「足を滑らせて死にたい」(17)


「足を滑らせて死にたい」
「頭から硬い物に向かって転んで、勢いよく死にたい」

「偶発的に?」

「いや、勢いよく」

「転んだくらいじゃ、そんなに勢いよくはないと思う」

「そうかな」

「うん」

「そっか」


「風に吹かれて死にたい」
「崖の上から、突風に押されて落ちてみたい」

「飛び降りとは違う?」

「違うね。なんせ、風は予想外なんだ」

「わざわざ崖の上に立っているのに?」

「……予想通りかな」

「予定どおりだよ」

「そうか」

「予定どおり」


「後ろから刺されて死にたい」

「いきなり普通だなぁ」
「突然って感じじゃないけど」

「まず刺されて、びっくりする」
「それから相手を見て、えっえってなってる間に死ぬ」
「そこがいい」

「……じゃあ、刺すのは私」

「えっ」

「理由は、なんかむかついたから」

「えっ」

「どうする?」

「……やめとく」

「そう」


「頭から食べられて死にたい」

「……食べるのはわた」

「ライオン」

「………」

「食べるのはライオン」

「どこの?」

「えっ……動物園?」

「飼育員さんはそんなミスをしない」

「しないかな」

「飼育員さんなめんな」

「じゃあ……サバンナ」

「そんな所に行くな」

「えっ」

「行くな」

「……はい」


「隕石が落ちてきて死にたい」

「急だなぁ」

「現実的な必要はないと気づいた」

「最初から現実的ではない」

「ともかく、これでどうだ」

「まぁ、そのぐらいなら」

「よし、隕石来い」

「何書いてるの?」

「ミステリーサークル」

「へぇ」

「かきかき」


「雷が落ちてきて死にたい」
「っていうのを、隕石が当たる確率を調べながら思いついた」

「ちょっと二番煎じ」

「模倣は創作の第一歩である」

「確かわりと生き残っていたような」

「6回目に、腕時計で火傷をしたらしい」
「この機会にメタルファッションを学んでみるか」

「それより、失恋を機に自殺したほうがはやい」

「失恋をさせてくれると」

「やぶさかではない」

「それは嫌だ」

「そう」


「満点のテストに首をきられて死にたい」

「もうなんでもありだなぁ」

「あり得ないことと、あり得ないこと」
「二つ重なれば、驚いている間に死ねるはず」

「そんな事言ってる暇があったら、ちゃんと勉強しなさい」

「お母さんじゃあるまいし」

「いいからはやく」

「はい」

「ほら、そこ間違えてる」

「はい」


「間違って落ちてきた人の下敷きになって死にたい」
「人助けをした上に死ねる、なんて理想的だろうか」

「なるほど、じゃあそこに立っていて」

「どうして階段を上るのですか」

「動かないでね」

「そう言われても」

「えい」

「うわぁ」

「……痛い」

「よけた僕が悪いのだろうか」

「とても痛い」

「ごめん」

「えーん」

「よしよし」


「雲に埋もれて死にたい」

「わぁ、ぐろてすてぃっく」

「八本の方じゃなくて」

「スカイダイビング?」

「もっとファンタジーな感じで」

「じゃあ、どうせなら甘くしよう」

「うん?」

「わたがし。埋もれてべとべとになるのだ」

「嫌だなぁ」

「そして糖尿病で死ぬ」

「嫌だなぁ」

「どうして死のうとしてるんだっけ」

「それは聞きたかった」

「ううん、思い出せない」

「がんばれがんばれ」

「よし決めた、思い出せたら死ぬ」

「がんばるながんばるな」

「うーん、あともう少し」

「忘れろ、忘れてしまえ」

「いたいいたい」

「どうして死のうとしてるんだっけ?」

「はい、思い出しません」

「それでよし」

純粋すぎるものは、体に毒らしい」

「水とか、酸素とか?」

「恋とか、乙女心とか」

「はやく私から離れるんだ!」

「何の問題もありませんな」

「なんだと」

「こわいこわい」

「あれ?えっと、いやいいのか」

「かわいいかわいい」

「え?」

「え?」

「大きな海とか空を見てると悩みを忘れるっていうけれど」
「ちっぽけな自分に気づいたら、それはそれで死にたくなりそう」

「つまり?」

「大空に飛び込んで死にたい」

「急に詩人」

「海から落っこちて死にたい」

「逆バンジー」

「よく考えたら泳げなかった」

「海で?空で?」

「空で」

「溺れ死ぬことはないよ」

「そうか、困った」

「いやぁ、よかった」

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