少女「幸せに向かうスピードはそれぞれ違うもの」(160)

「・・・それほどでもありませんよ」

「お母さんも言ってたけど、あなたは絶対良いお嫁さんになれるわ」

「・・・あなたの旦那様になれる人は、さぞ幸せでしょうね」

「うふふ、それならお互い様じゃないですか」

「・・・本当にそうかしら。だって、私、特別なことなんて何もしてあげられないのよ。」

「幸せってきっと、何気ない普通の事なんです。でも、満たされている時は、それが分からない」

「そして失った時に初めて気づく。・・・それはきっと、人間という生き物の、最大の罪と罰ではないかと思います」

「・・・・・・・・・」


 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 ――― P.M. 7:50

少女「・・・夜風が気持ちいい」

少女「結婚式、楽しみだな」

少女「・・・なんか気の利いた言葉考えておかないと」


「まもなく、8時発の夜行列車発車致します。繰り返します・・・・・・」


少女「・・・乗らなきゃ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

少女「こんばんは」

車掌「はい、こんばんは。・・・おや、まさかお嬢ちゃん一人かい?」

少女「は、はい」

車掌「危ないなぁ、大丈夫かい? お父さんとお母さんは?」

少女「ど、童顔で幼く見えるかもしれませんけど・・・そんなに幼くありません!」

車掌「お、おお、そうかい。とはいえ、女の子の一人旅なんて危ないよ」

車掌「・・・まあ、これに乗っちまえば安心だけどね。でも、泥棒とかには気を付けてくれよ」

車掌「そんなに大きな列車でもないし、人数だってしれてるけどね。もし何かあったら遠慮なく言いつけてくれよ」

少女「はい、ありがとうございますっ」

車掌「ははは、では、ごゆっくり」

少女「どこの部屋にしよう・・・かな」

「おや、そこの彼女、一人かい?」

少女「・・・はい?」

男「きみだよ。一人かい?」

少女「・・・そうですけど」

男「そうかい。暇なら俺と夜空でも見ないか?」

少女「え・・・・・・えっと」

「なにやってるんだ」

男「・・・なんだ兄貴かよ」

青年「なんだ、じゃない。いい加減ナンパなんてやめろ」

男「はいはーい、お兄様っと」

少女「どこの部屋にしよう・・・かな」

「おや、そこの彼女、一人かい?」

少女「・・・はい?」

男「きみだよ。一人かい?」

少女「・・・そうですけど」

男「そうかい。暇なら俺と夜空でも見ないか?」

少女「え・・・・・・えっと」

「なにやってるんだ」

男「・・・なんだ兄貴かよ」

青年「なんだ、じゃない。いい加減ナンパなんてやめろ」

男「はいはーい、お兄様っと」

>>5 二重投稿


青年「・・・調子の良いやつだ。・・・大丈夫かい?」

少女「は、はい・・・あ、ありがとうございます」

青年「気にしないでくれ。僕の弟が迷惑をかけたね・・・すまない」

少女「い、いえっ、わたしこそ気にしていませんから」

青年「・・・恥ずかしながら、僕の弟なんだ。弟と言っても、双子なんだけどね」

少女「・・・そうでしたか」

青年「ああ。・・・見たところ、一人のようだけど・・・?」

少女「はい。知り合いが結婚式を挙げるので、それに参加するために」

青年「そうなのか・・・奇遇だな」

少女「・・・??」

青年「僕も結婚式に参加する為に隣街に行くんだ」

少女「わあ、そうなんですね。えっと、お知り合いなんですか?」

青年「・・・弟だよ」

少女「えっ・・・・・・ということは、さっきの方が・・・?」

青年「・・・うむ」

少女「・・・へぇ」

青年「・・・そういう反応になっちゃうよな。ははは」

少女「あはは・・・・・・」

少女(将来がとても不安・・・)

「・・・・・・」

少女「・・・あ、こんばんは」

「・・・こんばんは」

青年「・・・えらく大荷物だね。手伝うよ」

「・・・ありがとう。大丈夫よ」

青年「・・・そうかい? なら、良いけど・・・」

「ありがとう。・・・じゃあ」

青年「・・・うん」

少女「・・・・・・??」

青年「・・・・・・・・・」

少女「・・・・・・御存じなんですか?」

青年「ん? ・・・ああ、僕の知り合いさ。幼馴染とも言うか」

少女「そうでしたか・・・」

少女「キレイな女性でした。旦那さんになる人は幸せでしょうねえ」

青年「・・・実は、彼女が、その、あいつの結婚相手なんだ」

少女「えっ・・・・・・・・・」

青年「・・・・・・・・・」

少女「・・・本当に?」

青年「・・・本当さ」

少女「・・・・・・まあ」


「「ただいま、8時発の夜行列車、発車致します」」

 ――― P.M. 8:00

青年「・・・驚いているね?」

少女「・・・はい」

青年「だろうね・・・僕だってびっくりさ」

少女「言っては悪いんですけど、正直、お似合いなカップルとは・・・」

青年「・・・彼女の親御さんは相当反対したそうだ。結局、こうなってしまったけれどね・・・」

少女「・・・・・・そうでしたかぁ」

青年「・・・そうなんだよ・・・・・・」

少女(・・・この人、もしかして・・・)

青年「・・・どうかしたかい?」

少女「い、いえ、なんでもないです」

少女「・・・とても物静かな美人さんでしたけど、それこそ、青年さんとぴったりな気がします」

青年「・・・とんでもないよ。・・・でも、ありがとう」

少女(・・・・・・やっぱり、思った通りかも?)

青年「・・・そろそろ荷物置かないとね。君、夜行列車は初めてだろう?」

少女「あ、は、はい。そうなんです」

青年「君の事だ、案内するまでもないかもしれないけれど・・・若い女性客一人は危ない」

青年「何かあれば僕でよければ、いつでも力になる」

少女「・・・はいっ。ありがとうございます」

青年「・・・じゃあね」

少女「はいっ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

少女「・・・どの部屋にしようかな」

少女「どれも一緒、だと思うけど」

 どんっ

少女「きゃっ・・・?」

「・・・ごめんなさい。大丈夫?」

少女「だ、大丈夫です。・・・こちらこそ、ごめんなさい」

「いいえ、私の不注意よ。ごめんなさいね」

「・・・ところで、こんなところでどうしたの?」

少女「あ、えっと・・・お部屋を探してて」

「自分の? あなた、一人?」

少女「はい」

「まあ・・・そうなのね」

「そうね、ここは私の部屋なの。隣は空いていると思うわ」

少女「ほ、本当ですか。ありがとうございます!」

「いいえ。気を付けてね」

少女「はいっ」

少女(この女性、誰かに似ているような)

少女(・・・誰だろう・・・まあ、いいか)

 ――― P.M. 8:10

少女「・・・寝るにはちょっと早いかな」

少女「寝るまで何をしよう」

少女「・・・・・・」

少女「それにしても早かったな、結婚式」

少女「こんなにすぐとは思わなかった」

少女「・・・早く会いたいな」

少女「・・・・・・」

少女「・・・ちょっと、表に出てみよう」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

少女「・・・けっこう小さい列車だな」

車掌「それは悪かったねぇ、お嬢ちゃん」

少女「えっ!? ・・・あ、いや、すみません、そんな悪い意味では・・・」

車掌「いやいや分かってるよ。でも、俺にはこんなこじんまりとした列車が好きなのさ」

少女「・・・分かりますよ。大きいと、なんだか落ち着かないですし」

車掌「おお、分かるかい。お嬢ちゃん、若いのに・・・」

車掌「若いのはみんな、大きくて洒落たやつに憧れてると勝手に思ってたもんでな」

少女「わたしは、どちらかというとこっちの方が好きですね」

車掌「はははっ、ありがとよ。車掌名利につきるってもんだ」

車掌「ところで、お嬢ちゃんはどうして一人なんだい? そんでもって、何しに行くんだい?」

少女「えっと、知り合いの結婚式に行くんです。母も誘ったんですが、一人で行っておいで、って・・・」

車掌「なるほどねぇ。そういや、あそこは有名な教会があるな」

少女「そうなんです。わたしも楽しみで」

車掌「そうかそうか。しかし、一人でとはたくましくも思うが、同じくらい不安も感じるな」

車掌「この前なんか、どこかの山奥の屋敷で連続殺人が起きたとか聞いたぜ。末恐ろしいだろう?」

車掌「今時、何かと物騒な世の中になっちまった。若い女の子一人じゃあ、心配でたまらないってのが本心だぜ」

少女「・・・ありがとうございます。でも、大丈夫です。頼もしい車掌さんもいらっしゃいますし」

車掌「はははっ、上手いこと言うお嬢ちゃんだ」

車掌「・・・お嬢ちゃんがそこまで言うなら、もう言わねえ。でも、何か困ったらいつでも声かけてくれ」

車掌「列車の中なら、すっ飛んで行くぞ」

少女「ありがとうございます!」

車掌「ははは、では、良い旅を。あんまし、夜更かしはするもんじゃねえぞ」

車掌「俺の嫁さんが言ってたが、お肌ってやつに響くらしいぞ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

