牛の恩返し(99)


あるところに、男というそれはそれは働き者の青年がいました

すでに両親は亡く、今は一人暮らし

最初こそ苦労しましたが、働き者の性格が幸いして今は平和に暮らしていました

とはいえ、一人でいるのも少し寂しく感じ始め


「綺麗なお嫁さんが欲しいなぁ」


などと考える日が増えてきた今日この頃でした


そんなある日…


男「んー」ノビー

男(ふぅ、今日も疲れた…)

男(…家に帰っても一人…か。寂しいなぁ)

男(周りもぼちぼち結婚し始めてるし、俺もお嫁さん欲しいなぁ)トボトボ

男(その前に恋人を見つけないと…)

男(はあ…)



?「んもー!」

男「おんや?」

?「んもーんもー」

男「牛だ…」


牛「んもー」アセアセ

男(なんかすごい焦ってるような…)

男「あ」

牛「もー」グイグイ

男「足に何か刺さってんのか」

牛「んももー」

男「近づいても大丈夫かな?」

牛「んもん!」バッチン

男(め、目が合った!?)

牛「んももー」グイグイッ

男「取ってあげるけど…蹴ったりしないでくれよな?」


牛「んもっんもっ」コク

男(頷いた?まあ、大丈夫だろ)ソローリ

男「あ、釘が刺さってる」

男「じっとしてろよ?」グッ

ズポ

男「抜けた!」


男「手当て、簡単にだけどしてやるから」


……



男「よし」

牛「んも」

男「すまないな、俺達人間が捨てたゴミでケガさせてしまって…」

男「さ、行きな」ポン

牛「んももんー」ペコリ

男(え?…おじぎ?)

牛「…」トコトコ

男(妙に綺麗だったし)

男(なんだか不思議な牛だったな)

男(これが女の人だったら、恋愛に繋がったりしたのかな…?)


男(…)

男(アホらし…。早く帰って晩飯作ろう)


―その日の夜―


ザァアアアアァァァ…

男(すっごい雨…)

男(…一人だと余計に雨音が大きく感じる)

コンコン

男「!」ビクッ!

コンコン

男(ななななんだ!?)

?「夜分遅くにすいません」

男(女の人の声っ!?)

男「はいっ、今出ます」

ガラガラ

男「!!」



女性「夜遅くにすいません。都での商いの帰りに雨に降られてしまって…」グッショリ

男(おおわっ!!)

男(ふっ服がっ濡れて、体に張りついて…!)

女性「雨宿りをさせてもらえたらと…」グッショリ

男(胸、でっか!)

女性「お願い…できますか?」

男(いや、それだけじゃない…!)


男(なんだ、この体は!?決して太っているというワケではない、出るトコは出た、いかにも『女性!』と言わんばかりの丸みを帯びたフォルム!お尻や腰まわり、太ももの適度なムッチムチが、張りついた服の上からハッキリ解るムッチムチ!顔も柔和で『おっとり』を体現したような顔!!言うなれば…そう!)



男(母性の塊!)


女性「あの…はっ…はっ」

女性「はくちっ」

男「ずぶ濡れで冷えたんじゃないですか?」

女性「ええ、少し…」

男「雨宿り…いいですけど、男の一人所帯ですよ?」

女性「大丈夫、あなたなら」

男「え?どゆこと?」

女性「いえ、一目見て、あなたは優しそうな方だな、と」

牛娘「申し遅れました。私は牛娘と申します」

男「あ、男といいます。少し散らかってるけど…まあ、どうぞ」

牛娘「お世話になります」ペコリ

男「あ、いえ…」

牛娘「ふふふ」


――

牛娘「着替えまで用意して頂いて、ありがとうございます」ペコプルン

男「あ、いや////」

男(毒です!毒です!)

男(男物だから、胸元がキチンと納まっていません!)ドッキドッキ

牛娘「どうしました?」キョトンプルン

男「な、何でもないです!」

牛娘「あら、敬語なんていいですよ」

牛娘「ここはあなたの家なんですから、堂々としてていいんですよ!」ニコニコプルン

牛娘「でないと、私が余計に恐縮してしまいます」


男「あ、うん。じゃあ、牛娘さんが気にしないようにそうするよ」

牛娘「優しいですね」

男「い、いや////」


ザァアアアアァァァァ…

男「…雨、止みそうにないなぁ」

牛娘「まあ、どうしましょう」

男「…」

男(泊まるか?アホか!いきなりそんな…かと言って、この雨の中、しかも夜に帰れとはとても…)

男「ぐぬぬ…」

牛娘「男さん?」

男「とっ…」

男「泊まって…いって…いい…よ?」

牛娘「え」


男「あ、ウソ、今のはウソ!雨だし夜だし、ちょっと言ってみ 牛娘「いいんですか?」

男「かといって、追い出すワケには…え?」

牛娘「ありがとう、ございます!」

男「へ、平気なのか?」

牛娘「うふふ、男さんなら安心です」

男「え」

男(時々、なんだろ?俺のことを知ってるような口振り…)

牛娘「そうと決まれば、さっそく何か家事をしなければ!」

男「え!?いいよ!ゆっくりしててくれよ!」


牛娘「そうはいきません!」エヘンプルン

男「どわはっ!」

牛娘「ど、どうしましたか!?」

男「あ、いや、なんでも」キョドキョド

牛娘「挙動不審ですよ?」

男(目のやり場に困る!)

