日一日の占いだけじゃないの。これから先、アンタに待つ受ける運命を観測させてもらったワケ」

金髪「だから、これからアンタがすること全部、ごめんけど全て邪魔させてもらうから。どれだけ頑張っても幼馴染先輩を不幸することは阻止させてもらうわ」

先輩妹「……っ…」

金髪「それ以外だったら別に何したって構わないわよ? 寧ろやったほうがいいんじゃない? そっちの方が幸せの兆し出てるのに…アンタはどうして、」

金髪「──あの先輩を不幸にしたがることを望んでるのかしらね、だれかアンタを唆してる奴が居るのかしら。うん、そこらへん占えばよかったかも?」

先輩妹「…私は貴女が言ってること、まったくもってまるっと全て全部意味がちんぷんかんぷんです」くるっ

金髪「ほっほー否定しちゃう? 信じ切れない? ここまでハッキリと言ってあげてるのに?」

先輩妹「信じません。私は占いなんて信じません、占いに絶対なんてあり得ませんしそれ以前に───」


先輩妹「──貴女の言葉を全て認めません。全部、全部です」


金髪「……あっそ」

先輩妹「今後二度と会えないことを、願ってます」スタスタスタ

金髪「それは無理。また会うことになるから、ずっと、結構長い間ね」ふりふり

先輩妹「…ッチ…」

~~~~

先輩妹(…あの人、私と同じ学年の人でしたね)スタスタ

先輩妹(あの髪の色。あれほど目立つ髪色なら私が見て覚えてないはずが無いんですけれども、全然記憶にありませんでした)


スタスタ スタスタ


先輩妹(占い同好会と仰ってましたけれど、同好会──ということはつまり部として成立するためのメンバーが確立できていないのでしょうか)

先輩妹(そもそのような同好会がある事自体、更に私は知りませんでした。ごく最近に出来たモノ、……なんでしょうか)


スタスタ すた…すた


先輩妹「…はぁっ…う、くッ……」フラフラ

先輩妹「はぁっ…はぁっ……心臓が、痛い…っ」


ズキン ズキン──


先輩妹「なぜ──なぜ何ですか、どうして……そんなコトいうんですか、そんなコト、そんなコト」



『だから、これからアンタがすること全部、ごめんけど全て邪魔させてもらうから。』


先輩妹「──……邪魔をするのだというのなら、此方だってやることをやるまで、です」ギュッ

第四講義室 ドア前

先輩妹「ふぅうーはぁあー」スーハー

先輩妹(…さっきのことは先輩さんには黙っておきましょう。些か不可解な部分が多すぎます、難解的要素をある程度…)

先輩妹(──己の、自分の、私の力である程度どうにかしてから相談するべきです。私は、私に振りかかる問題を解決するべきだと判断しました)キッ

先輩妹「ただえさえ、おんぶにだっこ状態ですからね。少しでも私としても自分の実力を見せつけるべきでしょう」

先輩妹(では。変態までに鋭い洞察力を持つ先輩さんに見破られないよう──心を落ち着かせて、行きますよ)


ピク!


先輩妹「──……? なんでしょうかこの匂い? 香水? …しかも男性用の、これは、思い当たるフシが…」

先輩妹(…講義室に先輩さん以外の誰かが、居る?)ソー


ガララ…


先輩妹(一体こんな辺鄙な所に誰が…)チラリ




同級生「………」



先輩妹「……!」

先輩妹(やっぱり同級生さんでした! しかし、なぜこのような所に───……ッ…え…!?)



同級生「…なぁ」

男「うん」

同級生「…もう少し」

男「…うん」

同級生「…悪い」ぎゅっ



先輩妹(同級生さんが、先輩さんに抱きついちゃってますーーーーーーーー!!!)

先輩妹(なっ、なっ、なっ、ど…どういう、えっ!? なん、…ですかこれッ??? どのような状況なんですぅ!?)



同級生「…最近眠れないんだ、全然」

男「どうしてかな?」

同級生「目が冴えちゃうんだよ。必死になって寝ようと瞼を閉じるんだけどさ、それでも、眠気がやってこない」ぎゅっ

男「…そっか」ナデナデ

同級生「すごく辛いんだよ。大変なんだ、馬鹿みたいに色々考えて出来るわけ無いことを願ったりしてる……馬鹿だろ、オレ」

男「かもしれないね。昔のドウ君ならきっと、もっと上手く自分の感情をコントロール出来てたはずだもんね」

同級生「…ああ、そうだよ。オレはきちんとやれてたんだ、昔はもっと上手く……できてたはずなんだ、でも、今は何も……できやしない」

男「………」

同級生「…随分とひ弱な奴になった。オレは不安で不安でしょうがないんだ、今、今だってそうだ。何も考えれないでここにいる…お前に、色々と求めちまってる」

男「………」ナデナデ

同級生「オレは頑張らなくちゃいけないのに、出来損ないで、今すぐにでも……あの親父に切り捨てられてもおかしくない程に、なんの取り柄もない人間で…だから…」

同級生「だからっ…頑張らなくちゃ駄目なんだ。一人で誰にも頼らずやらくちゃいけないことであって、それしか───それぐらしかオレには出来無い、んだよ…っ」

同級生「──…オレはずっと一人で頑張ってきた…誰の手助けも欲しがらなかった、だって必要だと思わなかったんだ。いや、思わないようにしてた。だから、だから、さ」

同級生「……いまさら……ほんと今更だ、今だから言えることだけど……オレは弱い人間だ。今になって気づくところが、まさしくどうしようもない…」


同級生「───こんなにも独りが怖いことを、オレは今更知ってしまったんだ……」


男「…、そうだね。一人で居ることは怖いことだよ、一人なんだと気づことは本当に怖いことだよ」

同級生「…ああ」

男「頑張った先に待ってることが、これから先ずっとずっと──こんなコトが待ってしまってるなんて、そんな恐ろしいことを考えてしまうよね」

同級生「…」コクリ

男「失敗して辛くてきつくて、大変で……それでも一人で頑張らなくちゃいけないんだと、それでも力強く前を向かないと駄目なんだと、」

男「傷ついてる自分を無視して突き進まなきゃいけない時があるのなら、君が不幸を感じながらも頑張らなくちゃいけない時があるのなら」

男「──君は何時だって今日みたいな事を思ってしまうんだろうね。今みたいなことを呟いてしまうんだろうね」

同級生「………」

男「でも、聞いてよドウ君。それはきっと悲しいことで哀しいことであるんだろうけども……でも僕はここにいるよ?」

男「君が何度だって嘆いても、僕はここに居るから。君が何度だって挫けても、僕はここに居るから」

男「──長い付き合いなんだ、それこそ、君は辛い時独りじゃない。独りで寂しい思いをしたとしても、僕は君の側に居るよ」


男「本当の辛さは、きっと、誰にも言葉が届かない時だって僕は思うんだ」


同級生「……」コク

男「だから泣かないで、ね? 頑張ろうよ辛くてもさ。僕は……君が昔みたいに何事も跳ね返す強さを持っていた、あの時の君が戻ってくると信じてるよ」

同級生「…あり、が…とぅ…っ…」

男「うん、うん、良いよ。大丈夫、平気だよ」ナデナデ



先輩妹「………」

先輩妹(…オオフ、なんだか見たくない人の一面を見てしまったような、)ガタタ

先輩妹「あっやばっ」



同級生「───ッッ……!?」ババッ

男「わわっ? ど、どうしたの?」

同級生「…ッ…お前、」

先輩妹「…あ、あはは。ど、どうもですぅー…?」ガララ

男「あ。妹さん」

先輩妹「えっと、あの、その…」モジ

同級生「……っ…もう行く、じゃあな」ゴシゴシ


スタスタスタ ガララ!


先輩妹「……」

同級生「……チッ」スタスタ

先輩妹(うっ…大変気まずい…)

男「やあお帰り、以外に早く帰ってきたからびっくりしたよ」

先輩妹「…あ、はい」

男「どうしたの? 中に入ってきなよ」

先輩妹「…聞いていいのなら聞きますけれど、今のは一体なんですか…?」

男「え? ああ、うんそれは君が見た通りのことでいいと思うけれど、取り敢えず言葉にするなら……」」

男「…絶賛依存中かな?」

先輩妹「…何とも知りたく有りませんでした。というか見たくはなかったですよ、いえ、そのまえにすみませんでした。お邪魔しちゃったようで」

男「ううん。別に平気だと思う、そろそろ昼休みも終わるだろうし───それにしてもどうしたのかな、僕はてっきり放課後に合うことになると思ってたのに」

先輩妹「外を見てくださいよ。それに私の髪もです」

男「ああ、そっか雨が降ってきちゃったんだね。じゃあ作戦は失敗?」

先輩妹「実行する前に頓挫ですよ、まったく───今日は良いことなんて本当にありま、」



『一つ目、今からすぐに部室に戻らないほうが良いかも。見たくないもの見ることになるかもだから』



先輩妹「──………」

男「天気予報じゃここ一週間は晴れが続くなんて言ってたのに……あれ? どうかしたの妹さん?」

先輩妹「えっ? あ、いえ、別に何も…」

男「そっか。今日は大変だったね、色々と疲れただろうし放課後は集まらずにそのまま家に帰ろっか」

先輩妹「…そうですね、私も色々と調べたいことがあるので」

男「そうなの? ああ、そうそう僕も個人的な用事があるんだった。お互い調度いいね、じゃあ明日からまた頑張ろう」

先輩妹「…はい」

男「あと、最後に妹さん」

先輩妹「あ、はい? なんでしょうか?」

男「ドウ君のことなんだけどさ。少し、少しだけでもいいんだ。君から話しかけてあげてくれたら、僕としても嬉しいんだけれど」

先輩妹「…は? 私がですが?」

男「駄目、かな? そうすると今後ともスムーズに物事が進んだり出来るんだけど、無理に引き受けなくても良いよ。後々からどうにかするから」

先輩妹「どちらかと言うと断りたいですよね。何度も何度も何度も言ってますが私、あの人のこと嫌いですから。あんなことがあっても、元よりあの人間性は虫唾が走るので」

男「…うん、そうだよね」

先輩妹「それに……私もそうでしょう? あの人から私も好かれてる印象を持たれてない。そも嫌われる要因ばっかりありますしね、お兄ちゃんと同級生さんは中が悪いんでしょう?」

男「……」コクリ

先輩妹「ですけれど、先輩さんの頼みであるのなら断りません。嫌ですけれど最悪ですけれど吐き気を催しますけど、頑張って意固地になって話しかけでもしますよ」

男「…そう言ってくれるとありがたい。君が頑張ってくれるおかげで、僕としても楽に物事を進めることが出来るよ」スッ

男「──二人を別れさせることが、君が幸せになることがいとも容易く出来るんだ」

先輩妹「……。ええ、頑張らせていただきますよ、お互い、ちゃんとしなければいけませんからね」

男「うん! じゃあまた明日、昼休みにでも一度顔を合わせよう。それから今日僕が言った…」

先輩妹「…昼食に誘うですね、了解しまた」コクリ

男「頑張ってね。応援してるから、いや、こんなこと言ったら君に失礼かな───」

男「──じゃあこう言っておこうと思う」



男「幸せを壊しに自分の手を染めておいで、妹さん」

先輩妹宅 自部屋


先輩妹「…文化祭のしおり、体育祭の進行プログラム」ガサゴソ

先輩妹「──やはり金髪の彼女、が『部長である占い同好会』の名前が、今年と去年にはどこにも無い」

先輩妹(少なくとも今年の極最近、設立された可能性がありますね。攻める情報はここではく、もっと個人的な部分を───)


パララララララ


先輩妹「……? あれ、でも去年と今年の───部活同好会共に数は同じだ……」トン

先輩妹「───……成る程、少し読めてきましたね」ニヤリ

先輩妹「しかし、それはそれとして。彼女のことをどうして私は覚えてないんでしょうか、本当に」パララ

先輩妹「あ! えっ!? ……うん? これって──まさか、嘘でしょう…?」



『ソフトボール部』



先輩妹「──この、体育祭の部活別リレーの写真に写ってるのは……金髪じゃなかった頃の……彼女……?」

先輩妹(あの人、ソフト部の部員だったんですか。髪の長さもだいぶ違う、見た目的な印象がだいぶ変わってる……)

先輩妹「…お姉様と繋がりがあったんだ、彼女は──しかし、それだけでの交友でああも私を……?」

先輩妹(占い、ですか。占いの結果が相当酷く、自分で守らなければと思ったのでしょうか? ハッ! アホらし、バカらし、ふざけるなですよ)

先輩妹(私はそんなモノは断じて信じませんし認めません。運命なんて言葉で全て片付けられるなどと、そのような世迷い言を吐く人間など、)

先輩妹「──無残な現実に切り捨てられでもすれば良いんです、どうしようもない理由で壊れてしまえばいい」



コンコン


先輩妹「あ、はい」

『俺だ。今大丈夫か?』

先輩妹「…大丈夫だよ、うん」

先輩「そうか。夜分遅くすまん、少し声が聞こえたものでな…ああ、大した理由はない」

先輩妹「そっか。もうそろそろ寝ようと思ってたから、心配かけてごめんね」

先輩「……。うむ、こっちもいちいち構って悪かった、おやすみ妹」キィ

先輩妹「あ、待ってお兄ちゃん。ちょっと……良いかな?」

先輩「む。どうした?」

先輩妹「ちょっとだけ聞きたいことがあるんだけど。全然、そんな大したことじゃないんだけどね。その……」

先輩妹「……幼馴染先輩さんって、部活だとどんな感じなのかなって、ちょっとだけ、気になって」

先輩「…アイツか、うーむ何と言えば良いのか」

先輩妹「例えば後輩からどう思われてるのか、とか」

先輩「ああ、それなら『暴君』だな」

先輩妹「ぼっ…?」

先輩「アイツは部活のことになると凄まじいぞ。俺の所の野球部員も恐れをなすほどだ、アイツが考えつく練習メニューは並のものじゃなく…」

先輩「…それをアイツ自身こなしている時点で、誰も文句を言い出せない。むしろ付いてこられない人間は片っ端から見放していく」

先輩妹(きゃー! 流石ですお姉様! そんな裏面がある所も本当にっ…素敵…っ! 知ってましたけど!)ブルブル

先輩「だが本当に暴君なわけじゃない。きちんとアフターケアもしているのだろう、俺とは違ってな」

先輩妹「…どういうこと?」

先輩「うむ。アイツは慕われても居るし、好かれても居るんだ。今現在在籍している部員と辞めていった部員含めて──全員だ、皆アイツの事を好いている」

先輩「アイツは人の感情を読むのが上手いんだろう。本当に触れてほしくない部分や、本当は求めてる言葉をかけてやれる奴なんだ」

先輩妹「………」

先輩「だから好かれているに違いない。本当に凄いやつだよ、アイツは……うん」ニコリ

先輩妹「………。そういうところが、好きになったの?」

先輩「えっ!? あっ! おお……っ! う、うむ! そ、そうかなっーて……思うな、うん」テレテレ

先輩妹「そっかそっかーふーんへぇ~」

先輩「か、からかうな。お前だって何時かは出来るんだぞっ? その時になれば……俺の気持ちも十分にわかるはずだ」

先輩妹「……───」

先輩妹「──…そうだね、そうだと思うよ」ニコ

先輩「う、うむ。じゃあ聞きたいことがそれだけか? …変なことをきくんだな、お前は」

先輩妹「気にしないで良いよ。理由もいずれわかると思うから、お兄ちゃん。あのね、」

先輩「おう?」

先輩妹「──私頑張るから、色々と。絶対に後悔しない為に、頑張るから」

先輩「? ああ、わかった。よくわからんが頑張れよ」


きぃ … パタン


先輩妹「………。さてさて、今日はもう寝ましょうか」

先輩妹(明日は多くの確認と行動を済ませなければいけませんしね、色々と、そりゃーもう色々とです)ガタ


先輩妹「──私は私の力で問題を切り開きます、必ず、この手で」

次の日 二時限目

先輩妹(…無事に授業を抜け出せれました。お腹痛いは万能型言い訳ですね、素晴らしい限りです)スタスタ

先輩妹「えっと、確かこの辺の空き教室が──やっぱりありました、これですね」


『占い同好会』


先輩妹「…約三名の部員の内、二人は完全に幽霊部員。鍵は部長である彼女だけが持っている──調べはついています、では」ガチャガチャ

先輩妹(あ、あれ? 私のピッキングスキルが上手くいかない、鍵の形式は古いタイプですから簡単に開くはずなのに…)


ガチャン!


先輩妹「よっし! あきました──…うわっ! ほこりっぽ!」

先輩妹(だいぶ使われてないのでしょうか、しかし、目的はそんなことではありません。この部室が───……占い同好会で使われているのであれば、あるはずなんです)


ガサゴソ ガサ ガサガサ


先輩妹「あ、これは」コロリ

先輩妹「……ふふっ……くくっ、あはは! やった! やりましたよこれです! ──見破ったりくそったれ! ざまーみさらせ!」

先輩妹(掴んでやりました、弱みを! あの金髪の彼女の強みであって、しかし弱みでもあるモノを見つけてやりました!)ギュッ

先輩妹「…これで、彼女に対抗できる」

先輩妹(あの自信に満ち溢れた顔面を打ちのめせる証拠を、無事に手に入れられました。では、後は……)


ガタタ


先輩妹「──ッ…!?」ビクッ

「誰も居ないはずのこの時間帯にさ。隣の鍵が閉まってるはずの──部室がガサゴソうるさいから何事かと思って来てみれば、」



同級生「お前何やってんの? なぁ?」



先輩妹「…どう、して…!」

同級生「ん? いや別に、知らないならいいけど。無知な後輩の為に親切なオレは教えてやってもいいよ、ここの隣の空き教室って──」

同級生「いい感じに暗くて、誰も来なくて、静かで、それでいて長居できるデカいソファーがあるんだよ」ぐっ


ガラララ ピシャ


同級生「だからカップルなんかがヤリ部屋なんかで使ってることが多いんだ。けど、案外綺麗なんだぜ。みんな綺麗好きなんだなって、来るたびに感心するよ」

先輩妹(ドアを締められた…うっ…逃げ場がない…っ)

先輩妹「…あの、そこをどいてもらってもよろしいですか?」

同級生「……」

先輩妹「それとも私に何かご用件でもあるんでしょうか?」

同級生「なんか腹立つ態度だな、お前」

先輩妹「そうでしょうか、そう思われてしまったのなら心底心からお詫びします、けれど同時に」ピッ

先輩妹「──謝罪の言葉は貴方が吐かなければならない展開にもなり得ますよ?」

同級生「……。その取り出した携帯で一体どこにかけるかは知らないけどよ、まぁ別にかけてもいいぜ?」

先輩妹「ハッタリでは有りませんよ、私は本当にかけます。貴方が、何かするのであれば」

同級生「だからいいっての。電話を手にしたって手にしなくたって、それはそれで何も変わりはしないんだからよ」

先輩妹「…それは、どういう意味で…」

同級生「電源。落ちてるからな、その携帯──付けるに少なくとも、三十秒以上は掛かるだろ」

先輩妹「えっ」

同級生「……」ダッ

先輩妹「嘘、さっき付けたはず───」チラリ


ぱしっ!


先輩妹「──きゃあっ…!?」

同級生「モチロン嘘だ、嘘に決まってんだろ。元より暗い画面を見て電源ついてるかどうかの判断なんてつくわけねーだろ、」

同級生「んで携帯は奪わせてもらった。あっはは、どーした後輩? これで助けは呼べなくなったなぁ、誰もここには来れなくなったなぁ?」クルクル

先輩妹「ッ…返してください、それを…ッ!!」

同級生「嫌だよ馬鹿か、いや、待て待てちゃんと返してやるって、そんなの当たり前だろ? 人のものは盗っちゃいけないってことは、チンケな脳味噌の幼稚園生だって知ってる」

先輩妹「…明らかに今の貴方はその、ガキよりも不出来な脳味噌をお持ちのようですがッ…?」

同級生「煽る元気はあるんだなぁ後輩。良いよ良いよ、そうこなくっちゃな、下手に下手に出てこられても───追い詰めてるこっちも拍子抜けってもんだからさ、くっくっ」

先輩妹「なんなんですか、なんでこんなことをするんですか。それならモチロン相当な意味があってのことなんでしょうね」

同級生「いちいち腹をたてるなよ、カルシウムちゃんと取ってんのか? …ったくあの兄貴にこの妹ありだな、いちいちオレの気分を害してきがやがるよ」

先輩妹「……」

同級生「あのなぁ後輩。オレは元よりお前に用があったわけじゃない、一般生徒として気になる音につられてここに来ただけだ。わかるか? わかるならうなずけ、口を開くなよ面倒臭いから」

先輩妹「じゃあ何故私の携帯を盗るんですか」

同級生「…はぁ、あのな、良いか、本当にな。お前は大概にしろよマジで。オレを自分から怒らせて何がやりたいワケ? マゾっけアリ過ぎるだろ、笑えねえからそんな趣味ねえから」

先輩妹「…私は素直に、身の危険を感じています。だから率直に言えば貴方が腐れ強姦魔になり得る展開を危惧しているんです」

同級生「わかりやすすぎるだろ。少しは状況を疑え、考えろ、バカだろお前。ここ学校でしかも授業中──しかも全校生徒の大半が……」

同級生「……この校舎の別室で勉学中だぜ。お前みたいな肝が座った可愛げない女が、なりふり構わず家畜の豚のように叫び散らかせば、誰の耳にだって届くっての」

先輩妹「すぅううううううううううう」

同級生「ばっかだろお前! ちょっ!」ぐいっ

先輩妹「むぎゅっ」

同級生「マジで叫ぼうとする奴があるかよ…! キチガイかお前っ!? ほんっとムカつく、腹立つ、このまま息止めて窒息させるぞお前…ッ!」グググ

先輩妹「むぃーっ! むぅー!」

同級生「…嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。ほんっと嫌だ、なんでこんな奴にいちいち関わらなくちゃなんねーんだよ、オレの人生マジでついてない…はぁ…」

先輩妹「むぐぅぅうう!」

同級生「……。このまま離したらお前、絶対に叫び出すんだろうな。本当にな。わかってる、わかってるんだよ……ったく、じゃーこのまま言うぞ後輩」

先輩妹「…むぐっ…?」

同級生「昨日の件だ。覚えてないとは言わせないからな、忘れたとも言わせないからな。昼休みでの第…何講義室か忘れたけどよ、」

同級生「──見たこと聞いたこと全てを忘れろ。今から、この瞬間に、あの瞬間を、全ての記憶を偽造しろ」

先輩妹「……っ…」

同級生「…最初はこんなつもりはなかったんだよ、ッチ。けどお前の姿があったから……元はこんな風なつもりだってなかったんだが…ったく」スッ

先輩妹「…何故手を離すんですか、叫びますよ私」

同級生「ああ、叫べばいいだろ。無様に勘違したまま馬鹿みたいに喚けばいい、…そのかわり絶対に言うな、あの時の事はな」

先輩妹「…魂胆が見えませんね。私は、叫んだ後全てのことを吐いて吐き出して、貴方をホモ野郎で強姦魔であって頭のイッてる性欲の悪魔だと言い放ちますよ、多分、いや本気で」

同級生「──いや、言わないだろうなお前は」

先輩妹「…何故そうと言い切れるんですか、全然知らない私のことなのに」

同級生「………。聞いてるからだよ、あのクソ部長からお前のことを」

先輩妹「…お兄ちゃんから?」

同級生「ああ、一年前ぐらいに。オレがまだ野球部だった頃にだ、お前の話を散々散々散々聞かされてる」

先輩妹(あの糞兄貴なにやってるんですか…?)

同級生「まったく何度も同じ話をしやがるもんでさ。多分、お前の友達ぐらいに──いやそれ以上に、お前のことを知ってるかもしれないな」

先輩妹「ハッ! それで? その兄貴から聞いた性格だと私は、強姦未遂のことを受け止め受け入れて。貴方のことを心から許す聖君だとお思い何ですか?」

同級生「真逆だな。常にネコを被って人様の裏側を探り裏をかき付け入り、人を人だと思わない畜生以下の悪魔みたいなやつだと思ったさ」

先輩妹「あはは。失礼ですね本当に」

同級生「笑って許せよ、笑ったからには認めろよ。だから、お前みたいな奴には──お前みたいな人の裏を絶対だと思ってる奴には、ある程度誠意を見せれば……」

同級生「……ころっと許すもんだ。オレはそれを知っている、お前よりもお前みたいなガキよりも社会を知ってる」

先輩妹「言いますね同級生さん。それで、そうまで言ったのなら大層画期的なアイデアがあるんでしょうから」

同級生「やってやるよ、ちゃんと見とけよ。最初で最後だ、だから最初に言っておく。だから最後に言っておく」スッ


同級生「──こんな無様なことをするのは、お前に対してだけだってことをな」ゴスッ


先輩妹「…ッ………土下座……!?」

同級生「…」ドゲザー

先輩妹「…っ」

同級生「…お願いだ誰にも言わないでくれ、頼む」

先輩妹「は、ハッ…なんです? それ? 土下座って…」

同級生「……」

先輩妹「貴方みたいな傲慢で高慢な人が──他人に、ましてや後輩で嫌いな奴の妹である人に…」

同級生「……」

先輩妹「……。それは誰のために下げたんですか」

同級生「……」

先輩妹「自分の為ですか。後にバラされる男と抱き合っていたことが、知られることが最も怖いからですか」

同級生「……」

先輩妹「聞かせてください。何故、貴方は頭を下げるんですか」

同級生「…アイツの為だ」

同級生「オレはオレだ。そこは誰にも譲れないし譲る気もない、誰にどう疑われようが──どう思われようが知ったこっちゃねーよ」

同級生「オレはアイツを困らせたくない、オレなんかの存在で、チンケなミスでアイツの高校生活に支障をきたさせる訳にはいかない」

同級生「…オレは確かにアイツが必要だ。今、この時だって無様に泣き叫んで……アイツに縋りよって、馬鹿みたいに大声で泣き出したい気持ちでいっぱいだ」

同級生「けれど、オレはアイツを壊したくない。オレだけのためになんて……つまらない理由で共倒れなんて、死んでもゴメンだ」

同級生「──だからオレはアイツの為に頭を下げる。お前が強姦されたと言いふらしても我慢は出来る、だけど、」

同級生「──アイツを困らせることになることは、頭だって何だって下げてやるよ」

先輩妹「…なんですか、それ」

同級生「思ったことを言っただけだ。それ以上のことは何も、無い」

先輩妹「貴方は…貴方にとってあの人はどういった立ち位置になるんですか、ただの、ただの幼馴染なんじゃないんですかっ」

同級生「…ああ、幼馴染だな」

先輩妹「なら、どうして──貴方は自分よりも他人が大切だと言ってるんですよ、今! この瞬間に間違えてしまえば! これから先の人生を真逆に変わってしまうかもしれないのに…!」

同級生「……。わからないだろうな、お前には、きっと」スッ


同級生「こうやって他人のために頭を下げられる奴の気持ちってのは」


先輩妹「──……」

同級生「なんだって良い。オレの心情なんてお前には関係ないだろ、それとももっと同情を買えば許される展開になるのか?」

先輩妹「っ……そんな、ことは」

同級生「だったら先に答えてくれ。あの第四講義室でのことは黙っててくれるのか、それとも言いふらすのか」ゴリッ

同級生「…お前の答えを聞くまでは、頭をあげられない」

先輩妹(──一体……私は何を見ているんですか、これは)


知っているかは、ただただ苛つく表情だった。


先輩妹「……っ」


私はこの人が嫌いだと、本能的に知っていた。

先輩妹「………」ぎゅっ


だから先輩さんから「よろしく」と言われた時も、

自分は至ってシンプルに「いいですよ」と答えた。


──頼んだ存在の彼がどれ程まで深く考えているか考慮もせずに。


先輩妹「私は、」

同級生「……」


手のひらの上で踊らされれている。きっとあの人はこういう状況になることを知っていたんだ。

私と同級生さんが陥る今の展開を予測して──ああいった言葉を私に伝えたんだ。



                                                               『よろしく』、と。
 


先輩妹「私は──言いません、第四講義室のことは誰にも言わないと貴方に誓います」

同級生「…本当か?」

先輩妹「ええ。嘘はつきません、誓ったことは必ず守りますよ。それこそ貴方に誓いましょう、私は約束を破らないと」

同級生「ああ、ありがとうな。本当に、ありがとう」スッ

同級生「──くっく、やっぱり快諾してくれたなやっぱ」パッパッ

先輩妹「………」

同級生「あー土下座なんて今後一生したくないね、あーあ、惨め感ハンパねーし」

先輩妹「…取り敢えず携帯返してください」

同級生「ほらよ、盗って済まなかったな」ポイッ

先輩妹「………」イラッ

同級生「信じるかならお前の言葉。約束は守るってこと」

先輩妹「ええ、どうぞ。私も一々ゲイ野郎のことで思考回路を邪魔されても、迷惑なので」

同級生「ん。違いねーな、ハハッ」

先輩妹「………」

同級生「なんだよ、本当のことだろ」

同級生「オレはアイツが居ないと生きていけないんだ、それが過剰に聞き取られたとしても…元より、なんつーか」

同級生「今の生き方も悪かねーかなと思ってることも事実だしな」

先輩妹「…本気で言ってるのなら正気を疑いますね、一度死んで生まれ変わったらどうですか」

同級生「ははっ、だな。つか、一つ聞きたいんだけどよ……お前同姓に対する恋愛観に対して異常に──」

同級生「──興味津々だな、どうした何か気になることでもあんのか?」

先輩妹「は、はぁ? そんなこと当たり前じゃないですか、ゲイですよゲイ…っ! 気持ち悪いと思うのは一般的に…!」

同級生「けれどオレに強姦されるかと疑ってる時のお前は、結構落ち着いていた。まるで、そうだな…うん…」

同級生「…同性愛に対する信頼性を感じてる、とかどうだ、オイ?」

先輩妹「………」

同級生「図星か。へぇーえ、お前の親しい間柄にそんな輩が居るんだな、だからそんなにも同性に対する愛情の強さを信じきってる」

先輩妹「…何をわかったようなことを」

同級生「んじゃあマジになんないで聞き流せよ、今のお前の表情相当おかしいぞ、くっく」

先輩妹「……っ」

同級生「別に根掘り葉掘り聞き出すつもりなんて無い、ただ──願うならソイツ……も」

同級生「幸せになることを祈ってるよ、じゃあな妹さんよ」フリフリ


ガララ ガタ


先輩妹「……」ズキン

先輩妹「また、心臓…が」

ズキン ズキン

昔から『心臓』の音が嫌に響くことがまれにある。

鼓動が波打つたびに身体全体に広がる、鈍く冷たい痛み。


ずくん、ずくん、と。

流れる血液が固まって、尖った刃のように私の中身を傷つけ続ける。


そういう時は限って──そう、

私は一旦呼吸を止めてみる。痛みが引いて和らぐまで、ずっと。


先輩妹「…」ゴクリ


そして私は何かを飲み込んだ。

本当は吐き出して排出させなくちゃいけないものを、無理やり自分の身体の中へと消化して、


先輩妹「はぁ…」


自覚する、私はきっと悪い奴だ。こんな私はきっと壊れている。

だけどもう後戻りも後悔もしたくはない。そんなものはとうに自分からは捨て去って、要らないものだと割りきった。


先輩妹「…なんでこんなん、なんだろ」


吐いた弱気もきっと嘘に違いない。

※※※

こんなことを言ったらだれも信じられないかもしれない。

けれど私は、そんな人間だということを誰よりも知っている。



──私は臆病者だ。この世で生きる人間の中で誰よりも、一番に。


食べたいものを一つ選ぶだけで時間をかけるだろうし、

冗談の一つを言うだけでも誰よりも空気の色を鑑みるだろう。


夜空に佇む淡い光を垂れ流した月を見るだけで、何時何時、その月が地球へと落っこちてくるのだろうかと怯えている。


私はか弱く脆弱な人間だった。

可哀想で小さく、強者から食い物にされるだけの人間。


何時だって世界の全ては尖って鋭い刺だらけに見えていた。

出歩くだけで腕は擦り切れて、呼吸をするだけで肺の中は滅茶苦茶に荒らされてしまうんだと。


───私は中身が露出した卵のように、ただただ、私を覆う殻を必死になって捕まえて隠れている。


そんなものは等に壊れて粉々のはずなのに、元より自分を囲うほどの大きさを持っているはずもないのに。


私は成長することを恐れて、怖がって、未だ生まれたことを無様に否定し続けている──そんな人間なのだ。

だって私が生まれ落ちた世界は何時だって、私に冷たいのだから仕方ない。

こんな言い訳なんて下らなくて、自分自身も笑ってしまうのだけれども。

それでも私は『世界』が怖くて仕方ない。怖くて怖くて、じっと身を隠してただ暗闇の中で生きていたかった。


「私は…ただ生きていたいだけなのに、どうして」


世界は私を否定するのだろう。

ああ、またなんて下らなくてしょうもない言い訳を並べ立ててしまうのだろうか。


けれど、こんな私を許して欲しい。こんな口を開けば自分を守ろうとする言葉だけを吐く私を、どうか嫌わないで欲しい。

私は私で頑張っているのだから。他人がどうのこうの私という存在を無様だと嘲笑っていたとしても、私はにこやかに対応できるだろう。



だって私は愛しているのだから。

この世界を誰よりも愛しているのだから。



怯え、怖がり、生きることも苦痛に思う私だけれども、それでもこの世界を心から愛しいと思っている。

ありがとう。

私は! 今この世界で呼吸し歩き喋り食べ排泄し、世界を構成するたったちっぽけな一ドットにも満たない存在であったとしても、


ありがとう──私はこの『世界』を愛している。

ドクン、ドクン──と鼓動する身体を感じるだけで幸せだと思える自分を好きだ。

私は他の誰よりも世界を好いている。好きで好きで、大好きだ。


ありがとう、ありがとう、せんきゅーあいらぶゆー。


──私は空に向かって言葉を投げかける。


私を見ている世界さん! 私はアナタを心から心底力いっぱい愛している!

だから私のことを嫌ってもいい! 傷つけ二度と立ち直れないぐらい痛い目に合わせてもいい!


…けれど、だから、そういうことだから。



「──【『 』が思うどおりに、全てのことは進んでね】」



次の日 朝


先輩妹「………」

チュンチュン

先輩妹「…何時…?」

【午前九時】

先輩妹「……っはぁー……遅刻だ、大遅刻だ…」ガシガシガシ

私は思うことがある。


先輩妹「…朝ごはんは抜いて、いや食べていこう…もうこうなったら締めてかかりましょう」


世界は私に冷たい、私のことを嫌ってるんだと。


先輩妹「……。目覚ましの電池が切れてる、ぐぉぉぉ…放課後買いに行かなくちゃ…」


他の人はなんら苦もなく生きているように見えるのに、たったひとつの障害もなく生きているはずなのに。

私は単純に生きることさえも息苦しくて仕方ない。だから、私は世界に嫌われているに違いない。


先輩妹「よし、もぐもぐ。んごく、んんごく」


──けれど私の方はそうでもない、結構世界は大好きだ。


先輩妹「……行きましょうか、学校に」パンパン


それはどうしてか、そんなのは単純だろう。


先輩妹「──全力で今日も生き抜きますか!」


だって心から大好きだと……思える人と一緒の世界で生きていられるのだから。

他に理由居る? 的なほどに私は単純な性格なので、案外大丈夫、うん大丈夫。



先輩妹「あ~…変な夢見た、最悪です」たったったっ


なので今日も一日、最低最悪ながら他人の不幸のために生きていく所存です。


昼休み


男「…うん?」

先輩妹「ですから今日はお姉様を誘うことは出来ません、無理です、断りたいです」

男「ちょっと待って…え、どういうことかな? もしかして、」

先輩妹「あー違いますよ違いますって。先輩さんが疑ってることではなくて、私は単純に今日は出来ませんと言っているだけです」

男「つまり?」

先輩妹「問題が起こりました。最悪です、結構大変で泣きそうです」

男「…なるほどね、じゃあ一体どういったことが起こったのか──」

先輩妹「断ります、ええ」

男「…うん?」

先輩妹「だから断ります。先輩さんに説明することも状況を述べることも一切断ります、秘密です」

男「……」

先輩妹「私は思ったんですよ先輩さん。私、なんだか貴方に頼り切りっているなぁーなんて、思っちゃったりするわけですよ」

男「…もしかしてだけど、なんだかたちょっと怒ってたりする?」

先輩妹「そんなワケないじゃなですかーもうもう先輩さんったら、私の事をどんな短期ヤロウだとお思いなんですか、えへへー」

男「わかった、同級生君と会話したんだね。それで思うところがあって、そんな感じになってるワケだ」

先輩妹「どうしてです? はい? どーして同級生さんがそこでこの会話の中に出てくるわけですか? ん?」

男「…ごめんね、僕が上手く説明すればよかったことなんだろうけども…」

先輩妹「先輩さん。いい加減にしてください、私は何も無かったですよ。確かに同級生さんと会って会話はしましたが───」

先輩妹「何も有りませんでしたよ、ええマジで笑えるぐらいに冗談じゃなく本当に」

男「本当に?」

先輩妹「本当です、嘘言ってどうするんですか。私が説明に否定的なのは単純に……その問題自体が解決一歩手前なだけなんですよ」

男「……」

先輩妹「なのでして先輩さんの力を借りることもなく私は私の力で、私の実力で無事に終わりかけていますので大丈夫です」

男「そう、そっか。なるほど僕の出番は今はないってことなんだね」

先輩妹「…違います、今はじゃないですけれど」

男「わからないよ。問題ってのは解けてこその問題なんだ、答えが見つからない問題なんて──問題とは呼べない、それは」

男「──…まぁいいよ、うん。ごめんね君を不安にしようとしているわけじゃないんだ、それに否定しているつもりもない」

先輩妹「……」

男「君がやれることをやって、それがことなく無事に解決となるのなら僕としても気苦労無くて十分だ、うん」カタリ

先輩妹「…先輩さん」ガタリ

男「うん?」

先輩妹「先輩さんは……もし自分の罪で、他の誰かが巻き込まれて危なく経った時に、」

先輩妹「──貴方はどんなに屈辱的なことでも受け入れられることが出来ますか?」

男「……、どうだろうね」

先輩妹「やっぱ無理ですか」

男「難しい質問だ。僕としてもはっきりと口にしにくいかな、例えそれが──君に対してであっても、少しだけ躊躇するよ」

先輩妹「えらく含ませた言い方をしますね、別に躊躇わなくても結構ですよ、だって私のことなんてどうでもいいんでしょう?」

男「そうだよ」ニコ

先輩妹「……」

男「些か誤解があるようだけど、どうでもいいと思ってたりしても、君を傷つけても悲しないということでは無いからね」

先輩妹「…傷つける答えだっていうコトですか?」

男「受け取り方は君任せるよ。そもそも僕たちは、自分の罪──なんて大げさの言い方はおかしいけれど、あはは」


男「自分の欲のために他人を不幸に貶しれようとしている。だから、何を口にしても軽くなってしまうよ」


先輩妹「……、ですね」



廊下


金髪「あら?」

先輩妹「どうもです」ペコリ

金髪「あららーふふ! なんだなんだぁ~もうこっちの北校舎には近づかないと思ってた、しかもこの時間帯とかさ」

先輩妹「二度と来るもんかと思ってましたけど、気が変わりました」

金髪「うん知ってた! ごめんね、占ってたからアンタが来ることは最初から知ってたわ~」

先輩妹「それは話が早く済みそうで有難いですね」

先輩妹「では私が今から貴女に話そうとしていることは、こと詳細についてはわかっていると見ていいんですか」

金髪「…フェアに行きましょうか、アタシってフェアって言葉大好きなの。ホラ、だって正直者って好かれそうじゃない? それに強者っぽくて大好き」

金髪「──アンタがアタシに言いたいこと、それについてはわからないわ。けれどアンタがアタシに対して──」


金髪「──絶対的なアタシの弱点を突きつけようとしているのは、わかってる」ニコニコ


先輩妹「……。なるほどですよ、中々肝が座っている用ですね。では早速ながら手早くちゃちゃったと終わらせましょうか」ガサゴソ

金髪「……」

先輩妹「私は、もうわかっているとお思いでしょうが──貴女の占い付いて何一つ心から信用していません、全否定しています」

先輩妹「ですが悔しいことに貴方に言動の中で説明できない部分が多くある、哀しいことに。自分の見聞の少なさに涙が零れそうですよ」

金髪「うん、うん、それで?」

先輩妹「…、そうですねここらへんでしょうか?」


ぷにっ


金髪「…ひぁあ!?」びくっ

先輩妹「はい、当たりですね」

金髪「なっ! アンタ急に何胸に…!」カァァア

先輩妹「ピンポイントだったでしょう? 私って胸のてっぺんどこか当てるの得意なんです、百発百中です」

金髪「へ、変態! なんなのこのッ…ド変態!」

先輩妹「おや語彙が些か乏しくなってますよ、乳首当てられたぐらいで動揺っぷり──成る程、しょじ…」

金髪「アンタもそうでしょうが…ッ!」

先輩妹「ッ……まさかそこまで占いでわかったとでも…?」

金髪「バーカ! んなワケないでしょ釣られてアホ丸出し!」



先輩妹「──ええ、そうでしょうね。元より貴女は占いで分かる結果など、一切無い」



金髪「…なにっ?」

先輩妹「どこらへんですか?」

金髪「なに…がよ…っ?」

先輩妹「貴女の乳首を当てられて恥ずかしさに──悶え頬染める顔がバッチリ写った……」


先輩妹「…隠しカメラ、貴女はここら一体の廊下に巧妙に隠していらっしゃるでしょう?」


金髪「…、なんのことかしら」

先輩妹「──『アマチュア無線部』」

金髪「…!」

先輩妹「聞き覚えは…当然のことありますよね、貴女が無いわけがない。去年までは『ココの部室』を使っていたんですが…」

先輩妹「今は占い同好会でしたっけ、貴女は今年になって廃部になった部室を占い同好会として使用している。それも唐突に、急遽代用として」

金髪「…だからなんだっていうのよ」

先輩妹「貴女は同好会と称して、この部室を欲しがっていた。違いますか、違いませんよねぇ、貴女はこの部室の中にある──とある機材を欲しがっていた」

先輩妹「隠しカメラと、盗聴器。私も耳にしたことがありますよ、アマチュア無線部は些か違法的なことを行い、教師にバレそれで今年度に潰されたとね」

金髪「……」


先輩妹「その時にあらかた機材は全て没収されたという噂でしたが───一つ疑問が残ったんですよね、それは貴女です」

先輩妹「貴女は最初からこの部室に、教師にバレて潰される以前から通っていたんじゃあないですか?」

先輩妹「もっと言い方を変えましょうか? 貴女は──潰される以前、ではなく、潰される原因」

先輩妹「貴女が教室にアマチュア無線部の隠された実態をバラした、そして、数あるウチの幾つかの機材をせしめた」


金髪「…くっく、それで?」

先輩妹「証拠も確保していますよ、それについては占いで説明できますか? まぁ堂々とこの部室から取っていきましたからね、」

先輩妹「何処ぞにある隠しカメラから見られていたことでしょう。貴女はなすすべもなく、その結果の映像を眺めていたことでしょうけどね」

金髪「うんうん。結果的に何がいいたいのかな、アンタは結局そんなことをアタシに言ってなにがしたいワケ?」

先輩妹「ことは単純明快です、貴女は占いやら何やら言っておりますが──種を明かせば隠しカメラと盗聴器具のオンパレード」

金髪「…昨日の天気のことは?」

先輩妹「窓の外に写った映像を見て判断したんでしょう。屋上に一つ仕掛けてますよね」

金髪「カードの絵柄を当てたのは?」

先輩妹「私と初めてであった時、貴女廊下に座り込んでましたけど…何を仕込んでたんですか? カメラの調子を確かめていたんですか?」

金髪「ふふふ、うんうんっ」

先輩妹「貴女が私に言った二つの占いの予言──それであっても説明は着く、第四講義室にも漏れ無く仕掛けているから──」

先輩妹「あれほどまで断言が出来たんですよね? 違いますか、違うなら違うと言い切ってみてくださいよ」

金髪「……───」

金髪「──アーッハハハハ! いいねぇーいいわよぉーすっごくイイ!」パチパチパチ

先輩妹「……」

金髪「うんうん! 素敵ね、たった数日でここまで見破られちゃうなんて、ホントに驚いてびっくりぎょうてんよ」パチパチ…

先輩妹「…なんです、それ? その態度凄く気に喰わないんですけど」

金髪「え? そお? こっちはすなおーに貴女の頑張りを心の奥底から賞賛してるっていうのにぃ」

先輩妹「貴女は…」

金髪「うん、で? 結局それで何の意味があるワケ?」

金髪「盗聴器仕掛けてました。監視カメラ仕掛けてました」

金髪「んで? この二つを見破ってアンタに何の得があるってワケ? つまるところ──」

金髪「──あたしに何の罪があるってワケ?」

先輩妹「この事実を教師又は、ネットを介して、」

金髪「証拠は?」

先輩妹「……。これがあります」ヒョイ

金髪「あーそれねそれ、占い同好会で拾った盗聴器だっけ? 確かに証拠になるわねぇ…でもさぁ?」

先輩妹(そう…その通り、)

金髪「【それってあたしの持ち物じゃないと言い切ったら、証拠にならないじゃあなーい?】」

先輩妹「…しかし貴女が所属している部活に会ったものですよ」

金髪「前の部室は『アマチュア無線部』なんだけど? 回収し忘れって可能性は否定出来ないけど?」

先輩妹「ならば貴女の物でもないという否定にもならないはずですが」

金髪「論点をずらしても無駄。そもそもあたしは盗聴器又は監視カメラについて──肯定はしてないわよ?」

先輩妹「っ……」

金髪「勿論、【アマチュア無線部の所有物の盗聴器&監視カメラ】のことね」ヒョイ


金髪「つまりは、ね。どうして【私の盗聴器】と【アマチュア無線部の盗聴器】が【二つ存在してる】と思わないわけ?」


先輩妹(──バレた、そう私が唯一懸念していた部分。無理矢理丸め込んで【アマチュア無線部の事件に巻き込もうとしたのに】、)

先輩妹(案外、盗聴器を【仕掛けている事自体はまだ罪じゃない】。言い方を変えると、証拠として抑えることが難しいためです)

先輩妹(実行中を抑えるか、仕掛けられた盗聴器自体を証拠品としてせしめるしか証明方法が無いから───)

先輩妹(──私は仕掛けられた盗聴器と監視カメラを見つけることができなかった、だから、占い同好会で無理矢理証拠品を探したに過ぎない)

先輩妹(そう、しかし、けれど)

金髪「そうよね、つまりは今あたしが発言した内容を録音し、それを証拠に教師へ訴えれば事なきを得るってすんぽー?」クスクス

先輩妹「……」

金髪「それもまたダメよねぇ? だって今のいままでの会話じゃあ結局は『疑いの範疇』は超えられてないもの」

金髪「あ。それに今も録音しちゃってたりしてる? フフフ、じゃあちゃーんと撮っておきなさいよね、じゃないと後でどう都合のいいよう編集されたか────」



ピッ


金髪「『こっちの録音機』と間違え探しになっちゃうもの。素直に撮っておきなさいよね、逆に立場悪くなっちゃうわよん?」ニコ

先輩妹「……」

金髪「はてさてアンタの頑張りは素晴らしい物だった、それは本当よ認めてあげる」

金髪「今のあたしは大部分のところを責められて、追い詰められて、逃げられなくなってきてる」

金髪「まるでそれは、うん、運命みたいじゃあなぁい? どうしてもやりたいことがあるのに──結局は運命ってコトバで片付けられちゃって」

金髪「今のアタシみたいに余裕というものを軒並み奪われちゃってる」ニヤニヤ

先輩妹「……」

金髪「けど、そうね、けど、よ」


金髪「──あたしは絶対にその運命からは逃げられる、今現在を持って『アタシ以上に後が無い』アンタとは違ってね」

先輩妹「…私は」

金髪「ええ、そうよ。ちゃーんとアタシを追い詰められてる、けれどココまでだった」

先輩妹「…きちんと答えてくださるんですね」

金髪「頑張りを評価してるって言ったじゃない。それに、フェアって言葉がスキって言ったでしょ?」

先輩妹「フェア…そうですか、フェアですね」

金髪「うんうんうん、だっからアンタの頑張りを評価しつつぅー? それに対してあたしがもっーと深い問題を提供しちゃうってワケ」

金髪「あーははは、いいわねぇこれって。じゃあ一緒にもっとドツボにはまっていきましょ?」

金髪「もっとアタシのことを見て。もっとアタシの謎を解いて。もっとアタシの粗を探して」

金髪「もっとも大事なことを見失うほど、もっとも大切なことを忘れるほど、もっとも重要なことを聞き逃すほどに」

先輩妹「…気持ち悪いですね、そのテンション」

金髪「うふふ、ごもとっともな意見どーもありがとー」ニコニコ

先輩妹「……」ピッ

金髪「あら? ここまでいいのかしら? 録音のほうは?」

先輩妹「良いんです、貴女が言った通り録音自体は無意味だと私も思いますし」


先輩妹「【そもそも録音なんて無価値なことするつもりもこれっぽちもありませんでしたし】」


金髪「……。なぁに?」

先輩妹「え? 聞こえませんでした? ……もう一度言ってあげましょうか、そういうのなら」

先輩妹「それはどういうつもりで言ったんですか」

金髪「ええ、勿論そういうつもりよ。ちゃーんとアタシを追い詰められてる、けれどココまでだっただけ」

先輩妹「…きちんと答えてくださるんですね」

金髪「頑張りを評価してるって言ったじゃない。それに、フェアって言葉がスキって言ったでしょ?」

先輩妹「フェア…そうですか、フェアですね」

金髪「うんうんうん、だっからアンタの頑張りを評価しつつぅー? それに対してあたしがもっーと深い問題を提供しちゃうってワケ」

金髪「あーははは、いいわねぇこれって。じゃあ一緒にもっとドツボにはまっていきましょ?」

金髪「もっとアタシのことを見て。もっとアタシの謎を解いて。もっとアタシの粗を探して」

金髪「もっとも大事なことを見失うほど、もっとも大切なことを忘れるほど、もっとも重要なことを聞き逃すほどに」

先輩妹「…気持ち悪いですね、そのテンション」

金髪「うふふ、ごもっともな意見どーもありがとー」ニコニコ

先輩妹「……」ピッ

金髪「あら? ここまでいいのかしら? 録音のほうは?」

先輩妹「良いんです、貴女が言った通り録音自体は無意味だと私も思いますし」


先輩妹「【そもそも録音なんて無価値なことするつもりもこれっぽちもありませんでしたし】」


金髪「……。なぁに?」

先輩妹「え? 聞こえませんでした? ……もう一度言ってあげましょうか、そういうのなら」

先輩妹「はなから録音なんてしてませんし、貴女が誤魔化しに入ることも予測の範囲内です」

先輩妹「疑問点を残しつつ、難問を解けるものだと最初から決めつけてかかるほど───」

先輩妹「──今の私は甘くはありません、ですのでキチンと予備というか、なんというか」


チラリ


先輩妹「切り札を用意しておきました。ええ、ちゃんとしっかりと」

金髪「っ……」クルッ


「──実に面白い話だったな、ああ、なんていうかよ」


同級生「特にお前がオレに対して切り札なんてカッコイイ言葉を残してくれる部分が最高に笑えるわ」

金髪「…アンタ、誰」

同級生「はぁ? お前こそ誰だよ、勝手に喋りかけてくるんじゃねえっつの」

先輩妹「とりあえず切り札という言葉に、特に他意は有りませんしあり得ません」

同級生「ハッ、相も変わらず素っ気ない家畜以下の飼い猫かぶりか」

先輩妹「…飼い猫かぶり?」

同級生「あーはいはい一々噛み付いてくんなって、面倒臭えから。お前も口を閉じとけ、あ、そっちの金髪は口開いていい」

同級生「今からオレがいうことに全部答えてもらう、誤魔化すなよ、全部だ」


金髪「…いきなり現れていきなりなんなの? アンタこそ今この場所において邪魔でしかないんだけど?」

同級生「ほれ、コレ見てみろ」スッ

金髪「…なにそれ、携帯…?」

同級生「あーもしもしー?」プルル ガチャ

先輩妹「もしもし、ゲイ変態強姦魔野郎ですか?」

同級生「おい」

金髪「っ…!? そ、それって…」

先輩妹「はい、そのとおりです金髪さん。始めから録音機能なんて使ってません、元より通常の機能として使わせて頂きました」

先輩妹「この携帯電話。そこの男子生徒に先程まで──貴女が流暢と語っていただいた全てを、聞いてもらっていたわけなんですよ」

金髪「…、それがなんだっていうワケ?」

同級生「ハァー? ハッ! ハハッ! オイオイオイオイオイ!」

金髪「うっ…」

同級生「テメー今、それがなんだとか、言ったのか?」

金髪「な、なにがよ…っ」

同級生「お前、第四講義室に盗聴器と監視カメラ仕掛けてるのは本当か」

金髪「そ、そんなワケッ……だから確証があるわけじゃあ無いって、聞いてたのなら…!」

同級生「じゃあどうして言い当てた、コイツが講義室にいかないほうが良いと、どうしてだ?」

金髪「…っ…」

同級生「答えろ。三秒以内に答えないのなら──そうだな、【試しに退学に出来るかやってみるわ】」



金髪「た、退学…? そ、そんな権限がアンタにあるわけ…!?」

同級生「やるよけど?」

金髪「な、に?」

同級生「やるって言ったらやるんだけど?」

同級生「教師に噂を騙り、人間関係に脅しを入れて疎遠にし、両親の社会的舞台をコネで略奪して」

同級生「少しずつ少しずつお前の立場を地の底に沈めていく。お前がオレという存在が脅威に感じないぐらいほどに、少しずつ、じわじわと」

同級生「大丈夫か? お前が今日食べるはずだった弁当の中身は、既にお前が買ってるペットの唐翌揚げかもしれない」

同級生「…昼休みが終わって体育が始まった時、体操服は一体どこにあるだろうな?」

同級生「悩みを吐きに教師へと相談しようにも、お前の呼びに教師は誰も反応しないかもしれない」

同級生「いずれ訪れた結果に気づき、もがき苦しみ許しを請い額を地面に擦り付けようとも、」

同級生「出来る全てをを掛けて全力でやる。ホコリと水だけを食べ生きる生活ぐらい程度に全てを壊してやるよ」

同級生「大丈夫だって、心配するな。お前がもし仮にそんなことでもめげない頑張り屋でも、平気平気」

同級生「──折れない心の糧となる支えとなるモノを暴きだして、頭から逆さまにドブ川にぶち込んでやる」

同級生「オレは、やる。やると言ったら絶対にやる、ぜったいにだ」

同級生「さあ教えろ、教えたくなくても、全てを話せ」

同級生「あぁ、そうそう。この会話を録音してたりするか?」

同級生「──だったら一生オレの言葉は忘れられないな、だったら覚えとけ、これからいうことは大切なことだ今後一生の糧としろ」


同級生「オレはお前を殺さない程度に殺してやる」

金髪「……は、な、にそれ…」

同級生「あ、すまん。オレが三秒以上喋っちまった、オレが約束守らないでどーすんだよなあ?」チラッ

先輩妹「え、ええ…そうですね、ハイ」

同級生「まぁいい。きっとお前みたいな奴はこれだけ脅しても伝わらないだろうし、結局は口を割らない」

金髪「……」

同級生「そんな眼をしてる。くっく、わかってるって、ここまで脅して対策をねらない奴でもないんだろ?」

同級生「だからもう済ませた」ピッ

先輩妹「…一体何を?」

同級生「クビにした」

先輩妹「えっ?」

同級生「コイツの父親の仕事の上司に掛け合ってクビにした」

同級生「正確には今現在を持って書類審査及びに、退職金が発生しない不支給条項をプラスして懲戒解雇として選考中」

同級生「それについては端から加えるのはちと難儀だが、むしろ真っ黒犯罪だが、くっく、上司もまたクビにされたくないだろうしな」

同級生「ああ、別にすぐさまクビにされるわけじゃあねーよ? 軽く一年ぐらい務めてもらって、月の給料を天引きしつつ、」

同級生「会社での立場及び権限を略奪し、会社の金の横領疑惑を流し、地盤を固めていく」

同級生「ああ、今年の一年はお前の両親にとって…最高の一年になるだろうな…無論、お前も含めてだ…」

同級生「最高ッ! だよ、お前が苦しみ悶える姿が目に浮かぶようだ…………」


同級生「で? どうだった? 話す気になったか?」

金髪「…ほ、本当にクビに、なったの…?」

同級生「おいおいおいおい、ちょっと待て、答えになってないけど? 聞いてるオレに対してなに質問で返してるわけ?」

同級生「まだ脅しが足りないってか。じゃあ次にお前の母親の方に対して、まずは母方の両親が入院してる───」

先輩妹「ま、待ってくださいっ」

同級生「口を開くなって言っただろ」

先輩妹「いいから少し、落ち着いてください。…脅すにも冗談が過ぎます」

同級生「あ? オレが嘘をついてると思ってんのか?…嫌な言い方になるが、父親繋がりは相当だぞ」

先輩妹「貴女がどのようなコネと繋がりを持っているかは把握しきれてません、しかし、」

同級生「──たかがそれだけで、なんて言ったらただじゃ済まさねえよ」

先輩妹「…っ」

同級生「二度目はない。もう一度いう、お前の二度目はない。土下座で済んで良かったと今更ながら状況を把握しろ」

同級生「だからもう一回だけ優しいオレはお前に言ってやる──口を開くな、開いた途端、お前の大切なモノを全てを壊す」

先輩妹「…駄目です、やらせません」

同級生「……」

先輩妹「…そこまでです、それにもし仮にきちんと彼女が、盗聴器のことを認めたのであれば──」

先輩妹「───クビの件も無かったことにしてください。じゃなければ、私はバラします。貴方の秘密を世間に洗いざらい言い放ちます」

先輩妹「どんなに脅されようが、壊されようが、私は絶対にそうしてみせます」

同級生「…テメーがオレをけしかけたんだぞ」

先輩妹「身勝手な事を言ってるのは承知のうえですよ。ですが、良いんですか。今の貴方は……あの人にとって良いものなんですか?

同級生「…語るじゃねえか」

先輩妹「飼い猫かぶり、ですからね。これでもやるべきことと、だめなことぐらいは判別付きますよ」

同級生「チッ、同情しやがって…」スッ

金髪「………」

先輩妹「いいですか、金髪さん。貴方は非常にまずい立場にいることはわかっていらっしゃいますよね、これが嘘でもなく冗談でもなく」

先輩妹「貴方が言った通り、実に私達は後に引けな状況なんですよ」

金髪「……」

先輩妹「私はある目的のために頑張っています。それは、貴女にとって認められないことなのかもしれない」

先輩妹「けれど貴女もまたこの生活を守りたいという目的──すなわち維持欲があるのなら、どうか素直にお答えになってください」


ピッ


先輩妹「一個人で盗聴器および監視カメラを所持し、そして、それを第四講義室及び校舎内に仕掛けたことを認めますか?」

金髪「───…………」




世界が大好きだ。

こんな冷たく苦しい世界であっても、心の底から愛してやまない。

金髪「…は…」


だって愛さなければならないほどに、胸が苦しくて張り裂けそうなぐらい思いを募らせてる、


金髪「…はは…」


──この非道な運命を待ち望んでいたのだから。



金髪「アハハハハハハハハハハ!! さいっこぉぉおおおおおじゃないの、ほんっとにぃいいいいいいいいい!!」バタバタバタバタ



先輩妹「ぇ…っ」

金髪「あっはっはっはっ!! はぁーあ! ほんっといつまでたっても運命ってアタシに対して冷たすぎぃ! もうもうもうもう! 冷たすぎ!」

金髪「さいこーぉ…マジさいこーぉ…ぞくぞくちゃう、なんでこうもうまくいかないのっ? 失敗するのっ? なんでなんでなんでっ?」

金髪「あ、そっかぁ~…そうだったわぁ…だってだってぇ~【こんな運命になるって占いで分かったから】、【わざわざ幼馴染先輩のこと調べたんだもんねっ!】」


同級生「…お前、頭オカシイのかよ」

金髪「よく言う。あれだけ必死にアタシのことキチガイみたいに脅したくせに、んもう、がっつき過ぎ。すぐにパパのことクビにするなんて」

同級生「…、なんだその言い方」

金髪「あれ? まるで最初からクビになること知ってたみたいな? 感じ?」

金髪「うん。知ってた、占いで知ってたから」

同級生「なに…?」

金髪「じゃあぶっちゃけまぁす。ごめんなさい、最初からなーんにもまってないの。本当に、ホントよ」

金髪「盗聴器と監視カメラなんてひとっつも持ってないの。始めからそんな機材持ってません」

同級生「…嘘をつくな、だったら」

金髪「占い」

同級生「…」

金髪「占ったの。この娘のことを今日の一日の運勢をトランプで占っただけ、たったそれだけ」

金髪「だからその第四講義室で一体全体アンタがどんな困ることをヤッてたかは全くもって知らないし全然興味もないけれど───」

金髪「──ただ、それだけって話。だから許してくれる? アタシのパパだってクビにされたら可愛そうじゃない、うん、きっとそう」

金髪「ま、アタシの貯金が軽く億超えてるから養っているけど」

同級生「お、億…!?」

金髪「うん。そりゃーそーでしょ? だって占ったらなんでもわかっちゃうのに、ギャンブルしないわけいかないじゃない?」

金髪「それとなーく援助しつつぅ? 頑張ってパパの社会復帰を頑張らせて頂こうと思います!」

同級生「ま、待て待て待て…おい、意味がわからねえ、本当にお前頭がおかしいだろ?」

金髪「そお?」

同級生「言い訳にもなってねーよッ…お前、本気でオレを怒らせてーのか…ッ?」

金髪「いいよ、どんどん怒って! どんどんアタシを不幸にさせて!」

同級生「……」ゾクッ

金髪「早くはやくはやく! …駄目?」

同級生「……っ」ゾク

先輩妹「…貴女は一体なにを言ってるんですか、一体全体、本当に何を…」

金髪「だから、事実だってば。嘘偽り一切なくてたった一つの真実をいってるだけよ」


金髪「アタシの占いは【本当に当たる】。どんな未来だって過去だって──現在だってわかっちゃう」


先輩妹「そん、なこと、だったら」

金髪「実に面白かったわよ」クスクス

金髪「──アンタがしょうもないブラフに引っかかって、一生懸命にアタシのことを追い詰めようとしてる姿」

金髪「モチロン? 盗聴器隠しカメラは一切合切持ってないし? そもそもアタシあの部室が以前にアマチュア無線部なんて知らなかったし?」

先輩妹「っ…!?」

金髪「あはは。ははっ、うんうん、これぞ強者って奴よねぇ~すっごく快感、その表情とっても素敵、だーいすきよ!あなたっ!」

金髪「そ・れ・に? んふふ、どこぞの知らぬ先輩さん? 貴方もとーっても大好きですよ、こんなにも…こんなにも…」



 ゾクゾクゾク…ッ


金髪「あたしのことぉ…いっぱいっぱい不幸にしてくれてぇ…くふふ! うふふ! あはははははははは!!」

同級生「お前…」

金髪「でももっと欲しい、欲して、欲しくて、欲望に溺れたい」

金髪「──見て、もっと見て、あたしのことを」

金髪「どんな人間か人格か人生か見て聞いて触って知って感じてください」

金髪「アタシはアナタにとって最良で最高の──最悪で最低な人間になりますから」


シャラララララ ぱしん


金髪「…試しに? 貴方がもし抱えているのであれば『重大な悩み』すらも、何時、解決するか占ってみせましょうか?」

金髪「あなたがどんなどりょくをしてがんばりをみせてかいけつするのかそのじかんをすべておしえましょうか」

すっ…

同級生「ッ…やめろ、触るなッ!」バッ


 ヒラリヒラリ… パサ


金髪「──……」

同級生「なん、なんだよお前…お前ッ…ふざけるな! オレが聞きたいのはンナことじゃねぇ…!!」

金髪「『恋』は叶いませんよ、先輩」

同級生「占いなんてモンをオレが信じ───なに…?」

金髪「スペードのエース…貴方の恋、絶対に叶いません。これからも、いままでも、それに『今』も」ヒョイ

金髪「貴方は一生報われない。このままずっと幸せにならずに。そのまま独りで一人のまま──」

金髪「──その傷を背負って生き続ける、それが答えです」

同級生「……なん、だよそれ…」

金髪「あはっ! 信用しますかっ? しちゃってますかっ? …どっちでも構いませんよ、あたしにとっては」

金髪「気になるのならもっとあたしを知ろうとしてくださいよ、何時かは答えにたどり着くかもしれない」

金髪「気にならないのならあたしのことを無視してください、何時かは答えにたどり着くかも、しれない」

同級生「………」ギリッ

金髪「何時だって運命は変わらない。唯一無二、人が人で生きるのであれば無視できない絶対的支配力」

金髪「それを観察できるあたしは、見ることが出来るあたしは、もう、怖いものなんてありはしない」


くるっ


金髪「だからね? 可愛い可愛い妹さん?」

先輩妹「っ…なんですか」

金髪「明日土曜日、中央公園に二人を呼び出したわ」

先輩妹「二人…?」

金髪「モチロン幼馴染先輩と貴女のお兄さん。その二人を公園に呼び出して、一体何をするって思う?」

先輩妹「……」

金髪「『貴女が抱えている全てをぶち撒ける』。たったそれだけ、それ以外なにも言わないわ」

先輩妹「そんなことを言って、どうするんですか」

金髪「どーもしないわよ? どうかするのは貴女の方でしょう?」

先輩妹「っ……」

金髪「貴女が抱えた闇はあたしにとって、なーんら関係無いものだもの。うん、それを知られて困るのは……貴女だけ」

金髪「タイムリミットは明日の昼、十二時丁度よ。ほら、これでもっとあたしのこと知りたくなったでしょ?」

金髪「あたしに出会ったその時から、貴女の視界には今、何が写ってる?」

先輩妹「……」

金髪「今、一瞬、刹那の時を惜しむぐらいに見ておきたい。そんな大切で純粋無欠な『モノ』じゃあなくって───」

金髪「──今、今、この時、そしてこれからも『アタシ』なんだから」


スッ


金髪「んふふ、言いたいことはこれだけかしら? ではでは、それじゃーまったねー!」フリフリ



先輩妹「ぁ…」

先輩妹「…なにをして、私は、結局はあのヒトに踊らされて…居ただけ…?」



ガン!!!



先輩妹「ひっ!?」ビクゥ

同級生「はぁっ…はぁっ…」

先輩妹「あ、あのその…同級生さん…?」

同級生「──見誤ったっ…クソクソッ…もっと違ったことをやれたはずなのによ…ッ」

先輩妹「…どういうことですか」

同級生「たまに、いるんだよ。ああいった奴……なんでもかんでも、自分に意識が向いてることに快感を覚えるって奴」

先輩妹「快感を覚える…」

同級生「いわゆる、超絶うぜーかまってちゃんの強化版…みたいなのだ」

先輩妹「それが、あの人の行動原理ってことですか?」

同級生「んなもん知るかよッ! オレは! オレが知っておきたいのはアイツが…ッ!」

同級生「…アイツが、男の障害になるかどうかだけだ………」

ギリ

同級生「たった、それだけ、だ」ギュッ

先輩妹「………」

同級生「好き勝手言いやがって…クソがッ…[ピーーー]、この世にチリ一つとして生きてきた証を残さず殺してやる…ッ」

先輩妹「──……」



同級生さんの怒りは、まるでオーラのように身体から漂い。
それは彼自身がずっと身に抱えるだろう──これからの行動原理足りえる程に思えました。


否定したかったに違いありません。
彼女が告げた一つの占い結果。


それは、もっとも彼が聞きたくなかったであろう答えであって。

それは、一番良く彼が聞きなれるはずであろう答えでもあって。


今、ここで、誰でもない信用する価値もない人間に告げられたことが──なによりも、彼の怒りの原因であるのでしょう。

先輩妹「……」

けれど対照的に、私の心は冷えきっていました。

私が隠し続けていたものと、これからやろうとしている『破壊行為』。

その事実が今、現在を持って知らされようとしている。


タイムリミットは明日の十二時。


そこで私の人生は終りを迎える。生きる希望を全て奪われてしまう。

あの人が、この世で一番大事な人からの──最悪な言葉を、言われて。しまう。


きっとこれは天罰なのだろう、私はやりすぎてしまったんだ。

叶わない恋なんて始めから望まないでおけばよかった。そうすればきっと今よりはずっと、


──あの人の側で笑っていられたはずだったのに。



先輩妹「っ」



                    なんて『思う私は馬鹿なんだろう』。



先輩妹「だっぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっ!!!!!!!!!」

喉の奥から迸る、絶叫。
                身体中の血管が沸騰する。
   血肉が湧き踊り狂い。


先輩妹「だはぁっ…!! がはぁッ…!!」


無理矢理にでも覚醒、捨て去る弱音弱気弱小な言葉達。


   すべて すべて すべて吐き出す。


もう無理だ死にたい。大丈夫生きろ

嫌われるきっと私は嫌われる。間に合うきっと私は間に合う。

お姉様大好き超大好き。お姉様大好き超大好き。


先輩妹「おっけー……」


スドン、と足を踏み鳴らす。気合は十分、さて、私は何をすればいい?


同級生「お、お前……大丈夫か…?」

先輩妹「同級生さん」


私はハッキリと答える。もう迷いなんて無い。



先輩妹「勝ちますよ、私は絶対にあの人をコテンパンに叩きのめします」

同級生「叩きのめすって、オイ、一体お前は何を言ってるんだ…?」

先輩妹「なんか勝てそうなんですよね。ごめんなさい、全っ然まったくもって理由も根拠も──」

先輩妹「──これぽっちもありません。ただの虚言にしか過ぎないかもしれません、妄言以下の戯言にも見たないかもしれません」


が、


先輩妹「勝ちます。泣かします。これでもかってぐらいに、あのおはようハッピーな髪色占いババアを、」

先輩妹「ぎったんぎったんのチリ一つ傲慢な態度を残さず、人して持ちえる全ての自信を剥ぎとって、」

先輩妹「──アイツに謝らさせます、今回のことを全て洗いざらい謝罪尽くさせてやります」


同級生「…威勢だけは良いな」

先輩妹「わかりきってます。けど、やるしかない。やらなくちゃいけない」


そう望まれている。
            金髪占いババアに、それは、どこか、挑まれているに近い気がした。


先輩妹「壊してやるんですよ。どんな手だって何だって手繰り寄せて、明日の昼までに、全ての準備を終わらせます」


スタスタスタ


先輩妹「私はきっと既に何かを掴んでる。だから、こうやって前へと進めるんだ」


それはただの言い聞かせだ。そんなの一つ足りとも、思い当たるフシなんて無い。


先輩妹「…ハンッ! とっくにこっちも、全部壊すつもりでいるんだっつーの」

だったら面と向かってノーガードの殴り合いだ。

壊すつもりならこっちもアンタを壊すまで。

恥も外聞もない、私個人で個人の力を出し切って立ち向かうだけだ。



先輩妹「待ってろ、占いババア」



そうやって私は本当の悪魔のように、笑ってみせるのだ。




