亜美「亜美が真美で」 真美「真美が亜美」 (29)
話の都合上、かなりややこしい会話が多数あります。
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自宅、学校が終わったあとの夕方。
珍しく仕事もレッスンもない二人は、リビングでくつろいでいた。
母はもうすぐ帰ってくるが、父は仕事上帰ってくるのが遅い。
亜美「ねぇ、真美」
真美「何~? 真美、今ゲームいいところなんだけど!」ピコピコ
亜美「む~、そんなこと言ってないでさー、話そうよ!」グイッ
真美「あー! 何するんだよー! もうちょっとでクリアだったのに~!」GAMEOVER
亜美「あ、ごめん……でもさ、久しぶりに、二人きりの時間なんだよ? 真美」
真美「……そうだね。こっちこそごめん、亜美の気持ち考えてなかった」
亜美「怒らないんだね? 事務所とかで同じ事したら、たくさん怒るのに」
真美「あったりまえっしょ~、だって真美は、お姉ちゃんなんだよ? 妹のわがままに付き合うのは義務ってやつでしょ~」
亜美「むきー! その言い方ムカつくよー! いつもは双子双子言ってるくせに!」
真美「まぁまぁ、でもさ、こっちのほうが違和感ない?」
亜美「どうして?」
真美「だってみんなの前では、真美は、もうずっと亜美になりきってるんだよ?」
亜美「うん、逆に亜美は真美になりきってるよね」
真美「それで、なりきってるからこそって言うのかな~? 亜美のこと亜美って言うと、あれ? って思うんだよね、自分じゃん? って」
亜美「あ、それはわかる」
きっかけはいつもの悪戯だった。小学校低学年だった頃の二人。
真美「うあー、学校つまんないよー」
亜美「亜美もだよー」
真美「あ! いいこと思いついた!」
亜美「え? なになに~」
真美「入れ替わるんだよー!」
亜美「入れ替わる?」
真美「この前漫画で見たんだー、双子が入れ替わるって話!」
亜美「え? どゆこと?」
真美「だから~、真美と亜美はクラス別でしょ? だから、真美が亜美のクラスに行って、亜美が真美のクラスに行くんだよー」
亜美「何それ!? 面白そう!」
真美「担任の先生も違うし、友達も変わる、きっと新鮮だと思うんだ」
亜美「そうだね! じゃあ明日から早速やろう!」
翌日
真美「えーっと、真美が亜美の髪型にして」
亜美「亜美が、真美の髪型にすればいいんだね!」
真美「それだけじゃダメだよ! 真美は自分のこと亜美って呼んで、亜美は自分のこと真美って呼ばないと→」
亜美「そうだねー、えーっとそれじゃあ、ねぇ、亜美」
真美「何? 真美?」
亜美真美「」フルフル
真美「あっはっはっは! おかし~!」
亜美「あっはっはっは! うん、おかし~よ!」
真美「それじゃあ学校行こう! あ……じゃなくて真美!」
亜美「そうだね、ま……じゃなくて、亜美!」
亜美真美「んっふっふ~」
放課後
真美「どうだった、亜美」
亜美「全然バレなかったよ~、真美の方こそどうだった?」
真美「何回か自分のことを真美って言っちゃったけど、みんな気にしてなかった」
亜美「あ、亜美も間違えちゃった」
真美「っていうか亜美って右利きでしょ? それに気がついて、頑張って右手でノート書いたんだよ!」
亜美「それを言ったら、亜美だって左で文字書いたよ! おかげで字が汚くなっちゃったじゃん!」
真美「それよりさー! ずるいよ亜美! 担任の先生は優しいし、友達も面白いじゃん!」
亜美「真美だってずるいよ! 担任の先生面白いし! 友達は優しいじゃん!」
真美「もうちょっと続けようYO!」
亜美「そうだね、その方が楽しそう!」
亜美「あ、ママやパパの前でもやってみようよ!」
真美「え~、さすがにばれるんじゃない?」
亜美「どうかな~、亜美たちそっくりだからバレないかもよ?」
真美「う~ん」
亜美「ね? だからやろう?」
真美「亜美がそこまで言うなら、付き合ってあげるよ!」
亜美「そうこなくっちゃ~」
夜
真美「バレなかったね」ニシシ
亜美「うん、バレなかった」ニシシ
真美「これはもう、あれだね!」
亜美「バレるまで! やりきる!」
真美「そうと決まれば、亜美隊員!」
亜美「なんだね、真美隊員!」
