南条光「仮面ライダー!」(274)
※仮面ライダー×アイドルマスターのクロスSSです。
ノリも展開も昭和臭、最近のライダーはあんまり知りません。
ニチアサヒーロータイムのテンポでお楽しみください。
仮面ライダー光 第一話
『誕生!新たなる仮面ライダー!』
―――南条家
「行ってきまーす!」
「いってらっしゃーい」
勢いよく家を飛び出したのは、髪の長い小柄な少女。
門を出たところで振り返り、見送る母に手を振る。
輝く笑顔の彼女は、南条光。
何よりも正義のヒーローを愛する、特撮番組好きの十四歳だ。
「今日もレッスンがんばるぞー!」
彼女は今話題の新興アイドル事務所、CINDERELLA GIRLS PRODUCTIONでアイドル候補生をしている。
候補生ということでまだまだ出番は少ないが…。
「事務所までダッシュで特訓だー!」
夢に向かって邁進する彼女は、そんなことなどお構いなしだ。
―――CGプロ事務所
「P!おはよう!」
「おう、今日も元気だな、光」
光のあいさつに笑顔で答えるのは彼女のプロデューサーだ。
特撮ものの番組が好きということで光と意気投合し、彼女の正式なデビューの為に日夜奔走している。
「今日の仮面ライダーカイムみたっ?」
「おっと、すまんな、まだ録画しただけなんだ」
「えー!今日のは葛ノ葉さんが…」
「おいおい、ネタバレしてくれるなよ?」
いつものやり取りを交わしながら、二人は今日一日の準備を進める。
「よし、P!アタシは準備完了だ!」
「俺もちょうど終わった。レッスン場へ行くか」
「うん!」
仕事のない日曜日は基本的にレッスンから始まる。
彼女は自身のプロデューサーの跨るバイクに同乗し、レッスン場へ向かった。
―――CGプロレッスンスタジオ
「うん、今日も遅刻はしてない。いつもえらいな、光くん」
「もちろんさ!アタシは一刻も早くデビューして、特撮番組で主役を張るんだからな!」
やる気十分の光に、ベテラントレーナーも満足げにうなずく。
「ルキトレ、準備を頼む」
「はーい!」
「それじゃ、俺は今日はこれで。光をお願いします」
「えー、光ちゃんのPさんもう行っちゃうんですか?」
「こらトレ、遊びじゃないんだぞ」
「はっは、またスタッフみんなで飲みましょうよ。頑張れな光、それじゃ」
トレーナーに笑いかけ、光の頭をポンポンと叩いた彼は颯爽と去っていく。
「相変わらずかっこいいですよねー、光ちゃんのプロデューサーさん」
「んー、そーかなぁ…大人だとは思うけど」
「まぁ光ちゃんからしたら結構年上ですもんねー」
「こらこら、いつまで関係ない話を引っ張るんだ?」
「でも、ベテ姉さんだって随分ほめてたじゃないの」
「む…まぁ今時の男性にしてはなんていうか骨がある感じはするしな…それになんともいい体つきをしている…あれは昔相当鍛えてた…って何を言わせるんだなにを!」
「きゃっ!やりすぎちゃったかな、ごめんなさぁいベテ姉さん!」
きゃっきゃと騒ぐトレーナー姉妹。
自分のプロデューサーが褒められるのはうれしいがなんだかムズムズするな、と思う光であった。
―――都内某所、謎の地下施設
「くっ…まさか私の研究があんなことに利用されていたなんて…!」
小柄な白衣の少女が悔しそうな表情で目の前の機会に何やら細工を施している。
「許さん…絶対に許さん…!あの研究は、人類の未来の為に使うべきなのだ…!それを悪用しようなどと…」
―――ウィーン!
「キー!」
「しまった!」
「そんなところで何してるんですか博士!!」
扉が開き、黒の全身タイツに涙を浮かべた天使の文様をプリントした怪人が数人と、腰に爆弾を巻きイノシシの被り物をしたような怪人が入ってきた。
「これは…!」
「言い訳しても無駄です!!首領はあなたが忠誠を誓うつもりがないことなんてとっくのとーに見抜いてるんですから!!」
「…では、どうするつもりだ」
「我々が欲しいのはあなたの頭脳!!それを傷つける恐れのある脳改造はできません!!なので、我々ブラックシンデレラに忠誠を誓えないなら…死、あるのみです!!」
「そんなことだと思ったぞ!!」
白衣の少女はポケットに突っこんでいた手を抜き、その手に握っていた閃光弾を炸裂させる。
「キキー!?」
「うわあああ!!」
「どけぇっ!!」
隙をついて部屋を飛び出す少女。
「追って!追ってください!!逃がしてはダメです!!」
イノシシ怪人が叫ぶが、閃光弾に視界を奪われてはなかなか思うように動けない。
(今捕まるわけにはいかない…!)
必死に走った少女は施設を飛び出し、ウサギを模した卵形の乗り物に乗り込むと、すさまじい勢いで発進させた。
少女を追って怪人が施設を飛び出した瞬間、巨大な爆発が起こり施設は完全に破壊された。
―――CGプロレッスンスタジオ
「今日はここまで!」
「お、お疲れ様でしたぁ!」
ベテトレのレッスンはハードだ。
これが終わるといつも光はふらふらになってしまう。
「ははは、やはりキツイか!」
「ま、まぁね…でも、アタシは負けないよ!」
「うん、その意気だ。帰ったらお風呂でよくマッサージをするのを忘れるなよ」
アドバイスを一言二言もらい、その日のレッスンは終了する。
今日はこれでおしまいだ。
光のプロデューサーは今日一日営業で、帰りはこのまま一人。
そういえば今日、夕方のワイドショーで特撮関連の話題が取り上げられるというのを光は思い出した。
「急いで帰れば間に合うかな」
疲れた体に鞭打って、光は帰り支度を始めた。
―――都内某所、人けの少ない路地
「くそっ…やはり追ってきたか!」
「逃がしませんよおおおお!!ボンバー!!!」
「くっ!」
少女が思いっきりハンドルを右へ切る。
乗り物は右へと進路をとったが、さっきまで乗り物がいたところが爆発を起こした。
「くぅぅ!!ちょこまかと!!めんどくさいのはキライです!!」
イノシシ怪人は走りながら地団太を踏むという器用なことをしている。
そもそも、車並みのスピードを出す乗り物を走って追いかけられるその脚力はいったい。
「しつこい…!しかしどうすれば…!」
「待てー!!止まってください!!死んでくださあああい!!」
この騒ぎを変に思う人もいなくはないが、なぜか深く追求しようという気は起らず、誰も真実には気付かない。
(警察…いやだめだ、このまま大通りにはでられん!)
当てのない逃走に、少女は絶望を感じ始めていた。
―――同じく都内某所、レッスンスタジオからの帰り道
「うわー、間に合うかなぁ」
思ったよりも帰り支度に時間がかかり、レッスンスタジオを出るのが遅くなってしまった光。
彼女は少し焦っていた。
「そりゃ録画はしてあるけどさぁ…やっぱり生放送は生でみないと!」
軽い駆け足で家路を急ぐ光。
その途中で、廃工場の間を突っ切れる路地のことを思い出す。
元がとても大きな工場な上に光が目指す道はこの工場のちょうど反対側だ。
迂回すると十分は余計にかかる。
「人通りが少ない所はなるべく通るなって言われてるけど…」
光は空を仰ぐ。
少し日は傾きかけているが、すぐには暗くなりそうもない。
「まだ明るいし、いいよな」
肩掛け鞄をしょい直し、光は人通りの少ない路地に入り込んでいった。
―――人けのない路地
「マズイっ!」
「そこですね!!ボンバー!!」
「くぅっ…うあっ!」
先ほどから少女を襲っている爆発は、イノシシ怪人の放つものだったようだ。
迫りくる爆弾への反応が遅れ、なんとか直撃は免れたものの爆風の余波でひっくり返される少女の乗り物。
「うっ…逃げなくては…」
「逃がしません!!あなたはこれで終わりなんです!!博士!!」
何とかひっくり返った乗り物から這い出ようとする少女。
その少女にゆっくりと近づくイノシシ怪人。
(万事休す、か…)
己の無知と運命を呪い、観念した彼女が目を閉じたその時である。
「やめろっ!!」
小さな影が飛び出し、イノシシ怪人に体当たりをかました。
怪人にとってはなんら痛手になるものではないが、突然の事態に驚きしりもちをつく。
「な、なな、なんですかあなたは!!」
「通りすがりのアイドル候補生だ!!事情は知らないけど、乱暴はよせ!!」
南条光だ。
彼女は、自分の進む先から爆音が聞こえるのに気づき、様子をうかがいながら近づいたところ少女が襲われている現場に出くわしたのだった。
最初は信じられないような光景に「特撮番組の撮影か」と隠れていたのだが、カメラマンどころか監督もスタッフの一人も見受けられない状況に異常を感じ、持ち前の正義感が働いて飛び出したのだ。
「君、大丈夫か!?」
「あ、あぁ…はっ、君こそ危ない!早く逃げろ!」
「やっぱりこれ撮影とかじゃないのか…ってことはますますほっとけない!一緒に逃げよう!」
「私と一緒にいたのでは君まで狙われるぞ!」
「ヒーローは困ってる人を見捨てない!アタシはヒーローアイドルになるんだ!だから、アタシは君を見捨てない。さぁ、アタシの肩に掴まって…」
「そうは問屋が卸しません!!見て見ぬふりをすればよかったのに、私の姿を見たからにはあなたにも死んでもらいます!!」
光が少女に肩を貸そうとした瞬間、驚きから我に返ったイノシシ怪人が構えなおす。
「さようならです!ボンバー!!!」
「ダメだ君は逃げ…えっ!?」
「えええええい!!」
イノシシ怪人が爆弾を放り投げる。
せめて光だけはと突き飛ばそうとしたのだが、突き飛ばされたのは少女の方だった。
「逃げ…」
―――ドカアアアアアアン!!
爆弾は無慈悲に光の目前で爆発し、彼女を爆炎が飲み込む。
衝撃に顔を伏せていた少女が起き上がり駆け寄ると、そこにはぼろ雑巾のようになった光が。
「バカっ!なぜこんなことをした!!私は今君と出会ったばかりの他人だろう!?」
「…ひーろーは…みすてな、い…はやく…にげ…」
「自分が死んだらッ!ヒーローも何もないだろう!!死ぬな!!おい!!」
「何だか知りませんけど、爆発の回数が増えただけです!!ボンバー!!!」
光にすがって叫ぶ少女に、イノシシ怪人は慈悲もなく爆弾を放る。
「…っ!」
さっきよりも強い爆発が巻き起こり、少女と瀕死の光は爆炎に飲み込まれた。
「あれ?思ったより爆発が大きいですね。まぁあの乗り物に引火でもしたんでしょう!!任務完了です!!」
イノシシ怪人は満足げに炎を見つめ、立ち去った。
―――しばらくたって
「…行ったか…やつがバカで助かった」
爆炎が治まるとそこには、誰の姿もなかった。
いや、その表現は正確ではない。
爆炎に飲み込まれたはずの光と少女がいた場所のみ綺麗に焦げ跡も残っていない。
そこから、まるで壁紙をはがすかのように少女と光が姿を現した。
少女は最終手段として乗ってきた卵形乗用車のカムフラージュ機能を作動させ、乗り物そのものを爆破、操縦席のカバーをバリアのように身にまとうことで窮地を脱出したのだった。
光が突き飛ばしてくれたおかげで作動装置をポケットに忍ばせることができたが…。
少女が光を見やる。
ひどい状態だ。今から病院に運び込んでもまず助からない。
まだ呼吸はしているが、それもみるみる弱くなっていく。
「バカ者…!私なんかの為に死なせはしないぞ…っ!」
少女は逃げ出してきた施設で見た地図を思い出す。
「この近くには確か…そうだ、この工場!」
何かに思い至った彼女は爆発した乗り物の残骸から四角い箱を引っ張り出す。
「備えあれば憂いなし…ウサロボ!」
―――ウサッ!
少女の声に反応して箱から現れたのは、四角い体にキャタピラの足を持つウサ耳のロボット。
「彼女を運ぶのを手伝ってくれ、死なせるわけにはいかん」
―――ウサッ!
光を担ぎ上げ、少女とウサロボは廃工場の裏手へと消えていく。
そこには…。
―――謎の地下施設
「やつらの捨てた施設を使うことになるとはな…」
どうやらここは、彼女を追っていた組織がかつて使っていた実験施設のようだ。
捨てたといっても、資材がかなり残っていることから、倉庫代わりにでも使われているのかもしれない。
「電源も通っているということは、一応まだ管理下にあるか…どのみちのんびりはできん。ウサロボ!」
―――ウサ?
「彼女を救うにはこれしかない…協力頼むぞ」
―――ウサッ!
少女の言葉に敬礼で答えるウサロボ。
少女は傷ついた光を実験台の上に乗せると、「聞こえてはいないだろうが」と語りかけた。
「これからお前に施す手術は、お前の輝かしい未来をメチャクチャにする行為かもしれん。
あのまま死んでいればよかったと思うこともあるだろう。
だが、それでも私はお前に生きていてほしい。
このままお前に死んでもらいたくはない。
助けてもらった恩を仇で返すことになるとしても…」
そういい、息を一つついた少女は器具を手に取った。
「…始めるぞ」
―――ウサッ!
―――謎の地下施設
少女が光に施している手術とはなんなのか。
およそ一般的な手術に使われる器具とはかけ離れたものまで使用されている。
そう、医療的な手術ではなくこれではまるで…。
―――改造。
光の胸に機械を埋め込み、最後の縫合を行う少女。
「…ふぅ、これで終了だ。お疲れ、ウサロボ」
―――ウサッ!
片手をあげてそれにこたえるウサロボ。
機械であるはずの彼(彼女?)にも、なぜか疲労と心配の感情が見て取れる。
「あとは拒絶反応が起こらないかと、彼女の体力次第だが…」
ズズゥゥゥン!
そうつぶやいたところで施設に振動が走る。
一瞬何が起こったかわからないという顔をした少女だが、その明晰な頭脳はすぐさま事態を把握した。
「仕留め損ねたことに気づいて戻ってきたか…ここまでだな。これ以上こいつを巻き込むわけにはいかない」
観念した彼女とウサロボは、光に深く頭を下げると地上へと上がっていった。
―――廃工場
「どこですか博士!!生きているのはわかってるんですよ!!」
「ここだバカ者」
少女の予想通り、そこには先ほど彼女たちを仕留めたと勘違いして帰って行ったイノシシ怪人がいた。
「そこにいたんですね!!まったく、あなたが変に隠れたりするからボスに怒られてしまったじゃないですか!!」
「お前が無能なのがいけないのだろう?イノシシの怪人の癖に匂いをたどることもせずに爆弾を投げるばかりとは…その鼻は飾りか?イノシシボマー」
「はっ!そういえばその手が…!」
少女に指摘されて「今まで考えた事もなかった」という表情を浮かべ愕然とする怪人。
その名はイノシシボマー。
「バカめ、そんなことだから悪事に手を染めることになるのだ」
「ううう、私がバカなのは構いませんけど、ブラックシンデレラの悪口は許しませんよ!!ボンバー!!!」
「くっ…」
怒ったイノシシボマーの爆弾攻撃を、すんでのところで躱す少女とウサロボ。
しかし、彼らは戦闘訓練を受けているわけではない。
どうやってもいずれはイノシシボマーにやられてしまうだろう。
「組織を否定するものに慈悲はありません!!さぁ!死んでください!!」
「他人を陥れ世界に仇なすお前たちになんの道理があるというんだ!!私はそんなもの認めない!!」
「あなたに認めてもらう必要なんてありません!!ボンバー!!!」
「ここまでか…!」
ついに、イノシシボマーの放つ爆弾が少女を正面に捕える。
自分の身体能力では逃げ切れない。
観念してウサロボを抱きしめ目をつぶる少女。
しかし。
ズガアアアアアン!!
「…ん??」
爆発音は聞こえたものの、思っていたような衝撃はこない。
むしろ熱い風が自分の両脇を綺麗に流れていくのを感じる。
「…そうか…手術は成功か…」
恐る恐る目を開けた彼女は視界に映るその光景に安堵ともつかない吐息を漏らす。
「もー!!さっきからいいところで邪魔が入って!!今度はなんなんですか!!」
「アタシか…?アタシは…」
爆発と少女の間に割って入った影がゆっくりと構えながら叫ぶ。
「通りすがりの仮面ライダーだ…覚えとけ!!」
白い仮面に大きな赤い目、額から延びる二本の触覚。
赤いスカーフをたなびかせ、腰にはバックルの部分に風車を付けたベルトを巻いている。
両手両足についているのはは小さなブースターだ。
「仮面、ライダー?なんか聞いたことがあるような気が…まぁいいや!爆発しちゃえばいっしょです!!ボンバー!!!」
「無駄だっ!」
ライダーは風のように走るとイノシシボマーの放つ爆弾を空中で掴み取り、そのまま投げ返した。
「え、ちょうぎゃああああああ!!」
完全に虚を突かれ爆発に巻き込まれるイノシシボマー。
「えい!ヤァ!トォー!」
体勢を崩したイノシシボマーの隙をついてライダーがとびかかる。
パンチ!パンチ!キック!
見た目は素人拳法だが、その攻撃は的確に相手をとらえ、弱らせていく。
「ぶっ!ぐっ!このっ!」
「ぐぬぬぬ…」
イノシシボマーも黙ってやられているわけにはいかない。
ライダーに掴み掛り、お互いの両手を握り合う。
「パワー比べなら…負けません!!」
「ぐぐぐ…トォー!」
単純なパワーでは自分には分が悪いことを察したライダーは、隙を突き相手の腹を蹴り上げいったん距離を取る。
「ライダー!お前の手足のブースターは、小さいが強力なものだ!うまく使え!!」
「ブースター…?えっと…こうか!!わわっ!」
ライダーが手足のブースターを作動させると、噴射の勢いが$はるか上空へその体を運んでいく。
「げほっげほっ…ううう!!降りてきてください!!」
「お望みならそうしてやるぜ!!」
突然高く飛び上がったことには驚いたものの、何とか空中でバランスを取ったライダーは、そのまま急降下。
回転しながら勢いをつけて渾身の蹴りを放つ。
「ライダー!!キィィィィック!!!」
「ぎゃああああああ!!!」
ライダーの蹴りをまともに喰らい、イノシシボマーは吹き飛ぶ。
「う、ううう、うううううううう…ボンバー!!!!」
ドカアアアアアアン!!
少しの間のたうちまわったイノシシボマーは叫び声をあげ爆発を起こして倒れた。
「ふぅ…」
ライダーが息をつくと、仮面やスーツが消えていく。
その下から現れたのは…光だ。
「…あ!君、大丈夫か!?」
「それはこっちのセリフだ…その様子なら、手術は成功だったようだな」
「うん!あはは」
駆け寄り自身の安否を尋ねる光に苦笑しながら確認する少女。
「まったく…いや、詳しい話はあとだ。それよりも今は」
少女はイノシシボマーの倒れた場所へ近づく。
そこにはイノシシボマーの姿はなく、一人の少女が倒れているのみだった。
「あれ?さっきのやつは…」
「この女がそうだ」
「えぇっ!?」
「こうなってしまった以上、お前も無関係ではない。どこか安全なところで話そう…ウサロボ!」
―――ウサッ
「この女を運ぶのを手伝ってくれ」
―――ウサー!
ウサロボが倒れている少女を担ぎ上げる。
光は何が何だかわからないという表情を浮かべながら、とりあえず一番大事だと思われることをした。
「えっと…助けてくれてありがとう!アタシは南条光、アイドル候補生だ!」
「い、いきなりなんだ?」
「え?いや、ほらお礼とあいさつと自己紹介は大事かなって」
「これだけいろいろあったというのに呑気というかなんというか…」
少女は額を抑えて呆れたように笑う。
「へ、変だったかな…」
「いいや、人間として…いや、人としてはそれが正しいな」
少女はなぜか「人間」という言葉を言い直して光に向き直る。
「晶葉…池袋晶葉だ。よろしくな、南条光」
「おう!」
―――次回予告
謎の少女の正体は、悪の組織ブラックシンデレラから逃げ出してきた科学者、池袋晶葉だった。
晶葉からブラックシンデレラについて聞かされた光は、改造人間として戦うことを決意する。
突如手に入れた力に興奮する光だが、徐々に力を使うことへの疑問を感じ始める。
正義とは、力とは、戦う理由とは。
次回「その名はルクス!」
ご期待ください。
※作者でございます。
以上第一話でした。
第二話は数日中にこの続きへ投稿いたします。
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乙ー
葛ノ葉さんクソワロタwww
光のライダーはスーパー1みたいなのかな?
