周防達哉「マヨナカテレビ……?」(203)
周防達哉は霧の中で目が覚めた
達哉「ここは…?」
歪に出来上がった空間に達哉は横たわっていた
そこは蒸し暑く、サウナの中にいるようだった。暑さのあまり、覚醒直後の身体にはこの湿気は疲労を加速させる
達哉「まさか、また俺は……」
言葉に出して戦慄する。全て認め、何ものからも逃げないと決めたのに、居るべき場所にいない…
それがどれほどまでに彼を慄かせたか
だが、それにしては今いる場所は不自然だった
辺りで不穏な気配が蠢き、悪意がうずまいている
達哉「……」
達哉は戸惑いながらも歩き出した。また『逃げた』のなら、もう一度『立ち向かう』までだと、自分に言い聞かせながら…
少し歩きまわって分かったことがある。ここは人が作り出した場所ではないということだ
全てが銭湯、あるいはサウナのような造りで出来上がっており、普通人が作るような造りになっていない
達哉「一体ここは…」
濃い霧で殆ど前が見えず壁伝いにゆっくり進んでいるが、熱と湿気で少ない体力が徐々に減っていくことが分かる
そしてまだ接触していないが、周りにうごめく気配。今の状態で未知の何かと出会うことは極力避けたかった
…………
鳴上悠一行は巽完二を救出するべくマヨナカテレビへ潜行していた
救出に必要な遺留品探しにも時間を費やしたが、もっぱらこの熱と湿気を放つダンジョンに苦戦していた
千枝「あっつー…急がなくちゃいけないのに…身体がだるい~」
クマ「チエチャン頑張るクマ!クマの鼻によると後ちょっとクマ!」
陽介「んなこと言ってもう2時間くらいあるいてんだが…鼻乾いてんじゃねえの?」
クマ「そんなことないクマ!ほら!見て!乾いてないクマよ!…あ、あ!ユキチャンお触りは現金クマよ」
雪子「え、残念…」
悠「みんな、到着したみたいだ」
鳴上悠の言葉にみんなの顔が引き締まっていく。疲労はあるようだが意気軒昂のようだ
恐らくこの先に巽完二とその『影』が居るのだろう。準備を整え室内へと踏み出した
だが、そこには血塗れになった完二と無残にも叩き潰されたシャドウがいた
その凄惨な光景に呆気にとられ、血の気が引いていく
悠「こ、これは…!」
陽介「クマ!二人を部屋から出すんだッ!」
クマ「あわわわ…わ、分かったクマ!」
悠と陽介はペルソナを出し、警戒しながらまずは完二の状態を確かめに向かう
悠「……。血は出てるけど命に別条はないみたいだ。これなら魔法で応急処置が出来る。だけど早く病院へ連れて行かないと」
陽介「ああ。状況はさっぱり分からないが、まずはこいつの身の安全のほうが大事だ。撤退しようぜ!なにかヤバイ気がする」
短く相談を終え、第六感が告げる警告を信じ速やかに撤退を始める。既に彼らは一端の戦士へと成長していたのだ
だが…一つの誤算は、『彼』はそれを黙ってみているほど正気ではなかったということだった
「ヒャ!ヒャハハハハハハハァ!おい!どこへ行くつもりだ餓鬼ども…」
狂ったような哄笑が室内に響き渡る。恐らくこの惨状の張本人だろう。二人は以心伝心!声のする場所へ攻撃を放った
「ヒャハ!やるじゃねぇか、ええおい。いきなりご挨拶だな。初対面の人に攻撃しろってママから教わったのかぁ?」
陽介「ぜ、全然びくともしてねぇのか…?アイツなにもんだ」
悠「人間…なのか?」
「ほらどうした?来いよ。オレと遊ぼうぜぇ!!」
吠えると光熱の火球が二人へ降り注いだ。完二を抱え後退する
逃げる二人へ哄笑をあげながら肉薄する。手に握られてるのは怪しく輝く刀
悠「よ、陽介ッ!」
陽介「あいよ!」
陽介は悠から完二を受け取り、悠は二人の盾になるべく立ち塞がった
「燃えろ燃えろォ!」
悠「ペルソナ!」
火球が届く寸前でペルソナチェンジが間に合い守りを固める
しかし…
悠「う、うわぁッ!ふ、防げない!?」
火炎に高い耐性を誇るペルソナを選んだつもりだったが、敵の火球を完全に防ぐことが何故か出来なかった
それでも軽減できたのか、悠の闘士はまだ潰えてはいなかった。一歩を踏み出し魔法を撃ちだす
そこへ、完二をクマたちへ預けたのか千枝と陽介が戻ってきた
千枝「鳴上くん大丈夫!」
陽介「無事か!」
到着と同時に悠を援護する。フォローがそのまま不意打ちへと繋がり、男を後退させる
「戻ってきたのか。しかも女連れ…。いいねぇ…まずは女からだァッ!」
千枝「ひゃあ!なんなのこの人!」
陽介「分かんねえ!でもヤバイ奴だ、陣形を崩すなよ里中!」
宣言通り千枝へ襲いかかる狂人。千枝は一歩引き、左右から陽介と悠が挟みこむように攻撃を仕掛ける
それを刀とペルソナを使い力尽くで弾き飛ばした
その瞬間を狙い、陽介の影から千枝が魔法を叩きこむ
「ちいっ。鬱陶しい!」
驚愕することになんと刀で魔法を弾き、ペルソナを飛ばして千枝を強引に攻撃してきた
千枝も予想していたのか直ぐにその場から離れてペルソナをやり過ごす
体勢を立て直した二人が千枝を庇いながら挟み撃ちを仕掛けた
陽介「くらえ!」
悠「…ッ!」
「…!?」
男に直撃し、男を壁へ吹き飛ばす。叩きつけられた男はそれっきり動かなくなった
千枝「ハァハァ…い、今までで一番怖かったかも…」
陽介「うう…ハァハァ…ペルソナで全力で人をぶっ飛ばしたのは初めてだ…死んでないよな…?」
悠「ハァハァ…確認したい。陽介、一緒に来てくれ」
陽介「ええ!近付くのかよ…うう、分かったよ…」
明らかに異常者ではあったが、正当防衛であったとしても自分たちの手で重症を与えることに彼らは耐えられなかったのだ
それが「人間」ならば正しい行動だ。だがこの狂人は、今は「人間」ではなかったのだ
身も心も…
…………
周防達哉は焦っていた。この身体を走る悪寒の正体を、喉にへばりつくような悪意の感覚を知っていたからだ
故に彼は急ぐ。自身が招き入れた因果と怨念を、再び自らの手で鎮めるために
…………
花村陽介は後悔していた。事態を楽観視していたことを
里中千枝も同様だった。自分も彼をフォローするべきだったと
鳴上悠の痛苦に歪んだ叫びを聞き、二人は驚愕で事態を把握できずにいた
……
鳴上悠と花村陽介は壁に倒れている男に近付いて行った。男の安否を確認するために
悠と陽介は十分に警戒したつもりだった。ペルソナを出し、攻撃も応急処置も出来るように万全を期して脈を取りに行った
悠が手を伸ばし、触れるという寸前に事態が動いた
ペルソナが突如出現し悠を捉えて陽介、離れている千枝からの盾にし、いつの間にか手にしていた刀で悠の右肩を貫いたのだ
電光石火!
男はまだ斃れてはいなかったのだ、それどころか卑怯にも相手の優しさにつけ込んで、必殺の一太刀を浴びせたのだ
男の次の行動は早かった。悠を陽介へ蹴り飛ばすと大股で千枝へ走りだした
あわやという寸前に反応し、ペルソナを使ってかわしたが、動悸が収まらず直ぐに行動には移れなかった
陽介「悠ゥゥーーーーーッ!!」
陽介の友達を思う叫びが悲痛に響く。混乱しながらも即座に回復魔法で悠の傷を塞ぎにかかっていた
叫びを聞きつけた現れた雪子は、陽介から簡単に状況を教えられていたが、今の現状に戸惑いを隠せなかった
「ヒャハッ!また女だ、悪かねぇ…。二倍に増えたぜ、楽しみがァッ!」
同時に悠を除く3人の中でもっとも冷静なのも雪子だった。炎の弾幕を張りながら悠と陽介の元へ駆け寄る
陽介の回復虚しく、いまだ止めどなく傷口から血が溢れ出ていた
その様子にショックを受けながらも気丈に、そして速やかに上位の回復魔法をかけ始めた
雪子「花村くん!ここは私に!千枝をフォローしてあげて!」
陽介「う…お、俺…」
雪子「しっかりして!男の子でしょっ!」
陽介「う、ぉ…。あ、天城……。分かった。悠の事はまかせた!」
既に千枝と男は交戦していた。しかし千枝は防戦一方で、なかなか反撃の隙を得ることができていなかった
男の猛攻は辺りを破壊し、室内は元の形を留めていない
視界の端には壊された壁から倒れた完二とそれを守っているクマが見えた
なんとか彼らを守ろうと、千枝は自分の限界を迎えつつも相手を見据え、攻撃をかわしていった。自分自身を囮として
千枝(ハァ…ハァ…よりにもよってこんな場所で、こんなに動くとは思っていなかったよ…)
千枝(テレビから出たら、修行のやり直しかな?こりゃ…)
千枝(そのためには鳴上くんも花村も、雪子も完二くんもクマも…みんな無事で戻らなくちゃ…!)
千枝(私が、私が頑張らないと!みんなが…っ!)
だが、その想いも虚しく、無常にも凶刃が光を放ちながら振り下ろされる
千枝はそれをスローモーションで見ていた。美しいとさえ思った…
その時突然豪風が吹き荒れた。男は不意打ちに対処できず、直撃を受け吹き飛ばされる
陽介「里中!無事か!」
千枝「お……遅い…よ、花村……」
陽介が駆け寄り回復魔法をかける
陽介「すまん。ここからは俺が前衛をやる!援護してくれ!」
陽介が戦列に加わったことでなんとか状況を持ち直した。だが状況はどんどん不利になっていくばかりだった
悠は傷つき一刻を争う状態で、それを何とか雪子の回復で持っている状態
そして彼らの背後には戦えないクマと、気絶した完二。陽介は撤退の機会をなんとか見つけようとしていた
陽介(俺も里中もそろそろ限界だ。いや、里中にいたってはもうとっくにかもしれねえ…どうする?
どうすればいい?悠…)
…………
巽完二は聞いていた。眠った意識の奥底で。彼らの叫びを…
同時に嘆いていいた。自身の情けなさを、不甲斐なさを、弱さを!
完二(情けねぇ…情けねぇぞ、巽完二…)
自分の影を名乗った男。そしてそれを否定した自分…
呆気無く倒れ伏した自分と影…情けない…
完二(影…情けねぇ俺の…影。……なんだ…同じじゃねぇか…)
完二(そっくりじゃねぇか…弱ぇ自分。いくら隠したって…)
完二(そうだ。確かにそうだ。おめぇは俺だ。情けねぇ俺だ!)
……
クマ「カ、カンジの身体が…」
……
完二「弱い、俺自身だッ!」
…………
部屋の真ん中で倒れていた巽完二のシャドウがまばゆく光り始めた
光は完二へ向かい、完二を包み込んだ
陽介「な、なんだッ!?」
千枝「か、完二くんが!」
光が徐々に弱まり、中から威風堂々の影が躍り出た
堂々たる体躯、空気を割る豪腕。真っ向から受けた男は受けきれずもんどり打って弾き飛ばされた
完二「俺ァ分かったぜ。結局俺ァ弱いんだ。あんなウジウジした奴も受け入れられねぇ…弱虫だ」
完二「だがな。いつかは向き合わなきゃならねぇんだ。乗り越えなきゃ行けねぇんだ。それが…」
完二「俺にとって今だ。今、俺は俺を乗り越えなきゃならねぇ!弱ぇてめぇをよッ!」
完二「それが、自分を助けるために傷ついた恩人に対する恩返しってもんじゃねえか!?」
完二のペルソナが稲妻を放つ!
完二「助太刀させてもらうぜ!恩人さんよォ!ウラァァァッ!」
「ちっ。最初の餓鬼か…ウザってぇ…」
完二「てめぇの捻くれた根性よかウザくねーぜ!」
陽介「里中!まだいけるか?ここが勝負どころだ、一気にケリをつけるぞ!」
千枝「ア、アイアイサー!」
頑強な完二を中心に2人は即席の陣形を組み、男を追い詰める
陽介(一気に逆転できたが逆にそれが危うい。あの男はどうかわからねぇが、完二はメガネをつけていない上に、
ペルソナ発現直後だ。完二の攻勢がいつまで持つかわからない以上、悠のこともある。早急に撤退しないと)
「…ざってぇ…」
完二の猛攻を前に男の様子が変わっていく
完二「ああ!?グチグチ言ってんじゃねえぞオラァ!」
陽介(ま、まずい!)「里中!」
千枝「わかってる!」
様子の変化に気づいた陽介と千枝は完二を止めに入る
一手。完二との即席での連携ゆえの一手。この一手が明暗を分けた!
「ウザいんだよ!お前らァッ!!」
雄叫びと共に放たれた斬撃の嵐。3人を無残にも切り刻む!
「ヒャアッ!遊ぶのはやめだッ!今すぐ殺してやる!」
完二を止めるために前に出たのが仇となり、更に今までの戦闘での疲労がついに膝をつかせる結果となった
男はゆらりと刀をぶら下げ、倒れた彼らに近づいて行く…
天城雪子は焦った。戦えるのは自分しかいない。みんなを守れるのは自分しかいない…しかし!
今ここで手を止めて彼らを助けに行けば、恐らく鳴上悠は死ぬ!
彼女の心は散々に千切れた。どちらも助けたい。だが、現実はどちらかを取り、どちらかを捨てなければならない
現実は彼女に選択を迫る。
彼女が取った行動は…ッ!
雪子(私は諦めない!千枝が必死になって守ってくれた!完二くんが怪我をおして戦ってくれた!
花村くんが全力でみんなをまとめてくれた!私が挫けてどうするの!?)
雪子(一番元気な私がやらないでどうするの!!)
限界の精神の中、雪子は冒険に出た。それは無謀だったのかもしれない。無駄だったのかもしれない
次の瞬間には自分は殺されているかもしれない。それでも彼女は行動に移した!諦めないために!
雪子「千枝達に、触らないで!」
雪子は左手で悠の回復を行い、右手でなんと攻撃魔法を使ったのだ
しかし、2倍の力が必要になり、また回復に重点を置いているため攻撃は極端に弱かった
弱かったが、男の気を惹くのには十分だった
「あ、味な真似を……」
「ならお前から死ねェェェーーーッッ!!」
全てを蒸発させるような業火が雪子めがけて飛んでくる
まだ、まだ雪子は立ち向かう!炎に強い自身の半身を業火への盾としたのだ!
雪子「ああぁ!うぁああっ!」
少しでも時間を稼がなければならない。一分でも可能性を信じなければならない!
