小町「婚約届」(65)
小町「うわー、懐かしい!まさか受験勉強の息抜きに部屋の掃除をしたら、こんなものが出てくるなんて!」
小町「ほんと懐かしいなあ」
小町「こんなん書いたねえ。お兄ちゃんにお願いして無理矢理……」
小町「……あ、そういえばこれって」
小町「……」ニヤッ
◆◇◆◇◆
小町「あー、てすてす。ただいまマイクのテスト中でぇーす☆」
雪乃「小町さん……あなたが今手にしているのはどう見ても、ただのペンケースだと思うのだけれど」
雪乃「それに、部室の広さ程度なら、別にマイクを使う必要もないわ」
小町「えへ、皆さんに集まってもらったのでつい」
結衣「うん、そだねー。部室に普通に来たら人たくさんいるんだもん。びっくりした」
静「君に呼ばれたから来たが、私もあまり暇ではないんだが」
陽乃「えー、静ちゃんは暇でしょ。わりと」
静「む、そ、そんなことはないぞ。これでも色々と」
陽乃「婚カツとか?」
静「ぐはっ」
雪乃「というかなぜ姉さんまで……」
沙希「どうでもいいけど、あたしはマジで忙しいから、ほんとどうでもいい用事ならいい加減帰るよ」
いろは「私も生徒会がありますし……それに、先輩がいないんじゃここにいても」ボソッ
戸塚「そういえばなんで八幡はいないの?」
結衣「なんか、ヒッキーには今日休みだって伝えて欲しいって、ゆきのんに言われたけど」
雪乃「それもこれも、小町さんの指示よ」
小町「そうですねー。皆さんの貴重なお時間をあんまり使うのも心苦しいですし、じゃあ、そろそろ本題行きましょうかー」
ゴクッ
(この面子を集めて……)
(比企谷くん(ヒッキー、八幡、先輩、あいつ)は来ない……)
(いったいどんな……!)
小町「では皆さん、これを見てください!じゃじゃーん!」
雪乃「これは……?」
結衣「スーパーのチラシ?」
雪乃「いえ、由比ヶ浜さん。チラシなのは見れば分かるわ。問題は、何かが書かれているようだということではないかしら」
小町「はい、雪乃さんいいとこつきました!プラス一ポイント!」
結衣「ポイント制!?」
沙希「そのポイントなんか意味あんの……?」
小町「いえ全然」
結衣「ないんだ!?」
小町「問題は雪乃さんの言う通り、このチラシに書かれている内容です!これは……」
小町「小町とお兄ちゃんが子供の頃に書いた婚約届なんですよ!!」
「……で?」
結衣「あー、あるよね。そういうの書くの流行るの。うん、あるある」
雪ノ下「私は聞いたこともないのだけれど」
陽乃「それは雪乃ちゃんに話す人がいなかったからでしょ」
雪乃「くっ……」
静「ははは……婚約届か……ほほえましいな……」
沙希「ねえ、帰っていい?」
いろは「で、それがいったいなんなんですか?」
小町「ふっふっふ、これ。この下の方に、お兄ちゃんと小町の名前が書いてありますが」
小町「これを!ペンケースの中のこれで!」パカー
ゴシゴシゴシ
小町「はい、小町の名前だけ消えましたー。実はこんなこともあろうかと!消せるボールペンで名前を書いたのです!」
結衣「こんなこと?」
小町「はい、昔はお兄ちゃんとは小町が結婚するしかない!と思っていたのですが……それが無理だとわかった今!」
小町「これは美しい子供の頃の思いで……!ああしかし!大切なのは過去より未来です!トゥモローです!」
小町「と、いうわけで、この花嫁側の署名がなくなった婚約届を、この中の誰かに有効活用していただければ!と集まっていただいた次第です」
結衣「有効活用って、こんなのどうすればいいんだろ」
雪乃「せいぜい、比企谷くんにこんな頃からシスコンだったのね、と貶めるくらいかしら」
陽乃「あ、それ面白そう」
小町「ふふふ、わかりませんか……?たとえば、この花嫁のほうの欄に、自分の名前を少し子供っぽく書き足したら、どうなると思いますか?」
結衣「え、そんなのしたら、偽物……」