少女「もう、車掌さんったらあんな事を・・・」

少女「でも、わたしも気にかけないといけないな」

乗客「・・・そうだ、ちょっと外の風景を見てみたいな」

乗客「・・・どうだろ・・・」

乗客「・・・・・・」

乗客「・・・うーん」

「・・・ここからだと、あまりよく分からないでしょう」

乗客「えっ・・・?」

「・・・こんばんは。さっきすれ違ったわね」

乗客「あ、えっと・・・」

女「・・・"女"よ。初めまして」

>>17の乗客=少女


少女「は、初めまして・・・」

女「・・・今はね、街と街の間を縫って走っているところ。正直なところ、殺風景でしょう?」

少女「・・・はい」

女「残念だけど、そうなの。でも、ある程度来れば向こうの街の風景が見えてくる」

女「こっちの街ではコンクリートが増えてきて、近代的って感じだけれど」

女「向こうの街では、まだレンガ造りが多くて、田舎的だけれど、素敵なところよ」

少女「へぇ、そうなんですか・・・自然が多い、って感じですか?」

女「そうね・・・私は向こうの街の方が好きね。生まれ育ったのはこっちだけど」

少女「そうでしたか・・・」

女「ところで、あなた・・・向こうに何しに行くの?」

少女「わたしは、結婚式があるので。もちろん、わたしは列席ですよ」

女「そうよね。あなた、なんだか若すぎるもの」

少女「・・・やっぱり、そう見えますか?」

女「・・・ええ。失礼じゃなければ良いけれど、お歳はいくつ?」

少女「16になります」

女「・・・まあ。・・・驚いたわ。私と二つしか変わらないのね」

少女「わたしが童顔なんです・・・背も低いし」

女「それはそれで、良い個性だと思うわ。あまり気を落とさないでね」

女「それに、そっちの方が女の子らしくて良いじゃない」

少女「みなさん、口を揃えてそうおっしゃいますけど・・・うーん」

女「・・・本当よ。でも、みんなそれぞれ個性があって良いんじゃないかしら。私も、あなたもね」

少女「・・・そう、ですね」

少女「・・・ところで、女さんは・・・?」

女「・・・私はね、あなたと少し似てる。主人公か、配役かの違いね」

少女「・・・あっ、そういえば」

女「・・・?」

少女「同じ年頃の男の人が教えてくれました。結婚式挙げに行くって」

女「・・・ああ、彼かしら。あら、そうだったの」

少女「お知り合いなんですよね。確か、幼馴染?」

女「そうね。実家が近かった。それなりに親しい仲でもあった」

少女「それで・・・その人の弟さんと、ご結婚されるんですよね」

女「・・・そこまで聞いていたのね。ええ、その通りよ」

少女「・・・お相手の方、幸せでしょうね。女さんみたい女性が奥さんだなんて」

女「やめて、恥ずかしいわ・・・でも、ありがとう。そう言われるのは、悪い気はしないわ」

少女「そうですよ。わたしも言われてみたいです」

女「それにはもう少し年月が必要かもしれないわね。でも、あなた、きっと良いお嫁さんになれるわ」

少女「それは実はよく言われるんですが・・・うーん、果たしてそうでしょうか」

女「ええ、そうよ」

少女「・・・ありがとうございます」

女「・・・そういうところよ。女は愛嬌よ」

少女「・・・はいっ」

女「そういえば、あなたは一人?」

少女「そうですね」

女「そうだったのね・・・大変じゃないかしら」

少女「まあ、良いのか悪いのか、一人なのはけっこう慣れてますし・・・」

女「そう・・・そっか」

少女「はい。なので、心配ご無用ですよ」

女「分かったわ。でも、困ったら私で良ければ力になるわ」

少女「分かりました。ありがとうございます!」

女「・・・ところで、今、何時かしら・・・」

少女「えーっと・・・」

 ―――――――――
 
 ――――――

 ――― P.M. 8:30

「だいたい8時半くらいよ」

少女「え・・・?」

女「・・・お母さん」

「寝るには少し早いかしらね。ちょっと夜風に当たりにきたの」

少女「お母さんってことは・・・」

「あら・・・あなたはさっきの」

女「・・・知り合い?」

「ううん、ここでさっきすれ違った子よ」

「・・・私は"母"。この子の母親ね」

少女「ああ・・・なんだか、似ていると思ったんです。母娘だったんですね・・・」

女「・・・なんでここに来たの?」

母「さっきも言ったでしょう。外の景色を見にきたの」

女「・・・ふうん」

母「私はまだ寝なくて良いけど、あなたは寝た方がいいんじゃないの? 明日は主役なんだから」

女「もうちょっと起きてるの」

母「・・・彼も待っているんじゃないの」

女「・・・・・・別に。お母さんには関係ない」

女「・・・今は、この子とお話ししてたの」

母「・・・まあ、好きになさいな」

女「言われなくても」

少女「・・・・・・・・・」

女「・・・もう、困っているじゃない。変なこと言わないで」

母「お互い様でしょ・・・ごめんなさいね、私が勝手に割って入ってきちゃって」

少女「わ、わたしは大丈夫ですけど・・・」

母「そういえば、お一人なのよね? お節介じゃなかったら、私たちになんでも・・・」

女「その事をさっきまで話してたのよ。この子は強いから、私たちの力なんていらないわ」

母「・・・そうなの」

少女「あはは・・・でも、列車に一人で乗るくらい大したことありませんから」

母「いいえ、しっかりしていると思うわ。良いお嫁さんになりそうねぇ」

少女「・・・さっき女さんからも言われちゃいました。あはは・・・」

母「うんうん、きっとそうだと思う。べっぴんさんだしね」

少女「そんな・・・」

女「控えめなのは良いと思うけど、あまり過ぎると良くないかもしれないわね」

少女「そ、そうですか」

母「そこは女に賛成ね。変な男に言い寄られて、はいはい言ってばかりだと大変なことになるわよ」

女「・・・・・・・・・」

少女「・・・ど、どうかしましたか?」

女「・・・いいえ、大丈夫よ」

母「・・・・・・・・・」

少女「・・・??」

母「・・・まあ、そういうことなのよ。あなた、好きな男性にはとことん尽くしそうなタイプに見える」

母「そういうところを悪用する人ってたくさんいるんだから。気を付けなさいね」

少女「はい、ありがとうございます」

女「・・・初対面の人にそんな事言っても・・・図々しいわよ」

少女「そ、そんなことないですよ? ありがたく受け止めます」

母「あなたって、優しい子ねぇ・・・」

少女「いえいえ、そんなこと」

母「謙遜しないの。女は度胸と愛嬌よ。今は素直に喜んでおきなさいって」

少女「・・・はい。えへへ」

女「・・・ふふ。あなたって本当に不思議な魅力があるわね」

母「うん、確かに」

女「・・・そういえば、そのブローチ。とても綺麗ね」

母「・・・本当ね。よく似合ってる」

少女「・・・ああ。これは・・・」

少女「・・・大切な友人からもらったものです。宝物なんです」

女「そうなのね。そのブローチもお友達も、大切にしなきゃね」

少女「・・・はいっ」


「おーーいっ」

少女「・・・??」

女「・・・・・・・・・」

「おーい、って」

母「呼んでるわよ」

女「私の事とは限らない」

母「・・・屁理屈ねえ。十中八九・・・」

男「おーい女」

女「・・・なに?」

男「そろそろ寝ようぜ。いつまで井戸端会議してんだ」

女「・・・別に良いでしょう」

男「良くねぇから言ってんだ。ほら行くぞ」

女「・・・分かったわ」

母「・・・おやすみ」

女「・・・・・・・・・うん」

少女「お、おやすみなさい」

女「・・・おやすみ」

少女「・・・・・・・・・」


男「へっへっ、さぁ行くかぁ」

 すり、すり・・・

少女「・・・・・・まあ」

母「・・・・・・」

女「やめて。もしかして酔ってるの? だらしないし、やめてよ」

男「へっ、つまんねーな」

女「そういうのは式を挙げてからという約束よ。私の家、クリスチャンなの」

男「分かってる分かってる」

女「・・・・・・」

男「ま、お楽しみは明日の晩からだ。楽しみにとっとくぜ」



少女「男の人、大胆ですね。わたしたちの目の前でいちゃついてくれましたよ」

母「・・・二人がそれで幸せなら良いけれど」

少女「・・・えっ・・・?」

母「・・・なんでもない。ごめんね、変な事を言って」

少女「・・・・・・・・・えっと」

母「・・・ふふ、あんな事言っちゃったら余計気になるわよね・・・」

少女「・・・・・・は、はい」

母「・・・私としては」

母「・・・いいえ、あの子の母親として・・・」

母「あの二人の事は認めたくないの」

少女「・・・・・・・・・」

母「・・・驚くわよね。もう、こんなところまで話は進んでいるというのに・・・」

少女「・・・青年さんからも聞きました。相当反対されたそうですね」

母「あら、青年くんから聞いていたの・・・そうよ」

母「この事で何度言い争ったのやら・・・」

母「でもね、だんだんあの二人が幸せなら良いかな、と思うようになってきた」

少女「・・・正直なところ、わたしとしては・・・」

母「・・・あなたも気付いたか。そうなのよ。あの二人・・・いや」

母「あの子の方は、どう見ても・・・・・・」

少女「・・・ま、まあ、見えないところでラブラブしてるかもしれません」

少女「みんなに見られていると恥ずかしいでしょうし・・・あの・・・」

母「・・・ふふ、そうかもしれないわね。そうだと、良いんだけれど・・・ね・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ――― P.M. 8:40

女「・・・二人で話してたの」

少女「・・・あ、あれ? もうおやすみになるんじゃ・・・」

女「・・・あの人だけ寝かしつけてきたわ。私はまだ目が冴えているし」

母「・・・寝ておきなさいよ。明日は・・・」

女「分かってる。お母さんこそさっさと寝たら」

母「・・・もう。早く寝なさいよ。私は部屋に戻るから・・・」

女「分かった」

少女「お、おやすみなさい」

母「ありがとう。おやすみ」

女「・・・・・・」

少女「・・・・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ――― P.M. 8:45

少女「・・・きゃっ」

女「・・・トンネルに入ったのね」

少女「・・・ああ、どうりで・・・びっくりしました」

女「少し長いトンネルよ。この早さだったらちょっと時間がかかるかもしれないわね」

少女「そうですかぁ・・・」

女「・・・真っ暗ね。でも少しの辛抱よ」

 ―――――――――

 ――――――

 ――― P.M. 8:50

女「・・・ようやく抜けたわね」

少女「・・・良かったです」

少女「・・・女さんは、まだおやすみにならないんですか?」

女「・・・・・・うん。そうね」

少女「・・・眠れないんですか?」

女「・・・そうね・・・眠れない。最近はこういう事、けっこう多いのよ」

少女「そうなんですか・・・」

女「自分でもなぜだか分からない・・・疲れてるのかしら」

少女「・・・・・・・・・」

女「・・・私達、結婚するのよ。結婚前夜がこんな気分なんてらしくないんでしょうけれど・・・」

少女「・・・疲れているんです。きっと。でも大丈夫ですよ」

少女「あなたはこれから幸せになるはずなんです。心に決めた人と添い遂げる人生を選んだ・・・」

少女「明日はきっと運命の一日になります。忘れえぬ一日です」

少女「険しい顔は今は忘れて、笑顔になりましょう。きっと、気分も変わっていくはずです」

女「・・・そう、ね」

女「・・・・・・ありがとう」

女「・・・あなたって、不思議な魅力がある人ね。本当に」

少女「・・・それほどでもありませんよ」

女「・・・お母さんも言ってたけど、あなたは絶対良いお嫁さんになれるわ」

女「・・・あなたの旦那様になれる人は、さぞ幸せでしょうね」

少女「うふふ、それならお互い様じゃないですか」

女「・・・本当にそうかしら。だって、私、特別なことなんて何もしてあげられない」

少女「幸せってきっと、何気ない普通の事なんです。でも、満たされた時は、それが分からなくなってしまう」

少女「そして失った時に初めて気づく・・・それはきっと、人間という生き物の、最大の罪ではないかと思います」

女「・・・・・・・・・」



少女「・・・・・・というか、さっきからなんだか、熱くないでしょうか?」

女「・・・そういえば・・・」

少女「・・・変な音も聞こえる・・・・・・これは・・・・・・何かが燃える音・・・!?」



青年「おーいっ!! 誰かあぁっ!!」

 ―――――――――

 ――――――

 ――― P.M. 9:00


少女「ど、どうかされましたか・・・!?」

女「・・・ここ、私たちの部屋よ」

青年「・・・き、君たち・・・危ないぞ・・・」

少女「・・・様子がおかしぎます。車掌さーーん!!!」



車掌「どうしたんだい、お嬢ちゃん!」

母「・・・どうかした?」

少女「この部屋を開けて下さい! なんか・・・おかしいんです・・・!」

車掌「・・・分かった。開けるぞ」

 ギィ・・・

一同「「 !!! 」」

 ゴオオォォ・・・パチパチ


女「・・・あ・・・あぁ・・・」

青年「車掌さん! 早く水だ! 燃え移ってしまう!」

車掌「おう、兄ちゃんもちょっと手伝ってくれ! お嬢さん方は、遠くへ避難するんだ!」

母「・・・どう、して・・・?」

少女「・・・・・・・・・」



少女(・・・火事・・・小火どころじゃない)

少女(ただの事故か・・・? いや・・・)

少女(・・・違う。おかしい。何かがおかしい・・・)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 ――― P.M. 9:30