~~~~~


先輩妹「聞かせてください」

『──うん、突然電話してきて、突然何を言い出すのかな…?』

先輩妹「私、すっごく追い詰められています。マジでこのまま家に帰らず逃避行のたびに出そうなぐらいに」

『あ、うん。それでどうして僕の所に電話を? 助けはいらなかったはずじゃあ無かったのかな?』

先輩妹「助けたいんですか?」

『うん?』

先輩妹「貴方はどうやら困って困って困りすぎている、そんな少し身近な後輩が漏らしたたった一つの弱みに、」

先輩妹「そんな親身なってお答えにしてくださる、そんなお優しい方なんですか?」

『………』

先輩妹「お応えください。私はただ愚痴を零しただけです、貴方は何をそうも助けたいと思っているんですか?」

『…困った、少し、言葉を選ぶよ』

先輩妹「どうぞ」

『君が電話してきた時点で、ある程度の覚悟を決めたってことぐらい分かるべきだったね』

先輩妹「……」

『ならご期待にそえるよう──君が抱えるべきことを、ただひとつ、なんら優しい先輩なんて身分を…』

『…惜しみなく、最大限に、最上限に、遺憾なく出しきって答えるつもりだ』

先輩妹「ありがとうございます、先輩さん」

『ああ、良いよ。僕は本当に優しい先輩なんて思ってないけれど……むしろ間逆な人間だと思っているけれど』

『この場合、望まれているのならやり通すべきだと、僕は判断した。どんと答えてあげるよ、恥も外聞もなく相談してくれていい』

先輩妹「先輩さん」

『なにかな?』

先輩妹「…泣いてもいいですか?」

『困った。そうなると電話で会話なんて……今君はどこに居るの?』

先輩妹「ぐすっ、駅前のっ……いや、ごめんなさい、やっぱりいいです」

『…九時過ぎか、僕は平気だよ?』

先輩妹「気持ちは有り難いんですが、私が、だめです、ごめんなさい」

『…わかった、それなら電話で会話を続けよう、うん、さてさて、一体全体どんな相談かな』

先輩妹「…占い」

『占い?』

先輩妹「いえ、ひとつ思い出したことがあるんですが──成功と失敗の話は覚えてますか?」

『ああ、うん。数日前にババ抜きをやった時のことだよね』

先輩妹「はい。先輩さんは仰ってました、」




『成功した時の経験よりも、失敗した時の経験のほうが、人間的に強いってことだよ

まぁ今後に続けるため参考となる、つまりは挑戦思考からの心境変化には成功経験のほうがずっとプラスなことには変わりないのだけれど─

──でも、それじゃあ続かない。きっと失敗が来る。きっと終りが来る。そして終わりに対応できない。そして失敗に対応できない』



『言ったね、それが?』

先輩妹「もし仮に【失敗することがない】ということになった場合、どうなりますか?」

『つまり、それは、えっとー……』

『…必ず絶対に、イカサマではなくて本当に成功し続けるということ?』

先輩妹「まぁ、そのとおりです。ある意味イカサマではあるんですが、そも本当にあるのかわかりませんが…」

『ん。まぁファンタジーな話だけれども、仮定して本当に失敗なく成功だけを歩めるというのであれば、それは、』

先輩妹「それは?」

『……』

先輩妹「先輩さん? どうかしましたか?」

『僕個人の意見を始めに言わせてもらってもいいかな』

先輩妹「…お好きにどうぞ、私は静かに聞いてます」

『ありがとう。それはきっと、どうしようもなく可哀想だと僕は思う』

先輩妹「可哀想、ですか」

『うん。思うに妹さん、成功の定義とは何だと思う?』

先輩妹「あーえっと、嬉しいコトといいますか、願っていたことがかなったことですかね」

『じゃあその逆は?』

先輩妹「…叶わない時です?」

『そうだろうね、きっと普通の人はそう思うはずだよ。だって失敗があるから、成功があるんだ』

『失敗を経験して、成功のありがたみを理解する。失敗を得るからこそ、成功を得ることが出来る』

先輩妹「……」

『でも、人は他人でも学習はできる。失敗しなくとも、失敗した人を見て、自分は成功してるんだなって思える事もできるんだよね』

先輩妹「まぁ、そうでしょうね。望むのならそれが一番の『失敗経験』じゃないでしょうか」

『本当にそうかな?』

先輩妹「えっ?」

『他人の失敗を見て、聞いて、知って、憶えることが一番の『失敗経験』なのかな?』

『僕は違うと思うよ。いや、ただの妄想にすぎないし、本当に成功し続ける人がいるのならの話だけど──でも、きっとその人物は、』


『自分より恵まれている人を見た時、きっと狂ってしまうだろうと思う』

先輩妹「…何故ですか?」

『成功の連続化。それは誰しも喜ぶべき、望むべき、最高の人生だと思うよね』

『でも、成功だと思う人はそれでも『人』なんだ。観察者は何時だって人なんだよ』

『機械や神様が、コイツは凄いやつだっていってくれるわけじゃなく……』

『……何処まで突き詰めても、結局は人の感性にしか過ぎない、だから、そこから綻びが生じると思う』

先輩妹「つまりは…」

『うん。成功をし続けて、自分は誰よりも幸せだ──なんて思っているはずなのに、そんな人生を持っているはずなのに』


『それでも自分の幸福よりも、もっと幸福に満ち溢れた人間が『居た』とわかってしまったら、それはもはや恐怖どころの話じゃないよ』


先輩妹「…割り切れないものなんですか、あーそんな人も居るんだなあなんて」

『ムリだろうね。だって答えを知っているのなら、全ての顛末を知り得ているのなら、神様だって名乗っていいぐらいだろうけども』

『結局は人なんだ。人は脆いものだと僕は思う、たった些細なことでも、その全能感にひびが入る……じゃあないかな? う、うん』

先輩妹「先輩さん?」

『いやいや、ごめんね。なんだか知ったような口ぶりに自分自身、少し寒気がして』

先輩妹「いいんですよ、こちとらジュース片手に先輩さんの話を聞いてますから」

『君は本当に強い子だね、うん』

先輩妹「話はそれましたが、結局は、人だからこそ他人の幸せが気になって気になって仕方ない。っていうことです?」

『絶対的な幸運だと自負している人間が、だね。そうなると、その人物が行き当たる『答え』は何だと思う?』

先輩妹「己より上回る幸運を持つ人間の、違い、答えですか?」

『そうだよ』

先輩妹「…失敗ですか」

『当たり。自分には無くて相手にはあるもの、生きてきた人生の中で唯一人として欠けている絶対的な経験則』

『本来、幼少期から得るべきだった失敗を、今の今まで経験してこなかった人物が───』

『──はたと、その重要性に気づいた時。ああ、想像だよ、きっとこれは妄想でしか無いんだけど……怖くて怖くて仕方ない、と思う』

先輩妹「それで、可愛そうだと…」

『それはね、壮絶なモノだと思うよ。例えばの話、この国の法律が変わって十六歳から軍にはいらないといけないとなった場合』

『僕らはそのような国があることを知っているけれど、知識として知っているけれど、いざ己の身に課せられるのだと分かったら、とっても嫌だと思うよね?』

先輩妹「…はい」

『この想像をはるかに超えるものだと思っていい。失敗が成功なんだ、一番自分が嫌悪していた『モノ』が答えなんだ』

『諦めたっていいんだろう。自分は他人とは違うものだと見切ったっていいんだろう』

『でも、駄目なんだ。人は人なんだよ、幸せでありたいと願い──さらなる欲望を得ようとすることは、果たして間違っていると言えるかな?』

先輩妹「とんだ強欲な感性ですけど…まぁわからないでもありません」

『うん、特に僕らはそうだといえるね。まぁこの話は置いとくとして──もし本当に、成功し続ける人がいたとして、失敗が成功だと気づいて、自分が更なる幸福を得ようと思うのであれば』