小町「そう、真っ赤な嘘です!お兄ちゃんにも、この届を書いたという記憶があるでしょう!しかし、それは相当昔のこと!」
小町「たとえ小町と書いたと覚えていても、私が真っ向から否定すれば!兄はそうなのかと思わざるを得ません!」
小町「そして、小町がちょーっと、そういえば、お兄ちゃんとちょっとの間だけ一緒に遊んでいた女の子がいて、そんなの書かなかったっけ?と言うだけで……」
小町「これはその二人が幼馴染みだったことの証拠になるのです!偽ですが!」
ざわ……
結衣「え、でもそんなの、さすがにひどくない?」
雪乃「そ、そうよね」
静「うむ……」
陽乃「私は面白そうだと思うけどなあ。まあ、静ちゃんは無理じゃないかな?年齢的に」
静「なんだと」
小町「その場合は小町が昔遊んでいた女の子のところを、昔きれいなお姉さんとに改編して対応します!」
静「なるほど……」
沙希「……べ、別にあいつと幼馴染みとか、なんの意味が」
戸塚「えっと、僕はなんのために呼ばれたんだろう?」
いろは「あ、皆さん乗り気じゃないんですか?私も面白そうだと思いますよ?先輩をからかうのにうってつけだと思いますし。じゃあこれは私が」スッ
「ちょっと待て」
雪乃「小町さん、少し質問があるのだけれど」スッ
小町「あ、はいはーい。雪乃さんどうぞー」
雪乃「この用紙は一枚しかない、つまり、手にいれることができるのは、この中の一人だけということになるわね?」
小町「ですねー。まあお兄ちゃんも一人しかいませんし、仕方ないことです」
雪乃「では、もし手に入れられなかった誰かが、このことを比企谷くんに密告したら?」
静「疑り深く傷つきやすい彼のことだ、騙されたと判断された相手とは、距離を置こうとするだろうな……」
小町「そうですね。それは当然考えられます。ではもし皆さんがこれからこの用紙を手にしたいと考えるなら、この誓約書にサインをしていただきます」
雪乃「誓約書……?」
小町「はい。このサインを書いた人は、一度はこの用紙を使ってお兄ちゃんを騙そうとした人、という証明のためのサインです」
小町「つまり、共犯ということで」
雪乃「なるほど……では、その用紙をいらないと言った人間が密告した場合は?」
小町「その場合はその事実を小町が全力で否定します」
小町「うそ泣きだって上等です。お兄ちゃん、小町の言うことが信じられないの!?」ヨヨヨ
小町「お兄ちゃんはこれでまず間違いなく、その人の言うことは嘘だと思います」
小町「つまり、告発した方こそ嘘つき扱いになるわけですね」
陽乃「ふぅん、よくできてるね」
静「恐ろしい兄妹関係だな……」
小町「では皆さんどうしますか?この用紙を手にするためにこの誓約書にサインをするか」
小町「こんな紙切れ一枚でお兄ちゃんがどうにかならないと信じるか」
小町「選んでください」
雪乃「……」
結衣「だ、だよねー。ヒッキーって、実は幼馴染みだって分かったとしても、態度が変わるなんてことは」
静「生徒を騙すなんて……いや、しかし……」
陽乃「これって、もし手にして幼馴染みの思い出を勝手に捏造しまくっても、フォローしてくれるってことだよね?」
小町「はい!小町完全サポートのもと、小町が幼馴染みプロデュースしますよ!」
沙希「あいつと幼馴染みで……将来結婚の約束……」ブツブツ
戸塚「あの、ほんとに僕はなんで」
いろは「いいですねいいですね。面白そうじゃないですか!」
小町「では皆さん、サインしていただけるということで」
雪乃「ところで、これの所有者はどうやって決めるのかしら」
陽乃「いつの間にかノリノリだね、雪乃ちゃん」
雪乃「私は別に……」
小町「それなんですが、ここは公平に、じゃんけんで!」
結衣「じゃんけん!?」
沙希「えーっと」手を組み合わせてやるアレ
小町「では皆さーん!最初はぐーですよ!」
「じゃーんけーん……」
勝ったのは誰?↓2
小町ルートは最初からないのか……
八幡(いつものように暇な部活を終えて、駐輪場へと自転車を取りに行く)