車掌「・・・ふう・・・やれやれ」

青年「・・・・・・・・・」

少女「・・・お、お疲れ様です」

車掌「ありがとよ」

車掌「・・・火は止まった。でも・・・生憎だが、中にいた兄ちゃんは・・・」

青年「・・・助けれらなかったよ。手遅れだった・・・ごめん・・・・・・」

女「・・・そう・・・・・・・・・そっか」

少女「お、女さん、気を落とさないで・・・っていう方が無茶かもしれないですけど・・・」

女「・・・ありがとう。でも、もうさっきから・・・覚悟できていたわ」

女「・・・・・・ほんと、バカじゃないかしら・・・もう・・・」

少女「・・・ところで、火の原因は・・・?」

車掌「おそらくだが、兄ちゃんの煙草だな。ボロボロになった吸殻を見つけた」

少女「・・・なるほど。それの後始末が原因ってところですか」

車掌「だと思うぜ。火が完全に消えてなくて、それでなんかの拍子で燃え移ったんだろう」

青年「それしか考えられないね。・・・まったく、あいつ・・・式の前夜になんて・・・なんてことを・・・」

女「・・・今は彼を悪く言うのはやめて。どんな理由にしろ、死者への冒涜は許されないもの」

青年「・・・そうだな。悪かった」

少女「・・・・・・・・・」

車掌「事故ならしょうがねえと思わねえといけねえなぁ・・・しょうがないって片づけたら、お嬢さんに悪いけど」

女「・・・気にしていません。お気づかい、ありがとうございます」

車掌「いやいや。俺がもうちっと気を付けておけば、防げた事故かもしれない」

車掌「その点に関しちゃあ、謝っても謝り切れない。・・・・・・本当に申し訳ない」

女「・・・頭を上げて下さい。悪いのは、彼の後始末ですから・・・どうか、御自分を責めないで」

車掌「・・・そうは言っても、責任の一端は俺にもある。だから、謝らないと気が済まない。申し訳なかった・・・」

女「・・・こちらこそ、彼がご迷惑をおかけ致しました・・・」

少女「・・・・・・」

少女(・・・本当に、ただの事故なのか?)

少女(不自然な点がある・・・)

少女(一つ目、"火が燃え広がるのがかなり早かったこと")

少女(女さんが男さんを連れて部屋に行ったのが、8時半)

少女(女さんがわたしたちの元へ帰ってきたのが、8時40分)

少女(普通に考えて、この時点で火が燃え移っていることはないし、あれば女さんが気付いているはず)

少女(そして、わたしたちが事件の部屋に行ったのが、9時)

少女(この間、わずか20分)

少女(煙草の火の後始末だったとして、こんな短期間であそこまで激しく部屋が燃え上がるのか・・・?)

少女(・・・違う。ありえない。おそらく、他に人為的な何かが・・・)

少女(そして二つ目、"男さんが何の抵抗もなく焼け死んだということ")

少女(あそこまで激しい火なら、眠りが浅い段階なら普通の人なら気付くはず)

少女(女さんは、直前までわたしといた。とすれば、他の誰か、ということになる・・・)

少女(しかし、まだ現場と遺体をじっくりと見ていない・・・はっきりとしたことは何も分からない)

少女(本当に事故なのか・・・それとも・・・・・・)

少女(他殺だとして、いったいどうやって、誰か、どんな理由で・・・・)

少女(・・・まだ眠るわけにはいかない。朝には、隣町に到着してしまう)

少女(いや、朝までじゃない、皆さんに朝まで付き合わせるわけにはいかない)

少女(タイムリミットは、せいぜい、日付が変わるまで・・・か・・・)

支援・読んでくれる人に感謝
分かりにくいところや、質問等あれば受け付ける
言うまでもなく、物語の核心に触れることには答えられない

青年「・・・やれやれ。ようやく寝ようと思っていたのに・・・」

母「・・・目が覚めちゃったわね」

女「・・・・・・・・・」

少女「だ、大丈夫ですか・・・女さん」

女「・・・えぇ。でも、ちょっと気分が良くないわ・・・」

少女「わたしの部屋をお貸します。休んでいて下さい」

女「・・・ありがとう。そうさせてもらうわ・・・」

少女「・・・しっかり気を持ってください」

女「・・・えぇ、そうね」

青年「・・・眠れそうにないけど、僕も部屋に戻るか」

母「・・・私も戻ろう」

車掌「・・・・・・参ったね」

少女「・・・車掌さん」

車掌「お嬢ちゃんか・・・大変な目に合わせちまって、申し訳ないな・・・」

少女「い、いえ・・・別に車掌さんのせいではありませんし・・・」

車掌「さっきも言ったけど、責任の一端は俺にもある。お嬢ちゃんには分からないかもしれないが、それが社会ってもんだ」

車掌「何より、あのお嬢さんの婚約者を死なせてしまったなんて・・・一生引きずってしまいそうだぜ」

少女「・・・・・・」

車掌「お嬢ちゃん、列車ってのはな、何も人や荷物だけを運ぶものじゃないんだ」

車掌「人の夢も乗せて走っている。人の幸せも乗せて走っている」

車掌「その意味と責任はどれだけの重さか」

車掌「・・・・・・俺は今守れなかった」

車掌「・・・・・・・・・ははは、こんなことお嬢ちゃんに言って何になるんだ」

車掌「すまねえ、忘れてくれ」

少女「・・・車掌さん、とても立派だと思います」

車掌「・・・・・・うん?」

少女「御自分の職務を全うし、責任をしっかり背負っていらっしゃいます」

少女「その揺るぎない精神をとても尊敬します。ですから・・・」

少女「・・・どうか、御自分を責めすぎないで下さい。あなたはやれるだけのことをやったと思います」

車掌「・・・・・・ははっ、照れるからやめろ」

車掌「・・・でも、ありがとうよ。ちょっと楽になったよ」

少女「・・・どういたしましてっ」

少女「・・・今回の事件は本当に残念でした。ですが・・・」

車掌「・・・??」

少女(本当に事故かは分からない・・・わたしが事実を突き止める)

少女「・・・なんでもありません。またお話伺わせもらうかもしれませんが、とりあえず失礼します」

車掌「・・・元気なお嬢ちゃんだ。無理するなよ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 コンコン

「・・・どうぞ」

少女「失礼します」



青年「・・・君か。何か用かい」

少女「はい。ちょっとお話をと思って」

青年「そうか。僕も眠れないしね。付き合うよ」

少女「ありがとうございます!」

少女「・・・その前にまず、男さんの事なんですが・・・残念でした」

青年「・・・全くだね。明日は式だというのに・・・・・・何てことだ」

少女「悔やんでも悔やみきれないと思います・・・本当に残念でした」

青年「ああ・・・しかし、煙草か。あいつ、煙草なんか吸ってたのか」

少女「・・・知らなかったんですか?」

青年「知らなかったよ。高いしね」

少女「・・・確かに」

青年「不注意もいいところだよ。結果、彼女を苦しませる事になったんだ・・・わざとじゃないにしろ」

少女「・・・そうですね」

少女「・・・お二人の式って、いつ決まったんでしょう?」

青年「つい最近だよ」

少女「そうなんですか・・・」

青年「早いなと思ったよ。何をそんなに急いでるのかってぐらいね」

青年「あいつは周りにひたすら自慢しまくってた。あの女と結婚する、ってね」

少女「きれいな人ですもんね。自慢したくもなりますよ」

青年「そうかもしれないね。でも、彼女の方はなぜあいつと・・・結婚なんて」

少女「・・・・・・」

青年「みっともないのは分かっている。でも、本当に信じられなかったんだ」

青年「・・・あいつの事なんて好きどころか、嫌いな人間だと思っていた」

青年「女性の心変わりの速さと大胆さには理解できない時があるよ」

少女「・・・あはは・・・確かに」

青年「・・・君のことを言ったつもりはないよ。もしそう聴こえてしまったら謝る。ごめん」

少女「いえいえっ」

少女「・・・異変に真っ先に気付いたのは青年さんなんですよね」

青年「・・・そうなるかな」

少女「それまで何か不自然な事とかありませんでしたか?」

青年「特になかったように思うけどね」

少女「・・・そうですよね」

青年「彼女とあいつが部屋に入ったと思ったら、数分後に彼女の方だけ出てきたのは見たよ」

青年「それ以外は特に・・・」

少女「・・・なるほど。悲惨な事故でしたよね・・・」

青年「・・・全くだよ」

少女「しかし・・・明日はどうされるんですか?」

青年「・・・・・・帰るしかないだろう。君は知り合いの式に参加するんだろう」

少女「はい」

青年「・・・僕らの分まで、その人たちを祝福してやってくれ。お願いだよ」

少女「・・・分かりました。楽しんできます」

青年「ぜひそうすると良い」

少女「・・・では、失礼させてもらいます。お邪魔しました」

青年「僕はもう少し起きている。また話が聞きたければ来ると良いよ」

少女「ありがとうございます! では失礼します」

青年「ああ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 コンコン

「・・・どうぞ」

少女「失礼します」



母「あら・・・あなただったの」

少女「・・・ちょっとお話をと思って」

母「・・・大丈夫よ。私もなんだか眠れないし・・・」

少女「はい、わたしもです」

母「そうよね・・・」

少女「・・・・・・心配ですよね、女さんのこと・・・」

母「・・・んー、まあ、そうね。・・・・・・うん」

少女「・・・??」

母「・・・歯切れの悪い言い方しちゃって。私って、けっこう罪な女というか、母親というか・・・」

母「私はどこかね、彼が亡くなって、少しホッとしている自分がいるわ」

少女「・・・それは・・・」

母「今でも彼のことは良く思っていないもの。やっぱり隠してはおけないものよ」

母「でも、あの二人は・・・特にあの子の方は・・・やけに強く結婚を望んでいた」

母「・・・恋は盲目ってこういうことを言うんでしょうね・・・」

母「私には、彼の良いところなんて、まったく見つからないの。どこを好きになったのかすら」

少女「・・・・・・・・・」

母「聞いても答えてくれないし。それは単に自分で言うのが恥ずかしいからかもしれないけれど・・・」

母「若い子には分からないのよね・・・」

母「男女の関係というのは、相手を好きな気持ちだけでは足りないの。全然足りないの」

少女「・・・そうですね」

母「・・・分かる? 愛とお金。どちらが重要かって、質問を耳にするけれどね」

母「よく考えてごらんなさい。ものすごく両極端な質問だということに」

少女「うーん、どちらも同じくらい大切ですよね」

母「そうね。どんな好き合っていたとしても、それを揺さぶる風に当たった時・・・」

母「時にはゆっくりと確実に、時にはあっという間に不確実に・・・」

母「夫婦という形は崩れ去ってしまうものよ」

少女「・・・難しいですね、結婚生活って」

母「難しいわよ」

少女「・・・それを揺さぶる風、っていうのは、例えば・・・」

母「たくさんあるわ」

母「お金のこと、周りの視線、国の政治・・・そして自分達すらも揺さぶる要素」

少女「そうなんですか・・・」

母「・・・あなたには、ちょっと早いかもね。ごめんなさいね」

少女「い、いえいえ・・・」

母「・・・好きな気持ちだけでは足りない。恋という感情と愛という感情は、別物だと思った方が良いわ」

母「恋というのは相手を好きな気持ちだけ。愛というのは、同時に相手の悪いところも見つめられるのが愛なのよ」

少女「・・・わたしには、少し難しいかもしれません」

母「・・・ふふふっ、でしょうね。でも大丈夫よ」

母「時間の流れだけでそれを分かることは難しいけど・・・あなたなたら大丈夫そうな気がするわ」

母「きっと良い男の人を捕まえられると思うわ」

少女「あはは・・・だと良いんですけれど・・・」

母「・・・大丈夫よ。きっと明るい幸せな未来が待ってるわ」

少女「・・・本当にそう願います」

母「暗いことばかり考えててもしょうがないわ。どうせ考えるなら、明るい未来でしょう」

少女「はいっ」

母「ね、そうでしょう? 大丈夫よ・・・ただの勘でしかないけれど、あなたなら・・・」

母「・・・・・・・・・」

母「・・・話がずれちゃったわね。女は今、辛い気持ちかもしれない」

母「でも、その内きっと・・・彼とのことを考え直し始めるはず」

母「それに、てっきり私は、女は青年くんのことを・・」

少女(・・・もしかして・・・)