真美「亜美に、真美の名を授けよう!」
亜美「ならば、こちらも、真美に亜美の名を授けよう!」
亜美真美「んっふっふ~」
一週間後
真美「う~む、これは」
亜美「一向にばれないね~」
真美「ねぇ、真美、これからどうする?」
亜美「え? 何言ってんの?」
真美「え?」
亜美「真美、自分の名前言ってるじゃん」
真美「あ……、これはパパがよく言ってる職業病ってやつだね!」
亜美「えー、真美…じゃなくて亜美……ん? 真美? あああ! これは職業病だぁ!」
真美「でしょ~、入れ替わり業ってやつも辛いですな~」
亜美「ですな~」
真美「で、どうする? まだ続ける?」
亜美「亜美は続けたいかな~」
真美「どうして?」
亜美「真美の友達とーっても面白いもん! それに、もっと続けてからネタばらしした方が絶対みんなびっくりするって!」
真美「そうだね! 真美も、亜美の友達と仲良くなれたし、お別れはしたくない!」
亜美「でも、ネタばらししたらお別れだよ?」
真美「そんなことないよ! クラスが違くても友達は友達っしょ!」
亜美「というわけで!」
真美「入れ替わり続行!」
三ヶ月後
真美「……全然バレないね」
亜美「……そうだね」
真美「ねぇ、明日からこっそり元に戻さない?」
亜美「え?」
真美「だってこれ以上続けても、きっと誰も気がつかないよ?」
亜美「そうだけど……」
真美「今、ネタばらしなんかしたら、友達すっごく怒って絶交されちゃうかもしれないし……」
真美「だから、戻そう?」
亜美「でもさ……」
真美「何?」
亜美「真美は、○○ちゃんのおうち知ってる?」
真美「え? 一度も遊び行ったことないよ?」
亜美「亜美は行っちゃったんだよ! 何度も、昨日も行ってたんだよ!」
真美「な、そんなこと言ったら真美だって△△ちゃんの家に昨日行ったよ!?」
亜美「明日学校で、絶対聞かれちゃうよ? 昨日は楽しかったねって、そしたら真美、亜美の代わりに昨日遊んだ内容言えるの?」
真美「そんなこと言ったら! 亜美だって△△ちゃんの家で遊んだ内容言えるの!?」
亜美「お互いに教えて、覚えればいいだよ!」
真美「!」
亜美「それで行こうよ! ね?」
真美「う、うん!」
しばらくして
真美「だ、だめだ……」
亜美「全然覚えられない……」
真美「というか三ヶ月も入れ替わってたんだよ? その間の話されたらどうすればいいの?」
亜美「……でも、最初入れ替わった時も昔の話を曖昧に返事して大丈夫だったし……」
真美「だけど、もし、友達が気がついたら……」
亜美「……」
真美「真美達絶交されちゃうかもしれないよ!? それに、そのあと嘘つきって、いじめられちゃうかもしれないんだよ!?」
亜美「……それは」
真美「うあうあー! もうどうすればいいのか分かんないよ~!」
真美「元のクラスの子と遊びたいよ~!」
亜美「……真美が悪いんだよ!」
真美「え?」
亜美「真美が入れ替わろうなんて言わなかったら、こんなことにはならなかったんだよ!」
真美「なにそれ! 亜美だって面白そうって言ってたじゃん!」
亜美「うるさいうるさい! 全部真美のせいなんだ!」ポカ
真美「痛い! この! 亜美のくせに!」ポカ
亜美「やったな! もう絶対許さないよ」ボカボカ
真美「~っ! このぉ!」ボカボガ
ギャーギャーワーワー
~~~
真美「……パパとママに怒られちゃったね」ボロ
亜美「……うん、すっごく」ボロ
真美「亜美、大丈夫? 思い切り殴っちゃったから、痛いでしょ?」
亜美「ううん、亜美も思い切りやっちゃったから、お互い様だよ」
真美「でも、私の方がお姉ちゃんなのに……」
亜美「違うよ」
真美「え?」
亜美「亜美、いや真美がお姉ちゃんなんだよ」
真美「亜美、何言ってるの?」
亜美「さっき、怒られたとき怖かったでしょ?」
真美「うん」
亜美「入れ替わってること、もし言ったら……もっともっと怒られちゃうよ? すっごくこわいよ?」
真美「……」
亜美「亜美、いや真美は、すっごく怖い思いしたくない。だから、戻るのは……無理なんだよ」
真美「そう……だね」
真美「元はといえば、真美が悪いんだよね……」
亜美「そうだよ」
真美「!」
亜美「真美が全部、悪いの」
真美「亜美なら、お姉ちゃんは悪くないって言ってくれると思ったのに……」
