春香「いつからだろう」 (986)
春香(いつからだろう、私が転んでも誰も反応しなくなったのは。いつからだろう、亜美と真美がいたずらをしなくなったのは。いつからだろう美希が居眠りをしなくなったのは。いつからだろう、皆が変わり出したのは。いつからだろう、仕事場の雰囲気が変わったのは…)
私自身、いつしか場の空気に圧倒されてしまい、以前の私と少し変わってしまった気がする。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1399546938
春香「お、おはようございます」
亜美真美「おはようございまーす」
雪歩「春香さん、お茶入りました」
律子「よし、全員揃ったわね!」
春香「え?わたしが最後ですか?」
仕事場の雰囲気が変わってから、皆変わりはじめ、集合時間に対して早く集まるようになった。
私自身も以前より早めに来るようになったけれど皆の方が早いみたい。
律子「今日は次のライブに向けての最初の全体練習よ。皆分かってるわね?」
全員「はい!」
律子「よし、じゃあ移動しましょうか」
伊織「全く…やる気あるの?私2時間前には集合してたのに」
やよい「すいません、1時間前には来てたんですけど…」
春香「え?やよいちゃんそんなに早く来てたの?」
やよい「はい!、最初の全体練習なので気合い入れないといけないかなーって」
春香「へー、すごいね!」
やよい「でももうその頃は皆集まってました」
春香「え?」
あずさ「ちょっと言いずらいとこもあるけど、皆早めに来てるんだから考えてあげてね」
春香「は、はい…」
あずささんも以前のようなおっとりさは無くなり、常にニコニコしていた顔も今では緊張感のある表情になって一緒にいる私まで緊張してしまう。
そんななか、やよいちゃんは相変わらずな元気さを見せていて、少し765プロの雰囲気についていけなくなっていた私にとって助けになった。
場所は、以前私がライブ前に休んだ時のライブの練習をしていた時と同じ場所だった。
律子「じゃあ早速1から合わせて見るわよ!」
音楽がなりだし、私はそれに合わせてリズムをとる。
次のライブは、私がセンターになっている。
美希のダンスは相変わらずキレがあってすごいと思う。雪歩や、やよいちゃんもダンスには普通についてこれるようになっている。
アリーナライブを成功させたんだもん!
今になっては当たり前だよね!
でも、なぜかその事に私は寂しさを感じていた。
律子「はい、じゃあ一旦休憩するわよ!春香、センターなんだからもうちょっとしっかりしなさい。動きずれてたわよ。」
春香「はい、すみません…」
周りを見ると、みんな休憩という雰囲気ではなく真剣に動きのチェックをしている。
まるでそこにはかつての皆の雰囲気は無かった。
春香「千早ちゃん!」
千早「春香?どうしたの?」
春香「千早ちゃんってさ、すっごくダンス上手になったよね!前は歌ができればーなんて言ってたのに」
千早「あたりまえよ、ダンスもできないで歌だけやろうなんて考えが甘いわ」
春香「そ、そうだよねえへへ…」
千早「…春香、どうかしたの?」
春香「え?いや、なんでもないよ!練習がんばろうね!」
律子「皆ちょっといい?初めてにしては上出来だけどまだすこしムラがあるから手拍子でいくわ、わかったー?」
全員「はい!」
律子「はい!じゃあ最初からいくわよ。ワン、ツー、スリー!ワン、ツー、スリー!………」
レッスンが終わった時はもう夕方になっていた。
律子「じゃあ明日も全体練習だから気合い入れていくわ。ビシバシ行くわよ!いい?」
全員「はい!」
そこに、うぇ~という声はもう聞こえてこない。
律子「はい、じゃあ解散!」
亜美真美「お疲れ様でしたー!」
真「雪歩、ちょっとお茶ちょうだい?」
雪歩「え?ここには湯のみないよー」
貴音「響、いつものあれを」
響「んー?わかったぞー!」
やよい「お疲れ様です!」
美希「はいはいおつかれなのー」
皆それぞれで話し、皆で集まるようなことは無い。どこか殺伐としている。
「ただいま!」「おかえりー!」
いつかのできごとが頭をよぎる。
団結…そう、あの時からそれが無くなった気がする
そう、あの時から…
今から2ヶ月前、アリーナライブが終わってから半年後のこと。
律子「みんなー!プロデューサー殿が帰ってくるわよ!」
春香「ほんとですか!?」
美希「ハニーがくるの!帰ってくるの!」
真「わっ!?美希、いきなり起きるなよー」
亜美「ここは一つ忘れたふりでもしてみようかねー」
真美「ですなー、兄ちゃん泣いちゃったりー?」
律子「やめなさい」
そこにはいつもの765プロの姿があった。
久しぶりにプロデューサーさんに会える!
みんなが半年振りに再開することに、わくわくしてる半面緊張しているのが見て取れた。
私自身もそうだった。
外で皆が待ってるなかプロデューサーさんは笑顔でやってきた。
P「みんな!」
半年もハリウッドにいたせいか、少し雰囲気は変わってるように見えたけど、いつものプロデューサーさんがそこにいた。
そう、765プロの姿があったはずだった。
P「みんな!ほんとに久しぶりだ!今日からまた皆のプロデューサーとしてやらせてもらう、よろしくな!」
亜美「んふぅふぅ~?兄ちゃん半年も亜美達に会えなくて泣いてたんじゃないのー?」
真美「そうに決まってるっしょー!兄ちゃん泣き虫だかんね!」
亜美「もぉ~しょうがないなー。ここは一つかまってあげますかー」
伊織「ふん!こんな頼りないプロデューサーなんかかまってあげなくてもいいわよ!」
真「もう、素直じゃないなー」
社長「おっほん!半年もご苦労だったよー、ハリウッドはどうだったかい?」
P「社長!それはもう勉強になりました!皆のためになることばかりで行った甲斐がありました!」
社長「そうかそうかー、それはよかったと思うよー」
美希「ハニーは美希がいなくて寂しかったはずなの!」
P「はは、まさか」
美希「…え?」
P「ハリウッドは皆すごい奴らばかりで驚いたよ。見てる俺も楽しくなった。お前らもあいつらに少しでも近づけるようちゃんと練習しような!」
全員「………?」
伊織「え、ちょっと」
P「半年振りだから皆がどれくらい成長してるか楽しみだ!久しぶりに皆のダンスがみたい!」
美希「そ、そうなの!ハニーのために踊ってあげるの!」
伊織「い、いいわ!踊ってあげるわよ!この伊織ちゃんが踊ってあげるんだから感謝しなさいよね!」
少し困惑しつつもその場は何事もなかったかのように流れた。
春香「いっくよー!765プローーー…」
「さぁ、今を輝け~夢を初めて願って~~~私のm@ster piece~」
誰もがプロデューサーさんにショーを見てもらえることが嬉しかった。
プロデューサーさんも笑顔で答えてくれるはずだった。
でもプロデューサーさんは厳しい顔をして、返ってきたのは厳しい返事だった。
P「……うーん」
P「お前ら何やってたんだ?」
春香「え?」
律子「え、ちょっプロデュー」
P「律子、ちょっといいか?」
その時の皆の顔を私ははっきりと覚えている。
それから765プロは少しずつ変わって行った。
律子「ワン、ツー、スリー!ワン、ツー、スリー!」
やよい「わわっ」
千早「ひゃ!」バタン!
律子「あーやっぱりそこが難し」
P「やよい!さっきから同じところミスしすぎだ!そこは最初は右足から移動だって言ってるだろ」
やよい「うぅーごめんなさいです…」
千早「ちょ、ちょっとプロデューサー」
P「千早も動きにキレが全くない。歌だけできればいいと思ってるのか?その歌も世界にはまだまだ通用しないんだ、分かってるよな!」
千早「は、はい」
伊織「ちょっとあんたさっきから言い過ぎよ!何様のつも」
P「伊織ももっとしっかりやってもらわないと困る、竜宮小町のキャプテンがそれじゃこの先やっていけない!」バン!
伊織「な、なんなのよ…」
P「いいか?お前らにはまだまだ実力がなさすぎる、もっと日頃から死ぬ気で練習するんだ!律子もそこのところ頼みます」
律子「で、ですが…」
P「それじゃ俺は用事があるのでこれで」ガチャ、バタン!
亜美「にいちゃんどうしちゃったのかなー」
真美「うん……」
やよい「わたし、やっぱり足手まといですかね…」
春香「そんなことないよ!ほら、もっと練習すればできるようになるよ!」
やよい「でも、何回やってもできないです…皆の迷惑になるから帰ります…」
伊織「ちょっとやよい!」
真「やよい!」
あまりにも変わってしまったプロデューサーさんの指導にみんな正直参りだしていた。
プロデューサーさんが変わったのは練習中だけじゃない。
亜美「兄ちゃん!これあげるー」
P「ん?どうしたってうぁ!」ガタッ
真美「うわわぁー兄ちゃんムカデのおもちゃにビビりすぎっしょ!」
亜美「ビビりな兄ちゃ」
P「何やってんだ!」バン!
小鳥「ぴよっ」
P「こんなことしてる場合じゃないだろ!何で何回言っても分からないんだ!」
亜美「え…に、兄ちゃん」
P「ハリウッドの奴らはあんなに引き締まってたのに、どうしてうちはこうなんだ、ったく!」ガタッ
貴音「何事かと思えばあなた様、少々言いすぎでは?」
伊織「そうよ!あんた最近おかしすぎるわ!」
P「なんでこうなんだ…どうしてこんなに差があるんだ!」
伊織「え…」
P「お前らには失望したよ、小鳥さん今日はもう帰ります仕事は家で済ませるのであとはよろしくお願いします」
小鳥「え、は…はい」
あずさ「あらら~やっと事務所に着いたと思ったんですがー。ここであってますかー?」ガチャ
P「お前もいい加減方向音痴どうにかならないのか?うんざりだ」ガチャ、バタン
あずさ「…」
伊織「なんなのよ…」
亜美「亜美、もういたずらやめる」
真美「……」
あずさ「…方向音痴は迷惑ですよね」
貴音「…カップラーメン5個食して参ります」
こうして皆変わっていってしまった。
時は現在に戻る……………
貴音「響、いつものあれを」
響「んー?わかったぞー!」
やよい「お疲れ様です!」
美希「はいはいおつかれなのー」
春香「……」
このままじゃいけない。分かっていても何もできない。私はリーダーなのに…
プロデューサーさん!
「春香がこの先どう成長して行くか楽しみなんだ」
「この先…?」
ある会話が頭をよぎる。
私がなんとかしなくちゃ!
気がついたら私は皆に話しかけていた。
「…ねぇ、みんな」
千早「わっほい!頭がわっほい!眠いから寝るお」
春香「千早ちゃんどうしたの?今日も少しずつ投下します。」
「それでさー」
春香「………」
ちょっと声小さかったかな?
春香「みんな!…ちょっといいかな?」
全員「…?」
声大きすぎたかな?
真「どうか…しましたか?」
春香「ちょっとこのあと皆で集まって食事でもしようよ」
とにかく皆でいる時間を作りたい
千早「春香?」
貴音「はて、何故ゆえそのようなことを」
雪歩「あのー、ライブに向けての気合い入れとかですか?」
響「それなら自分、今日ミスしたところあるしいいと思うぞ」
春香「…え、いや」
そうじゃなくて…
伊織「ま、いいんじゃない」
美希「ミキももっと本気でやりたいなーって思ってたところなの」
あずさ「うーん…」
春香「あ…………」
真剣に考える皆から発せられる緊張感のあるオーラに私は圧倒されてしまった。
…私ってこんなに弱々しかったっけ?
みんなちょっとおかしいよ…
それとも私が?
真美「私もっと気合い入れて頑張りたいと思ってたし」
亜美「私もいいと思います、春香さん」
…春香さん?
そういえば何で皆敬語なんだっけ?
なんで?
春香「…はるるん」
亜美「え?」
やよい「あの、すみませんリーダー!家事があるので行けないです…」
春香「……」
やよい「あの…リーダー?」
やよいの声で私はふと我に返った。
春香「え?じゃ、じゃあ集まるのは今度にしようよーまたあした、練習がんばろうね!」
やよい「うぅ…すみません」
今日は疲れたな…
律子「あ、春香ちょっと明日のことなんだけどいい?」
私は明日のスケジュールの変更を知らされた後、1人で帰宅した。
「ワン、ツー、スリー!ワン、ツー、スリー!」
次の日も全体練習が夕方まで続いた。
律子「全体練習は今日で一旦終わりね、明日からはまた別々の仕事入ってるからそれぞれ確認しておくのよ、いい?」
全員「はい!」
律子「じゃあ解散!」
「お疲れ様でーす!」
「…響、少々頼みが」
「ん?いいぞー」
「千早さん、何聞いてるんですかー?」
「次のライブの曲よ。ダンスの振り付けの確認してるの」
春香「……」
どの会話にも入る気がしなかった私は1人で外へ向かう。
皆仕事熱心なのに私ってダメだよね。
でも職場が変わったかのようにも思える雰囲気に私は耐えられない。
皆今の状況を何とも思っていないのかな?何で平然としていられるの?
春香「ほんと人が変わったみたい」
ほんとに人が変わったみたい
敬語やさん付け、まるで別人になった皆。
…いつからなんだろう
春香「みんな、どこへ行ったの」
玄関を出た私は1人途方に暮れていた。
特にやる事もなかった私は、家に帰り着くと軽く食事を済ませ風呂に入り、すぐに寝床へ向かう。
春香「…寝よっか」
そのまま寝ようと電気を消しかけた時にふと飾ってある写真が目に映った。
春香「……あ」
アリーナライブの時に皆で撮った写真
気づけば私は泣いていた。
春香「みんな…プロデューサーさん」
昔の賑やかな職場が思い出される。
相変わらずいたずらをする亜美真美。
何かあっては穴を掘ろうとする雪歩。
その横のソファーで寝ている美希…
…どれくらい泣いただろうか、泣き疲れた私はいつの間にか眠りについていた。
ザーーーーザーーーー
春香「…ん」
雨の音で目が覚めた私は時計を確認する。
春香「…もう起きる時間か」
体が重い…あまり眠れなかったな
支度を終えた私は事務所へと向かった。
事務所に着いたわたしは建物の中に入ろうとする、けど…
足が重い…はは、こんなに事務所に入るのに気が重くなることあったっけ?
皆に会うのが怖い…けどとにかく今日も頑張るしかない
がんばる…そこまで考えて私はあることに気づいた
春香「…あ」
…今日私オフだったっけ
春香「あちゃー……」
一瞬そのまま帰ろうかと思ったけど、せっかくきたんだしとおそるおそる事務所に入った。
春香「おはようございます…」
中には誰もいなかった。
仕事かな?
とりあえず中に入った私はソファーに座り辺りを見回す。
春香「仕事だし誰もいないよね」
誰もいない空間…それが何となく心地よかった。
春香「誰もいないで安心するなんて…」
ハリウッドに行って変わってしまったプロデューサーさん。
いつの間にか変わったみんな…
プロデューサーさんに関しては最近全く会ってもいないし今どうなっているか分からない。
そもそも私が変わったのもいつからだろう。
プロデューサーさんが帰ってきてから私の中でずっと時間が止まっている気がする。
私だけが取り残されて…
あー嫌だ嫌だ。
何でこんなことになってるのかな…
もう限界…
その時だった
「………春香ちゃん?」
春香「あ……」
…この声
久しぶりに聞いた気がする。
春香「…小鳥さん!」
小鳥「今日はオフだったと思うけど」
春香「えへへ、なんとなく来ちゃいました」
仕事だと勘違いして来た、とは言わない
春香「…今来たんですか?」
小鳥「社長室の掃除してたの。最近散らかり気味でね…」
春香「…そうですか」
何となく察しは付いた
また不安が襲う、どんどん皆が変わっていく。
…………………………………
小鳥「はい」コトッ
春香「え?」
私、また考えごとしてたみたい。
マイナスな思考が差し出されたお茶によってかき消される。
小鳥「考え事?」
春香「え、いや…」
小鳥「…次のライブ、春香ちゃんセンターだよね」
春香「……はい」
小鳥「…いろいろ不安もあるかもしれないけど、春香ちゃんなら大丈夫よ!」
春香「……」
私に元気が無いのを見て気づかってくれているのかな…
でも今は前向きになれる気がしなかった。
プロデューサーさんが帰ってきてから皆いつの間にか私の知ってるみんなじゃなくなった。
この小鳥さんも私が知ってる小鳥さんだろうか。
…どうすれば
小鳥「…春香ちゃん?」
もう考えるのが嫌になった
春香「小鳥さんは」
小鳥「え?」
春香「……小鳥さんは、私の知ってる小鳥さんですよね?」
小鳥「…春香ちゃん?」
春香「ちょっと妄想癖が強いけどいつも温かくて優しく皆を迎えてくれる小鳥さんですよね!」
小鳥「は、春香ちゃんどうしたの!?」
そんな顔しないでください!
春香「何でもいいから妄想してください!」
何を言ってるのか自分でも分からない…
小鳥さんに失礼なのは分かっている。
ただ私の知ってる小鳥さんでいることを確かめたかった。
春香「小鳥さんは変わってませんよね?」
ただ一言、変わってないと言って欲しかった………けど
小鳥「妄想はしなくなったわ」
返ってきた言葉は重かった。
春香「なんで…」
もうここに私の知ってる人はいない。
春香「一体何があったんですか?」
春香「いつから皆変わってしまったんですか?」
春香「何で私の知ってる皆はいないの?」
春香「あの頃の皆はどこへ行ったの?」
春香「何で私だけがこんな思いを…」
春香「私を置いていかないで!」
春香「…こんなの、もう嫌だ」
わけが分からない…
もうダメだ
小鳥「…春香ちゃん」
春香「………」
もうダメだと思った
小鳥「……」
ダメだと思った………けど
小鳥「…よかった」ニコッ
春香「え?」
小鳥「春香ちゃんは気づいてくれたのね」
意外な返事が返ってきた。
千早「わっほいはわっほいよ!春香。今日はもう寝るお。読んでくれてありがとう!」
小鳥「春香ちゃんは気づいてくれたのね」
小鳥「実はここは私の妄想が具現化した世界なのよ」
とかだったら笑う
春香「千早ちゃんそれ気に入ってるの?今日も少しずつ投下します。」
春香「え…今なんて?」
小鳥「春香ちゃん、私は妄想はしなくなったわ」
小鳥「確かに私は変わったけど、春香ちゃんにとっての皆が変わったのとはちょっと違うわ」
春香「…どういう意味ですか?」
小鳥「そうねー…」
しばらく考えていた小鳥さんはやがて口を開いた。
小鳥「まず、変わったのは春香ちゃんの周りの人だけじゃないわ」
小鳥「春香ちゃん自身も変わったの」
春香「……え?」
私自身も変わった?
春香「私も変わったんですか?」
小鳥「皆と同じようにね…」
小鳥「でも今は元の春香ちゃんに戻ってるのかな?」
春香「………」
まだよく分からない
春香「あの、よく分からないです」
小鳥「春香ちゃん」
小鳥「…今から言うことは少し信じがたいことかもしれないけど落ち着いて聞いてね?」
そのあと、ここ最近のことについて小鳥さんは語った。
皆が変わり出した時と同じ頃に私も変わったこと。
私が変わってから、私は転ばなくなり無口になったこと。
皆が変わってから社長があまり事務所に顔を出さなくなったこと。
仕事はしているらしい。
そうやって小鳥さん以外は皆変わったこと。
それからその状況が2週間くらい続いたこと。
そして最近私だけがまた変わり始めたこと。
偶にだけどまた転ぶようになったこと。
口数は少ないけどまた喋り始めたこと。
そして今に至る。
春香「…そんなことが」
小鳥「覚えてる?」
記憶に無い
春香「覚えてないです」
小鳥「そう…よっぽど辛かったのね」
小鳥「皆プロデューサーさんが変わったことがショックだったんだわ」
春香「…………………」
「お前ら何やってたんだ?」
「そこは最初は右足から移動だって言ってるだろ!」
「失望したよ」
「うんざりだ」
なんとなく覚えている
小鳥「特に春香ちゃんの場合はプロデューサーさんに言われたことがとても辛かったんだと思うわ」
春香「言われたこと?」
小鳥「お前はリーダー失格だ」
春香「………」
確かに辛い
小鳥「私の目の前での出来事だったわ」
小鳥「その時からかしら、春香ちゃんが変わったのは」
春香「……」
小鳥さんの情報を元に状況を把握する。
プロデューサーさんが変わってしまったことにショックを受けた。指導も変わり、少しずつ不安やストレスが溜まっていき、言われたことはリーダー失格…
あまりにも変わった日常が辛くて私自身無意識に記憶を消していたのかもしれない。
…そんなことがあるのだろうか
小鳥「辛い現実に耐えるために無意識に自分が変わってしまった…」
小鳥「皆そのことに気がついていないんだと思うわ」
春香「…じゃあどうして私だけまた変われたんですか?」
いつから皆が変わったのかが分からないのは、自分も変わってしまい周りを見る余裕がなかったから。しかも私はその間の記憶がない。
それが本当だとしても私だけが周りの異変に気付いたことに疑問ができる。
小鳥「それは…」
小鳥「きっと、春香ちゃんだからよ!」
春香「え?」
小鳥「どんな時でも自分の事より他人のことを気づかう…」
小鳥「そんな春香ちゃんだからこそまた変われたんだと思うわ」
…私だからこそ?