母「・・・だと思ってたんだけどなぁ。まあ、若い内って色々目移りしちゃうものねぇ・・・」

母「でもそのせいで、本当に大事な人を忘れていってしまうこと・・・多いのよ。あなたも気を付けてね」

少女「・・・分かりました。ありがとうございます」

少女「・・・わたし、そろそろ失礼しますね」

母「そう? もし話がしたくなったらまた来てね。まだ目が冴えてるし・・・またお話したいわ」

少女「分かりました。お邪魔しました」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

少女「・・・・・・・・・」

少女(お二人の話を聞いてみて・・・)

少女(話を聞く前と比べてみて、より強く感じたのは・・・)

少女("青年さんは、女さんに好意があること")

少女("母さんは、女さんの結婚に断固反対なこと")

少女(・・・二人とも、動機は十分ということか・・・)

少女(・・・まだ、分からない)

少女(現場をまだ見ていない。車掌さん、見せてくれるだろうか・・・)

少女(・・・なんとかお願いしてみるしかない・・・)

支援・読んでくれる人に感謝
気付いた人もいると思うが、
この話はGLAYの"BE WITH YOU"とB'zの"核心"に影響を受けている
歌詞を調べても特にヒントは得られないと思うが、
雰囲気を味わう分には良いかもしれない

 ―――――――――

 ――――――

 ――― P.M. 9:50

少女「・・・・・・あのう」

車掌「・・・おや? どうしたんだいお嬢ちゃん」

少女「・・・ちょっと、変なお願いなんですが」

車掌「おう、なんだい?」

少女「この・・・事故現場のお部屋、見せてほしいんです」

車掌「・・・正気かい?」

少女「・・・お願いします。難しい・・・ですか?」

車掌「・・・いや、別に構わねえけどな。だが、見たところで焼け跡しかないぞ」

少女「それで大丈夫です」

車掌「・・・分かったよ。ただし、俺も部屋には同伴させてもらうぞ」

車掌「別に変な意味はねえ。もし怪我でもさせちまったら、俺の責任だからな」

少女「構いません。お願いします」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

少女「・・・・・・」

車掌「・・・・・・どうだい。満足かい」

少女「もう少し拝見させて下さい」

車掌「・・・気が済むまで見ていきな」

少女「ありがとうございます」

少女「・・・・・・・・・」

少女(ほぼ部屋の全域まで燃え広がっていたみたい)

少女(入口辺りまでは若干届いていない・・・)

少女(煙草の後始末だとして、約20分でどこまで燃え広がるだろうか・・・)

少女(男さんが寝ていたと思われるベッドはもはや跡形もないほどに・・・)

少女(やはりあの短期間でここまで激しく燃え上がるのはおかしい・・・)

少女(・・・あれは・・・)

少女「・・・車掌さん。あの白い毛布に埋まっているのって・・・」

車掌「・・・兄ちゃんだよ。さすがに見るのはこらえた方がいいぜ」

車掌「俺でも、夕飯を戻しそうになった。お嬢ちゃんが見たら、それ以上の被害が出るぞ」

少女「・・・そうですね。やめておきます」

少女「・・・・・・やっぱり、遺体は・・・全身火傷という感じですか」

車掌「いや、それ以上だったな」

少女「・・・なるほど」

少女(・・・ということは、遺体は全身火傷を通り越して、もはや黒焦げ状態か・・・)

少女(ますますおかしいと感じる・・・だって、煙草の後始末だっとして・・・)

少女(たった20分で人の体がこんな状態になるわけが・・・)

少女(いきなり火の海に投げ込まれるとか、爆弾に曝されたわけじゃないんだ・・・)

少女(ましてやイエス様のごとく磔刑にされたわけでも・・・)

少女(・・・・・・・・・磔刑か)

少女(そこまで極端なわけではないだろうけど・・・)

少女(もしかしたら、男さんが何の抵抗もなく焼け死んだのは、縛られていたから・・・?)

少女(紐などで縛れば、逃げられないし、何より証拠は何も残らない・・・)

少女(しかし、そうなると、どうやって男さんを縛ったか・・・ということになる)

少女(確か、あの時・・・男さん、酔っ払っていた)

少女(自分から飲んだのか、勧められたからなのかは分からないけれど・・・)

少女(そういえば、あの時、眠そうにしていた・・・もしかしたら、あの中に睡眠薬が・・・?)

少女(それで早い段階から深い眠りに落ちていた・・・か)

少女(とすると、誰かに勧められて飲んだことになる)

少女(・・・二人に聞いても無駄か。しらばっくれるだけだ。どうせ、証拠も証言も何もない)

少女(・・・もっと部屋の中を見渡してみよう。他に何かヒントは・・・)

少女「・・・・・・・・・」

車掌「・・・まだ見るのかい?」

少女「あ、はい・・・すみません。もうちょっとだけ」

車掌「・・・俺は構わないけどさ」

少女(・・・・・・もう、後は見渡す限り焼け跡だけ、か・・・)

車掌「・・・おっと、危ねえな。ガラス瓶の破片かよ・・・でっかいぜ、これ」

少女(・・・・・・・・・え?)

少女「しゃ、車掌さん! それ、見せて下さい!」

車掌「え? こいつをか?」

少女「はい!」

車掌「・・・触るのはやめとけ。怪我するぞ。見るだけだ」

少女「分かりました」

少女「・・・・・・・・・」

 キラン・・・

少女(・・・・・・なぜ、ガラス瓶の破片が・・・)

少女(・・・他にもあるはずだ)



少女「・・・・・・・・・」

少女(やはりあった。一つ二つどころじゃない、破片がたくさん・・・)

少女(普通に考えて、火で壊れてしまったんだろうけど・・・)

少女(さすがに数が多すぎる気がする・・・中身はいったい、なんだろう)

車掌「・・・今度は破片ばっかり探して、どうしたんだい?」

少女「あ、い、いえ・・・あはは」

少女「・・・ちょっとお聞きするんですけど、この列車って、飲み物を瓶で売ってますか?」

少女「例えば、清涼飲料水とかお酒とか・・・」

車掌「いや、売ってないぜ。夜行列車だしな、みんなすぐ寝ちまうし、そこまで需要はないんだよ」

少女「・・・ですよね」

車掌「だから、俺も不思議に思ってんだ。このガラス瓶、どこから出てきたのか」

少女「・・・・・・・・・」

少女「・・・ありがとうございます。そろそろ部屋を出ます」

車掌「おう、そうしよう。息がきつくなるぜ」





少女「変なお願いをしてすみませんでした。ありがとうございます」

車掌「・・・お嬢ちゃん、もしかして、犯人ってやつを探してるのかい?」

少女「・・・え・・・」

車掌「さすがに分かるもんだ。けっこう、ていうか、かなり不自然だったぜ」

少女「・・・あはは・・・そう、ですよね」

車掌「・・・中々肝が据わったお嬢ちゃんだ。俺は止めねえ。好きなだけ調べなよ」

少女「・・・・・・・・・」

車掌「・・・俺も最初からなにかおかしいと思っていた。事故ならしょうがねえと思っていたが・・・」

車掌「俺に協力できるところなら、なんでも言ってくれ。俺も知りたい。なぜこんなことをやったか」

少女「・・・・ありがとうございます。助かります」

車掌「気にするな。だが、気を付けろよ。はっきり言って時間はない。日付が変わるまで、二時間を切ったところだ」

車掌「今はみんな目が冴えているだろうが、その内みんな眠りについてしまうだろう」

少女「・・・はいっ」

車掌「・・・これからどうするつもりなんだ?」

少女「・・・とりあえず、女さんが心配なので・・・顔だけ見に行きたいと思います」

車掌「そうか・・・あのお嬢さんも不幸なもんだ」

車掌「いつだったか、先週か。自分達の式場に下見にいくつもりだったのか、その時もこの列車を利用してくれた」

少女「あ、そうだったんですか。・・・女さん、楽しみだったろうな・・・」

車掌「違いねえな・・・どうか、犯人を見つけてくれ。俺からも頼むよ」

少女「・・・分かりましたっ。ありがとうございます!」

支援・読んでくれる人に感謝

 ―――――――――

 ――――――

 ――― P.M. 10:15

 こんこんこん

「・・・どうぞ」

少女「失礼します」



女「・・・ここはあなたの部屋よ。別にそんな」

少女「いえ、なんだか言わずにはいられないので・・・」

少女「・・・ちょっと、落ち着いたみたいですね」

女「・・・そうね・・・」

少女「・・・でも、やっぱりまだ顔色が悪いです。もう、お休みになっても・・・」

女「・・・そうしたいけれど、眠れないのよね」

少女「・・・そうでしたか」

女「あまりに突然の出来事で・・・正直、まだ混乱しているわ」

少女「・・・そうですよね。大切な方が亡くなられたんですから・・・」

女「・・・えぇ・・・」

少女「明日はどうされるんですか・・・?」

女「・・・分からない。何も考えていないし、考えられないわ・・・」

少女「・・・そうですよね。変なこと聞きました。すみません」

女「・・・別に大丈夫よ。気になるのは当然だと思う」

女「むしろ、変な事故を起こしてしまって、あなたたちに不快な思いをさせてしまって、逆に申し訳ない気持ちよ」

少女「・・・そんな。わたしだって、別に大丈夫です」

女「少なからず、みんなの不眠を招いてしまっているし、やはり彼と私の責任よ」

少女「・・・・・・」

女「・・・だから、ごめんなさい」

少女「・・・大丈夫です。他にみなさんは分かりませんが、わたしは大丈夫です」

女「・・・ありがとう。・・・優しいのね」

少女「・・・いえ」

女「・・・・・・一つ、聞いて良いかしら?」

少女「・・・?? ・・・はい」

女「あなた、知り合いの結婚式に参加するのよね」

少女「はい」

女「・・・その人って、このブローチの持ち主かしら? 大切な友人って言っていたし・・・」

少女「ああ・・・違うんです。結婚される人も、わたしの友達ですが、また違う人なのです」

女「そうだったのね・・・その人も、式には出るの?」

少女「・・・その人は来ません。とても、遠い遠いところに行ってしまって」

少女「もう会えないくらい遠いところへ行ってしまって・・・」

少女「・・・それでも、わたしの大切な友達です。実際、わたしの初めての友達でした」

女「・・・そうか。その友達も大変だったのね」

少女「・・・大変な人生を歩んできた人でした。最初は、遠くへ行ってしまうのは悲しかったですよ」

少女「でも、もう遠くへ行って休んで良いって思えました。それくらい、過酷な人生を歩んでいた人でしたから」

女「・・・あなたも、色々大変そうね」

少女「・・・ふふふ、そうかもしれません」

女「結婚する友達はどんな人?」

少女「そうですね。今は辞めているんですが、前の仕事の恩人、と言いますか」

少女「何も知らないわたしに、手とり足とり教えてくれた、その上で仲良くもさせてもらった人です」

少女「年上の余裕と優しさがあって、お友達ですけど、尊敬もしている人です」

女「そっか・・・良い人たちに恵まれたのね」

少女「・・・本当、心からそう思います。わたしは幸せです」

女「・・・良いことね。私には、そんな友達はいなかったから」

女「いつまでも・・・そのお友達、大切にね」

少女「・・・はいっ」

女「・・・結婚式、楽しみ?」

少女「はい、楽しみです」

女「そっか・・・・・・私達の分まで、祝福してあげてね」

少女「・・・はい!」

少女「・・・ところで女さん、眠れそうですか? わたしは、もう少し起きていようと思うんですが・・・」

女「・・・今のところは、残念だけど・・・」

少女「そ、そうですか・・・わたしの部屋だからといって遠慮はいりませんからね」

女「・・・ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ・・・」

少女「いえいえ・・・では」

女「・・・えぇ」

 ――――――――― 

 ――――――

 ――― P.M. 10:30

少女(・・・女さん、やっぱり眠れなさそうだ)

