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では、よろしくお願いします
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男「……」テクテク
高木「……」テクテク
ドンッ
男「あ、すみません……」
高木「いや、こちらこそぶつかって悪かったね」
男「いえ……それじゃ」テクテク
高木「……」テクテク
……
男(就活に失敗した)
男(大学は大して勉強もせず、程々の成績で卒業。やりたいこともないまま就活だけはしてみたが……)
男「結局、一つも受からなかったなぁ」ハァァ
男(季節は春真っ盛り。桜も満開のこんな時期に、俺はこんな人気のない講演で何やってんだろうなぁ……)
男「はぁぁぁ~……」
??「どうしたんですか、そんな深々とため息なんてついて」
男「ん?」
春香「あ、ごめんなさい。急に話しかけちゃって……私、天海春香って言います! アイドル志望で、この公園にはよく自主練で来てるんです!」
男「へぇ、アイドルを……」
春香「って言っても、まだ何処の事務所にも入ってないへっぽこなんですけどね」テヘヘ
男(こんな可愛い子でもなれないもんなのかぁ……アイドルって、ただ顔が良いだけの奴が適当な踊りと口パクでやってる仕事かと思ってた)
春香「で、どうしたんですか? 何か嫌なことでもあったんですか? あ、話せないようなことでしたら、無理はしなくて良いんですけど……やっぱり、誰かに話した方が気が楽になりますよ!」
男「……そうだな、君を見てたら、何となく相談してみたくなってきたよ。下らない話だけど、聞いてもらえるかい?」
春香「はい、もちろんです!」
……
春香「へぇ、就職活動で……」
男「ああ。そういうわけで、真っ昼間からこんなとこでダラダラしてたってわけ」
春香「そうなんですか……そうだ、今お時間大丈夫ですか? 良かったら、私のレッスンを見て欲しいんですけど」
男「それはいいけど、俺なんかで役に立つかなぁ」
春香「悩み事と同じで、レッスンも誰かに見てもらえるだけで結構違いますから! じゃ、お願いしまーす!」
春香「~♪」スタックルッパッ
男「……」
春香「~♪」スッタッタンッ
男(……楽しそうだなぁ)
春香「~♪」クルッスゥタンッ
男(あんな楽しそうな顔されたら、何だか悩みも消えちまいそうだ……)
春香「♪ ……ふぅ、どうでしたか?」
男「えっ、うーん……素人の感想だけど、いいかな?」
春香「は、はい! ビシッとお願いします!」
男「まず、ダンスの動きがぎこちない」
春香「はぅっ」
男「歌が踊りに置いてかれてる」
春香「うぅ……」
男「観客……今回は俺だけど、観てる人の事を把握できてない」
春香「むぅ」
男「後、声がちょっとうわずってるな。動いてるせいかもしれないけど、もう少し肺活量と体力をつけた方がいい」
春香「うぅぅ、容赦のない感想、ありがとうございます……」グスッ
男「ご、ごめん! 指摘しなきゃって思ったら……」
春香「いいんですよ。私から頼んだんですし、お兄さんのアドバイスも凄く的確でした! 私、今までただ何となく歌って踊ってたんで、観てくれる人の事とか、考えたこともなかったです」
男「まぁ、自主練だけじゃ限界があるもんなぁ……あ、でも」
男「天海さん、本当に楽しそうだった。それだけは、凄く伝わってきたよ」
春香「ありがとうございます! 私、その気持ちだけなら誰にも負けませんから!」
男「うんうん、何かが好きって気持ちがあれば、きっといつかは辿り着けるさ」
春香「あのぉ……良かったら、これからも私のレッスン観てもらってもいいですか?」
男「えっ、俺が?」
春香「い、嫌ならもちろんいいんですけど……」
男「いやいや、むしろ俺なんかでいいの? そりゃ、時間ならいくらでもあるから構わないけど……」
男(むしろ、天海さんの歌を、踊りを……頑張る姿を、もっと観てみたいと思ったし……)
春香「良かったぁ。じゃあ、これからお願いしますね! お兄さん」
男「ああ、こちらこそよろしく。天海さん」
春香「あ、私の事は気軽に春香と呼んで下さい!」
男「ああ。改めてよろしく、春香!」
……
春香「……今日のレッスン、どうでしたか?」
男「……」
春香「うぅ、溜めないで下さいよぉ」
男「思うんだが、今は歌って踊って……一度に全部をやろうとしすぎてる気がするんだ」
春香「え? でも、アイドルってそういうものですよ?」
男「そりゃそうだけど、野球選手だって練習は試合ばっかじゃないだろ? 投、打、守の三つをそれぞれ鍛えて、それを試合で生かしていくじゃないか。アイドルも同じじゃないかな?」
春香「な、なるほど」
男「しばらくは、歌、ダンス、魅せ方の三つに分けてトレーニングしていったらどうかな?」
春香「分かりました! やってみますね」
……
春香「あー! あー!」
男「うん、音程も息の長さもだいぶしっかりしてきたな」
春香「ありがとうございます! これもお兄さんのおかげです」
男「いや、春香が頑張ったからさ。さ、次はダンスの練習をしよう」
春香「はい!」
……
春香「ほっ、やっ、はっ!」クルッスタッパッ
男「ほら、今のところリズム遅れてたぞ!」
春香「はい!」スタッ
男(俺がアドバイスできることも減ってきたな……)
男(ちょっと本格的に勉強してみるか)
~本屋~
店員「イラッシャッセー」
男(ふむ……歌、ダンスは結構いろんな本が出てんだな……演技力についてはまぁ今は良いだろう。問題は魅せ方だな)