そして……
雪子は痛みで霞む瞳の中で、漢の後ろ姿を見た
幻覚だと思った。自分の持つ王子様の願望が見せた幻だと
燃える太陽のような後ろ姿を眺めながら、一つ気付いた。業火で苦しめられていた痛みが止んでいる
漢が炎を遮ったのだ。幻覚じゃない。漢は確かにそこにいる。男の敵対者として
男が狂ったように笑い、吼え、太陽の漢に襲いかかる。それを真っ向から撃ち落とし、追撃をかける
爆砕につぐ爆砕。どんどん音が遠ざかっていく…
そして、辺りを支配していた異常な気配が消え去った
雪子はそれを薄れゆく意識の中で感じ取り、意識を手放す直前、誰かの胸に倒れかかった。そんな気がした…
……後日譚……
天城雪子が次に目がさめたのはマヨナカテレビのエントランスだった
徐々に頭が覚醒していくと、自分が治癒していた悠を探し、戦い倒れた千枝達を探した
慌てていたが、直ぐに彼らは見つかった。無事だった。雪子はようやく安堵し、再び崩れ落ちた
千枝「ち、ちょっと大丈夫!?雪子!」
それを支えたのは千枝。間近でみると疲労が色濃く顔に出ているが、それ以外でおかしなところは見当たらなかった
雪子「み、みんな無事なんだね…?良かった……わ、私もう…」
陽介「わ、わ!天城泣くなって!」
雪子「そうだ、鳴上くん。鳴上くんは大丈夫なの?」
クマ「ユキチャンのお陰で大丈夫クマ!傷は塞がってるクマよ」
詳しく事情を聞くと、鳴上悠は傷口こそ塞がったものの流れ出た血は相当な量で、
完二同様なるべく早く病院へ行かなければならない、とのことだった
だが、ここまでの重症を負う戦いは初めてで、そのまま病院へ行けば怪しまれるということで、なかなか行動に移せなかったようだ
幸い、このマヨナカテレビには現実世界では存在しない回復薬があり、それを使うことで峠を越すことができたのだ
一通り無事を確認し合った所で雪子は疑問を2人にぶつける
雪子「あの、私達を助けてくれた、その…男の人は…?」
陽介「ああ、達哉さんなら俺達の代わりに薬を集めに行ってくれてるよ」
雪子「達哉さん?」
千枝「あ、私達を助けてくれた人ね。周防達哉さんって言うんだって。すっごく強いんだよ!」
クマ「そろそろ戻ってくるころクマ。……あ!来たクマよ!」
クマが指差した方向からスラリとした男性が歩いてくる。彼が『周防達哉』なのだろう
雪子は歩み寄り、一言感謝の念を伝える
雪子「あの、助けていただいてありがとうございます!」
達哉「いや。…身体の方は大丈夫なのか?まだ休んだほうがいい」
千枝「そうだよ雪子。まだふらふらじゃん。無理しない方がいいって、絶対」
近くに来た千枝に促されて腰を下ろす
達哉は集めてきたばかりの薬を悠と完二に使用していく
程なくして、悠と完二が起き上がった
悠「ここは?……エントランス?」
起きた悠と完二に陽介が簡単に状況を説明した
……………
一通り話し終わると、
完二「ペルソナ…ッスか?へえ…」
事件の当事者、巽完二への説明と質問が始まった
完二が言うにはこうだった
『わけもわからずいつの間にかここにいた。特に何かされてここに入れられたわけではない』
ということだった。これでは犯人の情報が少なすぎる。悠たちはなんとか情報を引き出そうと、様々な質問をぶつけるが徒労に終わった
陽介「収穫なしか…。ところであの男はなんなんだ?まさかあいつが犯人…?
いや、無いだろうな。アレはテレビの中に入れるなんて回りくどいことなんてしないで、自分でやりにいくだろう」
達哉「俺は……あの男を知っている」
達哉「あの男は『須藤竜也』。俺と同じ「場所」から来た、殺人鬼だ…」
悠「場所?それはどういう…」
達哉「俺は恐らく、この世界の人間じゃない。スマル市というのを知っているか?」
陽介「すまる、スマル…いや、聞いたことないっす」
千枝「あたしも」
一同全員スマル市というのを知るものは居なかった
達哉「俺も須藤もそこから来た。何故、どうやって。それはわからない」
達哉「だが、俺と須藤はそのスマル市で敵対して戦っていた」
達哉「そして、死んだはず、だった…」
悠「死んだ?でも須藤は生きて…」
達哉「そう、何故か奴は生きてる。それは何故かは分からない。ただ1つはっきりしていることは…」
達哉「これからアイツはまた人を殺す、ということだ。俺はそれを止めなければならない」
完二「チッ!冗談じゃねぇぜ!」
陽介「そんなやつ放って置けるか!」
悠「もともとおれ達はマヨナカテレビを使った殺人事件を食い止めようと集まった。
まだそっちの犯人の情報は掴めてないけど、追いかけて食い止めるのが一つ増えただけだ」
悠「達哉さん。俺達も同じ気持です。手を貸してくれませんか?」
達哉「いや、頼みたいのは俺の方だ。あんた達に協力したい。須藤を止めるため力を貸してほしい」
自称特別捜査隊は周防達哉を快く受け入れた。巽完二も義と恩によって協力を申し出た
心強い味方が2人も増えたことで、俄然活気付く捜査隊。しかし、小さな課題は片付いていない
異界からの訪問者である周防達哉。彼をこの狭いコミュニティの中、無防備に出歩かせる事は危険だった
また、彼の住居も必要だったが、彼は当分このマヨナカテレビのエントランスで寝起きすることを提案した
クマは喜んだが、全員が反対した。だが頑として変えること無く、エントランスが仮の住居となったのだ
寝袋と食料を引き換えに、シャドウから得られる素材を渡し、財を得て生活する…ということで決着がついた
すでに時間は夜となっていた。現実世界へ戻った彼らは大目玉を食らうという試練を迎えることになるが、
またそれは別のお話…
…………
異世界へ飛ばされたこと、自分の罪のこと、腕の痣、須藤竜也の出現…
また『奴』が蠢いているのか…しかし奴の影は全くといって感じられない
別の何者かの意図で動かされているのか…『奴』とは別の、強大な…
頭の下でいびきをたてるクマを整え、周防達哉は自分の境遇について考えながら、まどろみへ落ちていった
/└────────┬┐
< to be continued... | |
\┌────────┴┘
総評:須藤ふっとばされすぎ。文字数の割に投下量が少ない
次は未定。書き溜め次第
ペルソナに関してまとめられたデータなどがあれば良ければ教えて下さい
もし、質問とかあればどうぞ
一応そのつもりです
番外1
~タッちゃんとクマの愉快な仲間たち~
クマ「れでぃーすあーんどじぇんとるめぇーん!皆様本日はここ、マヨナカテレビエントランスホールにお集まりいただきアリガトゴザイマース!」
クマ「これより『巽完二救出成功記念祝賀会&周防達哉質問大会』を開催するクマー!」
千枝(元気ねぇ、クマくん)ヒソヒソ
陽介(最近あいつ寂しいとかなんとかこぼしてたからな。同棲相手がみつかって舞い上がってんだよ)ヒソ
完二(ど、同棲ッスか…!)ヒソヒソ
雪子(やだ…完二くん、いやらしい!」ドカァッ!
critical!
one more!
完二「どわっ!わ、ワンモアは待って!」
クマ「ンフー。盛り上がってきた所で早速質問していきたいと思うクマ」
クマ「質問内容は事前に書いてもらったものを、この特性クマ箱からランダムに引いていくクマ」
ナニガデルカナナニガデルカナ~?
クマ「ほおいっ!これクマァ!」
『ペンネーム:番長 達哉さんのペルソナを教えて下さい』
クマ「おお!ペルソナの事クマ。そういえばまだ誰もタッちゃんのペルソナを見ていないクマね」
クマ「めでたい席なので是非見せて欲しいクマー!」
タッちゃん(タッちゃん…)「分かった。ペルソナの名は『アポロ』」
名前を言うと道化師の様な姿をした赤いペルソナが出現した
タッちゃん「炎を操る。ついでに殴ることも得意だ。『今は』これだけしか降ろせない」
完二「今は?ッスか?ペルソナは一人一体じゃ…」
タッちゃん「…?」
雪子「あの、私達はペルソナは一体だけなんです。悠くんだけ色々と他のペルソナを降ろせるんです」
タッちゃん(『俺達』のペルソナと違う…?)
タッちゃん「そうなのか。だが今はみんなと同じようにペルソナは一体だけだ」(見たところ、ベルベットルームも『無いよう』だ)
陽介「そうだ!今度温泉『跡地』に潜るんで一緒にいって、そこでペルソナを見せて下さいよ!」
タッちゃん「分かった。付いて行こう」
クマ「ということでした~。さて次の質問は~……これクマ!」
『ペンネーム:肉ガム 年はいくつですか?』
クマ「そうクマね~…22才くらい?そこんとこどうなんクマー?」
タッちゃん「に…!?俺はそこまで老けてるか…?…18だ。まだ高校を卒業していない」
悠「えっ」
千枝「じゅ…!?」
じゅうはちぃ~~ッ!?
タッちゃん「……そこまで…老けてるか…?」
クマ「お、驚きクマ~……」
完二「い、言われてみれば、確かに肌が瑞々しい…!」
陽介「キモ!やめろ完二。お前が言うとなんか怖い」
完二「な、な、なにがッ!やめろテメェ!お、お、俺はそんなんじゃ…!!」
悠「興奮するな完二」
クマ「そうクマカンジ」
千枝「落ち着くのじゃ完二」
雪子「ブフゥ!」フゴッ!フグッ!クックックックッ……
完二「~~~~~……ッッ!」
クマ「カンジは置いといて、そうクマか~。花の10代だったくまか~」
陽介「なんか妙に落ち着いてるというか、雰囲気が大人びいてると言うか…」
千枝「そうそう。そこら辺の大人よりなんか迫力あるよね」
悠「俺達の先輩だったのか。先輩って呼んでも?」
タッちゃん「……好きに呼んでくれ…」
クマ「さあさあ!タッちゃんが美貌の美少年という衝撃の真実が発覚したとこで次行くクマー!」
タッちゃん(やめてくれ…)
その後も質疑応答は続いた……
周防達哉と自称特別捜査隊の絆が深まった気がした…
異界 太陽のコミュランクが2に上がった
…………
畜生…またアイツだ…いつもいつも、俺の顔ヲォォ……
かならず……ウゥゥゥ…周防達哉ァァ……!
お前は必ず、俺が殺してやる……!
ヒャハハハ!ヒャハハハハハハハ………
笑いが霧に響き渡る…
/└────────┬┐
< to be continued... | |
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人物
周防達哉 すおうたつや
七姉妹学園3年生。181cm。68kg。7月27日生。獅子座のb型。右の背中にナイフで刺された痕がある。
(公式ガイドブックより引用、出典)
ペルソナ2罪の主人公。罰では物語の鍵をにぎるキーマンとして活躍
かなりのイケメン。ペルソナ発現前の腕っ節は強い模様。武器は刀
あまり感情を見せない性格で、むっつりした印象を受ける。しかし、本来は情に厚く、仲間思い
自身が犯した『罪』に悩む
ペルソナはアポロ。アルカナは太陽。炎を操り、パンチも強い。必殺技は『ノヴァサイザー』
続編の罰では、初登場で初期レベル50~99までの戦闘力を誇る
シナリオでも、味方が数人で戦う相手を一人で倒したり、一人で敵陣に乗り込み全滅させたりとやりたい放題の強さ
ペルソナのスキルは
アギダイン、ギガンフィスト、デカジャ、フレイラ、マハラギダイン、ノヴァサイザー、ヒートカイザー
ペルソナ4にはない核熱という属性を持っている。フレイラ、ノヴァサイザー、ヒートカイザーがそれに該当する
また、ペルソナを得てからその特性で剣の腕は達人をも凌ぐ(アディショナルシナリオより)
感想、質問などなどどうぞ
読みにくいなどがあれば言ってください
冒頭で書き忘れましたがこのssは
ペルソナ2罪罰とペルソナ4のクロスオーバーです
人間は達哉のみです
人間辞めたり、元々人間じゃないのは出る…と思います
須藤は人間辞めさせられました
人物
須藤竜也 すどうたつや
28才
ペルソナ2罪、罰に登場。敵キャラクター。既に2回殺されている
罪では放火魔、罰では殺人鬼と猟奇的な面が目立つ電波サイコ人間。詩と自由が好き
罪では仮面党の四天王で実質的なリーダー。グルと崇められていた。キングレオと名乗る
名前、生年月日、ペルソナ能力と周防達哉と類似する
罰では黒幕から罪の世界でのことを告げられ、自分をジョーカーとし、本物のジョーカーを目覚めさせる傍ら呪いを振りまいていった
呪いこそ目的を遂げられたが、本物のジョーカー覚醒は阻止され、開いた穴から墜落し、死亡
ペルソナ能力
タルカジャ、暗黒狂焔乱舞、ソニックパンチ、アギダイン、マハラギダイン
反応貰えると嬉しいですね
投下します
―巽完二を救出してしばらくたったある日―
周防達哉はマヨナカテレビにある各ダンジョンをクマの案内で訪れていた
自分が何故ここに来たのか、その理由を探すためと、何かと入用になるという素材集め、
そしてマヨナカテレビ自身の調査のために
常にマヨナカテレビ内は先を見通すのも困難なほどの濃霧で覆われている
それなのにシャドウと呼ばれる怪物たちはここを根城にしている
達哉(奴らは見えているのか?いや、どうやら元々ここの住人のようだから、見えるのも当然か…)
達哉は奴らの呼称『シャドウ』というのが気にかかった。以前彼は、いや彼らは自分の影と対峙した経験を持つ
影は自分の心にあるネガティブな感情を増大させ、『本音』として言葉を語る
それは花村陽介、里中千枝、天城雪子、巽完二のシャドウも同じ
では、ただシャドウと呼ばれる怪物たちは一体何なのか…
マヨナカテレビに入った人間がもれなく自身の影が出現していることを考えると、
言葉を持たずただ人を襲うだけのこいつらは、テレビの外、つまり現実世界に居る大多数の無意識によって形成されてる可能性がある
少なからず現実世界からの影響を受けているこのマヨナカテレビ内を見れば考えつく
またクマの話では現世が霧に包まれればシャドウが活気づくという話からも伺える
達哉(普遍的無意識…)
だがそういった理屈ではなく、経験や直感で達哉はそれを感じ取っていた
似ているのだ。かつて立ち向かった存在に
達哉(『奴』の気配は感じられない…関係ないのか?しかしそれにしては…)
達哉は腕の痣を一瞥しながら思った
あの時ほどの危機感こそ感じなかったが、もし現世での人の意識が影響しているなら?
達哉(『奴』ならば間違いなく…)
考えられる最悪の時を想像して一人冷や汗を流す
達哉(そうならないように動くんだ。仲間もいる。あの時とは違うんだ…!)
時間が過ぎ、素材も集まったので、エントランスへ戻ることにした
―マヨナカテレビ エントランスホール―
達哉が戻ると特捜隊のメンバーが集まっていた
どうやら彼らは林間学校へ行くらしい。そのことで2日ばかり空ける旨を伝えに来た
素材と携帯食を交換し、「街のことはお願いします!」と言って去っていった
達哉「林間学校か…」
達哉にも経験があった。あまり楽しかったとは言えない思い出だったが、それでも今は大切だった
クマ「タッちゃん、林間学校って何クマ?」
達哉「教師の目をかいくぐって、賭けボーカーや麻雀を一晩中やり尽くした後に散財して泣いて帰る授業のことだ」
クマ「楽し!!……そうクマー?」
適当にクマをあしらいながらテレビの中も更けていく…
―6月下旬
…………
――うわあああぁぁぁぁぁ!ひ、人が死んでいる!
――きゅ、救急車…いや、警察!早く警察を呼んでくれー!
…………
林間学校を終え、無事帰宅した悠達の耳にあるニュースが飛び込んできた
『本日未明、八十稲羽市の○○で身元不明、男性の死体が発見されました』
『死体は、刃物で切り刻まれ、電信柱の上に絡まっていたところを住民に発見され警察へ通報したようです』
『4月に起きた変死事件となんらかの関係性があると、現在調査中の……』
悠の携帯が朝の自室に鳴り響く
『悠、悠!テレビ見てるか?どういうことだありゃ…。帰ってきてからマヨナカテレビには誰も映らなかったのに…!』
悠「お、落ち着け…。まだマヨナカテレビのせいとは決まっていない…」
『そ、そうだな…とりあえず放課後、いつものとこで落ち合おう。他のメンバーにも声かけてくる…』
慌ただしく電話は切れた
落ち着けと陽介に言ったが、悠の動揺は大きかった。何故テレビに映っていないのに?雨だって降っていなかった…
毎日チェックしていた。昨日だって。救えなかったのか?俺は見殺しにしたのか…?
