【モバマスSS】P「幸子はカワイイなぁ」 凛「……」 (162)



輿水幸子「おはようございます! 今日もカワイイボクが来ましたよ!」

モバP(以下P)「おお、おはよう幸子」

渋谷凛「……おはよう」

幸子「はい、おはようございます」

P「すまんが俺はこれから営業があるんだ、構ってやれなくて悪いな」

幸子「ボクを置いていくだなんてなってないですね。プロデューサーさんはボクがいないと駄目なのに……まぁ、良いですけど」

P「すまんな。頭でも撫でてやるから我慢してくれ」

幸子「フフン、仕方ないですね……ん?」

凛「……」

幸子「……、ええと」

凛「……」

幸子「……、凛さん。何かボクの顔についてますか?」



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タイトルをモバPにし忘れてました、すいません



凛「いや。別に。何でも」

幸子「その割にボクのことじっと見てませんでしたか?」

凛「別に」

幸子「……?」

幸子(気のせいだったんでしょうか)

P「じゃあ、俺はそろそろ行くな」

幸子「早く戻ってきてくださいね。ボクをほったらかしにしちゃ駄目なんですから」

P「分かってるよ」

凛「……」

幸子(行ってしまいました)

幸子(プロデューサーさんと話すために早めに来たのに、手持ち無沙汰になったじゃないですか、もう)

幸子(ちひろさんと凛さんしかいませんし、どうしましょうか)


幸子「……」

凛「……」

幸子「……」

凛「……」

幸子「……ええと」

凛「……」

幸子(……き、気まずい)

幸子(あまり凛さんって自分から話すタイプではないですし、共通の趣味なども特にあるわけでもなく)

幸子(お仕事も、別に一緒にはならないですし)

幸子(まぁ、ボクがカワイイという話題であれば誰であっても共通の認識になるといえば、そうなんですけれど……)

凛「……ねぇ」

幸子「あ、え、はい」

凛「突っ立ってないで、座ったら?」

幸子「あ、はい」

凛「……」


幸子(言われたとおり座りましたけど)

凛「……」

幸子(なんで一番遠い対極に座るんですか)

幸子(これじゃ話しかけづらいじゃないですか)

凛「……」

幸子(表情を見る限り、あまり機嫌が良さそうとは思えませんし、下手に話しかけないほうが良いのかも……)

凛「……ねぇ」

幸子「え、はい」

凛「一昨日、仕事終わり、プロデューサーと二人で帰ったでしょ」

幸子「えぇと……はい。それが何か?」

幸子(プロデューサーがボクの傍にいるのは当たり前ですからね)

凛「……」

幸子「え、っと」

凛「……何もなかった?」

幸子「?」

凛「……いや、良い。何もなかったのなら良い」

幸子「あ、凛さん。どこ行くんですか?」

凛「レッスンだよ」


幸子「じゃあ、ボクも行きます」

幸子(ちょっと早いですけど、一人でいてもつまらないですし)

凛「……」

幸子「ちょっと待ってくださいね。今準備してきますから」

凛「……間違えた」

幸子「え?」

凛「レッスンじゃなくて、仕事に行くんだった。じゃ」

幸子「え? え? ひ、一人で行くんですか?」

凛「すぐ近くだから。だから構わないで」

幸子「え、あっ……」

幸子(行ってしまいました)

幸子(何だったんでしょう)

幸子(何だか避けられているような……)

幸子(……)

幸子「いや、まさか」

幸子(そんなはずありません。避けられる理由なんてありませんし)

幸子(……)

幸子(まさか、そんな……)


別の日


幸子「おはようございます」

P「凛は駄目、と……」

幸子「凛さんがどうかしたんですか?」

P「あぁ、幸子。おはよう。いや、実はな。この間営業で貰ってきた仕事なんだがな」

P「幸子と凛にやってもらおうと思ったんだが、凛の方が学校行事と重なってるみたいでな」

幸子「そうなんですか」

幸子「……」

幸子(昨日のあれは……関係ないですよね)

P「代わりはまゆにやってもらうか」

佐久間まゆ「はぁい」

幸子「ひっ」

まゆ「うふ。そんなに驚かなくても良いじゃないですかぁ」

幸子「い、いきなり真後ろから現れたら驚きます!」

まゆ「うふ」

P「じゃあまゆ、悪いが今回もまた頼むな」

まゆ「Pさんの頼みなら、まゆ、なんでも従いますよ」

幸子(……また?)


幸子「……あの、まゆさん」

まゆ「なぁに?」

幸子「今、“また”、って言いましたよね」

まゆ「……それが、どうかしたかしら?」

幸子「いえ……。何だか、以前も代役をやった様な言い方だったので」

まゆ「……」

幸子「……」

まゆ「……うふ。それくらい、忙しい芸能界ではよくあることじゃないかしらぁ」

幸子「そう、ですよね」

まゆ「そうですよぉ」

幸子「……」

まゆ「まだ何か、気になるんですかぁ?」

幸子「いえ」

幸子(……気になる、こと)

幸子(ここ最近、まゆさんとの仕事が多いのは偶然なんでしょうか)

幸子(反対に、凛さんとの仕事がないのも偶然なんでしょうか)


別の日


幸子「おはようございます」

凛「……おはよう」

幸子「……はい」

凛「……」

幸子「……」

凛「……」

幸子「……あの」

凛「……何」

幸子「この間の学校行事って、なんだったんですか?」

凛「……」

幸子「……」

凛「……それは」

幸子「それは」

凛「……」

幸子「……言えないんですか?」


凛「別に、そういうわけじゃない」

幸子「じゃあ、なんだったんですか?」

凛「……別に」

幸子「教えてください」

凛「近いよ。離れて」

幸子「……すみません」

まゆ「凛ちゃん、何やってるんですかぁ?」

凛「……まゆ」

まゆ「あら、幸子ちゃんも。おはよう」

幸子「……おはようございます」

まゆ「Pさんが待ってますよぉ」

凛「今行く。ごめん幸子、急いでるから」

まゆ「ごめんなさいね、撮影があるんです」

幸子「……いえ。行ってらっしゃい」

幸子(やっぱりボクは、避けられてるんでしょうか)


別の日


P「あれ、幸子、髪留め変えたのか?」

幸子「ええ、カワイイですよね」

P「悪くないじゃないか」

幸子「もっとはっきり褒めてください」

P「いつもカワイイって褒めてるじゃないか」

幸子「もっとカワイイって言って下さい、プロデューサーさんならそれくらい分かってほしかったです」

P「凄いカワイイ、思わず手が勝手に頭を撫でてしまうくらいにカワイイ」

幸子「まぁ、良いでしょう。プロデューサーさんにしては悪くない褒め方ですね。じゃあ撫でてください」

P「はいはい」

幸子(まぁ、髪留めを変えたのは、ちょっとした気分転換なんですけれど)


凛「……」

幸子(凛さんがこちらを見ています……じっと見ています)

幸子(怖いです)

まゆ「……」

幸子(まゆさんも見ていました……)

まゆ「……うふ」

幸子(笑っているはずなのに、何故だか怖いです)

P「そうだ、幸子。新しい仕事、持ってきたぞ」

幸子「そうですか。カワイイボクにふさわしい仕事なんですよね?」

P「それはもう、勿論」

幸子「……」

P「なんだいその疑いのまなざしは」

幸子「……そう言って、スカイダイビングやらせたのは誰でしたっけ」

P「誰だったかなぁ」

幸子「とぼけないで下さい! 遊園地だって水で濡れましたし……」

P「水バシャーンの奴か。いやぁ、アレはすごかった」

幸子「凄かったですし、酷かったですよ! なんでちゃっかり自分だけレインコートを買ってるんですか!」

P「てへ」


凛「プロデューサー……はぁ、全く」

まゆ「……」

幸子(た、溜息……)

P「ん。そろそろレッスンの時間じゃないか?」

幸子「あ、はい。行って来ます」

P「凛にまゆ、二人も行って来たらどうだ?」

まゆ「はぁい」

凛「……私は」

凛「……」

幸子「……」

幸子(今、ボクの事見ましたよね……)

まゆ「凛ちゃん」

凛「……分かったよ。まゆがいるなら、まぁ」

幸子「……」


レッスン場


トレーナー「はい、レッスン終わり」

三人「ありがとうございました」

幸子(はぁ、疲れた。汗拭いて、何か飲もう)

P「お疲れ、丁度終わったか」

幸子「プロデューサーさん。どうしたんですか? カワイイボクに会いに来たんですか?」

P「まぁそんなところかな。ほれ飲み物」

幸子「あ、ありがとうございます」

P「凛とまゆも、ほれ」

凛「ありがとう」

まゆ「ありがとうございます」

P「どうだ、調子は?」

幸子「いつも通り、カワイイですよ」

P「それは知ってる」

凛「……」

まゆ「……」


幸子(……また、二人が見てます)