八幡(今日はずっと雪ノ下と由比ヶ浜がなにやら複雑そうな顔をしており、帰り際までその顔で俺を見送ってはいたが)
八幡(言ってこないことってのを無理矢理聞き出すと、必ずよくないことが起こるという先人の知恵を信じて、完全スルーを決め込んだ)
八幡(いや、もしかしたら、鼻毛でも出ていたのかもしれん。あれはげんしけん二代目部長のような挙動不審さだった)
八幡(まあ、たぶんそのくらい小さいなことだろう。そう思う。なんかあれば帰ったら小町が言ってくるだろうし、できるだけ誰にも会わずに帰ろう)
八幡(というか、元々下校と中に知り合いとエンカウントなんて、俺にはそうそうないが)
八幡(むしろ俺の方が相手にとって出る確率が低いまである。さらにすぐ逃げるしな。サファリゾーンのストライクレベル)
八幡(さーて、かえんべー)
陽乃「ひゃっはろー、比企谷くん」ニコニコ
八幡(……村を出ていきなり魔王とエンカウントとか、ネタで作ったRPGツクールかよ……ほんとリアルは糞ゲーだな)
陽乃「あれ、返事がないなあ。そんな態度だと、お姉さんここで泣いちゃうかも」
八幡「ここでって……」
八幡(そう、校門を出て一歩目である。最終下校時間のため、部活を終えた他の生徒たちもちらほらいる)
八幡(そして、陽乃さんはもともと人目を引く人な上、今すげえでけえ声で俺に挨拶したおかげで、その他の生徒たちが今やちらちらと俺たちを気にしているのか見てとれた)
八幡(その上で、ここで泣きわめく……だと……?)
八幡(俺は即座に白旗を上げた。無視しようとした態度などおくびにも出さず、驚異の早さで手首クルー)
八幡(この速度、ギネスも夢ではあるまい)
八幡「ども。こんにちは。雪ノ下にでも用ですか?」
八幡(俺じゃないよね?ね?と言外に聞いてみるテスト。むしろそうであって欲しい。俺のストレステストがやばいことになるよ?)
陽乃「ううん、私が用があるのは、君だよ。君」
八幡(指まで刺された。異議あり!)
八幡「俺に用って……冗談ですよね?もしくは罰ゲームとか」
陽乃「罰ゲームかあ。でもさ、私が罰ゲームなんてするようなへま、すると思う?」
八幡「思いませんね」
陽乃「そこまできっぱり言われるとはね」
八幡「で、なんの用っすか」
八幡(この人が俺に用って、ろくなことがなかった気がする。むしろそんな気しかない)
陽乃「実はねー、久しぶりに実家の自分の部屋を掃除したら、なかなか面白そうなものが出てきたんだよね?」
八幡「面白そうな?」
八幡(この人が面白そうなということ、危険度+80)
八幡(即刻退避することをお薦めします。そうアラートを上げ続ける俺の危機察知能力だったが、では退避をしたら?)
八幡(と予測させても、そっちもアラートを上げる。どないせいっちゅーねん)
陽乃「これなんだけどね?」
八幡(と言いながら差し出してくる紙よりも、俺は陽乃さんの笑顔のほうに気が惹かれた)
八幡(いや、惹かれたというか、車に轢かれそうな感覚と同じようなぞっとする気分になった)
八幡(危機察知能力は、何をおいてもその紙だけは読むなと言ってきた。それを読んだら、後戻りができなくなると)
八幡(だが、逃……無理!見る……無事で!?出来る!?否……死!と判断を下されても、俺には白の賢人とか出せないので、結局読むことになった)
八幡「えっと」
八幡(陽乃さんはにやにや笑いをやめない。それをなるべく気にしないように読むと、そこにはこんなことが書かれていた)
『こんやくとどけ
わたしたちは、しょうらい、けっこんすることをちかいます
もし、このちかいをやぶったばあい、あいては……しけい!
ひきがやはちまん
ゆきのしたはるの』
八幡「なんすかこれ……」
八幡(幼い子供が書いたような文字なのに、その内容のあまりの殺伐さに、思わず聞き返してしまう俺)
八幡(なにこれ。サイコパスが書いたの?)