『狂ってる。間違いなく、その人物は幸福の権化だ』


先輩妹「…何とかできませんか」

『なんとか、とは?』

先輩妹「狂えるほど幸福を欲する事が、それが人としての性だとしても」

先輩妹「そこをなんとか押し切って、堕しきって、陥れることはできやしねーもんですかね?」

『若干、私怨が垣間見えるんだけど…まぁどうだろう、相手は幸福の権化であり、体現者でもあるから』

『見え透いた罠やイカサマなんてものは一切合切通用しないと思ったほうがいいだろうけども』

先輩妹「例え完璧な騙し合いでも無理なものは無理と」

『…一ついいかな?』

先輩妹「はい?」

『その成功し続けるファクターがきになるんだけど、なんなのかな』

先輩妹「うーんっと、まぁその……動作を行って、それから得られる結果が答えというか……」

『うんうん』

先輩妹「だから色々と厄介で、例え奪ったとしても、別のものを─────」




先輩妹「あ」



『うん? どうかした?』

先輩妹「……何か今、ひらめきそうに、なって」

『ほほー』

先輩妹「まだ…なにかひとつ…なんでしょう、どうしてコレがいいと思えたたんですか…? まだ、もうひとつだけ…………」

先輩妹(そも何故ひらめきの取っ掛かりになり得たのか…わけがわからない…そう、わからないんじゃなくって)

『わけがわからない』。

先輩妹(元より叶うはずのない、最初から最後まで答えを知っている相手に通用するはずなど、あり得ない方法)


けれど、それが確信に迫るまでの『答え』に思えて。


先輩妹「…………」

『なにやら一つ、完璧かつ神様になり得る相手に一泡吹かせる妙案を思いついたのかな』

先輩妹「わかり、ません。ただ何かもう一つだけ証拠…というよりも根拠が欲しい、感じです」

『いまいち自分自身で納得いってないのかな?』

先輩妹「…はい、その通りです」

『成る程ね。納得いかない理由は多分、『君だからこそ分かる答え』なんだからだと思うよ』

先輩妹「え…?」

『常識や価値観に囚われては見過ごす小さな矛盾。見た目通りに受け取っては君だからこそ失敗する。ただただ君自信が感じた想いを───』

『──素直に信じて、認めて、やり直すんだ』

先輩妹「信じ、認めて、やりなおす…」

『うん。これはね、僕が小学生から中学校まで続けていた『演劇の役』での僕の信条、もといやり方なんだ』

『演じる者自体はこの世には存在しないよね。架空の人物を、それまた過去の偉人達を請け負うのは、よくよく考えれば無理な話なんだ』

『けれど、それでも、自分たちは演じようとする』

『傷つき、想い、悲しみ、目標や心情を思う『人』を無理矢理にでも共感して、綺麗事も裏切りも、ダメだと思っても信じきる』

『素直に受け取るんだ。そして演じる者が経験することを、自分の中で認めきる』

『否定を拒否する。壁など無い、誰かが思い高まり人を殺そうが、うん、僕だって人を殺せることには違いない』

『十何年間培ってきた社会性や価値観を減少させ、十年間培ってきたマイノリティや感受性を増加させる』


『とっくに見えているはずだ、君には【最初から出会った時から既に、きっと問題を問題だと受け取る以前から】』


先輩妹「……」

『そんな答えを見過ごしてしまったのはきっと、君が認めきれていないからじゃないかな』

『だから、認めよう』





                     君の想いを、カタチとして。



  それがどんなに自分を傷つけようとも、血だらけになってくるしみもがいたとしても。



       君の想いを、武器として。




『…うん、どうかな? 何か少しでも参考になれば嬉しい限りなんだけどなぁ』

先輩妹「…少し考えます」

先輩妹(私はきっと見過ごしているんでしょう)


彼女が単なる敵だと思っている。


先輩妹(打倒するべき、鼻血ブーになるまで殴り倒して泥仕合上等の醜い醜態を晒してまで勝ち取るべきこと)


けれどそれは、本当の答えに行き着く際の邪魔でしかないのだ。


先輩妹(どうして強敵なんですか、考えろ、どうして敵わないと、考えろ、)

先輩妹(どうして嫌いなんですか、考えろ、どうして勝てないんですか、考えろ)



 どうして、どうして、どうして、どうして────










                        ───ああ、そっか、そんな単純なコトだったのか。



先輩妹「先輩さん」

『はい』

先輩妹「きっと、私は勝つんだと思います」

『うん、それで?』

先輩妹「どうしようもなくしょうもなく呆気無く、単純に私は幸福の権化の相手を泣かせられるのでしょう」

先輩妹「だから、ええ本当に──本当に『人』なんですよね、結局は」

『……』

先輩妹「さて、答えも根拠も出し抜く作戦も全くもって笑えるぐらいに、はっはっはー! 揃っちゃいましたんで」

先輩妹「先輩さん。ちょっと使わせてもらっていいですか?」

『モチロン。これで優しい先輩さんはお終いだ』

先輩妹「ええ当たり前でしょう、何言ってるんですか」

『うん、本当に君は強い子だよね。もう慰めの言葉は入らない、よね?』


先輩妹「ハッ! なーに言ってんですか、正気です? こちとら元より───」

先輩妹「──そんな心配する貴方自体が、作戦のうちですよ?」


『オーケー、肝に免じておくよ。さて君は、そんな僕に何を求めるんだい?』

先輩妹「一つだけです」


先輩妹「お姉様の電話番号、教えてください」


『その理由は?』

先輩妹「忘れてしまったんですか? なら優しくて立派でかしこい私が答えてあげましょうじゃあないですか」


先輩妹「──無論、お昼ごはんに誘うためですよ?」

日曜日 中央公園 時計台前ベンチ


金髪「フンフーン♪」

金髪「来て、くれるかしら? 来てくれないかしら、んふふ~♪」

金髪(きっと来るはずよね。貴女はだってそうなる運命なんだから、ね)


ザッ…


金髪「ほらぁ~? やっぱりぃ~?」チラリ

先輩妹「……」

金髪「待ってたわよ、ほんと待ちすぎちゃってくたびれちゃって死にそうだったわ、うんうん」

先輩妹「座っても?」

金髪「どうぞどうぞーそのための隣よ、貴女以外に座っていいはずが無いほどにね」

先輩妹「ありがとうございます」スッ

金髪「いいってことよぉ~」

先輩妹「…今の時間は十一時三十分ですね、あと残り時間は三十分」

金髪「貴女の人生が真っ逆さまになるまでのタイムリミットよ、わかる? わかってる?」

先輩妹「ええ、勿論。骨の髄まで理解していますよ」コクリ

金髪「そう、そうならよかったわ! で? で? んで? んでんでんで?」

金髪「──あたしになにかいうことはなにもないっ?」

先輩妹「………」

先輩妹「あると言えばあります、てーいうか沢山あって何から言えばいいのか、すこし、戸惑ってます」

金髪「そう、そうよね、大変よね。たっくさん言いたいことがあるなら我慢せずに言っちゃってくれていいのよ?」

金髪「でもまぁ、三十分のウチに、だけど」ニコニコ

先輩妹「そうですね。事は早急に終わらせるべきでしょうか、では早速ながら手始めに───」ガサゴソ

金髪「うんうんうんっ! なになになにっ?」



先輩妹「ババ抜きしましょう」カパッ



金髪「…えっ?」

先輩妹「えっ? もしかしてルール知りません? えっとですね、ジョーカーを一枚入れて他の数字が揃った時点で場に捨てるという、」

金髪「…知ってるわよ、それぐらい、なに? それ? どういう意味で言ってんの?」

先輩妹「ババ抜きをやりましょうと言ってるんですけど? 他に何かあるとでも?」

金髪「………」

先輩妹「無言は同意として受け取ります。ではこれを、既にシャッフル済みですので」すっ

金髪「…あんた、」

先輩妹「貴女の占いは本当に当たるのでしょう」シュッ


パサッ パサッ


先輩妹「私はその事実に恐怖しています。貴女は神だと語れるほど、そんな最高レベルで手強い相手です」

金髪「……、」

スッ パサリ パサリ

金髪「それがなに? 今頃認めても、あたしはいい気分になってやっぱやめたー! なんて言わないわよ」パサリ

先輩妹「それは残念です。私は貴女が怖いので、いえ、【そんな運命を語ることが出来る】貴女が怖いので」


パサッ パサッ


先輩妹「…私は許して欲しかったのですが」トントン

金髪「あっそ。けどあたしは許さないわよ、あんたがどれだけ反省しようが後悔しようが、あたしは絶対に見逃さないわ」


先輩妹「私が幼馴染先輩を好きだってことをですか?」


金髪「…、そうよ、それに」

先輩妹「幼馴染先輩と付き合っている…私の兄、その仲を壊そうとしていることも」

金髪「当たり前じゃない」

先輩妹「知ってるんですね、まあ当たり前ですよね。だって貴女の占いは絶対に必ず当たるから、隠し通しても貴女はきっと暴き出してしまうから」

先輩妹「そんな運命を観測できるから」

金髪「……」

先輩妹「ですよね? 金髪さん?」

金髪「あんたもしかして、まだ疑ってんの? 今自分が口に出せば、それを聞いてるあたしが占いの結果でわかった答えじゃないって言いたいがために、」

先輩妹「まさか。そんな子供じみた反抗なんてしませんよ、とっくに貴女の凄さは認めてると言ってるじゃないですか」

金髪「ならイイケド。つか、あんたも大した性格してるわーほんっと、なに? 怖くないわけ?」トントン

先輩妹「何がです?」

金髪「どうして来れたワケ? ここに、この場所に、まぁ来て欲しかったのは山々なんだけどさぁ…」

金髪「…もしかして、まだまだ何か出来るとか思っちゃってるワケ?」

先輩妹「どうでしょうか、望んでいらっしゃるのなら是非に叶えてあげたいのですけども」

金髪「べっつにーにひひ! べっつにーべっつにぃ~~??」シュッ

先輩妹「違うのなら否定してください」

金髪「んー? なにが?」パサリ

先輩妹「貴女は、これまでどんな人生を歩んできたのか気になるんです、だから」シュッ


  …パサリ


先輩妹「──今の貴女は幸せなんですか?」

金髪「……。幸せよ?」

先輩妹「本当に? コレほどまで私に恨まれているのに?」

金髪「恨んでるの? あっははーそれは知らなかったわぁー、なんだアンタってば怒ってたのね」パサリ

先輩妹「ええ、まあ」シュッ パサリ

金髪「じゃあ占いも認めたってことね」シュッ パサリ

先輩妹「三度も言いません」


金髪「──じゃあアンタの願いも叶わないってことも、認めるのね?」

先輩妹「…認めますよ」シュッ パサリ

金髪「そうなのぉ~へぇ~ふーん…」

先輩妹「占い、の結果ですもんね」

金髪「まあね」

先輩妹「………」


シュッ パサリ


金髪「あんたは救われないわよ」

先輩妹「……」

金髪「やってることが許されると思ってんの? なわけがない、そんなこと認められるわけがない」

金髪「例え神様とやらいたとして、あたしたちを影から全部まるっきりお見通しだったとして、」

金髪「それでもあんたの行いがスルーされてるって、言うんだったら。そう、あたしが変わって裁いてあげる」

先輩妹「…何でもお見通しですもんね」パサリ

金髪「そうよ、それがあたしなの。すべての事柄は全部全部、運命で片付けられる。それに──あたしが、あたしが、」


金髪「あたしがその運命を全部わかっちゃうから、あんたはあたしに【勝てやしない】のよ」


先輩妹「……」


シュッ パサリ パサリ パサリ パサリ パサリ…

先輩妹「ですね、私は貴女に勝てません。勝つと思うことすら痴がましい」

先輩妹「貴女が司る【運命】は、なんせ誰も勝つことは出来やしないから」

金髪「……」パサリ

先輩妹「……」シュッ



                               …パサリ





金髪「うっ~~~~~~~~んんん!! はい、オシマイね」

先輩妹「そうですね、これで終わりですね、仕方ありません」

金髪「そうそう、そうやって自分自身の立場を弁えなさい。それこそ、運命に従う人間の在り方ってモンよ」

先輩妹「……」

金髪「なにがしたかったのか、わっかないけどさ。これで納得しようっていうのなら、あっは、まぁいいじゃん?」

先輩妹「……」

金髪「これで後──十五分ぐらい? アンタの人生はひっくり返って、ぱんぱかぱーん、はい、おっしまーいってワケ」

先輩妹「……」

金髪「残念残念、これまた運命ってワケだからさーあ」



先輩妹「【なぜ負けたんですか?】」

金髪「…、」

金髪「えっなに?」チラリ

先輩妹「そうですか。なら、もう一度言いましょうか」



先輩妹「【何故】【どうして】【貴女は今ここで】──【ババ抜きで負けたんですか】?」



金髪「は、はあ? なにって、それは」

先輩妹「分からなかった、のですかね? それとも、占いの結果が【負ける】とでも出たんですか?」

先輩妹「それなら詳しく占って、元より、負けない方向のやりかたを占うべきでは無かったんですか?」

金髪「……、」

先輩妹「教えてください」

金髪「…は。別にこんぐらいの勝負事で、一々占う必用なんてないじゃん」

先輩妹「本当に?」

金髪「しつこいわね。そう言ってるでしょ」


先輩妹「ならもう一度やりましょうか」シャッシャッシャッ


金髪「……はぁっ!? なにいってんのアンタ、正気!?」

先輩妹「正気も何も、私は端から大真面目です」

金髪「…意味分かんないんだけど…っ?」

先輩妹「意味がわからないのはそちらの方でしょう、これもまた一つの勝負ですよ」

先輩妹「──勝手に身勝手に、私との勝負に茶番を仕込まないでください」

金髪「なん、なの…それ、なに、は、ははっ!? もしかしてあんた!? これでもう一度勝ったら、今までの事無しろとかそういうの言っちゃってる感じ!?」

先輩妹「馬鹿げてますね。理由としてはアホすぎるでしょうね、大丈夫ですので落ち着いて席についてください」

先輩妹「理由はちゃんと用意しています。だから、だからこそ、その理由に見合った貴女の本気を見たいんですよ」

金髪「…本気、って」

先輩妹「どうぞ占ってください。答えを最初から手に入れてください、元より真剣勝負すら茶番にしてしまう運命を出しておいてください」

先輩妹「…やってくださいよ、金髪さん」



先輩妹「もしかして──出来ないんですか?」



金髪「……────」

金髪「──良い度胸じゃないの…ッッ? えぇッ?」


先輩妹「……。どうぞ、このトランプをお使いになってください」スッ

金髪「好きなモノは」

先輩妹「…その質問の意味は何ですか?」

金髪「アンタの占いを詳しく知るために、質問して、る、のッ!」

先輩妹「昨日は同級生さん──上級生の人の占いを、聞かずに占ってたみたいですが?」

金髪「アレは大まかなものしか占えない奴なの、一ッ々ッ茶々を入れず答えなさいよッ!?」

先輩妹「申し訳ありません。では、占いは『運命に勝つことは出来るか』でお願いします」

金髪「…なによ、それ」

先輩妹「だってそうでしょう? 私がこれから貴女に勝つためには、それこそ運命に勝たなければいけないと同意義です」

先輩妹「結果として貴女がどう受け取るかも、そして『貴女が勝つためにはどうしたら良いのか』も分かるはずですが」

金髪「……好きなモノは」パシッ

先輩妹「芋の煮っころがし」

金髪「好きな天気は」パシッ パシッ

先輩妹「雨」

金髪「……、好きな人は」





     先輩妹「居ませんよね?」





「……、…………、……………、………………、」


「……………、………………………、…………………………、何を占わさせたの、今」


先輩妹「出たんですか、結果は?」


「………ふざ、ふざ、ふざけない、で………アンタ…………今、なんで、答えその、答え」

先輩妹「出たんですね? 占いの結果が、あの回答で出たんですね?」

金髪「…っ……っっ…あんた、なにを……!? して、こんな、ことっ!?」

先輩妹「そう怒らないでくださいよ」


先輩妹「だって、貴女の占いの結果が出ただけの話でしょう?」


金髪「っ!?」

先輩妹「案外、そこは単純というか曖昧なんですね。回答だけで占い先が変わるなんて、こちとら───」

先輩妹「──貴女が貴女を占わさせる様にするために、数百個と、言い訳やトリックを考えぬいて来たというのに」

金髪「あっ…がッ…ぐッ…!」

先輩妹「とーいうか? そもそも? …なぜ私が【そんな作戦を考えてきたことすら貴女にはわからなかったんですかね?】」

先輩妹「貴女はなーんだって知ってるはずなのに、あれもこれもそれもどれもぜんぶぜんぶぜぇえええええええええええんぶっ! まるっきり全て洗いざらい!!」

先輩妹「…貴女は? わかるはずなのに、どーしてだろ?」コテン



先輩妹「答えは単純で一つ、」


先輩妹「──お前、自分自身を占えないんだろ?」



金髪「…ぁ…んなワケ、ない…っ…!」

先輩妹「はいはい、では1つずつ証拠を言っていきますよ」

先輩妹「貴女の行動、または言動には些か矛盾点が存在しています」

先輩妹「些細なソレは、本当に一般人の私達では見破ることは困難だったでしょう」

先輩妹「しかし、今だからこそ貴女に言える」


先輩妹「──私だから、貴女を追い詰められるのだとね」


金髪「…っ…」

先輩妹「ゆっくりと時間を遡ってみましょうか、では一つ目ですが」

先輩妹「貴女があの、上級生さん。つまりは『同級生さんに父親をクビにされた時のリアクション』です」

先輩妹「…あの時の貴女って、何処か、心底驚いていらっしゃられませんでした?」

金髪「それはっ」

先輩妹「ええ、確かに【貴女はクビにされることは知っていた】、【占いで貴女の父親がクビにされることは端から理解していた】」

先輩妹「ことでしょうね、だって貴女は運命を観察することが出来るから」


先輩妹「──【自分】の運命ではなく、【父親】の運命を」


金髪「ぅっ…」

先輩妹「そう、そうなんですよね。考えてみれば私だって驚きます、だからあの時の貴女も驚いたんでしょう?」

先輩妹「──まさかこのタイミングで、在校生から、父親のクビを宣告されるとは思わなかったから」


先輩妹「占いで父親がクビにされることは【父親の運命】で知ってたけれど、知らされるのが学校の校舎内だったと【自分の運命】では知らなかったから」

先輩妹「まさか、一人の学生の独断ど権力で、自分の父親の社会的地位を覆されると…誰が予測できるでしょうか」

先輩妹「だから、貴女は【とてつもなく焦った】。このタイミングで発生した自分の運命に焦燥感に駆られて、貴女は口にしてしまった」

先輩妹「これは運命だとね。貴女は始めから父親がクビにされたとこは知っていたと口走り──」

先輩妹「──そして、貴女がもっとも『力を入れて対策として用意していた』…【あのこと】さえも含めて、運命だと言い切ってしまった」

先輩妹「盗聴器および監視カメラ。貴女、本当にそれは【嘘】だったんですか?」

金髪「…う、嘘だっていったじゃない…それはっ…嘘だって…!」

先輩妹「本当に『マチュア無線部』のことも、『盗聴器監視カメラ』も全て? 嘘だと?」

金髪「そうよっ! だからなにっ!?」

先輩妹「否定しないでくださいよ、自分の頑張りを。私は貴女の努力を、ただただ、認めてあげたいだけですよ」

先輩妹「フェアにね」

金髪「……!!」

先輩妹「そう、フェアにです。貴女にとってそれが重要、かつ一番懸念していることだった」

先輩妹「──運命ではなく、己の力で」

先輩妹「貴女もまた戦っていたんでしょう? 自分に降りかかる運命を否定するために、それはきっと、貴女の武器だったはずです」

先輩妹「貴女は自分を占えない。だから用意をした、見破られた際の『仮の答え』、『フェイク』を」


先輩妹「貴女は必死だった。私に勝ちたいがために、自分の実力で、自分の力で、個人の行動力で」


先輩妹「──けれど貴女はそれを、あの時全て否定した。焦り、戸惑い、今ここで起こった『失敗』に対処しようとして最悪な言葉を口にしてしまった」



『アタシの占いは【本当に当たる】。どんな未来だって過去だって──現在だってわかっちゃう』


先輩妹「…ふと思ったんです。あれ、だったらおかしいなって」

金髪「なに、がよ…」

先輩妹「全部です」

金髪「…全部…?」

先輩妹「初めてあった時から、そして昨日の件で飲まれていた私の思考は、そこで疑問に思ったんです」

先輩妹「最初から私は何か間違った捉え方をしてるんじゃないかって、貴女の驚異的な存在に、私は見落としていしまっているんじゃないかって」

金髪「なによ、それは」

先輩妹「簡単ですよ」



先輩妹「なんで私に勝負を挑んだんです?」


先輩妹「──私を占った結果が、答えが、【そもその願いは叶わないと知っているなら私に告げれば済む話なのに】」




先輩妹「【貴女はどうして『結果』ではなくて『勝負』を申し出てきたんですか?】」

先輩妹「【真剣勝負を元より茶番に変えてしまうほどの絶対的答えを、言わず、いえ……占わずに】」


先輩妹「それはきっと、貴女がどうにかしたかったらでしょう?」

金髪「…………、違」

先輩妹「否定させませんよ。それに、貴女はどうも誤魔化しに入っているようですけども」

先輩妹「そも【私が行おうとしている破壊行為、兄と幼馴染先輩との仲を壊そうとしている結果】、の【占い】は───」

先輩妹「はっきり仰っていませんよね? むしろ貴女はどこか有耶無耶に語っていたはずです」



『…うん、それじゃあちょっと可哀想かしら。あたしだけしってアンタだけが知らないってのも、ちょっと不便だし』


『あのね、さっきの占いは今日一日の占いだけじゃないの。これから先、アンタに待つ受ける運命を観測させてもらったワケ』


『だから、これからアンタがすること全部、ごめんけど全て邪魔させてもらうから。どれだけ頑張っても幼馴染先輩を不幸することは阻止させてもらうわ』



先輩妹「この時、貴女が語ったのは『阻止』。何故、無駄と告げること無く阻止を目的に置いた『勝負』だったのか?」

先輩妹「時点での私の占いに対する信用度を鑑みた結果、だったら私も素直に頷いてみせましょう」

先輩妹「けど違うんでしょう? 貴女は他人を思いやるほどに余裕があるわけじゃない、強者でもなく、全能感に浸っているわけでもなく」

先輩妹「貴女は『人』だった。実力だけで勝ち取りに行く為に努力を掲げ、がむしゃらで、後がなく、何が何でもともがき苦しむ────」



先輩妹「──他の誰よりも、運命という拘束から逃れようとしていた『人』だったから」



金髪「……ッッ…!!!!!???」ガッ

金髪「何をわかったようなコトをぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃくちゃぺちゃくちゃああああああああああああああああああッッッ!!!」

先輩妹「貴女は欲していたんです」

金髪「あぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!ウルセェ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェーーーーーーーー!!」

先輩妹「欲していた、自分の失敗を。己が最悪で最低な状況下に置かれる運命を」

金髪「あーあー!! きこえないきーこーえーなぁいぃいぃいぃいぃいぃいぃい!!」

先輩妹「勝ち取るために。たった一つの個人の力で運命に勝つために、幼馴染先輩に関われば『自分が不幸になる【運命】』と分かり、そして挑んだ」

金髪「あああああああああああああああああああああああああ!!」

金髪「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


先輩妹「運命なんて敵じゃあない。勝ってみせる、実力だけで見事覆してみせる──それが、そう、それが……」


金髪「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」





先輩妹「──幼馴染先輩を超えれる、彼女の『幸福』を乗り越える、唯一無二の『答え』だと思えたから」




金髪「ああああぁあぁあぁぁぁあああっ……あっあっあっ…あぁっ…ッ」

先輩妹「けど勝てない」

金髪「ッ…!? まだわからないッ!」キッ

金髪「アンタがどうのこうの語っても結果はもう出てるッ! もう終わるもう不幸になる失敗する!! アンタが不幸になるっ!!」

金髪「アンタがやろうとしていることはッ! 全部全部ぶっちゃけて、アンタは絶対に嫌われる!!」

金髪「──あと五分、たった五分よッ!? アンタが出来ることはなにひとつっとして無いッ! これっぽっちも出来やしないッ!!」

金髪「わかったようなことを今頃言い放ったって…ッ!! アンタがわかったようなことをッ、あたしのことをッ、…『私』のことを言ったって!!」


金髪「私は今を否定したりはしないッ! 勝ったんだ勝ってやったんだッ! 運命に、アンタが壊そうとしている未来を──私の手だけでッ!!」

金髪「私はッ…そう、私はッ……自分自身を占わない、占うことができない、やめているわッ」

金髪「───もうそんなことはしないでッ! 自分の実力だけで世界を愛することを頑張ったからッ!!」

金髪「ッ…頑張ったから、やろうとおもったから、変わろうと思ったから…ッ」

金髪「なのに…ッ」



 
                            『──キミはどこか、不幸に見えちゃったりするね』





金髪「なのにッ、なのにッ、あの人は…ッ! どうして、わからない、ソフトボールだって、頑張って、なのにッ」

金髪「──どうして勝てないのよ…ッ……どうして私は不幸なのよッ!? どうしてどうしてどうして、わからない、わからないっ」

金髪「なんで答えがわからないクセに笑っていられるのッ!? どうして失敗するかもしれないのに努力を重ねられていられるのっ!?」

金髪「私以上にッ…苦しいはずなのに、辛いはずなのにッ、悲しくてッ、大変でッ、世界はどんなに頑張っても辛く当たってくるしかないのにッ!!」

金髪「いやだ…いやだ、いやだいやだいやだいやだ…そんなの嫌だッ…私は不幸出会っちゃっダメなのよ、勝たなくちゃ、だったら運命なんてモンを頼らないで、」


金髪「──私は勝たなくちゃ…絶対にダメなんだから…ッ」

先輩妹「……。それが貴女の行動原理ですか」

金髪「そう、そうよ……けど、認めたって語ったって私は諦めない」

金髪「私は私でここまで来た。どんなに焦っても、戸惑っても、失敗はやっぱり冷たくて大変だったけれど」

金髪「───むき出しな私で、ここに居ることに幸福を憶えてる」

先輩妹「………」

金髪「そんな私を、醜くい私を、あんたがどう思おうと勝手よ…」

先輩妹「ええ、勝手ですが、ひとつ言ってもいいですか」


先輩妹「凄く共感しました、泣いてもいいですか」


金髪「……っ?」

先輩妹「私は本来、この世界が大嫌いです。至極当然に幸せを幸せだと受け取り、幸せを幸せだと簡易化して捉える人間たちに吐き気を催しています」

先輩妹「なぜ、私達人間は『勝手に決められた規則』を素直に認めることが出来るんですか?」

先輩妹「人を好きになり、愛し、結ばれ、カタチとして残る全てに感謝するんですか?」

先輩妹「意味がわかりません。意図がわかりません。人は人なんですよ、思考を持って人生を生きようとするチカラを持っているはずでしょう」

先輩妹「なのにどうして人は安易的で簡易的で象徴的なモンに共感し、維持し、受け継ごうとするのか」

先輩妹「──私は不幸を覚えます。こんな世界で生まれ事に、混沌と無秩序溢れる世界で生まれなかったことに」

先輩妹「人間は自由のはずです。だから、私は自由に生きることに誤魔化しはしません」

先輩妹「…だから抵抗するんです、そんな規律を、言い換えれば貴女のような【運命】をです」


先輩妹「貴女はすごい人です。素直に認めましょう、貴女は敵ではなく、最初から──出会った時から【仲間】だったんですね」

金髪「……………………」

先輩妹「そして、そのことに気づいた時──私は全部のことに納得がいきました」

先輩妹「貴女が苦しんでも勝とうとしている。私と一緒で、幸運のためにわざとつらい目にあおうとしている」

先輩妹「悪いことを求めて、求めて、求めて、その先にある自分だけの幸せを勝ち取ろうとしていた」

先輩妹「……私は気づいてしまったんです、だから貴女を見破れた」

先輩妹「ここまで、貴女を追い詰めることが出来た」


先輩妹「一緒なんですよ、私達。モノは違っても足掻いてることは、どうしようもなく一緒なんです」

先輩妹「だからやっぱり分かっちゃうんです。こんなこと本当はやりたくないって、自分はもっと単純明快に幸せになりたいって」


金髪「………」

先輩妹「そうじゃあ、ないんですか?」

金髪「……アンタは本当に、好きなんだ」

先輩妹「はい。大好きです、幼馴染先輩が超大好きで大好きで堪りません。そんな自分が周りに認められなくっても、」

先輩妹「大切なお兄ちゃんを不幸にさせてでも、勝ち取ろうとしてます」

金髪「…変なの、そんなの誰もが狂ってるって言うわよ」

先輩妹「でしょうね。それこそ、だからこそ、誰もが言うことを私が言ってあげますよ。貴女も、狂ってると」

金髪「…似たもの同士だったってことは、初めから知ってた」

先輩妹「……」

金髪「だから、アンタを選んだの。私の敵として標的として、挑んで、挑戦して、勝ちたかった」

先輩妹「………、そうなんですか」

金髪「でも、たとえ一緒だとしても私はアンタを認められない。認めちゃいけない、それが悪いことだからなんてことじゃなくって」

金髪「私が幸せになりたいから。あんたがやってることを、否定して、そんな運命を知ってても──そんなあんたの本音を知ってても」

金髪「…これが私の頑張りだから」

先輩妹「では、教えてください。貴女が知った【幼馴染先輩を占って知った結果】は何だったんですか?」

金髪「……、不幸になる」


金髪「これから先、部長に、幼馴染先輩に深く関わった人物は全員───軒並み不幸になる、それが絶対の運命」

金髪「その中で私は、私だけは、私だけの実力で、不幸の中でもがいて勝ち取る……幸運を得るのよ」

金髪「直接的に原因となり得る、そんなあんたを邪魔をして、あんたを否定して、あたしが──」


金髪「──先輩を救う、ただ、それだけ」


先輩妹「成る程。納得がいきました」

金髪「…そう」

先輩妹「仰ってましたね、私は関わらないほうがよっぽど幸運になれると」

金髪「そうよ。それこそ本当に運命なのよ、運命は変わらないけど換える事はできるから」

金髪「…いや、出来る限り換えれるから。少しでも本震の不幸から離れられる」

先輩妹「ですが、それは貴女も一緒じゃないんですか?」

金髪「ダメ。結局は運命踊らされているのには変わりない、それじゃあ納得ができない」

先輩妹「ですよね。貴女にとって勝ちは、そういったことじゃありませんものね」

金髪「…そうよ」コクリ

先輩妹「貴女は何よりも運命という答えを否定したい。勝ちたい、だから自分を占わない」

先輩妹「…ごめんなさい、先ほど騙して貴女を占わさせるようなことをしてしまって」チラリ

金髪「……」

先輩妹「【運命に勝てるかどうか】なんてことは、一番知りたくなかったことでしょうに」

金髪「大丈夫よ。まだ結果は分かってないから」

先輩妹「……」

金髪「…だから、私はあんたに言ってあげたい────」



これから一緒に私と罪を認めないかと。

そうすればまだあんたは変われる、いや、変わるきっかけを手にすることが出来る。

運命は変わらない。けれど抵抗することは出来ると知っている。逃げることは、出来ると知っているから。


アンタと私はとっても似ている。これからも、この【実力で得た現実】を糧に一緒に、私達は、頑張れる気がするから。



金髪「私は勝った。けどその後に待つ結果は、まだわからないじゃない?」

金髪「だから、だから、こんなにもいがみ合った仲だけど、これからは一緒に抵抗していこうと思うわけで、」

 














 

先輩妹「スペードのエースです」


















                                             金髪「え?」

先輩妹「だから、その貴女が捲ろうとして止めていたトランプの絵柄ですけど」

金髪「…………」

金髪「…え、なに、それ」

先輩妹「もう一度言いましょうか? わからないのならわかるまで何度でも何度でも言ってあげますよ、ええ」


先輩妹「【そのカードの絵柄はスペードのエース】です」

先輩妹「【では、教えてください】」


先輩妹「──【その占いの結果は】、【一体何だったんでしょうか?】」ニコリ


金髪「なに、いって……は、はは……だってまだ見てもないのに、あんたわかるわけ、」

先輩妹「わっかりますよぉー? んだってそれ、『イカサマトランプ』ですもんっ?」

金髪「イカサマ…とらん、ぷ…?」ブルブルブル

先輩妹「裏側の絵柄。どれもひと目は同じように見えますが、はっきりと違いとなる部分が一枚一枚あるんですよね」

先輩妹「これはハートの7、これはクローバーの9、キング、クイーン、そして───」


先輩妹「このカードは紛れなもなく、スペードのエースです」テヘペロ


金髪「は………嘘………」

先輩妹「嘘ではありません。それに【予定通りです】。最初に言いましたよね、貴女がさっきのババ抜きで勝てなかった理由として、」

先輩妹「貴女は自分を占えないと。もし仮に占えていたとして、結果で得る答えで、私に勝つことが出来る唯一の方法は」

先輩妹「私がイカサマトランプを使おうと言い出したことを、否定することだった」

金髪「……………………………………………………………」

先輩妹「用意したトランプをなんら疑いもなく使用した時点で、ああ、自分を占えないんだなって確信したんですが…まぁ今はいいでしょう、それはそれです」

先輩妹「ではっ☆」


先輩妹「教えて下さいよぉ? その占いの結果である、スペードのエースって何なんですっ?」


金髪「…………………………………あ、」

先輩妹「貴女が手にした、貴女が貴女のを占った結果。【運命に勝つことが出来るのか】という【答え】は、一体何だったのでしょうか」

先輩妹「まぁ、見れば一発で分かりますけどね、その表情。くっくっく、なんですなんですぅ? やっぱりやっぱり?」

先輩妹「運命様には勝てなかったんですかねぇ?」


金髪「…………」ポロポロ


                          ポタポタッ… パタタッ… 


先輩妹「何故泣くんです?」

金髪「あんたは…一体なんなの……?」

先輩妹「何言ってるんですか、どう考えたってどう捉えたって、どう見ても私」

先輩妹「貴女の【敵】でしょう? 貴女が一番嫌いで、怖くて、ただただ否定したくて、そんな【運命】なんでしょう?」

先輩妹「私は【敵】であり【運命】です。勝ちたかった存在ですよ、けれど、」

先輩妹「私という運命にアンタは勝てなかった!」

先輩妹「貴女は不必要なまでに私に関心を持たせるような言動が悪目立ちしていた!」

先輩妹「そう! 貴女は最初から最後まで私を仲間だと思わず敵意だけを向けていた!」

先輩妹「貴女は見て欲しかったんだ! 仲間だと勘違いして欲しかった! それこそが貴女の求める運命に勝つ方法だったから!」

金髪「ち、ちがっ…ちがう…! わたしはほんとうにただ…!」

先輩妹「いーえ、違いますよ。否定します、お断りします、だって私は既にもう世界は嫌いじゃあないですから」


先輩妹「──私は既に人としての幸運を得ることを捨てて、悪魔として幸運をかっさらうことを認めてますからっ!」


金髪「なん、で……そんなこというの……? やめてよ、そんなの、貴女が一番言いたくないことを……どうして……?」

金髪「一人なんて、どんなに否定したって、ぜったいにひとりなんて、つらい……とってもつらいのに…っ」


先輩妹「語るなよ占いババア、勝手に独りで世界に絶望してろ」


金髪「ヒッ…」

先輩妹「嘆くだけ嘆け、悲しむだけ悲しめ、世界は最初から最後までお前につめてーんだよ腐った甘っちょろい脳みそが」

先輩妹「んなハッピー思考回路なら、今この状況ですらアンタにとっては失敗の一つとして受け入れて頑張れるのか?」

先輩妹「無理だよ、無理無理。アンタは無理だ、勝てやしない。得られもしない。……誰も【お前に優しくなんてしない】」

先輩妹「独りで行き続けろ。背負った運命は否定しても変わらないし換われない。何時迄も傷つけ犯し、苦しめ続ける」

先輩妹「幸せになるための道具を捨てて、傲慢にも身勝手に、独りで何でもかんでも出来ると素敵な勘違いをした人間様は」


先輩妹「今、今、この時を持って壊れてしまえッ!」

金髪「やめ、て…嘘だっていって…」

先輩妹「さァ! はやくめくってくださいよォ答えを! 自分の行動で実力で確認して下さいよ!」バッ

先輩妹「私という運命を否定したいのなら、今ここで、本当の答えを今ここで貴女が確認して下さい!」

金髪「……っ」ブルブルブル

先輩妹「どうしたんです? なぜ動かないんです? ほら一分もありませんよ? 来ちゃいますよ? 勝手に運命の方から貴女を苦しめにやってきますよ?」

先輩妹「答えを手にしないんですか? 答えを知って今からでも違う運命に従うことだって出来るはずですよ? あ、でもそれって貴女にとって勝ちではなかったんでしたっけ?」

先輩妹「…そも否定するために嘘だと思うのなら確認するんですよ、貴女が運命を否定するためにも、今! 今今今今今! 動かないとッ!」

金髪「っ…っ…っ…」ポタポタポタッ

先輩妹「さあ動かせッ! さあ! 早くッ!」

金髪「あっああっ…! うわぁあっ……ああああっ……やだっ…しりたくない、やだっ……」

先輩妹「───…………」

金髪「う、運命なんてやだっ……こんなのやだ、ごめんなさい、ごめんなさい、ゆるしてください、なんで、なんでわたしは…っ」

金髪「なんで冷たいの…愛してるのにッ…どうして占わないと世界は微笑んでくれないのっ…どうして、どうして…っ」

先輩妹「甘っちょろいこと言ってんじゃねーですよ」

先輩妹「…人はいつだって、失敗をして一人でも頑張ってるんだ」

先輩妹「独りで成功を夢見て頑張ってるんだ」


先輩妹「──失敗もしらねー奴が、いっちょまえに人様のフリして語るんじゃない」

金髪「っ……!! わたしだってがんばって、でもだめだった…!!」

先輩妹「甘い」

先輩妹「まだ甘い。ここで泣き出す程度の輩が、今から実力で起こす程の土壇場を引き出すことなど無理です」

先輩妹「例えばの話、ここで貴女が貴女の占いをやってくれなかった場合──私は行動を移していたでしょう」

先輩妹「私は貴女を殺さない程度に殺していたと」ぐいっ

金髪「ひっ…あっ…!?」

先輩妹「不幸ならば更なる不幸に投じるまで。人は失敗を重ね、その経験を信じ、認めて、やり直すんです」

先輩妹「今の私は『貴女を否定』するモノですよ、金髪さん」

先輩妹「あっは─────……堕ちましょうよ一緒に、どこまでも【仲間】じゃあなくって何時迄も【敵】として」







                                                   「不幸のどん底に」





金髪「やだっ…やだやだやだやだやだやだっ!! 放してッ! 離して!! こ、殺さないでッ! お願いッ…お願い…ッ」

先輩妹「……」

金髪「嫌だ、不幸になりたくないっしあわせでありたいっ! やだやだ! こんなのやだ!」

先輩妹「では、勝手に幸せになっててください」パッ

先輩妹「貴女が観測できる【幸せな運命】で一生、そのまま踊らされ続けてください」

先輩妹「だから、もう一度聞かせてください、金髪さん」


「──今の貴女は幸せなんですか?」


金髪「ッ……」くるっ


たったったったったっ





先輩妹「…………」

先輩妹「…あーあ、私ってばホント悪魔」ストン


ペラリ


先輩妹「…」チラリ

先輩妹「フン!」


ビリッ ビリビリビリッ  ブン! ファサァァァ…


先輩妹「ろくなことになんねーっすよね、答えなんて最初から知ってても」


ボーン! ボーン! ボーン……

先輩妹(あ。十二時)