続きも期待
第二話行きまーす。
あ、光ライダーは彼女の「小さな英雄」コスを彷彿とさせるような感じお願いします。
>>38ご指摘の通り、スーパー1もイメージしてます。
V3要素もちょっとあったりして。
では投下。
主題歌「その名はルクス!仮面ライダー!」
赤いスカーフたなびかせ
今日もアイツがやってくる
白い仮面の小さな英雄
僕らのルクスライダーだ
みんなの輝く笑顔の為に
砕くぞブラックシンデレラ
戦え正義の為に
叫べその名は
仮面ライダールクス
「仮面ライダールクス、南条光は改造人間である。謎の秘密組織「ブラックシンデレラ」よって重傷を負わされたが、天才科学者池袋晶葉の手によって改造手術を受け、仮面ライダールクスとして蘇った!
」
仮面ライダー光 第二話
『その名はルクス!』
―――廃ビル
「キィー!」
「トォー!」
町はずれの廃ビルに甲高い叫び声と、勇ましい叫び声が響く。
「どれだけ来ようと同じだ!お前達なんかに負けるもんか!」
「キキィー!」
黒の全身タイツに涙を浮かべた天使のような文様が白く刻まれている謎の集団が、誰かを囲んで暴れているのだ。
囲まれているのは…白い仮面に赤いスカーフの仮面ライダー。
「よっ!はっ!てやぁっ!」
「キィッ!」
正面から殴りかかってきた黒タイツの右拳を左手で受け、弾き飛ばしながら自分の右拳を叩きこむ。
背後に迫る別の黒タイツには振り向きざまに蹴りを入れ、組みついてきた奴は投げ飛ばす。
どう見ても大人と子供ほどの体格差がある怪人達を、ライダーはバッタバッタとなぎ倒していく。
「キキィッ!!」
「キィキィ!」
「待て!お前たちは何を…うっ!」
勝ち目はないと踏み、逃げ出そうとする黒タイツを追うライダーだが、すんでのところで煙幕を張られ逃がしてしまった。
「くっそー!…まぁ、なにも起きなかったから良かったか…」
ライダーが力を抜くと、仮面とスーツが消えていく。
その下から出てきたのは小さな少女。
南条光だ。
ヴー、ヴー!
「あ、電話、晶葉だ。…もしもし!」
『おぉ、光。無事に追い払ったようだな』
「うん、でも何を企んでるのかわからないままに逃がしちゃったよ…」
『奴らも悪の組織の端くれ、そうそう簡単にしっぽは出さんだろう。気にするな』
「でも、もうあれから三度目だ。これ以上のんびりしてるわけにも」
『私もそれを探るために全力を尽くしている。心配するな。とりあえず事務所に帰ってこい』
「…わかった!」
晶葉との電話を切り、廃ビルを出る光。
事務所へ向かいながら、彼女は数日前に自分の身に起きたことを思い返していた。
―――数日前、南条家、光の部屋
「とりあえず、その子はここに寝かせておいてくれ!」
「すまないな」
あの場にのんびりととどまって話をすることもできず、光と晶葉はイノシシボマーの爆発した場所に倒れていた少女を運び、南条家へとやってきた。
突然の来客、しかもただならぬ様子に不審そうな顔をする光の母だったが、何とか誤魔化し光の部屋に落ち着く。
普段から品行方正な光だからこそ、親も深くは聞かなかったのだろう。
これが彼女のライバルだったならこうはいかなかったかもしれない。
「それで、一体なんだったんだ?さっきのは」
「ふむ…まずは私が何者なのかということから話さねばならないだろう」
晶葉はため息を吐き、話を始める。
「私は、先ほど名乗ったように池袋晶葉という。お前が知っているかはわからないが、少し前に世界最年少で博士号を取得したことで騒がれた科学者だ。いわゆる天才という奴だな」
「はか、せ?」
晶葉の言葉に、頭にハテナを浮かべながら首をかしげる光。
そんな光の様子に晶葉は苦笑する。
「まぁお前の年ではそう真剣にニュースを見ている子供も少ないだろうから、知らなくても致し方あるまい。私は主に、バイオテクノロジーと機械工学の研究をしていた。自分で言うのもなんだが、私の研究はノーベル賞もびっくりのレベルだったと自負している」
「ノーベル賞もびっくり!?」
「あぁ、自惚れでもなんでもなく、な。しかし、私は周囲に天才と持ち上げられるうちに調子に乗っていたようだ。人類に新たな進歩を、などと野心に満ちていた私は、なにも考えず厚遇と環境を用意してきたとある研究施設に所属したんだ。しかし…」
晶葉をスカウトした研究機関は、確かに世界でも類を見ないほどの技術水準と設備環境を整えた団体だった。
科学者ならだれもが憧れるような超厚遇。望む資料も材料もすべて手に入る素晴らしい場所。
だが、その研究機関には裏の顔があった。
「悪の組織…この現代にそんなばかげたものがあるなんて想像もしなかった。しかし、それは実在する…それが『ブラックシンデレラ』だ」
「ブラック…シンデレラ…」
「奴らは世界征服なんて子供じみた野望を本気で叶えようとしている。私の研究はやつらの目的の為に利用されようとしていたんだ…!」
晶葉の研究はバイオテクノロジーと機械工学。
特に、強化細胞と生体金属の研究を主としていた。
「私の研究は、事故や戦争、先天的な四肢の欠損、更には困難な現場で働く救助隊員の助けになればと思って進めていたものだ…もちろん科学の発展の裏側には軍事転用などの危険な部分があることは理解していた…だが…奴らは…純粋な悪意を持って私の研究を…っ!」
悔しそうに唇をかみしめ拳を握る晶葉を、光は悲しげに見つめる。
「…いや、そもそも与えられた環境に飛びついた私が悪い。科学者には技術を生み出してしまった責任がある。私は研究成果を完全に吸い取られる前に奴らのアジトのひとつに爆薬を仕掛け、逃げ出してきた。お前に出会ったのはまさにその逃走中だったわけだ」
「そうか…そんなことが」
「…あまり驚いた様子もないな。普通はこんな話信じられんだろうに」
「いや、まぁ実際この目で見ちゃったしさ」
光は頭をかく。
正直光には、目の前の少女がどれだけすごいのかはあまり理解できていない。
だが。
「それに、晶葉が嘘言ってないことくらいは、アタシにもわかるぞ!」
「…ふふ、まったく単純というか、まっすぐというか。見た目通りのやつだな、お前は」
「あ!なんだよ、子供っぽいっていうのかー!?晶葉だってそんなに変わんないだろ!…ってあれ?そういえば晶葉って何歳なんだ?」
「14だ」
「えっ!?あ、アタシと同じ…中学生…」
「あー、まぁなんだ、一応特例ということで大学卒業資格も持ってるぞ」
「大学ぅ!?」
自分と年の変わらない少女がすでに大学を卒業している。
先ほどまでの壮大すぎて理解の追い付かない話より、そのことの方が光を驚愕させた。
「それくらいしないと天才とは呼ばれんからな」
少し得意げに鼻をならす晶葉は、年相応の表情をしている。
天才天才と持ち上げられ、自分より年がいくつも上の人間とばかりかかわってきた彼女にとって、同い年の少女とこうして話をしているという状況はなかなか珍しく新鮮なことであった。
「はー…晶葉ってホントにすごいんだな…」
「おっと、話が逸れたな。とにかく、私は逃亡中の身だということだ」
「うんうん」
「あそこにお前が現れなかったら、私は殺されていただろう…改めて礼を言う。ありがとう」
「い、いや、そんな気にしなくていいよ!アタシは当然のことをしただけだし!」
「他人の為に自分の命を投げ出せる奴はそういない。たとえ大人であってもな」
「あ………やっぱりさ、アタシって死にそうだったのか…?」
晶葉の言葉に、自分がしたことを思い返して光は尋ね返した。
「死にそう、ではない。死んでいた…すくなくとも、通常の医療手段では助かる術はなかった」
「そっか…でも、そしたらなんでアタシはこうやって生きてるんだ?それにあの力…」
「それに関しても説明しなければな…」
晶葉は再びため息をつき、話し始めた。
「私がお前に施したのは医療的な手術ではない…改造だ」
「かいぞう?」
「お前の肉体は、あの怪人の爆撃を喰らい自己修復はおろか外科手術による処置すら意味をなさないほどに傷ついていた。そこで私は、自身の研究成果を用いお前の肉体を完全に作り替えたのだ。強化細胞、生体金属を用いた超強化骨格、常人の何倍もの再生力と丈夫さを持つ筋繊維、そしてそれらを維持するための動力装置…お前のその身体は、既に人間の物ではない」
「人間じゃ、ない?」
「そうだ。その代わりに超人的な身体能力と回復力、疲れを知らない肉体を手に入れたわけだ…私の身勝手によってな」
そこまで話して、晶葉は土下座する。
「すまない…!私なんかを助けたばかりに、お前はもう人間ではなくなってしまった…この世の誰とも繋がらない孤独な存在になってしまったんだ…今は実感がわかないかもしれないが、いずれその身体の悲しき運命を悟ることになる…他人と共有できない苦しみを味あわせることになってしまったのは…すべて私のせいだ…っ!」
「…」
涙ながらに謝る晶葉を前に、光は難しい顔をしている。
何を考えているのだろうか。
しばらく黙っていた光は、晶葉の肩に手を置き語りかける。
「顔あげなよ、晶葉」
「…っ!」
「なんていうかさ、難しいことはよくわからないけど、晶葉はアタシを助けてくれたんだろ?じゃあ晶葉が謝る必要なんてないじゃないか」
「だが…っ!お前のその身体はっ」
「正直、確かに人間じゃなくなっちゃったっていうのは実感わかないし、この先どうなるのかもわからないけどさ…誰とも繋がらない孤独な存在ってのはないと思うぞ!アタシは!」
ニカッと光は晶葉に笑いかける。
「どういうことだ…?」
「人間て、一人もおんなじ人なんていないだろ?晶葉は学校で習わなかったか?『みんな違ってみんないい』って」
「それは…そうだがそんな単純な話では」
「同じだよ!それに、人と人は心でつながるもんだ!みんなと違う身体だからってどうってことないさ!アタシにはお父さんとお母さんがいる!学校の友達、事務所の仲間。Pやちひろさんやトレーナーさんたちだっている。それに、晶葉も。そうだろ?」
「私も…?」
「あぁ!晶葉とアタシはもう友達、だろ?アタシがあのまま死んでたら、誰にもなんにも言えないままお別れだったんだ。そうなるとやっぱり、アタシがすべきなのは怒ることじゃなくて、晶葉にお礼を言うことだよ。ありがとう、晶葉」
「…心底のお人よしめ」
晶葉が涙をぬぐって光に苦笑いを返す。
「こうなった以上、もう後には引き返せんのだぞ。いずれ後悔するだろう。私を恨んで『あの時死んでいれば』と思う日が来るかもしれん。それでもお前は今の言葉を私に言うのだな」
「ヒーローに二言はないさ!」
どこまでも前向きにさわやかな光だった。
―――そして現在
あの後、晶葉から自身の肉体についての説明を受け、次いで目覚めた少女から話を聞き、なぜか三人とも南条家で夕飯を食べてお泊りという運びとなった。
光の母は懐の深い人である。
それからの数日、光は晶葉を守り悪の組織『ブラックシンデレラ』の野望を打ち砕くべく、こうして怪しい噂の立つ場所を回っているのだが…。
「…なんか、思ってたのと違うな」
光は悩んでいた。
正直なところ、とてつもない事件に巻き込まれた危機感は当然持ち合わせていたが、それと同じくらいわくわくしている自分もいたのだ。
憧れていた特撮ヒーローたち同じ力を手に入れた。
自分もヒーローなんだ!
そんな昂揚感に最初は浮かれていた光だが、数日もたてば落ち着き現実も見えてくる。
いくら超人的な力を手に入れたところで、世界を征服しようなんて企む悪の組織を自分のような小娘が一人でどうこうできることなのだろうか。
なにより。
「やっぱり…誰かを…何かを殴るのって…嫌な感じだ」
光はそもそも暴力行為自体は好きではない。
しかしこの身体を手に入れ、ブラックシンデレラに目をつけられた以上、戦いを避けることはできない。
自分から敵に立ち向かわずとも、追っ手を差し向けられるのはわかりきっている。
それでも、やはり生き物を傷つけるという行為には嫌悪感を覚えざるを得ない。
さらに、この身体は変身をせずとも油断すると常人以上の力を発揮してしまう。
―――ほら、光、スポーツドリンクだ。
―――ありがとうP!ってうわ!
―――…!?なんだ、そのボトル不良品か?飲み口がねじ切れちまってるな。
―――お母さんおはよー…。
―――顔ぐらい洗ってきなさ…あら!?ノブ取れちゃったの?
―――え?
―――へんねぇ、ねじが緩んでたのかしら…お父さんが帰ってきたらお願いしないと…。
新しい身体の力加減がわからず、ここ数日に幾度も犯した失敗が思い浮かんだ。
晶葉に言われた「いずれ後悔する」という言葉が頭をよぎる。
「正義のヒーローってみんな、こういうの平気なのかな…それとも我慢して戦ってるのかな…アタシは中途半端なのかな…いやいや!」
萎えそうになる心を、光は懸命に奮い立たせる。
晶葉に言ったのだ「この身体をくれたことに感謝する」と。
自分の言葉は曲げたくない。
「負けるもんかー!!」
空元気も元気の内。
とにかく光はがむしゃらに走り出した。
―――CGプロ事務所、会議室
「ご苦労だったな光。今日はこのくらいにしておこう」
「お疲れ様です!!」
「おう!茜さんもお疲れ!」
晶葉と光の話し合いの場になぜかいるこの少女は日野茜。
イノシシボマーとの戦いの跡に倒れていた彼女だが、その正体は。
「…しかし、奴らめ、まさか人間を怪人に変える薬物なんてものまで開発していたとは…」
イノシシボマー本人である。
彼女は、ブラックシンデレラに捕えられ、人間を怪人へと変化させてしまう恐ろしい薬の実験台とされていたのだ。
怪人へと変化させられた後、催眠洗脳によりブラックシンデレラの為に働かされていたというわけだ。
「だけど、あれだけの爆発でよく怪我もしなかったよな」
「ふむ…それについてだが、私も考えてみた。あくまで仮説だが、人間があれだけの力を持つ怪人になるのは相当のエネルギーがいる。おそらくお前との戦いでそのエネルギーが放出されたことによって爆発が起きたんだ。そして、怪人化エネルギーが身体から抜けきった茜は完全に元に戻った、と」
「よくわかりませんけど助かりました!!」
なぜか胸を張る茜。
「アタシもよくわからないけど、茜さんが悪い人じゃなくて、無事に済んだならよかったよ!」
「…そうだな。とにかく私は茜の洗脳されていた時期の記憶から何か探り出せないか講じてみることにする」
「よろしくお願いします!!」
「では、これで…」
「あかねー、ここかー?入るぞー」
会議室を開けて入ってきたのは、この事務所に所属するプロデューサーの一人、ポジティブパッションPだ。
看板娘の一人本田未央と、高森藍子の面倒を見る彼は、光がとりあえず事務所に連れてきた日野茜を一目見るなり全力スカウト。
行く当てのなかった彼女はめでたくCGプロの女子寮に収まることとなったのだった。
「あ!プロデューサー!お疲れ様です!レッスンですか!!」
「いや、これから未央と藍子連れて飯行くんだ、お前も来い。歓迎会も兼ねてるからな!」
「ご飯ですか!ありがとうございます!!では晶葉ちゃん、光ちゃん、失礼しますね!!」
「お、おう」
「またね、茜さん!」
茜とポジパPは去って行った。
実際、公の立場に出る機会が多くなれば、ブラックシンデレラも手を出しづらくなる。
今のところ奴らは、あまりおおっぴらに動くことを避けているらしいからだ。
そういうこともあり、晶葉もキュート部署に仮登録をして女子寮に住むことになっている。
これは主に光のプロデューサーの尽力によるものだ。
「お前のプロデューサーには感謝してもしきれんな、明らかにわけありな私に何も聞かず協力してくれたのだから」
「Pってたまに何でも知ってるような顔するんだよなー。でもまぁ、晶葉も安全に住めるところが見つかって良かったじゃないか!」
「あぁ、アイドル事務所の女子寮なのにあのセキュリティレベルの高さは驚嘆すべきものだがな」
女子寮の管理は事務員の千川ちひろが行っている。
国防総省クラスのセキュリティも当然と言えば当然だろう。
そういうものなのだ。
「では、私は寮に戻る。失礼するぞ」
「あぁ、お疲れ晶葉!」
茜に続き、晶葉も部屋を後にする。
「…はぁ、アタシも帰ろうかな」
一人になったとたんに、言い知れない疲労感と不安感が首をもたげ始める。
光は重い体を引きずりながら部屋を出た。
―――CGプロ事務所、事務・応接スペース
「お、光、お疲れ」
「あぁ、P、お疲れ」
会議室を出た光の前に現れたのは自身のプロデューサーだった。
「昨日ようやく時間ができてな、最近録りためてたやつを見てたんだが、やっぱり特撮はいいな!」
「…そうだな」
「…どうした光、元気がないな。何かあったのか」
光の様子がいつもと違うことに気づいたプロデューサーが、向き直って尋ねる。
「いや、なんでもないよ!…あ、でも、ひとつ聞いてもいいかな」
「…?なんだ、言ってみろ」
「えっとさ…アタシたちが好きなヒーローって、どんな気持ちで戦ってるのかな」
ここ数日気になっていた気持ちをプロデューサーにぶつける光。
「悪い奴を倒すためとはいえ、ヒーローも暴力を振るってるわけだろ?みんな、どんなふうに思ってるのかな…」
「お前らしくないな、いつもなら特撮談義といえばどんなのがカッコいいとか強いとかそんな話をするだろうに…なにか難しい映画でも見たのか?」
「えっと…そんなとこ、かな?」
「自分のことなのになんで疑問形なんだ?…ふむ、そうだな」
プロデューサーの目がまっすぐ光の目を覗き込む。
全てを見透かされそうな気がするが、そらしたら負けだと負けだと光も見つめ返す。
「お前の疑問に、綺麗な回答をすることは難しい。だが、一つだけ言えるとすれば、ヒーローの中に喜んで暴力を振るうやつはいない」
「それじゃ、みんな我慢して戦ってるってことか?」
「そうだ。そして、それを我慢できる理由はそれぞれに違う。先祖代々の役目を果たすためだというヒーローもいれば、愛する者への想いのみで戦い続けるやつもいる。個人的な復讐の為という戦いは、俺はあまり好きじゃないがそれもまた一つの姿だ」
「人それぞれ…か」
つぶやく光にうなずきながら、プロデューサーは続ける。
「ちょうどお前が好きな“仮面ライダー”の中にもいただろう、暴力は嫌いだが、それで守れるものがあるならと戦っていたやつが」
「空牙だね!」
「そうだ。個人の復讐という目的から、人々を守りたいという思いに目覚めたやつもいる。戦う理由は人それぞれ、戦い続ける理由もまた、な」
「行けばわかるさ、ってことか…P、ありがとう!アタシなんかちょっとすっきりしたよ!」
色々難しいことを考えていた光だが、とりあえず全部どこかへ置いてみることにしたようだ。
やれることを全力でやるだけ、それが南条光の持ち味だ。
「なんだ、今泣いたカラスがもう笑う、か?」
「別にアタシは泣いてないぜ、P!」
「ははは、元気になったならいいさ」
プロデューサーは光の頭をワシワシとなでる。
「さて、俺はもう一仕事だ。お前はもう上がりか?」
「うん!アタシも頑張るから、Pもがんばってくれ!」
「おう」
互いの拳を突き合わせ、光は事務所を飛び出していく。
「負けるなよ…光」
その光の後姿を見つめる彼女のプロデューサーの視線には、愛おしさと少しの哀しみが混ざっていることに気づいたものは、いない。
―――CGプロ事務所、出入口
「よぉっし!…って、おっと電話だ!」
勢いよく飛び出してきた光は、突然の着信にたたらを踏む。
電話の主は…晶葉だ。
「はい!こちら南条光!」
『おぉっと…なんだかいやに元気だな、受話音量を下げるか…』
光の勢いに驚いた晶葉が電話口でぶつくさ言うのが聞こえる。
「あれ?晶葉!どうした?もしもーし!!」
『ええい、声が大きすぎるぞ光!そんなに耳元で騒がれたらかなわんだろう!』
「おっとと、ごめんごめん」
晶葉の指摘にすこし恥ずかしくなる光。
『どうした、何かいいことでもあったか?』
「あぁ、ちょっとな!」
『ふむ、何だか知らんがここ数日のお前は確かに様子がおかしかった。悩みが解決したなら心配はなさそうだな』
「あれ!?晶葉もアタシが悩んでるのに気づいてたのか?」
『お前のようにわかりやすい奴、気づかない方がおかしいだろう…』
「え、えへへ…あ、晶葉!」
『なんだ?』
「改めて、ありがとうな!この身体をくれて!」
『きゅ、急になんだ!?まさかブラックシンデレラのやつらに…』
まったく脈絡のない会話についていけず、晶葉は慌てふためく。
「あはは、違うよ!気づいたんだ!アタシは、アタシにできることをやるだけだってね!」
『わけがわからんが…まぁいい、それよりも本題だ。またブラックシンデレラの下っ端どもが出たらしい、事務所の近くの空きビルだ』
「なんだって!」
『やはり奴らは何かを企んでるらしいな…今度こそなにか掴めればいいが』
「任せてくれ!アタシは…仮面ライダーは負けないからさ!」
『フ…そうか』
光の頼もしい発言に、晶葉も思わず笑みを漏らす。
『そういえば光、お前が名乗っているその仮面ライダーというやつだが、子供に大人気の特撮番組らしいな』
「あれ、晶葉知らなかったのか?」
『そういうのとは無縁な生活だったのでな』
「面白いのに…今度一緒に見ような!」
『どこまでもまっすぐで眩しい奴め…そんなお前にピッタリな名前を考えてやったぞ。いつまでもライダー呼ばわりも味気ないだろう、感謝しろ』
「名前…?」
『変身している間に光と呼ぶわけにもいかんしな…お前はこれからこう名乗れ』
固唾をのむ光に対し、晶葉はたっぷり溜めてから得意げに言い放った。
『ルクス…今日からお前は、仮面ライダールクスだ!』
「…」
『ん…?どうした光、き、気に食わなかったか?』
「か…」
『か?』
自分の予想通りのリアクションが来ず、外したかと焦る晶葉だったが、そんな心配の必要は皆無だった。
「かっこいい!!!!」
『うわっ!…だから耳元で大声を出すなと…!』
「ルクス…仮面ライダールクスかぁ…へへっ」
晶葉の小言など耳に入らぬ様子で悦に入る光。
仮面ライダールクス。
南条光のもう一つの名前。
『まったく…単純な奴だ。ルクスはラテン語で「光」という意味だ。蛍光灯の明るさとかでお前も聞いたことがあるかもしれないな。わかりやすくていい名前だろう』
「うん!ありがとう晶葉!」
『礼などいらん。それより奴らの方を頼んだ、地図は送る』
「了解!」
電話を切ると、晶葉から現場への地図が送られてきた。
光はそれを確認すると、すぐさま目的地へ駈け出す。
―――事務所近くの空きビル
「…ここだな。よぉしっ!」
現場にたどり着いた光は、勢いよくビルへと飛び込み、ポーズを決めて叫ぶ。
「変、身…ルゥゥゥクスッッッ!」
戦え、仮面ライダールクス!力の限り!
