える「わ、私。気になり…ません」(177)
える「……さん」
奉太郎「ぅん……」
える「折木さん! 折木さん!」
奉太郎「ん、ん……」
える「折木さん! 大丈夫ですか!」
奉太郎「ち、千反田か?」
える「良かったぁ。目が覚めました」
奉太郎「あ、頭が痛い」
里志(ガチムチ)「そうだろうね」
奉太郎「里志、か?」
里志「僕は……もっと慎重に行動すべきだったよ」
里志「この時期、結露で床が滑りやすくなっているだなんて」
里志「もう少し、考えていれば分かったことなのに」
里志「あぁ、僕って奴は。何て馬鹿なんだ」
里志「これも筋肉にこだわり過ぎたせいだ」
里志「本当に申し訳ない」ペコリ
奉太郎「さ、さとし? お前、なんかおかしくないか?」
摩耶花「奉太郎君大丈夫? おでこ痛くない?」
奉太郎「い、伊原!?」
摩耶花「心配したよ~」
摩耶花「ふくちゃんが『ホータローが大変だ』って部室に駆け込んできたときは、ホントに何事かと思ったよ?」
里志「摩耶花、流石の僕も親友が倒れて、しかも額から血を流してたら」
里志「『石橋は叩いて渡る』が信条でも冷静ではいられないさ」
摩耶花「そうだよね」
摩耶花「でも、本当に奉太郎君が無事でよかったよ」
奉太郎「ちょっとまってくれ、いったい何がどうなってるんだ」
奉太郎「そもそもここはどこだ?」
摩耶花「ここは病院だよ」
里志「入須先輩がお父さんに連絡してくれたみたいで、直ぐに救急車も来たしね」
摩耶花「普段はあんなんだけど、いざって時は頼りになるよね、入須先輩」
奉太郎「…………俺は頭を打って病院に運ばれたのか?」
里志「正確には加えて額からの出血だね」
摩耶花「ほら、踊り場の姿見あるでしょ」
摩耶花「あれに頭からダイブしたんだよ」
摩耶花「踊り場、血まみれだったよ」
摩耶花「私、ホントにビックリしちゃった」
里志「額の傷はそこまで大きくないらしいから、大丈夫だよ」
奉太郎「そうか、いろいろすまなかったな皆」
里志「どうってことないさ」
摩耶花「奉太郎君は私たちの大事なお友達なんだし」
里志「しかし、奉太郎はもっと筋肉をつけないと」
奉太郎「あ、あぁ。考えとくよ」
奉太郎「ところで……何故千反田は部屋の隅で縮こまってるんだ?」
里志「へ? 何故って」
摩耶花「いつもの事じゃない。ちーちゃんがああなるのは」
奉太郎「いつもの事って、おい千反田」
える「ひっ」ビク!
える「な、なんでしょう。お、折木さん」
奉太郎「お前、大丈夫か? 大分様子がおかしいんだが」
摩耶花「ほら、さっきは動転しちゃってあんな感じだったけど」
里志「その分。ちょっといつもより症状が酷いね」
奉太郎「症状だって?」
里志「だって、千反田さん」
里志、摩耶花「「極度の人見知りでしょ?」」
奉太郎「はぁ?」
ここまでしか考えてない
続きは明日のテスト終わってから考える
えるたそ~
何かid変わったけど続き書くよ!
その後、古典部の面々は医者がやってくると邪魔してはいけないと思ったのか早々に退散して行った。
俺は頭のctだか何だかの検査を行いながら、少し話しをした。
医者「いい友達だね」
医者「君の診察が終わるまで皆、この世の終わりのような顔をしていたよ」
医者「千反田のお嬢さんなんかは、大泣きしていてね」
医者「君が無事だと分かると皆、本当に喜んでいたよ」
奉太郎「そう、ですか」
医者「いやいや、本当にいい友達だね」
奉太郎「……はい」
奉太郎(しかし、何かがおかしい)
奉太郎(この、なんともいえないもどかしさは何なんだ)
その後検査を終えた俺は『今日はとまって行くかい』と言う医者のご好意を、丁重にお断りした。
俺には早々に確かめねばならない事がある。
担任の先生が車で家まで送ってくれると言うのでこちらの好意には甘えておいた。
消費エネルギーは少ないほうがいい。
それに、この後否が応でもエネルギーを使うことになるのだろうから。
奉太郎「ただいま」
奉太郎「姉貴ぃーいるかぁー」
<奉太郎お帰り~。遅かったわね~
奉太郎「あぁ。病院に行ってたからな」
<病院? なんで?
奉太郎「頭打って気絶したんだと」
奉太郎「て言うか姉貴、何処にいるんだ」
<あたしの部屋に決まってるじゃない
奉太郎「そうか、じゃあちょっと入るぞ」
<いいわよ~
奉太郎「開けるぞ」
扉を開くと、まず目に飛び込んできたのは大量のディスプレイだ。
そのどれもが絶え間なく画面が移り変わっていく。
しかし、そんなことより問題なのは
奉太郎「あ、姉貴がジャージを着ている、だと」
あの俺と違いお洒落には、格好には人一倍気を使う姉貴がダルンダルンのジャージ、しかも神山高校の、つまり自分の母校のジャージを着ているだなんて。
共恵「どうしたの奉太郎?」
奉太郎「…………姉貴、いくつか質問したいことがある」
共恵「何よ? 言ってみなさい」
奉太郎「今日学校から電話があったはずだが、その時間は何してた」
共恵「寝てたわよ? 当たり前じゃない」
奉太郎「海外に行ったことは?」
共恵「そもそもパスポート持ってないし」
共恵「それに知ってるでしょ? 私、インドアなの」
共恵「なるったけ家から出たくないのよねー」
共恵「そんなのあんたが一番良く知ってるでしょ?」
奉太郎「…………最後の質問だ」
奉太郎「姉貴は『折木共恵』その人で間違えないんだよな? 俺の姉貴の」
共恵「……あんた、頭大丈夫?」
共恵「病院、戻ったほうがいいんじゃ」
奉太郎「いや、大丈夫だ」
奉太郎「へんなこと聞いて悪かったな」
奉太郎「部屋で少し休んでるよ」
足早に部屋に戻り制服を脱ぎ、そのままベットに背中から倒れ込む。
少し頭に鈍痛がはしったが、気にすべきことはもっと他にある。
奉太郎「どう言う事なんだ、いったい」
奉太郎(いや、大体予想はついているんだ)
奉太郎(しかし、決め付けるにはまだ情報が足りない)
奉太郎「明日、あの人たちに会ってからでも遅くはないだろう」
奉太郎(先延ばしは好きじゃないが、仕方が無い)
奉太郎「しかし、厄介なことになったものだ」ハァ
奉太郎「はぁぁ。眠い」テクテク
える「…………ぁ」カラカラ
奉太郎「中休みに会いに行こうかと思ったが、面倒だな」テクテク
える「…………ぅ」カラカラ
奉太郎「放課後、でもそれだと帰ってしまっている可能性があるんだよなぁ」テクテク
える「…………ぁ」カラカラ
奉太郎「やはり、昼休みがベストか」ピタ
える「きゃう!」バシン!