「むぉぉ!? いま見たか幼馴染!? い、いままっ…同級生の奴が、が、可愛い女子を連れて…ッ」

「えぇー? どーちゃんは何時だって可愛い子連れてたよ? どれどれー? うーん、知らない子っすなぁ」

「そ、そうなのか? なんかこう見たことあるような顔立ちだったような…気が、むっ?」

「おおっおー? はろはろー! どもども妹ちゃーん?」

「おお、待ってたのか。すまんな、またせてしまって」



先輩妹「────…………っ…」


                         ブルルッ ギュッ…



先輩妹「そうだよまったく! もおーこっちだって準備万端で来たんだんから!」

「えっへへん! 時間通りに来られないのがわたしたち、カップルさんだったりするんだぜ!」

「待て。全くもって不名誉なことを堂々と云ってのけるな、困る、心底困るぞ」

「ってかあれ? 黒髪ちゃんは? あ、やっべ今は金髪ちゃんだっけ? 主催者いないよ?」

「むっ? なにか知ってるか?」

先輩妹「そうですねぇー……わたし的にも幼馴染先輩から聞いてた通り、芋の煮っころがし用意してたんですけど、着てないみたいで」

「なにか用事でも出来たのかな?」

先輩妹「どうでしょうか、うーん?」チラリ

チュンチュン チュン 

先輩妹「──今日が晴れで、雨だったから、来られなかったんじゃないんですかね?」



~~~~~


「──ったく、心配したけど無駄足だったな」スッ

(ものの見事にはね除けやがって、ああ、嫌だね、まったくもってキライだあのタイプ)スタスタスタ


同級生「今後一生、関わらないよう気をつけておくか…」チラリ



男(女装)「……」ニコニコ



同級生「……」スタスタスタ


ピタリ


同級生「………」


くるっダダダダ!


同級生「っ!?」ガシィッ

男「ちょ、顔が近いよ怖いよドウ君、あはは…」

同級生「おまっ、……なにやってんの?」

男「えっ? 散歩かな?」

同級生「なぜ女の格好なんだ」

男「うーん、小学生の頃ぶりに女装なんてしてみたんだけど。案外バレちゃったな、高校生だし骨格自体が既におとなになっちゃってるしね」

同級生「待て、答えになってない。どうしてお前は女装なんてして散歩なんてシてやがるんだっ!? ああんっ!?」

男「なんでだと思う?」コテン

同級生「ぐっ…やめろそういった表情、なんか苛つくっていうか、とにかくやめろっ」プイッ

男「あはは。ならやめとくよ、まあ理由としては君と一緒だよドウ君」チラリ


先輩妹「……」ビリビリビリッ


男「気になってたから見に来たんだ、最後の最後、優しい先輩としてね」

同級生「? お前ここが待ち合わせ場所だって、知ってたのか?」

男「知らないよ? 彼女が昨日、九時過ぎに電話してきたから『ああ、明日までになんとかしたいんだなって』考えてみて、」

男「お昼ごはんを食べたいなんて言ってたから、じゃあよーちゃんと彼女の家を鑑みて、予測を立てて、この公園で十二時かなって」

同級生「……相変わらずだな、ほんっとによ」

男「それが僕だよ。知ってるでしょ?」

同級生「ああ、知ってるよ。あったりまえだろ、ふざけんな」

男「……」

同級生「男。お前が人の革を被ったとんでもねーやつだってことは、とっくの前から気づいてる。なめんなよ、幼馴染を」

同級生「同じ時間を、同じ空間で過ごしてきたんだ。嫌でもわかる、知りたくなくてもわかっちまう」

男「…随分と普段の君らしくなってきたね、嬉しいよ僕も」

同級生「そうか? オレはまったくもって変わってねーよ、全然、これっぽっちもだ」スッ

同級生「お前がオレにとって最悪な奴になり得るかも知れねーってのに、ああ、本当によ」

同級生「…この手を離したくない。まだ、どうか一緒にいて欲しいと思ってる」

男「……」

同級生「オレはいつまで、頼って弱り続けなくちゃいけないんだろうな」

男「どうだろう、もしかしたら答えはすぐ側にあるかも知れないよ、君が見えてないだけで、君が認めきれてないだけで」



男「──でもいいじゃないか、今はきっと、何よりも幸せだと僕は思うんだ」



同級生「…まだ騙されておいてやるよ、ったく」

男「あはは。よーし! じゃあ早速ながら、デートでもする?」

同級生「はぁっ!? えっ!?」

男「今はホラ僕ってば調度良く、女子の格好だし。街に出歩いても案外、他人にはバレないかもしれないよ」

同級生「っ……」

男「でもやっぱり嫌かな? そうだね、君に一発で見破られた程度の女装だもんね…」

同級生「い、いや……その女装は決して、その、オレだから見破られたってだけで、わるかーないっ! ッて思うけど、その」

男「そお? んふふ、なら少し自信がもてそうかな、うん」ぎゅっ

同級生「うぐッ」カァァアア

男「じゃあ、いこっか?」ニコニコ

同級生「…おう、離すなよ、腕」

男「うんっ!」


~~~~~


先輩妹(とてつもなく気持ち悪い気配と展開があったような気がする…)ゾワゾワゾクゾクッッッ

幼馴染「妹ちゃん?」

先輩妹「あ、ハイ! なんでしょうか!? おね、ぶっほぉぉおっ!? げほごほぉっ!?」

先輩「な、なんだ!? 急にどうしたっ!?」ビックゥウウウ

先輩妹「なん、でもっズビビ! ないから、安心してお兄ちゃん……っ」

幼馴染「すっげー口からご飯粒が噴射しまくってたぜ…?」

先輩妹「うぐっ…すみません…」


 あ、ごはんつぶ。


先輩妹「…え?」

幼馴染「ぱく! もぐもぐ、えっへへーお弁当つけてどっこいくのー? ってな!」

先輩妹「……………」

スゥー パタリ

先輩「妹っ!? やっぱどこか患っているんじゃあないかっ!?」

幼馴染「なぬーっ!?」


ゆっさ ゆっさ


先輩妹(やば、超幸せー……ぐひひひ、ぐひっ)




例えこれが今だけの仮初めの幸せだったとしても。


            貴女に関わることで、不幸になると分かってる【運命】があったとしても。


私はきっと耐えぬいてみせる。先に待つ、自分だけの答えを手に入れるために、突き進むのだ。




先輩妹「あっはっは、ばかやろーこれが成功ってやつです」



      私は、この世界が大好きだ。

第三話 終


長すぎワロタ
次回も気まぐれに更新

ではではノシ

第四講義室


先輩妹「はろはろー先輩さん、今日も今日とておっ昼ゴッハーンを、」ガラリ

先輩妹「おや?」


ガラーン


先輩妹「…おかしいですね、てっきり居らっしゃるかと」キョロキョロ

先輩妹「ん?」

先輩妹「紙袋…? なんでしょうか、ふむ」ガサゴソ


【カツラ&女性服一式】ガサリ


先輩妹「……」

くんくん

先輩妹「えぇー……なんで同級生さんの香水の匂いがするんですかぁー……?」

先輩妹(なんか、知りたくなかった人の趣味を垣間見てしまった気分。いや以前にとっくに見ちゃってるけど)ゾワゾワ

先輩妹「……」

先輩妹「ま。いっか、気に食わない人ですしむしろ弱みを握ったことを素直に喜ぶことにしましょう、うんうん」チラリ

先輩妹「あれ、タグがついてる」


【演劇部部品】

先輩妹「───………」

先輩妹「演劇、部か」



体育館第二倉庫


先輩妹「ははー、ここが演劇部の部室ですかぁ」キョロキョロ

先輩妹「つか埃っぽ、けほこほっ、ううっ喉がいがいがしちゃうです…」

「ん? 誰?」

先輩妹「うっ? あ、その…えっと…!」

「こんな所で部員以外の生徒と会うなんて、もしかして入部希望者?」

先輩妹「いえいえっ! 違いましてですね、実は偶然にもこれを見つけましてですね、もしやここの部活のものではないかと思いまして」ガサリ

「うん? どれどれ──わーずっと探してた女性衣装一式だ~滅茶苦茶たけーカツラもご一緒にあるよーはっはー」


「で、これを何処で見つけたのかな? うんっ?」ニッゴリ


先輩妹(うっ…なんつー威圧感のある壮絶な笑み…)

「もしかして貴女が…」

先輩妹「違います、私はただ見つけただけであって勘違しないでください」

「そうなんだ、じゃあ詳しく話を聞いてもいいかな」

先輩妹「え”っ? 今からお昼ごはんを食べたいかなって思ってて…」

「うん。ここで食べてって良いよ? わたしも今からお昼を取るつもりだったから」

先輩妹「……」

「だめ?」

先輩妹「いえ、別に…ただ、その、」

「どうしたの?」

先輩妹「………。アナタって、どっちなんですか?」


「どっちって───」

「──ああ、そういうことね。ごめんなさい、初めての人は結構わかりずらいみたいだし、はっきり言っておくけれど」


部長「初めまして、わたしは演劇部部長を務めさせてもらってます」

部長「──こう見えて? 実は女子だったりしてるんです、きゃぴ☆」


先輩妹「どうしてズボンを履いてるんですか?」

部長「おおー…死語に近いきゃぴ語尾をスルーなのね、うん、趣味です」

先輩妹「そうなんですか、中性的な顔つきにピッタリあっていると思いますよ」

部長「ありがとう。思わず素直に受け取ってしまうほどに、嬉しい褒め言葉よ」

先輩妹「それは良かったです、じゃあ私はこれで」スッ

部長「おっととと、あらら。何処に行っちゃうの? だめだめ、話はまだ聞いてないよ?」

先輩妹「…声まで中性的ですね」チラリ

部長「もちろん鍛えてるからね。…うーん、こういう見た目の人って嫌い?」

先輩妹「嫌いです」

部長「がーん、そんなにもハッキリバッサリ言われちゃうと、些か冗談と受け取る前に傷ついてしまうよ…」

先輩妹「冗談じゃないですけどね。まぁ、でも、嫌いであっても拒絶などはしませんよ」

部長「あら難しい言葉遣い、どーゆこと?」

先輩妹「むしろ好ましく思えるほど近く、そして嫌いだと思えるほど近い、っと言った感じです」

部長「ゆ、友人以上恋人未満って奴かしら?」キラリン

先輩妹「…案外乗り気で会話を続けようとしますね、貴女」

部長「?」

先輩妹「こちとら、距離を置かれようと無駄に面倒臭い人感出しまくってるんですけども」

部長「え、ええっ…キャラ付けだったの…っ? こっちも頑張って理解しようとしてたのに…っ!」

先輩妹「……はぁ~」ストン

部長「あら? うふふ、もしかして一緒に食べてくれる?」

先輩妹「ワケを話したら帰ります、ええ、もちろん食べていきますとも」

部長「そっか、そっかそっか。ありがとう、今日は一人ぼっちで食べられずに済みそう」ストン


先輩妹「それで、聞きたいことってのは紙袋が何処にあったかですか?」

部長「ううん、そうじゃなくて、【貴女は何処を好んで男君となんかとつるんでるの?】」


先輩妹「…………………、はい?」

部長「ちなみに貴女が入ってきたドア、そこオートロックで鍵ココね。最初から出られないって感じかしら」チャリン

先輩妹「……………」

部長「うん?」


先輩妹「はいっ?」


部長「面白い表情。あの子が気に入った理由もなんとなくわかりそう」クスクス

先輩妹「こ、こここちとら少し色々戸惑っているんですがっ?」

部長「ごめんなさい」ペコリ

先輩妹「……ハメられたんですね、コレ」

部長「うん、だって第四講義室にカツラと女性衣装を紙袋に入れて放置したのは──わたし、だから」

先輩妹「………」

部長「そんなに警戒しなくても。別に獲って喰おうなんてしないわ、うん、ただお話をしたかっただけ」

部長「最初にそういったでしょ? ご飯でも食べながら一緒に、楽しく、ね?」ニコ


先輩妹「良いでしょう、ええ、食べましょう」


部長「ほんとに? わぁーありがとう、てっきり断られるかと思っちゃった」

先輩妹「…嘘言わないでください、貴女はある程度、私のことを調べてからここに呼び出してる」

部長「うん?」

先輩妹「ここに呼び出す『釣り餌』自体が疑問点なんですよ、カツラと女性衣装、そして付けられている演劇部というタグ」

先輩妹「──此方の状況、または【先輩さんをどの程度知っているか、そして気になっているか】を把握してないと使用しなかった釣餌でしょうから」

部長「わ~…」

先輩妹「どうなんです? 誤魔化しに入らず正直に吐いたらどうですか」

部長「ず、随分と頭が回るのね、そっ…そうよ! わーーははっ! その通り貴女が言った通りなの…っ!」

先輩妹「……………………」

部長「う、うんうんっ」

先輩妹「いえ、そんな、まさか、考え、なしとか、言わないですよね?」

部長「ビュ~? ルルルゥ~?」

先輩妹「……………………」

部長「ゴ、ゴホン! ンンッ! いえいえ、そうやたらめったに疑わないで、ねっ? 色々と思う所はあるかも知れないけれど、」

先輩妹「あっても意味がなくて最初から答えなんて無いと?」

部長「てへっ」

先輩妹「……………………」

部長「だって、貴女が優しい人だったらきっと演劇部に届けてくれると思ったから…」

先輩妹「隠された意図も策略もねーってことですかっ!?」

部長「あ。でも、貴女が男君のことをとても気になってるってコトは、なんでか知れちゃったなー」

先輩妹「なんなんですぅ!? その勿体ぶるような陰謀企んでるかのような言い回しと言葉使いはーぁ!?」

部長「え、ええっ…ちょ、ちょっとむずかしい言葉をバンバン使わないでくれないかな…?」

先輩妹(ぐぎぎっ…すごく調子を崩される…ッ…なんだこの人、なんなんだ)

部長「そんな怖い顔しないで、ね? 確かに貴女を騙してここに呼び出したのは本当だけど…」

部長「こっちも必死だったから……おとこ君にばれない様するのってとても大変だし……」シュン

先輩妹(………。何気に先輩さんの勘のよさというか、洞察力は理解してるんですね)

先輩妹「じゃあ、なんですか、呼び出した理由はキチンと用意されてると見てよろしいんですか…」

部長「う、うん。そこはバッチリありますとも、ええ、もちろんありますとも」

先輩妹「ならいいですケド、それで? なんなんです? さっきはつるんでるかとかなんとかいってましたケド」

部長「そうそう」パン

部長「───どうして貴女ってば、おとこ君と一緒に居るのかなって」

先輩妹「………」

先輩妹「…特に理由なんてありませんけど」フイ

部長「言いにくいことなのかしら?」

先輩妹「そんなコトはありません、ただ、言いたくないだけです」

部長「それは、わたしだからってこと?」

先輩妹「ええ、まあ、そうだと思います」

部長「……」

先輩妹「……」

部長「別にわたしおとこ君のこと好きじゃないよ…?」

先輩妹「待て、そうじゃない」

部長「そ、そんな気を使われても大丈夫って言うか…」

先輩妹「全然気使ってませんから、全然違いますから」

部長「むしろ以前にフラれちゃってるし…」

先輩妹「だから違、ええええっ!?」

部長「ウムム。確かにこーんな可愛い子だと、普段から何考えてるかわからない子でも受け入れちゃうかぁ…」ウムウム

先輩妹「ちょ、まっ、違っ、待ってください」

部長「ん?」

先輩妹「告白、したことあるんですか? つか、やっぱり結構前からの知り合いなんですか?」

部長「うん。中学のときにね、一緒に演劇部を切り盛りしてたのだけど、わぁー懐かしいなぁいろいろと思い出してきたよ」ほのぼの

先輩妹「…その時期に告白を?」

部長「そうですねぇ、うんうん、好きになっちゃったからね」ニコニコ

先輩妹「………」ドキドキド

先輩妹(ハァッ!? な、なに安易に色恋トークに食いついてるんだ私!? 落ち着け、落ち、)

先輩妹「──……ど、どこら辺を好きになったんですか……っ?」

先輩妹(駄目だーっ! 超聞きたいー!!)


部長「どこら辺をかぁー…」ウーン

先輩妹(せ、先輩さんの過去なんて望んでも高が知れてるモンぐらいでしょうしね、しかし、これは親身の客観的感想!)

先輩妹(お兄ちゃんに聞けば、糞兄貴に聞けば、ある程度知れるでしょうけど聞きたくない! だってベタ褒めするに決まってるから!)

部長「そうだなぁ、彼の演技が、とても素敵だったからかな?」

先輩妹「演技ですか?」

部長「うんうん。貴女は、おとこ君の演技はみたことある?」

先輩妹「えーまぁ、ある程度……ですかね」

部長「そっか、でもそれは【今のおとこ君の演技だろうから】、【以前の彼の演技には見劣りがあるんだろうけども】」

部長「でも結局は今の彼がやっても素敵に違いないんだろうね、きっとそう」

先輩妹「それは、えっと、先輩さんの演技は凄かったということですか?」

部長「………。凄いってものじゃないよ、壮絶だった」



わたしが持つ価値観、そして理想を遥かに超えるものだった。



部長「演技にはね、どうしても演じる人によって『色』が出てしまうの」

部長「配役を完全に把握しても、役にはなりきれない、その人物像に付着しちゃう──個人の色」

部長「顔つきが違う、雰囲気が違う、身のこなしが違う、トーンが違う」

部長「当たり前の話だけれども、そんな単純な物が見る人にとっては『違和感』という色として感じてしまう」

部長「でも、ね? そんな色があるから、多種多様と『演じる人』、『キャスト』が世に出回ることができる」

部長「『色』はある意味『個性』として受け入れることができるってことね。それはとっても素晴らしいことだし、」

部長「なんの間違いでもない。人である限り、当たり前なことなんだけど……」



部長「……彼には何一つとして『色』がない」



先輩妹「………」

部長「演じてる時の彼を見たとき、わたしは恐怖しか感じなかった」



彼が居ない。舞台の上には『そのもの』が居た。

                居ないはずの者が居て、居るはずの者が居ない。

いったい彼はどこにいったのだろうか?

                わたしには見えない。彼が見えない。居るのはただ、ただ────


部長「息を吸えなくなるほどの、そんな、怖さを初めて知ったときだった」

部長「配役を把握してる次元の話じゃない」

部長「…感じてるの、【彼が五感で】、その時代で『兵士』が『恋』をして『苦しい』けど『狂おしい』」

部長「『愛しい価値観が見えて』『心が折れる音が聞こえて』『血なまぐさい戦場が嗅げて』」

部長「『口に含んだ毒を味て』『抱きしめた彼女の心臓の音を肌に感じてる』」

部長「彼が、おとこ君が、演じてるはずなのに──ここに居ない」

部長「なぜ、どうして、わからない、怖い、信じられない光景だった……今でももしかしたら、信じ切れてないかもしれない」

部長「……うん、素敵だったわ……」ぽやぁ


先輩妹「あの」


部長「……?」ポヤー

先輩妹「スミマセン、恍惚とされてるところ申し訳ないんですが」

部長「え、あ、ああっ!? あはは、ごめんなさい」ジュルル

先輩妹「よくわかりませんが、それほど素晴らしい演技だったんですね」

部長「そう、そうなの。うん、もう大丈夫よ」

先輩妹「役者の人にとっては素敵な演技をする人は、やっぱり好意的にみえるんですね、だから好きになったんですか」

部長「どうかしら、普通は嫉妬なんかしちゃうと思うけどね、同じ立場として目指すものとしては」

部長「わたしは嫉妬以前に見蕩れて、なんかもお、ぬわーっ! なんじゃこりゃ、ってなっちゃって」

部長「でへへ。好きになっちゃってたかなぁ?」テレテレ

先輩妹「ほ、ほぅ…」ドキドキ

部長「あ。そうだ、貴女が見たことがある彼の演技はどんな感じだったのかしら?」

先輩妹「…演技、ですか」



先輩妹「………………………………………………………」



部長「うん?」

先輩妹「貴女と同じく怖い、ですかね……?」

部長「まあっ」

先輩妹「…あれがすべて演技の上での恐怖だというのなら…」

部長「ん?」

先輩妹「ナンデモアリマセン」コクコク

部長「そっか、今の彼でも恐怖を感じるほどの演技をできるのかぁ~…じゃあ『色』は消えちゃったのね」

先輩妹「えっ? 色、今はあるんですか?」


部長「うん。中学三年のころに、突然彼の演技に『色』が付き始めてた」

部長「綺麗な淡い、儚く鏤められた『橙色』」

先輩妹「オレンジ色…」

部長「彼自身がうまーく消し去っていたけれど、それでもわたしは見えてたわ」

部長「だって一番のファンだから。一番、彼を見てたから。唯一わたしだけが気づけたんじゃないかな?」



部長「──ああ、彼は恋をしてるんだなぁって」



先輩妹「………。そうだったんです、あれ? 待ってくださいよ、えっ? それって、」

部長「なにかしら?」コテン

先輩妹「貴女はいつ告白、されたんですか?」

部長「もちろん色がついた頃によ?」

先輩妹「え、えぇ~…」

部長「あ、勘違いしないでね? 当たり前だけれども、彼の恋がわたしに向いてるとはこれっぽっちも思ってなかったわ」

部長「──けど、気になったの。もし彼がわたしの告白を受けて、受け入れて、そのときは何色になっちゃうんだろうって」

先輩妹「なんかかっこよく表現してますが、それ、ただの迷惑行為だと思うんですが…」

部長「まあ。負けん気が強いって表現してくださいな」

先輩妹「相手の気持ちを理解して、しかも個人の都合が割合大目のなんですけども…」

部長「好きになるってそういうことじゃないかしら?」

先輩妹「ぐっ…た、確かに…」

部長「結局はフラれちゃったけどね、うふふ、わたしには彼をわたしの色に染めることは出来なかったし、」

部長「色をつけた相手もわからなかった。彼って、誤魔化しが本当に得意で当時から色々と…うん、色々と普段から凄かったなぁ…」

部長「だけど誰だったんだろうなぁ、彼をあそこまで夢中にさせて、無色透明だった彼に、人間らしい色をつけた存在って…」

先輩妹「………………………………………………誰でしょうね」

部長「うん! きっと素晴らしく人間が出来た人だとわたしは思う!」

先輩妹「どうでしょうかね」

部長「一度会ってみたい。一度だけ、会わなくても一目見るだけでも」

先輩妹「別にいいんじゃないですか」

部長「願わくば友達に、知り合いに? 顔見知り程度でも、うんうん」コクコク

先輩妹「それは、とっくに」

部長「うん? 今なにか────」




コンコン コンコン

部長「あら?」

先輩妹「……、」チラリ

部長「うん。もしかしたら部活の子かもしれないわ、あーそのぉ~…?」モジモジ

先輩妹「安心してください。別に、今ドアが開いたとしても逃げ出したりはしませんよ」

先輩妹「…きちんと話します、先輩さんとどういう関係かは」

先輩妹(まぁ以前先輩さんが糞兄貴に説明したやつ丸パクリしますけども)

部長「ほんとに? わぁ~ありがとう、感謝するわ。じゃあ早速ちょっと対応してくるから」スタスタ

先輩妹「どうぞ、お構いなく」

先輩妹(なんだか露骨に疑いすぎでしたね。今日日、色々とありましたので警戒レベルマックスにあげすぎてました)

先輩妹(…やるこはやりやがりますが、警戒するほどではないと判断します、いやはや、私も随分とまた性悪な人間に成り果てましたねぇ)






「【なにひとつとして君が置かれてる状況は【大丈夫安心だ】なんてモンじゃないよ、妹さん】」







先輩妹「……………………………、」

先輩妹「はいっ?」くるっ

「だってそうじゃあないか、こんな狭い誰もいない空間で、お昼ご飯なんて少し考えてみればおかしいことなんだよ?」

先輩妹「…………なん、で」

「けれどのんびりこんな埃っぽい所で、君は楽しくお食事なんて…」



男「僕としては、普段の場所に君が居なかったことに、とてつもなく恐怖を覚えているというのに」ニコニコ



先輩妹「せん、ぱい、さん」

男「やあ。探したよ妹さん、まさか演劇部部室に居るんなんて思わなかったけれど、一番可能性として低いと思っていたけれど」チラリ

男「……釣ったの?」

部長「うん?」ニコニコ

男「まあ良いよ、うん、さあ妹さん。僕は帰ってきたから、いつもの場所で食べようじゃあないか」

部長「えぇ~…? ここで一緒にみんなで食べたらきっと、楽しいよ?」

男「あはは。なら、部長さんも一緒に講義室へ来ますか?」

部長「ううん、それは遠慮しとく」ニコ

男「そうですか、なら妹さんは?」

先輩妹「え、ええ、まぁそういうのなら戻ろうかなと…」

部長「戻っちゃう?」

先輩妹「………えっと、その、先輩さん。実はこの人に、はなしておきたいことがあって」

先輩妹「えっ?」

男「なにもありはしないよ、なにひとつとして、変な話だけど彼女に対して説明することは」

部長「ええっ!? い、色々とあると思うけど!?」

先輩妹「そ、そうですよ、なんですか急にそんな…」

男「妹さん」

男「──しぃー、静かに」

先輩妹「え、ええっ? 静かにって、えっ?」

部長「あ、そうだ込み合った話があるのなら部屋に入ったらどう? 美味しいお茶があるよ?」

男「無理です」

部長「む、無理?」

男「いらないとかじゃなくて無理です。絶対にこの部屋には一歩も踏み入れませんよ」ニコニコ

男「──部屋の鍵、ごく最近に生徒会から部費を増やして新しく購入してるよね、部長さん?」

部長「おっ、おぉぉお…っ?」

男「そういうことです」ニコ

部長「なっなんだかすっごく疑われてるって言うか、おとこ君っ!? やだ、そんな顔で見ないで!」

男「妹さん。行こうよ、講義室に」




「【なにもない】」




先輩妹「えっ?」

男「なにもありはしないよ、なにひとつとして、変な話だけど彼女に対して説明することは」

部長「ええっ!? い、色々とあると思うけど!?」

先輩妹「そ、そうですよ、なんですか急にそんな…」

男「妹さん」

男「──しぃー、静かに」

先輩妹「え、ええっ? 静かにって、えっ?」

部長「あ、そうだ込み合った話があるのなら部屋に入ったらどう? 美味しいお茶があるよ?」

男「無理です」

部長「む、無理?」

男「いらないとかじゃなくて無理です。絶対にこの部屋には一歩も踏み入れませんよ」ニコニコ

男「──部屋の鍵、ごく最近に生徒会から部費を増やして新しく購入してるよね、部長さん?」

部長「おっ、おぉぉお…っ?」

男「そういうことです」ニコ

部長「なっなんだかすっごく疑われてるって言うか、おとこ君っ!? やだ、そんな顔で見ないで!」

男「妹さん。行こうよ、講義室に」

先輩妹(先輩さん…?)

男「……」じっ

先輩妹(わ、わかる。なんでかどうしてわかってしまう、先輩さんが珍しくも少し───)


              焦ってる?


先輩妹(私が分かってしまうほどなんだ、それが、どれほどの事なのか恐くて怖ろしい)

先輩妹(…さ、さて、疑問点は二つ)


その【焦り】が『個人的』なことなのか。

      それとも『私達の問題』に関することなのか。


先輩妹(後者なら論外、むしろ論外、即脱出。しかし、けれどながら)


──かくいうその焦りはとてつもなく、甘くて。


先輩妹「……」ゴクリ


可能性であるとすれば、この女性が、女子生徒が『先輩さんのシークレット』を秘めている。


圧倒的興味を打ち込まれる【前者】なら?


先輩妹(あぁ、ほんっと私の悪い癖ですね。ええ、気になるととことん気になってしまう)

どんなに突き詰めて、折り合いつけて、頑張っても、


先輩妹(──異常は楽しい、異変は愉しい、なら味わえないというのは罪ではないか?)


この感性は切っ先を震え上げる。

          しかしながら、私も馬鹿ではないので譲歩をする。


先輩妹「せ、先輩さん」

男「…何?」ヒクヒクッ

先輩妹(あ。多分、いま見破られた、私の意図)


今更立ち止まれない、突っ込んでぶっ込んでいくしか無い!


男「妹さん、君が何を考えても───」

先輩妹「こっ、恋バナしませんか?」

男「……」

部長「……」


男&部長「えっ?「なにそれ素敵!」」


先輩妹「だ、だってほらお久しぶりなんじゃないんですか? おふたりとも、こうやって会話すること自体…数年ぶりと見ましたがどうです…?」

部長「いい勘をしてるね彼女、素晴らしいわ」ウンウン

男「…部長は黙っててください、あのね、妹さん」

先輩妹「【それはやっぱり今の恋は言えないってことですか?】」

男「──………」

先輩妹「昔馴染みの彼女には、話せないことでしたら…ええ帰りましょう」

部長「えぇ~…それは寂しいわね…」

男「……」

部長「おとこ君。やっぱりまだ当時からの恋は続いてたのかしら」

男「……」

部長「うん?」



男「…………」ジッ



先輩妹(怖い怖い恐い恐い強い強いコワイコワイコワイ)ドッドッドッドッ

男「……」ニコリ

先輩妹「っ?」ビクゥ

男「部長さん、少しの時間だけお邪魔してもいいかな?」

部長「本当にっ? わぁ~、なんて素敵な日なのかしら! ほんっとに上がってくれるの?」

男「うん。良いよ、けれど条件があるからおとなしく聞いててね」

部長「はーい」

男「鍵を渡してもらってもいいかな」

部長「え、でも一つしか無いから…」

男「だから貸してもらうんだよ部長さん。この言葉の意味、わかるよね?」

部長「む。少し疑いすぎじゃないかしら、おとこ君は何時からそんなに人を信じることをやめたの?」

男「妹さん。君が昼休みをご飯を食べずにここに居た、その【きっかけ】は?」

先輩妹「鍵を閉められました」

部長「わーすなお~…」ガックリ

先輩妹(やったるところまでやったんです…もうこれ以上無茶はしたくないので…)

男「はい。貸してくだだいね、部長さん」ニコニコ

部長「…わかりました、此方も素直に従います」チャリ

男「………」


スタスタ ガチャ ガチャ


男「うん、鍵穴と合わないねこの鍵、次もまた合わなかったら生徒会に無断でかつ個人的な部費の使用を報告───」

部長「こちらでございます」スッ

男「ありがとう」ガチャ


キィ ……パタン ガチャ


先輩妹「あ、あれ? どうして『先輩さんがドアの鍵を閉めちゃうんですか?』」

男「…どうして?」

部長「?」

先輩妹「っ……」ゴクリ


男「──今、どうしてって聞いたのかな?」


先輩妹「せ、先輩さん? ど、どう、どうして此方を見ないんですか…?」ドッドッドッドッ

男「僕は今から大切な話をしようと決めたんだ。だったら、」

男「誰もこの部屋に来てほしくはないし、誰にもその話を聞いてほしくもないから」

男「愉しい、楽しい、そんな恋バナをしようと思って僕なりに考えてみたんだよ」くるり



男「───素敵なお昼の時間にしようよ、妹さん」ニコリ



先輩妹「ッッ~~~~~~~!!」ゾクゾクゾクゾク

部長「うんうん、確かにみんなで恋バナをするなら素敵なものにしないと」ウンウン

先輩妹(は、始まるっていうんです? これから、恥も外聞もない己の恋路を暴露しあうノーガードの殴り合いバトルロイヤル───?)


この時、私はなにも理解してなかったのだ。

先輩さんの隠された意図。部長さんという【まったくもって私達の問題に関係ない存在なのにやばい人】。

そして、私の置かれた絶体絶命の崖っぷちリアル。

先輩妹「や、やりましょうじゃあないですか、ええ構いませんとも…っ?」

男「そっか。お気に召されたようでなによりだよ、じゃあ──」


ピッ ピッ ピッ


男「──些か【三人】じゃあ寂しいから、きっと【三人】じゃあ愉快な恋バナもすぐに終わってしまうだろうから」

男「お客様を呼ぼうか。一人1つずつ、みんなでお話をすれば後四十分もあっという間だろうからね」

先輩妹「な、なにをしたんです……か?」

男「更に三人呼んだよ」


男「一人は同級生君」

          男「一人は先輩さん」

                    男「一人は、幼馴染ちゃん」


男「この【三人をこの場所、体育館第二倉庫へと来るようにと今、メールとラインを送らせてもらったんだ】」

先輩妹「……………………………え、なにそれ、うそ」

部長「いまから三人も来てくれるのっ!? えっ、えっ、えっ、どうしよう、お茶のカップ足りるかな…?」ガサゴソ

男「妹さん」

先輩妹「……………ハイ」

男「今からみんなで、楽しく頑張って、恋バナだから」

男「───その【覚悟】を、僕は素直に嬉しく受け取って、立ち向かわせていただくよ」


先輩妹「何を考えて、らっしゃるんですか?」

男「というと」

先輩妹「何を考えて、らっしゃるんですか?」

男「というと?」

先輩妹「全部ですよ! 全部っ、貴方が今! 言ったことはどうなることになるとお思い何ですか…!?」

男「……」

先輩妹「今での…全ての努力っていうか、覚悟を、無かったことになるかもしれないぐらい…っ」

男「そうだね、確かに妹さんに言うとおりだと思う。至極まっとうな意見だよ」

男「…で? それがどうかしたの?」

先輩妹「せん、ぱいさん…?」ゾクッ

男「君の言う通り危ない状況になりそうだ。大変だ、苦しい思いをするだろうね、気苦労だ、危ない橋を渡ることになると思う」

男「しかし、君はそれを乗り越えることは、はたして出来ないのだろうか」

先輩妹「乗り越えられるって…」

男「僕は【期待】してるんだよ妹さん」

男「…君が多少ながらも、本気で僕のことを見破ろうとしてきた好奇心。良いよ、そういったモノを向けてきたのは───」

男「───君で【二人目】だからね」

先輩妹「……?」

男「くす。ごめんね、これも僕なりのちょっとした好奇心なんだよ。君と僕が初めて会話してきたとき並に、今はとても【怖がってるんだ】」

男「恐くて、怖くて、身体が勝手に震えてる。有りもしない想像以上のものが僕に迫り来る幻視を、見てしまっているかのように、とかさ」

部長「!」ぴくん

男「…おっとと、流石だ小声でも感じ取るんだね。始まってもないのに、これは少し興が乗りすぎた」コキッ

男「──というワケだから、妹さん。これから僕とみんなで【ゲーム】をしようじゃあないか」

先輩妹「へっ? げ、ゲーム?」

男「事は実に簡単だよ、ちゃんと把握をすれば如何に『勝ち負け』であるかを理解できる」

男「これから集まる六人で行われる一つのゲーム…もし仮に、その勝者となった場合、君にご褒美をあげよう」

先輩妹「ご褒美ですか…」

男「うん。君が僕のことを知ろうとした、それなりの対価をあげるよ、…まぁそんな物に興味が無いのなら良いけどね」

先輩妹「……」

部長「ゲームをするの? いいわね、わたしもご褒美が欲しいよおとこ君」

男「だめです」ニコ

部長「ちぇーっ」

男「それで、どうするの? 聞きたい? ご褒美は何だって一つ、【君からの質問に答えてあげる】というものだけど」

先輩妹「…それは、」

男「うん?」


先輩妹「──貴方が好きになった人のきっかけ、を教えて下さい」


先輩妹「と、聞いたら素直に答えてくださるのですか?」

男「……勿論だとも。それが一番君が聞きたいことだというのならね」

先輩妹「ええ、そういえば貴方から直接原因となるきっかけを拝聴してませんでしたから、」

先輩妹「誤魔化さず、はっきりと教えてくださるんですね?」

男「以前に言ったことあるけれど、真剣勝負には真剣に挑ませてもらうから安心して良いよ」

先輩妹「…わかりました、では、先輩さんご覚悟されておいてくださいね」

男「うんっ!」

先輩妹「………、」

先輩妹(なんでこうなったんでしょうか!? 私の責任!? 勝手なことをしたから!? 黙って先輩さんの過去を探ろうとしたから!?)

先輩妹(一種の好奇心ってやつにどれだけ過敏に反応しやがるんですか!? あぁあぁ…どうしよう…本当にどうしよう…っ)

先輩妹「………」ズーン

部長「ねぇ」ニコニコ

先輩妹「…なんです?」

部長「やっぱりお似合いよ、貴女たち」ニコ

先輩妹「はっ? ……つか、貴女がここに紙袋で呼び出さなければ、こんな事にならなかったんじゃないんですかね…」ボソリ

部長「まあ! 笑ってしまうぐらいに責任転換ってやつよ、それ?」キョトン

先輩妹「…なんとでも言ってください」

部長「でも、楽しいわ。こんなのとっても久しぶりすぎて、うふふ、鼻血出ちゃいそう」

先輩妹「……」じぃー

部長「だって、おとこ君と一緒に遊べるんだもの。それに、貴方達がどんなことを───」

部長「──共通して、共有して、繋ぎ合っているのか。それも後少しでわかりそうで、くすくす、うふふ」

先輩妹「…知りたいんですか、そんなにも」

部長「んー? だって楽しそうなことがあったら、混ざりたいって思うのはおかしいことじゃないでしょ?」

先輩妹「……、」


楽しくはない、今も昔も未来も、きっと『楽しい』なんて思える日が来ることは一切ない。

私達がしようとしていることは、先輩さんと私が、やろうとしていることはそんなコトだ。


先輩妹「…そんな人達と、まぁ今から密室に閉じ込められるんですけどね…」

部長「?」



コンコン コンコン


男「どうやら来たみたいだね」

先輩妹「っ」

男「──今からみんなで恋バナで、ゲームで、楽しい時間を過ごすわけだけど───」



 それは勝ち負けがあるゲームだというのなら。



男「それなら一体、誰がルーザーになるのかな?」ガチャリ


    負けた人間の『代償』は果たして?


