【艦これ】 鈴谷「……え、この子たち皆が?」 提督「秘書艦、なんだ……」 (144)

艦これSSは、初めてです。


※メイン:鈴谷、第六駆逐隊(もしくは、その他も……)

※作者は史実は知らないも同然なので、ご容赦願います。

※ちょくちょく地の文アリです。


それじゃまず、プロローグから。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406120980




 ――深い深い、蒼い色。
 

 パチッ。
 何かが弾けるような音がした。
 でもって、最初に眼に入ってきたのは、そんな綺麗な光景。


(……ええと)


 そっか、とりあえず浮かなきゃ、だね。
 えっと……そうだ。
 ”あたし”は、ボンヤリとそんなことを考えて、手を伸ばす。
 視線はしっかりと、真上に。
 青さを際立たせているのは、きっと頭上の眩しい光だ。


(うーん……)


 何か思うことがあるような気がしたけど、不思議と思いつかない。
 でもまぁいっか。とりあえず、ここから出ないとだよね。


 足をゆっくりと動かす。
 何故だか慣れたもので、あたしの足は妙に、ここ――海中に馴染んでいる。
 

(……気持ちいい)


 最初にしっかりと意識したのは、こんな感覚。
 高揚感と一緒に、あたしはゆっくりと浮いていく――

 プハッと、息を吸う。
 海上の空気は、とても気持ちの良いものだった。
 空を見上げてみると、絶好の快晴。
 

「……あれ?」


 気持ちよさに身体を伸ばそうとして、ふと気づく。
 ガチャッという音。
 全身にかかる、不快ではない重み。


「なんだ、連装砲か」


 視線はそのままで、軽くガチャガチャとやったりしてみる。
 おっと、連装砲だけじゃないね。「ゼロ偵」もあるじゃん。
 ああ、なんだろこの感じ……凄く馴染むよ。


 さて……どーしよ?


「とりあえず泳いでみようかなー……」


 と、視線を上から前方へと向けて――



 目を剥いた。



「……うわわ」


 遠くで何か、音がする。
 あれは、そう――砲雷撃戦だ。


 目の前でズドンと撃ち出される、連装砲の音。
 上空を飛び攻勢を仕掛けんとする、艦上攻撃機の音。
 そして何より――砲雷撃戦、そのものの光景。


 初めて全てを見聞きして、その全てに懐かしさを覚えた。

(なんだなんだ? 気持ちよさにシビれて、気づかなかったよ)


 うーんと伸びをして、ジッと見つめる。
 実のところ、参加したい気持ちは山々だったけど――


(ま、見物と行きましょうか)


 既にして装着している連装砲とかゼロ偵とかをガチャガチャ弄りながら、見せてもらった。
 うんうん……馴染んでるね?


(いつやり合うか、わかんないからなー)


 といっても、撃ち方までいったらどうなるか。
 そもそも、敵の実力とかどうなのか。
 でもって――


 あたしは今、ヤツらに勝てるのか。


 ってのは、まだ未知数だったりする。
 だからこうして見物を決め込んでるってワケだ。


(……言い訳がましいかなー)


 飛行する「瑞雲」とか「天山」とかのあれこれを遠巻きに見て、少し悔しくなる。
 今は装備できないけど、あれとか装備できれば――!


(ま、実際は不可能だけどさ)


 ってわけで、今はただジッと見る。
 まだ自分は戦力にはなれない。
 そんな役立たずが勝手に加わっても、迷惑ってものだろう。


 だから――


(「その時」のために、見るんだ……!)

 そのうち、霧が晴れるように、前方の視界がクッキリとしてきた。
 どうやら、戦いは終わったらしい。
 沈んでいくのは、何か色々と禍々しい雰囲気の連中だった。
 あぁ、あれが「敵」ってヤツなんだ……。


 でもって――


「提督ー! 私がMVPでいいんデスカー!?」
「あぁ。よくやってくれたな、『金剛』」
「AHH~気持ちいいデス~……」
「……ん?」


 派手な服装をした美人な子を撫でる、その姿。
 白服に、帽子。
 ごくごく平凡な出で立ちの「提督」は、こっちを見ていた。
 

「提督、あの子は――」
「そうみたいだな、『赤城』」


 そう言うと、針路を変えて、こっちに向かってきた。
 おお。あの船、小型だけど意外に速いね。







 ……さて。


(どーやら……どうするかってのは、あっさり決まったね)


 そう思いながら、待ってみる。
 そのうち艦隊を引き連れて、小型船が到着した。
 で、そこからさっきの白服の「提督」が――






「司令官、私も戦いたかったー!」
「は、はわわ! や、やめるのです『雷』ちゃん!」
「も、もうみんな! 大声出すのは止めなさい!」
「……多分、1番大声出してるのは自分だよ、姉さん」

 ……。
 なんだ、あれ?


「お、おいおいみんな。一つ頼みが――」


 あ、さっきの白服。
 「提督」は、どこか慌てた風に、そんな――なんて言えばいいんだ、あの子たち?


「はぁ……だから私は、反対したのに」
「ま、まぁまぁ『加賀』さん。そう言わずに」
「提督のHeartは、さいきんいつもあの子たちネ~……」
「き、気を落とさないでくださいお姉さま」
「はぁ……今回は火遊びにならずに済んだわね」
「『陸奥』……そういう不吉なことを言うのはやめてくれ」


 随伴する艦隊は、何かと好き勝手言いながら、こっちへと進んでくる。
 ていうか、大艦隊だね……。
 船上でギャーギャーやってるあの子たちのちっこさが、余計に際立つよ……。






 数秒後――


「初めまして、ええと……」
「……っ」


 堪え切れずに、吹き出した。
 だって、だって……!


「ちょっと司令官! 私たちに先に帰れって、どーいうこと!?」
「し、司令官さん……それって」
「きらいになっちゃった、とか……?」
「――みんな。戦艦さんたちが呆れ顔だから、やめよう?」


 
 こんなちっこい子たちに抱きつかれて、オロオロする男(ていうか注意してる子も、何だかんだ言いながら「提督」の裾を握ってるし……)

 呆れ顔の大艦隊たち(ごめん、一部なんか泣きそうになってた……)


 こんな――こんな取り合わせ、めったにお目にかかれるものじゃないよ!






「……ふふっ」


 私は笑いを堪えながら、こう言った。
 まぁこんな子たちに抱きつかれて、聞こえているかは怪しいものだけど――



「『鈴谷』だよ! 賑やかな艦隊だね! よろしくね!」

とりあえず、ここまで。
着地点とかは不明のまま、手探りで少しずつ進んでいきます。
地の文は、無くなったり出てきたりする予定です。

最初に書いたように、鈴谷と第六駆逐隊がメインになるはず……ですが。
その時のノリ次第で、色々と変わっていくかもしれません。


それでは。
今日中に、もう一編ほど、投下したいですね。

それじゃ、日が変わってしまいましたが、投下を。
今回は、メイン同士がちょこっと絡みます。

 ――私の名前は、鈴谷。
 最上型、3番艦、(今は)重巡洋艦。
 とりあえず、こうした「記憶」は、確かみたいだ。


(……しかしまぁ)


 兵装とかは馴染んでるからともかく、何だろこのカッコ?
 どっかの学校の制服?
 となると――


(あたしってもしかして、いわゆる『現役JK』ってヤツ?)


 スッと出てくる俗っぽい言葉に、我ながら驚いた。
 へぇ、なるほど。
 どーやら「天の意志」サマは、こういうのがご所望らしい。


(いー趣味してるよ……)


 さて。
 そんなとりとめのないことを考えながら、あたしは進んでいく。
 目的地は――ここでいいのかな?







 あれから――
 「寮」に着くまで、少し時間がかかった。
 あたしは随分遠い場所で発見された、ってことらしい。


「そ、それじゃ、また」


 皆もご苦労だった。
 そう、息も絶え絶えに告げて、提督は帰っていった。
 え? どうしてそんな状態なのかって?
 まぁ、上下左右を包囲するちっこい子たちを見りゃわかるよ……。


「うぅ……提督、最近ワタシと目を合わせてくれマセン……」
「お、お姉さま。比叡が付いてますから」


 ショボくれているのは、さっきの戦いでMVPを取った美人さん。
 慰めているのは――姉妹艦、かな?

「……そ、それじゃ。あたしもこの辺で」


 ありがとーございました。
 ペコリと頭を下げて、あたしはその場を辞去する。
 え? どうして?
 まぁ、ズーンと落ち込んでる美人さんを囲んでオロオロしてる他の人を見りゃわかるよ……。



 とりあえず、前進。
 提督(+ちっこいのたち)が行った所とは別の場所が、向かうべき場所だと聞いていた。


「ごめんくださーい」


 一応ノックして、開けてみる。
 中は、どうやら普通の寮って感じの場所。
 隣には事務室があり、その隣には食堂がある。
 でもって、前方には階段もあり――なんというか、思ったより広かった。
 

「まぁまぁ遠い所を、わざわざご苦労様」


 広さに目を白黒させているあたしを出迎えてくれたのは、そうだな。
 さしづめ、お母さん、ってところか。
 気立てのよさそうな、こんな人を奥さんに迎えたら万々歳って感じの。


 後で伝え聞いたところによると、「間宮」さんというらしい。
 ……あれ? これまた、妙な懐かしさがあるね。


 でもって、宛がわれた部屋へと移動。
 間宮さんが色んな話題を振ってくれたから、雰囲気が悪くなることはなかった。
 っていうか、ホントお母さんだな。


「さぁ、着きましたよ」


 ガチャリと開けられた部屋は、綺麗に掃除されていた。
 そこにあったのは、二段ベッドとちゃぶ台。
 えらくまぁ、所帯じみた部屋だ……。


「つーか、なんで二段……?」
「もう一人、来るかもしれないでしょう?」


 思えばその時の間宮さんの表情は、どこか悪戯っぽいものだったかも――

 回想、おしまい。
 今、あたしは食堂の前にいる。
 閉め切られており、『準備中』と書かれた札がかけられている。


(……何してんだろ?)


 扉の向こうで何をされているのかは、分からないままだ。
 まだ時間あるか。
 でもって、再び回想――







 到着した部屋で、連装砲やらゼロ偵やら弄くり回していると、コンコンとノックの音がした。
「どーぞー」と応えると、ガチャリとドアが開けられた。


「……あれま」
「ど、どうもです」


 ペコリと頭を下げる、茶髪の子。
 ええと、この子はさっきの……


「さっき、提督に抱きついて喚いてた――」
「そ、それは雷ちゃんなのです!」


 あたしがそう言うと、顔を真っ赤にして首をブンブンと振ってみせる。


「あはは、ジョーダンだって、ジョーダン」


 あたしはケラケラと笑いながら、連装砲とゼロ偵をガチャリと置いた。
 しかしまぁ、イジメたくなるオーラムンムンだね。


「うぅ……酷いです」
「ごめんごめん。ほら、なんというか、可愛くてつい」
「そ、それはどういう――!」


 そう言ったら今度は、アワアワ言いながら手と首を同時に振る。
 うん、オーラ再確認。


「ええと何だろ……なんて呼べば」
「――い、電です」
「プラズマ?」
「ち、違うのです!」


 難聴キャラを演じたら、またブンブンと首を振る。
 うん、ここらでおしまい。このままじゃ、あの子の眼が回ってしまう。


「どーかした? わざわざ、あたしの部屋まで来て」
「……で、伝令に」


 ふむ。何かの連絡らしい。


「本日18時、食堂に来るように……とのことなのです」


 何か巻物みたいなのを読み上げながら、舌足らずな口調で伝えてくれた。
 ほほう。艦隊配属初日から、呼び出しとは……。

「あたし、何かやらかしたのかなー……」
「そ、そんなことは! そうじゃなくて、か――」


 そこでハッと口を閉じる。
 そして、顔を赤らめて視線を泳がせた。


「あのさー、何で怒るのに食堂選ぶのさ?」
「!?」
「もしかして……食堂で何かやらかしたのかなー?」
「!?!?」


 あたしが何か喋る毎に、全身で反応を示してくれる――電ちゃん。
 この子は可愛いなぁ!


「そ、そろそろ行かなくては、なのです!」


 そう言うとアワアワと振り返り、パタパタと部屋を出て行った。


「あ、そうそう」
「こ、今度はなんなのですか!?」


 クルッと振り向いた赤い顔には、怯えの色すら滲んでいた。




「……あんがとね。伝令、慣れてないんでしょ?」



 そんな電ちゃんに、手にしたクシャクシャの巻物(みたいなもの)を指しながら言った。
 普通、伝える相手の前で文書を型崩れさせるようなことはしない。
 まぁ、あたしがからかったことも多分に影響しているだろうけど……。


「大変だったね。お疲れさん」


 そう言って、ニコッと笑ってやった。


「――!」


 何故かまた口元を押さえて、ビックリしたような瞳をした。
 そして――


「……あ、ありがとう、なのです」


 頬を赤くしながらニコッと笑い、扉をゆっくりと閉めていった――

 ――再び、回想おしまい。


 そんなことを思い返してたら、そろそろ時計の針が該当時刻を指しそうだ。


(何が来るのかなー……?)


 実のところ、目星はついている。
 食堂。夕飯時。さっきの電ちゃんの「か」――
 まぁ、アレだよね。



 ボーンボーン――
 柱時計が、重厚な音を鳴らす。
 それと共に、中の喧騒がピタッと止んだ、気がした。


(……いいよね?)


 自問して、ノックする。
 扉の向こうは、相変わらず静かなままだ。


(それじゃ、遠慮なく)


 勢いよく、ドアを開けた――










「ようこそ、わが艦隊へ!」




 見事にハモった声があたしの鼓膜に、これまた勢いよく入り込んできた。
 そして鳴らされるクラッカー。
 パチパチという拍手の音。
 笑顔の女の子たち――


「よく来てくれたね、鈴谷」


 ゆっくりと近づいてくるのは、さっき、散々懐かれていた提督だった。
 言いながら、スッと手を差し出してくる。
 ……というか、さっきはじっくり顔とか見なかったから、なんかドギマギしちゃうなー。


「……あ、えーと」


 おいおい、らしくないじゃないか鈴谷。
 アンタ、こんなキャラじゃないでしょ。
 照れたように俯いて、ぎこちなく顔を赤らめるなんてさ……。



 どうして? そんなの――



「よ、よろしく……!」



 嬉しいからに決まってるでしょ――!

一旦切ります。
続きを書いているのですが、一回の投下では多すぎるので(地の文もありますし)。
なんというか、鈴谷視点で文章を書くことは、楽しすぎますね……。

それじゃ、また後ほど。
あまり時間を開けずに、続きを投下します。

レスして下さった方、ありがとうございます。

それじゃ、続き投下します。
スレタイのセリフが出るまで、しばしお待ちを……。









 さてさて。


 そんな感じで、パーティーが始まった。
 「歓迎会」といっても、反応は様々だ。


「ボクは最上! えへへ、よろしくね!」


 いの一番に、フレンドリーに近づいてきたのは、最上って子だった。
 ――なるほど、「最上」か。


「よろしくー。なんというか、他人の気がしないけど……」
「あはは、それはボクもだよ」


 ガッチリと握手する。
 何だか、懐かしさでギュッとなるね……。


「まぁ、積もる話は置いといて……」
「会ったばかりで、もう積もっちゃうんだ?」
「ふふ、わかってるくせに」


 そう返され、二人でクスクスと笑った。






「ところで、ここにはもう慣れた?」
「うん、ベッドの感触には」
「……寝られそう?」
「朝の5時までなら、寝てもいいかなってなるね」
「ベッドの意味はなさそうだね……」


 カレーをパクつきながら、最上と会話を楽しむ。
 落ち着くなぁ……。


「――それはともかく、ボク以外の子とも話して来た方がいいと思うよ」
「ん……そうだよね、せっかく歓迎会してくれてるし」


 このまま「昔なじみの」友人と話しててもいいんだけど、たしかにそれじゃ何か閉鎖的かな?
 そんなの、この鈴谷ちゃんのキャラじゃないし。


「そんじゃ、行ってきまーす」
「何かデザートとか取っておく?」
「んー、そんじゃ最上の好きなもので!」
「あはは、言ってくれるなぁ」


 さてと、どこへ行こうか。
 こっちから声掛けなきゃだよね。
 最上と話してる時、ちょくちょく視線感じたし。

「……あ」
「うぅ……紅茶の味が寂しいネー……」


 おお、さっきの美人さん。
 いや他の人も勿論キレイだったけど、何かこの人は異色というか――
 多分、そのカタコト口調のせいでもあるけど。


「あ、あのー……」
「Oh?」


 オズオズと声を掛けてみると、悲しそうな表情を返された。
 なんだろ、邪魔しちゃいけない雰囲気だったかな……。


「ご、ごめんなs」
「Sorry!」


 ん? ソーリー?
 謝る前に、謝られた?