奉太郎「うぉお。何だ、千反田か」
奉太郎「すまん、大丈夫か?」ヨイコラセット
える「い、いえ。き、気にしないでください」アリガトウゴザイマス
奉太郎「しかし、後ろにいたなら声くらいかけてくれよ」
える「す、すみません…………」
える「でも、なにか考え事をなさっていたようなので」
える「邪魔したら、いけないかなと…………」
奉太郎「すまんが、もう少し声を張ってくれないと聞こえないぞ」
える「す、すいません。ホントにもう。うぅ……」
奉太郎「あ、謝るようなことじゃないだろ」
奉太郎「それにしても…………」
える「な、なんです……か?」
奉太郎「…………」ジィー
える「わ、私の顔に何かついてますか」
奉太郎「…………」ジィー
える「もしかして寝癖とか……」
奉太郎「いや、そう言うんじゃないんだ」
奉太郎「悪かったな、自転車大丈夫か?」
える「あ、はい。どこも壊れた様子はありませんし」
奉太郎「良かった、本当にすまんな」
える「い、いえ。私のほうこそ」
える「私、こんな性格ですから……」
える「いつも折木さんに助けていただいて」
える「本当に、いつもありがとうございます」ニコッ
奉太郎「うっ」ドキン!
える「ど、どうかしました、か?」
奉太郎「な、なんでもない! なんでもないんだ…………ほんと」
える「…………」キョトン?
奉太郎(なんだ、なんなんだこの気持ちは)
奉太郎(母性か? この気持ちが母性なのか!?)
奉太郎「あぁ、千反田」
奉太郎「入須先輩は知ってるよな?」
える「あ、はい。知ってます」
奉太郎「何組だ?」
える「何組って」
える「折木さんもご存知ですよね?」
奉太郎「……記憶に自信がなくてな」
奉太郎「一応、昨日のお礼を言いに行こうと思ってな」
える「そ、そうですか。そうですよね」
える「入須先輩のクラスは二年f組みですよ」
折木「そうだったな」
える「よ、よろしければ、一緒に行きましょうか?」
える「お、折木さんが良ければですけど…………」
奉太郎「いや、一人で大丈夫だ」
える「そ、そうですよね」
奉太郎「すまんな、心配かけて」
える「い、いえいえ。き、きにしないでください」
奉太郎「じゃあ、俺はこっちだから。またな」
える「は、はい。…………また」
今日はここまでしか書けんかった
これからアニメ氷菓見ながら、続き考えるんで
続きはまた、明日で
自慢じゃ無いけど
原作は初版で持ってる(ツ)
えるたそ~
奉太郎「二年f組み、f組み…………」
奉太郎「ここか」
奉太郎「しかし、ここからどうしたものかっと」チラッ
奉太郎「あの人たちは、確か…………」
??「折木君じゃん!」
??2「久しぶり、どうしたの?」
奉太郎「えっと、確か」
??「あれ~。忘れちゃったの?」
??2「真由ショックだよ~?」
奉太郎「す、すいません」
??「もう、仕方ないな。」
??2「でも~、可愛いから許しちゃうよ!」
江波「倉子、私の名前は江波倉子だよ!」
本郷「本郷、本郷真由だよ! 私は!」
奉太郎「そ、そうでしたね」
奉太郎(ここはもう、違和感ってレベルの問題じゃないぞ)
江波「で? 何のよ~よ?」
本郷「もしかして~。私たちに会いに来てくれたとか!」
江波「それだ! 真由冴えてるよ~」
奉太郎「えっと、入須先輩に少し用事がありまして」
本郷、江波「…………」シーン
江波「冬実ちゃんに?」
本郷「用事、だと?」
奉太郎「え? えぇ」
江波「聞いた真由?」
江波「折木君。うちのクラスの『天使』こと冬実ちゃんに用事だって?」
本郷「聞いたよ倉子」
本郷「ねぇ、折木君それは私たち『冬実ちゃんを守り隊』こと二年f組みに喧嘩売ってるってことでいいのかな~?」
江波「いいのかな?」
二年f組み面々「「「「「いいのかな!?」」」」」ワラワラ
奉太郎「え、え、え!?」
本郷「冬実ちゃん守り隊、第一条」
江波とf組みの仲間たち「「「「「冬実ちゃんに、むやみやたらに頼みごとをしてはいけない」」」」」
本郷「冬実ちゃん。人に何か頼まれると断れないし」
本郷「不器用なのにめちゃくちゃ頑張ちゃっうんだから駄目なんだよ~!」
江波「それを犯すというのなら」
f組みの愉快な仲間たち「「「「「我々が相手になろう」」」」」
奉太郎「違います! 違います!」
奉太郎「用事といっても、頼みごとじゃないです」
奉太郎「昨日倒れたときお世話になったらしいので、その御礼に来たんです!」
本郷「なんだ~。それなら早く言ってよ~」
江波「かいさーん、かいさーんだよ~!」シッシ
f男子「やっぱ、冬実ちゃんは天使だ」
f女子「だよね、あぁホント天使」
本郷「ごめんね~。ちょっと殺気だちゃって」
江波「悪気は無かったんだよ~」
奉太郎「い、いえ。気にしないでください」
本郷「じゃぁ冬実ちゃん呼んでくるから」
江波「しばしお待ちを~」
奉太郎「はぁ…………疲れる」
続きはまた明日考えるー
何気に氷菓の中でユーミンかなり好き
えるたそ~
沢木口先輩出てくるよー
結構がっつり
じゃあ今日もちょこちょこ書き込みまーす
入須「こ、こんにちは折木君」
奉太郎「こんにちは入須先輩」
入須「?」キョットン
奉太郎「? どうかしましたか?」
入須「きょ、今日は何時もみたいに『ゆーみん』って呼ばないんだね」
奉太郎「…………な、なんだと」
入須「ふふふ」
奉太郎「…………嘘ですか」
入須「せーかーい。流石折木君」
入須「ちーちゃんが折木君の様子がおかしいって言うから」
入須「私も、心配だったしね」
奉太郎「ちょっと色々あって参ってるだけなんで大丈夫ですよ」
入須「ほんとに? 何かあるんだったら力になるよ?」
奉太郎「はぁ。……貴方も大分キャラが違いますね」
入須「ん? 何のこと?」
奉太郎「いえいえ、こっちの話です」
奉太郎「貴方の力を借りると後が怖い」
入須「そんな事言わないでよ」
入須「折木君にはお世話になってるんだから」
奉太郎「それはこっちのほうですよ」
奉太郎「昨日は大変お世話になりました」
入須「き、気にしないで。当たり前のことをしただけだから」
奉太郎「いえいえ、本当に助かりました」
奉太郎「それじゃあ、もう一箇所行かなきゃいけないところがあるんで」
奉太郎「これで、昨日は本当にありがとうございました」
入須「行く所?」
奉太郎「えぇ。まぁ江波先輩と本郷先輩のお二人を見たら」