男「始めようよ、きっとそんな誰もが楽しめる時間をね」

~~~~


男「さて、皆さんこんにちわ」


先輩「うむ」

幼馴染「こんちゃーす」ビシッ

同級生「……」

先輩妹「こ、こんにちわ」

部長「お茶のパックはコレとコレで、あ、うん、こんにちわ~」


男「とりあえず始めに、来てくれたことにお礼を言っておくね。ありがとう、みんな」

先輩「はっは、なんせお前の頼みだからな、珍しいこともあるもんだと一目散だ」

幼馴染「ぎゃーっ! というか部長っち居るじゃんチィーッス!」

部長「うふふ、ちっすぅー」

幼馴染「ちっすっすっすー、まあまあ素敵なカップに素敵な紅茶、みるも見たるも常日頃から素敵三昧ですなぁ!」

部長「貴女こそ、普段と部活の時の差がまったくもって違いすぎてギャップレベルの話じゃなさすぎ無いかしら?」

幼馴染「あっはっは! …へっ! おうよ、つまりはこれがわたくし、『ソフトの鬼』と言われ恐れられる原因でもあるんだ、ふぇぇぇっ」

男「うん。自分で言って後から傷つくのは悪い癖だよ、よーちゃん」

幼馴染「超絶プリティーできゃるきゃるぷるるんな女の子になりたい…愛されLOVEヒューマンに超変身したい…」

先輩「それはそれで、色々と俺が困るんだが…どう接すればいいのか未知の領域すぎる…」



先輩妹(あ。そうか、糞兄貴とお姉様そして部長さんは全員──部活の部長なんだ、面識や会話程度はしてるのも当たり前ですよね)

同級生「……」

先輩妹(で、この人は些か場違い感が)ジィー

先輩「ほう」ジィー

同級生「…なんだよ兄妹揃って」チッ

先輩「同級生、お前が居るのが少し意外でな。なんだ、男に呼ばれて来たのか?」

同級生「だったらどうだって言うんだよ、部長サン、あんたに関係があることなのかよ」

先輩「無い、だろうな。済まない余計な詮索をした」ペコリ

同級生「あっそ。相も変わらずかたっ苦しい行儀の良い動く地蔵様のようで、こっちも安心したよ」


先輩妹「……」じぃーーーー


同級生「…だからお前はなんだよ、さっきから、なんか文句でもあるのか?」

先輩妹「ありません」フルフル

同級生「じゃあ見んな」

先輩妹「お久しぶりですね、あれから会えてませんでしたが事の次第はお聞きになりましたか?」

同級生「話しかけてきやがった……ああ、聞いた。良かったな無事に済んで」

先輩妹「あれ、心配してくださってたんですか?」

同級生「あ?」

先輩妹「そのような口ぶりでしたので、ええ、違うのならスルーしてください」

同級生「ッ…この兄に妹ありだなッ! ほんっとテメーのことは大っ嫌いだよ、一生話しかけてくんじゃねえ」

先輩「なにぃッ!? 今、妹のことを貴様は愚弄したのかッ!?」クイクイクイクイ

幼馴染「で、出たーッ! 先輩っちの、怒り絶頂付近で発生する『高速でメガネを指でクイクイする』奴ぅー!!」

男「そんな新技また出来たの?」

幼馴染「でけたの」コクリ

先輩「新技とかのほほんと言うんじゃないそこ! …オイ同級生、聞き間違いであるのであれば謝罪しよう」

先輩妹「ちょ、ちょっとお兄ちゃんっ?」

先輩「妹よ、お前は黙ってなさい。家族を馬鹿にされても聞き流せる、そんな優しい人間ではないからな」

同級生「……」

先輩「お前には、散々妹の素晴らしさと可愛さを伝えて──出来る限り共感してもらっていたと思っていた」

先輩「むしろそれこそが、その話題こそが同級生…お前との繋がりだと信じていた…」

先輩妹(なに言ってんのこの糞兄貴)

同級生「確かに、アンタとの会話は殆ど全部妹の話だったな」

先輩「だろうッ! では何故だ!? 今どうして妹に対して冷たく出来る!?」

同級生「……。それは、」



同級生「テメーのせいで、こんなクソアマのことを1から10知っちまったからだよ、ばーーーか」


先輩「………」

先輩「なにをーっ!?」クイクイクイクイクイクイクイクイ

同級生「ハッ! どんな理由であったとしでも、んなキモい話題が信用たる繋がりに至るとか笑わせるなよ、笑ったけど」

同級生「──喚け、いいぞ嘆け、テメーみたいな勘違い高慢は己の無様さを身をもって知って、そして、死んでくれ」

先輩「し、死ねは言いすぎじゃあないか…っ!? んんっ!?」ガタリ

同級生「そうっすか。じゃあ死ななくてもいいんで、病院のベッドの上で脳みそ以外の器官を健康に過ごしてください」

男「ちょっと、ふたりとも───」


部長「ハイハイ、ストップだよ」パンパン


男「──……」

部長「大変仲が宜しくて喜ばしいことだけど、良い? 案外お昼休みって時間があるようで少ないの」

先輩「う、うむ」

部長「先輩さんもね、それに君は初めて見る子だけど、今は楽しむべきことは選ばないと。ほら、せっかく皆で揃ってるんだから」

同級生「…アンタ誰だよ」

部長「演劇部部長さんです」ニコ

同級生「演劇…?」チラリ

男「…」ニコ

同級生「ハンッ! …で? そんな『オレが知らないアンタが』、なに『オレのことをわかったように』言い出してるわけ?」

部長「えーこうやって皆で集まれるってことは、うん、君もわたしも仲良しさんになれるってことだと思うから…」

同級生「あー出た出た、居るんだなぁまだ脳内お花畑みたいなスッカスカのお気楽な奴が、オイ、ここは何時ディズニーの世界になったんだ? ん?」

部長「ディズニーは面白いよ?」

同級生「一々会話が噛み合わねえ奴だな…色々と思い出すじゃねえか、少し黙ってろ」


先輩妹(誰のことでしょう?)

幼馴染「誰のことだろうね?」

先輩「うむ…わかるか?」


男「さ、さあね…」

部長「あぁ、それならごめんなさい。わたしってばほら、よく人からも何考えてるかわからないって言われちゃうから」ニコニコ

同級生「聞いてねえんだよそんなことは、良いか? オレが言いたいのは、オレに対して分かったように口を利くな、口を出すな、言い出すな、だ」

部長「えぅ…そ、そんなぁ…それじゃあ楽しく会話も出来無いよ…」

同級生「求めてねえから安心しろ。誰もテメーと談笑なんて望んじゃいねえし、そもそもどうしてオレがんな寂れた場所に来ないと、」

部長「せっかくこの【紙袋】のことも聞こうと…」ガサリ

同級生「いけないと、」

同級生「…………」


同級生「………………………………………えっなんでそこにあんの?」


先輩妹「あー…」

同級生「!? えっ? あっ!? ま、待て!! …………はぁああああっ!? なんでお前持ってんだぁああああああああああああ!?」

部長「わお」

男「………」

先輩「ど、どうした急に?」

幼馴染「その紙袋がどっかしたのかえ?」

同級生「…!? な、なんでもない…っ…つか、オイ、お前なんで持ってんだ、言え、言わないと駄目だ、早く言えッ!」

先輩妹(焦ってる焦ってる)クスクス

同級生「ちゃんとロッカーに鍵をかけてしまってたハズ…ッ」

部長「どうしてだろうね?」ニコニコ

同級生「…………、そうか」


                             ヂリッ



同級生「【お前も【邪魔】をするやつか、お前もオレの平穏を壊すやつか。ならいいぜ、とことんやってやる】」

先輩妹「…え、同級生さん…?」

先輩妹(どうしてここまでキレて、え、この感じ、以前に金髪さんとの会話の時と同じような───)

部長「うん。どうして君が焦ってるのか分からないけれど、わたしはてっきり『おとこくん』が使ってたものだと思ったんだけど?」

先輩妹「……え?」

部長「でも、そっか~確かに匂いが一緒だから、君がつけている香水と同じ匂いがするから、」


部長「──ふむふむ、一緒にお出かけでもしたのかな?」

部長「──この格好で、その人と」ニコ

同級生「───………」

先輩妹「ハッ!? えっ、嘘!? ということは、まさか……」チ、チラリ

先輩妹「……じょ、女装デートしたんです…?」ボソボソ

同級生「」ブチィッ

幼馴染「?」

先輩「?」

部長「可愛かった? ふふ、確かに似合いそうだものね。うんうん、今だと少し色気も感じられそうだもの」

同級生「なにが…てきだ…」

部長「うん?」

同級生「なにが目的だ、言え、従ってやる。今ここで言わないためには、オレは何をすればいい」

部長「まあ物騒よ、それって」

同級生「よく言う…物騒なのはどっちだ」

部長「心外だわ。わたしは本当に、最初から今までずっと楽しく皆で恋バナを咲かせようって思ってるだけよ?」



男「その通り。皆が皆、望むものを得るためにゲームを始めようと思うんだ」



幼馴染「…ゲーム?」

男「そう。それが皆を呼んだ理由、皆で楽しくわいわいと恋バナを咲かせつつゲームをやろうと思うんだ」

男「──ゲーム名は『禁ワード言い出させ遊び』、通称【言ったらダメよゲーム】だよ」

※※※※


男「皆の前に数枚の紙が置いてあるよね、今から言うことを、それぞれ皆の思った通りに書いて欲しい」

先輩「うむ?」


男「お題は『好きな人の好きな部分』で」


同級生「はっ?」

男「ここでポイントは最低でも五枚は書いて欲しい。上限はないけど、多くても十枚程度で収めておいたほうがいいと思う」

先輩妹「少ないほうが有利ってことですか?」

男「そうなるかな?」


先輩妹「もう一つ質問です。それとなーく話し進んでますが、ここに居る皆さん。全員好きな人居るんですか?」


同級生「そ、そうだっつの! 居な奴はどうすんだっ?」

部長「わー綺麗な薄赤色で綺麗ね、うふふ」

同級生「…?」

男「それについては大丈夫だよ。事前にというか、今ここで嘘をつくといった『演技』は通用しないと思ってくれていいから」

幼馴染「男ちゃんが言うとなんかすっげーコワイくらい、納得できるんだけど」カキカキ

先輩「俺もだ…」カキカキ

男「僕としては一つだけ…君は? いるの?」

部長「勿論」ニコニコ

男「ならいいよ。うん、これでこの場の全員が好きな人がいることは確認が取れた」

同級生「……。どういうことだよ全く…」ブツブツ

先輩妹「先輩さん」

男「うん、質問かな?」

先輩妹「紙が足りないんですけど、まだありますか?」

男「……、君は状況を悲観してるのか楽観してるのか分かりづらいね…」

先輩妹「冗談ですよ。でもまあ、紙に書いて書ききれるほど…この想いはそう薄っぺらくありませんから」

男「いい言葉だ。君らしいよ、そう言いつつきっちり五枚に納めてる所がまさしくね」

先輩妹「えっへん」

部長「うんうん。みんな書けたみたいよ、おとこくん」

男「了解、じゃあ皆その紙を裏返しにして、シャッフルをしてください」


シャカシャカシャカ


男「そして、シャッフルをした中から一枚を取り出して、あ、勿論取り出した一枚は見ないでね──みんなコレを頭につけて」スッ

先輩「なんだ? この輪っかは?」

男「一部に両面テープがついてるから、剥がして、その部分に取り出した一枚を貼り付けるんです」

男「それで見ないまま、その紙が周りに見えるように顔を上げてください……ドウ君?」

同級生「嫌だ」

男「ゲームなんだ。見せなきゃ始まらないよ」

同級生「なんで、んな自分の身内のモンを周りにバラさなくちゃいけないんだ」

男「そもそも恋バナなんだ。ゲーム以前に君が参加してる時点で、言わなくちゃイケないこともあるんだよ?」

同級生「ぐぅう…おま、お前はっ……オレがどうかいてるとか、どんなこと思ってるのかとか、知ってもいいとか、」

男「当然じゃないか、知りたいに決まってるよ」

同級生「はがっ! …うぅぅ…っ」プルプルプル

先輩妹(まあ同級生さんにとって、これって直接相手に好きな所を言ってるようなもんですもんね)ワクワク

幼馴染「そろそろ顔を上げても宜しいですかねっ?」

先輩「首が痛いぞ…」ギチギチ

男「あ、うん。それじゃあ皆でいっせーのーで、あげよう」


         いっせーのーで!


先輩妹(…ふむ)キョロキョロ


男 【話しやすい所】

幼馴染 【つよいところ】

先輩 【元 気 な 部 分】

部長 【一緒に居るだけで楽しいから】


先輩妹(成る程。つか先輩さんのはなんですアレ、無難すぎやしませんか)

先輩妹(他の人達はそれぞれ納得できそうな理由ですね。それで、気になるあの人は───)チラリ




同級生 【 カワイイトコロ 】



先輩妹「…、」


先輩妹「ぶっはッ」ブフゥー!
先輩「ぶふぅーっ!」ブフゥー!


同級生「ッッ…ッ~~~…クソッタレ兄妹がッ……ッ!」プルプルプル

先輩「なん、だ、クフッ、すまんッ、ほんっとすまない、違う、これは馬鹿にしてとか、ぶひゅっ」

先輩妹「…っ…っ…っ」ピクピク

同級生「お前らァ…!!」


幼馴染「失礼だよ、ふたりとも」


先輩「はっ!? お、幼馴染…」

先輩妹「ひゃいっ!?」ビクゥ

幼馴染「そんな人の気持ちを笑うことしちゃ、失礼どころか斬首刑にされても文句言えないよ」

先輩「す、すまん…確かに酷いことをしたな…」

先輩妹「ごめごめごめごめごめごめななななささささささっ」

幼馴染「うん! 悪いと思ったらちゃんと謝ること、ね? どーくんも怒らないでやっフブホォオ! あひゃひゃ! …あ、ごめっ」

同級生「恐れいった。よほど死にたいらしいと見えるな、良い覚悟だテメーら……殺す、本当に殺す」

幼馴染「いやさっ! いやさっ! なんかどーくんが素直に気持ちを他人に教えるのって、ちょっとというか凄く意外で…」クスクス

幼馴染「昔に戻ったみたいで、楽しくて、嬉しくて」ニコニコ

同級生「……、じゃあ笑うんじゃねーよアホ」

幼馴染「うん! ごめんなさい、どーくん」ペコリ

先輩「俺ら兄妹も謝るぞ…すまんな、同級生」

先輩妹「思ってませんけどすみませんでした…」ボソボソ

同級生「…聞こえてるぞ」イラッ

部長「くすくす、楽しい人達ね」

男「うん、僕もそう思うよ」


──さて、ここからが本題だ。


男「皆、他の人達がどう書いてあるか確認したと思う。しかし、それ自体は【自分はわからない】」

男「5枚からそれ以上、のうちの一枚。それぞれ把握はしているけれど、予想も予測も立てにくい」

男「──だからそれを『禁ワード』にする、つまりは今からトークを行う際に…その額に付けた『好きな部分』を言っちゃダメだってことだね」

先輩「トークとは?」

男「もちろん『恋バナ』です。どんな恋愛をしてるのか、どんな体験があったのか皆で盛り上がるだけでいいんです」

男「……けれど、その禁ワードは言ってはダメ」

同級生「確認しとくけどよ、罰はなんだ? それに勝ち残った奴の特典は?」



男「ちゃんとあるよ。勝ったほうは、それぞれ【思惑がある相手】より【勝ち残れば】、【秘密を教えてもらう】ってのはどうかな?」

先輩「…何かしら部長と同級生にはありそうだったが、俺らはなにもないぞ?」

男「本当にそうですか?」ニコニコ

先輩「ッ…!? ま、まさか…出来るのか…?」

男「よーちゃん」スッ

幼馴染「はいよ?」

男(未だに【先輩さんに今ひとつ近寄れない理由】は、先輩さんが勝った時に言えたり出来る?)ヒソヒソ

幼馴染「えっ…?」

男(仮にもしだよ、これを機によーちゃんが【先輩さんより勝ち残ったら】、【君が知りたい先輩さんの秘密】を僕が教えてあげるよ)ヒソヒソ

幼馴染「そんなの、それは、」

男「駄目なら良いよ。でも、よーちゃんはきっと知りたいと……思ってるんじゃあないかな?」

幼馴染「……。はっはー」

幼馴染「いい度胸じゃあんおっとこちゃん。いいぜ、乗るぜその提案!」ピキーン

男「そっか。ありがとう、……良いみたいですよ?」ニコ

先輩「そ、そうか」ホッ

男「じゃあ君はどうしようか?」

部長「わたしは既にいるから大丈夫よ」ニコニコ


同級生「…」ゴゴゴゴゴ


部長「わたしは彼にしとくから。うん、それじゃあ単純に負けてしまった時の『ゲームとしての罰』は何かしら?」





男「シンプルで良いかなって、ただ『書いたご枚以上の紙』を周りに見せるだけだよ」

部長「わかったわ。うふふ、じゃあ早速だけどはじめましょうか」ポン


部長「──楽しい楽しい、お昼休みを!」



~~~~


先輩妹(まあ案外事は単純なんですよね、私は先輩さんより勝ち残れば良い)

先輩妹(それに今から始まるのは『恋バナ』。他のルールは存在しません、たったそれだけです)

先輩妹(話す順番はサイコロで決めるらしいですが、それもまた良いです確率でしょうから)

先輩妹(『一番警戒しなくちゃいけないコト』、だけを集中的に力を入れていきましょう)


トントントン…


先輩妹(私が書いた5枚は、悩まずに【簡単】に思い出すことは出来る)


『明るい所』 『部活を頑張ってる所』
   
   『髪が超きれいな所』 『努力家の所』 『使い込まれてるのに綺麗な指先』


先輩妹(この5枚。普通に『この5枚の言葉』を言わなければ良い話なんですよね、結局は)

先輩妹(つまりはボロを出さなければ勝ち残れる。それだけの話し、たった問題はそれっぽっちなんです、しかし)


男「…」

部長「フンフーン♪」

同級生「チッ」


先輩妹(【この三人相手に誤魔化し、乗り越え、対処できる自信がちっとも沸かない】……!!)

先輩妹(そうなんです、そうなんですよ、単純に恋バナ。けれど単純すぎて明確なルールが存在しない…)

先輩妹(ならどうやっても良い。恋バナに準することであれば、【なんでもやっていい】)

先輩妹(けれど目的はそれぞれあります。相手にされてない場合もあるでしょう、ですが、これは元よりバトルロワイヤル)

先輩妹(勝ち残り、生き残り、六名が減れば減るほど──惑わす敵も減るということ、ならばまず目的よりも難敵や陥れやすい人間を標的にするハズ)



       …┣¨┣¨┣¨┣¨ドドド ド ド ド  ド  ド  ド



先輩妹(仲間は居ません、全員敵です。無論、お姉様であっても…!!)

男「それじゃあサイコロを振るよ」カランコロン


 『6』


男「じゃあ部長さんだね」

部長「わー最初にわたしから? うふふ、なんだかとっても緊張するわね」

同級生「…好きな奴のことを話してくれるんだろ、早く言えよ」

部長「まあ! そんなに急かさなくてもちゃんと言うわ」

部長「えっと~…」


                     トントトン…トン



「『素敵な笑顔』で『素敵な目標を持ってて』『素敵な色を持ってて』」
   「『何に対しても本気で挑もうとするところと』『顔が可愛くて女の子みたいな部分』に」
「『案外お金の計算が弱かったりするところ』や『記念日なんかを大切にする』なんて素敵よね」

       「『一人ぼっちでいるとき泣いちゃってたりする』らしいけど『周りには決して弱みを見せない』や」
  「『一度信じたら最後まで信じようとする』し『考えて無さそうで実は深く物事を捉えてたり』」

「あと『指先がとっても綺麗』で、えーっと『クビの裏にホクロがあるの可愛い』わよね」

「『全部実は好きだけど』、『好きな態度を見せたら猫みたいに距離を置く所』も実にキュートだと思う」

「んー? だから『一緒に遊んでると素敵な思いをする』し『一緒に居るだけ───………」


部長「うん。このへんにしておくわ、えへへ」テレテレ


先輩妹「…」ポカーン

同級生「今のは、どういう、意味」

部長「え? 好きな所を言ったんだけど…?」

先輩妹(嘘、まさか『紙に書いたやつを殆ど全部【あえて言ったんですか】』!?)

男「部長さん…君はルールを理解してるよね?」ゾク

部長「もちろんよ? でもこれで、うーんと三択ぐらいに絞れたかなー?」トントン

同級生「…オイ、最初から勝負を放棄してるっていうんなら、こんな茶番やるんじゃねえよ」

部長「まあ!」

同級生「だろうが。んな無茶なことして勝つ気あんのか疑わしいんだよ」

男「ドウ君」

同級生「黙ってろ。オレは苛ついてるんだよ、仕方無く従ってるみたいな、なんら本気を見せないコイツに、」

男「駄目だ。それ以上言っちゃいけない、静かにしてて」

同級生「…あ?」

男「【ノセちゃ駄目だ】、【ある程度遊びで参加させる】ことが大切……だったんだ、もう遅いみたいだけどね」


部長「……」じっ


同級生「な、なんだよ?」

部長「素敵」

同級生「はっ?」

部長「ワタシのことで本気だなんて。うふふ、凄くいい感じよアナタ」

部長「だからきっとワタシも本気で頑張らなくちゃいけないハズだから、」

部長「ワタシもアナタを本気で負かそうと思うケド、良いかな?」ニコニコ

同級生「…っ…」

幼馴染「こっわーその笑顔こっわー」

先輩「お、おい…なにがどうなって同級生…そんな辛い立場になってるんだ…?」

同級生「…ッ…」ギリッ

部長「フーンフーン♪」トントトン



※※※


「……」

(正直な話し、やって見る価値はあるんだ、今部長さんが行った『取捨選別』)


部長「でも、今のはとっても恋バナのような感じはしなかったよね。うんうん」


(ただただ闇雲に『書いた5枚以上の紙』を口頭に上げて言い放っただけじゃない、)

(確率の問題ではなく、そんな無茶で無謀なことをするような───人ではないことを【僕】は知っている)


部長「んー? でもわたしの恋バナってひとりよがりの所が多すぎて、うーん」

(確実に言えることは、さっきの暴挙とも取れる、いや、【暴挙に思わせておいて裏がある】ことは本当なんだ)


(──彼女は、部長さんは、お題である『好きな所』を口に出す際に、皆の表情を伺っていた)


(マシンガンのように言い放つ言葉が一体全体何であるのか皆に浸透するのを、じっくり観察していた)

(観察の理由、それは言い切った後に説明する前に、皆は『彼女がやっている無茶』を半分ながら理解しつつ【待っていた】から)

(その待つ表情は、どんな表情よりも素の感情が浮かびやすい。虚を突かれ、不意を突かれ、彼女の行動に惑わされたからこそ出る驕り)


(彼女の『禁ワード』が何時飛び出してくるのか期待した表情)


(…そして彼女は予め用意しておいた。『五枚以上の紙』のうち何枚かを【同じ始まりの単語】で書いていた)


『素敵な笑顔』
   『素敵な目標を持ってて』
         『素敵な色を持ってて』


(このゲームは【禁ワードを言い切った時点で負け】というのがルールだから、彼女はそれを逆手に取り利用した)

(【たった最初の【素敵】という単語で、周りが反応を示すのを】)

(皆は期待する。言い出した言葉に勝ちたいがために喰らいつく──その余裕のない素の感情、それを【観察】していた)


『んー? だから『一緒に遊んでると素敵な思いをする』し『一緒に居るだけ───………』


(ここで、ここで、彼女は言うのをやめた。いや躊躇った、理由は当然『一緒に』という単語に誰かが反応を示したから)


(一見彼女の行動が自暴自棄に見えてしまったからこそ滲み出た欲を、部長さんは見逃さなかった)

男「ふぅ」

男(と、まぁ、ここまでが【彼女の裏として捉える考察】だよね)コキッ


部長「わたしは、きっとその人には嫌われていると思うの。だって、ほらわたしってこういうの性格だから」

幼馴染「でもモテてるじゃんねー?」

先輩「うむ。時折、部長の下駄箱から大量の恋文がこぼれ落ちるのを見かけたことがあるぞ」

先輩妹(恋文て…)

部長「え、でもあれは大体が女の子からだからなぁ」

幼馴染「んきゃーゆりゆりっすかっ? うっひゃー!」

先輩「ええっ!? そ、そうだったのか…う、うむ…なんという状況だ…」


男(……、結局はそれも違うんだ)


【それも】【実は裏じゃない】。
    【彼女の罠だと言い切れない】。
【部長さんはもっと違った観点で皆を陥れようとしていて】、
    【本当は何も考えてなく行動している】
【しかし、それすらもブラフである可能性もある】


男「…【裏】の【裏】はなんだっけかなぁ」


一つ言えることは、ただただ、部長さんを本気にさせないで楽しませること。それが大事。

彼女が何かしら本気で物事に関り合いを持とうとするのは、些か、僕だってご遠慮願いたくなる。


男(見方を変えれば【さっきの自暴自棄風作戦だって本当の暴挙】だろうしね、だって同類単語ワードが少なすぎるし)


だから、これは遊びなんだ。

彼女が【今】という昼休み、恋バナ、ゲームを十分に堪能して盛り上げるための演出にしか過ぎない。


男(ハズ、なんだけど。それすらも遊びの可能性もあるからなぁ、あはは、参ったね)パキッ


コキッ ペキッ ポキ…


男「うーん、本気で勝ちに行くかぁ…」ボソッ

先輩妹「ッ…!?」ゾクゾク


幸せを手に入れるためにはどんな代償だって飲み込める。

それが、幸せを分かち合い信じあう二人相手であっても、僕は僕で個の幸せを手に入れるだろう。


男(敵であるのなら、敵なんて時代錯誤の言葉が当てはまるなら、僕は見事その役を【成り切ろう】)


追い求める先という答え、そんな自分の未来を見通せる力があるのなら。

ぜひとも知りたいものだ。
                 僕がどうやってこの場で勝ち残っていくかを。

※※※

「──君が好きだというのは、どういった観点で言えるのかな?」

部長「うん?」

「例えばの話。僕と君は案外昔からの付き合いのある一人であって、それも案外君のことを詳しく知れてないから聞くのだけれども」


男「例えば君の感覚で言える『好き』は、一体全体なんなのかなぁって思うんだけど」


先輩妹「…!」

先輩妹(う、動いた。ここで動いたんですね先輩さん…! つまりは敵として部長さんを定めたということ、ですか?)

部長「う、うん? ごめんなさい、ちょっと言ってることが難しいかなって…」テヘヘ

男「そうでもないよ。君が好きだって思えた相手の、その人物の印象について語ってくれればいいだけだから」

先輩「おお。意外にも直接的に突っ込むんだな」

幼馴染「げへへ。お主も勝ち負けには本気を見せるようですなぁ?」

男「あはは。出来れば僕だって負けたくはないからね」

部長「ああ、そういう…」

部長「…だったら頑張って言わないよう説明するけれど、そうね、うーん」


部長「顔が好きね、うん」コクコク


男「あ、凄く面食いだということ?」

同級生「その感想はどうなんだ…」

先輩「うむ。顔だけで判断するのは些か安易すぎるな、しかし他人の感性だ、反論はしないが…」

同級生「アンタ笑ってたよな、オレの感性笑ってたよな」

幼馴染「どーくん。笑うってこともカンセイなんだぜ」

同級生「テメーは黙ってろ腐れ花畑脳内」

先輩妹「私からも質問です、顔がいいってことはその人、超イケメンさん何ですか?」

部長「ぶっぶー、イケメンじゃないよ」

男「かわいい系?」

部長「くすくす、うんうん」コクリ

先輩「ほほぅ…いい塩梅だな、揃うと見た目がいい。想像するに絵になる」

男「先輩さんて堅物の割にはミーハーですよね」

先輩「なぬッ!?」

幼馴染「うんうん、前もシュークリーム屋さんで『二人でピアスだぞ!? ピアスキャッフー!』とか意味分かんないテンションなってたし」

先輩妹「ピ、ピアスってあれっ?」

男「……」ニコニコ

先輩妹(この人! 記念日とか特別とか好きと言ってたくせに、クソ兄貴とおソロの品もの欲しかっただけじゃないですか!?)

同級生「……」ズーン

先輩妹(この人はこの人で、元彼女を思い出して傷心中だ…大丈夫かなこの人…)

同級生「…だがまぁ結局顔なんだな、アンタみたいな人を喰ったような奴でも」

部長「顔は大事よ。人がどう思おうとも、人の顔は正直に『人生』を語ってくれるし、それに、」

部長「一番他人に突き合わせる部分だから。それを大事にするのか、蔑ろにするのか、価値観はそれぞれだけど他よりも劣っていると自覚して、」

部長「そんなハンディキャップを鋭意努力し改善するのか、または他よりも優っていると自覚し切磋琢磨と磨き上げるのか」

部長「ワタシはね。なによりも努力が大好きだから、今の自分で満足や継続をする人じゃなくて、」


部長「今という自分を変える、または否定する人が好きなの」


男「それはどうして?」

部長「だって凄いじゃない? 今の自分を変えようなんて、そう簡単に『やれる』ことじゃないから」

部長「だからワタシが好きな人は『かわいい』。やろうとしてやりきれずに、なりきれなくてなろうとして、」

部長「足掻いてる。今の状況を打破しようなんて無茶をやってのけようと、ふふふ、表情に出てしまっているから」

男「……、ふーん。じゃあ」



男「そんな人と【一緒に居ることが楽しいから】、好きなんだ?」



先輩妹「──……」

私は堪えた。多分、部長さんは他人の表情を読み取るのが上手だから。

さっきの無茶もそれが狙いだったはず。わかったのは十分に安直に脅威を受け取った後だったけれど。

先輩妹(なんつーことをしでかすんですか、マジでこの人は、正気なんですかね)


今、この人が言い放ったことは『限りなく部長さんの禁ワードに【近い】もの』だった。

それをあえて彼女へと伝える。

近くとも遠い、小さくて大きな間違い。指摘できるのは我々全員と、答えを書いた部長さんだ。


先輩妹(正解に一歩近づける事を、当の本人に言う意味)


それは宣言じゃんけんと似たようなものだ。

予め自分はグーを出すと相手に宣言し、半強制的に『チョキかグー又はパーかグーの二択』に絞らせる戦法。

しかし事は単純に進まない。その宣言そのものを相手は鵜呑みにするのか疑うのか、それとも他の心理を読み取り立て直すのもアリだ。


部長「……」

男「うん?」


『つまりは複雑にさせる』。

相手に『二択化に対する真偽性』と『二択化する際の懐疑性』を浮かび上がらせるということ。


先輩妹(部長さんは先程のマシンガントークで『三択』まで絞っています。先輩さんが正解に近い単語を言ったことで、)


彼女は三択の内から二択を選ぶことになった。

実に危ない手過ぎるので思わず声が出そうになって、同級生さんの心情を思うと可哀想になってくる。

男「どうしたの?」

部長「ええ、まあ」スッ

男「あ。そうだ、思うにそういった感性って妹さんも近いんじゃあないかな」

先輩妹「うぇっ?」

男「一緒に居るだけで幸せって、以前に君もそう言ってた気がするんだけど」

部長「……」ピクッ

男「どうかな? あとホラ、なんて言ってたかなぁ──暗い人と一緒に居るのは、あんまり好きじゃないって」



先輩妹「………ッッ!?」ビクゥ



男「あれ? ──どうしたの、妹さん?」ニコ

先輩妹「い、いえ」


暗い人、と? それはなんだ、どういう意味だ。
    そんなこと言ったことはない、
                                     決して彼に伝えたことはない。


先輩妹(そ、外……外堀を埋めにかかってるんですか……?)ピクピク


私が書いた『五枚以上紙』の一つである『明るい所』を【暗に示しているとでもいうのだろうか?】

先輩妹(もちろん、この人は全員分の『5枚以上の紙』の詳細を知っているわけではありません…っ)


当てずっぽうで言っているのであれば当然無視。

だが、先ほど部長さん相手にやってのけたことを踏まえれば無視なんて出来ず、それは、


先輩妹(やる、つもりですかっ?)ダラダラダラ

男「……」

先輩妹(ほ、本当にやるつもりなんですかっ? それは、この場を完全にかき混ぜ、混沌に陥れるモノですよっ!?)

男「──…」ニコリ




                    「例えばの話」





「先輩さんは【天真爛漫な部分】が好きだというし」

   「ドウ君は【愛らしいトコロ】が好きだという」

       「よーちゃんに至っては【背が高いトコロ】が好きなんだと、いうんだろうから」



男「案外人ってのは、どんな性格であっても共通点というのは見受けられるもんなんだよね」

部長「…、」

先輩「…!」

同級生「…」ピク

幼馴染「…………」


幼馴染「?」


先輩妹(やっ、やったぁーーーー!! やりやが、マジやりやがりましたよこの人ッ! なんつぅーことを、ほんっとに!)

先輩妹(ほとんど全員分の禁ワードをニアミスで教えやがりました!!)

先輩妹(つまりは、部長さんに相手に仕掛けた策を【この場にいる全員に仕掛けやがりました】!)


先輩「なぁ男。俺は以前、お前に天真爛漫な所が好きだと言ったことはあったか?」

男「ええ、憶えてませんか? 勿論他にも『部活を頑張ってるトコロ』や『意外と筋肉があるトコロ』なんてのも聞いたことが有りますね」

先輩「……。そうか」

同級生「…」

男「それにドウ君も、他に色々と聞いたことあるけど…?」

同級生「い、いや。言わなくていい、つか、言うな! 言うんじゃない、絶対に!」

男「うん、わかった」ニコニコ

先輩妹(皆さん悶々としてらっしゃるご様子…そうですよね、先輩さんが言ったモノに対して誰もが真偽を疑っている)

先輩妹(先輩さんが上げた皆さんの禁ワード。あえてお姉様のだけ完全に間違えて言ったことにより拍車をかけています)

先輩妹(ああ、この場の一員である私だからこそ、確実な状況判断を下しましょう)



先輩妹(【今のこの場において誰一人として優位に立っているものは居ません】)



部長「おとこくん。君はわたしのことは、案外知れてないと言ってたけれど?」

男「そうだね。中学の頃からの知り合いだし、一緒に居る時間は多かったけれど…楽しい半面、残念なことに、君のことは深く知れなかった」

部長「悔やむことはないわ。それこそ互いに言えることだからね、わかりにくい話ばっかりしてたし、わたしだっておとこ君のことは深く知れなかった」

男「そっか。何かしら意図があったわけじゃないんだけどね、どうしてだろう?」

部長「くすくす。秘密って多いほど人間関係が複雑になって、芳醇とさせるものじゃない?」

男「そうかな? 僕はわかりやす方が人として、好かれるだろうし、もっと楽しく過ごせそうだけど」

部長「わかりやすいクイズほど楽しくないものはないと思う。あなたは小学生用のクイズ本で満足できる?」

男「部長さん。人は決してクイズみたいに解いて楽しむものじゃないからね、人は人だよ。楽しむべきことはもっとないのかな?」

部長「うんうん。そこまで簡易的に取られると返答に困っちゃう、でも、あなたこそもっと普通に楽しむべきことはもっとないのかな?」


男「……」ニコ

部長「……」ニコ


先輩妹(うごご、一聴すればただの会話なのにどう聞いても【互いに禁ワードを言わせようとしている会話】じゃないないですかやだー!)




うぇぇ

部長「…、」

先輩「…!」

同級生「…」ピク

幼馴染「…………」


幼馴染「?」


先輩妹(やっ、やったぁーーーー!! やりやが、マジやりやがりましたよこの人ッ! なんつぅーことを、ほんっとに!)

先輩妹(ほとんど全員分の禁ワードをニアミスで教えやがりました!!)

先輩妹(つまりは、部長さんに相手に仕掛けた策を【この場にいる全員に仕掛けやがりました】!)


先輩「なぁ男。俺は以前、お前に好きな相手の好きなところを言ったことはあったか…?」

男「ええ、憶えてませんか? 勿論他にも『部活を頑張ってるトコロ』や『意外と筋肉があるトコロ』なんてのも聞いたことが有りますね」

先輩「……。そうか」

同級生「…」

男「それにドウ君も、他に色々と聞いたことあるけど…?」

同級生「い、いや。言わなくていい、つか、言うな! 言うんじゃない、絶対に!」

男「うん、わかった」ニコニコ

先輩妹(何なんですか、本当にこの状況は一体全体そんなにも胃袋をダイレクトアタックされ続ける展開が続くんですか…)

男「うん、そろそろ部長さんの恋バナも時間切れかな?」チラリ

先輩妹「…え」

部長「あらら? もうおしまい? ざーんねん…」

先輩「うむ。されど四十分、たかが四十分だからな。後五人分を考慮するならばここらで終いが妥当だろう」

幼馴染「うぇー結局誰も言わなかったですなぁ禁ワードさんをよぉ」

先輩妹(水面下でものっそいコト起こってましたけどね)

先輩妹(っはぁ~ともかく一旦、小休止ですね。疲れた、疲れましたよもぉ)クター

同級生「サイを振るぞ。六が出たらまたコイツが話すのか?」

男「その場合はスルーしよう。次の目が出るまで振り続ける感じで良いよ」

同級生「ん、じゃあ振るぞ」


           コロ コロロ コロ…


同級生「3…ということは、」

先輩「ほぅ?」チラ

幼馴染「ほっほー?」じぃー

部長「くすくす」

男「うん、じゃあ早速語ってもらおうかな」


先輩妹「………………」ダラダラダラダラダラダラ


男「──妹さん、君の恋バナをね」ニコニコ

先輩妹「ぇぅっと」

先輩「うむ、我が愛しき妹の恋バナか。これはすなわち、あれじゃあないか?」

幼馴染「といいますと?」チラリ

男「嫌われる要因だね」

幼馴染「なるほど之助」

先輩「やはりか、危惧してたとおりだった。うむ、対処はどうするか…」

同級生「兄妹の恋路を聞く兄貴とかマジで死にたくなるレベルのキモさだな、オイ幼馴染、お前彼女ならソイツの耳塞いどけ」

幼馴染「がってんだー!」ズッボオオオオオオ

先輩「えっ、少しまむぅうううッッッ!? ま、まてぇ…! それは入っちゃいけない関節まではいっ…はいっ…はぃいいぃいぃぃ~~~…っ」ビクビクビクン

男「よーちゃん。第三関節まで入っちゃってるよ、それ」

幼馴染「おおっと失敬」ズボァッ!

先輩「───……!? な、に何も聞こえない……!? こま、こまく、鼓膜は健在なのかこれって…!?」


先輩妹「………」ポカーン


同級生「さて、準備は整ったから存分に語れよ飼い猫かぶり」

部長「あなた達って本当に仲がいいのね、見てて心底そう思うわ」クスクス

同級生「はぁ? んだよ急に、さっきわかったように語るなって言わなかったか」

部長「それならごめんね。でも、緊張して固まっちゃった彼女を和ませるため…」

部長「…みんなで一致団結して小芝居を打つ姿は、うん、久しく忘れてた感動って言葉を思い出しそうになって」

男「楽しく皆で恋バナ。それが最初の目的であって、今だって変わらずそのつもりだからね」

先輩「なにも…なにも聞こえやしない…」

幼馴染「大丈夫。一緒についててあげるから、元気だそうよ…ね?」サスリサスリ

同級生「実行犯が慰めるなよ、サイコパスか」

先輩妹「……っ…」

男「妹さん」

先輩妹「せん、ぱいさん。私にはやっぱり無理です、わかりました、ここでやっと気づきました己の愚かさに」

先輩妹「自分の番になって、語る順番になって、怖く……なりました。正直な話泣きだして逃げ出したいです」

男「大丈夫だよ。誰も君を獲って喰おうなんてしてないよ? そもそも楽しいゲームじゃないか、さっきまでの好奇心はどうしたのさ」

先輩妹「ど、どうこう太刀打ち出来る相手じゃないでしょう…部長さんを含めて、その部長さん相手に引けをとらない貴方に対して…」

男「……。君がどう思ってたとしても、例え何かされるんじゃないかって怖がっていたとしても」

男「僕は君に楽しんで欲しいと思ってる。それに僕は僕で楽しんでいるし、無論同時に君に負けないよう頑張ってる」

男「僕は初めて君の敵なんだよ、妹さん。味方じゃなくって敵なんだ、それなら君はこれからどう動くのか──」

男「──壊す?を目指している君なら、それこそ言わなくたってわかるんじゃあないかな?」

先輩妹「壊すものを目指す…」


それは、なにか一つ大きく私という存在を改変させる言葉であって。

絶対的に辿り着かなくちゃいけないモノであることは重々承知だった。


先輩妹「……」トクン

部長「…………あら?」じっ

先輩妹「わかり、ました。ならやれること、だけ、やってみます」

男「うん。それでこそ妹さんだ、その覚悟を僕は受けて立つよ」

先輩妹「はい、お願いします」コ、コクリ

部長「………」


気づいているのだろうか。

   わたしは気づけたけれど、果たして彼は気づいているのだろうか。

   いや、気づいているからこそ側に居させているのだろうか。

彼女の表情は曇らない。

   わたしは彼女の【異常さ】に少しだけ怖気づいているのだけれど。

   いや、単に怖気づいてるのなら彼が【側においてまで自由度をなくさせるわけがない】。

何か秘密を握られているのだろうか?

