真姫「はじめてのともだち」 (58)
・SID風味
・SID真姫編7章の続き、みたいなイメージなのでネタバレ嫌な方は注意。
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―――
真姫ちゃんへ
いつもお手紙ありがとうね。真姫ちゃんは元気そうで何よりです。
スクールアイドル!真姫ちゃんが!?
こう言ってはなんだけど、すっごく意外。
というわけで、ちょっと検索してみたよ。
すごいね!ホントにアイドルやってる……びっくりしちゃった。
中学時代からは考えられないね。キラキラした笑顔で踊ってて……すっごく可愛い!
夏休み、ゼッタイ行くよ!μ’sの皆さんにも会えたらとっても嬉しいな。
楽しみにしてる!
それじゃ、またね。
―――
尾崎さん―――まこちゃんからの手紙を読んで、胸が高鳴った。
来て、くれるんだ。
私の、私達のライブを見に。
こんなに驚かれるのはちょっと心外だけど。
とは言っても当たり前よね。中学生だった私が今の私を見たらなんて言うだろう。
私は、確かに変わってきてると思う。
スクールアイドルとして活動する中でいろんなことを学んだ。
でも、きっと1番はμ’sのみんなのおかげで。
私の頑なだった心はゆっくりと溶かされてきたんだと思う。
真姫「ホント、感謝しなくちゃね……」
面と向かってはなかなか言えないけど、みんながいなかったらきっと今の私はいないし。
あんなにくすんで見えた毎日が今はこんなにもキラキラしてる。
真姫「さて、と」
ライブを頑張るためにも、今は勉強!
パパに啖呵を切った以上はゼッタイ医学部にも受からないといけないんだから!
気合いを入れて机に向かうけれど、どこか気分は高揚してて。
私のはじめてのともだち。
まこちゃんにまた会えるんだってそう思ったらとってもワクワクして。
今度こそ、まこちゃん、って呼べたらいいな。
その日は、ちょっとウキウキした気持ちで眠りについた。
翌日からは、自然と練習にも気合いが入っちゃって。
初夏の照りつける日差しの中、体を動かすのが気持ちいい。
日焼けはちょっぴり気になっちゃうけど。
海未「はい!休憩です!ちゃんと水分補給はしてくださいね」
はーい、ってみんなの疲れたような声。
暑くなってきたし、みんな汗だく。
だけど、私はまだまだイケる。
海未「真姫、ずいぶん気合いが入ってますね」
真姫「……そう見える?」
そんなに分かりやすかったかしら。
別に隠すようなことでもないんだけど、なんだかわざわざ言うのはちょっぴり恥ずかしくて。
凛「凛もそう思ってたにゃー」
穂乃果「だよねだよね、すっごく楽しそうだし!」
ポーカーフェイスの真姫ちゃんだったはずなのに、まさか凛と穂乃果にまで見抜かれてるなんて!