奉太郎「仮説は証明されたようなものなんですけど」
奉太郎「念のためです」
入須「また何かに首を突っ込んでるんだね、君は」
入須「まぁ。何度でも言うけど、私でよかったらいつでも力になるよ」
奉太郎「…………どうも」
入須「じゃあ、バイバイ折木君」
奉太郎「三年e組はここか」
奉太郎「すいません、ちょっといいですか?」
e先輩「ん、どうしたの君?」
奉太郎「遠垣内先輩に用があってきたんですけど、いらっしゃいませんか?」
e先輩「遠垣内? 遠垣内は────」
e先輩「────ごめん、今いないみたいだ」
奉太郎「そうですか、わざわざすいません」
奉太郎「教室にいないとなると、後は」
奉太郎「ここだろうな」
奉太郎「すいませーん。入りますよ~」
<ちょ、ちょっと待て ニャーン
奉太郎「遠垣内先輩ですよね」
<そ、その声は折木か ニャ~ン
奉太郎「もういいですか?」
<も、もう少し待────っちょ大人しくしろ ニャ、ニャ~
ドタバタ
遠垣内「んで、何のようなんだ? お前さんよぉ?」
遠垣内「俺がこの高校一のワルだって毎回言ってるよなぁ?」
遠垣内「いい加減にしないと、おめータダじゃおかねぇ────」
奉太郎「雨の日、同級生に傘貸したりしませんでした?」
遠垣内「な、何言って」カァ
奉太郎「横断歩道、渡ろうとしてるお婆さんの荷物持ってあげたり」
遠垣内「ん、んなわけないだろ」カァ
奉太郎「川原で猫拾ったり」
遠垣内「あ、ありえね~。俺、超ワルだし。そんなことありわけ <ニャ~ン」
奉太郎「…………」
遠垣内「…………」
奉太郎「……失礼しました」
遠垣内「お、おい! ちょっと待てよなぁ!」ガシ! <ニャ~、ニャ~
奉太郎「もう用事はすんだんで、結構です」
遠垣内「頭、大丈夫だったのか?」
奉太郎「ご存知なんですね」
遠垣内「相当の騒ぎだったからな」
遠垣内「まぁ、俺が帰る頃にゃーもう床も綺麗に掃除されてだーれもいなかったけどな」
奉太郎「心配してくれるんですか?」
遠垣内「ば、馬鹿野郎! 俺がお前をぼこぼこにするんだから」
遠垣内「その前に怪我されたら困るだけだ」
遠垣内「それだけだからな! ほんと!」
奉太郎「はいはい」スタスタ
遠垣内「おい! きいてんのか <ニャ~ よって」
遠垣内「あぁ、もう今出してやっからちょっと静かにしとけよ」ガラガラ
今日はここまででーす
多分今週中には完結すると思います
それでは、ほうたるー
えるたそ~
今日はちょっと長めかもでーす
奉太郎「間違えない」
奉太郎「データーベースどころか自らを浅学と揶揄する、筋肉ムキムキの里志」
奉太郎「朗らかで、笑顔を絶やさない伊原」
奉太郎「異常なテンションの江波先輩と、本郷先輩」
奉太郎「人に尽くす、入須先輩」
奉太郎「ワルを気取って、内心優しい遠垣内先輩」
奉太郎「そして、人見知りな千反田」
奉太郎「我ながら、突飛な思い付きとは思うが」
奉太郎「みんなの性格が変わってしまった、いや」
奉太郎「みんなの特徴が反転しているの、か?」
奉太郎「いやいや、sfじゃないんだ」
奉太郎「そんな事、ありえるわけ……」
奉太郎「可能性としては、頭をうった所為で記憶が混乱している?」
奉太郎「でも、こんな記憶障害なんてありえるのか?」
奉太郎「記憶喪失ならまだしも、皆の特徴のみ間違た記憶に置き換わるなんて」
奉太郎「まぁ、記憶がすり替わったにせよ、皆の特徴が変わったにせよ」
奉太郎「現実的でないのは確かだな」
奉太郎「はぁ~。どうしたもんかな」
奉太郎「…………はっ!」
奉太郎(……待てよ)
奉太郎(この状況は限りなく俺の望んでいたものなんじゃないのか?)
奉太郎「伊原は優しいし、入須先輩はストレートにいい人だし、千反田は大人しい」
奉太郎「里志の、あの世紀末のような容姿を除けば限りなく理想に近い状況なんじゃ」
奉太郎(でも、…………)
奉太郎「遅くなったな」
里志(ガチムチ)「お、やっと来たねホータロー」
伊原「奉太郎君の分のお茶今淹れるね」
える「…………こちら、どうぞ」
奉太郎「あ、あぁ」
奉太郎「ありがとう」
里志「気にすることないよ、昨日あんなことがあったんだ」
里志「気を使うなって方が無理な話さ」
摩耶花「そうだよ。ほんとに、無理して部活に来なくても良かったんだよ?」
摩耶花「まぁ。奉太郎君が来てくれて嬉しいんだけどね」
摩耶花「ねー、ちーちゃん」
える「は……はい」
える「折木さんが来てくれて…………私、嬉しいです」
奉太郎「そ、そうか」
奉太郎(なんだかむず痒いな)
摩耶花「でね、ちーちゃん。今日ね部室の外の鉢植えにお水あげるときね」
摩耶花「鉢植えを少し動かしたら白いものが転がってね!」
える「それは、不思議ですね」
里志「今日も、女子陣は世間話か」
里志「昨日も思ったけどよくもまぁ話題が尽きないものだよ」
奉太郎「そうだな」
里志「いや~。今日も冬にしては暖かいね」
奉太郎「そうだな」
奉太郎「俺も昨日はコート着てこなかったしな」
奉太郎「そのおかげで、冬の一張羅が血まみれにならずにすんだよ」
里志「でも、帰りは流石に日も落ちるし寒くなるよ」
奉太郎「そう思って、鞄に入れて持ってきた」
里志「そうそう持ってきたといえば」
里志「今日はねいい物持って来たんだよ」キンチャクゴソゴソ
里志「はい」コト
奉太郎「何だ、これは」
里志「? プロテインだよ?」
里志「昨日言ったろ? 奉太郎はもっと筋肉つけないとって」
奉太郎「そ、そうか。…………ありがとう」
奉太郎(気持ちだけ受け取って置こう)
コンコン
沢木口「すみません、すこしよろしいでしょうか?」
里志「はーい、どうぞ」
沢木口「ちゃおでございます」
里志「沢木口先輩じゃないですか!」
摩耶花「お久しぶりです」
沢木口「こちらこそ、お久しぶりです」
奉太郎「有名人か」コソ
える「し、試写会のときの人ですよ」コソ
える「この階に部室がある天文部の沢木口美崎さんです」コソ
奉太郎「あぁ」
沢木口「まこといきなりで大変申し訳ないのですが」
沢木口「おコートをご存知でないでしょうか?」
奉太郎(この人も、俺の知っている沢木口とは全然違う)
摩耶花「コート? ですか?」
沢木口「そうでございます」
沢木口「昨日、後輩のコートが行方知らずになってしまいまして」
沢木口「どなたか、心辺りのある方はいらっしゃらないでしょか?」
