爽「お前らなんか大っ嫌いだ!」 (71)

滑り込み爽たんss


書き溜めは完全じゃないですが、終盤まではあるので出来るだけ投下していきます

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「―こうして、私たち麻雀部は幸運にも地区予選を勝ち抜き、インターハイへの切符を手にしたのです。その裏側には……」





八月二日。有珠山高校。体育館



その壇上では、チカが椅子に座った学生や地域のみなさんに麻雀部の部長として答辞を述べていた



…いや待てよ。こういうのは答辞とは言わない。というか全然違う



抱負、誓い、演説、或いは所信表明……でもないか



とにかく、壇上ではチカがカンペをチラ見しながら、スピーチめいたあれこれをマイクに向かって喋っているのであった



長いようで短い壮行会はやっと終わった。時計の針はは正午を少し回ったくらいか?



夏休みに集められた生徒たちは解散し、部活へ行く者、帰る者、駄弁る者、椅子の片づけを手伝わされる者など様々であった



かくいう私たちも、今から体育館を出て部室へ向かう所である。上京して部室を空ける前に、掃除やらなんやらしておこうという相談だ



鍵は既にチカが持っていた。たまにチャリチャリいう音が面白く、なんだか可愛い感じもしている



…さて。さっき言ったように、本日の日付は八月二日なのだが……



「あぁ~首痛ぇ~。なーんでこんな日に壮行会やらなきゃならんのかねぇ」





そう言って首を回しながら、私は前を行く四人に目をやった。当然、返す言葉を期待してのことである





「そう言うなって。これも社交辞令ってやつだろー」





普段と変わらない、間延びした声で揺杏が答える。『社交辞令』を気にしてか、普段は前で開けている制服のボタンも今日はちゃんと留めていた



ところで揺杏の返答についてだが、まあ百点満点中で五十点といったところか



それこそ社交辞令のようなつまらん内容だったのは気に入らないが、一番先に返事を返した点は評価してやるべきだろう



他の奴らはどうだろう……と気にした所に、成香が続く





「確かに、折角の上京前日にこういう予定を挟まれると困りますよね
 皆さんは『いってらっしゃい』のつもりかもしれないですけど、ほっといて欲しいという爽さんの気持ちも分かります」





うんうん、と首肯しているその表情はどこか自慢げだ





「いや、そんなことはないけどなー?」





と、何気ない顔で否定しておいたが、『何ドヤ顔してんだお前ぶっ飛ばすぞ』と思わず言いたくなるようなあのしたり顔は、写真にして釘をぶっ刺したくなるほどウザいものだったと記憶している



「二人はどうよ?なんかさ、『なんで今日この日なの』って感じしない?」





実際に壮行会を『行事』と呼ぶのかは知らん。今大事なのは、今日という日(特に日付)に関する会話を続けることである



そういうわけでチカとユキに話を振ると、チカの方から先に返事が返ってきた





「そんなのどうでもよくない?たまたまそうなったとか、他の予定との兼ね合いとかでしょ」





使えない答えよこしやがって。チカは何気におおざっぱだし、こういう話題は難しいのかもしれんな



残るは、後一人だけだ



ユキ、頼んだぞ!お前ならきっと、私の望む答えを―





「………………」





―あれ?どうしたユキ?まさか…





「…おーいユキー。聞こえてるかー?」





と念を押して訊いてみると、ユキは惚けたような顔をして言ったのであった



「……はっ。獅子原先輩、どうかしました?」





案の定か…。ウチで一番マジメな癖に、どっか抜けてるんだよなぁこいつは





「大したこっちゃないよ。今日この日に、壮行会みたいな要らんものぶっこまれてなんか思う所はないか?」





まあ、壮行会自体はどうでもいいっちゃいいんだが。本音ってのは隠しておくのが華である



しかし、遠回しな聞き方が悪かったのだろうか。前三人の時と同じく、この目論見も外されることとなった



「そういう言い方はよしてください、獅子原先輩。
 私たちはこの学校と南北海道地域を代表して戦うわけですから、皆さんの期待と声援を受け止めるのは当たり前じゃないですか!」



「……うん。ごめん」



「それにしてもいいですよね、こういうの。地域中の期待と不安を一身に背負うことになるわけですから、否が応でもこみあげてくるものが……」



「そっか。…本番では、落ち着いてな」



「もちろんですよ!」



「……うん。たのんだ」



もー!変な時に熱くなるんだからこのおっぱいは!