 キョトンと見ると、目の前にいる美人さんは目に涙を潤ませながら、こっちを見つめている。
 というか、どんな表情も絵になる人だなぁ。


「今日はYouのためのPartyナノニ! こんなことしてイテ――」
「あ、謝らないでいいっすよ。えっと……」
「英国で生まれた、金剛デース!」


 ――あっ。


 なるほど、この人が金剛さんだったか。
 納得しちゃったよ。
 こうやって、記憶から何かが浮かび上がるのを確認する作業は楽しい。


「……そっか、金剛さんか」
「You――スズヤは、Cuteデスネ」
「あはは。それを言うなら、金剛さんはBeautifulっすね」
「OH! Jokeが上手いネー!」


 ニコニコ笑いながら、私たちは握手をする。
 この人は戦艦のはずだけど、このフレンドリーさは凄いな。
 いや、実際の皆さんのキャラはまだ分からないのに、そんなこと考えちゃ悪いか。

「……あの、僭越ですが」


 オズオズとそう切りだすと、紅茶を優雅に飲みながら金剛さんはキョトンとした。


「What's Up?」
「いや――泣くことないと、思うんですよ」


 ジッと吸い込まれそうな瞳を見つめながら、真面目な顔つきで言う。
 やだな~、こんなのあたしのキャラじゃないのに。
 でもま、放っとけないし。


「提督は金剛さんのこと、信頼してますよ。旗艦でMVPなんて、武勲もいい所ですってば」


 だから、えっと――どーしたもんか。
 そこで、ハッと気づく。
 そんな金剛さんの後ろに……似た服装の三人組が立っていた。
 みんな心配そうに、こっちを見ている。


(――なるほど、ね)


 コホンと、一息。 
 そこで、超真面目になって、言った。


「お姉さんが沈んでると、妹さんたちも悲しそうっすよ?」


 うわ、言っちゃったよ。なんだ、このクサいセリフ……。
 嫌だー、こういうのあたしのキャラじゃないー!
 それはもっと、こう……あたしじゃない、他の――。


(――?)


 なんだ、この感覚。
 今なにか、身体の中を通り抜けていったぞ?
 ……気のせいじゃなさそうだけど。

(ごめん、今はそれどころじゃなくt)
「You are very kind!」


 あれ? 何、このいい香り? 
 ああ、そうか。これは紅茶の香り――って!


「こ、金剛さん!?」


 気がつけば、金剛さんに抱きつかれちゃっていた。
 現役JK鈴谷ちゃん、戦艦に抱きつかれるの巻。
 どうしよう、どうしよう……?
 オロオロする私に、金剛さんは顔をグッと近づけて囁くように言ってきた。


「ワタシ、スズヤに気付かされたネ」
「な、何をっすか?」


 やばい、どーしよ。
 グルグルする思考に、金剛さんの甘い香りが入り込んで、余計にヤバいことになってるよ。
 この状況で動揺しないわけがあるだろうか、いや、ない――!


「……ワタシが、色んなヒトに助けられたコト」
「そ、そうですか。お、お役に立てたようで、何よr」


 あたしが声を震わせながら応じると、金剛さんは下からあたしを見つめてきた。
 涙目ではあるけれど、もうそこに悲しさはないように見えた。
 ただただキレイで見惚れるあたしに、金剛さんは「手加減」をしてくれない――
 

「ワタシ、スズヤが『Like』ネッ!」


 なんだこれ。
 やばい、頭が沸騰しそうだよ。
 ほら、想像してみるといいって。
 金髪の美人が、涙目で上目遣いで、凄い甘い香り漂わせながら抱きついてる様子を。
 あたしが異性でなくても、正直息を飲むレベル。

「AH、『Love』は提督とSisterたちにデス……Sorry、スズヤ」
「い、いや、『Love』は大事に取っておいて下さい、ね……」


 しどろもどろになりながら、そう返す。
 自分が何を言ってるのかすら分からないんだけど、大丈夫かなあたし?


「But、スズヤは『Special Like』……トクベツネ!」


 そう言って、手がパッと離された。
 ふぅ。
 あたしは、深く息を吸った。
 しょーがない。全く呼吸が出来なかったんだし。


「す、すぺしゃるらいく、ですか……」
「Yes! ワタシ、スズヤが『スキ』デス!」
「……うっ」


 ヤバイ、なんだこのトキメキは!
 初めて恋に落ちた中坊かっての。
 いや、あたしにそのケはないから……。
 ――ないよね?


「そ、それじゃ金剛さん。あたし、他の人たちにも挨拶しなきゃなんで、ええと……」
「OK! スズヤ、これからヨロシクネッ!」
「はーい……」


 手を振りながら、足をギクシャクと動かす。
 ヤバイヤバイ、男だったらどうなってたことやら……。





 さて――
 これから、どうしたものか。
 それじゃ目の前にいた妹さん方から――って、いないし!
 しょうがない。適当に回って、楽しもう……。

それじゃ、ここで一旦区切りです。
次回分は、また次の機会に。
書いてて楽しいと、ついつい筆が乗って、時間を忘れますね。

次回、ついにメイン全員が話すって運びです。
「タイトルコール」は、その時ですかね……。

それでは。
次は未定ですが、なるべく近いうちにと思います。

あ、トリップ間違えてた。
こっちです。すんません。

 ふと気づけば、時計の針はかなり進んでいた。
 そろそろ、おしまいかな。料理も殆ど取られたみたいだし。


「あ、そろそろ時間みたいですね……」


 そう言ったのは、今まであたしと話していた子――吹雪ちゃんだ。
 金剛さんとの一幕(思い出す度に身体がムズムズする……)が終わった後で、あたしは色んな人たちと交流を深めていた。
 その中には、いわゆる「ツンデレ」とか「ヤンデレ」みたいな子もいたりして、個性の多さを考えさせられた。
 特に駆逐艦の子たちのツンデレは、かなり破壊力が高かった……。


「ん、そーだね」


 そんなことを話していると、壇上にカツンと一人の女性が立った。
 あ、さっきの……。
 あたしを見つけてくれた艦隊の中にいた戦艦――長門さんだった。


「皆、いいだろうか?」


 壇上に立った長門さんを、その場の全員が見つめる。
 マイクを通さずとも聞こえるくらい、凛とした綺麗な声だった。
 ちなみに、狼狽えるとそんな姿とのギャップで、かなり萌える(あたしという経験者・談)


「そろそろ、幕を下ろす頃合いだ。皆、戻ったらすぐ寝るんだぞ?」


 明日からも、戦いは続くんだからな。
 そう告げる長門さんに、場がキュッと引き締まるのを感じた。
 いやー、さすが元とはいえ連合艦隊旗艦。カリスマ性が他の人たちとは一味違う。
 壇上から下りる長門さんは、最後までそのかっこいい佇まいを崩さなかった。


「――それでは、鈴谷さん。明日からもよろしくお願いしますね!」
「ほーい、よろしくねー」


 ペコリと真面目に挨拶をしてくれる吹雪ちゃんに、あたしはフレンドリーに応えた。
 あぁ、こういう駆逐艦の子たちは、壇上の長門さんとはまた違った意味で萌えるね……。

「お休みニャー」
「明日からもよろしくクマ!」


 そう声をかけてくれたのは、軽巡の多摩ちゃんと球磨ちゃん。
 今日会った艦の中でも、指折りの個性の強さだ。
 

「ん、よろしくね!」


 で、そうして出て行く色んな人たちに声をかけられながら、「おや?」と思った。


(……どうして、長門さんなんだろ?)


 色んな子たちとお喋りしてて気づかなかったけれど、最初って提督もいたよね?
 それに、代表して挨拶してくれたのも……どうして閉会は長門さんが?


(ま、いっか)


 そういえば「あの子たち」も居なかったなー、とか思いながら、あたしもそろそろ帰ろうと扉に向かう――


「鈴谷、ちょっと待ってくれ」


 ん?
 間近で何か、凄いイケメンボイスが聞こえたぞ?
 見れば、すぐ近くまで長門さんが近づいていた。
 おお、筋肉すごい……。


「? どうかしたか?」
「いえいえ、長門さんはかっこいいっすねー」
「なっ……!」


 ピシっと正されていた居住まいが、唐突に崩れる。
 そして、赤らむ顔。
 あたしは、さっきの自分の「萌える」という考えが正しいことを再確認させられた。


「今日、迎えに来てくれたときも、メチャクチャ安心しましたし」
「……!?」


 長門さんはアタフタし始める。
 自分から球を投げたくせに、あたしもちょっと困ってしまった……。
 いやホラ、可愛いもんで。


「――こほん」


 あたしが優しい目で見ていると、長門さんは一息ついた。
 しかしまぁ、全ての動作が何だかんだでかっこいいんだよね……あれか、イケメン無罪ってやつか。


「鈴谷、きみはまだ部屋には帰れないんだ」


 一人で勝手に考えてウンウンと頷いていると、長門さんが言った。
 え、なんだって?

「それは、どういう……?」
「提督の執務室へ行ってもらう」


 えぇ……?
 どういうことなんだろ? だって、そろそろ寝ないと明日からの仕事が――


(まぁ、寝るつもりがあったかと言われれば)


 さっきの最上との会話を思い出した。
 そう、鈴谷ちゃんはあんまり寝たくないのです。


「執務室へは私が案内しよう。付いてきてくれ」
「はーい」


 ツカツカと歩き始めた長門さんの後ろを、あたしはピョコピョコと付いていく。
 まぁいっか。
夜に、かっこいい戦艦さんとちょっとしたデートだと思うと、執務室に行ってもお釣りが来るレベルだよ――







「交流は、深められたか?」
「いやぁ、自画自賛ですけど、あたしこういうの得意みたいなんで」
「はは、そうか。私の場合、何故かあまり人が近づいてこなくてな……」
「それは長門さんのかっこよさのせいでしょう」
「……お前、あまりそういうことを言うな」


 とまぁ、道中で長門さんの可愛さを堪能していたわけで。
 何かパーティーの続きみたいな感じで、楽しかったな。
 まぁ、楽しい時間ってのは唐突に終わるのは定説。


「――着いたぞ、鈴谷」


 ピタッと止まり、長門さんが指し示すのは重厚そうな扉。
 なるほど、食堂とかあたしの部屋のものとは、ひと味違う。
 まぁ、事実上この艦隊のトップなわけだしね。


「それでは、私はここで失礼する」
「え? 長門さん、帰っちゃうんですか?」


 カツンと音をさせて帰ろうとする長門さんに、あたしは胸がキュッとした。
 いやまぁ、長門さんかっこいいし。
 ……可愛いし。


「私は、明日も色々と仕事をしないといけない」


 そう言って帰ろうとしたところで、止まった。


「どうかしました?」
「鈴谷、一言だけ言っておかねばならなかった」


 クルッと回って、一言。


「決して、『うわ……』とか『えぇ……』とか言っちゃダメだぞ。約束だからな?」

 最後までお姉さんみたいな人だ。
 いなくなってしまった廊下を見つめながら、ポツリと思う。


(まぁ、鈴谷ちゃんは多少のことでは動じませんけど)


 実際、「天の意志」サマには、こんな格好させられたワケで。
 ……いや、実際ちょっと嬉しいけどさ。


「失礼しまーす」


 コンコンとノックをしてみる。
 重厚そうな扉の中からは、何の音も聞こえてこない。


(……ノックの音すら中には聞こえてないとか?)


 いや、そんなわけはないはずだ。
 普通、こういう扉こそ中には音が響く。


「入りますよー?」


 再度ノックした後、そう言う。
 ガチャリ。
 ちょっとばかし重いその扉を開くと――





「司令官、暁のお茶はどう?」
「整理終わったよ、司令官」
「ねぇ、今日の味はどうだった!?」
「い、雷ちゃん、声が大きすぎます!」




 ……。
 なんだこれ。


 この時のあたしの気分を味わってみたい人は、今一度妄想……もとい、想像してみよう。
 男が自分の近くに、4人の幼女……もとい、駆逐艦をはべらせている姿を。
 想像する際は、自分の好きな艦娘を――おっと、こんなこと考えてる場合じゃない。



「……失礼しましt」
「ま、待った鈴谷!」


 ギャーギャーと騒ぐ子たちに囲まれながら、提督がこちらに手を伸ばす。
 いや、そんな格好で言われても説得力は皆無ですって、お兄さん。


「それじゃ、提督が落ち着くまで鈴谷ちゃん待ってまーす」
「おい、お前たち! 新しい艦が来た時の『約束』!」


 あたしが退室しようとすると、提督の言葉を聞いた子たちがハッと真剣に見える表情をしていた。
 ん? なんだ、この様子?


「はーい、司令官! わかりましたー!」
「みんな! 司令官に言われてからじゃダメじゃない!」
「……暁姉さん、まずは自分のことから見なおした方が」
「そ、それでは『気をつけ』なのです!」


 最後の子――おお、電ちゃん!――がそう言うと、皆が整列した。
 そして、ペコリと同時に頭を下げてきた。
 ほうほう、なかなか揃ったもので……。

「――そろそろ、挨拶しても良さそうっすね?」
「いや、俺自ら呼び出しておいてすまん」


 そして、最後に提督もペコリ。
 目の前の人たち皆に頭を下げられ、あたしは少し恐縮してしまう。


「いやー……こんな前フリしておいてなんですけど、あたし堅苦しいのはちょっと」


 ヤバイ、ちょっと焦っちゃった。
 どうも、さっきの長門さんへのこともそうだけど、あたしは球を放る前にちょっと考えた方がいいかもだ。


「……そんじゃま、提督? どうして呼び出したのか、教えてくれません?」




「長門から、まだ聞いてなかったのか?」


 椅子に座り、執務室の机に腕を置き、提督はあたしに問うてきた。
 おお、意外とサマになるんだね。
 さっき、あの子たちのペースに巻き込まれてた時とはちょいと違う。


「い、いや、なんというか……執務室に行けばわかる、って言われまして」


 ギャップに戸惑ったせいで、あたしはちょっとばかりしどろもどろになる。
 そうか、鈴谷ちゃんはギャップに弱いらしい。


「そうか……」


 そう言うと、提督はチラッと脇を見る。
 そこには整列したままの四人の姿があった。


「――それじゃ、俺の口から話さないとだな」


 軽く溜息をつき、彼はこちらに真剣な表情を向けた。
 ほー、さすが提督。
 メリハリってのが、はっきりしていらっしゃる。
 そして、あたしもそんな真剣な表情に応じるため、柄でもない真剣な顔をしてみせる――


 ――で。


「……と、いうわけなんだ」


 一連の説明を聞いたあたしは、「???」とハテナマークを浮かべていた。
 待て待て、提督は大真面目だったよね?
 それなのに、どーしてあたしはこんなに緩んでるんだろうね?


「――えぇと、整理いいすか?」


 まず、この子たちは姉妹艦である。
 『第六駆逐隊』というのが総称だ。
 既に知っていた電ちゃんをはじめ、下から順に、雷ちゃん、響ちゃん、暁ちゃん。
 実は電ちゃんは最古参で、執務室に最初に入ったのはこの子だとか。


 でもって、最初の海域の最初の戦いで、電ちゃんはお姉さん――三女・雷ちゃんと「再会」した。
 で、そのまま雷ちゃんと共に、その海域のボスを下す。
 そして出会ったのが――次女・響ちゃん。


 「再会」を喜び和気藹々とする彼女たちに、提督は司令を下す。
 それが、「工廠」での建造。
 三人の姉妹が見守る中、初めての建造で本隊にやってきたのが――長女・暁ちゃん。
 そんなこんなで、この執務室には……

「この子たち皆が、出入りしてると」
「なかなか理解力があって助かるよ」


 あたしの整理を、提督は真剣に聴いていた。
 いや、そんなシリアスになる説明なのかなこれ?