凛「……私、先に帰る。お疲れ」

幸子「えっ」

P「もう帰るのか」

凛「うん。ちょっと用事があるから」

P「そうか。気をつけて帰れよ」

凛「まゆ、行こう」

まゆ「……そうですねぇ」


P「変な二人だな」

幸子「……」

P「幸子?」

幸子「すみません、ボクもちょっと出かけます!」

P「え? お、おう……」


幸子(多分更衣室に二人とも……)

幸子(……、声がします。二人の声ですね)

幸子(凛さんに何故避けられているのか、知りたいです)

幸子(ばれないように、と……)


まゆ「凛ちゃん。ちょっとあれは露骨だったんじゃありませんかぁ」

凛「……」

まゆ「ただでさえここ最近、幸子ちゃん怪しんでるんですから」

凛「えっ、それ、本当?」

まゆ「この間、一緒の仕事断ったじゃないですかぁ。あの辺りから、幸子ちゃん、凛ちゃんのこと見てますよ」

凛「幸子が? 私を? ……はぁ。参ったな」


幸子「……」

幸子(……、やっぱり、学校行事というのは、嘘だったんですね)

幸子(なんでそんな嘘なんかついてまで、ボクと一緒の仕事を断るんですか)

幸子(そんなにボクの事、嫌ってるんですか)


──ガタッ



凛「っ。誰かいるの?」

幸子(あっ、しまった)

まゆ「まさか……幸子ちゃん?」

凛「え……まさかそんな」

幸子(ど、どうしましょう。逃げないと)

凛「こっちの方から……あ」

幸子「あ」

まゆ「あら……」

凛「……」

幸子「……」

凛「……」

幸子「……え、と」

凛「……どこから」

幸子「え?」


凛「どこから聞いてたの?」

幸子「え、あ」

凛「ねぇ。聞いてたんでしょ、私たちの話」

まゆ「凛ちゃん、落ち着いて」

凛「私は落ち着いてる」

幸子「あ、その」

まゆ「全くそんな風には見えませんよぉ」

凛「落ち着いてるって言ってるでしょ。ねぇ幸子、答えて」

幸子「……、……。ごめん、なさい」

凛「……あ」

まゆ「……あ」


幸子「ボ、ボク、そんなつもり、なくて、だって、凛さん、が」

凛「さ、幸子。泣かないでよ」

まゆ「泣かせたのは凛ちゃんですよ」

凛「分かってるけど……!」

幸子「なんで、ボクの、こと、避けるん、ですか」

凛「避けてたわけじゃ……いや、避けてたかもしれないけど」

幸子「お仕事、断ったり、したじゃない、ですかぁ」

凛「う……」

幸子「嫌いなら、嫌い、って、はっきり言ってください!」

まゆ「ばっちり聞かれていましたねぇ」

凛「まゆ……」

まゆ「駄目ですよぉ。こうなったら、ちゃぁんと自分の口で言ってあげないと」

凛「……、……」

幸子「ひっく、ぐす」

凛「んむぅ……」

凛「……、分かった。言うよ」


凛「えぇと。私は幸子の事嫌ってなんかないよ」

幸子「だって」

凛「その逆と言うか……なんと言うか……」

まゆ「分かるように言ってあげないと」

凛「分かってる、分かってるよ、もう」

凛「あー、えぇと。ほら、幸子って、良く自分の事カワイイって言うじゃん」

幸子「それが、鬱陶しかった、んですか」

まゆ「はい鼻かんで幸子ちゃん」

幸子「ん……」

凛「違う違う。その通りだなって」

幸子「ちーん……んぇ?」

凛「だから。幸子の言う通りなんだって」

幸子「……」


凛「幸子が、可愛すぎるの!」


幸子「……」

幸子「……え?」


幸子「じゃあ、ボクが事務所でプロデューサーさんに撫でられている時に睨んでいたのは」

凛「睨んでたんじゃないよ。撫でられてる幸子カワイイなぁって思ってただけだよ」

幸子「じゃあ、ボクの対極に離れて座ったのは」

凛「正面は近いから、ちょっと恥ずかしくてさ……」

幸子「じゃあ、ボクとプロデューサーさんが二人で帰ったことを聞いてきたのは」

凛「幸子カワイイから、プロデューサーが何かしないか不安で」

幸子「……、じゃあ、一緒のお仕事を断ったのは」

凛「……本当にごめん。二人きりって考えると、緊張で台本どころじゃなくて」

幸子「えぇ……」

凛「いや、本当にごめん」

幸子「いえ、理由が分かったので良いですけど……」

幸子(良いんでしょうか。いや、まぁ、なんかもう良い様な気がしてきました)


幸子「あれ、じゃあ、レッスンの時にボクをじっと見てたのも」

凛「頑張る幸子カワイイ」

幸子「……はい」

凛「髪留め似合ってるよ」

幸子「開き直ってません?」

凛「そうするしかないでしょ」

まゆ「凛ちゃん、誤解受けやすいから」

幸子「本当ですよ。クールすぎるのも考え物です」

凛「……いや、そんな」

まゆ「褒めたわけじゃないと思いますよぉ」

凛「え、そうなの」

幸子「どっちでもいいですもう」

凛「幸子に褒められたよ」

まゆ「良かったですねぇ」


幸子「……はぁ。なんだかほっとして、一気に疲れが出ました」

まゆ「精神的に張り詰めていましたからねぇ」

凛「反省してます」

まゆ「着替えたら、ご飯でも食べに行きましょうか」

幸子「ボクは構いませんよ」

凛「うん、悪くないかな」

幸子(良かった……ボクの勘違いで)

凛「……そういえば、さっき気付いたんだけど」

まゆ「?」

幸子「?」

凛「鼻をかんでる幸子もカワイイと思う」

幸子「……」

まゆ「……」

凛「あれっ、駄目かな」

幸子「いや、駄目と言うか……」

まゆ「いいんじゃないですか……」

凛「二人してそんな反応しないで!」

一旦終わりです。

酉つけてくれー

体調不良で死にそう。
個人的には別に百合と言う意識では書いていません

>>32
これでいいでしょうか?


ファミレス


凛「……座席か」

幸子(何か考え込んでますね……)

まゆ「大した事考えてませんよ、あの顔は」

幸子「えっ」

まゆ「大方、幸子ちゃんの隣に座るべきかどうかとか、そんな事です」

幸子「まぁ、三人ですから、一対二になるしかないんですれけど」

まゆ「でも凛ちゃんは、面と向かって隣に座ろうって言えない性格ですから」

幸子「確かに……」

幸子(もしいえていたら、事務所であんな感じになっていませんし)

まゆ「なので、まゆが幸子ちゃんの隣に座りますね」

凛「えっ」

まゆ「じゃあ凛ちゃんが座りますか?」

凛「……いや、それは……」

幸子(今は事情が分かっているから落ち着いていられますけど、傍から見たらやっぱりこれ、ボクが嫌われているように見えるんじゃ……)


凛「いっそ幸子を真ん中にして、三人で座る、とか」

まゆ「名案を思いついたみたいな顔しないで下さい」

幸子(表情の違いが良く分からない……)

まゆ「ファミレスで、三人が同じ座席に座っているところ見たことありますか?」

凛「無いね」

幸子「自分で言って自分で堂々と否定しないで下さいよ」

まゆ「というか、それが出来るなら、幸子ちゃんと二人で座れるでしょう」

凛「あっ」

幸子「自分で言って自分で驚かないで下さいよ」


幸子(結局、ボクが一人で座ることになりました)


凛「ふーん。初めて来るけど、まぁ、悪くないかな」

幸子「以前プロデューサーさんに連れて行ってもらった事があるんです。中々美味しいですよ」

凛「……プロデューサーが、ねぇ」

まゆ「Pさんが、ですかぁ」

幸子(ひぃ)

凛「それは二人で?」

幸子「は、はい」

凛「ふーん」

まゆ「へぇ……」

凛「……」

まゆ「……」

幸子(ひぃ)


幸子(まゆさんは、普段からプロデューサーさん一番を公言していますから、分かりますけど)

幸子(凛さんの反応は何なんでしょう)

幸子(……、もしや、凛さんもプロデューサーさんを?)

幸子(……)

幸子(……ありえ、る、んでしょうか)

幸子(傍から見ていると、恋愛感情と言うより、信頼とかそういう類のものだと思っていたんですけれど)

幸子(ボクの思い違いで、実は凛さんもまゆさんと同じで、プロデューサーさんを大事に思っているとか?)