   成長する覚悟は留まることを知らず、我が身の守るため振るう切っ先は我が身へと訪れないと言い切れるか。

   いや、いずれ振るわれることを知ってての行動ならば。


部長「あー………………あっ、あっ、あっ~?」

部長「うんうん」トントトン




                     「なるほどね、【結局彼は何も変われないし変わるつもりも無い】のね、あーかわいい」


なのに行動だけはして、彼女なんて可愛い部下を手に入れて、そんでもってこんなゲームまでして、


部長(ああ、ああ、なんてかわいい、かわいい、かわいい、そして楽しい)

部長「……」ゾクゾクゾクゾク


久しぶりだよこんな感覚、なんて矛盾で不条理な人生を彼は選択するのだろう。


彼は、自分で自分に答えを用意できない。

人よりも何倍も器用だからやってしまう不器用さ。



部長(そっか、なんて素敵な色だなんて言ってしまったけれど)チラリ

男「……」

部長「最低ね、あなた」

男「……」ピクッ

部長「くすくす、でもそんな所も大好きよ」

男「……」

部長「わたしは十分に楽しめた。個人的には数日と掛けて【貴方達の秘密の内容と概要と重要な部分を暴き倒すつもりだったけれど】」

男「……」

部長「まーこれもまた、きみに一本取られてたってことで良いのかな?」

男「……」

部長「全てを台無しにされる前に、全てを明かされてなかったことにされる前に」


この部室内でわたしの欲求力は完全に満たされてしまった。


男「さあ。なんのことだろう、僕にはまったくもって理解できないよ」

部長「彼女は選択するわ。貴方が辿りつけない場所で、一番の答えを」

男「君が妹さんの何を知っているというのかな」

部長「そうね。そんなわたしより知ってわかってる貴方が、笑ってしまうぐらい何も分かってない所が」

部長「可愛いわ、ほっぺにちゅーしていい?」

男「…勘弁願おうかな」

部長「じゃあまた今度ね」ニコ

男「…あ」

部長「勿論、今貴方の視線を読みました」

男「……」

部長「一体誰を気にしたの? キスされる光景を見られてしまってはいけない相手はダレ?」

男「……」

部長「まーこわい…そんな怖ろしい表情しなくても…」

男「君はわかってないよ。人は単純に他人のものさしで図れるものじゃない」

部長「もちろんそうよ? けど、君はそうじゃないでしょ?」

男「…僕は人だよ」

部長「ううん。そうじゃなくって【貴方もわたしといっしょで他人をものさしで図る】ということは一緒だと言いたいの」

男「……」

部長「だからそんなわたし達にとって、あの子はとても怖ろしい」


先輩妹「わかりました、では今から皆さんに恋バナを語りましょう」


部長「ふふ、素敵ね。ああやって罪を意識しながら、それでも前に進もうとする意思ってやつ?」

男「……」

部長「どうして進めるのかな。彼女は至ってシンプルに物事の善し悪しを理解しているハズなのに」

部長「わたし達にとって、罪を罪だと理解することは、すなわち答えだから。もう他にすることなんて無いはずだと思うのに」

部長「自分の間違いを間違いだと知って…あなたが日常をひっくり返すことを安易にやってのけると知っているのに」


部長「正しく自分を客観的に捉えながら、彼女は健気に、そして誰よりも独占的に───何かを掴み取ろうとしている」


男「…どうかな、それは」

部長「怯えなくてもいいよ。大丈夫、きっとあなたはそんな彼女の矛盾した素直さに当然のように足元をすくわれるでしょうから」

男「答えなんて誰にもわからないよ。それが部長さんの望みであって、楽しみ方であってもだ」

部長「ええ、確かに。おとこ君の言う通り、答えなんてわからないし元から無いかもしれない──もし誰かが答えを用意してた、なんて場合を除いてね」

男「……」

部長「けど、彼女はどう思うかしら。意図や思惑でしか無い不細工な幸せを、彼女は素直に受け取ると思う?」

男「……」

部長「わたしは、ふふふ、あはは──わからないわ、きっと彼女の意思なんて分からない」

部長「だって、【わたしが怖がるぐらい矛盾した思考】の持ち主なんだもの。それがどんな答えを生むかなんて…クスクス…クスクス…」


クスクス  クスクス クスクス
 クスクス クスクスクスクスクスクス


クスクス  クスクス…


部長「わかってしまうなんて、そんなコワイこと出来るわけがない」

男「……、こんなこと僕が言えたものじゃないけれど一つ君に言っておくよ」

部長「なあに?」コテン

男「一度不幸な目にあったほうがいいよ、君は」

部長「あらら。それならヘーキ、そもそもわたしはこの世に生きてる事自体が不幸だから」

部長「退屈で、平凡で、平和的。でもね? だからこそ十分に遊び倒さないと勿体無いでしょ?」

男「壊れてるね、君がそういった思考の持ち主だと知ってたから関わらなかった」

部長「でも惹かれ合った」

男「…何年前の話かな」

部長「たった三年前ぐらいでしょう? ふふふ、あの時も楽しかったし今も当然のように素晴らしい日よ」

男「何時かは枯れるよ、その感性も」

部長「じゃあそこでグッドエンドね、わたしも満足してるだろうし、この世に未練もないだろうし」

男「部長さん…現実は物語や舞台なんて、そうわかりやすく出来てるものじゃないんだよ」

部長「おとこ君。この世は決まったカタチで終わることなんて、絶対ありはしないのよ」

男「……」

部長「ね?」クス


先輩妹「ちょっとお二人共? なーにコソコソ話し合ってるんでしょうかね? えぇ?」ずいっ


部長「まあ! ご、ごめんなさいね…ちょっとおとこ君との会話が楽しくて…」あたふた

先輩妹「そーですか、先輩さん。私は貴方とは勝負中ですよね? なら真剣に聞いててくださいよ、ええ、存分に立ち向かってくださいよ」

男「あ、うん。ごめんね、少しばかり話を聞いてなかったよ」

先輩妹「ったくもー聞いててくださいよー? こちとら頑張って【終わらせようとしているんですから】」

男「……?」


僕はね、妹さん。

君のことは本当に怖いんだ。初めて会った時から、今のこの瞬間までずっと君のことを恐れてる。



泣いている僕を見られてしまった時から、ずっとだ。



けれどそれと同時に、君と出会ったことによって【ひとつの答え】を見つけることが出来た。

誰かの幸せを壊して、誰かが幸せを掴み取るための手段。

行える参段として、君という存在はどうしようもなく不可欠な要因となっているんだ。


けど結局、僕は君という人間をうまく捉えきれていない。

人を喰ったかのような部長さんよりも、君自体がもっともわからない。

わかったようでわかったふりをしているだけ。君のことは、どう考えても御しきれない。


それは、そう、それはまるで───あの人のように、流石は血筋というべきなのだろうか。



(僕のことを知ろうとして、僕の過去を知ろうとする人なんて、そんな意味ないことをする人なんて…)

部長「っ……そう【怖い】、のよね」ブルッ

男「? どうしたの?」


僕は僕で望む幸せを手に入れる。

彼女もまたそれに連なり、幸せを手に入れる手段を得るだろう。



先輩妹「先輩さん」



                            けれど、







先輩妹「今、幼馴染先輩さんに【私の恋愛相談をしているところなんですよー結構、幼馴染先輩さんってうぶなんですねー】」

男「………………………」




                   は?



男「きみ、は」ゾクッ



どこまで君は僕を翻弄させ続けるのだろう?

男(やら、れた。本来は僕が彼女に危険性を匂わせておいて、一番やらないでおいたことを、彼女は、)

 
考えられるだろうか?

         【己が好きな相手に恋愛相談をする】なんて、そんなのは、



先輩妹「幼馴染先輩さん。わたしの好きな人って、部活を頑張ってるんですよ」タラリ

幼馴染「ほーほー?」

先輩妹「それにそれに、実は…その人…付き合ってる人がいるんですよぉー!」ダラダラダラダラダラダラ

幼馴染「なんとっ!? そりゃー略奪ってやつですかいの!?」

先輩妹「そ、ゲホッゴホッ! そうなんですよぉっ…けれどやっぱり好きだって思いは忘れられなくて…」

幼馴染「わかるぜぇ…超わかるぜ…けどなぁ…大変だけどなぁ…うぐぐ…」



部長「と、止めなくてもいいの? あの感じ、というかすごい汗で、そもそも何時ボロが出てもおかしくないっていうか、えっと」

男「わか、ってる。けど、望んでる答えはそうじゃない……と思う」

部長「…やっぱり?」

男「う、うん」

同級生「おい」

男「あ、ドウ君…」

同級生「……。取り敢えず何か言ってくれ、従うから」

男「……」

同級生「オレでも見破れるぐらいに…その、泣きそうになるなよな。見てて、つらいから」ボソボソ

男「…ありがと、今度一緒にまたデートしようね」ギュッ

同級生「ん」

部長「ねえ君はどっちがいい?」

同級生「あん?どっちがいいって、ああそういうことか…別に、答えたくないならアンタが勝ちでいい」

部長「それは面白く無いから、わたしの負けがいいなー」

同級生「んじゃ聞くんじゃねーよボケ、だったらオレの勝ちで良いんだな」

部長「おっけー」

男「決まったね、それじゃあ言うよ?」



男「話しやすいトコロ」

部長「一緒に居るだけで楽しいから~」

同級生「か、かわいい…ところ…」ボソボソ



先輩「耳がぁ…耳がぁ~…!」

男「先輩さん」トントン

先輩「む、どうした?」

男「もうそろそろお開きなので、答え言ってください」

先輩「な、なんだと? そうなのか…ううっ…多分だが、元気な部分じゃあないだろうか…?」

男「はい、その通りです」ニコ

男(──これが、彼女の望みだ。今ここで彼女の想い人がよーちゃん自身だとバレる前に、皆でギブアップ宣言…)

だからこその無茶だ。彼女の危うい心理状況で続けられてしまっては、たまったもんじゃ無い。


主に僕に対して向けた──絶対的強制力を持った、

自暴自棄であり、むちゃくちゃであって、混沌とした作戦。



先輩妹「ッッ……!」ニヤリ



幼馴染「およよッ!? み、みなさん急にどないしたっていうんでしょうかっ!?」

先輩妹「…幼馴染先輩さん」

幼馴染「妹ちゃん! みんなして、いきなり負け始めて…」

先輩妹「聞いてください、というか是非とも聞いてください」


          スッ


先輩妹「──明るい所が、大好きです」



男「……っ…ふぅ~~…」ぞくぞくぞく

部長「わーお」

同級生「お前…」

同級生「……、これで誰が勝ちか決まったな」

先輩「うむ。ルール通りならば、きっとそうなるだろう…ちっとも状況がつかめんが…」

幼馴染「え、どゆこと?」

先輩妹「ええ、そのまんま貴女の勝ちですよ、幼馴染先輩さん」


男「そう、よーちゃん以外が全員禁ワードを言ったから…このゲームの勝者はよーちゃんだということになりました」


部長「わーおめでとうー」パチパチパチ

同級生「あー…疲れた、昼休みでどうして疲れるんだよまったく…」

幼馴染「………、」


幼馴染「おっしゃああああああ!! よっくわっかんねえけど! 勝ったぜっぇええええええ!!」



数分後


同級生「は?」

先輩妹「へ?」

部長「んーだから、この紙袋もその中身も【わたしが用意しただけで、別にあなたのロッカーから取ったものじゃないんだよ?】」

同級生「なに、を…言って…その中身は…」

先輩妹「わ、私はちゃんと確認しましたよ! 第四講義室に置かれた紙袋は、確かに中身はきちんと女装道具一式でしたし…!」

部長「女装道具は初めから無くなってたことは知ってたから、また改めて違うやつを用意して、」ガサリ

部長「紙袋も一見どれも同じようなヤツを選んだだけ。ほら、この紙袋に付いてるマークはあなたの紙袋にあったりする?」

同級生「っ……無い、な」

先輩妹「!? じゃ、じゃあ香水の件はどうなるんですか…!?」

部長「それも、最近若い男性で流行ってる香水を使っただけね」ニコ

同級生「ハメられたのか…」

先輩妹「な、なななっ…そんなことどうして、全部可能性じゃないですか…!?」

部長「うん、そうだよ?」

先輩妹「本当に女装一式が盗まれたことも含めて、香水も、紙袋も、全部全部…そうだったら良いな程度じゃないですか…!?」

部長「その通り。わたしてきには、その紙袋が【誰が反応して】【誰が困るのか】、ということだけを引き起こしたかっただけだから」

部長「別に最初に拾うのが妹さん、あなたじゃなくっても良かったの」ニコニコ

同級生「アンタが知ってたのは、第四講義室にオレと男、それに飼い猫かぶりが入り浸ってる情報と…」ガサリ

同級生「演劇部の持ち物だった女性服とカツラが一式なくなってたことだけだった、わけだな?」

部長「……」ニコニコ

同級生「なのに、オレが無様に反応して──その反応具合で、使われた用途と、オレ等の関係を見破ったわけだ……クソが」

部長「ついでにいうとー? 妹さんのなにか隠そうとしている感じで、色々とわかっちゃったかな?」

先輩妹「ぐぉ……」

同級生「出鱈目過ぎるだろ、本当に狙ってやったことかよ」

部長「嘘だと偶然だと言ってもいいけれど、わたしは嘘か真かどっちだっていいの。だって楽しめたから」クスクス

同級生「……。関わるだけ損なやつだな、帰る」くるっ

部長「ごめんなさい、でも、あなたのことわたしは応援してるわ」

同級生「黙ってろ、言われなくたって……」

同級生「……、おい飼い猫かぶり」

先輩妹「私は最初から…は、はい? なんでしょうか?」

同級生「テメーも気をつけろ。そいつに今後とも関わるんだったら、面倒臭いことになるぞ」

部長「まあ」

先輩妹「な、なんですか急に」

同級生「……、頑張りたいなら無茶をするなって事だ」プイッ

先輩妹「はあ?」

同級生「だから、なんだ」ガシガシ



同級生「───さっきの告白まがいの奴、カッコ良かったよ」



                                       くるっ すたすたすた


先輩妹「…………」ポカーン

部長「くすくす、ほら妹さん? のんびりしてないで、あなたはあなたでのご褒美を貰いに行かないとね」トントン

先輩妹「へぇっ? あ、ハイ、えっとご褒美ってなんでしたっけ?」

男「忘れちゃってたんだ…」

先輩妹「どぅあっはぁ!? せ、先輩さん!? 居たんですか!?」

男「さっきね。今さっきまで、よーちゃんにゲームのご褒美を与えてきたところだよ」

先輩妹「ああ、全員の五枚以上の紙を見せてたんですね…」

男「それはさておき、妹さん。君は見事に僕という敵を打ちのめし、勝ちを勝ち取った」

先輩妹「は、はあ…なんかこう、ずるい勝ち方でしたけどね」

男「それを実行した君の度胸と、うん、その持ち味があったからこその作戦だったからね…完敗だよ」

先輩妹「あ、ありがとうございます」ペコリ

男「それで……だけど、やっぱり聞きたい?」

先輩妹「もちろんです」

男「知っても、別に、面白くないよ?」

先輩妹「それは私が決めます、そも、私にとって先輩さんのそういった感情は───」



先輩妹「面白くても面白くなくても、笑いません。真面目にちゃんと受け止めます」



男「──……」

部長「クス」くるっ スタスタスタ

先輩妹「教えてください、先輩さん。貴方という人が、どういったところを好きだと思えたんですか?」

男「うん、それはね」チラリ


先輩「午後から体育か、頑張ろう」ウムウム

幼馴染「えっへへーがんばろうねー」


男「まるで、【主人公】なんだ。彼は何時だって何だって、どんな所に居ても…」

男「…困ってたら駆けつけて、傷ついてたら側にいてくれる」

男「こんなにも…こんなにも自分は…醜くて、壊れていて、嫌な人間なのに…」

男「ううん。それだって関係ないんだ、優しくする相手がどんな人間性なんてのも関係ない」



男「──人の為に動ける人だから、凄くて、ああ……好き……うん、何だと思う、かな」

先輩妹「…そうだったんですか」

男「うん」ニコ

先輩妹「そんなすごい人には思えませんけどね、兄妹だから言えますけれど」

男「そうかな、それは君もまた───」

男「──ううん、なんでもない。それよりも、そうだね、ノルマ達成おめでとう妹さん」

先輩妹「ほぇ?」

男「え…? 以前、君に言っていた『よーちゃんの誕生日までに恋愛相談できる間柄になること』を達成しているんだけど…?」

先輩妹「あ、あーっ!? た、確かに!?」

男「う、うん。無意識でかつあの大胆な作戦をしたんだね…」

先輩妹「うぐぐ…必死こいてやってただけだったのでぇ…期待させてたようで面目ないです…」

男「いや、大丈夫。経過はどうであれ、結果が一番だから」

先輩妹「はい、ではそろそろ……糞兄貴とお姉様を?」

男「そうだね」




           一切の可能性を残すこと無く、完膚なきまでに、二人の関係性に終止符を打つ。



男「やるよ、僕は僕で幸せを手に入れる」

先輩妹「ええ、私は私の幸せを手に入れます」

男「……。良いんだよね?」

先輩妹「またその話ですか。良いんです、やると言ったらやりますよ、こっちは」

男「うん、わかった。失礼で面倒臭い質問をしてしまったよ、ならやりきろう」

先輩妹「はい」



彼女の誕生日に訪れる、二人の幸せと不幸を掛けあわせた──

───誰もが最低で最悪なエンドを。



男「僕は教室に戻るよ、それじゃあまた放課後に」フリフリ

先輩妹「はい、ではでは」

先輩妹「………」

先輩妹「つか、れたー……このまま保健室に行ってさぼっちゃいましょうかね、うん」


部長「楽しそう、一緒に行ってもいいかしら?」ヒョコ


先輩妹「…、ご遠慮願います」

部長「あれれ? 嫌われちゃってる感じ?」

先輩妹「嫌っては居ませんよ…ただ警戒してるだけです、ものっそい危機を感じてるだけです」

部長「まあ! どちらにしたって変わらないのだけれど?」

先輩妹「……。要件はなんです、貴方的には大変満足されていると先輩さんに聞いておりますけども」

部長「うふふ。わたしの生き方まで教えられちゃったのね、どうしよう?」

部長「まあでも、それなら───躊躇なくこの事実をあなたに教えても良いってコトかしら?」

先輩妹「事実…? なんです、急に?」

部長「知りたい?」クス

先輩妹「…知らないで困るのなら」

部長「困るのはあなたじゃなくて、彼の方かも?」

先輩妹「…」ピク

部長「そう、そういった【確固たる隠された事実】ね。どうする、知りたい?」

先輩妹「どう転ぼうとも」

部長「うん?」

先輩妹「どうやらあなたは、わたしに様々な手を使って教えてきそうなので、今聞いておきます」

部長「……。素敵ね、困らせたいのわかっちゃった」

部長「知りたい?」クス

先輩妹「…知らないで困るのなら」

部長「困るのはあなたじゃなくて、彼の方かも?」

先輩妹「…」ピク

部長「そう、そういった【確固たる隠された事実】ね。どうする、知りたい?」

先輩妹「どう転ぼうとも」

部長「うん?」

先輩妹「どうやらあなたは、わたしに様々な手を使って教えてきそうなので、今聞いておきます」

部長「……。素敵ね、困らせたいのわかっちゃった?」

先輩妹「楽しそうでしたからね、ええ、わかりますよそういった人の感覚ってのは」

部長「ますます素敵! いいわぁ…わたしが本当に見た目だけじゃなくって、男の子だったらべた惚れだったよ…?」キラキラ

先輩妹「は、はやく言ってくださいっ」

部長「くすくす。なら見せちゃうよ~?」ペラ

先輩妹「…? 見せる? 言うのではなくて?」

部長「うんうん。この紙に見覚えはあるよね? さっきのゲームで使われた『好きな人の好きな部分』のやつ」

先輩妹「…どうしてそれを持ってるんです?」

部長「あの紙はね、舞台で使われる『2枚一式』と呼ばれる2枚構成でできてるものなの。ほら、ペラリって一枚が2枚に分かれる感じで…」

先輩妹「あ、ほんとだ…」

部長「だから、一番個人的に気になっていた人の紙をちょっと剥がして、隠して持ってたの。ペンもほら、油性で映るようにしておいたから」ニコニコ

先輩妹(相変わらずどこまで考えてやってるのかわからないひとですね、この人)

部長「おとこ君にバレないよう行動するのはとても大変だったよ…」

先輩妹「で? 誰なんです、その個人的に気になっていた人の『好きな人のスキな部分』って?」

部長「…………」じっ

先輩妹「なんですか」

部長「このゲームにおいて、一番誰よりも【絶対的に負けないであろう人だと思った人】よ」

先輩妹「はぁ?」

部長「わたしもね、思いつきはしたの。でも、それじゃあ人してどうかなって、わたしみたいな人間でも感じるものはあるし──」

部長「──好きだと思える部分なんて、考えれば考える程、出てくるものだと思うから」

先輩妹「……、なんなんです、どういう意味何ですか」

部長「見たら分かるわ、ワタシが言った意味も、それを書いた人もね」

先輩妹「………」

先輩妹「わかり、ました。じゃあ見させていただきます」スッ










         ぺらり





先輩妹「……え、これって」

 【つよいところ】





                          ペラ



【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】


          ペラペラペラ


【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】



【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】


【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】


 バッサァアアア…

【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】
【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】【つよいところ】

先輩妹「ひぃっ?!」

部長「……」

先輩妹「な、なな…なんですかコレ…? それ、に…これって…禁ワード…じゃ…あの人の…?」

部長「──そう、予め【五枚以上の紙】を【全部同じ答えにしとけば絶対に言わない】という作戦もあったワケね」

先輩妹「っ……でも、これは、」

部長「あまりにも過ぎてるわ。あまりにも、なにか、人として欠け落ち過ぎてる」ヒョイ

部長「これしか思いつかなかったのか、そもこの量を書いておいてなぜ、これだけなのか」


【つよいところ】


部長「ねえ妹さん──」

先輩妹「…!」びくっ



部長「──あなたが好きな人は、本当に【あなたが好きな人】なのかな?」



先輩妹「…え…あ…っ…」ブルブルブル

部長「くすくす、あなたも頑張ってね。彼も、そして同級生くんも」


「──なんて楽しそうな人生なのかしら、嫉妬しちゃうわ」



スタスタ スタスタ   …バタン

先輩妹「……ぁ…」カクン



私は一体、何を見ていたんだっけ?

 最初から、初めから、どんなことを目指して頑張っていたんだっけ?



先輩妹「こんなの、おかしい…そんなの、だって」



そう、自分が自分の幸せを手に入れるために。

幸せである二人の仲を壊すことを決意したんだ。



先輩妹「だって、だって、それじゃあ──」



ぴろりん!


先輩妹「っ!」


        フルフル… カチカチ カチ


『幼馴染先輩(お姉様?)』

『今日は楽しかったよーみんなして、また遊びたいね!

あと妹さんの恋愛相談、それにわたくしっちの相談も乗っていただけるなんて! 幸いっす! 嬉しいっす!』

先輩妹「っ……」カチカチ


『色々と恋愛ってのはわかんねーもんすから、是非にも! ごきょうじゅねがいやす!』


『そしてありがと、またこんどね ノシ』



先輩妹「ぁあ」

先輩妹「こんなの、そんなの、だってそれじゃあ」

先輩妹「───初めから壊れてるじゃないですか、端から」



この時、以前言われた言葉を私は思い出しました。




『これから先、部長に、幼馴染先輩に深く関わった人物は全員───軒並み不幸になる、それが絶対の運命』




訪れるであろう【運命】を観測できる人が、私に教えてくれた一つのオワリ。

私は今、この瞬間に、ほんの一瞬だけ垣間見たのだ。



先輩妹「………」


わけが分からずとも見える答え。

それはきっと、私が想像する以上の───ナニカが待っているんだと。

第四話 終

次で最終回
気まぐれに更新。


ではではノシ

私がまだ中学1年の頃の話。

在校していた学校の野球部が県大会に出場が決まり、

何十年ぶりかの快挙に大手を振って皆喜び、送り出したのは良いものの。


先輩妹「あっつ……」パタパタ


まさかの準決勝まで勝ち残るという迷惑極まり無い所業成し遂げられてしまった。

そうなってしまえば、勿論こうなってしまうしかない。

私達一年生は自称応援団としての役割を押し付けられ、今は灼熱を帯びたベンチへと腰掛けている。


先輩妹「はいはい、がんばれー」


そして、棒と丸を振って投げて成果を勝ち取らんとする丸坊主共を眺めるという拷問を受けていた。


先輩妹「………」


何が楽しくて熱い太陽が照りつける下、むさっくるしい輩共を長時間微動だにせず視界に収めないといけないのか。

わー打ったーひろったー投げろ投げろー頑張れ頑張れ、閉じ去りたく聴覚が拾う上っ面だけの声援と評価。

私以外の彼ら彼女らだって興味の欠片すら存在しないはずなのに、そんな己の醜さを否定する為に必死に良人としての皮を被る。


世界は本当に無駄が多い。今この瞬間こそが、無駄の極致に違いない。


先輩妹(…無駄、無駄な応援にそも無駄な勝負、見る?も無駄であって全てが無駄)

吐き気が催してくるのはきっと暑さのせいじゃない。


先輩妹「先生、ちょっと気分が悪すぎるので日陰に避難しててもいいですか」


私はそんな場所から少しでも離れたくて席を後にする。

勿論、日陰でこっそり休息を取るなんてちまちましたことはしない。がっつり出歩いて時間を潰してやるつもりだった。


先輩妹「……」スタスタ


きっとこの行為すらも無駄でしか無い、端からわかっていた、そんなことは。



~~~~


先輩妹「………」ポカーン


観客席から数分と離れてない場所に、暗く人気のない空間があり、調度よく自販機もあったので近寄った私は、



「どっせぇえええええええええええええいっっっっ!!」



先輩妹(なんだあの人、怖……誰もいない所でなにやってるの、あれ、応援、かな?)


一人の女子生徒らしい人物が、必死に声を荒らげて、なにか両手を振って上半身を上下に暴れさせていた。

彼女が声を放つたびに空気がぶるぶると震えていて、怖い。凄く怖い、なによりもあの動きが怖い。軟体動物みたいにぐねんぐねんしてる。

先輩妹「……、」


「どっせいっ! はっ! はっ! はっ! はぁああああああどっこィィイイイイイ!!」


先輩妹(か、かえろう)


とにかく恐ろしかったので気づかれる前に立ち去ろうとした時。

上半身を捻り後方へと伸ばすという奇っ怪な動きの瞬間、偶然にも見てしまった、


先輩妹(そーっとそーっと、あれ? もしかして、あの人)


無駄な大声をあげ続ける女子生徒、その彼女が彩るひとつの──表情を見てしまったのだ。



「どおうわァァアアアアア! ぐしゅっ、ひっぐ、うわぁああああああああああああああんっ!!」



先輩妹(泣いてる…の?)


彼女は大声を上げて泣き叫んでいた。よく見れば鼻水だらだらで顔はぐっちゃぐっちゃ。

女子としてそれはどうなの、と思わず心配になるほど女子生徒は咽び泣き、奇妙な踊りのせいで鼻水が詰まって咳き込んでいる。


「ぐっじゅるるるるるるるカハァッ! クッ!? ウブゥッ! ゲハァゲハァゲハァッ!」


先輩妹(良くわからないけど、一人でいる理由はなんとくなく、わかったかもしれない)


あんなの、知り合いに見られたらもう一生顔見せできやしない。


先輩妹「………」


私は逃走のための一歩をしばし、止める。

今だ泣きながら踊る女子生徒は壁に向かって叫び放ち、ふと野球見るよりこっち見るほうが面白くない?

と、何気なく私は思い至り、だから本当にちょっとした好奇心で。


先輩妹「…がんばれー」


そうこぼれ出た応援も、多分、彼女に向けたほうが有意義だ。



~~~~~


「よっしゃああああああ!!」

先輩妹「お疲れ様でした」

「ぬぁあああああああんっ!!???」


ひと通り眺めきった後、満足した表情を浮かべた女子生徒に躊躇いなく話しかける。


先輩妹「いい叫びと泣き姿でした。大半の水分を消費したでしょうから、どうです? ポカリ飲みますか?」

「…………」

先輩妹「余計なお世話でしたら、では。これで」

「あっお待ちになって! いりますからありがとうっ!」

先輩妹「…そうですか」

必死な表情を全面に出して差し出したポカリをがぶ飲みする彼女。


「ごっきゅごっきゅごっきゅ」

先輩妹(凄い音…)


よほど水分を欲していたのだろう、ものの数秒で底をついたペットボトルの口から離すと、


「有難きご水分、誠に感謝感謝あめあられでございまするぅ」

先輩妹「感謝しすぎですね。いや、まぁ、これでチャラにしてもらえれば結構なんで」

「ほぇ? …チャラとは?」

先輩妹「……」

「?」

先輩妹「さっきからずっと見てました」

「え、なにを?」

先輩妹「全部」

「ぜ、全部?」

先輩妹「オールで貴女の狂人と思える行動を逐一全て視界と記憶に収めさせて頂きました」

「ほにゃわぁあああー!?」

先輩妹「ええ、実にほにゃわーですね」

「なっ、なっ、なっ! ……本当に?」

先輩妹「イエス」

「ぬぁああああああああああああああああ!!!」

想像を絶する恥ずかしさに悶える彼女。些か可哀想になってきたけれど、今更誤魔化しも効かない。


先輩妹「心中お察ししますが…」


だからさっぱりと私の本音を伝えておこうと、この際なら全てゲロったって神様も笑って許してくれるだろうと。


先輩妹「私は貴女の【応援】……とても素敵に思えましたよ、だから、ずっと眺めていられました」

「…応援?」

先輩妹「ええ、だって貴女は応援していたのでしょう? 幾分常識とはかけ離れた動きと勢いでしたが…」

先輩妹「私にはちゃんと貴女のやっている意味がわかりました」


だから私は彼女が怖いと思えても、遠のこうとは思わなかった。

人が思う恐怖とは【理解が及ぼないモノ】だと私は知っている。


何者で、何物で、知らなければ分からなければ人はみな恐怖する。

十数年、十数年生きようが変わらない人が持ちえる普遍的な価値観。


つまりはそう、言い換えれば【人がどう動こうが皆常識という範疇で理解しようとする】ということ。

私はそんな意味もない空気的縛りが、何故か、物心つく頃から嫌悪していた。


先輩妹「…私は貴女みたいな【器用だからこそ不器用な部分】が大変好ましく思えます」

「………」

先輩妹「と、言っても意味がわからないでしょうけどね。すみません、口が滑りました。では、私はこのへんで」

「あ……う、うん?」

先輩妹「もう一度だけ謝っておきます、貴女の何かしらの努力を盗み見て大変申し訳ありませんでした」


深々と頭を垂れてきっちり三秒。私は彼女の顔を視界に入れぬまま、その場を後にする。

実に良い時間だった。大変、私という個人の欲は満たされ潤っていた。


先輩妹(やっぱり変な人と会話すると───落ち着く、自分がまだ自分で居られるような気がする)


単純に言えば自分と同じ価値観、又は少なくとも己よりもやばい人。

そんな人間が【この世にいて何かを必死に頑張っている】という現実を知れることが、私にとっては救いなのだ。


まだ、私だって何かできる。一辺倒でつまらない世界で生きて、前を向いて、絶望せずに───

────きっといつか、努力が自分で許せる【絶望的なまでの希望】を見つけられるのだと。




「待って!!」



私は、ああ、私は未だに見つけられていない。
               この世で何を見て、聞いて、味わって、嗅いで、感じ取って。
                                      周りを囲う構成物質が、私という一個人の生物が知るものすべてが。




実は『私』という醜い失敗作でさえも生きてても良い、なんて証明できる絶対的な答えを。

先輩妹「…、なんです?」

「待って、少しだけ、待ってくれない、かな」


私は知っているのだ。

この世界をつまらないのだと言い切り、意味もないなどと口走り。


何もかもわかったように口にする自分こそが、なによりも、本当の答えから遠ざけてしまっていることを。

あるものをわかろうとしない者に何を掴めようか、さも己の歪みを理解することが十分な救いになるのかと言わんばかりに。



溢れかえる世界の色取り取りの価値を嫌悪する私はきっと、



                  結局はそう、私という人間は、単純に世界を怖がっているだけなんだ。



        ───理解が及ばないものは、怖い。




「じ、実はね!? ここここコレから試合なんだけどね!? やっぱりここってソフトボール試合やってない感じ!?」

先輩妹「…は?」

「だからそのぅ…わたしってばま、迷子でして…ええ本当はこんな所で油うってる暇なんてこれっぽっちも無くてですねぇ…」チョンチョン



は?

先輩妹「なにを、言ってるんです、か?」

「そのままのジジツヲイッテマス…」

先輩妹「は? は? えっ? よく見ればフッツーに何かユニホームっぽいの着てますねッ!」

「アッハイ…」

先輩妹「なっ、何してるんですかここで、マジで、試合とか、えっ? ポジションは?」

「…部長でピッチャです…」


とんでもないこと抜かしおったこの人。


先輩妹「………………………………………なにしてるのここで?」

「だっから迷子なんだよぉおおっ! 何となく来ちゃったけど思いっきり帰り道わっかんなくてさぁああああああ!?」

先輩妹「す、少なくともこの球場はソフトボールなどの試合は行われていません!」

「デスヨネー!」

先輩妹「あっ、そのっ! えっと、試合開始時間とか後どれくらい残ってる感じ何ですか!?」

「……、あと十分…?」

先輩妹「…………」

「です、ね……ハイ……」

先輩妹「……」

「……、……、」

先輩妹「──してるんですか……」


なにを、ボサッとしてるんですか。

「えっ?」

先輩妹「何をボサッとしてるんですかぁっ!! 試合なんでしょう!? 部長ってことは結構大切な重要な試合なんでしょう!?」

「け、決勝です…」

先輩妹「行くぞゴラーッ!」


もうなんだって良い。何だこの人、マジでやばいだろ頭イカれてる。

改めて見れば見るほど分かる──彼女の身体に濃く色づく努力を行ってきたものの色。


先輩妹(指先の荒れ具合! 肌の浅黒さに、傷だらけの頬ッ! 死に物狂いに努力という努力を重ね重ね重ね傷んだユニホームの汚れ!)


ものの見事に物語っている彼女の全ての【全て】。

私が知ってしまった彼女の見つけた答えの【答え】。


「えっ、あっ、ちょっ」

先輩妹「笑えねーっすよッ! これっぽっちもなにをしてくさってるんですかッ! 貴女は自分というモノが何もわかってないんですかっ!?」

「っ……う、えっと……」

先輩妹「身勝手に自分の努力を捨てるなんて器用すぎて不器用ですね! あぁもうほら連れて行きますよ貴女の試合がおこわなれる球場に!」

「な、」

先輩妹「なっ?!」

「な、なんで? ど、どうして連れてってくれるの…?」

先輩妹「っ……それは、」

それは、


先輩妹「…良いから早く行きますよ、絶対に間に合わせてみせますから」フイ

「あ、うん…」


それは、語る必要なんて無い。これっぽっちも、貴女のような努力をする人間に言うべきことじゃない。


私は怖がりだ。

世界のすべてが私という人間を否定し、拒絶し、髪の毛一本の存在さえも許されない。

そんな有りもしない妄想にも満たない【価値観】に苛まれている。


いや、苛まれているなんて自分を可愛がる言葉すら見苦しいだろう。

この世に生きるもの全ては、元より私という人間が感じる以上にまた、


──人々は皆この世を怖がっている、そんなことはとうの昔からわかっている。


努力し、経験し、失敗し成功し、


全ては現実という不幸を乗り越えるべく───慣れることにより恐怖を克服する。

私はそれを初めから否定した。

最初から努力というものを【自分とは合わない無意味なもの】として拒絶した。


怖いから、知らないふりをした。知りたくないから、異常を求めた。

全てはそう、努力を重ね怖さを乗り越える自分を信じることが出来なかったんだ。


───だから、私は、この世にとって異物でしか無い。

───だから、私は、この世に求めるものは異常で良いと思うことにした。


それが努力を放棄した人間の末路。

いままでも、そしてこれからもずっと永続される私という人物像。


人間世界で暮らせないモノは、怪物世界で暮らすしか無い。



先輩妹(憧れてしまう、貴女のような【異常であって人間のように努力できている人】を…)



この人はどうみたって変人だ。異常者だ。決して一般人とは相まみえない危険性を孕んでいる。


一目見ただけで分かってしまった彼女の人間性。


でも、でもだ。

それでも彼女の全てが語る努力の形は、全部、目を見開くことも出来ないぐらい───眩しくて。


先輩妹(なのにその輝きを捨て去ろうとする、そんなこの人を許せない)


私は否定したい。彼女の異常性が彼女の努力を切り裂く状況を、全て、断絶させたい。


そんな他人だから思える正義感。私もまた未だ観客席で応援する輩となんら変わりないのだろうが。

~~~~~

「じゃあ行ってきます」

先輩妹「は、はい…行ってきて、くだ、はぁはぁ……んぷっ!」

「ちょ! ゲロ吐きそうになってないっすか!?」

先輩妹「っ~~~~!! …ゴクン、へいきでしゅ」

「おっ、おぉおぉ~~~っ」

先輩妹「わ、私のことはどうだっていいんです…! ほらはやく…っ!」ぐいっ

「は、はいぃ! 行ってまいります! 本当にありがと! マジ感謝!」ダダッ

先輩妹「……っ…」


数秒にも満たない速さで球場へと消えていく、その背中。


先輩妹「あぁ…」


どうか、どうか、お願いします。彼女の人間としての生きる希望を、神様どうか否定しないでください。

彼女はああいった人間であって人間ではないけれど、でも、彼女はこの世で存在する意味を作り上げているんです。


先輩妹「がん、ばれっ───頑張れぇーーーーー!!」


頑張って、どうか壊れていても望むままに全てを愛してください。

私は失敗作だけど、貴女もまた失敗作だろうけども。


───今は確かに、この世に愛されてることは間違いないのだから。

~~~~


先輩妹「───………」


桜が舞い散る春の季節。一枚の紙切れをゴミ箱に捨て去り、私は歩き出す。

受験の合格確認を無事済ませ、私は一つの光景に視界を奪われてしまった。


「あぁ、妹が合格したよ」

「いっひひーそりゃ先輩さんの妹さんだっからね?」


見覚えのある顔が二つ。

その二人が、桃色の雨のなか仲睦まじく寄り添っている。


「うむ。お、ほら噂をすればなんとやらだ」

「ほほー? どれどれ? どの娘が妹ちゃんですかいな?」


心が大きく一つ、ドクンと跳ね上がる。

ああ、良かった。本当に良かった───貴女は未だ笑ってここにいることを許されているのだと。


世界が幸せだということを否定しなかったのだと。


先輩妹「お兄ちゃん! ここだよ!」


「おお、合格おめでとう妹よ。これにて晴れてまた同じ学び舎で通学だ」

先輩妹「それ、ちょっと気持ち悪いからもう少し言い方考えて…」

「なぬッ!?」

先輩妹「それ、と……あの、」

「初めましてー! どもども! えーっと、なんといいますか私はねぇ、先輩さんの後輩、うん? 友達? うん?」


あれ? いや待ってなんか私の事忘れられてない?