「司令官、そろそろあたし眠い……」
「雷ちゃん、ちゃんとしないとだめなのです!」
「あのさ姉さん、司令官もしかして……」
「シッ、ダメよ響! 司令官が内心ビクビクしてるなんて口に出したら!」


 脇にいる子たちが、一斉に動き出した。
 というか、さすがというべきか息がピッタリすぎる。
 でもって、そんな子たちの反応で、あたしは自分の「仮説」に一つの根拠を得て……しまった。



 ……まてまて、つまりだ。



「ねー提督? あたし、ちょいと質問あるんすけど……」
「なんだ?」


 ほら、無理にシリアス演じるから……
 あたしがそう(ジト目で)投げかけると、提督は途端にしどろもどろになる。
 こほん、と一息。







 そして――





「……え、この子たち皆が?」
「秘書艦、なんだ……」

ここまでです。

自分の場合、鈴谷は建造でやっとのことで出たという感じでした。
ドロップできる海域には、まだ行けてません。
最初に電が旗艦だったというのは、実経験です。
その後、こんなトントン拍子に全員揃った提督は、なかなかいるものではないと思いますが……
自分は雷がやってくるまで、かなり時間がかかりました。

それでは。
次からは地の文が無くなるかもしれません。

 この艦隊に配属されて、少しばかりの時間が経った。
 まぁ、なんだ。感想を一言で、と言われたら――


 「平穏」


 こんな熟語がぴったし当てはまる。
 司令部の窓から見える景色もキレイだし、人もみんな優しい。
 ……いや、一部強烈に過ぎる子もいたりするけど、触れ合ってみれば分かる。
 

 でもってこの艦隊、あまり外に出ない。
 今はやりの「内向き」志向なのかは知らないけど、あまり海域に出撃したりはしないらしい。
 時々、思い出したかのように出撃しては、「提督~、褒めて褒めてネ~!」と、金剛さんとかを喜ばせている。
 まぁ、「轟沈」とかやらかすよりは、そっちの方がずっといいとは思う……。


 さて、あたしについて少し。
 ここの司令部は慣例として、着任してからしばらくの間は「秘書艦」ってポジションになる。
 え? 秘書艦はすでにいるじゃないかって?
 まぁほら、あれだ。
 あの子「たち」は、正確には「準・秘書艦」ってことになるみたい。
 そういう風に収まったとか。
 ……まぁ正直、秘書艦が複数いる艦隊とか聞いたことも見たこともないけど。


 そんじゃ、ちょっくらこれまでの日常を見直し。
 テーマは、「触れ合い」ってことでいいかな。




【提督とあたし】



鈴谷「もう提督~、資料整理してよ~」タメイキ

提督「げっ、かなり酷いな……」

鈴谷「やったのは提督でしょ!」ジトッ

提督「うーん……準鷹との晩酌に付き合ったのが原因か……はたまた」

鈴谷「原因を外に持ってかない!」テキパキ


コンコン


長門「失礼する。提督、次の海域についてだが……」

鈴谷「あ、長門さんどうもです」テキパキテキパキ

鈴谷「資料は今整理中なので、またあとでお願いしてもいいですか?」ニコッ

長門「……あぁ、わかった」

長門「きみは見た目に反して、ずっと働き者なんだな」クスッ

鈴谷「あはは、そこの人が『ああ』ですから、自然と」

提督「『ああ』とはなんだ、『ああ』とは」

長門「ふふ、尻に敷かれているな……」

鈴谷「えぇ!? まっさかー」ニコニコ

提督「……」


長門「それでは、また後で」

長門「失礼する」ペコリ

鈴谷「お疲れ様でした!」ペコリ

提督「ん、ご苦労だった」

提督「……なぁ、鈴谷」

鈴谷「なぁに提督?」キョトン

提督「長門には敬語で、俺にはタメ口なのは?」

鈴谷「自分の胸に聞いてみたら、意外とすんなり答え出るかもよ?」ジトッ

提督「……」ウーン

鈴谷「そうやって甲板ニーソをガン見したりするの、とか」

提督「!?」ビクッ

鈴谷「というか、目の前で他の艦にセクハラしないでよ」ハァ

提督「あれは、艤装のチェックとか、その他諸々で」アセアセ

鈴谷「提督、目が泳いでるよ? ちょっとそこの海で水泳してきたら?」ニッコリ







【どうして複数?】




鈴谷「そういえば今更だけど」

鈴谷「秘書艦……もとい、準・秘書艦が複数いるって、面倒じゃないの?」クビカシゲ

提督「むっ、鈴谷。それは違うぞ?」

提督「いいか? 海の向こうには、民主主義の権化ともいえる国がある」

鈴谷「……?」

鈴谷「あぁ、いわゆる『米帝』の?」ポンッ

提督「さすが博識だな、見た目に反して」ニコニコ

鈴谷「長門さんはともかく、提督に言われるとカチンとくるね……」ピキッ


提督「そこでだ、うちの艦隊も」

提督「管轄をはっきりさせ、所掌事務をこなさせるべきと考えた」

鈴谷「ふむふむ」コクコク

提督「そして生まれたのが、『複数の秘書艦』システム!」

鈴谷「おお、みなぎる自信の割にはネーミングセンス皆無!」

提督「具体的には」

鈴谷「ほうほう」

提督「暁――『秘書艦庁・お茶汲み課』」

鈴谷「」ピクッ

提督「響――『同・書類整理課」

鈴谷「い、いや、あのさ……」

提督「雷――『同・身の回り世話課』」

鈴谷「え、なにその名前は……」ドンビキ

提督「電――『同・伝令及び雷の暴走抑え課』」

鈴谷「もう何も言わないよ……」タメイキ


提督「そして――」

鈴谷「へいへい……」スマホカチカチ

提督「今はお前が、『秘書艦庁』の総合責任者だ」

鈴谷「――は?」ピクッ

提督「頑張ってくれよ、『上司』」

鈴谷「……」

鈴谷「テキトーに頑張ります、『閣下』……」ハァ





【暁ちゃんとあたし】



暁「司令官、お茶を汲んできたのです」コトッ

提督「おお暁、よくやってくれた」ナデナデ

暁「もう、頭をなでなでしないでよ!」プンスカ

提督「そうかそうか」ニコニコ

暁「もー……」カァァ

鈴谷「……」


暁「鈴谷さんも、どうぞなのです」コトッ

鈴谷「お、サンキュ」

鈴谷「……ねぇ、暁ちゃん?」

暁「? どうかした――」ハッ

暁「どうかしましたか、なのです!」アセアセ

鈴谷(なんだこの可愛い生き物……)


鈴谷「いやさー、答えたくないならいいんだけど……」

鈴谷「提督の、その……」チラッ

鈴谷「セクハラ紛いの行為って、どうよ?」

暁「せくはら? なんなのです?」キョトン

鈴谷「……いや、なんでもない」

鈴谷「しかしまぁ、美味しいね」ゴクゴク

暁「そ、そんなこと、ないのです……」

暁「実際は暁じゃなくて、ほとんど別の人が――」

鈴谷「……?」


鈴谷「そういえば」

鈴谷「この紅茶……どこかで嗅いだことのあるような香り……」

鈴谷「!」



――『Special Like』ネ、スズヤ!――



暁「? 鈴谷さん、顔が赤いのです」キョトン

鈴谷「……いや、なんでもない」

鈴谷「暁ちゃんは可愛いなぁ、って思って」

暁「か、可愛くなんて……」カァァ

暁「子どもじゃないから、嬉しくなんて――」アセアセ

鈴谷(こりゃ提督が、ああなるわけだ……)







【響ちゃんとあたし】




響「……」ヨッコラセ

鈴谷「響ちゃん、このファイルってなんだっけ?」

響「あぁ、鈴谷さん、それなら『司令官に寄せられた抗議書、もとい嘆願書』だね」スラスラ

鈴谷「了解、『提督に対する、セクハラを受けた艦の苦情リスト』ね」カキカキ


鈴谷「……」チラッ

響「……」テキパキ

鈴谷(響ちゃん――他の姉妹とはたしかに似通ってるんだけど)

鈴谷(寡黙のため、鈴谷ちゃんは絡みにくかったり……)

鈴谷「ね、ねぇ響ちゃん?」

響「なんだい、鈴谷さん?」キョトン

鈴谷「今日は天気がいいね」アハハ

鈴谷(うわ、我ながらなんて陳腐な話題を……!)アセアセ

響「……ん、そうだね」ジッ

鈴谷(ん? ジッと見つめてきたよ?)




響「こんな日は、ハマグリじゃなくて浜風さんでも掘りに行きたいね」マガオ




鈴谷「」


鈴谷「……ごめん、響ちゃん」

鈴谷「今のって、もしかしてギャg」

響「さ、鈴谷さん、資料整理、資料整理……」イソイソ

鈴谷(――うわ、下向いちゃったけど、耳が真っ赤だよ)


鈴谷(どうする、鈴谷……)テキパキ

鈴谷(これは初めて電ちゃんに会った時以来の、「Sッ気」……!)

鈴谷(くぅ、仕事中だ! 抑えろあたしの煩悩――)テキパキテキパキ



提督「ああ鈴谷、響のギャグには笑ってあげた方がいいぞ」



鈴谷「」ピクッ

響「……」ピタッ

提督「そうすると後で、色々と捗r」

響「……」ガタッ

提督「響?」

響「……」ゴゴゴゴ

提督「悪かった響。今度ハマグリを焼いてやろう」

響「いらないよ……」ポカポカ

提督「あぁごめん、浜風を迎えてやらないとだな。ははは」

響「もう……」ポカポカ

鈴谷(――提督、あたし見直したよ)

鈴谷(いや、ある意味、あたしはメチャクチャ見下しちゃったんだけど)


響「司令官の、バカ……!」カァァ

提督「響は相変わらず可愛いなぁ」ニコニコ

響「うぅ……」ウツムキ

鈴谷(こんな響ちゃん見たら、そんなのもどうだっていいや……!)グッ

鈴谷(それに免じて、さっきのリストに鈴谷ちゃんの名前も入れておいてあげよう……)カキカキ

次は、残りの二人とその他の艦娘の予定です。
それでは、また。





……わかってます、何も言わないで下さい。
準鷹じゃないけど、酒は飲み過ぎるものじゃありませんね……。

隼鷹

>>51
うわ、二度も間違えてました……。
ありがとうございます。気をつけます。

そうだ。
質問したいことがあるんですけど、任務画面に現れる眼鏡のお姉さんの名前ってあるんですかね?
ご存知の方がいたら、教えてくれたら嬉しいです。
以下、ほんの少しの小ネタ。



【JK特有の悩み】


鈴谷「うーん……」

鈴谷(このカッコにも慣れたけど)

鈴谷(いかんせん、動きが取りにくい時があったりして……)

鈴谷(――つーか「天の意志」サマ、どうしてこの部分をおっきくしたのかね)モミモミ

鈴谷(おかげで、どっかの関西弁ちゃんには何か悲しい目をされるんだけど……)

鈴谷(あと、下着とかにも気を使わないといけないし……)ハァ


提督「おお鈴谷、体操か?」ニッコリ

鈴谷「……」

鈴谷「提督には触らせないからね?」ジトッ

提督「手伝ってやろうと思ったりはした。それは真実……」フッ

鈴谷「えーと、嘆願書の作り方は……」カチャカチャ




ここまで。




【雷ちゃんとあたし】



雷「司令官! お疲れ様!」ニコニコ

提督「おお雷か。今日の小品は?」

雷「ふふっ、切り干し大根よ!」コトッ

提督「おお、そうか……」

提督「うん、美味い」モグモグ

雷「自信作だからねっ!」

提督「さすがだな雷」ナデナデ

雷「えへへ……」


鈴谷「……」チラッ

鈴谷(雷ちゃんの「身の回りの世話課」)

鈴谷(よくわからないけど、肩もみしたり料理を振る舞ったり色々らしい)

鈴谷(……色々とすごいな)カキカキ

雷「あっ、鈴谷!」

鈴谷「よっ、雷ちゃん」ニコッ

雷「今日もお疲れ様!」

鈴谷「ははっ、ありがと」

鈴谷(雷ちゃんはストレートで、応じるこっちも自然体でいられたりする)


雷「鈴谷はお腹減ってない?」

鈴谷「えっ、あたし?」

鈴谷(いやぁ、ちょっとそこのファ○マでファ○チキを……)

鈴谷「ああ、うん。お腹減ってる減ってる」コクコク

鈴谷(大人になるってこういうことなんだろうな……)

雷「ほんと!? それじゃ、鈴谷にもお味見させてあげる!」コトッ

鈴谷「はは、ありがと」

鈴谷(それはともかく、雷ちゃんの料理をおすそ分けしてもらえるのは素直に嬉しい)


鈴谷「……」モグモグ

鈴谷(ふむ、なるほどなるほど――)

鈴谷「美味しいよ、ありがと」

雷「……!」パァァ

鈴谷(うひゃあ、可愛い)


雷「じゃ、じゃあ!」

雷「また今度も分けてあげるね!」パタパタ

鈴谷「はーい……」

鈴谷(いやー、パタパタと忙しい子だなぁ……)

鈴谷(というか、「司令官の身の回り世話係」って、こういうおつまみとか振る舞うのね)

提督「……」ジーッ

鈴谷「――」ピタッ

鈴谷「なに、提督?」ジトッ

提督「いや、なんというか」

提督「鈴谷の手料理も食べてみたかったり」

鈴谷「お断りします」キッパリ

提督「即答!?」


鈴谷「あたしはまだ、ここに来て間もないし……それに」

提督「料理はできない?」

鈴谷「――!」ガタッ

鈴谷「あ、あたしだって本気を出せば!」アセアセ

提督「そんじゃ今度よろしくー」

鈴谷「」




――夜



鈴谷(まずい……まさか、あの提督のペースに乗せられるとは)トコトコ

鈴谷(聞き流したつもりだったのに、ふと気づけば食堂)

鈴谷(――この辺り、やっぱり「部下」の血ってわけだ)


鈴谷(しかし、まぁ……)



――自信作だからねっ!――



鈴谷(あの幼女……もとい、準・秘書艦の子)

鈴谷(あの子は、もともと出来たのかもなぁ……)ハァ

鈴谷(……あたしにできるのかなぁ?)

鈴谷(ま、いっか。とりあえず、猫の手猫の手……)

鈴谷(きっと、包丁くらいはあるでしょ……)

鈴谷「ん?」ピクッ


雷「間宮さん、これでいい?」

間宮「そうそう雷ちゃん」

間宮「最初の頃に比べると、本当に成長したわね……」ナデナデ

雷「えへへー」

雷「いつか、司令官専属の料理人になってあげるの!」

間宮「ふふ、それじゃ私とはライバルね?」

雷「負けないからね!」エヘヘ

二人「――」ニコニコ

鈴谷「……」





――数分後


雷「バイバイ、間宮さん!」パタパタ

間宮「おやすみなさい、雷ちゃん」

間宮「……」

間宮「そろそろ、いいんじゃない?」ニコッ

鈴谷「――バレてました?」

間宮「ふふっ、雷ちゃんが大根を千切りしてた辺りで」

鈴谷「それ、最初っすね……」


鈴谷「……」

鈴谷「あの――」

間宮「なぁに?」

鈴谷「あたし、正直卵すらロクに割れないんですけど……」

間宮「基礎からみっちり鍛えてあげるわね?」

鈴谷「……よろしくお願いします、師匠」ペコリ









【電ちゃんとあたし】




雷「司令官! 私がいるじゃない!」ガタガタッ

提督「お、おい雷! 資料がごちゃごちゃに……」

雷「えぇ……今からの時間は、私と一緒に遊んでくれるって」グスッ

提督「雷……いい加減、「自分ルール」を作るのはやめt」

電「ダメなのです、雷ちゃん!」

雷「わっ、電!」


電「し、司令官さんは……その」

電「ええと――」アセアセ

鈴谷「あ、そうそう雷ちゃん。提督は今、今度の作戦立てるのに、大変なんだってー」

雷「!」

鈴谷「それで、金剛さんとか赤城さんとかに伝令を――」

雷「そ、それじゃ私、その二人に伝えてくるね!」ダッ

鈴谷「よろしくー」


提督「……お前、もう雷の扱い方を知ったのか?」

鈴谷「提督がもっと本気出せば、こんなガセネタ使わないで済んだのにー」ジトッ

提督「ぐっ、言葉も無い……」

電「す、鈴谷さん、ありがとうなのです……」

鈴谷「んー?」

電「い、雷ちゃんは、なかなか私の言うことを聞いてくれない時があって」

鈴谷「そりゃま、電ちゃんは妹だしねー」

電「うう……」シュン

鈴谷「――あ、そうだ」

電「?」

鈴谷「もしも、ありがたいとか思ってくれてるのなら……」

鈴谷「ちょっと、頼み事が――」





――鈴谷の部屋



鈴谷「あぁ、そこに雑誌を……」

電「は、はい!」

鈴谷「うん、あんがと」ナデナデ

電「……うぅ」

鈴谷(さすが、可愛い……)


鈴谷「いやー、助かったよ」

鈴谷「整理とかすんの苦手で……」アレ?