牛娘「何かお役に立てると言ったら、私は家事しかできませんから…」

牛娘「さてと、とりあえずまだ寝るまで少し時間がありますので」

牛娘「お部屋を掃除しますね!」スクップルン

男「ええっ!?」

牛娘「まかせてください!」エヘンプルン

男「ぐほっ!」

男(大丈夫か?俺…)

――




牛娘「ふう」

ピッカピッカ!

男「おおっ、すごく綺麗に片付いている!」

牛娘「いかがですか?」ニコニコ

男「こんなに丁寧に…どうもありがとう!」

牛娘「礼には及びませんよ!」


男「うん、それで…寝床だけど…」

牛娘「いえ、私はここで構いません」

牛娘「泊めて頂くのですから…」

男「そ、そんな!女の人をこんな硬い床で寝かせるわけにいかないよ!」


男「向こうの寝室に用意してあるから…」

男「あ、布団は…ごめん、俺のだけど、一日くらい我慢してな?」

牛娘「う、うそっ…」

牛娘「男っ…さんっ!!」ウルウル

男「ななな泣くようなこっちゃないでしょうよ!」アタフタ

牛娘「あなたは本当に優しい方ですね」

男「そんな事ないよ////」

男「俺は、別の部屋で座布団でも敷いて寝るから」

男「牛娘さんは…雨に濡れて疲れてるだろうから、しっかり休んでよ」

男「少しでも早く帰らないと、家族が心配するだろう?」

牛娘「あ、大丈夫です!私に身寄りはありませんので!」

男「軽っ!?」


男「あ、ごめん…軽いとか言って…」

牛娘「えっ、あ、あのっ、いいんですよぉ!」

牛娘「普通の身寄りがないっていうのとは少し違って…えーと、その…」アタフタ

男「俺もなんだ」

牛娘「…え」

男「俺が子供の頃に母親が亡くなって」

男「もう結構経つけど、親父も亡くなって」

男「今は一人だ。牛娘さんと同じ、かな」

牛娘「男さん…」

男「さ、湿っぽい話は終わろう。寝る前にこんな話すると、いい眠りに就けないぞ?」


牛娘「…はい」

男「気にするなよ」

男「今は今で、一人を満喫してるから」

牛娘「…みたいですね、ふふ」クスクス

牛娘「では…お言葉に甘えて…」

男「気兼ね無くゆっくりしてくれていいよ」

牛娘「はい。ありがとうございます」

牛娘「おやすみなさい」

男「ああ、おやすみ」

牛娘「あの、一つだけお願いできますか?」

男「何?」

牛娘「何があっても…私が寝室にいる間は、絶対に覗かないでください」


男「はあっ!?」

牛娘「それだけ…お願いします」

男「んなこと、お願いされなくてもするか!!!」

牛娘「はい、信じていますね」

牛娘「ではおやすみなさい」

男「ああ、おやすみ」

男(何を言い出すかと思えば…)


『プルンプルン』


男(大丈夫大丈夫!)



 


――
―――


男「…」

男「…」

男「…」


男(ダメだ…寝れん…)

男(ひとつ屋根の下に女の人と二人っきりとか初めてだしっ…!!)ドッキドッキ

男(しかもあんなエロ…もとい、綺麗な女の人が少し行けば寝てる状況って…)

男(はあ…)

男(まあ、目を瞑っていればいずれ…)



?「んっ、はあっ、あっ」

男(…なんだ?)


?「んっ…くふぅっ、はぁん」

男(う、うそだろぉ!?)

?「男っ…さんっ…ああっ」

男(うっ、うう牛娘さんっ!?)

男(喘ぎ…声!?)

牛娘「はあっ、あふっ…、ああっ」

男(なんでっこんな時に!?)

牛娘「ふんっ、くあっふ…うぅっ!」

男(おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!!)

牛娘「はぅふっ、くぅっ!」

男(いかんいかんいかんいかんいかんいかんいかんいかん!!!!)