グルグルと堂々巡りの考えに陥っていった。その日の授業は、他のメンバーもそうだが散々なものとなった
―放課後 フードコート 特別捜査隊本部―
完二「一体どういうことっすか!?先輩らの言ってたことと違うじゃないスか!」
陽介「そりゃこっちが聞きてーよ!今考えてるんだ!」
集まるなり仲間入りして事情に疎い完二の疑問が爆発した
雪子「ち、ちょっと…2人共落ち着いて…」
千枝「そうだよ!そんな喧嘩腰じゃとける疑問も解けないよ!」
2人の諌めで徐々に落ち着きを取り戻していく陽介と完二
落ち着きを取り戻した完二が口を開く
完二「…先輩らの話だと、真夜中まで雨が降った日のマヨナカテレビに人が映ることで、テレビの中に入ったか確認できるんスよね?」
悠「そのはずだった…だけど今回のようなことは初めてだ…」
千枝「もしかして模倣犯?」
陽介「わかんねーがその線は薄いんじゃねえか?」
雪子「どうして?」
陽介「授業中ずっとラジオ聞いてんだけどさ、死体が最初の時のように人がやるには不可能な場所だって」
陽介「今は見に行けないけど、死体を降ろすのにかなり難航したそうだ」
陽介「そんなこと、いくら模倣犯だって出来ると思うか?」
悠「陽介の言う通りだと思う。人がやるにはまず目に付かないようにするのが困難だし、
何より大掛かりになりすぎる。たとえ組織的に出来たとしても、人目のつくところにわざわざ死体を置いたりはしないだろう」
人によるものではないのは明らかだった。だが、マヨナカテレビかと言うと、確信は持てなかった
今までの法則を無視して行われた殺人。もしかしたら別の超常的ななにかが関係しているかもしれない…
そこで一応の結論としてテレビに赴き、クマと達哉から情報を得ようと決定した
―マヨナカテレビ エントランスホール―
何日か振りに訪れた彼らに喜びながらクマが駆け寄ってきた
だが、彼らの表情は固く、いつもの様子とは違うことに気付いた
クマ「ど、どうしたクマ?怖い顔して」
一同は顔を見合わせた後、陽介が代表して質問した
陽介「なあ、クマ。俺達がここに来ない間、なにか変わったことなかったか?
クマ「変わったこと?…んー、タッちゃんの特技が凄いことくらいクマ」
達哉「特に変わりはなかった。…外で何かあったのか?」
陽介「…ええ。不可解な殺人事件なんス。今から説明します」
陽介達は今朝見たニュースの内容を達哉に伝えた
その話を聞いてクマは
クマ「おかしいクマ。ここずっとタッちゃんと一緒にダンジョンを行き来してたクマが、誰かが入った気配は全然なかったクマよ!」
悠「やっぱり…でも、これじゃあ振り出しどころか後退しているようだ…」
千枝「とりあえず周防先輩にもフードコートに来てもらわない?そこでゆっくり考えようよ」
完二「賛成ッス。ここはちょっと落ち着かねーからな」
クマを留守番に残しフードコートへ移動した
―フードコート 特捜隊 本部―
世話になったからということで達哉のおごりで飲み物と軽食が振舞われ、会議が始まった
だが、状況を語るにはあまりに情報が少なすぎた。なによりマヨナカテレビの謎が会議を停滞させていた
悠「…せめてマヨナカテレビと関係があるのかないのかだけでもわかれば…」
陽介「そーだよぁ~。ていうかそれさえも分からないってどうなのよ」
千枝「そもそものマヨナカテレビの法則が間違ってたとか?」
達哉「………」
雪子「でも、完二くんの時はだいたい予想通りだったじゃない?」
完二「うー…ん。達哉さんは何か考えついたことないッスか?
達哉「……1つだけ、ある」
達哉の発言にしんっとなる
達哉「須藤竜也……恐らくアイツだ」
悠「あっ!」
全員思い出していた、あの悪夢のような男を、あの戦いを
陽介「で、でもアイツは先輩がやっつけたんじゃ…」
達哉「…死体は確認できなかった」
さらりと言ってのけたが、「死体」という言葉に少なからず一同は衝撃を受けた
須藤竜也…確かにあの男ならやりかねない。長く感じたようで短い戦いだったが、みんなの認識は一緒だった
陽介「でも、人間では出来ないような場所に死体があったんスよ?須藤は人間じゃないスか。それは…」
達哉「アイツはペルソナ使いだ。ペルソナを使えばそれも可能だろう」
千枝「え!?ペルソナはこっちで使えないはずじゃ…」
達哉「…なに?使えないのか?」
悠「先輩は使えるんですか!?」
達哉「ああ。そうか、やはり別物だったのか…」
陽介「別物?」
達哉「詳しくは説明出来ないが、まずペルソナを発現させる経緯が違う」
達哉「俺は『ペルソナ様遊び』を行い、そこでフィレモンというのに会い、自分の名前を答えることで覚醒させた」
達哉「こちらのペルソナは、マヨナカテレビで出現する自分のシャドウを肯定することで覚醒する」
達哉「経緯だけでこれだけ違うんだ。俺達のペルソナの根本から違っててもおかしくはない筈だ」
悠「じゃあ、須藤も…」
達哉「奴はまた違った経緯だが、奴も使えるはずだ」
陽介「なんてこった…早く須藤を見つけないと!」
雪子「でもあっちはペルソナが使えるんだよ?それに…なにするか分からない人だし…」
達哉「こうしよう。俺達は面が割れている。万が一襲われる可能性もある。二人一組で行動しよう。
放課後から出来るだけの時間を見回りに使うんだ」
達哉「見つけた場合は直ぐに接触せずに速やかに他のメンバーに連絡をとってくれ。その時は俺が出る。
襲われたら全力で逃げろ。防犯グッズ、ブザーとか常備するのがいいだろう。
俺はここで待機する。だれか地理に詳しい奴が残ってくれ、連絡係をしてほしい」
話し合いの結果、悠と完二、陽介と千枝、本部には雪子と達哉が残ることになった
達哉「焦るだろうが、まずは明日からだ。色々と準備をしなくちゃいけない。決して早まったりはするな」
何度か言い含め、その日は解散した
―翌日―
放課後だけという中途半端な時間の見回りを、それぞれ防犯グッズを所持しながら行ったが、全く進展はなかった
それどころか殺人が起こった直後のため、警察が市内を厳重に捜査しており、自分たちの行動に疑問を抱かざるを得なかった
達哉「警察が知り得ない情報を俺達は知っている。だがそれを彼らには証明できない。
なら、俺達がやるしかないんだ。無駄なことじゃあない」
そう言って達哉はみんなを励ましたが、気は焦るばかりで見回り初日は幕を閉じた
その日の夜
追い打ちを掛けるようにマヨナカテレビに動きがあった
今度こそ誰かがテレビに入れられたのだ
…………
どうやらもう気付いたようだな…だがゲームは始まったばかりだぜ…
三度目だ…今度こそお前を…
ウゥゥ…イてぇ…顔が、頭がイてぇ…
ヒャハ、ヒハハハハハハハ!
/└────────┬┐
< to be continued... | |
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投下します
見回りを終えてマヨナカテレビへ帰還する達哉。その日はそのまま就寝するはずだった
寝袋に入り寝ようとする直前、枕になっているクマが騒ぎ出した
クマ「タッちゃん起きるクマ!誰かが、誰かがまたテレビに入れられたクマ!」
飛び起きて時計を確認する。まだ日付はまたいでいない
達哉「本当か。どこに居るか分かるか?」
クマ「……う…。ダメクマ…やっぱり何か目印になるものがないと分からないクマ…」
申し訳なさそうに落ち込むクマ。それを見かねて、
達哉「無駄かもしれないが、万が一ということもある。今から全てのダンジョンをまわるぞ」
クマ「が、頑張るクマ!」
異邦人である彼に情報伝達手段は非常に限られている
ましては夜半だ、特捜隊の誰かに情報を伝えることは今は出来ないだろう
彼らがマヨナカテレビを確認していることを祈りながら、達哉たちはマヨナカテレビを駆け回った
………
人一人の命がかかっている。その重みを達哉は十分理解していた。だから行動に移したのだ
たとえ見つからなくても、「もしかしたら…」その思いが彼をつき動かす
明け方近くになってようやく全てのダンジョンを見てきた2人
結局テレビに入れられた人物は見つけることが出来なかった
今日も特捜隊のメンバーは学校がある。ここに来るまでは時間が大分ある
時計を確認しながらクマともども崩れるように眠りに落ちた…
…………
―放課後 フードコート 特捜隊本部―
男性陣の熱心な調査、情報網によりテレビに入れられた人物は『久慈川 りせ』で間違いないという
達哉も昨夜クマとともにダンジョン全てを見回ったことを報告した
千枝「おお~…鉄人…」
陽介「人の命がかかってるからな。ほんと頭がさがるっス」
悠「ということは、後は『久慈川 りせ』に関係するものを見つけてくれば…」
完二「さっさと潜って助けにいけるって寸法ッスね!」
達哉「昨日も言ったが、須藤の件もある。一人で無茶な行動は控えてくれ……頼んだ」
調査は2~4日ほどかかった
マヨナカテレビで結果を待つ間、達哉は『共鳴』現象を感じ取っていた
達哉「…須藤が、居る…!」
ペルソナの共鳴現象。ペルソナ同士が共鳴して起こる現象で、それによって相手の位置や正体を感知することもできる
意図的に行うことも出来るが、コツと多少の訓練が必要になる
達哉はかつて幾度と無く行われた『共鳴』により、須藤竜也がマヨナカテレビにいることを知った
まだわずかにしか感じられないが、今まで行ったことのない場所からの感覚に『久慈川 りせ』の側にいると達哉推測した
達哉は焦った。皮肉にも須藤の事をよく知る達哉は(一刻も早く久慈川りせの安全を確保しなければならない)と、そう思った
タイミングよく翌日には彼女の位置をさぐれる品を獲得出来た
未知の場所へ行くため、準備などを整えるため翌日に出発するとのことだった
達哉「…ひとついいか?」
陽介「なんスか?急にあらたまって」
達哉「ダンジョン攻略を確実にするために、俺が先行して雑魚を惹きつける」
達哉「あんた達はその後を通ってきてくれ。…何があっても大丈夫なように準備は念入りに頼む」
完二「え!?そりゃいくらなんでも危ないっすよ!それに一人で行かせるなんて男がすたらぁ!」
達哉「大丈夫だ。むしろ一人な分フットワークが軽くてすむ」
達哉「それに、一度やったことがある。心配は要らない」
達哉の突然の申し出に戸惑う一同
結局押し切られ、達哉の先行を許してしまった
…………
―同日 マヨナカテレビ 劇場前―
達哉(…居る。やはりあいつはここにいる…!)
クマ「タッちゃん、本当に一人で大丈夫クマか?みんなと一緒に行ったほうが安全クマよ?」
達哉「……。大丈夫だ。危なくなったら逃げる」
達哉「案内はここまででいい。後は鳴上達と一緒に来るといい」
そう言って達哉はダンジョンへ入っていった
クマ「………クマー…」
一人、打ちひしがれるクマを残して
―劇場 内部―
素材集めのためにダンジョンへ潜っていたが、より深いところにあるからか、今までのものよりも強力なシャドウが湧いていた
深部へと焦る傍ら、囮としての役割のためどんどん派手に戦闘を繰り広げている
周防達哉の進撃を止めることはどのシャドウでも出来なかった
達哉(おかしい…ダンジョンへ入って大分経つが、共鳴反応は一向に変わらない…)
近づけばより共鳴反応が強くなるはずだが、その様子はない
それとも、このダンジョンが思っているよりも深いのだろうか?
達哉(嵌められたか…?)
罠の可能性もあった。だがそうじゃないかもしれない。わずかでもある不安要素をそのままにすることを、達哉には出来なかった
また、特捜隊のメンバーに教えなかったのもそこにあった
予想外の殺人事件とテレビ事件が重なり疲弊しているメンバーに、これ以上の負担を強いるわけにはいかなかったのだ
それに確証のない事である、彼らを自分の勝手に巻き込むのを達哉はよしとしなかった
シャドウの気配のない場所へ到達し、そこで一泊することを決め、その日はそのまま休息した
翌日
本隊の特捜隊が準備を整えてダンジョンへ突入した
少し進むと道標のように戦闘の跡が転々と続いていた。数が多かったのか非常に間隔が短い
陽介「…確かに、杞憂だったのかもな。つえー…」
完二「本当に同じペルソナ使いなのか?…でも味方としちゃ心強いぜ」
千枝「私たちの出番あるのかな?」
雪子「残念だけど、あるみたいよ」
進行方向からシャドウが襲いかかってくる
悠「ペルソナッ!!」
完二「うっしゃあ!初陣だぜ!ペルソナァッ!!」
各々ペルソナを出してシャドウを迎撃する。達哉が数を減らしたとはいえ、いまだシャドウは多かった
大所帯、そして完二の訓練も兼ねて戦闘をレクチャーしている内に時間が大分立っていたことに気がついた
ちょうどシャドウの居ない空間に到着したので今日の進軍はここまでとなった
千枝「…!ねえ、あれ見て」
千枝があることに気づく
陽介「これ、周防先輩の野営跡か?」
悠「そうみたいだ。心配はしてなかったけど、無事みたいで良かった」
完二「これならもうちょっとで追いつけそうだな」
…………
その翌日、悠達は学校にて奇妙な『噂』を耳にする
その『噂』は彼らの耳に不吉に響いた
「ねえねえ知ってる?『ジョーカー様遊び』」
「なにそれ?聞いたことないけど」
「後輩から聞いたんだけどさ、『自分の携帯に電話をかけて、5分以内に自分の望みを言うと願いが叶う』んだって!」
「なにそれ胡散臭ー」
「でも、その後輩の友達が実際にやったら叶ったんだって!」
「えー?それ嘘教えられたんだよ。だってあんた騙しやすそうだもん」
「そんなことないって!1年の○○って言う子なんだけどね、最近部活で頭角を現してるそうだけど、
ジョーカー様遊びをやったからなんだって!」
「ああ、サッカー部のあの子か。確かに急に上手になったって聞くけど…努力したからじゃないの?」
「も~疑り深いんだから!一緒にやって本当か確かめようと思ったけど、いいよ!一人でやるから!」
「そんなムキにならないでよ…。心配だから私もやるよ。それでいいでしょ?」
「やった。それじゃあ放課後に屋上でね!」
悠「……」
陽介「…おい、今の聞いたか?」
千枝「なんか、不思議な『噂』だったね」
陽介「マヨナカテレビとなんか関係あんのかな?」
雪子「テレビは関係無さそうだよ。一言も出なかったし」
悠「でも、何か言い知れない嫌な予感がする…」
陽介「だな。調査してみるか?」
千枝「何が起きてもおかしくないしね。さっきの子にちょっと聞いてくる」
偶然耳にした『噂』。だがマヨナカテレビはただの『噂』ではなかった
不可解な『噂』に不安を覚え、情報を集めることにした
―『ジョーカー様遊び』の噂―
自分の携帯に電話をかけて、5分以内に願い事を言えば叶う
5分以内に答えないと魂を抜かれる、あるいは二度と掛けることは出来ない、ジョーカー様に殺される等など…
最初の条件以外は様々なものがあった
千枝「なんか物騒な遊びだね…」
陽介「だなぁ。魂が抜かれるとか殺されるとか…。まあ、噂話ってのはだいたいそんなもんだろうけど」
悠「マヨナカテレビがあるから、なんとなく無視も出来ない」
陽介「どうする?もう少し調べてみるか?」
悠「テレビの事もある。まずはそっちを片付けてからでいいと思う」
雪子「うん。その方がいいと思う。一つ一つキッチリやって行かないと」
千枝「雪子は几帳面だもんね~。あたしもそれに賛成」
軽く相談をして、その後ダンジョンへ向かった
―周防達哉 劇場深部―
そろそろ目的地に到着する頃合いだと達哉は感じていた
シャドウの強さが跳ね上がり、数も増えていったからだ。それに加え、嫌な空気がひしひしと伝わってくる
だが、肝心の共鳴反応について変化はなかった
達哉(どういうことだ?ずっと反応が変わらない…世界が違うからか…?)