―――次回予告
ブラックシンデレラに使われていた少女、日野茜の記憶を探ることにより、奴らの狙いがダムの爆破であることに気づいた光と晶葉。
仕掛けられた爆弾を解除しようと奔走するライダールクスの前に、新たなる敵ドリルパンサーが立ちふさがる。
走れルクス!風のように!
次回「秘密兵器登場、『そよ風』を呼べ!」
ご期待ください。
※作者でございます。
第二話投稿いたしました。
やっぱり変身ヒーロー物には主題歌が必要かな、と思って冒頭に付けてみた次第でございます。
第三話もこの続きに投稿いたします。
また数日中にお会いしましょう。
ではでは。
南条光上位報酬記念投稿。
ついに来たね、光。
おめでとう!
ということでお祝いに第三話投稿します。
あ、一応軽く世界観の話をしますと、このお話しの中にはみなさんご存知の特撮番組が普通に放送されています。
ただし、名前とか設定とか微妙に違う感じになってますけどね。
今まで出てきた中で言うなら「カイム」とか「空牙」とかです。
それぞれ「鎧武」と「クウガ」ですな。
たしかクウガは漢字表記「空我」なんですよね。
まぁそんなとこです。
そこまで重要な設定ではないので頭の片隅にでも置いておいていただければ。
では、放送開始。
「仮面ライダー!ルゥゥゥクスッ!!」
赤いスカーフたなびかせ
今日もアイツがやってくる
白い仮面の小さな英雄
僕らのルクスライダーだ
みんなの輝く笑顔の為に
砕くぞブラックシンデレラ
戦え正義の為に
叫べその名は
仮面ライダールクス
「仮面ライダールクス、南条光は改造人間である。謎の秘密組織「ブラックシンデレラ」よって重傷を負わされたが、天才科学者池袋晶葉の手によって改造手術を受け、仮面ライダールクスとして蘇った!」
仮面ライダー光第三話
「秘密兵器登場!『そよ風』を呼べ!」
―――晶葉の研究室
「…ふぅ、こんなものか。すまないな、光、茜、手伝ってもらって」
「気にするなって!」
「肉体労働なら任せてください!!」
ここは、女子寮の近くのとある貸部屋。
いつまでも事務所で危ない話はできないと判断した晶葉は、ここに部屋を借り研究室として使うことに決めた。
いわゆる秘密基地だ。
光と茜は家財道具の運び込みを手伝っていた。
残念ながら引っ越し日和とはいかず、ここ数日は大雨に見舞われている。
研究室ならば機械の方はというと…。
「ウサロボ!」
―――ウサッ!
晶葉の作ったウサちゃんロボが運び込み、くみ上げ、設定をしていく。
彼女の天才ぶりがよくわかる発明だ。
「さて、後は機械の設定だけだからお前たちの出番は終わりだ。ありがとう、助かったぞ」
「働いた後は気持ちがいいです!!」
「茜はこれから、仕事が終わったらここに寄るようにしてくれ。洗脳されていた間のお前の記憶を取り戻せないか、いろいろ試してみたいからな」
「お願いします!」
「じゃあ、今日の所はこれで帰ろうか!」
光は、一足先に晶葉の研究室を出ることにした。
―――晶葉の研究室前
「あーら、最近様子がおかしいと思ったら、レッスンサボってこんなところで何してるワケ?光!」
「あ!麗奈!」
光が晶葉の研究室を出ると、そこには同じ事務所に所属するアイドル候補生、小関麗奈がいた。
ニヤリと意地悪気な笑みを浮かべ、腕を組んで仁王立ちしている。
小関麗奈。CGプロパッション部署所属のアイドル候補生の13歳。
ヒーローに憧れる光をライバル視しており、自身は「悪の帝王レイナサマ」を名乗り日々イタズラに精を出している。
実はランクは光よりも上で、正式なデビューはお互いまだであるものの、仕事量も麗奈の方が多い。
「晶葉の手伝いに来てただけだ!大体、アタシはレッスンをさぼったりなんかしていないぞ!」
「フン、このレイナサマよりランクが低いくせによくもまぁそんな悠長なこと言ってられるわね!アタシに勝ちたければ、アンタは今の100倍努力したって足りないのよ!」
「別に勝つとか負けるとかそういうことの為にアイドルを目指してるわけじゃ…」
「あー!もう!!ホントにアンタは甘いわね!」
「あ、麗奈ちゃん!!お疲れ様です!!」
「あ、お疲れ…ってそうじゃなくて!」
光の後から晶葉の研究室を出た茜が、麗奈に気づき元気よく挨拶をかます。
その勢いに思わず素であいさつを返してしまった麗奈は若干顔を赤らめながら自分にツッコミを入れつつ話を戻す。
「なーんか最近アンタの様子がおかしいと思ったら、案の定このレイナサマに隠れてコソコソなんかやってたわけね」
「べ、別にやましいことしてるわけじゃないぞ!」
「つべこべ言ってないで何をやってたのか白状しなさいよ。ホラ、ホラホラ」
「え、えーと…その…」
「これは…何と言いますか!」
光と茜はそろいもそろってごまかすのは得意ではない。
あたふたする二人に助け船を出したのは当然。
「往来で何を騒いでいるのかと思えば…何をやっているんだお前たちは」
「あ、晶葉!」
うるさくてかなわない、という表情を浮かべた池袋晶葉その人だ。
光と茜の「助けてくれ!」という声には出さないのにうるさすぎる視線の訴えを軽く流し、晶葉は麗奈に話しかける。
「あー、こうやって話すのは初めてだったな、最近CGプロに厄介になることになった池袋晶葉だ。君が光のライバルだという小関麗奈だな?」
「フン、こんな甘ちゃん、まだまだアタシのライバルと呼べるレベルに達してないわ!」
「ふむ、パッション部署らしいじゃないか。それで、こんなところで何をしているんだ?」
「決まってんでしょ、最近ソイツの様子がおかしいから何を企んでいるのか突き止めに来てやったってわけよ!」
「なるほど…つまり、光のことが心配で心配で仕方がなかったということだな?」
「は、ハァッ!?何をどう聞いたらそういうことになんのよ!?」
晶葉の思いもよらぬツッコミで、麗奈の顔に動揺が走る。
「どうもこうもそうとしか聞こえないが。この大雨にわざわざご苦労なことだ」
「そうなのか?麗奈」
「違うにきまってんでしょッ!!」
形勢逆転、今度は麗奈が慌てふためきだす番だ。
加えて、素直な光は晶葉の言葉を真に受けていることも麗奈の焦りに拍車をかける。
「誰がこんなヤツのことなんか…!」
「ほー、では、ヒーローの秘密特訓を暴きに来た悪の手先といったところか?」
「そ、そうよ!コイツが卑怯なことを企んでないか…」
「そうかそうか、では、悪の帝王レイナサマは光がどんな特訓をしているのかわからないと負けるのが怖くて夜も眠れない、と。そういうことだな?」
「だ・か・ら!どう聞いたらそういう解釈になんのよッ!!」
「だから、どうもこうもそうとしか聞こえんと」
「そうなのか?麗奈」
「だぁぁぁぁぁ!!違うにきまってんでしょッ!!」
もともと麗奈も、光ほどではないが直情傾向にある。
自分よりいくつも年上の大人と渡り合ってきた晶葉と麗奈では、そもそもこういう会話でのスキルに雲泥の差がある。
「くっそぉぉぉ!レイナサマ舐めんじゃないわよ!!アンタらがどんだけすっごい特訓してようが、そんなの関係なしにギッタンギッタンにしてやるんだから!!覚えてなさいよ!!」
「…やれやれ」
うまいことやり込められた麗奈は捨て台詞を残して走り去る。勢い余って傘が裏返りそうになっている。
その背中を見送って晶葉は軽くため息を吐いた。
「す、すごいな晶葉!アタシは麗奈に口げんかで勝ったことなんて一度もないのに!」
「麗奈ちゃん一言も言い返せずに帰っちゃいましたよ!」
「お前たちがまっすぐすぎるだけだ、まったく」
仕方ないな、と苦笑する晶葉。
しかし、本当に光を心配していたのかもしれないと思うと、若干悪いことをしたかも、と思わないこともなかった。
―――数日後、晶葉の研究室
「おはよう晶葉!茜さん!」
「おはようございます!!」
「おはよう、相変わらず元気だな」
晶葉が研究室を構え、茜の洗脳期記憶を探り出してから数日後、情報を掴んだとの連絡で光は呼び出された。
数日降り続いていた雨も止み、今日はなかなかの快晴だ。
「おっとっと、ウサロボもおはよう!」
―――ウサッ!
光のあいさつに、ウサちゃんロボも片手をあげて答える。
「それで、何がわかったんだ?」
「うむ、スクリーンに出そう。二人とも、ブラインドを下ろしてくれるか」
「了解です!」
光と茜はブラインドを下ろし、晶葉は天井からスクリーンを引き出す。
「ではウサロボ、頼む」
―――ウサァー
晶葉の合図でウサロボの顔が光を放ち、スクリーンに投影が開始された。
ぼんやりとした影が映り、音声が流れだす。
「これは?」
「茜の記憶から引き出すことができた音声を復元したものと、それに該当すると思しき映像をつなぎ合わせたものだ」
―――ザザッ…邪魔な人間の数を減らす…ザザッ…
―――爆破…ザッ…水に沈め…
―――○○県を囲む…三か所…ザザザッ…
―――行け…ドリルパンサー…ザザザザザザザ…
「意味を見いだせそうな記憶はここまでだ。おそらく、話していたのはブラックシンデレラの首領と、最後に名前の出てきた怪人、ドリルパンサーだろう」
「爆破とか…すごく物騒な言葉が聞こえましたけど!」
「イノシシボマーだったお前が言うのはなんだか妙な感じがするが…まぁそうだな」
「ブラックシンデレラは、どこかを爆破しようとしてるのか!?」
「会話の内容から察するにそういうことだろうな」
「いったいどこを…」
「それに関しては検討をつけてある。ウサロボ、次だ」
―――ウサァ
晶葉の合図で映像が切り替わる。
首都圏の地図だ。
「あの会話の中には、○○県という地名が出てきた」
晶葉の言葉にあわせて地図がズームアップされる。
「それだけではこの県のどこを爆破するのかわからんが、ほかのワードから類推することは可能だ」
「他のって言うと…『三か所』?」
「『水に沈める』もだ。奴らは何かを爆破することによって水害を引き起こそうとしているに違いない。そして、それが可能な建造物は…ダムだ」
映し出された地図の、○○県とその周囲にあるダムが赤丸で印をつけられる。
「この県は周りを山に囲まれていて、全国でも珍しいほどにダムが多い。だが、ダム一個爆破しただけでそれほど大きな被害を見込めるとも限らん。となると、三か所というのはそれによって引き起こされる水害が一所に集中しやすい場所を狙うと考えられる…そのすべての条件を満たすのは…」
晶葉の推理が指し示す場所が、さらにズームアップされた。
「ここ?」
「恐らくな。しかし、こんなところにダムを集中させるとは何を考えているんだ国は。何かあった日にはとんでもないことになるのは目に見えているだろう」
「とにかくすぐにここへ行こう!もう爆弾が仕掛けられているかもしれない!」
「そうだな…ん?そういえば…」
晶葉は何かに思い至りパソコンで何やら調べ出した。
「どうしたんだ?」
「マズイな…光、すぐさま出るぞ!私としたことが、この数日の大雨のことを失念していた」
「どういうことだ?」
「雨が降ればダムの貯水量も増える、川の水も増水する、つまり、地域内の水量が増すんだ!この状態でダムが決壊すれば、被害はさらに大きくなる!」
「なんだって!」
「数日前からやつらの動きがおとなしいとは思ったが…これを狙っていたのか」
「急がないと!」
「待て光。何で行くつもりだ」
「何ってそりゃ電車とか…」
「そんなもので間に合うわけがなかろう。来い、本当はもう少しテストを重ねてからにしたかったが止むを得ん、新兵器を出すぞ」
焦る光を押しとどめ、晶葉は引き出しから鍵を取り出すと二人を伴って研究室を出た。
―――研究室近くのガレージ
「晶葉!いったい何をするんだ?」
「公共交通機関を使うのは時間の無駄、かといって誰かに車で送ってもらうのも無理。そうなったから現場に間に合わないなどというのはお前もいやだろう?だから少し前から用意していたんだ。茜、手伝ってくれ」
「わかりました!!」
光を待たせ、晶葉と茜はガレージの奥から何かを引っ張り出してきた。
「これは…自転車?」
光の目の前に現れたのは、紛うことなき自転車だった。
「もちろんただの自転車ではない。これは、お前の変身に連動して変形するようになっているお前専用の自転車、その名も“ブリーズ”だ」
「ブリーズ…」
「英語で『そよ風』という意味だな。ライダーを名乗るからには何か乗り物があった方がいいだろう」
「これがアタシの…バイク…」
「道路交通法的に言えば、お前の年齢ではバイクにも原動機付き自転車にも乗れん。だから自転車だ。もっとも、変形後のこいつは思いっきりバイクのスペックを超えてしまうから、結局は同じことかもしれんが」
「今の見た目は普通の自転車ですけど、変形するとかっこいいんですよ!!」
「茜にも組み立てを手伝ってもらってな。正式な稼働テストはまだ済んでいないが、理論上は完璧なはずだ。フルパワーで時速300㎞出る。こいつならどんな場所にでもあっという間に行けるはずだ」
「…」
「…どうした光、やっぱり、自転車ではかっこ悪かったか?」
さっきから黙りこくる光に、晶葉が心配そうに尋ねる。
しかし、元来こういう心配は杞憂に終わるもので。
「…す」
「す?」
「すっごぉぉぉい!!」
光は目を輝かせて叫んだ。
どうにも光は、あんまりうれしいと表現するのに少し時間がかかるらしい。
「そ、そうか…まぁなんとなく予想通りではあったが」
「これさえあれば大丈夫!早速向かおう!」
「うむ。三か所爆破とは言っているが、おそらく敵怪人は一番重要な場所に現れるだろう。私がナビゲートするから、そこに向かってくれ」
「了解!」
晶葉にうなずき、光は変身の為に構える。
「…変、身」
両手を水平に右側へ伸ばし、頭上へ回しながら左上へ。
一旦左手を引き、勢いよく突き出しながら右手を腰まで引いて、叫ぶ。
「ルゥゥゥクスッッッ!!」
いつの間にか現れた腰のベルトのタイフーンが回転し、激しい風と光が巻き起こる。
それが治まると、そこには変身完了した光こと仮面ライダールクスが立っていた。
「ブリーズ!!」
光の変身に呼応するように、先ほどまではただの自転車だったブリーズは風防とブースター、ガードを纏った姿へと変わっている。
「ブースターを使えば長距離のジャンプも可能だ!状況に応じて使い分けろ!」
「わかった!行くぞ!…うわっ!」
すさまじい勢いで光をのせたブリーズは発進する。
目指すは…今まさに爆破されんとする巨大ダムの一つだ。
―――現場急行中
『ルクス、聞こえるか!』
「あぁ、感度良好だ!」
『ブリーズはどうだ』
「最高だよ!流石天才博士だな!」
仮面ライダールクスに変身中の光は、額の触覚をアンテナにして晶葉と交信することができるのだ!
『そいつはすごいスピードが出る、くれぐれも事故に注意してくれよ。お前はちょっとやそっとでは傷つかないだろうが、ぶつかられた方はたまったものじゃないからな』
「うん、そうだな、気を付ける」
新兵器に少し浮かれていた光は気を引き締めなおす。
『うむ。ではそのまま聞いてくれ。おそらく今回の作戦を担当しているであろうドリルパンサーは、爆破予定の三つのダムの中でも、一番大きいものの所に現れるはずだ』
「そうなのか?」
『分身でもできれば話は別だが、普通作戦の要所にはそれなりに力のあるやつが出向くものだ。ほかの場所には下っ端が向かっているだろう。お前の役目はドリルパンサーたちの仕掛けた爆弾を解除する事。もちろん戦って倒すのも大事だが、最優先は爆弾処理であることを忘れるな』
「わかった!」
『ブリーズに、簡易的ではあるが爆弾を解体できるツールを積んでおいた。本格的な解体は私がやるが、とりあえずそれで爆弾を無力化してくれるとありがたい』
「赤と青のコードのどちらかを切ればいいんだろ?」
『…映画の見すぎだ。とにかく、ツールに従えば起爆装置の無効化くらいはできるはずだ。後は奴らの仕掛ける爆弾があまり複雑でないことを祈るか』
「よくわからないけど、やってみるよ!」
『一応警察にも連絡はしておくが、怪人相手にどれだけ役に立つかわからんし、そもそもいたずらで済まされる可能性も高い。お前が頼りだ。頼んだぞ、ルクス』
「了解!」
ルクスの気合に応えるように、ブリーズのブースターはさらなる唸りをあげるのであった。
―――○○県、大木南山、第一ダム
「ここが晶葉の言ってたダムだな…爆弾が仕掛けられていないか調べないと!」
ルクスは腕輪に内蔵された探知機を作動させた。
これは、自身の近くに爆発物や銃器などの危険物、または生体反応があるとそれを知らせてくれるという便利アイテムだ。
「これだと近づかなきゃわからないし、とにかく入ってみるか」
ルクスは周囲を警戒しながらダム施設へと入っていった。
―――第一ダム内部
「すんなり入れちゃったけど…普通は職員さんとかいるはずだよな…」
異様に静かなダムの内部に、ルクスは違和感を覚えていた。
細長い通路、上下に入り組んだ階段。
見逃しがないように丁寧に、かつ素早く駆け抜けるルクス。
どこまで行っても静かだ。
本当にここにブラックシンデレラの怪人がいるのか?そう思ったその時である。
チカチカッ
ルクスの腕輪が反応した。
しかしこれは爆発物の反応ではない。
これは…。
「キィー!」
「おっと!」
背後から振り下ろされた鉄棒を間一髪で避けたルクス。
彼女を仕留め損ねたのはブラックシンデレラの戦闘員。
見通しの悪いこの狭い施設を、距離を取りながら尾行していたのだろう。
「出たなブラックシンデレラの悪党ども!ほかにもいるのはわかってるぞ!出てこい!」
「キィ!」
「キキィ!!」
ルクスの叫び声に、隠れるのをやめた戦闘員たちが姿を現す。
なかなかの大人数だ。
「お前たちだけか?ドリルパンサーとかいうお前たちのリーダーはどこだ!」
「キキィー!」
「答える気はない、か…じゃあ爆弾の場所だけでも喋ってもらうぞ!」
「キィー!」
ルクスが構えると同時に戦闘員たちが襲いかかる。
「ハッ!ヤァッ!」
鉄棒を振り上げる戦闘員の顔に拳を叩きこみ、背後に迫る奴には後ろ蹴りをかます。
「トォー!」
突っこんできたヤツに前蹴りをお見舞いし、吹き飛ばすが多勢に無勢。
何人相手でも負けるつもりはないが、このまま戦っていたのではいたずらに時間を消耗するだけだ。
「くっ…探しながら戦うしかない!てーいっ!」
通路をふさぐ戦闘員をなぎ倒しながら、ルクスは走り出した。
―――第一ダム内部、上へ延びる階段
「どっせぇぇい!」
下から迫る戦闘員に蹴りをかまし、上からくる戦闘員を下へ投げ落とす。
「はぁ…はぁ…こっちか!?」
ルクスとてただ闇雲に走っている走っているわけではない。
彼女はなるべく戦闘員が多い方向へ進んでいる。
論理的思考が働いてのことではないが、彼女の勘がそうささやいているのだ。
―――第一ダム外壁、連絡橋
「どけぇぇえ!」
「ギィッ!」
ルクスはひたすらに走る。
彼女自身はまだ気づいていないが、確実に爆弾へと近づいていた。
―――第一ダム内部、中心
チカッチカッ
「この反応!ここか!」
腕輪の反応に、ルクスは爆弾の存在を確信する。
しかし。
チカチカッ
「くっ…!」
「ちょりーっす☆」
ズガァァァン!