電「……あわわ」カァァ

鈴谷(あ、下着の棚、開けちゃってる……)


電「……」

電「大きいのです……」ボソッ

鈴谷「付けてみる?」

電「そ、それは……」

電「悲しくなるのでやめて――」

電「な、なんでもないのです!」ブンブン

鈴谷(やはり、最初に感じたあの感覚は間違えてなかった……!)グッ


鈴谷「いや、なんというかさー」

鈴谷「そもそも、「天の意志」サマとやらが勝手に決めたフォルムであって」

鈴谷「だからさ……」

電「……」ウルウル

鈴谷「き、気にすること無いよ」

電「なんで目を逸らすのです!?」ガーン

鈴谷(さすがに、真実を伝えるのは気が重いな……)

鈴谷「あぁ、ええと」

?「そうだぞ電。気にすることはない」

鈴谷「」

電「し、司令官さん!?」ビクッ

提督「いいか? 世の中には色々な……ぐっ!」グイッ

鈴谷「……いつから?」ゴゴゴゴ

提督「あぁ、鈴谷が喜々として自分のブラ――」

鈴谷「もういいから」ハァ

鈴谷「大淀さんに、きっちりと指導してもらおう……ね?」ニッコリ

提督「……おう」


提督「それは置いといて」コホン

鈴谷「あたしのプライバシーは!?」

提督「電。気にすることはないんだぞ?」

鈴谷「うわ、スルーされた……」タメイキ


提督「お前はいつも、四姉妹で一番下の立場でよくやってくれている」

提督「暁が紅茶をこぼした時も、響が俺のツッコミに怒った時も、雷が俺の資料をメチャクチャにしたときも……」

鈴谷(一部、自分の自業自得なのが含まれてるね……)

提督「……そういうフォローをいの一番にしてくれるのは電、お前なんだからな?」

電「「司令官さん……」

提督「だから、気にすることなく、業務に励んでくれ」

電「――はい!」コクッ


電「それでは、電は執務室に戻らせていただくのです!」ダッ

提督「おお、しっかり仕事してくれー」」

電「はい!」

提督「……」チラッ

鈴谷「――なにか?」

提督「許してくれたりは?」

鈴谷「瑞鳳ちゃんの格納庫をまさぐるのを、金輪際やめてくれるのなら)ニコッ

提督「無理だな」マガオ

鈴谷「大淀さーん、お願いしまーす」

ここまでです、
「大淀」の名前、教えてくれた方ありがとうございました。

というわけで、「雷電」姉妹のお話でした。
雷は影で頑張ってるイメージ、電は姉妹艦の面倒を実質的に見ているイメージですね。


それではまた。
次回以降、どういうネタになるのかは未定です。




【ただ一人……】


――夜


提督「鈴谷。今日はお前に着いてきてもらおう」

鈴谷「……」ジトッ

鈴谷「着いてから、『お茶くみ』『書類整理』『小料理振る舞い』……」

鈴谷「あたし、未だにLv1なんだけどなー」チラッ

提督「……」

提督「そのままのお前でいてほしいから――」

鈴谷「言い訳は見苦しい!」


提督「えぇと、いやまぁ」

提督「……実は、ちょっと違うんだ」

鈴谷「……?」




――工廠



金剛「提督~!」

提督「おお、金剛。それに比叡たちも来ていたか」

比叡「はい!」

榛名「記念すべき日に遅刻なんて、言語道断ですし……」エヘヘ

霧島「……おや? そういえば提督? 3分ほどお時間が――」

提督「さ、さぁお前ら! 時間だぞ!」

霧島「やれやれ……」ハァ

鈴谷「……」


鈴谷「あ、あの……」

金剛「Hey、鈴谷! どうしたネ!」

鈴谷「――今日は、どういう?」

比叡「あぁ、それはですね……」

榛名「ついに、私たちが――!」

霧島「『改ニ』になる日が来たんですよ!」ニコニコ

鈴谷「」


鈴谷「……」ジトーッ

提督「な、なんだ鈴谷?」

鈴谷「いやー、あたしってホントは『航巡』でさー」

鈴谷「なんというか、『そのままのお前でいてくれ』なーんて」チラッ

鈴谷「……ねぇ?」ゴゴゴゴ

提督「――」

提督「こ、今度、初めての演習だったな?」ズイッ

鈴谷「まぁねぇ……」

提督「――お前を『旗艦』にしよう」

鈴谷「やれやれ……」ハァ


金剛「Uh……提督、スズヤとすごく仲良いネ……」

比叡「阿吽の呼吸、ってやつですかね?」

榛名「はぁ……榛名もやってみたいですね、あうんのこきゅう」キラキラ

霧島「提督? そろそろお時間が……」

提督「!」ピクッ

鈴谷「!」バッ


鈴谷「い、いや、待ってくださいって!」

鈴谷「あ、あたしと提督は別に、そーいうんじゃ……」

提督「よし、それじゃみんな、おまちかねの『改造』だ」

鈴谷「――!」カァァ

鈴谷「そこでスルーはやめてよ!」アセアセ


金剛「……」ウルッ

比叡「お、お姉さま、比叡が付いてますから……」

榛名「はぁ、ついにこの日が来たのですね……」

霧島「ふふっ、榛名お姉さまは一番楽しみにしてましたからね」







そして――





金剛(改ニ)「やっと本当のワタシになれた気がしマース!」

比叡(改ニ)「少しはお姉さまに近づけたかな……」

霧島(改ニ)「うん、上出来ね――あれ?」

榛名(?)「……」アレ?


鈴谷「ど、どういうこと提督?」

提督「……あー」

金剛「Oh! 榛名、どういうコトネー!?」

比叡「い、一体これは……」

霧島「――!」

霧島「提督、ま、まさか……?」アセアセ

提督「……」

榛名「――はぁ」

榛名「榛名は、お姉さまたちに追いつけないのですね……」ズーン

提督「すまない、榛名」

提督「これは俺の、慢心のせいだ……!」

鈴谷「いつも緩みきってるだけじゃ、まだ足りなかったのね……」ハァ

金剛「スズヤ! 追い打ちをかけてはダメデース!」ブンブン

比叡「お姉さま……多分、フォローになってないと思います……」


鈴谷「えぇと、つまり……」

鈴谷「記帳によると、金剛さんたちは『Lv75』――」

鈴谷「そして今、『改ニ』になったと記されて……」

鈴谷「――榛名さんだけが、『改』」

榛名「……」ズーーン

金剛「は、榛名! お姉さまが付いてるネー!」

比叡「お、お姉さま! 今の私たちの姿を榛名に見せつけたら……!」

霧島「そうですね――比叡お姉さまの仰る通り」

霧島「提督。私たちは一度下がりますね?」

提督「ああ、ありがとう霧島。助かる」

霧島「いえいえ」ペコリ






>ハルナー、ゲンキダスネー!
>オ、オネエサマ!



鈴谷「……あ、えっと」

榛名「追いついた、つもりで」グスッ

鈴谷「……」ビクッ

榛名「ここまで、来たのに――」ウルウル

鈴谷「は、榛名さん!」

鈴谷「な、泣くのはダメd」

提督「榛名」

鈴谷「!」

榛名「……提督」


提督「いいか? 『改』でも『改ニ』でも」

提督「俺は、お前らのうちどっちが性能として上だとか」

提督「そんなのを考えることだけは、決してしない」

榛名「……」ピクッ

提督「それに」

提督「――ずっとなれない、というわけじゃないんだ」

榛名「!」ハッ

提督「榛名。これで涙を拭きなさい」

榛名「……はい」ゴシゴシ

提督「それが終わったら、艤装の確認。翌日、演習を行うからな」

榛名「――!」

提督「いいな? 旗艦は、お前だ」

榛名「……」

榛名「はいっ!」ニコッ


榛名「それでは、提督! 榛名、失礼します!」ペコリ

提督「ん、また明日」

榛名「はい!」



鈴谷「……へー」

提督「すまないな、榛名。約束を破ってしまって」

鈴谷「いやいや」

鈴谷「別に、Lv1のことなんて全然、これっぽっちも気にしてませんよー?」ジトッ

提督「ぐっ……」

鈴谷「でもまぁ」

鈴谷「……ちょっと、見直したよ」ボソッ

提督「え、なんだって?」

鈴谷「聞こえたでしょっ!」

提督「冗談だ」




――鈴谷の部屋


鈴谷「……」スマホカチカチ

鈴谷(あんなシリアスな顔、できたんだ……)

鈴谷(どーりで、長門さんとかにも何だかんだで信頼されてるわけだ――)

鈴谷「……」


コンコン


鈴谷「どーぞ」

電「し、失礼します、なのです!」ペコリ

鈴谷「あ、点呼の時間? おつかれー」

電「ありがとうございます、なのです!」

鈴谷「……電ちゃん、敬語の使いすぎってつかれない?」

電「だ、大丈夫、なのです!」アセアセ

鈴谷(まぁ、「!すでのな」とか書いて執務室に飾ってあるし、いいのか……)

鈴谷「……ねぇ、電ちゃん?」

電「ど、どうかしたのですか?」ピクッ

鈴谷「いや――」

鈴谷「提督って、好き?」マガオ

電「」


電「わ、私は……」アセアセ

電「司令官さんのことは、その――」アワアワ

電「……尊敬してるのです」カァァ

鈴谷「そっかー」


鈴谷「そんじゃ、またねー」ヒラヒラ

電「はい! 明日もよろしくなのです!」ペコリ

鈴谷「……」

鈴谷「明日から」


鈴谷「少しは態度、変えてあげようかねぇ……」ヤレヤレ









――翌日・廊下






提督「……」ピトッ

陸奥「ひゃっ!?」ビクッ

陸奥「て、提督! 火遊びしたいの?」

提督「いや――」

提督「……陸奥。最近少し太っt」パシッ

提督「ぐっ!」

鈴谷「はいはいごめんなさいね、陸奥さん」ニコニコ

鈴谷「うちの提督には執務室でみっちりお説教しておくんで」ニッコリ

陸奥「あ、鈴谷ちゃん。えっと……」キョトン

鈴谷「あ、そうそう」ピラッ

鈴谷「この『提督に対する、セクハラ撲滅キャンペーンリスト(仮)』毎度更新してるんで、どうかご一筆をー」

鈴谷「それではー」ズルズル

提督「す、鈴谷、痛い……」




鈴谷「……」ゴゴゴゴ

鈴谷「ごめん、提督」

提督「いや……はたかれることにはもう慣れたしな」

鈴谷「そのことじゃなくて」ハァ

提督「……」

鈴谷「――見直そうなんて、ちょっとでも考えたことを、ね?」ジトッ

提督「俺が一体、何をしたと……」アセアセ

鈴谷「自分の胸に聞いてみなさい!」ビシッ



陸奥「……」

陸奥(――夫婦漫才?)クスッ

ネタってものは、突然降ってくるもの……。
そう。例えば今、この時のように。
きっと、慢心していた提督は自分だけではない、ですよね……。

それでは。

今回は地の文付きです。











 ――もう、鈴谷!――


 目の前の女の子は、少し怒ったようにあたしに言う。
 なんだろう、この光景は……。


 ――わたくしを置いていくなんて……――


 プンスカとしてみせる、その顔も。
 ポニーテールにしてある、綺麗な髪も。
 あたしの、凄く大事にしていた「何か」の気がして――


 なのに。


 ――ちょっと鈴谷! 聞いてますの!?――


 ……どうして、顔だけがわからないんだろう。
 ほら、よく漫画である感じ。顔全体に影がかかってるような……。




 瞬間、意識が反転する。
 目の前で可愛い声を出していた「その子」も、遠く彼方へ。
 あたしはグルグルと渦に巻き込まれていくように、目の前の光景を失う――






「……ん?」


 パチッ。
 目を覚ますと、陽が差し込んでいた。
 どうやら、鈴谷ちゃんも出勤の時間らしい。


「そんじゃま――」


 着替えていつもの服装に着替えようとすると、チクッと頭に軽い痛みが走った。
 なんだろう、この感じは……。


「……」


 いつもはあまり意識しなかった「空白」を見る。
 二段ベッドの上は、宿主不在で空きっぱなしだ。
 

「――なんだかなー」


 ポリポリと頭を掻いて、うーんと伸びをする。
 駄目だ駄目だ、こんな気分のままじゃ提督を注意してあげられない。
 首を捻りながら、あたしはいそいそと部屋を出て行くのだった――

「……げっ」


 食堂は、もう艦娘で一杯だった。
 ワイワイガヤガヤ。
 そんな擬音が、いつもより大きくあたしの耳に響く。
 なるほど、今日の目覚めは遅かったらしい。
 食堂の柱時計は、いつもあたしが来るよりかなり進んでしまっている。


「いっけない、これじゃ秘書艦失格だよー……」


 いっちょまえに「提督の右腕」業務をしてやろうと意気込んでいたあたしにとっては、ちょっと痛手だったり。
 うわ、いつもの定位置もすっかり「占領」されちゃってる。
 空いてる場所、あんのかなー……。


「――ん?」


 いつもの定位置から、視線をグイッと変えてみる。
 すると、そこには――


「うーん、朝ごはんはしっかりと食べないとね」
「……赤城さん、ちょっと頬張りすぎ」


 おお、我が艦隊の主力部隊の二人!
 その二人のいる席の向かいに、一人座れるスペースが……!



「どうも、おはようございます」
「あ、鈴谷さん。おはようございます」
「……おはよう」


 ペコリと頭を下げて、「ここ空いてますか?」「いいですよ」というやり取りの後、着席。
 ……したはいいんだけど。


「――」
「? どうかしたの?」
「い、いえ、その」


 ご飯を取ってきて、改めて着席し、つい目の前を凝視してしまう。
 そして、キョトンとする加賀さんに、ドギマギしちゃった。
 いや、言っていいのかなこれ……。
 というか、今更感に溢れてるような――

「そ、そんなに朝から食べて、お腹もたれないんですか?」
「……私は赤城さんと違って、そんなに頬張ってないわ」
「ちょ、ちょっと加賀さん! 私、そんなリスみたいなことはしてません!」


 目の前でしれっと言う加賀さんに、赤城さんが顔を赤らめてしまう。
 いや、あたしが言ってるのは食べ方じゃなくて、量のことなんだけどな……。
 ま、いっか。
 あたし、まだボーキ不要だし。
 「重巡」だし。
 ……ふんだ。提督のバカ。


「い、一航船の誇りを失ったら困るのよ」
「赤城さんは、少し効率を見直すべきなのね」
「あの、加賀さん? あなた、その目の前の大皿を自覚してるの?」


 あたしがパクパクと食べる前で、言い合いを始める二人。
 とはいえ、お互いとても和やかで「いつも通り」という雰囲気を漂わせている。
 

(いいなー、お二人さん……)


 あたしにもそういうのがいたらなぁ……。
 ほら、いつも顔を突き合わせてる「四姉妹」とか――


 ……姉妹?


「? どうかした、鈴谷さん?」
「なにやら、様子がおかしいみたいだけれど……」
「い、いえ! だいじょぶです!」


 いけないいけない。目の前のお二人に心配をかけてしまった。
 アワアワと電ちゃんみたいになっちゃったよ。

「そ、それじゃあたし、そろそろ執務室へ――」
「あっ、そうね。提督によろしく」
「……正直、提督の遅刻なんて珍しくもないけれど」
「加賀さん!」


 そんな加賀さんの言葉に、鈴谷ちゃんストップ。
 ピョコッと頭から耳が生えた気分。
 ……そういえば。


「お二人が秘書艦だった頃の提督って、どんな感じだったんすか?」


 クルッとターンして、二人に質問してみる。
 すると、二人は一瞬、虚を衝かれたような表情を浮かべた後で、


「わ、私は、提督については『多少の』越権行為を除けば、良い人柄だと感じましたけど……」


 赤城さんは、少し視線を逸らしながらそう言う。本音が強調されたことに、本人は気づいているだろうか……。
 加賀さんも箸を置き、


「……デリケートだと散々言い含めたのに、なおも触ろうとする提督には、さすがに五航戦の子と同じ感想を抱かざるを得なかったわね」


 そう、溜息をつきながら言うのだった……。


「そ、そう、でしたかー……あはは」


 笑ってごまかす鈴谷ちゃん。
 心のなかでは、提督への悪態をつきまくってたりします。
 (後で察したけど、あれか、瑞鶴さんのことか……)

「……鈴谷さんは、提督のことが気になるの?」


 あたしが「セクハラ!」と罵倒していると、目の前の赤城さんが優しい声で言ってきた。
 その目はどこか思うところがありそうで――


「い、いやぁ、あたしは……げ、現・秘書艦としての責務といいますか」
「そう言いながら、それなりに続いてるのね、秘書艦」


 あたしがアタフタとしていると、加賀さんが意味深なことを言ってきた。
 え、どゆこと?


「私の知っている限り、どうしても提督と相容れない場合等は、秘書艦をやめてもいいのよ」


 やめても「あの子たち」がいるしね。
 お茶を啜りながら、加賀さんはそう言った。


「え、えぇ……?」
「私の知っている限り、曙さんとかはそうだったように記憶しているけれど」


 ほぅっと息をつきながら、加賀さんが続ける。
 あけぼの――あぁ、駆逐艦の。
 確かにあの性格(というか提督への態度)じゃ、秘書艦としては難儀しそうだ。

「い、いやー、あたしも正直、セクハラとかには困ってますしー。実際のトコ、やめちゃいたかったりー」
「ふふっ、鈴谷さんは嘘が苦手なのね?」


 あたしが頭を掻きながら言うと、赤城さんはクスクスと笑いながらそんなことを言うのだった。


「い、いや! あ、あたしは――」


 「セクハラリスト」作り終わったら辞めたいし電ちゃんたちとはそれ以外でも会えるしそれにそれに――
 グルグルと回る頭は、あたしの顔を赤くすることで「ショート」の症状を示している。


「そ、それじゃ、あたしはこれで!」


 ダッと向きを変えて、あたしはフラフラと外へと向かうのだった――





「うふふ、鈴谷さんは可愛いわね」
「――赤城さんは、意外と人をイジめることが好きなのね」
「あら? 線路を引いたのは、加賀さんでしょう?」
「……ノーコメントで」
「ふふっ」

ここまで。
冒頭で書いた「あの子」が、実はちょっとしたテーマだったりします。
……まぁ、ころころと話は変わるとは思いますけれども。

それでは。

すいません、体調崩したので、投稿が遅れています。
治り次第、投下したいと思います。

やばい、もうすぐ一ヶ月でした……すみません、時間かかりそうで。

 


 ――意外と長く続いている。


 廊下をズカズカと歩きながら、あたしの脳裏に言葉が過ぎった。
 そういえば、どれくらいだっけ?


(あたしが、秘書艦になってから……)


 結構経ったような気もすれば、意外と短いような。
 まぁ、几帳面な性格ってワケじゃないし。


「グッモーニン、スズヤ!」
「わっ!?」


 少し思案していると、後ろから抱きつかれた。
 「彼女」が海戦の際に載せている『46式連装砲』が、頭をチラつく。
 それがなくとも何とも重量感が……いや、体重じゃなくて、アレだ。


「ちょ、ちょっと金剛さん! 当たってますって!」
「Oh Sorry!」


 あたしがアタフタとしながら振り向けば、金剛さんが満面の笑顔で立っていた。
 うーん、いつ見ても美人だなぁ……。
 長門さんとはまた違う感じ。
 こっちは「可愛い美人」。あっちは「カッコいい美人」。
 

「Hnn……スズヤ」
「はい?」


 あたしがそんな取り留めのないことを考えていると、目の前の金剛さんがジーっと私を見つめていた。
 なんだなんだ? 戦艦サマに、不快な思いをさせちゃったり?