奉太郎「すいませんが昨日は部活に行かず帰りました」
沢木口「他の方は?」
里志「すいません、昨日はずっと三人とも部室にいましたし」
里志「早くに皆で学校を出てしまったので」
里志「お力になれなくてすみません」
沢木口「…………いえ、お時間を取らせてしまって大変申し訳ございませんでした」
沢木口「では、失礼いたしました」
里志「なんだったんだろうね?」
奉太郎「盗まれたんだろ、コートが」
里志「おっと、ホータロー今日も頭がさえるね」
摩耶花「奉太郎君、その心は?」
奉太郎(…………伊原のノリが軽い)
奉太郎「推論でしかないが」
奉太郎「さっき先輩はお心当たりのある方はと言ったよな」
里志「言ってたっけ?」
摩耶花「言ってたかな?」
奉太郎「…………言ってたよな、千反田」
える「は、はい。言ってました」
奉太郎「でだ、ただ落し物を探していただけなら」
奉太郎「『お心当たりのある方』じゃなくて『見かけた方』でいいと思わないか?」
里志「それだけなら、いい間違い。いや普通にあることなんじゃないのかな?」
奉太郎「それだけならな、でも先輩は俺と里志には質問をしたが、千反田と伊原にはしなかった」
摩耶花「そういえば、そうだけど」
摩耶花「それっておかしなこと?」
里志「僕がずっと皆でいたからって言ったからじゃないかな」
奉太郎「ただの探しものなら三人共に聞いたほうがいいはずだろ」
奉太郎「里志や伊原が見ていなくとも、もしかしたら千反田は皆で帰る途中に目に止まったかもしれないんだからな」
奉太郎「それを聞かなかったのは、俺は部活に参加しなかった」
奉太郎「お前たちはずっと一緒にいたというアリバイを聞いたから」
奉太郎「要するに、俺たちはコート泥棒として疑われてるわけだ」
里志「じゃっかんこじ付け感が否めないけど」
摩耶花「そういえば、そんな気がしないでもない気がするし────」
沢木口「……その通りです」
奉太郎「やっぱり、まだいらっしゃいましたか」
沢木口「申し訳ありません、一応可愛い後輩の大事にしていたものなので」
沢木口「どうしても、見つけてあげたかったんです」
里志「どういうことだい、ホータロー」
奉太郎「疑われてると言っただろ、過去形じゃないんだよ」
奉太郎「あれだけの証言で疑いが晴れるわけないだろう」
沢木口「気分を害されたなら謝ります」
摩耶花「気にしてないですよ」
摩耶花「後輩想いなんですね!」
沢木口「わたくしには、出来過ぎた後輩です」
沢木口「ですが、皆さんを疑っていたわけじゃないんです」
沢木口「このようなことを頼むのは筋違いだと分かっているのですが」
沢木口「折木さん、どうかわたくしにそのお力をお貸しいただけないでしょうか?」
奉太郎「どういうことですか」
沢木口「先ほど扉の前で聞き耳を立てていたのは、折木さんのお話を聞くためです」
沢木口「折木さんは見事に会話の節々に込めた私の疑念を汲み取り」
沢木口「私の本当の意図を推理して見せました」
沢木口「映画の件も貴方が解決したようなものでした」
沢木口「もしかしたら、後輩のコートも貴方なら見つけ出せるのではと」
奉太郎「はぁ」チラ
える「!」ビクッ
奉太郎(おかしいな、何時もならこのあたりで千反田が)
奉太郎(「協力してあげましょう、私なぜコートが盗まれたのか、それは今どこにありのか気になります!」とでも言い始める頃だろうに)
奉太郎(一向にその気配がない)
奉太郎(あぁ。特徴、性格が変わっているからか)
奉太郎(なら断ってもよさそうだな)
奉太郎「すいませんがお力にはなれま 里志「良かったじゃないか奉太郎」」
摩耶花「そうだよ! 最近不思議なことなくてちーちゃんが元気なさげだって気にしてたじゃない」
奉太郎(千反田属性はお前らが引き継いでいるのか)
奉太郎(しかし、俺は諦めんぞ)
奉太郎「千反田、お前はどうだ?」
千反田「わ、私ですか……」
奉太郎「あぁ。俺はお前の意見が聞きたい」
奉太郎(今の性格の千反田なら、「私、気になります!」とは言わないはず)
千反田「わ、私は……」
千反田「不思議なことは不思議なままでいいのかなとも思います」
奉太郎(勝った。フォーエバー省エネ)
千反田「だから、私。き、気になりません…………」
奉太郎「…………」
奉太郎「本当か?」
千反田「えっ」
奉太郎「本当に、それがお前の意見なんだな」
千反田「そ、そうですけど……」
奉太郎「嘘だな」
千反田「う、嘘じゃありません!」
奉太郎「顔に、「私、気になります!」って書いてあるぞ」
千反田「書いてあるわけ、ないじゃないですか」
奉太郎「あぁ。書いてないな」
千反田「そ、それなら。何で嘘だって決め付け 奉太郎「しかしな千反田」」
奉太郎「その濁った目は俺の知ってる千反田のものじゃない」
奉太郎「俺の知っている千反田の瞳はもっとキラキラしているんだ」
える「…………」
奉太郎「……もう一度聞くぞ」
奉太郎「俺は、お前の意見が聞きたい」
える「…………うぅ」ポロポロ
奉太郎「ち、千反田!」
摩耶花「ちーちゃん大丈夫」
里志「あ~あ。ホータローが千反田さんな~かした」
奉太郎「ちょ、里志!」
摩耶花「ごめんね、ちーちゃん。でも奉太郎君も意地悪であんなこと言ったんじゃないんだよ」
える「……ち、ちがうんです」ポロポロ
摩耶花「え?」
える「わ、私。嘘を吐いてしまいました」
える「それどころか、それがばれた後も、嘘を吐き続けて」
える「申し訳なくて……」ポロポロ
摩耶花「ちーちゃん」
里志「な~かした、な~かした。先生にいちゃ~ろ」
奉太郎「さーとーしー!」
える「折木さん」
奉太郎「ち、千反田」
える「何故、コートは盗まれたのか。どんな状況だったのか」
える「そのコートは、今いったいどこにあるのか」
える「わた、わたし…………わたしっ」
奉太郎「…………ゆっくりでいい」
奉太郎「誰も急かさない、俺も本当のことが聞きたいだけだからな」
える「わ、私……気になります!」キラキラ
奉太郎(まったく)
奉太郎「それでこそ、俺の知っている千反田だ」
奉太郎(俺も性格、変わったのかもな)
今日はここまででーす
こじつけっぽいところもあったと思いますが
どうか暖かい目で見てください
ではまた明日
ほうたるー
えるたそ~
今日もぼちぼち書き込みまっせ!