牛娘「男さんっ…男さんっ…!!」

男(俺の名前を呼んでる…)ゴクリ


牛娘「くうぅぅぅっ!!!」

男「あ…あ…」



『何があっても…私が寝室にいる間は、絶対に覗かないでください!』

『信じていますね』



男「ぐっ…」

牛娘「はあ…はあ…、ん、ふぅ、ふぅ」

男(じ、地獄だ…)

……




トントントントン…


男(んん…?)

男(少しは…寝れたみたいだな…)

クンクン

男(いい匂いだ…)

男「んんー!」ノビー

男「よいしょっと」スクッ


スタスタ

牛娘「あ、おはようごさいます。今、起こしにいこうかと思ってたところですよ」

男「お…おはよ////」ボッ


牛娘「顔、赤いですよ?」

男「あ、いや…////」

男「う、牛娘さん昨日…」

男(んなこと…聞けるわけない…)

男「…昨日の疲れは残ってないか?」

牛娘「ええ、おかげさまで!」ニコニコ

牛娘「今ですね、昨日、都で買った食材で朝ご飯作ってますから」

男「えっ!?牛娘さんが買ったものなのに悪いよ!」

牛娘「かまいません。泊めて頂いたお礼です!」

男「逆に気を使わせちゃったな…」

牛娘「いいんですよぅ!」


牛娘「あ、勝手に台所お借りしましたよ」

男「ああ、それぐらいかまわないよ」

男「それよりも…どれくらいぶりだろう。朝ご飯の用意の音やら匂いやらで目を覚ますの」

牛娘「ずっと…一人って、言ってましたもんね…」

男「あ、ごめん。朝から湿っぽくなっちゃって」

牛娘「いえいえ。確かに誰かが食事を用意してくれるっていいですよね」

男「そうそう。食べるときも一人より美味しく思えるし」

牛娘「ですね」

牛娘「もうすぐ出来ますから、待っててくださいね」

男「はいよ」



男「おお…」

男「焼き魚、味噌汁、野菜のお浸し…」

男「どれもおいしそう!すごいよ!」

牛娘「料理は女子力の基本ですから!」エヘン

男「あ、牛乳もある」

タプン

牛娘「その牛乳はですね、普通の牛乳と違って栄養価がすごく高いんですよ」

男「へぇ、なんかすごいな」

牛娘「なんでも、一杯飲むと疲れなどどこへやら!力がみなぎるんだそうです」

牛娘「食材と一緒に買ったので、男さんにも飲んでもらいたいな、と」

男「なんでそこまで…?」


牛娘「泊めて頂いたお礼ですってば!」

牛娘「だから、気にせずにどうぞ!」

男「そか、じゃあ遠慮なくいただきます」ゴク

男「!」

男「すごく濃くて、甘い!美味いよコレ!」

牛娘「でしょう?」

男「しかも、ホントに体の底から力が湧いてくる!」

ゴクゴクゴク!

牛娘「まあ!いい飲みっぷり!」


男「ぷは」

男「でも、美味いとか力が湧くとか、それだけじゃなくて、なんだろ…すごく温まる…」

牛娘「え?」

男「あ、冷えて美味しいよ!そうじゃなくて、心がすごく…満たされる」

男「作った人、というか搾った人の愛を感じる…」

牛娘「まあ…そんな////」ポッ

男「なんで牛娘さんが赤くなる?」

牛娘「いっ、いえっ、そこまで褒められると買った甲斐があるといいますか…!」

男「これ、都で売っているの?」

牛娘「えっと…、そう、です。はい」


男「今度、俺も買いに行こう!」

牛娘「あ、あえっと…」アセアセ

男「どうした?」

牛娘「その、うーん…」

牛娘「えっと…だったら…私がまた買ってきましょうか?」

男「え?」

牛娘「お仕事に行くのは都と反対の方角でしょう?」

男「え?仕事の事、なんで知ってる?」


牛娘「えっとぉ…あ、その一度…いえ、実は何度か仕事帰りの男さんをお見かけしておりまして…」

男「そうだったの!?」

牛娘「私は都で商いをしますので、帰り道に男さんの家の近くを通ることがありまして…」

男「気付かなかった…」

牛娘「ふふふ、それなら牛乳を買った帰り、ここに寄れますから…」

男「なら、頼もうかな」

牛娘「はいっ、是非」

牛娘「さ、朝ご飯食べてしまいましょう!」

男・牛娘「いただきます!」



 


――

牛娘「お世話になりました」

男「いえ、こちらこそ。朝ご飯、すごく美味しかったよ。今までで一番美味かったと思うよ!」

牛娘「まあ、そんな////」

男「ホントホント!」

牛娘「照れますよぉ////」

男「おかげで、今日も一日頑張れるよ!」

牛娘「うふふ」

牛娘「では、一旦お別れですね。また夕方に」ペコリプルン

男(ぐっ…////)

牛娘「男さん!いってらっしゃい!」

男「牛娘さんもいってらっしゃい!」

―――
――


―その日の夜―

男「…」

男(もう夜だ)

男(まあ、社交辞令だよな…普通)ガックリ

男(ほんの少しの間だけでも楽しく過ごせたから、いいか)


男(それにしても)

男(昨日はほとんど寝てないハズなのに、なんだろう。今日ずっと体が軽い)

男(一日の疲れもあまり感じないくらいに体が楽だ)

男(普段と違うこと…朝、あの牛乳を飲んだ事とか…)

男(確かにあれを飲んだ途端に力が湧いてきたけど…)

男(他には、牛娘さん効果…とか?)