少女(・・・当然といえば、当然だ。結婚間近の男性を失ったんだから・・・)

少女(・・・母さんの言葉を借りるわけではないけど・・・)

少女(きっと、男さんのことを考え直す時がくるはず)

少女(・・・そういえば、男さんのことについて、何も知らないな)

少女(青年さんに聞いてみよう・・・)


青年「・・・君か。一人でどうしたんだい」

少女「えっ・・・・・・あ、青年さん」

少女「青年さんこそ、お一人でどうされましたか?」

青年「いや、トイレに行った帰りさ」

少女「・・・そうでしたか」

青年「・・・君は?」

少女「女さんの様子が心配で、ちょっと顔をみてきました」

青年「そうだったのか。彼女、どうだった?」

少女「ちょっと落ち着いていました。でも、やっぱり眠れないくらいには落ち込んでいます」

青年「・・・だろうな・・・」

少女「・・・女さんのこと、よく知っていらっしゃるんですね」

青年「それは・・・そうだな。小さい頃からの付き合いだしな。・・・心配だよ」

少女「・・・男さんとも、昔から親しかったんでしょうか?」

青年「・・・そうは思えないけどね。前にも言ったけど、嫌っているような素振りだった」

少女「なるほど・・・よく分からないけど、突然、お付き合いが始まったっていう」

青年「そういう感じだな。女性の心境変化にはついていけないよ」

少女「あははは・・・」

少女「その、お付き合いが始まったのって、いつ頃か分かりますか?」

青年「・・・・・・半年前だったか」

少女「・・・・・・・・・」

少女(・・・・・・・・・えっ・・・?)

青年「・・・声も出ないくらい、驚いているね。僕も同じくらい驚いた」

少女「・・・は、はい・・・」

青年「・・・いくら見知った人間だからといってね、と思ったよ」

青年「よりよって、相手はあいつだ・・・・・・」

青年「・・・まあ、僕が気持ちをはっきりとさせなかったのも悪いかもしれないが・・・」

青年「・・・いや、この話はどうでもいいな」

青年「とにかく・・・妙に早い、というより、変に焦ったような感じの彼女だった」

少女「・・・そうだったんですか・・・」

少女「女さんって、もっと計画性があってしっかりとした女性だと思っていましたが・・・」

青年「案外、そういう女性が弟みたいな男にはまってしまうのかもしれないが・・・」

青年「・・・だから、まあ、君も男はよく考えて選んだ方が良いね」

青年「言葉でいうほど、意外と簡単なことじゃないかもしれないけど・・・・・・」

少女「・・・ありがとうございます。わたしも、どちらかというと、早く素敵な男性を見つけて結婚したいので」

青年「君ぐらいの年頃の女の子なら、みんなそう思っているよ」

少女「ふふふ、そうかもしれません」

少女「・・・女さんが好きになった・・・男さんって、どういう人でしたか?」

青年「・・・そうだな」

青年「・・・一言でいうと、落ち着きがないやつだった」

青年「仕事についたと思えば、次に話を聞けば、もうやめては次へ、また次へ・・・と」

青年「落ち着きがないのは、仕事だけでなく、女性関係でもね」

少女「・・・まあ・・・」

青年「そういう男は、彼女は嫌いだと思っていたし、そもそもあまり話をしたこともなかったとも言っていた」

青年「彼女は、親御さんの仕事の手伝いと、妹さんのことで手一杯だったし・・・」

青年「そんな彼女を僕は、陰で支えていたつもりだったんだけどな・・・」

青年「・・・ただの、つもりだったのかな・・・」

少女「・・・・・・・・・女さん、妹さんがおられたんですね」

青年「・・・まあね。二つ違いだったかな。仲が良い姉妹だったよ」

少女「ふふ、なんとなく想像できます。優しいお姉さんに、活発な妹さんの絵が」

青年「そうそう、そんな感じの二人だったよ」

青年「・・・とまあ、僕の主観でいえば、なぜこの二人が・・・という感じだ」

少女「・・・話を聞く限り、わたしもそう思います」

青年「・・・そういうことだ。まあ、あいつは前から彼女の事が気になっているとは言っていたが・・・」

少女「分かりました・・・ありがとうございます」

青年「いいや・・・僕のつまらない話でよかったら」

少女「とんでもないです!」

青年「一旦、部屋に帰らせてもらうよ。そろそろ眠らないとダメだろうし・・・あまり眠れる気はしないけど」

少女「なんだか引き留めてしまって、すみませんでした」

青年「気にしていないよ。じゃあ」


少女(・・・妹さんか。そういえば、この列車には乗ってないみたい)

少女(ちょっと母さんに妹さんのことも聞いてみよう)

 ―――――――――

 ――――――

 ――― P.M. 10:45

 こんこんこん

「どうぞー」

少女「失礼します」



母「あら、どうしたの? なにか用?」

少女「またお話聞かせて欲しいな、と思って。お休みになってなかったんですね。やっぱり、まだ眠れませんか?」

母「うーん、そうね。寝なきゃ、とは思うけど・・・」

少女「寝られませんよね・・・女さんもそうでした」

母「・・・そっか。様子、見てきてくれたのね。わざわざありがとうね」

少女「いえいえ・・・」

母「それで、お話ってなにかしら?」

少女「あ、えっと・・・女さん、妹さんがいらっしゃるんですよね」

母「・・・そうね」

少女「式にはご参加しないんですか? 二つ違いだと青年さんから聞いたので、わたしと同い年です」

母「・・・・・・あの子の妹はもう、この世にいないのよ」

少女「・・・・・・あ・・・」

母「・・・・・・・・・」

少女「・・・す、すみません。わたし、何も知らずに・・・」

母「ううん。大丈夫よ、あなたが気にすることじゃないわ」

母「・・・妹は・・・元々、体が弱くてね」

母「そんな妹は周りからいじめられていた」

母「その時、女はいつもいじめっ子から、妹を守っていたわね」

母「例え、今度は自分が仲間外れにされても、いじめの対象になっても・・・」

少女「・・・強い女の子だったんですね。姉妹揃って」

母「うふふ・・・そうかもね」

母「本当に仲が良かった。青年くんも、自分の身の心配より、二人の事を気にかけてくれたわ」

母「そんな彼の姿勢と性格を、一番近くで見ていたはずなんだけどなぁ、女は・・・」

少女「・・・なるほど」

母「・・・妹が亡くなったのは、半年前」

少女「・・・・・・・・・・・・」

母「・・・お医者さんによると、急な発作で・・・」

母「・・・もしかすれば、すぐ助けを呼べばなんとかなったかも、とは聞いたけど・・・」

少女「・・・・・・・・・」

母「・・・結局、妹は助からず・・・女は死に目に会えたようだけど、私は遅かったわ」

少女「・・・・・・そんなことが」

母「・・・それにしても、男くんってモテるのねぇ」

母「私にはあまり分からないけれど、妹も彼とお付き合いしてたみたいだし」

少女「・・・・・・・・・え・・・?」

母「姉妹が同時に、同じ男の人を好きになるのは、まあそれほど珍しくもないことだけど」

母「・・・どうかした?」

少女「・・・い・・・いえ・・・」

少女「・・・すみません、わたし、ここで失礼します」

母「あら、そう。また聞きたいことがあれば、来てね」

少女「はい、ありがとうございます」

少女(・・・・・・・・・)

少女(男さんと女さんが、お付き合いを始めたのが今から半年前)

少女(妹さんが亡くなったのが、今から半年前)

少女(これは、ただの偶然なのか、それとも・・・・・・)

少女(そして、その妹さんも男さんとお付き合いしていた・・・だって?)

少女(・・・・・・・・・)

少女(・・・この事件)

少女(・・・わたしの思っているより、もっと、奥深い何かが渦巻いているのか・・・)

少女(ここを更に、振り下げて行かないといけないのか)

少女(・・・・・・わたしは、知ってしまうのが・・・怖い)

支援・読んでくれる人に感謝

 ―――――――――

 ――――――

 ――― P.M. 11:00

少女(・・・11時か・・・)

少女(あの部屋にもう一度入りたいけど・・・車掌さんはどこだろう)

少女(・・・時間がない、仕方ないけど一人でこっそり調べるしかない・・・)



少女(・・・・・・・・・さて、一旦、事件前後をまとめよう)

少女(男さんと女さんが、この部屋に来たのが8:30過ぎ)

少女(その後、女さんがわたしたちの元へ戻ってきたのが8:40分)

少女(普通に考えれば、この時点で火が燃え移っていることはない)

少女(女さんは、男さんを寝かしつけてきた、と言っていた)

少女(おそらく、煙草を吸っていたのは、その前からだといえる)

少女(二人が部屋に行く前に、わたしたちのところへ来たけど、煙草を吸っている様子はなかった)

少女(青年さんも言っていたけど、煙草を吸っているという習慣を知らなかった)

少女(・・・もはや、煙草をいつ吸っていたかどうかは問題ではない、誰かが煙草に火をつけたんだ)

少女(・・・男さんが寝た後に)

少女(青年さんの証言では、女さんが男さんを寝かしつけた後は、特に異変はなかった、ということ)

少女(・・・これに嘘がなければ、火をつけられるのは女さんだけ、ということになる)

少女(もし、これが嘘ならば、火をつけられる人間は青年さんと母さんに)

少女(・・・わざわざ嘘の証言をして、自分に疑いがかかるような事を言うだろうか?)