ルクスがなんとか身をかわしたその瞬間、今まで立っていたところに風穴があいた。
『どうしたルクス!』
茜と共に現場に向かっていた晶葉から通信が入る。
「ドリルパンサーだ!」
「あたりぽよ☆」
現れたのは、右腕が巨大なドリルになっている豹の怪人。
ドリルパンサーだ。
ルクスは怪人の空けた穴を見て戦慄する。
「すごいパワーだ…」
「なんでもえぐっちゃうしっ!」
喋りながらドリルパンサーはドリルを一閃する。
「くっ…」
パワーは強いがスピードはそれほどでもない。
なんとか躱せはするが、どうにも踏み込むタイミングがつかめない。
「ちょっとー、逃げるとかマジありえなくナイ?」
「そんなの喰らってたまるか!」
「でも~、それは~、ムリ☆」
ドリルパンサーはその巨大なドリルを振り回すと、重さと遠心力を利用して身体ごとつっこんできた。
速い!
「ぐっ…」
「そんでー、こういう感じぽよ☆」
正面からタックルでぶち当たり、体勢を崩したルクスにドリルを振り下ろすドリルパンサー。
「うぉぉぉ!」
なんとか相手のひじ関節の部分を掴み、間一髪受け止めたルクスだが、このままこうしていてもいずれ押し負けてしまうだけだ。
『ルクス!おいルクス!』
「ごめん晶葉!後で!」
「あ、あの裏切り者と通信してるカンジ?そーゆーのなしっしょー。マジさげぽよー」
「もう!さっきからなんなんだよそのぽよって!」
ツッコんだ勢いで攻撃の軸をずらし、なんとか抜け出すルクス。
「お前たち!なんでダムを爆破したりするんだ!そんなことをしたら、大勢の人が困るだろ!」
「はー?困らせるためにやってんジャン。んなこともわかんないカンジ?」
「わからないよ!人を困らせて何になるっていうんだ!」
「しゅりょーがさ、せかいせーふくしたいんだってー。だったら下っ端のアタシは従うだけじゃん?深い理由とかないぽよ」
「…そうか、あなたも無理やり協力させられてる人かもしれないのか」
「は?無理やりとか意味わからんてぃー☆」
「わからなくていいよ…アタシが、目を覚まさせてやる!」
ルクスはしっかりと構える。
攻撃力も高い、本気を出せば速い、だけど、一発一発は大振りだ。
躱せば勝機は、ある。
「目を覚まさせるとかアタシ寝てないし!むしろ、寝るのはお前っしょ☆」
先ほどと同じく、ドリルをおもりにした遠心力で突っ込んでくるドリルパンサー。
「そう何度も同じ手を喰らうもんか!ブーストジャンプ!」
足のブースターを発動させ、素早く敵の後ろに回り込むルクス。
「およ?」
「トォー!」
狙いを外した敵のドリルを思いっきり蹴りつけ、壁に叩きつける。
「いったぁー…って!壁に刺さっちゃって抜けないし!マジありえないっしょ!」
その破壊力が災いしたか、ドリルは綺麗に壁にめり込み、ちょっとやそっとでは抜けなくなっている。
「今だ!トォー!」
その隙を逃さず、ルクスは飛び上がった。
ジャンプの頂点で一回転し、ブースターを作動させる。
「ルクス!ブーストキィィィィック!!!」
ブースターの噴射によりさらなる加速を得たルクスのキックが、ドリルパンサーに直撃する。
「うぎゃああああ!!」
まともに喰らい、吹っ飛ばされたドリルパンサー。
「う…あううううう…うああああ…さげぽよー!!!!」
派手な爆発と共に、ドリルパンサーは倒れた。
後にはイノシシボマーの時と同じように少女が倒れている。
「ふぅ…勝った…」
『ルクス!おいルクス!』
「あ、晶葉…へへっ、やったよ!」
『バカモノ!!お前、そこに爆弾があるのを忘れたか!そんなところで怪人を爆発させおって!!』
「あぁっ!」
『やっぱり忘れていたな?ヒヤヒヤさせるな!』
「ご、ごめん」
『まぁ無事ならいい。とりあえずすぐにそこの爆弾の起爆装置を無効化するんだ。まだほかに二か所残っているんだからな』
「わかった!」
ルクスはブリーズから持ってきた爆弾解除ツールを用い、このダムに仕掛けられた爆弾を解除していく。
「多分これで大丈夫だと思うけど…」
『起爆装置を無効化すれば、簡単に爆発するようなことはない。とはいえ爆発物は爆発物、丁寧に扱えよ』
「了解。この人連れて、とりあえずここから出るよ」
ルクスは爆発物を慎重に取り上げると、倒れている少女を抱え上げ、ダムの外を目指した。
―――第一ダム
「ルクス!」
「晶葉!この人を頼む!」
「わかってる!それよりまずいぞ、さっきそこに転がってた戦闘員を締め上げたんだが、残りの爆弾の起爆まで残り一時間を切っているらしい」
「なんだって!?」
「近場とはいえのんびりしている時間はない。この短時間で残り二か所を回るのはお前のブリーズ以外では不可能だ。頼めるな」
「言われなくても!」
「私たちも何とかできないか頑張ってみます!!一緒にがんばりましょう!!」
「頼りにしてるよ茜さん!」
ルクスは言うが早いかブリーズに跨り、全速力で発進させた。
―――現場急行中
全力でブリーズを駆るルクスに、晶葉から通信が入る。
『ルクス、聞こえるか』
「はい、こちらルクス!」
『お前が戦った怪人に化けていた女だが、体はなんともない。おそらく茜の時と同じだろう』
「そっか…良かった」
『お前も大概人が良いな…残りの二か所の爆弾、最初の目的地はお前が今進んでいる道をまっすぐだ。頼むぞ』
「了解!!」
―――15分後、中穂土山、第二ダム、爆発まであと40分
「着いた!」
『爆弾の正確な位置はわからんが、おそらく効率的に破壊することを考えた場合、さっき爆弾が仕掛けられた場所と大体同じ位置にあるだろう。急いでくれ!』
「あぁ!」
「キキィッ!」
急ぐルクスの邪魔をするように現れるブラックシンデレラ戦闘員。
「邪魔をするなぁぁぁ!!」
手足のブースターをフル稼働させ、殆ど体当たりで敵を蹴散らし進むルクス。
急げルクス!時間がないぞ!
―――さらに10分後、第二ダム内部、中心、爆発まで残り30分
チカッチカッ
「反応!やっぱりここだ!」
晶葉の読み通り、爆弾は先ほどのダムと同じような場所にあった。
「とにかく解除だ!」
爆弾解体ツールに従い、起爆装置の無効化を行うルクス。
焦って滑りそうになる手元を必死で抑え、作業に没頭する。
「急げ…急げ…くそっ!」
『落ち着けルクス。頼れるのはお前だけなんだ、こんなところで焦ってミスしては元の木阿弥だぞ!』
「わかってる!」
深呼吸をしながら懸命に自分を抑える。
「…解除完了!」
『次だ!』
無効化した爆弾を抱え、ルクスは走り出す。
残る爆弾はあと一つ。
―――さらに10分後、現場急行中、爆発まであと20分
『さすがに厳しいか…っ?』
通信機の向こうから、晶葉の焦る声が聞こえてくる。
「諦めるな!必ずアタシが何とかする!だから晶葉も信じてくれ!!」
通信機の向こうの晶葉を励ます為というより、自分自身を鼓舞するためにルクスは叫ぶ。
『…っそうだな、すまない』
「あんな奴らに…好きにさせてたまるもんか!」
ルクスはブリーズのペダルを目いっぱい踏み込む。
しかし、時は無情にも進んでいく。
爆発までに残された時間は、少ない。
―――さらに15分後、小紗南山、第三ダム、爆発まで残り5分
「着いた!」
『まずいぞルクス、もう時間が…』
「間に合わせる!」
『バカを言うな!道中に戦闘員が残っているかもしれん、それでなくともダムの内部は複雑で、とても5分ではたどり着いて解除なんて…』
「だからって諦められるもんか!ここでアタシが諦めたら大勢の人がつらい目に合うんだ!そんなの絶対に嫌だ!」
『だが、お前が死んでしまってはどうしよもないだろう!お前は良くやった、爆発も一つだけなら被害は少なくなるだろう。徒に命を捨てるようなまねはよせ!』
「アタシがここで命を懸けられなかったら、それこそ徒に命を失う人が出るかもしれない…先のことなんてわかんないけど、今ここでできることからアタシは逃げたくない!!」
ルクスは駆け出す。
全身全霊を懸けて。
『…バカモノ…っ』
晶葉の絞り出すようなつぶやきが、通信機から聞こえた。
―――第三ダム内部、中心、爆発まであと1分
「はぁっ…はぁっ…」
チカッチカッ
「ここだ!」
流石に戦闘員も避難したらしく、道中に邪魔は入らなかった。
前二回でダムの中を走り回った経験を無駄にせず、最速で目的地にたどり着いたルクスは、爆弾を発見した。
『なんて奴だ…残り1分…急げ!間に合うぞ!』
「うん!…え?」
『どうした!?』
ルクスのただならぬ雰囲気に晶葉が尋ね返す。
「今までのと全然タイプが違う…ツールが反応してくれないよ!!」
―――残り40秒
『バカな…』
「どうしよう晶葉!」
『だめだもう時間がない、そこから脱出しろ!』
「けど!…そうだ!」
ルクスは爆弾を抱えて走り出した。
―――残り30秒
『ルクス?何をしているんだ』
「ここで爆発するからまずいんだ。アタシが何とか外へ持っていく!」
―――残り20秒
『バカ!やめろ!最速でそこまで何分かかったのか忘れたのか!?死ぬぞ!』
「アタシは…仮面ライダーは…最後まであきらめない…!」
―――残り10秒
『それは物語の中の話だろ!これは現実だ!やめろ!光ぅぅぅぅ!!』
「くっそぉぉぉぉ!!」
―――…0
「……………あれ?」
『…爆発していない…?どういうことだルクス』
「アタシにも何が何やら…」
『…確かめる必要があるな。ルクス、視界を借りるぞ』
ルクスの特殊能力の一つ、カメラアイによって、ルクスは離れたところにいる仲間と視界を共有できるのだ!
『ふむ…信管が抜けているな…これではどんな爆弾でも爆発はせん』
「えっと…どういうことだ?」
『信管とは起爆に必要なスイッチのようなものだ。どこの間抜けがこの爆弾をセットしたのか知らんが、肝心な信管をセットし忘れるとは…笑い話にもならんな』
「はぁ…」
『何を気の抜けた声を出しているんだ?お前もお前だぞルクス!散々人を心配させおって』
「で、でもあの状況じゃ…」
『黙れ!帰ったら説教してやるからな!さっさと戻ってこい!』
「は、はーい!」
通信機の向こうで怒る晶葉に首をすくめ、急いでダムの外へ向かうルクス。
どうにもすっきりしない間抜けなオチだが、無事に平和を守れて、ひとまずほっとした、というところか。
―――大木奈山、木の影
第三ダムの入り口付近、変身を解除し戻ってきた光が、晶葉と茜に手荒く迎えられているのが見える。
三人の顔には、達成感が伺える。
そして、そんな彼女たちを見つめる影が一つ。
「………まだまだ未熟だな」
その影が握っているのは、爆弾の信管。
謎の影はその信管をポケットにしまうと、青いマシンに跨り、白いマフラーをなびかせながらいずこかへと消えていった。
―――次回予告
ブラックシンデレラによってドリルパンサーへと姿を変えられていた少女の名は藤本里奈。
彼女の記憶を探る内に見えてくる、次なる悪の魔の手とは。
時を同じくして発生する相次ぐ不審火との関係やいかに。
次回、仮面ライダー光「唸れ!ルクスタイフーン!」
ご期待ください。
※作者でございます。
第三話はこれにて終了、第四話はまたこの続きに投稿しますかね。
ふじりな喋らすの難しい!
ではまた数日中に。
昨夜規制がひどかったのでてすと
こんばんは。
なんか眠れないので投下。
また長いシリーズになりそうです。
では、第四話です、どうぞ。
「仮面ライダー!ルゥゥゥクスッッッ!!」
ジャカジャカジャン!ジャーラッチャー
ジャカジャカジャン!ジャーラッチャー
チャララッチャーチャララッチャー
ラッチャーチャラララ
赤いスカーフたなびかせ
今日もアイツがやってくる
白い仮面の小さな英雄
僕らのルクスライダーだ
みんなの輝く笑顔の為に
砕くぞブラックシンデレラ
戦え正義の為に
叫べその名は
仮面ライダー(ジャカジャカジャン)
ルークスー
「仮面ライダールクス、南条光は改造人間である。謎の秘密組織「ブラックシンデレラ」よって重傷を負わされたが、天才科学者池袋晶葉の手によって改造手術を受け、仮面ライダールクスとして蘇った!」
仮面ライダー光 第四話
「唸れ!ルクスタイフーン!」
―――???
「ドリルパンサーがやられたようね…」
ここは、都内のどこかにあるブラックシンデレラの基地の司令室だ。
一人の女が低い声でつぶやく。
「まったく使えない豚ね…いえ、あれは豹だったかしら。どっちでもいいわ、イノシシボマーと同じく、負けたやつにかける慈悲などない。それよりも…」
女は司令室のモニターに映し出された仮面の戦士の姿を憎々しげに見つめる。
「仮面ライダールクス…池袋博士もろくでもない物を生み出してくれたものだわ」
ピシィッ!
女はいら立ちを隠しきれずにその手の鞭を鳴らす。
「忌々しい…これでは首領にお見せする顔がないじゃない…来なさい!」
ピシッ!