男(もう来ないだろうけど…)シュン



コンコン

男「!!!」

?「遅くなりました、牛娘です」

ダダダダッ!

ガラッ!ターン!!

牛娘「ひゃん!」ビクッ

男「あ、悪い。でも、良かった…来てくれて」

牛娘「すいません。商いが長引いて遅くなって…」

牛娘「あの…」

男「はい?」


牛娘「夜遅くなってしまいましたので…今日も泊めて頂いても…」オズオズ

男「うーん、確かに、遅いな」

男「仕方ない、いいよ!」

牛娘「あ、ありがとうございます!」ペコリプルン

男(はうっ!)

男「あ、でも…一ついいかな?」

牛娘「はい?」

男「寝るとき…」

男(喘ぎ声が…聞こえちゃってるから…)

牛娘「男さん?」

男(言えない…)

牛娘「男さーん?」


男(いや、今日も聞こえるとは限らないし、やっぱり失礼だよな。恥ずかしいだろうし)

牛娘「あの…?」

男「あ、ごめん。やっぱり布団は俺のしかないから…それで我慢してくれな」

牛娘「いえっそんなっ!」

牛娘「私こそ布団を一人占めしてしまって…」

男「いいよ。それくらい」




牛娘「…あの」

牛娘「相談というか…お願いというか」

男「うん?」

牛娘「私は身寄りもなく、一人で暮らしております」

男「ああ、言ってたな」

牛娘「…このまま…ここに、おいて頂けないでしょうか!?」ドゲザ

男「はあ!?」

牛娘「無理を言っているのはわかっています!」ドゲザ

男「ちょっと!牛娘さん!顔あげてあげて!」


牛娘「いえ、お願いしているのはこちらですから!」

牛娘「良いにしろ駄目にしろ、お返事を頂くまであげるわけにはいきません!」

男「わかった!好きなだけ居ていいから!顔あげて!」

牛娘「本当ですか!?」パッ

男「う、うん!部屋も余ってるし、二人で暮らしてもまだまだ十分広いから!」

牛娘「ありがとうございます!」ドゲザ

男「牛娘さん!だからそれやめて!」

牛娘「それから、私のことは『牛娘』と呼んでください」

男「でも…」

牛娘「お願いします!」ドゲザ

男「わかった!わかった!う、う、牛…む娘…。だから顔あげて!」

牛娘「お世話になりますね。男さん!」ニコニコ

男「よろしくな、牛娘」

牛娘「あ、昨日言った、寝室を覗かないでというのは…」

男「だからわかってるって!」

男「覗くなんてしないってば!!」

牛娘「はい…、それだけはワガママを言いますが、よろしくお願いします」


男「でも、なんでうちに住みたいなんて言い出したんだ?」

男「いくら身寄りがないとはいえ…」

牛娘「ここは私の家より都に近いですから!」

男「あ、なるほど」

牛娘「それに男さんは優しくていい人ですし、安心できます!」

男「そ、そうか?」
男(いい人か…少し複雑)



男「そう言えば牛乳は?」

牛娘「その、えっと、あーあの牛乳はですね、一晩寝かせないと美味しくはならないそうなんです」

男「そうなの?」

牛娘「は、はいっ。ですから、また明日の朝、ということになります」

男「うーむ、仕方ないか…」


牛娘「で、では恒例の掃除、してしまいますね!」

男「もう恒例になってる!?」





――
―――

牛娘「今日もすいません。お布団お借りして…」

男「いいよ。また新しいのを買ったら返してもらうから」

牛娘「はい。では、おやすみなさい」

男「ん、おやすみ」





 


――

男(昨日よりは…うん、眠れそうだけど)

男(今度は一緒に住みたいなんて、いいのかな…)

男(彼女もいないし、あわよくばこのまま…なんて事も)

男(…甘すぎるか、ははは)




牛娘「あっ…んっ」

男(!!!)


牛娘「あんっ、ふうっ、んんっ!」

男(おいおいおいおい!今日もかよ!?)

牛娘「おっ、とこ…さんっ、ああん」

男(また、俺の名前っ…!!)