先輩妹「あ、あの」

「先輩さん先輩さん。この場合、私のポジショニングはどのようなものとなるのでしょうかね?」

「ど、どうだろうか…俺にも少し、わかりずらい…」

先輩妹「……恋人とか?」


「「えっ!?」」


先輩妹「違うの? だって…」


貴女がこんなにも人らしく【恋してる表情】をしているのに。



「そ、それは違うぞ! 男の奴が言うには、そういった関係にはもっと深いものを求める必要があると言っていたから違うと思うぞ!」

「そ、そうだよぜんぜん違うよ! 男ちゃんがいうには好きになるためにはもっと大胆な気持ちを求める必要があると言ってたから違うと思う!」

先輩妹「……?」


非常に良くわからないすれ違いを見せる二人に疑問符を浮かべずにはいられない。

噛み合っているようで噛み合っていない。

それはまるで、壁時計がいまだ異物によって秒針を奏でないような。


とある【障害】によって二人の時間が始まらないような、そんな違和感。


先輩妹「よく、わからないけれど。わたし的にはいい雰囲気に見えますけど…」

「お、おおおもしろいこというなーっ! やはり俺の妹はセンスが抜群だなぁー!」

「おおおおおおっ!? しょうっしゅね! しょうっしゅねっ!」

先輩妹「………」


二人は壮絶な表情を浮かべて、素早くお互いをチラチラ覗き合っている。

なんだこれ、私はとりあえず疑問を横に置き、まずは気になったことに焦点を向ける。


先輩妹「なら、まずはお名前を教えて下さい」

「ふぇ?」

先輩妹「貴女の名前です。兄との関係よりも私はそっちのほうが気になってますから」

「わたしの名前…」

先輩妹「はい」


なにやらどうも、私と貴女は何気にエンカウント率が高そうだから。

先輩妹「これから貴女と会った時、今度はちゃんと応援できるから」

「応援…?」

先輩妹「ええ、まぁ、色々とですよ」


含みをもたせた言い方をした後、隣の兄の顔に流し目を送る。

うぐっ、と気まずそうな表情の兄に私は大変満足し、


 そして貴女の名前を聞いて、これから迎える未来を微かに鑑みることと、



先輩妹「ですから、どうか貴女の名前を───」

幼馴染「………」ジッ

先輩妹「───………」

幼馴染「私の名前は、幼馴染」

先輩妹「ぁ…」ビクッ


  なに、この違和感は。

                        一体どこから湧いてくる、この恐怖。





幼馴染「………」スッ

 


          なんだ、その表情は。


目の前に居る人は本当に、人なのか。違う、人じゃない。

こんな瞳の色、いや【色すら無い瞳】なんてこの世にあってたまるものか。


                                                   虚無に近い闇の色。


先輩妹「ぅすか…それ…」

幼馴染「ありがとう。私の名前を聞いてくれて、そんなことを人から聞かれたのは」



「───貴女で【二人目】で、とっても嬉しいよ、てんきゅー」



先輩妹「ぁあ…えっ…は、はい…」

幼馴染「……」じっ


やばい。この人、このままじゃ飲み込まれる。

わたしがわたしという人間を維持できなくなる。


怪物が怪物に惹かれ合う。人と馴れ合うことが出来ないから、似たもの同士が集いたがる。


根暗同士が引きあうように。

活発同士が引き合うように。


──つられてしまう異常性。あぁ、この人はなにも変わってないどころか、その異常性を───

先輩妹「っ………」

幼馴染「【ねえ】、【あなたってじつは】、【どこかでわたしと】、【むかしにあったこと───】」







       先輩「今日は良い天気だな」






幼馴染「───ぇあ……おっおー? 確かに今日はいい天気だねぇ~」

先輩妹「ッッ……ッ……」

先輩「うむ。こういった日は実に散歩日和だ、どうだ幼馴染。これから一緒に散歩でも」

幼馴染「おぉー! なんだそりゃ! ……でーと?」

先輩「ぬぉおおおッ!? ち、違うぞ勘違いをするんじゃーない! これっぽっちも他意は無い!」

幼馴染「ソ、ソデスカ…」ショボン

先輩「うぬぅううううッ!? 難しい! やっぱおなごは難しいッ!!」



先輩妹「……っ…」


消えた。無くなった、あの空気が一瞬で溶け去った。

先輩妹「あ…」

先輩「妹」


兄は私を見つめている。その瞳は温かい、人としての優しがあふれた色。


先輩「具合が悪そうだな。合格発表がお前が思う以上に負担になってたんだろう、無理はするな」

先輩妹「…う、うん」

先輩「俺はこれから幼馴染と出かけてくる。…もう一人の知り合いも紹介したかったが、まぁいずれだ」

先輩妹「そう、なんだ…」

先輩「お前は家に帰って両親に報告、そして軽い水分をとって休眠だ。飲み過ぎるなよ、胃が活発になって寝れなくなる」スッ


伸ばされた手。そっと頭に置かれ、慣れた手つきで撫でられる。


先輩「──とにかく受験をよく頑張ったな、兄として凄く誇らしいぞ」

先輩妹「…うん」

先輩「では、行ってくる。道中気をつけろ、じゃあな」

先輩妹「……」



遠ざかる二人の背中を呆然と見送る私は、未だ先ほど起こったことに頭がついていけてない。



幼馴染「………」チラリ

先輩妹「…っ」ビクッ



幼馴染「……またね、にひひ」フリフリ

先輩妹「……」コ、コクリ


彼女は至って普通のままで、その普通が何が普通なのか分からない。

しかし確かに彼女は【人として普通】だった。

あの時も、この時も、出会った時も今また会った時も変わらず彼女は彼女で。


先輩妹「…あぁそっか、兄貴と一緒に居る時だけ普通になんだ」


もしかして、あの球場で会った時の──意味不明な応援さえも、


先輩妹「…兄を、応援してたのかな」


彼女の異常性は確かに感じた。

私程度じゃ敵わない程の危険性におそれをなした。


そんな彼女が今の今まで世界というありかたに絶望しなかったのは、どうしてか。



先輩妹「…恋をしてるから?」



兄に恋して、この世界を好きだから、

人に恋して、人間世界が好きだから。


先輩妹「…怪物ってその程度で、変われるんだ」

私は未だその考えがわからない。

恋なんてもので人がかわれるなんて、ましてや異常者が異常をなくすなど出来るものなのか。


先輩妹「恋……」


初めて私は絶望までの希望をとは、なんなのかを知れた気がする。

望んできたものがいまやっと目の前に形となって現れた気がして。



先輩妹「そっか、恋愛とか。好きになれば、私もまた───」



この世界を愛して、また世界もまた私を愛してくれるのかもしれない。





        ※※※※



先輩妹「──ということが、私とお姉様もなりそめってやつなんですぅ~」ニヤニヤ



金髪「は?」



先輩妹「だ・か・ら! わっかりませんか? これほどまでド丁寧に説明したじゃあないですか、まったく」

金髪「……、………、………、で? 何?」

先輩妹「なにとは?」

金髪「意味わっかんないんだけど、マジで、超マジでわからないんだけど」

先輩妹「相も変わらず理解力に能力振ってませんねぇ、残念です。これほどまで無駄な労力は他にありましたでしょうか…」

金髪「ええ無駄ね、物凄く無駄だからわからないって言ってるんだけど?」

金髪「よくも、まあ、よくも」

金髪「あれほどのことをやってのけて、言ってのけて、あたしという存在をこれでもかと否定して否定して否定して否定して、」

金髪「散ッ々ッ! 痛めつけて殺そうとした相手に、何、会いにこれるワケ? 頭どーかしてるんじゃない?」

先輩妹「……」

金髪「更に何? 部長とのなりそめを聞かせるとかはぁああああああ!? ッて感じですけど?」

先輩妹「…良かったですよ、私的にも悪魔の所業だと思っておりましたので、貴女が普段通り日常を歩めてるようで安心です」

金髪「本当に思ってるワケ?」

先輩妹「何がです?」

金髪「あたしが普段通りに戻れてるとか本当に思ってるワケ?」

先輩妹「違うのでしょうか? 私的には復活しているよう見えるのですが」

金髪「……ッチ」

先輩妹「?」

金髪「じゃあそういうことにしておいて、あげるわよ。はいはい、あたしは無事に復帰しました、惨めに鼻水垂らして運命の幸せに踊らされてますよーってね」

先輩妹「なにか裏のある言い方で実に気に食わないですが、まぁいいでしょう。今は貴女のことなど関係ありませんし」

金髪「一々苛つかせるの上手いわよねアンタ…ッ」

先輩妹「お互い様です」

金髪「…んで、なによ。このあたしに会いに来たってことは、単に部長との出会いを言いに来たってわけじゃないでしょ」

先輩妹「…………」ジッ

金髪「なに全力で疑ってるワケ? 素直に聞いてやろうかと思ってるだけじゃない、ほら、裏なんて無いから言いなさい」

先輩妹「それは、」

金髪「…あの占いのこと?」

先輩妹「……」

金髪「あたしが部長先輩を占って出た結果──その詳細を聞きに来た、そういうことであってる?」

先輩妹「…どうか教えてください」

金髪「ダメ」

先輩妹「そこを、なんとか」

金髪「絶対にやだ」

先輩妹「…言いにくいことなのでしょうか」

金髪「言えるわよ。普通に言えるし、今からでもまた改めて占ってあげる余裕すらあるわ」

金髪「──でも【嫌だ】。出来ないわけじゃないし、やれないことでもない」

金髪「アンタにこの結果を告げることは絶対にやんない。死んでも、不幸になっても、アンタには伝えない」

先輩妹「………」

金髪「フェアに語ってあげる。いい? これは別に私怨じゃない、あたしは一人の人間としてアンタに伝えたくないと言ってるの」

先輩妹「え? てっきりムカつくから言いたくないとばかり…」

金髪「馬鹿いうな。もう、それは……良い、今は良い、アンタもあたしは関係ないとか言ってたじゃない」

先輩妹「は、はぁ…」

金髪「とにかくあたしは、【あたし】なわけ。この意味分かる? 確かにあたしは他人の運命の先が分かる、未来のビジョンを観測できるわ」

金髪「でも、結局はあたしなの。それを見て【不幸】だと思うのも、それを見て【幸福】だと思うのも」


金髪「どうしたって【あたしが感じる価値観】なのよ。どうしようもない程の差異が生じちゃうのよ」


先輩妹「…差異が、生じる」

金髪「そうよ。じゃあ言うけどさ、アンタは部長先輩と付き合えたら幸せ?」

先輩妹「超幸せです!」

金髪「……、そう。でもあたしは不幸だと思う」

先輩妹「えっ……それって……つまり……?」

金髪「待て待て待て! 違うってば…っ! あ、あんたって本当に部長先輩の話題だとダイレクトに響くわね…ッ!」

金髪「べ、別に部長先輩の占いの結果じゃない。そもそもそんな運命は占ってない、あたしだってアンタが付き合えるかどうかは知らない」

金髪「単純にあたしとしての価値観。女同士で付き合うこと自体が、あたし自身が普通に不幸だと思ってるだけ…」

金髪「でもアンタは女同士で付き合うことは幸福だと思ってる。それが、つまり結果に対する【価値観の違い】になる」


金髪「あたしは人間なのよ。例え運命が分かり幸福の体現者であっても、何処まで突き詰めてもあたしは人間だから」

金髪「あたしが思う不幸とは、アンタにとって実は幸福かもしれない。また他人から見れば違うものを感じるかもしれない」


先輩妹「…『幸福と不幸の価値観』」

金髪「そう、だからあたしは運命の結果を伝えない。それは、アンタにとって幸福か不幸か未知数だからも含めて、」

金髪「──そんな曖昧な答えなんて、あたしが言いたくない」

先輩妹「意図は分かりましたが…今までだってそうじゃあなかったんですか? 他人を占うということは、前提的に」

金髪「…考えが、変わったのよ」

先輩妹「それは?」

金髪「…絶対的な支配力を持った『運命』。それは確かに誰も変えられないし、逃げられない」

金髪「やがて訪れる運命、未来は、どうしたって世界の住人達に振りかかる」

金髪「だけどその運命という雨は、はたして皆同じように受け取るのか分からなくなった」


   それは絶望の雨なのか、


                   それは希望の雨なのか、


金髪「貧困に困る農民に生を与えるのか、生きる者を略奪する災害となるのか」

金髪「あたしは───わたしは」

金髪「わたしは運命自体が本当に立ち向かうべき『敵』なのか……わからなく、なった」

先輩妹「少なくとも貴女を不幸にしない占い、その力である運命は味方だと思いますけど」

金髪「そう言い切れる? わたしは、そう極端に信じきれなくなってる」

金髪「占いはわたしにとって幸せになるための強みであることは確かよ」

金髪「…でも、そんな物じゃないと幸せを『幸せ』としか言えない弱さがある」


金髪「全然知らないくせに、知ったふりをしていたわたしは、今こうやって不幸になることで──本当の幸せを知れた気がするの」

運命の結果を絶対だと思わなくなった。
           
それは心から望んだ───わたしという人間の、願い。


金髪「失敗して、傷ついて、それが一番の幸福の道。だなんて、思ってたけれど」

金髪「クック、笑っちゃうわ。結局なーんにも分かってなかった、表面上だけでやりかたをしってるだけで」

金髪「…いざ不幸の在り方を知っちゃえば、どんだけ自分が不器用にやってたかわかっちゃったもの」

先輩妹「…………」

金髪「今のわたしは不幸よ、妹さん」

金髪「運命には勝てない。逃げられない。わたしという人間は一生運命に踊らされ続けて、そのまま死ぬわ」

金髪「それは最高に不幸。わたしは一生……ずっと部長先輩の言葉を抱え、最後まで生き続ける」





金髪「でも、それが超幸せ」ニコ





先輩妹「…意味がわかりません」

金髪「そお? アンタがそう言っちゃうんだ、だったら勘違いだったのね」

先輩妹「…?」

金髪「少なくともわたしはアンタのお陰で変われたわ。否定して、否定して、否定されてやっと気づけた」


金髪「絶対はない。信じればそれは、自分にとっての幸運になるって」

先輩妹「信じれば…?」

金髪「そう。それがわたしが知った一番幸せになる方法、失敗を知って、アンタに気づかせてもらった解決方法」ぴっ

先輩妹「………」

金髪「単に面倒臭いモンよ、運命なんて知ってもさー。あっはは、なにこれ、自分で言っておいて自分に寒気が来ちゃってるわぁ」

金髪「何を一人で迷ってるかしんないけどさー? まっ! 結局悩みなんてどんなに聞いても、最後は己で納得しなくちゃいけないわけだし」

金髪「だから言わない。アンタに部長先輩の関わって何が起こるのか、それはアンタが知って経験して、やり直すかどうか悩むべきでしょ?」

金髪「運命は答えじゃない、君の心の声が答えだ!」

先輩妹「──………」

金髪「かぁーっ! 超わたしってばカッコイイこと言っちゃってるぅー!」グッ

先輩妹「キモ」

金髪「……、ハァッッ!? アンタいまなンて言ったワケェ!?」

先輩妹「ふぅ~…気持ち悪いと言ったんです金髪さん。なにもこの年で悟らなくても良いでしょうに、キモ」

金髪「よっ、よっ、よくもまぁッ~んとにッ……!!」

先輩妹「なにやらどうも私との過去に大変ながら感謝されてるようですが、なにです? 何か見返りでも要求したほうが良いのでしょうか?」

金髪「ッッッ………はぁ~いいわよ、要求しなさい」

先輩妹「……え?」

金髪「だ・か・ら! 良いって言ってんの! 感謝してるから一つ、言うこと聞いてあげるわ」

先輩妹「マジで…マジで感謝してたんですね…」

金髪「わ、わるいかっ! ったく、なんなのよもぉー…」ガシガシ

金髪「で? 無いなら勝手にあたしのほうが願い決めちゃうけど、何がいいの?」

先輩妹「待ってください、もうひとつ、というか一番聞いておきたいことがあるんです」

金髪「なによ」

先輩妹「…私の何処か変わるきっかけになり得たのですか?」

金髪「ハァ? ほんっとに分かってなかったのね、あーあそれで納得したわたし馬鹿みたいじゃない」

金髪「だから、あれよあれ──『悪魔として幸せを手に入れる』という部分かしらね」

先輩妹「…それが?」

金髪「そういうモンじゃない? だって自分が悪魔だと信じれば、どんな結果だって認めて、幸せだと言い切れるってことでしょ?」

先輩妹「………」

金髪「悪魔は悪魔らしい未来であればあるほど、他人が不幸だと思おうが絶対に悪魔は幸せだと受け取る」

金髪「実にシンプルでいい言葉じゃない。わたしは悪魔になんてなるつもりはないけれど、」

金髪「一人の人間として、今はちゃーんと世界を愛してるし、世界に愛されてると思ってるしね」

先輩妹「…そう、ですか」

金髪「そーよ、なによその納得いってない表情。ムカつく、けど幸せぇ~え! アンタより先に幸せになったんだもんねぇ~っ?」

先輩妹「ムッ」

金髪「クックック、はいはい。説明はおしまい、はてさて願いはどうする? …部長先輩の占い結果以外だったらいいわよ?」

先輩妹「では、ひとつ」

金髪「お! なにかしら?」

先輩妹「恋愛相談を」

金髪「…れんあいそうだん?」

先輩妹「そも、ここに来た理由はもうひとつ有りまして」

金髪「結果を訊く他に、それがもうひとつの理由だと?」

先輩妹「ええ、だから初めにお姉さまとのなりそめを語り始めたというわけです」

金髪「…回りくどすぎる…」

先輩妹「叶えてくれるんですか?」

金髪「ん、まぁそんなんで良いのなら別に。けどなに、あ、あんたもしってるだろうけど…恋愛経験とか…」

先輩妹「知ってますよ処女ですもんね」

金髪「んばぁあああああああかっ!! あ、あんたもそうでしょーがっ!」

金髪「し、仕方ないじゃないッ…占えば先に待ってる未来なんてわかるし…どんな男も肉体だけ求めて全然先のこと考えてくれないし…ッ」

先輩妹「はいはい。金髪さんの恋愛事情とか要らないんで、ええ、私の話し聞いてもらえますか」

金髪「はぁ~~~っ……なによ、もお…どんなこと相談したいってワケ…?」

先輩妹「……」

金髪「?」

先輩妹「私はお姉様のことが大好きです。超心から大好きで、その理由が───」



                    理由は、至ってシンプルだ。




先輩妹「──恋する彼女が、素敵だったから」

金髪「……、へぇ」

先輩妹「兄に恋しているお姉様が素晴らしく、綺麗で。可憐で、私が見てきた人という者でもっとも──」

先輩妹「多くの輝きを持つ女性なんです」

金髪「…まぁなんとなく分からないでもない。あの人は何処か一つ、他人とは違って超えてしまってる部分を感じるし」

先輩妹「人として、ですか」

金髪「そうね。言っちゃえばそう──悪魔のように、異常なまでに固執している、いや固執できる人なんだと思う」

先輩妹「………」

金髪「でも、なによ? 言っちゃなんだけどそんな【幼馴染先輩の異常性】なんて、アンタとっくの昔から気づいてたみたいじゃない」

先輩妹「…はい、気づいてました」

金髪「なのに、何が会ったのかしらないけれど。今更そんな部長先輩の異常性に……傷ついた顔して、変なの」


 そう、あの第二体育館倉庫にて、六人で行われた恋バナ。

   その副産物で発見してしまったとある【闇】。


先輩妹(お姉様と糞兄貴の関係が既に、もとより壊れてしまってるんではないかという現実)

先輩妹「──そうであっちゃダメなんです。だって彼女は確かに、人間として笑えるようになったんだから…」

金髪「……………」

先輩妹「あの人は変われたはずなんです。何故、今更そんな異常性が出てくるのか…いや、無くならなかったのか…」

金髪「ねえ」

先輩妹「…、なんです?」

金髪「………」

先輩妹「な、なんですか?」

金髪「今からさ。一つとっても酷いことを言うわ、まあ恋愛相談として間違って無いと思うから【わたしは言ってもいいと思うけど】」

先輩妹「なんですか、気になるじゃないですか。言ってもいいです、というか言ってください」

金髪「そお。じゃあ言うわ」



 あのさ、アンタって本当に、




金髪「幼馴染先輩のこと好きなわけ?」


先輩妹「……、それは、どういう意味で」

金髪「そのまんまの意味だけど?」

先輩妹「理解に苦しみますね。何がどうなって私の好意が偽物だと断言できると?」

金髪「んんー…」ポリポリ

金髪「なんかさ、アンタの過去の話を聞いてても思ったし、好きになったきっかけの時も変だなって思ったんだけど」



金髪「あんたって単純に【幼馴染先輩に憧れてるだけ】じゃないの?」



先輩妹「あこ、がれて……る?」

金髪「恋する部長先輩を見て好きになったわけでしょ? その立場に、その姿に、その女性としての綺麗さに」

金髪「だったらそれって単に『自分がそうだったらいいな』みたいな憧れに近い感情……というかさ」

金髪「……、なんか自分で言って納得出来ないわ。なんだろ、ちょっとアンタはズレてるって感じがする」

先輩妹「…っ…」

金髪「出会って、人柄を知って、憧れて? ……好きになる?」

金髪「結果、奪ってまで自分のものにしたい、なんて答えにたどり着く意味がちょっとわからないっていうかさぁ」

金髪「これはわたしの意見だから真に受けなくても良いけど、憧れと好きって、似てるようで全然違うものだと思う」

金髪「──もしかしたらアンタは、幼馴染j先輩に向ける感情を何処かで履き違えてしまったかもよ?」

先輩妹「履き違えてしまった、なんて、そんなこと…」

金髪「わかんないけどさ、ごめん。わたしだって略奪してまで欲しい相手ぇー…なんて見つけたこと無いし、思ったこともないし」

金髪「それが妹さんにとって本当の『好き』かもしれないじゃん? わたしはそうは思わないけれど、ただ憧れてるだけって…思うけどさ」

先輩妹「……」

金髪「そう、そうよね、こういうのって幸福と不幸の価値観と一緒。起こった現実をどう受け止めるかで、幸せか不幸せか決まっちゃう」

金髪「アンタがその想いを好きだと言い続けるのなら、受け止め続けるのなら、それはどんなことがあっても──好きだと変わりない」

先輩妹「私はお姉様のことが……」

先輩妹「……大好きです、付き合いたいです、どんな事をしてでも自分のモノにしたいです」

金髪「……。そっか」

先輩妹「しかし、ありがとうございます。大変貴重なご意見でした、感謝します」

金髪「うぇぇっ? い、今のでよかったわけっ? な、なんかこっちが釈然としないっていうか………だぁーもう!」ずいっ

先輩妹「わわっ!?」

金髪「全然願いを叶えた感じしないんだけどッ? まったくもって話し聞いてあげただけじゃないわたし!」

先輩妹「そ、それで良いと私が先ほど伝えたはずですけど…?」

金髪「納得できない」フンスー

先輩妹「…存外面倒臭い性格になられましたね、以前もそうでもありましたが」

金髪「う、うるさいわねっ! こういった性格のほうが案外楽で楽しいのよっ!」

金髪「ったく、じゃーそういうことだから。今回の恋愛相談は決してわたしの満足度が足りませんでしたので、もうひとつ要求するから」

先輩妹「優しさの押し売りというのはこういったことを言うんでしょうね…」ボソリ

金髪「聞こえてるわよ!」

先輩妹「はいはい…わかりました…では、今度に迷惑極まりない特大級の難題を申し上げくるとしますよ」

金髪「あっは! いいじゃなぁーい? そういった不幸のカタマリ、大好きよ?」ニコニコ

先輩妹「あの…変わったようで全然変わってらっしゃらないように感じるセリフなのですが…」

金髪「ばかね、強がりよ」


ピピピピピピピ


金髪「おっと──【もうこの運命の時間】か」ピッ

先輩妹「…え?」

金髪「案外、長い時間話し込んじゃったみたいね。ごめん、じゃあもうわたし──あたしは行くわ」くるっ

先輩妹「ど、どうしたんですか一体? それに運命の時間って…」

金髪「ん~? まぁ言っちゃえば【アンタとここで会話できる時間】かしらね」

先輩妹「なん、ですかそれは…まるで私が元よりここに来ることを予想してたみたいな…」

金髪「あっは! 何忘れちゃったわけ? 占ったに決まってるじゃない──【自分の運命】を」

先輩妹「え…」

金髪「これから先訪れる全ては、あたしにとって既知になっている」

金髪「未来、過去、現在、あたしは全部の答えを知りつつ世の中を絶望しながら生きていく」

金髪「幸せも、不幸せも、あたしは受け止めて死んでいく」

金髪「───最高に不幸、これがあたしが信じる、幸福の運命」

先輩妹「……化け物」

金髪「あはは」

先輩妹「それは、つまり、貴女がこれから先知っていく中で───自分が対処できない敵を全て躱せるという意味」

金髪「……」コクリ

先輩妹「そして、それは、」

幸運でありながら、全てを知るのは人という矛盾。

人とは完璧ではない。人は人だからこそ、失敗をして経験をして、幸せのありがたみを理解する。


先輩妹「……貴女は、自分を占うことで結果知り得てしまう【不幸になる他人】を………」

金髪「うん! 全員助けるつもり!」

先輩妹「…………………」

金髪「少し言い方を変えるけど、本当は不幸だけどアンタは本当は幸せだと伝え歩くつもりよ」スッ


パラララララララ


金髪「運命は変わらない。けど、受け取り方は変えられる。それを広めるために、あたしは生きていく」トントン

金髪「本当の失敗は、多分今よね。こんな考えこそが間違いで、幸せだと決めつけているあたしは──不幸に違いない」

金髪「でも良いじゃん? けっこーこれで、幸せよあたし?」にかっ

先輩妹「不幸ですよ、それ。無意味で無価値な行動です」

金髪「【でも無駄じゃない】」

金髪「…言う通り意味もなく価値もない。でもやることは決してあたしにとって無駄じゃない」

先輩妹「…戯言です」

金髪「大変けっこーよ。クックック、みんなが幸せで何が悪いわけ?」

先輩妹「宗教団体でも開くおつもりですか」

金髪「あ、それもいいわね。まあ結局は誰も本当の意味で救われないんだけど、あ、そもそも宗教団体ってそういうモンだっけ?」

金髪「べっつにいいのよ、あたしが満足すればそれでさ」

金髪「つぅーこって! あたしはもう行くから、つか、ここにあと十秒も居たら……あたしのほうが面倒臭いことになるし」

金髪「…まぁ、頑張れば? あたしは不幸だと思うけど、アンタが迎える未来は絶対的な不幸だと思うけど」

金髪「──アンンタはもしかしたら、そんな不幸をちゃんと幸せに出来るのかもしれないしね」



金髪「あーあ、今日もひとついいコトしたなぁー」


スタスタスタ


先輩妹「…………」

先輩妹(なんだか、私の知り合いの中で一番やばい人になってしまったような気がしないでもないですね)

先輩妹「…誰もを救おうとする人間なんて、いずれは信じるものを見失うのが節なのに」

「なに臭いこといってるんだ飼い猫かぶり。テメーまで周りに影響されて、おかしくなっちまったのか?」

先輩妹「む。この声は…」

同級生「よう。何してるんだ、ここで」

先輩妹「別になにもありませんが? 私が昼休みをどう過ごそうかなんて、貴方に関係ありますかね」

同級生「無いな、けどテメーに邪険に扱われ文句をたらされ聞き流すほどオレも出来た人間じゃあない」

先輩妹「……」ジッ

同級生「警戒すんなよ一々。メンクセェやつだな、まったく」

先輩妹「で?」

同級生「ん? あぁ、別に大した用なんてない。ただ一つ聞きたいのは…」

同級生「…ここで誰と話してた?」

先輩妹「別に誰ともあってませんけど」

同級生「ふぅん。そうか、ならいい。…今は逃げられてもいずれ見つけてとっちめるしな」

先輩妹(金髪さん逃げて運命わかるから大丈夫だろうけど超逃げて)

同級生「オイ」

先輩妹「な、なんです?」

同級生「……」

同級生「昼は食べたのか」

先輩妹「昼? ああ、お昼ごはんですか。いえまだですが…」

同級生「そうか。実は校舎の中庭に日当たりの良いベンチがあるんだが」

同級生「そこで食べる昼飯は、なかなかモンだ」

先輩妹「……」

同級生「…ん」コクリ

先輩妹「よく分かりませんが、誘ってます? これ?」

同級生「まぁ、そうなるだろうな」

先輩妹「えーと、あはは。正直驚きました、貴方のような人もそういったご冗談を仰るんですね」

同級生「弁当作ってきた」ヒョイ

先輩妹「──なんですって!?」

同級生「そういうこった、一緒に食うぞ」くるっ


スタスタスタ


先輩妹「……………」ポカーン


中庭

同級生「さあ食え。野菜たっぷり、お肉たっぷり、白飯たっぷりだ」

先輩妹「………」ジトー

同級生「食わないのか。…そうか、ならオレ一人で食べるからな」ヒョイ

同級生「モグモグ」

先輩妹「あの、」

同級生「む。ちと味が薄かったか、なんだ?」

先輩妹「この際ですからハッキリと言い切りますけど…」


先輩妹「ここ最近、私に対して嫌に友好的じゃありませんか?」


同級生「……、バカ言え」フィ

先輩妹「馬鹿なのはそっちでしょう。なんです、ぶっちゃけると気持ち悪いんですけど」

同級生「もぐもぐ」

先輩妹「くってねーで答えてください。どういうつもりなんですか」

同級生「…気持ち悪いと思われてたんなら、謝るよ。すまなかったな」

先輩妹「…………ぇぇぇ……正直に謝らないでくださいよオェ…」

同級生「とにかく、一応お前の分まで作ってるんだよ。そうだな、食ったら答えてやるよ」

先輩妹「なんです、その脅しみたいな言い方…試されてるようで腹が立ちますね…」

同級生「一々噛み付いてくるんじゃねえっつの。ほら、好きだろだし巻き卵」

先輩妹「…好きですけど、なぜそれを?」

同級生「知ってる理由はテメーの兄貴に聞いてくれ」

先輩妹「……。頂いたら話してくれるんですよね、絶対に」

同級生「なんでも答えてやるっての」

先輩妹「じゃあ、いただき…ます」

ぱく

先輩妹「…おいしい…」

同級生「もぐもぐ」

先輩妹「あれ、うそ、なんでこうも素直に感想言っちゃって…私…」

同級生「美味かったか、そりゃ良かったよ。だし巻き卵は作った中で一番自信が無かったんだが」

同級生「なんせだし巻き卵、嫌いでな」

同級生「それに覚えときな」スッ

先輩妹「な、なにがですか?」

同級生「ちなみにアイツ──幼馴染の奴もだし巻き卵は嫌いだ。甘い卵焼きは性に合わないらしい、昔からな」

先輩妹「は、はあ」

同級生「あと唐翌揚げの方は好物だ。浅ましい獣みたいに骨付きをむしゃぶりつくすし、人参の飾り包丁は単純に綺麗だと喜ぶ」

同級生「黒豆は好きみたいだが取りにくい為か箸が進まない。スプーンを用意してやれ、一粒残さず平らげるぞ」

同級生「そうだな、あとこれはオレからのアドバイスだが──」

先輩妹「…………」

同級生「なんだ? そんな顔して?」

同級生「オレは嘘をついてないからな。素直に受け取ってくれて良い、試しに今度弁当の一つでも作ってやれよ」

先輩妹「……」スッ

パクリ もぐもぐ

先輩妹「解せませんね」モグ

同級生「なにが?」

先輩妹「私に言わせるつもりですか」

同級生「ハッ! …たしかにな、さぞかしお前にとっちゃ今のオレは気持ち悪いだろうよ」

先輩妹「ええ、食べてるものが好物であり絶品でなければ吐いていた所でしょうね」

同級生「気合入れて作ったかいがあったもんだ」

先輩妹「……」ゴク

先輩妹「何故、急に【このようなコト】を?」

同級生「ん? 別に、大した理由なんてねーよ。オレ自身が特に語ることも無い」


同級生「ただ言うなら、お前を応援したくなった……」

同級生「……純粋にそう、思えたからだろうな」


先輩妹「…なにがです?」

同級生「この前の昼休み。六人でやった『恋バナ』ってやつ、あれ最後にぶっちゃけたのってよ」

同級生「単純に『幼馴染への告白』だったろ。…聞いててマジびびったよ、一瞬息をするのを忘れちまったぐらいだ…」

先輩妹「へぇ~そう見えたんですか、不思議ですね」

同級生「ああ、見えた。それにお前の本気も伺えた、それに、オレは正直……心が震えた」

同級生「好きな奴が目の前に居る。しかもアレだ、常識的に認められねー相手にも関わらず…」

同級生「…お前は躊躇いなく言いのけた。例えゲームの終わらせる策だったとしても、オレはその強さが……」

同級生「…凄く眩しいと、思えた…」

先輩妹「………」

同級生「…オレは弱い人間だ、一人で立ち続けられないから誰かに寄りかかる。前が見えないと縋りつく」

同級生「そうしねぇと生きることもままならない。惨めで、弱者で、もしかしたら世界に嫌われてるんじゃねーかって不安になる」

同級生「いつまでも、いつまでも……ただ独りぼっちで生きている……だから、そんなオレはお前みたいな強さに、酷く憧れちまう」

先輩妹「抱きすぎですよ、なにもそこまで」

同級生「そうか? お前は不安にならねーのか? 今、この瞬間から誰もがお前から離れてしまうかもしれない──」

同級生「──なにか一つでも我儘を言ってしまえば、起こっちまうかも知れない現実を想像したりしないか?」

先輩妹「……、」

同級生「あの『告白』はなり得たかもしれないモンだ。なのに、お前は躊躇いなくやった」

同級生「その時から全部、全部、壊れちまうとわかってるハズなのによ。それでも【想いを伝えるリスク】に賭けたワケだ」

同級生「……わっかんねぇよ、オレにはお前がわからない。どうして胸を張れた、強くなれた、頑張れたんだ」


同級生「想いってモンは口に出した時点で『答え』じゃねえか……」


同級生「心なかで閉まっておけばまだ否定できる。口に出さなきゃまだ救われる、まだ自分の本音じゃないと──一般人のフリが出来る」

同級生「オレは恐い。自分の異常さで変わっちまうリアルを受け止められる自信がこれっぽっちも無い…お前は、何を考えてる…?」

先輩妹「何度も言いますが、私は私でやれることをやってるまでです」

先輩妹「貴方がどのようにあの時の『告白』を受け止められてるか、正直、…正直わかったりも出来ますが」

先輩妹「当の本人が何も考えてないと言ってるんです。それを強く受け取る必要があると思いますか?」

同級生「…それは」

先輩妹「それとも今度は私に依存でもするんでしょうか? 貴方が勝手に抱いた幻想を糧に、それは単に破滅の道ですよ」

先輩妹「私は何も導けない。貴方が寄り縋る希望などこれっぽっちもありはしない、私が行こうとする先はどうしたって【異常】です」

先輩妹「貴方にとって救いとなる正解とはかけ離れた未来ですよ。思い出しては如何ですか、貴方の求める強さは違うものだと思いますよ」

同級生「……」

先輩妹「貴方は強い人です。それは私が嫌になるほど知ってます、今は確かに何かに頼らなければ前を向けないかもしれない───」

先輩妹「──けれどそんな自分を弱さで否定しないでください。異常さで己を壊さないでください」

先輩妹「貴方の強さはとは、一人でも生きられる。絶対的な【人間としての強さ】でしょうから」

同級生「…お前は似てるな」

先輩妹「なにがですか?」

同級生「流石は兄妹ってコトか。自分の意見が正しいと決めつけて、まっすぐに突き進もうとする人間だ」

先輩妹「…似てますか?」

同級生「ああ、似てる。だが同時に【どうしようもなく似てない】」

同級生「似てるようで似てない。オレはそう思った、お前はどこかズレてるな」

同級生「何かを勘違いしてるようで、でも気づいてる。口に出して壊れる現実を知ってながら、その未来を誰よりも怖がってる感じがする…なんだ、お前も怖がってたのか」

先輩妹「…どういう意味ですか」

同級生「オレが知りたいよ。ただ言わせてもらうならよ、お前みたいにな奴を羨ましいと思えたこと、間違ってねーみたいだ」

同級生「間違いを口に出したら答えじゃない、まだ先があると足を動かせる」

同級生「…どうしようもねぇほどの往生際の悪さだ。笑えねえな、けど強さはそこにあった訳か」


同級生「【間違ってても頑張って突き進む。未来で待つ答えよりも、本当に求めた答えが、今の頑張りだったワケか】」


先輩妹「…何を言ってるのか理解し難いですね」

同級生「やっぱズレてやがるな。教えとくのも簡単だがよ、きっと何時かは気づく日がくるんだろーよ」

同級生「だから生き方で見せてやる。勝手に幻想をいだいて、勝手に強くなったオレが先にお前に見せてやる」



同級生「オレの弱さは既に強さだったんだ。その弱さを認め信じる──今こそが、本当に求めたオレの答え」



先輩妹「…なにを、」

同級生「人は変わらねぇもんだよな…弱いから他人を頼る、依存して立派なフリして強がるだけ」

同級生「【なんて思ってりゃ】、そもそれ自体がオレの生き方だったんだ。認められねぇよな、信じきれねぇよな…まったくよ」

同級生「あーどうにもこうにも、オレは弱くって半端な人間らしい。いや、この場合は人間だと言うのもおこがましいか」

同級生「ぶっちゃければ──それで良いなって思っちまった時点で、結局そこで、答えは決まってたもんかね」

同級生「オレは異常を認めることにした。信じて、オレの生き方と決めることにした──だから、ちゃんと、告白する」

先輩妹「あ、貴方は…」

同級生「あぁ、好きだって言っちまうよ。本当にお前のことが心から求めてると、…アイツに本音を伝える」



             今までそれが間違いだと分かってた。

          無価値で、無意味で、どうしようもない程の異常だった。

     知っていたんだ。わかりきっていた、こんな状況が続いても何も変われないと。


同級生「でも、わかった」


            今ではそれが間違いだと思わない。

         無価値で、無意味で、けれど無駄じゃないと思っちまった。

      知っちまったんだ。良いもんだと、こんな状況はオレにとって答えなんだと。



同級生「──男君に告白する。それが、オレにとってこれからの───」






                                                        今の答えだ。



先輩妹「っ………だ、駄目です!!!」

先輩妹「そ、それはっ! 貴方がっ!」

同級生「知ってるっての。告白すること自体が目的だ、フラれてもきちんと頑張れるっての」

先輩妹「そうであってもその経験は貴方にとって障害になります…!!」

同級生「なにが? 同姓に告白することが、オレの生き方にどう間違いが生じるんだ?」

先輩妹「あ、貴方が求める強さとはっ……かけ離れたものがまつことになるんです…ッ」

同級生「しらねーよ馬鹿。未来未来って、やっちまった後にしか気づけねぇモンだろ?」

同級生「…オレはその未来を考えない。好きだと思う今こそが、オレの求める強さってモンだ」

先輩妹「ふっ…不可解です! 意味不明です! あ、貴方は幸せになりたくないんですか…っ!?」


同級生「だったらテメーはどうなんだよ」


先輩妹「っっ…?!」

同級生「好きな奴は同姓で、しかも彼氏がお前の兄貴だ。それを好きなテメーは何故、あの時告白した?」

同級生「伝わらなくても、口に出した言葉は本物だ。お前が言い切った告白は──一切飼い猫をかぶってなかっただろ」

同級生「お前は、一体何をしたいんだ? どうしてオレを否定する? …お前がやろうとしてることは、オレよりも酷い状況を作り出すぞ」

先輩妹「それは…ッ」

同級生「──もし先を知りてぇなら、教えてやるよ」

同級生「オレが見せてやる。お前より先に、経験者として──」


同級生「お前の恋を応援してやるよ」

先輩妹「…そんなこと、間違ってます」

同級生「はぁ、間違いなんて誰もが思うことだろうよ…それにそのセリフ」

同級生「言ってて自分で辛くなってこねえか?」

先輩妹「……」

同級生「今、あるものを変えちまおうとするなら、どんなことだって辛いことに違いはない」

同級生「オレは最初から確かに【間違ってたモノ】だしよ、それを変えることは寧ろ褒められてもいいもんだろうな」

先輩妹「…貴方が向かおうとしている先は、貴方が不幸になるだけです」

同級生「……。だから応援してやるよ、お前のことをな」

同級生「先にどうなるかやってみせてやる。片方だけ、お前がやることやって迎えちまうだろう未来とやらの片方だけを見てきてやる」


同級生「あーあ、面倒臭いな…好きになるってこうも辛いことだったかなぁ…」ポリポリ


先輩妹「同級生さん…」

同級生「ふぅ、オレはもう教室に戻るわ。その弁当箱は勝手に捨てておけ、別に要らないもんだったしな」ガタリ

先輩妹「いえ…洗って明日には返します…」

同級生「そうか、好きにしろ」スタスタ

くるっ








「──あと、最後に一つだけな」

先輩妹「え…?」

同級生「いらんお世話かもしれんがな、…お前の兄貴に気をつけろよ」

先輩妹「お兄ちゃんを…それは何故…?」

同級生「一年間、あぁたった一年間だけかも知れねえがアイツとは長い間、同じ部活で同じ空間で過ごしてきた」スッ

同級生「…一年間、オレみたいなボンクラ相手に付き合い続けた輩だ、相当に頭がイッてるとしか言えねえ」

同級生「気をつけろ。お前の兄貴は思ってるほど甘くない…じゃあな、飼い猫かぶり」スタスタ…

先輩妹「……」

先輩妹(頭がうまく働かない。自分が何故ここにいて、何をしているのか…わざわざ考えなおさないと直視できない程に)

