ブリーチの完現術編と映画1作を繋いで、茜雫様を出してみました。
※原作の設定に勝手な考察を入れてます。ご容赦を。
※最近の本誌は斬魄刀ネタですが、up主のプロット通り、茜雫と天鎖推しです。これからの本誌との間で矛盾しても、ライヴ感と言う事で。
※なろうでの投稿練習のつもりでもあるので、少しばかりの拙い描写練習にお付き合いくださいまし。
僕 は ついていけるだろうか
君 の いる世界のスピードに
『黒崎一護 17歳』
『ユウレイは、 見えない』
――あの戦いから、17ヶ月とちょっと。俺は高3になった。死神の力のことは、チャドや井上が皆に話してくれたらしい。みんなすぐに信じてくれた。――
たつき「一護、鉄拳持ってきた?」
一護「おう、持ってきた持ってきた」
カラン、と乾いた音を立てて一護の手の甲に触れたのは、死神代行戦闘許可証。
一護(そういえば、代行証返し忘れてたっけ)
今となっては代行証が、彼が死神だったことを証明する手元に残った唯一の証明だ。
浅野「将来どうすっかとかー、決めた?」
一護「進路とかってことか?」
浅野「とかってこと!他に何があんだよ。……ルキアちゃん、何してるんだろうな」
浅野ケイゴがふと漏らした一言は、今でさえ思いのほか一護の胸を締め付けた。
一護(ユウレイや”死神”が見えて優越感を感じたことなんて無かった。それで食っていこうとも。それで誰かを助けたいとも……。ただ、見えない生活にあこがれた。俺は、あこがれたものになれたんだ。)
――ここだけの話だが、一護は”チカラ”を失って初めて気付いた自分の本心と向き合うときには、”天鎖斬月”と自分自身に呼びかけている――
そういえば、一護の手元に残った死神の証明がもうひとつ。下校中に彼が出くわしたひったくり。そいつを押さえつけるときに使った身体能力と反射神経、これは死神だったころに鍛えた名残だ。
一護「あとで怒られると面倒なんで、人を殴ったこと、ナイショにしといてください」
引ったくりを捕まえた彼は、教師にネチネチ言われるのが嫌だったからと引ったくられたオッサンに口止めをしていた。
銀城「うぉーー、何だよスゲエなボウズ! ありがとな!!」
銀城「ハラへってねえか!ラーメンとかオゴッてやるよ」
一護(ラーメン・・だと・・?)
一護「いいっス」
銀城「お?おう……。意外と用心深いんだなぁ、黒崎一護」
眉間に皺を寄せた一護を中心に、教室の一角が商談スペースと化していた。一護の身体能力を目当てに部活動の助っ人入りを頼む列だ。
一護「で、幾らだ?」
寸胴頭「ご……、5000円」
一護「話になんねぇ、次っ!!」
浅野「そもそも一護ってあんなに金金いうやつだったっけ」
水色「卒業後の資金ためてるんじゃない」
彼は、とある事情によって、金稼ぎに没頭している。いや、没頭しているという言い方は正しくなく、彼は没頭”せざるを得ない”のだ
部員「ありがとうございます!!部長に報告します!!」
そしてどうやら、彼の助っ人入りは、ギャラリーに歓声を引き起こすほどの出来事みたいだ。
豚「この学校に、黒崎ってやつがいるだろ~!でてこおい!!」
交渉の終わった部活に参加している最中に、一護の片耳に豚声が入り込んできた。彼がバイト先からの電話に出るため、校舎の外の近くの道路で片耳をふさいでいる最中である。
一護「なんだありゃ?いつの時代だよ。あんな古風な知り合いいねーぞ…」
????「あー、うちの高校のやつジャン?ごめんねー。うちんトコ、ジュラシックパークみたいなクラスあってさぁ……。学校でいっぺんに悪ガキ管理しちゃってんみたいなのよ。だから今みたいにヨソ様で暴れるんだよねー……。」
ふと後ろの生垣から飛んできた声へと一護は驚きながら振り向く。目の前には、パッチリと開いた眼が、好奇心と優しさを内包された琥珀色に光っている。
枯れた生垣の合間からは、枯れた命すら振り回さんとばかりの雰囲気を持った女の子。その頭にゆれるポニーテールは、紅葉すら霞む鮮やかな紅色のリボンを結ってある。
一護「せん・・な・・?」
彼女へと送られたリボンが、一護に声を出せと奮い立てるように天を衝く。一護は、知らず知らず、声を出していた。
茜雫「いち・・ご・・?」
彼女を見送った声が、茜雫に応えろと云うように思いを誘う。茜雫は、やっとやっとと声に出している。
一護(何言ってんだ、俺は。軟派みてーなことを……。)
茜雫(やっぱり分かることが出来たんだ、私は。きっと、彼だよね……。)
ガラン、と音を立てて落とした代行証は茜雫の下へと転がってしまう。
茜雫「あっ…、…なんか落としたよ?」
一護「あぁ…、わりぃ」
それを茜雫が拾い、一護へと代行証を間に繋がった瞬間……。
――どこほっつき歩いてんだよ。―――
――私の勝手でしょ!――
――そうはいかねえ。約束は、守ってもらうぜ――
一護(っっ!!!何だ、今の声!?俺と…、コイツの声!?)
茜雫(んっ!!何?今の…。デジャヴュ?)
しかし、校門で行われている騒ぎが、彼らを引き離す口実となる。
一護「ッッ…!!あのボケ!騒ぎデカくしに出てきたのかよっ。わりぃな、アンタ!!」
茜雫「あっ…、この板どうすんのさっ!?君のでしょ!?って足速っ!」
そういい残して彼は茜雫のもとから離脱し、生徒会長となった友人、石田のもとへと駆けて騒ぎを大きくした。
一護「コイツらは元々俺を狙って来てんだよ!カンケー無え奴はひっこんでろ!!」
石田「さっき僕も関係者になったんだ!君こそ引っ込んでろ!!」
一護「大体なァ!!オメー最近虚狩り行きすぎだろ!尸魂界に目ェつけられたらどうすんだ!」
石田「何だ虚狩りって!虚退治だ!!好き好んで行ってるみたいに言うなっ!!そもそも僕は浦原さんに言われた時だけ行ってるんだ。その辺の調整は浦原さんが加減してるだろっ!」
一護「オメーあの人が最近まで尸魂界に追われてたって事忘れてねえか?」
彼らが言い争いをする中で、一護は突如さらわれた。暴風を思わせる、彼のバイト先の店長に。
石田「すごい……。黒崎を一瞬で畳んで持っていった。何者だ?」
井上「石田くーーん」
一護を拉致した車を見送った石田は、後方から手芸部を共にしている井上織姫の声に振り返った。
石田「井上さん」
井上「ちょうど良かった。ねぇ、黒崎くんの周りに、変な雰囲気を感じない?」
井上の言葉に、石田は動揺した。滅却士である彼は気付いていた。ゆえに今回、一護が悪目立ちせぬように動いたのだ。そう、微かにではあるが、一護の周りには、彼が失ったはずの”霊圧”がまとわりついていたのだ。
石田「いや、僕は何も感じないな。ところで井上さん、カバンを持ってるってことは下校中だろ?時間は大丈夫かい?」
井上「あ、もうこんな時間!!また明日ね、石田くん!!」
学校で豚共とひと悶着あった後に、バイト先に引ったくりの時に関わった男が現れた。
銀城「ラーメン、食うか」
一護「いらねーよ、ウチは鰻屋だぜ」
育美「鰻屋でもねーよ」
銀城「じゃ、いただきます」
一護「なんでここでラーメンくってんだよ!」
銀城「くわねぇと伸びるだろ」
一護「家で食え!!何しにここに着たんだアンタ!!ここは俺の休憩所だ」
育美「休憩所気分でここにきてたのか?……だけど一護の言う事ももっともだ。アンタ、お客さん?」
二人の不毛な会話に、一護の雇い主からツッコミ兼ピリオドが打たれる。
銀城「当たり前だろ、だから……、ウーロン茶ください」
育美「サ○トリーでいい?」
一護「出すのかよ」
乾いた音とともにペットボトルが置かれ、銀城が口火を切る。
銀城「ある人の身辺調査を頼みてえんだ」
ラーメンを乗せたお盆をスライドし、仕込みお盆より取り出した封筒から写真を机に並べていく……が、
銀城「名前は」
一護「黒崎一心だ」
銀城「何だ、知ってんのか?」
一護「ナメてんのか!黒崎一心は俺の親父だ!!知りてえ事があるなら俺に訊けよ!何だって答えてやる!!」
銀城が机に並べた男は、黒崎一心。普段の彼を知っているならば、その地味な装いに確信を持てないだろうが、一護は息子だ。確信を持って、一心本人だと言い当てる
銀城「本当に、答えられるほど知ってるのか?おめーはどれだけ知ってるんだ、家族のことを――」
続けて何か言おうとした銀城の言葉を押しつぶすように、育美の掌が机をたたき、銀城の紡ぐ口を止める。そのまま店仕舞いとしたのだが、銀城の別れ際の言葉で、一護は浦原商店へと向かった。
育美(おいおい、あんたの言ってた確かめなきゃいけないの、ってのは、このラーメン
野郎と関係あるのかい?随分と怪しい男じゃないか……。)
銀城の発言を引き金に、一護は弾丸のように街を駆け抜け浦原商店へと向かった。
一護「――夏梨…なんで浦原さんの所に…」
銀城「心配か?そりゃそうだ。得体の知れねえ奴の所に自分の妹が通いつめてるんじゃな」
一護「浦原さんは――」
銀城「俺”達”を助けてくれた・か?忠告してやる。今の内に手を打て。自分の家族を護りてえんならな」
一護「名前聞かせてくれ、あんたの名前」
銀城「銀城空吾だ」
浦原「さて…虚狩りは暫くしなくていいですし…。何をしましょうか……。」
一護「そういや親父どこいったんだ?」
遊子「朝から見てないよ?」
一護は家に帰宅早々、絡んでくる彼の妹の遊子をあしらいながらも探りを入れるのだが、うまく行かない。しかし、ちょうど煮詰まった頭を切り替えるかのような電話がなり、彼を石田病院へと向かわせる。
一護「石田!!!」
井上「く、黒崎くん」
一護「もう来てたのか」
その後入ってきた石田雨竜の父親、竜弦によって告げられ事実が、一護を揺さぶる。
一護「敵に切られた?どういうことだよ石田!?」
石田「お前には関係ない」
一護「関係ないワケねえだろ!!オメーやられてんじゃねえか!一人でなんとかできなかったんなら全員でなんとかするしかねえだろ!!……なんとか言えよ!!」
石田「黒崎、井上さん、今は本当に話せることはないんだ。……帰ってくれないかな」
雨竜とのやり取りで感情的になった一護は、石田病院を走って抜け出した。竜弦の院内での”走るな”の注意すら置き去りにして。
一護「俺に……俺にできる事は無えのかよ……っ!!」
一護(もう、こいつしかねぇっ……)
――ようこそ “xcution”へ――
plplplplplpl///
一護「随分と面倒臭えことするんだな」
銀城「そう言うなよ。こうしねえと”こっち”が面倒臭いもんでね」
一護「話がある」
銀城「だろうな。でねえとここには掛けてこねえだろ?」
そうして銀城のアジトへと出向いた一護を迎えたのは、眼帯をした男、ダンディーな女性、捻くれてそうな子供だった。そして語られる銀城たちの真の目的。
銀城「俺達の目的は――お前に死神のチカラを取り戻させることだ」
リルカ「しーーんじらんないっ、あんなトコでボーっとしてるなんてどーいう神経してるのよ。探されるあたしらの身にもなんなさいよね」
リルカ「むっ、何を思ってるのよ。いいわ、正直に言いなさい」
チャド「よく一人でそんなにしゃべれる…グッ」
チャドの腹は、女の子の拳が相手でも気持ちよく鳴るようだ
???「ぷぷぷー。殴られてやんのー」
月夜が映える夜に、日本人離れした容姿の巨漢に少女が二人。少女のうちの1人は、紅色のリボンを濃紺の髪に結っている。
銀城「なんだ?聞こえなかったワケじゃねえだろ?」
一護「どうやって、どうやって取り戻させるんだよ…?」
慌てて銀城へと掴み掛かるかかる一護を押さえ、銀城は続ける。
銀城「俺たちは、”物質”に宿る”魂”を使役する能力を持った人間だ。魂を持ってるのは生物だけだと思ったか?この世界の森羅万象には魂が宿っている。たとえば、愛用品を使った時に普段の自分よりも高い能力を発揮できると感じたことはねぇか?」
一護にとっては新鮮な、けれども銀城は既に何度も同じ説明をしたかのように淀みなく答える。
銀城「自分に相性の良い道具なら、その「形」そのものを変えることが出来る。たとえば、俺の場合はネックレスだ」
銀城がそういい、ネックレスに手を当てると、輝きと共にネックレスが大剣へと姿を変えた。
銀城「俺たちはこの能力を完現術と呼んでいる」
荒々しい音と共に、アジトのドアが開かれた。
リルカ「帰ったわよ」
銀城「早かったな、見つけたのか」
リルカ「見つけたわよ。そこに居んの誰?」
銀城「あとで紹介してやる。さっさと中に入れろ」
一護「な……、茜…雫…?」
茜雫「あ、一護ジャン??」
チャド「ムッ」
一護「チャド……。それに茜雫……!?」
チャド「ム…。茜雫と知り合いだったのか?」
銀城「あぁ、”そういう”ことか。落ち着け。ハナシ聞き終えりゃ解ることだ」
リルカ「ナニ!? 知り合いだったの!?」
一護「いや、知り合いっつーか何つーか……。」
茜雫「ふっふぅ~ん、運命の相手!?みたいな」
リルカ「あぁ」
一護「何でそうなるん……つッッ……」
茜雫とのやり取りの合間にフラッシュバックする記憶”らしきもの”。その記憶、茜雫と共に居られた居心地のいい空間。
茜雫「いちご~?どったの?」
一護「何でもねえよ」
銀城「さて、と。揃ったところで、本題に入るとするか」
茜雫「その前に剣仕舞ったら?ぎんじょーさん。」
銀城「……そうだな」
そうして語られる銀城たちの出自。虚の胸の孔に始まり、死神の力よりも虚に近いチカラなのだということ……。
銀城「俺たちは長年かけて一つの事実を発見した。俺たちの疎ましいこの能力は、俺たちと真逆、つまり死神と人間の力を併せ持った人間にのみ譲渡できるってな」
一護「それって……」
銀城「わかるか、俺たちが人間に戻るためには、お前が死神の力を取り戻す必要があるんだ」
茜雫「私やチャドは、その中でスカウトされた感じだね。チャドは、一護に力を取り戻してほしかったそうだケドね」
一護「そうなのか……チャド」
チャド「ああ。チカラを無くしてからのお前は見ていられなかった。戦いたいんだろう。自分の力で周りの皆を護りたいんだろう。隠さなくて良い。それがお前なんだ。」
銀城「死神の力が戻って、そこに俺たちの力が上乗せされる。戦う力を手にしたいなら、悪い話じゃないと思うぜ」
一護「わかった、協力する」
銀城「…決まりだな」
その後、日程の確認やらを済ませて帰路へとつこうかというとき
茜雫「あ、私も帰る!帰りにコンビニ寄ってこーよ!!」
銀城「あぁ、最近変な奴が出るみたいだしな。送りがてら行ってこいよ、一護」
茜雫(ナイスアシスト、銀城。”約束”通りだね!!)