牛娘「はふっ、ひんっ!」

男(でもっ…、牛娘は俺のことを信用してくれてるから、安心してここに居れるって言ったんだ!)

男(たまたま、2日続いただけ…だろ)

牛娘「あっ、ふぁっ!」

男(ぐ…)ギリ

―――
――


―次の日―

男「…」ボケー

牛娘「男さん?お疲れですか?」

男「えっ?いやっ…き、昨日は仕事が忙しくて…、でも大丈夫だよ!」
男(…やっぱり言えない)

牛娘「…そうですか。でもこの牛乳があれば疲れなんか吹っ飛びますよ!!」コト

男「おお!楽しみにしてたんだ!」ゴクゴク

男「!?」

牛娘「どうしました?」

男「昨日より…美味いっ!」ゴクゴクゴク

牛娘「そ、そうですか?////」ポポッ

男「ぷはっ!力がみなぎる!」フン

牛娘「ふふふ////」

牛娘「今日も買ってきますからね!!」

牛娘「では、今日も元気に頑張りましょう!!」


―その夜―

牛娘「あんっ、男ぉっ…さっん、ふむっ」

男(またっ…!!)ギリギリ

牛娘「はあっ、あっあっ!」

男(牛娘はっ、信頼してくれてるんだっ…!)ギリギリ

……


―そのまた次の日―

ゴクゴクゴク

男(また、美味くなってる…?)

牛娘「ふふふ////」

男「嬉しそうだな」

牛娘「男さんの飲みっぷりを見てると本当に嬉しくなるんですもの!」

男「そか////」

牛娘「もちろん今日も買ってきますから、楽しみにしていて下さいね!」

男「ああ!」

男(楽しみなのは事実だ)

男(しかし…)



―その夜―

牛娘「ふうっ、んんんっ!」

男(ぐぐ…)ギリギリギリギリ

牛娘「男…さんっ!」

男(たっ、体力はあるのにっ、これは精神的にかなりキツイ!!)

牛娘「あんっ、やふぁっ、あふんっ!」

男(牛っ娘ぇっ…)ギリギリギリギリ

……



男にとって苦行のような夜は毎日続きました

そして、ついに

その日は来てしまいました…


 

―1週間後の夜―



牛娘「はあっ、はあっ、んんっ」

男(うう…気が狂いそうだ…)ギリギリギリギリ

牛娘「あぁん!ふうっ、ああっ!」

男(一緒に暮らし始めて毎日だぞ!?)

牛娘「男っさぁん!おっとこさぁん!!」

男(何度も何度もっ、俺の名前…呼んでっ)

牛娘「ふうっ、あ、男…さん…」



男(…くそっ、くそっ…くそ!!)ムク


スタスタ…

男(すまない…牛娘っ、もう我慢できない!)ゴクリ

スターン!

牛娘「ふあっ!きゃあっ!?」

男「牛娘ごめんっ、覗くなって言われて、我慢してたんだけどっ!」ハーハーフーフー

男「そんなに毎日毎日、名前を呼ばれながら、喘がれたら…!」フーフーハーハー

男「独り身の男してはっ!我慢しようがないって言う…か…」

男「どう…して…も…?」

牛娘「お、男さん…」ジワ

男「見た…い…って、う、牛…娘?」

牛娘「覗かないでって…」ポロ

牛娘「お願い…ひくっ…したのに…!」ポロポロ

男「そ、その姿はっ…!?」


牛娘「ひっく」

男(頭には…小さな角と、牛の耳…)

牛娘「あぐっ…」

男(服はいつの間にか、白と黒の斑模様の着物で…)

牛娘「男さん…ひっく」

男(首には…大きな鐘のついた首輪)

牛娘「見られて…、ぐすっ、しまいましたね」

男(大きな胸がはだけて、丸見え…)ゴクリ

牛娘「…仕方…ありません、ふぅ」

男(その牛娘の胸の前には…コップたっぷりの牛乳…?)

男(胸の先から白い液体が滴って…え!?)


牛娘「男さん…」

キモノナオシナオシ


男(ま、まさか…毎朝の…あの牛乳は…!)