幸子(だとしたら、ボクに対する先ほどまでの言葉は建前で、本音はやっぱりプロデューサーさんと仲の良いボクへの牽制……?)

幸子(なんだか良く分からなくなってきました)


凛「何か凄い考え込んでる」

まゆ「そうですねぇ」

凛「可愛い」

まゆ「そうですねぇ」


まゆ「まぁ、幸子ちゃんが何を考えているかは大体分かりますけど」

凛「私も」

まゆ「……本当ですか?」

凛「当たり前でしょ。幸子だよ?」

まゆ「……じゃあ言ってみてください」

凛「デザートを何にしようか悩んでるって顔だね。チーズケーキかショートケーキかって所かな」

まゆ「多分的外れだと思いますけど」

凛「私としては、ブルーベリーのシャーベットなんかいいと思うんだけどな」

まゆ「聞いて」

凛「それより、ブルーベリーって、ブルーって言う割にはブルーじゃないと思わない? ブルーと名乗るからには、もっと蒼くなるべき」

まゆ「ねぇ聞いて。いや黙って」


幸子「何の話ですか?」

凛「ブルーベリーの色素詐欺の」

まゆ「いえ何でも。何を頼むか決まりましたか?」

幸子「あ、えぇと、そうですね……」

凛「ちょっとまゆ」

まゆ「はい凛ちゃんも早く選んでくださいね」

凛「むむ……」

まゆ「ところで幸子ちゃん」

幸子「はい?」

まゆ「その、Pさんと二人でお食事したのは、先週の今日じゃありませんか?」

幸子「何故それを」

まゆ「うふ」

幸子(……聞いても薮蛇になりそうですからやめましょう)

幸子(別に怖いわけじゃないですよ、本当です)

幸子(……怖い)

凛「ドリンクバーにブルーハワイがある。やった」


まゆ「全員決まりましたかぁ?」

幸子「はい」

凛「私も決まったよ」

まゆ「じゃあ店員さんを呼びますね」


店員「ご注文お伺いいたします」

幸子「えぇと。明太子のスパゲティをサラダセットで、デザートは豆乳のムースケーキでお願いします」

凛「くっ……」

凛(読みが外れた)

まゆ「声に出てますよ」

幸子「?」

凛「なんでもないよ。私は、鮭と帆立のバター焼き定食、それとドリンクバー」

まゆ「ブルーベリーは頼まないんですか?」

凛「ブルーベリーはブルーじゃないからね」

幸子「いやちょっと意味がわからないです」


まゆ「私は、そうですねぇ……」

まゆ「国産牛と鶏肉のミックスグリル、ご飯は少なめでお願いします」

幸子(……)

店員「かしこまりました。ご注文は以上でよろしいですか?」

まゆ「はぁい」

店員「少々お待ちくださいませ」

凛「まゆにしては、珍しい注文だね」

まゆ「そうですかぁ?」

凛「あんまりそういう濃いメニューを頼むイメージが無いから」

まゆ「えぇ。まゆもそう思います」

凛「じゃあなんで?」

まゆ「まぁ、色々とです」

凛「……?」


幸子(……)

幸子(……いや、うん)

幸子(ただの偶然ですよね)

幸子(まゆさんが頼んだ料理が、前回プロデューサーさんが頼んだ料理と一緒なんて、そんなの)

幸子(ただの偶然ですよね)

幸子(だってまゆさんはボクとプロデューサーさんが二人でここに来ていたことを知らなかったんですから)

幸子(だからあの時プロデューサーさんが何を頼んだかなんてこと、分かるはずが……)

幸子「……」

まゆ「……」

幸子「……」

まゆ「……うふ」

幸子「」


幸子(あ、これ分かってて頼んだやつだ)


凛「ドリンクバー行って来る」

まゆ「いってらっしゃい」

幸子「いってらっしゃい」

凛「……」

幸子「……? 凛さん? どうしたんですか?」

凛「幸子」

幸子「あ、はい」

凛「もう一回、“行ってらっしゃい”って」

まゆ「さっさと行ってきてください」


幸子「……」

まゆ「……」

幸子「……」

まゆ「……」

幸子「……」

まゆ「……」

幸子(いや、気まずい!)

幸子(なんだったら凛さんのときより気まずい!)

幸子(凛さんと違って、表情こそ穏やかですけれど、本心がまるで分からないと言う点では、凛さんと変わりませんし)

幸子(それに、プロデューサーさんとの事を考えると、下手に踏み込まない方が良いのかもしれません)

幸子(凛さんが戻ってくるまで、少しの辛抱でしょうから……)

まゆ「ねぇ、幸子ちゃん」

幸子「はい!」

まゆ「そんな驚かないで下さい。ところで、幸子ちゃんは、随分Pさんと仲が良いんですねぇ」

幸子(あぁ、逃れられない!)


一方ドリンクバー


凛「……」

凛(二人がどんな会話をしているのか気になる)

凛(私を置いて盛り上がってたらどうしよう)

凛(一刻も早く戻りたい)

凛(……なのに)


子供1「オレンジとグレープとブルーハワイかー。どれにしよう」

子供2「かがくの ちからって すげー」

子供3「ふわぁー……」


凛(子供がいてドリンクをくめない……!)


凛(しかも、私と同じシャーベット狙い)

子供1「全部まぜようぜ全部」

子供2「やるやるー」

子供3「おいしくー……なるのー……?」

凛(これ、傍から見たら、私も子供たちと一緒に見られるのかな)

凛(それはちょっと……さすがに恥ずかしいな)

凛(……)

凛(……)

凛(……コーヒー飲も)


凛「ごめん、遅くなった」

まゆ「あら、コーヒーにしたんですか」

凛「……うん、まぁね」

まゆ「周りの目が気になったんですかぁ?」

凛「別に……それより、何話してたの」

まゆ「うふ。内緒です。ねぇ?」

幸子「え、えぇと」

凛「……」

幸子「に、睨まないで下さい」

凛「あ、いや、そんなつもりじゃ」

まゆ「うふ。これはね、睨んでるんじゃなくて、仲間はずれが寂し」

凛「そんな事ない、全然そんな事ない」

幸子「あ、はい……」


凛「まぁ、まゆに限って、変な事言ったりはしてないと思うけど」

凛「もし酷い事言われたらいつでも相談するんだよ」

幸子「あ、はい」

まゆ(そこで“自分に”って言えないあたりがまた、なんとも奥手と言うか何と言うか)

凛「……そういうわけだから、さっき何話してたのかを」

まゆ「台無しです」

凛「いや、うん。やっぱり少し気になると言うか」

まゆ「お仕事の話ですよ。ねぇ?」

幸子「はい! そうです!」

凛「まゆ」

まゆ「ドスを利かすのは本当に止めて、本当に怖い」


店員「お待たせしました」

凛「どうも」

幸子「それじゃあ、頂きます」

まゆ「……」

凛「……まゆ? どうしたの?」

幸子「?」

まゆ「いえ、気にしないで下さい」

まゆ(あー……これ、あー……)

まゆ「……フー……フー……」

まゆ(熱っつぅ……!)

まゆ(しまったぁ……! 自分が猫舌なの忘れてましたぁ……!)

幸子(熱そう)

凛(パスタを食べる幸子可愛い)


幸子(まぁ、鉄板で焼かれたばっかりのお肉ですから、それが普通なんですよね)

幸子(プロデューサーさんは、そこまで猫舌ではないみたいだったので、忘れてましたけど)

幸子(というより、プロデューサーさんの場合、どんな料理にもドリンクをかけるのだけは止めて欲しいですね……)

幸子(さすがにエナ茶漬けはボクもドン引きです)

幸子(幾ら言っても、栄養があるの一点張りで、聞いてくれないんですよね……)

まゆ「……フー……アー……」

幸子(っていうか、まゆさん本当泣きそうなんですけど)

幸子(猫舌からしたら地獄のようなものなんでしょうね……)

まゆ(お水……お水……)

幸子「あ、ボクが酌みますよ」

まゆ「あ、ありがとう」

凛「……」

幸子「その手があったかみたいな顔しないで下さい」


幸子「そんなに熱いですか?」

まゆ「熱くないですよ」

幸子「えっ」

まゆ「熱くないです」

幸子「……」

まゆ「……」

幸子「……熱く」

まゆ「ないです」

幸子「そうですか」

まゆ「はい」

幸子「……」

まゆ「……」

幸子「……お水、お替りいりますか?」

まゆ「……はい」


まゆ(ようやく食べられる温度になりましたね)

まゆ(……二人とも、もう食べ終わりそうなんですけどね)

まゆ(そして熱さという問題が解決して、また新たな問題に直面しました)

まゆ(それは……)

まゆ(多くて、食べきれないという事……!)