亜美「? 何言ってるの?」
真美「え?」
亜美「真美は、真美だよ? 亜美ったら自分のこと真美なんて言って、おかしいよ?」
真美「そこまで、するの?」
亜美「?」
真美「……ううん、なんでもない、亜美が間違えてた」
亜美「そっか」
真美「……」フルフル
亜美「泣いてもいいんだよ? だって、亜美は妹なんだから」
真美「っ! あ……真美……」
真美「うわあああああん!」
亜美「よしよーし」ナデナデ
亜美「もう、亜美ったら、本当に子供っぽいし、泣くし、本当に……」
亜美「真美も、お姉ちゃんも大変だよ……」ジワッ
亜美「ぅぅぅ……」ポロポロ
そうして、それから数年、気がつけば二人は小学校高学年になっていた。友達と話すたび、両親と話すたび、罪悪感に苛まれていた。
そんな、ある日の夜。
亜美「ねえ、亜美」
真美「何? 真美」
亜美「さっきね、お父さんに呼ばれて、それで聞いた話なんだけど」
真美「?」
亜美「私たち、今まで一緒の部屋で暮らしてたでしょ? でも、二人共そろそろ小さな子供じゃないんだから。別々の部屋で暮らしなさいって」
真美「!」
真美「それって、空いてる隣の部屋にどっちかが行くってこと?」
亜美「うん」
真美「それって」
亜美「真美は真美として生活して、亜美は亜美として生活しなさいって」
真美「そんなことしたら、今までは真美は亜美で、亜美は真美だったのが……」
亜美「うん、完全に、本当のことになっちゃう」
真美「……」
亜美「それで、思ってることがあるの」
真美「亜美も、思ってることがあるよ」
真美「同時に言おう?」
亜美「うん」
亜美真美「せーの」
亜美真美「正直にばらす」
真美「やっぱりかー」
亜美「同じこと思ってたねー」
真美「なんだかんだ言って双子だからじゃない?」
亜美「集めるものとかは、いつの間にか徐々に違くなってきたけどね」
真美「今更だよねー、あの時、素直に戻ってればよかったのに」
亜美「あの頃は真美も亜美もセイシンネンレー低くて、頭が回らなかったんだね」
真美「でも、今ならなんとかなる気がする」
亜美「たぶん、あの時よりも何十倍も怒られるけどね」
真美「でも、そのほうが楽でしょ?」
亜美「うん」
真美「じゃ、行こっか。お父さんまだ起きてるよね?」
亜美「お父さんとお母さん、二人共リビングにいるよ」
真美「それじゃ、行こう」
~~~
真美「怒られなかったね」
亜美「うん」
亜美「それどころか呆れてたよ」
真美「そんな嘘ついて、何を言ってるんだって」
亜美「嘘じゃないのにね」
真美「ねー」
亜美「……諦める?」
真美「そんなわけないでしょ!」
亜美「だよね!」
真美「明日から、クラスを入れ替える、いや、元に戻す!」
亜美「うん!」
~~~
真美「髪型を……入れ替えてと」
亜美「準備はいい? 亜美」
真美「そっちのほうができてないよ?」
亜美「……あ」
亜美「そうだよね、自分は今日から真美じゃない、亜美に戻るんだった!」
真美「そうそう!」
亜美「と言うか、利き手も戻さないと……」
真美「あ、そうだね」
亜美「大丈夫かなぁ、もうずっと右手で文字書いてないし」
真美「う、うん……」
亜美「かなり緊張するね……でも」
真美「やるしかない」
~~~
亜美(今までの真美)のクラス
亜美「おはよ~△△ちゃん!」
亜美(幸い、△△ちゃんは真美とずっと同じクラスだった。だから、いける!)
△△「あれ? えっと……真美ちゃん? だっけ?」
亜美「……え?」
△△「クラス間違えてるよ?」
亜美「いや、間違えてないんだよ? 実はね、今までずーっと真美と入れ替わってたんだ!」
△△「え?」
亜美「んーとね、うまく説明できないけど、△△ちゃんが今まで亜美だと思ってたのは、真美だったの! だから今目の前にいるのが、本物の亜美なの!」
△△「???」
亜美「今まで黙っててごめん! 許してくれる?」
△△「え? 意味がわからないよ?」
亜美「えぇ~、だから~」
担任1「はーい! みんな席について~!」
亜美「あーもう、タイミング悪い、また後でね」
△△「う、うん」
担任1「それでは出席をとります。~~くん、~~ちゃん」
亜美(んーどうやったらわかってもらえるのかな?)