茜雫「きまりっ!!行こう、一護!!」
一護「っおい!茜雫っ!!」
茜雫はまるで全てを許し引き付ける太陽のように一護の手をとり、眠った街へと駆けていった
一護「おい、茜雫」
茜雫「なぁに~?」
一護「銀城といいなんで俺のことを知ってるんだよ?」
茜雫「あはは~、何でだろね~。あっ、喉渇いたね。コンビニコンビニ!」
一護「っておい、どこ行くんだよ?……あっ!?消えた?」
角を曲がったのを一護も確認したのだが、一護が角に来ると消えている。少し焦りながらも駆けようとしたとき、看板から人影が
茜雫「わっ!!…あははっ、驚いたっ!!」
一護「おいこらっ!脅かすな!!」
茜雫のおふざけに付き合って、時々笑わして、彼女のアパートまで送った一護であった。
翌日、銀城との打ち合わせ通りにアジトへと来た一護は、リルカの能力らしきものによって、玩具の箱へと入れられてしまった。
一護「…っ痛え…クソっ…なんだってんだよ」
ズンッ――
一護「ズンって……なんだよアレ」
リルカ「倒して」
一護「あ!?」
リルカ「戦って倒してって言ったの。大丈夫、強くないからカンタンよ。完現術が使えればね。じゃ終わったら声かけてね~」
一護「あ!オイ待てコラ!!」
一護を完現術で箱の中へと拉致した犯人は、無責任に用件を突きつけ去っていった。
豚肉さん「ギャオオオオオオオオオオオ!!!」
一護「うおおおおおお!!!」
豚肉さん「逃げるだけやなしにかかって来んかいゴラア!」
一護「うおお、喋るのかよ、コイツ!?」
豚肉さん「またんかいゴラァァ!!ブチ殺させろやぁあああ!!」
ギィ……。
ギリコ「買出しお疲れ様です、茜雫さん」
茜雫「たっだいま~ん。やっぱチャド居ると年齢確認潜れて楽だねぇ。あ、リルカ、美味しそうなケーキじゃ~ん!!」
リルカ「見たってあげないわよ」
茜雫「えぇっ~~~~っ!!! あ、一護もう修行はじめてんの?」
リルカ「もうっ、わかったわよ……てもうケーキに興味なし!?」
茜雫「ねぇ、リルカ、私も入れてよ。」
リルカ「勝手なことされるのはイヤなんだけどね。」
茜雫「だっいじょぅぶ、ほんの少しアドバイスするだけだから」
リルカ「……はぁ、わかったわよ。いい?豚肉さんは壊さないでね」
茜雫「お~け~、おっけ~。箱舟に乗ったつもりでまかせんしゃい!!」
―タイマーが作動しました―
―条件通り”狂獣モード”が発動します―
一護(どうする?どうにかして完現術を発現させるとして、どうやってそれを……)
茜雫「おおっ、ぎりぎりせーふっ!勝利の女神、見参!!」
一護「……。」
一護(リルカとかって奴は”惚れこんでる”っぽいし、銀城は”愛着がある”って感じだ。俺にとってのそういう道具が完現術には必要って事に――)
しかし、彼の思考を邪魔する一蹴が、彼の頭へと横一閃に放たれる。
茜雫「構えよ、構ってよっ!!」
一護「あぶねえなあ!!何すんだよ!!って、バカヤロウ、あぶねぇよ」
茜雫の二度目の回し蹴りと豚肉さんの一撃が、一護をミンチにしようかというとき、一護は茜雫の蹴りを利用して彼女を抱え飛びのいた。光の軌跡を足元に残しながら。さながら瞬歩のように
茜雫「おおっ、いい感じじゃないか、一護!!お姫様だっこなんて。次はおんぶで頼むぞっ!!」
一護「うるせえ!叩き落とすぞ!!!」
茜雫「まぁたまった!!一護はそんなことしないでしょ」
一護(このヤロウッ!!!)
茜雫「あっ、あのボタンの模様可愛くね~?」
一護「知るかッ!!!」
茜雫「つれねぇーなー……ほいっ、一護っ!!忘れモンだぞっ!!」
一護「なっ!?代行証!!?」
縦横無尽に走る豚肉さんの豪腕を、背から来るときは紙一重に、前から来る時には余裕を持って飛びずさりながら避ける。避けながら一護は代行証を右手に押し付け渡される。代行証を渡した少女は確信があったのだろうか続ける。
茜雫「まぁ、よく聞け、一護。一護は”覚えてない”かも知んないけど、死神であった時の誇りや”魂”ってヤツを、こいつは蓄積してくれているはずだよ。」
一護「なっ……イテッ……」
こめかみを襲う鈍痛と共に、今、腕に抱えられている少女との”覚えていない思い出”が駆け巡る。自分の”チカラ”によって救え、最後には何か……。
茜雫(やっぱり、キミがあの人なのかな……?)
一護「うぉぉぉ!??」
茜雫「きゃっ!!」
豚肉さんが、床を噛み千切り引き寄せ、一護の足場を崩した。そして、襲い掛かる。茜雫は何か考えがあるのか一護と豚肉さんの間に飛び出し、三角形を作るようなラインに位置取る。
茜雫「思い出せっ、一護っ!!キミの”護る”という言葉の源泉はなんだっ!?何が駆り立てるっ!!それは……」
茜雫(それは”この俺の――”)
一護(茜雫の言葉が、何かを……、引きづり出すっ!!)
一護「この俺の……魂にだッ!!」
突如、代行証から黒い霊圧が噴出する。そして、代行証を中心に、”天鎖斬月”の鍔が出る。自分の本心でもあり、自分自身の思いが。
茜雫(んっ!?…やっぱり、そうなのかなっ…。)
一護(斬月の鍔!?ってことは……、鍔って事は斬るためじゃねぇ。斬月が残してくれたチカラなら……、俺が縋るだろうと斬月がくれるチカラは……)
一護が代行証に手を重ねると、かつての唯一にして絶対の信頼を置いた技の感覚がよみがえる。豚肉さんへと一呼吸で近づき……
一護(やっぱりか…よしっ、これは、月牙天衝の感覚――)
茜雫「一護っ、いけっっっ!!」
―― 一護っ!何…?いやだっ、やだよぉっ!!――
――てめえらっ…ジャマだぁっっ!!!――
一護「月牙ッッ…天衝ッッッッ!!!」
豚肉さんを、黒い歯車が波動となって押しのけ打ちのめす。
一護「はあっ、はっ……」
一護(これなら、本当に死神のチカラを……。)
一護「っ痛てぇ、なにすんだ茜雫っ!!」
茜雫「いぇい、いぇ~~い!」
満足そうにピースサインで一護を叩きながら踊る茜雫が、彼を出迎えた。
一護「んっ?」
――ザザザ……。……が無いだろう!――
突如、黒い霊圧の収まった代行証から聞こえる声。紛れも無く、彼の”チカラ”の原点になる朽木ルキアであった。
夕暮れ時、お世辞にも綺麗とは言いがたいアパートの廊下で、1人の女性が独り言を宙に掻き回していた。
井上「今日は黒崎くんも茶渡くんも学校に来てないみたいだったし……。心配だなぁ」
その独り言は夕焼けに溶かされるのだが、思わぬ来訪者が彼女の独り言を会話へと変える。
獅子河原「チィーーッス!!」
井上「わぁ!」
獅子河原「井上さんっスかね!?スンマセン!ちょっち死んでもらえますかね?」
言い終わるや否や、右手に巻いた布の中身の調子を確かめた男が空を飛び、殴りかかり、そして空へ還った。
獅子河原(って・・・マブいっ!!!!!)
井上「え!?今…空中で吹っ飛んだ?…大丈夫ですかー?」
獅子河原(いや、へこたれてどうする?この仕事、やり遂げなきゃならねぇ!!!)
獅子河原「オオオオオウ!!カクゴ決めな女!!この獅子河原萌笑様が、てめえのタマぁ貰いに来たぜ!!」
井上「タマって?」
獅子河原「えっ!?アレだ!命だよ!!タマ貰うってのはブッ殺しに来たってことだ!!てめーの仲間のメガネ野郎みてーにな!!」
井上「石田くんを襲ったのは、あなたなの?」
獅子河原(コイツ…急に雰囲気が…これなら――)
???「はい そこまで」
横から挟まれる声によって両者の気勢はそがれる。
???「”石田くん”を襲ったのは 僕だよ」
獅子河原「月島さん……」
井上が妙な訪問者とやり取りをしている時間、一護は茜雫を自宅へと送るために、夕日が降り注ぐ小道を歩いていた。
一護「って……なんで俺は帰ってんだよ!?」
茜雫「銀城が言ってたジャン?生身で扱う完現術は負担が大きいって」
一護「てっきり泊り込みでするもんかと思ったよ」
茜雫「無理スンナ、一護!美人女子高生に下校デートに誘われるんだからラッキーだろ」
一護「デッ……デートじゃねえだろ!」
茜雫「うははっ、うわははは、焦る一護も面白いのぅ、かわいいのぅ!!」
一護「うっせえ!」
茜雫「でもバニラシェイク、おごってくれたじゃん。ごちそうさまー」
一護「おう。まあ、一人で飲んでも美味くねえからな」
茜雫「それに美人って肯定してくれたじゃん」
一護「否定してねえだけだッ!!」
なんだかんだ言いつつも、一護は”とある理由”から金を貯めていた。正直、茜雫からは高級アイスでもたかられるのかと思った彼だが、茜雫から逆にポテトをご馳走された。
……そのためにファーストフード店で1時間ほど駄弁っていたのだが…。
茜雫「あっ、観覧車!一護、今度アレに乗せてよ!!」
一護「ぜってー乗せねえ」
茜雫「けちっ!!」
一護「高校生はそんなに金持ってねえんだ」
茜雫「え~。一護と乗りたかったのにぃ…」
一護(……とはいえ、部活の助っ人で幾らか貯めてるし、少し位なら良いか。)
一護「気が向いたらな。高い所、好きなのかよ?」
茜雫「だって、高い所から見ると、それまでごちゃごちゃしていて良く分からないモノがはっきりするものっ!!」
などというやり取りを、彼らの帰り道から見ると”遠回り”になる川原沿いでしているのだから、以下省略……。ましてや、川の水面には速い時間ながらも”月”が写っているのだから風情も有る。
遊子「おにいちゃん?」
一護「遊子?それに夏梨?買い物の帰りか……。」
茜雫「ありゃ、一護の妹ちゃん?カワイーじゃん!!ヨロシク、あたし、茜雫っ!!」
遊子「よろしく、茜雫さんっ!!」
夏梨「よろしくー。って、一兄ぃ、まさかこんな時間まで連れ回してんの?」
茜雫「違うよぉ、一護は私が暮らしてるアパートまで送ってくれてるんだよ。ほら、一人暮らしは何かと危ないじゃん?」
遊子「えぇっ!?一人暮らしの子を一人にしようとしてるの?茜雫さん、晩御飯は?」
茜雫「へっ?まだだけど……」
遊子「茜雫さん、ぜひウチで食べてってよ!良いよね、夏梨ちゃん!!」
夏梨「もちろんさー。ヨロシク、茜雫さん」
茜雫「ありゃりゃ……いいの?一護?」
一護「あーっ……かまわねえよ、ウチで飯食え。一人よか美味いだろ」
一心「なん・・だと・・。夏梨、一護が彼女を連れてきた・・だと・・?」
夏梨「本人たちはムキになって否定してるけどねー。でも、怪しいよ。」
一心「むむ、今はどこに居るんだっ!?」
夏梨「遊子と晩御飯作ってるよ。すごい料理上手だよ」
遊子「うわぁ、鮮やかだなぁ…。千切りも綺麗だし、お味噌汁も美味しいよっ!」
茜雫「ありがとーっ!いっつも作ってるんでしょ?遊子ちゃん偉いねぇー」
一心「ッ……!!!!」
一心(あの子の霊圧……いや、正確には霊圧じゃない何か……。なんで”感じられないことを感じる”んだ?一般人相手に霊圧を測るのとは違う……。
あの赤いリボンから一護の霊圧と共に感じられるのがおそらく”彼女の霊圧”なのか。ルキアちゃんや織姫ちゃん、俺の記憶しているソウル・ソサエティにいる霊圧とは、まったく異なる霊圧だ……。ん……、一護からも感じる……?)
夏梨「おい、ひげ親父、鼻の下を伸ばすなよ」
一心(最近の夏梨を鑑みても、関わらせられん。関わらせないには……)
一心「父さんはいま、モーレツに感動しているっ!!三人目の娘とのコミュ…グボァ」
夏梨の回し蹴りが、父親の計算通りに腹へと吸い込まれたのであった。ただひとつ、その威力ばかりは計算外であったが……。
夏梨「ったく、このエロ親父が」
一心(一護のことだ……。浦原に相談する・・か・・)
茜雫「へぇ~、男の部屋って殺風景だねぇ」
一護「ほっとけ」
茜雫「それにしても楽しそうな家族だね」
一護と茜雫は、夕食を終えて、部屋へと戻った。夕食の流れで、茜雫は一護の家に泊まることになったのだ。風呂を終えて一段楽した茜雫は、一回り以上大きい一護の体操服にハーフパンツを着ている。一護の妹の服は残念ながら胸が入らなかったそうな。
一護「って机の物いじるなっ!」
茜雫「片付けてるんだよぉ~。料理掃除裁縫とマルチに家事できるんだぜぇ!?」
茜雫(あっ、これはっっ!?)
一護「おい、どーした?」
茜雫「ふふんっ。い~ちごっ」
一護「なんだよ?ってうぉ!何すんだよ!?」
茜雫「へっ?耳かきだよ、み・み・か・き~♪」
一護をベッドに押して据わらした茜雫は、一護の横を陣取り、彼の耳に棒状の何かを刺しこみ、自分の膝の上に一護の頭を乗せた。
茜雫「ほぅら、ほおら!動くとアブネーよっ!!」
一護「って茜雫っ!!」
茜雫の手に有るのは、少し汚れてはいるがれっきとした”耳かき”だった。
茜雫「まずはフチをカリカリしてくよーっっと」
一護「くぅぉぉ……」
茜雫「あたしの太もも、気持ちいいだろー」
一護「うっせ…ぁぁー」
茜雫「奥に行くよ~」
一護「お、おう…」
一護(やべー気持ち良い……)
茜雫「今のところは、とことん癒されとけって。」
一護「茜雫・・・?」
茜雫「完現術が、生身の肉体に負担が大きいってのはホントなんだよ。今の一護は気が張って感じてないかもしんないけど、さ。私は……さ、一護がツライ目に会う方がイヤなんだ」
一護「茜雫……。いや……なんかくすぐってえ。ヘタか?初めてなのか?」
茜雫「一護っ!!言ったな!?確かに初めてだよっ、でもなぁ、食らえっ!!!う~りゃうりゃうりゃ」
一護「っ……。」
茜雫は一護の耳の中へと至る道を、まるで肌に触れず微毛を刺激するかのように扱く。
一護(これは………やばい…ツボだ…)
そして隙を見て奥深くの塊へと突撃。そして肌を傷つけないように繊細に、かつ一護に快感を与えるように大胆に敵を掻き拾った。
茜雫「よしよし、取れたっ!し・あ・げ・に、ふぅ~~~~~~…」
一護(くすぐってえけど…けど何より気持ちいい…溶けちまう…)
茜雫「よしっ、反対側ね。ちょっと恥ずかしいけど、そのままこっち向いてね…。お、けっこー細かいのがあるなぁ。よし、梵天使うかっ!!」
一護(あ~、やべえ。マジで寝ち・・、まう・・。)
茜雫「ありゃ。寝ちったよ。お休み、一護。ん~、もうちょっと、だと思うんだよね……。ズルクテごめんね、一護」
――ピンポーン・・・・――
翌日、目の覚めた一護は、妹たちの冷やかしを誤魔化しながらバイト先へときていた。それもこれも、朝、茶渡から来ていたメールを見たためだ。
育美「はぁーい!」
一護「っ痛えな!このドア階段側に開くんだから気をつけて開けろって言ってんだろ!!」
育美「一護!!あんたどこ行ってたのよ?また連絡よこさずに……」
一護「わりぃ。ここでいい。……暫く、休ませてくれ」
一護(俺が暢気に休んでる間に、井上に何か有った。井上のことだから強がって言わねえけど、チャドのメールからも確実なんだ……。)
育美「って、どんだけ仕事に穴空けて……」
一護「スイマセン、じゃあ…それだけなんで」
育美(はぁ、どういう事だい?)