女が再び、今度は合図を出すように、鞭を鳴らすと、その背後の影からキツネの姿を模した怪人が現れた。
「お呼びですかー?」
「相変わらず腑抜けたツラを晒してくれるわね…まぁいいわ」
そちらを一瞥した女は、それ以上振り返ることもせずに高圧的な声音で言った。
「行きなさい、キツネフレイム…東京を火の海にしてやるのよ」
「こーん♪」
―――ダム爆破阻止から数日後、晶葉の研究室
「つまり、ダムの修繕工事に来たところを奴らに捕まったということだな?」
「そゆことー」
晶葉の質問にケロッとした顔で答えるこの少女は藤本里奈。
彼女もまた、ブラックシンデレラの恐るべき実験により怪人へと変身させられていた一人だ。
「土方か…それでドリル。なるほどわかりやすい」
「もしかしなくても~、アタシ結構ヤバかった系?」
「まぁな、悪事に加担させられそうになっていたわけだし、なによりあのまま怪人体でいることが人体にどのような影響を与えるか分かったものではない」
「なんかよくわかんないけど、アタシ光っちに助けられちゃったカンジでいいカンジだよね?光っちありちょー!」
「おう!」
言葉遣いはそれとしても、里奈は純粋に感謝しているようだ。
「ケド、実際悪のそしきとかないっしょー、ふつーに考えてありえなくナイ?」
「そのバカげたことをしている奴がいるから私たちが苦労することになるのだ」
里奈のまともなツッコミに、晶葉が大きくため息を吐く。
茜と同じく、彼女にも洗脳時の記憶はない。
こうして話を聞いてみても、これ以上有益な情報は得られそうになかった。
「茜の時と同じく、お前にもこれからしばらくはここへ通ってもらう。記憶から何か探り出せないかやってみよう」
「シクヨロでーす☆」
「うむ、では今日はここまで。解散!」
晶葉の号令で今日の会合は終わり。
さて、里奈の帰る場所はというと…。
「てかさ、怪人になっちゃってたのは困るけど、けっきょく住む場所と仕事まで貰えちゃったって考えるとアタシなにげに運よくない?」
茜と同じく行く当てのない里奈もまた、CGプロの女子寮で引き取られることとなった。
自分の力ではどうしようもないから、と自身のプロデューサーに相談しようとしたところを、キュート部署のプロデューサーが熱烈スカウト。
彼女もまた、アイドル候補生としてCGプロに所属する運びとなったのだった。
光のプロデューサーは苦笑しているらしい。
しかし、この先もこうやって助けた人をアイドル候補生にしていくなんてことになるとそれはそれで大丈夫なのかな、と心配になる光であった。
「そうだ光、お前がこのあいだ撤去した爆弾なんだがな」
「どうかしたのか?」
「ふむ…お前、本当にあの爆弾にはなにもしていないんだよな?」
「うん…ていうか、そんな暇なかったのは晶葉もよく知ってるじゃないか」
「そうだよな…ふむ」
「な、なんだよ晶葉ぁ」
晶葉がなにやら言いかけて物思いにふけってしまったのがなんとも気持ち悪く、光は晶葉をゆする。
「いや、てっきり信管をセットし忘れたバカのおかげで助かったと思っていたのだが、どうにも調べてみると、セットしてあった信管を引き抜いたようにしか思えなくてな」
「どういうことだ?」
「わからん。ただ、そういう痕跡があるということだ。単に最後の調整で信管を抜いて戻し忘れただけかもしれんし、考えても仕方ない、か」
そこまで言うと晶葉は伸びをして話題を変えた。
「そういえば光、お前近々仕事があるんじゃなかったか?」
「そう!そうなんだよ晶葉!アタシ、今度丸狭デパートの屋上で、ヒーローショーの司会をやるんだ!」
晶葉の言葉で思い出した光は、うれしそうに大きな声を出す。
「ヒーローショーの司会って『みんなー!なんとかマンを呼んでー!せーの!』とかってアレ?」
「そうだよ!いやー、楽しみだなー!」
光の夢は特撮番組の主役をやること。
ヒーローになること。
ヒーローショーの仕事は、その夢に一歩近づいたようでとてもうれしいのだ。
「へー!おもしろそージャン!がんばっち☆」
「ありがとう、里奈さん!」
「お前にはお前の夢がある。ブラックシンデレラの件を放っておくわけにはいかないが、そっちも同じくらい大切だ。頑張れよ」
「うん!」
「会場はデパートか…最近大きい建物での不審火が相次いでいるという話もある。気を付けるんだぞ」
晶葉の注意もなんのその。
もう光の心は、数日後のお仕事へと旅立っているのであった。
―――都内某所、とあるビルの屋上
「あれー?また広がらなかったよ」
色の白い少女が首をかしげている。
「火種はばっちり仕込んだし、タイミングも気象条件もばっちりだと思ったのにさ…ん?」
少女は、自身が火を放とうとしたビルから素早く飛び出し、バイクで走り去る影を目撃した。
「もしかして…あれがイノシシボマーとかドリルパンサーを倒した仮面ライダーってやつ?余計なことしないでほしいんだけどなー」
やれやれとため息を吐く少女。
「仕方ないなぁ…次の作戦予定地へ行きますか」
そうつぶやいた少女は何処かへと消えていった。
―――さらに数日後、丸狭デパート屋上
「んっふっふ~、さぁ、会場案内の兄ちゃんは簀巻きにして放り出してやったし、次はどいつをひどい目に遭わせてやろうかなー?」
「ねぇねぇアミゴン、あの真ん中の列に座ってるキャッツの帽子かぶった男の子なんていいんじゃないかなー?」
「みんな大変だ!このままだと、この会場がイタズラツインズに乗っ取られてしまう!あのヒーローを呼んでくれ!」
屋上の催事場に設置された特設ステージの横で、光は精いっぱいに声を張り上げ観衆に訴えかける。ヒーローショーでありながら、子連れではない大人の姿もかなりの数見受けられる。
ニコニコと楽しそうな子、不安げな表情の子、そわそわと落ち着かない子、そして大人、様々な人たちの声が、光の合図でひとつに合わさる。
「みんな行くぞー!せーのっ」
『ナンクルナイザー!!!!』
「はいさーい!ちゅらうみから来たてぃーだの申し子!太陽戦士ナンクルナイザー、見参!」
みんなの呼び声に応えて現れたのは、浅葱色のコスチュームにバイザーをつけた正義の戦士。
現在ニチアサヒーロータイムでもぶっちぎりの視聴率を誇る人気特撮番組の主人公、太陽戦士ナンクルナイザーだ。
当初、超人気とはいえアイドルを特撮番組の主役と据えることに疑問を抱く層も多かったが、「無尽合体キサラギ」の例もあり、放送開始までは静かに成り行きを見守られた。
そして放送が始まってからはそんな疑問もどこへやら、往年の特撮ファンの心をつかむ熱い展開、アイドルファンへの細やかな気配り、そしてメインターゲットである子供たちへの深いメッセージと三拍子そろった人気番組へと昇華したのである。
「自分が来たからには、もうお前たちの好きにはさせないぞ!イタズラツインズ!」
そしてなにより、主演の我那覇響をはじめとする出演陣の好演と、スタントなしでの撮影というところも人気の秘訣であろう。
「でぇたなぁ、ナンクルナイザー!」
「いつもいつもやられてばかりのマミゴンさまたちじゃないんだよ!」
「そのとーり!きょーはとっておきの助っ人呼んじゃってるもんね!」
「なに!?…ってちょっと待て、自分そんなの打ち合わせで聞いてな…」
「かもん!レイナサマ!」
なぜか素であわてだしたナンクルナイザーの前に現れたのは。
「アーッハッハッハッハゲホゲホッ…ん゛ん゛っ…初めて会うわねナンクルナイザー!今回はこのアタシ、レイナサマが相手してやるわ!」
光のライバル、麗奈だった。
実は、打ち合わせの段階で麗奈のキャラを面白いと感じた制作サイドが、いずれ番組に登場させるための布石として今回特別に出演させたのである。
もちろん、主演の響には一切知らせずにだ。
「え、えぇっ!?」
「「かっかれー!」」
「え、ちょ、亜美、真美、まってうぎゃあああ!!」
ステージ上を所狭しと暴れまわる悪者と、振り回されるナンクルナイザー。
一応光も流れを聞いていた側の一人ではあるが、さすがに少し心配になる。
助けてあげよう。
「た、大変だみんな!ナンクルナイザーはパワーが足りなくて、このままじゃ負けてしまう!みんなで応援してあげよう!」
「そ、そうだ!応援たの…ってうぎゃー!変なとこ触るなー!」
「行くぞみんな!せーの!頑張れー、ナンクルナイザー!」
「がんばれー、なんくるないざー」
ぱらぱらと声が上がるが、まだ小さい。
ここはお約束。
「どうしたみんな!声が小さいぞ!もう一度、せーの!」
「「「がんばれー、ナンクルナイザー!」」」
「まだまだ!フルパワーで行くぞ!せーのっ」
『がんばれー!ナンクルナイザー!!』
「ううう…なんくる、ないさあああああ!!!」
「うわああ!」
子供たちの応援が届くと、ナンクルナイザーがステージ上で叫び声をあげ、アミゴン、マミゴン、レイナサマを吹き飛ばす。
「はぁ、はぁ…よくも好き放題やってくれたなぁ!亜美、真美!」
「や、やばっ」
「ち、ちみっとやりすぎちったかもちんないっ」
「な、なにビビってんのよ!この程度で…」
「もう許さないからな!てぃーだパワー、オーン!」
ナンクルナイザーが両手を掲げ、パワーを溜める。
「こ、これはマズイよマミゴン!」
「ど、どうしよアミゴン!」
「じょ、冗談じゃないわよ、アタシはまだ暴れ足りな…」
「必殺ぅぅぅ…チャンプルストォォォォムッ!」
「「「ぎゃあああああ!!」」」
ナンクルナイザーの両手から放たれた荒れ狂う太陽のパワーが、三悪を吹き飛ばし、ステージ上には平穏が戻った。
「ふふん、どうだ!完璧な自分の、完璧な必殺技は!」
「流石はナンクルナイザー!君のおかげで、今日も平和が守られた!みんな、ナンクルナイザーにお礼を言おう!」
『ありがとー!ナンクルナイザー!』
「なんくるないさー!困ったことがあれば、いつでも自分の名前を呼ぶんだぞ!みんな、応援ありがとう!またやーたい!」
大きく手を振ったナンクルナイザーは、軽やかに去って行った。
「―――以上をもちまして、「太陽戦士ナンクルナイザー」のヒーローショーは終了となります。皆様、足元、お忘れ物等お気を付けになってお帰り下さい。来週のこちら丸狭デパート第一催事場では、「不死鳥戦隊フェザーマンR」のヒーローショーが開催予定です。皆様お誘いあわせの上…」
会場アナウンスが入り、イベントは終わりを迎える。
「…たぁのしかったぁ!」
観客がぞろぞろと出ていくのを眺めながら、光は満足そうにそうつぶやくのであった。
―――楽屋
「お疲れ様でした!」
「おう、光、なかなか良かったぞ!流石、ヒーロー好きなだけはあるな」
楽屋に戻った光を迎えたのは彼女のプロデューサーだ。
「へへっ、そりゃあね!」
「なにへらへらしてんのよみっともない」
ニコニコする光に、麗奈が絡む。
「麗奈もお疲れ!悪役、すっごいサマになってたじゃないか!」
「そ、そう?…じゃなくて!トーゼンでしょ?このレイナサマはアンタの百倍も素晴らしい…」
「アタシも麗奈に負けないよう頑張らなきゃなぁ」
「き、聞いてないし…」
「ははっ、光はこうなるともうだめだからな。しかし、光の言うとおりなかなか良かったぞ、麗奈」
「…フン、別にアンタに褒められたって嬉しくないわよ」
そっぽを向く麗奈に光のプロデューサーはやれやれと笑う。
「まったく、せっかくこのレイナサマの晴れ舞台だってのに下僕は何をしてんのかしら」
「アイツは、今後のお前の活動の為にどうしても外せない打ち合わせがあったから俺にまとめて面倒見るよう頼んできたんだろ。そうぐずるな」
「ぐずってなんかないわよ!大体、アタシの下僕の癖に気合が足らないのよアイツは!分身でもしてみなさいってのまったく…」
光のプロデューサーがなだめようとするが、麗奈は意にも介さない。
どうにも麗奈は、以前から光のプロデューサーにはとりわけ当たりがキツイともっぱらの噂で、それは事実のようだった。
「ふー、握手会終わったぞー」
楽屋にまた人が入ってくる。
本日の主役我那覇響と双海亜美、真美だ。
入れ替わりに、光のプロデューサーは部屋を出て行った。
着替えなどに対する配慮だろう。
「おやぁ?お姫様はなにやらゴキゲンがよろちくないようですなぁ」
「ここはひびきんの出番だよ!さぁ、ひびきんのオモシロモノマネ百連発で…」
「うぇぇ!?じ、自分そんなにレパートリーなんかないぞ!?」
売れっ子アイドルとはいえ、自分たちと変わらない等身大の少女たちがそこにいた。
「お疲れ様です!」
「おっつおっつー☆」
「ひかるんの司会、なかなか棒を炒っていたぞよ」
「それを言うなら「堂に入る」だぞ…光お疲れ!いやー、早めに逆転の合図出してくれて助かったさー!」
「あ、やっぱりあれで良かった?」
「良くないわよまったく!あと少し時間があれば客席に向けてレイナサマバズーカを…」
女三人寄ればかしましいというが、五人もいればそれだけおしゃべりの音は大きくなる。
特に、イベント終了後はテンションも高いものだ。
帰り支度をしながらおしゃべりに花を咲かせていると、遠くから消防車のサイレンが聞こえた。
…ウー!ウー!!ウー!!!ウー!!!!
サイレンは光たちのビルの近くでひときわ大きくなると、しばらく後に消えた。
「あり、もしかして近くで火事じゃないの?」
「このビルだったりして!」
「いや、そしたら火災報知機が鳴るはずだぞ」
「…みんな!入っていいか?」
扉の向こうから光のプロデューサーの声がする。
「大丈夫だよ!」
「おう…全員いるな?サイレンが聞こえたと思うが、近くで火事があったらしい。一本はさんだ通りの向こう側だし、こちらに飛び火することはないと思うが、くれぐれも帰り道には気を付けてくれ。覗きに行こうなんて考えるんじゃないぞ」
「わかった」
「今日はこれで解散だ。765のお三方はそちらの事務所の人が迎えに来るっていうからここで待っていてくれ。光と麗奈は自由でいいぞ」
「りょーかいだよ兄ちゃん」
「俺は今後の打ち合わせもあるから少し残っていく。じゃ、お疲れ」
それだけ言って、光のプロデューサーは去って行った。
「お迎えかー、誰来んだろ、兄ちゃんかな」
「えー、亜美もそしたらうれしいけどピヨちゃんとかじゃない?今日兄ちゃんどっかテレビ局じゃなかったっけ」
「プロデューサーは確か未来たちの歌番組収録について行ってるぞ。お迎えまで暇だなー」
「あ、ねぇねぇ、ひかるんとレイナサマさ、暇なら真美たちとだべってこーよー!」
「あの熱いバトルの後にこんなあっさり帰っちゃ不完全炎症でしょー!」
「それを言うなら燃焼じゃないの?アタシは別にいいけどアンタはどうすんのよ」
「もちろんアタシも…おっと」
一もに二もなく乗ろうとした光だったが、このタイミングでケータイに着信が入る。
晶葉からだ。
「ごめん、ちょっと電話だ!」
「もー、ひかるんのイケズー」
他のメンツに一言謝り、部屋を出たところで電話に出た。
「はい、南条です」
『光!お前のいるビルの近くで火災が発生しているな!?』
「そ、そうだけど…いきなりどうしたんだ?」
光が電話に出るなりえらい勢いでまくしたてる晶葉に、彼女は目を白黒させる。
『その火災は奴らの仕業だ!』
「なんだって!」
晶葉の言葉に光は表情を引き締める。
『里奈の記憶を探ってわかったんだが、今度の作戦を任されているのは炎を操る怪人らしい。最近不審火が相次ぐという報道をお前も耳にしただろう。気になって詳しく調べてみたんだが、どうやら火遊びや不注意が原因の物ではないらしい』
「どういうことだ?」
『出火原因や場所を調べればそれくらいのことはわかる。どれも放火を目的として撒かれた火種だったんだ』
「そ、そうなのか…でも、なんで今度の火災が奴らの仕業だってわかるんだ?」
『無線を傍受した。出火場所はビルの空き部屋の一つ。電気もガスも止められていて、人っ子一人いない場所での出火なんて怪しすぎるだろう』
無線を傍受、なんてとんでもないことをさらりと言ってのけた晶葉だが、今はそれよりも問題にすべきことがある。
「でも、そしたらアタシは何をしたらいいんだ?火事は今消防隊の人が消してるんだろうし」
『あの炎は、どうやら普通の水や消火剤で消せるものではないらしい。今のところ公になってはいないが、未然に消し止められた不審火も、出火を感知してから消防隊が駆け付けるまでの間に消されている。この点から見ても、火災は奴らの手によるものだろう。となるとお前の出番だ』
光は、なぜか晶葉に指さされているような感覚を覚えた。
『お前に火を消せるかどうかはわからん。だが、火をつけて回っている奴を止めることはできる。行け、光!こうしている間にも炎は勢いを増している。奴はまだあの中にいる可能性が高い』
「なるほど…わかった!」
光はうなずいて電話を切った。
すぐさま楽屋の扉を開いて叫ぶ。
「ごめん!響さん、亜美さん、真美さん、麗奈!アタシ用事が出来たから先に帰る!」
「あり?そーなの。ざんねーん」
「んじゃまたのキカイにねん☆」
「次は自分の番組に、キャストとして出てほしいぞ!」
「おう!」
それぞれにニカッと笑いかけると、光は飛び出していった。
「…急に用事って、何かしらアイツ」
「おやおやぁ、レイナサマはひかるんが何をしているのか気になるのかなぁ?」
「べ、別にそんなんじゃ…!」
「元気よく飛び出していったあの感じ…もしやカレシ!」
「は、はぁ!?あの色気より特撮のバカにそんなことあるわけないでしょ!?」
「いやぁ、わかりませんぞぉ、最近の若者は進んでいると言いますからなぁ」
「まったく、亜美も真美もよその事務所の子をそんなにからかうんじゃないぞ!」
「ハン!あんな奴、いない方がせいせいするわ!」
精いっぱい強がってみせる麗奈だったが、心の奥底では光への不信感をぬぐえずにいた。
(アイツ、何か企んでんのかしら)
―――街中、路地裏
「この辺ならいいか…ふんっ」
丸狭デパートを飛び出し、人目につかない路地裏に入り込んだ光は、気合を入れてポーズをとる。
「変、身…ルゥゥゥクスッッッ!」
風が巻き起こり、光があふれ出す。
それが治まったところにはいつものライダーが。
「さて、あとはどうやってあのビルの中に入るかだけど…」
ルクスは遠巻きに目的のビルを見やる。
かなりの勢いで燃え盛っている。
そして、その周りには消防車の群れ。
「普通に入り口から入ろうとしても止められちゃうだろうし…こうなったら」
何事か思いついたルクスは、燃え盛るビルに隣接した建物に目を付けた。
「ブーストジャンプ!!」
手足のブースターを噴射させ勢いよく屋上まで飛び上がる。
「ここからなら、止められることもないよな。よーし!」
現場となる燃え盛るビルまでの距離を目測で計算し、勢いよく駆け出す。
「トォー!」
燃え盛るビルの中ほどの階層めがけて、ルクスは勢いよく跳躍した。
―――燃え盛るビル、五階
ガシャーン!
窓を突き破り、ルクスは目的のビルへの侵入に成功した。
『おい、今ガシャンと聞こえたが、まさか窓をたたき割って入ったんじゃないだろうな』
「仕方ないだろ、非常事態なんだし」
『バカモノ!誰がガラスを割ることの良い悪いなんて話をした!いいか、火災の現場では、密閉された部屋の扉や窓を勢いよく開けるのはご法度なんだぞ!』
予想もしなかった方面から怒られて、ルクスは面食らう。
「な、なんで!?」
『バックドラフト現象だ。燃焼によって室内の酸素が薄くなっているところに風穴があくと、勢いよく空気が流れ込みさらなる爆発的な燃焼が生み出される現象を言う。もっとも有名な火災における二次災害だ。肝に銘じて置け』
「う、うん…でも、それならもっと早くに言ってほしかったな、なんて」
『いつもいつもこちらのサポートが始まる前に勝手に動き回るのはどこのどいつなのか忘れたか?いっそのこと脳まで改造して色々と刻み込んでやろうか』
「す、すいませんでした!」
晶葉は怒らせると怖い。
大体怒らせる理由も自分が晶葉の助言をちゃんと聞かないからというのが理由であることも多く、ルクスはひたすらに謝るしかない。
『まったく…いいか、火災の現場では慎重に動け。燃焼の影響で脆くなった家具や建材、思わぬところに溜まっているガス、その他危険なものでいっぱいだ』
「わかった」
『火元はお前のいる場所からさらに二階上、七階の一室だ。奴がこの火災をコントロールしているのだとすると、今もそこにいる可能性がある。とりあえずそこを目指そう』
「了解!」
ルクスは、渦巻く炎の回廊へと足を踏み出した。
―――燃え盛るビル、七階
普通の消火剤では消すことのできないこの炎は、確かに厄介なものだがその分燃え広がるのにも時間がかかるらしい。
途中、逃げ遅れた人を幾人か見つけたルクスは、どうにか抱えては隣のビルに飛び移り、屋上に寝かせてまた現場へ戻るという無茶を何度かこなした。
そして、ようやく目的地にたどりついたルクスを迎えたのは。
「―――来たね」
「お前がこの事件の犯人か!」
「ぴんぽーん」
和装をした白いキツネの怪人が、ゆっくりと立ち上がる。
「キツネフレイムでありんす、こーんこん♪なんちゃって」
「キツネフレイム…この火もお前の仕業ってことだよな」
「そだよー。てかさ、ホントならもっと早いうちに燃え広がらせる予定だったのにさ。ちょいちょい邪魔いれてくれてさ。あたしちまちましたの苦手だから、さっさと戦いに来てくれればよかったのに」
「…何を言ってるんだ?アタシがお前の火をつけた場所に来たのは、これが初めてだぞ!」
「そーなの?ま、別にいいんだけどね、それならそれで…ただ」
キツネフレイムがゆっくりと構える。
「どのみちブラックシンデレラに逆らう君には死んでもらわなきゃいけないわけなんだよねー」
「そうはいくか!お前たちの好きになんてさせない、あなたも茜さんたちみたいに操られているっていうなら…目を覚まさせてやる!」
「大きなお世話だよ…ふっ」
言うが早いかキツネフレイムは素早く踏みこんできた。
「くっ…」
打ち下ろされた手刀を右腕で受け、左拳を突き出したルクスだが、それはあっさりと躱されてしまう。
「そんなんじゃ、あたしは捕まえらんないよっ」
ニヤッと笑いながらキツネフレイムが軽くステップを踏んで一回転する。
その優美さに気を取られたルクスに、ワンテンポ遅れて尾撃が叩き込まれた。
「あうっ」
「使えるもんは使わないとねー」
完全に相手のペースである。
『飲まれるなルクス!ああいう手合いは、一度自分のペースに引き込むと強いぞ!』
「わかってる!これで…どうだぁっ!」
ルクスはブーストを噴射し、すさまじい速さでキツネフレイムの周りを回る。
「おっと、これはやばいね…」
「たぁっ!」
ルクスのスピードを追い切れず、キツネフレイムが隙を見せた瞬間を狙って、ルクスはこぶしをヒットさせた。
「いったぁー!」
「もう一度!」
再びスピード任せにかく乱しようとするルクスだったが、キツネフレイムもやられっぱなしではいない。
印を結んで力を集中させている。
「何をする気だ?」
「こーすんの!こんこおおおおおおん!」
キツネフレイムが力を解き放つと、青い炎が奴を中心に荒れ狂う。
全方位に放たれる火炎攻撃には、ルクスもどうすることもできずに喰らってしまった。
「うわあああ!」
「どんだけ動き回っても、よけられなかったら意味ないもんねー」
体にまとわりつく炎を転げまわりながら揉み消すルクスをあざ笑うかのように、キツネフレイムは手をかざす。
「ほらほら、敵は待ってくれないんだよ?」
次々に放たれる炎を、何とか転げまわりながら躱すルクスだったが、打開策が見つかる前にいつの間にか自分を囲んでいた炎に身動きを封じられてしまった。
「考えなしに火をつけても疲れるからねー。やっぱり効率的にやらないと、こういうのは」
言いながらキツネフレイムはひときわ大きい炎を、かざした左手の上に集中させる。
あれをそのまま喰らってはマズイ、しかし、逃げ道は、ない。
「こうなったら一か八か…」
『待て、ルクス!』
正面から飛び込もうとしたルクスを、晶葉が制した。
「なんだよ晶葉!」
『そのまま正面から飛び込んでも勝機はない、ルクスタイフーンを使うんだ!』
「ルクスタイフーン?」
『ベルトのバックルについた風車のことだ!変身の為のエネルギーを集めるそれには、単体でも強力な武器になる仕掛けが施してある!一度使うと、元の姿に戻った後しばらくは変身が出来なくなるが、この際仕方あるまい!』
「…わかった!」
「むむ、何か企んでるね?でもいいよ、あたしの狐火で全部燃やしちゃうからさー」
ルクスと晶葉の通信に気づいたキツネフレイムが、炎を放とうとした。
その瞬間である。
「ルクスタイフゥゥゥゥン!!」
ルクスの叫びと共に、ベルトのバックルが唸りだし、すさまじい風の塊が放たれた。
「え?うそで…」
放った炎を止めることもできず、迫りくる風の塊と跳ね返された自身の炎をまともにくらい、吹き飛ぶキツネフレイム。
「あうっ…うううう…あああ…ああああああこんこーん!!」
そのままの勢いで壁に叩きつけられたキツネフレイムは、甲高い叫び声をあげて爆発した。
そのあとには、いつものごとく少女が一人倒れている。
「はぁ…はぁ…手ごわい相手だった…うわわわっ!」
荒い息とともに膝をつきそうになるルクスだったが、突然ビルが揺れだしたのに慌てて立ち上がる。
「ど、どうしたんだ!?」
『まずいな…火災で脆くなってた上にいまのルクスタイフーンの衝撃でビルが崩れ出したんだ。早く出ないと生き埋めだぞ!』
「それはまずい!…よいしょっと!」
ルクスは急いで倒れている少女にかけより背中に背負う。
「でええええい!!」
そのまま走り出し、手近な窓から外の世界へと身を躍らせた。
―――崩れたビルの近く、路地裏
「とっとっと…はっ!」
なるべく背負った少女に負担をかけぬよう建物の壁を蹴り、路地裏へと降り立ったルクス。
一息ついたと同時に、彼女の変身が解け、普段の光の姿が現れる。
「あ、危なかった…間一髪だ」
自分の運に感謝しながら、光は路地を出たところの様子をうかがい、この場を後にする。
エネルギーをだいぶ消耗したこともあり、少しふらついてはいるがどうやら心配はなさそうだ。
しかし。
「…」
光が路地裏から出ていこうとするのをこっそり見ている影があった。
先のダム爆破事件の際に光を見守っていた影と同じか?