沢木口「では、まず大まかに概要を説明させていただきます」
奉太郎「いえ、先に部室に行きましょう」
沢木口「え?」
奉太郎「話は歩きながらでも出来ますし、部員たちにも話を聞いたほうがいいでしょう?」
沢木口「……そうですね」
里志「奉太郎が自分から動くことを提案するだなんて」
摩耶花「やっぱり、頭うっておかしくなったんじゃ」
奉太郎「『やらなければいけないことなら手短に』」
奉太郎「どうせ、部員に話を聞く必要があるんだ」
奉太郎「しかも、同じ階の部屋を少し行ったり来たりするだけだ」
奉太郎「それほどの労力にはならん」
里志「そーかい」
摩耶花「じゃぁ、鍵閉めていこっか」
沢木口「概要と言っても、部室を離れたときに盗難にあったというだけなのですが」
奉太郎「そのコートは高価なものなんですか?」
沢木口「いえ、どこにでもありそうなものですよ」
沢木口「使い古されていましたし、価値あるものには見えなかったでしょう」
沢木口「しかし、後輩にとっては思い出の品だそうです」
奉太郎「そうですか」
える「ぅぅぅ」
奉太郎「…………何を唸ってるんだ、千反田」
える「きょ、今日部室に来たときから、何かもやもやした気持ちになるんです」
える「この気持ちはまるで……十回クイズじゃなくて、○×問題でもなくて」
奉太郎「……思い出したらまた言ってくれ」
沢木口「つきました」
天文部顧問(以下、天問)「おぉ沢木口、まってたぞ」
沢木口「せ、先生」
沢木口「どうしてこちらに」
天問「いやぁ。中山のコートが盗まれたって聞いたからな」
天問「詳しく話をな」
沢木口「……話したんですか」チラ
小田「だって、先生に言うのが一番早いと思って」
吉原「俺は、先輩が戻ってくるまでまとうっていったんすけど」
沢木口「…………まあいいでしょう、ちょうどその話をするところでしたし」
沢木口「折木さんたちもどうぞお入りになってください」
奉太郎「つまり、話をまとめると」
奉太郎「放課後何時もどおり部活動をやっていた」
奉太郎「途中、少し部員皆で自販機にジュースを買いに部室を離れた隙に盗難にあったと」
奉太郎「そういうことでいいですか?」
沢木口「え、えぇ」チラ
天問「その時鍵は?」
沢木口「閉めて、いませんでした」
天問「はぁ。俺も昨日は学校にいなかったからな」
天問「対応が、一日遅れてしまったな。本当にすまない」
小田「先生のせいじゃないですよ!」
吉原「俺たちが、戸締りをきちんとしなかったのがいけないんです」
中山「私も、きちんと管理しておくべきでした」
奉太郎「二三、質問いいですかね」
沢木口「どかしましたか、折木君」
奉太郎「皆さんに質問ですけど」
奉太郎「昨日、何かいつもと違ったことはありませんでしたか?」
沢木口「特には、なにもなかったかと」
小田「俺も特に無かったと思う」
吉原「俺も同じだ」
中山「私も、です」
奉太郎「そうですか」
奉太郎「では、ジュースを買いに行った時間は?」
沢木口「最終下校時間十分から十五分前だったかと記憶してます」チラ
天問「その時間になると、残ってる部活動は少ないだろうな」
奉太郎「…………そうですか」
里志「ちょっとまってくれホータロー」
里志「その頬の筋肉の動き!」
里志「まさか、もう事件が解けたのかい?!」
沢木口「! 本当ですか折木さん」
奉太郎「まだですよ、俺を何だと思ってるんですか」
奉太郎「でも、その前に一つ解決しなければいけない謎が」
奉太郎「そのために────里志」
里志「なんだい? ホータロー」
奉太郎「壁新聞部の部室に行ってきてくれないか」
奉太郎「たぶんそこに、猫と戯れてる遠垣内先輩がいるから」
奉太郎「昨日、何時ごろ帰ったのか聞いてきて欲しい」
里志「分かったよ、ホータロー」
里志「唸れ! 僕のハムストリング!」
奉太郎「先生、聞きたいことが二つあるんですけど」
天問「なんだ、ホータロー。でいいんだよな?」
奉太郎「折木で結構です」
奉太郎「一つ目は昨日、活動していた部活動は何でしょう」
天問「昨日か」
摩耶花「学校にいた人たちを絞り込むってわけね、折木君」
奉太郎「違う」
摩耶花「ガーン!」ガクシ
天問「昨日は、大体の部活動は活動していたと思うよ」
天問「でも、昨日から今日にかけてグランドに土が新しく入ったから」
天問「その作業のために、グランドで行う系の運動部は活動していなかったはずだ」
天問「で、もう一つは?」
奉太郎「それは、ここではちょと聞き辛いことなので廊下で聞いてもいいでしょうか?」
天問「いいけど……」
奉太郎「では、少しまっててくれ千反田、伊原」
える「は、はい」
摩耶花「いってらっしゃ~い」
天問「で、二つ目の質問ってのは?」
奉太郎「質問というか何と言うか」
奉太郎「えっと、そうですね」
奉太郎「お、『おめでとうございます』」
天問「? あぁ。そういうことか」
天問「ありがとう、でもちょっとフライングだな」ニカ
奉太郎「……やっぱり」
天問「それが二つ目かい?」
奉太郎「えぇ。部室に戻りましょう」
里志「ホータロー!」
奉太郎「うぉ。早いな」
里志「うん、でこれお土産」
奉太郎「缶ジュースか」
里志「先生もどうぞ」
天問「お、悪いな福部」
里志「いえいえ」
里志「これみんなの分なんで持っていってあげてください」
天問「あぁ。わかった」
奉太郎「で、どうだった」
里志「あぁ。最終下校時刻三十分前だってさ」
奉太郎「そうか」ゴクゴク
奉太郎「ぷはぁ」
里志「言い飲みっぷりだねホータロー」
奉太郎「そうかよ、ゴミ箱はっと」
奉太郎「里志、どれが缶ゴミだ?」
里志「真ん中じゃなかったかい」
奉太郎「真ん中か」ホイット
奉太郎「うん?」
奉太郎「里志、左端に缶が捨ててあるぞ」
里志「そんなはずないよ」
里志「総務委員が、設置したんだからねこのゴミ箱」
里志「ちゃんと側面に張り紙だって────」
里志「ホントだ」
奉太郎「な?」
里志「困るんだよな、こういうことされると」
里志「今の時代、分別厳しくなってるんだから」
里志「あれ? しかも、缶ゴミのゴミ袋なくなってるし」
奉太郎「おいおい、確りしろよ総務い────」
里志「これは由々しき事態だよって」
里志「どうしたんだい、奉太郎?」