「スズヤは見かけの割に、Skinshipが足りまセン!」
「す、すきんしっぷ……?」


 どうやら不快な思いにさせたとか、そういうことではないらしい。
 金剛さんのジト目(うわ、可愛い……)に、あたしはモゴモゴとするばかりだ。


「ワタシから見ればスズヤは、もっとSoulful! ジョーネツがあるべきデス!」
「そ、それはどういう……?」
「Mirrorで自分を確認してくだサイ!」


 そう言うと、金剛さんはコンパクトを出してきた。
 淡い青色の長めの髪。大きな瞳。ちょっとばかり突出してる胸部。
 ……ふむふむ、なるほど。


「いかにもな『現役女子高生』って感じですね」
「Yes! スズヤは理解力が高いネ~」


 回答したあたしは、気づけば金剛さんに頭を撫でられていた。
 いつも思うけど、この人の行動の速さを見るにつけ「さすが高速戦艦!」と驚かされる。

「But……実際には、スズヤは押しがWeakpointネ……」
「弱点、っすか」
「Yes!」


 力強く首肯する金剛さんに、あたしはどう応じたらいいものか。
 ええと、整理整理。いつも響ちゃんがやってくれてるようなイメージで。


 つまるところ、金剛さんはあたしの『押し』が弱いと感じている。
 『現役女子高生』な外見のあたしは、もっと情熱的であるべきだ、と。
 ……もしかして。


「金剛さん、間違ってたらごめんなさい」
「Hnn?」
「もしかして――」


「秘書艦に戻りたい、とか?」


 瞬間。
 爆発が起こったかのような錯覚に陥った。
 なんだなんだ? どうやら、発生源はすぐ側にあるとみた。


 あたしの眼前で金剛さんが顔を真っ赤に染め上げ、俯いている。
 「うわ、なんて可愛さ……」とか考えるより先に、あたしは「図星か」と納得する。


「だ、だってだって……」


 あたしがしたり顔をしていると、金剛さんがそんな表情のまま言う。


「スズヤはせっかくの秘書艦なノニ……提督には、なんだか冷たいデス」
「そ、そうですか?」
「この前も『セクハラリスト』を作ってマシタ」
「い、いや、それは……」


 他にやることがないから「イタズラ心半分、ちょいと本気半分」で始めたんですよ……。
 そんな身も蓋もないことを言うべきか、言わざるべきか。


「提督なら他の艦のコにTouchするのはトーゼンデス!」
「……は、はぁ」
「そうしないと艦隊のMorale! 士気に関わりマス!」
「――」


 いやこの前、陸奥さんの腰に触れて「太ったか?」的なこと言ってましたし。
 瑞鳳ちゃんに会っては、格納庫をまさぐり回してますし……。
 曙ちゃんは触られるだけで「ウザいなぁ!」と激昂しますし…………。


「――それって、ホントにもらる? なんですかね」
「No! スズヤ悪いコ、デス!」


 目の前で赤くなりながら、パタパタと手を振る金剛さん。
 ……さっきから何となく、朧気ながら掴めそうな感覚があった。


「つまり、あたしが秘書艦なのに、提督にその……あまり、スキンシップを許していないってことがご不満で?」
「That's Right!」


 おお、どうやら的中したらしい。

「スズヤはもっと、提督とスキンシップを図るべきデス!」
「……うーん」


 あたしが提督とスキンシップ。
 ……なんだろう。


「例えば?」
「For Example、マッサージしてあげるとか紅茶を淹れてあげるとか……あと、BodyTouchを許すとかデス!」
「――わわ」


 ボディタッチ。
 ちょっと考えただけで、ほんのりと頬が赤くなるのを感じてしまった。


 たしかに、何だか違和感があった。
 こんな風貌の割に、なんだかその……積極的になれない。
 主に、提督に対して。


「ホントなら、スズヤはもっともっと提督と仲良くなれるはずデス!」
「こ、金剛さん、ちょっとストップ……」


 もはや、金剛さんの演説会みたいになってるよ。
 対するあたしは、さっきから体温が上がっているような気がしてならない……。


「あ、あたしはですね、その……」


 どうしよう、上手く言葉が紡げない。
 そういえば「甲板ニーソ」を触られると「うひゃぁ!?」ってなるし。
 何か仕事(雷ちゃんに対抗して、ホント簡単な料理を出したり)して軽く撫でられるだけで、ビクンッとなる。
 ……我ながら、どれだけ感度が高いんだろうね。


「ワタシは、提督には全てを捧げる準備! できてマス!」
「……す、すべて?」
「スズヤはどうデスカ?」


 金剛さんの視線は、さっきからあたしを掴んで離さない。
 そりゃまぁ、初めて会った時から金剛さんが他のコよりずっと提督を慕っていることはよく分かった。
 というか、わからないほうがおかしい。

「い、いやぁ、その……」
「……Sorry」


 あたしが返答に困っていると、金剛さんはさっきとは打って変わって、静かに言った。


「ワタシが秘書艦だった期間は、Very Longデシタ」
「そ、そうでしょうね……」
「ダカラ!」


 そう言うとニコッと笑う金剛さん。
 彼女は優しい顔つきのまま、


「スズヤもいつか、絶対に提督がダイスキ! になる時がきマス!」


 そんなことを言って、クルッと回って去っていった――







「……」


 心臓がバクバクいってるのが、はっきり分かる。
 スキンシップ? ボディタッチ?
 頭のなかでグルグルと、金剛さんの可愛い声が巡る。


(――うひゃぁ)


 なんてこったい、鈴谷ちゃん。
 こんな顔のまま、執務室に行けるのかな……。



(そ、そもそも、提督のセクハラは――)


 ――スズヤもいつか、絶対――


(……ううー)


 何だかよくわからない。
 けれど、物凄く顔が赤くなっているんだろうな、ということは感じた。

今回はここまで。
食事を終えた後での、金剛と鈴谷の交流でした。

実際のゲーム内では、いかにも積極的だったり意味深なことを言う鈴谷ですが、その実……
っていうのを描きたかったのが、執筆動機だったりします。
だから、ある意味「キャラ崩壊」なんでしょうね。

次回は、第六駆逐隊と提督と鈴谷になると思います。
それでは。

ごめんなさい、まだかかりそうですね……。

 

 
 執務室に向かうのに、ここまで足が重いと思ったことはちょっと記憶にない。
 それもこれも、あの美人さんのせいだ。そう、私は悪くない。


「……なんて考えてるうちに」


 到着っと。
 ふむ……改めて見なくても、一応ここの最重要人物の割には質素な扉だ。
 もっと予算割いてもいいのに――ただでさえ「内向き志向」艦隊なんだから。


(提督もこんな扉でいいのかなぁ……)


 ふと思いつき、考えこんでしまった。
 あくまでもイメージだけれど、他の艦隊とかはもっと執務室をきらびやかにしたり、外装を整えたりといったことをしているはずだ。
 明石さんとか大淀さんに聞いても、どこか歯切れの悪い返事だし。
 ――って。

(どうしてあたしはこんなことを考えてるんだっての……)


 勝手に考えて、勝手に頬を染める。
 傍から見られていたら、とんだ艦娘に思われることだろう。
 それもこれも、食堂で出会った正規空母さんと、廊下であたしを思いっきり振り回してくれた高速戦艦さんのせいだ。


 ――初めまして、ええと……――

 ――ようこそ、わが艦隊へ!――


(……あーあ)


 ダメだこりゃ。変なスイッチ入ったみたい。
 とりあえず、だ。深呼吸して、呼吸と鼓動を落ち着けよう。
 あのからかい好きな提督のことだ。隙を見せたら、やられる――


「失礼し……失礼しまーす!」


 ノックをして……やばっ、噛んだ!
 えぇ――こんなこと、今まであったっけなぁ。


「あ、鈴谷! 入って入って!」


 あたしが再び思考の渦に囚われようとしていると、可愛らしい声がした。
 この執務室に常駐する人で、あたしを呼び捨てにするのは二人しかいない。
 ああ、あたしはまた、この「小さなお母さん」に助けられたのか……。
 
 まぁいいや、ともあれ扉を開けよう。
 中の住人たる雷ちゃんが背中を押してくれた。
 ドアを開けて、さあ仕事だ――




「司令官、ここが凝ってるの?」
「あ、響! そこは暁の担当!」
「もう二人とも、行動が遅いわよ! 司令官はここがいいのよね?」
「そうだな……けど、雷だけに世話をしてもらうわけには」
「し、司令官さん! 腰が変な音を……!」
「あ、ああ――連日の激務で」


「……」


 絶句した。
 平静を保とうと努めながら入ったあたしの目の前には、珍妙な光景が広がっていた。
 ソファーにうつ伏せになっている司令官の周りには、可愛らしい駆逐艦の子たちがいた。
 彼女たちは甲斐甲斐しく、司令官の「お世話」をしているようだった。



「……司令官さんの背中、大きいです」
「そ、そうか? いやまぁ、別にそこま、で……で」


「で」の次は何を言おうとしていたのだろう?
 まぁ、別にいいや。
 ちょっとカチンときたけど、この場合あたしは悪くないよね?」


「おはよ、提督……朝からずいっぶん見せつけてくれるねー」
「す、鈴谷……」


 腕組みをして、あたしを見上げる「上司」をねっとりと睨みつけてあげた。
 あたしと相対する彼の目は全く曇っていなかった。透き通っていて、どこまでも純粋そうな――


「変態」
「ぐっ……!」


 一撃必殺。
『現役JK』の表情や声の作り様を舐めちゃいけない。


「朝っぱらから小さな女のコを侍らせて、マッサージ? 最近、摘発がキビシーってどっかのお巡りさんが言ってたよ?
 もう、いつもいつも、こうやって暁ちゃんたちみたいないたいけな子を――」


 以下省略。
 言葉の弾を浴びせかけるのはどことなく嗜虐心をくすぐられはする。いや、元々S気質なのは自覚してるよ?


 上司、もとい変態はヘナヘナとくずおれるかと思いきや――


「けれどな鈴谷、これもまた必要なことなんだよ」
「……は?」


 居直った。清々しいくらいの勢いで。
 てっきり逸らすと思った視線も、未だあたしに向けられたままだ。


「司令塔たる俺の身体の調子が悪かったら、指揮に支障が生じる」
「……明石さんや大淀さんっていう有能な人たちがいるような」
「たしかに、あいつらは優秀だ。能力からみれば、俺よりもずっとな」


 だが、と提督は続ける。


「リーダーとしての指揮技術は、恐らく俺の方が上だ」
「……」
「よって、俺がこの子たちにマッサージをうけていたからといって、淫らな行為とか
 なんとか法違反にはならない。以上」


 言いながら、提督はソファーから立ち上がり、執務机に戻ろうと――


 ガシッと、その腕を掴む鈴谷ちゃん。


「……す、鈴谷?」
「それで、いかがわしい行為が帳消しになるとでも?」


 あたしの表情は依然として硬いままだろう。何となく分かる。
 いや、分かるのはそれだけでもない。提督の主張も何となくもっともなような気もしてしまった。



「ああ、その……すまん。鈴谷には嫌な思いをさせたみたいだな」


 戻ろうとしていた姿勢をこちらに向け直し、彼はあたしと視線を合わせる。
 いつも思うけど、提督の目は「海」みたいだと思う。
 それは執務室の窓からいつも目に入ってくる、碧い群青に影響されていることは自覚していた。


 そうだ、だから嫌なんだ。
 こういう時むしろ最後まで、アワアワとそれこそ電ちゃんのようにしていてくれれば、あたしも助かるのに。
 そうすれば、正規空母さんにも高速戦艦さんにもからかわれないで済むのに。
 結局はこうやって、しっかりと視線を合わせて、相手と向き合おうとする人だから――


「……ま、まぁ、いいよ」


 ほら、だからこっちが視線を逸らす。
 また、負けた。これだから提督は困る。


「別に、あたしだって、嫌だってワケじゃ、ないし」
「そう、か。とはいえ、これからはこっちも気をつけるよ」


 そう言って提督は、ポンっとあたしの頭に手を置いた。
 いかにも「男」って感じの、無骨な感触だった。


「……!?」
「さぁお前ら、そろそろ仕事するぞー」


 あたしがその現実を意識する前に、提督はテクテクと執務机へと向かっていった。
 その後ろ姿もまた、一切の迷いもないピシっとしたものだった。


(……な、なに、を?)


 あたしの体温が、我ながら高くなっているのがよく分かる。
 ボディタッチ。
 提督から、あたしに。


 脳裏をよぎるのは、金色のあの美人さん。
 全く、あの人は予言者か何かなんだろうか? 言ったすぐ後に、まさかやられるとは思ってもみなかった。


(どう、しよう……)


 鼓動が凄いことになっている。あたしは左胸を、手でギュッと押さえる。
 顔は熱い。きっと、耳までエラいことになっている。仕事、できるのかな――




「す、鈴谷、さん」
「――あ」


 声のした方向へ、視線を転じる。
 その先には、少しだけ緊張した様子の四姉妹の姿があった。
 その子たちを見て、あたしは自然と笑顔になった。全く、この子たちは最高だね。



「……す、鈴谷さん。そのぅ」
「あ、電ちゃん。それに暁ちゃん、響ちゃんも。挨拶遅れてごめんね」


 提督だけの相手をしているるわけにもいかない。
 あたしの仕事仲間たる女の子たちにも、挨拶をしなきゃだ。


「お、おはようなのです」
「……おはよう、鈴谷さん」
「ちょ、ちょっと鈴谷! 私は!?」


 少し焦った様子で返事をしてくれる暁ちゃんと、いつものようにクールな響ちゃん。
 でもって、雷ちゃんは――


「あれ? さっき挨拶した、ような……」
「ノックしたのに返しただけ! 鈴谷、また私をからかってるでしょ!」


 プンスカと頬を膨らませる雷ちゃんに、あたしは笑いかけながら言う。


「いやー、ほら。雷ちゃん、可愛いし」
「か、可愛いって……」


 低めな身長に合わせる形で、あたしも姿勢を変える。
 ほんの少し怒ったように見えたら、こうしてすぐに顔を赤らめてしまう。
 そんな彼女が、これまた本当に可愛いんだ。


「おーい鈴谷ー!」
「……な、なに提督!」
「少し、長門たちに会ってきてくれないか? 今度の作戦の打ち合わせをしたいんだ」
「りょ、了解!」


 あーあ、さっきのことがあってから、調子がメチャクチャだ。
 私の声は、自分でもよく分かるくらいに震えていた。
 それにきっと――


「鈴谷もカワイイ!」
「!」


 顔真っ赤ー、と声をあげながら、雷ちゃんは部屋の奥へと飛んでいった。
 あの子は満面の笑顔をしているんだろう。これは絶対。


「……はぁ」


 一本取られた。
 あたしは雷ちゃん――「小さなお母さん」に「参りました」と心の中で言いながら、部屋を出るのだった。

遅くなってごめんなさい。
鈴谷と提督のやり取りがいまいち思い浮かびませんでしたね……これで良かったものか。
何となく、鈴谷は自分のペースに引き込まないと「弱い」イメージがあります。勝手ですが。

それでは、また。
着地点も未確認のまま進行していきますね……。

「ふむ、分かった。ありがとうな、鈴谷」


 微笑みながら、ゆっくりとあたしの持ってきた書類を、長門さんは元通りにまとめた。
 会うたびに、相変わらず美麗な人だ、と実感させられる。
 おそらく、頻繁に会う艦があの子たち、っていうのも影響しているんだろうけど……ごめんね、暁ちゃんたち。


 あの後、あたしは提督から受け取った書類を、しっかりと彼女のもとへと届けに行っていた。
 まぁ、この辺りは、「秘書艦」として当然――


「……そ、その、差し支えなかったら、でいいんですけど」
「ん? なんだ?」


 ふと、気になったことがある。
 なんといっても「秘書艦」鈴谷ちゃんは、相手方に書類を届ける際に、中身を見ていない。
 それは、今までも変わらなかったし、当たり前のようにこなしていた。
 ……けれど。


「大雑把で構わないので……どんなことが書いてあったのかなー、なんてちょっと気になったり」
「……ほぅ」


 さりげない仕草で、長門さんはあたしに書類を返してくれた。
「あ、ありがとうございます」と、どぎまぎしながら受け取るあたしに、


「……きみは、提督のことが気になるのか?」
「!?」


 長門さんの爆弾発言が、あたしに炸裂する。
 驚いて見返すと、彼女は笑顔を見せていた。
 え、えぇ……どう返せばいいのやら。


「あ、あたしが――提督を、ですか?」
「ああ。この部屋に入ってくる際に、いつもより様子が明らかにおかしかったからな」


 うっ、やっぱり見ぬかれていたか……。
 いや、これには事情がありまして。提督が、あの子たちに事案になるようなことをしてたからで、あたしはそのせいで――
 なんてことを言おうとしたものの、全て言葉になってくれなかった。
 あたしは仕方なく、黙りこくる。


「まぁ、あの提督はどこか特殊だからな」


 無理もないか、と長門さんは独りごちた。


「特殊、ですか」


 長門さんに導かれる形で、あたしは再び声を発することができた。
 恐らく、今のあたしの状況を把握したからだろう。さすが、元・連合艦隊の長……。


「私も、昔は今のきみのように、提督に対して色々と意見を言っていた」
「長門さんが、ですか」
「あぁ」


 そう言うと、長門さんの表情は、さっき以上に柔らかくなる。
 つくづく、こういう時の彼女は卑怯だ。「かっこいい」と「かわいい」が理想的に組み合わさると、相手側としてはもう何も言えなくなるんだから。


「『どうして新しい海域に行かないのか?』とか『新しい艦をどうして建造しないのか?』と……後は、『もっと演習をしたらどうなのか?』……その他にも、色々あったな」
「――艦娘のコたちに対する、セクハラについては?」
「ああ。一時期、明らかにその類のクレームが増えたから、具申してはみたものの……」


 懐かしそうに話す長門さんは、あたしの挟んだ意見について、どこか応えにくそうだった。
 ん? なんか変なことを言ったかな?
 というか、やっぱりその頃からそういう意見出てたのね……。

(……提督のバカ)


 あたしがいつものように、そんな彼に対して心のなかで罵倒しようとしていると、


「それについては、次に金剛ちゃんが来ちゃったから、うやむやになっちゃったのよね」
「……!」


 振り向けば、そこにいたのは……


「まぁ、長門の言うことにも一理あったけど……金剛ちゃんは、全面的に提督を肯定しちゃうから、私たちも何も言えなくなっちゃって」
「……陸奥」


 長門さんが、気恥ずかしそうに、入ってきた人の名前を口に出した。


「まぁそういうわけなのよ、鈴谷ちゃん。あの後に秘書艦になったのが、そうね……同じ型の霧島ちゃんとかなら、まだ長門の意見も通ったかもしれないんだけど」
「い、いやー、そうだったんですか……」


 トコトコとあたしの近くへやって来る陸奥さんに、あたしは頭をかきながらそう返した。
 陸奥さんは、「鈴谷ちゃんが来るまでは、『セクハラリスト』なんて誰も思いつかなかったんだけどね」と言って、あたしの頭を撫でる。
 うっ、綺麗な手だ……同性として、ちょっとコンプレックス刺激されちゃうよ。


 陸奥さんは、長門さんと同室の戦艦さんだった。
 どちらもとても美人さんなんだけど、敢えて言うなら、長門さんは「凛とした美人」で陸奥さんは「柔らかい美人」。
 ……あれ? 前にも同じようなことを考えたことがあるね?