少女(・・・それを逆手にとって、わざと嘘を言った可能性もある・・・)

少女(が、その裏を返せば・・・・・・まあ、そんなことを言い出したらキリがなくなってしまうけど)

少女(青年さんが男さんを殺したい理由は分かる。でも、女さんが男さんを殺す理由は・・・)

少女(もう明日に式が迫っているというのに、しかも、相手は婚約者)

少女(他に理由があるとすれば・・・・・・)

少女(でも、男さんはわたしたちのところに姿を現した時、お酒を飲んでいた)

少女(女さんは、その時に飲酒していることに気付いたようだし・・・)

少女(お酒を飲ませたのは、女さん以外の別の人間だということになる)

少女(・・・・・・・・・・・・)

少女(・・・ダメだ、まだヒントが足りない。・・・探してみよう)

少女「・・・・・・・・・」

少女(この大量のガラス瓶の破片・・・・・・)

少女(・・・車掌さんが言っていたけど、心当たりがない、ということ)

少女(つまり、元々この部屋にも列車にもなかった、ということ)

少女(誰かが、持ってきた、ということ・・・)

少女(・・・そして、中身はなんだろう・・・・・・?)

少女(・・・・・・・・・分からない)

少女(・・・そういえば、車掌さんと一緒に入った時も気付いたけど)

少女(入口付近だけは、燃え移っていないみたいだ)

少女(・・・単に、その前に車掌さんたちが消火活動をしたからか)

少女(・・・・・・・・・・・・)

少女(・・・最初から不審に思っていた、不自然なほど燃え広がるのが早かった点)

少女(・・・正体不明の大量のガラス瓶)

少女(もしかしたら・・・・・・可燃性の液体・・・と、いうよりは・・・・・・)

少女(・・・・・・・・・なるほど。これが短期間で燃え広がった理由か)

少女(・・・あとで車掌さんに聞いてみよう)



車掌「・・・おい、誰かいるのか・・・?」

少女「あ・・・・・・」

車掌「・・・なんだ、お嬢ちゃんか。危ないって言ったろう」

少女「す、すみません。どうしても確認したいことがあったので」

車掌「・・・確認したいこと?」

少女「・・・はい」



少女「この列車、灯油はおいてありますか?」



車掌「・・・ないぜ。必要ないからな」

少女「・・・そうですか。分かりました」

少女(・・・・・・この部屋の床は木製。つまり、そういうことだ)

少女「・・・・・・・・・」

車掌「・・・どうした? お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

少女「車掌さん」

車掌「・・・なんだい」

少女「わたしの部屋に・・・青年さんと母さんを呼んでください」

車掌「・・・もしかして、お嬢ちゃん・・・」

少女「・・・・・・お願いします・・・」

車掌「・・・分かった」

少女「わたしは一足先に女さんと待っています」

車掌「すぐに呼んでくる。二人とも、まだ寝ていなければいいが・・・」

少女「・・・・・・そうですね」

少女「・・・・・・・・・」

少女(・・・分かってしまった)

少女(この奇妙な四角関係の事実と真実)

少女(分かった。全て分かった・・・事故に見せかけた計画殺人の犯人、そして動機)

少女(事件の鍵は、今は亡き妹さん。あなただ)

少女(・・・あなたが亡くなったことで、二つの炎が産まれてしまった)

少女(・・・その炎が巡り巡って、自分や誰かを破滅的に燃やしてしまう事も気付かぬまま・・・)



少女(犯人は、あなただ)

 ―――――――――

 ――――――

 ――― P.M. 11:20

 こんこんこん

「入るぜ」

少女「どうぞ」



少女「・・・ようこそ。青年さん、母さん」

青年「・・・どうかしたのかい。そろそろ寝ようかと思っていたんだけど・・・」

母「・・・私は大丈夫だけど、用って何かしら」

少女「お二人とも、そして、車掌さんもどうかわたしの話にお付き合い下さい」

車掌「・・・なるべく手短に、分かりやすくな」

少女「・・・そうですね」

少女「・・・女さん」

女「・・・なに?」

少女「・・・そして、みなさん」

少女「数時間前・・・男さんが亡くなりました。が・・・わたしは、どうしても、納得できませんでした」

少女「わたし、本当にただの部外者で小娘です。でも、どうしても、気になってしょうがなかったのです」

少女「車掌さんたちに協力してもらい・・・ついに、この事件の真実を突き止めました」

青年「・・・真実?」

少女「・・・はい。わたしは、今回の事件を、ただの事故ではなく計画的殺人と考えます」

一同「「・・・・・・・・・」」

少女「・・・知りたくないかもしれません。でも、みなさんは知らなければいけません」

少女「今回の惨たらしくも、悲しい切ない事件の真実を・・・・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