陽乃「読んだまんまだよ。婚約届」
八幡「い、いやいや。それになんで俺と陽乃さんの名前……」
陽乃「それを見て思い出したんだけどさ、私って昔、少しの間、よく一緒に遊んだ男の子がいたなあって」
八幡「まさか……」
八幡(いやいやまさか)
陽乃「うん、それが比企谷くんだったみたいだね」
八幡「や、それだけはないですって」
八幡「だいたい、あなたみたいなインパクトの固まりみたいな人、一度会ってれば覚えてますって」
八幡(なんだこれは。まさか、月島さんか!?そうとしか考えられん……こんなもん、マジで俺の記憶には……記憶には)
八幡「あ」
陽乃「どうしたの?」
八幡「いや。確かにそういうのは書いた記憶があります」
陽乃「ほらね」
八幡「や、でもその相手は、小町なんですよ」
陽乃「……」
八幡「あなたがその紙をどうやって手に入れたかは知りませんが、それは捏造されています」
八幡「どういうつもりかは知りませんが、俺は騙されませんよ」
陽乃「……ひどいなあ。約束の女の子が、思い出してわざわざ会いに来て上げたっていうのに」
八幡「俺にはそんなラブコメ、ありえないんですよ。昔から、友達とかそういう類いはいないんで」
八幡(俺が錠を持っていて、相手が鍵でも持ってない限り、あり得ん。でもあれ、鍵持ち増えすぎだろ……)
陽乃「その証拠は、どこにあるの?」
八幡「小町に確認をとれば、それが証拠です」
陽乃「身内の証言って、証拠にならないんじゃないかな」
八幡「……く」
八幡(確かにそうだ。しかし、ここは小町にかけるしか……)
陽乃「でもいいや。小町ちゃんに確認が取れたら、それを証拠にしてあげる」
八幡「え」
八幡(なん……だと……?まさか絶対の自信を持って出した切り札を受ける?)
八幡(本当に陽乃さんには、この紙切れが俺たち二人が書いた婚約届だという自信があるというのか……?)
八幡(いや、しかし、これは俺と小町で書いた。これは間違いないはずだ……)
八幡(その事実さえ覆せるなにかを、陽乃さんは持っている?切り札は向こうにこそあるのか?)
八幡(……もし、この紙切れが、本当に俺たち二人で書いた婚約届だったら、どうなる?……死刑?)
八幡(俺は、断頭台にたたされているのか……?)
陽乃「じゃあ明日、あなたたちの部活で会いましょう?小町ちゃんを連れてきてね」
陽乃「そこで白黒はっきりつけるってことで」
八幡(小町の証言さえ認められれば、俺に敗けはないはずだ……そのはずなのに)
八幡(俺は何かを見逃しているんじゃないか。そんな焦燥感から抜け出せなかった)
中断
別にシリアスにするつもりはないです
たまに息抜きに書こうと思うので、更新は不定期でしょう
>>14
はるのん編が終わったら、また安価出すから、来たら書くで
◆◇◆◇◆
小町「そんなの書いたっけ」
八幡(帰って早々小町に婚約届のことを聞いてみるも、返事はつれないものだった)
小町「んー……お兄ちゃんがそういうの書いてたのは見たことある気がするけど、小町は書いた記憶ないなあ」
八幡「いやいやいや。書いただろ。ほら、お前が年長さんくらいの頃に」
小町「えー、覚えてない。ていうかお兄ちゃん、そんな昔から小町のこと大好きだったんだね……小町も、お兄ちゃんのこと大好きだよ……」シナ
八幡(顔を赤らめて、少し恥ずかしがるようにしなを作ってみせる小町。これだけなら、マジで俺の妹が可愛すぎるのだが)
小町「なんて、今の小町的にポイント超高いよ!」
八幡(すぐに台無しにする。ああ残念なり我が妹)
八幡「や、あれは小町の方から幼稚園で流行ってるから書いてくれってお願いされたはずだが」
小町「そんなの全然記憶にないなあ」
小町「だいたい、仮にそれが本当だったとして、なんでその小町とお兄ちゃんが書いた婚約届が陽乃さんが持ってるの?」
八幡「問題はそこだ」
八幡(あの人をうちに呼んだことはないはずだしな。だいたい、俺も小町も忘れていて、どこいったのかもわからないものだし)
八幡(仮説を立ててみよう。十年くらい昔に書いたものが、今さらあの人の手元に渡った経緯……)
八幡(仮説、古本屋にでも売った本の中に偶然挟まっていたのを、偶然陽乃さんが見つけた、とか)
八幡(……ねえな。どんだけ偶然が重なったらそれがあの人の手の中に入るんだよ)
八幡(まあ、陽乃さんはそれが出来てしまいそうなイメージではあるけども)
八幡(となると、本当に俺と陽乃さんで書いて、陽乃さんが持っていたのか……?)