 陸奥さんに撫でられながら、あたしはそんなことを考えていた。
 それと同時に、さっきの執務室でのことを思い出す――


「……!」
「ん? どうかした、鈴谷ちゃん?」


 あたしを撫でながら、陸奥さんはキョトンとした。
 あたしは「い、いえ、なんでも!」と言おうとしたけれど――


「し、執務室で、頭撫でられちゃいまして!」


 それを思い出して……と、続けようとする前に、陸奥さんはあたしの頭から手を離した。
 そして、目を丸くしながら、あたしを見つめる。


(……え?)


 な、なに言ってるのあたしは!
 さっきのことはイレギュラーだし……あたしだって、その――


(い、いや、だった、し)


 そうだ、いやだった。
 いかにも「男」って感じの、提督の手があたしの頭に載せられるのは……
 そうだ、そういうことなら雷ちゃんたちにすれば――


「……長門。これって」
「ふむ、なるほど――」


 陸奥さんが問いかけると、長門さんはそれに応じる。
 そして、あたしの近くにまで近づいた。

「鈴谷、提案なんだが……」
「あ、あたしは、その――べ、別に、提督なんて」


 しどろもどろになりながら言葉を発し続けるあたしに対して、長門さんはゆっくりと言う。


「今晩、空いてるか?」




「スズヤー、待ってたネー!」
「わっ!?」


 その後、執務を終えた後、長門さんに教えられた場所に向かったあたしは、いきなり抱きつかれた。
 このカタコトからして、お相手は明らかだ。いやきっと、分からない艦はウチにはいない。


「こ、金剛さん! ストップストップ!」
「Oh Sorry! いきなりすぎたネ!」


 そう言ってパッとあたしから離れる美人さんは、ペロッと舌を出しながら、イタズラめいた微笑みを向ける。
 ……正直、戦艦さんは卑怯だ。
 さっきの長門さんや陸奥さんは言うまでもなく、全員が全員、あたしを掴んで離さないオーラを発しているのだから。


「ご、ごめんなさい鈴谷さん! もう、お姉さまも!」
「鈴谷さんがこういう場に来てくれるのは初めてですよね……嬉しいです」
「いつもお疲れ様です、お茶でも……っと、今日は、お茶ではありませんね」


 代わる代わるあたしに声をかけてくれるのは、金剛さんの姉妹艦の人たちだ。
 順番に、比叡さん、榛名さん、霧島さんってことになるね。


「い、いや、そうお気になさらずに……あたしも、今日は、そういう気分でしたし」


 あたしの近くにまで来てくれる彼女たちにそう返しながら、あたしは「そういう気分」ということを改めて実感する。
 長門さんが指定した場所には、仕事帰りであろうおじさんたちが多くいて、「店員さん、ちょっとー!」と赤ら顔で注文している。
 そう、ここは――


「……鈴谷は、呑めるほうかな?」


 あたしが店内をキョロキョロと見回していると、聞き慣れたボーイッシュな声がした。
 見れば、長門さんがイタズラッぽく微笑みながら、あたしを見つめている。


「まぁ、そうですね……一回、隼鷹ちゃんとかと呑んだことはありますけど」


 そんな彼女に、あたしはそう返しながら笑った。


「嫌いじゃない――というか、好きですね。『お酒』っていうのは」
「……そうか」
「良かった、鈴谷ちゃんが楽しめるみたいで」


 長門さんに続いて、クスクスと笑いながら陸奥さんがそう声を掛けてくれた。
 まぁ、アルコールは嫌いじゃない。
 毎日、呑むってわけじゃないけど、時々そういうのが好きな艦娘の子たちと、時間を共にすることはある。


「――それじゃあ、みんな」


 あたしたちの元へ店員さんが運んでくれたビールを片手に、長門さんが音頭を取る。

「今日も一日、お疲れ様! 乾杯!」
「かんぱーい!」
「……か、かんぱーい」


 ノリよく合わせる戦艦の皆さんに、あたしは合わせるのに精一杯だ。
 というか、あたし場違いじゃないの? 大丈夫なの?


 今日の「宴会」――時々、開かれているらしい――に、あたしはお招き頂いたわけだ。
 参加する人は、基本的にいつも海域に出撃する艦隊の人たち……といっても、最近は「内向き志向」が強くて、なかなか出ていないけど。
 固定メンバーとしては、長門さんと陸奥さん、そして金剛さん。残りのメンバーは、変動アリということらしい。
 大体において参加するのは長門さん曰く、赤城さんや加賀さんといった正規空母の筆頭格。
 けれど今日は、そのお二方は、用事があるということでこの場には姿が見えず……。


「鈴谷さんが参加されるのは、初めてですよね?」


 そんなことを思っていると、隣にいる人が声をかけてきた。
 振り向けば、そこにいたのは――


「……榛名さん」
「あ、覚えていてくださいましたか!」


 そう言って、パァっと顔を輝かせる彼女は、金剛さんの姉妹艦――榛名さんだ。


 赤城さんや加賀さんの代わり、といっては何だけど、今日この場には、金剛型の四姉妹さんが集結していた。
 後で聞くところによれば、金剛さんが声を掛けて集めてきたそうな。


 おっと、榛名さんと話していたんだった。
 この人は、金剛さんの「妹」にあたる。
 高速戦艦のポテンシャルのみならず、妹さんやお姉さんを超えるその「運」の高さには、あたしもビックリさせられるんだよね。
 ……まぁ、戦闘以外では、こうして何とも言えないくらいに可愛いわけだけど。


「い、いや。戦艦さんたちを忘れることはありませんって」
「ふふっ、鈴谷さんったら、お世辞がお上手ですね」
「そういうわけじゃ……」


 とはいえ、クスクスと笑い、とても嬉しそうにしている榛名さんには、あたしにしても何も言えない。
 それくらい、この人の微笑みは無邪気で、言葉を差し挟むのをためらわさせる。


「……それにしても」
「はい?」


 ジョッキに手をかけてビールを口にしながら、榛名さんは興味深さそうにあたしを見つめる。


「珍しいですね。鈴谷さん、今までこういう場には参加されませんでしたから」
「そうですねー……あたしも長門さんが誘ってくれたから、ここに来ましたし」


 あたしもビールをゴクリと呑みながら、そう返す。
 うん、おいしい。これはなかなかいいビールとみた。


「うーん……やっぱり長門さんも、鈴谷さんのことが気になってたんですね」
「へ? それはどういう?」
「それは――」
「鈴谷さんがある意味では一番、提督に近しいと思っていたものですから」


 榛名さんの言葉を引き継いで、理知的な声が返ってきた。
 見れば、そこには眼鏡をかけた高速戦艦の一人――霧島さんがいる。「金剛四姉妹」の末っ子にあたる人だ。


「い、いや、あたしは別に……」
「提督は、ああ見えて意外に敏感です。秘書艦になった艦が嫌そうにしている、と直感したら、すぐさま任を解きます」


 あたしが返事に窮していると、霧島さんが淀むことなく続ける。

「けれど鈴谷さんは今まで、こうして秘書艦として、提督の『右腕』役に携わってこられました。つまり、鈴谷さんは、提督に『信頼』されている、と結論づけられます」
「……信頼」


 霧島さんの、その一言がヒットした。
「信頼」……あたしが、提督に?」


「い、いやその……信頼されるような艦が、セクハラリストを作るものですかね?」
「いえ、鈴谷さんは信頼されているでしょうね」


 また、違う声がした。
 今度、あたしの近くにやって来たのは、金剛さんの直属の妹――比叡さんだった。
 彼女は一口、ビールを口に含んだ後で、


「明らかに提督に対して反発している艦――例えば、曙さんとか霞さん――は、彼女たちの希望もありましたが、すぐに秘書艦としての業務を解かれてます」
「それはたしかに、わかりますけど……」


 あたしもまたビールを口に含んでから、そう応える。
 たしかにあの二人は、秘書艦向きではないだろう。提督に責任があると言えないこともないけど、あの子たち自身、
 そもそも「提督」というものに不信感を持っているようにすら思えるし。
 ……まぁ、駆逐艦という一番「ちっこい」艦娘ということも影響しているんじゃないか、とも考えちゃうわけだけど。
 ほら、素直になれないとか、有り体に言えば……子供っぽいとか。


「鈴谷さんも、先ほど仰ったように『セクハラリスト』を作られたり、提督に対する不信感は、表向きでは大きいと思われてます」
「そ、そうですか……やっぱり」


 あのセクハラリストに、そんな効果があったんだ……まぁ、何となく察してはいた。
 とはいえ正直、何となくノリで作ってみただけなんだけどね……。
 まぁ、作らない人は絶対に作らないだろうとは思ってはいた。
 例えば、すぐそこでゴクゴクとビールを呑んで、幸せそうにしている金剛さんとか。
 

「けれど鈴谷さんは、実際はそうではないでしょう?」
「……」


 どこか悪戯っぽく尋ねる比叡さんに、あたしは言葉を返せなかった。
 どうやら、あたしは金剛型の方々に弱いらしい。
 もちろん、話していて苦手という意味ではなく……どうしても、返事に窮してしまいがちだ。



「あ、あたしはですね……その」


 比叡さんたちお三方としっかりを視線を合わせ、あたしは応える。


「て、提督が嫌いじゃないわけではない……いえ、もちろん、セクハラとかはダメだとは思いますけど。
 でも例えば、提督とずっと一緒にいる電ちゃんたちとか――そういう子たちに比べたら、あたしは提督を慕ってはいないでしょうし……だ、だから」
「素直じゃないネ、スズヤ!」
「わっ!?」

 あたしが自分の主張を伝えている途中で、可愛らしい声と身体に、それを遮られることになった。
 抱きつかれるまま、壁に背中を預ける格好になる。ビールのジョッキをテーブルに置いておいて助かった……。
「誰が?」なんて、確認するまでもない。そこにいたのは……。


「スズヤは、Very Cute! ダカラ、提督もずっと近くにいさせたいんデス!」


 あたしに抱きつきながら、お相手――金剛さんは、顔を真っ赤に染めながら、ブンブンと首を振る。
 ……ああ、分かりやすいほどに、酔っ払っているね、これは。 
 とはいえ、そのせいであたしから見れば、余計に「可愛い」と思ってしまう……「可愛いは正義!」とか言われるわけだね、これは。


「い、いえ、その……提督から見て、可愛さなら……そう、例えば、瑞鳳ちゃんとかも本当に可愛いと思いますよ?」


 そう金剛さんに返しながら、あたしは彼女の姿を思い浮かべる。

 軽空母たる瑞鳳ちゃんも例にもれず、一時期、秘書艦を務めていた。
 ただでさえ色々な意味で可愛い彼女は、最近「卵焼き」を作ることにハマっているらしい。
 料理の練習のため、あたしが食堂に訪れる間に、彼女が間宮さんと一緒に厨房に入っている所を見たことがある。
「なにしてるの?」と訊いてみれば、「今度のクリスマスに、提督に卵焼きを作ってあげるの!」と、本当に嬉しそうに応えていたっけ……。
 まぁその時の本当に可愛い笑顔が、あたしの脳内にずっと残っているんだけどさ。


「Yes! たしかに、ズイホウもVery Cute! But……」


 そこで、コホンと一息つくと、金剛さんは、


「スズヤは、その……何か違う、Special、なんだとおもいマス」


 顔を赤らめながら――それがお酒によるものなのか、はたまたそれ以外のものなのか分からないけど――ゆっくりと、あたしに言った。
 どちらにせよ、とても色っぽくて、大人びてながらどこか子どもっぽい、そんな感覚だった。要するに、メチャクチャ可愛いってこと。


「……スペシャル」


 あたしは、そう呟いて考える。
 あたしが提督にとって特別、ってこと?
 それは一体……。


「――金剛。少し、いいか?」
「いいかしら、金剛ちゃん?」


 あたしが頭の中をグルグルとさせていると、助け舟(?)が現れた。
 さっきも聞いた、大人っぽく凛として柔らかな声だ。

 
「Oh、ナガト、ムツ! どうかしまシタ?」
「少し、鈴谷と話したくてな」
「Yes! それじゃヒエイたち! 私と話しマショウ!」
「は、はい、お姉さま!」


 金剛さんはそう言って、あたしからパッと手を放して、移動していった。
 ……立ち去る際にあたしの耳元に口を寄せて「スズヤはやっぱり可愛いネ」なんて言ったことを、あたしは決して忘れないだろう。


「どうかしたか? 顔が真っ赤だが」
「……いえ、何でもないです」


 ここ最近、毎度のように顔を赤らめているあたしとしては、半ば開き直りに近い態度を取らざるを得なかった。
 それに、長門さんも陸奥さんも、からかうような視線を向けてるし……。


「金剛がああ言ったのは、酔いだけのせいではないと思うぞ」


 その言葉に、ハッとした。
 あたしが視線を向けると、長門さんはとても優しげな表情をしていた。


「金剛が提督の秘書艦だった期間は、言うまでもなく最も長い」
「は、はい。それは、よくわかります」


 長門さんが教えてくれるまでもなく、あたしはよく分かっていた。
 金剛さんの言う「Very Long」は、誇張抜きで本当のことなのだろう。


「私は君が、もしかしたら金剛の在任記録を抜いてしまうんじゃないか、なんて思ってしまったりもするんだ」
「……はい?」


 悪戯っぽく言う長門さんに、つい間の抜けた返事をしてしまった。

「もう、陸奥。唐突すぎるわよ?」


 すると、次に現れたのは陸奥さんだった。
 彼女は呆れたように肩をすくめると、


「鈴谷ちゃんが、もしかしたら金剛ちゃん以上に提督が好き、なんて言うつもりだったんでしょ?」
「……!?」
「お、おい、陸奥。お前の方が唐突、って……酔っ払ってるな」


 長門さんが陸奥さんに顔を寄せて呆れたように言うのを目にしながら、あたしは頭を揺さぶられた気分でいた。
 金剛さん以上に、あたしが、提督を……?
 そ、それって、どういう――


「まぁ、電ちゃんたちはちょっと特別なのは間違いないとして……鈴谷ちゃんは提督に対して、かなり素っ気ない風でいながら、楽しそうだものね」


 それなら長門の言いたかったことも納得ね、と続けて、陸奥さんはジョッキを傾けた。
 あたしはというと、グワングワンと視界が揺れたままだ。
 ……どういうこと?



