折木「ラブライブ?」(32)
初SSです。
長くなりそうですすいません。
ある程度書き留めたら投下する、といった感じです。
キャラ崩壊あります(断言)
では。どうぞ
放課後、いつも通り俺は古典部の部室である特別棟4階の地学準備室へと足を向けていた。
鍵がかかっていないところから察するに、既に千反田は部室にいるようだ。
里志と伊原は放課後予定があると言っていた気がする。それならば、部室の鍵を開けたのは千反田で間違いないだろう。
俺は扉に手をかけ、部室へ足を踏み入れた。
折木「?」
? 何か違和感を感じる。
ああ、いつも部員の顔が見えるとすぐさま挨拶をする千反田のそれが今日は聞こえないのだ。
些細だが、なぜかそれが俺は妙に気になり千反田に目を向けた。
そして、俺はさらなる違和感を感じることになる。無論、千反田から。
そこには文庫本を開き、物静かに読書をする普段の千反田の姿はなかった。
だが、千反田も人間だ。本を読む気分でないときもあるだろう。それは当然のことだ。
俺もそれだけなら足を止めることもなくいつもの席に腰を下ろし、読みかけの文庫本に手を伸ばしていたに違いない。
しかし、今はそうならない理由がある。
折木(千反田がヘッドホンをつけている……)
これまで共にいくつかの事件を解決してきて、俺もそれなりには千反田のことを見てきたつもりだったが、ヘッドホンはおろか、音楽を聴いてる千反田を見るのは初めてだった。
そんなことでと、馬鹿馬鹿しく思うかもしれないが、俺にとっては怪訝に思うには十分すぎるほど異様な様相である。
このSSを読んでいる氷菓ファン諸君なら俺の戸惑いを理解できるはずだ。
しかしまあ、これも千反田の新たなる一面なのかもしれない。
むしろこれまで音楽に興味があるそぶりすらも見せていなかったほうが異様であったほどだ。
俺はようやくいつもの椅子を引き、軽い鞄を肩から外しつつ、腰を下ろした。
千反田「……あっ、折木さん。こんにちは」
そこでようやく俺の存在に気付いたのか少し申し訳なさそうに千反田は口を開いた。
しかし、ヘッドホンを外そうとする様子は見られない。礼儀正しい千反田にしては珍しい。
折木「お前が音楽を聴いているなんて珍しいな」
千反田「?……すいません、もう一度お願いします」
折木「だから、お前が音楽を……ってとりあえずヘッドホン外したらどうだ?」
少しだけ声のボリュームを上げ、俺はそう促した。
千反田「あっ、それもそうですね。すいません……」
一段と申し訳なさそうに、千反田はヘッドホンを外した。
折木「いや、別にいいんだが……。それにしても、お前が何かを聴いてるのは初めて目にしたが、音楽、好きなのか?」
千反田「勿論、嫌い、というわけではないのですが、確かに今のように出先で音楽を聴くのは今日が初めてですね」
やはり、平素からヘッドホンで音楽鑑賞に耽っているわけではないらしい。
折木「じゃあ、なんで今日は?」
千反田「ふふっ、実はですね、私にも『ハマった』音楽というのができたんです!」
はあ、さいで。
そう言い、会話を終わらせることもできた。しかし、露骨にそれがどんな曲なのか訊かれたがっている千反田の視線に落ち着かず、ひとつため息をついた後、俺は会話を続けることにした。
折木「……で、あの千反田さんが『ハマる』曲ってのはどんな曲なんだ?」
千反田「っ! それはですねっ!」
待ってましたと言わんばかりに千反田は立ち上がり、前かがみに俺の顔を覗き込む。
これにはいつになっても慣れないな。
折木「落ち着け千反田、ちゃんと聞いてやるから」
千反田「あっ、すいません。あまりにも好きなので、つい折木さんに話したくて……」
折木「それにしても、お前がそこまで熱を出しているのは本当にどんな曲なんだ?」
好奇心の権化である千反田は何かに『気になる』ことはあっても、何かに『ハマる』のを見るのは多分、初めてなはずだ。
そこまでに千反田の心を惹く音楽が何なのか、私、気になります(棒)。
いや、でもちょっとだけ興味は湧いてきた気がせんでもないと言えないこともないかもしれない。
千反田「ところで、折木さんはアニメってご覧になりますか?」
……? アニメ? アニメってあのアニメか?