小鳥「でもよかったわ」
春香「え」
小鳥「皆レッスンから帰ってくるごとに変わっていくんだもの」
小鳥「怖くて何もできなかった」
小鳥「…そんななか春香ちゃんがまた元に戻ってくれた」
小鳥「わたし何もできなくて…」
春香「小鳥さん…」
私と同じように小鳥さんも不安でいっぱいだった
皆が変わって自分だけが取り残された孤独の中で、自分の知ってる人がいる。
それだけで安心した。
春香「私だけじゃなかったんだ…」
それだけで救われたような気がした。
心に少し余裕ができる。
春香「あれ?」
思考が少し回ったところでまた疑問ができる。
春香「どうして小鳥さんはずっと周りが見えていたんですか?」
小鳥「え?」
小鳥さんも辛かったはず
小鳥「そうねー…」
少し考える仕草を見せ、話出した
小鳥「私はいつも事務所にいるからレッスン現場にはいなかったし、プロデューサーさんとはあまり話さなかったし…」
小鳥「その分被害がすくなかったから…かしら」
小鳥「最初は皆変わってしまって辛かったわ」
小鳥「たしかに事務所の空気は重くて辛かったけど…」
小鳥「皆の辛さに比べたらたいしたことじゃないって思ったの」
小鳥「実際に春香ちゃんはこうやって元に戻ったし、きっと皆も元に戻ってくれる」
春香「………小鳥さん」
春香「皆元に戻れますよね?」
小鳥「ええ」
春香「プロデューサーさんも元に戻れますよね?」
小鳥「ええ」
春香「私たちのこと嫌いになんかなってませんよね?」
小鳥「春香ちゃん」
小鳥「私はみんなのことを信じてるわ」
そう言って小鳥さんは
バタンッ…
その場に倒れた
千早「わっほいもちろんよ!今日はもう寝るお、読んでくれて感謝わっほい!」
春香「そっかぁー。今日も少しずつ投下します。」
……………………………
……………………………
……………………………
ストレスによる疲れが原因だったらしい。
病院の待合室で社長にそう告げられた。
小鳥さんが倒れた後偶然事務所に訪れた社長の的確な対応のおかげで、事は大きくならずに済んだ。
社長「命に問題はない、休めば回復するそうだが、まだ動くのはいけないらしい」
社長「しばらくは病院で安静にしていた方がいいと報告があったよ」
春香「そうですか……」
考えてみれば分かることだった。
プロデューサーさんの影響で皆が変わりだした頃からずっと1人で今の状況に耐えてきた。
まるで顔だけ似た別人の集団の中で1人黙々と仕事をして耐えてきた。
いつまで続くかも分からない状況に耐えてきた。
そんななか1人が元の状態に戻りだした。
久しぶりの親近感に心が落ち着き、同時に溜まっていた疲れが一気に溢れかえったんだろう。
夕方になっても小鳥さんは目を覚まさなかった。
小鳥さん…
大したことないなんて勘違いもいいところです
社長「音無君がこんなことになっていたとはねぇ」
社長「…彼の付き添いがあるからとはいえ、事務所にもっと顔を出して状態を確認するべきだった」
春香「…プロデューサーさんの付き添い?」
社長「彼の状態もある」
社長「前ほど酷くなくなったとは思うが…」
社長「できるだけ仕事現場には私も同席するようにしていてねぇ」
春香「………」
社長「………」
社長「今回の事にはとても責任を感じている」
春香「え?」
社長「彼をハリウッドに行かせたのは私だ」
社長「彼の判断に任せたが、止めようと思えば止めることができた」
社長「今でも私が彼についていながら不甲斐ない…」
社長「物事に関して1番責任があるのはトップの人間だ」
社長「私がもっとしっかりしていればこんなことには…」
春香「………」
そんなことないです
誰が悪いなんてことはない…
社長「音無君のこともある、これからはできるだけ春香君達のところにも顔を出そうと思うよ」
社長「音無君のことは私が引き受けるから大丈夫だ」
春香「社長…」
皆も無理をしているはず…
プロデューサーさんも…
これ以上皆を小鳥さんと同じ目に合わせたくない。
小鳥さんのがんばりも無駄にしたくない
また皆でライブを成功させたい…
私はひとこと、決意した
春香「私、がんばります!」
……………………………
……………………………
……………………………
春香「もう夜になってたんだ」
今日はもう帰宅したらどうかね?という社長の言葉に甘えて私は病院を後にした。
家に帰ろうと歩いていると体が軽いことに気づく
春香「あ、そいや事務所にバッグ置きっぱなしにしてたっけ」
取りにいかないと…
春香「こっから事務所近かったよね」
バッグを取りに行くために私は事務所に向かった。
…………………………
春香「ふぅ…ついたついた」
幸い近かったこともあり、あまり時間がかからずに事務所に着いた。
春香「誰か…いるのかな?」
階段を上がった私はまだ中が明るいのを確認する。
誰か仕事から帰ってきた?
今日夜遅くまで仕事ある人居たっけ?
いろんな疑問を抱えながら中に入る。
春香「こんばんわ…」ガチャ
そこにいたのは
「…春香か」
プロデューサーさんだった
千早「春香も言ってみたら?今日はもう寝るお!」
社長は天海くん呼びじゃなかったっけ?
ひとまず乙
P「………」
春香「………」
P「………」
春香「………」
…長い沈黙。
お互い目を逸らさないまま、このまま時間がずっと続くような気さえもした。
が、やがてプロデューサーさんは口を開いた。
P「明日の仕事の最後の付き添いは春香だったな」
春香「え?」
P「仕事が終わった後居残り練習だ」
P「」
誤爆しましたすいません。
>>82
すいませんミスです。脳内変換お願いします。
他の方も呼び方注意や、レスありがとうございます。
83はミスです、流してくださいm(_ _)m
どこに流せばいいー?
春香「わっほい!今日も少しずつ投下します」
>>86
とりあえず見なかったことにお願いしますm(_ _)m
春香「プ、プロデューサーさん」
パソコンを眺めていたプロデューサーさんはふと顔を上げて私に目を向ける。
P「こんな時間にどうしたんだ?」
春香「ちょっと忘れ物を…」
P「なるほどな…」
P「音無さんの件は聞いている、春香にも迷惑をかけてしまったな」
春香「いえ、そんなことは」
久しぶりに会ったのもあり、社長の言う通りプロデューサーさんの状態が以前に比べて少し良くなっているのが見てわかった。
社長、感謝します。
ハリウッドに行く前の、あの頃のプロデューサーさんを見たような気がして私は少し嬉しくなった。
P「ただ…」
P「何で事務所に居たんだ?」
P「今日は春香はオフじゃなかったのか?」
春香「そうでしたけど…なんとなくきちゃいました」
P「なんとなく?」
P「何をやってるんだ」
春香「え?」
P「お前にそんな余裕は無い、分かってるのか?」
P「そんな暇があるなら基礎トレーニングでもやるんだ」
春香「………」
何がプロデューサーさんをそうさせるんですか?
P「いいか、俺が今求めているのは練習量だ」
P「特に春香はリーダーで次のライブのセンターなんだ」
P「お前がそんなんでどうする」
春香「………」
プロデューサーさんに何があったのか分からないけど、本当はプロデューサーさんも辛いんですよね?
私、がんばります
プロデューサーさんの事も私信じてます
P「やっぱりお前にリーダーは無理だ」
春香「…!」
うっ…以前似たようなことを言われた気がする
いつかの出来事に頭が締め付けられる
春香「……」
P「もうライブまで2週間きっている…くそっ」
やっぱり私には無理なのかな?
でも諦めたくない。
さっき決意したばかりじゃん!
(春香ちゃんなら大丈夫よ!)
(私は皆を信じてるわ)
春香「私、がんばります」
プロデューサーさんにひとことそう言った。
P「いや、そうはいかない」
P「もう時間がない、リーダーを交代する」
春香「そ、そんな」
P「今からならまだ間に合うからな」
春香「何でですか!」
ここで私がリーダーを降りてしまったらダメな気がする。
何もかも終わってしまう気がする。
…そんなの嫌だ
またあの頃のように皆でライブを成功させる
今度は私が皆を…
P「お前にはもう任せられない」
春香「…嫌です」
P「!」
私はプロデューサーさんを真っ直ぐ見て言った。
春香「私はリーダーです」
P「………」
春香「………」
P「………」
春香「………」
…長い沈黙。
お互い目を逸らさないまま、このまま時間がずっと続くような気さえもした。
が、やがてプロデューサーさんは口を開いた。
P「明日の仕事の最後の付き添いは春香だったな」
春香「え?」
P「仕事が終わった後居残り練習だ」
P「いいな?」
春香「………はい」
私は小さく、でもはっきりと返事した。
……………………
……………………
……………………
春香「ふぅ…」
家に帰り、食事、入浴、一通り終わらせた私は寝る前に明日のスケジュールの確認をしていた。
明日は午後から仕事だ。
春香「仕事あるし、明日は朝から事務所に行ってもいいよね」
勘違いで事務所に行くなんて、自分でも恥ずかしい
(仕事が終わった後居残り練習だ)
春香「…………」
春香「リーダーとして認めてくれたのかな?」
ふと、飾ってある写真に目が止まった。
アリーナライブのときの写真だ。
春香「………」
…ポンッ
私は軽く頭を叩いた。
春香「居残り練習だってなんだってやっちゃいますから」
よしっと気合いを入れた私は、そのまま眠りについた。
……………………
春香「…ん」
春香「今日は晴れてるね」
目が覚めた私はカーテンを開け、外の様子を確認する。
今日は日差しがさしていて気分がいい。
春香「よぉーし、がんばるぞ」
支度を済ませた私は、事務所に向かった。
春香「おはようございます!」
事務所には誰もいなかった。
仕事…にしては早いような、私が早く来すぎたのかな?
そんなことを考えているとき、私を呼ぶ声がした。
「天海君」
社長だった。
春香「社長!」
社長「はは、昨日の今日だねぇ、元気そうで何よりだ」
春香「あの、小鳥さんは?」
社長「ああ心配ない」
社長「昨日あの後目を覚ましてねぇ」
社長「本人は大丈夫だそうだが、医師によるとまだ何日か休んだ方が良いということらしい」
社長「一通り皆の顔を見たら、また音無君のところに行くつもりだよ」
春香「そうですか…」
小鳥さんが目を覚ましたことを知って、私は安心した。
春香「昨日はありがとうございました」
社長「はっは、天海君も次のライブに向けて頑張ってくれたまえ」
私は荷物を置くと外へと向かう
社長「どこか行くのかい?」
春香「ランニングですよ、ランニング!」
外へ出た私は軽く準備運動をしてランニングを始めた。
一旦休憩です!
タッタッタッタ………
風が気持ちいい
自分でもびっくりするくらい気分がいい。
このままライブも成功するんじゃないか
そんな気さえするほど気分がよかった
「あ、春香さん」
走っていると声がかかった。
春香「亜美、真美…」
亜美と真美だった。
亜美「ランニング中ですか?」
真美「ファイトです!春香さん」
………………………
このまま上手くいくわけないよね
やっぱり2人の敬語には慣れない。
春香「う、うん…2人とも仕事頑張ってね」
亜美真美「はい!」
それでは失礼します、という2人を見送り私1人そこに残った。
……………………
春香「はぁ…」
何ともいえない気持ちでランニングを再開した私は、一通り周って事務所に戻った。
そのまま事務所に入ろうとした私にまた声がかかる。
「お…春香か?」
春香「響ちゃん…」
響ちゃんだった。
響「春香は午後からだったよな?」
春香「そうだよ」
響「まだ朝だぞ?」
春香「えへへ、ランニングしてたんだ」
響「そうなのかー」
響「自分と一緒だな!」ニコッ
春香「え?」
春香「響ちゃん今から仕事だよね?」
響「なんくるないさー」
響「自分、プロデューサーに言われて頑張るって決めたからな!」
春香「プロデューサーさんに?」
響「響チャレンジは絶対に成功しろって」
春香「え、響チャレンジ?」
春香「生っすかサンデー打ち切りになったよね?」
響「あれ?春香はまだ聞いてなかったのかー?」
響「1週間前に生っすかサンデーの再開が決まったんだぞ!」
響「それで自分どんなに難しいチャレンジでも絶対に成功しようって再開が決まってからランニング始めたんだ!」
響「自分絶対に成功して見せるから楽しみにしてるんだぞ!」
春香「響ちゃん…」
春香「うん、楽しみにしてるね!」
響「へへっ」
響ちゃんもがんばってるんだ…
私もがんばらなくちゃ!
さっきまでの疲れが吹き飛んだ気がした。
春香「でも、ライブの事も忘れないでね」
響「うぅ、忘れてないぞ」
春香「冗談、冗談」
それじゃ、と仕事に向かう響ちゃんを見送った私はソファーに腰掛け一息ついた。
千早「いけてるわよ春香。読んでくれでありがとう!今日はもう寝るお」
春香「うーんそうかなー?今日も少しずつ投下します。」
春香「いつも通りの響ちゃんだったな…」
春香「小鳥さん、皆変わったって言ってたけど響ちゃんはそんなに変わってるようには見えなかったな…」
ま、いっか
春香「………午後からがんばるぞ!」
……………………
……………………
……………………
P「とりあえずライブのダンスを踊ってみるんだ」
午後の仕事を終えた私は、プロデューサーさんと居残り練習をしていた。
カチッ
プロデューサーさんが機械のスイッチを押して音楽がなりだす。
♪~~~~~~~~
???ー????ー
春香「…」タッ
???ー??ー??
春香「…」タッタッタ
?????ーー??ーー
春香「…」タッタッ
P「…ストップ」
P「少し動きが速い、もうちょっとゆっくりだ」
春香「はい」
P「もう一回いくぞ」
♪~~~~~~~~
???ー????ー
春香「…」タッ
P「ストップ」
P「だから速いと言ってるだろ!」
春香「…はい」
そうしてハードな練習が長く続いた。
………………………
春香「はぁ…」トホホ…
プロデューサーさんハードすぎます。
練習が終わり事務所に着いた時には夜になっていた。
プロデューサーさんは自分の席に着くと、スケジュールの確認をした後何かをノートに書き始めた。
春香「何を書いてるんですか?」
P「なんでもない」
P「それより明日からライブまで全体練習だ。」
春香「………はい」
P「次リーダーとしてダメだと思ったら容赦無く降ろす、いいな」
春香「………」
ピリリリリ、ピリリリリ
P「ん?」
その時プロデューサーさんの携帯に電話がかかってきた。
P「社長からか…」
P「今日はもう帰ってていいぞ」
そういってプロデューサーさんは席を外した。
春香「………」
容赦無く降ろす…か
「もしもし、社長?」
「はい………はい…」
春香「あれ?」
さっき何書いてたんだろう
「それなら社長室にあるかと…」
「はい、わかりました」
ガチャ、バタン
春香「………」
間がさした私はノートを開いてしまった。
ペラ………ペラ………
○月○日
今日の付き添いは響と亜美と真美と…………
春香「………日記?」
そこには今日の出来事が書いてあった。
……春香はまだこういうところがダメみたいだ。まだまだ指導が足りない
春香「プロデューサーさん…」
ちゃんと私達のことをおもって指導してくれてたんですね。
嫌われていたわけじゃなかった…
それがとても嬉しかった。
いつから日記書いてるんだろう
最初のページに戻る
ペラ………ペラ………
○月○日
今日から765プロのプロデューサーとして働くことになった。カメラマンとしてアイドルたちの素顔を…………
春香「へぇ……」
私達のプロデューサーになった頃から日記書いてたんだ。
少し日記に興味が出てしまった私はどんどんページをめくっていった。
ペラ………ペラ…………
ペラ………ペラペラ…
ペラペラペラペラ……
○月○日
今日からハリウッドの研修が始まった。
春香「………!」
春香「………これって」
プロデューサーさんのハリウッドでの出来事
私は反射的に文字を辿っていった。
今日からハリウッドの研修が始まった。
俺を含め100人ほど研修に来ているらしい。
俳優志望など他の目的で研修に来ている人も含めるともっと増える。
気を引き締めないといけないな。
○月○日
今日は施設の案内やルール説明、その他もろもろ~~
春香「………」
○月○日
今日から本格的に活動が始まった。
通訳の人から話を聞いたが、やはりレベルが違う。
いや、通訳なしでも言葉はまだよく分からないが話す言葉一つ一つからもの凄く高い意識が伝わってくる。
○月○日
今日は本物のハリウッドの人達の演技を見ることができた。
映像で見るのとは全然違う。表情、目の鋭さ、動き、どれをとっても一流だ。
これはみんなにも見て欲しい。
春香「プロデューサーさん…」
私はどんどんページをめくった。
○月○日
今日は研修生を同じ研修に来たプロデューサーが担当するというイベントがあった。
俺が担当したのはアメリカ人だ。
言葉は分からないが、だいたいニュアンスで分かる。
しかし、少し冷たいな…緊張しているのか?
○月○日
今日も同じイベントがあった。今度はそれぞれが担当した研修生を指導してちょっとした競争をするらしい。
偶然にも俺が担当するのはこの前と同じ人だ。
○月○日
だいぶここの雰囲気にも慣れてきた。けど、少し周りが冷たすぎる気がする。
○月○日
おかしい、1人の研修生が目眩で倒れたが誰も助けようとしない。
俺が手を伸ばすとそいつは手を払って何処かへ行った。
周りにいた数人は俺を見て笑っていた?
なんなんだ。
○月○日
なんなんだこいつらは。まるでお互いが敵でしかない。
いや、それはそうなんだが関わりを持とうともしないのは少し寂しい。
○月○日
何かが違う気がする。
まるでお互いがお互いを蹴落とし合う雰囲気だ。
競い合うのとは違う。
誰かが怪我をすれば喜び、成功すれば僻む。
みんな、そうなのか…?
○月○日
○月○日
春香「あれ?」
次の日から日記が書かれていない
春香「もう終わりかな?」
ペラ…………ペラペラ
○月○日
あれから1ヶ月がたった。
春香「あ………」
文はそこで終わっている
春香「それだけ…?」
ペラ……ペラ…………
春香「あ……」
また何か書いてあった。
○月○日
嫌だ。
春香「……………え?」
ペラ………ペラペラ
○月○日
イヤダ
春香「……え」
○月○日
イヤダイヤダイヤダ
春香「ちょ、ちょっと…」
…なんなの?
一体何が
○月○日
アーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
春香「うっ………」
ペラペラペラペラペラペラペラペラ
耐えられなかった私は即座にページをめくった。
やはり掘られたのか・・・・
プロデューサーさん………
プロデューサーさん!
○月○日
ハリウッド研修が始まって3ヶ月。社長から連絡があった。
春香「………!」
研修の様子はどうなのか、体の調子は大丈夫か、いろいろ心配してくれているらしい。
あの子たちの為にも、キミの為にも今回の研修で思う存分学んでくれたまえ、か。
そうだった、俺がここに来たのはその為だ。
ここで頑張らないでどうするんだ。
○月○日
今日は~~~~~~
春香「……………」
パタッ…
ノートを閉じた私はそのまま事務所を出た。
春香「………」トボトボ…
………なんともいえない
春香「…………」
春香「プロデューサーさん」
何で平気な顔をして帰って来たんですか
辛いなら辛いと言っていいんです
私達のために自分を犠牲にしないでくたさい
春香「…ただいま」ガチャ
プロデューサーさんも必死に頑張っている。
春香「…ごちそうさま」
でも分からないんですよね、どうすればいいか。
春香「…………」ザーーーー
私達に失望したと言いながら本当は…
春香「………」
でも、やっぱりこんなやり方プロデューサーさんらしくないですよ…
カチッ
照明を消した私は眠りについた。
千早「ええ、私が保証するわ春香。今日はもうねるお!」
>>121
笑わせてもらいました
春香「私帰るね千早ちゃん。今日も少しずつ投下します」
……………………
春香「………」
すっきりしない朝だった。
春香「………」
一夜明けてだいぶ落ち着いた。
でも、冷静になればなるほど不安が大きくなる。
春香「……」ガチャ
支度を済ませた私は事務所へ向かった。
春香「………」トボトボ
雨が降るわけではない、でも晴れるわけでもない、一面の曇り空だ。
気分が優れないまま事務所に着いた。
春香「おはようございます」ガチャ
伊織「……」
貴音「おはようございます、春香」
春香「2人とももう来てたの?」
既に伊織と貴音さんが来ていた。
まだ集合時間には軽く1時間以上はある。
伊織「もうじゃないわよ」
貴音「……」ズズーッ
伊織「あんたが一番早く来ないでどうするのよ」
春香「……」
伊織「あの2人も一向に来ないし…」
伊織「これじゃ竜宮小町も一緒じゃない」
伊織「全く…やる気あるわけ?」
…どうしたの?
わからない…わからない
春香「…な、なんで」
春香「そんなに怒ってるの?」
伊織「は?」
伊織「あんたね…」
伊織「プロデューサーが帰ってきて最初のライブ、どれだけ重要なものなのか分かってるわけ!?」
伊織「新たな指導が加わって、気持ちを入れ替えないとやっていけるわけないでしょ!?」
春香「そ、それは…」
でも…
春香「…伊織は今のままでライブ成功すると思う?」
伊織「何が言いたいの?」
春香「おかしいよ…皆無理してる」
伊織「………」
春香「このままじゃ皆バラバラになっちゃう…」
伊織「………」
伊織「あんたが言いたいのはそれだけ?」
春香「え?」
伊織「あんたがそんなんだからダメなのよ」
春香「え?」
伊織「ちょっと甘えすぎなんじゃない?」
…甘えてる?