まったく、どいつもこいつもあいつもそいつも鈍すぎて嫌になるな。壮行会なんてぶっちゃけどうでもいいんだよ、八月二日って日付に注目しろよ



正直ここまで文脈を読めないバカばかりだとは思いもよらなかった。もっとヒントを出した方がいいかも……



…いや。もしサプライズが企画されてるとしたら、あからさまな催促はかえって気まずくなってしまうな。乞食みたいなマネをするのも癪である



だとすると、この場合の良い手は……



「……なあ皆。今日って、他に予定なかったりする?」



「部の方?個人の方?」





チカが訊き返してくる。私が訊きたいのは一方だけだ





「個人の方。お前ら四人、なんかあったりするの?」



「えっ。それはどうかな…」





そう言いながら、チカは私以外の三人と顔を見合わせようとするのであった



三人を見やるチカの目。そこにはほんの少しだが、不安や困惑を表す色が浮かんでいるように見える



サプライズがあるとすれば、それをゴマカすために何らかのリアクションが四人の間で見られるはずだ



今のチカの反応はクロともシロとも断じにくいが、可能性のあるものは何でも疑ってかかるべきだろう



そこで、チカを含めた四人の動きと表情を注視しようとしたまさにその時





「さーわやっ♪」



「ウグッ!」





私は強烈なタックルを食らい、女子らしからぬうめき声を上げてしまったのであった



問われた揺杏は、普段のキャラも無視して私の腰に巻きついている。私との身長差もあり、傍から見ると歪な構図になっているだろう



今の揺杏からは小動物に似た印象も感じられてなんだか無駄に可愛い感じだったが、それはそれとしてイラつくので自然と声も荒くなってしまう





「『えーっ?』じゃねって。なんで予定訊かれただけでんな喜んでんだよ」



「だってさー…『予定空いてるか?』ってことは、これから爽がどっかに誘ってくれるってことだろ?私はカラオケでも飯でも付き合うぜ、爽!」



「はあ!?何言ってんのお前意味わかんね!」





深読みしすぎだこのバカ野郎。文脈を読むにしても、読むべき所とそうでない所をわきまえて欲しいものである



「なに逆ギレしてんだよー。サプライズって感じで皆を遊びに連れてってくれんじゃないのー?」



「んなの一言も言ってないだろ!何で私がサプライズする側に回んなきゃならないんだよ!」



「ちょっ、こわっ。そんな怒んなよ…」





この脳内お花畑ちゃんめ。誰の所為で私がキレたか分かってんのか?分かってないだろうなぁ、きっと



こうして揺杏はようやく私から離れたが、残念なことに、反省の色はどうも薄そうであった



タックルの主は揺杏であった。身長差のある相手に不意打ちを受けたことで、私は危うく倒れる寸前までいっちゃったじゃないかバカヤロー謝れ!





「ごめんごめん!嬉しさすぎて、つい」



「『つい』じゃないよ。つか、今のどこにそんな喜ぶタイミングあった?」



「えーっ?」





てめーこのやろう。きょとんとした顔してんじゃねーぞ……



さて、揺杏にキレつつも三人の表情を窺っていた私だが、平静な感情を三人の顔から読み取ることは出来なかった。どうやら、一連の行動はサプライズがバレる恐れに備えての仕込みではなさそうである



それはそれで残念だが、揺杏が単独でバレ対策の謎行動に出た可能性もゼロではあるまい



ここは残る三人にも揺さぶりをかけ、怪しい要素を炙り出すべきなんじゃないだろうか





「……つーわけでチカ。これから何か予定ある?」



「あるよ」





…疑問の余地もないくらいの即答だった



『明日のこともあるし、大した要件じゃないけどね』と前置きしたチカの予定



それは、東京に行く前に成香と一緒に夏休みの課題を消化してしまおうというものだった



チカは勿論、成香の表情にも嘘はなさそうである。この場ででっち上げたってことではないのかな…?