いいや違う。
なぜならその影は、背が低く髪が長い女の子の影で。
「今の…光じゃない…」
小関麗奈の影だったからだ。
エンディングテーマ
「燃えよルクス!」
熱血 アタック
正義の血潮が燃えたぎる
怒りのパンチは風起こし
炎のキックが敵砕く
跳べ空高く
ブーストジャンプで鳥になれ
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
―――次回予告
キツネフレイムに変身させられていた少女、塩見周子を助け出した仮面ライダールクスこと南条光。
しかし、次なるブラックシンデレラの狙いがわからず焦る彼女に、一通の手紙が届いた。
そこに記された内容とは、そして、ルクスの前に立ちはだかる新たなる強敵とは。
次回、仮面ライダー光「戦士の闘い!」
ご期待ください。
※作者でございます。
第四話でした。
あ、前回投稿時に書いていくのを忘れていたんですが、
ルクスの変身ポーズは仮面ライダーV3の変身ポーズの最後の部分の動きを右と左入れ替えた感じになります。
V3→両手を左上に伸ばし、右手を引いて突き出しながら左手を引く
ルクス→両手を左上に伸ばし、左手を引いて突き出しながら右手を引く
少しでも想像の手助けになれば。
では、またこの続きに投稿すると思います。
第五話でお会いしましょう。
こんばんは。
細々と続けて参りましょう第五話。
仮面ライダーSPIRITS面白いっすよね。
読んだことない人はお勧めっすよ。こっから本シリーズ入るのも良し。
では、キュー。
「仮面ライダー!ルゥゥゥクスッッッ!」
赤いスカーフたなびかせ
今日もアイツがやってくる
白い仮面の小さな英雄
僕らのルクスライダーだ
みんなの輝く笑顔の為に
砕くぞブラックシンデレラ
戦え正義の為に
叫べその名は
仮面ライダールクス
「仮面ライダールクス、南条光は改造人間である。
謎の秘密組織「ブラックシンデレラ」よって重傷を負わされたが、天才科学者池袋晶葉の手によって改造手術を受け、仮面ライダールクスとして蘇った!」
仮面ライダー光第五話
「戦士の闘い!」
―――???
「くっ…またしても邪魔をッ!!」
ピシィッ!
暗い部屋に鞭の音が響き渡る。
「早急に何とかしなければ…忌々しい!!」
ピッシィッ!
怒り狂う女の振るう鞭の音に応えて現れたのは、鍛え上げられたしなやかな体を持つ怪人。
「アタイを呼んだか?」
「あなたのお好きな強者というヤツよ。人間を陥れるのは後回し…まずは奴を地獄に叩き落としてやりなさい、バトラカンガルー」
「了解」
女の言葉に軽くうなずくと、怪人は姿を消した。
「さしものルクスと言えど…やつには適わないわ…ここで止まるわけにはいかないものね」
女はそうつぶやくとにやりと笑い、再び鞭を鳴らした。
―――晶葉の研究室
「それでは、やはりお前も何も覚えていないんだな?」
「うん、ごめんねー、お役にたてなくて」
少しばかり申し訳なさそうな顔をしているのは、キツネフレイムに変身させられていた少女。
「いいんだ!周子さんがなんともなければそれでさっ」
名を塩見周子と言い、京都の老舗和菓子屋の娘だという。
「光ちゃんはいい子だねー、よしよし」
「あ、こ、子ども扱いするなよー!」
飄々としたとらえどころのない性格で、透けるように白い肌の持ち主だ。
妖狐の怪人になっていたことにもなんとなく納得がいき、そして御多分にもれず彼女もまたCGプロのスカウトマンによって女子寮への入寮が決まっていた。
「正直助かっちゃうよ、こっちは家出してきた身だから行く当てとかなくてさー」
「それでブラックシンデレラにとらわれていたのでは、世話ないがな」
晶葉がやれやれとため息を吐く。
「あはは、それは言いっこなしだって」
「まったく…とりあえず、前二人と同様にお前の記憶も探らせてもらうから、そのつもりでな」
「うん、お役にたてるかわからないけど、よろしくー」
周子は頭を下げる。
幸いにもこれまで、なんとか大きい被害を出す前に事件を解決できている。
それもこれも、晶葉の科学力と助けた人たちの協力のおかげだ。
ところが。
―――数日後、晶葉の研究室
「うーむ…参ったな」
「やっぱりダメ?」
「うむ…」
周子の洗脳期記憶を探っていた晶葉だが、その表情は芳しくなかった。
「里奈の記憶を探った時から嫌な予感はしていたんだが…やはり、だんだん取り出せる記憶が不鮮明になっているな」
晶葉の話によると、茜の時と比べて、里奈から引き出せた記憶情報は明らかに不鮮明だったらしい。
そして周子にいたっては…。
「意味を見いだせる記憶はないに等しいな…やつらの技術が上がっているのか、体質の問題なのかはわからんが」
「そっか…ごめんね、役に立てなくて」
流石の周子も少し気落ちした様子だ。
「いや、お前に非はない。むしろ、あんな奴らの為に働いていた記憶など思い出さん方がいいのだからな」
「なにかわかったか晶葉!」
扉が勢いよく開いて、光が駆け込んでくる。
しかし、視界に飛び込んだ二人の気落ちした様子に光もすこし勢いが弱まる。
「すまんな…私にもっと力があれば…」
「何言ってるんだよ晶葉!今までだって、晶葉がいなかったらどうしようもなかったことがいっぱいあるじゃないか!今敵が何を企んでるかわからないくらい、どうってことないさ!」
気落ちしている晶葉に励ましの声をかける光。
落ち込んでいても仕方がないのは事実だ。
「ここ最近は変なニュースも聴いてないし、しばらくは様子見でもいいんじゃない?」
「そうだな、戦士にもたまには休息も必要だ!」
「まぁあまりのんびり構えているのもどうかと思うが…おぉ、ウサロボすまんな」
―――ウサッ!
三人が話し合っているところに、ウサちゃんロボが近づいてきた。
どうやら、外のポストから郵便物を取ってきてくれたらしい。
「おー、君えらいねー」
―――ウサウサ
周子が珍しそうにウサちゃんロボをつつく。
ロボの方もまんざらではないようだ。
「私がここにいることを知っている者は少ないから、大事な郵便物などなかなかないはずだが…おや」
数枚のチラシの間に、黒い封筒が挟まっている。
このご時世に手紙とは珍しい。
「差出人は…ブラックシンデレラ!?」
「なんだって!?」
晶葉の言葉に、光がいち早く反応する。
封筒を見てみると、黒字に白で涙を浮かべた天使のような文様がプリントされている。
「間違いない、ブラックシンデレラのマークだ…」
「早く開けてみてみようよ!」
「待て、何か仕掛けられているかもしれん」
晶葉はハンディスキャナーを取り出し、慎重に封筒を調べる。
「…ふむ、とりあえず、余計な仕掛けはなさそうだ」
「開けるぞ!」
綺麗にあけるのももどかしいと封筒の端を切る光。
取り出した紙には、ただ一言こう書いてあった。
『郊外の藻場工事現場跡にてお前を待つ』
「どういう意味だ?」
「話があるってことかな」
「違うよ…これは」
首をひねる二人に対し、光ははっきりと告げる。
「果たし状だ」
「果たし状!?」
「なぜそんなことがわかるんだ」
やけに確信のこもった声を出す光に、晶葉は問いかける。
対する光は、普段の明るさが嘘のような真剣な顔をしている。
「うまくは言えないけど…伝わってくるんだ。これを書いたやつの本気が」
光は思いつめたように手紙を見つめる。
どうやら光は、この手紙から何かを感じ取っているようだ。
「…まさか、ノコノコ出て行くつもりじゃないだろうな」
「行くよ晶葉」
「ダメだ、何を言っている!本当にこれが果たし状だという確証もないんだぞ!?罠に決まっている、そんなことは認められん」
「晶葉」
「ダメだダメだ!お前はそうやって無茶ばかりするが、待っている者の身にもなってみろ。奴らの情報が得られないこの状況で、これはチャンスだ。この手紙を解析して、現場を調べて、それから…」
「無駄だよ」
晶葉の言葉を、光が静かに止める。
「なぜお前にそんなことが…!」
「アタシは改造人間なんだぞ、晶葉。その手紙に何の手がかりもないことくらい、変身しなくたってわかるさ」
「…っ」
「普通の人より何十倍も鋭い感覚のおかげ、かな。でも、そんなことはホントはどうだっていいんだ」
言葉に詰まる晶葉に、光は語りかける。
「悪の組織が戦いを挑んできた、そしたらアタシは逃げるわけにはいかない」
「なぜだ!そもそもこれは逃げではないのだぞ!」
ゆっくりと部屋を出ていこうとする光に、晶葉は叫ぶように問いかける。
「アタシは…仮面ライダーだからさ」
パタン、と扉が閉まる。
「ど、どういうこと?光ちゃんなんであんな急に真面目な感じになったの?」
「わからん…だが自分で言ったようにアイツは改造人間だ。何かを感じたのかもしれん…あんな光は初めてだ」
晶葉と周子は、心配そうに光の出て行った扉を見つめた。
―――晶葉の研究室近く、ガレージ
「変身は…まだいいか、誰かに見られてもマズイし」
ブリーズに跨った光は、勢いよく漕ぎ出す。
その表情は硬い。
彼女は感じているのだ。
改造人間の研ぎ澄まされた直感が、この先に死闘が待ち受けていることを。
そして、そんな光を見送る影がひとつ。
「…何よアイツ、あんな思いつめた顔して」
小関麗奈だ。
光が変身を解く姿を目撃してしまった彼女は、ここ数日光の後をつけていたのだ。
「やっぱり、なんか変なことに関わってんのよね」
麗奈は、晶葉の研究室があるビルを見上げると、一つうなずいて入って行った。
―――現場急行中
「そろそろ着くか…もういいかな」
光は、ブリーズのハンドルから手を放し、両手を体の右側へ揃えて突き出す。
「変、身…ルゥゥゥクスッッッ!!」
両手を旋回させポーズをとった光は、仮面ライダールクスへと変身した。
同時にブリーズも、その姿を自転車からバイク然としたものへと変えていく。
「あの手紙を送ってきたヤツは…強い。けど、負けられないんだ」
つぶやいたルクスは、ブリーズを加速させた。
―――晶葉の研究室
「何事もなければ…れ、麗奈!?」
「あら、入られて困るなら、立ち入り禁止の札でも出しておけば?ま、アタシはそんなの見たら余計に入りたくなるけど」
ルクスからの通信に対応できるよう備えていた晶葉は、突然の闖入者に動揺を隠せない。
「わ、悪いが今は大事な実験中でな、お前と遊んでいる暇はない。それに、光ならここにはいないぞ!アイツに用なら自宅かレッスン場をだな…」
「そんなところにいないことくらいわかってるわよ、アタシはアンタに用があってきたの」
晶葉の言葉に耳を貸さず、麗奈は詰め寄る。
「アンタ、光を使って何をやってるわけ?」
「別に何も…」
「誤魔化そうったってそうはいかないわよ、アタシこないだ見たんだからね」
そこで麗奈はそばで成り行きを見守る周子を指さして言った。
「燃えてるビルから飛び降りてきたマスクのやつと、それに抱えられてたアンタのことをね」
「あちゃー、あたしは気を失ってたから気づかなかったよ」
「それが光と何の関係が…」
「関係ないとは言わせないわよ。だって、マスクが消えたら、その下から光の顔が出てきたんだから」
麗奈の言葉に晶葉は言葉を失う。
ついに光の正体が第三者にばれたのだ。
「…変身解除の瞬間を…見られたのか」
「二人して何を企んでるわけ?なんなのアイツのあのカッコ、ってかあの力」
「…麗奈、誓って言うが私たちは悪事を企んでいるわけでは」
「わかってるわよそんなこと」
歯切れ悪く晶葉はおずおずと話し出したが、麗奈はそんな彼女の言葉を呆れたように鼻で笑い飛ばした。
「あの正義バカが、たとえ大好きな変身ヒーローになれるからって悪事に手を出すわけないでしょ?どんだけバカでもそのくらいの分別はあるバカよあれは」
「ではなぜここに…」
「ここ最近、アイツがたまに辛気臭い顔すんのが気に食わなかっただけよ。アタシのライバル張るつもりなら、もっとシャッキリしててもらわなきゃ困るのよね」
そこまで一気にいうと、麗奈は晶葉に詰め寄った。
「さっきもアイツが思いつめた顔で出ていくのを見たわ。吐きなさい、何をしてるのか」
「晶葉ちゃん、助けてもらったあたしがいうのもなんだけど、麗奈ちゃん真剣みたいだし、話してもいいんじゃない?」
「ふむ…ここまで知られてしまったからには、むしろ仲間に加わってもらった方が良いか…よし」
晶葉は、自分が光と出会った経緯と、光の身に起きた事、そして自分たちが何をしているかについて話した。
驚きながらも口を挟まず聞いていた麗奈だったが、最後、なぜ光が先ほど思いつめた表情を浮かべていたかについて聞いたところで、我慢できずに叫んだ。
「ちょっと待ちなさいよ!罠かもしれないところにあのバカたった一人でノコノコ出て行ったっていうの!?どんだけバカなのよ、てかアンタも止めなさいよ!」
「止めなかったと思うのか!アイツは聞かないんだ…どれだけ止めても…っ!」
「改造人間だか何だか知らないけど、アイツはアタシたちと年の変わらない女子なのよ!?なんでそんなバカを…」
「仮面ライダー…だからだそうだ」
「は?」
晶葉の言葉に麗奈はハテナを浮かべる。
「仮面ライダーだから、アイツは逃げない、逃げられないと、そういっていた」
「はー…つくづくバカねアイツは。あんなの、お話の中だからうまくいくのよ」
「私もそう思う…だが、その信念がアイツを支えているところもあるようなんだ。自身の憧れたヒーローと同じ存在であるために、人間の魂を失わないために」
「んとに、筋金入りのバカなんだから…」
おでこにしわを寄せ、麗奈は窓の外を睨み付けた。
―――藻場工事現場跡
計画の中止により作業がストップし、以来半ば資材置き場と化した工事現場跡。
ルクスが呼び出されたのはそんな場所だった。
ブリーズを停めたルクスは、開けた場所に移動し、声を張り上げる。
「いるんだろ!ブラックシンデレラの怪人たち!仮面ライダールクスが来たぞ!姿を現せ!」
「ふん…臆せずに来たか」
ルクスの声に応じて現れたのはカンガルーの怪人。
その引き締まった体から、強者のオーラがにじみ出ている。
「あの手紙を送ってきたのはお前か!」
「そうだ、待ちかねたぜルクス」
「これまでこそこそと悪事を働いてきたお前たちが、なぜあんな真似をしたんだ?」
「お前はやりすぎたのさルクス…ブラックシンデレラは当面の目標を、人間の駆逐からお前の抹殺にシフトした。アタイらのやり方を邪魔するお前をまず先に倒し、そのあとでゆっくりと人間たちを根絶やしにする。お前がいなくなればアタイたちに逆らうやつもいなくなるからな」
「アタシはそう簡単に負けたりしない!それに、たとえアタシが負けたとしても、人間はお前たちに屈したりはしないぞ!」
ルクスの叫びは、どうやらカンガルー怪人には届かないようだ。
鼻で笑ってカンガルー怪人は戦闘態勢に入る。
「お前がどう思おうと知ったことじゃない、アタイは上からの指令を忠実にこなすだけ。もっと言えば、強い奴と戦えればそれで良いんだよ」
「…そうか、あなたもまた、ブラックシンデレラの犠牲者なんだな…ならばその目、アタシが覚まさせてやる!」
「面白い、やってみな!まずは小手調べだ!」
怪人が手を上にあげると、どこからか隠れていた戦闘員がわらわらと湧き出してきた。
「試させてもらうぜ、ルクス!」
「こい!」
ルクスが構えると同時に、戦闘員がとびかかってくる。
「キィー!」
「やぁぁぁ!」
しかし、並みの戦闘員ではルクスの相手にはならない。
殴りかかった腕を取られて、蹴りを飛ばせば軸足を払われて、掴み掛れば逆に投げ飛ばされて。
戦闘員たちはみるみる戦闘不能に陥っていく。
「てぇいっ!」
「ギィッ…」
「はぁ…はぁ…どうだ!」
「ふん、さすがに幹部クラスの怪人を二人倒してるだけのことはある、少しはやるみたいだな。いいぜ、このバトラカンガルー様が直々に相手をしてやる」
ルクスの戦うさまを見ていた怪人、バトラカンガルーがいよいよ戦いの場に出てきた。
「久しぶりに本気で戦えるな…手加減はできねぇぜ?」
「望むところだ!こいっ…うわっ!」
身構えたルクスに、バトラカンガルーがとびかかり、ハイキックを放った。
その速さ、鋭さに思わずルクスは震えあがる。
なんとか躱したものの、膝が笑い出しそうになるのを懸命にこらえる。
「どうした?」
「ふ、ふん!今のはいきなりで驚いただけど!今度はこっちから行くぞ!」
ルクスも負けじと、ブースターを噴射し、猛スピードでバトラカンガルーにとびかかる。
が。
「トォー!」
「ふ…」
「てぇぇぇいっ!」
「…シッ」
ルクスの渾身の蹴りも拳も、バトラカンガルーにはかすりもしない。
「はぁ…はぁ…なんで、当たらないんだ!」
「お前はきちんと武術を学んだわけではないみたいだな。その動き、素人丸出しもいいところだ」
「なにっ!?」
「超人的なパワーとスピード、それにまかせてでたらめに殴る蹴るを繰り返すだけ…並みの怪人相手なら十分かもしれないけど…」
「やぁぁぁぁぁ!!」
なんとか隙を突こうととびかかったルクスを軽くいなしたバトラカンガルーは、右足で力強く地面に踏ん張った。
「アタイには通用しない」
「しまっ…うぐぁぁぁぁああっっ!?」
高速で蹴りだされた左足がルクスの腹部をまともにとらえ、空中へと投げ出される。
痛みと勢いで反応できないルクスを追いかけ、バトラカンガルーもまた飛び上がった。
「その程度の実力で、アタイらブラックシンデレラに楯突こうってのがそもそも間違いなんだよッ!」
「…っ!?」
空中で回転したバトラカンガルーによる踵落としで、ルクスは再び地上へと戻る。
もはや叩きつけられても声も出ない。
「…っ!…っ!」
「もう終わりか?何が仮面ライダーだ、ホントにたいしたことねーじゃんか」
のた打ち回るルクスの頭を、バトラカンガルーはゆっくりと踏みつける。
「あうっ…」
「当面の目標は、なんて言ったが、別に変える必要もなかったな。これで終わりだ」
「く、くそっ…」
なんとか自分の頭を踏みつける足を外そうともがくルクスだが、もはや彼女にそんな力は残されていない。
「どこの誰だかもしらねーけど、今となっちゃどうでもいいな。死ね、ルクスッ!!」
バトラカンガルーが、渾身の力を籠めてルクスの頭を粉砕しようと足をあげたその瞬間。
カランカラン
「なんだ?…!」
バシュウウウウウウウ…キィィィン!