奉太郎「………………」
奉太郎「…………分かった」
里志「分かったって、盗難事件の犯人がかい?」
奉太郎「個人までは特定できんが」
奉太郎「問題は解決するはずだ」
摩耶花「遅いよ~。二人とも!」
奉太郎「沢木口先輩、ちょっといいですか?」
摩耶花「ちーちゃーん、無視されたぁ。奉太郎君にむしされたぁ」
える「え、えと。よしよしいい子ですよ摩耶花さんは」
摩耶花「うぅぅ」
沢木口「なんでしょう」
奉太郎「少し、お耳をお借りしたい」
沢木口「?」
奉太郎「 」ゴショコショ
沢木口「え?」
奉太郎「ですから、明日まで待ってみてください」
沢木口「…………その根拠は?」
奉太郎「……今は信じてくださいとしか、いかんせん確証がないもので」
沢木口「…………分かりました」
沢木口「では、今日はもう遅いのでお開きにしましょう」
里志「ホータロー」
奉太郎「なんだ」
摩耶花「奉太郎君」
奉太郎「だから何だって」
里志「何って」
摩耶花「決まってるよね?」
里志「沢木口先輩に何て言ったんだい」
摩耶花「そうそれ!」
奉太郎「……明日じゃ駄目か? 今日はもう疲れた」
える「お、折木さん」
奉太郎「何だ、千反田」
える「わ、わた、わたし」
える「折木さんが沢木口先輩になんて言ったのか」
える「気ににゃります!」キラキラ
奉太郎(噛んだな)
里志(噛んだね)
摩耶花(噛んだよね)
える「うぅ、噛んじゃいました」
奉太郎「はぁ。説明は明日だ。それでいいな」
える「は、はい!」
奉太郎「沢木口先輩にはこう言ったんだ」
奉太郎「『明日には、コートは帰ってきますよ』ってな」
今日はここまでででーす
露骨な伏線に違和感を感じる方もいらっしゃると思いますが
暖かい目で見てください
それでは次はいよいよ解決編です
どうか最後までお付き合いください
ではでは、ほうたるー
えるたそ~
里志「ねぇ。ホータロー」
奉太郎「何だ? 言っておくが今日は疲れたから事件のことは明日にならなきゃ話さないぞ」
里志「その話じゃないよ」
里志「今日の奉太郎はどうもおかしいね」
奉太郎「…………なにがだ」
里志「何時もなら、千反田さんが痺れを切らすまでほっておくだろう?」
里志「でも、今日はそうじゃなかったよね」
里志「何故かな?」
奉太郎「…………頭うったからなのか、少し回りに違和感を感じるんだよ」
奉太郎「桃太郎、じゃなくて。金太郎でもなくて────」
里志「浦島太郎かい?」
奉太郎「そうそう、浦島太郎だ」
奉太郎「竜宮城から戻った浦島太郎のような気分なのさ」
奉太郎「大筋は変わらずとも、内容は違うみたいな、そんな感じだ」
里志「うらしまほうたろうって? 面白ね」
奉太郎「面白くなんかない」
奉太郎「まぁ。俺には、わざわざ竜宮城から地上に帰った気持ちは分からんがな」
里志「ホータローなら、竜宮城に住み着くだろうね」
奉太郎「だろうな」
奉太郎「開けるなって言われた玉手箱を開けることも、俺ならしないだろうな」
里志「ホータローには知識欲なんてないだろうしね」
里志「じゃあ、僕はこっちだから」
奉太郎「あぁ。じゃあな」
里志「あぁ。また明日」
えるたそ~
奉太郎「はぁ、疲れた」バタン
奉太郎「会う人、会う人の特徴が記憶と違っているだなんて」
奉太郎(うらしまたろう、か)
奉太郎(何で、浦島太郎は竜宮城を出て行ったんだろうな)
奉太郎(なぜ、開けるなといわれた玉手箱を開けてしまったんだろうか)
奉太郎「竜宮城にいたほうが、地上暮らすより過ごしやすいだろ」
奉太郎「……まあ、そんな事考えても意味がないな」
奉太郎「…………はら、へったな」
沢木口「コートですが」
沢木口「今日、部室の前に綺麗に畳んで置いてありました」
沢木口「本当にご迷惑をおかけしました」
沢木口「折木さんには何度お礼を言っても言い足りません」
奉太郎「いいですよ、そんな」
里志「ホータロー」
摩耶花「折木君」
える「折木さん」
奉太郎「…………なんだ」
里志「昨日は良く眠れなかったんだよ」
摩耶花「私も気になって気になって、授業にみが入らなかったよ」
える「わ、私も、今日の部活がすごく、楽しみでした」
奉太郎「そんなに楽しいことは何もないぞ?」
奉太郎「コートも無事に戻って来たんだし、もういいんじゃないか?」
沢木口「私も、折木さんの推論、今となっては正解した根拠をお聞きしたいですね」
奉太郎「…………貴方もですか」
沢木口「あまりにも、折木さんの言う通りになっています」
沢木口「本当は折木さんが犯人なんじゃないかと思ってしまったくらいです」
える「お、折木さんはそんなことしません!」
折木「千反田、今のは冗談だ」
える「え?」
沢木口「私も、本当に折木さんが犯人だなんて思ってませんよ」
里志「推理小説になら、よくある展開だけどね」
里志「探偵が犯人ってのはさ」
摩耶花「ほら、奉太郎君」
摩耶花「自分の無実の証明のためにも早く説明してよ!」
奉太郎「はぁ。分かったよ」
奉太郎「まず始めに、ざっと事件整理しようか」
奉太郎「この事件はどんな事件だ」
里志「どんなって……」
摩耶花「盗難でしょ? コートの」
奉太郎「それも確かに事件であり俺たちが解く謎ではあった」
奉太郎「しかし、それは俺たちの目線での話だ」
奉太郎「今回の件。犯人の目線で見ると盗難事件ではないんだ」
奉太郎「犯人にとってコートを盗むことは目的ではない」
奉太郎「本当の目的は────隠蔽だ」
える「隠蔽? なんのですか?」
奉太郎「器物損壊」
摩耶花「ちょっと奉太郎君? 説明省きすぎじゃない?」
奉太郎「……はぁ、仕方が無いな」
奉太郎(面倒だが、順序だてて説明するか)
奉太郎「まず、『いつ』コートが盗まれたのかだが」
里志「それは、最終下刻十五分前ごろだろ」
摩耶花「部室が無人だったのはその時間だけなんだから」
奉太郎「いや、盗まれたのはもっと前だ」
奉太郎「もっと言うなら俺が階段を上ってきた辺りだろう」
える「え? 何でですか?」
奉太郎「その時間にはもう、天文部の部室は無人だったからだ」
奉太郎「ですよね、沢木口先輩?」
沢木口「…………はい」
里志「ど、どういうことだい?」
奉太郎「沢木口先輩たちは一度部室に行き、荷物を置いた」