達哉(いや、例えそうだとしても先んじて彼女を保護できるなら安いものだ。それに…)
犠牲が自分一人で済むなら…達哉はそう考えた。無論、やすやすと負けるつもりはない
達哉(明日辺りには最深部へ行けそうだ)
野営に向いた場所を見つけ、明日のために英気を養い、眠った
―翌日
少し遅めに出発し最深部を目指す達哉
後発のためになるべくシャドウを惹きつけ、倒していく
昨日よりも攻撃が激化している。最深部はもうすぐのようだ
小半時を経て、ついに最深部へ到達した
達哉(……)
一応須藤に警戒しながら扉をくぐる…
まず達哉の目に飛び込んできたのは気を失っているのか、倒れ伏した久慈川りせだった
すぐさま駆け寄り脈をとる。……どうやら無事のようだ
『周防…達哉…!』
突然名前を呼ばれ、ハッとして声がした方を向く
そこには気色の悪い色のした女性的ラインを持つ巨大な人型のシャドウがいた
シャドウが続ける
『特異…点の…男…。お前ハ、危険だ…。深淵ニ魅入らレた…男…』
壊れたレコードのように不協和音のする声音で達哉に語りかける
達哉はその言葉に動揺したが、しかし落ち着いて久慈川りせを安全圏へ移動させる
達哉「俺を…知っているのか?」
シャドウを見据えて問いをぶつけた
シャドウの背後に何者かの、更なる影が見えた。恐らくそれが語りかけているのだろう
シャドウは答えない。睨み合っていると、達哉の目の前に人型の影が出来上がっていく
達哉「……ッッ!!?」
達哉は驚愕した、今まさに具現化しようとしている影…
それはかつて…
『お前が…相手にするノは…影…』
『お前を…滅ぼしウる…影…』
『…死ね……深淵に魅入られシ者…』
現れた影は『三科栄吉』の姿を形作った…!
戸惑いを隠せない達哉をよそに、シャドウ栄吉は攻撃を開始する
達哉が知る三科栄吉そっくりの姿、戦い方で達哉を襲う
達哉「…クッ!」
達哉も迎撃するが、いつもの精彩をかいていた
ギターケースから放たれる弾丸。記憶の通りに高い火力を誇り、守勢へ回らざるを得なくなる
なんとか弾幕をかいくぐり刀とペルソナとの連携攻撃を仕掛けるが、一歩踏み込めずあえ無くかわされる
心の迷いがそのまま攻撃の迷いに繋がり、鈍らせる
その隙を突きマシンの様に攻撃を浴びせるシャドウ栄吉
達哉は攻撃のさなか、目をシャドウに向ける。どうやら久慈川りせに手を出す様子はないようだ
そして確信する。自分に共鳴反応をぶつけてきたのはこのシャドウだと
達哉(味な真似をしてくれる…)
達哉「…すまん栄吉…。俺はまだ死ぬわけには行かないんだ」
親友に刃を向ける。すでに覚悟は出来ていた。そしてこれも『罰』なのだと…そう感じていた
弾丸をかわし、再び肉薄する。もう迷いは無かった。ペルソナの最大火力を叩きこみ、シャドウ栄吉を後退させる
達哉「そこは…俺の距離だ…!」
そこからさらに踏み込み、必殺の一撃を浴びせた
その時、シャドウと目が合った気がした。何の感情もなく、虚ろな窪みしかそこにはなかった
達哉は震えた…怒りに震えた…。だがそれはシャドウに向けられたものではなく、自分自身に向けられていた
自分の犯した『罪』に、そして今、自分がここにいる事実に…
斬り伏せたシャドウに変化が起こる。不定形に形を変え……
達哉「俺を…滅ぼす…」
その言葉の重みを実感した。恐らくあと『3回』これが続くのだろう…
達哉「……この『ツケ』は必ず支払ってもらうぞ……」
達哉「ペルソナァァァーーーーッッ!!」
そして、長い死闘が始まる…
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< to be continued... | |
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だいぶ駆け足なので、説明不足かもしれません。疑問に思ったことなどどうぞ
ネタバレしない範囲でお答えします
投下します
―同日 マヨナカテレビ 劇場内―
既に達哉が戦闘しているのか、少し前からダンジョン内が小刻みに揺れている
陽介「もうドンパチ始まったのか…?みんな、急ごう!」
千枝「でも…こうもシャドウが多いと…!この、邪魔!」
完二「オラァ!…きりが無いッスよ!先輩、どうします!」
悠「………。前進しながら戦うぞ!」
クマ「おお!カッコイイクマ!」
雪子「逃げるをかっこ良く言っただけだから」
陽介「よおし、戦略的撤退だ!続け―!」
敵中に『撤退』しながらりせの元へ急ぐ特捜隊
止まらない地下から感じる、戦闘の余波に不安を抱きながら
ダンジョン内を文字通り駆けずり回り、あっという間に最深部へ到達することが出来た
轟音が扉から響いてくる
悠「やっぱり戦ってるんだ。みんな、行こう!」
勢い良く扉を開け放つ
部屋へ押し入り最初に彼らが目にしたのは
シャドウを目の前にし、シャドウを拒絶する久慈川りせの後ろ姿だった
………
―あんたなんか、私じゃない!
久慈川りせの姿をとり、『久慈川りせ』と名乗る影
影は今の自分こそが本当の私だと語る。アイドルとしての久慈川りせ。自分を偽り、いつも何かを『演じて』いる…
否定した。それは本当の「私」じゃないと。影は聞く「それじゃあ、本当の私って何?」と…
答えられなかった。必死に「アイドルの自分」を否定していたのに、それ『以外』の私がいない…
影は再び言う「あなたは私」と
………
陽介「クソ!遅かったか!」
千枝「みんな来るよ!」
シャドウりせ出現と同時に先制攻撃を仕掛ける悠と完二
土壇場に遭遇したことが逆に功を奏し、攻撃に移ることが出来たのだ
シャドウ「アハハハ!当たらなーい!」
最高のタイミングでしたはずの攻撃が難なくかわされてしまった
それをフォローする形で雪子の魔法がシャドウりせを襲う
しかしこれも避けられてしまう
陽介「な、なんだ…!?おかしいぞ、不自然だ!」
悠「まるで、攻撃を読まれているみたいだ…」
シャドウ「あんた達の行動なんて、手に取るようにわかるのよ!」
死角からの完二の攻撃すら避けられ、反撃を受けてしまう
そこへ、血濡れになった達哉が吹き飛んできた
達哉「グッ…!」
悠「先輩!?」
裂傷や弾痕、打撲などが見て取れる
雪子が急いで回復魔法をかけた。軽い傷は塞がっていくが、大きいものはなかなか治らなかった
ふと、誰かがこちらに向かっているのを感じた。悠は達哉が飛ばされてきた先をみる
肩口まで伸ばした髪で、拳銃を二丁構えた女性だった
こちらに走ってきている!
ペルソナで迎撃しようとしたが、いつの間にか立ち上がった達哉に止められた
達哉「待て…。あれの相手は俺がする…。シャドウは任せた…」
そう言って女性の方に駈け出した
完二「先輩!ちょ、やばいッスよ!」
完二の悲鳴にハッとし、振り返る
陽介「こっちの弱点を的確についてきやがる!攻撃も当たらねえし、付け入る隙が、ない!」
メンバーはジリジリと押され始めていた
攻撃が当てられず、逆に恐るべき精度で弱点を攻められ、為す術がなかった
陽介「どうする相棒!このままじゃジリ貧だ。いや、一方的にやられるだけだ!」
関係ないですが、真・女神転生4発売おめでとうございます
悠「諦めるな!陣形を整えろ!要は『避けられなく』してしまえばいいんだ!」
傷付きながらも悠の言葉を聞き、陣形を敷き始める
囲むような形に出来上がる
悠「攻撃の隙を与えるな。そうすればこっちがやられる!」
悠の指揮通りに怒涛の攻撃を開始する
しかしそれでも相手に攻撃は当たらない。全て避けられている
悠(それでも…!)
押せば引き、引けば押し、常に攻撃を与え続けることでシャドウは攻撃の機会を完全に奪われていた
消耗は激しいが、戦いの主導権はこちらが握っていた
徐々に追い詰め始めた頃、シャドウに動きがあった
シャドウ「『解析』は終わったわ…」
シャドウりせから力が光の奔流として放たれた
シャドウの正面に立っていた千枝に光の奔流が直撃する
雪子「千枝ェェーーッ!」
千枝が攻撃を受けたことで雪子が動揺し、それまで盤石だった結界があっけなく崩壊する
そして次に狙われたのは、その隙をさらけ出してしまった雪子だった
一瞬の内に2人を戦闘不能に追いやられ、浮き足立つ
当然のように容赦なく残ったメンバーに攻撃を浴びせかけるシャドウ
今度は逆にこちらがさっきまでのシャドウと同じになってしまっていた
シャドウ「最強、無敵、素敵すぎぃ~~♪」
見た目と不釣合いの嬌声を上げながら、容赦なく攻撃していくシャドウ
…………
クマ(みんながあんなに傷ついてるのに、『また』クマは何も出来ないクマか…?)
クマ(そんなの嫌クマ!『友達』を見捨てるなんて出来ないクマ!)
クマ(例え無駄でも、『ボク』が何かしなくちゃダメクマ!)
クマ(そうじゃないと……)
クマ「『ボク』は誰でも無くなってしまうクマーーーッ!!」
…………
クマ「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
クマ「力がみなぎるクマァァ!突撃ーーーー!!」
雄叫びを上げながら盾になるように悠たちの前に躍り出た
攻撃を受けながらもなお突進を続ける
シャドウ「な、なんなのこいつ…ち、近寄るな!」
攻撃虚しく、クマがシャドウに着弾する!
爆発が辺りを震わせる。衝撃で劇場が次々に壊されていく
悠たちは間一髪の所で戦闘不能になった千枝達の壁になり、爆発の衝撃から守ることが出来た
また、爆発は達哉たちにも影響を与えた
衝撃で不安定になり、足場が崩れていく。そして、その好機を得たのは達哉だった
刃を袈裟懸けに滑りこませ、シャドウを両断する
達哉は動悸が止まらなかった。所詮影とは言え、かつて心を通わせた仲間を斬るのは強い覚悟が必要なのだ
肩で息をして、呼吸を整える。恐らくまだ終わりではない。次があるはずだった
予感は当たり、影が5度目の変形を始める。そして、今度は周防達哉へ姿を変えた
5度目ともなると、流石に指をくわえて変身を遂げるのを見ているわけにも行かなかった
完全に変身終えるまでに魔法をありったけぶつけた
達哉(目眩ましにはなるだろう…)
そのまま死角へ回りこむ
達哉(悪いが自分を相手にするのは少々厄介でな…終わらせてもらう…!)
アポロが誇る最大火力の『ノヴァサイザー』を放とうと、空間が停止する
停止した空間を滑るようにアポロは移動し、破壊の高熱球を膨張させる
達哉(殺った!)
達哉の目の端に鏡うつしにしたようにアポロが映る
同じように『ノヴァサイザー』へ移行している……シャドウ達哉のペルソナだ!
停止した空間を動けるのは、同じような力を持つ者だけ
つまり達哉の攻撃を予測し、アポロの『ノヴァサイザー』とカウンターになるように行動させたのだ
達哉(疲労で焦ったか…ッ!)
通常、このような必死のカウンターなど人間ならば滅多に選択することはない。失敗のリスクが大きいからだ
だが機械のように物思わぬ、精密なこのシャドウなら?
達哉は自身のシャドウを前に、そこまで考慮して行動しなければならなかったのだ
危機を前に達哉がとった行動とは!
土壇場でアポロの攻撃目標をシャドウのペルソナに向け、『ノヴァサイザー』を放った!
先に攻撃体勢に入っていたアポロが一瞬早く相手を攻撃する
そして…
達哉(この爆発を利用して…!!)
アポロと入れ替わるように、爆発の衝撃を利用してシャドウへ飛びかかる
勢いそのままに、頭蓋を刃が貫通しシャドウ達哉を打ち破る
5度目の敗北に、流石に影は形を維持できなくなりついに霧となって消滅した
さしもの達哉も丸一日戦い続け、疲労は極限に達していた
あちらもシャドウに打ち勝ったのか、雪子と陽介がこちらに駆けて来る
陽介「先輩、大丈夫ッスか!!」
雪子「待っててください、いま治療しますから!」
遠目に見ると、久慈川りせが自身の影と向き合ってるのが見える
どうやら、無事収まったようだ
………
本当の自分なんてない…?