突然出てきた単語に戸惑いつつ、俺は答える。
折木「いや、そんなに見ないが……」
千反田「実はさっきまで訊いていたのはアニメの曲なんです」
折木「!?」
千反田がアニソンを? あの千反田が? イメージと違いすぎる。
千反田「ふふふっ。折木さん、私の予想通りの反応です」
千反田「確かに私がアニメの音楽を聴いているというのは私自身変な感じです。あ、いや、正確にはアニメの曲ではないものも聴いているのですが、まあ、そう言った類の音楽です」
千反田「……あの? やっぱり、変……ですよね……」
俺はあまりにも驚いていたためか、千反田は不安そうに俺に尋ねる。
いかんいかん。ちゃんと受け応えなければ。
折木「いや、別に変なんてことはないだろう。それともお前は、俺が人の趣味に口出しするような人間に見えるか?」
千反田「! 折木さんっ!」
折木「それに、口を出す、と言うのはエネルギーを使うからな」
千反田「折木さん……」
折木「冗談だ。だが、やっぱり意外だな。千反田お前、アニメとか好きだったのか?」
千反田「いえ、アニメが好き、というわけではないんですが……」
折木「じゃあ、どうして?」
千反田「アニメ自体、私はまったくと言っても言いほど見ることはありません。しかし、ひとつの作品だけは別なんです」
折木「つまり、アニメというジャンルが好きと言うわけではなく、あるアニメ作品に惹かれた、ということか」
千反田「そういうことですっ!」
これから先も問わなければ千反田は不満だろうな……。まあ、忙しいわけでもないし、まだ付き合ってもいいか。
折木「それで千反田、それは何と言うアニメ作品なんだ?(棒)」
千反田には申し訳ないが正直、心底どうでもいい。しかし、その作品について千反田が満足するまで語らせるというのも新鮮で暇つぶしにはなりそうだ。
千反田「ラブライブ! ですっ!」
折木「……ラブライブ?」
千反田「折木さん! 『!』が足りません! 『ラブライブ』ではなく『ラブライブ!』です!」
折木「……さいですか」
文字にまで口出さんでも……。
折木「ラブライブ! ……ああ、なんかクラスの連中が話していたような気がするな。どんなアニメなんだ?」
千反田「ラブライブ! は今となってはBlu-ray discno売り上げ枚数がエ○ァを超えたほどの人気コンテンツですからね。学校で話題になっていてもおかしくありませんね」
!? あのエ○ァの売り上げを超えたのか……。それはすごいな。
千反田「ラブライブと言うのはですね。KADOKAWAが発行する美少女総合エンタテインメントマガジン『電撃G's magazine』、
音楽会社ランティス、アニメーション制作会社サンライズの三者による合同プロジェクト。
スクールアイドルグループ「μ's」の普段の様子やストーリーを『G's』誌上にて展開しつつ、サンライズ制作のプロモーションビデオDVD付きの音楽CDを販売するという、
それぞれの会社・雑誌の特色を生かした分業体制を取っている――――」
このように、千反田は滔々とラブライブ!の概要、ストーリー、それに様々なメディアでの展開などの人気ぶりを語った。
長すぎるので省略。
千反田「――といった具合です」
折木「お、おう。なるほど、そのラブライブ!とやらは一般的なアニメと違い、なかなか複雑な生い立ちみたいだな。
アニメのストーリーや映像、そして曲。その全ての評価が高く、それによる相乗効果的なもので、今の人気を勝ち得た。ということか……」
千反田「そんなに簡単に表せるものではないんですけど、そんな感じです」
折木「なるほど……」
千反田「どうです? 曲だけでも聴いてみませんか?」
折木「そうだな。そんなに高い評価を得ている曲がどんなものなのか耳にしてみたい、という気はあるな」
千反田「では、どうぞ」