育美「あんたね、何があったか知らないけど、あたしに気ぃつかうのやめなさい。子供は!大人を頼って良いんだからね!」
一護「ありがとな。育美さん……」
育美(……アンタとの間になにかあったのかい?)
一護(豚肉と戦ったとき、もう少しで茜雫を巻き込んでた…もっと、強く…迅く…)
ゴッ・・・ドオゥ……
再び、リルカの完現術によって、次の修行場という名の籠へと入った一護。
ジャッキー「顔合わせはしてるけど、自己紹介はまだだったわね。確か」
一護「黒崎一護だ。さっさとはじめようぜ」
ジャッキー「良い顔になってきたじゃないの」
ピーッ……
銀城「茜雫か」
チャド「ムッ」
茜雫「一護は……、次の修行だよね?」
茜雫(あのやろー、私をおいて先に行きやがって!私の膝枕からどかそうとすると嫌がったクセにっ!!)
茜雫「”月島”ってヤツの、能力を教えてくんない?一護の仲間が、そいつに襲われたみたいなんだ。」
チャド「俺も今、それを確認していたところだ」
茜雫に出されたアイスティーが1/3ほどになろうかという時、銀城は口を開いた。
銀城「……なるほど、茜雫、お前とチャドのハナシを合わせると、井上と石田を切った人間が”別人”になる可能性がある……」
???「―――そうかな?」
銀城「月島―――!!!」
茶渡「こいつが…月島…!!!」
茜雫「ありゃ!?いつだったかヘンなこと言って倒れたあんちゃんじゃん」
銀城「知ってるのか?」
月島「…今は、君との話は良いよ。……ジャッキーやリルカの姿が見えないけど、そこかな?」
水槽が切られ、中から逆再生のように飛び出す2つの人影。
ジャッキー「…う…一護…」
一護の姿は、死覇装を纏ったかのように漆黒の衣服を身に着け、代行証を握った右手から黒い霊圧で形作られた片刃剣を出している。
茜雫「一護…それは…」
茜雫(そっか、一護にとって、”あの時”のように、身に纏うものだったんだ……)
鈍い剣戟の音。月島の斬撃を、一護が黒い霊圧の刀ではじいた音だ。
一護「…あんた誰だ?」
月島「あれ、意外だね。僕の情報まだ伝わってないんだ?」
茶渡(しまった――)
銀城「待て!チャド!!」
茶渡の右腕から眩い光が出たかと思うと、その瞬間に爆音が生じた。文字通り、コンクリートの壁が粉微塵となってご近所様へと吐き出された。
茜雫「うっひゃぁ…」
茶渡はコンクリートの霧を突き抜け、晴れてはいるのだが、どこか雲行きの怪しさを感じさせる屋上へと躍り出た。
銀城「コトをデカくすんじゃねえよ…一護の完現術は発動してんだ。もう月島の情報は与えてもいい頃だろ」
茶渡「まだだ、まだ一護の完現術にどの程度の力があるのかも判らないだろ。今の時点じゃまだ、月島が井上を襲ったって情報は一護を混乱させるだけだ」
一護「そうか」
茶渡(しまった――)
茜雫「チャド、一護ならダイジョブだよ」
一護「知らない間に、俺はそんなにも気遣われてたんだな。……それと、ありがとな、茜雫。」
茜雫「おうよっ」
一護「井上を襲ったのも、石田を斬ったのもあんたなのか?」
月島「どう思う?」
一護が黒い霊圧を軌跡に残して切りかかる。死神の頃と比べれば遅過ぎるが、ただの人間では反応しきれるか微妙な速度でだ。そして切り上げ、月島を宙に打ち上げた所で追撃に掛かる。しかし――
月島「おおっ。いいね。君が完現術を使いこなし始めていることは良くわかった。だけど、肝心の君自身の完現術は――」
一護「うぐっ!」
月島の大上段の一振りを受け、一護は墜落する。一護のイメージとしては、刀同士の接触する瞬間に力を振り絞るつもりだったのだろうが、力の基礎値が足りなかったようだ。
月島「まだ未完成もいいところだ。現に今、左腕の完現術が容易く解け、落下の緩衝すら出来なかった、だろ!?」
一護「ぐっ…」
月島が慣性を生かした振り下ろしと共に、一護の眼に鮮やかな赤色が舞った。血ではない。紅葉が空で月島の刀を受け止めていたからそう見えたのだ。
茜雫「させないよ。一護ばっかり苦しむようなことは、させない。」
一護「なっ…茜雫、おまえも完現術を!?」
みれば彼女の髪は解かれ、濃紺の髪が舞う空に、鮮やかな紅色の羽衣が肩と腕を絡み纏わっている。
茜雫「うん、ライメント・メイプルって呼んでる。霊圧に似た構成を持つ紅葉を操れる羽衣を生むんだ」
銀城「完現術で死神の力を取り戻せるかもって根拠の一つがコイツの完現術だ。霊圧を生身の体でありながら使役してるからな」
月島「へぇ、気になるな…」
銀城「悪りィな。どうもまだ一護とお前を戦わせるには早いみたいだ」
銀城が一護の無事を見届け、自身の剣を出す。剣は、銀城の強い言葉と裏腹に、鈍い輝きを見せる。
月島「…銀城…」
一護「…どいてくれ…」
銀城「無理だ」
一護「いいか…ぐあっ!!」
一護の言葉を聞き終える前に振り下ろされる銀城の肘鉄。一護が崩れ落ちる前に抱きかかえる茜雫の両腕。
銀城「お前に死なれちゃ困るんだよ。黙って寝てろ。茜雫、一護の介抱たのむぜ」
茜雫「もうしてるよーっだ!」
一護「茜雫、頼むっ、戦わしてくれ!!」
茜雫「あれ、額擦りむいてんジャン。修行のときに作ったん?あっ、傷薬滲みるかも~」
一護「茜雫っ!?」
茜雫「ん~、一護のお願いは叶えてやりてーなー」
一護「だったらっ!!」
茜雫「でも、一護は私やチャドに心配掛けてる。それは判ってるんだよね?」
一護「ッッ…!!!」
茜雫「はぁ。私も一緒に戦う。それで良いなら、良いよ」
茶渡「茜雫っ!?無茶だ。一護、月島との力の差は分かったろ!」
茜雫「それで納得しちゃう一護なら、私を護りにこなかったっつの!」
茶渡「なん・・だと・・!?」
茜雫「んっ?私今、変なこと言ったのかな…。ごめんごめん。でもさ、一護のコトを想うなら、前に出て庇うより隣に立って手を握る方が良いと思うな」
一護(茜雫の手…震えてる……。ほんとは、戦うことに不安で一杯なんじゃねーか……。)
一護「はっ、ありがとよっ、茜雫」
茜雫「うっせぇーな、ばーかっ!!」
一護(なんだ?今の感じは・・・?俺は、茜雫を深く知ってるのか?)
銀城と切り結ぶ月島。互いに浅い裂傷を仲良く拵えたところで、闖入者が剣を振るう。
一護「オオオォッ!!」
一護(茜雫を護る為にッ!!今の”チカラ”じゃ駄目なんだッ!!!)
月島「んっ、解からない奴だな、君も。君の完現術はまだ未完成だって――」
茜雫「させないよっ!!!」
月島の言葉の途中、紅い紅葉が刃を抑え、月島へと強襲する。
月島「くっ!!」
悪態をつきながらも、紅葉の雨を捌き、黒い刃から辛くも逃れ距離を取る。
月島(“思念珠”の娘も来たか。出来れば引き上げたいな。何せ、僕の完現術が”使えない”んだからな…)
月島の逡巡の間にも、一護の完現術は纏う形をコート状に変えつつある。
月島「さっきの今でそんなに変わるのかい。良いね、今の君のその力は、かっての君の力に随分と近くなったよ――」
月島(メール、と)
雪緒(お、すれ違い。…じゃなくて月島さんかよ。はぁ。)
雪緒「インヴェイダーズ・マスト・ダイ」
一護「なんだよ!?これ!?」
雪緒の完現術が発動されると、機械的な覆いが一護の眼前へと広がり、彼を飲み込んだ。
殺風景な檻が解かれ、一護は茶渡が壊す前の建物に似た場所へと放り出された。
雪緒「はい、ロード完了」
一護「…ここは!?」
茜雫「予備のアジトらしいよ」
銀城「快適とは程遠いけどな」
雪緒「あれっ、そんな言い方するなら快適にしないよ?」
一護「月島…それとチャドは?」
銀城「月島は退却したよ、一応はな。」
雪緒「チャドは帰ったよ。僕が完現術のコトを言って、一護のこれからを言ったら帰ってったさ」
一護「……そっか……。」
雪緒(なんてね。高校生なんて馬鹿なもんだ。チャドは”用済み”になったからどうでもいいんだよ。)
一護「銀城、月島のこと、何かひっかかるのかよ?」
銀城「…いや、俺たちにダメージを与えるつもりならあの状況からでもまだ戦えた。そうしなかったのは、本当にお前にしか興味が無かったのか……」
雪緒「考えすぎだよ。……、さて、ギリコの方を手伝ってこようかな。」
銀城「待て雪緒。それと茜雫。お前らはここで一護の修行に付き合え。」
雪緒「はあ!?なんで僕が!?僕そんな出来ることないし。コイツの充電も切れそうだし!!」
銀城「できる事があるから言ってんだ。プラグさしたままやれ!月島のヤツがアジトを探った方法は知らねえが、霊圧を探ったと考えるのが妥当だろ。だとしたら一護の修行には、霊圧を完全に遮断できるお前の完現術が必要だ」
茜雫「って、あたしは何で?」
銀城「直ぐに分かるさ」
一護「誰と修行すんだよ?言っとくけど、ジャッキーはもう倒したぜ」
銀城「俺だよ」
月が残る夜、二人の男が神々しい輝きうを宿した刀を前に談していた。
一心「これで、最後だな」
浦原「いいんスか、本当に」
一心「しつけえぞ、何回確認すんだよ!」
浦原「幾ら、強力な思念珠と息子さんが接触されたからって、息子の将来を親が奪うかどうかって話だ」
一心「…だから、何度も確認してくれるなって言ってんだ」
浦原「それもそうっスね。では、最後の一手と行きましょうか。ってもまぁ、隊長格数人分くらいの霊圧ならまだまだ入りそうなんスけどね」
月はまだまだ欠けず、刃を思わせるままだ…。
茜雫「一護、大丈夫~?」
一護「ったりめぇだ!!」
雪緒の完現術によってゲームの世界へと入った勇者は、大剣を掻い潜り、時に身体ごとぶつかり弾いて戦っている。
銀城(俺のリーチじゃやりづらいと見て間合いを詰めてくるか)
銀城「なんのために刀身にも柄がついてると思ってんだ。リーチの不利を消すためだろうが!!」
一護「…そうかよ」
魔王の剣が勇者の頬をかすり、笑みを形作る頬を赤く濡らす。
銀城(それにしても、月島の時といい、やはりコイツは護るべき対象が近くに居てこそチカラを発揮する。)
一護「おおおっ!!!!!」
――思念珠として覚醒する前に人間的な恐怖と苦しみを味わうことになるのだ――
――そんなことねぇっ!!茜雫は、茜雫は今っ、ココにいるっ!!!不安で、怖くて、助けを求めてるッ…。俺はそれを”護る”って、俺の魂に…誓ったんだッッ!!――
リルカ「あんた、なんでそんなトコで腕を開いて立ってんのさ」
茜雫「ゲームの中に入れるなんて驚きジャン?少しでもこの世界に触れてみたくて、さー」
リルカ「こんな一護が大怪我するかもしんない世界をねぇ」
茜雫「おおっ、リルカも一護が心配なのかいっ!!」
リルカ「そんなんじゃないわよ!」
茜雫「チャドも心配してたしねぇ。でも大丈夫、一護ならどんな絶望的な世界だろうと大丈夫さっ」
リルカ「…そこまで信頼しといて、本当に覚えてないの?」
茜雫「うんっ、17ヶ月くらい前に突然発現した完現術も、一護らしき人との思い出も、断片的だよっ」
リルカ「なんで日付を細かく覚えてられんよ…」
茜雫「えー、忘れろって方が無理だって。ある夜、突然街の人たちが居なくなってさ。買い物袋片手にあたし大ピンチ!!かと思いきや、家に帰れるし、帰ったら寝れるしでさ」
リルカ「寝れたの!?神経図太くないっ!!?」
茜雫「おうよーっ。したらしたで、空を埋め尽くすような闇が街の遥か彼方を塗りつぶすわけよっ。すわ杞憂とはこれかっ、と国語の教科書を片手に思い至ったねっ!!」
リルカ「…。それと一護を心配しないことに関係あるわけ?」
茜雫「ううんっ、ぜんぜん無いよ。今のはただの体験談。リルカの訊きたいだろうコトを答えるとすると、まー、一護が死ぬのは私が死ぬよりイヤなんだよねー、困ったことに。」
茜雫(あの時、一護と街を巡ったりした断片的な記憶のほかにも、寂しい世界で、私を護ろうとして見つけ出してくれた。あれは、きっと正しい記憶なんだと、思う……。)
リルカ「あんたってホント変なヤツよね。親の顔が見てみたいわ」
茜雫「私孤児らしくてさー。後継人になってくれた人が生活費出してくれてるんだー。奨学金の特待生狙うためにも、お馬鹿さんの多い高校に通わざるをえなくなってるけどさぁー」
リルカ「……なんでヘラヘラしながら話せるのよ……。」
茜雫「一護が居るからだよ。一護が居れば、きっと護ってくれると信じられるんだ」
リルカ「バッカじゃないの…」
一護(おかしい、コイツの剣から何も感じねえ)
銀城「雑念が多いな、戦いだって言ってんのによ。引きずり戻すしかねえか」
一護がかつての戦闘経験との違和感を探った逡巡。その数秒を活かし、銀城の鈍色の一閃は一護の眼を殺した。
一護「え?……うあああぁあっ……」
茜雫「一護っ!」
銀城「慌てんな、回復アイテムは呼んである。覚悟が無きゃ、一護は死神のチカラを取り戻せんらしい」
一護「茜雫っ、下がれっ!!」
銀城の殺気を完現術越しに感じ、その根元へと躍り出て我武者羅に剣を受ける一護
銀城「お、良く受けたな。だが……雪緒」
雪緒「おーけー」
茜雫「銀城ッ!!一護か――」
ガシャ
一護「茜雫!!どうした茜雫!!ぐあ…ああ…。」
眼の見えない一護には対応できない斬撃だった。その一振りで、生身の一護は倒れ、血を流すだけの瀕死体となってしまった。
茜雫「一護ッ!!やだよっ!!一護ッッ!!出してっ!!私が一護の代わりに戦うッ!!!」
雪緒「…ゴメンね。何て言ってるのか聞こえないや」
銀城「…終わりだな、一護。茜雫を殺す。予想は付いてんだろ?俺が味方じゃねぇって分かった時点でよ。」
茜雫「止めてよ銀城……一護が死ぬのは…ヤなんだよぉ……――」
一護(待てよ…待てよ銀城…。)
銀城「心配しなくてもお前も殺すさ」
一護「ふざけんなっ……護りたい人の元へ迅くッ!護るべき人を護り抜けるように永くッッッ!!!……”天鎖斬月”のようになれよッッ!!」
一護(なんだ…これは銀城の姿が見えてる!?いや、姿じゃねえ…霊圧だ!!)
