アルミン「マナー講座が始まるよ」(38)

アルミン「なんでも今回が初めての実験的な試みで、今までの兵士に対する粗野なイメージを払拭する為の講座なんだってさ」

エレン「粗野ねぇ。確かに壁が破壊される前はハンネスさんだってグダグダだったしな」

ミカサ「……具体的には何をさせられるの?」

アルミン「さぁ、どんな講座になるんだろうね?僕は兵団がマナーに厳しいなんて事すら知らなかったから」

エレン「貴族にお勉強教えるようなキツいオバチャンにビシバシ怒られたりするんじゃないか?」

アルミン「ありそう。怖い人じゃないといいね……あ、先生が来たみた……い」

ギィィィィ…

キース「……」ギラッ

アルミン「」

キース「講師を担当致します、キースです。以後よろしくお願い致します」ペコリ

キース「さてこの度、私の念願が叶いこのマナー講座を実施することが出来ました」

キース「皆さんは将来この訓練兵団を卒団し、立派な兵士となる貴重な人材です」

キース「社会、内地、壁外に出たときに困らないよう、また恥をかいたりしないように、この講座にもしっかりとした態度で臨んでください」

エレン「なんだ、教官じゃねえか」ヒソヒソ

アルミン「ああああの人のマナーって大丈夫なのかな!?僕あんまりいい思い出がないんだけど……」ヒソヒソ

ミカサ「二人とも、静かにしないと……もう始まっているから」ヒソヒソ

キース「さて堅苦しい挨拶は終わりだ。ここからは厳しくいくから覚悟しておけ」

一同「ハッ!」バババッ

キース「よく聞け。この講座は実験的な物で今の所は一度しか行われない予定だ。しかし、この先を生きるならば必ずぶち当たるであろう問題への対処を学べる数少ない機会でもある。心して聞くように。質問は随時受け付ける」

キース「では始めよう。まずは兵士心得三ヶ条からだ!復唱しろ!」

キース「ひとつ!自らの命よりも市民の命に重きをおけ!」

一同「ひとつ!自らの命よりも市民の命に重きをおけ!」

キース「そうだ。言わずもがな、我々が有事の際に注力すべきは市民の命を数多く救う事だ。例えそれが自分の命と引き換えになろうとも、な」

キース「長い平和の間は税金泥棒と言われ続けたが今は違う!身命を賭してでも市民の安全を守り職務を全うしろ!」

一同「ハッ!」バババッ

アルミン(なんか結構まともそうだね)ヒソヒソ

エレン(ああ、確かに)ヒソヒソ

キース「ひとつ!兵士の遺体は兵団経由で配達証明をつけて送れ!」

一同「ひとつ!兵士の遺体は兵団経由で配達証明をつけて送れ!」

アルミン(……ん?ちょっと方向が変わったような)

キース「数年前の事だ。手続き等の庶務を補佐に任せっきりにしていた私は、うっかりご遺族に兵士の遺体を路上で手渡ししてしまった事がある」

ザワザワ…
イタイヲ…テワタシ!?

エレン(あ!俺たちその場面見たよな?)

ミカサ(……確かに記憶にある。しかし髪型がちょっと一致しないような……)ブツブツ

アルミン(本当にあった事なの!?)

キース「その後に待っていたものはご遺族からの想像を絶するほどの大クレームだ。憲兵団には“なんだこの腕は!?”と詰問され、葬儀屋にすら“身元がハッキリしない遺体はちょっと……”と断られたと」

キース「それ以来私には“遺体お手渡しのキース”という不名誉な二つ名がついて回っている」

キース「私は貴様らには……そのような恥をかかせたくはない!」ドンッ

キース「実はこれが、私が上層部から『遺体お手渡しのキースともあろうお方がマナー講座ですかぁぁん?』と嫌味を言われても……この講座を実施しようと思ったきっかけなのだ」

エレン(教官が俺たちの事をそんなに思ってくれているなんて……知らなかったぜ)ジーン

アルミン(いやその心意気は確かに有り難いけどさ……)

アルミン「……はい!質問があります!」

キース「アルレルト、発言を許す」プッ

アルミン「(なんだ?ちょっと笑われたような……)ハッ!腕章等々の身分を証明出来る物がなく、しかしこの遺体は誰の遺体であるかを他の兵士が分かっている場合、後でご遺族に返却する際の目印を遺体につけることは許されますか?」

キース「いい質問だ。遺体に直接書き記すのは最終手段。余裕があるならば補給物資とともに常備されている『おなまえシール』を活用しろ」

アルミン「ハッ!ありがとうございました!」

エレン(おなまえシールって持ち物用じゃなかったのか!やべー数枚貰って荷物に貼っちまったよ……)