激しい光と煙、そして耳がおかしくなるような高い音が響き、バトラカンガルーは一瞬五感を封じられる。
投げ込まれたのは閃光手榴弾のようなものだ。
「ぐっ…くそっ、誰だ!」
身を伏せ、感覚が戻ってくるまでは自身の身を守ることを優先したバトラカンガルー。
どうにか感覚が戻ってきたころには、もはや仕留める寸前であったルクスの姿はどこにもなかった。
―――翌日、晶葉の研究室
「んっ…うぅん…」
「―――気が付いたか」
「あきは…あれ、ここは…」
「私の研究室だ。まったく、無茶ばかりしおって」
光が目を覚ますとそこは、晶葉が構える研究室のベッドの上だった。
「なんでここに…つうっ!」
「まだ寝ていろ、いくらお前の回復力が常人の数十倍であろうと、今回は随分と痛めつけられたようだ。もう少し休んでいないといかん」
「…そっか…アタシ…負けたのか…」
ベッドに倒れこんだ光は、自分が敗北を喫した闘いのことを思い出した。
同時に震えがくる。
どうして自分がこうしてここにいるのかはわからない。
しかし、あの時邪魔が入らなければ自分は確実に殺されていた。
その事実が光を恐怖させる。
そしてなにより。
「そうだよな…アタシ…負けたんだよな…っ」
闘いに負けた、そして負けた相手に大きな恐怖心を抱いている。
この事実が何よりも光を打ちのめした。
「アタシは…負けたんだ…アイツに…っ」
「仕方あるまい。お前のカメラアイに残されていた記録を見たが…あれは相手が格上すぎた」
「でも…っ…アタシ悔しいよ…っ…悔しいんだよあきはぁ…っ」
こらえきれず光は涙をこぼす。
自分が情けなかった。
ヒーローであることを自分に課し、仲間の制止も聞かずに飛び出しておいて無様に負けたうえ、何よりも命があったことの安堵と敵への恐怖を感じる自分が情けなかった。
「アタシ…っ…手も足もでなかった…っ…本気でっ…ぶつかったのに…っ…うぅっ…ぐぅっ…」
左手でシーツをしわができるほど握りしめ、右腕で目を抑える。
歯を食いしばって懸命に涙をこらえようとするが、どう頑張っても止まらない。
そして、そんな自分も情けなかった。
晶葉は、そんな光に何も声をかけない。
いつの間にか部屋に入ってきた茜も、珍しく静かにしている。
ひとしきり泣いて少し落ち着いた光は、ボソッとつぶやいた。
「完璧に負けたんだな…アタシ…」
肉体的な勝負はもちろん、心の面でも。
今の光は、完全に心が折れてしまっていた。
初めての敗北は、光の心に大きな無力感をもたらした。
泣き疲れ、ぼんやりとする光。
声をかけあぐねる晶葉と茜。
そんな空気の研究室の扉が
バァン!
勢いよく開いた。
「あら、お目覚めかしら?ずいぶんゆっくりとお休みしてたみたいねそこの甘ちゃんは」
「…麗奈?なんで…」
「あー、麗奈はお前が周子を助けた現場を見ていたらしくてな。ここまで乗り込んできて説明を求められたから、事情を話して協力してもらう事になったんだ」
「仲間ってわけじゃないから、勘違いしないでよね!」
どこまでもあまのじゃくな麗奈である。
「…そっか」
「何よアンタ、このレイナサマがアンタのヒーローごっこに協力してあげるって言ってんのに、ずいぶんな反応じゃない?泣いて喜びなさいよ」
「…今、十分泣いちゃったから」
あまりにもいつもと反応が違う光に、麗奈はいらいらと言う。
「くらっ!暗いわねアンタ、いつものうっとーしいくらいの元気さはどこ行っちゃったわけ?」
「…」
「まさか、一回負けたくらいでビービー泣いて、もうヒーローごっこはできませぇん!とか言うつもりじゃないでしょうね」
「…」
麗奈の言葉に、光は黙って目を伏せる。
麗奈の眉がぴくっと跳ねた。
「…あぁっそ!アンタにはがっかりだわ、このアタシのライバルを名乗らせてあげてたのに、どうやら買いかぶりすぎだったみたいね!」
麗奈は光に背を向け、晶葉に向かって言い放った。
「腑抜けたコイツにできることなんか何もないわ。晶葉、アタシを改造人間にしなさい」
「…麗奈?」
「こんなやつ、何回挑んだって泣いて帰ってくるだけに決まってるわ。だったら、このアタシが改造人間になってそのブラックなんちゃらってのと戦ってやるわよ。だいたい気に食わないのよね、この悪の帝王レイナサマを差し置いて悪の組織だなんて名乗ってるのは」
「ちょっと麗奈…」
光の問いかけを無視して、麗奈は喋り続ける。
「まぁ?そのくだらない悪の組織なんてのはあっという間にケチョンケチョンにするとして?丈夫な体を手に入れたらどんなイタズラをしてやろうかしらねー。この身体のまんまじゃできないようなことがいろいろ出来そうじゃない?」
「おい麗奈!人の話を…」
「ということでこのレイナサマの野望の為にも、さっさと改造しなさいよ晶葉。アンタもアイツらがのさばるのは困るんでしょ?この腑抜けよりは役に立つわよ」
「…改造人間は楽な生き方じゃない…わかっているのか」
「晶葉まで!冗談だろ!?」
「人と同じに生きて何が楽しいのよ、上等だわ」
「いい加減にしろ麗奈っ!!」
無視され続け我慢の限界に達した光はベッドを飛び下り、麗奈の前に立ちはだかる。
「改造人間は、遊びでなるものじゃないっ!!お父さんとお母さんからもらった大事な体とお別れしなきゃいけないってことなんだぞ!!それに、なったばかりの時は力のコントロールもうまくできないからいろんなものを壊しちゃうし、みんなと同じようにレッスンで疲れることもできない…人間じゃなくなるってことなんだっ!!」
興奮状態の光は、麗奈に口をはさむすきを与えずにしゃべり続ける。
「この身体になったことに後悔はしていないし、死にそうだったところを助けてくれた晶葉には感謝もしてる…だけど、改造人間は絶対に、望んでなるものじゃないんだ!!この身体になったら、戦いの運命から逃げられなくなる…生き物を傷つけることの辛さが、麗奈にわかるか!?そんな辛さ、知っちゃいけない!麗奈は大事な友達だ!麗奈がもし改造人間になるっていうなら、アタシはそれを全力で止める!」
息を荒くして自分を睨み付ける光に、麗奈は低く問いかける。
「…じゃあ、アンタがそうやってうじうじ泣いてたら、誰がアイツらと戦うっていうわけ?」
「アタシは…アタシは、まだ負けてない!!仮面ライダーがホントに負けるのは、諦めた時、自分の心に負けた時だ!!アタシは、絶対にあきらめない!諦めてたまるもんかぁっ!!」
そう叫ぶ光の言葉を聞いて、麗奈はニヤッと笑った。
「やっといつもの調子に戻ってきたわね。それくらいあつっくるしい方がアンタらしくていいわ」
「え?」
「あー、ホントバカはひっかけるのが楽でいいわー」
「え、それって…」
「アンタも良く乗ってくれたわね、晶葉」
「まぁ、お前たちはわかりやすいからな」
晶葉はそう麗奈に苦笑して見せた。
「あぁ!お芝居だったんですか!私もうこの展開にどうしたらいいのか困っちゃって息するのも忘れてました!!」
「だ、だましたのか麗奈ぁ!」
「アンタがいつまでも腑抜けたツラを晒すからこういう目に遭うのよ」
だまされたことに光が怒っても、麗奈はどこ吹く風だ。
晶葉はそんな二人の様子をほほえましげに眺め、茜はホッとしたのかニコニコしている。
「それで、どうするんだ光。今のまま再戦に臨んでも返り討ちに遭うだけだ」
「うん…アタシに足りないのはやっぱり、戦う為の体の動かし方なんだと思う。Pに、サブレッスンで空手か何かをやらせてもらえないか頼んでみるよ」
光たちのようないわゆる芸能人(の卵)は、本道の歌唱レッスンやダンスレッスンのほかに、バレエや日本舞踊のような専門的な技術をサブとして学ぶことが多い。
アイドル候補生の光もいくつかやってはいるが、どうにもしっくりこなかったところでちょうどいい。
「それがいいな。少なくともお前はこれまで普通の女子として生きてきた。殴り合いの喧嘩もほとんど経験がない状態では、体の動かし方に無駄が多いのも仕方ないかもしれん」
「あとはやっぱり特訓だな!ヒーローといえば!」
「おお!じゃあ走りますか!」
先ほどまでの落ち込み様はどこへやら。
光はもう再戦に向けて心を燃やし始めていた。
「はぁ、我がライバルながら、単純すぎてこれでいいのかと思いたくなるわね」
「ふふ、そういってやるな、それが光の良い所だろう」
「ま、そこは認めてやらないでもないわ。いつまでもうじうじされるのは迷惑だもの」
「そういえば…」
晶葉はそこで言葉を切ってニヤニヤと麗奈を見まわす。
「な、なによ」
「さっきの光の『友達』という言葉…否定しなかったのはなぜだ?」
「べ、別に意味なんてないわよ!ちょっとタイミングを逃しただけ!別にアタシはアイツのこと友達だなんて思ってないから!」
「ふ、そういうことにしておいてやろう」
「くっ…憎らしい…。あ、そうだ晶葉、ちょっと耳かしなさいよ」
ニヤつく晶葉を不機嫌そうに睨み付けた麗奈は、唐突に何かを思いついて晶葉に耳打ちをする。
「なに?」
「まさか、できるわよねぇ。天才科学者さんなんだから」
今度は麗奈がニヤつく番だ。
「いや、そりゃできんこともないが…」
「ならやりなさい」
高飛車に言い放って、晶葉から離れ盛り上がっている光と茜に茶々を入れに行く麗奈。
そんな麗奈の姿を眺め、晶葉はため息を吐くばかりだった。
―――次回予告
バトラカンガルーに屈辱的な敗北を喫したルクス。
己を鍛えあげるために山にこもった彼女は、そこで運命的な出会いをする。
そして、来るバトラカンガルーとの再戦の行方は。
次回、仮面ライダー光「地獄の特訓パートナー!」
ご期待ください。
「燃えよルクス!」
熱血 アタック
正義の血潮が燃えたぎる
怒りのパンチは風起こし
炎のキックが敵砕く
跳べ空高く
ブーストジャンプで鳥になれ
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
※作者でございます。
第五話、仮タイトルは「ルクス、初めての敗北!」でした。
まぁ流石に変えてよかったですかね。
ではでは。
こんばんは。
では、六話行きましょうかね。
昭和ライダーにおなじみ修行回です。
「仮面ライダー!ルゥゥゥクスッッッ!」
赤いスカーフたなびかせ
今日もアイツがやってくる
白い仮面の小さな英雄
僕らのルクスライダーだ
みんなの輝く笑顔の為に
砕くぞブラックシンデレラ
戦え正義の為に
叫べその名は
仮面ライダールクス
「仮面ライダールクス、南条光は改造人間である。謎の秘密組織「ブラックシンデレラ」よって重傷を負わされたが、天才科学者池袋晶葉の手によって改造手術を受け、仮面ライダールクスとして蘇った!」
仮面ライダー光 第六話
「地獄の特訓パートナー!」
―――大木南山、山中
「やっぱり、修行といえば山籠りだよな!」
人っ子一人いない山中に踏み入り、光は満足げにうなずいた。
ここは、少し前に光がルクスとして訪れダム爆破の危機から救った場所のひとつだ。
首都圏内の山としては大きく、野性動物も多いと言うことで、基本的に人は立ち入らない。
その山を流れる川の上流、うっそうと木が繁る場所に、キャンプ地としてちょうど良さそうなところを見つけると、光は荷物を置いて一息吐いた。
「ふぅ…ここならちょうどいいや。さて」
汗を拭いた光は、地面をしっかりと踏みしめ、変身のポーズをとった。
「変、身…」
体の右側へまっすぐ伸ばした両手を頭上から左上へ回して、左手を引く。
すぐさま左手をつきだしながら右手を引いて叫ぶ。
「ルゥゥゥクスッッッ!!」
激しい光と風、現れた仮面ライダールクス。
「まずは走り込みだ!」
ルクスは勢い込んで駆け出した。
彼女の特訓観はどこから来ているのか、足場の悪い場所を走り込んだり、岩に向かって打ち込みを繰り返したりという前時代的なものだ。
しかし、改造人間として超人的な力を与えられているルクスにはむしろちょうどいい。
今まで力任せに動かしていた体にバランスが生まれつつあった。
「おわっとと…よっ!」
躓きかけても、派手に受け身をとらずに体勢を建て直せる。
「タァー!」
三角跳びの要領で木と木の間を跳ね回るのもお手のものだ。
思えばルクスになってからというもの、生身の状態で力をコントロールする努力に必死で、変身状態の力のコントロールまで気が行ってなかった。
ルクスに変身してしまえば、どんな怪人に負けることもなく、また、そうに違いないと信じていたからだ。
そう思えば、今回の敗北には大きな意味があった。
―――数日前
「光、リクエスト通り、レッスンメニューに空手を組み込んでおいたぞ」
「ありがとう、P!」
再戦を誓い、特訓を決意した翌日、光はさっそく自身のプロデューサーに相談。
レッスンメニューに空手を組み込んでもらうことに成功した。
「しかし、急にどうしたんだ?」
「別に!バレエとかよりこっちの方がアタシにあってると思っただけさ!」
本心を悟られないよう、いつも以上に元気よくプロデューサーに答える光。
「…そうか」
対する彼女のプロデューサーは、何か言いたげではあったものの、黙ってうなずくにとどめた。
その日のレッスンを終え、今度は晶葉の研究所へと急ぐ。
「おっす!」
「お、来たな」
休日を利用して山に籠ることを決めた光は、そのための準備をここですることにしたのだ。
「準備は怠るなよ。お前の体の丈夫さならちょっとやそっとの事は大丈夫だと思うが」
「うん、大丈夫!…あ、そうだ晶葉」
荷物を鞄に詰め込みながら、光は思い出したように晶葉に尋ねる。
「アタシがアイツにやられそうになった時、どうやって助けたんだ?なんかものすごい光と音が炸裂したのは覚えてるんだけど…」
「ん?私はお前を助けになんて行ってないぞ?私はてっきりお前がタイフーンかなにかを使って命からがら逃げだしてきたんだと思っていたんだが」
光の問いに、晶葉は首をかしげる。
「いやいやいや、アタシはもう指一本動かす力はなかったよ。あぁ負ける、って思った瞬間に何かが弾けて、気が付いたらここのベッドに寝てた」
「ふむ…どういうことだ」
「晶葉はアタシのカメラアイで何があったのか確認したんじゃなかったのか?」
「私が確認できたのは光と音が炸裂するまでだ。至近距離であれだけの光を浴びたからだろう、機能が一時的に麻痺してそれ以降の映像は撮れていない」
晶葉の言葉に光は考え込んでしまった。
「そっか…アタシはてっきり晶葉が助けてくれたんだと思ってたんだけど…じゃあいったい誰が…」
「カメラアイに残っていた映像から考えるに、バトラカンガルーが情けをかけたというのはあり得ないだろうが…ふむ、わからないことが増えたな」
光を助けたのはいったい誰なのか、この答えを光はもうすぐ知ることになるが、そんなことを知る由もない彼女はうんうん唸るばかりであった。
―――時は戻って大木南山、山中
「…とうっ!」
ルクスは飛び上がり、バトラカンガルーに見立てた岩へと蹴りを放つ。
「ブーストキック!」
ドガァン!
ルクスの身の丈の倍はあろうかという岩は、大きな音を立ててバラバラに割れた。
威力が上がっているのは感じる。
体のバランスが取れてきている故に、キックの際の力のかけ方もうまくなっている。
しかし。
「これじゃまだ…ダメだ」
ルクスは、バトラカンガルーの力を思い出して首を振る。
あの時より自分の身のこなしは確実に良くなっている。
今挑んだとして、前と同じような惨敗を喫することはないだろう。
だが、肝心の決め技が通じなければ結果は同じだ。
「体重が足りないかな…いや、中途半端に太ったって動きが鈍くなるだけだ…うーん」
悩みながらルクスは次の岩に狙いを定めた。
「ええい、考えてたって仕方ない!パワーが足りないなら鋭さを増すだけだ!」
ルクスはまたも飛び上がり、岩に蹴りを放つ。
足の裏全体を使ったり、踵に重心をおいたり、爪先に力を集中したり。
しかし、これといった打開策は見つからないままにルクスは岩を砕き続けた。
ただひたすらに自分の力を信じて。
―――いったいどれくらいの岩を砕いただろうか。
「はぁ…はぁ…まだまだ!」
「ヤツに勝ちたいのならば、そんな特訓をいくらしても無駄だぞ、ルクス!」
「だ、誰だ!」
誰も足を踏み入れるはずのない場所で突然声をかけられ、ルクスは身構えながら辺りを見回す。
「ハッハッハッハッ、私が力を貸そう!トォー!」
気合いの掛け声と共に、岩影から誰かが飛び出した。
「え!?も、もしかしてあなたは…!」
「そうだルクス、私は君と同じ仮面ライダー。名を、V3という」
「仮面ライダー…V3…」
ルクスの前に現れたのは、赤い仮面に白マフラー、緑のスーツに身を包んだ仮面ライダー。
仮面ライダーV3だった。
「そ、そんな…仮面ライダーって特撮で!お話の中のヒーローで!アタシの憧れで!」
「実在するわけがない、と?ハッハ、君も仮面ライダーと名乗ってるじゃないか」
「か、仮面ライダーはアタシがあのヒーロー達から自分で受け継いだ名前だ!あの番組がなかったら仮面ライダーなんて名乗ってないわけで…えっと…もしかしてブラックシンデレラの罠か!」
動揺を隠せないまま身構えるルクスに、苦笑しながら両手を上げてみせるV3。
「そうやって敵の罠を疑えるのは立派だが、この私のダブルタイフーンに誓ってそれはないと言っておこう」
「ほ、ホントに…?」
「やれやれ…こんなに疑り深いやつだったかな」
困ったように頭を掻きながら、V3はルクスに聞こえないように呟く。
「何か証拠を見せなくてはいかんようだな、どうすればいい?」
「うーん…えっと…えっと…あ、そうだ!」
しばらく唸っていたルクスは、突如思い付いたように声を上げた。
「ライダーキック!ライダーキックをやって見せてよ!」
「そんなことでいいのか?」
「ライダーキックは正義の技だ!悪者には使えないってアタシのプロデューサーが言ってた」
「…フ、そうだな、では見ていろ」
V3はルクスにうなずくと、先ほどルクスが砕いていた岩の、軽く三倍はあろうかという岩に狙いを定めた。
「あ、あんな大きな岩を…!?」
「行くぞ!トォー!」
V3は華麗にとんぼ返りを決めると、もう一度高く飛び上がり空中で一回転。
「V3ィキィィィックッ!!」
そのまま凄まじい勢いで巨岩にケリを放った
V3の必殺キックを喰らった巨岩は、バラバラに割れるどころか粉々に砕け散った。
「す、すごい…!」
「まぁこんなものだ。どうだ?これで私が仮面ライダーであることを信じてもらえるか」
「う、うん…でも、仮面ライダーってホントにいたんだ…」
凄まじいキックの威力、そしてなにより憧れていた特撮ヒーローが現実の存在だったという衝撃。
その二つの事実に圧倒され、ルクスは眩暈を覚える。
「けど…それならあの日曜にやってる番組は?」
「ふむ…まぁアレにも理由はあるが、それはおいおい話してあげよう。一つだけ言えることは、仮面ライダーは実在しているということだ」
「アタシの他にも仮面ライダーが…」
孤独な改造人間であったはずの自分にも仲間が…。
その想いにルクスは何とも言えない安堵感を覚える。
「君が置かれている状況は知っている。一人でよく頑張っているな」
「一人じゃないからな!あき…アタシを助けてくれた博士がいるし、怪人に変身させられていた人たちもアタシに協力してくれてる」
「池袋博士たちの事だな」
「晶葉を知ってるの!?」
「ハッハ、君の状況は知っていると言っただろう。池袋博士だけじゃない、日野茜や藤本里奈、塩見周子という子たちの事もある程度は把握している」
「そ、そっか…すごいんだなやっぱり、ヒーローって」
快活に笑うV3に、ルクスは感心しっぱなしだ。
「色々聞きたいことがあるのはわかるが、それよりも今は特訓が先じゃないか?」
「そ、そうだった…えっと、あなたがアタシに特訓してくれるのか?」
「あぁ、今のままでは君の前に立ちはだかる敵を倒すことはできない。私が手助けをしてやろう。かつては私も、強大な敵を前に幾度も辛酸をなめさせられ、その度血のにじむような特訓をしたものだ」
そういって、V3はルクスに力強くうなずく。
「それなら…よろしくお願いします!!」
「私の特訓は厳しいぞ、着いてこれるか、ルクス!」
「負けるもんか!」
「その意気だ、行くぞ!」
こうして、ルクスとV3の、地獄の特訓が始まった。
―――???