春香「じゃあ伊織は今の方がいいの?」
春香「このまま皆バラバラになってしまう方がいいの?」
伊織「バラバラってね…」
伊織「あんたみたいにウジウジされても皆まとまらないわ」
春香「バラバラな皆が作るステージなんか見ても、お客さんは楽しくない!」
伊織「ただの仲良しこよしが作るステージなんか面白くないわ」
春香「………」
春香「じゃあ、何で目の下に真っ黒な隈ができてるの?」
伊織「………」
春香「楽しい?」
伊織「もういいわ…」スタスタ…
春香「………」
春香「……はぁ」スタ…
私は力なくソファーに座った。
貴音「……」ズズーッ
春香「貴音さん…」
春香「朝からラーメンですか」フフッ
貴音「はい」ズズーッ
春香「…食べ過ぎですよ」
春香「…!」
貴音さんが食べているカップ麺の横に空になったカップが3つ重ねてある。
…ほんとに食べ過ぎですよ
春香「前より食べるようになりましたね?」
貴音「はて…」ピタッ
貴音「そうですか?」
春香「………」
春香「ねぇ、貴音さん」
春香「貴音さんはどう思う?」
貴音「……」
貴音「ふむ………」
貴音「わたくしにはどうすればいいかなどわかりません」
春香「………」
貴音「ただ…」
貴音「両者とも目的地を見失ってる、そんな気が致します」
春香「そっかぁ…」
春香「………」
その時事務所の階段を上がってくる音がした。
雪歩「おはようございます」ガチャ
春香「………」
伊織「………」
貴音「おはようございます、雪歩殿」
雪歩「えっと…お茶いれますね」トテトテ
貴音「……」ズズーッ
なんなんだろうこの雰囲気
雪歩「はい、どうぞ」コトッ
春香「……あ、ありがとう」
雪歩「おはようございます、春香さん」
春香「えっ?」
雪歩「挨拶聞こえてなかったみたいなので」
春香「あ、おはよう…雪歩」
雪歩「どうかしたんですか?」
春香「なんでもないよ」
雪歩「うーん…」
雪歩「今日からまた全体練習ですね」
………全体練習
ライブに向けての練習
皆でする練習
春香「雪歩…」
雪歩「はい?」
春香「雪歩は今の765プロをどう思う?」
雪歩「…え?」
雪歩「そうですね…」
雪歩「うーん…」
雪歩「ライブの練習で頭がいっぱいで…」
雪歩「よくわからないです」
春香「……」ズズ
雪歩「え、えっと」
春香「雪歩」
雪歩「はい!」
春香「これお湯だよ?」
雪歩「…………え」
ガサゴソガサゴソ…
雪歩「うわーー…」
雪歩「すみません春香さん、お茶っ葉入れ忘れました!」
春香「もう…」
雪歩「すぐ入れ直しますね!」トテトテ
春香「………」
(ダメダメな私は穴を掘って埋まってますぅ~)
春香「………」
雪歩「すみません、春香さん」コトッ
春香「雪歩、変わったね」
雪歩「え?」
春香「いつものはどうしたの?」
雪歩「いつもの?」
春香「ほら、あれだよ」
ガタッ
春香「穴を掘って埋まってますぅ~…って」
私はその場に立ってやって見せた。
雪歩「…はい?」
春香「私、あっちの方が雪歩らしいって思うな」
雪歩「えっと…」
雪歩「私、そういうの辞めました」
春香「え?」
雪歩「私いつも迷惑かけてばかりで…」
雪歩「今回のライブは練習とかいろいろ、もう足引っ張りたくありません」
雪歩「本気でやりたいんです」
春香「足引っ張ってなんか…」
春香「いや、でも雪歩らしくな」
雪歩「私らしいってなんですか?」
春香「え?」
雪歩「さっきからどうしたんですか?」
春香「…無理してるよ雪歩」
雪歩「無理も何もしてません」
雪歩「ただ…」
雪歩「私はただ頑張りたいだけで」
春香「じゃあ何でそんなに寂しそうなの?」
雪歩「………」
春香「春香ちゃん」
雪歩「え?」
春香「春香ちゃんって呼んでよ」
春香「もともとそう呼んでたんだし、歳一緒だし…それに、さんを付けるなら私の方が」
雪歩「で、でもリーダーに向かってそんなことは」
春香「雪歩」
春香「これは、リーダー命令よ」
千早「待って春香、わっほい!今日はもう寝るお」
春香「じゃあね千早ちゃん。今日も少しずつ投下します。」
雪歩「………」
雪歩「リーダー命令…」
春香「うん」
リーダー命令…
(リーダーに向かってそんなことは)
そういう雪歩にとってこれは逆らえないだろう
雪歩「………」
やがて雪歩は口を開いた。
雪歩「……」
雪歩「春香……さん」
春香「ううん、春香ちゃん」
雪歩「………」
雪歩「は……」
雪歩「春香………ちゃん?」
春香「ううん?」
雪歩「………」
雪歩「…春香ちゃん」
春香「うん、雪歩!」
雪歩「あ……」
どこか懐かしいような…
そんな表情をしていた
雪歩「なんか…久しぶり」
春香「ふふ」
一瞬だけ、かつての雰囲気に戻った気がした
そう、一瞬………
でもそれがとても長いものに思えた
ガチャッ
「おはようございまーす」
「おはようございます…」
「おはようなのー」
「あ、お茶いれますね」トテトテ
「亜美、こっちに来なさい」
「は、はい」
春香「あ……」
人が集まると同時に騒がしくなり、心地よい雰囲気はかき消された。
「春香?」
春香「響ちゃん…」
響「今日はランニングしてないのか?」
春香「う、うん…」
春香「響ちゃんは?」
響「もうやってきたぞ」
春香「へ、へぇーそうなんだ…」
響ちゃん既に事務所に来てたんだ…
春香「響ちゃん頑張ってるね」
響「へへ、自分この調子でライブも頑張るぞ!」
春香「…うん」
春香「がんばろうね」
響「あ、雪歩…自分もお茶欲しいぞ」スタスタ
スタスタ…ユラッ…
春香「…え、響ちゃん?」
気のせいかな…
今一瞬揺らめいた気がしたけど
ガチャッ
「あらあら~ついたわね」
「おはようございます」
「おはようございますー!」
また事務所に人が集まる。
まだまだ集合時間には余裕はあるけど、皆集まったようだ。
「あずさ!」
「…は~い」
「遅すぎ」
「…あら~これでも迷わないようになったんですよ」
「響、あれ持ってきましたか?」
「持ってきたぞ~今日は醤油ラーメンだったな」
相変わらず皆別々で話し、集まることはない。
春香「……あれ?」
そんな中、美希は1人で何やら眺めていた。
春香「何見てるの美希?」
美希「春香…」
春香「スケジュール表?」
美希「うん」
春香「ライブ…もうすぐだね」
美希「……」
美希「ミキね、ハニ…プロデューサーに嫌われちゃったの」
春香「え?」
美希「最近全然構ってくれないの」
春香「……」
美希「ハニーっていったら、怒鳴られちゃった」
プロデューサーさん…
本当はどう接すればいいか分からないんですよね?
…そうですよね?
美希「だから、次のライブで絶対認めてもらうの」
美希「ミキ、最近全然居眠りしてないし、本気なの」
美希「だからごめんね、春香に構ってる暇はないの…」
春香「………」
ガチャ
「皆来てるー?」
春香「!」
律子さん…と、プロデューサーさん。
P「分かってると思うが、今日からまた全体練習だ」
P「ライブまであと1週間ちょっとしかない」
P「今日から俺も時間がある時は指導する」
P「気を引き締めろ、いいな」
全員「…はい!」
ゾロゾロ………
みんなが移動するなか、私は中々動けなかった。
皆が何を考えてるのか、どうしたいのか、全く分からない。
全体練習が怖い………
千早「…春香?」
春香「あ…千早ちゃん」
千早ちゃんに呼びかけられて、我に返る。
千早「みんな移動してるわよ」
春香「う…うん」
千早「…?」
千早「…春香?」
春香「ねぇ千早ちゃんはライブについてどう思ってるの?」
千早「え?」
千早「ダンスのステップアップ…それだけよ」
春香「……」
千早「もういくわ…」スタスタ
春香「……」
春香「……」スタスタ
私は無言で練習場へと歩き出した。
今日はもう寝るお!
今日も少しずつ投下します。
春香「………」スタスタ
スタスタ…スタスタ…
皆無言で歩く。
緊張のせいだろうか、誰も喋ろうとしない。
スタスタ……
誰も口を開かないまま練習場に着いた。
ガチャ…
スタスタ………
P「………」
全員「………」
練習場についても静かなままだった。
春香「………」
あまりの静けさに気が参りそうになる。
その時、プロデューサーさんが話しだした。
P「俺が帰ってきてから最初のライブ」
P「それなりに注目も集まっている」
P「次のライブに…」
P「失敗は許されない」
全員「………」
P「さっきも言ったが、ライブまで1週間ちょっとしかない」
P「もう時間がない」
P「練習だからミスしていいなんて思うな」
P「常に本番のつもりでやるんだ、いいな」
全員「……はい!」
P「律子」
律子「じゃあ音楽に合わせるから皆位置についてー」
スタスタ……
春香「………」
とりあえず今はダンスに集中しよう…
カチッ…
やがて音楽がなりだした。
♪~~~~~~~~
居残り練習のおかげか、コツはだいたい掴んでいる。
???ー????ー
春香「…」タッ
???ー??ー??
春香「…」タッタッタ
特にミスすることなくできそうだった。
?????ーー??ーー
春香「…」タッタッ
案外踊れる…そう思った時
???ー????ー
春香「…」タッ
「ストップ!」
ストップがかかった。
全員「…………」
P「やよい、動きが遅い」
やよい「……はい」
P「………」
P「もう一回いくぞ」
…2回目もすぐストップがかかる。
P「ストップ」
P「やよい、遅れてる」
やよい「うぅ……」
P「それから美希、動きが派手すぎる」
美希「…はいなの」
P「もう一回いくぞ」
だがまたすぐにストップがかかる。
P「響、ステップが遅い」
響「う……」
P「おい………」
P「全然進まないじゃないか」
全員「………」
その後も上手くいかず、気が付けば昼になっていた。
律子「プロデューサー殿…そろそろお昼の時間ですが」
P「え?」
P「………」
P「休憩だ」
不穏な空気のまま休憩に入った。
春香「………」
ガサゴソ…ガサゴソ…
とりあえず昼食を食べよう…
そう思ってカバンを探るが、弁当は見つからなかった。
春香「あ、弁当忘れちゃった」
すぐ近くにコンビニあったっけ?
仕方ない、買いに行くしか…
春香「すみません、プロデューサーさん」
そう思ってプロデューサーさんに事情を伝えた私は、軽く怒られたあと弁当を買いに事務所を出た。
春香「何やってるんだろう私…」
コンビニはこっちだったよね?
スタスタ…
とりあえずコンビニに向かおうとした私に声がかかる。
「あらあら~春香ちゃんも?」
春香「え?」
春香「あずささん…と、真?」
あずさ「私たち、お弁当買いに行くところなの」
真「ボクも忘れちゃって…」ヘヘ
春香「そうなんだ…」
あずさ「近くのコンビニに行くんでしょ?」
春香「はい」
あずさ「さっ、いきましょう」
スタスタ……
そうやって真とあずささんと一緒に行くことになった。
あずさ「えーと、次は右であそこを左…」
道順を確かめてるあずささんを見て私は少なからず驚いた。
春香「もう、迷わなくなったんですか?」
あずさ「ええ、何故かは分からないんだけど…」
あずさ「迷わなくなったみたい」
春香「へぇーすごいですね」
私に比べたら大違いだ。
少しショックを受けたところでコンビニについた。
あずさ「じゃあ、私はあっちの方に行くわー」スタスタ
そういってあずささんは弁当コーナーに行き、真と2人になった。
春香「……私達も何か買おっか?」
真「そうだね…」
真と話すのも久しぶりな気がする…
真「何、買うの?」
春香「そうだねぇ~」
問いかける真に私は答える
春香「私はパンでいいかなー」
真「あ、ボクもパンにしよっかなーなんて思ってた」
春香「じゃあそうしよっか」
真「そうだね」
私はパン売り場へ向かった。
真「えっと…」
真のパンを選ぶ仕草をなんとなく見ていて私はふと思った。
春香「真…随分男の子っぽくなったね」
真「え?」
春香「あ……」
今、失礼なこと言っちゃったかな?
春香「ご、ごめん!今のは」
慌てて私は謝ろうとしたが
真「あ、春香もそう思う!?」
春香「え?」
何故か嬉しそうに真は返事した。
春香「…真?」
真「ボクのファンって女の子ばっかりだからさ」
真「もっと男の子っぽくなったら人気でるかなーって?」
春香「………」
真「春香にそう思われたなら人気上昇間違いなしだよへへっ、やっりぃ~」
そう言いながら歩いていく真を見て私は寒気がした。
春香「真…」
全然嬉しそうに見えなかったのは気のせい、かな?
とりあえずパンを選んだ私はレジへと向かった。
春香「あ…」
「450円になります」
あずさ「はい~」
あずささんもう選び終わってたんだ。
隣のレジも埋まっていたこともあり、あずささんの後ろで待つことにした。
春香「……」
あずさ「………」
春香「………」
あずさ「えーと…」
春香「……ん?」
お金を払うにしてはちょっと遅い気がする
あずささん何してるんだろう…
少し様子がおかしいと思い、状況を確かめようとした時だった。
「お客様…450円でございます」
あずさ「あら~」
あずさ「おかしいわね~?」
あずさ「これでいいかしら~?」
「お客様…これも5円玉ですが」
あずさ「あら、これも~?」
あずさ「うーん…」
春香「……………え」
…え?
何が起こってるの?
春香「あずささん!?」
私は直ぐにあずささんを呼びかけた。
あずさ「あら~どうしましょう春香ちゃん」
あずさ「どれが50円玉かしら~?」
春香「え、えっと」
どうしよう…
ガサッ
考えるより先に自分のパンを出して言った。
春香「あずささん、お金は財布に戻していいです」
あずさ「え?」
春香「このパンも一緒にお願いします」
店員「は、はい」
店員「1000円からですね」
そうやって無事レジを終えた。
スタスタ………
3人ともレジを終え練習場へ戻っている最中、私は2人の出来事を思い出していた。
(へへっ、やっりぃ~)
(あら~どうしましょう春香ちゃん)
春香「……」
やっぱりおかしい…
特にあずささんには驚きを隠せなかった。
あずさ「偶にね」
春香「え?」
あずさ「偶に、物の区別がつかなくなることがあるの」
春香「………」
私は何も言えなかった。
それっきり誰も口を開くことはなく、練習場に着いた。
今日はもう寝るお!
今日も少しずつ投下します。
私達が帰ってきた頃には皆ほとんど食事を済ませていた。
春香「早く食べよっか」
あずさ「ええ」
真「うん」
3人で食事をするが会話はない。
すぐに食事を終えた。
春香「午後の練習までまだ時間あるなぁ…」
ダンスの振り付けの確認でもしよう
そう思った時に声がかかった。
「天海さん?」
春香「え?」
ダンスの指導者だった。
ダンスの先生「あの、ダンスの練習のことなんだけど」
春香「はい」
ダンスの先生「練習の様子、見させてもらったわ」
ダンスの先生「それでね、ちょっと言いにくいんだけど…」
春香「……?」
ダンスの先生「やっぱり指導は私がやった方がいいと思うの」
春香「…え」
ダンスの先生「プロデューサーの方がどうしてもっていうから、一応指導もできるようだし任せはしたんだけど…」
ダンスの先生「皆噛み合ってないというか…」
春香「そ、そんな」
ダンスの先生「いや、そうしろってわけじゃないの、ただ…」
ダンスの先生「皆で話し合ってもらえないかしら?」
春香「………」
春香「…はい」
それだけいうと、指導者は端の方に歩いていった。
春香「………」
ここでプロデューサーさんがいなくなったら、ライブどうなるんだろう…
確かに皆無理をしているように見える
けど、ここで交代したらダメな気がする
春香「みんな!ちょっといいかな?」
とりあえず私は皆を集めた。
全員「………」
春香「………」
私を前に半円を作って皆が集まる。
皆が変わって以来、全員集まって話すことがなかった気がする。
どこかバラバラな雰囲気を感じながら、私は指導者から言われたことを話した。
春香「あのね…」
……………
全員「………」
皆黙って話を聞いていた。
春香「それで…」
春香「それで、皆はどう思う?」
全員「………」
沈黙…
でもその沈黙はすぐに崩れた。
「いやなの」
春香「美希?」
美希「私、それは反対なの」
伊織「私もここで交代したら意味がないと思うわ」
響「自分もそう思うぞ」
皆、ダンスの指導者交代の意見には反対だった。
春香「みんな…」
少し安心した。
春香「じゃあそう伝えてくるね」
そう言って指導者に伝えに行こうとした時だった。
やよい「あの、すみません!」
春香「え?」
やよい「私、迷惑かけてばっかりで…」
春香「………」
やよい「私のミスで中断して…」
春香「そんなことないよ」
春香「みんなもまだ完璧には踊れないし」
やよい「……」
春香「それにミスしたくてしてるわけじゃないし」
春香「全然気にしてないから、ミスのことは考えなくていいよ」
やよい「…はい」
伊織「でもたしかに進まないわね」
やよい「うぅ…」
春香「ちょっと…伊織?」
伊織「確かにミスするのは仕方ないわ」
伊織「でも何回も同んなじところミスされたらそうそう許しちゃいられないわね」
春香「なに言って…」
だめ、ここで争いになったら
真「そういう伊織も遅れがちらちら見えたけど?」
伊織「なんですって」
伊織「真も動き速いって言われてたじゃない」
真「なんだと!」
だめだめだめ………
美希「ミキ、もっと速く踊りたいの」
伊織「あんたは速すぎるのよ」
美希「え?」
春香「やめて!」
伊織「………」
真「………」
美希「………」
春香「皆ミスしてるし」
春香「私もミスしてるし」
春香「誰も責めることはできないよ」
春香「ううん、責めるとかじゃなくて」
春香「お互いに支え合うの」
春香「気楽にいこうよ」
争ってちゃ上手くいくはずがない
全員「………」
春香「リーダーの私がミスしてるんだから」
春香「どうしても文句言いたくなったら私に言って」
真「え、それは」
「天海さん?」
春香「あ………」
ダンスの先生「どうなの?」
心配になって見に来たらしい
春香「このままプロデューサーさんの指導でお願いします」
私はそう言った。
午後の練習は午前程ミスは多くなかった。
可もなく不可もなく
そんなところだろう
でもまだまだライブで見せられるものじゃない
P「明日は俺は用事で見にこれない」
P「律子と指導の方2人に見てもらう」
P「明日までに仕上げる、そのつもりでやるんだ」
全員「…はい!」
P「今日は早く帰って明日に備えろ」
P「解散だ」
プロデューサーさんの機嫌はあまり良くなかった
解散の合図で皆事務所に戻りだす
私もそれに続いた。
スタスタ……
春香「」スタスタ
今日の練習を振り返る
ミスは多かったものの、少しずつそれも少なくなっていった
このまま順調にいけばライブまでに完成するだろう
でも、それでいいのだろうか
形だけのステージ
そんなものにしかならないような気がして焦りがでる
そんな時だった…
「春香さん」
春香「ん?」クルッ
春香「亜美…と真美」
亜美と真美だ
亜美「これ、春香さんのですよね?」スッ
春香「タオル…?」
真美「練習場に落ちたままでして…」
春香「あ……」
確かに私のだ
春香「ありがとう亜美…真美」
真美「よかった~」
亜美「やっぱり春香さんのだったんですね」
春香「ふふ…」
春香「練習…どうだった?」
一区切り付いたところで練習について聞いてみる。
亜美「そうですね~」
真美「ミスばっかりだったけど、この調子でいけばライブまでに間に合うと思います」
亜美「私も!」
春香「はは…」
私と同じことを考えていたのを知って笑いがでる
でも…
このままじゃいけないんだよね
亜美「春香さんはどうでしたか?」
春香「………」
春香「ねぇ、亜美…真美」
亜美真美「…?」
春香「敬語…使うようになったんだね」
亜美真美「………」
春香「私の事も春香さんって」
亜美真美「………」
春香「前みたいにはるるんって…もう呼ばないの?」
亜美「……はい」
春香「………」
春香「どうしてかな?」
亜美「いや…それは~」
春香「ダメだよ」
春香「敬語なんか使ったらだめ」
春香「亜美達らしくないよ」
亜美「え…でも」
春香「前みたいにはるるんでいいからさ、敬語なんかやめようよ」
春香「何か寂しいよ…このままじゃ皆バラバラに」
真美「…いやです」
春香「え?」
真美「いや、なんというか~」
真美「真美達もそろそろ敬語使えるようになりたいな~って」
真美「もう敬語使えないといけない年頃だし?」
真美「だから…すみません」
春香「………」
そうやって事務所に着いた私と亜美、真美は挨拶を済ませるとそのままわかれた
事務所に戻った私は昼間に買ったパンのゴミ袋をごみ箱に捨てる。
大量に捨ててある空になったカップ麺を見て更に気が落ち込んだ私はしばらくソファーに座ってゆっくりしていた。
…………どれくらいそうしていただろう
ふと我に返った時に声がかかった。
「春香、帰らないのかー?」
春香「ん…響ちゃん」
春香「あれ、皆は?」
響「もう帰ったぞ」
春香「へ、へぇー」
随分長い間ソファーに座っていたようだ
春香「私も帰るよ」
そう言って響ちゃんと事務所を出る
響「練習疲れたのか?」
春香「う、うんそんなところ」
響「そうかー」
響「自分も疲れたぞ」トホホ
そう言って響ちゃんは足をさする
春香「足、どうかしたの?」
響「ちょっと痛めただけだぞ」
春香「大丈夫?」
平気ならいいんだけど
響「なんくるな…あ、あれ?」
言いかけた響ちゃんはバランスを崩してその場に転けた。
響「痛たた…」
春香「ほ、ほんとに大丈夫なの?」
響「あれ…なんでだろ」
春香「今日は早く帰って休んだ方がいいよ」
響「う、うんそうするぞ」
また明日、練習がんばるさー…そういって響ちゃんは家へ…
タッタッタッタッ……
…え?
走った?
春香「響ちゃん!?」
響「ん?」
春香「何してるの!」
響「…ランニングだぞ」
…ランニング?
意味がわからない
春香「ラ、ランニング?」
響「朝と夜、事務所に向かう時と事務所から帰る時はランニングしてるんだぞ」
…え?
響ちゃんが言ってたランニングって…
…何してるの?
どれだけ距離あると思ってるの?
春香「え…え?」
春香「ちょっと待ってよ」
春香「今足痛めてるでしょ?」
春香「それに家までランニングって」
響「自分がんばるって決めたんだぞ」
春香「だめだめだめ」
春香「そんなことしてたら響ちゃん足壊しちゃうよ?」
響「………」
春香「何考えてるの…」
春香「ね、そんなに無理することないよ」
春香「今日はタクシーで帰ろうよ、ね?」
春香「響チャレンジのためだけにこんなことまで」
響「いやだ!」
春香「!」
響「自分、走って帰るぞ」
春香「な、なんで」
響「こんなところで辞めたくなんかない!」
響「自分、響チャレンジだけは絶対にがんばるって決めたんだぞ」
春香「どうしてそこまで…」
わからない、そこまで必死にやる意味がわからない
足、壊してもいいの?
響「ここでやめたら自分…自分…」
響「いつまでも変われない気がするんだ」
何で…何で…
どうして皆変わっていくの?
私の知らない皆になっていくの?
やめて、変わらないで
春香「お願いだから…タクシーで帰って」
響「!」
ポタ…ポタ………
あれ?
私、泣いてる?
響「わ、分かったから」
響「タクシーで帰るから泣くんじゃないぞ…」
そう言って響ちゃんは走らずに帰っていった。
春香「………」
1人になった私はしばらくそこでじっとしていた。
家に帰る気もしなかった
このまま明日を迎えたくなかった
春香「………」スタスタ
やがて私は歩き出した
どこへ行こうというのだろう
春香「………」スタスタ
スタスタ…ピタッ
春香「あの~…?」
気がつけば私は
「208号室です」
スタスタ…
トントンッ
「はーい」
ガチャ
「…春香ちゃん?」
小鳥さんの所に来ていた
今日はもう寝るお!