アルミン(エレン、たぶん荷物用を流用するってだけだから大丈夫だよ……)

・・・・・

キース「他に質問が無ければ次にうつろう」

キース「ひとつ!巨人との仲にも礼儀あり!」

一同「ひとつ!巨人との仲にも礼儀あり!」

アルミン(……はぁ)

キース「巨人の再生力の恐ろしさは皆も学んでいるだろう。それはつまり”同じ巨人との再会“が起こり得るということでもある」

キース「イェーガー、一度会った事のある者に再び出会った際にはなんと声を掛ける?」

エレン「ハッ!えっと……“お久しぶりです”と言います」

キース「その通り。巨人とて例外ではない」

キース「以前に討ち取り損なった巨人に再会するという経験は私もしたことがある」

キース「最初は気づかず、挨拶をせずに背を向け、もう一度振り返るとそこには……幻滅したような巨人の表情があった」

アルミン(それは流石に気のせいじゃ……)

エレン「質問があります!」

キース「イェーガー、発言を許す」

エレン「ハッ!自分は遠目に見た記憶があり、しかし相手がその時に自分に気づいていたか定かではないといった場合はどうすればいいのでしょうか?」

キース「ふむ、少々応用が必要となるが、まずは“○年ぶりですね”または“○○でお会いしましたが覚えていらっしゃいますか?”等の挨拶から入るのが妥当であろう」

キース「これなら相手が“ちょっと覚えがないけど、あの頃にきっとどこかで会ったのね”という程度の認識でも乗り切ることが出来るからな」

エレン「わかりました!ありがとうございました!」

アルミン(確か巨人とは意志の疎通が出来ないって座学で言ってたよね?)ヒソヒソ

エレン(いわゆる諸説あるって状態なんじゃねえか?学者がよく言ってるだろ?)ヒソヒソ

コニー(やっべー……結構覚える事多いじゃねえか!メモとってねぇのに……)ワタワタ

また来ます

キース「以上が、特に注意すべき兵士心得三ヶ条である」

キース「ここまでで何か質問はあるか?」

アルミン「……は、はい!質問があります」

キース「あ、アルレルト、発言を許す」クスッ

アルミン「(また笑われた……?)えっと、先日の座学では巨人との意志疎通が出来た例がないと習ったのですが……不快感を示すということは、巨人に感情あるいは知性があると考えてよいのでしょうか?」

キース「そうだ。これは私の経験に則ったものなので俄には信じがたいかもしれんがな」

キース「しかしだ、貴様ら、巨人に対して礼儀を持って接する事に抵抗がある者もいるだろう事は想像に難くない」

キース「そんな奴にも抜け道……もとい対処法があるにはある」

エレン(お!助かるな。俺はちょっと礼儀なんてとてもじゃないが……)

キース「出会った巨人、全てを倒せる力を持て!」

エレン()

アルレルト(むちゃくちゃ言いなさる……)

キース「これは人類最強と言われるリヴァイ兵長と共に戦った時の経験談であるが……」

キース「リヴァイ兵長は巨人への礼儀なぞカケラも持ち合わせておらん」

キース「それ故に彼は毎回巨人に対し“面白い面しやがって”だの“シケた面だな?”だのと軽口を叩きながら巨人を倒してきた」

コニー(兵長ってカッコいいな!)

ジャン(噂でしか聞いた事がないけどやっぱりスゴいんだな)ゴクリ

キース「が……それが悲劇の幕開けとなってしまったのだ」

キース「ある戦いでリヴァイ兵長の後ろにつけていた私は、彼がまた軽口を叩くのを聞いた……」

キース「するとそれに怒った巨人が、リヴァイ兵長を無視して猛然と私に突っ込んできたのだ!!!」

キース「私には聞こえた……“許さない、巨人だからってバカにしないで!”……そして感じたのだ!迫り来る巨人の目が訴える悲しみを!」

アルミン「もはや幻覚だね」

ミカサ(アルミン、声が大きい……)

キース「幸いにも巨人はすぐさま兵長に倒された。しかし兵長からの“お前結構キャリアあるのになんで動かないの?”という冷たい視線……」

キース「そしてそのストレスから一気に禿げ上がった私の髪……」

キース「いつの間にか出世していく後輩たち……」

キース「私の悲劇は今もなお続いているのだ」ホロリ

──…

アルミン(これがマナーだって!?やってられるか!戦闘中にそんな事を考えてたら生きられるものも生きられ……っ!?)