じゃあ、クマは……
………
その一言はクマを根幹から揺るがした
空っぽの自分…みんなと違う自分…
記憶もなく、ただそこにあるだけの自分が不安だった
自分の存在意義、理由。クマはそれが欲しかった
だからいっぱい悩んだし、悠に相談もした
「自分」というものを探していた
それが今、影と対峙し影を認めた久慈川りせが否定のだ…
クマは生まれて初めて『心』の底から恐怖した。自分がしてきたことは無駄だったと
自分が追い求めた「クマ」なんて居ないと
それが呼び水となり、辺りをを漂う影の残滓を吸収し、巨大な新たなシャドウが出現した
シャドウ「そうだ…全ては無駄だ…無駄に終わるものを追い求めて、何になる…?」
悠「新手のシャドウか…!」
完二「あの姿…クマ…か?」
千枝「クマくんのシャドウ!?」
シャドウ「霧を往く者たちよ…お前たちの行動も無駄だ…真実へは到達できない…」
陽介「ナニィ…!!テメー、なんか知ってやがんな!?」
シャドウ「……。深淵に魅入られし者…生き残ったか…だが…今、引導を渡せばいい…」
完二「なに勝手にしゃべくってやがるッ!」
シャドウ「お前たちの行動は…今、その男と共に無に還る…」
りせ「ハァ…ハァ…気をつけて!仕掛けてくるよ!」
悠「りせ、無理するな」
りせ「…だ、大丈夫。サポート位なら出来る!」
シャドウ「抗うか……」
シャドウ「生に意味など無いと知るがいい…答えなど、どこにもないと泣くがいい…」
シャドウ「虚無へと逝け…」
完二「知ったことかよッ!ペルソナァァーーッ!」
巨体から繰り出される攻撃は、触れただけで大ダメージを負ってしまう
近接戦闘はなるべく避け、魔法による攻撃を主体に行なっていく
ある程度回復した達哉も戦線に加わった
全員怪我や疲労を抱えており、どの攻撃も決定打にかけたものになっている。少しでも手数が欲しかった
達哉が戦闘に加わるとシャドウクマは達哉を集中して攻撃する
それを逆手に取り、陣形を組んで迎撃する形を取る
巨体に見合うタフネスと攻撃力で苦戦しつつもなんとか戦えている悠達
りせ「気をつけて、何かしてくるよ!」
シャドウはどうやら力を溜めているようだ
次に来る攻撃を察して距離を取り始める
予想通りの強力な一撃が放たれる。それはまっすぐ達哉へ向かい直撃した
悠「周防先輩!!」
いくら傷がある程度治ったとはいえ、溜め込んだ疲労までは解消出来なかったのだ
少しでも悠達の負担を軽くしようと無理を押して出てきたが、この土壇場でついに倒れてしまった
この機をチャンスと、シャドウの攻撃が唸りを上げて達哉を襲う
陽介「やらせるか!」
千枝「行って!ペルソナ!」
それを阻止するべく総出で止めにかかる
シャドウ「その男は…いつか、お前たちを…滅ぼすことに…なるぞ」
完二「な、なにいってやがる……」
シャドウ「深淵に…魅入られている…」
悠「どういう意味だかわからないが、仲間を見捨てたりはしない。絶対に!」
シャドウ「………」
悠「陽介!援護してくれ!」
陽介「がってん!相棒!」
陽介の援護でシャドウの懐まで飛び込む悠のペルソナ
超至近距離からの魔法の連続攻撃に、タフネスを誇るシャドウも流石に怯む
その隙を逃さず雪子の強力な魔法が更に追い打ちをかけ、
後に続く完二と千枝によるツープラトンであの巨体をふっ飛ばした
トドメの一撃に悠と陽介のとっておきのダメ押しを叩きこみ、ついにシャドウは崩れ去った
達哉はそれを確認したあと気を失った
仲間を討ち、傷を負い、1日中戦い続け、そしてついに疲労が限界を超えたのだ
達哉は彼らの強さを認めた。心の強さを。だから安心して意識を手放せたのだ
それは初めて彼らにみせる達哉の弱さであり、厚い信頼の証だった
―次に達哉が目覚めたのは、どこかの布団の中だった―
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< to be continued... | |
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もし良ければ感想、質問などどうぞ
また読みにくい等あれば言ってください。なるべく改善したいと思います
追記
次回更新は未定ですが遅くなります
短い小ネタですが投下します
番外2
タッちゃんとクマ
―とある休日―
無事久慈川りせを救出することが出来、ささやかながらフードコートで祝賀会が行われることになった
クマも自分と向き合い、晴れて特別捜査隊入りを果たし、それも兼ねたパーティーだった
パーティーが盛り上がってきた頃、完二が
完二「そういや、林間学校から帰ってきてクマに問い詰めた事があったよな?」
クマ「?……そういえばそんなこともあったクマね」
完二「そん時にさ、周防先輩の特技が~って言ってたよな?」
完二「…どんなだった?」
クマ「ええ~~、どうしようっかな~…クマ、喉が渇いたかも…」(チラッ
完二「テ、テメェ…そういうことすんのかよ…」
完二「…………」
完二「……」
完二「チッ、しょうがねぇ。サイダーでいいか?」
クマ「やったぁ!流石カンジクマ!」
完二「ええい!抱きつくなっ」
完二「で?特技ってなんだ?」
クマ「奢って貰ってから言うのもなんだけど、タッちゃんに聞かないクマ?」
完二「な、なんか聞き辛いだろ。いきなり「特技ってなんですか~」って」
クマ「ん~そういうもんクマ?」
完二「そういんもんなんだよ。いいからほら。さっさと言えって」
クマ「……。スペシャルなモノマネ…」
完二「…あン?」
クマ「だから『スペシャルなモノマネ』クマ」
完二「モ、モノマ……モノマネっ?」
クマ「そうクマ。その上スペシャルがつく」
完二「…こ、好奇心が……」
陽介「おーい、何2人でコソコソ話してんだー?」
陽介「特技が…モノマネ!あのcoolな外見からは想像も出来ない…」
完二「そうッスよね!イメージ出来ないッスよね!あ~~~!!気になるーッ!」
悠「話しは聞かせてもらった」
クマ「おお!?センセイどこから」
悠「おれにまかせろー」
陽介「なんか嫌な予感が…。あ、おい待てって!」
レアステーキを盛んに頬張っている達哉に悠が突撃する
それを止めようとしたが、椅子から転げ落ちてしまい失敗に終わった
どうやら交渉は成功らしく、こちらに向かって親指を立てる悠
陽介「…時々アイツがわからない…」
完二「ていうか周防先輩の方もノリがいいのか、快諾したように見えたんスけど…」
悠の働きにより見事モノマネを披露して貰えることになった
久慈川りせ救出パーティーということで、達哉のモノマネは全員の前で披露された
―――
後に人は語る。バイクの後に工事音と
それから、このフードコートはモノマネの聖地として、ご利益を得るために訪れる『芸人』が後を絶たなくなったそうだ
今もまだ、稲羽市の名物観光場所として人気を博している…
だがそれは、また別のお話
―完―
参考資料
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2203286
見れない人用
http://nicoviewer.net/sm2203286
本編と関係ないネタですので、あまり深く考えないほうがいいです
投下します
―???ー
「ようこそいらっしゃいました…周防 達哉様…お久しゅうございます…」
青く静寂の満ちた空間に、かつて聞いた声がこだまする
声は続ける
「貴方様は因果の乱れによりこの地、この世界へ来てしまったのでございます…」
「何者かが貴方様の因果を歪めているのでございます」
「それは恐らく昏き闇のものの力によるものでございましょう…」
「いるのでございます…彼の者の加護を受けし眷属が…」
「まだ、力はそう強くはありませぬが、確実に…そう、確実にその触手を伸ばしているのです」
「お気をつけて下さいませ…達哉様…」
「フィレモン様から警告はなされました…私共はいつも、貴方様のお側に……」
声は聞こえなくなった
そして目が覚める…
達哉は布団の中で目が覚めた
まだ頭が覚醒していなかったが、見慣れない部屋に身体が警告を発して飛び起きる
飛び起きて改めて周囲、部屋を観察すると、何一つ変哲のない和室だった。旅館だろうか
「あ、気が付きましたか?」
戸が開けられ、女性が入ってくる。天城雪子だ
雪子「身体の方は?もう大丈夫なんですか?もう少し休まれても大丈夫ですよ」
達哉「…ここは?」
雪子「ここですか?ここは天城旅館です」
旅館…。よく見ると雪子は和服を着ている。部屋の雰囲気もあってよく馴染んでいる
達哉「じゃあ、ここはあんたの…?」
雪子「そうです。私の家です」
話を聞くとここは天城旅館。天城雪子の実家だそうだ
そして今いる部屋は奥にある従業員用の個室で、家族以外に住み込みで働く人が居るため、そういう部屋がある。ということだった
しばらくして、他の特捜隊のメンバーが入ってきた
陽介「先輩!よかった無事だったんスね!」
完二「あのあとぶっ倒れて、全然起きなくて、焦ったッスよ」
「うわー、タッちゃん心配したクマー!」
特捜隊の男子メンバーの中に見慣れない金髪で優男風の男が紛れていた
達哉「…クマ?」
千枝「あ、そうだ。周防先輩、クマ君なんか中から人はやしてこんなんなっちゃったんですよ!」
クマ「チエチャンこんなんとはひどいクマ」
どうやらここにいる全員がどうしてなのか分かっていないようで、誰も達哉に詳しい説明ができなかった
これはそういうもの…そういう認識で一応決着したらしい
悠「先輩に一つ話があるんです」
悠がそう切り出した
クマが人間化したことで、今までのようにはいかなくなり花村家がクマを保護することになった
加えて、達哉だけをテレビの中に居させ続けることが出来なくなったという
達哉「しかし、こちらに居着くことは…」
陽介「そこで俺達は考えました…どうすればこちらで違和感なく溶け込めるかを…」
陽介「そこで出た答えが、ここです!」
達哉「…は?」
千枝「つまり、遠方からこっちに引っ越してきたことにして、ここ天城屋旅館に住み込みで働かせてもらえばok!って事です」
千枝「おおっと!上手くいかないって顔してますね、でも大丈夫!ここ、田舎ですから!」
達哉「だが…」
悠「大丈夫です。もう2人で話しは通してあるので」
達哉「…………」
その後、どんな話をしたのか分からないが、随分手厚く迎えられ、アルバイトと言う名目で住み込みで働くことになった
どうやら雪子と千枝の後押しと、女性従業員の熱烈なひと押しもあったらしい
ともかく、ようやく人並みの生活を遅れることとなった達哉。様々な人の好意に感謝しつつ、その日は眠りについた
天城屋旅館で働くこと数日、達哉は平穏な日常を送っていた
あの日以来の、実に久方ぶりの心安らぐ日々。だが、達哉は夢で見た警告を思い出し、気を抜けずにいた
また、悠たちから聞かされていた『噂』…旅館で働く傍ら何度か耳にすることがあった
達哉(『ジョーカー様遊び』……間違いなく奴だ)
この噂の広がり方からすると水面下で既に遊びを行なっている人がいるはずだ
人が入れ代わり立ち代わるこの旅館は、噂話を聞くには持って来いの環境だった
噂と須藤が関わっている。達哉からもたらされた情報は特捜隊の意気を上げるのに十分だった
まず彼らは見回りを辞め、噂の出処を探すことを始めた。少しでも噂の情報が欲しかったのだ
ただ、大勢が知っていることである。出処をつかむのは困難を極めた
テスト勉強と噂調査に追われていたある日、事件が起こる
―稲葉高校教頭 諸岡金四郎 殺人事件
その報は瞬く間に学校中へ広まった。殺害の理由、方法、犯人…様々な憶測が学校中を飛び交っている
死因は連続怪死事件と『同じ』方法で、そして発見されている
特別捜査隊にも大きな動揺が走っていた
誰もが知り得ない情報と、唯一対抗できる手段を持っているのに嘲笑うかのように奇怪な死者は増えていく…
彼らに与えた精神的動揺は大きかった
そして真夜中…
―ボ、ボクが犯人だ…ヒヒ…捕まえてごらん?フヒ…捕まえられるのならねぇ?―
マヨナカテレビからの挑戦だった
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< to be continued... | |
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読みにくい、分かりづらい等ありましたらお気軽にどうぞ。なるべく改善いたします
投下します
深夜0時。達哉は割り当てられた部屋でマヨナカテレビを見ていた
達哉(これがマヨナカテレビ…か)
テレビから発せられる衝撃の内容を聞きながら、言い知れない悪寒を背筋に感じていた
テレビはいつの間にか砂嵐へ変わっている
達哉(テレビの中から宣戦布告か。須藤みたいな奴はいるもんだな)
達哉(見る人の運命の人を映すテレビだったか…。残念だがこれはそういうものではないらしい)
テレビを消し、明日彼らと相談する内容を頭でまとめながら就寝した
須藤とジョーカー様遊び、今の宣戦布告の意図、テレビに映った犯人のこと…
それらを紐解く真実は覆い隠され、辿り着くことを困難なものにするだろう
だが、彼らはそれらを乗り越え、必ず真実に到達するはずだ
真実へ向かおうとする意思は、決して滅びはしないのだから…
―翌日 放課後 周防達哉 個室―
達哉と雪子は部屋へ集まった特捜隊のみんなにお茶を振舞っていた
今日は折角ということで達哉の部屋で会議を行うとの事だった
陽介「マヨナカテレビに映ってたやつ…どこかで見たことなかったか?」
千枝「言われてみれば…うーん…どこだったかなぁ…」
悠「……!何ヶ月か前に学校の校門前で、天城越えしようとしたやつだ」
達哉(天城越え…?)
陽介「あー…あー!そうだ!なんかちょっとキレ気味だった奴!」
雪子「なんか、そういう思い出し方されるの…恥ずかしい…」
りせ「えー?なになに?天城越え?」
完二「あー……」
雪子「りせちゃんやめて。聞かないでっ」
達哉「…話を進めていいか?」
達哉「この際、アイツが真犯人かどうかということは今は置いておこう」
達哉「問題は何故今までと殺人の方法が違うのか…だ」
達哉「今までの手口は『テレビに映った人物』を何らかの手段で『テレビの中に入れる』という方法だ」
達哉「だが今回のはそのどれとも違う。殺害された諸岡金四郎はテレビに映っていないどころか、テレビの中にすら入っていない…」
達哉「そしてこれは以前一件だけあった事件と一致する」
悠「須藤竜也…」
完二「でも今度の件は自分が殺ったと言ってるんスよ!」
陽介「俺もそこが気になった。わざわざ他人の殺人を、自分がやったなんて言う人間なんて居るわけないしな」
雪子「テレビでもない…あの人でもない…じゃあどうやって?」
千枝「ここだけは共通してるよね。『死因不明』で『普通行けない場所にある死体』」
悠「まだ俺達の知らないなにかがある…?」
達哉「そしてもう一つ。昨夜のマヨナカテレビの宣戦布告の意図だ」
悠「捕まえてみろっていうアレですか?意図って…」
達哉「今まで沈黙を保っていた犯人なのに、今回は自己主張が激しいと思わないか?」
一同、とくに最初から事件に関わってる悠、陽介らは昨日のマヨナカテレビの違和感に気付いた
陽介「言われてみれば…今まで水面下で誰にも悟られずにやってきたのに、今回は犯人宣言まで…」
悠「しかもマヨナカテレビから…」
達哉「今回のは何から何まで例外だらけだ。だが、あいつが犯人だろうとそうでなかろうと…」
達哉「…何かが分かるはずだ」
完二「そうッスよ!自分から何かを知ってるっつー雰囲気漂わせてんだ、難しいこと考えずにとっとと捕まえてゲロらせりゃいいんだ」
悠「それで本当に犯人だったら万々歳だ。情報収集して早く乗り込もう」
特別捜査隊の懸命の情報収集のかいあって、2~3日後にはマヨナカテレビへ行ける準備が整った
恐らく今までにないほどに過酷な行程になると予想し、ほぼ一日掛けて攻略できるように休日を選択した
ボイドクエスト侵入当日、集合場所まで行こうとして達哉は須藤の気配を感じた
達哉(!?……須藤、このタイミングで…)
達哉「天城、すまんが少し遅れる。みんなは先に行くようにと言っててくれ」
雪子「え!?あ、周防先輩!」
そういって、共鳴反応を辿りながら達哉は走り去った
―稲羽市 外れ―
達哉(この辺りのはずだが…)
突然の襲撃に備え、身構えながら辺りを警戒する
その時、突如辺りに霧が立ち込める
達哉「これは…」
違和感を覚え、おもむろに例のメガネを掛ける
メガネから見た周囲は霧などかかっておらず、普通の風景だった
「えらく焦ってるじゃねぇか…え?おい」
達哉「須藤!」
霧の奥から須藤竜也が姿を現す。醜く異臭を発する怪物を引き連れて
達哉は姿を確認するや否や、放たれた矢のように須藤へ鋭い一太刀を浴びせかける
それを横にいた怪物が盾となり、受けた
須藤「いいぞぉ!その目!…ヒャハ!」
達哉は転身して周囲の怪物へ魔法を放つ。しかし…
達哉「何ッ!?」
燃え盛る炎の中から無傷の怪物が次々と這い出てくる
須藤「テメェのために特別にあつらえた奴らだ…」
須藤「死ぬまで付き合ってもらうぜッ!」
達哉「クッ!」
近づいてきた怪物にペルソナの拳を叩きつけた。どうやら打撃は通るらしい。怪物はぐしゃぐしゃに潰れ、消えていった
達哉(だが、この数は…)
倒しても倒しても次々と出現してくる怪物たち。どうやら須藤を倒さない限りこの状態は続くようだ
達哉(これならどうだ!)
群れ寄ってくる怪物たちの中心に、『ノヴァサイザー』を撃ち込んだ
空気が割れ、地面が弾け飛び、強烈な爆風が発生した
『ノヴァサイザー』で生じた衝撃に怪物たちは吹き飛ばされていく
流石に無傷ではないものの、致命傷を追わせることは出来なかった。しかし、狙いはそれではない
『ノヴァサイザー』を撃つと同時に怪物たちに背を向け、須藤へ向かって走っていく
そのままの勢いで刀を須藤へ振り下ろした
須藤「チィッ!」(あの囲みを突破だとッ)
僅かの差で避けられてしまったがそのまま更に踏み込み、返す手でもう一太刀を切り込む
須藤のペルソナに阻まれてしまったが、大きく後退した
ペルソナを呼び戻した達哉は間髪をいれず、『ヒートカイザー』で退路を阻む
須藤「コノ、図に乗るんじゃあないッ!!」
互いのペルソナが激突する。組み合いになり、拮抗状態に陥った
須藤「あの囲みを突破したのは焦っちまったが、勝った!後ろを見なァッ!」
達哉の背後には、怪物たちが衝撃から立ち直り徐々に包囲をせばめていた
須藤「テメェはもうあの囲みから出ることは出来ねぇぜ!ジワジワなぶり殺してやるッ!」
須藤「ヒャハ!ヒャハハハハハハハ!」
達哉「……」
達哉「…須藤」
達哉「貴様はここで殺す」
須藤「ヒャハ!…テメェ、何言って…?」
達哉「覚悟はいいか?俺は出来てる」
瞬間、空間が停止する
そして、組み合ってるペルソナ『アポロ』の掌から超高熱の火球が放たれた
至近距離で『ノヴァサイザー』を発動させたのだ!
2柱の間で炸裂する破壊の高熱球は両者を完膚なきまでに叩き伏せた
本体の2人も無事では済まない。ペルソナからのフィードバックに加え、炎と熱と衝撃の余波が彼らを襲った
須藤「グウ……ォォォォォ……ッ!」
かろうじて受け切ったのか、須藤が即座に撤退を始める
達哉「逃すかァァッ!」
炎と衝撃の間をすり抜けるように逃げる須藤へ肉薄する
そして…
……………
達哉「ハァ…ハァ…」
既に霧は晴れていた。後に残ったのは、周囲で未だ燻っている火と、えぐられた地面だけだった
達哉(必殺の一手……逃したか…)
達哉(だが、それよりも何故このタイミングで仕掛けてきた…?)