まあ、それ以前に『学年違うだろ!』とか『なんでこんな時に!』とか訊きたくなったりもしたが、どうせチカが気分で決めたことだろうし、訊かないのが賢明だろう



そこで私は成香もスルーし、ユキに話を振ることにした



「…で、ユキ。お前は?」



「ないです」



「……何も?」



「はい。強いて言えば、荷造りくらいですかね」





そう言ったユキの表情には、動揺の色は全くと言っていいほど見えなかった



もう駄目だ……マジで見込みないかも…



おかしいだろうおい。去年はみんな(ユキを除く)祝ってくれたのに、何で今年に限ってなんもないんだ?ど忘れとか、勘違いとかじゃないだろうな?



日付の勘違いならまだあり得るか。ひょっとしたら、全国行きの前にやるのを躊躇しててまた別の日にやってくれるのかもしれないがどうだろう



…やっぱり確認した方がいいのかなぁ。でも、もしもみんな忘れてるとしたら、その状態で確認するのって催促してるみたいで嫌なんだけどなぁ



なんてことを考えている内に、いつの間にか私たちは部室の前に立っていた



このままぼーっと突っ立って考えるのもなんだ。テキトーに掃除とかして体動かすのもいいかもしれないし、急かされる前に入るとしよう…



「8切り。5トリプル。イレバ……はい、ここで3。そんで今度は…」



「ちょっとちょっと揺杏それインチキしてない!?」



「そんなわけないだろー?悔しかったら見破ってみなって」



「じゅ、順番が全然回ってきません…」



「むむむ……」





有珠山高校麻雀部。予定通り掃除を終わらせたまではいいが、なんか大貧民始めちゃった模様



なんで全国行きを控えてこんなことしてるんだろうなぁ、私たち…



「やー、あの頃を思い出すねー。アレ使って自動卓持ってきて牌用意して……うん。懐かしい」



「元々、ユキちゃんを有名にするための麻雀練習だったのにね。いつの間にか、それも二の次になっちゃったよねぇ」



「勝たないと有名になるのも難しいから……というので一生懸命やりましたけど、気付かない内に雰囲気ずいぶん変わりましたよね」



「麻雀を打ってない時は元のアナログゲーム部な感じに戻ってたような……」



「そ、そりゃまぁ、メリハリってことで…」





なんて揺杏が声を落とすと、チカたちは楽しそうに、懐かしむように破顔する



私の気も知らず盛り上がりやがって……つか、マジでサプライズないのかよ…



………グレちゃうぞ。もう…




グレるのは冗談にして、部活終わりまで待ってみた方がいいのかもしれない



しかし、その時までに確認取れないとちょっとマズい感じもするがどうだろう。なんか、このままあっさり解散する感が半端ないんだが…



と、そこまで考えていたその時である





「爽ー。さっきから黙ってっけど、どうかした?」





揺杏のやつ、またしても私の思考を妨害しやがった



「あ、いや別に……」



「答え方が既におかしいじゃん。私たちに言いたい事でもあんの?」



「いや、その…なんつーか…」





やばい。サッと返せなかった時点で詰んだわこれ



そう気付いたとき、私は四人分の視線を受けていることを肌で感じとった



どうしようかなこれ。言っちゃおうかなこれ。悩むぜ、マジで



言うのであれば、みんなの注目が集まってる今がチャンスだ。仮にこのまま解散になったら2,3日は立ち直れなくなるレベルの傷を負う気がしてならない



サプライズ前提なら催促に近い言い方になるけど、まあ一回くらいは許されるよね?



忘れてるとか勘違いとかなら私むしろ同情される立場だし、遠慮しなくていいよね?





「…爽、大丈夫?ウンウン唸ってるけど……」





チカのせっかち!今考えてるからちょっと待ってろ!



うーん…うーん……どうすっか…………



……よし、決めた



言うぞ。言っちゃうぞ。どうせ後悔するなら、言わずにするより言ってした方がいいよな。うん



というわけで、意を決し、私は自分の誕生日をアピールすることにしたのである



「…あのさ、みんな。今日、八月二日なんだけど……何の日か分かるよな?」



「『ぱっつん』の日?」



「ねぶた祭りでしょ?」



「揺杏ちゃんの誕生日から一か月目ですね」



「革命記念日です」



「ちげーよ!合ってるけど違う!!」





大喜利やってんじゃないんだからもっとまともな答えよこせよお前ら!!



