P「ふかしぎ」 (39)
ショートショートをいくつか投下します
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春香「夢」
夢を見ます。
昔から、夢を見ます。
それは、蝶になる夢。
赤い蝶々になる夢。
ひらひら、ひらひらと、野原を飛びまわったり、時々花にとまって蜜を吸ったり。
でもある時、大きな黒い影がやってくるんです。
それは私を誘います。
私はそれについていきます。
着いたところは不思議な世界。
色とりどりに輝く、不思議な草原。
周りには、これまた色とりどりの蝶が。
青、黒、白、桃、橙、黄、黄、紫、緑、黄緑、浅葱、臙脂の蝶が、舞っています。
私もそれに加わって、舞い始めるんです。
上手に舞わないと。
綺麗に舞わないと。
上手く舞えない蝶は、捨てられます。
餌を貰えなくなり、元居た場所に帰されます。
でも、しばらく飼われていたせいで、蝶達は生き方を忘れています。
元居た場所に帰された後、生きる術を知らない蝶は、死ぬしかないんです。
だから、蝶達は舞います。
疲れても、嫌になっても、舞い続けます。
それでもいつか踊れなくなり、一匹、また一匹と、元居た場所に帰されていきます。
……あれ?
おかしいなぁ。
いつもなら、そろそろ私も踊れなくなるんですけど……。
また一匹、更に一匹。
次第に数は減っていき、いつしか私だけが残りました。
すると、いつかの黒い影が現れます。
ああ。
やっと終われるんだね。
やっと解放されるんだね。
既に力尽きかけ、ふらふらとしている私を、黒い影は捕まえます。
黒い影は、私を元居た場所には帰しません。
その代わり、初めて見る部屋に連れて行きます。
そこには、見たこともない蝶達が。
どれも綺麗。どれも美しい。
でもおかしいな?
誰も動いてないよ?
ああ、そっかぁ。
そういうことなんだね。
黒い影に捕まった時、私達の行方は決まっていたんだね。
どすん、と。
何かがお腹を貫いた音がして、私は夢から覚めました。
響「海」
自分の故郷は沖縄だぞ!
ってまあ、そんなこと、とっくに知ってるよね。
沖縄の海は綺麗だぞ?
東京の海なんか比べものにもならないんだからな!
透き通ってて、こう……なんていうか……。
あ、そういえば。
沖縄の海で思い出したけど、自分、昔その沖縄の海で不思議な目に遭ったんだった。
その時の話、聴きたい?
ん、分かったぞ。
ターリー──えっと、つまりお父さんだな。
自分、ターリーと大喧嘩したことがあるんだ。
小学生くらいの時だったかな。
それで、家を飛び出して近くの海で黄昏てたんだ。
日も落ちてきて、辺りも暗くなってきた頃、音がしたんだぞ。
見ると、自分の方に女の人が歩いて来てたんだ。
それでね、その女の人は、
「○○○○○○○?」
って訊いてくるんだ。
なんて言ったのか分からないって?
大丈夫、当時の自分も分からなかったさー。
ちょうど風が強く吹いて、聞き取れなかったんだぞ。
まあ、でも、口の形からすると、少なくとも母音は、
あ、あ、あ、お、い、い、い、?
って言ったんだと思ったんだ。
ところで、当時の自分って時々、「我那覇の響」って呼ばれることがあったんだ。
同級生に、もう一人「響」って名前の人がいたからね。
だから自分は、てっきりそう訊かれたんだと思って、
「違うぞ」
って答えたんだ。
そしたら、その女の人は、くるっと回って、やってきた方に帰っていったんだ。
その後、自分はすぐに家に帰ったぞ。
ターリーにも謝った。
そして、その日はさっさと寝たんだ。
……えっ? おかしな所がある?
どうして、最初は「我那覇の響」って訊かれたと思ってたのに、「違う」って答えたのかって?
んー、まあ、簡単な理由だぞ。
誰だって、自分の立場だったら、ああいう風に答えてたんじゃないかな?
だってあの女の人、海の中からやって来てたし。
今思うと、あの女の人、多分こう訊いてたんじゃないかな?
「あなたも死にに?」
ってね。
律子「怪」
はあ……今日も残業かぁ。
あまり楽しいものじゃないけど、まあ、これもみんなのため。
それに、プロデューサーがまだ頑張ってるのに、私だけ休む訳にはいきませんしね。
ところで、そろそろ事務所変えないんですかね?
みんなも、もう大分売れてきてますし、そろそろいいと思うんでよね。
あちこちきてますし。
音もするようになってきてますし。
段々臭うようにもなってきてますし。
え? 臭いなんてしない?
そうですか。
私は感じるんですけど……まあ、人それぞれかもしれませんね。
音って、何の音だ……ですって?
聞こえないんですか?
今もずっと聞こえてるじゃないですか。
夜中はいっそう五月蝿いんですよねー。
……?