『流石はバトラカンガルー。ブラックシンデレラきっての武闘派を名乗るだけのことはある』
「お褒めにあずかり、光栄です、首領」
壁に備え付けられたスピーカーから響く声に、バトラカンガルーは深々と頭を下げる。
『にっくき仮面ライダーが現れた時は、またも計画の進行に支障が出るかと思ったが、今回のライダーは今までのライダーに比べて力が弱いようだ。恐れるに足りん』
「…恐れながら首領。首領は仮面ライダーを御存じなのですか」
まるで旧知の中であるかのような物言いに、鞭を携えた女が尋ねる。
『奴らはかつて、この私の世界征服をことごとく邪魔してくれた蛆虫どもなのだ。奴らのせいで、この私の偉大なる計画は大きな遅れを取ることとなった』
「そんなやつらが…」
『年月を経て、このブラックシンデレラを組織した現代に仮面ライダーが現れたということは、やはり我々は戦いを避けられぬ宿命にあるようだな。だが、今回ばかりは我々が勝つのだ』
「はっ!もちろんです首領!」
『うむ、これまでの失態に関しては特例として不問にしておく。引き続き作戦を進行しろ』
「ありがとうございます!」
鞭の女が敬礼をすると、スピーカーは沈黙した。
一体この声の正体は、そして、ブラックシンデレラ首領と仮面ライダーの因縁とは。
―――大木南山、山中
「ダメだルクス!ブースターに頼るな!まずは自分の脚力を最大限に生かせ!」
「はいっ!トォー!」
「今度は上半身のバランスが取れていないぞ!全身に意識を張り巡らせるんだ!」
「くっ…はいっ!トォー!」
V3の指示の通り、何度も飛び上がっては必殺キックの為の体勢を創り上げていく。
「我々改造人間は皆、機械の体だ。機械と聴くと伸びしろがないように感じるかもしれないが、実はそうではない。訓練次第では基本スペックの何倍ものパワーを引き出す可能性を秘めているんだ」
「この体は、まだまだ完全じゃない?」
「そうだ、君はその体のベースとなっているのが14歳の女の子の物だから、私と比べると力が弱い。だが、その分身が軽いおかげで、ブースターを使えば私以上のスピードとジャンプ力を得られるはずだ。君が強敵を相手に勝機を見出すとすればそこしかない」
「でも、パワーが足りないと相手にダメージが…」
「私もかつて、強固な鎧を持つ敵に対して、同じ悩みを抱いたことがある。だが、どんなに固い鎧をもってしても全くのノーダメージということはありえない。一度でダメなら二度、同じ場所に同じ力を叩きこんでやればいい」
そういうと、V3は再び巨岩に向かい合った。
「君にこの技を授けよう。よく見ているんだ…トォー!」
「こ、これは…!」
V3の必殺キックは、先ほどルクスに見せたものの何倍もの威力を持って巨岩を破壊した。
これをマスターできれば…バトラカンガルーにも、負けない。
「これが、私から君にできる最大限の贈り物だ…できるか?」
「やる…やるよV3!アタシはこの技をマスターする!そして、バトラカンガルーに…勝つ!」
「その意気だ」
ルクスの突きだした拳に、V3はうなずきながら自分の拳を合わせる。
「…あれ?そういえばV3はなんでアタシの年を知ってるんだ?アタシがやってきたことを知ってるなら、確かに名前くらいは知ってると思うけど…」
「む…ま、まぁそれはアレだ。これでも私には色々な情報網があるのでな」
「ふーん…やっぱりヒーローってすごいや」
若干の動揺を見せたV3の様子には気づかず、ルクスはバトラカンガルーに見立てた岩へと向き直る。
「よし、特訓再開だ!見てろぉっ!!トォー!」
気合一発、ルクスは再び空中高く飛び上がった。
―――その頃、晶葉の研究室
「…入るわよ、晶葉」
ガチャリと扉が開いて、麗奈が入ってくる。
「おお、麗奈か」
「で?できたの?」
「ふふん、この天才を見くびってもらっては困るな。後はテストをすれば完成だ」
得意げに胸を張る晶葉。
その前の作業台には、何やらごちゃごちゃと色々おいてある。
「ふーん…やっぱりアンタって天才だったのね。大したもんだわホントに」
麗奈は呆れたようにニヤッと笑う。
一体この二人は何を企んでいるのか。
晶葉の新たな発明品とは一体。
―――大木南山、山中
「でやあああああああああ!!」
「…!!」
バゴォォォン!
轟音を立てて岩が崩れ落ちる。
ルクスが最初に砕こうとしていた岩の倍はある大岩だ。
「はぁ…はぁ…」
「よくやったぞルクス。完成だ」
「だけど…はぁ…V3みたいに砕けなかった…」
「君と私では、そもそものパワーが違いすぎる。むしろ、君の体であそこまでの破壊力を生み出せたのは驚嘆に値するぞ」
特訓を終え、へたり込むルクスにV3は手を差し伸べる。
「それに、これでも長い事仮面ライダーを名乗っているからな、一朝一夕に追いつかれては私も立つ瀬がないだろう」
「そっか…そうだよな、えへへ」
V3の手に捕まり、ルクスは立ち上がる。
「これでアタシも、立派に仮面ライダーかな!」
「…いや、それは違うぞルクス」
少し浮かれた声を出すルクスに、V3は静かに告げた。
「確かにお前は改造人間であり、世界征服を目論む連中と戦っている。だが、今のお前はまだ完全な仮面ライダーではない」
「な、なんで!?」
憧れていたヒーローに、自分を否定するような発言をされ、ルクスは驚きつつ食い下がる。
「“仮面ライダー”は、俺たち正義の為に戦う改造人間が名乗る称号の様なものだ。だが、この名前にはもう一つの意味がある」
「それは…?」
「それは、お前が戦いの中で自分で見つけろ。今一度考えてみるんだ。自分が『何のために戦うか』をな」
そういって、V3はルクスの頭を優しくポンポンと叩いた。
ルクスは何故かその感覚に懐かしさを覚える。
「大丈夫だ、お前なら見つけられる。私は、いつもお前を見守っているぞ。…ハリケーン!」
V3は飛び上がり、自身の声に応えて現れた青いマシンへと跨った。
「V3!」
「また会おう!ルクス、武運を祈っているぞ!」
ブロロロロロロ…
V3は行ってしまった。
現れた時と同じく唐突に。
後に残されたルクスは、静かに変身を解除する。
「ありがとう、V3…アタシ、必ず勝つよ。勝って、見つける。自分が戦う意味を」
光は静かに呟き、帰り支度を始めた。
―――???
「キィー!伝令です!」
「何かしら騒々しい」
都内某所のブラックシンデレラ拠点。
その指令室に、一般戦闘員が駆け込んできた。
「仮面ライダールクスより、バトラカンガルー様へ挑戦状が届きました!」
「なんですって!?なぜここの場所を…」
「いえ、どうやらルクスと戦った戦闘員に手紙を持たせ、伝令の代わりとしたようです!」
「ぐぬぬ…おのれルクス舐めた真似を…あなた達もあなた達よ!敵に伝書鳩代わりにされてよくぬけぬけと帰ってこられたものね!」
女が振り上げた鞭を、後ろに控えていたバトラカンガルーが止める。
「その怒りをぶつけるのはルクスだけでいいでしょう…オイ、その挑戦状ってのは?」
「こちらです!」
戦闘員が差し出した手紙を、バトラカンガルーは読んだ。
「…『あの場所で待つ』…か」
簡潔な文章に、バトラカンガルーはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
彼女もまた感じたのだ、この手紙から漂う、ルクスの覚悟を。
「わかっているわね、バトラカンガルー。負けは…」
「アタイに敗北はない」
短くそれだけ言い放つと、バトラカンガルーは静かに出て行った。
「ふん…結果さえ残せばどうでもいいわ」
女は苛立たしげに鞭を鳴らした。
―――藻場工事現場跡地
「現れたなバトラカンガルー」
「フン、死にぞこないがせっかく拾った命を捨てに来たのか?ルクス!」
バトラカンガルーが呼び出された場所に行くと、果たしてルクスが待ち受けていた。
開けた場所に腕を組み、仁王立ちでバトラカンガルーを睨み付けている。
「アタシは負けない」
「お覚悟結構だが、力がなければ死ぬんだぜ?」
「アタシは…勝つためにここへ来た」
「…フン、どうやらこの間とは一味違うらしいな…どれほどのものか試させてもらうぜ!」
「キィー!!」
あの時と同じく、バトラカンガルーの合図で数人の戦闘員がルクスへと襲い掛かった!
しかし。
「…はっ!」
ルクスはその場から一歩も動くことなく戦闘員の攻撃をすべて躱し、一撃のもとに沈めていく。
「明らかに動きが良くなっている…面白いじゃねーか。もういい!下がれお前達!」
「キィー!」
バトラカンガルーの言葉で、戦闘員たちはいっせいに退いた。
「小細工なしの一騎打ちだ」
「望むところだ!バトラカンガルー!」
両者にらみ合い、静かに構える。
「…」
「…」
じりじりと間合いを詰め、あと一歩でお互いの間合いというところで足を止める。
隙を窺いながらすり足で円を描き、回る。
「…やぁっ!」
先に動いたのはルクスだった。
右足で大地を蹴り、勢いよく突進する。
「…ふっ!」
そのタックルを軽くいなしたバトラカンガルーは、ルクスの背中に蹴りを放とうとするが。
「まだまだぁっ!」
綺麗に前へと倒れ込むことでルクスはそれを避け、転がりながらバトラカンガルーの足元を払う。
「くっ…」
足を取られたバトラカンガルーだが、敵もさるもの、華麗な側転で転倒を回避し、二人は再び構えを取ってにらみ合った。
「ずいぶんと成長したじゃないか」
「特訓の成果は、まだまだこんなものじゃないぞ!」
またも仕掛けたのはルクスからだった。
「ライダー影分身!」
ブースターの急加速と急停止を繰り返し敵の周囲を高速で飛び回る。
緩急自在な動きで敵を翻弄する技だ。
キツネフレイムとの戦いと山での三角跳び特訓が生み出した。
その素早さに、あたかもルクスが分身したかのように見える。
「くっ…流石にアタイも追いきれねぇ…あぐっ!」
「タァー!」
蝶のように舞い、蜂の様に刺す。
持ち前の素早さを武器に、ヒット&アウェイで攻撃を決めていくルクス。
しかし、バトラカンガルーもやられっぱなしではない。
「なかなかやるが…そんなチマチマした攻撃じゃ、アタイは倒せないぜ!」
「しまった!」
攻撃がヒットする瞬間、いち早く反応したバトラカンガルーはルクスの腕を取り引きこんで投げ飛ばす。
「ぐっ…!」
「確かに素早さは大したもんだが、やはりパワーはアタイの方が上だ。さぁ、どうするルクス!」
「くっ…やぁぁ!」
跳ね起き、三度飛びかかるルクス。
バトラカンガルーも正面から受けた。
「ぐっ…タァ!ヤァ!」
「らぁっ!うぁっ…でぇい!」
相手が顔を殴れば、負けじと腹を殴り返す。
膝蹴りを肘で受け止め、腰を抱いて投げ飛ばす。
激しい格闘が繰り広げられた。
「あうっ…くぅ…」
互角に見えた戦いだが、やはりものを言うのはパワーの違い。
ついにルクスが膝をついた。
「はぁ…はぁ…この短期間でよくここまで成長したもんだ…だが、アタイには勝てねー」
荒い息を吐きながら、バトラカンガルーが右足を踏ん張る。
先の戦いでルクスが敗北を喫することとなったあの必殺の蹴りが放たれようとしている。
「これで…終わりだッ!」
「うぉぉぉ!」
自らの顎を狙って蹴り上げられた足を、ルクスは強引にブースターを発動させることで避けた。
「なにッ!?」
跪いた姿勢で、まさかとんぼ返りを決めると思わなかったバトラカンガルーは、完全に隙を見せてしまう。
「おりゃああああああ!!」
ルクスは、標的を失って振り上げられた敵の足を取り、ドラゴンスクリューの要領で投げ飛ばした。
「ぐぁっ…くそっ…!」
「はぁはぁ…今だ!トォー!」
体勢を崩したバトラカンガルーに狙いを定め、ルクスは空中高く飛び上がった。
ジャンプの頂点で華麗に回転を決めると、ブースターの勢いを利用して必殺のライダーキックを放つ。
「くっ…それがどうした!お前のパワーじゃ、アタイにそんな技は通用しない!」
「効くかどうかは、すぐにわかる!タァ!」
バキィッ!
派手な音を立ててバトラカンガルーの胸へとルクスのキックが吸い込まれたが、バトラカンガルーは地面にめり込むほど踏ん張って耐えた。
「ぐぅっ…どうだ!言った通りだろう!」
「まだだ!トォー!」
キックのヒットした部分を踏み台にして、ルクスは再び宙を舞った。
華麗な空中回転を決め、ブースターを全開で噴射させる。
「なにっ!?」
「これで終わりだ!」
ルクスは叫びながら、今しがた攻撃を当てた場所めがけて、強烈なキックをお見舞いする。
「ルクス!ブースト反転キィィィィックッッッ!!」
「バカなああああああああ!!」
ルクス渾身の必殺技は受けきれず、バトラカンガルーは派手にふっ飛ばされた。
「ぐっ…おおおおおおお…ああああああああああああああ!!」
ドッグォォォォォン!!
いつもの大爆発。
そして、現れた少女。
「はぁ…はぁ…勝った…勝てたんだ…くっ」
何とか勝利はしたものの、壮絶な戦いによるダメージで、彼女もまた膝をつく。
「少し休んだら…この人も運ばないと…晶葉のところへ…」
『そうはいかないわ、仮面ライダールクス』
「だ、誰だ!」
へたり込む彼女の耳に、何者かの声が響く。
いや、スピーカーだ。
どこからかスピーカーによって大音量でこの声を流しているのだ。
「でてこい!何者だ!」
『生憎だけど、私はそこにいないわ。それに、あなたの言うことを聞く道理もない。それにしても…』
声の主はそこで言葉を切り、一息ついて心底呆れたような声を出した。
『がっかりねバトラカンガルー。ブラックシンデレラきっての武闘派を名乗りながら、そんな小娘一人相手に負けるなんて』
「この人はもう、お前たちの手下じゃない!」
『そうね、負けた者に慈悲はない。それがブラックシンデレラの掟』
ピシィッ!
スピーカーの向こうから鞭を鳴らす音が聞こえた。
同時にどこに隠れていたのか、無数の戦闘員が湧きだし、ルクスと倒れた少女を取り囲む。
『敗者を制裁し、弱ったあなたも消す。一石二鳥というわけよ』
「くっ…卑怯だぞ!」
『アーッハッハッハ!何とでも言いなさい。すべてはブラックシンデレラの世界征服の為。邪魔なものはすべて消し去るのみよ。やっておしまい!』
「キィー」
「キキィー!」
ブキミな掛け声をあげながら、戦闘員たちがじりじりとルクスににじり寄る。
ルクスは少女を守るようにその背で庇いながら周囲を伺うが、逃げ出せそうな隙もない。
「くそっ…やるしかないか…!」
戦闘員一人一人は弱いとはいえ、相手の数は膨大。
決死の覚悟で、なんとか少女だけでも逃がそうと決意したその時だ。
「邪魔すんじゃないわよ虫ケラども!!」
ボカァァァン!!
ルクスを取り囲む包囲網の一角が、派手な爆発と共に崩れる。
『何奴っ!』
「悪いけど、ソイツやっつけんのはアタシの役目って決まってんのよね!」
煙の中から姿を現したのは、黒字に紫のラインを入れたスーツ。
額に角を持ち髑髏をあしらった半頭マスクの…仮面ライダー?だった。
しかしこの声と口調は…。
「れ、れい…」
「バカ!名前呼ぶんじゃないわよ!良いからさっさとその子担ぎなさい、逃げるわよ!」
『そう簡単に逃げられると思って…』
「うっさい!」
黒いライダーは、その手の巨大なバズーカを構えると、ところ構わず連射しだした。
「ほら!グズグズしてないで走る!」
「う、うん!」
バトラカンガルーに変身していた少女を背負い、ルクスと黒いライダーは駈け出す。
しかし、このまま走って逃げるのではこの大軍を前に追いつかれてしまう。
そう思ったところだ。
ブォォォォン!キキィッッ!!
荒っぽい運転で飛び込んできたハイエースが、ルクスと黒いライダーの前で停まる。
すぐさまドアが開き、中から現れたのは茜だった。
運転席には里奈の姿も見える。
「茜さん!里奈さん!」
「タイミングバッチリっしょ☆」
「早く乗ってください!!!」
「う、うん!」
「乗った?乗った?ほんじゃぜんかーい!!」
大慌てで全員乗り込み、シートベルトもそこそこに全速力で走り出した。
『逃がすな!追え!!追いなさい!!』
「誰が捕まるかっての!里奈、アンタもっと飛ばしなさいよ!」
「ちょちょレイナっち無茶いわんといてー。アタシこれでもクルマはほぼペーパーなんだからさ!」
なるほど、里奈の顔色は若干良くないように見える。
ともあれ、突然の救援隊によって、ルクスは窮地を脱したのであった。
―――その頃、CGプロガレージ
「あ、お疲れ様!」
「おう、お疲れ。すまないな、いつも」
ここは、CGプロ事務所が使っているガレージ。
人数も多く、バイクに車に原チャリにと様々な乗り物が集まることもあって、自動車修理工場と提携して立派な設備を整えている。
なにより、個性の宝庫たるCGプロにはこの
「ちょうど整備終わったところだよ!」
原田美世のような、自分で乗るだけでなく整備までこなしてしまうアイドルがいることも大きな理由かもしれない。
「どれ」
ブロロン、ブロロン…
彼女にバイクの整備を頼んでいたのは光のプロデューサー。
エンジンをかけハンドルを握り、愛機の調子を確認していく。
「うん、完璧だ。さすがだな、美世」
「えへへ、そりゃあ気合が入ってますから!」
油汚れがついた手で鼻の下をこする美世。
当然ひげのように汚れがついてしまう。
「おい、またついてるぞ。アイドルなんだからもう少し気を配れ」
「あ…えへへ」
照れたように笑う美世。
顔を拭いた彼女は少し真面目な顔になり、彼のバイクについての話を始める。
「相変わらず、年季は入ってるけどしっかりしてるよ。ところどころ見たことない機構を積んでるけど、頑丈な事には変わりないし…ただ」
「ただ、なんだ?」
そこで言葉を切ってしまった美世に、彼は続けるよう促す。
「うん…あのさ、最近この子にムリさせてない?オフロードがんがん走ったりさ」
「あ、まぁ…そうだな、そういうこともあるかもしれん」
「確かに他に類を見ないくらい頑丈なバイクかもしれないけど、大事にしてあげなきゃダメだよ?バイクをないがしろにするような人には、もう整備してあげないからね!」
「はっは、肝に銘じておくよ」
光のプロデューサーは苦笑する。
「せっかくいいバイク乗ってるし、腕もいいんだから大事にしないと。立花のおじさんが惜しがってた気持ち、あたしはわかるなー」
「まぁそういうな。俺は今の仕事も楽しいんだ」
「ま、同じ事務所でアイドルやってるあたしが言うのも変な話か」
そういって笑いあう二人。
バイク好きという点で共通する二人は、よくこうしてバイクの整備がてら話をするのだ。
「さて、俺はそろそろ行くか…美世、助かったよ。また頼むな」
「はーい!いつでもどーぞ!またね、『風見さん』!」
―――次回予告
麗奈たちの救援により危機を脱したルクス。
しかし、彼女を助けた黒い仮面ライダーとは一体何者なのか。
そして同じころ、とある科学者一家に、ブラックシンデレラの魔の手が忍び寄りつつあった!
次回、仮面ライダー光「登場!新たなる仮面ライダー!」
ご期待ください。
~ED~
熱血 アタック
正義の血潮が燃えたぎる
怒りのパンチは風起こし
炎のキックが敵砕く
跳べ空高く
ブーストジャンプで鳥になれ
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
※作者でございます。
ついに出てきましたね、光を見守る影の正体。
そして『風見さん』です。
多分昭和ライダーご存じの方ならとっくにお気づきだったんでしょうけど。
そろそろ長くなってきたので、新たにスレたてします。
タイトルは
南条光「新たなる仮面ライダー!」
で行きます。
ではでは。
新スレ立てましてございます。
南条光「新たなる仮面ライダー!」
南条光「新たなる仮面ライダー!」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1405529959/)
よろしければどーぞ。
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