「あたしが、提督を……?」


 いけない、これはまずい。
 顔が赤らむのを止められない……いつも、こういう風になる時より、ずっと熱い。
 って、無理もない、か。


(……だって結構、呑んじゃってたもん、ね――)


 アルコールの効果と、自動的に火照る身体。
 それだったら無理もない――か。



 その後。
 あたしは、どうなったかよくわからない。
 最後に記憶したのは、店内の喧騒を耳にしながら、ガクッと力が抜ける自分の身体だった。


 記憶の断片に、長門さんたちの声が残るものの、それ以降は全く分からない。
 


 ――もう、鈴谷! わたくしのことを忘れて……――


 何だか聞き慣れたように思える声も、眠りこけている間に聞こえたような気もするけど、それどころじゃない。
 悪いけど、また今度――



 あぁ、目がまわる……。

>>108
☓もう、陸奥→❍もう、長門
ミスでした。すみません。

今回は、何となく考えた結果、飲み会ということになりました。
前回、雷にからかわれるわ、今回は戦艦たちにからかわれるわで、鈴谷も大変だと思いました。
……まぁ、困ってくれる方が、書く側としてもネタに困らないわけですけれど。
書いていたら意外と筆が乗ったので、今回は長めになりましたね。

アニメ放映前に、一回は投下したいと思いました。
……長門や金剛は間違いないとして、鈴谷は出るのかな? 
出てくれたら、とても嬉しいということは言うまでもないと思いますが。

それでは。

――まったく、鈴谷はいつもいつも……――


 聞き馴染みのあるようなないような、そんな不思議な感覚が耳を通り抜ける。
 脳に届いたその声音は、どこぞのお嬢様のように着飾ったものだった。
 相手は知っている。ただ、目の前の光景は茫洋としているから、あたしは目を凝らす。
 

 ――わたくしがついてないと、本当にダメなんですから――


 ぼんやりとした空間の中で、ようやく声の主を認識出来た、気がする。
 ポニーテールにしてある髪、優雅そうに振る舞いながらもどこか気の強そうな瞳。
 さらに……


(ああ、そっか)


 まるで、あたしの着ているような服。
 ポンっと手でも打ちたくなったけれど、どうやらこの空間では無理そうだ。
 せめて、声だけでも伝わらないだろうか。きっと目が覚めたら、全て記憶から消えているだろうから。
 

 ――わたくしって、そんなに印象が薄いのかしら?――


 っと、どうやら相手は、こっちの全てを把握できるとみた。
 あたしの夢の中のはずなのに、どうしてだろう……と、少し考えて、何となく分かった。


(あたしの記憶が、あたしに呼びかけてるのか)


 どこかの夢分析の先生じゃないから素人考えもいい所だけど、まぁそれはそれで。
 目の前の「お嬢様」は、あたしに尚も呼びかける。


 ――早く、わたくしを見つけて下さいな――


 キツい声音ではあるけど、本気で怒っているというわけではなさそうだ。
 見つけて、か……なるほど。


 あたしは声を出せないことを知りながら、口を動かすような感覚をイメージする。
 よし、相手に伝わるかどうかは二の次。やってみよう。


 スゥッと息を吸い、


「大丈夫だよ、〇〇――」





――執務室



鈴谷「あたしが絶対、迎えに行くからね」ボソボソ

提督「ん?」キョトン

鈴谷「……」

鈴谷「あ、あれ?」キョトン

提督「……」

提督「むしろ、俺がお前を迎えに行ったんだぞ」タメイキ

鈴谷「」


鈴谷「な、なな、何で提督が!?」アセアセ

提督「後で答えるから」

提督「先に、その冷えピタ換えさせてくれ」ヨッコラセ

鈴谷「え、えぇ……?」

鈴谷(目が覚めたら、文字通り目と鼻の先に提督の顔があった)

鈴谷(背中の感触から察するに、あたしはどうやらソファーに寝かされていたらしい)

鈴谷「……」


提督「ほら、鈴谷。新しい冷えピタだ」

鈴谷「――どうして」ボソッ

提督「?」

鈴谷「どうして、あたしは」

提督「何だ、覚えてないのか?」

鈴谷「……」


鈴谷「――あっ」ハッ

鈴谷「そうだ、あたし酔っ払っちゃって……」

提督「まぁ居酒屋初心者には、よくあることだ」

提督「これに懲りたら、これからは自分の限界まで呑まないように。いいな?」

鈴谷「――で、でも」


鈴谷「あたし、そんなに呑んでなかったし」

提督「そうだとするなら、興奮してはしゃいんだんだろう? はっちゃっけると酔いが回りやすいからな」

鈴谷「ち、違っ――」

鈴谷(ホントは周りの人たちにからかわれて、それに反応してたらこうなって……)

鈴谷(というか、そもそも原因は目の前にいて――ああ、もう!)

鈴谷「あたしは提督が嫌いじゃないっ(金剛さんたちにからかわれたのっ)」

提督「……」

鈴谷「――あ」

鈴谷「あれ?」

鈴谷(今、あたし何て言った?)

鈴谷(金剛さんたちにからかわれた、って言おうとして……)カァァ

提督「……い、いや、それならいいんだけどな」

提督「『好きじゃない』とか言われるよりは、ずっと」

鈴谷「」


鈴谷「い、今のは……そうっ、無しっ! ノーカン!」アセアセ

提督「残念だけど、うちの鎮守府にはバットもグローブもないぞ?」

鈴谷「て、提督のバカッ! 何で今のを聴いちゃったの!」

提督「鈴谷。それは責任転嫁というんだ」

鈴谷「……うぅ」カァァ


鈴谷「も、もう知らないっ!」プイッ

提督「……鈴谷?」

鈴谷「し、しばらく話せない! というか、話したくない!」

提督「――」

提督「そうか、わかった」

鈴谷「……」

提督「それじゃ俺は、少し風に当たるよ」テクテク

鈴谷「……うん」

提督「それじゃ……っと」ピタッ

提督「あぁ、そうだ。間宮さんにお礼、言っとけよ?」

鈴谷「――へ?」

提督「あと、電たちにも。もう寝るように伝えたから、朝にでも」

鈴谷「な、何を?」

提督「……」ガチャッ


提督「お前の汗まみれの服を着替えさせてくれた相手だから、だよ」


バタン・・・


鈴谷「」

鈴谷「……」

鈴谷「え、えぇ……」カァァ





――廊下



提督「……」テクテク

提督「やれやれ」

金剛「テイトク!」ニコニコ

提督「――おう、金剛。ご苦労だった」

金剛「提督もお疲れ様ネー」

提督「いやいや、助かったよ」

提督「そうだな……そこ、座ってもいいか?」

金剛「Of course!」


金剛「紅茶、飲みマスカ?」トポトポ

提督「おう、ありがとう」

金剛「テイトクと一緒に飲む紅茶はSpecialネー」クスッ

提督「俺も金剛の淹れてくれる紅茶は好きだぞ」

金剛「テイトクー!」ダキツキ

提督「お、おいおい……」


提督「比叡たちは?」ナデナデ

金剛「おフロに入ってからSleepしてるネー」ウットリ

提督「そうか、それなら良かった」

提督「金剛も早く寝たほうがいいぞ」

金剛「テイトクこそ、ネ!」

提督「……俺は、アイツを看病しないとだからな」

金剛「……」

提督「金剛は、何か俺に訊きたいことでもあったんじゃないか?」

金剛「――ハイ」コクリ


金剛「テイトクはスズヤのこと、どう思ってマスカ?」

提督「――鈴谷のこと、か」

提督「そうだな……いい秘書艦だよ」

金剛「他のコたちの時も同じこと言ってマス!」

提督「これだけじゃ不満か?」

金剛「Yes!」

提督「……」

提督「面白いヤツだな、じゃダメか?」

金剛「……」

提督「外見からしたら、もっと軽い調子のヤツを想像してたし」

提督「でも、俺の考えに反して」

金剛「スズヤは恥ずかしがり屋さんネー」クスクス

提督「そうだ」

提督「何というか、ギャップが面白いなぁ、と」

金剛「テイトクはギャップ萌えデスカ?」

提督「お前は一体、どこからそういう情報を仕入れてくるんだ……」

提督「まぁ、一緒にいて退屈しないヤツだよ」

金剛「……テイトク」


提督「あ、ところで」

金剛「ハイ?」キョトン

提督「金剛。鈴谷のことを気にかけてやってくれるのはとても有り難いけど」

提督「……あまりからかいすぎたりしたらダメだぞ?」

金剛「Oh no……スズヤに教えられたんデスカ?」

提督「いや、何となくお前辺りが吹き込んだんじゃないか、と」

金剛「――テイトクには隠し事出来ませんネ」ペロッ

提督「そりゃまぁ……ある意味、お前と一緒にいた時間は誰よりも長いからな」

金剛「……」

金剛「テイトクはあっさり、そういうことを言ってしまいマース」カァァ

提督「事実だしなぁ……」


金剛「……テイトク」

提督「どうかしたか?」

金剛「……」キュッ


金剛「スズヤとは、長続きしそうデスカ?」


提督「……」

提督「神のみぞ知る」

金剛「――『God only knows』デスカ」

提督「まぁ、楽しくやるつもりではある」

提督「……あまりセクハラリストを作られない程度にな」

金剛「スズヤはおカタすぎるのが玉に瑕ネー」ニコニコ


提督「それじゃ、そろそろ俺は行くよ」

金剛「Where?」

提督「そろそろ、アイツの所に戻ってやらないとな」

金剛「……残念ネ」

金剛「But、テイトクがスズヤの所へ行ったら、すぐにHealing! 治りマース!」

提督「はは、ありがとな、金剛」

提督「それじゃ、また後で……風邪ひかないように、暖かくして寝ろよ?」

金剛「テイトク、まるでマムみたいなこと言ってマス」クスクス

提督「一応、お前らの親分みたいなもんだからな」

提督「それじゃ、またな。おやすみ」

金剛「ハイ! Good Night!」


金剛「……」

金剛「行ってしまいマシタ」

金剛「ハァ……」タメイキ


金剛「……」

金剛「テイトクは、スズヤのこと――スキ?」

金剛(こう聞けば、良かったノニ……)

金剛(何故か聞けませんデシタ)

金剛「……」


金剛「スズヤがカワイすぎるのがイケないんデス……」ハァ

ここまでになります。

3話まで観ましたが、とんでもないことになりましたね……。
色々と複雑な気持ちですが、ある意味で最後まで見逃せない作品になったように感じます。
鈴谷が出ないことを喜んだほうがいいのかもしれませんね……これまた複雑ですが。

今回は、提督と金剛の絡みを書いてみたいという気持ちがありました。
アニメで提督と金剛の会話を観たいと思っていましたが、恐らくそういうことにはならないでしょうし。
次回は鈴谷と第六駆逐隊メインになるかと思います。

それでは、また。
……しかし本当に今更ですが、鈴谷たちの一人称って自分の名前でしたね。





――執務室前



提督「さて、と……」

提督(一応、ノックしないと、だな――あれ?)

提督(随分、賑やかになってるな……この声は)


提督「……やっぱり」ガチャッ

電「あっ」ハッ

雷「司令官!」ニコニコ

暁「あ、暁は止めようとしたのよ! そ、それなのに、この子たちが……」アセアセ

響「……いの一番に部屋を出たのは姉さんじゃ」

鈴谷「――提督」

提督「鈴谷。少し顔色が良くなったな」

鈴谷「そ、そう、かな……」モジモジ

鈴谷「ありがと」カァァ

提督(耳まで真っ赤になっているのは、熱のせいというわけでもなさそうだな……)


提督「全く、お前たちは……」タメイキ

電「ご、ごめんなさい、なのです……」

雷「ごめんね、司令官。でも、鈴谷は私たちの大切な仲間よ」

暁「そ、そうよ! 司令官の『おやすみ指令』よりも大事なことだってあるのよ」

響「正直、その指令を破ったのは今に始まったことでもないけど……」

提督「やれやれ……」


提督「まあ」

提督「お前たちが来てくれたお陰で、鈴谷も暇しなかっただろうし」

提督「そこには感謝しないといけないな。ありがとう」

電「そ、そんな……大したことなんて」モジモジ

雷「もう、司令官ったら……照れるじゃないっ」

暁「二人とも! そんなに緩みきった表情するのはレディ失格よっ」

響「……今の姉さんがそれを言うんだ」


鈴谷「……」

鈴谷(提督のこーいう所)

鈴谷(凄い、と思うべきなのか、情けない、と思うべきなのか……迷うなぁ)

響「まったく。いつも司令官がそう甘やかしちゃうから」ハァ

鈴谷(お、響ちゃんが抗議してる……?)

響「私もみんなを止められないんだけどな……」

提督「そ、そうか?」

響「そうだよ」ジトッ

提督「……まぁ」

提督「響がしっかりしてくれてるから、俺も安心して暁たちと接することが出来ているんだ」

提督「いつもありがとうな」ナデナデ

響「……」

響「そ、そういう所が、だね……」カァァ

提督「ん、これから善処するよ」ニコッ

響「――直す気、ないくせに」ウツムキ

鈴谷「……」

鈴谷(響ちゃんも陥落……)

鈴谷(これは提督、やりたい放題だ)


提督「さてと」

提督「とは言っても、そろそろ遅い」

提督「遅刻しないようにするには、早目に寝ないといけないぞ」

響「……司令官、かなりの頻度で遅刻するよね?」ジーッ

提督「……すまん。気をつける」ペコリ

雷「あっ! じゃあ、私が起こしてあげる!」

電「ちょ、い、雷ちゃん!?」ビクッ

暁「こら、雷! 早く寝ないと、お肌が崩れちゃうわよ?」

響「姉さんがそれを……いや、何も言わないよ」


提督「というわけで」

提督「ほら、そろそろ寝るんだ。鈴谷も落ち着いてきたみたいだし」

鈴谷「……あ、ありがとね、みんな」

電「鈴谷さん、少し元気になったみたいで何よりなのです」

雷「もう。鈴谷が張り切ってないと、私も調子出ないじゃない」

鈴谷「へ? それ、どういう……?」

雷「ふふっ」

雷「私たちは仲間だし、勝負相手でもあるのよ?」

鈴谷「え、い、雷ちゃん……?」


雷「――『司令官の一番そばにいるのは誰か選手権』!」


鈴谷「」

電「……はわわ」アセアセ

提督「い、雷……そういうのはだな」

雷「へ? 鈴谷、司令官大好きよね?」キョトン

鈴谷「!?」

提督「そ、そろそろ消灯! ほら、さっさと部屋戻る!」

雷「はーい……」ニコニコ

電「ご、ごめんなさいお二人とも! 雷ちゃんには、後で私から」ペコリ

提督「あ、ああ……頼むよ、電」

電「……」ジーッ

鈴谷「ど、どうかした?」

電「――鈴谷さん、やっぱり」ボソッ

電「い、いえ! なんでもないのです!」ブンブン

電「それでは、失礼するなのです!」ペコリ

鈴谷「……」カァァァ

提督「す、鈴谷? 大丈夫か? 顔、真っ赤だぞ」

鈴谷「――はぁ」

鈴谷「提督と一緒にいると、暇しないよ……」タメイキ

提督(なんだか怖いな……)


響「……やれやれ」ハァ

響「雷は、いつも突拍子もないんだから……」

暁「司令官の、一番、そば」

響「……」

響「ほら、あまり気にしないで、部屋に――」

暁「響だって、かなり司令官の近くに」ジッ

響「……もう」

響「お姉さんなんだから、早く帰ろう?」カァァ

暁「? 響、お熱?」キョトン

響「――!」アセアセ

響「そ、それじゃ、二人とも。また、朝に……」

暁「あ、もう、響ったら」



ガチャッ・・・



提督「……」

鈴谷「……」

提督「そ、それじゃ、鈴谷」

提督「鈴谷も部屋に戻ったほうが……いいんじゃないか?」

鈴谷「そ、そう、だね」

鈴谷「色々とありがとね」

提督「お、おう」

二人(……ぎこちない!)

鈴谷「そ、それじゃ」

鈴谷「あたし、そろそろ部屋に戻るから――」

鈴谷「!?」ガクッ

提督「す、鈴谷!?」ガシッ


鈴谷「……て、提督?」

提督「大丈夫か? 明らかに危うい足取りだったぞ?」

鈴谷「――あ」

鈴谷(ヤバ、提督に抱きかかえられちゃってるよ……)

鈴谷(うっわー、恥ずいなぁ……)

鈴谷(さっきの雷ちゃんの爆弾発言? のせいで余計に――)カァァ


提督「よいしょっと」

鈴谷(提督は、あたしをソファに横たえてくれた)

提督「……ふぅ」

提督「どうやら、アルコールが足に来たか」

鈴谷「……え?」キョトン

提督「いや、呂律も回ってるのに、いきなり身体が痺れたようになるんだよ」

提督「いつだったか、長門や金剛がそうなったことがある」

鈴谷「……聞いたことないなぁ」

提督「まあ、一日寝れば治るよ」

提督「さて――」

鈴谷(そう言うと、提督は執務室内を歩き始めた)

鈴谷(畳を開けると……)


鈴谷「ふ、布団……?」

鈴谷(しかも、二つ?)