まゆ(元々自分が食べる方じゃない上に、お水三杯も飲んだせいで、もう入りません)

まゆ(ご飯少な目なんて気休め程度にもなりませんでしたぁ……!)

凛「なんで頼んだのさ」

まゆ「言わないで下さい……うぅ」

幸子「少し食休みしたら、出ましょうか」

凛(結局私、ブルーハワイ食べてない)





まゆ「お腹一杯です……」

凛「みたいだね」

幸子「少し歩きましょうか」

凛「二人はこれからどうする?」

まゆ「まゆは寮に戻ります」

幸子「そうですね……。ボクも、事務所によって、寮に帰ることにします」

凛「そう」

幸子「凛さんは?」

凛「ん……。私も、家に戻ろうかな」

幸子「そうですか」

凛「まゆの事、頼んで良い?」

幸子「えぇ」

凛「じゃあ、お願い」

凛「……それと。また、今度、食べに行こう」


幸子「えぇ、良いですよ。ボクはカワイイですからね」

凛「……」

まゆ「幸子ちゃん」

幸子「あ、えぇと。なんとなく分かりますよ」

幸子「喜んでくれてるんですよね?」

凛「……」

まゆ「……」

幸子(え、ま、まさか違った……?)

まゆ「いいえぇ、合ってますよ。図星を刺されて恥ずかしがってるんです」

凛「ちょっと、まゆ」

まゆ「間違ってますか?」

凛「……、……。合ってるから困ってるんだよ」

まゆ「ふふ」


夜 


まゆ「やっとお腹も落ち着いてきました……」

Prrr...

まゆ「……あら、凛ちゃんから」

まゆ「もしもし」

凛「もしもし、まゆ? 今大丈夫?」

まゆ「えぇ、どうぞ」

凛「あー……」

凛「……、……。今日は、ありがと」

まゆ「まゆは何もしてませんよ」

凛「そんな事ない。二人だったら、多分殆んど会話なかったと思う」

まゆ「でしょうねぇ」

まゆ(二人だけだったら、そもそも、誤解が解けていないでしょうから……食事自体行っていなかったでしょうし)

凛「……それだけ」

まゆ「そうですかぁ」



まゆ「本当にそれだけですかぁ?」

凛「って言うと?」

まゆ「何だか、他にも何かいいたさそうだったので」

凛「……、……」

まゆ「まゆでよかったら聞きますよぉ」

凛「……、じゃあ、少しだけ」

まゆ「えぇ、どうぞ。明日仕事なので、あんまり長くh」

凛「今日の幸子、可愛かったよね」
凛「あぁ、いや、今日のっていうか、今日も、なんだけどさ」
凛「幸子って食べ方も丁寧なんだよね。やっぱり結構良い所のお嬢様なのかな」
凛「桃華ほどではないにせよ、なんとなくそんな感じはするよね。普段の言葉遣いとかもそうだし」
凛「幸子が食べてるの見て、思わず夜は私もパスタにしちゃったよ」
凛「悪くなかったけど、ただ、自分が食べるとちょっと違うんだよね。なんだろうね」
凛「幸子が左利きだからかな。関係ないね、うん」

まゆ「」


凛「そういえば、次のライブ、幸子と一緒になったんだ」
凛「丁度タイミングよくプロデューサーに持ちかけられてね」
凛「前は断って幸子とプロデューサーに悪いことしちゃったから、挽回出来てよかったよ」
凛「いや、挽回はこれからかな。上手くライブを終わらせて始めて挽回って言えるよね」
凛「だからレッスンもしないと」
凛「正直緊張するよ」
凛「まゆ? 聞いてる?」

まゆ「えぇ、聞いてますよ……」

凛「そう。じゃあ続けるね」

まゆ「ちょ、ちょっと待ってください」

凛「なに?」

まゆ「いえ、まゆ明日早いので……」

凛「そうなんだ」

まゆ「えぇ」

凛「それで、続きだけど」

まゆ(続けるのかよ)


翌日


まゆ「おはよう、ございます」

P「随分眠そうだな」

まゆ「大丈夫です……」

まゆ(あのあと結局数時間話を聞く羽目になりました)

P「二十分後に出発だけど大丈夫か?」

まゆ「はぁい」

P「何か飲まなくて平気か?」

まゆ「はぁい」

P「瞼が下がってるけど大丈夫か?」

まゆ「それは元からです」

P「すいません」

幸子「おはようございます!」

P「おぉ、幸子。おはよう」

幸子「はい、おはようございます」


幸子「何だか、凄い眠そうですね……大丈夫ですか?」

まゆ「えぇ、平気ですよ」

幸子「何か飲み物淹れましょうか?」

まゆ「そのやり取りはもうやったから、まゆの目から離れてね」

幸子「あ、はい」

幸子「……っと。凛さんからメールだ」

まゆ(あら、いつの間に交換したんですね)

幸子「……」

まゆ「どうしたんですかぁ?」

幸子「いえ、別に」

まゆ「見ても良いですか?」

幸子「どうぞ」


凛『おはよう』


まゆ(えっ)

幸子「これ、なんて返すべきなんでしょうね……」

まゆ(もっと他になかったのかしら)


幸子「もしかしたら、途中で送信してしまったのかもしれませんね」

まゆ(多分それで全文だと思う)

まゆ(奥手ねぇ)

幸子「……、それとも、照れてるんでしょうか」

まゆ「凛ちゃんのことだから、多分そうですねぇ。分かるようになったんですか?」

幸子「いえ、正直、全然」

幸子「あんまり表情変わりませんし、声低いですし、背高いですし」

幸子「でも、ボクの様なカワイイ相手にメールを送るんですから、照れるのも仕方ありませんね」

まゆ(だいたいあってる)

P「今朝飯食べるから、ちょっと待っててくれ」

まゆ「はぁい」


P「ご飯良し、エナ茶良し。さて──」

幸子「プロデューサーさん! それはもうやめてくださいって言いましたよね!」

P「えー」

幸子「えーじゃありませんよ。そんな不健康そのものな食事、見てるほうも嫌ですよ」

P「じゃあふりかけご飯にするか」

幸子「……おかか?」

P「スタドリを乾燥させたものだけど?」

幸子「却下ですよ! 今日びモルモットだってもっとマトモな食事してますよ」

まゆ(明日はお弁当を作りましょう)

P「幸子は細かいなぁ。じゃあこれでいいか」

幸子「CPブレッド……うーん……まぁ、それなら」

P「あ、杏の奴、俺のTPキャンディー持ってきやがったな……全く」

幸子「本当に体壊しますよ」


P「幸子は心配性だなぁ」

幸子「プロデューサーさんがだらしなさすぎるんです。もし倒れたら誰がボクのプロデュースをするんですか」

幸子「ボクのために、ちゃんと体調管理してください」

P「幸子はカワイイなぁ」

幸子「当たり前です!」

ねたぎれ おわり

今更ですが月末に輿水さんがきてたので何か書きます

月末輿水さん編


プール



幸子「来るべき夏、ついにボクにも水着の仕事がやってきました」

幸子「天使でもありマーメイドでもあるボクにぴったりな仕事ですね」

幸子「ボクほどのカワイイ子が水着になってしまったら、きっと世界中の男性が失神してしまうのではないでしょうか」

幸子「そう思うと、慈悲深いボクは自分のカワイさに罪さえ覚えてしまいます」

幸子「あぁ、どうしましょう」

幸子「……」

幸子「……」

幸子「……」

幸子「……本当、どうしましょうか」

まゆ「じゃあまずビート板からにしましょうね」


幸子「決して泳げないわけではないんですよ」

まゆ「あらぁ」

幸子「ただ、ボクは、自分にも厳しいだけなんです」

まゆ「へぇ」

幸子「だから、こう。完璧なフォームを求めているだけです」

まゆ「そうなの」

幸子「カワイイボクに相応しい、綺麗で優雅なフォームをですね」

まゆ「うふふ」

幸子「だからですね、ちょっと、待ってください」

まゆ「泳げるのなら、ビート板は要らないですよね?」

幸子「預からないで下さい、お願いします」

まゆ「うふふ」


幸子「というか」

まゆ「?」

幸子「なんでまゆさんは水着じゃないんですか?」

まゆ「まゆが練習するわけじゃないですからねぇ」

幸子「まぁ、そうなんですけど」

まゆ「というより、出かけ先で急に呼び出されましたからねぇ」

幸子「あぁ……」

まゆ「……」

幸子「……」

まゆ「……」

幸子「……えっ、誰にですか?」

まゆ「凛ちゃんに」

幸子「あぁ……」


まゆ「そして人を急に呼びつけた挙句、水着の幸子ちゃんを見て放心状態の凛ちゃんがこちらになります」

凛「……」

幸子「ツッコミ待ちなのかと思ってスルーしてましたけどね」

まゆ「駄目ですねぇ。ウンともスンとも言いません」

幸子「壊れたラジオじゃないんですから……」

まゆ「ならいっそ叩いてみましょうか」

幸子「チョップでテレビがどうのって奴ですか? あれってチョップの衝撃自体が直る原因じゃなくて、それによって接触不良を起こしていた埃が落ちるのが理由って聞きましたけど」