達哉(俺が奴を見逃せないのを知って…)
達哉(………)
達哉「やられた…離間の計か!」
達哉(何もかもがイレギュラーだらけだった今回のマヨナカテレビ…
俺を絶好のタイミングで誘き出した奴の行動…)
達哉(本命はマヨナカテレビの方だ…ッ!)
傷ついた身体を用意していた回復薬である程度癒し、達哉は急いで特別捜査隊の後を追った
最悪の事態にならないことを祈って…
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< to be continued... | |
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あれがおかしい、これが変や質問などどうぞ
投下します
―マヨナカテレビ ボイドクエスト―
達哉(間に合ってくれればいいが…)
須藤の離間の計により、大幅に遅れてマヨナカテレビへ侵入した達哉
シャドウを蹴散らしながら足を早めていると、どこからともなく声が聞こえてくる
『相棒気をつけろ!仕掛けてくるぞ!』
『ペルソナッ!』
既にシャドウと交戦状態に入っているようだ。これはその声だろう
それが達哉を更に焦らせる
達哉「くっ!どけッ!」
恐らくこの聞こえている声も、須藤が一枚噛んでいる
自分が敗れた際に、達哉へ精神的プレッシャーを掛けるための
一見冷徹に見える達哉の真の性格。抑えつけられた激情、誇り高き精神
周防達哉は友を見捨てない。達哉の性質をよく知っているからこその罠だった
『完二君避けて!』
『やらせるかぁッ!』
『うわあああぁぁーーッ!』
達哉はシャドウに足を取られ、なかなか思うように進めないでいた
そうしている間にも刻々と戦況が変わりつつある
達哉(……手段は選んでられないか。だが、通るか…?)
達哉(もたもたしていられない。手遅れになる前に、試してみるか)
恐らくダンジョンは中程を通り過ぎた辺りか、突如達哉は足を止めた
達哉「『アポロ』!」
ペルソナを召喚し、地面へ向けて手をかざす
達哉「『ノヴァサイザー』ッ!」
なんとそのまま『ノヴァサイザー』を発射した!
熱波が頬を撫でる
轟音と炎が収まり、後にはポッカリと地面に空いた大穴が残った
達哉「どうやら成功したらしいな」
そのまま階下へ降りていく
だが、さしもの達哉でも短い間隔でそう何度も『ノヴァサイザー』が撃てるわけではない
後何発余裕を持って撃てるだろうか
…………
2回、3回と立て続けに床を粉砕していく
達哉(他の魔法を全く使わなければ後2発くらいか…)
達哉「だが、着いたか」
扉を開け、部屋に入る
まだ戦闘は終わっていないようだった。しかしこちらが優勢をとっており、まもなく決着がつくだろう
陽介「任せたぜ!相棒!!」
完二「やっちゃって下さい!先輩!」
千枝「いっけーー!鳴上くん!!」
悠「……ペルソナァッ!!」
悠のペルソナがシャドウの核と思われる場所を的確に貫いた
敵シャドウが悲鳴を上げて崩れ去っていく…
達哉(杞憂だったか…?)
入り口から犯人が影と対峙するのを見守る達哉
…………
美津雄「な、何なんだよお前らァ!」
シャドウ「…………」
陽介「…1つだけ聞く。お前が天野アナから続く事件の犯人なのか?」
美津雄「ハ…は…そ、そうだよ、オレだ。こ、殺したのはオレだ!」
完二「…そうかよ…やっぱテメェかッ!」
千枝「ち、ちょ!完二くんお、抑えて…!」
雪子「なんで?なんで私達をテレビの中に入れるの?」
りせ「そうよ!あなたに殺される謂れはないわ!」
美津雄「ハハ…?ヒャ、は…?……な、何を」
ゴブリ…。美津雄の口から大量の鮮血と何者かの「手」が伸びている
美津雄「ガボ…!?…!!…!!?」
「…………」
悠「なにッ!!?」
陽介「な!?うわあああぁぁーーーッッ!!」
何者かはゆっくりと美津雄の口から手を引き抜く。背後に立っていたのは
影美津雄「これは呪いだ…。身の丈に合わない願いを望み、殺人という『穢れ』を負ったものに対する…」
影美津雄「呪いだよ」
完二「バ、バカな!シャドウは倒したはず!?」
影美津雄「我は真、唯一無二なる真…。オレはついに俺になった」
ミツオ「例を言うよ、ありがとう。そして…
「もう死ね」
ミツオからペルソナが呼び出された。その姿は醜く、不浄で、穢れていた
悠「な!?ペルソナ!!」
身体の反応よりも驚愕が勝り、防御が遅れた
…………
達哉は眼の前で起きたことが信じられなかった
ミツオが呼び出したペルソナ、それによく似たのを知っていたからだ
そして理解した
達哉(ジョーカー様遊び、須藤竜也、共通点のない殺人、穢れ、イレギュラー…)
達哉(そういうことか…そういうことなんだな…?)
達哉(貴様達はまた繰り返すというのか…!)
ゆっくりと動き出すミツオに焦点を当て、一直線に駆け上がる
攻撃をまともに受けて倒れている悠達の間に割って入る
ミツオ「……知ってるぞ…俺はお前を知っている…」
達哉「………」
達哉「いくぞ…」
言うやいなや絶妙のタイミングで刺突を繰り出す
それを穢れたペルソナが遮る
……………
悠「う……くっ…。みんな、無事か…?」
仲間を見て、動けているのは自分と完二と千枝だけだった
完二「いてぇ…クソッ、何が起こってやがる」
千枝「私達以外気絶してるみたい…」
悠「…周防先輩が戦ってる。とりあえずみんなを、安全圏まで運ぼう」
千枝「雪子…。…うん」
達哉はなるべくこちらへ近づかないように戦っているようで、徐々に遠のきつつある
傷ついた身体を魔法と道具で癒しながら、倒れた仲間を安全な場所まで引っ張っていった
千枝「あいつ…一体何なの…?あたし達、シャドウを倒したんじゃなかったの?」
完二「分かんねッスよ、俺だって。そ、それに、アイツ犯人のヤローを…」
千枝「い、言わないで…ッ」
完二「あ、す、スンマセン…」
悠「…俺達も手伝おう」
完二「そうッスね……ビビっちまっててもしょうがねーか…」
悠「得体の知れない相手だ、きっと協力すればもしもの事態でも対処できる」
悠「里中、陽介達を頼む」
千枝「わ、私も行くよ!」
悠「…足、震えてる」
千枝「あ!その、これは…」
悠「みんなの事を護ってくれ。任せたぞ」
完二「頼んだッスよ、先輩!」
千枝「…うん」
今、魔法をそう簡単に撃てない達哉は徐々に追い詰められていた
そして敵のペルソナから漏れ出てる瘴気が周囲を汚染しており、長引けば長引くほど不利になっていってしまう
敵の能力が未知数なため、ここぞという時まで魔法を温存しているのが完全に仇となっていた
それでもまだ優位に立っていられるのは、今までの戦闘経験と、相手の「ペルソナに振り回されて」戦うという点にあった
ミツオ自体は異常な怪力を除けば脅威になり得ない。殴り合いの喧嘩すら経験がないのだろう
だが問題はペルソナにあった。凄まじい火力と広範囲でこちらを圧倒してくる
達哉(厄介な相手だ…)
無尽蔵に吐き出される魔法をかわしながら、どう攻めるべきか思案していた
悠「ペルソナ!」
完二「ペルソナッ!」
比較的軽傷だった2人が達哉の援護に駆けつけてきた。戦況は一気に攻勢へ傾く
それでも3人とも手負いの身だ。やはり長引けば不利になるだろう
達哉「俺が奴を殺る。援護は任せた」
大勢を崩した今こそが最後の好機と、達哉を中心に攻撃を絶え間なく行う
右、左、正面と囲むように攻撃を加え、動く暇すら与えない
ミツオ「コ、このぉぉぉ……!」
ミツオのペルソナが奇妙に蠢く…
ミツオ「アアアァァァァァァァァァーーーーーッッ!!」
苦し紛れの咆哮か、ミツオは耳障りな雄叫びを上げた
それと連動してペルソナも力を放出しようと動き出す
完二「やらせるかよォォッ!!」
悠「いけぇッ!!」
攻撃を阻むために両者のペルソナで、ミツオの穢れたペルソナを貫く
達哉「終わりにしてやる…」
悠と完二は、アポロと入れ替わるように離脱し、必殺の『ノヴァサイザー』を直撃させる
穢れたペルソナは半壊し、ついにその動きを止めた
ミツオ「こ、こんな…バカ…。折角、オレは俺になったのに……」
悠「…お前は一体何なんだ?」
ミツオ「…久保美津雄…フフ…ふ…」
完二「久保美津雄はテメエが殺しただろうが。テメエはただの影だ」
ミツオ「影…?違う。俺は正真正銘、久保美津雄に『なった』んだ!」
達哉「……」
ミツオ「イヒ、ヒヒ…ヒ…。俺、は…もう、直ぐ死ぬ…」
ミツオ「だけど、まだ終らない…!既に、種子は、ばら…撒かれた!もう、止められない!」
悠「何を言ってる、何のことだ!?」
ミツオ「己の穢れで、身を滅ぼせ…穢れ人共…」
ペルソナが膨れ上がり、弾け飛んだ。そこから何かが溢れ出し、周囲を汚染していく
完二「うあっ!なんだ!?」
達哉「それに触れるな!急いで逃げるぞ」
汚染された所からダンジョンが崩れ去っていく。このままではどことも知れない場所へ行ってしまうだろう
4人は気絶している仲間をそれぞれ抱え、急いで脱出した
―マヨナカテレビ ボイドクエスト跡地 前―
先程まで存在していたダンジョンは、跡形もなく消滅した。後に残されたのは汚染された場所だけだった
完二「いったい…いったいどういう事なんスか…」
千枝「……」
悠「こんな事が…」
達哉「………」
その後エントランスへ移動し、倒れた者の気がつくのを待った
達哉はとりあえずその場を解散させ、詳しい話しは体力の戻った後日することを約束した
―2日後―
達哉はその後の顛末を彼らに説明した
ミツオがペルソナを使ったこと、そのペルソナがあのダンジョンを消し去ったこと、最期の捨て台詞を
そして、達哉が知り得た事を
達哉「これは推測だが、多分間違っては居ないだろう。聴いてくれるか?」
情報が全くないまま議論は進んでいたが、この一言に周りは静まり返る
達哉は頷き、話し始めた
達哉「久保美津雄は誰も殺しては居ない」
驚きの声が上がる。それが静まってから更に続ける
達哉「正確に言うと間接的に殺人に関わっている」
達哉「……ジョーカー様遊びという噂があるな?自分の携帯に電話をかけて、願いを言うとそれが叶うというあれだ」
陽介「!! ま、まさか…」
達哉「久保美津雄はジョーカー様遊びで諸岡金四郎の殺害を願った」
達哉「そして、もう一つの不可解な殺人事件。恐らくこれも誰かがジョーカー様遊びで殺すことを願った結果だ」
雪子「そんな……」
達哉「この噂には須藤が関わっていると、以前言ったな?須藤はテレビ側の人間だ」
達哉「2日前に遅れたのも、奴の襲撃があったからだ。その時、マヨナカテレビと同じ霧が発生していた」
達哉「後は、奴が発現したペルソナについてだ…」
達哉「これは俺が『元いた場所で起きたことに酷似している』」
完二「つ、つまり?」
達哉「ジョーカー様遊びと似たようなものが流行り、それを行ったものは『穢れ』を貯めこみ…」
達哉「自分自身が新たなジョーカーになってしまう…というものだ」
悠「そ、それじゃあ、あいつも…?」
陽介「ヤバイぜ!もうこの遊びは街中に広まっちまってる!」
りせ「そんな!?もう、止められないの…?」
達哉「………ないこともない」
千枝「え?」
達哉「始まったのも『噂』なら、もう一つ『噂』をぶつけてやればいい」
雪子「……そっか、ジョーカー様遊びは危険だっていう噂を流せば!」
陽介「少なくとも軽減できる!」
達哉「もう一つは、この噂の元凶の須藤を倒すことだ。もしくはその力の源を断つ」
達哉「…奴を殺るのは、俺がやる」
僅かでも希望を見出し、にわかに元気になる特捜隊の面々
早速どんな噂を流せばみんなに聞き入れられるかを話し合っている
彼らは本気だ。本気でこの事件を解決しようと闘っている
この先、様々な障害が真実を見えなくさせて行くだろう。それでも彼らは歩みを止めることはないのだ
それが、達哉には眩しく映る
彼らを助けたい。彼らを阻むものは俺が払おう。達哉はそう心に思った
邪悪な意思に負けることのない真っ直ぐな心が、今たしかにここにあった
今は夏真っ盛り
セミの鳴き声が、辺りに響く
第一幕 完
――――
――
堂島「こ、こいつは…」
足立「う、うへぇぇ……」
パトカーのサイレンが深夜の街に木霊する
「害者は久保美津雄……。あの…怪死事件の、容疑者…」
遺体は既に警察の手で電柱から降ろされていた
喉を強力な力で貫かれた痕があり、身体は血塗れだった
そして…
堂島「チッ!……ふざけた事しやがる…胸糞悪くなるぜ」
久保美津雄の胸がはだけている。そこから何かが見えていた
『 事 件 は 終 わ っ て い な い 』
警察の足音が慌ただしく増えていく…
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< to be continued... | |
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感想、批判などお気軽にどうぞ
ssの品質改善にご協力下さい
番外3
堂島遼太郎
堂島が護るこの稲羽市はいくつかの難事を抱えていた
一つは4月頃から続き、全く進展のないままの謎の怪死事件
もう一つは度々発生する濃霧
また、最近になって不可解な噂が爆発的に流布されている
マヨナカテレビとジョーカー様遊びだ
堂島(全く……浮ついてやがる…)
堂島は苛ついていた。進展しない事件にもだが、喩えようのない感覚が街から漂っているのだ
堂島(こんな田舎町に不釣り合いな事件だ。そりゃ不安にもなるだろうが…)
街で起こっていることを反芻していると、車の窓を叩く音が聞こえた
足立「すいません、遅くなりました」
コンビニの袋をぶら下げた足立透が車の外に立っていた
堂島「………」
袋を無言で受け取り、言っておいたアンパンを取り出して食べ始める
咀嚼しながらもまだ事件のことを考えていた
堂島(探偵王子…か)
堂島(お偉方も相当焦ってやがるな。なりふり構わずってか?)
堂島(プライドの塊の様な連中が、子供に協力を要請、ねぇ)
堂島(都合よく使おうってのが透けて見える…)
ゴクリ。牛乳を一口飲み込んだ
疲れている時はこの組み合わせが一番だ。先輩からもそう教わったし、長年やってれば結局この組み合わせに落ち着く
アンパンと牛乳を平らげて人心地がついた
この後も被害者の身辺調査を行う
何度行っただろうか。だが、勘が告げている。何かを見落としていると
それが堂島の足を動かしていた
ちょっと前にも巽完二が数日行方不明になっていた
当然調査したが、天城雪子の時と同じだった。つまり接点不明
堂島(そう言えば、あの探偵がいなくなる前後に会っていたらしい)
堂島(何か関係があるのか…?)
足立(堂島さん、こーなると長いんだよなぁ…。声かけて邪魔するのも悪いし…)
堂島が腕時計で時間を確認した時、無線通信から…
―事件発生 事件発生 場所は…―
車内が緊迫した空気に変わる
―事件現場―
住宅街。その外れの家屋で事件は起こった
堂島「こいつは……ッ」
足立「ウッ…!ゥゥ…これは…」
遺体の様子は散々で、血と肉片が辺りに飛び散っていた
というより『食い散らかされた』と言うべきか…
部屋は第一発見者の母親が入るまで全くの密室だった
被害者は高熱で会社を休んでおり、その様子を見ようと母親が部屋に入ったところ、既に…だったそうだ
堂島(こんな殺し方…人間に出来るのか…?)
強い力を加えられたのか、四肢がねじ切れている
腹部はえぐり取られた様になっていて、内臓は見当たらない
堂島は辺りの血溜まりを見回したが、内蔵は見つからなかった
下顎も強い力でえぐられたのか、顔の真横にへばり付いている
「な、何かの動物でしょうか…く、熊、とか…」
堂島は答えられなかった。答えたくなかった
動物はドアや窓を丁寧に開けて入らないし、ましてや痕跡もなく消え去らない
何よりここは住宅街だ。そういった動物が居そうな山や森はない
なら人間にはどうだろうか?