エレン(……)ダバダバ

コニー(……)ダバダバ

サシャ(……)ダバダバ

アルミン(君たちはなぜ泣けるんだ……この講座の一体どこで!)ヒソヒソ ガミガミ

ミカサ(アルミン落ち着いて、教官がこっちを見ているから)オロオロ

キース「ふふっ……私の講座に感銘を受けた者が数人いるようだな」

キース「よし!それでは更に掘り下げていくぞ!」

エレコニサシャ「ハッ!」バッ

キース「いいか、巨人の弱点であるうなじを削ぐ際、一撃で仕留められなかった時はちゃんと“後ろから失礼しました”と謝罪を挟むんだ!復唱!」

ウシロカラ シツレイシマシタ!
コエガ チイサイ!
ウシロカラ………

・・・・・

エレン「終わったな。さっさと講座アンケート書いて帰ろうぜ。えーと、役に立ちましたか?……丸。講師の話はわかりやすかったですか?……丸」カキカキ

アンケート「エレン、役に立ったって言っても、まともな事は最初だけで……」

エレン「ん……でもさ、俺たちが恥をかかないようにって、自分が上層部にバカにされながらも講座を開いてくれたんだぜ?有り難いじゃないか」

アルミン「!……そうだね。あの厳しい教官が、僕たちのために……」

エレン「普通ならさ、現場で揉まれてこい!とか言って新人兵士なんか放っておくだろ?余計なストレス感じないようにって配慮なら感謝しなきゃな」

また来ます

アルミン(エレンの言うとおりだ……例え教官が少しばかりズレた事を言っていたとしても)

アルミン(僕は僕で正しい情報を取捨選択していけばいいんだ。ただでさえ謎の多い巨人の事なんだから)

アルミン(そして教官には純粋な感謝の気持ちを持って……)

…フンフフンフン フンフンフン♪
フンフフンフン フンフンフンフン♪

エレン「ははっ、教官鼻歌なんて歌ってるぜ。講座が成功して嬉しいんだな」

アルミン「ふふっ、本当だね。じゃあアンケートを出して早く行こうか」

アルミン「教官、アンケートを……」

キース「あ、アルレルト」プーッ!

アルミン「?あ、あのさっきから僕なんで笑われて……」

キース「いや、バカみたいな名前だなーと思ってな」ププッ

アルミン「……はい?」ピキッ

キース「通過儀礼でも言ったけど、本当に訓練兵団中一番笑える名前だな!」ププッ

アルミン「」

エレン「教官、アンケート提出致します!」ビシッ

キース「お、イェーガー!随分高評価にしてくれたな!これで私の給与もアップップ間違いなしだ!もう実技の教官やめちまうかな!」ハッハッハ

フクギョウ サイコウ!
マナーノコウシナンテ ラクショウダッタナ!

アルミン「……」ワナワナ

アルミン「……エレン、ミカサ、僕ちょっとアンケートに書き忘れがあるから先に帰ってて」ギラギラ

エレン「お、おう……」

アルミン(バカにしやがって……今に見ていろ遺体お手渡しのキース!!!)カリカリカリカリカリ…

・・・・・

エレン「いやー驚いたな。マナー講座が通常の講義と同じ位重要視されるようになるなんて思いもしなかった」

ミカサ「これもアルミンがアンケートでほめちぎって上層部を動かしたおかげ」

エレン「すごいよなー。アルミン自身も急にマナーについて猛勉強しだしたかと思ったら、あっと言う間に教官の助手になっちゃってさ」

エレン「今では……」チラッ

アルミン「いいかい、僕らは兵士である前に一人の人間なんだ。特に名前と言うものは普段は意識しなくても、人間である以上とても大切なものであり……」テキパキ

エレン「教官を蹴落としてアルミンが講師だもんな」

ミカサ「教官は結局二回しか講師を務められなかった」

エレン「しかも教官は上層部からの命令で、アルミンのマナー講座は全部出席しないと給与カットされるらしいぜ」

ミカサ「……それは少し気の毒」

アルミン「二人とも!来てくれたんだね!」

エレン「アルミン、お疲れ。ああ、当たり前だろ?アルミンの講座なら毎回最前列で出席するさ。それにしても参加人数やけに増えたな」

ミカサ「アルミンの教え方は他のどの講師よりもわかりやすいからそれも当たり前のこと」

アルミン「ふふ、どうもありがとう。まぁそのせいで二回に分けて講座を開かないといけないんだけどね……あ!もう時間になっちゃった。さ、座って座って!」ニコッ

アルミン「マナー講座を始めるよ!」

──そして運命の日……

超大型巨人 ゴゴゴゴゴ…

エレン「よう……五年ぶりだな」

超大型巨人「……」

エレン(あれ?もしかして俺のことわかってないパターンかな……)

エレン「えーと…シガンシナ区でお会いしましたが覚えていr……

腕 ブォォォォォォオン!!!




おしまい

短めですが終わりです
ふと、ブラウンの母ちゃんあの後大丈夫だったかなぁと思い書きました

お付き合いありがとうございました

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