今日も少しずつ投下します
小鳥「どうしたの?」
春香「…お体の方は大丈夫ですか?」
小鳥「……」
小鳥「うん、明日には退院できそうだわ」
春香「そうですか」パァ
春香「あ………」
一瞬明るくなるも、すぐに表情は曇る
小鳥「春香ちゃん…」
小鳥さんは私を見て、大体状況を理解したようだった
小鳥「話が…あるんでしょ?」
春香「…はい」
小鳥「聞かせてもらってもいい?」
その後、小鳥さんが倒れてから今日までのことを自分が思いつく限り話した
結構な時間がかかった
それでも小鳥さんは静かに相槌をうち、優しく頷きながら話を聞いてくれた
小鳥「そう……」
小鳥「辛かったわね…よく頑張ったわ春香ちゃん」
春香「で、でも皆…」
春香「私…何も」
何もできなかった
春香「このままじゃ皆バラバラに…」
小鳥「そんなことないわ」
春香「…え?」
小鳥「そんなことはない…」
小鳥「皆プロデューサーさんの指導が良いって言ったんでしょ?」
春香「でも…でもみんな…」
春香「…みんな変わっちゃった」
小鳥「春香ちゃん?」
小鳥「私も春香ちゃんに聞きたいことがあるの」
春香「何…ですか?」
小鳥「春香ちゃんが知ってる皆って…どういうものなのかしら?」
春香「え?」
小鳥「居眠りをする美希ちゃん」
小鳥「いたずらする亜美ちゃん真美ちゃん」
小鳥「穴を掘ろうとする雪歩ちゃん」
小鳥「他にもいろいろあるけど…」
小鳥「春香ちゃんの言うみんなが変わったっていうのは、そういうことだったの?」
春香「………」
小鳥「春香ちゃんの知ってるみんなって、そんなものだったのかしら?」
春香「あ………」
春香「………」
そう…じゃない
春香「違う…」
私の知ってる皆は…
春香「…違います」
小鳥「ふふ…」
小鳥「表面状変わっていく部分があるのは仕方のないことだと思うわ」
小鳥「でも…」
小鳥「変わらない部分もあるの」
春香「………」
小鳥「みんなも…春香ちゃんも、焦っていて気づいていないだけだと思うの」
春香「…小鳥さん」
春香「でも…どうすれば」
小鳥「大丈夫…」
小鳥「春香ちゃんの思うように、正面からぶつかってみなさい」
小鳥「私は皆を信じてるわ」ニコッ
春香「……はい」
(なら大丈夫。春香の気持ちはちゃんと届いてる。思ったとおり、体当たりでぶつかってみろ!)
いつか、プロデューサーさんもそう言ってくれましたっけ…
春香「ありがとうございます…小鳥さん」
私はそう言って、家に帰った。
家に着いた私は一通り済ませると部屋で明日の練習スケジュールを確認する。
どうなるか分からないけど…
…でも
もう一回がんばってみようかな
少し前向きになれた私がいた。
カチッ…
電気を消して眠りにつく
私も皆を信じよう
今日はもう寝るお!
今日も少しずつ投下します
カチ…カチ…
……………
ピリリリリリリリ……
春香「…ん」
カチッ……
春香「………」
春香「ふぅ……」
いつもより1~2時間早く起きた。
春香「……」
春香「まだ薄暗いなぁ…」
まだ少し疲れが残っていたが、いつも通り支度を済ませ家を出る。
春香「………」スタスタ
まだ薄暗いからか、事務所に向かう道がいつもと変わって見えるような気もする
春香「全体練習2日目…」
いや、何日か前にも全体練習あったし…
ほんとは何日目なんだろう…
そんな事を考えながら事務所に向かう……
ガタンガタン………
春香「………」
「次は~…でございます」
春香「………」スタッ
今日はプロデューサーさんはいない
事務所には来るそうだけど、その後用事があるんだっけ…
事務所が近くなるにつれ、意識が少しずつはっきりしてくる
(あんたが一番早く来ないでどうするのよ)
だからというわけではないが、今日は早めに事務所に向かった
春香「………」スタスタ
やがて事務所に着いた。
その頃には外はもう明るくなっていた。
春香「………」
トン…トン…
そういえば…
私が事務所に来たときはいつも誰か居たよね
階段を上がりながらふとそう思った
集合時間の2時間半前…
まだ伊織も来ていないだろう
春香「…よし」
スッ…
ドアノブに手をかけた、その時だった…
「わーこれおいしい~」
春香「…ん?」
中から声が聞こえてきた。
春香「えっと…」
大人じみた声にしてはトーンが緩い…
あずささん…?
にしては声が違うような…
春香「…だれ…かな」
とりあえず扉を開けてみた
ガチャ…
「はっ…」
春香「え…」
中にいたのは
春香「…貴音さん?」
貴音さんだった。
春香「え……えっと」
貴音「………」
春香「聞き間違い…?」
春香「じゃ…ないよね?」
貴音「…」コクッ
春香「そ、そうだよね~」
春香「…びっくりしちゃった」
春香「貴音さんがあんな風に喋るなんて…」
貴音「ふふ…」
貴音「春香」
春香「……はい?」
貴音「少し勘違いをさせてしまったようです」
春香「…勘違い?」
貴音「少しお話ししてもよろしいですか?」
春香「う…うん」
貴音「………」
春香「………」
貴音「………」
春香「えっと」
貴音「立ち話もなんでしょう…」
貴音「どうぞこちらへ」
春香「う…うんそうだね!」
私は貴音さんと向かい合う形でソファーに座った
貴音「………」
春香「………」
貴音「春香は」
春香「うん」
貴音「わたくしの事をどのように思っていますか?」
春香「え…それって」
春香「貴音さんがどんな人かってこと?」
貴音「はい」
春香「そうだねぇ…」
春香「今すぐには答えられないけど」
春香「簡単にいうなら…」
春香「…ちょっと不思議なところもあるけど、いつも冷静で一緒にいると安心する人…かな?」
実際皆の状態がいいとは思えない今の状況でも貴音さんといると少し安心できる気がする
貴音「ふふ…」
貴音「プロデューサーも似たようなことをおっしゃっていました」
春香「………」
貴音「……」
貴音「プロデューサーはどこか迷っておられる」
貴音「ライブのことか…別のことか…」
貴音「そんな気がするのです」
春香「………」
貴音「わたくしが心の支えになるのなら」
貴音「そう思い…わたくしは普段のわたくしのままで居ているつもりです」
春香「………」
たしかに…普段通りの貴音さんな気もしなくはない
貴音「ですが…」
貴音「隣の花は赤い」
春香「え?」
貴音「生まれながら…わたくしはあまり喜怒哀楽を表に出さないようで…」
貴音「楽しい時は腹を抱えて笑い」
貴音「辛い時は辛いと言い」
貴音「悲しい時は声をあげて泣く」
貴音「そういうものが…少し羨ましく思えしまった…」
貴音「それだけです」
春香「………じゃあ」
春香「さっきのはおいしいものはおいしいってはしゃいでみたかったってこと?」
貴音「…」コクッ
春香「そっかぁー…」
貴音「春香…」
貴音「辛いですか?」
春香「え……」
春香「う…うんちょっとだけ…」ニコッ
貴音「………」
貴音「わたくしも辛」
ガチャッ…
その時誰かが入ってきた
春香「あ……」
貴音「おはようございます、伊織」
伊織「……相変わらず早いのね」スタスタ
伊織だった…
貴音さんの挨拶に不機嫌そうに返事をする
相変わらず目の下には遠くから見てわかるほどの隈ができている
私には気づいてないのかな…?
春香「お、おはよう伊織」
伊織「!」
伊織「……」
伊織「…今日は早いのね」
それだけいうと
スタスタ…
伊織はすぐに通り過ぎていこうとした
春香「待って…」
伊織「……」
伊織「………なに」
春香「伊織、いつも早いよね…尊敬するよ」
伊織「…え?」
春香「私なんか今日1日早く起きただけで眠くて眠くて」テヘ
軽く笑ってみせる
春香「ライブ…がんばろうね」
伊織「……」
伊織「眠れないのよ」
春香「…え」
スタスタ…
そういって伊織は通り過ぎっていった
今日はもうねるお!
221 訂正 8行目あたり
思えしまった→思えてしまった
今日も少しずつ投下します
眠れないって…
意識的に早く起きているのではなく、眠れないから早く起きてしまう…
そういう意味なの?
伊織……
気合いを入れて練習しているように見せかけて、ほんとは…
伊織の言ったさりげない一言が、とても深いものに聞こえた
いつもならそのまま見過ごしていたかもしれない
でも今回は…
(正面からぶつかってみなさい)
今回は、そのまま伊織を放っておくわけにはいかなかった
春香「………」
スタスタ…カチャッ
春香「………」
スタスタ…
コトッ
伊織「…え」
私は1人で椅子に座っていた伊織に無言でお茶を出す
伊織「…なにこれ?」
春香「…お茶だよ」
伊織「そうじゃなくて」
伊織「なんのつもり?」
春香「………」
春香「眠れないって言われたから」
伊織「…は?」
春香「お茶飲んだら少しは落ち着くかなって」
伊織「余計寝れなくなるじゃない」
春香「………」
伊織「………」
伊織「いらないわ」
春香「………」
伊織「………」
伊織「……なによ」
春香「………」
春香「…なんでも」フフ
伊織「は……」
伊織「あんた…おちょくってんの?」
春香「わからないな…伊織の気持ち」
伊織「えっ…」
春香「周りを突き放そうとする伊織の気持ち」
伊織「………」
春香「何を考えているのか」
春香「どうしたいのか…」
春香「私…皆の事がわからなくなっちゃった」
伊織「………」
春香「私…すごく不安」
春香「次のライブ…ううんそれだけじゃない」
春香「その先のことも」
伊織「………」
春香「でも、不安なのは私だけじゃないと思うの」
春香「伊織も…そうじゃないのかな…?」
春香「だから…」
伊織「いい加減にしなさい」
春香「………」
伊織の冷たい声に私の声はかき消されてしまった。
伊織「気分が悪いわ…」
ガタッ
そう言って伊織は椅子から立ち上がると、部屋を出ていった。
春香「……ふぅ」
どうすればいいのだろう
伊織も…みんなも…
何を考えているんだろう
私達…いつも一緒だったよね
分かんない…皆の事が…
決心してもすぐに崩れてしまう自分の弱さを情けなく思った
貴音「……」ズズーッ
相変わらずラーメンを食べている貴音さんの横には空になったカップがいくつも重ねてある。
前より量が増えている気がする。
春香「さっきはごめんね」
貴音「…はて?」
春香「話…途中だったよね?」
貴音「いえ…話ならもう終わりました」
春香「そ…そうなんだ」
私はそばにあった椅子に座る
春香「………」
沈黙の中ラーメンを啜る音が響く
長いこと待つが、伊織はなかなか帰って来なかった
もう部屋を出て30分くらいになる
…少しずつ不安が大きくなって行く
春香「様子…見に行ってみようかな」
そう思った時に部屋の外から声がした
「いったいわね!」
「うぅ…すみません」
春香「やよい!?」
急いでドアに向かい、扉を開ける
そこには、伊織に向かって頭を下げているやよいがいた。
春香「どうしたの!?」
伊織「やよいがぶつかってきたのよ」
春香「な……んだ」
たったそれだけのこと
伊織「目の前にいるのに何で気づかないのよ…」
どうしてすぐ争おうとするの
やよい「すみません…すみません」
やよいのこんな姿見たくないよ
春香「………」
「あらら~騒がしいわねー」
「なんかあったのか?」
そこにあずささんと響ちゃんがやってきた
伊織「……」
春香「……」
やよい「私が伊織さんにぶつかったんです」
響「…それだけなのか?」
やよい「……」
春香「……うんごめんね、びっくりさせちゃって」
響「そっかぁー」スタスタ
春香「…え」
特に気にしない様子で通り過ぎて行く
あずさ「朝からあまり騒がないようにね」
スタスタ…
やよい「お騒がせしてすみませんリーダー」
伊織「……」
皆、何もなかったかのように事務所に入っていく
春香「……」
その光景がとても寒かった
それと同時に
何も言えなかった自分に腹がたった
今日はもう寝るお!
今日も少しずつ投下します
事務所で6人会話が無いまま時間が過ぎていく…
やよいは辛くないのだろうか
響ちゃんもあずささんも、何とも思わなかったのだろうか
1人1人話している時はそこまで違和感を感じない…
でも皆が集まると、違和感しか感じない
それがとても辛い…逃げ出したいとも思う
けど、逃げたくない…
スタスタ…
春香「やよいちょっといい?」
やよい「…はい」
やよい「…どうかしたんですか?」
春香「うん」
春香「やよいはさ…」
春香「次のライブのこと…どう思ってる?」
やよい「…ライブ」
春香「別にライブに限らなくてもいいの」
春香「今の765プロのこと…皆のこと…それから」
春香「やよいのことも」
春香「何でもいいから何か思うこととかない?」
やよい「………」
やよい「うーん…」
やよい「最近生活がまた厳しくなったので」
春香「うん」
やよい「もっと収入増やさないといけないかなーって」
春香「………うん」
やよい「だから次のライブはいつも以上にはりきってますー」
春香「………」
春香「辛い…とか思ったりしない?」
やよい「え?」
春香「ほら…全体練習とか」
春香「練習が辛いんじゃなくてそこに居づらい…みたいな」
やよい「…ありません」
春香「プロデューサーさんの指導とかも…平気?」
やよい「……」
やよい「私のために指導してくれているので平気です」
やよい「皆も私のために注意してくれているので…平気です」
春香「………」
春香「さっきの伊織のことも?」
やよい「……」フッ
春香「うっ……」
一瞬だけ、やよいから表情が無くなった。
普段のやよいからは想像できない顔に私は怯んでしまった
やよい「私がぶつかったのを注意してくれたので感謝してますー」ガルーン
春香「………」
私にはやよいが人形にしか見えなかった
春香「……そっか」
春香「トイレ行ってくるね」
ひとまず私はそこから離れた
春香「……」
トイレに来たところで何かをするわけでもない
ただ、あれ以上やよいと話してもどうにもならない気がした
…また何もできなかった
春香「………」
春香「………」グッ
でもあきらめない
どうすればいいのか分からないけど、どうにかしたい
不安より、今はその気持ちの方が強かった
春香「……」スタスタ
私は再びやよい達の元へ戻った。
ガチャ
「おはようございます」
「おはようございまーす」
春香「あ…」
私がトイレに居た間に何人か来ていたようだ
雪歩と亜美、真美から挨拶がある
春香「うん、おはよ…」
相変わらず敬語での挨拶
慣れてきたといってもやっぱり敬語は辛い
いや、慣れることなんてないのかもしれない
春香「真も来てるみたいだしあと来てないのは…」
周りを見渡すと1人でスケジュール表を見つめている美希も目に入る
春香「美希も来てるみたいだし…」
あとは千早ちゃんかな?
「春香、ちょっとどいてもらってもいいかしら?」
春香「えっ」クルッ
千早ちゃん今来たんだね
春香「ごめんね」
千早「ええ…」スタスタ
春香「……」
何も言わずに通り過ぎていく…
そんな千早ちゃんに何となく声をかけたくなった
春香「ねぇ…千早ちゃん?」
千早「…?」
春香「今日の練習…どうなるかな?」
千早「どういう意味かしら」
春香「プロデューサーさんいないし…」
千早「指導なら律子がいるじゃない」
春香「そうだけど…」
千早「別に問題ないわ」
千早「プロデューサーが観るのはダンスだけよ」
千早「それに、人に言われなくたって自分でできるわ」
春香「そっか…」
春香「ダンスのステップアップ…だっけ?」
千早「ええ」
春香「うん…わかった」
千早「もういくわ」スタスタ
春香「……」
やがて、プロデューサーさんと律子さんがやってきた
P「昨日も言ったが俺はこの後用事でいない」
P「俺がいなくても、今日までに仕上げるつもりでやるんだ」
全員「…はい!」
P「よし、じゃあ移動しろ」
スタスタ…
皆練習場へと移動していく
P「春香」
春香「はい?」
P「俺は今日はいない」
P「春香はリーダーだ、そこのところ分かってるよな?」
春香「…はい」
P「リーダーとしての行動を頼む」
春香「…はい!」
一度は降ろそうとしたリーダーを私が拒否した
分かってますよ、私がしっかりしないといけないこと…
次ダメだったらリーダーを降ろされることも…
プロデューサーさんは荷物を置くとそのまま用事へと向かっていった
春香「……」
スタスタ…
そのまま私も練習場へと向かった
今日はもう寝るお!
今日も少しずつ投下します
スタスタ…
春香「……」
何かきっかけが欲しい
このままじゃいけないのは分かっている
でも、何をどうすればいいか
どうすれば正解なのか
誰と話したところで答えは出なかった。
プロデューサーさんがいない今日
おそらくこれが最後のチャンスだろう
今日を逃すわけにはいかない
私は私なりのやり方で、私の思うようにぶつかる
そう決意して練習場に入った。
ダンスの先生「天海さん、おはよう」
春香「おはようございます」スッ
春香「今日はよろしくお願いします」
ダンスの先生「ええ、よろしく」
ダンスの先生「昨日も言ったけど、皆どこか噛み合ってないように見えるの」
ダンスの先生「今日はプロデューサーの方もいらっしゃらないし」
ダンスの先生「私がしっかり指導するから任せなさい!」
春香「…はい」
律子「よし、じゃあ皆集まってー!」
律子さんから召集がかかる
律子「今回は私と指導の方2人での指導になるけど」
律子「やることは変わらないわ」
律子「今日までに仕上げるつもりでやるのよ?」
全員「はい!」
律子「練習だからミスしていいなんて思ったらダメよ?」
律子「常に本番のつもりでやること、分かった?」
全員「はい!」
春香「……」
律子さん…
それ、全部プロデューサーさんが言ってたことですよね
あなたの意思はないんですか?
ダンスの先生「今日は代わりに私が指導します」
ダンスの先生「昨日、練習の様子を見させてもらいました」
ダンスの先生「みんなのやる気は十分伝わってきました」
ダンスの先生「でも、全くまとまってなかったの」
全員「……」
まとまっているとは言えない
私もそう思います
ダンスの先生「今日はそこの部分も含めて指導します」
ダンスの先生「いい?」
全員「はい!」
律子「はい、それじゃ早速音楽に合わせるわよ」
そして、全体練習が始まった。
変わってしまった765プロ
お互いがお互いのことをあまり意識しない
話をすることはあっても必要以上のことは話さない
そんな皆を何とかしたい
また昔の皆に戻ってほしい
ダンスの先生「うーん…」
ダンスの先生「だいたいの動きは出来てきているみたいだけど」
ダンスの先生「やっぱり、一体感が感じられないわ」
ダンスの先生「星井さんはちょっと自分の踊りに気持ちが行き過ぎているわ」
ダンスの先生「水瀬さんも結構踊れている方だけど、もっと周りと合わせる気持ちを持ちなさい」
ダンスの先生「もう一回合わせるわよ」
皆焦ってるんだよね?
プロデューサーさんが変わってしまったことがショックで、皆との繋がりを失いかけている
そう…なんだよね?
だめだめ、そんな時こそ皆で助け合わなくちゃ
ダンスの先生「萩原さんは表情が暗いわ」
ダンスの先生「高槻さんも、もう少し笑って」
また皆で踊りたい
皆で楽しく踊りたい
バラバラになんかなって欲しくない
………だから
何かきっかけがほしい
休憩でも何でもいいから
皆ともう一度話をしたい
そう思っていた時…
ダンスの先生「うーん、何かが違うのよ」
ダンスの先生「何か違和感があるのよねー」
ダンスの先生「その点では天海さん」
ダンスの先生「あなたが1番出来てるわ」
春香「は…はい」
ダンスの先生「そうね…」
ダンスの先生「リーダーであるあなたにも見てもらおうかしら」
ダンスの先生「皆のダンスを」
春香「え…私もですか?」
ダンスの先生「一緒に踊っているあなたなら、的確な指示が出せるかもしれないわ」
春香「……」
きっかけは訪れた
春香「はい…!」
スタスタ…
私は指導者側の方へ移動する
踊っている最中に皆のダンスを横目で見ることはあった
でも、観客側から見るのは初めてだ。
ダンスを見ればどうすればいいか分かるかもしれない
皆のことが分かるかもしれない
ダンスの先生「じゃあ天海さんのスペース空けたまま1番だけ通すわ」
皆のことが分かったら、私が何とかするから
そしたら、また皆で踊ろうよ
あの頃の『皆』で
ダンスの先生「じゃあ流すわよ」
今回は大丈夫
不思議なくらい落ち着いている
皆のダンス…見せてもらうから
やがて、音楽が流れ出した
静かな曲の始まり
それに合わせて皆は動き出す
全員「…」スッ
集中しているのがひしひしと伝わってくる
皆すごいなぁ…
イントロの部分だけでも圧倒されそうになる
イントロも終わりに近くなり、歌い出しに向けて皆の集中も高まる
春香「…」グッ
それに合わせて私の緊張感も高まる
………でも
イントロが終わった次の瞬間
春香「!!!」
ダンスは全く別の物へと豹変した
春香「………」
春香「え……」
なに…これ……ダンス?
そこには一体感なんてものはない
それぞれが自分の踊りをただひたすらに披露する
集中なのか焦りなのか
それが入り混じったものすごい意志が伝わってくる
春香「あ……あ……」
知らない…
私…こんな人達知らない…
だめ…やっぱりだめ!
何度決意しても踏みにじられる
その滲み出てくる意志はなに…?