提督「今日は、ここで寝るといい」

鈴谷「えっ」

鈴谷「い、いや、提督は戻りなよ」アセアセ

鈴谷「あ、あたしは一人で大丈夫だから!」

提督「秘書艦に、何かがあってからじゃ遅い」

提督「まして、明らかに身体に異状がある場合は尚更だ」

鈴谷「え、えっと……」

鈴谷「で、でもさ。やっぱり、男女で一緒っていうのは……ちょっと」

鈴谷「明石さんや大淀さんも、いい顔しないんじゃあ……」

提督「……」フム

提督「鈴谷が、どうしても嫌だ、というのなら」

提督「……そうだな、金剛を呼んでこようか」

鈴谷「え? でも、金剛さん、寝ちゃってるでしょ?」

提督「さっき、廊下で会ってな。おそらく、寝たとしても本格的に寝入ってはいないだろう」

提督「比叡たちには申し訳ないが……金剛なら、鈴谷のことと聞いたら飛んでくると思うしな」

鈴谷「……」

提督「どうする?」

鈴谷「――あ」


鈴谷「あたし、は……」




――結局




提督「それじゃ鈴谷、おやすみ」

鈴谷「うん……」

提督「――本当に、金剛じゃなくていいんだな?」

鈴谷「だ、だって」

鈴谷「今更起こすのは、金剛さんにも迷惑だろうし……」

提督「鈴谷は、妙な所で真面目だな」

鈴谷「みょ、妙ってなにさ」

提督「面白い、ってことだ」

鈴谷「何か複雑だなぁ……」

提督「それじゃ、おやすみ」

鈴谷「――あ」

鈴谷「うん、おやすみ」



鈴谷「……」

提督「……」

鈴谷「ねえ、提督?」

提督「ん? どうかしたか?」

鈴谷「――ぶっちゃけさ」


鈴谷「提督は電ちゃんたちの中で、どの子が一番好きなの?」


提督「……」

提督「電は、一生懸命だ」

提督「末っ子ながら、本気で業務に当たってくれている」

鈴谷「……」

提督「雷は、今日のアレみたいに突拍子もない所もあるが」

提督「こっちが少しでも落ち込んでいようものなら、一気に飛んできてくれるな」

鈴谷「……提督」

提督「響は、姉妹みんなをまとめてくれている。頼りがいのあるヤツだ」

提督「情報を整理する能力にかけては相当なものだ。おかげで、書類の紛失が起きたことがほとんどない」

提督「暁は、長女らしく振る舞おうとしてるためか、色々と危なっかしいが」

提督「抜けているようでいて気が利くし、あれでも一応、妹たちからは本当に頼られているんだぞ?」


提督「――まあ」

提督「『好き』ってことを語ろうとしたら、こういうセリフがつらつらと出てくるくらいには」

提督「……みんな、好きだよ」

鈴谷「……」

鈴谷「そっか」


鈴谷「ありがとね、提督」

鈴谷「提督がロリコンだってことは、よくわかったよ」

提督「……何も伝わらなかったのか」

鈴谷「冗談冗談」クスッ

鈴谷「――むしろ、意外とよく見てるんだなぁ、って」

鈴谷「ちょっと感心しちゃった」

提督「……いずれは」

鈴谷「?」


提督「いずれは鈴谷のことについても、これくらい話せるようになりたいと思っている」


鈴谷「」

提督「今まで秘書艦を務めてくれたヤツらについても、それなりに話せるつもりだからな」

提督「金剛とか長門とか……おい、鈴谷?」

鈴谷「……い、いきなりそーいうこと言うのやめてよ」カァァ

提督「そうか? 偽りない本心なんだが……」

鈴谷「もう、提督!」

鈴谷「……それじゃあ、提督は」

鈴谷「金剛さんとか長門さんは、どう思ってるの?」

提督「あの二人か……それはまず、頼りになるなぁ、と」

鈴谷「まあ、そうだよね」

鈴谷「――そ、それじゃさ」


鈴谷「その二人は……さっきの子たちとは別の意味で、好き?」


提督「……」

鈴谷「あ、ああ、これは、つまりその……そういう意味合いで」アセアセ

提督「鈴谷」

鈴谷「な、なにかな?」

提督「逆に聞きたいんだが」


提督「鈴谷は、どう思っているんだ?」



鈴谷(――まさかの逆質問)

鈴谷(しかも、唐突な不意打ち……)

鈴谷(って、うわっ!? 提督、なにこっちに視線向けてるの! さっきまで上向いてたのにっ)

鈴谷(……しょうがないか)タメイキ


鈴谷「あたしは……」

提督「……」

鈴谷「こ、ここに来てからしばらくは……」

鈴谷「デリカシーのないことばかりしてるなぁ、なんて思ってたけど……」

鈴谷「――この前、榛名さんが改ニになれなかった時とか」

鈴谷「今日、あの子たちに向けていた態度とか」

鈴谷「……なんだか、いいね、って思っちゃった」

提督「鈴谷……」


鈴谷「そ、それに」

鈴谷「今日、わざわざあたしを助けにきてくれて……それで」

鈴谷「こうして、時間を割いてくれて……」

提督「秘書艦に対する当然の態度だ」

鈴谷「――後さ」

鈴谷「なんだか今は、普段あたしが感じる、提督のHなオーラがないみたいだし」

提督「……わかるのか?」

鈴谷「女子だし」

鈴谷(現役JKだし)


鈴谷「だって、さ」

鈴谷「こーして女の子と二人きりで寝るなんて、ある意味で最高のタイミングだよ?」

鈴谷「……お、億が一、あたしが……さ、誘ったりしたらどうするの?」アセアセ

提督「どうもしないよ」

鈴谷「……」

提督「今日みたいな時は、なおさら」

提督「『やっぱり酔っているんだな。早く寝なさい』と言って、終わりだ」

鈴谷「――ズルいよ」

鈴谷(こういう時の提督の眼は、ホント卑怯だ……!)カァァ

鈴谷「あー、なんだかね」

鈴谷「だから……あ、あたしは」


鈴谷(――あ)

鈴谷(もしかして、あたし……)

鈴谷(金剛さんの言ってた通りになっちゃってる――?)



――スズヤもいつか……――



鈴谷(……そっか)

鈴谷(金剛さん、あたしもしかしたら――)



鈴谷「――提督は、す……好き、だよ」

鈴谷(こう、言いたかったのかもしれないです……)


提督「……」



鈴谷(……ああ)

鈴谷(なんだか、スッキリした)

鈴谷(ずっとモヤモヤしてたけど、口に出してみたらストンと腑に落ちた感じ)

鈴谷(――これで良かったんだよね?)


提督「……」

提督「あー、鈴谷?」

鈴谷「な、なに?」

提督「俺もたしかに、鈴谷は『好き』だが」

提督「こ、こういう雰囲気で言われると、何やら別の意味合いだと思われるぞ?」カァァ

鈴谷「……」


鈴谷「――いやらしい」ジトッ

提督「鈴谷が悪い」

鈴谷「まったく、提督は何かとHだね」

提督「強いて言うなら、鈴谷の意味深な態度が悪い」

鈴谷「……」


鈴谷「ね、提督?」

提督「ん?」

鈴谷「――この布団、さ」


鈴谷「ちょいとばかり、そっちに近づけても、いいかな……?」モジモジ

 ――なんというか、まあ。


 我ながら、おかしな行動に出たものだと思う。
 色々ときっかけはあったけど、やっぱり雷ちゃんの爆弾発言が大きかった。
 なんだかよく分からない「対抗心」らしきものが湧いてきて……うわぁ、大人げない。


 なんだろう。
 あたしの目の前で、提督は瞳を閉じている。
 こうして寝顔を見ていると、なんだかいつもより、一回り年が低いような印象を受ける。
 さっき、まるでお父さんのように、あの子たちをいなしていた時とのギャップが凄い。
 なぜだか、顔が綻んでしまった。なんだろうね? この、よくわからない感覚は……。


(……金剛さん)


 相変わらず今日も振り回されたけど、あの人のお陰でようやく気持ちもはっきりしたように思う。
 いや勿論、あの人が提督に対して持っている「想い」には敵わないだろうけどさ。


 好き、って言葉は本当に奥が深い。
 深すぎて、あたしなんて底にまで沈んでしまいそうだ……。



「おやすみ、提督……」


 さっきより近づいた距離で提督の寝息を耳にしながら、あたしも静かに目を閉じた――

ここまでになります。

色々ありましたが、ついに鈴谷が自覚したということになります。
とはいえ、金剛の持っている「好き」とは、また違った意味合いになりそうですが。
もう少し丁寧にその過程を考えたかったのですが、なかなか形にならず……。

それでは。
第六駆逐隊が出てきたのに、まだ最新話を観られていないので、早く観ないとですね。

もう少しでひと月でした。
まだ構想がまとまっていないので……すみません。

すみません、また一ヶ月が。
最近、実生活が忙しくて、なかなか手が打てない状態です。
もう少し経てば落ち着くと思います……ごめんなさい。

――執務室


鈴谷「……ん」パチッ

鈴谷(あ、目が覚めた)

鈴谷(あれ? いつもと天井が――)

鈴谷「ああ、そっか」

鈴谷(昨日は、執務室で寝たんだっけ)

鈴谷(何だか変な感じ――)ゴロッ


提督「……ん」

鈴谷「」

鈴谷「な、ななな……」アセアセ

提督「――」

鈴谷(す、すぐ近くに提督の顔がっ!?)

鈴谷(いやいや、ただちょっと寝返り打ったら、どうしてこんな近くに……!?)

鈴谷(――いや、そうだ。これも全部)

鈴谷「あたしの蒔いた種だよね……」ハァ

鈴谷(我ながら、何てことしてくれたのさ、さっきのあたし……)カァァ


鈴谷「――うわぁ」モジモジ

鈴谷(どうしようどうしようどうしよう……)アセアセ

鈴谷(目と鼻の先だよ? こんな近くに、提督の顔だよ?)

鈴谷(しかも……本格的に眠る前に)

鈴谷(「提督の目は、まるで海みたいだ」とかよくわからないポエムめいたことまで考えた後だよ?)

鈴谷(だから――)


提督「……鈴谷」ボソッ

鈴谷(あ、あたしの名前……寝言!?)


鈴谷(――あれだよね? ぜんっぜん身体が動かないのは、しょうがないよね……?)

鈴谷(っていうか、顔も身体も熱い! 昨日、酒飲んで寝転んじゃった後よりも、ある意味熱い!)カァァ

鈴谷(ああ、もう……こんなに提督が近いのに、押しのけることも離れることも出来ないって――)


提督「……ん」パチッ

鈴谷(あ、目が開いた)


提督「――あれ?」キョトン

提督「……す、鈴谷?」

鈴谷「お、おはよ、提督……」

提督「ど、どうして?」アセアセ

鈴谷「い、いや……提督が忘れちゃダメでしょ?」

提督「――ああ、そうだったな」コホン

提督「気分はどうだ?」

鈴谷(――ほら)

鈴谷(ちょっと焦った様子の後ですぐに落ち着いて、相手のことを気遣い始める)

鈴谷(でもって、顔はちょっぴり赤い……間近で見てるこっちが照れちゃうような、そんなアンバランスさ)カァァ

鈴谷「ん。もう、平気だよ」

提督「そうか。それは良かった」

鈴谷「……ねぇ、提督?」

提督「なんだ?」

鈴谷「――顔、近くない?」アセアセ

提督「――そう、だな」

鈴谷「ね? 離れてもいいんだよ?」

提督「鈴谷こそ」

二人「……」


鈴谷(やばい……)

鈴谷(何だかよくわからないけど――このままだとヤバいと、あたしの直感がそう告げてるっ)

鈴谷(そ、それなのに……)

提督「……参ったな」

提督「身体がどうも――うまく動かない」カァァ

鈴谷(ああ、もう! 提督がそんな表情すると、余計に身体が強張るのっ!)

鈴谷(……し、仕方ない。硬直した身体を引きずってでも、『避難』を――)



雷「おはよー、司令官っ!」ガチャッ

電「おはようなのですっ」

響「……ドーブロエ ウートロ(おはよう)」

暁「あら? 司令官、どうしてお布団、を――」


提督「……」

鈴谷「……」

雷「……へ?」

電「……はわわ」

響「……おや?」

暁「……わわっ」


提督「――お、おはよう、みんな」アセアセ

鈴谷「あ、お、おはよう……」アセアセ

雷「――し」

電「司令官、さんが」

響「す、鈴谷さんと……」

暁「い、一緒に――おやすみ中?」

提督「こ、これはだな……ええと」

鈴谷「ぐ、偶然というか、なんというか――」

雷「……ず」


雷「ずるいわっ、二人ともっ!」ダキツキッ

提督「わっ!? い、雷?」ビクッ

鈴谷(雷ちゃんが、起き抜けの提督に思い切り抱きついた……!)

雷「もう……」

雷「司令官、鈴谷と一緒にお泊りなんて――羨ましすぎっ」スリスリ

鈴谷(おお、思いっきり身体を擦り寄せてる……)

提督「い、雷、すまん。これには事情が――」

雷「みんなー? 司令官、『事情』があるみたいよ?」

電「そ、そうなのですか、司令官さん?」ダキッ

響「……聞かせてもらいたいね、是非とも」ダキッ

暁「も、もう、あなたたちっ! レディらしい振る舞いをしないとダメじゃない!」ダキッ

鈴谷(雷ちゃんが呼びかけると、全員が一斉に提督めがけてやってきた)

鈴谷(ちなみに雷ちゃんは言うまでもなく、電ちゃんも響ちゃんも暁ちゃんも)

鈴谷(みんながみんな提督に抱きついてる有り様だった……)

鈴谷(――さすがに動転していると、行動まで普段とはちょっと変わるらしい)


鈴谷「何というか……」

鈴谷「みんな、提督大好きなんだね……」シミジミ

響「鈴谷さん、違うよ。私は別に、雷みたいに司令官を思ってるわけじゃないから」

暁「そ、そうっ! た、ただ……雷がちょっとやり過ぎちゃってるだけで」

電「し、司令官さんと、そういうことは――考えるだけで照れるのです」

鈴谷(呟いてしまった私に、三者三様の反発の言葉が投げつけられた)

鈴谷(……ふむ)


鈴谷「……ねぇ、雷ちゃん?」

雷「それじゃ司令官、今夜は私と――ん? なぁに、鈴谷?」キョトン

鈴谷「……えっと。雷ちゃん、妹ちゃんやお姉ちゃんに対して思ったりすることってある?」

雷「へ? ……うーん、そうね」

雷「――みんな、私より素直じゃないなぁって思うことはあるわよ!」ニコッ

暁「こ、こら、雷! お姉ちゃんたちに向かって――」アセアセ

響「……まったく。雷は、礼儀と遠慮を知らないんだから」タメイキ

電「い、雷ちゃん! そういうことを言っては――」アセアセ

鈴谷「うんうん、わかったわかった」

鈴谷(そこで私は、とびきりの笑顔を作る)

鈴谷(というか、この子たちは本当に――私のオアシスだなぁ)

鈴谷(自然と顔がニヤけてたまらないよ……)


鈴谷「……みんな、顔真っ赤だねぇ」

三人「――!」カァァ

鈴谷(私が言うと、ようやく自覚したのか、余計にその色を濃くさせる三人組)

鈴谷(暁ちゃんは「そ、そんなこと……!」と顔を背けながら頬を真っ赤にしている)

鈴谷(響ちゃんは「……鈴谷さん」と何か言いたそうにしながら俯いてしまう)

鈴谷(で。電ちゃんは「そ、そんなこと……ないのです」と尻切れトンボになりそうな、か弱い声を出すのだった)

鈴谷(ちなみに申し訳程度に補足しておくと、その間も提督から身体を離すことはなかった――おお、提督の顔がさすがにキツそうに)

鈴谷「――いやあ、雷ちゃん。みんな可愛いねぇ」ニコニコ

雷「ふふっ、鈴谷もイジワルね?」ニコニコ

鈴谷「いやぁ……雷ちゃんの素直さには負けちゃうよ」

雷「ありがとっ」

鈴谷「いえいえ」


提督「……」

提督「俺は――いつまで抱きつかれていればいいんだろう?」チラッ

鈴谷「いいじゃんいいじゃん。羨ましいよ、提督」

提督「――鈴谷も来るか?」

鈴谷「……えっ?」ビクッ

提督「もう一人分くらいなら、覚悟すれば――」

鈴谷「あ、あたしは別に……」アセアセ

雷「鈴谷もいいわよ!」

暁「そ、そうよ、鈴谷さんも……」

響「……この恥ずかしさを、少しでも分かってくれたら」

電「ひ、響ちゃん――心の声が漏れてるのです」

鈴谷「――うう」


鈴谷「……そ、それじゃ、これで」ピトッ

鈴谷(空いていた提督の肩に、チョコンと身体を触れさせる)

提督「……いいのか?」

鈴谷「さ、さすがに、あたしじゃ重いと思うし……ほら、航巡、もとい重巡だし」アセアセ

提督「――鈴谷が重いと感じたことは、一度もないが」

鈴谷「……なっ」

提督「ほら、昨日の帰りといい――」

鈴谷「て、提督! 口チャック! ね!?」アセアセ

提督「……分かった分かった」クスッ


雷「ふふっ、鈴谷可愛いっ!」

暁「……こ、これがレディの顔」

響「鈴谷さん、顔赤いね……」

電「これで私たちと同じなのですっ!」


鈴谷「……はぁ」

鈴谷(からかわれてるはずなのに――この子たち相手だと怒る気とか全くなれないなぁ)

鈴谷(それは、きっと……)


提督「まったく、お前たちは……」


鈴谷(疲れながら優しい表情のままの、この人もそうなんだろうなぁ――)

ここまでです。
随分と久々になってしまいました。
アニメも終わって、ひと月ほど経っていましたね(再放送中ではありますが)。

漠然と考えていた案は色々ありましたが、このSSにシリアスは似合わないと確信し、コミカルな状況が続くと思います。
鈴谷の相方も出る予定です。どういう扱いになるのかは思案中ですが。

それでは。
遅くなって、すみません……。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年08月13日 (木) 12:02:24   ID: eAIRML5n

口から砂糖が出るぜwwww

まあ、このぐらい甘い方が愛着のある娘たちの話は読みやすい。

今夏イベで念願の鈴谷が来てくれたから、その記念に読ませていただきました。

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