希「なんかいいことでもあったん?」
真姫「べ、別にそんなことはないけど……ライブも近いし、気合い入って当たり前でしょ?」
絵里「ホントにそれだけかしらー?」
やっぱりちょっと気恥ずかしくて、素直になれない私。
でも、みんなとこうしておしゃべりしてるのも楽しくて。
真姫「それだけよ、それだけ……ふう、あっつい」
照れ隠しにペットボトルを取り出す。
凍らせてきたスポーツドリンクの甘さが火照った体に沁みて。
この美味しさもきっとμ’sに入らなかったら知らなかったんだろうな、なんて。
花陽「……ん?真希ちゃん、これ落としたよ?」
花陽が持っていたのはまこちゃんからの手紙。
ああ、入れっぱなしにしていたんだっけ……。
真姫「ありがと、花陽」
ことり「それ、お手紙?」
めざとくことりが聞いてくる。
結構鋭いのよね、ことりってば。
にこ「真姫ちゃんが文通するなんていがーい!誰々ー?」
わらわらとμ’sのみんなが寄ってくる。
真姫「だ、誰でもいいでしょ!」
にこ「まさかとは思うけどアイドルが恋愛スキャンダルなんてダメにこ!」
凛「恋愛!?真姫ちゃんそうなの!?」
真姫「ち、違うわよ!ただの友達よ!」
ああもう、にこちゃんてばまた面倒なことを。
そこでパンパンと海未が手を打ち鳴らす。
海未「ほらほら、人の手紙の内容を知りたがるなんて野暮ですよ」
助かった……。さすが海未ね。
海未「ですが真姫、恋愛は気をつけるんですよ。このご時世ですからね」
真姫「だから違うってば!」
海未「隠さなくたっていいんです。私達、仲間じゃないですか」
だ、ダメだ……海未ってばときどきおかしくなるのよね。
真姫「だーかーら!中学の友達が今度のライブに来るってだけよ!」
……あ。
言っちゃった。
穂乃果「それホント!?」
絵里「へえ、真姫の友達がねえ……」
凛「真希ちゃん凛たち以外に友達いたんだにゃー」
花陽「凛ちゃん失礼だよ!?」
もう、好き勝手言ってくれちゃって……。
仕方なく、経緯を話すことにする。みんなになら、いいよね。
私にとって初めてできた友達だってこと。
本当はオトノキに来たがってたこと。
結局みんなは茶化すでもなく真面目に聞いてくれる。
真姫「と、いうわけよ。だから別にみんなは―――」
穂乃果「よーっし!頑張ろう!」
急に穂乃果が大声を出す。
希「そうやね。真姫ちゃんの晴れ姿見てもらわんと」
にこ「今の真姫ちゃん見たらきっとびっくりするにこよー」
ワイワイとみんなが湧き出す。
そうね、こういう子達だったわ。
自分のため、なんて全然考えてなくて、誰かのために頑張れる。
私にとって、まこちゃんと同じくらいに大切な仲間たち。
絵里「ふふ、そういうことならちょっと厳しくいきましょうか」
凛「望むところにゃー!」
すっかり盛り上がったみんなは勝手に練習に戻り始める。
ああ、とっても暑くて、熱い。
こんなスポ根みたいなの、私にはゼッタイ似合わない!なんて思ってた。
だけど自然と笑顔になっちゃう。
真姫「待ちなさいよ、もう!」
みんな、ありがとね。
小さくそう呟いて、輪の中に入って練習を始める。
まこちゃん。
私はこんなに素敵な友達ができたわ。
頑張って、最高のライブにするからきっと見に来てね!
それから。
懸命に練習して、あっという間に夏休みになって。
ライブ当日。
プールに作られた特設ステージの脇で水着に着替えて、円陣。
ちょっぴり緊張する。あのお客さん達の中に、まこちゃんがいる。
そう思うと、ドキドキ、ワクワク。
それと、失敗したらどうしようって気持ちがちょっぴり。
絵里「真姫、緊張してる?」
真姫「……ちょっとね」
にこ「大丈夫!真姫ちゃんととっても可愛いにこ!」
思いも思いに声を掛けてくれるみんな。
ホント、優しいんだから。
穂乃果「よーしっ、それじゃあそろそろ行こう!」
穂乃果がいつもみたいに音頭を取る。
精一杯楽しもう。このステージを。
そしてまこちゃんに見てもらおう。
こんなに私は変わったよって。
今の私には、こんなに素敵な仲間がいるよって。
穂乃果「μ’s!」
『ミュージック……スタート!』
みんなで声を合わせ、ステージへと登る。
たくさんのお客さんが来てくれて、すごい景色。
その中に……いた。
私の方を見て一生懸命手を振ってくれてるまこちゃん。
私はにっこり笑う。アイドルらしく。
キラキラして見えるかな?本物のアイドルみたいに。
穂乃果「皆さんこんにちは!私達は音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ’sです!」
わっと客席から歓声が湧いて。
穂乃果「今日はこれから、ライブをやらせてもらいます!一生懸命歌うので、盛り上がってくれると嬉しいです!」
真夏の太陽のよく似合う穂乃果が、元気に挨拶する。
いよいよね。頑張ろう。
穂乃果「と、その前に……はい、真姫ちゃん」
……真姫ちゃん?