奉太郎「しかし、直ぐに部室を出たんだ。鍵を閉めずにな」
摩耶花「え、でもなんでじゃあ沢木口先輩たちは嘘を吐いたの?」
奉太郎「先生がいたからだ」
里志「先生に怒られたくなかったから?」
奉太郎「違う、詳しく言うなら天文部の顧問の先生がいたからだ」
奉太郎「他の先生なら、いや後二、三日後なら嘘を吐く必要はなかったんだ」
える「???」
摩耶花「奉太郎君、ちーちゃんが混乱、大混乱してるよ!」
奉太郎「サプライズを計画していたんでしょう? 沢木口先輩」
沢木口「そこまで分かってしまうんですね」
里志「ホータロー。もっと分かりやすく説明してくれよ」
奉太郎「天文部の先生。もうすぐ誕生日なんだ」
奉太郎「天文部員はサプライズパーティーを企画していた」
奉太郎「そして、プレゼントを買いに行く為に一度部室に集まり」
奉太郎「校外にでた。しかし、浮かれすぎたのか鍵を閉めるのを忘れた」
奉太郎「そういうことでしょう?」
沢木口「その通りです。ですが、何故分かったんです?」
奉太郎「一つは、貴方たちが事件のことを話すとき頻りに先生のことを見ていたから」
奉太郎「何かおかしいなと思ったんだ」
奉太郎「二つ目は、先輩たちにした最初の質問」
える「確か『昨日何か変わったことがなかったですか?』でしたよね?」
奉太郎「それだ」
里志「でも、先輩たちは特に変わったことがなかったって」
奉太郎「おととい、俺たちが事件を知った日から見たら昨日」
奉太郎「そして事件当日にはこの特別棟四階いたんだったら」
奉太郎「変わったことが無かっただなんて言うことは無いだろう」
摩耶花「…………う~ん?」
奉太郎「……はぁ。俺の額を見たら思い出すか?」
里志「あぁ! 奉太郎血塗れ事件か!」
奉太郎「何だその名前は、でもまぁその通りだ」
奉太郎「壁新聞部にいた遠垣内先輩が知っていたくらいだ」
奉太郎「この階にいたなら知らないわけが無い」
沢木口「そんな事があったんですか」
奉太郎「だからその時にはもう沢木口先輩たちは部室にいなかったと思ったんだ」
奉太郎「で、念のため推論の補強のために里志に走ってもらったんだ」
奉太郎「やっといつが終わったな」
奉太郎「で、何故コートが盗まれたのか」
奉太郎「それは、器物損壊を隠すため」
える「でも、何が壊れたんですか?」
奉太郎「植木鉢だよ、窓の近くに置いてあったな」
奉太郎「昨日の千反田の違和感、それはあったはずの植木鉢が無かったからだ」
奉太郎「いつもとどこか一箇所違うところがある、さしずめ『間違い探し』のような気分だったんだろ」
里志「でも、何で植木鉢が壊わして、コートを盗んだんだい?」
奉太郎「壊した、というか壊れただな」
奉太郎「言ったろ、隠蔽だ」
奉太郎「事件を隠蔽するとき、例えば極端な話これが殺人事件だとする」
奉太郎「このとき自分が犯人だとばれないための方法は大きく二つ」
奉太郎「凶器を隠すか、死体を隠すかだ」
奉太郎「しかし、今回の犯人は凶器を見失った、見つけられなくなった」
奉太郎「確り探せばよかったんだろうが、いつ人が来て目撃されるか分からない」
奉太郎「だから、植木鉢のほうを隠すことにしたんだ」
奉太郎「とりあえず、犯人は植木鉢の破片や中身を廊下の掃除ロッカーに入った箒とちりとりでまとめ、空にしたゴミ袋に入れた」
奉太郎「このゴミ袋は、廊下の缶ゴミ用のゴミ箱のゴミ袋だ」
里志「だから、缶ゴミのゴミ袋が無くなっていて、その中身が別のゴミ箱に入ってたというわけだね」
奉太郎「そうだ、しかし本当だったら直ぐにでもその場から植木鉢を移動させたかった」
奉太郎「他の場所にさえ持っていけば、ばれる心配も大分無くなる」
奉太郎「しかしながら、そうは行かなくなってしまった」
摩耶花「なんで?」
奉太郎「さっきも言ったが、俺が倒れたからだ」
摩耶花「あ、なるほど」
奉太郎「その所為で、本来なら人通りの少ない特別棟に人が押し寄せてきた」
奉太郎「その中には教師もいただろう」
奉太郎「騒ぎに気が付いた犯人はとりあえず何処か隠れる場所は無いかと考え」
奉太郎「そして、天文部の部室に鍵がかかっていない事に気が付いたんだ」
奉太郎「しかし、天文部の部室に隠れたはいいものの、いつここにも人がやってくるか分からない」
奉太郎「何故なら、荷物が置きっぱなしになっているんだからな」
奉太郎「そこで、犯人はまたまた考えたわけだ」
奉太郎「で、思いついた」
奉太郎「植木鉢の入ったゴミ袋を担いで教師の前を通るのはリスクが高いが」
奉太郎「でも、植木鉢とゴミ袋の間にワンクッション」
奉太郎「例えば布を挟んだらどうだろうってな」
里志「そうするとどうなるってんだい?」
奉太郎「植木鉢入り込み袋を担いで教師の前を歩く」
奉太郎「当然、半透明なゴミ袋では中身は丸見え」
奉太郎「先生に捨ててくるように言われたんですなんていいわけも通用しないだろう」
奉太郎「しかし、そこに布が一枚挟まれば」
奉太郎「中身は見えなくなるし、古くなったコートは一見、汚れたカーテンなんかに見えないこともなんだろう」
奉太郎「植木鉢だけ運ぶよりずっとリスクが低くなる」
奉太郎「以上のことから犯人の目的はあくまで隠蔽だと、俺は考えた」
奉太郎「犯人にしてみれば、盗難事件で本来隠せた器物損壊がばれるわけにもいかない」
奉太郎「それに多少罪悪感もあるだろう」
奉太郎「土で少し汚れたコートを洗って干して乾かすまでの時間を加味して」
奉太郎「今日には戻ってくるだろうと思ったんだよ」
摩耶花「で?」
奉太郎「で? でってなんだ?」
里志「結局犯人はどこの誰かってことだよ、ホータロー」
奉太郎「あぁ。そういうことか」
奉太郎「取り敢えず消去法で絞り込む」
奉太郎「まず四階に部室のある部活動は除外」
える「な、何でですか?」
奉太郎「俺たち古典部と被害者の天文部を除くと」
奉太郎「四階に部室のある部活は軽音部とアカペラ部、それに思想研」
奉太郎「そのうち、思想研にはそもそも部員がいない」
奉太郎「犯人が軽音部かアカペラ部の部員なら自分たちの部室に隠しておけばいい」
奉太郎「わざわざ、コートを盗んでまで何処かに持っていく必要が無い」
奉太郎「同じ理由で特別棟に部室のある部活動も消去したいところだが」