さっきから、なんだか話が噛み合いませんね。
え?
何があちこちにきてるか……ですか?
そんなの決まって──
……あー。
そういうことですか。
はいはい、分かりました分かりました。
偶然だったんですね、てっきり見えてて避けてるのかと思いましたよ。
すいません、今の話は忘れてください。
いえ、だから忘れてくださいって。
…………。
そんなに聴きたいんですか?
本当に?
怖いなら、やめておいた方がいいと思いますよ?
……しょうがないですねぇ。
ま、挙げるときりがないんで、いくつかだけですよ。
でも、聴かない方がいいと思いますよ。
さっきからずっと……今だって。
ずっと、ずっと、あなたの後ろに笑ってる女がいるとか。
出入り口のドアの窓ガラスに、なにかの影が映ってるとか。
棚の本やらファイルやらの隙間から、目が覗いてるとか。
そんなこと、聴いたって……ねえ?
まあ、聴きたいなら私は別に──
え? もういい?
……だから言ったのに。
あなたが怖がるから、みんな尚更あなたに近づいてきてますよ。
はぁ……いいですよ、分かりました。
埋め合わせはちゃんとしてくださいね。
はい、それじゃあ。
おつかれさまでした。
伊織「誓」
オレンジジュースあるかしら?
ん、ありがと。
んく……んっ……。
……ふぅ。
……なによ、その目は。
ふんっ。どうせ、子供っぽいって思ってるんでしょ?
いいわよ、隠さなくて。
私だって、そう思ってるもの。
でも、しょうがないでしょ?
美味しいし、それに──
約束だし。
どんな約束か知りたい?
まあ、別にいいわよ。
昔の私はね、オレンジジュースが嫌いだったの。
子供っぽいって思われるのが、嫌だったから。
今となってはくだらないことだけど、当時の私にとっては大事なことだったわ。
だから、ある日パーティーで勧められたオレンジジュースも、いつも通り拒否したわ。
そこまでは良かったんだけどね、その日はたまたま機嫌が悪くて、グラスを差し出した手を払っちゃったのよ。
床に落ちたグラスは割れて、その当然オレンジジュースは零れたわ。
床に広がるオレンジジュース。
その黄色い水たまりの中に、あったのよ。
こっちを睨む眼が。
それも、一つや二つじゃないの。
いつの間にか、オレンジジュースは見えなかったわ。
だって、ぎゅうぎゅう詰めの、大小様々な眼が、蠢いてたんだもの。
咄嗟に謝ったわ。
ごめんなさい……って。
これからはちゃんと飲みます……って。
しばらく謝り続けて、気づいたら、水たまりは元に戻っていたわ。
でもね、同時にあることにも気づいたの。
周りから、すんごい目で見られてることに。
当然、父と兄からもね。
ま、しょうがないわよね。
私、端から見れば自分で零したオレンジジュースに謝ってたんだもの。
その日から、私は父に認められなくなってしまったわ。
言ったわよね?
父と兄を見返すために、アイドルになったんだって。
まさかあんなことが、こんな結果を産むなんて思わなかったわ……。
確かに悪いのは私よ?
でも……割に合わないわよねえ?
なに? しばらく飲まなかったら何かあるのかって?
あるに決まってるじゃない。
言わないけどね……っていうか、言えないわ。
思い出したくもないもの。
真「男」
大抵の人って、恐怖を感じたことがあると思うんですよね。
でも、恐怖を感じたって言っても、結構バラつきがあるじゃないですか。
恐怖にも、色々ありますしね。
そんな中、今日はボクが今までで一番の恐怖を感じた時の話をしたいと思います。
その日、ボクはとある路線の電車に乗ってたんですよ。
そしたら、具体的な駅名は言えませんけど、急にトイレがしたくなってとある駅で降りたんです。
ですが、ホームのトイレに入ろうとしたら、女性用トイレだけ清掃中で入れなかったんです。
でも、その時はもう我慢の限界で……。
結局、男性用トイレに入ることにしたんです。
自分で言うのは嫌なんですけど、ボクって男っぽいですしね……。
恐る恐る中に入ってみると、どうやら誰もいなさそうだったんですよね。
だからボク、安心しちゃって思いっきりドアを開けたんですよ。
そしたらなんと! 中に男の人がいたんです! しかも二人!
ムキムキっとしてて、モリモリの男の人が、壁に手をついてる男の人の腰に手をあてて、腰を振ってたんです!
二人とも大きく声をあげながら、ボクがドアを開けたことにも気づかないくらい夢中になってて!
今まで嗅いだことのないような臭いに加え、汗とかその他諸々が混じったような臭いがしてて……!
もう驚いたのなんの。
半狂乱になりながら、大きな声をあげて飛び出して、ちょうど来てた電車に乗って……。
そこでようやく、電車にもトイレがあることに気づいて……。
……その頃には、半分手遅れで……。
今までで一番、色んな恐怖を感じた日でしたよ。
亜美「姉」
真美のことが好き。
みんなも大好きだけど、真美はもっと好き。
おかしな意味じゃないよ?