八幡(だが、昔よく遊んで結婚の約束までしたなんて女の子がいれば、俺だったら忘れるわけないと思うんだが……)
小町「うーん、とりあえず、小町が明日奉仕部の部室に行けばいいんだね?見たら何か思い出すかもしれないし」
八幡「悪いな」
小町「いいよいいよ。でも、ちょっと気になるんだけどぉ」
八幡「そうだな、やっぱどうしてあの人が持ってるのか気になるよな」
小町「いやいや、そうじゃなくて」
小町「陽乃さんがお兄ちゃんの幼馴染でしかも結婚の約束してたら、嫌なの?」
八幡「……」
小町「陽乃さんってお兄ちゃん風に言えばスペック高いでしょー?ほんとに結婚しちゃえばいいのに」
八幡「お前……恐ろしいこと言うなよ……」
八幡(恐怖のあまり、サイヤ人の王として今まで泣いたことのなかったベジータみたいになるぞ)
八幡「確かに陽乃さんはスペックは高いだろう」
八幡「だがそういう人間と結婚したら、絶対どこかで帳尻合わせがくる。そういうもんだ」
八幡「だから俺は俺の身の丈の合った相手と結婚する」
八幡(そこそこかわいくて、そこそこ優しくて、そこそこで俺を養ってくれるような、な)
小町「お兄ちゃん、普段は自分は高スペックだーとか言ってるのに」
八幡「ああ、だから俺のスペックに釣り合う相手がいい。陽乃さんの相手なんて役者不足過ぎる」
小町「でも、お兄ちゃん。陽乃さんと結婚しなかったら、死刑……なんでしょ」
八幡「……いやいや。たとえあの婚約届がマジだったとしても、子供の頃の話だし」
八幡「ただ俺をからかうために使われるだけだろ。きっと。たぶん。おそらく」
八幡(うん。ないない。ないよね?)
◆◇◆◇◆
小町「あ」
八幡「あってなんだよ。あって……」
八幡(なんかすごく不安になる「あ」だったぞ今の。あしかのあかちゃん雨の中、赤い雨傘甘えん坊くらいほのぼのした「あ」にしてくれ)
八幡(小町の様子に一喜一憂する俺をよそに、陽乃さんの方は自信満々といった様子で俺たち兄妹のことを見ていた)
八幡(や、この人はいつもそんな様子だけどな。いつも通りの強化外骨格っぷりである)
八幡(翌日*??弔泙蟶F釮諒銧欷紂*部室に俺が行くと、既に陽乃さんは来ていた)
八幡(雪ノ下と陽乃さんの二人きりという状況を前に、扉を開けた瞬間から俺はもう帰りたかった)
八幡(陽乃さんは雪ノ下に俺に用があるというだけで事情を話していなかったらしく、来た俺を殺さんばかりの勢いでにらみつけてきた。ファイアーばりに)
この文字化けはなんだろう
八幡(続いて後ろから由比ヶ浜がやってきた。退路を絶たれた俺は、仕方なく部室に入り、陽乃さんの存在を気にする二人に、経緯を説明)
八幡(聞くと二人ともすごい複雑そうな顔で俺を見てきたことは少し気になったが、陽乃さんが俺に絡んできたので、うやむやになってしまった)
八幡(あの顔はいったいなんだったのだろうか。死刑執行がほぼ確定した俺への、哀れみの表情だったのかもしれん)
八幡(それから少しして、本日の主役とも言うべき小町がやってきた。うん、やっぱ主役っていうのは遅れてやってくるものだってばよ!)
小町「あー、えーっとね」
八幡(その態度だけで、俺は理解した。兄と妹として、長年過ごした俺たちだからこそ、そこに言葉はいらない……さて、逃げるか)
陽乃「結果はどうなのかな、小町ちゃん」
八幡(陽乃さんだって、小町の態度を見ればどういう結果か分かるだろうに。死者に鞭打つかのごとく、それを言葉にすることを促す。ほんま鬼畜やでこの人)
小町「これ、たぶんほんとに陽乃さんでお兄ちゃんで書いたものだと思います」
八幡(負けた……俺はめのまえがまっくらになった)
八幡(俺の切り札は、相手の切り札だったのか……やはり切り札は、常に俺の手元には来ないようだぜ……ジョーカー!)