つーか成香は揺杏のを覚えててなんで私のを覚えてないわけ!?おかしくない?いっぺんガチでヤり合ってみるか、おい?



もう駄目だこいつら。マジで心折れそうになってきた



のっけから憔悴した私。落胆の溜め息とともに、下を向いてしまうのも仕方ないと言えるだろう



するとその瞬間。下を向いたままの私にチカが近づき、耳元でこうささやいたのであった







「…なーんちゃって。今日が何の日でどういう日付なのかは、本当はみんな覚えてるよ」





「爽、誕生日おめでとうっ♪」






……なぁんだ。やっぱり、ちょっと捻くれたサプライズだったんじゃないか



チカ。今の言葉、比喩じゃなく私を救ったよ。本当に感謝感謝だよ



結果的に、乙女心を弄んだ四人の悪魔に屈することになったのは確かに悔しい。だけど、日付の勘違いやド忘れよりはずっとマシではないか





「ほら。いつまでもそうしてないで。ゲームの途中だし、爽も一緒に遊ぼうよ」




…ああ。そうだ。心配させただろうし、早く立ち直らないと…



チカの言葉に応じ、私は顔を上げる。『誕生日おめでとう!』の四重奏と共にクラッカーの鳴る音が私を祝福してくれ……





「…………」



「…………」



「…………」



「…………」





……あれ?



「どした爽?誕生日は去年も祝っただろ?」





と、揺杏。いやお前今年の誕生日祝われてたじゃん。私が先頭に立ってやってあげた恩を忘れたのかおい





「時期が時期だし、パーティーとかはちょっとね…」





と、チカ。まあしょーがないわな、インハイ近いし。でも、やらないならやらないで一言断りを入れて欲しかったかな、うん





「あの、プレゼントも良いのが見つから無くて……いえ、忘れてたんじゃないですけど」





と、成香。言い訳が下手というにも程がないか。なあ、成香ぁ?





「獅子原先輩。その、先輩たちが……すみません、何でもないです…」





と、ユキ。先輩がどうしたんだ。そんなの気にしないで普通に祝ってくれればよかったんだぞ?