まゆ「なら合ってますねぇ」

幸子「えっ」

まゆ「……叩けば埃が出そうじゃないですかぁ」

幸子「……えっ」

まゆ「総選挙のあと、凛ちゃんとPさんが二人で出かけたのは知ってるんですぉ……」

幸子「」


まゆ「うふふ。チョップ……そうね、チョップといえば、智絵里ちゃんもPさんになにか擦り寄ってましたねぇ」

幸子「……ボクオヨイデキマス」

まゆ「どうして皆まゆとPさんの邪魔をするのかしら。赤い糸は一本で十分なのに」

幸子(ボクも九位だったから褒めてもらったって言おうものなら、ここが墓場になりそうですね……)

まゆ「そういえば、幸子ちゃんも、Pさんに褒めてもらったんですよねぇ?」

幸子「……ほわっつ?」

まゆ「Pさんはあまりプライベートでお金を使う人ではないので、確かに余裕はありますけど、ねだりすぎるのは駄目ですよ?」

幸子「なんのことでしょうか、ちょっと今日本語が分からないです」

まゆ「うふ。今回は、見逃してあげますよ……」

幸子(ひぃ)


凛「……はっ」

まゆ(あ、起きた)

凛「……ここは」

まゆ「プールですよ」

凛「プール……」

まゆ「幸子ちゃんに泳ぎを教えにきたんでしょう?」

凛「……あぁ。そうだった」

凛「それで、幸子は?」

まゆ「直立不動で固まる凛ちゃんに呆れて帰りましたよ」

凛「えっ」

まゆ「嘘ですよ」

凛「あ、あぁ。嘘か。脅かさないでよ」

まゆ「呆れてたのは本当ですけどね」

凛「えっ」

まゆ「はいはい、よしよし」


幸子「あ。起きたんですか」

凛「……」

幸子「……凛さん?」

凛「……ったんだ」

幸子「?」

凛「ヴァルハラはここにあったんだ……」

まゆ「何言ってるんですかこの人」

幸子「……」

まゆ「幸子ちゃんがマジで引いてる」


凛「それにしても。なんで幸子、スクール水着なの?」

幸子「普段泳ぎませんからね……」

まゆ「確か幸子ちゃんの地元って山梨……あっ」

幸子「なんですかその察したような表情は。内陸県民が皆泳げないみたいな言い方はやめてください」

凛「でも幸子は泳げないんだよね?」

幸子「むぅ……。そうですけど」

凛「まぁでも、似合ってるんじゃない? 悪くないよ」

幸子「……」

まゆ「……」

凛「えっ? 何でそんな嫌そうなリアクションになるの? 褒めたのに」

幸子「いやぁ……」

まゆ「だって……」

凛「酷くない?」


幸子「それはまぁ、確かにボクはカワイイですけど。正直スクール水着が似合ってるといわれても、手放しに喜べないと言うか」

まゆ「別段今褒めるタイミングじゃありませんでしたしねぇ」

凛「手厳しいよ」

まゆ「しかも凛ちゃんはバッチシ水着を新調してきてますからねぇ」

凛「まゆは何か私に恨みでもあるの?」

まゆ「ありませんよぉ」

凛「ならいいけど」

まゆ「……」

凛「……」

まゆ「……」

凛「……ないよね? ねぇ?」

まゆ「ありませんよぉ」

凛「ほっ」

幸子(薮蛇薮蛇)


凛「私の言い分を聞いてよ」

幸子「と言うと?」

凛「私が幸子のスクール水着を褒めたのには、ちゃんと意味があるという事を」

まゆ(意味がなかったら余計怖いですけど)

凛「まず、幸子は今十四歳。学生なわけだよ」

幸子「そうですね」

凛「そして幸子は、見た目はあまり背が高くないし、スレンダーだよね」

幸子「えぇ、まぁ」

凛「普段は自信満々なアイドルで、色々な衣装を着こなしてる幸子だけど、今だけはちょっと泳ぎの苦手な十四歳な女の子な訳だよ」

幸子「……はい」

まゆ「……」

凛「そのギャップっていうのかな。守ってあげたくなると言うか、」

まゆ「はいストップ」

幸子「はい」

まゆ「ちょっと黙りましょうか」

凛「」


幸子「理由を聞かなかった方がまだマシでしたね」

まゆ「そうねぇ」

凛「待って。まだ理由はある」

幸子「これ以上傷口を広げるんですか」

凛「そうじゃなく。スクール水着って、紺色だよね」

幸子(あ、オチが読めました)

まゆ(えぇ、まゆもです)

凛「紺色って、黒と青……いや、蒼が混ざった色だからね」

幸子「そうですね……」

凛「良い色だよね。ローマでのツアーの時にも思ったけど、自分の色を強く持つのって、大事なことだと思うんだ」

凛「あの時の海は本当に綺麗だったし、私もああ言う様な、見る者をはっとさせられる様な自分だけの足跡を刻みたいんだ」

まゆ(やっぱり、凛ちゃんって、前から思ってたけど結構……)

凛「勿論それは私だけじゃなくて、アイドルをやってる皆が皆そう思ってるはず」

凛「だから、その為には、幸子もちゃんと泳げるようにならないとね。それで今度の仕事をちゃんとこなせるなら、いくらでも力になるよ」

幸子「……」

凛「……」

幸子「……えっ、そこに着地するんですか?」

凛「そのつもりだったんだけど」

幸子「結構空中で捻りましたね……」

凛「そうかな」


凛「まぁ、ともかく。練習しようか」

幸子「凛さんは泳げるんですか?」

凛「うん」

幸子「羨ましいですね」

凛「練習すれば泳げるようになるよ」

幸子「そうですね。じゃあビート板を……」

凛「折角だから手を引くよ」

幸子「え?」

凛「まぁまぁ」

幸子「いや、でも」

凛「まぁまぁ」

幸子「……」

まゆ「幸子ちゃんが引いてる」


数十分後


幸子「疲れました……」

凛「そうだね。少し休憩しようか」

まゆ「お疲れ様。どう?」

幸子「上達はしましたけど、まだ二十五メートルは泳げませんね……」

まゆ「初日ですからねぇ」

凛「なんでまゆは水着持ってこなかったの」

まゆ「今聞きますそれ?」

凛「折角幸子と泳げるのに」

幸子「ボクは泳げ……いやまぁ、間違ってるわけではないですけど」

まゆ「出掛け先だったんですよぉ」

凛「ここにくる途中で買ってくればよかったのに」

まゆ「プールに来て、だけの本文でそこまで察しろと言うんですか」

幸子「前も思いましたけど、凛さんのメールって……」


凛「ごめん、ちょっと言葉が足りなかった」

まゆ「ちょっとどころじゃないんですけどねぇ」

幸子「……」

凛「……どうしたの、幸子」

まゆ「凛ちゃんに呆れたんじゃないですか」

凛「えっ」

まゆ「嘘ですよぉ」

凛「やめてよ」

幸子「いえ、そうではなくですね」

凛「ほら、違った」

まゆ「無理はしないで良いんですよぉ?」

幸子「えー……あー……」

凛「やめてよ」


幸子「まぁ、それはともかく。確かここって、水着の販売やってませんでしたっけ」

まゆ「えっ」

凛「そうなの?」

幸子「えぇ、確か」

凛「そうなんだ。良かったねまゆ」

まゆ「そうですねぇ」

幸子「まぁ、まゆさん一人だけ見てるというのも、暇でしょうし」

凛「買ってきなよ」

まゆ「そうですねぇ」

幸子「どうせなら皆で見に行きましょうよ」

凛「そうだね」

まゆ「そうですねぇ」


凛「へぇ。悪くないかな」

幸子(便利ですねそれ)