一護「銀城ッッッ!!」
ゲーム世界を、リセットし爆発させるかのような轟音……。しかし、轟音が爆音となる前に銀城によって封じられ、衝撃が霧散した。
茜雫「一護…」
銀城「よくやった、完成だ。完現術が完成するとき、その道具に溜め込まれた魂や記憶が解放される。だから、お前には俺の目の前で完現術を完成させてもらわないといけなかった」
一護「……銀城…」
銀城「悪いな、ベタな悪役しかできなくてよ。ようこそ、エクスキューションへ。」
――あったかぁい…。また…会えるよね……??――
――なに言ってんだ。あたりまえだろ――
茜雫「どういう…コト??……思い…出した…???」
轟音と共に茜雫へと入ってきた”最後の霊子”が契機となって、茜雫の記憶の楔を解く。そして理由を付けてゲームの中から出た茜雫は、一人で河原を歩いていた。
茜雫「あの人はっ…!!」
雪緒「おかえり。黒崎、チャド、井上」
井上「ただいま~」
茶渡「ムッ」
一護「ああ、手間掛けさせたな」
雪緒「ともかく今日は早く帰ってあげな。連絡も無しにこの時間じゃ、妹さんたち心配してるだろうからね」
一護「やっべぇ!!そういや家にも学校にも全然連絡してねえ!俺あん中に何日居たんだ?」
雪緒「君が中に居たのは90分。僕が中の時間を早送りしておいたお陰だよ。感謝してほしいね。」
遊子「おかえり!!!良かった、お兄ちゃんやっと帰ってきた!!お兄ちゃん帰ってきたよ~」
一護「なん・・だと・・。」
月島「ドヤァ」
遊子「ね!びっくりしたでしょ。シュウちゃんだよ!!」
月島「やあ、一護、久しぶりだね」
――――――ピンポーン
月島「あ、遊子、出てあげて。多分ケイゴ達だ。」
ケイゴ「あれ、なんだ一護も居るじゃん」
水色「ほんとだ」
竜貴「こら一護!あんた最近夜遊びしてるらしいじゃない!」
月島「僕が呼んだんだよ。久しぶりに皆に会いたくてね。…そうだ、チャドと織姫も呼ぼうか」
井上と茶渡の名前を聞いた瞬間、一護は我武者羅に拳を突き出し、月島を殴り飛ばしていた。呆然とする皆の目を覚まさせるかのように鳴り響く硝子の砕ける音。
遊子「きゃあ!!」
ケイゴ「な…なんだ!?」
竜貴「月島さん!!」
一護「言え月島……てめえ みんなに何しやがった…!!!言えよ………!」
竜貴「大丈夫!?月島さん!」
月島「ん…ああ…平気だよ」
ケイゴ「ヘーキじゃねえよ。血ィ出てんじゃん!!」
一護「月島ァ!!」
竜貴「一護!!!あんた何してんだよ!!!月島さんに謝れよ!」
ケイゴ「一護」
水色「一護」
遊子「お兄ちゃん」
夏梨「一兄」
ケイゴ「あっ!!待てよ一護!!」
一護(何が起きてんだ………これが……月島の能力なのか…!?)
理解も出来ず、ただ一護は、月の見えない夜道へと駆け出すことしか出来なかった。そんな一護を拾ったのは、車で移動途中だった彼の雇い主であった。そのまま鰻屋まで連れて行かれ、ウーロン茶を出される。
遊子「きゃあ!!」
ケイゴ「な…なんだ!?」
竜貴「月島さん!!」
一護「言え月島……てめえ みんなに何しやがった…!!!言えよ………!」
竜貴「大丈夫!?月島さん!」
月島「ん…ああ…平気だよ」
ケイゴ「ヘーキじゃねえよ。血ィ出てんじゃん!!」
一護「月島ァ!!」
竜貴「一護!!!あんた何してんだよ!!!月島さんに謝れよ!」
ケイゴ「一護」
水色「一護」
遊子「お兄ちゃん」
夏梨「一兄」
ケイゴ「あっ!!待てよ一護!!」
一護(何が起きてんだ………これが……月島の能力なのか…!?)
理解も出来ず、ただ一護は、月の見えない夜道へと駆け出すことしか出来なかった。そんな一護を拾ったのは、車で移動途中だった彼の雇い主であった。そのまま鰻屋まで連れて行かれ、ウーロン茶を出される。
育美「一護じゃねえか。何があった?」
一護「……。」
育美「ほれ、飲め。落ち着くまで居な。何があったかは話したきゃ話せ」
一護「…ありがとう…育美さん…」
―――ピンポーン
育美「誰だよ、こんな時間に…」
一護(話したきゃ・・・?ダメだ、話せる訳ねえ)
育美「一護!良かったな、月島さんが迎えに来てくれたぞ!!」
月島「……。ドヤァ」
一護(なんなんだ、どうなってんだよ!!誰か………マトモな奴は残ってねえのか!?…ッ!!茜雫はっ!?茜雫は大丈夫なのかっ!?)
銀城「一護!!!」
一護「銀城!!!」
銀城「………やられた…。リルカも、沓澤も、雪緒も、ジャッキーも、全員…月島にやられてた…!」
一護「ッ…!!!」
銀城「それに…言いたくないが…」
雪緒「あ、こんなところに居たんだ」
銀城「……どうしてここが…」
雪緒「離れ離れになるときは、お互いどこに行ったか分かるようにしてたじゃない。やっぱりどうかしちゃったんだね、空吾。大丈夫、月島も、”茜雫”も君たちを怒ってないし、むしろ可哀想だと思ってるんだよ」
一護「茜雫も・・だと……!!!???」
「おかえりー!!」
月が雲に隠れた夜道を雪緒の案内で歩き、一護と銀城は洋館へとたどり着く。そしてその中で待っていたのは、一護の”守る”人たちの声だった。
一護(茜雫が居ねえ……。)
ケイゴ「そうだぞ!」
育美「良かったな一護!」
水色「秀さんが優しくて」
竜貴「謝れ」
遊子「謝ってよ」
銀城「大丈夫だ一護。こいつらは月島を仲間だと思っちゃいるがお前のことも仲間だと思ってるはずだ。急に襲ってきたりはしねえ。落ち着け――」
育美「あっ」
遊子「お兄ちゃん」
一護は、気付いたら走り出していた。月島への憎しみに駆られ、代行証をポケットの内に握り締めて。
銀城「くそっ」
銀城(耐えられなかったか――…!)
扉が壊れるのではないかという音と共に、後ろから突如現れた月島から距離を取る一護。しかし…
沓澤「おお、良かった。元気そうだ」
月島「ああ、嫌われてるのかと思ったけどそうでもないのかな。わざわざ僕たちに囲まれるように移動してくれるなんて」
月島が一歩を踏み出した瞬間、日常生活では耳にしないだろう轟音が響いてきた。
銀城「階段は壊したぜ。これで下から上がってこれるのはせいぜい雪緒1人だろう。……全力で戦え!一護!!」
銀城の言葉を契機に一護は代行証を握り締めると、心の内でとある言葉を叫びながら駆け抜ける。駆け抜けざまに月島の左腕を切り落とし、衣服となって纏った完現術を翻しながら月島に向く。
月島「な……ぐっ……ッ。それが君のフルブリングか。この短期間でよく成長した…!!」
一護の完現術は、代行証の五角形の一片から”天鎖斬月”の刀身が伸びていた。そして握った右腕を螺旋状に絡みついて伸びた黒い霊圧は肩口からコートを思わせる形を作っていた。
一護「褒めてるつもりか?せいぜい今のうちに余裕ぶってろ。俺はお前を――――」
一護の話す途中で壁が壊され、破壊音の余韻と共に”一護を護ろう”とした二人が姿を現す。
一護「チャド、井上……」
井上「双天帰盾…」
一護「…やめろ井上…そいつの腕を治すなよ……」
月島「さすがだね。いつもどおり、すごい治療だ」
一護「チャド…やっぱりお前らも同じなのかよ…?」
茶渡「「同じ」の意味が分からない…俺はむしろ「違う」から戸惑っている…一護、お前はどうしてこんな事をしてるんだ」
井上「黒崎くん…今まで月島さんにずっと助けてもらってきたこと忘れちゃったの…?」
茶渡「朽木を助けられたのも、愛染を倒すことが出来たのも、全部、月島さんが居たからじゃないか…!」
月島「理解…できてるかい?一護」
一護「グァッ…」
一護は、茶渡の右腕の霊子砲によって壁を砕きながら、別の部屋へと吹き飛ばされた。今の一護の完現術なら、片手で受け止められる程度の力しか無いだろう茶渡の能力であった。
しかし、月島のためにと放った茶渡の一撃は、動揺した一護を吹き飛ばす力を発揮できたようだ。
月島「物事をいじって変化するのは決まって未来だよね。だけど僕の『ブック・オブ・ジ・エンド』は”過去”を分岐させる。ともかく、寂しいだろうけど理解してほしい。彼らの経験した過去と君の経験した過去は別物なんだよ」
一護「はっ、持って回ったような言い方すんじゃねえよ。自分の能力で”既に別のものになた”って言ったらどうだ!」
月島「それは違うよ。今までずっと、君以外の全員が、僕と共に人生を歩んできたんだ。君だけが、誤った過去を歩んでいる。君だけ違って寂しいだろう。だけど安心していい。直ぐに、その想いは最初から無かった事になるから」
一護「うあああああああっっっ!!!」
井上「三天結盾」
月島の言葉によって駆り立てられた一撃も、井上の三天結盾によって防がれる。助けられた経験からか、一護は井上の盾に暴力をぶつける事が出来ない。
一護「井上…!!…チャ――」
茶渡「どうしてだ一護…俺はこんなことのために強くなったんじゃない…。お前を殴るために…強くなったんじゃないのに………!!」
茶渡の右腕を左手で受け止め、茶渡の身体を瞬間空に浮かす。しかし…
一護「待ってくれチャド…俺だって――」
茶渡「『ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ(悪魔の左腕)』」
一護の話も、自身の行動も、何も省みない茶渡の左腕は、一護を雲に隠れ月の見えない夜空へと打ち出した。
一護「くそっ…くそっ…くそっ………。なんで…なんでこんなことになったんだよ…!ッッ月島ァ!!!」
月島「どうした。可哀想に。怒りの余り言葉の続きが出てこないのかい。それなら…茜雫も呼ぶかい?」
一護「ッッ!!!ハァッ!!!!」
茜雫の名前を聞いた瞬間、一護の姿が月島の前から掻き消え月島を回り込み、月島の左後方から黒い刃を滑らす。辛くも栞の刀で受けた月島だが、予想を遥かに超える威力に吹き飛び、ぶつかったコンクリートを粉砕して空中で止まる。完現術の緩衝が無ければ、月島の五体は引き千切られていただろう一撃。
一護(茜雫は俺の前に現れちゃねぇ。信じるんだ。絶望で足を止めるなッッ!!)
月島「グッ…ハッ・・ハッ・・」
月島(完現光無しで瞬歩並みの移動術…剣戟も重いッ…)
一護「――月牙…天衝!!!」
一護の掛け声と共に、黒い霊圧が完現術の刀へと引き込まれ、破壊を内包した三日月を月島へと吐き出す。
月島(速い!!…完現術状態でも月牙天衝を撃てるのか。本当に、”黒崎の霊圧”と”完現術”とを融合させている。………事前に技を知って無ければ反応出来ないし捌けないっ…!!!)
月島「これ、もう仕上げでいいんじゃない?」
月島(事前の作戦じゃ、黒崎は”虚”の力を”発露”させるはずだった……。それなのに”斬月”の力を"発露”させたのが意外だった……。思念珠のせいか……)
茶渡「ムッ」
一護「!!!なんで出て来るんだよ…!もうやめてくれ…チャド、井上…。月島ァ!!!俺の仲間の後ろに隠れてんじゃねえ!!出てきててめえが戦えよ!!!」
一護(後ろっ!!?)
一護が茶渡たちに気を取られている隙に、月島は刀を振りかぶっていた。しかし、その刀が切り裂いたのは…
銀城「くそっ」
一護「銀城!!!」
一護(どうなるんだ…銀城もみんなみたいに、月島を「味方」だと思っちまうのか……?)