ちょっと!えええええ?
真姫「ほ、穂乃果!聞いてないわよ!」
小声でそう抗議すると。
穂乃果「いいからいいから、パパっと決意表明しちゃって!」
決意表明って何よー!
ああ、もう……これだから!
真姫「え、えーっと……μ’sの西木野真姫といいます」
ああ、遠目にまこちゃんが見える。
こういうの慣れてないのに。
ええい、言っちゃえ。
真姫「私事ではあるのですが、今日は大切な友達が見に来てくれてます」
まこちゃん、ちょっとびっくりした顔。
相変わらず、表情豊かなんだから。
誰かさんに似て、とっても素直であったかい彼女に。
真姫「こんなにも変わった……変われた私を、見ていってください」
真姫「あなたのために……みんなのために。全力で、歌います」
アイドルらしく、ウインクを決めてみたりして。
わあっと拍手が起こる。
まこちゃんはあたふたしたままで。
真姫「ありがとね、穂乃果」
穂乃果にぽつりとお礼を言ってマイクを返す。
マイクを受け取る穂乃果は相変わらず太陽みたいな笑顔で。
穂乃果「それでは、聞いてください!夏色えがおで1,2, jump!」
疾走感のあるイントロが流れだす。
ここからはもうアイドルとしての私。
全力で歌って踊って。
跳んで、跳んで。
カンカンに照りつける日差しすらも気持ちがいい。
その下で目一杯踊る。
そして、夢のような時間はあっという間に終わって。
穂乃果「いやー、楽しかったー!」
舞台袖に戻り、一息。
みんな汗をたっぷりかきながら、笑顔で感想を言い合う。
凛「真姫ちゃんの友達……まこちゃん?見てくれてたかにゃー?」
真姫「ちゃんと見に来てたわよ」
希「おお、ちゃんと見つけてたんや。目ざといなー」
みんながなんだか生暖かい目で私を見る。
なによもう!
とはいえ、ライブで疲れた私の体はまず水分を欲していて。
真姫「ふーっ……」
日陰に座って一息。
熱を持った頭に凍ったペットボトルを当てる。
ああ、気持ちいい。
そんな風にぼーっとしていると。
まこ「真姫ちゃーん!」
聞き覚えのある声。
中学時代、気難しかった私の友達でいてくれたあの子の声。
真姫「……久しぶり、ね」
まこ「うん、久しぶり!いやー凄かったよー!」
興奮気味で話す彼女の顔は全然変わっていなくて。
真姫「楽しんでくれたみたいで良かったわ。……まこちゃん」
まこ「あっ……ふふ、名前で呼んでもらったのは初めてだね」
とっても嬉しそうに彼女は微笑んで。
こんな顔してくれるなら、名前くらいもっと早く呼べば良かったな。
まこ「あーあ、やっぱりオトノキに入りたかったなー」
真姫「もう、まだ言ってるの?こっちは廃校危機で大変なのに」
まこ「でもさ、やっぱり羨ましいよ。真姫ちゃんがこんなに変わっちゃう学校だもん」
……確かにね。まったく否定はできないんだけどね。
そんな風に2人でいろいろ話していると。
穂乃果「まーきちゃんっ!」
真姫「わっ、穂乃果?」
凛「そろそろ凛たちのことも紹介してほしいなー?」
ずっと様子をうかがっていたらしいμ’sのみんながゾロゾロ出てきて。
真姫「あーそうね、ええと……さっきまで見てたと思うけど」
まこ「わあ、μ’sの皆さんですよね!ライブすっごく良かったです!」
昔っからちっとも変わらない、人懐っこい笑顔でみんなに話しかけるまこちゃん。
この人当たりの良さはやっぱり天性なんだろうなあ。
真姫「あー……説明は不要だったみたいね」
苦笑いして、今度はμ’sのみんなに向き直る。
真姫「で、こちらが尾崎まこちゃん。私の……」
恥ずかしいけど、たまには素直にならなくちゃ。
この日のために頑張ってくれたみんなのために。