春香「やめてよ…」
春香「やめて…やめて」
ダンスが終わっても震えは止まらなかった。
ダンスの先生「どう、天海さん?」
春香「踊れない…」
ダンスの先生「え?」
春香「皆で踊るなんて無理だよ…」
ダンスの先生「…なるほどね」
ダンスの先生「2.3人でペア作って動き合わせてみなさい」
ダンス「これはいい案だわ、天海さん」
春香「え………」
だめ…そんなことしたらもっと…
美希「ミキ、もっと早く踊れるの」
真「雪歩もっと速く」
雪歩「そ、そんなの無理」
伊織「やよい…何回そこミスしてるわけ?」
やよい「すみません!すみません…」
だめ…だめ…
春香「ちょっと…みんな辞めて」
「もっと速く!」
「もう何回目!?」
「無理無理…」
「すみません…すみ…ません」
春香「やめて…」
ドンッ…
騒ぎが静まらない中、とうとう伊織が激怒した
伊織「もう…」
伊織「全っ然練習にならないじゃない!!!」
春香「……」
最悪だ…
やよいは下を向いたままもう何も言わない
千早「私…1人で練習してます」スタスタ…
千早ちゃんはそう言って練習場から出て行った
春香「……」
春香「どうして…」
何もかも終わった
春香「なんで…」
もうどうにもならない
希望もない
春香「なんで…!」
今まで皆で培ってきたものが一気に崩れた気がした
春香「簡単でしょ!協力することくらい!!!」
私の声も虚しく、騒音に飲まれる
春香「……」
もうアイドルをやめよう
私は入り口に歩いて行った
ごめんね…皆
ごめんなさい…小鳥さん
もう私耐えきれない
私は今日をもってアイドルを辞めます
弱い私でごめんなさい
みんな
………さようなら
そうして入り口に辿り着いた
春香「……」
春香「あれ?」
外に出ようとするも、ドアが見つからない
…ここ入り口だよね?
ドアあったよね
春香「…」スッ
少し顔を上げる
春香「……」
ドアは見つかった
けど…何かが塞いでいる
…人が
………………人?
「天海君」
春香「!」
春香「…社長?」
「春香ちゃん」
春香「…小鳥…さん」
入り口に社長と小鳥さんが立っていた
小鳥「春香ちゃん…」
春香「私……」
春香「……」
春香「私…わたし!」
サッ…………
春香「あ…」
小鳥さんの腕が私を包んでいた
小鳥「大丈夫だから」
春香「私…」
小鳥「大丈夫よ」
春香「………」
小鳥「だいじょうぶ…」
春香「……」
春香「…はい」
ぎりぎりの所で、私は自分を失わずに済んだ
小鳥「まだ…がんばれる?」
春香「…はい」
小鳥「千早ちゃんのこと…頼んでもいいかしら」
春香「え…でも」
社長「ここは私に任せてくれたまえ」
春香「…社長」
社長「大事な親友を放って置く気かい?」
春香「!」
春香「……」
春香「…いえ」
スッ………
春香「……」
春香「ありがとうございます」
今日はもう寝るお!
今日も少しずつ投下します
気づいた時にはもう走り出していた
タッタッタッ…
千早ちゃん…どこにいるの!?
この近くでダンスの練習ができる場所
道端…はだめ
広場?
春香「いや…!」
すぐ横に公園が見えた
…そうか、公園なら
春香「…」スタスタ
春香「…」
ピタッ…
そこに千早ちゃんは居た
千早「…」タッ
タッ…タッタッ……
近づいている私にも気づかない
千早「…あっ」ガクッ
春香「…!」
千早「…くっ」
千早「また同じところを…!」
春香「千早ちゃん…」
1人で歌っている時も、踊っている時も
やっていることは違っても
周りが見えなくなるくらい集中する
でも、千早ちゃん…
寂しそうな顔してるの
千早「…」タッタッ
千早「…あっ」ガクッ
千早「………」
千早「もう一回…」
春香「あおいーとり~」
千早「…?」
春香「もししあわせー」
千早「………」
春香「ちーはーやーちゃんっ」
千早「…春香?」
春香「探したよ」
千早「な…何でここに?」
春香「………」
春香「千早ちゃんってさー」
春香「よくこうやって歌ってたよね」
千早「………」
春香「千早ちゃんの歌聞くたび、元気付けられたなぁ…」
春香「私もがんばろうって」
千早「………」
春香「千早ちゃんほんとに歌が好きだもんね」
春香「でも…」
春香「その歌も、皆がいるから歌えると思うの」
春香「…ダンスもそうじゃないかな」
千早「………」
春香「もう一回皆で踊ろうよ」
春香「…だめ?」
千早「………」
千早「ごめんなさい」
春香「………」
千早「1人で居る方が集中できるの」
千早「プロデューサーの言うとおり、私はダンスは踊れない」
千早「歌だって世界に通用しない」
千早「私がこれからやっていくには歌だけじゃダメなの」
千早「歌も、もっと上手く歌えるようにならないといけない」
千早「だから、とにかく今は練習がしたい」
千早「踊れるようになったらまた戻るわ」
千早「ダンスはその時合わせれば問題ないし」
千早「だから…今は1人にしてくれないかしら…」
春香「………」
春香「千早ちゃんにとってのダンスって、そんなものなんだ」
千早「…えっ」
春香「歌も、世界で通用するようになるために歌うの?」
春香「ふふ…」
春香「変な千早ちゃん」
千早「なっ…」
春香「今の千早ちゃんなら私の方が上手に歌えるよ」
千早「なに言って…」
春香「聞いてみる?」
千早「………」
春香「………」
スゥー…
息を整え、私は静かに歌う
春香「ねぇ…いま」
春香「見つめているよ」
春香「離れていても」
「ふふ」
春香「…えっ」
千早「春香、音程ずれてるわよ」
春香「わわっ…」
千早「…」
千早「こう歌うのよ」
スッ
千早「ねぇ…いまー」
春香「…わぁ」
千早「見つめているよ…」
千早「…離れていても」
千早ちゃんの歌…やっぱりすごい
私は思わず聞き入ってしまった
千早「Love…for you」
春香「すごいね…千早ちゃん」ボソッ
千早「心は…春香、今何か言った?」
春香「えっ…」ハッ
春香「何でもないよ!…気にせず続けて?」
千早「そう…じゃあ歌うわよ?」
春香「うん…!」
千早「Love…for you」
春香「ふふ…」
千早「心はずっと」
千早「傍にいるよ」
ねぇ…千早ちゃん
あの時の事、覚えてる?
千早ちゃんの声が出なくなった時のこと
「もう涙を拭って微笑って」
必死に歌おうとする千早ちゃんを助けたいって
気がついたらステージに走ってた
「1人じゃないどんな時だって」
あの時も1人じゃなかったよね
歌ってる時の千早ちゃん
とても楽しそうだったよ
「夢見ることは生きること」
だからこれからも歌ってほしいな
春香「あの時の千早ちゃんみたいに」
「悲しみを越える力」
約束
「歩こう…果てない道」
まるで聞く人を包み込むような
「歌おう…天をこえて」
そんな歌が公園に響いていた
「想いが…届くように」
私はそっと
「約束しよう前を向くこと」
微笑んだ
「Thank you for smile」
………………。
千早ちゃんの目から涙が流れていた
春香「………」
千早「………」
春香「………」
千早「春香」
春香「…うん」
千早「ありがとう」
春香「………」
春香「うん…!」
千早「春香が何を言いたいのか分かった気がするわ」
春香「千早ちゃん…」
千早「………」
千早「春香が今願っていることって何かしら」
春香「えっ…」
春香「うーん」
私が今願っていること…
春香「プロデューサーさんが帰ってくる前の…」
春香「お互いが助け合うような…そんな皆に戻って欲しい」
春香「そして」
春香「また皆で楽しく踊りたい…かな」
千早「そう…」
春香「うん」
千早「……」
千早「きっと皆…」
千早「皆は今を乗り越えたいと思ってるんじゃないかしら」
春香「え?」
千早「今のこの状況を無かったことにするんじゃなくて」
千早「乗り越えて成長したい」
春香「!」
千早「そう思ってるんじゃないかしら」
千早「私も声が出なくなったとき」
千早「歌える頃に戻りたいと思った」
千早「でも…」
千早「乗り越えたい、乗り越えて成長したい」
千早「そう思ったわ」
春香「……」
春香「そっか…」
春香「そっかぁ…」
千早「春香の気持ちは間違ってないと思う」
千早「でも皆の気持ちも間違ってないと思う」
春香「…うん」
春香「ありがとう千早ちゃん」
春香「私、もう一度皆と会って話してみるね」
千早「待って春香」
春香「…?」
千早「私も行くわ」
春香「…うん!」
スタスタ…
私と千早ちゃんは練習場へと足を戻した。
今日はもう寝るお!
今日も少しずつ投下します
スタスタ…
春香「…」
千早「…」
練習場までそこまで距離はない
歩いて10分…そんなところだろう
春香「それにしても」
「よくここに公園があるって知ってたね」
「昔、ここを通った時に見つけたのよ」
「へぇ~…」
「………」
さっきの騒動が今どうなっているか
いざ練習場に向かうと
不安が押し寄せてくる
春香「大丈夫かな…?」
千早「分からないわ」
千早「少なくとも…」
千早「いい状況じゃないことはたしかよ」
春香「………」
千早「でも…」
春香「…うん?」
千早「今は私も居るわ」
春香「…うん」
やがて練習場に着いた
春香「…」
千早「…」
入り口の前で2人立ち止まる
千早「…春香」
春香「うん…」
春香「入るよ」
千早「ええ」
春香「…」
大丈夫、大丈夫
私は自分にそう言い聞かせた
ガチャ…
………。
中は静かだった
春香「…今戻りました」
全員「………」
社長「天海君…」
一応騒動は治まってるようだ
伊織「これからどうするのよ」
春香「……」
伊織「もう練習にならないじゃない」
春香「……」
春香「そうだね」
千早「えっ」
伊織「え…?」
春香「今日の午後は練習中止」
律子「……」
春香「皆…事務所に来てくれないかな」
伊織「待ちなさい」
伊織「どういう意味なの…練習中止って?」
伊織「それに」
伊織「プロデューサーが知ったらどうするのよ」
春香「私が責任をとるから」
伊織「……」
社長「そんなに大事な事なのかね?」
春香「はい」
社長「分かった…私は天海君を信じる」
律子「……」
春香「みんなに…」
春香「見て欲しいものがあるの」
………事務所………
伊織「それで」
伊織「見て欲しい物って何よ」
春香「……」
スタスタ…
私はプロデューサーさんの机に向かう
プロデューサーさん…
日記帳をお借りします
スッ
小鳥「それって…」
春香「プロデューサーさんの日記帳です」
春香「私達がプロデューサーさんに出会ってから」
春香「今までのことが書いてあります」
春香「……」
春香「ハリウッドでの出来事も」
全員「!」
伊織「…」
貴音「なんと」
社長「し、しかし」
社長「これはプライバシーにも関わる」
社長「彼に無断で見るのは問題があると思うがね?」
春香「今はプロデューサーさんのことを知るのが」
春香「何よりも大事だと思います」
社長「………」
社長「…分かった」
社長「だが、見るのは少しだけにしてほしい」
社長「これだけは守ってくれるかね?」
春香「…はい」
パラッ…
皆に見えるように日記帳を開いた
○月○日
今日からハリウッドの研修が始まった。
全員「……」
パラ…パラ…
少しずつページを開いていく
ページをめくる度に皆の表情は暗くなっていった
伊織「!」
雪歩「うっ」
私自身直視できないカタカナの文字列
伊織「なによ…これ…」
響「精神に悪いぞ…」
社長「………」
○月○日
あれからハリウッド研修が始まって3ヶ月。社長から連絡があった。
春香「………」
私が読んだ最後のページ
社長「あの時はたしかに連絡をいれた」
社長「まさか、こんな事になっていたとはねぇ」
春香「……」
そういえば、この先はまだ見てなかったっけ
私はふと気付いた
春香「この先は…」
パラッ…
社長「天海君」
社長「もうこれくらいにしたら、どうかね?」
春香「えっ」
全員「……」
もう見たくない
皆そんな表情だった
スッ…
元の場所に日記帳を戻す
伊織「何かあるとは思ってたけど…」
貴音「あなた様…」
春香「プロデューサーさんのハリウッドでの出来事」
春香「だいたい分かったよね?」
春香「皆辛いと思うの」
春香「でも…それはプロデューサーさんも同じ」
春香「指導だって私達のためを思ってのことだと思う」
春香「私…昔に戻りたいって思ってたの」
全員「……?」
小鳥「………」
春香「例えば」
春香「穴を掘ろうとする雪歩」
雪歩「えっ」
春香「居眠りする美希」
美希「……」
春香「いたずらする亜美、真美」
亜美「……」
真美「春香さん…」
春香「それだけじゃないけど」
春香「そんな皆がいる765プロでの生活が」
春香「とても楽しかった」
春香「でも、皆変わってしまって」
春香「もうあの頃の生活に戻れないんだなって思ったら」
春香「辛くて…辛くて…」
春香「1度はアイドルやめようかとも思った」
全員「……」
春香「……」
春香「けど、もういいの」
春香「皆は私と違って、今を乗り越えたい」
春香「そう思ってるんだよね」
春香「皆がこの先どう変わったとしても」
春香「もう私は何も言わない」
春香「……」
春香「私も」
春香「今を乗り越えたいと思ったから」
春香「でも、1人で乗り越えようなんて寂しいよ」
春香「私達いつも皆で協力して今までやってきたよね」
春香「みんなには私達がいる」
春香「乗り越えるなら皆で乗り越えようよ」
春香「それが765プロ…ううん」
春香「私達だと思うから」
全員「……」
その時だった…
「何やってるんだ…こんなところで」
春香「えっ………」
今日はもう寝るお!
寝る前に少しお話を…
SSを読んでくれている方々、レスや応援してくれる方々、こんなSSを読んで下さってありがとうございます。
明日の投稿にて一時中断となります
1週間以内にはまた続きを書く予定です
おやすみなさい
今日も少しずつ投下します
この声…何でここに?
春香「プロデューサー…さん」
P「何をやっているかと聞いてるんだが」
春香「それは…」
予想外の出来事だった
練習を中止したことが
いずれバレることは覚悟していた
リーダーを降ろされることも
でもそれは皆がまとまってからのこと
まとまった皆なら大丈夫だと思うから
でも今はまだ早すぎる
バラバラな皆がゆういつ一つになれる中心、リーダー
まだ降ろされるわけにはいかない
P「今は練習の時間じゃないのか?」
春香「……」
P「おい…春香」
春香「…そうです」
P「…じゃあ何でここにいるんだ」
春香「練習は中止にしました」
P「なんだと?」
P「春香にとってのリーダーの行動はこれなのか?」
春香「はい」
P「……」
P「言ったよな」
P「俺が今求めているのは練習量だって」
P「今日が終わればライブまで1週間だ」
P「ただでさえ時間がないってのに…」
P「………」
P「少しでもお前に期待したのがバカだった」
P「リーダーから降ろす」
春香「!」
だめ…それはだめ
春香「いやです」
P「え?」
伊織「…あんた」
P「次は無いと言っただろ」
P「俺の代わりに全体練習に気合いを入れる」
P「そんなことも分からないお前に」
P「リーダーは任せられない」
春香「そんなこと考えてません」
春香「プロデューサーさんはそんなこと」
春香「考えてませんよ」
P「なんだと?」
春香「そんなに練習が大事なら」
春香「そんなに時間が惜しいのなら」
春香「全体練習だって」
春香「最初から練習場に集まればいいじゃないですか」
P「…なに」
春香「皆が集まる時間を作りたい」
春香「1つのことを皆でやろうとする場を作りたい」
春香「本当はそう思ってるから、1度事務所に集合する」
春香「プロデューサーさんの心の何処かで」
春香「本当はそう思ってるんじゃーー」
P「くっ…!」
春香「!」
フッ…
春香「うっ…」
パンッ…!
手ではたかれた
春香「…プロ…デュ」
P「お前はリーダー失格だ」
春香「……う…」
………………。
以前もこうやってはたかれましたっけ
春香「プロデュ……サ…さん…」
思い出した…
最初にリーダー失格を告げられた時のこと
それは皆が変わり始めたころ…
朝の仕事で私がミスをした日のこと
(おい誰だ…ペンを隠したのは)
(あれ~兄ちゃん失くしちったのー?)
(お前か…?)
(………)
(2度とふざけた真似はするな)
(ごめんなさい…でも)
(最近兄ちゃん構ってくれないし…)
(亜美…なんか寂しいよ)
(仕事の邪魔だ)
(そんな…)
傍で見てるはずの社長が暴力を防ごうとしてないとかクズの鏡すぎるわ
(いくらなんでも酷いですよプロデューサー!)
(真か、何が酷いんだ?)
(厳しいこの世界でこんなに緊張感が無いのはダメに決まってるだろ)
(お前も自分が今やっていけてる意味を考えろ)
(もうメリーゴーランドの時みたいに)
(お姫様気分に浸るような)
(そんな感情は捨てるんだ)
(……)
(何言ってるんですかプロデューサーさん!)
(そんな言い方あんまりじゃないですかぁ!)
(春香、お前は今日ミスしただろ)
(反省でもしたらどうなんだ?)
(どうしたんですかプロデューサーさん…)
(ほんとにどうしたんですかぁ…)
(私でよければ話聞きますから)
(こんなのプロデューサーさんらしくないですよぉ…)
(もういい、仕事の邪魔をするな)
(………)
(おい、聞いてるのか)
(いやです)
(…なに?)
(邪魔しますよプロデューサーさん)
(こんなプロデューサーさん見たくないです)
(プロデューサーさんが大事にしていたのは団結じゃないですか)
(仕事の邪魔だと言ってるだろ)
(プロデューサーさん…)
(その机に置いてある写真は何ですか?)
(……?)
(それ、お花見した時の集合写真ですよね)
(…!)
(あの時私嬉しかったんです)
(私の財布使ってくれていて)
(…もういい早く行け)
(いやです)
(いくらリーダーといっても、これ以上は許さないぞ)
(いやです、プロデューサーさんが分かってくれるまで)
(ここにいます)
(………)
フッ…
(……!)
(す…ストレスが溜まってるんですか?)
(いいですよ…ぶっても)
(それで…プロデューサーさんがーー)
パンッ…!
(春香ちゃ…!)
(お前はリーダー失格だ)
そうだ…
その時私は変わってしまった
春香「……」
あの時の痛みが込み上がってくる
ああまただ…
また私は諦めてしまうのかな…
また無口になるのかな…
無口になって
また同じことを繰り返すのかな…
プロデューサーさん…
プロデューサーさんとまた
楽しい生活をおくりたかったです…
そこには楽しそうに笑う皆がいて…
…そう、皆がいて
………………。
プロデューサーさんもそういう生活を
望んでいるんじゃないですか?
…笑ってる皆を見たいんじゃないですか?
私は今を乗り越えてまた皆と…
そう皆と…
………だから
まだ諦めるわけには…
あきらめるわけにはいきません
春香「ぶたれても平気ですよ、プロデューサーさん!」
P「…!」
P「なぜなんだ…」
P「どうしてぶたれてまで反抗する」
春香「反抗じゃないです」
P「嘘をつくんじゃない」
P「俺の指導に不満があるんだろ?」
P「だからーーー」
春香「そうじゃないんです」
春香「そうじゃないんですよぉプロデューサーさん!」
春香「私達のために指導してくれるプロデューサーさんのことが」
春香「皆大好きなんですよ」
P「なっ…」
P「でも…これ以上春香にリーダーは任せられない」
春香「………」
「そうはさせないわ」
P「!」
伊織「春香はリーダーよ」
春香「伊織?」
伊織「あんたがそうするのなら、私はライブには出ないわ」
P「何を…」
小鳥「私からもお願いします」
P「小鳥さんまで…」
お願いします…
皆口々にそう言った
P「……」
P「分かった…」
春香「プロデューサーさん!」
P「でもだ」
P「俺の指導についてくること」
P「もし途中で誰かが弱音を吐いたりしたら」
P「春香、お前が責任を取るんだ」
春香「……」
P「どうだ?」
春香「はい」
「その必要はない」
社長「責任なら私が取るさ」
社長「アイドルの諸君はライブに集中したまえ」
春香「社長!」
P「自分が何を言ってるのか分かってるんですか?」
社長「ああ、分かっている」
社長「キミには前から謝りたかったんだ」
社長「ハリウッドでのことを」
P「……」
社長「キミたちの未来のためなら」
社長「私の人生をかけたっていいさ」
社長「キミへの償いも含めて」
P「………」
社長「だが今すぐ決めるわけにもいかない」
社長「天海君達にやり遂げる意志があるかどうか」
社長「1度話し合ってくれたまえ」
そうして話は1度中断した
……………………
……………………
……………………
プロデューサーさんは社長と社長室にいる
私達は集まって話し合った
皆の気持ちは1つだった
春香「伊織、ありがとね」
伊織「は?」
春香「さっき伊織が何も言ってくれなかったら」
伊織「自惚れてんじゃないわよ」
伊織「私はまだあんたのことは認めてないわ」
伊織「結局責任もとらなかったしね」
春香「……」
伊織「ただ…」
伊織「あんたが責任を取ると自分で言っておいて」
伊織「嫌だと言うような奴じゃないのは分かってるわ」
伊織「どうしても譲れない気持ちがあったのよね」
春香「……」
伊織「今回はそれに免じてあげただけよ」
春香「…うん、ありがとう」
春香「じゃあ、伝えてくるね」
私は社長室へ向かう
私達の一週間が始まった
今日はもう寝るお!
昨日も言った通り、一時中断です。
読んでくれてありがとうございます。
おやすみなさい。
>>356
本来は社長だけでなく他の人も驚いてるんですが、敢えてその描写は省いていますm(_ _)m
コメありです
……………………
……………………
……………………
皆が解散した後、私個人に社長から話があった
私のことは気にするな
どうしても辛くなったら、私のところに来るといい…と
今はその帰り途中
始まった…といってもそれは明日からの話
何もライブは全員でのダンスだけじゃない
個人、または複数での演出もある
1週間の間に全体練習かつ
各個人での練習もやらないといけない
周りはすっかり夜
暗闇に射す光がいつもよりいつもより眩しく見える
明日からの練習が上手くいくという保証はない
だからといって不安があるわけでもないんだけど…
「長くなりそうだなぁ…」
率直な気持ちを吐き出す私に降りかかる声
「春香」
声がした方を見ると、本人はベンチに腰掛けていた
春香「真…何してるの?」
真「ちょっと喉が渇いたからひと休み」
春香「ふぅ~ん…」
ボクも帰るよ、と真は立ち上がり私の少し前を歩く
何か少し…気まずい
私が練習を中止にしたせいで皆に迷惑がかかった
社長まで巻き込んでしまった
真は迷惑だとか思ってないのかな?