小町「これを見て思い出したんだけど。お兄ちゃん、確かに昔、少しの間だけ、毎日遊んでた女の子がいたと思うよ?」
八幡「まるで記憶にないが……」
陽乃「でも、あなたの妹はいるって言ってるよね」
八幡(それなんだよな。小町がこんなことで嘘つくとは思えないしな)
陽乃「まあ、あなたが覚えてないこと、私は心当たりがあるんだけどね」
八幡「え」
陽乃「私たち、最後に会ったときに約束したんだ。次の日も遊ぼうってね」
陽乃「でも私は、親の仕事の都合で、それからずっと君に会えなかった……」
陽乃「そのせいじゃないかな。ごめんね……私のことを忘れるくらい、辛い思いさせたのかもね」
八幡(……なるほど、と思ってしまった)
八幡(きっとほぼ初めてできた友達。しかも年上のきれいな女の子だ。幼い俺は、次の日も遊ぶことを楽しみにしたことだろう)
八幡(しかし彼女は来なかった。次の日も、次の日も。それを辛く思った少年は、こんなに辛いなら愛などいらぬ!と女の子の記憶ごと自分の中から消した……)
八幡(うお、かわいすぎだろ幼い俺!かわいそかわいそなのです)
◆◇◆◇◆
陽乃(まあ、全部適当にでっちあげた嘘なんだけどね)ニコニコ
◆◇◆◇◆
雪乃「ちょっと待ちなさい」
八幡(半ば納得しかけた俺を現実へと呼び戻したのは雪ノ下だった)
雪乃「あなたと姉さんが幼馴染み?私は聞いたこともないのだけれど?」
陽乃「へぇー」
八幡(睨み合う姉妹。その飛び交う視線の火花は、言葉以上の何かが行き交っているように見えた)
雪乃「だいたい、いくら彼が打たれ弱くて現実逃避ばかりしているダメ男だとしても」
八幡(え、なにこれ。俺けなされてるよ。なんのつもりなのこの子)
雪乃「その末に記憶の改変を行ったりするような人間ではないな」
八幡(確かに。そうかもしれん。あれ、なんかさっきも姉のほうの意見に同調した俺の主体性はどこにいった)
陽乃「子供の頃の話でしょ」
ないな→ないわ
陽乃「それに、忘れているのは比企谷くんだけじゃないよね」
雪乃「は?」
陽乃「雪乃ちゃんだって幼い頃、比企谷くんと何回か遊んだことあったじゃない」
雪乃「え」
八幡「は」
結衣「ええええ!?」
八幡(その問題発言に一番の悲鳴を放ったのは、部室に来てから終始かやの外にいて)
八幡(あれ、いたの?と言われる普段の俺並みに存在感の薄かった由比ヶ浜だった)
中断
結衣「ゆ、ゆきのんもヒッキーの幼馴染みなの……?」
八幡(すがるような目を雪ノ下に向ける由比ヶ浜。その視線は子犬のごとし。アイフルのCMのくぅーちゃんのようだ。あの犬、元気にしてんのかな)
雪乃「ち、違うわ。そんなことはありえないから安心して、由比ヶ浜さん……姉さん」
八幡(由比ヶ浜から陽乃さんに向け直した顔は、最早般若とも呼べる顔つきだった。世界一かわいいよ)
八幡(それを涼しげな顔で受け止める陽乃さん。二大怪獣夏の大決戦みたな構図に、本格的に帰りたくなってきた。怖い)
雪乃「変なことを言わないで欲しいのだけれど。私の幼少期にその男がいたなんてありえないわ」
雪乃「もし仮に一度でも接触したことがあるのなら、この男と言う災厄に対する対策を、私が怠るはずがないもの」
八幡(災厄ってなんだよ。俺精霊だったりすんの。デートして俺をデレさせてくれんの?)