来てくれたまこちゃんのために。
真姫「私の、親友です」
μ’sのみんなはニヤニヤして。
もう、やっぱり恥ずかしい。
まこ「どうも、真姫ちゃんの親友です」
なんて、まこちゃんはまこちゃんで返してくるし。
恥ずかしいけど、やっぱり楽しい。
その後はみんなでたくさんおしゃべりした。
学校の案内をしてみたり、ちょっとだけ一緒に踊ってみたり。
まこちゃんはときどき眩しそうに私達のことを見ていたけれど。
そうこうしてる間にあっという間に日が暮れて。
まこ「今日はありがとうございました!とっても楽しかったです!」
穂乃果「また来てね、まこちゃんなら歓迎するよー!」
穂乃果のその言葉にみんなうんうんと頷く。
すっかり意気投合しちゃったものね。
まこちゃんがオトノキにいたらきっと10人目のメンバーだったって直感はやっぱり間違ってないと思う。
まこ「真姫ちゃん」
真姫「ん?」
まこ「誘ってくれてありがとね。嬉しかったよ」
真っ直ぐ言われて、なんだか嬉しくて、恥ずかしくて。
真姫「……ううん、こちらこそ。来てくれてありがとう」
まこ「親友って言ってくれたの、ホント嬉しかったよ」
真姫「じ、事実だからね」
かあっと顔が赤くなるのが分かる。
ホントに、素直すぎるのよ。この子は。
まこ「皆さん。真姫ちゃんをよろしくお願いしますね!」
真姫「ちょっと!?」
まこ「この通り、ちょっと素直じゃないですけど……」
まこ「真姫ちゃんは……私の親友は、とってもいい子ですから!」
まこちゃんが言ってくれた親友という言葉。
胸にじーんと響いて。嬉しくて。
同時に、お別れするのが急に寂しくなって。
まこ「真姫ちゃん、それじゃあ……またね!」
まこちゃんは電車に乗り込む。
その背中を見ながら、私は叫ぶ。
真姫「また、ゼッタイ来なさいよ!まだまだ遊び足りないんだから!」
まこ「……うんっ!」
振り向いた彼女はあの人懐っこい笑顔を浮かべていて。
だけど目元にはちょっぴり光るものがあったような気がする。
でも言いっこなし。
それは私も同じだったから。
凛「まーきちゃんっ!」
真姫「凛……?」
いつもみたいに凛がぎゅっと抱きついてきて。
凛「今日はみんなでお泊りしよ?真姫ちゃんちで雑魚寝!」
花陽「凛ちゃんってば、もう」
真姫「ち、ちょっと急に何を」
穂乃果「いいねいいねー!合宿みたい!」
海未「こ、こら。真姫の家にも都合というものが……」
ことり「海未ちゃん、ここは、ね?」
希「いいやん、楽しそう♪」
絵里「いいわね!真姫、ご家族に連絡よ!」
エリーと海未まで……。
まったく。
私が寂しいと思ってるの、見抜かれてるのね。
真姫「もう、ちょっと待ちなさいってばー!」
そんな私もきっと笑顔。
その日は夜遅くまでたくさん騒いじゃった。
とっても大切な、ある日の思い出です。
―――
まこちゃんへ
この間は来てくれて本当にありがとう。
中学のときはあんなこと言ったけど。
今はオトノキで良かったって思ってる。
こんなに大切な仲間と出会えたから。
こんな私でも、変われたから。
私も、頑張る。
みんなが私を変えてくれたように。
今度は少しでもみんなの力になれるよう。
まこちゃんが私にくれたものを今度はたくさんの人に配れるように。
まこちゃん、改めて、ありがとう。
大切な私の親友へ。
愛を込めて。
―――
以上です。
真姫ちゃんSIDはとてもいいものだと思います。
このSSまとめへのコメント
真姫SIDはいいよね
帯のキャッチコピーもこれぞ真姫ちゃんって感じなのもいい
素晴らしいの一言しか出ません。
真姫ちゃんハラショー!