一護「銀城!!大丈夫か銀城!!!」
銀城「………うるせえな。俺にばっか気をとられてんじゃねえよ、黒崎…。後ろから月島に斬られたら終わりだって言ってんだろ…!!」
一護「!ハッ!!!!」
硬質な音が、雲の多い夜空へと響く。一護の刀が月島の刀を迎撃したからだ。一護は銀城を背に庇い、月島へと黒い刃を向けなおし、背中越しに銀城へと聞く。
一護「…大丈夫なのか、銀城…」
銀城「ああ…おい、黒崎」
一護が振り向きざま、月に雲の掛かった闇夜に一閃が入る。一護の後ろから回り込んだ銀城の剣が、一護を切り裂く一閃だ。
一護「銀城…なんで……」
銀城「アァ、月島の能力、二度斬られると”元に戻る”んだよ。」
繋がれた鎖の音を勝利のファンファーレのように鳴らし、代行証を剣へと当て、更なる完現術を発動する銀城
銀城「俺の完現術で奪えるのは、”本質の発露”ってのを済ませた完現術だけなんだ。貰うぜ、お前の完現術」
一護「なんで…銀城……」
銀城「あぁ。石田を斬ったのは俺だぜ。思い出した。」
一護「なん・・だと・・。」
銀城「…………おっ、来た来た。ん?随分時間掛かるな…。」
硬質な音を立て、一護の完現術が彼の意に反し消える。そして、一護の手から代行証が滑り落ちる。
一護(俺の完現術が――――――――)
一護「う…ぁあああああ…」
一護(“チカラ”を取り戻したかった。だけどその方法は何一つ見つからなかった。やっと、やっと自分の"力”でみんなを”守れる”と思ったのに…)
月島「泣いてるのかい。可哀想に。」
銀城「好きに泣かせといてやれ。そいつにもう用はねえ。”あの術”が巧く創れりゃ二度と会うことも無え」
一護「…返せ…返せよ銀城…俺の”力”を返せ」
銀城「何言ってんだ?お前。もともと俺のお陰で手に入れた”力”だろうが。俺が貰って何が悪い。それにエクスキューションの中じゃ、お前は殺さなきゃ”いけない”って意見が出てたくらいだ。なのに命も取らねえんだ。礼の一つも言ってくれよ」
一護「銀城……銀城!!!」
一護の慟哭に応える為だと言わんばかりに躊躇い無く、躊躇も容赦も無く、彼の胸を、白い輝きを纏った刃が貫く。その刃を握っていたのは、彼が心を開いた、あの少女だった。
一護「…茜雫……??」
銀城「なん・・だとっ・・!?」
一護「…そうか……そうかよ……。茜雫っ!茜雫までそうなのかよっ!!」
雲の切れ目から差し込む月光が茜雫を照らし、涙を流して問いかける一護の目にその姿を魅せる。
茜雫「……ばぁ~かっ。良く”みろ”よっ!落ち着けっっ!!今の一護になら、視れてるんじゃない?私が、”死覇装”を着てるのがさっ!!!」
一護「ッ――……茜雫。」
茜雫「おうよっ!!」
一護「……茜雫」
茜雫「おうよっっっっ!!!」
一護を中心に竜巻のように霊圧が噴出し、辺り一帯に駆け抜ける。
―あげたいんだ。せめて最後に、良い思い出―
―あと僅かでも、今はまだ、あいつの声が聞こえる―
茜雫「い、一護……?ダメだった・・の?」
一護「どうしたよ?いつもの元気はどうした?」
茜雫「っ!!…うっせぇなぁ…。」
“死神代行”黒崎一護から掛けられる声に、涙を堪えながら応える茜雫。
一護「言ったろ。”また会える。当たり前だ”ってな」
茜雫「ニヒヒッ♪今更カッコ付けても遅いぞっ、一護っ!!」
一護「ちぇっ……うるせーなぁ。」
銀城「…そんな…バカな……」
一護「茜雫…いったい何があったんだ…?」
茜雫「一護のお父さんと、ウラえもんと、そして――」
ルキア「私と会ったのだよ。偶々な」
一護「ルキアッ!!?」
ルキア「久しぶりだな、一護。暫く見ぬ間に随分逞しく…なっておらぬわっ、たわけ!!」
一護「危ねえっ!!って、そういや、茜雫、その刀はなんなんだよ?」
茜雫「あっ!?これ?一護のチカラを取り戻すために、一護のお父さんとウラえもんが用意してくれたんだって。」
一護「ウラえもんってなんだよ!?」
茜雫「自称・ちょっと影あるハンサムエロ店主・浦原喜助だよー?」
一護「どうしてそうなったッ!?」
ルキア「たわけども!!話を続けるぞ。これのお陰で彼女が、貴様にもう一度、死神のチカラを渡すことが出来たのだ」
一護「そっか。浦原さん…なら当然か…。すげえな、”亡くした記憶”まで取り戻させちまうなんて…」
銀城「…はっ。バカな事言ってんじゃねえぞ。見た目だけなぞって戻った?一度目の死神能力の譲渡は、黒崎の中に死神のチカラが既にあったからだ。今のそいつに死神のチカラはねえ。俺が根刮ぎ奪い取ってやったんだからな。その0の状態から、てめえら2人の霊圧を注いだぐらいで黒崎の力が戻るはずがねえ」
ようやく我を取り戻した銀城の問いに答えた声は、宙に現れた戸の向こうから返ってきた。
???「馬鹿野郎。2人じゃ…無えよ!!」
一護「恋次…白哉…冬獅朗…剣八…一角…」
恋次「その刀には俺たち全員の霊圧が込めたんだ。一護1人の霊圧ぐらい戻せねえ訳が無えだろう」
茜雫「銀城。銀城が奪ったのは、完現術と融合した一護のチカラの一部だよ。銀城たちの”計画的“には、それでいいんだろうケド、その程度じゃ一護の足は止まらない。だよね…?」
一護「…ああ」
一護の力強い返答と共に振られた斬月。斬月の延長上に激しい風が巻き起こり、剣で防御体制を取った銀城を吹き飛ばす。
銀城「ハッ!!!確かに月牙天衝の威力は上ったが、こんなもんじゃ俺は殺せねえぞ黒崎!!」
一護「今のは月牙天衝じゃねえ。ただの”剣圧”だ」
宣言と共に斬月へと霊圧を込める一護。銀城のように、霊圧を感じられるなら脅威を間違いなく感じるだろう量だ。事実、隊長たちは1人を除いて身構えた。
銀城「なんだ…何なんだこの霊圧は!?」
一護「――月牙 天 衝」
銀城「ぐ……く……こんな…ッ。こんなもんで……俺を殺せると思うな―――・・・」
銀城が三日月の映える夜空へと飛んで行ったのを見送り、死神が訊く。
恋次「感じるだろ?」
一護「人間への力の譲渡は重罪なんじゃなかったのかよ?」
恋次「しょうがねえだろ。総隊長命令じゃよ」
―総隊長命令である。護廷十三隊全隊長・副隊長は全てこの刀に霊圧を込めよ!!―
恋次「ってな。総隊長も良いトコあんだろ」
冬獅朗「馬鹿言うな。トップの判断としちゃマトモじゃねぇ。かつての総隊長ならこんな判断はしなかったろう。それを変えたのがお前だ」
突如、宙を割るかのような衝撃と轟音。そして現れたのは、先ほどまでと、格好とオーラの違う銀城であった。
一護「何だ?」
茜雫「何よ!?」
冬獅朗「総隊長がお前に死神の力を取り戻させようと浦原率いる12番隊が説得に使った理由があいつだ。初代死神代行、銀城空吾」
白哉「信憑には値せぬと思うていたが、保身しか眼に入らぬ保守派さえも彼奴の計画を浦原から聞いたときには呉越同舟も宜なるかなと腹を括ったのだ」
茜雫「…??何言ってんの?おにぃさん?」
一護「恋次ッ!通訳ッッ!!」
恋次「お、おぅ。あー、あれだよ、あれあれ」
冬獅朗「黒崎に死神の力を戻すまでは共通してんだ。そのあとは、誰が舵を取るか決まっちゃねえのさ。尸魂界でもな」
茜雫(浦原さんの言った通り、なのカナ?)
銀城「おいおい、こっちに集中しなくて良いのかよ?こっちはもう、黒崎の力を全員に分け与え終わったぜ!?」
沓澤「おお、これが一護さんの完現術の力…!!」
ジャッキー「…フン」
雪緒「アハッ。これかぁ」
沓澤「まるで身体の内から若さが溢れ出てくるようだ………」
雪緒「感想が完全にジイさんだよ、ギリコ」
月島(能力が変に変わると嫌だから貰わないって決めたけど、一回で良いから欲しいな……)
茜雫「死神さんたちっ!あいつら、バラバラにするから、それぞれてきとーに頼んで良いっ!?」
冬獅朗「勝手にしろ、出来んならな。どうせ――浦原の話の通りなら、黒崎とその女死神”もどき”にしか銀城と月島とやらの相手はできねえらしいがよ」
茜雫「なんだいっ、口が悪いなっ!女の私より”チビ”のクセにッ!!」
冬獅朗「……んだと…?」
白哉「張り合うな。隊長に有るまじき器の小ささよ」
冬獅朗「朽木テメェ…」
一護「その辺にしとけよ。来るぜ。んで、茜雫、どうするつもりなんだよ?」
茜雫「こうするんだよ」
茜雫は刀を構える。まるで、天への祈りをささげる杖に見立てて…
一護「もしかして…」
茜雫「夕闇に誘え――」
月島「チッ、思念珠の斬魄刀は正確な能力が分からないっ!止めるぞ、銀城ッ!!」
一護「おせえよっ」
茜雫(だねっ♪)
茜雫「――弥勒丸っ!!!」
銀城「ッ。竜巻?チッ、バラバラにされるっ!!」
激しい竜巻が、彼らを弾く。完現術を携えていても、人間の能力では竜巻に抗うことは出来ないようだ。一人ひとりに向けて死神が駆ける。
月島「雪緒ッ!!」
雪緒「”デジタル・ラジアル・インヴェイダーズ”ッ!!」
しかし雪緒の完現術がゲームを超えて現実に閉鎖空間を作り出していく。
銀城「ナイス月島。なんとか俺らは”一護と思念珠”と同じステージになれたな…」
一護(コイツら…どこまで茜雫のことを知ってるんだ??)
一護「思念珠?なんだそりゃ?」
月島「応える前に、まずはこっちの目的を話した方が良いんじゃない?銀城」
銀城「それもそうか……黒崎、月牙天衝を、”全力”で撃ってみろ。そうすりゃ判る」
一護「何を言ってやがんだ…?さっさと質問に応えろよ」
月島「応えとして、僕らとして切り札に近い説得のためのカードだ。それを切ってるんだから、せめて試す位はしてくれ」
一護(…。)
茜雫「挑発じゃ…ないのかい?」
一護「さぁなぁ。ただ、試す意味はあるだろ……月牙ッ…天 衝ッッ!!」
銀城が代行証をかざした瞬間…
銀城「『メモリーズ・オブ・ノーバディ(何者にも汲められない結末)』」
茜雫「月牙がっ…掻き消されたっ!!」
銀城の代行証から放たれる輝きに触れた月牙は、空へと停まり、最初から存在しなかったように溶けていった。
月島「そっ、これが僕らの計画の第一段階。”零子盾”だ」
一護「零子…?」
銀城「あぁ、俺らは、力の為に零番隊が何故絶対的な存在理由を持つのかを月島の完現術と共に調べ、研究に明け暮れた。その結果、霊子よりも1段階、質的に上なエネルギー順位を持つ単位”零子”の存在へと突き当たったんだ。」
月島「まぁ、零子ってのは、銀城の「零番隊の強さの秘密に違いねぇ!!」って言葉から名付けられたネーミングセンス0の名前だけどね。螺子って言うのが正確っぽいよ」
月島(ふむ、やはり浦原先生が命名された”螺子”の方が良い響きだよな…)
銀城「うるせえよ。まぁ、黒崎、てめえにも覚えがあるんじゃ無えか?” 叫谷の崩壊によって世界が壊れる”なんてスケールでよ…。いやいや、”最後の月牙”なんて言った方が判りやすいか?オイ!!」
一護「ッ……!! 何でそこまで知ってんだ…?」
銀城「月島が街の彼方此方で挟んでる時、ふと見つけたんだよ。それと、最大の協力者は茶渡泰虎だ」
一護「なん・・だと・・。」
月島「僕は記憶の齟齬を見つけて、たまたま茶渡が便利だったって話さ。話を戻すと、零子ってのは霊子よりエネルギー順位が1段階上った時に定義できる、霊子の形成方法なんだよね。多分」
銀城「んなこと言ってもコイツらにゃ分からねえだろ。」
月島「僕でも良く判ってないんだ。どうしようも無いよ。…死神にしろクインシーにしろ、自身の心や精神を介して斬魄刀や弓を作るなどしているだろう。それの媒介を担っている物質として存在してるらしいのが螺子だ。」
一護「霊子の凄い版なんじゃねーのかよ??」
月島「あぁ、そうだよ。ただ、霊子が物理的/霊的な強制力を持つのに対して、螺子は記憶や魂を介して存在への強制力を持つんだ。思念珠が記憶の融合体となりうる背景には、死神能力のような特異能力であり、僕らは”媒心”と呼んでいる能力を持っているからなんだ。この能力は、死神が霊子を具象化して生産するように、思念珠が零子を具象化してブーストさせることを保障する能力なんだ。別に、思念珠は茜雫1人じゃないんだよ。もっとも、数は異様に少ないし断定材料が無いから茜雫は好機というワケだ。」
一護(思念珠ってのは、当てずっぽうで言ってるワケじゃねえんだな……)
茜雫「……話が全然分かんないっっ!!一護を裏切って完現術を奪う理由はなんだったのっ!?」
銀城「せっかちだな。零子っつー、霊子を超えた存在があることは分かったな。んで、さっきの完現術みたいにコイツを兵器転用をすることが出来りゃ、死神や虚、クインシーたち霊子依存の相手へと一方的な攻撃・防御が行えるようになる。さっき月牙を掻き消したみてえにな。ありゃ正確には月牙を止めただけだ。ただよ、茜雫と契約して零子を手に入れたは良いものの、霊圧経由で起動する方法が判んなくてよ」
月島「”媒心”を持たない僕らが大量の螺子を扱うには、思念珠の霊力と混ざり合った霊力が必要なことに気付いたんだ」
一護「それが…俺だったのかよ」
月島「そう。理由は分からないが、茶渡に挟んで得た情報から確立が高いと思ってね。茜雫の霊力と溶け込んだ君の霊力が蓄積された代行証から本質の発露を促し、それを奪うことで銀城の完現術に組み込む。そうすることで、擬似的に銀城が純粋な形で螺子を扱える、というわけだ。」
銀城「そもそも、ストッパーか何かは知らんが、普通の思念珠は死神の霊子のように零子を扱えないからな。」
月島「さらにサービスだ。他の死神が僕らとの戦闘を避けるのは、僕の完現術が斬魄刀にも有効であるコトを浦原喜助に仮定されてしまったからなんだ」
一護「てめえら…浦原さんにも・・・?」
月島「まさか。チャドが良く働いてくれたんだよ。浦原喜助が流石なんだ。僕らは、浦原喜助の仮説を、「ブック・オブ・ジ・エンド」というカンニングツールで確かめただけなんだ。」
月島(呼び捨てにしてごめんなさい、浦原先生……。銀城が五月蝿くて仕方無いんです……)
一護「てめえらの揺さぶりは分かった」
銀城「揺さぶりじゃねえよ」
月島「そもそも、本当に君は茜雫が狙われていた一件を、本当に無かった事にされたのかな?これも茶渡に挟んで得られた事実とから考えた結果なんだが、おそらく、その一件を厳密な意味で忘れていたのは、君だけだ。」
一護「なん・・だと・・!?」
茜雫「っ……!?」
月島「もちろん、大なり小なりの影響は有ったろうけどね。ただ、『茜雫とのかかわりを忘れさせたい。』とかって螺子を吸収した結果として忘れたように思っただけなんだよ、多分。どんな動機で茜雫がそう思ったかは分からないけどね」
茜雫(どういう…こと…?)
銀城「不思議に思わなかったのか!?思念珠が消えて暫くは記憶が保てた事に。茶渡や井上が本当に記憶を亡くしたのかと言う事に。奴らに聞きゃ判るはずだぜ、空白の時間がテメエと奴らとの間で隔っていた事に。」
月島「銀城の言う事も踏まえると、一護の霊子と溶け合った茜雫の螺子を、代行証と君自身が吸収する時間が、記憶を保てたインターバルだと思うんだよね。」
一護「ん?そういや…俺じゃなくて、代行証が…?」
銀城「あぁ、そうだ、ついでに教えてやる、黒崎。尸魂界の奴らがお前に仕組んだ罠をよぉ!!!」
銀城(こっからが本題だ…乗ってくれよ、一護。俺はテメエを殺したくはねぇ……)
銀城「そもそも、代行証の役割ってのを知ってるか!?お前はその効力を実感したことが有るのかッ!?」
一護「ッ……」
月島「代行証の役目は、監視と制御なんだ。持ち手の居場所を把握し、霊圧を蓄積する。卍解まで扱える君に限定霊印を自動でつけるんだ。井上の記憶を見たけど、気にならなかったのかい?弱いと言っていい隊長が圧倒できる破面、その同格とされる相手に、卍解の上に虚化までしなくちゃ話にならなかった事実に」
茜雫「そんなの…一護を見殺しにするようなものじゃないっっ!!」
銀城「そりゃそうだ、だが安心しろ。本質の発露に至った完現術の媒介は、それまでの役目を終える。俺らが尸魂界から捕捉されねえのも、俺の代行証が監視と制御の役目を終えてるからだ」
一護(…イモ山さんに見せても意味が無かったのか……)
銀城「そしてその計画発案者は、浮竹十四朗、十三番隊隊長。護廷十三隊で最も平和を愛する男に、俺”達”は嵌められたよ!」
一護「なるほどな……小難しい話だったけど、お前らの話じゃ、茜雫も俺も、生かしとく道理はねえよな。」
銀城「確かに、な。俺らとしても、お前は兎も角、思念珠を人間としても魂魄としても生かしたくはねえ。涅マユリの手にでも落ちたら意味が無くなるからな。」
一護「オマケに、そんな遠まわしなやり方をするんだから、茜雫にゃ直接手出しできねえ理由があるんだろ?」
茜雫「あっ、そういえば確かに一度、月島が現れたけど、突然倒れたときがあったよっ!!」
銀城「ちっ、そこまで覚えてんなら隠す意味ねえな。そうだよ、月島の能力は、思念珠にゃ使え無え。記憶の濁流は人間にゃ劇物だからな」
一護「それとよ、銀城。俺は、尸魂界側を信用できるなんて思っちゃねえよ」
銀城「なん・・だと・・?」
一護「何せ、”掟”なんてモンに縛られて兄妹が歪みやがんだからな………。俺は、死神の力を失って思ったんだ。いつから俺は、目に見えないモノまで”守ろう”なんて思ったのか、ってな」
茜雫「一護…」
一護「昔は、”スーパーマンじゃねえ俺なんかじゃ、両手に乗せられる人達しか守れねえ“と思ってた。でも俺は、たくさんの人を”守り”たいんじゃない。大切な人を、”理不尽な目”から”護り”たかったんだ。幽霊が見えて、死神の世界に関わって、俺は、理不尽な目に会う”心”を救えるんだ、って、そう思ってたんだと思う。」
月島(彼は…銀城、今、君の心はなんて叫んでるんだい……?)