担任1「双海亜美ちゃん」
亜美(う~ん)
担任1「……亜美ちゃん?」
亜美「え? あ、は~い! ごめんなさいぼーっとしちゃってた!」
担任1「……えっと」
亜美「うん?」
担任1「あなた、確か双子の、真美ちゃんよね」
亜美「先生何言ってるの? 亜美だよ?」
担任1「いいえ、あなたは真美ちゃんよ」
亜美「え? え?」
亜美(どういうこと? 外見だって、喋り方だって一緒だよね? なんでこんなあっさり……)
担任1「はぁ、担任2先生から悪戯好きと聞いていて、双子揃って悪戯好きなんだなとは思っていたけど、これはちょっと怒らないとだめね」
亜美「ねえ! 先生!」
担任1「何かしら?」
亜美「実は、今まで先生が亜美だと思ってたのが真美なんだよ! だから、今ここにいる亜美が本当の亜美なんだよ!」
担任1「……何を言っているの?」
亜美「え? だから本当の亜美は……」
担任1「いいかげんにしなさい!」
亜美「!」ビクッ
担任1「これは、たぶん亜美ちゃんも同じことをやってるのね」
亜美「え、あの、その」
担任1「みんなごめんね、一時間目は自習とします。真美ちゃん、私についてきなさい」
亜美「……はい」
亜美(なんでこんなことになってるの? わけわかんないよ!)
職員室
担任1「あ、担任2先生」
亜美(あれ? 担任2先生と真美がいる)
亜美(ってことは真美もバレたの? どうして?)
担任2「担任1先生、やっぱりでしたか」
担任1「はい、これは叱るべきかと」
担任2「真美ちゃん、ちょっと亜美ちゃんとそこに座ってなさい」
亜美「は、はい」
真美「どういうことなの、亜美」ヒソヒソ
亜美「亜美にもわかんない」ヒソヒソ
担任1「二人共、こっちを向きなさい」
亜美真美「はい」
担任2「どうしてこんなことをしたの?」
亜美「え? 亜美はただ、自分のクラスに……」
真美「真美も、自分のクラスに……」
担任1「……悪ふざけもほどほどにしなさい」
亜美真美「え?」
真美「先生? 真美は本当のことを言って……」
亜美「待って、亜美」
真美「!」(今、亜美が真美のこと亜美って!)
亜美「どうして、わかったの?」
担任1・2「声」
亜美真美「声?」
担任1「亜美ちゃんの声は、真美ちゃんの声よりもちょっと低いもの」
担任2「逆に、真美ちゃんの声は、亜美ちゃんよりちょっと高いから」
亜美「なるほどー、さすが先生! 真美、そこまで気がつかなかった!」
真美「……」
そう、いつも一緒にいるから気がつかなかったが、二人は、少しずつ変わっていたのだ。
その一番の特徴は声だった。
担任たちはああいっていたが、実際は、真美の声が低く、そして亜美の声が高かったのだ。
もう、手遅れだった。
数日後
亜美「うんしょ、うんしょ」
亜美「ふぅ、これで全部かな?」
共同の部屋から私物を全て持ち出し、隣に部屋に移した亜美は、額の汗を拭った。
真美「よかったの手伝わなくて、この量、ひとりじゃ大変じゃなかった?」
亜美「あ、亜美。大丈夫大丈夫、これくらい対したことないよ」
真美「……」
真美「ねえ、真美」
亜美「なに?」
真美「この前先生たちが言ってたでしょ? 二人は声が違うって」
亜美「うん」
真美「だったらさ、同じ声を出せるように練習すればいいんじゃない?」
亜美「……それはダメだよ」
真美「え? なんで!?」
亜美「それって、本当の自分って言えるの? 作った声でずーっとしゃべり続けて、それでいいの?」
真美「……」
亜美「って今更そんなこと言っても遅いのかな? もう本当の自分じゃなくなるし」
亜美が暮らす部屋のドアには、真美と書かれたプレートが付けられていた。
真美「……なんだか亜美の方がお姉ちゃんみたいだよね」
亜美「ん? あ、普通に呼んだのか、一瞬気がつかなかったよ」
亜美「そうかもね、振りをしているうちにお姉ちゃんっぽくなったかも」
真美「逆に真美は幼児退行? しちゃったねー」
亜美「あはは、そうだね」
真美「でもさ」
亜美「ん?」
真美「これからは、二人っきりの時だけは、本当の自分たちでいようよ」
真美「みんなの前では嘘つきでいても、亜美に対してだけは嘘つきでいたくないの。そう思ったの」
亜美「……」
亜美「やっぱり本当のお姉ちゃんは真美なんだね」
真美「え?」
亜美「真美の言うとおり、二人っきりのときだけだからね? 約束だよ?」ニコッ
真美「亜美……」
亜美「あぁ、これから部屋の片付けしなくちゃいけないから、また後でね?」
真美「う、うん」
真美は自身の部屋のドアを開け入ると、ドアを閉めようとした。
亜美「あー、真美!」
完全に閉める寸前のところで呼ばれて、真美は顔だけをドアからだした。
真美「なに~?」
見れば、同じように亜美もドアから顔だけを出していた。
亜美「さよなら、……私」
真美「! ……さよなら、私」
それだけを言って、二人はドアを閉めた。
END
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