真「謝らなくたっていいよ…」
謝る私に真は振り向いて答える
真「誰も春香のこと悪く思ってないって」
でも、事を起こした原因は私…
真「もう…心配性だなぁ春香は」
そう言って真は俯いた
真「寧ろ感謝してるよ」
春香「え?」
真「最近何でアイドルやってるのか、分からなくなってたから」
春香「………」
真「でも今日のことで、少し吹っ切れた」
真「もう一回自分と向き合ってみようと思った」
真「王子様も悪くない…」
真「そう思ってるよ」
真「まぁ…」
真「男の子と間違えられるのは嫌だけどね」
そう照れ笑いを浮かべる
春香「真…」
春香「ううん、真は私のお姫様!」
真「その言い方もちょっと傷つくなぁー」
春香「わわっ…」
ははは、と真は笑う
真「じゃあボクこっちだから」
春香「うん、また明日ね」
真はそう別れを告げ歩いていく
そこに、かつて寂しそうに笑う真の姿は無かった
http://imgur.com/dXeH6lA.jpg
真「もう…心配性だなぁ春香は」
今日はもう終わりです
絵は何となく描きたくなったので描きました。
下手くそですが、優しく見て上げてくださいm(_ _)m
……………………
……………………
……………………
翌朝、私はいつも通り事務所に向かう
ライブまでの練習期間はあと1週間となった
練習中止、その後の事務所での出来事
真と話したといっても、それ以来まだ皆と話をしていない
昨日の今日でもあって皆と顔を合わせるのはまだ少し緊張する
不安も少し…
「おはようございます!」
緊張を振り払うかのように挨拶した
「おはよう、春香ちゃん」
春香「小鳥さん…!」
真っ先に返事したのは小鳥さんだった
春香「もう…大丈夫なんですか?」
小鳥「ええ、昨日退院して今日からは仕事もしていいって言われたの」
そっか…だから昨日は練習場に
「元気そうだねぇ天海君」
春香「社長…!」
隣には社長もいた
小鳥さんも退院して、事務所にくる余裕ができたようだ
でも何か少し浮かない顔をしているような…
春香「………」ハッ
そうだった…
社長は次のライブに全てをかけている
不安が無いわけないよね
少し社長に申し訳なく思うと同時に自分の儚さに少し嫌気がさす
社長「昨日言ったことを、もう忘れたのかね?」
そう、社長は私に言う
社長「私のことは気にせず、ライブに集中したまえ」
社長…
小鳥「がんばってね…!」
そこには優しく微笑む事務員と、どっしりと構えている社長がいた
春香「はい…!」
今はこんなに頼もしい人達がついてくれている
気がついたら不安は消え去っていた
「春香さんおはようございます!」
春香「え…お、おはよう」
背後から唐突な挨拶
春香「…亜美?」
亜美「春香さん、こっちです!」
春香「う、うん…」
言われるがままに着いて行く
行き先は真美の元だった
亜美「真美、連れてきたよー?」
真美「え!?ちょっと…」
連れてこなくていいって言ったっしょ?
そう返す真美に、でも~とだだをこねる亜美
…どうなってるの?
真美「えっと…おはようございます」
控えめに喋る真美
とりあえず返事をする
真美「その~何というか」
春香「うん?」
真美「これからも…よろしく、お願いします」
真美はそう言って頭を下げた
亜美「いやー亜美達最近1人で突っ走ってたっていうか…」
亜美「周りが見えてなかったというか…」
亜美「春香さんのいうように協力…しようかなーみたいに…思いまして」
敬語に慣れていないのかぎこちなく喋る亜美と真美
2人とも雰囲気が少し大人っぽく見えた気がした
真美「昨日見た日記帳で少し吹っ切れたと気がしたん…です」
真も似たようなこと言ってたっけ
敬語を使う亜美と真美
まだ距離はあるけど、その距離を縮めよう
そんな意志が伝わってきた
「自分もだぞ春香」
春香「え…」
背後から急な呼びかけ
振り返るとそこには皆が立っていた
千早「私もよ、春香」
春香「千早ちゃん…」
貴音「ふふ…共に精進するのです」
あずさ「皆でなら、道に迷っても大丈夫…かしら?」
やよい「これからもよろしくお願いしますっ!」
その横に真と静かに微笑む雪歩
伊織は黙って奥から私を見ていた
春香「皆…」
皆、思い直してくれたのかな
小鳥さん…私、上手くできたのかな
学校での新クラスにある特有の初初しさ
いや、
喧嘩したあとお互いに仲直りしようとするような?
そんな微かな繋がりが見えた
春香「うん…!」
私は涙を堪えながら頷いた
社長「全員、集まっているようだし、そろそろ移動したらどうかね?」
一区切りついたところで社長が皆に呼びかける
そこで私はあることに気がつく
美希がいない…?
小鳥「美希ちゃんならプロデューサーさん達と既に練習場に向かったわ」
私の気持ちを察したかのように小鳥さんは伝えてくる
春香「そうですか…」
何でだろう…
とりあえず練習場に向かわないと
春香「じゃあ私達も練習場にーーー」
そう言いかけて事務所を出ようとしたところで
足を滑らせる
春香「うわぁ…!」ドンガラガッシャーン
春香「いたた…」
何やってるんだろ私
もう転んでも誰も構ってくれないのに…
少し切なくなる
でもそれを押しのけるかのように声がかけられる
真「あはは…何やってんの春香」
春香「え…」
雪歩「春香さんは相変わらずですよね」
軽く笑いが起きた
春香「真…雪歩…」
久しぶりな気がする
私が転んで場が和んだのは
春香「うん…うん、ごめんね!」
それがとても嬉しかった
春香「それじゃ…いこっか」
まだ完全とはいえない
だけど、少しずつ
ほんの少しずつ
失った繋がりが戻りかけている
そんな気がした
「いってらっしゃーい」
小鳥さんの暖かい微笑みに優しく見送られながら、私達は事務所を出た
……………………
……………………
……………………
「違う…そこは右からだ!」
「はいなの!」
練習場に着くと中から気迫の篭った声が聞こえてきた
プロデューサーさんと、美希かな…?
予想がたったところで、中に入る
「あっ…」
春香「美希…」
「ごめんなさい」
そう言って美希は私の元へと走ってきた
…ごめんなさい?
先に練習場へ向かったことへの謝罪だろうか
春香「美希…先に来てたんだね」
美希「日記を見てから…居ても立ってもいられなくなったの」
ごめんね…今日だけなの
そう何度も美希は謝った後
美希「春香の言いたいことは分かってるの」
美希「キョウリョクして…乗り越えるの」
真面目な表情、されど見る人を安心させるような
そんな表情でそっと微笑んだ
春香「美希…」
まだよく実感が湧かない
この前までバラバラになっていた皆が
今、まとまろうとしている
ただただ嬉しかった
春香「うん…!」
がんばろうね…皆
皆で今を乗り越えて、また楽しく歌って…踊って
何よりもーーー団結ーーー
皆がこの先変わっていったとしても
私達はずっと…一緒…だよね
「春香」
そう私を呼ぶ声が近づいてくる
P「もう話は済んだのか?」
真面目な声色
自然と私の意識も高まる
春香「はい…」
P「………」
しばらくの沈黙
何かを言いたげな、そんな表情
P「そうか…」
そう言ってプロデューサーさんは
P「練習開始だ!」
一週間の始まりを告げた
練習は思ってた以上に順調に進んだ
踊っている私達でさえも動きが合っているのが分かる
P「ん…?」
律子「……」
プロデューサーさんも律子さんも少なからず驚いていた
この前までのダンスは何だったんだろう
そんな表情だ
春香「……」
プロデューサーさんが付けていた日記
そのおかげで皆の気が変わった
あんなにバラバラだったみんなが…
また…変わり始めた
今の皆の気持ちは、ライブを成功させること
プロデューサーさんを楽にしてあげたい
そして…今を乗り越えたい
そう思っていると思う
それほど、プロデューサーさんは皆にとって
大事な存在なんですよ
プロデューサーさんも苦しいのは分かってます
乗り越えればいいんですよね?
ライブを成功させてまた…
私達皆で765プロを作りたい
そのためなら…
プロデューサーさんの指導にも耐えられます
えへへ…
何か………出来過ぎですね
春香「あれ…?」
………………。
出来過ぎ…?
春香「えっと…」
周りで一緒に踊っている皆が色褪せていく
えっと……
汗が背中を伝っていく
出来過ぎって…なに?
あはは…嫌だなぁ私
変な考え癖がついちゃったのかな…
皆が今まとまろうとしてるんだよ?
良い方向に向かっていることに違いはない
何にも心配することないじゃん…
そうでしょ…?
春香「あはは…」
………………………。
でも…何なんだろう
この押し寄せてくる不安感は
今日はもう寝ます
千早「待ちなさい春香!わっほーーい!!!」
雪歩「春香さんは相変わらずですよね」
春香…さん?雪歩は春香ちゃん呼びするようになったんじゃ…
リーダー命令でちゃん付けして敬語も使わないようにしたんじゃなかった?
響「あれっ…」ユラッ
ガタッ
春香「!」
P「ストップ」
響「皆ごめん…バランス崩したぞ」
普通に考えればただのミスかもしれない
でもそれがとても大きな事に思えた
春香「響ちゃん!!!」
P「ん…」
響「は…春香?」
貴音「どうかなさったのですか?」
響チャレンジの話が頭を過る
春香「響ちゃんの足…大丈夫?」
響「え…?」
響「…何ともないぞ?」
春香「そ、そうなんだ…ごめんね大声だして」
大丈夫…そう言った
でも不安は止まず、その後もあまり練習に集中できなかった
春香「ほんとに大丈夫?」
午前の練習が終わったあと、私はまた同じことを聞いてしまう
響「大丈夫だって言ってるぞ…」
春香「でもーーー」
そう言いかけたところで言葉が出てこない
たしかに、普通に考えればただバランスを崩しただけ
ここまで心配する方がおかしい
そう思い直した
響「春香は心配し過ぎだぞ…」
春香「うん…ごめん」
力なく謝る
そんな私を見て心配したのだろうか
私を元気付けるように話を始めた
響「そいや今日ハム蔵と朝から喧嘩してしまって…」
響「朝から大騒ぎだったんだぞ!」
あはは…気を使わせちゃったかな
前向きに考えないと
響「もうハム蔵たらーーー」
春香「うん、分かった」
そう言葉を遮る
春香「心配かけてごめんね」
春香「私は大丈夫だから」ニコッ
笑ってみせる
その作った笑顔で誤魔化せたようだ
響「そっか…」
春香「うん」
響「じゃあもう行くぞ」
また後でな、春香!
そう言って響ちゃんは歩いていく
でも少し歩いた所でバランスを崩した
春香「!」
響「あれ…力が…」
嫌な予感しかしなかった
春香「響ちゃんやっぱり……!」
そばに駆け寄る
それに驚くかのように響ちゃんは立ち上がった
響「大丈夫だぞ!」
響「大丈夫な…はず」
響「あはは…」
そう言って逃げるように響ちゃんは去って行った
午後は各個人のソロや複数での練習
私はソロの練習
練習に身が入ることはなく、ただただ時間が過ぎて行く
今すぐにでも響ちゃんの足の状態を確認したかった
………………。
時間はゆっくりと過ぎて行く
早く終わって!
心の中で何度も叫んだ
………………。
ようやくレッスンが終わる
「ありがとうございました!」
そう言い捨てて私は事務所に走った
この時間帯なら皆はもう練習を終えて事務所に戻っているはず!
事務所の風景が頭に浮かぶ
何事もなく皆が笑っている風景
それとも…!
予想なんてどうでもいい!
事務所に着いた私は勢い良くドアを開いた
中は………
蹲る響ちゃんを皆が囲んでいた
響「痛い…痛い…!」
春香「はは…」
悪い予感が当たった
雪歩「春香さん…!」
春香「何があったの?」
真「さっきまで普通に話してたんだけど、急に…」
響…!響…!
何度も呼びかける貴音さん
私も響ちゃんに話しかける
春香「足…痛めてたんだね」
響ちゃんは私を見て狼狽えた
響「昨日までは何ともなかったんだ…!」
そう叫び放つ
美希「社長は今お出かけ中なの」
小鳥「響ちゃん、今すぐ救急車を呼ぶからもう少し我慢してね」
響「呼ぶな!」
響「痛みはすぐ治まるから…!」
響「皆も…病院にもプロデューサーにも…誰にも言わないでくれ…」
真「でも響、足…すごく痛そうだよ」
皆が呼びかける中、私は黙ってその様子を見ていた
…無事に乗り越えることなんかできるはずがない
伊織は黙って私を見ていた
今日はもう終わりです
春香「うわっ千早ちゃんが追ってきた!」
ライブまで残り6日
あの後響ちゃんの足の痛みは治った
何度も救急車を呼ぼうとする小鳥さん
誰にも言うなという響ちゃんの強い思いによって
その場は解決した
P「それじゃあ始めるぞ!」
今日も全体練習が始まる
響ちゃん…
そういえば、前から無茶なランニングしてたんだよね
私がそのことを知った日も、バランスを崩して転けてたっけ…
…その頃から足に異常があったのかな
………………。
どうすれば…
響ちゃんは昨日のことが嘘だったかのように、足を気にすることなくダンスをしている
それが逆に怖い
P「ストップ」
P「響、ステップが遅いから躓くんだ」
響「皆ごめんな…」
貴音「響…!」
そばに寄ろうとする貴音さんを響ちゃんは目で訴える
大丈夫だと…
P「もう一回今の所からーーーー」
あの時も響ちゃんは無理をしてたよね
…走って帰るって
響「う……く…!」
貴音「響!」
響「大丈夫だぞ…」
言ったよね…足壊しちゃうって
それを分かってて…ダンスを続けるの?
響「もう一回お願い…あれ」ガタッ
やよい「はわわ…」
あずさ「響ちゃん…」
響「おかしいな…こんな頻繁に痛むはずないんだけどな…」
P「響…お前!」
響「…」ハッ
プロデューサーさんの何かを悟ったような声に反応し、
ものすごい勢いで立ち上がる
響「次はもうミスしないぞ!」
響「続き始めるさー!」
P「………」
P「もう一回だ」
足の痛みは治まったようで、何事もなくダンスは続いた
響ちゃんはそれでよくても…
見ている私達が心配なんだよ?
やよい「あっ…」
P「やよい、今のはミスするようなところじゃない!」
やよい「えっと…すみません」
ほら…やよいの足震えてるじゃん
またすぐにやよいはミスをする
やよい「すみません…すみま…せん」
その後何度も何度も…やよいはミスをした
やよい「う………う…」
元々あまり練習に着いていけていなかったやよいは…
ミスを重ね続け、踊れなくなってしまった
午前の練習はそこで終わる
プロデューサーさんは黙って皆を見ていた
午後は昨日と同じソロの練習か…
響ちゃんは午前の練習が終わると同時に移動して、
やよいは何を話してもすみません…と謝るだけ
春香「……く!」
練習に全く気が入らない
ライブまでもう一週間を切ってるのに…!
集中………集中………
…これじゃ昨日と同じ
練習に不安は無いなんて、私バカみたいだね
午後の練習が終わる
今日も皆はもう事務所に帰っているだろう
響ちゃんはまた蹲っているのかな
やよいは…
春香「はぁ…」
事務所に帰りたくない
でも、帰らないといけないんだよね…
春香「ありがとうございました」
私は力なく事務所へと足を運んだ
春香「お疲れ様です」
………………。
事務所の空気は重い
それはそうだろう
逆に良い方がおかし…………
いんだけど…?
背筋が凍る
………え、何…これ…
重いにしても異常に空気が重すぎる
まさか響ちゃんの足が…!
春香「…」バッ
響ちゃんは…何ともない
けど…誰かを見ている
その先は…!?
…その先にはラーメンを食べる貴音さん…じゃなくて
その奥…!
春香「…やよい?」
やよい「う…うう……う」
顔は引き攣り、目はガッツリと開き、笑いながら下を見ている
何かに怯えるように、やよいらしき人が立っていた
顔面麻痺?
貴音「もう見ていられません!」
貴音さんは空になったカップ麺を捨てると、私の方へ歩いて来る
貴音「心配は無用です春香、私は明日も来ますから」
春香「貴音さん…」
このまま貴音さんを帰すわけには
春香「えっと…」
何かひとこと…!
春香「ラーメンばっかり食べてたらダメですよ…」
貴音「ふむ…」
そうじゃなくて!
何言ってるんだろう私
これじゃーーーーーーーー
貴音「そうですね…これからは他の物も食する事に致します」
春香「え………」
今…何て?
「やよい…大丈夫か!?」
「やよい!」
やよいを呼ぶ声によって私の意識はやよいへと向かう
やよい「う……う…」
やよいが泣いている
誰の呼びかけにも反応することはない
まともに喋ることもできなくなっている
春香「やよい…」
何とかしないと…
春香「や……」
何を言えばいいんだろう
私が何かを言ったところで、何か変わるだろうか
小鳥「やよいちゃん…!」
何でこうなるんだろう…
微かにあった繋がりがまた無くなっていく
せっかくここまで来たのに…!
私に近づいてくる足音
「どうするのよ…」
春香「え…」
伊織「あんたの言う団結…協力」
伊織「こういう時はどうするのよ」
どうする…
春香「……」
どうする…!
春香「うう…」
どうするって…
…どうすればいいの?
春香「どうもできないよ」
口から出てきた言葉は予想してもいないものだった
伊織「今…何て……言った…?」
春香「あはは…何て言ったのかな」
伊織は目を丸くしていた
伊織「あんたの言う団結って……何…だったのよ…」
何も言い返せない
伊織「あの時の意志は…」
表情が段々と険しくなっていく
伊織「あんた…ねー!」
春香「うっ…」
(全っ然練習にならないじゃない!!!)
伊織が罵声を上げればまたバラバラになってしまうだろう
伊織「ーーーーーーーーーー」
もうどうにもならないのかな
また…バラバラに
私、皆と笑っていたいよ
春香「はは…」
もうすぐ罵声が飛ぶ
………………。
……………………。
「だめですよ、伊織さん!」
伊織「え…」
…あれ?
「怒ったら…めっですよ!」
この声は?
何が起こったのだろう
誰かが伊織に話しかけている?
伊織「や…よい?」
やよいが笑っていた
伊織「さっきまで…」
やよい「えへへ…」
やよいが笑っていた
伊織「……」
伊織「分かったから…手…どかしなさい」
やよい「……」
伊織は罵声を上げなかった
伊織の頭から手を退かしたやよいは、また無表情になった
今日はもう終わりです
千早「逃げられると思いなさんな!春香わっほっほい!」
>>448
顔面麻痺というより、不安に押しつぶされてしまっているという現れです
ライブまで残り5日
一週間に例えれば土日を省く
月曜日から金曜日までの5日間
学校でいう基本的な1週間での投稿日数
感覚的にそれくらいだ
やよいの顔は無表情のまま変わることはなかった
伊織は私を睨みつけて帰って行った
私に対して嫌悪感を抱いているのだろう
ついこの前繋がりかけた輪がまた無くなって行く
私を底へ突き落とすかのような出来事が
まるで狙ったように降りかかる
私に対する誰かのイタズラじゃないだろうか
そう思えたりもする
「おはようございます…」
挨拶のトーンは低い
いや、低いのが元々当たり前だったっけ
なんて…そんなわけないか
響「春香…」
心細そうに私に話しかけてくる響ちゃんに、私は問う
どうしたの?…と
響「貴音が…来てないんだ」
春香「え?」
たしかに来ていない
いつもはラーメンを食べている姿が、今日は見当たらない
でも、よく見れば伊織もまだ来てないし…
そんなに焦ることじゃないんじゃないかな
春香「まだ集合時間まで1時間あるし、心配することじゃないよ」
春香「伊織もまだ来てないし」
春香「いつもは早い2人が今日は遅いなんて、何か変だね」
響「そうじゃないんだ…」
春香「え…?」
響「自分昨日貴音と約束したんだ」
響「一緒にラーメン食べようって…」
響「2時間前には来るって言ってたんだ…」
響「貴音は約束を破るような奴じゃないぞ」
春香「……」
響「何かあったんじゃ」
春香「でも…」
春香「ほら、寝坊したとか!」
春香「今ならもう起きてるだろうし」
春香「電話したら繋がるんじゃーーー」
響「それが…電話しても繋がらないんだ」
春香「………」
嫌な予感がする
ゴミ箱から溢れているカップが目に映る
まさか…いや、でも
響「事故…とか」
バン!
勢い良くドアを開ける
気がついたら外へと向かっていた
…そんなはずはない
そんなことがあるはずない!
宛先もなく街中を走る
救急車…人が集まってる場所…
そんなものは何処にもないはず…
貴音さんが事故に合ってないと分かればそれでいい
時折私を見て指さす人達がいたが、そんな事は御構い無しに走った
ただただ走り回った
……………………
どれくらい走っただろうか
気がつけば、私はもう走れなくなっていた
春香「足が……」
幸いにも近くにベンチを見つける
春香「ふぅ……」
荒い息を整えようと大きく息を吐く
……………………。
貴音さんは何処にも居なかった
救急車も通ったりしなかった
無事…なのかな?
春香「いや…」
経験からだろうか
無事だとは思えない
春香「じゃあ…どこに」
頭を抱える私に近づく人の気配
「何してんのよ…あんた」
春香「伊織…」
春香「何でここにいるの?」
伊織「あんたこそ何でここにいるのよ」
春香「それは…」
貴音さんの身に何かあってるかもしれない
でも、また確証はない
私の憶測で無駄に皆を不安にさせるわけにはいかない
伊織「はぁ…」
伊織「話なら聞いてるわよ」
春香「え?」
伊織「私が事務所に着いたら、あんたが出て行ったって話題になってたのよ」
春香「え…」
時刻を確認する
今はとっくに練習時間だ
私…そんなに走ってたんだ
春香「………」
伊織「………」
2人歩きながら道を辿る
響ちゃんが貴音さんのことを皆に話したそうだ
それで今捜索中と…
伊織がここにいるということはつまり
そういうことだろう
春香「じゃあ皆も今貴音さんを探してるんだね」
伊織「違うわ」
春香「え?」
伊織「やよいはプロデューサー達とレッスン中よ」
春香「…レッスン…中?」
伊織「練習に全くついていけてないのはやよいだけよ」
伊織「人を探すくらいなら、レッスンでも受けて少しでも踊れるようになってもらわないと困るわ」
伊織「1人くらい減ったって、それで貴音が見つからないなんてこともないわよ」
伊織「ま、私がそうさせたんだけど」
私は理解できなかった
貴音さんの安否よりもレッスンを優先する伊織の気持ちが
春香「何…考えてるの?」
嫌悪な表情で伊織を見る
この時ばかりは伊織に腹が立った
でも、それを跳ね返すように伊織は私を睨む
伊織「あんたには言われたくないわね」
伊織「口では団結だの協力だの言っておいて、肝心な時に見放すようなあんたに」
伊織「口出しされたくないわ」
春香「………」
(どうもできないよ)
何も言い返せなかった
伊織「それに」
伊織「これは嫌がらせでも何でもないわ」
伊織「やよいを思っての事よ」
春香「え?」
伊織「貴音が戻って来た時にやよいだけ踊れなかったら意味が無いじゃない」
伊織「どうせあんたは皆で探そうとか思ってるんだろうけど」
伊織「何でもかんでも皆でやればいいってもんじゃないわよ」
春香「………」
たしかにそうなのかもしれない
あはは…団結って何だっけ?