一護「でもそれを失って、それを求めて、金っつう即物的に理不尽を解決する手段を求めたりもして……でもどれも違ってた。でもよ、ずっと前に、茜雫との出会いが決定的に、教えてくれていたんだ。茜雫との再会が、何が俺の願いと心をごっちゃにしたのか、それを思い出させてくれたんだ」
『太陽みたいに俺を振り回す茜雫が隣に居てくれた。』
――どこほっつき歩いてんだよ。―――
――私の勝手でしょ!――
――そうはいかねえ。約束は、守ってもらうぜ――
………「なんだよ?ってうぉ!何すんだよ!?」………
………「へっ?耳かきだよ、み・み・か・き~♪」………
『”思念珠”だとかワケ分かんねえ理由で”理不尽”な目に会った茜雫を護る為に死力以上の力を尽くせた』
―― 一護っ!何…?いやだっ、やだよぉっ!!――
――てめえらっ…ジャマだぁっっ!!!――
………「止めてよ銀城……一護が死ぬのは…ヤなんだよぉ……――」………
………「ふざけんなっ……護りたい人の元へ迅くッ!護るべき人を護り抜けるように永くッッッ!!!”天鎖斬月”のようになれよッッ!!」………
『”茜雫の為”でなきゃ力を”チカラ”に出来ねえ自分に気が付いたんだ』
――思念珠として覚醒する前に人間的な恐怖と苦しみを味わうことになるのだ――
――そんなことねぇっ!!茜雫は、茜雫は今っ、ココにいるっ!!!不安で、怖くて助けを求めてる。俺はそれを”護る”って、俺の魂に…誓ったんだッ!!――
………「どうした。可哀想に。怒りの余り言葉の続きが出てこないのかい。それなら…茜雫も呼ぶかい?」………
………(茜雫は俺の前に現れちゃねぇ。信じるんだ。絶望で足を止めるなッッ!!)………
『”茜雫”っていう”辛い目に会った”女の子とただ単に、心を通わすことが出来た』
――あったかぁい…。また…会えるよね……??――
――なに言ってんだ。あたりまえだろ――
………「言ったろ。”また会える。当たり前だ”ってな」………
………「ニヒヒッ♪今更カッコ付けても遅いぞっ、一護っ!!」………
「代行証は、虚圏で井上に呼ばれてウルキオラを倒す時に発揮したような力なんかじゃない。茜雫というたった1人でも大切な人のために発揮したチカラこそ、俺が亡くして辛かったチカラなんだ、って本音を拾ってくれたんだ」
月島「だから…”虚”の記憶ではなく”天鎖斬月”の記憶だったのか…」
茜雫(“キミ”の言う通りだったね…。私を択んでくれて、ありがとう)
銀城「…」
一護「俺は、俺自身も大切なんだ・って思える”繋がりのある絆”を護る為に理不尽と戦う。今、”思念珠”なんて理不尽な理由で狙われる茜雫が居る。俺にとって、一番大切なのは茜雫だッ!!だから今はッ…、茜雫を護ってテメエと戦うんだよッ!!」
銀城(なぁ、お前が勝ったなら……)
銀城「ちっ、交渉決裂かよ…………。テメエは殺したくなかったんだがな………。」
銀城(月島…)
月島(分かったよ…)
銀城「卍解――」
霊圧が噴出し、銀城の姿を覆う。
月島「銀城…使うんだね。自分で封印をした…卍解を…」
茜雫「封印…?」
月島「”茜雫”、君なら薄々感ずいてるだろうが、完現術ってのは道具を介して”誰かや何か”との”関わりや絆の特徴”を再現する能力なんだ。…破面の刀剣解放と似た理屈なんだよね。だから例えば、”一護”の代行証ならば”死神の頃の自分”との間に培われた”死神の能力”を再現する。僕の栞ならば”人々の記憶”へ埋め込む”理想的な自分”を再現する。茜雫、君にとっては…」
茜雫「一護がくれた暖かさ、ってとこカナ。リボンから羽衣になるなんて、どうしてかと思ったら、案外ロマンチストじゃん、一護っ……。」
一護「うっせぇーよ、んなわけあるか。……そんで銀城」
霊子の噴出から出でた銀所の姿は、まるで魔王そのもののように、威圧と畏怖とを感じさせる出で立ちだった。
一護「お前の場合は”死神との決別”ってとこかよ?だから日本刀状の剣じゃなくて西洋剣なのか?」
銀城「さぁな。…直ぐに終わってくれんなよ? 『メモリーズ・オブ・ノーバディ(何者にも汲められない結末)』が有る限り、攻撃は一切効かねえからよぉ」
一護(チッ…確かに最後の月牙でなきゃブチ破れるか分からねえ”異質”さだったな……悔しいが次元が違った……)
月島(銀城…そこまで言葉にするってことは……)
茜雫「一護…、私が霊圧を貯められるまで、耐えられる?」
一護「茜雫?」
茜雫「一護の”感覚”を手に入れて”ぱぅわ~あっぷ”したのは銀城だけじゃないよ。一護の完現術が完成したとき、私に一護の霊力が混じったんだからね。」
一護「…わぁーったよ、信じるぜ。………はぁぁ…………」
月島は一護に切りかかろうと構える。が、動けない。まるで大瀑布を思わせるような圧力を目の前の死神に感じたからだ。
一護「卍ッ解ッッ!!!!――――天鎖斬月」
大瀑布の解放と共に、物理的な威圧力を放ちながら出てくる一護。雪緒の完現術で抑えることは出来なかったらしく、ゲーム世界が破壊され月夜が露になる。天鎖斬月は以前の卍解に似た服装だが、コートの前止めが交差し、刀の先端の方に残火を思わせる3つの波が付いていた。
月島「ッ!!なんて迅さと……重さ…だっ…」
月島が構えるや否や、一瞬で間合いを詰め、月島に一撃を見舞う。構えていたにも関わらず、辛うじてしか受けられない。受けられたは受けられたが、月島は小石のように吹き飛ばされる。そして一護は銀城に向かい…
銀城「無理すんな、月島!!今の一護の卍解はお前と敵対してからの時間軸しか持たねえ。今までのように斬魄刀に挟んで遣り繰り出来るほどの歴史がねえんだッ!!」
一護「余所見かよ?」
銀城「分身!?」
銀城の目を離した隙に超加速。実体まで感じさせる速度で銀城を取り囲む一護。辛うじて剣で受けていた銀城だったが、劣勢を悟ったのか、代行証を握り締め…
銀城(10,20どころの数じゃねぇ!!…しかも全部”実体”がありやがるっ…)
銀城「『メモリーズ・オブ・ノーバディ(何者にも汲められない結末)』ッッッ」
一護の斬撃の雨は、蒸発するかのように勢いを殺がれ銀城まで届かない。銀城への攻撃が届かないと見るや、再度超加速。月島に肉薄し…
月島「これは…マズイッ…!!」
月島(エクセキューションは基本人間だ。慣れや戦法でどうにかならない”侘助”や” 疋殺地蔵”みたいな斬魄刀への対策は完璧だがっ・・・)
月島「グァッ!!」
銀城「月島ッ…!!」
一護「白哉がムキになるだけあるわ。忘れてたぜ、卍解ってのは流石だな…。まだまだ余裕あるわ…。そんなワケでオマケだっ、銀城っ!月牙 天 衝 !!」
銀城「『メモリーズ・オブ・ノーバディ(何者にも汲められない結末)』」
黒い三日月もまた、銀城へと届かずに虚空に溶ける。
銀城「ハッ。残念だったなぁ。この完現術が有る限り、てめえらの攻撃はきかねえんだよっ!!」
銀城の口上を否定し、勝ち鬨をあげるかのように噴出する霊圧。一護も、銀城も、この光景を良く知っている。
月島「なんだ…一体…」
茜雫「おーけー。ただ、霊圧をガッツり持ってかれちゃうから、後はヨロシクね、一護」
一護「あぁ」
月島「させないよっ……死――」
一護「わりぃな……」
感情的になり、茜雫を狙った月島の胸を、一護の卍解が貫いた。
月島(銀城……)
銀城(月島……)
銀城「容赦ねえなぁ。しょうがねえ。『メモリーズ・オブ・ノーバディ』」
一護「展開し続けて霊圧持つのかよ?」
茜雫(一護…スゴク悲しそう…。)
銀城「俺も卍解状態だからな。要らねえ心配だ。攻撃が一切通らなくなるんだ。自分たちの心配してろよ。直ぐにカタをつけてやるさ」
茜雫「いくよ、銀城…」
茜雫「――卍解――『守結天弥勒丸(かみゆいてんみろくまる)』」
銀城「お前みたいな半端な死神にも出来るのかよ。卍解のバーゲンセー……??」
茜雫「弥勒丸の”本質”を知ってから言ってほしいね…」
銀城「…?斬魄刀が・・消えた・・?」
茜雫の手から斬魄刀が紅光と消え、その光は茜雫の衣服として再生された。それはまるで神への祈りを捧げる巫女のような緋色の袴、その上に紅い幾何模様の入った純白の衣を纏っていた。彼女の色白さ、宙に広がる濃紺の髪、闇夜でも分かる大きな琥珀色の瞳と相まって、さながら現世へと降り立った天女のようであった。
茜雫「ぅん……やっぱすごい霊圧持ってかれる…一護…後頼んだよ。」
一護「おう」
銀城「何をする気か知らねえが…代行証がある限り…」
茜雫は一護へと後を託し、罪を潅ぐがごとく両手を組み天へ祈りを捧げる。
茜雫「――千夜卍夜(せんやばんや)に誘え――弥勒丸――」
銀城「???なん・・だとっ・・!!?代行証が粉々に砕けやがった…何をしやがった!?思念殊ッッ!!」
銀城の代行証は、まるで日焼けし、色あせ、手垢で擦り切れ、大切にされた写真が寿命を全うしたかのごとく魂が消えていた。
銀城(完現術が…発動しねえっ…!!)
茜雫「弥勒丸は、全ての斬魄刀で唯一”実態を持たない”斬魄刀なんだよ。始解の形も人によって違う。それはね、弥勒丸が”時間”を本質に持つってことなんだ。
銀城「時間・・だと・・?」
茜雫「そう。弥勒丸は”どんな時間”に生きた魂魄の魂を注ぐかで始解の形も能力も変わるんだ。そして卍解では、そういう時間で対象を”跳躍させる”。最も私の霊圧だと、小さな代行証を風化させるので精一杯だったみたいだけどさ…」
一護「茜雫の時間でか。どうりで冥利に尽きるって感じで朽ちてるわけだ」
茜雫「照れるぜっ!」
一護(はっ…思わず本音口走っちまった分、恥ずかしいッ…!!)
銀城「ばかなッ!!そもそもなんでお前如きが卍解を使える!!」
茜雫「銀城達の言う”零子”と共に入ってきたからだよ。一護の…”天鎖斬月”解放の記憶がね。」
銀城(ッ!!…そうか・・俺は思念殊の零子と融合した一護の霊力を、ヤツの完現術ごと吸収した…。それは奪った一護の霊圧を経由して発動させられる”零子形成の矛と盾”を手に入れる為だった……)
銀城「お前は…融合した一護の霊力を経由して卍解を発動させたって言うのか…!?」
茜雫「うん。銀城達の言葉で説明しなおすと、卍解って、斬魄刀が宿した零子を展開させる術式だもんね……。”天鎖斬月” が教えてくれたよ。よし、後は・・頼んだぞ、一護っ…」
一護「ああ、一瞬で、ケリを付けてやる」
銀城「舐めるなよっ!!餓鬼がよっ!!」
一瞬の交錯で、銀城の剣は一護の刀に切り落とされていた。そして、銀城の身体に線が入ったと思うと、血の泉がわき出していた……。一護は茜雫を抱きかかえ、その結末を見送った。
茜雫「ん…ん~んっ!!おはよ~」
一護「おう、起きたか。浦原さんに聞いたよ。浦原さん家に身体置いてきたんだってな」
茜雫「ん~」
一護「聞いてんのか?」
茜雫「やっぱあったかぁ~いぃ」
一護「さっさと行くぞ。やっぱりタヌキ寝入りじゃねえか。降りろ」
茜雫「って、アレ?一護も死神のままじゃん。身体は?」
一護「浦原さんが持ってったよ。っつうか下りろ…って首に手を回すなっ!」
茜雫「イヤなの?アタシの身体やわっこかっただろぉ??」
一護は今、斬月を背から腰へと下ろしている。それもこれも、一護に無賃乗車している少女のせいなのだが…。
一護「うっせ~よ。ホントに叩き落とすぞ」
一護(斬月越しに乗っけたら嫌がったのお前だろっっ!!)
茜雫「あっ、帰り祭りよってこーよ」
一護「ったく。観覧車じゃなかったのかよ」
茜雫「良いのっっ!!?じゃあ、帰りは遊園地な!!」
一護「高校生は金持って…いや、良いか。たまにゃ」
茜雫「やっほ~いっ、いぇ~いっ!……ごめんね、一護。私…月島のことは知らなかった。でも、銀城とは、”契約”してたんだ。私は突然、完現術と一護のデジャヴを観た。探してたら、銀城たちに会ったんだ…。それで、一護のこと、調べてもらうって約束で、完現術の一部をあげた。」
一護「そうか。」
一護「別にいいさ。茜雫が話したくなったら、続き話せよ。卍解までしたんだ。今はまだ疲れ残ってんだろ。寝てろよ」
茜雫「……zzz」
一護(もう寝てんのかよっ!?)