牛娘「もう、潮時…ですね…」

牛娘「先日は手当てして頂き、ありがとうございました」ペコリ

男「え?」

牛娘「牛の姿は仮の姿」

牛娘「私は…神の使い」

男「え?まさか…あの時の不思議な…牛!?」

牛娘「はい…。手当てをして頂いたご恩を返すべく、こうしてあなたの前に参りました」


牛娘「人の姿もまた、仮の姿」

牛娘「私の取り柄は、お乳を搾ること」

牛娘「この本当の姿で…」

牛娘「大切な人を…あなたを想いながら、お乳を搾ることによって、『神秘の牛乳』を生成する能力」

男「牛乳は…牛娘のお乳で…!」

男「美味さの秘密は、牛娘の能力だったのか…!!」

牛娘「神秘の牛乳は神の贈り物」

牛娘「美味しいだけでなく、飲んだ者の体を癒し、力を与えます」

男「やっぱり…。あんまり寝なくても快調だったのは、牛乳の効能だったのか…!」



牛娘「しかし…乳搾りを見られたとあっては、もうここには居られません」

牛娘「…あなたの優しさは一生忘れません」

牛娘「…あなたとの生活、楽しかった…!」

牛娘「まだまだ、共に居たかった…!」

牛娘「…さようなら」ダッ
男「あっ、待ってっ!」

ガシッ

男「約束を破ったのは…本当にすまなかった…ごめん」

男「もう、覗かないから…このまま…!」

牛娘「それはできません。あなたは見てはならぬものを見てしまった」


牛娘「これは神との約束事…譲ることはできません」

男「そう、か。我慢できなかった俺のせいだもんな…」

男「まさか、あの牛乳が…牛娘のお乳だったなんて…」

男「でも、今の話を聞いて納得した」

男「俺を想って…あんなに美味しく…ありがとう」

男「本当に…美味しかった」

パッ

男「牛娘の…想い、全部伝わった」

男「裏切って…すまなかった…」



牛娘「…」タッ



男「俺も!牛娘の想い!忘れないよ!」

男「牛乳だけじゃない…。一緒に食事した事も…!」

牛娘「…」ポロポロ

男「朝、牛娘のご飯の支度の音と匂いで目を覚ました事も!」

牛娘「ひっぐぅ」タタタッ

男「普段のちょっとした会話も!」

牛娘「ぐすっ」タタタッ

男「ほんの…数日間だったけど…」

男「手当てした以上の…それにはもったいないくらいの…恩返しだった!」

牛娘「ぐすっひくっ」タタタッ




男「ありがとう…」

ガラガラッ

牛娘「ひっく」タタタ…





そして、家には

男と…一杯の搾りたての『神秘の牛乳』だけが

残されたのでした


 


ゴクゴクゴク

男「やっぱり…美味いよ、牛娘…」ポロポロ




その時飲んだ牛乳は

少ししょっぱい味が

したそうです










――
―――


男(牛娘が姿を消して、一週間が過ぎた…)

男(前と変わらない日常に戻っただけ)



男(いや違う…)

男(たった数日間だったけど、牛娘の存在はすごく大きかったんだ)

男(…やっぱり、一人は寂しいなぁ)

男(牛娘…)



コンコン

男「…」
男(めんどくさい…)

コンコンコンコン

男「…」

ドンドン

男「…」

ドガン!ドガン!ドガン!ドガン!

男「うおわっ!」

ドガンドガンドガン!

男「開けます!開けますから!戸が壊れる!」


ガラガラッ



女の子「おっすー!」


男「ん?お嬢ちゃん、どうしたの?うちに何か用?」

女の子「てめぇが男か?」

男「むっ」ムカ

男「初対面の人に向かって、『てめぇ』はダメだよ?」

女の子「答えろ」

男「だから、そんな口の聞き方…」

女の子「こ、た、え、ろ」

男「!?」ゾゾクッ

男(な、なんだ?)
男「お、俺が男だけど…」

女の子「そうか。私は女神だ」

男「は?」


女神「とりあえず、うちの使いが世話になった事は礼を言う。ありがとう」ペコリ

男「え?使い?」

女神「牛娘だよ、うしむすめ!」

男「あ?えーと?え?え?」

女神「混乱するのも無理ねぇか」

女神「おらっ、牛娘もウジウジそんなとこ隠れてねぇで早く出てこいよ!」




男「!」



牛娘「…」オズオズ

牛娘「男…さん…」





 


男「う、しっ娘…!?」タタッ

ダキッ

男「牛娘!」

牛娘「男さん…!」

男「もう…」ギュ

男「もう、二度と会えないとばかり…!」

牛娘「男さんっ、男さん!」ポロポロ


女神「いきなりいちゃついてんじゃねぇよ」

女神「まあ、詳しい話は家の中でしてやるから、お邪魔するぜ?」ズカズカ

男「あ、ど…どうぞ…」



 