そう言って千反田は自らが装着していたヘッドホンを俺に差し出した。
折木「そこまで言うなら……」
女性の使用したヘッドホンをつけるというのは若干の躊躇いがあるが大人しく借りておこう。
千反田「私が一番好きな曲を流しますね」
折木「ああ、頼む」
とーどーけてーせーつーなーさーにはー♪
……。
折木「……」
千反田「どうですか?」
……なんと言うか、言葉が出ない。
……これは。
折木「千反田」
千反田「はい」
折木「ラブライブ! 最高」
とりあえずここまで。
また書き溜めてきます。
落ちてなかったら夕方か夜にでも続き書きます。
これからもっとはっちゃける予定です
放課後の終了を知らせるチャイムの音が地学準備室にも響く。
折木「もうこんな時間か」
千反田「すいません。少し話し過ぎてしまったかもしれません」
折木「いや、いいんだ。じゃあそろそろ帰るか」
千反田「はい。そうですね。せっかくですし、途中までご一緒してもいいですか?」
折木「ああ、別に構わん」
千反田「ありがとうございます! あ、別れるまでヘッドホンとこのウォークマンお貸ししますよ。ふふ」
折木「そ、そうか。じゃあもうちょっと借りるな」
千反田「ええ、どうぞ」
――アイセー ヘイ! ヘイ! スタートダッシュ!
部室を後にし、俺たちは特に会話もないまま、帰路へとついた。
――それぞれのすーきなーこーとーでーがんばれーるならー♪
ラブライブ!の曲に耳を傾けながらたまに千反田の顔に目を向けると何故か終始ニヤニヤしていた。
――きっとせいしゅんがーきーこーえる♪
何曲か聞き終えると同時に千反田との別れ場所にたどり着いた。
俺はヘッドホンを外し、プラグが繋がっているウォークマンと共に千反田に手渡す。
千反田「ふふ。折木さん、どうやら気に入ってくれたようですね」
折木「……ああ、これは認めざるを得ないな。見事にマッチしたメンバー9人の声はそれぞれが個性を出しながらもその全てが調和している。
そして歌声を最大限に引き出せるように書かれた曲たち。千反田が聴き入るのも納得だ」
千反田「その通りです! さすが折木さんです!」
思ったことを口にしただけだが、まるで俺と声のよく似た某魔法科高校の2科生のような褒められ方をされた。
折木「じゃあまたな、千反田」
俺は手を振り、千反田に別れを告げようとした。――だが。
千反田「あ、あのっ!」
折木「? なんだ?」
千反田「明日は土曜日ですね」
折木「……? ああ、そうだな。それがどうかしたか?」
千反田「あのっ……折木さん! 明日何か予定はありますか?」
折木「逆に訊こう。あると思うか?」
千反田「……思いません」
折木「そういうことだ」
千反田「じゃ、じゃあ! 明日私の家に来ることはできますか?」
折木「……そうだな」
俺は顎に手を当て少し考える。
これまで、千反田が俺を家に招くときには大抵何かしらの理由があった。今回もそうなのかもしれない。
そして、これまでから鑑みるに断るのは難しそうだ。
折木「まあ、大丈夫だ。何か必要なものはあるか?」
千反田「いえ、特には。では明日、午前9時にお越しいただけますか?」
折木「えらく早い時間だな。時間がいるのか?」
千反田「ええ、まあ」
折木「わかった。9時だな」
千反田「はい! お願いします。では折木さん、また明日」
一層嬉しそうな顔を浮かべる千反田に今度こそ別れを告げ、俺たちはそれぞれの帰路につく。
明日、何を頼まれるのかわかったもんじゃないが、あの千反田だ、そんな無理難題を押し付けられることもなかろう。
……いや、千反田ならあり得るかもしれんな。
灰色を自負する俺だが、やはりあの千反田の誘いを受けて少しも心躍らないほど男をなくしてはいなかったようだ。
カタカタと、キーボードを叩く音がリビングに響く。
自宅のパソコンを使用するのは文化祭の一件以来か。