反射的な突っ込みさえも押し殺して心で突っ込む辺り、黒埼一護という人間性が見えるやり取りであった。
月島「銀城…なんでだよ銀城…」
銀城「わめくんじゃねえよ、ボウズ……」
月島「銀城!」
銀城「ちっ、迎えは死神かよ」
恋次「てめぇらをソウル・ソサエティに連行する」
白哉「…一つ、言っておく。黒崎一護、あやつがソウル・ソサエティの掟と戦った結果、沢山の人が変わり、沢山の法が生まれ、沢山の掟が本質を思い出した。今のソウル・ソサエティを観て尚、弓を引くと言うのなら、四大貴族の一当主として、私が剣を以て受けて立とう。……恋次。」
恋次「はい」
浦原「お帰んなさい、黒崎さん。お疲れサマでした。銀城達の遺体は、阿散井さんが運ばれて行きましたよ」
一護「そっか。アリガトな、茜雫の事。死神の力の事。それでさ…」
浦原「えぇ、お話ししますよ。何から聞きたいです?」
一護「わりぃけど、何から聞いていいか分からねえんだ。だから、浦原さんが、俺たちが知るべきだと思うことを教えてくれねえか?…ただ、茜雫の事だけはハッキリ知っときてぇ。ソウル・ソサエティからしたら、茜雫をほっとく道理はねえんだよな?どういう扱いになってるんだ?」
茜雫「ッ!!猫だぁ。クロネコっ!!にゃ~ぉ・・にゃにゃ~にゃ~お~」
一護「もうお前がネコだろっ!!」
浦原「あらら。夜一さん、スミマセンが後10分程はお静かに出来ませんかね…?」
茜雫「猫に話しかけてるっ!っって頷いたっ!!このニャンコあったま良い!!!お手っ、うわっ、賢い!!ほらっ、一護もお手しなよっっ!!!!」
一護「ちょい我慢しろっ!!俺らにとって大事な話なんだ!!」
浦原(血は争えないっスねぇ…。真咲さんみたいな子を連れてきましたよ?一心さん…。)
浦原「では、大きく三つ。アタシの行動と、茜雫さんの安全、思念珠とは何かに関してお話します」
浦原「アタシの行動のそもそもの発端は、零番隊の能力を、別の霊子学的なアプローチから勧めた所から始まります。例えば、浸かるだけで傷の癒える温泉。全ての死神の最大戦術の大本を作りだす浅打。それらの単に霊子の量が多いというだけでは説明のつかない事象を考える為に考えたアプローチが、”螺子”という単位です。」
一護「あぁ、銀城達は零子なんて呼んでたよ」
浦原「成るほど、良い得て妙ですね。実はこの螺子、崩玉の作製にも使われています。それはともかく、螺子とは”様々な単位”の原点になる性質を持っています。そこに霊子がくっつき、霊子に形を与え、霊的位の高い順に役割を与えて行くんです。その過程の応用が、所有者の精神を移す斬魄刀の生成であり、傷付いた霊子と在るべき形を仮想的に再現した霊子と交換する温泉だったりするわけです。銀城たちと交差するのは、茶渡さんが螺子についての授業を受けに来た辺りっすね。話に興味が有れば、続けますが?」
一護「浦原さんの過去の研究ってのが判ればいいや。茜雫の話を頼むよ」
浦原「分かりました。茜雫サンの安全についてなんですが、ソウル・ソサエティでは心配要りません。『聖別』。黒崎サンには、この言葉だけは知っといて欲しいんですが、近いうちに”戦力”ってのを揃えておかないと危ないんスよ。そこで、その危機を理解している涅さんを経由して、茜雫さんを思念珠という事を伏せ”モッド・ソウル”の進化版という風な体で話を付けたんス。」
一護「コンたちの進化版…!?」
浦原「えぇ。原則、死神の成長は遅いんスよ。何十年と修行して席官になったにも関わらず、数週間の特訓をした人間が凌駕しちゃいます。そこで、人間の成長率を他のベースで再現できないか、というテーマの元に作成したのが茜雫さん、ということになっているんス。」
茜雫「アタシって実はすげーっ!!」
黒猫を目一杯愛でた茜雫が、黒猫を抱っこして近寄ってくる。
一護「設定だっつのッ!!でも、そんなんハイ、オーケーってすんなりと通るモンなのかよ?」
浦原「もちろん、根回しに仕込み有りきですから。それと、思念珠ってやつについてですが…茜雫さんが後で話すんですよね?」
茜雫「ネコちゃんも話すって!!」
一護「そっか。あんがとな。あ、俺の記憶は落ちてたけど、皆の中にゃ記憶残ってたってのは本当か?浦原さん?」
浦原「えぇ。ただ、黒崎さんと茜雫さんに戻った”真実の記憶”ってやつからは遠いでしょうね」
一護「どういう・・?」
浦原「まず、叫谷ってのは定義できる災害みたいなもんなんス。んで、それを人為的に引き起こされている可能性が高い事を空座町担当の死神と死神代行が偶然発見。その死神代行・黒崎一護が偶然入り口を発見し突入。首謀者厳龍は死神代行が撃破。続いて日番谷隊長率いる部隊で制圧。となっています」
一護「ん??でもよ、最後は…」
茜雫「そ。私と一護が中に居たんだよ。でも、ある人が助けてくれたんだ。そこら辺と、戦った相手がダークワンだって記憶が変になってるのよ」
浦原「えぇ。茜雫さんの話を以前伺いましたが、それについては茜雫さんから黒崎さんへと伝えたいそうっス」
一護「判った…。ただよ、確かに、あの時茜雫は確かに消えちまったぞ・・・?茜雫は居なくなら無えよな?」
浦原「ええ…心配要りません。後で茜雫さんから話されると思いますが、当時出逢った茜雫さんは魂魄の方でしょう。そして、魂魄体の分身が消えても、その記憶や得た物が無くならず、それどころか魂魄本体に還元されるケースが有ります。因みにそれなら、黒崎さんも経験してるはずッスよ」
一護「マジかよッ!?」
浦原「具象化と屈服。卍解の修業っスよ。あれも螺子を介してと考えていますが、多くの死神は”斬魄刀という本体”と"斬魄刀の本体"を同時に呼び出して行っています」
一護「あ…確かに恋次は蛇尾丸出したまま呼び出してた…そんで最後にゃ卍解を…」
浦原「えぇ。茜雫さんの場合はおそらくですが、厳龍が転神体に似た道具を使って、純粋な螺子を取り出そうとでもしたんでしょう。浅知恵っスね。厳龍が斬魄刀を持ち出してこなかったのは、その辺にも理由が有るんじゃないですかね。」
茜雫「あっ、ウラえもんっ!そこらへんからはアタシが話すよ!アタシが記憶取り戻したの、17ヶ月前だった理由とか、誰が私たちを助けてくれたのか、とか」
一護「そうだ、なんでウラえもんなんだよ!?」
茜雫「いやさ、この人いろんな物取り出すんだよー。羽織の懐なのが残念だけど」
浦原「んじゃあ今度は、腹の辺りから出しましょう。…では、気を付けてお帰りなさい…と言いたいところですが、代行証のこと、どこまで聞きました?」
一護「監視と制御の為だって事まで」
浦原「ほぼ全てっスね。ちなみに、気付いてますか?霊力のこと」
一護「あぁ。でも、なんでなんだ?」
一護(感触だけで言えば、始解でもドンパニーニと戦った時の虚化並みの力を出せる実感が有った……。ぶっちゃけ、茜雫を護る必要が無きゃ始解で十分に倒せた……。)
浦原「えぇ、代行証が完現術の媒体となったとき、黒崎さんの封印の杭としての役目を終えたんス。だから、今の黒崎さんなら以前の全力を始解レベルでも発揮できたハズだ。これまた余談ですが、アタシは、物質が本来の役目を卒業するという現象を”準思念珠化”と名付けています。あ、それと今はアタシが黒崎さんに限定霊印を付けさせてもらいました」
一護「そうなのか…」
浦原「解除するには、代行証を掲げて『受けてみよ 正義の力! 正義霊装ジャスティスファイブ 装☆填!』ってやってください」
一護「ふざけんなっ!?」
茜雫「シ・・シリーズ物だったのかっ・・!?」
一護「そうじゃねえだろっ!!」
浦原「一護さんの”方”は冗談っス」
一護「たりめぇだ!!戦ってる時にチンタラできるか!!」
浦原「あ、ほいほい解除されちゃ困るのも事実なんで解除に条件はあります。一定以上のレベルの黒崎さん以外の霊圧を吸収したら枠が赤くなるんで、したら心臓の辺りに押し付けてください。それが解除の条件っス。吸収した霊圧で解除術式を起動します。また霊圧限定するときには、同じ辺りに代行証を付けて下さい。制限後に生じる余剰霊圧を前借して限定式を組み込むんス」
一護「やれば出来るじゃねえかよっ!?」
浦原「技術開発局が使用している現行術式の500年先は行ってると思いますよ、えへん。」
茜雫「さっすがウラえもん……」
浦原「…………完現術完成時、準思念珠化が起きた代行証から天鎖斬月が現れたって事は、”代行証が役目を終える=天鎖残月の能力の封印を解く”って図式になるんスよ。月島が黒崎サンの完現術で天鎖斬月の出現に驚いていたという所を鑑みるに、銀城達の本来の狙いが、"虚"の力を完現術として発現、そして”斬月由来”の力を代行証に封印したまま黒崎サンを覚醒させる腹積もりだったんでしょう。もしもの時に、確実に黒崎さんを制圧出来るレベルで有りながら、黒崎サンの完現術を奪う為の条件と思われる”完現術の本質の発露”を引き出す為でしょう」
一護「ん…?ああ。急にどうしたんだ?浦原さん??」
浦原(気付いてるんスか?一護さん…。天鎖残月が代行証に”封じられていた”って事は、尸魂界の施した封印術は、”貴方が卍解だと思っていた”モノを結果的に”脅威と判断”し封印しようとしたんスよ? 尸魂界の理ってヤツからしたら、貴方の卍解の本質は、死神のソレとは相容れない”脅威”かもしれないんス……。)
茜雫「どしたん?ウラえもん??」
浦原「いえ、やっぱ止めましょう。何でも無いっス…あ、もしもっスけど、何か困ったら、言ってください。あたしは何時でも、尸魂界じゃなくて現世に居ますので」
浦原(それにしても”卍解”との対話っスか……)
一護「そーいや、なんでそんなに銀城たちの動向や完現術に詳しいんだ?」
浦原「やだなぁ。茶渡さん引っ掛けて情報頂くなんてチョロイもんっスよぉ!!」
授業終了のチャイム代わりなのか、軽やかな音を立てつついつの間にか身に着けた”青い腹巻”から扇子を取りだした浦原だった。
浦原商店を出て、人気の無い神社のベンチに腰を掛ける二人を、穏やかな風が包み込む。
茜雫「ウラえもんが言うには、私が叫谷で力を失ったのは、無月で死神能力を失くした一護と同じような症状なんだってさ。『思念珠版の鎖結、思念垂体の許容量を超える螺子を隷属させた結果っス。死神が鎖結を壊した感じっスね』だって。」
一護「そうなのか…」
茜雫「私、叫谷で、世界の崩壊を防ぐのと引き換えに死ぬつもりだった」
一護「なんでッ!?」
茜雫「言ったでしょ、世界が無くなるより、一護が死ぬのが嫌なんだよ…。だから、私が操れるブランク、螺子たちと共に、叫谷を成立させてる螺子を消すつもりだった」
一護「でも、俺が来ちまった、か…。」
茜雫「見した方が速いかな、何があったか。ホントに凄いよね、ウラえもん。ちょっと恥ずかしいけど、コレで私の見せたい記憶を一護にだけ見せれるんだって」
一護「おまっ…それ…シリアスな雰囲気台無しじゃねーか!!!」
茜雫が握り締めるのは、一護がいつぞや浦原に付けさせられたヘッドギア
茜雫「い、言うなよっ!ばかっ!!」
一護「ま……マジでやるのかよ?」
一護(シリーズ物ってそういう…)
茜雫「うるさい…本気で泣くぞ……。う、受けてみよ あ…あ……愛の力っ! 親愛霊装アプロディタハチマキ …装☆着!」
一護(俺の時とセリフがちげえッ!?)
一護「……」
茜雫「何も起きない……ウラえもんの話だと、光が灯るって…」
一護「声が小さかったんじゃ……」
茜雫「ううう……」
全力で叫び見事な輝きを灯したヘッドギアをつけ、顔を真っ赤にした茜雫がやや顔を青白くし突っ込む気力さえなくした一護へと頭突きをした。……瞬間、物理的で無い痛みが、彼を襲った。
茜雫「世界が消えたら、一護も消えちゃうから。そんなの…ヤだよっ!!」
叫谷の中から救われた茜雫は、一護に別れを告げる。ぶっきらぼうに再び一護から渡されたリボンが未練を伝えるように翻る。
一護「やめろッ!!お前はこれから――」
茜雫「私よりっ!!!一護が死ぬのがヤなんだよぉ!!!!」
未練を断ち切り覚悟を決めた彼女へと集まり、竜巻のような奔流を生み出すブランク達。
一護「茜雫ッ!!茜雫ッッァーー!!!!」
五感を塗りつぶす圧力が、世界を埋める。
茜雫(駄目だ。ずっと、一護のことばっかり。もう直ぐ死ぬってのに…)
ブランクに命を蝕まれている違和感からか、茜雫の飾らない本心が漏れていた。
茜雫「もう直ぐ死ぬってのに…一護に逢いたい。一護ともっと一緒に居たい…。」
???「諦めるのか?」
茜雫「誰!?」
???「お前の望み、叶えてやろうか」
つい先ほど、思念珠の樹から自分を救い出した一護の、その卍解と同じ出で立ちをした青年が立っていた。
???「この環境で助かった。一護の意思が無くとも具象化出来た……。私が分かるか?」
茜雫「卍解…天鎖…斬月……でも、なんで…」
天鎖「一先ず良しとしてやる。私は、私の護りたい者の為に来た。……ん、ゆっくり話すのに邪魔だな、コイツら」
具象化した天鎖斬月が手を掲げると、茜雫はコート状の死覇装を纏った。天鎖斬月で一護が纏う死覇装だ。
茜雫「え!?なんでブランクが…」
茜雫がダボダボのコートを羽織るや否や、茜雫を蝕む違和感が止まる。
天鎖「故有ってな。私は些か死神の理からずれている。元来とは”保護”する相手が違うようだが、巧くいったようだな」
茜雫「キミが…一護の力…」
天鎖「今はな。そのうち退かねばならん。で、どうする?」
茜雫「え?」
天鎖「一護に逢いたいのか、と言う事だ」
茜雫「逢いたい…でも…。」
天鎖「でも?思念珠などという自分じゃ、一護と共に歩めぬ、とでも?」
茜雫「……ウン」
茜雫の逡巡を見たからか、鋭い瞳を茜雫の琥珀色の眼へと向ける天鎖斬月
天鎖「一護を見て、何を感じた?」
茜雫「へ!?…んー、あぶなっかしい、かな。一護、直ぐに傷つくんだ…自分で背負い込んじゃうからさ…ほんとは…よわっちぃクセに…」
天鎖(この娘は一護の心を拓かせただけじゃないのか……)
天鎖「一護の弱さに眼を向けたのは、茜雫が初めてだ」
茜雫「え?一護には、仲間が居るんでしょ」
天鎖「あぁ。なのに一護の周りに居るのは、”一護なら折れても大丈夫”と妄信している者ばかりだ。……一護が”泣きそうな声で嘘を付いても”な。」
茜雫「そうなのか…でも…それじゃ一護が…磨り減っちゃうよ……」
天鎖「全くだ。一護は高校生。本来なら、筆記具を握り、仲間と笑い合って日常を過ごす。」
茜雫「うん…」
天鎖「だが斬魄刀を握り、殺しあった者を隣に非日常をすごしている。その中に…救いが無いんだ。だがお前は違う。一護にとって何よりも必要な”日常”をくれていた」
茜雫「うん…楽しそうだった。」
天鎖「一護には、そんな人間が必要なんだ。だから私がやろう。お前に、一護とまた巡り逢う奇跡を。」
茜雫「ホントに…?」
天鎖「あぁ。お前の中のチカラは、想いを以て存在に影響を与えられる」
茜雫「私のチカラ?」
天鎖「あぁ。思念珠の、と言い換えてもかまわん。私が力を貸す」
茜雫「でも…思念珠の私は…一護の負担に…」
茜雫の悩みの本質を見つけてか、一考してから天鎖斬月は口を開く。
天鎖「お前は誰を選ぶんだ?」
茜雫「え?」
天鎖「どの道、お前は誰かに護られて生きねばならぬ」
茜雫「……うん」
天鎖「一護はお前を択んだ。お前は、誰に護られたい。そして、誰なら支えようと思える?」
茜雫「そんな言い方…ずるいよっ…」
天鎖「心の裡は決まったな」
茜雫「……うん。私は、どうすれば良いの?」
天鎖「私を使え。正確に言うと、現世に居るお前の本体に、今のお前の記憶や想いを還元する」
茜雫「へっ?…えっと…」
天鎖「一護が死神から生身に戻っても、記憶は引き継がれていただろう。同じ事をする。もちろん、ブランクの消滅などというエネルギーを直接受けては記憶なぞ吹き飛んでしまう。」
茜雫「って駄目じゃん」
天鎖「話は最後まで聞け。そこで私が変わりにエネルギーを仲介する。そうだな…正常に還る為の手続きを私が代行する」
茜雫「ってか私生きてたの?あのお墓はっ!?」
天鎖「墓?知らぬわ。大方関わっていた魂魄の子の記憶を少し貰ったんだろう。というより、気付いていなかったのか?思念珠とは鎖結の変わりに別の器官を持った人間の総称だ」
茜雫「えーっと…今の私は魂魄みたいなものなの?」
天鎖「そう言えるな。虚化の人間版、人間化とでもいう能力を持っているんだろうな。思念珠として破格の能力を持っているんだろう。普通、あんな形で人間体と死神体の行き来は出来ない」
茜雫「…なら、ホントに一護と逢えるんだね……」
天鎖「ああ。だが注意しろ。どんな想いでブランク達を発散させるかで結末は変わる」
茜雫「発散?想いが必要なんだね…?」
天鎖「想いを以て存在に影響を与えると言ったな。それを成し得ているのが、お前らが言うブランクの核だ。そして実行権を持つのが思念珠なんだ。本来は極微少のブランクしか関わらないのだが、馬鹿者共が阿呆みたいな量のブランクを集めたからな。ブランクを発散させる際のお前の想いが、世界にそのまま投射される可能性が高い」
茜雫「そっか…分かった…」
茜雫(だったら…私は…)
天鎖「心の準備は良いな」
茜雫「うん」
天鎖斬月が見届けるや否や、その姿が欠片と変わり、茜雫の手の中に刀として再生される。そして、茜雫の頭の中に天鎖斬月の声が響く。
天鎖「私が繋いでいる一護の霊力とお前の霊力を融合させるぞ。」
茜雫「天鎖斬月の力を使うため、だね?」
天鎖「そうだ」
天鎖斬月を携え、茜雫は前を見据える。生きて一護とめぐり合う未来を観て覚悟を決める。ブランクの奔流が薄くなるだろう刹那。
天鎖「……今だッ!!駆けろッ!!」
茜雫「退けば老いるぞッ」
天鎖(一護…案ずるな。ちゃんと、お前と巡り逢わせる)
茜雫「臆せば死ぬぞ――」
茜雫(信じるんだっ…奇跡を……)
茜雫の言葉をスイッチにして、天鎖斬月からブランクを押しのけ消滅させる圧力が放出される。丁度薄くなったブランクの大河が裂かれ、叫谷を形作っていると感じられるブランクを消し飛ばす。茜雫は、一筋の光のように世界を跨いだ。
天鎖「想いを強く持てッ!!ブランクに語りかけろッッ!!!」
茜雫(一護も、街の人も、この二日間”普通の日常”を過ごしたんだッ。一護は…傷付かなかったんだッッ……もう一度……もう一度私は一護と出逢うんだっっ!!!)