堂島「……バカなこと言ってねぇで、作業を始めろ」
そう言って作業を促した
みな戦々恐々と現場検証を開始した
堂島(俺は…今、逃げたのか…?)
堂島は恐怖したのだ。刑事として警察として、その答えを出すことを恐れたのだ
モヤモヤした気持ちを抱えながら、その日は仕事に追われ、署の方で泊まる旨を娘に伝えた
まだ一日しか経っていないが、ある程度の調査結果は出ていた
そのせいか、署内は異様な雰囲気になっている
足立「堂島さん…これって…」
堂島「う…む…」
昨日から頭のなかから離れない問いの答えが、この紙に現れていた
―死因不明―
堂島「バカな!こんな事、あるはずがないッ!」
堂島「あんなバラバラだったんだぞ!そんなバカな話があるか!」
足立「ちょ、ど、堂島さん!落ち着いて…」
堂島は怒りそのまま、立ち去った
―――
――
堂島「あんたか?担当官ってのは」
「…またですか。何度説明させるんですか?これで6人目ですよ?」
堂島「何人だって構わん。俺が納得する説明をしてもらおうか」
「…疲れてるんで簡潔に言いますよ」
「いいですか?この惨状を見れば誰もがこれが原因で死んだ…
ショック死や出血死…そう思うでしょう」
「ですが、違うんです。彼は『死んでから』引き裂かれたのです」
堂島「………」
「そう睨まないで下さい。例えばあの惨状通り外部からの衝撃で殺害されたとしましょう」
「そうすると当然痕が残りますよね?切り傷や打撲痕、あるいは筋肉の損傷、骨折…」
「あのバラバラの部分以外にそういった痕は見られませんでした」
堂島「それで?」
「…次は毒殺の線です。4月からの事件でそういった環境はありましたから、そこである程度調査出来ました」
「読んで知っているかと思いますが、毒物は検出されませんでした。勿論辺りの血からも調べましたが…」
「まあ、臓器がありませんから病死かもしれません」
堂島「だから、あの傷がそのまま死因になったかもしれんだろう」
「刑事の貴方らしくないですね。被害者の他に家族がいたんですよ?
いくら声を出させない様に工夫をしたって気付かないはずがありません」
堂島「……」
「分かっていただけましたか?」
堂島「……幾分か冷静になれた」
そう言って重い足取りで戻っていった
担当官の容赦の無い回答にかえって目が覚めた心地をしていた
そして、一つの事に気付く
堂島(死因不明…連続で起こっている…)
今まで起きた「4件」の連続殺人事件。それと今回の事件
堂島「全部…繋がってるとでも言うのか……?」
どれも人間業ではないこと、死因が不明であること
共通することはそれだけだったが、堂島は何かを感じ取っていた
それはただの勘でしか無かった
ただの勘だがそれでも堂島は確信していた
堂島(俺はようやくスタートラインに立てた、ってところか)
堂島(真実は目の前にぶら下がってんのに、それから目を逸らすとは…)
堂島は今までの自分を自嘲する
堂島(人間だろうと人間じゃあなかろうと…)
堂島(必ず追い詰めてやる…ッ!)
そうだ。事件は『連続』して起こっているのだ
そこに何者かの意思を堂島は感じた
誰かの意思がある限り、真実は存在する
起こっているのは自然災害でも疫病でもない。何者かが何らかの意図を持って事件を引き起こしているのだから
堂島(待っていやがれクソ野郎…)
この不可思議な事件と、その裏にいる犯人に真っ向から立ち向かう
警察として刑事として、愛娘菜々子を護る者として…
堂島は霧に隠れた真実に、戦いを挑んでいった
――堂島遼太郎 刑事の誇り 完
堅苦しい文ですが、お気軽にレスどうぞ
ペルソナのことを語っても構いません
最近流れが早くて直ぐに3桁台に落ちてしまいますね
投下します
第二幕
直斗(僕は……)
署内を慌ただしく動く人たちを眺め、ポツンと一人立っている
直斗(僕の推理は正しかった…なのに、何故…)
容疑者が固まり解決目前までこぎ着けたのに、その容疑者が殺害されるという失態を演じてしまった警察
ご丁寧に容疑者の胸に『事件は終わっていない』と切り文字が付けられるという明らかな挑発も受けている
もちろん、この事は公表されていない。だが、解決されていなければ市民にとってはどうでもいい情報だ
警察も焦っている…だからまた白鐘の力を欲していた
直斗(あれだけ鬱陶しいと態度で表していたのに、この掌の返しよう…)
当然直斗は再び協力した。自身の足で得た情報と推理。それをこわれるがまま提供した
だが直斗は理解していなかった。警察というものを。いや、人というものを
直斗(そしてまた……お払い箱…か……)
直斗の推理は正しかったのだろう。しかし荒唐無稽の域を出なかったのだ。例えそれが真実でも
その結果、今度こそ直斗は孤立してしまった。後に引き返せないほどに……
夏休みも終わり、残暑の厳しい中登校する苦しみ、それを味わいながら悠と陽介は学校へ足を進めていた
結局夏の間中何も起こらなかった
あったとすればジョーカー様遊びが更に拡散し、自分たちが流した反噂は効果を挙げなかったことくらいか
暑さにやられ、気分が弛緩しつつある特捜隊のメンバー
ちょっとしたものではあるが、事件は突然やってきた
完二「て、て、て、てんにゅぅーーッ!??」
度々現れては鋭い推理をぶつけてきた白鐘直斗。その白鐘直斗がここ稲葉高校へ転入してきたのだ
―放課後―
陽介「た、探偵王子か……なんか目付けられてるし、やりにくいなぁ」
完二「………」
千枝「でも凄い人気だったね、直斗くん。行く先々で黄色い声が上がってたよ!」
雪子「凄かったね。人が団子みたいになってて」
りせ「でもどうしよっか、これから」
完二「……………」
悠「目をつけられてても、やることは変わらない」
陽介「だな。ハイそ~ですか、でやめるわけにもいかないしな」
千枝「あー!それよりも、もう来週修学旅行だよ!どこ行こっか!」
今年は1、2年合同で修学旅行が行われるようで、この後は修学旅行の予定で話は進んでいった
―同刻 天城屋旅館前―
「貴方、ここ最近稲羽市に来た方ですよね?」
達哉の前に小柄な少年が立っている
手には許可証のようなものを持っている。どうやら警察関係者のようだ
達哉「……あんたは?」
直斗「白鐘直斗。探偵です。稲羽警察署の要請で協力しています」
直斗「失礼ですが、事情聴取させていただきます」
達哉「…分かった」
直斗「ありがとうございます。それでは、稲羽市に来られたのはいつ頃ですか?」
達哉「5月頃だ」
直斗「それ以前に訪れたことは?」
達哉「ない」
それから簡単な質問が4~5問続いた
直斗「……そうですか、ありがとうございます」
達哉「もういいのか?」
直斗「ええ、結構です」
あっ、と続ける
直斗「『マヨナカテレビ』の噂……知っていますか?」
達哉(こいつ……)
達哉「…ああ。知っている。仕事中でも聞くからな」
直斗「……試したことは?」
達哉「それと事件に何か関係があるのか?……試したことはない」
直斗は達哉の目を真っ直ぐ見据えた。心を探るような視線だ
直斗「……以上です。ご協力ありがとうございました」
そう言って踵を返し、去って行った
達哉(まさか、気付いているのか?……探偵ってのは凄いんだな)
胸中で驚きながらまだ残っている仕事を片づけに戻った
直斗が訪れてから特に何も起こらず、早々に修学旅行の日がやってきた
旅行中は以前同様達哉一人で、稲羽市の怪異を見張ることになっていた
そこにはクマも入っていたはずなのだが、早朝起きると手紙があり、彼らにくっついていく旨が書かれていた
そして更に数日が過ぎる。夏からずっと動きはなく、彼らが旅行中でもそれは例外ではなかった
一つあるならば、直斗にテレビのこと、ペルソナのことを喋ってしまったことくらいだろうか
だが、それはさしたる問題はないだろう。なにせ「テレビの中に入って超能力で人を救う」話だ
例え誰かに話したとしても作り話と思われるだけだろう
通常ならば
達哉「もし、白鐘直斗が既にテレビの事まで確証を得られていたとしたら?」
悠「え?」
達哉「ペルソナとテレビの事。その話で疑惑が確信に変わったとしたら?」
陽介「……そういえば以前から何かと目を付けられてたし…」
千枝「フードコートでも会ったことあるよね」
完二「じゃあ、カマかけられたってことッスか?それで思いがけない収穫があったと」
達哉「単なる噂話のマヨナカテレビと連続殺人事件…普通は繋がらないだろう」
達哉「だが、修学旅行で情報を得る前に俺を訪れ、マヨナカテレビのことを聞いてきた…」
達哉「実際あの時点でどこまで推理していたのか分からないが、その繋がりを疑ってたことは確かだ」
千枝「それじゃ、なんであたしらに聞こうと思ったのかな?」
陽介「んー…?やっぱり疑われてたのかもな」
りせ「疑われてた?」
陽介「完二の時やりせちーの時もばったり会ってたしな。しかもその後一緒につるんでるし」
陽介「犯人かどうかは分からないけど、事件と何らかの関わりを持ってる……とか思ってたんじゃね?」
陽介「あとはなんとなく勘…とか?」
完二「勘とかで行動しそうにないッスけどね」
陽介「うっせ。それこそ勘だよ」
――――
――
――
――――
それは誇りだったのか、それとも焦りだったのか
白鐘の名につきまとう矜持。直斗は憧れていた。早く「本物」になりたかった
だから警察の協力を幾度と無く受けた
「流石は白鐘!」事件を解決するたび、警察からそう言われて褒められた
その時、「自分は『間違って』いなかった」と、とても安心できたのだ
褒められることこそ多かったが、中には子供に現場をうろつかれたくない人や子供に頼ることを恥と考える人もいた
それは、言葉や態度にこそ出さなかったが、多くの警察関係者が思っていたことだろう
『目』は口ほどにモノを言ったのだ
――――
――
すべての疑問に確証を得た直斗
誰もが自分の言葉に耳を貸さない今、自分自身で証拠を掴むほかなかった
危険と分かっていても、賭けと分かっていても、直斗は後ろには退くことは出来なかった
それは「誇り」だったのか、それとも「焦り」だったのか……
自分でも分からぬまま、直斗はがむしゃらに行動した
ただ、自分の推理を信じて
彼らを信じて……
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疑問、質問、書式の要望等ありましたらお気軽に
乙
普通にパラレルだからじゃないの
罰のたっちゃん自体平行世界の存在特異点だし
質問ありがとうございます
>>166さんの言うとおりパラレルです
罪で作り上げた罰の世界、それ以外のp3、p4の世界に来てしまった…だいたいこんな感じです
なぜパラレル扱いなのかは、作中で明言されていないからです。あくまで匂わせる程度にはあるんですけどね
説明不足でしたね。すいません
30代の達哉、パオフゥや堂島さんみたいにカッコいいんでしょうね
投下します
あれから数日もしない内に、白鐘直斗は姿を消した
それはつまり、テレビの中へ入れられたということを意味した
真っ先に行動したのは完二だった
直斗が転入してきてからずっと様子のおかしかった彼だったが、今は元気を取り戻している
千枝「どうしたんだろうね?完二くん」
雪子「なんだかいつもよりやる気だね」
陽介「さあ…?最近様子がおかしかったし、その反動だろ」
ここは既にマヨナカテレビの秘密研究所の中だ
ヤル気を取り戻した完二の勢いに押され、かなり早い段階で白鐘直斗の追跡に出ることが出来た
――――
――
今より3日ほど前
白鐘直斗が、集まっている特捜隊に接触してきた
直斗の言い分はこうだった
「自分を囮にして犯人を誘き出す」
既にテレビに出るという条件を満たしており、どの道犯人と接触するのは時間の問題だっただろう
それを逆手に取り、事件解決に繋げるという捨て身の行動に出たというわけだ
直斗の言った通り、すぐに直斗はマヨナカテレビへ入れられた
そしてそれを確認し、即座に行動を起こしたのは巽完二だった
完二の行動は早かった
学校をサボり、ひたすら直斗の痕跡を辿れる品を探していたのだ
完二の行動力に触発されたのか、他のメンバーの活躍も目覚ましく、
今までにないほど早く物品が集まった
――――
そして現在に至る
千枝「なんか、鬼気迫るものを感じたね、あたし」
陽介「ああ。それに見ろよあの後ろ姿」
陽介がそっと指を差した先には、肩を怒らせて先頭を歩く、完二の後ろ姿があった
陽介「威風堂々とし過ぎだぜ。本当に同じ高校生か…?」
千枝「それを言うなら鳴上くんもそうだよ」
今度は完二の後を行く悠を指す
千枝「なんかこう…超然としてるというか、達観しているというか…
大人な雰囲気だよね。時々おかしくなるけど」
陽介「なにもしてなきゃ文句なしのイケメンなんだがなぁ……」
りせ「何かしててもセンパイはイケメンですよーっだ!」
千枝「あわっ!りせちゃん、聞いてたの!?」
りせ「センパイのくだりだけ。悪口が聞こえたから」
陽介「あー、別に悪口を言ったわけじゃないんだ。ただ、面白いよなーって…」
和気あいあいと談笑している
それに達哉はいまいち馴染めず、しんがりを務めていた
邪魔しないように適度に距離を保ちながら、周囲を警戒していた
今までのように、何らかの罠を警戒していたが、特に何もなく到着する
陽介「なんか、拍子抜けだったな。こんなに物々しいのに」
完二「けど、そのおかげでさっさとここまでこれたんだ。喜ぶべきッスよ」
完二と悠が同時に扉を開く……
達哉「ペルソナッ!」
陽介「ペルソナ!」
それぞれの魔法が飛来物を撃墜する
飛来物が爆発し、熱が頬をなぜた
雪子「な、何!今の!?」
りせ「敵の攻撃だよ!みんな、気をつけて!」
完二「うおおおお!押し切るぞッ!!」
敵の攻撃をペルソナで防ぎ、強引に中に押し入る
陽介「な、なにぃ!?ロボット!!」
ロンギヌス13「……」
x-2「……」
完二「!! 白鐘!」
槍と刀を持った二足歩行のロボットに守られるように立っている影直斗
それと面と向かって対峙している白鐘直斗がいた
恐らく影の脇に控えているロボットが攻撃したのだろう、直斗が驚いた表情をしていた
影がわざとらしく泣き声を上げながら、話しかけてくる
影直斗「え~ん、みんな助けてよぉ。いじめられるぅ~」
陽介「あ?……どいうことだ?これ」
影直斗「ボクも『白鐘直斗』なのに、この子は頑なに認めようとしないんだよぉ~」
直斗「当たり前ですよバカバカしい。僕はこんなに子供じゃありません
それにしても拍子抜けですね。いろいろ…あれな思いをしたというのに、あったのはこんな茶番だけ…」
流石にここまでは推理できなかった……そう一人つぶやく直斗
直斗「さあ、帰りますよ。いつまでもこんなところにいる必要はありませんしね」
直斗が一歩踏み出した時、両脇から槍と刀が振り下ろされ行く手を遮った
ギクリとして固まる直斗
直斗「ヒクッ……!」
影直斗「どこへいくの?……またそうやって、逃げるつもり?」
直斗「な、なにを……」
影直斗「言ったろう?ボクは君だって」
さっきとは打って変わって冷徹な表情になっている
自分の顔で、ここまで人を蔑んだ顔が出来るのかと、直斗は薄ら寒さを感じた
影直斗「本当の自分を誤魔化して、結局君に何をもたらした?