叶わない恋とか、そーゆーのじゃないんだ……でも。
しばらく会わないと、少し悲しくなっちゃうし。
いつも一緒にいたいって思っちゃうし。
楽しいことも、辛いことも、ぜーんぶ分け合いたいって思うんだ。
好き。うん、本当に大好き。
結婚したいくらい……ってのはまあ、流石に冗談だけどね。
てゆーか、女同士で、しかも姉妹で結婚なんて、ありえないし。
……これだけ。
これが、亜美の部屋にあった手紙の全文だよ。
手紙って言うよりは、日記に近いと思うんだけど……一応、誰かに出そうとはしてたみたい。
こんな内容の手紙を、誰に送ろうと思ってたのかは分からないけどね。
宛名はまだ書いてなかったから。
それにしても……亜美が、こんなに真美のことを想っててくれてたなんて……。
……本当、亜美はどこに行っちゃったんだろうね?
やよい「道」
えっと、ちょっとだけお話を聴いてもらってもいいですか?
お願いします。
あ、ありがとうございます。
それじゃあ、話しますね
えっと、前まではそんなことなかったんですけど、最近お仕事が忙しくて帰るのが遅くなることがあるんですよ。
それで、いつも弟たちの世話をしなくちゃいけないから、できるだけ急ぐんですけど……。
ある近道だけは、通らないようにしているんです。
その道は、お墓の中を通ってて、通ると少しだけ早く帰れるんですよ。
でも、どんなに急いでてもその道は通らないようにしてるんです。
別に嫌な感じがするとかじゃないんですよ?
けど、怖くて。
それでも、昨日はその道を通っちゃったんです。
そんなに遅くなったわけじゃなかったんですけど、用事があって……。
約束の時間は七時で、その道に入ったのはもうすぐ七時になるって時で。
できるだけ、お墓の方を見ないようにして、走って通り抜けようとしました。
でも、突然お墓の間からおじいさんが出て来て、私にこう言ったんです。
「どうしたんだい? そんなに急いで。ちょっとお話しないかい?」
普段なら、きっと何か感じたと思います。
でも、その時は急いでて、何も考えずに
「えっと、あの! ご、ごめんなさい! 私七時に急いでて用事があって遅れそうなんです!」
って言って、そのまま通りすぎちゃいました。
それから、五分くらい走って家につきました。
頑張って走ったから、二、三分の遅れで済んだと思ってたんです。
でも、それは違いました。
家に着いた時、時刻はまだ六時半でした。
でもでも! 絶対あの道に入った時にはもう七時前だったはずなんです!
なのに、どうしてなんでしょうか……?
え? あのおじいさんが助けてくれたんじゃないか……ですか?
……はわっ! たしかにそうかもしれません!
今度お礼した方がいいんでしょうかー?
……会えたら、ですけどね。
うーん、でも、話したら少しすっきりしたかも!
ありがとうございましたー!
千早「居」
以前話した通り、私は最近自分の家が怖い。
何かが──よく分からない何かが、いる……気がするの。
見たことはないけれど、感じる。
視線を、気配を、息遣いを。
「ねえ春香」
「なに? 千早ちゃん」
「明日、仕事早いでしょう? 私の家に泊まっていかないかしら」
「あ……ご、ごめんね。今日は、どうしても家に帰らなくちゃいけなくて……」
また、断られた。
私が傷つかないように、やんわりと断ってくれるその気遣いは嬉しいけれど……。
「……どうして?」
「え?」
「どうして避けるの?」
「さ、避けてなんか……」
「嘘よ。最近ずっとそうじゃない……」
「千早ちゃん……」
「ねえ教えて? 私の何がいけないの? 気に入らないことがあるなら、直すから……。だからお願い、私を嫌わないで……一人に、しないで……」
「ち、千早ちゃん……落ち着いて? 大丈夫だよ、嫌ったりなんかしないから」
「……じゃあ、どうして私の家に来たがらないの?」
「……えっと……その……たぶん気のせいだと思うから、あんまり気にしないでほしいんだけど……」
「ええ、分かったわ……だから、教えてちょうだい」
「……千早ちゃんのお家で寝ると、耳元で声が聞こえるんだ……『出ていけ』……って」
もちろん、私はそんな声を聞いたことはない。
同じ布団で寝てるのに。
私は自分の家が怖い。
以上です
ありがとうございました
前スレのようなもの
P「きっかい」
P「きっかい」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400767379/)
今回書かれなかったアイドルのはこっちにあります
それと解説的なものも一応
真
どうやら誰もいなさそうだった→音はしていなかった
亜美
縦
この手のスレタイで立てるのはこれが最後だと思います
ありがとうございました
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