伊織「かといって…」
伊織「放り出したのかと思えば今度は1人で飛び出して行くなんて」
伊織「わけがわからないわね」
春香「………」
その後会話はなく私と伊織は歩く
春香「ねぇ…伊織」
伊織「…何よ」
春香「伊織が私のいう団結を否定する理由って何かな」
伊織「え…」
春香「ちょっと気になってたんだ」
春香「伊織が眠れないって言ってた頃から」
春香「ううん、その前から」
春香「あんなに仲が良かったやよいに対しても」
春香「亜美やあずささんに対しても」
春香「全部…私の言うことを否定するかのように…」
春香「接してるように見えたんだよね」
伊織「……」
春香「違うかな?」
伊織は黙り込む
春香「できれば話して欲しいな…」
自分の考えを肯定する表情
否定する表情
どちらにも受け取れた
伊織「あんた…私の家柄がどういうものか知ってるわよね?」
春香「え…う、うんまぁ…多少は」
春香「お嬢様みたいで…いいよね」
伊織「私はそうは思わないわ」
春香「……」
伊織「何もしなくても欲しいものが手に入る」
伊織「気に入らないわね」
春香「……」
伊織「よくいるわ」
伊織「練習でミスしても笑ってごまかすような」
伊織「ただ気を使うだけでチームワークを作っているつもりなだけの」
伊織「お遊びをやっている集団が」
お遊び…
伊織「似てるのよ…それと」
伊織「そんなもの自分の成長の妨げになるだけよ」
成長の妨げ…
伊織「プロデューサーが帰ってきてそれが良く分かったじゃない」
伊織「やるなら本気でやらないと、意味ないわ」
伊織「…ただ仲良くするだけの仲間なんかいらないのよ」
そう…伊織は言った
それが…伊織の本心?
春香「私達がそうだと言いたいのかな?」
伊織「……」
春香「ねぇ伊織…」
伊織は黙ったままこちらを見ようとしない
私は構わず続ける
春香「私達の団結ってそんなものだったのかな」
春香「亜美も、あずささんも、やよいも、他の皆も…」
春香「伊織にとってはその程度の仲間だったのかな?」
そう伊織に問いかける
すると今度は私に目を合わせてきた
そしてこう言い放つ
伊織「少なくともあんたはそう見えるわね」
春香「……え」
私が?
お遊びをやっている?
何…それ
春香「はは…笑わせないでよ」
春香「私の何処がそうなの?」
伊織「あんた…」
伊織「自分が正しいなんて考えてるんじゃないわよね?」
私が間違ってる?
春香「じゃあ…」
春香「伊織のやり方は合ってるのかな?」
伊織「……」
再び沈黙
prrrr…prrrr
そんな時私の携帯に電話がかかる
響ちゃんからだった
私が今何処にいるのか
貴音さんは見つかったのか
いろいろと聞いてきた
1度私と合流したいらしく
今居る場所を確認して、合流地点を決める
春香「今言い争っても仕方ないね」
春香「今は貴音さんを探すことに集中しよっか」
伊織「…そうね」
そうしてまた私達は歩き出した
………………。
そろそろ昼食の時間だろうか
どこの料理店も混雑している
春香「響ちゃんこの辺りにくるって言ってたけど…」
伊織「どこをつき歩いてんのよ…」
伊織は不機嫌そうに呟く
春香「どこにいるんだろうね」
周りを見渡す
どこにも響ちゃんらしき人は見当たらない
春香「あれ?」
そんな時、見覚えのある姿が遠くに見えた
しゃがんでいてよく分からないけど、あれは確かに…
春香「響ちゃん?」
よく見るとその人物は足を抱えてその場に座り込んでいる
春香「そんな…」
私はそこへ向かって走る
疲れからか足がもたつく
信号を渡り人混みを掻き分ける
伊織の声が聞こえてきた気がしたが、お構いなしに走った
春香「響ちゃん!」
響「春香…」
響ちゃんだった
足の状態は前より酷くなってるようで
しゃがんだ体制を維持することすら出来なくなっている
響「さっきまで何ともなかったんだけどな…」
控えめに笑いながら響ちゃんは足を摩る
その光景がとても惨めで私は目をそらした
響「貴音はまだ見つかってないんだよな?」
春香「うん」
響「そっか…」
響「貴音…」
響ちゃんの目は潤んでいた
見つからないという不安と
見つけてあげられないという悔しさからだろうか
響「今見つけるからな…」
地に手をついて立ち上がろうとするも
すぐにその場に崩れる
春香「だめだよ…」
響「でも…」
春香「今無理しても意味ないよ」
春香「ほら、皆探してるんだし…きっと見つかるから」
自分に言い聞かせるように話す
響「そうだな…はは…皆探してるんだよな」
響「……」
響「伊織も居たんだな」
春香「え?」
そこまで聞いて私はさっきまで伊織と居たことを思い出す
振り返ると、伊織は横断歩道の奥に立っていた
…いきなり走るんじゃないわよ!
そんな顔をしている
やがて信号が変わり伊織はこちら側へと歩き出す
春香「あはは…ごめん」
手と手を合わせ、私は謝罪のポーズをとる
…その時だった
響「あれ…おかしいぞ」
響ちゃんが震えながら指をさしている
その先に何かあるのかな?
そこには…
ただ車が走ってる風景しか
………
でもそれにしては異常にスピードが速いような…
車の走る先は横断歩道
春香「え…?」
…横断歩道?
………信号無視?
待って…そこには
春香「伊織…」
伊織はこちらへと歩いてくる
春香「待って伊織!」
声が届かないのか、伊織は意味深な表情を浮かべる
そんな…
…そんなことって!
響ちゃんはその場に蹲っている
春香「待って!」
全力で走るが足がもたついて上手く走れない
春香「あ……あ…」
なんで…
何でこんなことばかり起きるのだろう
車はだんだんと迫って行く
人がそれなりにいるこの通りで信号無視
普通はあり得ないだろう
私の周りで不快なことが起き続ける
私のせいなのかな?
伊織「えっ」
だめだ…もう間に合わなーーーーー
諦めて立ち止まる私の横を
響「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
響ちゃんが走り過ぎて
伊織の元へ向かって行った
………………。
ここは事務所
春香「響ちゃんほんとに足…大丈夫?」
響「大丈夫…だぞ」
伊織「バカ言ってんじゃないわよ!」
伊織「ろくに立ててないじゃない」
伊織も響ちゃんも間一髪の所で車とぶつからずに済んだ
無事ではあった
でも、無理をして走った響ちゃんの足は
もう常に立ってはいられなくなるほど限界に達していた
伊織「2人で支えていたとはいっても…」
伊織「ここまで歩いてこれた方がおかしいわよ」
小鳥「響ちゃん、本当の事を言いなさい」
響「うぅ……」
律子「響?」
響「律子…何でここに?」
律子「何でって、車にぶつかったって聞いたから飛んできたのよ」
響「え…」
小鳥「ごめんなさい、響ちゃん…私が連絡したの」
響「そんな…」
律子「それよりどこをぶつけたのよ!」
急かす律子さんを小鳥さんが止める
小鳥「ちょっと…律子さん落ち着いてください」
小鳥「どこもぶつけて無いみたいなんです」
律子「は?」
小鳥「すみません、私も慌てていたもので」
小鳥「勘違いしてたみたいなんです」
律子「な…」
なによもぅ…と律子さんは肩をおろした
伊織「ま、ぶつかってたら先に病院送りよね」
春香「あはは…」
不幸中の幸いとも言うべきだろうか
少しだけ空気が和む
でも、響ちゃんによってその空気も掻き消される
響「プロデューサーには言ってないよな?」
「………………」
響「プロデューサーにも社長にも…言ってないよな?」
響「足のことがバレたら、練習させてもらえなくなるぞ」
伊織「何言ってるのよ…まさかまだやるつもりじゃ」
響「やるぞ…」
そう言って響ちゃんは立ち上がった
響「自分…絶対やめない!」
………………。
私には分からなかった
いや…分からないというより分かりたくなかった
響ちゃんの考えていることが
律子「プロデューサー殿には伝えてないわ」
律子「小鳥さんに頼まれたからね」
響「ピヨ子?」
小鳥「ええ…」
小鳥「でも…どうしてそこまでこだわるのか」
小鳥「教えてもらえないかしら」
響「……」
小鳥「足の状態は響ちゃん自身がよく分かってるはずよ」
小鳥「それでも続ける訳を」
響ちゃんは黙り込んだ
なぜ足を痛めても練習するのだろうか
社長を気遣って?
いや…そうじゃない
勿論それもあるだろうけど
何か他に理由が?
響「最近…」
響ちゃんはゆっくりと話し始めた
響「最近…真面目に考えてみたんだ」
響「…自分が765プロに来てから、今までのことを…」
響「ずっと…思い返してた」
私達が765プロに来た頃…
まだプロデューサーさんもいない頃
響「仕事とか全然無くて」
響「それこそ、アイドルやってる実感なんか無かった頃をな…」
アイドル…
確かにその頃の私達はアイドルと言っても、名前だけの存在だった
仕事という仕事も無く、活動すらしてなかったっけ
響「皆といるのは楽しかったし不満は無かったけど…」
響「やっぱりアイドルとして活動してみたいなー…なんて」
響「思ったりもしてたさ…」
小鳥「うん…」
響ちゃんは静かに続ける
響「それから自分の生活は変わったさ」
響「本格的に仕事をしたり」
響「ライブをしたり…」
響「今まであんなに遠かったものが、どんどん体験できて夢みたいにも思ったぞ」
そう…
プロデューサーさんが来てから765プロは変わった
プロフィール写真の撮り直しから始まって
初仕事、初ライブ…
たしかに夢のようだった
響「まぁ最初はプロデューサーはあんまり頼りなかったけど」
響「それでも必死にプロデュースしてくれるプロデューサーが」
響「今思えばとても誇らしかったんだ」
響「仕事が増えてきて忙しくなっても頑張ることができたぞ」
小鳥「ええ」
響「でも…」
響「プロデューサーがハリウッドから帰ってきてから」
響ちゃん「そう思えなくなったんだ」
響「自分が今まで積み重ねてきたものが…崩れて行く気がして」
響「とても不安になったぞ」
春香「……」
今まで何をやってきたのか
何でアイドルをやってるのか
何も分からなくなった
響「不安で、不安で…」
響「ほんとは次のライブも、響チャレンジもやりたくなかったんだ」
響「でも…」
そのまま続ける
響「やりたくないからやらないなんてダメだし」
響「何としてもやり遂げようって必死になった」
響「必死にやれば何か変わるかもしれないって思ってたんだ」
響「でも…結局何も変わらなかった」
乗り越えたい
皆はそう思っていた
変わってしまったプロデューサーさんにショックを受けながらも
乗り越えたい、その気持ちがあった
………………。
私は戻りたいと思っていた
響「でも…」
響ちゃんは私を見る
そこで意外な言葉をかけられた
響「そんな時…春香が自分を変えたんだ」
春香「え…」
思いがけない一言だった
春香「私が…」
何をしたのだろう
響「必死になってた自分を…春香は心配してくれた」
響「あの時だって、泣いて止めてくれたのを…今でも覚えてるぞ」
響「自分の事で精一杯だった自分と違って」
響「春香は…皆の事を気にかけてたんだ」
響「それが…とても不思議だった」
響「心配なんかされたの久しぶりで」
響「なんとなく…昔のプロデューサーを思い出した」
小鳥「……」
響「それでな、プロデューサーの日記を見て分かったんだ」
響「…辛いのは自分だけじゃなかったんだなって」
日記のことははっきりと覚えている
少ししか読んでいないけど
プロデューサーさんがハリウッドで何があったのか
だいたい分かった
響「それで…」
響ちゃんは俯き、手を握りしめる
悔しさ、悲しさ、怒り…
いろんな思いが混じっているように見える
響「それでな…」
そう呟いた響ちゃんは黙り込む
…………………
少しの沈黙
そして、静かに言った
響「プロデューサーの事を気にかけてあげられなかった自分を…情けなく思った」
小鳥「………」
響「ぶたれても必死に話す春香を見て、尚更そう思った」
響「今まで自分のために頑張ってくれたプロデューサーに」
響「何かしてあげられないのかって」
響「プロデューサーを助けたいって」
響「いや…」
響「助けるとかじゃないんだ」
響「自分は…」
自分は…そう言って響ちゃんは顔を上げる
プロデューサーさんのために何かしたい
今までプロデュースしてくれた、プロデューサーさんに
…それだけじゃない
仕事以外のことでも
会話とか…いろいろ、感謝してる
そんな響ちゃんの気持ち
それは…
響「恩返しがしたいんだ」
複雑でもなんでもない
真っ白なものだった
小鳥「響ちゃん…」
響「それだけじゃないぞ」
響「辛いけど、ライブの練習をしてる今が…」
響「とても…楽しいんだ」
そう言って響ちゃんは笑った
「………………」
小鳥さんも、律子さんも、伊織も、私も
黙って聞いていた
律子「そう…」
律子「響の気持ちはよく分かったわ」
律子「でもね…響」
律子「これ以上無理をさせるわけにはいかないのよ」
響「そんな…」
響「痛み止めでライブまではどうにかできるぞ!」
律子「何言ってるの!響…よく考えなさい?」
律子「何もライブは次で終わりじゃないのよ?」
律子「それに今のあなたの足はとても危険な状態なの」
律子「立っていることが不思議なくらいよ」
律子「プロデューサーの立場としても言わせてもらうけど」
律子「これ以上無理をさせるわけには行かないわ」
響「……」
それは同感
どんな理由があれ足を壊したら意味がない
何より…足を壊した響ちゃんなんか見たくないし
響「でも…」
納得がいかないのか響ちゃんは律子さんに問う
響「自分が出られなくなったら、ライブはどうなるんだ!」
響「中止に…するのか?」
律子「……」
響「次のライブはプロデューサーが帰ってきて最初のライブなんだ」
響「それを…中止にするのか?」
律子「……」
律子「場合によってはそうなるかもしれないわね」
………………。
必ず中止になるわけじゃない
響ちゃんを省いたメンバーでやることも可能
ただ…それでいいのだろうか
響ちゃんはがっくりと肩を落とす
ライブを中止にするのは確かに嫌だ
でも響ちゃんが足を壊すくらいなら
やめた方がいい…よね?
そんな中、ある人物が沈黙を破った
「いいんじゃないでしょうか」
その言葉に空気が凍る
いい意味で、悪い意味で
小鳥「このまま頑張らせても」
響「ぴよ子…」
律子「な…」
律子「何を…言ってるんですか?」
がんばらせる
それはそのままの意味だろう
痛み止めでライブまでもたせる
その意見に律子さんは反対する
でも小鳥さんは落ち着きを払って話を進める
小鳥「こうなってしまった以上、安全に通れる道なんかないと思うんです」
小鳥「ここで妥協して…」
小鳥「この先上手くいくと思いますか?」
律子「……」
確かにここでやめて皆に良い影響がでるとは思えない
ただ…
律子「こと…あなたは」
律子「自分の言ってることがどういうことか分かってるんですか?」
律子「足を壊すということがどういうことか、あなたにも分かると思いますが」
小鳥「……」
足を壊す可能性がある
いや、本当はもう壊れてるのかもしれない
それがどういうことか…
小鳥「そうですね…」
小鳥「でも…アイドルの気持ちも分かってあげられないでしょうか?」
律子「え…」
小鳥「次のライブは大勢のファンの人達が楽しみにしてるんです」
小鳥「その人達のために歌うことがどれほど嬉しいものか」
小鳥「それだけじゃないです」
小鳥「プロデューサーさんが帰ってきて最初のライブを」
小鳥「何としても成功させたいと皆思ってるんです」
小鳥「そのためなら例え無茶をしてでも練習したいと思いませんか?」
律子「……」
律子さんは考え込む
それに追い打ちをかけるかのように
小鳥さんは問いたてた
小鳥「元アイドルのあなたなら尚更気持ちが分かると思います」
小鳥「あなたも現役の頃、よく無茶をしたりしませんでしたか?」
律子「それは…」
律子さんは動揺する
でも…そう呟き考え込む
それを見ていた響ちゃんは此処ぞとばかりに言った
響「自分のことは気にしなくていいぞ!」
響「春香が気づかせてくれたこの気持ちを今は貫きたい!」
律子「響…」
その時だった
「よく言いました、響」
事務所のドアが開いて、誰かが入ってきた
その人物に私達は釘付けになる
そこには、さっきまで行方不明だった筈の人がいた
貴音「ふふ…心配をおかけして申し訳ありません」
貴音…さん?
響「どこに居たんだ貴音!…服も…汚れてるぞ」
安心したのか、怒りなのか、響ちゃんは声を荒立てる
すみません、響…そう謝罪をした貴音さんは律子さんの元へ向かった
貴音「響が自分の足よりライブを選ぶのなら、わたくしも覚悟を決めましょう!」
律子「何…言って」
貴音「何より…律子嬢」
貴音「プロデューサーが歩んできた半年間を…無駄にするおつもりですか?」
律子「!」
律子さんの手は震えていた
律子「わ…」
律子「私は…」
決断に戸惑う
そんな律子さんに、小鳥さんは優しく意向を示した
小鳥「皆が前向きに進める道が1番だと思いますよ」
小鳥「これからの…あの子達にとっても」
律子「……」
律子さんは長い間黙っていた
顔がとても真剣になっている
長い間、長い間…考え続けた
………………。
その真剣な表情もだんだんと変わる
そして覚悟を決めたのか、やがて口を開いた
律子「わかったわ」
響ちゃんの顔が明るくなる
律子「響がそこまでやりたいのなら」
律子「…私もプロデューサーという立場じゃいられなくなるかもしれないわね」
そう律子さんは笑った
伊織「ま、あんたの言うことも否定はしないわ」
響「伊織…」
伊織は小さく響ちゃんに微笑む
皆の顔が少しずつ明るくなる
だけど反面…
私の顔は曇っていった
伊織は私には怪訝な顔をして、響ちゃんには笑った
私もいろんな思いはあるけど
その中に今を乗り越えてプロデューサーさんを助けたいという気持ちはある
………………。
私と響ちゃんの違いは何なのだろう
私が響ちゃんを変えた?
それは団結…?
いや、もうそんなもの分からない
それよりも痛み止めでライブまでもたせるって…何?
何なのそれ…
足を壊してもいいってこと?
そんなの私嫌だよ
そんな未来を私は望んでいない
例えそれでライブが成功しても、笑っていられるはずないじゃん
だって足を壊すって…
アイドルじゃいられなくなるって事だよね?
律子「貴音は見つかったし、皆をここに呼びなさい」
皆の顔が前を向いてる中、私1人俯いていた
………………。
やがてやよいと社長やプロデューサーさんを除く全員が事務所に帰って来た
貴音さんを前にして並ぶ
響「それで…」
どこに居たんだ?…と響ちゃんは問う
貴音「……」
貴音「ふふ…響」
響「な…なんだ貴音」
貴音「約束を破ってしまい、申し訳ありません」
貴音「実は、朝からとあるラーメン屋の事を思い出したのです」
響「ラーメン屋?」
貴音「人通りが少ない道で普通に歩いていれば気づかないでしょう」
貴音「そこのラーメンがとても美味なのです」
響「…それが…どうかしたのか?」
貴音「響とは事務所よりもそこでラーメンを食したいと思い」
貴音「場所を確認しに行ったのですが…」
貴音「いざ着いてしまうと食べたくなるもの」
貴音「時間を忘れ、食べ耽ってしまいました」
響「…そうなのか?」
貴音「……」コクッ
響「なぁ…貴音」
貴音「…何でしょう」
響「…そんな嘘が通じると思ってるのか?」
貴音「……」
響「本当の事を言ってくれ…貴音」
貴音「……」
貴音「ラーメン屋に行ったことも…ラーメンを食したことも」
貴音「嘘ではございません」
響「……」
貴音「ただ…」
響「…ん」
貴音「気を失っておりました」
響「…え?」
真「気を失ってた?」
貴音さんが言うには、ラーメンを食べて会計を済ませた後気分が悪くなり、
そのままトイレに行ったが、個別室で気を失ってしまったらしい
服の汚れは事務所に来る時に何度か転けたから…と
休憩します
夜飯を!
貴音「心配は無用です」
響「何言ってるんだ貴音…」
響「貴音がラーメンを食べて気分が悪くなるなんて…」
響「普通あり得ないぞ」
響「それに…事務所に来る時に転けたのも目眩でーーー」
貴音「心配は無用です…響」
貴音さんはそう言い張る
貴音「それを言うのなら、響の足も大丈夫なのですか?」
響「……」
真「足って…響また」
亜美「そうなんですか?」
伊織「……」
響「そうなんだ…でも…」
響「心配はいらないぞ」
貴音「ふふ…そういうことです響」
響「貴音…」
響「…なぁ皆、ちょっと聞いてほしいんだ」
そう言って響ちゃんは私達に話したことを皆にも話した
今日はここまでです
春香「千早ちゃんに追いつかれちゃった…」
千早「わっほい!…わっほい!」
春香「千早ちゃん…」
千早「わほわほわほわほ…」
春香「何があったの…」
千早「わほわほ……ごめんなさい春香」
千早「私疲れてるみたいなの」
千早「疲れてるとどうしてもわほわほわほわほ…」
春香「千早ちゃん落ち着いて!」
千早「わほわほ……」
千早「どうすればいいのかしら…」
楽しんで読んで頂けているでしょうか?