まゆ「そうですねぇ」

幸子「まゆさんはやっぱり白系統でしょうか」

凛「そうだね」

まゆ「そうですねぇ」

幸子「白と赤のチェック……はちょっと違いますね」

凛「赤はワンポイントで良いんじゃないかな。こっちとか」

まゆ「そうですねぇ」

幸子「フリルも似合いそうですね」

凛「あー……こっち?」

幸子「はい」

まゆ「そうですねぇ」

幸子「……」

凛「……」

幸子「……まゆさん?」

凛「まゆ?」

まゆ「なんですかぁ?」


幸子「いえ、心なしかさっきから、“そうですねぇ”としか言ってない様な」

凛「表情もひきつってるし」

まゆ「そんなことありませよぉ」

幸子「……」

凛「……」

まゆ「それより、今は幸子ちゃんが泳げるようになるのが先ですよ」

幸子「……凛さん」

凛「……うん」

まゆ「な、なんですかぁ、二人して」

凛「はい、まゆ、これ着て」

まゆ「まゆは良いですよぉ」

幸子「お会計はボクがしておきますよ」

まゆ「ちょ、凛ちゃん、幸子ちゃん」

凛「はい行ってらっしゃい」


まゆ(やばい)

まゆ(この中で最年長、しかもさっき幸子ちゃんのことを山梨県民と言ったまゆが、泳げないなんてバレたら、笑われます)

まゆ(いや、二人のことですから、きっと馬鹿にはしないでしょう。笑うといっても軽い程度なことは想像できます)

まゆ(でも、もしまゆがカナヅチな事がPさんに知れたら)

まゆ(Pさんに失望されてしまうかもしれません)

まゆ(それだけは避けなくてはいけません)

まゆ(泳ぐなんて、特別難しいことじゃないです)

まゆ(大丈夫できるまゆならでき──)


まゆ「ゴボガバ」


幸子「あぁ、まゆさんがテレビだったら放送カットされるもがき様を!」

凛「やっぱり……」

いったんおわり


まゆ「まゆ思うんですよ」

凛「突然どうしたの」

まゆ「別に泳げなくたって死ぬわけじゃないじゃないですかぁ」

幸子「それはまぁ、そうですけど」

まゆ「それに人間は陸で生きる動物です。その為に進化してきたんですから、何故自ら水の中へと退化していく必要があるんでしょうか。いやないです」

凛「開き直ったね」

幸子「今日一日のボクの努力が無駄に思えてきました」

凛「まぁ私としては、爪先立ちしても鼻が水面につくのに慌てたまゆが見れただけで十分なんだけど」

幸子「確かに珍しいものを見れましたね」

まゆ「凛ちゃんはまゆじゃなくて幸子ちゃんだけ見てれば良いんですよ、こっち見ないで下さい」

凛「幸子はもう心のフィルターに納めたから」

幸子「言い回し」


まゆ「もう疲れました……今日は帰りましょう」

幸子「まだ泳げるようになってませんよ?」

まゆ「いいんですよ、泳げなくたって死にはしませんよ」

幸子「ヤケになってません?」

凛「まぁ、死にはしないだろうけど。でも、プロデューサーはどう思うかな?」

まゆ(ぐぬぬ……痛いところを)

幸子「というと?」

凛「幸子にしてもそうだけど、多分、プロデューサーは二人がカナヅチだって知らないんじゃないかな」

幸子「まぁ……だからボクに水着の仕事を取ってきたんでしょうね」

凛「そう。写真撮影だけで実際に泳ぐかどうかは分からないけど、少なくとも、仮にそうなっても幸子なら大丈夫だろうって思ってるはずだよ」

幸子「ボクはカワイくてなんでもこなせますからね。フフン」

凛「そんなプロデューサーが、もし二人がカナヅチだって知ったら、どう思うかな?」

まゆ「……」

まゆ(やっぱり凛ちゃんも……なんですかねぇ)


凛「プロデューサーのことだから、目に見えて落胆したり失望したりはしないだろうね」

凛「でも、心の中ではきっと、“あぁ、なんだ二人は泳げないのか”って思うのは確かだね」

凛「“普段アレだけカワイイだのなんだの言ってるのに、やっぱり内陸県民は泳げないんだな”とか」

幸子「なんで内陸県民ってだけでそこまで罵られなくちゃならないんですか」

凛「まゆにしても、“モデル以外の仕事はまゆには出来ないな”って思われちゃうかもね」

凛「それに、これは去年の夏なんだけど、私と卯月と未央も似たような仕事があったの、覚えてる?」

幸子「あぁ、はい」

まゆ「えぇ。確か卯月さんもスクール水着でしたね」

凛「そうだね。水着を買い忘れたとか何とか言ってた」

幸子「……」

まゆ「……」

凛「え、なに」

幸子「いえ、今日の凛さんを見てたら、もしかして卯月さんにそれを着る様に迫ったのかと」

凛「違うよ」

まゆ「フェチなんですか?」

凛「違うよ。やめてよ」


凛「卯月のあれは天然だから」

まゆ「分かってますよ」

凛「ならからかわないでよ」

まゆ「で、感想は?」

凛「悪くなかったよ」

幸子「……うわぁ」

凛「違う、そういうのじゃないから。距離とらないで、幸子に引かれたらショックで溺死する」

まゆ「うわぁ」

凛「くっ、殺せ」

幸子「凛さんって女騎士似合いそうですね」

凛「今言われてもあんまり嬉しくないかな……」

幸子「ボクがさっきスクール水着をほめられたのがそんな感じです」

凛「予想以上に心が折れそうだよ」


幸子「卯月さんの水着で、前から言いたかったんですけど」

凛「やめよう、なんとなく分かる」

まゆ「全員に突き刺さる気がします」

幸子「絶対卯月さんって普通の枠超えてますよね。どことは言いませんけど。どことは言いませんけど」

凛「……」

幸子「……」

まゆ「……」

凛「……80」

幸子「……74」

まゆ「……78」

凛「……」

幸子「……」

まゆ「……」

凛「私たち、仲m」

幸子「拒否」

まゆ「拒否」

凛「」


凛「なんで」

幸子「十の位が違うじゃないですか」

まゆ「そうですよ。凛さんは卯月さん未央さんと同盟を組んでください」

凛「……卯月と、未央」

幸子「あっ、凛さんの瞳が濁った」

凛「卯月のあれのどこが普通なのか、私には理解できないよ。未央にいたっては、あれ完全にワンランク上のステージ行ってるからね」

幸子「ト、トライアドプリムス」

凛「加蓮も奈緒も私よりあるよ。ていうか加蓮奈緒卯月って同じだからね。三人でユニット組めばいいんだ。くそう」

幸子「水パシャパシャするのやめてください」

まゆ「こんな駄々っ子嫌です」

凛「ユニット名はトライアングルエイティースリーとかで良いじゃんもう、くそう、くそう」

幸子「ちょっとありかなって思いましたけど、良く聞くととんでもない酷い名前だった」

まゆ「これはひどい」


凛「……いいよ、私は一人永世中立国でも作って暮らすよ。それか蘭子と二人でブルーエイティーってユニット作るから」

幸子「ブルーの要素凛さんしかなくないですか」

まゆ「でも蘭子ちゃんこの間、今の下着じゃきついから新しいのを買うって言ってたような」

凛「くそう、くそう」

幸子「くそう、くそう」

まゆ「増えた」

凛「なんで幸子まで」

幸子「同い年なんですよボクと蘭子さん」

凛「あっ……」

まゆ「あっ……」


幸子「ナターリアさんも同い年なんですよ」

まゆ「この話はもうやめましょう。悲しみしか生みません」

凛「……確か、まゆと雫も同い年」

まゆ「シャラップ。それ以上口を開いたらリアス式海岸に埋める」

凛「なにそれこわい」

まゆ「……その代わり、特別に同盟に加わる許可を出します」

幸子「そうですね」

凛「え、本当? やった」

幸子「良かったですね」

凛「……何の話してたんだっけ」

まゆ「……」

幸子「……」

凛「……」


凛「そうだ、思いだした。去年の夏の話してたんだ」

まゆ「誰かが横道に逸れたせいで、忘れかけてましたねぇ」

凛「えっ、私のせい?」

幸子「まゆさんじゃありませんでしたっけ」

凛「そうだよ、まゆが卯月の水着の感想とか聞いてくるから」

まゆ「そうでしたっけ」

凛「そうだよ」

幸子「ここは間を取って卯月さんが悪いという事で」

凛「賛成」

まゆ「賛成」

幸子「それで、ええと。去年の夏がどうしたんですか?」

凛「え? ああ、うん。水着の仕事があって、そのまま流れでプロデューサーも含めた皆で遊んだって言おうとしたんだよ」

まゆ「へぇ……」

幸子「こわい」


凛「あの時のメンバーは皆泳げたからいいけど、もし泳げない二人があの場にいたら」

幸子「……浜辺から眺めてるしかありませんね」

まゆ「屈辱ですね……」

凛「そういう事。他の人がプロデューサーと遊ぶ中、自分だけ砂浜で城を作るなんて、虚しいよね」

幸子「いや作りませんけど」

まゆ「抜け駆けされるのを指くわえてみているのは、性に合いませんねぇ」

幸子「確かにそうですね……それに」

凛「それに?」

幸子「ボクとまゆさんが泳げるようになれば、三人で遊びにいけますし」

凛「……幸子」

幸子「友……。……、同盟として、三人で海に行くのも、悪くないと思います」

まゆ(友達って言いかけたのかしら。言い淀む事ないのに)