『上げて落とす』という言葉があるが、実際にやられるとこんなキツイことは無かった



その後は、ちょっぴりだけ気まずくなって、普通にゲームとダベり続けて、普通に解散して、普通に直帰



寄り道する気も起こらなかったし、家帰った後はシャワー浴びて昼ご飯食べて部屋に戻ってぐーすかぴーです



もうなんというか、ほんとうになにもなかったです。ただ、ひたすらよこになっていたいきぶんだったとおもいます



あいつらだいっきらい。ほんとはすきだけど、やっぱりきらい。かんがえたくない。ねたい



もういやだ。わたしはいしきをてばなし………



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書き溜め終わりです…。また書き溜めて明日投下します



「……わや!だらしない……してんじゃ…!起きなさい!」





誰だよ。疲れてるんだからほっといてくれよ…





「ふざけたこと言ってないで!起きなさいって言ってるでしょ、さーわーや!」





瞬間、身体にかけてたタオルケットが引っ剥がされた



寝ぼけまなこをおして確かめるまでもない。誰が私を起こしたかなんて明々白々だ





「…なんだよかーさん。もう夕飯…?」



「もう六時になるわよ?あんたのケーキ、いつものお店に予約してあるから早く受け取ってきなさい!」



「なーんで自分の誕生日ケーキ食うのにパシらされなきゃいけないんだよー!やだ!」



「いいから行く!お金渡すから、早く起きて!」



「えー……」





しつこい親だ。今は、外行きたい気分じゃないってのに…



「駄々こねるんじゃないの。いっこ年取ったんだし、言うこと聞いて素直に行きなさいってば」



「もー…、しょうがないな。行くよ…」



「お母さん今から料理の準備するから。あんまり早く帰られても中途半端に困るし、のんびり行ってきなさいね」



「…だったらもっと寝さしてくれてもいーじゃん」



「いいから行く!」



「わーったよ!行く行く!だから叩くなって!」



かくして、私は懐に財布を忍ばせ近所の洋菓子店へ出向くことになったのである



季節は夏真っ盛りだが、陽が落ちかけた北海道は少し肌寒い。元々だるかった身体が縮こまって、自然と足取りも遅くなる



かーさんもああ言ってたし、急がず慌てず、のんびりゆったり行くとしよう



そうしてしばらく歩くと、目当ての店が見えてくる



外に出ている『誕生日のデコレーション等、店員に気軽にお申し付けください』と書かれたボードから目を逸らしつつ、私は店のドアを開けた



店内は外より暖かく、縮こまった気分が少しだけほぐれるような気もした





「すいません。予約してた獅子原ですけど…」





名前を伝え、代金を渡す。それだけのことが億劫に感じるのは私が横着者だからだろうか



ケーキを受け取れば、帰って家族とつつましやかなバースデーパーティーをするだけだ



かーさんと二人だけでやるのもなんだし、軽くでもいいからあいつらに祝って欲しかったなぁ。と、改めて思った



「お待たせしました。こちらで間違いないでしょうか?」





今年のバースデーケーキは、どうも例年より分量が多いようだ



かーさんが頼んだものなので私にはよく分からないが、見た目は一昨年食べたバースデーケーキと似てるし、多分問題ないだろう





「はい。だいじょぶです」





それだけ言ってケーキを受け取り、私は店の外へ出ようとした――が、



「あら、さーちゃんじゃないの!さーちゃん、私のこと覚えてる?」





歩き出そうとした所で、私は呼び止められた



聞き覚えのある声に見覚えのある顔。何より、あの呼び方と誰かさんにそっくりな睫毛の形が一番の特徴だ





「…もしかして、チカママ?」





私の声を聞いた女性は『その呼び方、やっぱりさーちゃんだわ!』と嬉しそうな声で言った



「そうだわ。さーちゃん、今日は誕生日だったわよね。おめでとう!」



「…どうも」





帰路を同じくした私たちは、談笑しながら道を歩いている最中だ



…いや、今の表現は厳密に言うと正しくないだろう



談笑していたのはチカママだけで、私は家を出る前と変わらず気だるげな表情をしていたはずだからな



「あらら。誓子がそんなことするなんてねぇ…。さーちゃん、誓子の事嫌いにならなかった?」





チカママは、笑みを浮かべながらどんどん私に話を振ってくる



チカも妙な所で積極性を発揮したりするが、それはこの人からの遺伝なのかもしれなかった





「いや、大会もうすぐなのにパーティーすんのもアレだし。ショックっちゃショックだけど、チカを責めようとかは思ってないよ」



「そう言ってくれると助かるわぁ。誓子が勝手なことしてさーちゃんを困らせたんじゃないかって思うと……ねぇ?」



「だからいいって。気にしてないってば」





この話はあまりしたくないのが本音だ。とっとと話題を逸らしたいが、どうしようか…



「……ところでさ。チカママはなんでケーキを買いに来たの?」



「なに言ってるの!さーちゃん達が、誓子がインターハイに連れて行ってくれるんでしょう?そのお祝いよ」





私が訊くと、チカママはさっきまでよりも一層楽しそうに笑って言うのだった



話題を逸らすのは成功だ。ついでに、この話をもうちょい広げることにしよう





「なるほど、そういうお祝いもあるのか。…にしては、量がずいぶん少ないような……」



「それは…、その……誓子が、お友達の家でごちそうになるって言うから!明日には上京するんだし、遊びたいんじゃない?」



「ふーん…」




……今、一瞬だけチカママが怯んだように感じられたのは気のせいだろうか…?