警察署での君を見ろ」
影直斗「最初は良かった……おだてられて、ちやほやされて…様々な人に必要とされていたね?」
影直斗「でも今はどうだい?今や君は署内の腫れ物扱い…だれも君の推理なんか聞いちゃくれない」
ゆっくりと近付いてくる
直斗「……やめ、ろ…」
影直斗「昔からそうだったよね?女子のグループにも、男子のグループにも嫌厭されて…」
影直斗「それから君は、今も被っているその仮面をつけ始めたんだ……
自分の心を偽って……」
影直斗「ほんとぉぉぉーは、寂しぃぃーのにねぇ……
アハハハハハ……!」
影直斗の哄笑は続いた
陽介(……タイミングを見て、白鐘を救い出すぞ)
悠(援護は任せろ。あのロボットは俺と……)
達哉(俺が引き受ける。槍と刀に気をつけろ。あれはペルソナ能力を封じる力を持っている)
完二(え、まじっすか!)
達哉(……当たらなければいいだけだ。当たったら直ぐに離脱しろ)
千枝(ちょっとヤバイっすね……アイアイサー)
影直斗「今も昔も君の居場所なんてない。あったとしても、今のようにいいように使われて…ポイ、だ」
直斗「やめ、て……」
影直斗「ねえねえ?なんでか分かるぅ?君が嫌われる理由ぅ……」
直斗「ぁ……ぅ…」
影直斗「嘘つきってさぁ、嫌われるよねぇ」
影直斗「本当は同年代の輪に入りたかったのに、自分の趣味趣向を馬鹿なにされたから、あいつらが子供だって言い訳してさぁ
白鐘の名前を盾にいつまでも逃げまわった挙句……」
影直斗「自分の性別まで嘘ついちゃうんだもん!」
完二「ああッッ!?なにぃ~ッ!!」
千枝「うっそぉ!?」
直斗「や、やめろぉッ!」
影直斗「本当のことだろう?女の子なのに、なに?探偵王子?ハハハ!……ハッ!笑えないよ」
影直斗「でも……
ボクは君だ。ボクだけは君を分かってあげられる……」
直斗「ち、がう!」
影直斗「違わないよ。本当の君はこんなにも弱々しくて…脆いんだ」
直斗「……そ、それ以上僕の顔と声で喋るんじゃあない!」
直斗「君が、君なんかが……僕であるはずがない!」
陽介「白鐘!それ以上駄目だ!」
完二「いや……違う。今必要なのは向き合うことだ」
影直斗「…………」
直斗「君は、僕じゃないッ!!」
完二「全部吐き出しちまえ。……後のことは任せな」
影直斗「そう……ボクは君じゃあない」
影がニヤリと笑う
シャドウは本性を表し、同時に脇に控えていたロボ二体も起動する
シャドウ「アハハハハハハハハハ……」
達哉「行け、巽。援護は任せろ!」
完二「オッシャアアアア!」
それぞれペルソナを呼び出しシャドウへ立ち向かう
達哉「鳴上、一体は俺がやる……」
そう言って達哉は槍のロボット ―ロンギヌス13― へ向かって行った
シャドウと対峙する完二には陽介と雪子が
刀のロボット ―x-2― と対峙する悠には千枝が、それぞれ援護に着いた
達哉が一人で相手になる理由、それは彼の元いた場所で特に因縁が深かったからだ
だがそれ以上に、ロンギヌス13が所持する槍、「ロンギヌスコピー」が厄介だった
槍自体のリーチも脅威だったが、オリジナルが持っていた能力
『傷付けば治らない』
を警戒したからだった
かつて戦った時はコピーにその能力は無かったが、今度の相手はマヨナカテレビで生まれたものである
万が一ということがあった
ロンギヌス13から放たれる弾丸を、円を描くように避けつつ距離を詰める
達哉(何度も戦ってきた相手だ。攻略法はわかっている……)
弾を撃ち尽くし、装填のために僅かに攻撃が止む
そのわずかの隙に、達哉は魔法を放った
達哉(誘爆しろ…!)
装填の隙を補おうと、ミサイル口が開いた
それに合わせるように、発射口に魔法が吸い込まれていく
バンッ!
発射口ごと装甲を吹き飛ばされるロンギヌス13
そして大きくよろめいた
達哉(x-2と同じく搭乗者は居ないか……)
本来のロンギヌス13は搭乗者がおり、手動で操作していたが
逆にx-2は無人機で、aiによって制御されていた
達哉(流石にそこまでは再現できなかったか)
足の関節に刀を突き立て、行動力を奪う
だがそこは流石にメカだった
人では行えない方向から、カウンターのように槍を突き出す
達哉「クッ!」 (浅かったか!)
間一髪で槍を避ける
達哉もしたたかだった
避けた体勢のまま、ロンギヌス13の比較的脆い部分である脇腹に、
ペルソナの拳を叩きつける
踏ん張りの聞かない体勢で思い切り殴ったせいか、
衝撃でお互い反対方向へ吹っ飛んでいった
達哉(どちらも効果が薄いか……)
受け身を取り、今度は小細工無く一直線に相手へ走り出した
ロンギヌス13も機械独特の奇妙な立ち上がり方で、即座に体勢を整えていた
達哉が迫るのを確認するや否や、残った兵装で一斉射撃を敢行する
そのどれもを刹那の見切りの如くスレスレで避け、あるいはペルソナで防いでいく
そして……
達哉「これで……ッ!!」
ズダンッッ!
左足で地面を思い切り踏み抜いた
刀を右肩で溜め、踏み込みと同時に刺突を放った
達哉「終わりだッ!」
ガツッ!
先程殴った時に出来た、胴体接合部の亀裂へ斜めに刃を滑りこませた
そして剣先は中を突き抜け右肩へ貫通する
刀を引き抜き、出来た穴にペルソナの拳を突っ込む
拳から容赦なく魔法を放ち、魔法が内部で炸裂した
爆発とともに上半身が消し飛んでいく
――――
千枝「くぅ…!か、硬すぎっ…!」
悠「だけど効いていないわけじゃない。比較的脆そうな関節を狙うんだ」
千枝「わ、わかってる、けどっ」
近寄れば斬撃、離れればミサイルとマシンガン
初めて戦う相手に2人は攻めあぐねていた
千枝「こう…攻撃が厚いと、近寄るのも難しいよ!」
2人がしゃべっている間も攻撃が止むことはない
徐々に追い詰められていく
悠「こうなったら……」
千枝「え?なに?」
悠「里中!任せた!」
ダッ!と走り去る悠
千枝「え?え?え~~~~!?う、うそぉぉ!!」
一人になったところに集中砲火を受ける
集中砲火を受け慌てふためく千枝
もはや攻撃もままならない状態だ
そこに…
悠「力技だけど……」
壊して持ってきたのだろうか?
この部屋の巨大な扉を抱えて走ってきた
悠「くらえェーーーーッ!」
巨大な扉をペルソナを駆使して勢い良く投げつける
x-2「!!?」
突然の巨大な飛来物に、aiの反応が遅れたのか、ギリギリの所で刀で両断する
そして、両断した扉に影が2つ……
悠「ようやく、懐に入れた……」
千枝「動き、止めさせて貰うよ!」
ペルソナでx-2の右足を同時に攻撃した
持った刀で二の太刀を繰り出すも、それよりも早く倒れてしまう
以心伝心!
今度は同時に、刀を持つ右の肘関節を攻撃して破壊した
更に返す手で、魔法を、突き出た発射口にお見舞いする
同時に放った魔法が炸裂し、内部が破壊されたのか、完全に機能を停止した
悠「フゥゥ~~……」
緊張から開放されて、大きく息をする
千枝「ハァ~……途中で逃げちゃったかと思ったよ」
悠「ごめん。あれしか思いつかなくて」
千枝「ううん。でも、助かったよ。ありがとね」
お互い謝罪と謝辞を述べ合ってると、あっちのロボットを倒したのか、
達哉がこちらへ向かってきていた
達哉「……大丈夫だったか?」
悠「はい。そちらは?」
達哉はちょっと焦げ目のついた裾を見せつけ、
達哉「…少し焦げた」
――――
りせ「だめっ!早くて捕捉できない!」
3人で陣を組み、その上りせのサポートまで受けているのに、シャドウを捉えることが出来ずにいた
アタッカーである完二は既に多大なダメージを受け、倒れるのも時間の問題だった
陽介「クッ!このぉ……大人しくしろ!」
雪子のペルソナと挟み撃ちに攻撃しても難なく避けられてしまう
シャドウ「ハハハハハ!すっとろいね!」
シャドウの攻撃が上空から降り注ぎ、陽介達の陣形を揺さぶる
その攻撃を真正面から受けながら、完二はシャドウへ突撃する
完二「オルゥァァァアアアアッッ!!」
ペルソナの豪腕が唸りを上げてシャドウに振り下ろされる
まさか、攻撃を食らいながら反撃に出るとは思わず、間一髪の所でシャドウが回避する
完二「ボケッとしてんじゃねぇぞッ!」
シャドウが回避したと同時に魔法を広範囲に撒き散らした
直撃こそしなかったが、ようやく決定的なダメージを与えることに成功した
陽介「ナイス、完二!」
シャドウ「こ、このぉぉ……!」
警戒したのか、今まで以上の速さで舞い飛び、ますます攻撃が当たらなくなっていく
りせ「こ、このままじゃあジリ貧だよ……!」
雪子「どうすれば……」
完二「先輩方……一つ、策があるッス」
陽介「策ぅ?」
完二「はい、ただ……一か八かの賭け…ッスけど」
雪子「……わずかでも打開策が欲しいの。聞かせて」
――――
シャドウ「へえぇ?今度は君が相手?」
雪子「………」
シャドウ「…誰が相手でも、僕の速さを捉えることは出来ないよ」
雪子「やってみなくちゃあ、わからないわ!」
魔法を連族でシャドウに浴びせかける
それを不規則な軌道で避けていく
シャドウ「遅い遅い遅い遅い!」
高速のヒットアンドアウェイで雪子を翻弄する
雪子は痛みに悲鳴を上げそうになるが、グッと堪えた
雪子(完二くん……)
――――
陽介「魔法を合体させる?」
完二「……一人であいつを捉えるほどの攻撃は出来ねぇ」
完二「だけど、2人の魔法を合わせれば…!」
雪子「確かに……賭け…」
完二「組み合わせるのは、俺の魔法『ジオダイン』と…」
完二「花村先輩の魔法『ザンダイン』……」
完二「そして……」
口ごもる完二
陽介「完二、お前本気か!」
雪子「……いいよ。私が『囮』になるよ」
強く言い切る雪子
陽介は止めようとしたが、雪子の表情を見て、意志は固いと知った
完二「すんません…でもこれしか…」
雪子「大丈夫、任せて。……失敗、しないでね」
――――
完二(恐らく、コレが最後のチャンスだ……)
完二(しくじるなよぉ……巽完二ッ!)
攻撃魔法の合体
言うのは簡単だったが、練習も失敗も許されない
その緊張感が完二と陽介を包んでいった
魔法を同じ出力、そして出せるギリギリまで威力を上げて、ぶつける
その際に生じる魔法の「散らし」を利用してシャドウを捉える……これが作戦だった
魔法の出力調整は、りせの能力で補佐してもらい、調整していく
その時間は雪子が囮になり、稼ぐ
陽介(今まではより強い威力を心がけてきたが……意図的に威力を調節することなんてなかったから…
む、難しい!)
焦り
雪子一人で戦わせているという思いが、2人を焦らせ、結果調整は上手くいっていなかった
りせ「2人共!焦らないで!……完二!強すぎる、もっと弱めて!」
久慈川りせは冷静だった。この中の誰よりも冷静だった
それは自分の役割をよく理解していたからだ
もし、自分が焦り、2人の調整がうまく行かなければ一人で戦っている雪子だけでなく、
完二、陽介も危険に晒してしまうことに繋がるからだ
りせは思った
りせ(あんなに嫌だった自分を偽る事が、今こんなところで役に立つなんて……
まるで、ライブ会場のステージの上にいるみたい…)
久し振りに感じる、一時は忌み嫌った極限のプレッシャー
一度は逃げ出したあの環境が、今3人の命を救おうとしていた
そして――
りせ「2人共ッ! 今ァッ!!」
雪子と交戦していたシャドウに、2つの力が迫っていく
それが何なのかを理解した雪子は、ペルソナで防ぎながら即座に撤退していく
シャドウ「何をするのかと思えば……そんなのに当たるわけ無いだろう?」
シャドウはいつも通りにヒラリと避けた
はずだった
シャドウの背後で衝撃が発生する
暴風が稲妻をまとい、ところかまわず暴れまわる!
シャドウ「こ、こ、これはッ!?」
咄嗟の事に反応できず、容赦なく風雷がシャドウを飲み込んでいく
――――
暴風雷が収まった時、全てが終わっていた
達哉達はそれを遠くから眺めていた
千枝「勝った、の?」
悠「たぶん…」
遠目に人二人が対峙している
恐らく直斗と影直斗だろう
千枝「直斗くん、ちゃんと向き合えるかな……?」
悠「……きっと、出来ると思う」
向かい合っていた片方は光となって消え、
もう片方に降り注いでいく……
悠「ほら」
千枝「はぁ~~……良かったぁ…」
疲れか安堵か、その場にクニャクニャと座り込んだ
悠は千枝に手を貸し、三人は立役者の完二達に近寄っていった
もう、周りから聞こえる不気味な機械音は、聞こえて来なかった
それから数日が過ぎた
検査入院から開放された直斗を待っていたのは、同じ秘密を共有する『仲間』だった
それが直斗には嬉しかった
掛け値なく本当の自分と接してくれる…彼女にとってこれほど心安らぐ事は無かった
同じ秘密を共有するということは、同じ事件を追う仲間でもあるということだ
直斗は特捜隊の呼びかけに応じ、命がけで得た情報を提供した
結果は犯人こそ分からずじまいだったが、手段は判明した
それは、自分たちと同じように「テレビと使って行う」というもの
人一人簡単に入れることが出来る 「大きめのテレビ」
それを運搬することが出来る 「移動手段」
そしてそれらを使っても 「不自然と思われない種類の業種」
直斗が身を呈してもたらした情報は、彼らを大きく進ませる事となった
また、特捜隊のみが知る情報も直斗へ伝えられた
須藤竜也、ジョーカー様遊び、類似する殺人事件
直斗「そのことなら僕も知っています」
直斗「テレビでは公表されていない殺人事件もいくつかありましたし」
直斗が言うところによると、「電信柱での事件の後に必ず不可解な猟奇殺人事件が起こっている」ということだった
あまりに気味が悪く、凄惨なため、テレビ報道を自粛しているそうだ
直斗「みなさんの話を聞く限りでは、この事件もどうやら一連のものと関係がありそうですね」
陽介「知らなかった…そんなことがあったなんて……」
完二「一体、この街はどうなってるんだ…?」
――――
立て続けに起こる不気味な事件
立ち向かっても、立ち向かっても、見えてくるのは複雑に絡み合った事実のみ
確実に浸透しつつあるジョーカー様遊び。拡大を防ぐために流した噂は効果を上げていなかった
ましてや堂々と「自分はジョーカー様遊びをやった!」とは誰も言っていない。誰もがやった事実を隠している
相手を失脚させるため、自分を美しくするため、憎い相手の復讐……
もし自分がやったことがバレたら、すぐに仕返しがされる……
その不安が彼らを沈黙させた
そしてまた発見される不可解な遺体
それと同時にもう一件……公表されない、凄惨な殺人事件が発生する
テレビとは無関係に起こる殺人事件に怯む自称特別捜査隊
にわかに増え始める殺人。蝕むように広がる噂。人々を覆う不安
特捜隊は無力を感じながらも、自分たちに出来る事を全力で行うために一歩ずつ確実に歩み始める
破滅の音を聞きながらも……
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< to be continued... | |
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次はもう少し早めに投下したいですね
お疲れ様でした
このSSまとめへのコメント
続きまってます
最後に撃ったのってリンケージマハザンダイン?
同じ女神転生派生系列の魔法だけど。
罪罰の方にも似たような合体技あったらすみません。
最後のやつそもそも陽介ザンダイン使えたっけ?
ガル系とザン系って別物じゃね?
罪罰では
ガル系→疾風
ザン系→万能
4は
ガル系→存在しない
ザン系→疾風
な筈
シリーズ通して
ガルは疾風
ザンは衝撃(罪罰は衝撃属性が撤廃のため万能にカテゴライズ)
P3以降は万能はメギド系のみ、ザン自体が撤廃されてる
なんで※3が正解