俺は今日千反田が熱く語っていた『ラブライブ!』について少し調べてみることにした。
しかし、何分情報量が多い。
曲も80曲近くあるようだし、思っていたよりも大きなコンテンツのようだ。
キャラクターも多く、覚えるのが大変そうだ。
なので俺は深く知ることは諦め、寝ることにした。明日は早いしな。いつものように夜更かしをするわけにもいかんだろう。
千反田「折木さん、おはようございます」
折木「ああ、おはよう」
千反田「どうぞ、上がってください」
いつ見ても大きな日本家屋だ。
圧倒されながら俺は千反田家の敷居をくぐる。
おかしいな。件の雛祭りのような行事ごとのような慌しさを今の千反田家からは感じない。
むしろ千反田以外誰もいないように感じる。
千反田「どうぞ」
折木「ああ」
氷菓事件の際、古典部での推理で使ったのと同じ部屋に通され、胡坐をかいていた俺に千反田は麦茶を差し出した。
折木「で、今日はどうしたんだ? 何を手伝えばいい?」
千反田「……手伝い?」
折木「ああ、俺を呼んだってことは前の雛祭りよろしく何か手を貸してほしいからじゃないのか?」
千反田「……! いえいえ! 今日はそういうつもりでお呼び立てしたわけではありませんよ!」
折木「そうなのか?」
千反田「はい」
どうやら俺の見当違いだったらしい。ならばどうしてだ? まさか休日に俺と会いたかっただけ、というわけではあるまい。
千反田「今日はその……これを折木さんと見ようと思いまして……」
そう言って千反田はその細い腕を俺に向けて伸ばす。
両手でしっかりと握られていたのは――
折木「……ラブライブ!のBlu-raydisc……?」
千反田「はいっ! そうです!」
千反田「折木さんは昨日、ラブライブ!に少なからず興味を持ってくれたように見えましたので……。迷惑、でしたか?」
折木「なんだ、そんなことか。いや、迷惑なんてことはない。せっかくここまで来たんだ。見せてもらえるのならそうさせてもらうよ」
千反田「そうですか! では準備しますね!」
そう言えば、以前来た時にはみなかった大きなテレビが部屋に置かれていた。
折木「それ、もしかしてお前が準備したのか?」
千反田「それ……? ああ、このテレビですか? いえ、これは少し前に運んでもらったんです。一人でラブライブ!を見る為に」
千反田がそこまでするほどのアニメ、どんなものか昨日とは比べ物にならないほど俺は気になっていた。
千反田「準備が終わりました! では再生しますね」
折木「なあ、ひとつ訊いていいか?」
千反田「なんでしょう?」
折木「どうしてここまで勧めるんだ? そのラブライブ!を」
千反田「簡単です。自分の好きなものを別の人に好きになってもらうのは嬉しいですから」
折木「そうか。でも、どうして俺なんだ? 伊原あたりなら広めるまでもなく知ってそうなもんだが」
千反田「伊原さんにも話そうとしましたよ。ですが……」
千反田『伊原さん、ラブライブ!ってご存知ですか?』
伊原『ラブライブゥ? ああ、私には合わなくて1話で切ったやつね。ちーちゃん、それがどうかしたの?』
千反田『いえ、なんでもありません! では』
千反田「とまあ、こういった具合に話づらくて」
折木「確かにそう言い切った伊原には話難いだろうな」
千反田「ええ、それに折木さんとラブライブ!の話が出来たらいいなぁって私、密かに思ってたんです」
折木「そ、そうか。わかった。じゃあ早速見せてくれ」
気恥ずかしいセリフを吐く千反田を俺はわざと急かすことにした。
千反田「じゃあ、ラブライブ!一期を一気に流しちゃいますね」
折木「ああ、頼む」
では、落ちてなければ夜に
すいません。続きはやはり明日に
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