少女「まず、事件前後のおさらいをしながら、事件が起きるまで約1時間、何があったのか。話していきましょう」

少女「数時間前に遡ります。午後8時。みなさんがこの列車に乗車します」

少女「犯人はまず、睡眠薬入りのお酒を男さんに渡します」

少女「8時30頃、わたしたちの前に現れた時、男さんは酔っていて、かつ眠たそうにしていました」

少女「列車に乗って、初めて男さんと話した時、酔っている様子はありませんでした」

少女「よって、お酒を提供したのはその30分の間です」

少女「そこで男さんは、女さんを連れて、部屋に戻ります。8時30分を少し過ぎていました」

少女「そして、8時40分頃。女さんがお一人で、わたしたちの元へ戻ってきましたね?」

女「・・・そうね」

少女「そこで、わたしと女さんと母さんで、少し話した後、母さんは自室へ帰っていきました」

少女「そこからは、女さんと二人で雑談を楽しんでいました」

少女「・・・その後です。午後9時。青年さんの声が聞こえて、向かったところ・・・」

少女「・・・後は説明不要ですね。問題の部屋で男さんは、焼死体となり発見されました」

少女「わたしはこの時点で、不自然な点に二つ気付きました」

少女「一つ目、"火が燃え広がるのがかなり早かったこと"」

少女「二つ目、"男さんが何の抵抗もなく焼け死んだということ"」

車掌「・・・なるほどな。煙草の後始末だとして、あんな短期間であそこまで燃え広がるのはおかしいってことだな」

車掌「あと、兄ちゃんが火に気付かったのはおかしいな。普通なら、気付いてもおかしくない」

少女「・・・車掌さんのおっしゃる通りです」

少女「わたしはまずその二点に注目し、事件について調べていきました」

少女「青年さんや母さん、女さんとも話を伺い、事件現場の部屋を調べました」

少女「そして、わたしは犯人を断定しました」

一同「「・・・・・・・・・」」

少女「一つずつ、説明していきます」

少女「まず、火が燃え広がるのがかなり早かった原因について」

少女「事件現場を調べたところ、ある不自然な事実がありました」

少女「・・・それは、大量のガラス瓶の破片が散らばっていた点です」

車掌「そうだな。それで、それがどうつながっていくんだ?」

少女「車掌さんに聞いたところ、清涼飲料水やお酒など、ガラス瓶で販売などはしていないと聞きました」

少女「つまり、誰かが持ち運んできた、ということになります」

母「・・・それが、犯人、ってこと?」

少女「わたしはそう考えます。そして、肝心の中身は・・・」

少女「・・・可燃性、かつ火に引火する可能性のある液体。・・・手軽に手に入る灯油だと考えます」

車掌「・・・なるほどな」

少女「次に、男さんが何の抵抗もなく焼け死んだ原因について」

少女「事件前後、男さんは酔っ払っていました」

少女「ついでに眠そうにしていました」

車掌「・・・それがどうかしたか?」

少女「・・・それが、抵抗なく焼け死んだ原因です」

少女「眠そうにしていたのは、飲んだお酒に睡眠薬が混入していたからだと考えます」

少女「そんなお酒を、自ら飲むでしょうか? ・・・いいえ、誰かに提供されたのです」

車掌「・・・それが犯人ってことか」

少女「・・・はい。そして、男さんがすっかり寝込んだところへ、保険として紐などで縛りつけたのだと思います」

車掌「・・・ふむ」

少女「・・・これが、男さんを事故に見せかけた、計画殺人の全貌です」

車掌「・・・やり方は分かった。・・・それで、いったい誰がやったんだ?」

少女「・・・灯油入りのガラス瓶を持ち出し、煙草に火をつけられる人間。それは・・・」










少女「・・・女さん。あなたしかいないんですよ」










女「・・・・・・・・・」

青年「・・・・・・・・・」

母「・・・あんた、嘘でしょう・・・?」

女「・・・・・・・・・」

車掌「待ってくれ。ガラス瓶を持ち出すのも、火をつけられるのも、お嬢さん一人だけとは限らないんじゃないのか?」

少女「・・・ガラス瓶を持ち出したのは女さんで間違いありません」

少女「わたしは女さんが、大荷物で列車に乗るところを見ています」

少女「青年さんが手伝おうとして、拒否したのを覚えていますよね?」

女「・・・・・・えぇ」

少女「そして、煙草に火をつけられる人間」

少女「青年さんの話によると、男さんに煙草を吸う習慣はなかったし、知らなかったと聞いています」

少女「そして、青年さんは女さんが部屋を出た後、誰かが出入りするなど不審なところを目撃していません」

少女「・・・最後に部屋を出た女さんを疑うのは、当然だと思います」

少女「火をつけた後は、わたしたちと合流し、適当に時間を潰せば良い・・・」

少女「車掌さんからこんなことを聞きました。女さん、先週もこの列車に乗っていますよね」

女「・・・・・・そうよ」

少女「・・・それは、火の手が進む時間を確かめる為ですね」

少女「同じ路線、同じ時間帯ですから、何時何分から火をつければちょうどいいか、いわば下見のようなつもりで」

少女「それから、途中のトンネル。おそらくこの時にガラス瓶に引火して、軽い爆発などがあったでしょう」

少女「その爆発音をごまかすためにも、この時間帯を選んだのではないですか?」

女「・・・・・・・・・」

車掌「・・・なるほどな・・・」

母「・・・ねえ、どうなのあんた。ねえ・・・」









女「・・・そうよ。私が彼を殺した」

母「・・・どうして・・・あんた、だって・・・」

女「・・・あんな男、別に好きでも何でもないよ」

母「・・・・・・・・・」

少女「・・・認めるんですね」

女「・・・えぇ」

車掌「・・・そういえば、動機はなんなんだ? この二人、明日式を挙げるんだぞ」

少女「・・・まず、私は女さんが男さんを愛している様子が、どうしても伺えませんでした」

少女「まあ、これは二の次で一番大きな理由は、半年前に亡くなったという、妹さんの復讐です」

母「・・・・・・あの子の・・・?」

少女「妹さんが亡くなってすぐに男さんとお付き合いが始まったのも、これが理由だと思います」

少女「男さんを油断させて、幸せの最中、人生のどん底どころか、死という名の底なし沼に突き落とす為に」

少女「それ故にこう考え付きました。正直なところ、ほぼ勘に近いです」

少女「・・・ですが、これしか思い浮かびませんでした」

車掌「・・・どうして、妹さんの復讐をする必要があったんだい?」

少女「・・・詳しい理由は、もはや女さんしか知りえないでしょう」

少女「わたしの予想では・・・」

少女「妹さんが亡くなったのは半年前」

少女「その妹さんは、男さんと男女のお付き合いをしていました」

少女「妹さんに突然の発作が起こってしまいます。その時のことが・・・関係しているのだと思いました」

女「・・・・・・・・・」

少女「・・・どうですか」

女「・・・だいたい、その通りよ」

少女「・・・・・・・・・」

女「・・・あの時のこと、思い出したくもない」

女「・・・・・・でも、今でもこびりつく。あの子の小さな断末魔を・・・」

女「・・・・・・・・・」

女「・・・簡単に言えば、発作が起こった時、あの男は妹が言うには・・・逃げた」

女「何も言わず、ただ逃げた。だけ」

少女「・・・助けを求めに行ったわけではないんでしょうか」

女「逃げただけよ。私はその場で大声で助けを呼び続けたけど」

女「・・・帰ってくることはなかった。あの男は、妹を見捨てたのよ」

女「・・・私の腕の中で体も心も小さくなっていく妹を見ながら、私は誓ったわ」

女「どんな犠牲を払ってでも、必ず復讐する。自分の人生と引き換えにしてでも・・・」

女「・・・私はすぐにあの男に近づいた。そしてすぐに交際を始めた」

女「なるべく式を挙げる段取りをして、その直前に味あわせてやろうと」

女「妹の苦しみをね・・・・・・」

少女「・・・・・・・・・ふむ」

女「・・・なに?」

少女「・・・言いたいことは以上でいいでしょうか」

女「・・・・・・そうよ」

少女「・・・分かりました」

女「・・・もう、何の罪も罰も受けるわ。だって、もう目的は達成できた」

女「・・・計画された殺人だとバレるとは、よもや思っていなかったけれどね・・・」

少女「・・・でしょうね。・・・では、車掌さん。女さんの体を拘束するように・・・」

車掌「・・・そうだな」

女「・・・でも、その前に一言言わせてちょうだい」

少女「・・・なんでしょう」

女「・・・部屋に火をつけて、殺そうとしたのは間違いないわ。認める。でも・・・」





女「・・・睡眠薬入りのお酒を飲ませたり、体を紐で縛ったりした覚えはないわ」

車掌「・・・・・・・・・へ?」

母「・・・・・・あんた、この期に及んで・・・」

女「・・・違うよ。殺したことは認める。でも、それだけは意味が分からない、って言ってるのよ」

車掌「・・・なに言ってんだ。なあ、お嬢ちゃん・・・」

少女「皆さん!」










少女「・・・わたしは、女さんが犯人とは一言も言っていませんよ」

車掌「・・・・・・はぁ?」

母「・・・どういうこと?」

少女「わたしは・・・」



少女『・・・灯油入りのガラス瓶を持ち出し、煙草に火をつけられる人間。それは・・・』
少女『・・・女さん。あなたしかいないんですよ』



少女「わたしは、"あくまで灯油入りのガラス瓶を持ち出して、火をつけられる人間は女さんしかいない"、と言いました」

少女「『犯人は女さんだ』なんてはっきりと発言した覚えはありません」

少女「かといって、女さんを犯人じゃないと思っているわけではありません」

少女「わたしが誘導尋問して、そこから先は女さんが勝手に自白しただけなのですよ」

少女「殺害動機も、女さんが認めた後から言いましたしね」

少女「・・・色々考えがあって、こういうやり方をしました。女さん、悪く思わないでください」

女「・・・・・・・・・・・・」



少女「・・・おかげで、これではっきり分かりました。女さん以外の他に、もう一人犯人がいることを」

車掌「な・・・なんだって・・・?」

少女「・・・女さんがやっていない、と言った、二つのこと」

少女「睡眠薬入りのお酒を飲ませること。体を紐で縛ること」

少女「それらをやったのは・・・・・」










少女「・・・青年さん。あなたですよね」





青年「・・・・・・・・・」

車掌「・・・・・・ほ、本当か?」

母「・・・あ、あ、あなたたち・・・!」

車掌「・・・この二人が、共犯でやったってことか・・・」

少女「・・・いいえ。違います」

車掌「・・・いや、だってお嬢ちゃん、さっき言ったろう。もう一人犯人がいる、って」

少女「"もう一人犯人がいる"と言っただけです。この二人は、共犯関係ではないと思っています」

少女「・・・確かに、母さんのお話を聞く限りは決して仲は悪くありません、むしろ逆です」

少女「・・・ですが、今回は・・・」

少女「・・・お二人は、"それぞれの独断と、それぞれの計画で男さんを殺そうとした"のです」

少女「なので、女さんは青年さんが、犯人であるとは知りません」

少女「ただし、青年さんは女さんが犯人であることを知っていました」

少女「なぜなら、途中女さんの犯行に気付き、女さんの計画を利用しようと考えたから」



女「・・・・・・う、そ・・・・・・でしょ」

青年「・・・・・・・・・・・・」

支援・読んでくれる人に感謝
次回の更新で終わり かも

少女「青年さんは、まず男さんに睡眠薬入りのお酒を提供して、飲ませます」

少女「この段階ではまだ女さんの計画には気付いていないと思います」

少女「気付いたのは、女さんが男さんを寝かしつけた後・・・」

少女「この時、青年さんは男さんの部屋を侵入し、男さんを殺害する予定・・・でした」

少女「しかし、部屋に火がつけられた煙草が放置されているのを見つけ・・・考えを改めたのでしょう」

少女「青年さんは持って来ていた紐で首を絞めるなどして、殺害する予定だったのでしょう」

少女「予定変更し、男さんが火から絶対逃げられないよう、体をきつく締め上げたのです」

少女「・・・そして後は、時間が来たらあとはもう、誰かに応援を呼ぶだけです」

少女「誰かを呼ぶタイミングも計っていたのでしょう」

少女「偶然か意図的か、火の手は入口付近までで止まっていました」

青年「・・・・・・」

少女「・・・そうですよね」

車掌「・・・ちょっといいかい。この兄ちゃんが、実の兄を殺す理由ってのは・・・」

少女「・・・・・・・・・」

少女「青年さんは、女さんに特別な感情を抱いていると考えています」

少女「最初に青年さんとお話した時も、母さんから聞いたお話からも、それは簡単に想像できる話だと思いました」

少女「しかし、女さんは男さんと男女のお付き合いしています。しかも、明日式を挙げます」

車掌「・・・邪魔してやろう、ってことか」

少女「・・・それ以上に、殺して奪ってしまおうという気持ちの方が勝っているでしょう」

少女「・・・ですが、女さんが先ほど言ったように・・・」

少女「女さんは、男さんとは妹さんの復讐の為にわざと近づいていただけに過ぎません」

少女「でも、男さんはその事を知る由もなく、別の理由で男さんを殺害しようとした」

少女「・・・皮肉なものですね」

女「・・・そう、なの・・・?」

青年「・・・・・・・・・」

女「・・・ねえ、この子が言ったこと、本当・・・?」

青年「・・・ああ、そうだよ」

青年「あいつが憎くて殺した」

一同「「・・・・・・・・・」」

少女「・・・認めるんですね」

青年「・・・ああ」



青年「・・・ただし、犯行は全て僕の手によるものだ」


青年「彼女は関係ない」

女「・・・・・・・・・」

車掌「に、兄ちゃん、今更何言ってんだ・・・」

青年「僕が怪しいのは分かるよ。でも、女がやったという明確な証拠はあるのかい」

女「な、なに言ってるのよ。あの火は、間違いなく私がつけたのよ!」

青年「なにをとぼけた事を・・・僕を庇ってくれるという優しさは、嬉しいけど、気持ちだけで・・・」


少女「無駄な証言はやめてください」


一同「「・・・・・・・・・」」

少女「女さんがやったという明確な証拠はありません。わたしの憶測の域を出ていませんしね」

少女「ただし、憶測以上に、既に女さんが自分でやったと自白があります」

青年「・・・それだけかい」

少女「それだけではありません」

少女「女さんがこの列車に乗り、青年さんに顔を合わせた時、あなたたちは・・・」


青年『・・・えらく大荷物だね。手伝うよ』
女『・・・ありがとう。大丈夫よ』
青年『・・・そうかい? なら、良いけど・・・』


少女「こんなやりとりをしていますね」

車掌「・・・・・・?? それがどう関係あるんだ」

少女「・・・女さんはなぜ、青年さんの申し出を断ったと思いますか?」

車掌「・・・そりゃあ・・・知らねえよ、本人が別に大丈夫だと思ったからに決まってんだろ」