――


女神「と、まあ本来なら…」

女神「てめぇが禁忌を犯したせいで、会うのは禁じられたんだが…」

男「…わかってる」

女神「まあ、独り身の男にとっちゃあ、牛娘の能力は拷問みたいなもんだ」ニヤニヤ

女神「我慢なんざできねぇわな、くっくっく…」

牛娘「言わないでください////」マッカ

女神「いつも、喘ぎ声は出すなって言ってはいたんだが」

女神「喘いだ方が牛乳が美味くなるんだと」


男「やっかいだなぁ」

牛娘「////」


女神「ホントにやっかいだよ。お前に姿を見られたからって戻ってきたら…」

女神「毎日めそめそして辛気臭ぇったらありゃしないし」

女神「そんな心理状態なもんだから、搾った牛乳は不味くて飲めやしねぇ」

男「不味い?」

女神「乳搾りの能力は、牛娘の心理状態をモロに反映してしまうんだよ」

女神「てめぇも聞いたろ?大切な人を想いながら搾ってたって」


男「ああ、言ってたな…」

女神「あんなに味が悪くなっちまうぐらい落ち込んだままだと、牛娘の心にも良くない」

女神「だから、今回は特例中の特例だ」

女神「罰を解いてやる」

男「い、いいのか?」

女神「うほん!見た目は少女でも、一応私は神なんだが?」

男「あ、わっ、と、いいんですか?」

牛娘「女神様…」

女神「牛娘の精神安定の為だ」

女神「ただ、条件がある」

男「条件?」

女神「牛娘をめとれ」


男「え?めとる?」

男「えっと、嫁にしろ、と」

女神「そうだ」

男「いや、それは牛娘の意思が…!」

女神「この牛娘を見て、お前はどう取る?」クイッ

男「…」チラ




牛娘「!」フイッ

牛娘「////」マッカ

牛娘「////」チラ

牛娘「!」フイッ

牛娘「////」モジモジ

牛娘「////」チラチラ

牛娘「////」ジーーーーーッ



 


男「!!!」
男(わかりやすーい!////)

女神「牛娘は了承済みだ」

男「は、はい////」

女神「それにさっきも言ったが、男と離れて飲めねぇほど牛乳が不味くなったって事はだ」

女神「男と居れば、全く逆の現象が起きるって事だろ?」ジュルリ

女神「となれば、できた『神秘の牛乳』は至高の美味さのハズだ」ジュルリ

女神「男のために搾ったその牛乳を私にもよこせ」ジュルリ

男(ほぼ私欲じゃないか!)


女神「後はお前の返事待ち」


男(でも、例え女神様の私欲が絡んでいたとしても…)

男「俺は…俺も…」

男「…牛娘が居なくなってから、何かが抜けたような…」

男「牛娘が居ないとダメだな…って」

牛娘「男さんっ」パアッ

牛娘「男さんっ、私は…私は!」


男「何も言うな、牛娘」ダキッ

男「あの牛乳の美味さが、お前の本心なんだな」ギュウ

牛娘「…はい////」ポッ



女神「うほん!人前…いや、神前で堂々といちゃつくなよ、お前ら」ニヤニヤ

男・牛娘「うわあっ!」


女神「ふふふっ」

女神「あーい、ともあれおめでとう~!」パチパチパチパチ


女神「これで私も至高の牛乳が飲める」


女神「だろう?牛娘」

牛娘「はいっ!」

牛娘「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした!」

女神「気にすんなって」


女神「まあ、私は悲恋なんかまっぴらごめんなんだよ」

女神「好き合ってる者同士が、掟やなんやらで引き裂かれるなんか、たまったもんじゃねぇし」

女神「皆が笑って、はい終わり!って方がやっぱり見てて嬉しくなるってもんだろ?」

男「神が掟破りって…」

女神「いいんだよ!うまくこっちで処理するから、てめぇらは安心して存分にいちゃいちゃしてろ」

男・牛娘「////」


女神「それはさておき、じゃあ牛娘。早速搾れ」

牛娘「はいっ!」ヌギップルン

男「どはう!お、俺の前で!?」

牛娘「とびっきりの神秘の牛乳、搾りますから、はあ」モミンモミン

男「ちょちょちょっと待って!!」

牛娘「え?」

女神「掟から外れるから見ても気にしなくていいんだぜ?」

牛娘「そうですよーぅ」ニコニコ

男「いや、掟とかそういうのじゃなくて!」

男「いくら婚約したとはいえ、ある程度の恥じらいは持ってほしいワケで」

男「そういうのは、もっと、こう…雰囲気が良いときにっていうか…牛娘が大切だからというか…」



女神「ふむ」

牛娘「そこまで想って下さるなんて…!」

牛娘「恋人の申し出とあっては、なおのこと無下にするワケにはいきませんね」キモノナオシ

牛娘「では前のように、寝室お借りします」タタッ

女神「なるほど、寝室に移動させてこっそり覗きたいワケか。スケベだな」クスクス

男「しませんよ!」

女神「なんだつまんなーい!」




 