「それじゃ、この辺でお別れかしら。誓子のこと、向こうに行ってももよろしくお願いね」



「あいよ。任された」



「みんな応援してるからね。悔いの残らないように一生懸命打ってきなさい」



「うん。がんばるよ」



「じゃあね、さーちゃん。期待してるからね!」



「……ま、やれるだけはやってくるよ。ばいばい、チカママ」



「またね~!」



久しぶりに会ったが相変わらず元気な人だ。チカもああだったら、今より楽しくなりそうだけど絶対疲れるだろうなぁ、と思う



それだけに、あの一瞬の硬直が気になった。改めて思い起こすと、あの時のチカママは言葉を選んでいたような感じであった



何か私に隠し事でもあったのだろうか。しかし、あの人が私に隠すことなんて見当もつかないし、考えたところで分かるものだろうか



…なんてことを考えてる内に、私は自分の家に辿りついていた



玄関前で携帯を見ると、既に六時半を回っている。『急ぐな』とは言われたが、思ったより遅くなってしまったようだ



さて、そのままドアを開けることなく、私はリビングを覗き込んだ。どんな料理が並んでいるのかを予想しようと思ったのだが…





「…なんだよ。つまんないなぁ……」





あいにく、夏だというのにカーテンは閉まっており、部屋の中をうかがう事は出来なかった



「ただいまー」ガチャ





ドアを開けて中へ入る。私の声への返事は無い



まさに『しーん……』という感じだ。一応かーさんがいるはずなのに、返事どころか、物音すら微かに聞こえるだけだ



家の中も真っ暗である…



「かーさん?ケーキ取ってきたよー?」



「…あぁ、爽?今暗くしてあるから、転ばないように気を付けて部屋に来なさーい」





返事があった。かーさんの声だ



『はーい』と応じつつ、靴を脱ぎ、ケーキを落とさないよう慎重に歩く



今から家中暗くしてあるなんて、今年の誕生パーティーはずいぶん気合いが入っているじゃないか



リビングに続くドアのノブを探す。玄関まで電気が切ってあるので、半ば手探り状態だ



とはいえ、長年住んだ家の間取りが分からないわけがなく……お目当てのものは、簡単に見つかった





「かーさん。ロウソクもまだなのに暗くするって、気合い入れすぎじゃない?」




言いながら、ノブを回してリビングへ入る。中はやっぱり真っ暗だ



流石にここに来て暗いままだとしょうがないので、ドア側にあるブレーカーを私は入れる。ポチっとな、…っと



真っ暗だった空間に光が満ちる。そして、一気に広がる私の視界に飛び込んできたのは…





「爽!っめでとー!!」パーン!



「誕生日おめでとう、爽!」パーン!



「お誕生日、おめでとうございます!」パーン!



「獅子原先輩、おめでとうございます」パーン!





こともあろうに、確信犯で私の誕生パーティーをすっぽかしたはずの四人の姿であった



「……??」





ちょっと待て。事態が呑み込めない



頼む。誰かこの状況を説明し…





「サプライズだよサプライズー。びっくりしたっしょ?」



「いや待てよ。サプライズって……ほら、」





お前ら、私の誕生日パーティーなんてやらないって言ってたじゃないか。あれはどういう事だったんだよ?



「ウソに決まってるでしょ。初めから、こういう風にする予定だったんだから」



「いや。いやいやいや。ちょっとこれマジで?手の込んだドッキリとかじゃ…」





ドッキリならまだいい。寂しさのあまり幻覚でも見てるとしたら、あまりにも酷いことに…





「大丈夫ですよ。プレゼントだって、みんなちゃんと用意してきました」



「成香……あれ?ほんとに?」





確かに、改めて見ると四人は全員、手に何かしらの物を持っている



あれも含めて幻覚……なんてことは無い、よな?



「すみません、獅子原先輩。こういうわけで、あのタイミングではお祝いできなかったんです」



「あ、うん。それはいいんだ、うん」





そっか。ユキはチカたちに口止めされてたのか。なるほどねぇー



道理で、あの時は奥歯に物が挟まったような言い方してたわけだ



「ごめんね、爽。揺杏が『どうしてもサプライズを成功させたいから』って…」



「桧森先輩もノリノリだったじゃないですか」




ぎくっ、と大げさな声を出すチカ。真面目な顔で更にツッコむユキ



それを見て二人をはやし立てる揺杏。心配して右往左往してる成香



確かに、そこには普段見慣れた四人のやり取りが繰り広げられていた



「どーよ爽。感動しただろ」





近付いてきて揺杏が言う。手品の種明かしをするマジシャンのような、得意げな笑顔だった





「おま、揺杏お前、なんでこんな手の込んだことを…」



「分かり切ったこと聞くなよ。決まってんだろ?」





『だろ?』じゃねー!こっちは何もかも全てがわかんねーよ!