男(1,2,3……5冊か。深夜のコンビニバイトで食いつないでる半無職には厳しい出費だなぁ)
男(でも、春香の頑張る姿をもっと見ていたいし、何より……)
男(夢も何もなかった俺の代わりに、春香には夢を叶えて欲しい。やりたいことを頑張って欲しい。それが、それこそが今の俺にとっての……俺の初めての”夢”)
……
春香「ら、ライブ形式ですか?」
男「ああ。歌、ダンスもだいぶ上達してきたし、そろそろそれらを組み合わせたレッスンをしても良い頃だと思うんだ」
春香「なんだか緊張しますね……」
男「何、観客は今まで通り俺一人なんだ。緊張せず、今までの成果を発揮すればいいさ」
春香「は、はい!」
春香「~♪」
男「……」
春香「……ふぅ、どうでしたか?」
男「うん、最初の頃よりずっといいと思うぞ!」
春香「ホントですか!? やったぁ」
男「ただ、今は歌とダンスに精一杯で、観てる人を意識できていないと思う」
春香「観てる人……ですか。難しいですね。私、自分の事で精一杯で」
男「まぁ、最初は誰だってそうだよ。目の前のことに精一杯で、それを見た人も、一生懸命やってる姿をみて感動する……だけど、プロはその一段上を目指さなきゃいけない」
春香「そうですよね。歌って踊ってる姿を見せてお金を貰うんだから、自分本位なだけじゃ駄目ですよね」
男「そこで、参考になるかと思って色々探してみたんだけど……」
男「この動画を見て貰えるか?」
春香「えっと……うわぁ、この子ダンス上手ですねー。いわゆるネットアイドルって奴ですか? でも、歌がついてない」
男「その子は歌抜きで、ネットアイドル界のクイーンにまで上り詰めたらしい。その理由こそ、魅せ方にあると俺は思うんだ」
春香「魅せ方……」
男「今日からは、春香が歌ってる所を俺が録画して、それをチェックしながら練習しよう。そうすれば、春香も客観的に自分の動きを捉えられるだろ?」
春香「なるほど! ファンからの目線を認識するって事ですね!」
男「その通りだ。さ、始めよう!」
……
男「さて、今日はこのくらいにしようか」
春香「ありがとうございました!」
男「なぁ春香。そろそろ、オーディション受けてみないか?」
春香「お、オーディションですか!?」
男「何驚いてんだよ。俺と会うまでは、結構受けてたんだろ?」
春香「そ、それはそうなんですけど……」
男「?」
春香「こんなに頑張って、お兄さんにも色々レッスンつけて貰ったのに落ちたらって思うと……ちょっと、怖くて」
男「……春香、その気持ちはよく分かるよ。でも、春香の目標はアイドルになって皆に歌やダンスを届けることなんだろ? じゃあ、こんなところで俺だけに見せるんじゃなくて、もっと広い世界にはばたかなきゃ駄目だ」
春香「それは……そうなんですけど」
春香「最近、お兄さんとのレッスンが楽しくて、何だかもうこのままでも良いかな、なんて思ったりすることもあって……」
春香「駄目ですよね、私。こんなんじゃ本末転倒なのに……」
男「……ふっ」
春香「な、何で笑うんですか!?」
男「いや。俺もな、春香が今のまま、俺だけのアイドルだったらなんて思ったこと、あったから」
春香「なっ//////」
男「でも駄目なんだ。それじゃ俺も……きっと、春香自身も後悔する。俺は、立派になった春香を、世界中の人に観て貰いたい!」
男「だから、進もう。勇気を出して!」
春香「……はい!」
オーディション当日
男「……」
男(そろそろ事務所のオーディションが終わる時間だけど、いっこうに連絡が来ない……)
男「これは、覚悟しといた方が良いのかな……」
~いつもの公園~
男「……お、来たか」
春香「……」トボトボ
男「その様子だと、駄目だったんだな?」
春香「……はい」
男「何処の事務所を受けたんだ?」
春香「大手の、961プロって所を……そこの社長に、ボロボロに言われて。私に、才能がないって」ポロポロ
春香「別に、自分を過信してた訳じゃなかったんです。才能があるなんて、自分でも思ってませんでした。でも、私の前に受けてた人たちがすっごく上手で……私、緊張しちゃって……」
男「ミスしちまった。そういうことか」
春香「……はい」
春香「私、才能ないです。でも、961プロの社長にバカにされて、お兄さんのことまで悪く言われてるみたいで……悔しくて、悔しくて」グスッ
男「いいか、春香。厳しいようだが、これが今の春香の精一杯だ。本当のアイドルだって、一回限りのライブでミスしたって言い訳は出来ない。おまえが挑もうとしているのはそう言う世界だ」
春香「……分かってる、つもりです」
男「でも、だ」ポン
春香「ふぇ!?」
男「よく頑張ったな。そして、本気で悔しがってる。それは良いことだ」ナデナデ
男「悔しいと思う気持ちがあれば、きっと次はもっと良くなるさ」
男「確かに、春香はちょっと鈍くさいところがあるし、あんまし才能に溢れてる訳じゃない」
春香「わ、分かってますよぅ!」プクゥ
男「だけど、春香は才能なんてけっ飛ばせるくらい立派な努力家だ。何度倒れても、決してあきらめずに立ち上がることが出来る。春香は、アイドルという自分の夢を誰よりも大事にしているから」
春香「……はい! だって私、歌うことが大好きですから!」
男「じゃ、いつも通り始めようか」
春香「はい! 今日もレッスン、お願いします!」
1です。あとちょっとなんですけど明日早いのでここでいったん切ります。お付き合いありがとうございました
ちなみに、この春香はまだアイドルになってません。分かりにくくてすみません
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