牛娘「はあんっ、男さんっ男さぁん!」

女神「…」

牛娘「んくぅ…はひっ男さんっ!」

男「…」

牛娘「はあっ、ああぁあぁぅっ!!」


女神「…こりゃ独り身の男にとっちゃあ拷問どころじゃねぇな」

男「わかって頂けましたか?」

女神「…特例にしたから許してくれよ」

男「許すも何もありませんよ」

男「使いの牛娘の幸せを考えてくれるなんて、女神様はいい人ですね」

女神「ふん、私は美味い牛乳がないとどうも調子が上がらんのでな」

男「そういうことにしておきます」



――

牛娘「お待たせしました」

コト

コト

牛娘「どうぞ」

男・女神「いただきます」

ゴク


男・女神「!!」

男「…前に飲んだ時より、遥かに美味い」

女神「…私のために搾った牛乳より、遥かに美味い」

女神(うーむ、こんなに想い合ってる二人の邪魔をするのは、さすがに少し気が引けるな…)



女神「…」ゴクゴクゴク

女神「ぷはっ」

女神「男」

男「はい」

女神「牛娘、大切にしてやってくれな」

男「はい、約束します」

女神「牛乳の味、落としたら承知しねぇぞ?」ニッコリ

男「はい」

女神「牛娘」

牛娘「はい」

女神「二人仲良く幸せにな」

牛娘「はいっ!」



女神「…まあ、美味い牛乳は飲みたいが、二人きりの時間もやるよ」

女神「しばらくは我慢してやるか」ニヤニヤ

牛娘「女神様っ、そのような気遣いなさらなくても!」


女神「いいんだって!」

女神「我慢できなくなったら、ひょっこり顔を出すから…」

女神「それまで、せいぜいいちゃいちゃしとくんだな」ニヤニヤ


牛娘「ありがとうございます////」




女神「じゃあ、おいとまするよ」


男「色々、ありがとうございました」

男「帰り道、気をつけて」

女神「神に帰り道もくそもねぇよ」

女神「じゃな!」

ドロン

男「わっ!?消えた!」

牛娘「神とは人智に縛られない存在ですから」


男「あ、言い忘れてた」

牛娘「?」

男「おかえり、牛娘」

牛娘「!」

牛娘「…ただいま、男さん!」

男「牛娘」

牛娘「はい」

男「もう一度、言わせてくれ」

男「牛娘が愛しくて愛しくて…」

男「牛娘が居ない間、心に穴が空いたようで…」


男「牛娘は、永く一人で居た俺の、俺の心のすき間を埋めてくれたんだ」

男「だから、これからも…ずっと俺の傍に…」



男「俺の嫁になってください!」

牛娘「はいっ…喜んで!」

牛娘「私も、姿を消してからというもの…頭の中は男さんの事ばかりで…」

牛娘「何より、『神秘の牛乳』の味が私の気持ちを証明していました」

牛娘「男さんの優しく思いやりのある心を私は愛しております」



牛娘「私の男さんへの…」


牛娘「あなた様への愛は一生変わりません」

ピト


男「牛娘」ギュウ

牛娘「ずっと一緒、ですよ。あなた様」





その後、夫婦になった二人は、いつまでも仲睦まじく幸せに暮らしましたとさ


めでたしめでたし…



……











 


ドロン

男「わあっ!?」

女神「おっすー!消えたそばから悪いな」

男「めっ女神様っ!?」


女神「言い忘れてたが」

女神「私は『子宝』の神だ」


男「はあ」


女神「その使いと夫婦になるんだ」

女神「万が一にも、子供ができないなんて見過ごせないからな」

女神「牛娘に直接、加護を授けてやる」


女神「ウーニャラー、ムーニャラー」ブツブツ

女神「はい、かんりょー!」

男「早っ!?」

女神「男」

男「はい?」

女神「牛娘に、夜に激しくなるように加護っといたから」ニヤリ


牛娘「!」

男「!!」バッ

牛娘「////」ポッ




男「ええっと…」タジタジ

男「覚悟、しておきます…」

女神「家族もたくさんできるだろうから、頑張るんだぜ?」

男「は、はい」

牛娘「女神様…露骨過ぎますよぅ////」


女神「はっはっはっ!」

女神「今度こそしばらく二人にしてやるから、じゃあな!」


ドロン


 


男・牛娘「…////」

牛娘「あの…ですね////」モジモジ


男「…大家族もいいな」ニッコリ

牛娘「あ、あなた様…////」




牛娘「で、では、仕事も…夜も頑張ってくださいね?////」

男「ああ!」



牛娘「私もしっかりあなた様を支えますから!」エヘン


男「明るくて楽しい家庭にしような」ダキッギュ



牛娘「はい…あなた様となら、きっと」





 


子宝の神の加護を受けた夫婦はたくさんの子供に恵まれ、『家族みんな』でいつまでも仲睦まじく幸せに暮らしましたとさ



あらためて、めでたしめでたし!



おわりです

最後までお付き合い頂いた方、ありがとうございました

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