頼むから今の私が普段通りの理解力を発揮できるとは思わないでくれ。とにかく説明しろ、揺杏



「しゃーねーなぁ…。一度しか言わねーから、ちゃんと聞いとけよ?」





そう言って、揺杏は私と目が合っている事を確認する



答えを待つ視線をキャッチすると、少しだけ恥ずかしそうに言うのだった








「爽のことを、喜ばせたかったからだよ」









……は?



なんだその答え。私を喜ばせたい一心で、わざわざこんな回りくどいことしたってわけか?



ふざけんなよ。今日、私がどんだけ悩んだと思ってんだ。麻雀打ってる時だってこんなに頭回したことはないってのによ



揺杏のやつ、子供みたいな綺麗な眼で私を見てやがるよ。本当か。本当に私を喜ばせたいだけだったのか



直後に、ちょっと離れて立ってるチカ、成香、ユキ、全員が揺杏と同じ眼でこっちを見ていることに気が付いた



まさかのまさか。四人全員、本当にそれだけでこんなことしたってのか



みんなしてなんだよ。なんなんだよ。インハイ控えて、明日から東京に行くってのに、なんでこんなことしてんだよぉ…



「……だ」



「は?爽、今なんて言った?」





揺杏を無視して、私は部屋のスミへ足を運ぶ



これから言うこと、話すこと、全部きちんとこの部屋にいる全員に聴いてもらうためにだ



「あのさ、私の誕生パーティー?始める前にちょっと聴いて欲しいんだけど…」



部屋にいるみんなの耳目が私に集まる



そのことを確認して私は話し始めた





「まずさ、その、四人共さ……こんな時期に、こんな手間かけて何バカみたいなことやっちゃってんの?」



「いや、口裏合わせつつ爽の親に許可とりゃいいから別に手間は……ムグッ」





チカが揺杏を取り押さえた…



構わず、私は続ける





「そもそもだよ。私たち、今更こんなことする仲でもないじゃん。こんな変なことしてないで、普通に適当に祝ってりゃよかったんだよ」



「そうすりゃ私があんなに悩むことも無かったんだ。あそこまで気を揉むことも無かったし、不安になることも無かったんだ」



「お前らな。あって欲しいけど、あるかどうか分かんないものを待つ気持ち分かるか?私があのアピールするまで、どんだけ悩んだか…」





みんなは、何も言わないでいてくれてる。既に解放された揺杏も、神妙な顔つきで私の話を聴いていた

「だいたいなんだよお前ら。私がこんなことされて喜ぶと思ったのかよ」



「予想外のタイミングで一番仲良いやつらに『おめでとう』って言われて、貰えると思わなかったプレゼント渡されて……」



「…そんでこれから、みんなで仲良く一緒にケーキ食って……ってか?なんなんだよ、それ」



「本当ふざけんな。ふざけんなよ…」



「わら、わたひが。…そんあ、そんなころで、よろこぶわけ……ないじゃぁ…!」



言葉にならない声が、私の口からこぼれ落ちる



堰を切ったように流れるモノが、私の心をかき乱した





「おっ、おま、おまえらなんか、だいっきらいだぁ~……!!」







言い終わると、私はその場に崩れ落ちた



その光景を見たみんなも、顔をくしゃくしゃにしながら私に歩み寄ってくる



一人キッチンにいるかーさんの表情は、視界が滲んだせいでどうしても分からなかった



八月二日。私の、十八歳の誕生日



こうして、人生の中で考える限り最悪で、これ以上なく最高な一日が私の記憶に刻まれたのであった

以上でカンです。html依頼出してきます


蛇足ですが、爽がみんなに予定を聞いた時の反応はそれぞれ



揺杏→サプライズバレ回避のための機転



なるちか→事前に打ち合わせ済み



ユキ→素



という感じだったりします。ここまで読んでくださり、ありがとうございました

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