陽乃「ま、雪乃ちゃんは引きこもりだったから、あまり会ったことはなかったけどねー」
陽乃「でもね比企谷くん、この子昔、あなたと会った日はとっても嬉しそうに」
雪乃「捏造はやめて」
八幡(怒鳴ってなどないはずなのに、刺すような冷たい一声が、場を凍らせた。誰もが動きを止める)
雪乃「姉さんが彼で遊ぶだけなら、気にはしないつもりだったけれど」
八幡「それは気にして止めてくれよ、お前の身内だろ……」
雪乃「こっちまで巻き込むのはやめて。私と彼が幼馴染み?嘘もたいがいにして。第一、その紙切れは」
陽乃「……」
小町「……」
結衣「……」
八幡(どういうことか。雪ノ下が最後の言葉を詰まらせると、場の女性人の視線が、もともと雪ノ下に集まってはいた視線が、別のものに変質して注がれているような気がした)
雪乃「その紙切れ……のように、姉さんだけでしょう。彼と付き合いがあったのは」
陽乃「へぇー。そうだっけ」
八幡(雪ノ下が視線を反らした。陽乃さんは勝ち誇ったように雪ノ下を見ている。これは猿山の掟なら、陽乃さんの勝ちである。ボス猿はるのんつえー)
八幡(しかしどうして雪ノ下が敗けを認め、陽乃さんが勝ち得たのか、そもそもなんの勝負だったのかも、具体的には俺にはわからあかった)
陽乃「ま、というわけだから。よろしくね、婚約者くん」
八幡「……じゃあ婚約は破棄ということで」
陽乃「えー、死刑?」
八幡「子供のときの約束でしょ。普通に破棄ですよ。それに、日本は死刑は容認してても、私刑は禁止でしょ」
陽乃「はぁ、やっぱり昔のように仲のいい二人には、いきなりは戻れないんだね」
八幡「だからその記憶が俺にはないんですけど」
陽乃「じゃあしばらく、君が思い出せるように付き合ってあげよう」
八幡「いや、俺別に失われた記憶とか戻らなくてもいいんで」
八幡(なんで物語の主人公とか、絶対思い出したら後悔するぞ!絶対だぞ!って言われてる失われてる記憶まで取り戻そうとすんだろうね)
八幡(世の中忘れてたほうがいいってこともいっぱいあるだろうに。ダチョウ倶楽部かよ)
陽乃「君に拒否権はないんだよ?だって、この婚約届の真贋勝負で負けたじゃない」
八幡「その紙切れもまだ信じてないんですけどね」
小町「んー、でもこのサインってお兄ちゃんので間違いないでしょ」
八幡「はぁ、なんでだよ」
小町「このお兄ちゃんのサインの隣にあるぐちゃぐちゃしたの。昔お兄ちゃんが書きまくってたじゃん」
八幡「なんだと」
八幡(慌てて婚約届を、それを見ていた小町からひったくり、その俺のサインというものをまじまじと見る)
八幡「げ……」
八幡(確かに俺のサインだった。名前の横にあるのは、俺が考案したサインである。もはやどういう意味だったかも思い出せないが、この頃はこれがかっこいいと思っていた)
八幡(しかしそれをささっと書けるよう練習するために、学校でノートに一心不乱に書きなぐっている姿をクラスメイトから不気味がられ)
八幡(悪魔の召喚をしているとまで言われた曰く付きのサインであった。それ以来このサインは封印した)
八幡(確かに俺の幼馴染みでもなければこのサインを復元することなどできない)
結衣「へー、ヒッキーも子供の頃サインとか考えたんだ。ちょっとかわいいね。ね、見せてよ」
八幡「嫌だ」
結衣「いいじゃんいいじゃん。ちょっとだけだから」
八幡「いや、やだよ」
結衣「そこは乗ろうよ……」
八幡(俺が本気で拒否ると、由比ヶ浜が悲しそうに諦めた。空気?なにそれ。からけ?)
陽乃「さてと、じゃあこれで疑いは無くなったよね」
八幡「まあ、状況証拠だけは揃いましたね」
八幡(くそ、しかしこれは絶対なんらかのトリックに違いない!コナンくんとかたまに犯人決めつけすぎだろ。まあ真犯人なんだけど)
陽乃「頑固だね、君も。仕方ない。今日はこれで帰ろっかな」
八幡(ほっ、やっとお帰りだよ。ほらお前ら、粗相のないようにお見送りだ!また来られちゃたまんないからな)
八幡(あー、これからしばらく会う度にこのネタでからかわれんのかなー。どうしたらこの人と会わないようにできるだろうか、などと考えていると)
陽乃「じゃ、また明日。婚約者くん」
八幡(また、明日……だと……?)
中断
このSSまとめへのコメント
え、すごいよさげ(*゚▽゚*)
続きはよ
続きがないなんてことないよね
続きを書いてください。
私…気になります‼︎
何をやっているのだよ
お前いっつも中途半端なもんばっか書いてるな
もう二度と書くなよ
何かこれコナンくんみたいにお湯が掛かって字が消えそて姉のんの字だけ消えずに嘘だってばれそーこれパクるならそのかわり一色版のハッピーエンド書いてー