凛「まゆ、どうしよう。幸子が天使すぎて辛い」

まゆ「知りませんよ」


後日


凛「……結局。まゆのカナヅチは治らなかったね」

幸子「ボクも二十メートルくらいが精一杯ですけど、まゆさんはちょっと……」

まゆ「やめて」

凛「なんでクロールと平泳ぎの動きがごっちゃになるの?」

幸子「傍から見ていて、なんというか、形容しがたい動きでしたよ」

まゆ「いっそ殺してください」

凛「三人で海に行くんだから死なれたら困る」

まゆ「いいですよまゆは砂浜でせんだいメディアテーク作ってますから」

幸子「まゆさんも作る派だったんですか、っていうかなんですかそれ」

まゆ「えっ」

幸子「えっ」

凛「いや、さすがに分かる人のほうが少ないよ」

まゆ「知名度あんまり高くないんですね……」

幸子「その点山梨は富士山と言う知名度ナンバーワンがありますからね。フフン」

凛「富士山は静岡でしょ?」

幸子「よし戦争ですね受けて立ちましょう」


まゆ「静岡と山梨、両方にまたがってるから、まぁ山梨のものといえなくもないんでしょうけどねぇ」

凛「なんとなく富士山は静岡のイメージがあるかな」

幸子「むぐ……。単に静岡側の商品展開が強すぎるんです。商魂たくましすぎるんですよあっちが」

まゆ「そういえば、飛鳥ちゃんって、静岡出身で同じ十四歳でしたよねぇ」

幸子「飛鳥さんとは話が合いそうにありませんね」

凛「あぁ、もう争ったんだ」

幸子「えぇ、それはもう。“八合目以上は裁判の結果静岡のものと認定されたから、実質静岡のものだ”ってふっかけてきたもんですからね」

凛「さ、裁判になってたんだ」

幸子「でもお札に書かれている富士山は山梨から見たものですし、富士五湖といわれる湖は全て山梨にあります。関係ないですけど、富士急アイランドも山梨ですし」

凛「最後は本当に関係ないね」

幸子「ともかく、国が発行している紙幣に印刷されている富士山が、山梨から見えているものですので、富士山は山梨から見るのが基本なんです」

凛「でも、裁判では静岡なんでしょ?」

幸子「八合目から上の、山頂と一部を除く、十割未満の部分です!」

凛「なんかごめん」

幸子「いえ……」

凛(……幸子に怒られた)

まゆ(怒ったわけじゃないと思う)