                          ズキン

先輩妹「…どうして否定しちゃったんだろ…」


彼の決断は己の問題とそうたいして異なってるモノじゃない。

むしろ彼が選びとった答えは、私という異常者にとっても───羨ましいものだった。


先輩妹「フラれていいものとしての…告白…それがどれだけ辛いなんてこと…」ギュッ


言ってからハッと気づいた。

あぁ、そっか。自分は単純に彼が行うことを止めたいだけなのだ。

その先に待っている【分かりきっている答え】を受け止めたくないから否定したいんだ。


先輩妹「…相も変わらず意地の悪い性格の人」


駄目なことは何をやっても駄目。

逆に追い打ちをかけるごとく、自ら駄目な答えを突き進む私に対して向けられた、一つの応援という言葉。


先輩妹「……」


何気なく落とした視線の先には、色取り取りの色彩を散りばめられた弁当箱。

意図せずしてそれが、気まぐれに作り続けた者が成し遂げられる程のレベルではいと察せられる。

彼は、頭のいい人だ。そして努力を惜しまない人だ。


こんな『人を思って作れる弁当』を、あの人は好きな人と単純に分かち合って食べることすら出来無い。

その辛さ。その間違いが──私の口の中で、甘く広がって舌の根元にへばりつく。

先輩妹「だし巻き卵…美味しかったな…」

あえて言葉にして伝えてこなかった、彼の本音。


先輩妹「……」


それでも私という異常者は、きっと迎えるべき未来に一歩ずつ進んでいくのだろう。

人の不幸に歓喜し、求め、更なる不幸の中で自分一人───幸せを手に入れる。


先輩妹「もぐ…もぐもぐ…」


私は否定する。この弁当の味も悲観して受け取ることもしない。あえて憶えて、求めた答えに持っていく。

誰もが不幸になるかもしれない運命の中で、あの人と一緒に、食べるためにも。

私は集中して目をつぶり、味だけを頭に叩き込む。


食べ終わった後に気づいたことは、

数あるおかずの中でだし巻き卵が一番、何故か美味しかったことだった。


第四講義室


男「やあ」

先輩妹「こんにちわ、先輩さん」

男「もうこんばんわの時間だけどね、こんにちわ妹さん」

先輩妹「今日は一段と早く来られて居たんですね、いつもは私が一番乗りでしたのに」ガタリ

男「実は君にいち早く伝えておかなくちゃいけないことがあって…ん? どうしたの?」

先輩妹「? なにがです?」

男「顔色が悪いよ、それに少し見た目から感じる体温が低くいように思える、かな?」

先輩妹「…先輩さんの瞳にはサーモグラフィ搭載済み何ですか…?」

男「ただの比喩だよ、それにしてもどうしたの? 体調でも崩しちゃった?」

先輩妹「いえ、別に…なにも…」

男「そっか、君がそういうのなら。おっと君の体調を鑑みたいところなんだけど…」チラリ

男「同級生くんからデートのお誘いがあってさ、少し時間に追われてるんだ。手短に要件は済ませるね」

先輩妹「…はい、どうぞ」


男「【幼ちゃんの誕生日会の時間が決まったよ】」

男「【会、と呼ばれるものだからパーティとして家族を除いたメンバーが選ばれた】」

男「【その中にそれとなく助言を加えて、君のことを含めることに成功した。だから、その日をもってして作戦を実行する】」

先輩妹「…わかりました、では、私がそれまでにしておくべきことは何かありますか?」

男「特に無いかな。その日に備えて出来る限り、君個人として清算することがあるのなら、やっておくべきだと思うぐらい」

先輩妹「とうの昔に…お姉様を好きになってしまった時点から覚悟は決まっています」

男「いい言葉だね、本当に君らしいよ」

先輩妹「…先輩さんも」

男「うん?」

先輩妹「貴方もまた、何か抱えているのならやっておくべきだと思いますが」

男「僕は別に…」

男「…君のように確かに思い切りのある人間ではないけれど、自分なりに出来ることはやっておくつもりだよ」

先輩妹「……」

男「なにか気になるかな?」

先輩妹「…同級生さんは…どうなさるつもりですか…?」

男「同君? あぁ、そうだね彼と僕との関係性はある意味後に面倒事を起こしそうだけど」ニコ


男「──元より依存から生まれた関係だ、やり方次第で後腐れなく終わらせられるよ?」


先輩妹(…堪えろ表情に出すな、心情を読まれる)ギュッ

男「……」じっ

先輩妹「以前、貴方は仰ってましたね。同級生さんという存在は、私達が求める幸せには必要不可欠だと」

男「うん。彼みたいな『強い人間』は必要なんだ、誰もが躊躇う空間で躊躇うこと無く言える人間だから」

先輩妹「気が強いってことですか?」

男「少し違う、彼は気は強くない方だと僕は思ってる。ここぞという時に、彼は口を開くことは出来ない性格だよ」

男「けどねそれでも彼は【一度覚悟を決めたら絶対に諦めない】。元より、彼の強さとはそういった諦めの悪さ」

男「意地になるほど彼は悪あがきを惜しまない。言ってしまうとね、別れた彼女のことすら──彼は諦めてないかもしれない」

男「そうなる前に僕が努力の矛先を、此方に向けてしまったのだけれど」

男「だからこそ、僕は彼の本来の強さを疑わないよ。そうなって、こうなるって幼馴染だからこそ信頼してるんだ」

先輩妹「言葉は言い様によって変わる、とは。まさに貴方がしらしめてくれますね、つまりは使い勝手のいいコマだと?」

男「受け取り方は君に任せるよ、うん」

先輩妹「これもまた貴方に以前、質問したことですが憶えてますか?」


『先輩さんは……もし自分の罪で、他の誰かが巻き込まれて危なく経った時に、』

『──貴方はどんなに屈辱的なことでも受け入れられることが出来ますか?』


男「覚えてるよ、だから僕は『難しい質問だ。僕としてもはっきりと口にしにくいかな、君に対してであっても、少しだけ躊躇するよ』と答えたよね」

先輩妹「…今なら素直に聞ける気がするんです、答えてください、例え傷つけてしまう言葉だとしても、私は今聞いておきたいです」

男「なぜ?」

先輩妹「覚悟のために」

男「…そっか、君にとって同君も…なるほど、さっきから君の態度がおかしいと思ってたけれど、苛ついてたんだ」

先輩妹「私は彼がどうなろうと知ったこっちゃありませんよ、別に」

男「どうしてムキになるのかな」

先輩妹「…彼が、貴方に何を求めようとも私には関係ありませんし、どんな結末を迎えようとも我関せずです」

男「何か彼から聞いたのかな?」

先輩妹「……っ…!」

男「うん?」ニコ

先輩妹「わかり、ました。貴方はそうでしたね、最初から……最後まで……そういった人だとわかってたはずだったのに……」

男「そうだよ、僕はそういった『人間』だ」

先輩妹「分かってたんですね最初から、【何時か同級生さんから告白される】ことを。はなからそれが狙いで依存させていたのだと…」

男「…妹さんはクイズは好きかな」

先輩妹「…なんですか急に」

男「喩え話だよ。僕はね解く方はあまり好きじゃないんだ、むしろ『クイズを創る』ほうが性に合ってるみたいでね」ガタリ

男「【遊び心】で、小さい時からたくさん作ったものだよ。今でも押入れの中には、下手くそな文字で埋まった大学ノートが何冊か残ってる」

先輩妹「……」

男「誰に読ませるわけでもない。ただただ、独りで作って満足する。それだけのモノに違いないのだけれど」

男「それでも個人で決めていたルールがあったんだ。それは必ず『きちんとした答え』があること」ぴっ

男「荒唐無稽な問題でも、支離滅裂な文章でも、いずれ迎える答えだけはきちんと納得出来るものにする…」

男「これが案外難しくてね。問題を作り上げることと、答えを用意すること。その二つは同じようであって全然異なってる」

男「悩んだ末に辿り着いた答えは──クイズとは遊戯、つまりは楽しむべきものだ。だから僕は考えた、なら僕も楽しむべきじゃないかとね」

男「【だから答えは後で用意したんだ。創る側として文章を考え、創る側として解いて『答え』を用意した】、すると行き詰まっていた創作もスラスラと書き綴ることが出来たんだよ」

男「不思議だよね、人って生き物は。結果から発端を創りだすなんて、いわば結果論だと言われても仕方ないけど…」クスクス

男「それで【愉しめる】のだから。作り出す方も、解く方も、どちらも同じくね」

先輩妹「…つまりは?」

男「うん。僕は楽しいのさ【作った問題を一緒に解く】ことが」

男「それに問題の発端自体が僕が関わってないにしろ、僕個人で後に導き出すことが出来る結果論は僕の強みだと思ってる」

先輩妹「…貴方は端から理解してやることをやるのではなく、予測して行動することに長けているのではなく」

男「やっていく内に答えというものを見いだせる、が正解かな。うん、幻滅した?」

先輩妹「いえ、全然。元より行動基準の一歩が端から正解の一歩の時点で、貴方は相当の切れ者だと思われますよ」

先輩妹「それに、ええ、私にとって深く受け止めるべきことはそうじゃなく……」

先輩妹「……貴方は酷く冷たい人なんですね、わかってましたけど、今更再確認できました」

男「うん」コクリ

先輩妹「貴方にとって色々な問題は……解く材料にしかならず、共に分かち合って歩むべき人を……最初から遊び仲間だと……」

先輩妹「貴方と他人には、絶望的なまでに立ち位置が異なってる……だから問題があなた自身を含めたものだったとしても……それを深く後悔し、どうにかしようと奮闘する他人は……」

男「同じく、僕としては遊び仲間だとしか思えない」

先輩妹「それが、答えですか」

男「そうだね。そうであると言うしか無いだろうね、今まで考えたこともなかったけれど──今に結論付けるなら、まさしくそれしかない」

先輩妹「…悲しい人ですね、先輩さんって」

男「他人ごとのように言って申し訳ないと思う。けど、それが僕なんだ」

先輩妹(まあでも今更の話と言ってしまえばそれだけですけどね。あの演劇部部長さんとタメを張れる性格なんですから)

男「でも、ひとつだけ信じて欲しい」

先輩妹「何がです?」

男「君のことだよ。今回の君を幸せにするための行為、作戦は単純に解く遊びとして捉えてはいないんだ」

男「…どんな風に語ったとしても信頼を得るには程遠いと分かってるけれど、それでも…」

男「──君には幸せというものを手に入れて欲しいと思ってる、これだけは本当の気持ちだから」

先輩妹「そう言って頂けるだけでも有難いですね。そも貴方の幸せも加味される作戦ですから、乗り気ではないと困りますよ」

男「そうだね、今更な話だったよ。本当に不安を煽ることを言ってしまって申し訳ないと思う」

先輩妹「いいえ、私が答えを聴きたいと強請ったからでしょう? 素直に語って頂けて、感謝ですよ」

男「…そっか」

先輩妹「先輩さん」

男「うん?」

先輩妹「もう終わりなんですね、こうやって第四講義室に集まって話し合うことも終わってしまうんですよね」

男「うん」コクリ

先輩妹「終わり、ということは。その時点で私達二人は『本当の幸せ』を手に入れられているということなんですよね?」

男「もちろん」

先輩妹「…私は」

男「?」


貴方がつくり上げる【幸せ】を詳しく聞き出してはいない。

どのような形をなすのか、あえて、その答えを知ることを辞退した。

それが一番正しいことだと思えたから。知って、思うことがあってしまうのなら───


彼の行動に迷惑がかかってしまうと思えたから。


先輩妹「私は、どんな形であっても受け止めます。貴方が望む、そして私も望む幸せが待っていると…」

先輩妹「…他人を押しのけ、陥れ、騙し、一人勝手な幸福を得る…」

男「……」

先輩妹「頑張りましょう。人を不幸にして、私達だけの幸せを手に入れましょうね、先輩さん」

男「…君は」

男「ううん、そうだね。はっきりと明確なモノを得に行こうじゃあないか、妹さん」

先輩妹「ええ、そうですね」

男「…それじゃあ僕はそろそろ行くよ、ドウくんを待たせてる」ガララ

先輩妹「後悔のないように、先輩さん」フリフリ

男「……。それはちゃんとした人に言うべきセリフだと思うよ、妹さん、じゃあまた明日」ニコリ

先輩妹「…また明日」


帰宅路


先輩妹「……」


「また明日なー」

「バイバイ~」


先輩妹「……」チラリ

先輩妹(小学生ぐらいかな、こんな時間まで遊んでたんだ)

先輩妹「確かこの辺に丁度いい広さの公園があったような…」キョロキョロ

バシン!

先輩妹「? 何の音だろ?」


「おっしぁああああああああすっとらいくぅううううう!!」


先輩妹「…あー…」

「次行くぜぇー! 速ッ! よーちゃんダイレクトスマッシュッッ!」ビュッ

バシン!

「キャホー! いざ、メジャーシーズンへ……」ブルブルブル

先輩妹「あの」

「ギャボー!?」

先輩妹「こんな所でなにをされてるんですか、幼馴染さん」

幼馴染「よ、よっすー! あはは、変な所見せちゃったね…」テレテレ

先輩妹「いえ、いつも通りでしたよ?」

幼馴染「あれ? ほんとに? そりゃよかったー! …ん?」

先輩妹「くすくす、大丈夫です褒めてますから。相も変わらず元気そうですね」

幼馴染「からかわないでくだせぇー! うぬぬ…」

先輩妹「あはは。それで何をされてたんですか、この時間帯は部活動のはずでは?」

幼馴染「うん? あー今日はお休みなのさ、グランド整備で業者さんが来てるんだー」

先輩妹「へえー、そうだったんですか」

幼馴染「うん、だからこうやって自主練習中なわけってこと」スッ

幼馴染「…まぁ遊びっちゃ遊びなんだけどね、こんなのは」ぐぐっ…


ズバンッ!!


幼馴染「壁打ち為らぬ壁投げ鍛錬中」びしっ

先輩妹「それ、ゴムボールですか? あり得ない爆音鳴り響いてますけど…」

幼馴染「手加減がむずいよねー本気で投げちゃうと、爆散しちゃうしぃ」ウンウン

先輩妹「ば、爆散…」

幼馴染「妹ちゃんはー? 今帰りー?」ぐぐっ ブン!

先輩妹「部活もやってないので、このままおかえりですね」

幼馴染「そっかー帰宅部かーちょっと新鮮だーい、周りの子は大体部活入ってるからね」ズドン!

幼馴染「…今からでも入ろうとか思っちゃったりしない?」テンテンテン…スッ

先輩妹「うーん、その気はないですね。お兄ちゃんにも言われますけど、ピンと来ないというか」

幼馴染「そりゃ残念。けどその感性を忘れる事なかれ! グダグダ悩んで選ぶものよりドンときたモノを選んだら後悔なしッ!」

先輩妹「それは、幼馴染さんの経験談?」

幼馴染「モチロンさ! 好きなことだって嫌なことだって、続けてれば何時だって問題だらけ」

幼馴染「立ち止まったり、壁にぶつかったり、悩みを抱えたり、たりたりだらけでもう辞めたいな、とか思っちゃった時とかね」

幼馴染「案外、始めたきっかけを思い返したりするんだよ。それで天秤にかけちゃう、自分はコレをどんな気持ちで始めたかなーってね」

先輩妹「そうなんですか…」

幼馴染「だからもし、きっかけが小さけりゃ折れちゃうかもね。それに、大きくても昔とのギャップ差に気づいて挫けるときもあるさ」ググッ

幼馴染「──だから、私は思い切りさを大切にする」ブン!


ズッダーンッッ!!!!


先輩妹「っ」びくっ

幼馴染「小さくてもなくて大きくもない…大切な自分自身の感性、言葉で説明できない本音に近い感情、みたいなモンかな?」

幼馴染「そんな運命的なモノをひょいと感じた時に限って、あぁ、私はこれを始めなきゃ後悔しちゃうな! と、特に思うんだ」ニコ

先輩妹「…その言葉」

幼馴染「うん?」

先輩妹「いつかで良いので、金髪さんに言ってみてあげてください。気が向いたらでいいので」

幼馴染「黒髪ちゃんに? あ、金髪ちゃんだよね…どうして?」

先輩妹「多分ですけど、今の彼女なら喜ぶと思うので」

幼馴染「? 君が言うのなら納得しとこうじゃん、うっし、言ってみるよー!」ニコニコ

先輩妹「はい」ニコ

幼馴染「つかあの子も元気してるかなー? 全然顔見てないけど、同じ学校通ってるから見かけないほうが不思議なんだけどねー」

先輩妹「……」

幼馴染「うん? どした?」

先輩妹「誕生日会、誘って頂いてありがとうございます」ペコリ

幼馴染「おっわー! そうやったで! そうそう! こちらこそなんか乗り気でマジ有り難いっていうか…!」

先輩妹「ノリノリですよ。そういったパーティ的なこと、私とっても大好きなんです」

幼馴染「そうなんけ?」

先輩妹「はい、ですから素敵な誕生日会にしましょうね」

幼馴染「て、照れますな…ほんま有り難い話っすわ…」テレテレ

先輩妹「……」

先輩妹(…心は何も動かない、痛くもないし動機も荒くならない)スッ


私は私だけの、幸せを手に入れる。ただ、それだけの話しだ。


幼馴染「あー早く来ないかな、誕生日」

先輩妹「…そう言ってられるのも十代までな気がしますけどね」


幼馴染「くす、確かに。二十歳もすぎれば年を取るのも嫌になるのかねー自分はそうじゃない気がするけどなー」ヒョイ

幼馴染「今年の今日は、何々何歳まで生きられましたよ! おめでとうやったね! とか、大切じゃない?」

先輩妹「そりゃまあそうかも知れないですけど…一々生きてることを、大袈裟に捉える人もそう居ないと思いますから」

幼馴染「まーね」

先輩妹「あ、そういえば幼馴染さん」

幼馴染「なにかねー?」

先輩妹「貴女がソフトを始めたきっかけとは何なんです? 一度聞いてみたいと思ってたんですけど、いい機会かなって」

幼馴染「およ? そりゃモチロン、身体を丈夫にするためだよー?」ググッ

先輩妹(あれ? 意外としっかりした理由だ…)

先輩妹「そうだったんですか…」

幼馴染「うん、だって小さい時に【事故で死にかけちゃってね】」

先輩妹「え?」

幼馴染「長い間ずっと入院、退院、入院また退院ってな感じで」スッ


トン! …テンテンテン…


幼馴染「色々と大変な幼少期を過ごした模様。うむ、よく生きとったワレ」ウムウム

先輩妹「そ、そうだったんですか? 全然知りませんでした…」

幼馴染「あっははー知らないだろうね、今はこんなゴリ乙女だし」ニシシ

幼馴染「そうなるよう昔から運動は続けてた。むしろ喜ぶものであって、後悔することでもないし」

先輩妹「…辛かったとか、ありませんでした?」

幼馴染「辛かったかー……うんにゃ、そうでもないかな?」

幼馴染「だって【大切な幼馴染が二人】も居たから。案外、へっちゃらだったよ?」

先輩妹「二人の…先輩さんや同級生さんが…?」

幼馴染「うん! 妹ちゃんなら知ってるだろうけどあの二人。マジ凄いからね、パネっすよマジで」

幼馴染「事故に遭って、病院のベッドの上で以前とガラリ変わっちまった姿にドン引きしてたクラスメイトの中で…」

幼馴染「どーくんは包帯グルグルチューブブスブスだらけのウチに、一切変わらず接してくれたし」

幼馴染「男ちゃんに至っては、毎日欠かさず飽きずにお見舞いに来てくれてたよ」

先輩妹「…流石ですね」

幼馴染「でしょー! 流石なんですわ、あの二人は。ほんっと幼馴染で良かったと思う、ウチは嬉しいですわ」

先輩妹「………」

幼馴染「だからね、さっきも言ったけどウチは今この時生きられることが嬉しいんだ。だから誕生日も何時だって素敵な日だと思ってる」

幼馴染「お祝いできるってことは、生きてるってこと。生きてるって言うことは、皆でお祝いできること」

幼馴染「その皆は、生きてるからこそお祝いできる。大切な人たちだから、ちゃんと一緒にお祝いできる…」


幼馴染「うちは今という時間を誰よりも感謝して生きていたい。そう思うからこそ、誰よりも周りを大切にしたいと思ってるんだ」


先輩妹「幼馴染さんにとっての…幸福は、」

幼馴染「うん?」

先輩妹「皆で一緒に入られること…貴女がその環にいられること、なんですね」

幼馴染「え、え~? 幸福とか、んなまじめに考えたことねぇなぁ~…」テレテレ

幼馴染「でもまあ! 妹ちゃんの言うとおり、そうかもしれないね!」

先輩妹「良いと思いますよ、是非とも胸を張って誇ってください…私は素晴らしいと思います…」

幼馴染「そうけ? あはは、あんがとー!」

先輩妹「……。じゃあ私のお兄ちゃんも、貴女の幸せの一員で頑張らせて頂いてるんですね」



幼馴染「………………」



先輩妹(うっ、表情が一変した…うぉぉ…)ゾクゾク

幼馴染「そうだ、と思いたい、けどね」スッ

先輩妹(相も変わらずこの人にとって、あのクソ兄貴の立場が【何なのか】が分からない)

先輩妹(好きだということは分かる。だってあの時、あの桜が散る合格発表の日で…見た貴女の表情は、素晴らしかった)

先輩妹(恋をしている貴女がそこに居た、なのに──)

先輩妹「──どうしてそんな暗い表情をされるんですか?」

幼馴染「暗い、表情…?」

先輩妹(まあ表情は変わってないんですけどね。目が、ヤバイというか、光が無いっていうか)

先輩妹「好きなんですよね、お兄ちゃんのこと」

幼馴染「好きだよ」

先輩妹「お兄ちゃんも幼馴染さんのこと好きだと思います。これって相思相愛ですよね? なにか心配することでも?」

幼馴染「ううん…特には…」

先輩妹「何か、お兄ちゃんに隠し事でも?」

幼馴染「………」

やっぱり、あるのか。

先輩妹「例え何かあったとしても、それが貴女にとって重要な悩みだとしても…」

先輩妹「お兄ちゃんはきっと、誰よりも深く貴女のことを知ろうとしてくれると思いますけどね」


その隠したいモノは、果たして。

私が感じている【貴女の異常性】なのだろうか、はっきりとした答えは彼女だけが知っている。

そしてそれを隠し通すのも、打ち明けるのも彼女次第。

私のようなたかが彼氏の妹という立場ごときが、彼女の意思を揺らせる力など無いだろう。


先輩妹(けれど、そう…私はある人の約束によって【幼馴染さんの恋愛相談を乗れる立場】であること…)

先輩妹(彼女の悩みを聞き出し、分かち合い、そして解決策を一緒に見つけ出す仲…)

先輩妹「幼馴染さん…だから私は、きっと、」

幼馴染「何?」

先輩妹「………」


だから私は、きっと…?


先輩妹(何を言うつもりだ、奪うくせに、これから彼女を兄貴から盗ってしまうというのに)

彼女が隠したい秘密を打ち明ける相談など意味が無い。

その場所は、彼女の隣にとって変わるのは【私】という存在になる。


しかし今ここで、一歩進めることは。

果たして【誰も思うことは無かったのだろうか?】


恋愛相談をされる立場。だったら、どのようにしたって構わないはず。

彼女の弱い恋愛感を言い包め、もしかしたら今の関係を壊すこと無く───


先輩妹(──彼女を私のモノにできるかもしれないのに)


私は彼女の異常性をはっきり認識している。

その核心たるものは理解できてないが、わざわざ兄貴に打ち明ける努力に匹敵するとは思わない。

上手に話を進めれば、彼女はもしかしたらすんなり私だけには打ち明けてくれる可能性もある。


先輩妹「私は…」


幸せは皆で居ること。そう彼女は言った。

ならその幸せを偽りだとしても継続させつつ、彼女の心を私だけのモノに。



                                                           ズキン

先輩妹「…っ…」

心臓にずきりと痛みが走った。

今この瞬間だけ、何度も何度も心が荒んでいくような言葉を履き続けたにも関わらず。

その想いだけはどうにも後悔に至るらしい。私は、そんなことは出来ないと弱音を吐いていた。


幼馴染「妹ちゃん?」

先輩妹「あ、えっと、ごめんなさい、私…」

先輩妹(落ち着け、私、同じことを繰り返すな。静かに悟られず深呼吸…)すーはー

幼馴染「大丈夫? 急に黙ったから」

先輩妹「平気です、ええ、少し考え事があって…すみませんでした…」

幼馴染「ううん、こっちも平気」

先輩妹「……」

幼馴染「……」ジッ

先輩妹「あの、なにか?」

幼馴染「何か知ってるの?」

先輩妹「え?」

幼馴染「【何かうちの事しってるの?】」

先輩妹「っ……いえ、なにも?」

幼馴染「ならいいけど」スッ

先輩妹「…あの幼馴染さん…」

幼馴染「っはぁ~~~!!! なんだか疲れちゃったなー! うっしし、今日は自主練おっしまい!」

先輩妹「…………」

幼馴染「誕生日会、楽しみしてるよ。きっといい日にしようね、うちはそう思ってるから」

先輩妹「…はい、そうですね…」

幼馴染「じゃあ、」グググッ


ブン! ───パァアアアンッッ!!


先輩妹「!」

幼馴染「おお、爆散した。んふふ、またね?」フリフリ

先輩妹「ま、また明日」フリフリ


自宅


先輩妹「ただいまー」

先輩「ああ、よく帰ったな妹よ」

先輩妹「…? あ、そっか。グラウンド整備で部活休みだったね」

先輩「む? 何故知ってる?」

先輩妹「帰り道に幼馴染さんと会ったの。その時に聞いたよ」パタン

先輩「おお、そうか。三日後には終わるらしいからな、それまで主に自主練か自宅待機だ、まったく中学の頃と比べ生っちょろくなったものだ…」

先輩妹「そうなの?」

先輩「野球部がろくに県大会で結果を出せないのは、まぁ理由は一つじゃないが…それが原因だと言っても過言じゃない」

先輩妹「へぇーでも確かに、うちの野球部は目立ってないね」

先輩「部長として嘆かわしいことだ。一応、部員には呼びかけこそすれ、果たして何人が自主的に行うだろうか」

先輩妹「…あれ? 携帯鳴ってるよ?」

先輩「む?」ppppppp

ぱかり

先輩「…後輩からだ、なになに…『明日は部員全員でランニングしましょう…市のグラウンドの予約を取り付けたので練習もできます…』…ほう…」

先輩妹「良かったじゃんか」

先輩「う、うむ。不覚にも涙が零れそうだ…そうか…」ホロリ

先輩妹「慕われてるね、お兄ちゃん」

先輩「そういっても良いものなのかな、わからん。男が言うには恐れられてるという話だったが、やはり長という立場は年をとるほど難しい」

先輩妹「………」

先輩「いや、不用意に物事を考えすぎるのも悪い癖だと言っていた。ここは素直に受け止めよう、うむ、では明日は是非とも頑張らせていただこう」ニコニコ

先輩妹「そうだね、頑張らないとね。そういえば、三日後といえば丁度…幼馴染さんの誕生日だね」

先輩「お前も来るのだろう?」

先輩妹「勿論。お兄ちゃんの方はプレゼントは決まった?」

先輩「無論だ、抜かりはない」ウム

先輩妹「私はまだ、何がいいと思う?」

先輩「なんでもいいだろう。想いがこもっていれば石ころでも立派な贈り物だ」

先輩妹「それは…」

先輩「冗談だ。だがしかし、アイツは至って何だって喜んで受け取るぞ」

先輩妹「……。それはお兄ちゃんの意見?」

先輩「おぐっ!?」ビクッ

先輩妹「なるほどね、男さんの助言か」

先輩「むぐぅ…」

先輩妹「他人の助言をさも己のモノのように…」ジトー

先輩「不甲斐ない兄貴で申し訳ない…」

先輩妹「ううん。ありがと、教えてくれて」

先輩「そ、そうか。まあしかし、アイツは本当に何を上げても喜ぶんだ…こっちが驚いてしまうほどにな…」

先輩妹「石ころでも?」

先輩「ああ、石ころでもだ。いや実際に上げてはないぞ! ただ、アイツは石ころでも…例えバナナの皮でも受け取るだろう」

先輩「まるで、その物の価値より『贈り物としての価値』に有り難みを感じてるというか」

先輩妹「おかしな話だね…」

先輩「やはりそう思うか? いや、別に悪いということではない…ただ年相応な反応に感じないというかなぁ…」

先輩「俺としてはもう少し子供っぽく喜んでくれると、普段から気軽にプレゼントを送れるのだがな…一々緊張をしてしまう…」

先輩妹「でもそれが幼馴染さんのいいところ、または凄いところだと思ってるんでしょ?」

先輩「む。確かにな、愚痴るべき所ではなく褒めるべきところだ。今時珍しい若者の感性として受け止めていく方針で固めよう」ウムム

先輩妹(お兄ちゃんの珍しさも大概だと思うけどね…)

先輩「誕生日は三日後だ。お前なら心配ないが、甘く見積もり過ぎてるとあっという間に当日なるぞ、気をつけろ」

先輩妹「りょーかい。お兄ちゃんこそ誰の口出しも受けずに選んだプレゼントだからって、当日に怖気づいて渡さないとか言わないでよ?」

先輩「む…」

先輩妹「悩むな悩むな! ちゃんとしてよ、もー」

先輩「くく。わかってる、ちゃんと無事に渡すぞ」

先輩妹「うん…そっか、そうしてね、ちゃんと渡すんだよ?」

先輩「無論だ」

先輩妹「…うん!」


~~~~~


何気なく夜風に当たりたくなって、ベランダへと出てみる。


先輩妹「…少し風が冷たいなぁ…」


未だ残暑を色濃く残す月初め。それはまるで想いを捨てきれないで喚く駄々っ子のようだ。


先輩妹「もうすぐ秋だよね…うん…」

まるで実感の湧かない季節の変わり目は自覚しない分、もっと分からなくなる。

ゆっくりと舐めるように夜風に冷やされる身体。風呂あがりに火照った芯は、まだ小さく温かい。


先輩妹「……」


以前、兄がこう零したことがあった。

『空がたまにキラキラと光る時がある。特に部活動中だな、すると次の日のニュースでは季節の変わり目は今日だと言われた』

そう何気なく呟かれた兄の言葉に、当時の私は軽く衝撃を受けた。

まるではそれは超能力の何かだ。気温の変化を体感して季節の移りを見つける人は居るだろう。しかし兄は視界で変化を感じ取る。

見上げた空。まんべんなく、どっぺりと塗りたくられた茜色に染まった上空に浮かぶのは──不可解な煌き。

兄はそれをたまに視認することがあった。上手く説明も出来なければ、他人には感知などできず、兄だけが見える一つの規準。


私はその事を『世界に愛されてるんだ、この人』と何ら疑いなくそう判断した。

世界は何時だって意地悪で冷酷。

努力もしなければ結果も見ようとしない異常者達とは違って、ただひたすら【未来】を見据え一歩、また一歩と進む兄だからこそ、


見えるようになった世界の表情。


先輩妹「それを羨ましいと思うことは…やっぱり傲慢かなぁ…」


兄は自分自身の価値を認めようとはしないだろう。実際、愛されてることすら分かってない。

努力をすれば見合った結果が訪れる。そう、本気で信じ切れてる純粋無欠な人間の限り、私のような異常者の感性を理解は出来ない。

『愛されてて羨ましい』、『努力を信じきれるなんて凄い』。


先輩妹「…わかんないなぁ、ほんっと」


やってることは頭では分かってる。兄がやることを目で追いかけて、残した足あとに自分の足をそっと置けば良い話だ。

さすれば兄の行き先に自分も行ける。やろうとする努力が如何なるものか、ほぼ同時に知ることが出来るに違いない。


先輩妹「……」


でも【無理だった】。次の一歩は踏み出せない、私は歩幅を合わせた兄の足跡とまったくサイズが違うことに気付き、

不用意に視界を上げれば、次なる一歩が何処にあるのか分からない。必死にきょろきょろ見渡しても見つからない。

寂しさと恐怖に心を脅かされながらも、踏み出した足は今更戻すことなど出来なくて、半べそかきながらやっと次の足跡を見つけた時──


──それは視界ギリギリのずっとずっと奥にあったと知った時は、絶望に膝をつくことすらなかった。


唖然。不意打ちめいた衝撃は私を大きく揺さぶり、踏みつけた足跡が『馬鹿めアホタレ調子に乗るな異常者が』と言わんばかりに私を嘲笑った。

周りを見渡せば誰もが疑いもなく先へと進んでいく。待って、と。お願い私を置いて行かないで、とすがり付けば、その手は宙を無様に切るだけ。


私は無知で馬鹿だった。なによりも『今』望んでしまったことが救いようがない。

皆何かしら努力を経験し、先へ先へと続く道の進み方を知っていたというのに。

私は努力を嫌悪し、結果を認めようとしないでいたのだから知るわけない。


そうか、私は望んじゃいけなかったのか。進み方を知ってしまうことすら苦痛になってしまったのか。


私はその時、やっと壊れたのだろう。世界に嫌われるのことを続けたのは自分のくせに、その現実を目にしてやっと異常者として認めたのだ。

後悔すること無く、異常者としての自分の在り方を認めた私。

その結果すら異常者として認めざる負えないと理解できたが、今更どうすることも出来なかった。

そこからは比較的に私は気楽に生きられた。落ち度を認めれば、心は何をしても動かない。苦痛も、喜びも、全て一緒くたに『無駄』だと捨て切れた。


勉学に励むモノを嘲笑い、部活に精を出すモノを影で指を指し、

恋愛にうつつを抜かすモノをアホだと軽蔑し、友情を深めるモノを茶番だと鼻で笑った。


周りの奴らは全く自分とは違う存在。

だから私は何を思おうが言おうが関係ない。怪物と人間、その違いを風をきるように無視できた。


私は違う。特別なことは何一つ無いけれど、ただ周りと区別をつけるなら一つ──『世界を嫌ったから嫌われてる』、だろう。

何もかもが楽だった。薄っぺらい喋る紙がペラペラと動き回る中を、ただひたすらゆっくり牛のように歩き続けるだけでいい。

時には立ち止まり泥のように眠り、またちんたらアホ面引っ提げて歩き出す。


そんなことを数年続けていれば、私は生きることすら無駄だと思えた。

もうこのまま死んで無かったことにしたほうが無駄がなくて良いんじゃないかと本気で考え始めた時、


あの【応援】が、私には聞こえてしまった。


彼女は私と同じく異常者だった。誰もが立ち止まらない場所できっちり両足揃え踏みとどまり、思わず耳を塞ぎたくなる大声で吐き出す応援は、

はるか前方の先の先、裸眼で2000メートル先を拳銃で撃ちぬくレベルで無謀な相手に届けられようとしていた。

『やばいな、この人。逃げ出したい』

異常者の私でさえも怯えさせた異常さは、一瞬、私を人間に戻してしまう程の怪物だった。

逃げ出そうとした私は、不意に怪物の姿を観察してしまった。

何をそんなに大声を張り上げる必要があるのか? 届かないと理解していて、元より届けることすら放棄している行為。

気まぐれにしては長く、興味本位にしては短すぎる程度に私は気になった。


見れば見るほど彼女はおかしいモノであることは、応援が終わった後、話をしてみたことから理解できた。


おかしいことに、化け物のクセに傷が沢山あった。

おかしいことに、化け物のクセに先へと進んだ形跡があった。

おかしいことに、化け物のクセに化け物だと知らなかったようだ。


『彼女は一体ナニモノなんだ? コイツはどうしてここに居る? なんで努力を知っているのにおかしいんだ?』

疑問は新たらな疑問を次々と浮かび上がらせる。とうとう意味不明すぎて頭にきた私は、その彼女の手を掴んでしまった。

『ダメだ、コイツを見てるとどうしようもなく苛つく。腹が立って仕方ない、もう応援相手の近くまで届けてやろう、やかましいから』


その時の気持ちを今にしてみれば同情、哀れという感情が占めていたと判断がつく。

彼女の異常性が努力を上回ろうとしている。当時、生きることすら無駄だと思い切っていた私には理解不能な行動原理。


何時だって異常性はつきまとう。何故、ここまで努力を残したまま異常性と折り合いつけられていたのか意味不明だった。


届くはずがない距離で、元から届かせるつもりがない気持ちで、でも必死に応援して『この想い』を届けたい──


一体何がしたい? 無駄だ、マジで無駄。そんな努力をするのなら、もとより無駄だと割りきって……あぁ…

…何度も何度も無駄なことを続けるからこそ、彼女は…怪物なのだと…それが異常なのだと、今の私には分かる。

今月中に終わらせます ではではノシ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月10日 (水) 03:45:11   ID: u6VgWRKv

興味深い

久々にわくわくするものを見たわ

2 :  SS好きの774さん   2015年01月14日 (水) 19:17:12   ID: guQ9tses

どうなるか期待

3 :  SS好きの774さん   2015年05月04日 (月) 05:35:47   ID: 8j2jmmdc

続きが気になる

4 :  SS好きの774さん   2015年06月10日 (水) 19:33:47   ID: 5TP2Xj25

はよ(ノシ 'ω')ノシ バンバン続きはよ(ノシ 'ω')ノシ バンバン

5 :  SS好きの774さん   2016年09月27日 (火) 02:14:04   ID: iye0YlNO

最初ほうしか見てないけどホモぉ

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