奉太郎「そこまでは言い切れない」
摩耶花「まだ、かなりの犯人候補の部活動が残ってるよ」
奉太郎「そうだな、しかし」
奉太郎「今回の凶器が犯人を特定してくれる」
里志「凶器を見つけたのかい、ホータロー?」
奉太郎「俺は見てないが、見た奴を知っている」
摩耶花「誰? 誰なの!」
奉太郎「意図的でなく物を壊せる。犯人が凶器を見つけられなくなることから、手元を離れるもの」
奉太郎「かつ、この階にいなくとも壊せる」
奉太郎「何の用もないのにこの階まで上ってくる必要が無いからな」
奉太郎「上ってくる必要が無ければ今回の事件はそもそも行われない」
里志「回りくどいよホータロー」
奉太郎「まだ分からんのか」
奉太郎「手元を離れ、遠くへ少なくとも四階まで届き、それがそのまま犯人に繋がるもの」
里志「手元を離れて?」
摩耶花「遠くまで飛ばせて?」
える「それがそのまま」
沢木口「犯人に繋がるもの?」
奉太郎「伊原、昨日植木鉢を動かしたら何が出てきたんだ?」
摩耶花「え? それは確か、野球ボール…………!」
四人「「「「野球ボール!」」」」
里志「確かにボールはそもそも放るものだし」
摩耶花「力一杯投げたり打ったりしたら四階まで届くね!」
える「それに野球ボールはそのまま」
沢木口「野球部に繋がる証拠になりますね」
奉太郎「大方、部活がなくて暇してた部員が」
奉太郎「遠投だのキャッチャーフライだの遊んでたんだろ」
奉太郎「まあ、たぶん野球部員の仲の二人、もしくは三人程度が今回の犯人だろう」
奉太郎「一人で打って投げてをするわけにもいかないしな」
奉太郎「恐らく、これが今回の事件の全てだよ」
奉太郎(こうして、コート盗難事件は幕を閉じた)
奉太郎(沢木口先輩も、顧問の先生に植木鉢の話はしないと言っていた)
奉太郎(無論、俺もこのことを他言しないだろう)
奉太郎(まあ、千反田達には俺が恐らく『三人目の被害者』であるだろうことは言わないでおいた)
奉太郎(被害を受けた俺が気にしてないのに、あいつらに無駄な気を使わせることも無いだろう)
奉太郎(いらぬ面倒事に首を突っ込むことはない)
奉太郎(そもそも、俺にはすでに解決すべき問題が目の前にある)
奉太郎(皆の性格が変わって三日、今だこの状況に俺はなれていない)
奉太郎(しかし、おかしい)
奉太郎(俺はこの状況を浦島太郎に例えたが)
奉太郎(俺にとってこの場所は、幾百年経った地上でもあるが)
奉太郎(竜宮城でもあるのだ)
奉太郎(俺にとって、灰色を好む俺にとってこの場所、この状況は理想そのものだ)
奉太郎(なのに何故、俺はこの状況になじめずにいるのだろう)
奉太郎(いったい何故)
里志(ガチムチ)「聞いてるかい? ホータロー?」
摩耶花「大丈夫? 無理しないほうがいいよ?」
える「や、病み上がりなんですから」
奉太郎「あ、あぁ…………」
奉太郎「少し、眠いだけだ」
────私、閉じ込められていたって事ですよね
奉太郎「────っ!」
────折木さんも一緒に考えてください
────折木さん!
────わたし……気になります!
奉太郎「…………そうか」
奉太郎(会いたかったからだ)
奉太郎(極楽を、至福を、理想を捨ててでも)
奉太郎(会いたかった人が、そこに居たからだ)
奉太郎(それが、叶わないと知ったから)
奉太郎(唯一の希望に縋ったんだ)
奉太郎(…………俺もだ)
奉太郎(俺も彼女に会いたいから、こんな気持ちになってるんだ)
奉太郎(俺は、千反田に。俺の知ってる千反田に)
奉太郎(好奇心の猛獣で俺の省エネを脅かす千反田えるに────)
────会いたいんだ
える「折木さん、起きてください、折木さん!」
奉太郎「!」バッ!
奉太郎「ち、千反田か?」
える「? そうですけど」
奉太郎「…………」ジィー
える「? どうしたんですか折木さん?」
奉太郎「い、いや。ちょっとな」
里志「千反田さん、ホータロー起きた?」
摩耶花「起きたわね? いつまで寝てるつもりよ! 全く」
奉太郎「里志、伊原」
里志「流石千反田さん。僕らがどんなに騒いでも起きないホータローを」
里志「こんな短時間で起こせるなんて」
摩耶花「頭うったときに、もとから緩んでた頭の螺子、何本か抜けちゃったんじゃないの」
摩耶花「早く出ないと、鍵を返しに行くちーちゃんの身にもなりなさいよね」
える「私は気にしてませんからそんなに折木さんを責めないでください」
摩耶花「そうやって折木を甘やかすと碌なことにならないよ」
える「でも、折木さん病み上がりですし」
奉太郎(…………帰ってきたのか)
里志「ホータロー?!」
摩耶花「お、折木?!」
奉太郎「どうしたんだ?」
里志「どうしたって…………」
摩耶花「だってあんた────」
摩耶花「────泣いてるじゃない」
奉太郎「え?」
える「折木さん大丈夫ですか?!」
摩耶花「ごめん! 私、言い過ぎたよ」
奉太郎「そうじゃない、そうじゃないんだ」
里志「じゃあ、頭かい? 打ったところが痛むのかい?」
える「私、入須先輩を呼んできます!」
摩耶花「私、先生呼んでくる!」
奉太郎「そ、そうでもないんだ」
奉太郎「そういうんじゃないんだ」
奉太郎「大丈夫だ、帰ろう」ガタッ
里志「こ、今度は奉太郎が笑い出した」
摩耶花「お、折木が笑ってる」
里志「本格的にやばいよ摩耶花!」
摩耶花「きゅ、救急車! 救急車!」
奉太郎「…………お前ら、俺を何だと思ってるんだ」
える「……折木さん」
奉太郎「どうした、千反田?」
える「私、どうして折木さんが泣いたのか、そして笑ってるのか……」
える「気になります!」
奉太郎「…………勘弁してくれ」ニッ
こうして、俺の摩訶不思議な探検は幕を閉じた
次の日、部室に向かう途中、植木鉢のあった場所にいってみた
そこには、青く綺麗な花瓶が置いてあった
その次の日には、二輪の花がいけてあった
伊原の話によると、いけたのは千反田らしい
例によって、里志が聞いてもいないのに花の名前を教えてきた
夕焼けの明かりに照らされ、彼女の瞳の様な輝きを放つ花瓶
いけられていた花は────
────アスターとカスミソウ
完
ほうたるー
このSSまとめへのコメント
異常な誤字量と推理内容の雑さが無ければ何も言うことなかった