少女「・・・・・・・・・・・・」

車掌「・・・あ、いや、まて。お嬢さんは灯油入りのガラス瓶を持ち込んでたんだよな」

車掌「だとしたら、もしそれがバレたらまずい。さすがにおかしい荷物だ」

車掌「俺が見つけたら、乗車を断らせてもらうかもしれねえ」

少女「そうですね。女さんは荷物を見られたらダメだったのです」

車掌「・・・それで?」

少女「・・・・・・この会話、もし共犯なら成り立たない会話のはずです」

少女「共犯なら、灯油入りガラス瓶が入っていることを知っています。つまり、見られても構わないということです」

少女「女さんが拒否したということは、知られてはいけないものが入っていたから」

少女「知られてはいけない理由は、女さんが男さんを殺害しようとし、男さんは何も知らないから」

少女「それで、もしこの会話が演技で二人の計画の内だったとすると・・・共犯だと考える要素があります」

少女「・・・が、共犯ではないんですよね。だって、青年さんは全て自分がやったと主張しているんでしょう?」

少女「青年さんが全て自分でやったという主張を通すためには、この場面では女さんが荷物を手伝ってもらうことです」

少女「もしくは、女さんの荷物を持とうと言わないこと」

少女「そして、荷物は見られても構わない普通のもの、が前提条件になります」

少女「すると、どこから灯油入りのガラス瓶が出てきたのか、ということになります」

少女「車掌さんのお話では、列車の中にこのようなガラス瓶は見覚えがないということです」

少女「誰かが持ち出したのは間違いありません」

少女「・・・私の記憶では、青年さんは大した荷物を持っていなかったように思うのですが」

青年「・・・・・・・・・」

少女「・・・車掌さんはどうですか? 青年さん乗車時、簡単にですが確認しているはずです」

車掌「・・・いや、大荷物じゃあなかったな。片手で持てる程度の荷物だったぜ」

少女「・・・そういうことですね。この殺人事件、青年さん一人の手ではできません」

少女「女さんの計画と、青年さんの計画の二つの異なる要素によって、偶然成り立ってしまった事件です」

青年「・・・・・・ふう」

少女「・・・諦めて下さい。・・・きっと、女さんの為を思って、わざと一人で罪を被ろうとしたのでしょうが・・・」

青年「・・・その通りさ。君にはお手上げだ。確かに、君が言った通りだよ。全てね」

少女「認めるんですね・・・」

青年「ああ・・・」

女「・・・・・・・・・」

少女「・・・車掌さんは、青年さんの方をお願いします」

少女「わたしは女さんと少しお話がしたいです。二人きりで」

車掌「・・・分かった」

車掌「・・・そういうことだ。ついてきな、兄ちゃん。さすがに殺人犯を野放しにはできねえんでな」

青年「・・・・・・はい」

少女「・・・女さん、行きましょう」

女「・・・話って、なに?」

少女「わたしの部屋にくるまでの、お楽しみということで」

女「・・・・・・」

母「・・・・・・・・・」

少女「・・・母さん、少しだけ、女さんをお借りします」

母「・・・好きなだけどうぞ」

少女「・・・ありがとうございます。と、言うのも少し変ですが・・・」

母「・・・気にしていないわ。・・・女」

女「・・・なに?」

母「・・・次は朝ね。おやすみ」

女「・・・・・・おやすみ」

少女「はい、おやすみなさい」

支援・読んでくれる人に感謝
ところどころ無茶苦茶な理論と演出があるが気にしないでほしい
今まで行き詰ってたけど、続きは一週間以内で
次の更新こそ最後

 ―――――――――

 ――――――

 ――― P.M. 11:45

 バタン・・・

少女「・・・ふう」

女「・・・・・・話ってなに」

少女「・・・大した話ではないです。さあ、適当に座って下さい」

女「・・・分かったわ」

少女「・・・・・・」

女「・・・・・・」

少女「・・・もう、日付も変わってしまいますね。早いものです」

少女「時間という概念は、わたしたちが何をしようがしまいが過ぎ去っていくものなのです」

少女「誰かが言っていましたが、時間は誰にでも平等に訪れ、平等にあるものだと・・・」

女「・・・何が言いたいの?」

少女「・・・この限られた時間の中で・・・女さんの幸せってなんだったんでしょうか?」

女「・・・私の・・・幸せ・・・?」

少女「はい」

女「・・・私の幸せは妹を支えて、生きていくこと。・・・でも、奪われたわ。だからこそ私は」

少女「・・・それで、妹さんの復讐をすることが、女さんの幸せなんですか?」

女「・・・あれからは、それしか考えていなかった。自分の事なんてどうでもよかった」

女「・・・でも、分かってたわ」

少女「・・・・・・?」

女「・・・元々あの子には、残されていた時間が少ないことに・・・」

少女「・・・・・・」

女「・・・私が妹とあの男との交際を認めていたのは、少なからず期待もあったからだったわ」

女「もう残り少ない命なら・・・妹の好きにさせてやるのが、一番の幸せに違いないと思ったわ」

女「・・・でも、結果妹は幸せだったのか・・・・・・いいえ」

女「全ては、あの男の手で踊らされていたのよ、妹は・・・」

少女「・・・・・・・・・」

女「・・・妹は、生まれつき体が弱かった」

女「近所からは変な目で見られ、根拠のない噂を流され・・・」

女「それでも私は、妹を守ると決めたの。どんなにいじめられても、仲間外れにされても・・・諦めなかった」

女「自分で言うのもなんだけれど、私たちは仲が良かったと思っているわ」

女「妹に友達なんていなかった。私はいたけど、みんな、次第に離れていった」

女「・・・みんな、仲間外れにされたり、自分がいじめの標的にされるのが怖いからよ」

女「・・・そんな人を私は責めなかった。どうでもよかった。私には妹がいるもの・・・」

女「妹も、私がいるから大丈夫だと思っていたわ。私達、二人で一つなのよ。自分にそう言い聞かせながら・・・」

女「・・・でも、そんな綺麗ごとを思っていたのは私だけだったみたい」

女「・・・妹に、交際している人がいることを知った。・・・でも、それだけなら別に良かった」

女「・・・相手が、あの男でなければ・・・・・・」

女「私は必死に止めた。あの人だけはやめて、と」

女「でも、妹はまるで聞いていなかった。恋人ができたことで舞い上がっていた」

女「どんな悪い評判や話を聞かせても・・・・・・」

女「・・・恋って恐ろしいものなのね。初めて知った。女の子なら、みんな憧れるものよね」

女「・・・妹は、完全に盲目になって彼を好いていた」

少女「・・・・・・・・・」

女「やがて月日は経ち・・・あの日がやってくる」

女「あとは話した通り・・・妹に突然の発作が起こって・・・」

女「・・・あの男はその場から離れ、私は騒ぎを聞いて駆け付けた」

女「・・・彼がそこに帰ってくることはなかったわ。後日すれ違った時に、仲間相手とこんなことを話していた」


女「『かわいそうな女だったな』」


女「・・・・・・・・・」


女「・・・かわいそう?」


女「あんたの言う、かわいそうな女にしたのはどこの誰よ!!!」

少女「・・・・・・・・・」

女「・・・私は小さい頃から、慰めの言葉が大嫌いだった」

女「あの男に限らず、『かわいそう』なんて言葉、耳にたこができるほど聞いた」

女「私達の陰で、ひそひそ、ひそひそ・・・・・・」

女「かわいそうなら、何かしてあげてよ」

女「別にこっちは何かを期待しているわけではないわ」

女「でも、あの人たちはいつも『かわいそう』って"言うだけ"だった」

女「言葉だけでは、私達は何も変わらなかったわ」

女「人間みんな、『かわいそう』と思う自分が『かわいい』から言ってるのよ、結局」

女「・・・妹がかわいそう?」

女「・・・妹は確かに体が弱い。でも、だからなに? 妹はこれで普通なのに」

女「・・・・・・私は体が弱い妹をかわいそうと思ったことは一度もない。体が弱い妹が普通だからよ」

女「・・・なのに、みんな、みんな・・・妹を普通じゃない目で見る」

少女「・・・・・・・・・」

女「・・・そして私は妹の死を受けて、誓った」

女「あの男に必ず復讐してみせる」

女「自分に身なんてどうなってもいい・・・」

女「嫌だったけど、付き合うフリをして機を伺うことにした。計画も徐々に進めてきた」

少女「・・・・・・」

女「あの男は疑う様子もなく、私と付き合っているつもりでいた」

女「幸か不幸か、死んだ妹の姉と付き合っていることに何の嫌悪感も示さない、ろくでもないヘンタイでもあったおかげ」

女「おかげで今日の日を迎えられた。そして計画は実行できて・・・」

女「私はもう思い残すことはないわ。どんな罪も罰も受ける覚悟でいるわ」

少女「・・・そうですか」

女「・・・これが聞きたかったこと? こんな私の歪んだ幸せを」

少女「歪んだ幸せ。・・・まあ、そうですね」

少女「でも、ある意味では人間らしい感情ともいえるとわたしは思うのです」

少女「大切な人が死に追いやられ、その仇をとる。単純な復讐物語ですね」

女「・・・・・・単純?」

少女「はい」

少女「わたしはもっと、悲しい凄惨な復讐劇を目の当たりしてきました」

女「・・・・・・」

少女「・・・まあそれは今どうでもいいことです」

少女「もう一度聞きます」

少女「女さんの幸せってなんだったんでしょうか?」

女「・・・さっきも言ったじゃない」

少女「妹さんの復讐ですか?」

女「そうよ」

少女「・・・わたしは何もかも知ってしまいました」

少女「あなたの幸せは、もっと別にあるもの。もっと単純なこと」

少女「それはきっと、妹さんと同じ方向性のものですよね」

女「・・・えっ・・・」

少女「・・・母さんが言っていました。青年さんと女さんは、お互いがお互いを思い合っていること・・・」

少女「先ほどだって、青年さんは女さんを庇うために、わざとあんな嘘をついてまで・・・」

女「・・・・・・」

少女「復讐の炎で掻き消されしまったのなら、もう一度火を灯せばいいだけの事です」

女「・・・・・・・・・」

女「・・・もう無理よ。だって、私も彼も人を殺してしまったのよ」

少女「時間など、まだまだいくらでもあります。まだお二人ともお若いじゃないですか」

女「・・・でも」

少女「女さんは今まで、妹さんのことを想って生きてきました」

少女「・・・でも、そろそろご自分の幸せを考えてみるのも良いと思います」

少女「いつもいつも自分より、他の誰かのことを考えているあなたは、とても優しい女性だということ」

少女「わたしはよく分かっているつもりです」

女「・・・・・・・・・」

女「・・・違うのよ」

女「・・・結局は私も、他の誰かの助けになりたいという自分に酔っていただけなのよ」

少女「・・・・・・・・・」

女「・・・だから、私はあなたにそんなことを言われる権利なんかない」

少女「・・・それでもです」

少女「・・・とにかく今は、青年さんと一緒になって、時間をかけて罪を償ってください」

少女「何もかもがそれからでも、わたしは遅くはないと思います」

女「・・・ほんとう?」

少女「はい」

女「・・・・・・・・・」

少女「・・・女さん?」

女「・・・ありがとう。・・・ちょっと一人きりにして欲しいわ」

少女「・・・分かりました。朝までごゆっくりと」

少女「おやすみなさい」

女「・・・おやすみなさい」



女「ねえ」

少女「・・・??」

 ―――――――――

 ――――――

 ――― A.M. 0:10

少女「・・・・・・・・・」

車掌「・・・よう、お疲れさんお嬢ちゃん」

少女「・・・車掌さん。こちらこそ、お疲れ様です」

車掌「兄ちゃんはしっかり捕まえてるから安心してくれ」

少女「ありがとうございます」

車掌「・・・しかし、びっくりしたな。この二人が犯人で、別々の理由で殺そうとしてたなんてな」

少女「わたしもびっくりです」

車掌「まったくだよ」

車掌「・・・さてさて、さすがにもう寝なきゃなぁ」

少女「そうですね・・・ふぁあ」

車掌「お嬢ちゃん、明日知り合いの結婚式だろ。早く寝なきゃまずいぞ」

少女「そういえばそうなんですよね・・・」

車掌「お嬢ちゃんの部屋は、犯人のお嬢さんが使ってるんだろう? 他に空き部屋を貸すから、さっさ寝ちまいな」

少女「・・・すみません、助かります」

車掌「良いってことよ。大したことじゃない。それに、お嬢ちゃんには助けられた」

車掌「ほら、向こうのあの部屋だ」

少女「分かりました。ありがとうございます。・・・では、おやすみなさい」

車掌「おやすみ。良い夢を」

 ―――――――――

 ――――――

 ――― A.M. 7:00

少女「・・・・・・」

警察「ついてきなさい」

女「・・・はい。・・・それじゃあ、さよなら」

母「・・・しっかりね。ちゃんとご飯は食べてよ。あと家のことは私とお父さんに任せて」

女「・・・うん」

母「青年くんとしっかりね・・・・・・ずっと待ってるから。必ず二人で帰って来て」

青年「・・・ありがとうございます。それじゃあ、行こう」

女「・・・・・・そうね」

警察「・・・・・・こっちだ」


少女(・・・・・・・・・)

 ―――☆――――――――☆

 ☆――――――☆

 ―――☆

 ☆

女「・・・ありがとう。本当にありがとう」

女「・・・・・・・・・」

女「・・・あなたにもっと早く・・・会いたかったな」

女「心なしか、初めて会った時・・・妹に見えたもの」

女「できれば妹と一緒にあなたとお友達になりたかった・・・」

女「・・・それだけよ。ありがとう」

 ―――☆――――――――☆

 ☆――――――☆

 ―――☆

 ☆

母「・・・大丈夫かしら・・・あの二人」

少女「きっと大丈夫ですよ」

母「・・・だと良いんだけど・・・」

少女「あの二人、これからきっと上手くいきます」

車掌「やけに自信のある言い方だな」

少女「はい」

少女(大丈夫・・・二人はゆっくりとだけど、ようやく歩き始めた)

少女(背中に大きな十字架を背負いながらも・・・)

少女(大きな愛の前では、時間など些細な概念に過ぎない)

少女(なぜなら・・・)

少女(わたしも、女さんも、人は皆)



少女「幸せに向かうスピードはそれぞれ違うもの」



 おわり

これで終わり
今まで支援・読んでくれた人に超感謝
今回は内容短め、展開早め、登場人物少なめで
とにかくさっくり読めるものが作りたかったのでこのような形に
前作はこのスレ内でもかなりヒントが出てるのでそれを参考にしてほしい

他に分からないところや質問等あれば受け付ける

あと、前作でも言い忘れたけど
この話の内容は殺人を推奨するものではない
どんな理由があっても 殺人 ダメ 絶対

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