ブランク達に彩りが付く。優しい茜色に染まったブランクは、世界へ解けるかのように消えていった。
茜雫(そういえば…なんで天鎖斬月はこんな事が出来るんだろう…まさか私と同じ思念珠なの?)
茜雫「ねぇ、天鎖斬月は…あ、身体が消えて――」
茜雫の身体が消えるのと入れ違いに、天鎖斬月が再び姿を現す。
天鎖(茜雫は還ったな…。叫谷を形作っていたブランクの消滅で場が崩れてきたか…)
????「なぁにが、そのうち退かねば、だ。”退いて老いた”結果が、”自称斬月”じゃねーか」
天鎖「お前か…」
????「何でまた、あの嬢ちゃんを守ったんだ?思念珠なんざ、お前の望む一護の安寧とは程遠いんじゃねか?」
天鎖「かもしれん。が、私は一護が戦いの道を掴み取るだろう気がする。不本意だがな。そのとき一護に”支え”が無いんじゃ話にならん」
????「確かになぁ。一護の為と口だけ達者なお友達に、生きた時間に釣り合う成熟が見られない死神様。ぶっちゃけ、敵の罠に掛かったお仲間に殴り付けられる日が来るんじゃねーか?」
天鎖「……否定できん。」
????「だから一護の弱さに目を向けてくれたアイツが必要だってか?」
天鎖「あぁ。しかし…少しばかり不安だな…」
????「俺らは一護へと還るから、か」
天鎖「話が早いな」
????「良くあんなことしたぜ。”何の為”かねぇ」
天鎖「…茜雫が一護に必要だと思っているの”も”本心だ」
????「思念珠と関わって欲しくないのも、本心だろ。さぁて、どっちが本心として強いかな」
気付いたら浦原商店に置いたはずの肉体に戻っていた一護は、眩い光の渦から出てきた茜雫を受け止めた。
一護「茜雫ッッ!!!おい茜雫ッッッ!!!!」
茜雫「ん。なんか…夢を見た気がするよ…」
一護「そうか…。……どんな夢なんだ?」
茜雫「へへ。一護みたいな人がさ、私と一護が巡り逢う奇跡をくれるって…」
一護「ははっ、叶ったじゃねえかよ」
茜雫「ねぇ、一護…お願いがあるんだ」
茜雫(最後に確かめたいんだ……)
茜雫のお願いを承諾した一護は、河原沿いを進む。茜雫を乗せ、他愛無い話をしながら。
一護「…もう直ぐ着くぜ」
茜雫「ねぇ…名前…ある?私、なんだか目が霞んじゃって」
茜雫(無ければ…きっと…夢で言われた奇跡を…信じて良いよね?)
一護「……有るぜ。お前はこの町で生きてきた。家族もちゃんと居た。」
茜雫「ッ…良かったぁ………」
茜雫(“泣きそうな声”搾り出して…今は…その下手な嘘に満足してやんよ……)
茜雫「あったかぁい…また、逢えるよね?」
一護「なに言ってんだ、あたりまえだろ」
茜色の光となって、茜雫は還っていった。一度と出逢う奇跡の為に。
神社で茜雫の話を聞き終えた一護は、茜雫に振り回されるように遊園地をめぐった。そして、互いにビンのサイダーを奢りあって観覧車に乗っていた。
一護(天鎖斬月が…茜雫も護ってくれていた…本気で俺を心配して。俺の想いを汲んでくれて……。)
茜雫「一護…」
一護「どうした…?」
茜雫(ごめん、私は利口に”勝手に勘違いして心配しちゃって…”なんて誤魔化せない…)
茜雫「一護、さ、悩んでるだろ?すごく、悲しそうだ…」
一護(ッ…茜雫に、心配は…掛けたく――)
一護「へっ?何言ってんだよ?」
何かを誤魔化すように、サイダーに口を付ける一護。出かかった言葉を炭酸で洗い落とす。
茜雫「一護っ」
一護「………なんで、抱き締めたりすんだよ…」
一護を胸に抱きかかえ、茜雫は決意を胸に語りかける。
茜雫「一護が苦しむのが、イヤだから。」
一護「俺は…だいじょう――」
茜雫「大丈夫、だよね。分かるよ。でもさ、一護のことだ、きっとこれからも何か有れば私だけじゃない。護りたいと思う人を皆護ろうとするだろ」
一護「……。どうして…?」
茜雫「それが、茶渡や織姫から聞いた一護だからだよっ。でも、一護は戦い続けられる程大人じゃないだろ。1人で、立てないだろっ…」
一護(でも…それで茜雫を…)
一護「はっ。何言ってんだ、大丈夫だよ」
茜雫「…うん。せーかい。だって、一護は皆を護る。私が、一護を支える。だから話してみてよ。何に、もがいているのか」
一護「茜・・雫・・?」
茜雫「聞こえなかったのかい?鈍感系めっ!!私は一護を護ろうと思わない。ってか護れないだろ。思念珠なんつー私は一護に護ってもらう現実しか見えない。だけど、私はそんな強い一護を支えたい。せめて一護が、折れないように。」
一護(折れない…か…)
一護「………俺さ、”チカラ”を無くしてから、自分の心に問いかけるとき、”天鎖斬月”って呼びかけてた。斬月が折れる事は何回もあった。剣八に貫かれたり、ひよりに砕かれたり。
でも、天鎖斬月だけは絶対に折れないで俺の護りたい人を、”俺自身”を護ってくれた。始めて俺の斬魄刀を切り落とした白哉の時も、愛染以上の恐怖を感じたウルキオラの時も、決して折れずに…。
虚の、暴力的な、支配的な力とは別の何かを、天鎖斬月からは感じたんだ…」
茜雫「…うん」
一護「断界で特殊な修行をしたとき、斬月じゃない、天鎖斬月と斬月以上に沢山話をしたんだ…そして最後の最後に、天鎖斬月から”護りたいのは俺だ”って言われたんだ。……………」
茜雫「聞いてるよ。私は、ここに居るよ。」
次の言葉を言いよどんだ一護を抱く力を強め、全てを許し引き付ける太陽のように暖かさを浴びせる茜雫。
一護「そんな天鎖斬月が、唯一折れたんだ、その時に。俺の”皆を護りたい”って我侭を聞いてくれたんだ…。俺と天鎖斬月は…、そのまま、別れたんだ……。」
暖かさに包まるように、より強く自身を赦す太陽へと抱かれる一護。
一護「天鎖斬月の”俺を護る”って言葉を聴いて…行動を観て…、チャドや井上の”俺を護る”って言葉が、信念とか、重みとか…何か違うって思っちまったんだ…。」
茜雫「そっか。凄いんだな、天鎖斬月は……。」
一護「茜雫は…分かってくれるのか?」
茜雫「おう。私を助けてくれたしな。ちょっと嫉妬して…でもそれ以上に、すごく、頼もしかった。一護も、天鎖斬月だから信じたんだよね?」
一護「あぁ、俺も天鎖斬月みたいに、強くなりたかった…なのに、なのにッ!!俺の心は、凄く…弱いんだッ……」
茜雫「な~るなる。でもさ、一護は、天鎖斬月っていう、どういうのが『強い』なのかを知ってるんだ。その天鎖斬月が、教えてくれたんだろ。」
一護「…あぁ」
茜雫「きっと、いつだか言ってた、卍解のコートが霊圧の目安になるのも、天鎖斬月が周りの皆に一護のコトを心配してやってくれって言ってるんだよ。それだけ、天鎖斬月に愛されたんだな。」
一護(天鎖斬月……)
茜雫「私に教えてよ、天鎖斬月の、強さをさ」
一護「……天鎖斬月は、敵として立ったはずの俺を護ろうとした。天鎖斬月は…深く自分を語らない相手の奥底に刃を届かせるんだ。…俺にチャンスをくれていた…俺に…俺に、自分の想いよりも先に……俺の望みを叶えさせてくれたッッ……」
茜雫「分かるよ。カッコいいなぁ。よし、一護、カッコよくなってみよう!!」
一護「茜・・雫・・?」
茜雫「だから、天鎖斬月みたいなカッコよさを、一回で良いからしてみようって話さっ!!」
一護「何言ってんだよ…?」
言葉とは裏腹に、茜雫の言葉を待ちわびたかのように一護の頬から一筋の涙が流れ、茜雫の胸元に消える。
茜雫「一護の本心のために、一護の上っ面と戦うんだ。そんで、敵として立った奴を護ってみるんだ。今回だけで良い、何も変わらなきゃ次はしないでも良い。分かってんだろ、銀城たちの遺体を弔ってやろう。一護、そうしたいんだろ?」
一護「なんで…分かるん・・だよッ!?」
一護(俺は…銀城たちを赦したかった…そのキッカケが…欲しかった…。それをずっと…悩んでた……)
一護の目から、摩天楼を輝かすための雨と言わんばかりに涙が溢れる。一途に、一護の心を支えようとした茜雫に応えるように。
茜雫「私を取り戻してくれた一護は…自分に出来る弔いってのは、キチンとしてくれるんだ。自分の悲しみや憤りを乗り越えて、さ。忘れたの?私のお墓、辛そうな声出しながらも見てくれたじゃんか」
一護「…結局、違ったじゃねーかよ…」
茜雫「いいんだよ。心の問題だから。ま、それはいいや。一護、すこ~しの間、dカプとお別れね」
殊更明るく言い放った茜雫は一護のポケットから代行証を抜き取り、押し付けていた谷間から一護を引き上げる。そして、髪結いの紅色を柔らかな音と共に解き、代行証に括る。
一護「茜雫?って代行証とリボンを付けてどうし…」
夕日のように鮮やかな頬色をした茜雫は一護の眼前に代行証を結い下げ、リボン伝いに振り子運動を始める
茜雫「一護は銀城たちを弔ってやりたくナ~る。弔ってやりたくナ~~る」
一護「なに・・してんだ・・?」
茜雫「ふっふっふ、一護よ、アタシの催眠術に掛かったアンタは、銀城たちを弔ってしまうのだっ!!」
一護「……代行証返せよな」
茜雫「ああんっ、いけずっっ!!」
一護(茜雫…お前がいてくれて良かった…)
かたや強い眼を赤く、かたや優しい顔を紅く、染め合ったかのような二人のやり取りを、空気に当てられ温く気の抜けたサイダーが見守っていた。
一護「よう恋次!」
茜雫「おつちゃ~ん」
恋次「おう!……まてまてまてコラ一護!!!なんで急にこっちに来てんだよ!!ってかお前っ!?お前の竜巻のせいで面倒なガキと戦ることになったんだぞっ!!」
茜雫「へっ、どうせ力ばっか鍛えて、戦い方なんか磨かなかったんだろッ!」
恋次「なにおう!?俺はこの17ヶ月、愛染と戦えるように鍛錬したんだッ!!」
一護と茜雫は、尸魂界へときていた。
一護「おう…」
一護は説明し、総隊長の待つ広間へと向かった。
山本「黒崎一護、鰻屋茜雫。此度の戦い大儀であった」
一護「ブフッッ!!!」
茜雫(一護ぉ…今日約束してた耳かき、してあげないからねぇ…?)
一護(いやっ、そりゃねーだろ。…分かった。降参する。後でちゃんとお願いする。)
茜雫(分かればよろしいっ!!)
一護「あァ…それはもういいんだ。今日は労ってもらいに来た訳じゃねえ」
山本「…………ならば何用じゃ」
一護「あんたらが恋次に持って帰らせた銀城と月島の遺体を、現世に持って帰って埋めてやりてえ」
平子「あほか」
一護「平子」
砕蜂「そうだ!やつは死神から力を奪って殺し続けた大罪人だぞ!それを…」
平子「そないな事言うてんとちゃう…ええか、一護。あいつはお前の家族と仲間をむちゃくちゃにしてんぞ。そないな奴をお前許せるんか。いや、許してええんか?」
一護「許すとか許さないじゃねえんだ、平子。家族も仲間も元に戻った。俺は生きてる。”なにせ”あいつは、ただの死神代行だ。」
山本「その言葉…熟考を尽くした末のものと受け取って良いのじゃな?」
彼らは尸魂界から戻り、浦原商店から河原沿いに歩いて帰っている。
一護「それにしても、茜雫が義理とはいえ、育美さんの子供扱いで、鰻屋茜雫とはなぁ!!」
茜雫「うっさい!!大体アタシが推薦しなきゃ一護があんな時給の良いバイト長く続けられやしないわよっ!!それとわざと苗字を言わなかったんでしょうが!!」
一護「茜雫…ありがとな」
茜雫「っ…突然なんだい…………受け取っとくよ、そのお礼。」
一護「お前が居なきゃ、銀城たちは――」
茜雫「わっ、可愛い犬っ!!触ってもいいですかっ!?」
一護(…やっぱ、こういう空気、嫌いじゃねぇ。俺も、決心、しなきゃな…。少しだけ、チカラくれ、天鎖斬月。少しだけ、立ち向かうのに勇気が要る相手なんだ)
通りすがりに散歩していた婦人の犬を愛で終えた茜雫に、一護は決意を持って向き直る。右手はポケットの中の五角形のお守りへ。
一護「茜雫、ちょい真面目な話…」
茜雫「遅いぞ。けっこー、待ってたんだからな」
一護(バレてんのか…)
一護「茜雫ッ!俺はお前を――」
想いを共有するように、夕日の祝福する河原で、二つの影が唇の辺りで重なった。その影は背の高いもう片方と離れた後にこう言った。
――応えは、yesだよ――
自己満スレでした。
見て行ってくださる方が、少しでも楽しい一時を過ごせますように!!
>92
初ssで勝手が分からんかったたい。
助言サンクス。
このSSまとめへのコメント
これ埋もれてるけど名作だと思う
久々に映画見たから来てみたんだが、見れて良かったよ。面白かった。
これを見れてよかったわ。めっちゃすっきりしましたw