まゆ「大変なんですねぇ……ふぅ」

幸子「まゆさん、眠そうですね」

凛「そうなの?」

まゆ「ここ数日、泳いでばかりでしたからねぇ……」

凛「泳いでっていうか、沈んでって言った方が正しいけど」

まゆ「その訂正要ります? 要らないですよね?」

凛「それに、まゆっていつも眠そうな顔してる気がするから」

まゆ「同盟破棄」

凛「ごめんなさい」

幸子「でも、まゆさんがそうしてテーブルに突っ伏してるのって、本当珍しいですよね。いつもはしゃんとしてますから」

まゆ「……、それは、Pさんが見てるからですよ。まゆだって、いつもしっかりしてるわけじゃないです。二人の前でなら、気を抜くときもありますよ」

凛「そういわれると、なんかくすぐったいな」

幸子「そうですね」


幸子「ところで……」

凛「うん?」

幸子「いえ、実はさっきから、机に突っ伏してるまゆさんを見て、気になってたんですけど」

まゆ「なんですかぁ」

幸子「……何かに似てません?」

凛「……幸子も? 実は私もなんだ」

まゆ「まゆが何に似てるんですかぁ」

幸子「子供の頃見た記憶があるんですけど……」

凛「私はこの間誰かの家で見た様な……」

まゆ「凛ちゃんここ最近誰の家行きましたぁ?」

凛「ちょっと待って、今思い出す」

幸子「女子寮ではないんですよね」

凛「うん。誰かの実家。卯月か加蓮かな……」

幸子「奈緒さんと未央さんは違うんですか?」

凛「二人は千葉だからね。最近は二人の家には……あっ」

まゆ「思い出しましたかぁ」

凛「ん、思い出した」


凛「菜々さんの家で見たんだ、あれ」

幸子「千葉県で思い出さないであげてくださいよ」

まゆ「なんですかぁ」

凛「たれぱんだ」

まゆ「……」

まゆ「……えっ」

凛「たれぱんだ」

幸子「あぁ、そうですね。それです」

まゆ「……」

まゆ「……えっ」


凛「いやぁ、凄いよ。似てる」

まゆ「えー……」

凛「え、嫌なの?」

まゆ「いえ、なんというか……。第一、あれが流行ったのって、まゆたちが生まれるくらい昔じゃないですか」

幸子「二千年前後ですもんね」

凛「まぁ、でも、癒し系というかゆるキャラだから良いじゃん」

まゆ「ふなっしーに似てるって言われて嬉しいですか?」

凛「あれは癒し系ではないから」

まゆ「なんで目を逸らすんですか? ねぇ? まゆの目を見て言ってくださいよ。ほらハリアップ」

凛「まゆは可愛いから目を見るなんて出来ないよ」

まゆ「なんですかそのキザな浮気男みたいな言い訳は」

幸子「まぁまぁ……可愛いじゃないですか、たれぱんだ」

凛「……たれまゆ」

幸子「ぶふっ」

まゆ「同盟破棄、開戦宣言します」

凛「ごめんなさい」

幸子「ごめんなさい」


まゆ「富士山は静岡、凛ちゃんはスクール水着フェチ、オーケー?」

凛「言ったな。言ったな」

幸子「超えちゃいけないライン超えましたね」

凛「これは戦争だね……残念だよ」

幸子「温厚なボクでも譲れない部分はありますからね」

まゆ「勝負方法はいつも通りカラオケ一曲勝負で良いですかぁ?」

凛「いいよ」

幸子「えぇ。駅前で良いですよね? ファミレスもありますし」

凛「オーケー、じゃあ十九時現地集合でいい?」

幸子「午後の収録が十八時締めなので、ちょっと遅れるかもしれません」

まゆ「赤坂でしたっけ?」

幸子「ええ」

凛「終わったら一度連絡して。なんだったら迎えに行くから」

まゆ「午後は学校って行ってませんでしたかぁ?」

凛「……休み」

幸子「駄目ですよ」

凛「……はい」


プール編おわり


せっかくなのでワールドカップ編


凛「……きたきた、よし!」

幸子「これはひどい」

まゆ「また入ったんですか? はい、アイスコーヒーです」

幸子「ありがとうございます」

凛「ありがとう。これで5-0だよ」

まゆ「……えっ、さっきは3-0じゃありませんでしたっけ」

凛「あれから2点入ったよ」

まゆ「……サッカーってそんなにポンポン点が入る競技でしたっけ」

幸子「ボクだって詳しくはないですけど、そんな事はないと思いますよ」

凛「6分で4点なんて極めて稀だよ。これはもうドイツが優勝間違いないね」

幸子「凛さんはドイツ応援してるんですか」

凛「うん。大会始まる前から優勝予想してたよ」

まゆ「せめて大会始まる前なら日本応援しましょうよ」


凛「勿論日本も応援してたよ。侍ブルーとドイツの決勝が理想だったんだけどね」

幸子「ブルーだったら何でもいいみたいになってません?」

まゆ「まゆはサッカーに詳しくはないですけど、日本は決勝トーナメントいけなかったんですか?」

凛「……なんのことかな」

幸子「決勝トーナメントどころか、一勝も出来ませんでしたからね……」

まゆ「そうだったんですかぁ」

凛「まゆは全く見てないの?」

まゆ「試合をやっている時間が、日本だと深夜から早朝ですからねぇ」

幸子「よほどサッカーが好きでない限り、録画するか、結果だけ速報で見る形になるんじゃないですか、やっぱり」

凛「まぁ、そうだよね」

まゆ「サッカーといえば、晴ちゃんはどうしてます? 日本負けちゃったんですよね?」

凛「日本が予選敗退した日から、抜け殻みたいになってるよ」

幸子「うわぁ」


凛「あまりに抜け殻なせいで、フリフリの可愛い衣装の仕事も人形みたいにやってるとか」

まゆ「それは……なんというか」

幸子「あとで正気に返ったとき、晴さんが暴れそうですね……」

凛「いつものクールな感じな晴も良いけど、結構悪くなかったよ」

まゆ「また始まった」

凛「やめてよ」

幸子「やっぱりボクは遊びだったんですね」

凛「最近幸子まで私をからかうようになってない? 気のせい?」

まゆ「気のせいじゃないですか?」

幸子「そうですよ」

凛「いや、気のせいじゃないよやっぱり」

幸子「気のせいですよ。それか、心を開いている証拠ですよ」

凛「……なら良いけど」

まゆ「ちょろい」

幸子「ちょろい」


幸子「ところで、日本はともかく、なんで凛さんはドイツを応援してるんですか?」

凛「格好良いから」

幸子「なんとなく予想はついてましたけど、あまりに予想通りすぎて何て言えば良いのか分からない」

凛「ドイツ語って何であんなに格好良いんだろう。もし大学に行ったらドイツ語専修したいよ」

まゆ「やっぱり蘭子ちゃんとユニット組んだほうがいいと思いますよぉ」

幸子「ブルーエイティーですね」

凛「やめてよ」

幸子「凛さんが最初に言ったんですよ」

凛「……“裏”富士」

まゆ「山梨が裏なら、静岡が表ですよねぇ」

幸子「はいこの話はやめ。やめましょう。やめないと富士急アイランド連れて行きますよ」

まゆ「ごめんなさい」

凛(私は構わないんだけど)


凛「駄目だよ幸子。まゆは高いところも絶叫マシーンもお化け屋敷も駄目なんだから、そんなところ連れて行ったら死んじゃうよ」

幸子「弱点だらけじゃないですか……あ、また入った」

まゆ「別に駄目じゃないです、これで6-0ですかぁ」

凛「これ、生きて帰れるかな……」

幸子「あー……」

まゆ「暴動はおきそうですよねぇ」

幸子「後半に入ってブラジルも少し攻められるようになったと思った矢先ですからね」

凛「というより、ドイツが少し手を抜き始めてるだけだと思うよ。まだ決勝もあるし」

まゆ「この点差なら、怪我をしないようにした方が良いですものねぇ」

凛「下手にイエローとかも貰いたくないしね」

幸子「小梅さんから聞きましたけど、まゆさん、幽霊とか大の苦手なんですよね」

まゆ「誤魔化せたと思ったのになんで掘り返すんですか」

凛「やっぱり苦手なんじゃない」


まゆ「……だって、幽霊とか、お化けとか、触れないんですよぉ? 対処しようがないじゃないですかぁ」

凛「また入った。7-0」

幸子「キーパーが可愛そうになってきますね」

まゆ「聞けよ」

凛「ごめん、クローゼの大会ゴール記録でうっとりしてた」

まゆ「知りませんよ」

幸子「三十六歳なんですね、凄い」

凛「これが最後のワールドカップだろうね」

まゆ「四年に一回ですから、次は四十歳ですもんねぇ」

凛「友紀だったら、“四十歳はまだいける”って言ってるんだろうな」

幸子「野球とサッカーではまた選手寿命が違いますからね」

凛「まゆは野球は見るの?」

まゆ「スポーツ自体あまり」

凛「まゆって宮城でしょ? サッカーも野球もあるのに、勿体ない」

まゆ「そういわれましても」


幸子「あ、ブラジル一点返しましたね」

まゆ「焼け石に水の様な気がしますけど、一点も返せないよりは良かったですねぇ」

凛「ドイツからすれば決勝にむけて無失点で終わりたかったんだけどね」

幸子「点差もありましたし、気が緩んだんですかね」

凛「まぁ、でも、誰もカードも怪我もなかったから良いかな」

幸子「準決勝のもうひとつは、明日やるんですね」

凛「そうだね。アルゼンチンとオランダ……それから三位決定戦をやって、最後に決勝だから、相手より一日多く休めるのは大きいね」

まゆ「やだガチ勢こわい」

凛「ところで。突然だけど、ここにサッカーボールがあります」

幸子「何故」

まゆ「明らかに恣意的なものを感じますねぇ」

凛「晴に借りたんだよ。ちょっとだけやらない?」

幸子「まぁ、少しなら」





幸子「ボク、サッカーやったことないですよ」

まゆ「まゆもです」

凛「私も遊び程度だよ……っと」

幸子「リフティングしながら言われても説得力ないんですけど」

凛「はい」

幸子「わっ、っと」

凛「棒立ちになると力が入りすぎてコントロールできないよ。ダンスと一緒で、柔らかさと関節を意識して」

まゆ「申し訳程度のアイドル要素ですねぇ」

凛「上手いじゃん、幸子」

幸子「まぁ、ボクにかかればこれくらい簡単ですよ。カワイイですからね」

凛「はい、まゆ」

まゆ「えっ、ひゃっ」

幸子「空振りって」


まゆ「こ、こう、あれ、ええと」

凛「あ、これ駄目な奴だ」

まゆ「ひゃんっ」

幸子「両足同時に出したら、尻餅もつきますよ」

凛「大丈夫? ほら」

まゆ「どっちの足を出せばいいのか分かりません」

凛「えっ、そこから?」

幸子「普通に利き足でいいんじゃないですか」

まゆ「自分の利き足なんて、知らないですよぉ」

幸子「手と一緒じゃないんですか、普通は」

凛「まゆってどっち利き?」

まゆ「両方です」

凛「そういえばそうだった」

まゆ「だから咄嗟にどっちの足を出せば良いのか分からないんですよぉ」

幸子「器用すぎてキャパシティオーバーしてる感じですね……」


凛「まゆってもしかして、運動音痴だったりする?」

まゆ「そんなことはありませんよ。平均よりほんの、ほんのちょこっとだけ苦手なだけで、そんなことは決してありませんよ」

凛「でもカナヅチだし」

幸子「空振りして尻餅ついてますし」

まゆ「たまたまですよ」

凛「……」

幸子「……」

まゆ「……」

凛「……」

幸子「……」

まゆ「……ごめんなさい」

凛「よろしい」

まゆ「くそう、くそう」


凛「実は亜季さんから借りてきた握力器があるんだけど」

まゆ「なんであるんですか。なんであるんですか」

幸子「ちなみにまゆさんの年齢の全国平均は、二十六だそうですね」

まゆ「幸子ちゃん、ツッコミ放棄しないで」

幸子「スルーもツッコミですよ。多分」

凛「さぁ、どうぞ」

まゆ「……、さ、先に二人からどうぞ」

幸子「ささやかな抵抗ですね……」

凛「むしろハードル上がると思うんだけど」

幸子「じゃあボクから行きますね……」

凛(力んでる幸子可愛い)


幸子「24……ですね」

凛「十四歳の平均よりはちょっと下だね」

まゆ「……っし」

幸子「無言でガッツポーズ作るのやめてください」

凛「じゃあ次は私だね……ふっ!」

幸子「おお……。34」

まゆ「くっ……」

凛「まぁまぁかな。自己ベストではないし」

幸子「じゃあ次はまゆさんですね」

まゆ「きょ、今日はあまり調子が良くないので今度にしましょう」

凛「往生際が悪い」

幸子「はい、どうぞ」

まゆ「うぅ……」


まゆ「……ええい!」

まゆ「ふー、ふー!」

凛「いや、それそんなに長くやるものじゃないからね?」

まゆ「……に゛ゃ゛あ゛!」

幸子「どっから出たんですかその声」

凛「もういいでしょ、はいまゆ、頂戴」

まゆ「……、ど、どうですか」

凛「……18」

まゆ「えっ」

幸子「えっ」

凛「18」

まゆ「」

幸子「あんなに粘って18って……」


まゆ「ま、まだです。まゆは両利きですから、もう片方もやらないと公平じゃありません」

凛「往生際が悪いなぁ……」

まゆ「今度は左でやりますからね……ふぅぅぅぅ!」

まゆ「んー……!」

まゆ「んぅぅぅ……!」

凛「だから長いって!」

幸子「すっごいぷるぷるしてますけど」

まゆ「……ど、どうです、かぁ」

幸子「握力測定でもうバテバテじゃないですか……」

凛「17」

幸子「減ってる!」

まゆ「」

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