何というか、話を文章にするというのが難しくて苦戦しております
話に納得しながら内容を読んで貰えているかどうか…
一応終盤に入ってるつもりです
今日はもう詰まっちゃったので終わりです
いや難しい´д` ;
響「だからな、自分…次のライブにはどうしても出たいんだ」
響「だからもう自分のことは気にしなくてもいいぞ…」
響「皆は皆の思うようにライブに向けてがんばってくれ」
「………………」
そう言う響ちゃんの言葉に最初に反応したのは美希だった
美希「響がそれでいいのなら、いいと思うな」
響「美希…」
美希「だって…ミキもライブに出たいの!」
そういう美希の言葉に皆頷いていく
あずさ「そうねー…私もライブはやりたいかしら」
雪歩「私も…出たいと思ってます」
皆が口々に意志を示す中、私1人黙っていた
響ちゃんがライブに出たいという気持ち
それを優先させて上げるのはまだいいとして…
何で皆は前向きになれるのだろう
ライブを終えることができたとしても
その先…765プロに響ちゃんはいないかもしれない
その環境の中で皆は笑っていられるのだろうか
そもそも、何でライブをやるのだろうか…
私は…
いろいろな疑問が浮かぶ
そんな中、あずささんが切り出した
あずさ「ちょっと喉が渇いたわね~」
そう言ってあずささんはお茶を飲もうとポットに歩いて行く
律子「何やってるんですか…ペン立てですよそれ」
あずさ「あらあら~」
春香「………え?」
何か見たことがあるような光景
コンビニでの出来事を思い出す
まさか…
春香「あずさ…さん?」
私は急いで湯のみを持って行く
あずさ「あら~ありがとね春香ちゃん」
春香「あずささん!」
あずさ「………………」
あずさ「そういえば、春香ちゃんは知ってたのよね…」
春香「え?」
あずさ「前はこんな頻繁にはならなかったんだけど」
そうあずささんは小声で言った
律子「今日はもう夜になるから帰りなさい」
律子さんの言葉に従って皆帰っていく
皆の顔は前を向いている
あずささんも何かを気にしている様子もなく、前を向いている
その光景が私を不安にさせる
何かが違う気がする
私は荷物を持たずに事務所を出て行く皆を追いかけた
春香「貴音さん!」
貴音「…どうかされたのですか?」
春香「貴音さんは大丈夫なの…かな?」
貴音「はて…」
春香「ほら、ラーメン食べて気を失うなんて…普通じゃないですよ」
春香「自分の身体の事とか心配にならないですか?」
貴音「……」
貴音「春香」
春香「はい…」
貴音「わたくしの事は心配は無用です」
貴音「本当に危ないと直感した時はわたくしから伝えますので」
春香「でも、気分が悪くなるほど…そこまでして」
春香「どうしてラーメンを食べるんですか?」
貴音「ふふ…」
貴音「わたくしの好きで食しているもの…それで良いのです」
春香「……」
そう言って貴音さんは帰って行った
春香「あ…千早ちゃん!」
千早「春香…?」
春香「もう…帰るの?」
千早「ええ、歌の音程のチェックがあるの」
春香「そっか」
春香「………」
春香「……何か久しぶりだね」
春香「こうやって話すの」
千早「そうね…」
千早「………」
千早「春香」
春香「うん…」
千早「その…ありがとう」
春香「え?」
千早「春香と公園で歌った時に思い出したの」
千早「歌を歌いたいという気持ち」
春香「…うん」
千早「それで…」
千早「今は私も、ライブで歌いたいと思ってる」
春香「………」
千早「だからーーーーー」
春香「うん…分かった」
私は無理やり言葉を遮った
千早「…春香?」
春香「ライブ…がんばろうね」
私はそのまま事務所に戻った
皆は前を向いている
何も心配していないのだろうか
事務所にはもう誰もいなかった
春香「………」
私は次のライブに何を求めているのだろう
皆がそれぞれの思いを抱えながらも、ライブをやりたいと言っている
私がライブをやる理由…
春香「………」
分からない…
「何かを失っている…そう思うんだ」
春香「……?」
そんな時、社長室から話し声が聞こえてきた
「音無君は…どう思うかね?」
「そうですね…私はもっと根本的な部分を見るべきだと思うんです」
「今のあの子達に必要なのはもっと簡単なもの…」
「ファンの事を考…………歌を誰に…………」
社長と小鳥さんだろうか…
もっと近くに寄ってみる
「そういうこと以前に……」
「あの子達自身がライブをやりたい、アイドルでいたいというような初心を………」
どうやら社長と小鳥さんのようだ
社長…いつの間に事務所へ
「あの子達はライブに出たいと言ってます」
「それだけでも取り敢えずいい方向に向かっているかと」
「しかしーーーーーーーー」
何かその場に居てはいけないような気がした私は、荷物を抱え事務所を出た
皆それぞれの思いを持ってライブを見ている
ライブに出たいという気持ちは一つ
ただ……
(今回のライブはいろいろと、もう足引っ張りたくありません)
(次のライブで絶対認めてもらうの)
(恩返しがしたいんだ)
それ以外の気持ちはバラバラ
………………。
私はライブに何を求めているのだろう…
私の気持ちを整理する
皆自分の状態よりもライブに出たいという気持ちを優先している
それに対して私だけが不満を持っている
恐らくライブをやりたくないと思っているのだろう…
それは何故か…
私にはライブに出る理由がない
ライブをやって、例えそれが成功したとしても
それで今の状況を乗り越えられるとは思えないからだ
響ちゃんの足の状態
あずささんだって…
それに貴音さんも…
やよいも、他の皆も
このままライブを迎え、終えた向こう側に何があるのか
足を壊して泣いている響ちゃん
それと同じように他の皆も何かしらのダメージを受け…
…暗い765プロの日常
そういう未来しか私には考えられない
「………………」
そもそも私がアイドルをやっている理由は何なのだろう…
なぜ歌うのか
私が歌う歌はどこへ届くのか
………………。
私はこの前まで何を考えていた
今を乗り越えてまた皆と笑うためにライブをやる…
プロデューサーさんを助けるために練習をする…
………本当にそうだろうか
暗い闇に私1人取り残されていった
ライブまであと4日
律子「よし、じゃあ始めるわよ」
あっという間に時間が過ぎて行く
伊織「ちょっと律子?」
伊織「やよいとプロデューサーがいないじゃない」
気がつけばもう3日過ぎた
今日を終えれば、あと3日
残りの3日もあっという間に過ぎて行くだろう
今日が一つの分岐点
律子「やよいは皆と合わせられるほど、まだ踊れないのよ」
律子「だからプロデューサー殿と2人で練習してるわ」
伊織「………」
律子「人の心配をしている暇はあるのかしら?」
律子「あなた達は昨日練習してないのよ」
律子「自分にもっと危機感を持ちなさい」
伊織「分かってるわよ…」
一通り話が済んだところで、練習が始まる
一晩過ぎて、皆の意識は更に高まったようだ
それぞれの思いを胸に頑張っている
春香「………」
私はライブに対して、どんな思いを持っているのだろう
協力、団結…
私の考えるそれらはもう、ここにはないのかもしれない
皆はただ前を向いて頑張っている
それだけ…
……………………。
このままライブを迎えたらその先どうなるか
(自分…車椅子なんかいやだぞ)
(踊りたい…ダンスがしたい!)
春香「………」
律子「春香?」
気がつけばミスをしていたようだ
春香「すみません…」
春香「もう一回お願いします」
律子「………」
律子「もう一回いくわよ」
深呼吸して、1度気を取り直す
集中…集中………
…………………………
ライブの最後に今踊っているダンスを披露する
それが終わればライブも終わる
そして、ライブが終わったら…
(自分…もう立つことも…できないのか?)
(なぁ春香…もう歩くこともできないのか?)
春香「!!!」
律子「春香!?」
春香「うぅ…すみません」
躓いて転けた体を起こす…
……………あれ
春香「えっと…」
どうしたのかな…
起き上がれないなんて
律子「春香、まさか足挫いたの?」
春香「いや、そうじゃないです」
ゆっくりと立ち上がる
よし………
今度は起き上がれたみた…
バタンッ!
気がついた時には、私は倒れていた
派手に倒れたみたいだ
律子「はる…か」
血相を変えて私に近づいてくる
周りの皆も私に寄ってくる
あはは…
何でそんなに心配そうな顔をしているのかな
皆が私に呼びかけている
体が動かない
私…どうしちゃったんだろう
「………香」
何かが聞こえる
「…………………!」
「おい………………」
何だろうこの声
何処か聞き覚えがあるような
「……………香」
あれ………これって
「…………春香」
プロデューサー…さん?
P「春香」
春香「!」
春香「はい」
反射的に私は起き上がる
P「大丈夫か?」
そう私に聞いてくるプロデューサーさんに私は頷く
P「そうか…」
プロデューサーさんは手を握り締めながら私を見る
何かを言いたそうな、そんな表情
その光景が何かに重なった
ライブ1週間前、今から3日前の朝
その時も、プロデューサーさんは何かを言いたそうに私を見ていた
P「なぁ…」
言葉を詰まらせ、何かを言おうとする
あの時も、今も
プロデューサーさんは何を言いたかったのだろう
手を握り締めたままプロデューサーさんは何かを言う
その言葉は予想もしない物だった
P「もう…辞めにしないか?」
その言葉に皆は耳を疑う
律子「や…やめる?」
真「やめるって…何を?」
P「ライブを中止にするんだ」
突然の出来事にまだ頭が追いつかない
響「中止ってどういうことなんだ…なぁ、プロデューサー」
P「響」
P「俺が何も気付いていないとでも思ってるのか?」
P「これ以上、お前らを潰すわけにはいかない」
響「………」
P「なぁ…もう…いいんだ」
そう言ってプロデューサーは頭を抱える
この前まで私達に指導してきたプロデューサーさんとは、別人に見えた
P「俺はプロデューサーを辞めるべきなのかもしれない」
美希「え?」
P「分からないんだ、何も」
P「俺がお前らに何を教えてるのか、何を教えたいのか」
P「何で俺が指導しているのか」
P「お前らが何を考えてるのか…」
…………………………
P「俺が指導しても、お前らは傷ついていく」
P「やよいも、一向に踊れるようにならない…」
頭を抱えながら、プロデューサーさんは続ける
P「ハリウッドから帰って来た時、俺はお前らが新米に見えた」
P「技術は勿論、仕事に対する姿勢や考え方」
P「そういうものがまだまだ未熟だと思った」
春香「………」
お前ら何やってたんだ?
あの時の言葉が脳裏に浮かぶ
失望した…とも言われた
P「でも、それがチャンスだと思ったんだ」
P「俺がハリウッドで学んだことを生かすチャンスだと」
P「でもな………」
P「俺が指導する度に」
P「お前らは崩れて行くんだ」
P「はは…」
P「俺が指導すると、お前らはダメになって行く気がするんだよ…」
P「もう俺に気を使わなくていいんだ」
P「嫌なら嫌だと言っていいんだ…」
P「なぁ…」
プロデューサーさんは大声で叫ぶ
P「もう…どうすればいいか分からないんだ!!!」
P「すまない…」
P「こんなダメなプロデューサーですまない」
P「すまない…!」
すまない…そう、何度も謝り続ける
この前まで厳重に指導していた人と違い
そこには…
今にも壊れてしまいそうな弱々しい人物がいた
まるで会社が倒産して行き場を失い
泣いて家族に謝り続けるような
我を見失い、自分というものを無くしてしまった
人の姿をしたヒトに成り果てていた
貴音「何を…言ってるのですか…あなた様」
震えながら貴音さんはプロデューサーさんに近づく
貴音「わたくしは、ここに居ます」
貴音「見てください…いつもの四条貴音です、あなた様」
貴音「お気を確かに…」
貴音「何故…謝られるのですか」
貴音「あなた様が、苦渋の決断をしてハリウッドへ行ったことが」
貴音「間違ってたことになってしまうでしょう…!」
震えながらプロデューサーさんに話し続ける
ここまで取り乱した貴音さんを見るのは初めてかもしれない
それがより一層、事の深刻さを漂わせる
私はただ黙ったままそれを見ているだけ
やよいの時と同じ様に…
何もできる気がしない
その時、私の横から声がした
「謝って欲しくなんかないの!」
美希だった
美希「ミキ、全っ然プロデューサーの指導嫌だなんて思ってないの!」
美希「ミキは練習したいからしてるだけなの!」
美希「謝られるようなことなんか何にもないの!」
P「美希…」
珍しく大声をあげる美希
貴音さん同様、これも初めてかもしれない
貴音「そうです、あなた様」
貴音「ただ胸を張ってわたくし達を指導してくだされば良いのです」
P「………」
プロデューサーさんは下を向いて黙り込む
P「やよいの指導があるから、今日はもう来れない」
そう言って立ち上がると、
そのままプロデューサーさんは歩いて行った
「……………………」
練習場は静寂に包まれる
私が倒れ、プロデューサーさんが来て…
いきなりの出来事にまだ困惑している
さっきまでプロデューサーさんが居た余韻がまだ残っている
律子「再開…しましょっか」
律子さんの言葉に皆は動き出す
律子「春香?」
春香「え?」
律子さんは私に疑問に呼びかける
私だけその場に座ったままだったようだ
皆はもう元の位置に着いている
切り替えが早い…
私は立ち上がる
春香「……」
今から始める練習は何のためにやるのだろう
さっきのプロデューサーさんを見て、皆は更に気合いが入ったようだ
私だけやる気が起きない
春香「……」
(自分…もう歩けないのか?)
…………………………。
春香「すみません…律子さん」
春香「今日はもうお休みしていいですか?」
律子「春香?」
律子「………」
律子「そうね、さっきのこともあるし今日はもう休みなさい」
練習をする気になれなかった私は
そのまま練習場を出て行った
春香「………はぁ」
やっぱり私には
皆と同じように練習に集中することは無理みたい
このまま練習を続けていいのかどうか
私は逆に不安になった
そう…ライブを終えた後のことを考えると
いや、その他にも…
皆と作るステージが形だけのものになってしまう気がする
その考えが、頭から離れない
休む、といっても家に帰るつもりはない
身体を休めただけで済むような話だと思えないからだ
何処かで気分を紛らわすか
あるいは…
春香「ん……」
道端に並ぶ料理店
そういえば、まだお昼を済ませていない
時間的にも…丁度いい頃合かな?
私は近くにあった店に入った
見渡すと、中はまあまあ広い
春香「食券を買うんだね」
券を受け付けに出した私は席に着く
……………………。
たまには1人で食べるのも悪くない
落ち着いていい感じだ
気分を紛らわせるにはちょうど……
「空見上げ~手を繋ごう~」
春香「え…?」
店に流れる曲に耳を澄ます
聞き慣れた歌のような
「この空は輝いてる~世界~…」
春香「これって…」
春香「………」
ライブまであと4日だよね…
春香「って、そうじゃない…!」
何でこんな時にライブの事を考えなくちゃいけないの
今は考えたくない……!
私は受付から定食を貰うと、席に戻ってそれを口に流し込み
そそくさと店を出て行った
気分転換の筈が余計に…
春香「……まぁ」
また別の場所で気分転換すればいい
次はどこに行こう…
カラオケ…ゲームセンター…ショッピング…
えーとそれから…
春香「あ……」
連なっている建物に貼ってあるポスターが目に映る
私と皆が映っている、765プロのもの…
春香「何で…!」
ライブの事が頭から離れない
何処に行っても目に入ってくるのは765プロに関する物ばかり…
歩くのがどんどん速くなっていく
春香「もういい…」
こうなったら、カラオケでもゲームセンターでも、何処へでも行くよ!
私はやけくそになって街中を歩き回った
カラオケはオススメ曲に私の歌があり
ゲームセンターでは765プロに関連付けた遊び場を見て
ショッピングでは私や皆に関するグッズが目に留まる
私は見ない振りをして歩く
時間も考えず歩いた…
ただただ、歩き回った
………………でも、
気が休まることは全く無かった
……………………
……………………
……………………
どれくらい歩いただろう
春香「……」トボ…トボ…
街中を灯りが照らす
気がつけば夜になっていた
身体はダルく、足は重い
レッスンより疲れたかもしれない
春香「はは…何やってたんだろう、私」
……………………。
思考が回らない
私は今何処へ歩いているのだろう
行けるところは行き尽くした
もう何処も行くところはない
春香「お腹…すいたかな」
動き過ぎたせいか、少し空腹
家に帰らないと…
春香「そう…家に帰らないと」
…そうだ、私は今家に帰ってたんだ
ご飯を食べたらお風呂に入って
明日の準備をして………
……………………。
明日からまた練習か
あー嫌だ嫌だ……
そんなこと考えたくない!
もう練習とかしたくないな…
いや、練習をしてる皆を見たくない
だって…だって……
春香「……」
どうやらもう着いた様だ
難しいことはまた後で考えよう
取り敢えずご飯食べよっか
建物を見上げる
春香「…………え?」
私が歩いて歩いて…歩いた末に辿り着いた場所、そこは…
事務所だった
春香「………」
春香「何で…事務所に居るのかな」
春香「はは…」
家に帰らないと…
私は足を戻してまた歩き出す
頭の中に浮かんでくるのは皆の練習風景
時折見かけた765プロに関するポスター、グッズ…
春香「………」ブンブン
何も考えないように歩く
思考を振り払うかのように早足になる
でも歩けば歩くほど、ライブの事が鮮明に頭に入ってきた
春香「………」
気がつけば、私はまた足を戻していた
事務所の方へゆっくりと…
ビルに入り、階段を上がり、
そのまま事務所の扉を開けた
春香「………」
小鳥「……春香ちゃん?」
事務所に居たのは小鳥さんだけだった
小鳥「こんな時間にどうしたの?」
春香「………」
小鳥「律子さんから話は聞いたわ、体は…大丈夫?」
春香「………」
小鳥「………」
春香「皆は…」
春香「皆は今…何処に居ますか?」
小鳥「………」
小鳥「やよいちゃん以外はレッスンを終えてさっき帰ったわ」
春香「やよい…頑張ってるんですね」
小鳥「そうね、どうしても練習したいってやよいちゃんがね」
春香「そうですか…」
小鳥「それで、春香ちゃん」
小鳥「春香ちゃんは…どうしてここにいるの?」
春香「………」
春香「私…」
小鳥「うん」
春香「ライブに出たくないです」
小鳥「え?」
春香「私がおかしいんですかね…」
春香「響ちゃんや他の皆が頑張ってるのは分かってます」
春香「でも…足壊したりしたら」
春香「意味ないじゃないですか…」
小鳥「………」
春香「そんな響ちゃん見たくないです」
春香「このままライブをやるくらいなら、私…出たくないです」
少し驚いた表情をして、小鳥さんは黙っていた
小鳥「今の状況が…」
小鳥「良いとは言えないわ」
春香「え?」
小鳥「でも、いい方向に向かっていると思うの」
小鳥「あのね春香ちゃん」
小鳥「ずっと…皆を見てきたからこそ、そう思うの」
小鳥「少しお話してもいい?」
優しく私に問う小鳥さんに
私は小さく頷いた
小鳥「プロデューサーさんが帰ってきてから、皆変わったと言ったわよね」
春香「はい」
小鳥「その頃の皆はとてもじゃないけど…」
小鳥「見ていられる状態じゃなかったわ」
小鳥「社長も1度は活動を休止しようとしたんだけど」
春香「そんなに…酷かったんですか」
小鳥「………」
小鳥「でも、プロデューサーさんが帰ってきて間もない頃でね」
小鳥「下手に手を加えるわけにはいかなかったの」
小鳥「暫く様子を見るってことで話は決まったわ」
春香「………」
小鳥「それから社長はプロデューサーさんの付き添いに努めたんだけど」
そこから話は繋がる
その後暫くして、私の前で小鳥さんは倒れ入院した
社長は見舞いに来る度に活動休止を試みたそうだが
私が変わり始めたことで、何か良い影響が出るかもしれない…と
小鳥さんが止めたらしい
小鳥「あんなに暗い顔をしていた皆が、自分の意志を持ってライブに出たいと言ってるの」
小鳥「その気持ちを、私は押してあげたいと思ってるわ」
小鳥「あの子達自身のためにも」
春香「でも…」
分かっている
どうしようもない状況から生まれた微かな希望
今の皆を繋ぎとめている…ライブ
それを無くしてしまえば、完全に765プロが崩れてしまうかもしれないことを
それだけじゃない
皆の心も折れてしまうかもしれない
だけど…
(どうしても辛くなったら、私のところに来るといい)
春香「………」
春香「社長は居ますか?」
小鳥「………」
小鳥「居るわ」
私は小鳥さんに挨拶すると
社長室のドアをノックした
春香「失礼します」
社長「天海君…」
社長は私を見て大体の状況を理解したようだった
社長「話は音無君から聞いている」
社長「我那覇君の事も聞いているよ」
春香「え?」
社長「ああ、聞いている」
社長「今更隠すことでもない」
社長「だから、天海君」
社長「今の気持ちを聞かせてくれないか?」
春香「…はい」
私はライブに出たくない
例え中止にしてでも…
皆の無事を優先したい
もし足を壊したら、響ちゃんを含め皆…
ライブを終えた後、無理をしたことを後悔する
そうなるくらいなら焦らず一からやり直した方が、
もしかしたら上手くいくかもしれなし
悔やんで悲しんでる皆を見たくない
こんな不安な状態でライブをやっても
いい結果に結びつくとは思えない
自分の気持ちを吐くように伝える
社長「そうか…」
社長「天海君」
春香「はい」
社長「天海君には、彼のハリウッドでの出来事を」
社長「もう少し詳しく話すことにしよう」
春香「え…?」
社長「ハリウッド生活を半分終え、私が彼に連絡を入れた後の話を」
春香「………」
社長「簡単に、いいかね?」
春香「…はい」
社長はゆっくりと話し始める
社長「今回の研修で思う存分学んでくれたまえ」
社長「あの時私はそう言った」
社長「彼もそれに応えて頑張っていたよ」
社長「しかし…」
社長「たまたま彼に合わなかったのか」
社長「………」
社長「ハリウッドの残り3ヶ月間は、グループを分けて研修をする仕組みになっていてね」
社長「彼はグループに馴染むことができなかったんだ」
春香「………」
社長「考え方が合わなかったのか…」
社長「彼は集団から離れて、いつも1人で研修を受けていたそうだ」
社長「私が連絡をする度に、彼はこう言った」
社長「たった数十人から嫌われたくらい何ともないと」
春香「………」
社長「しかし…」
社長「1人黙々と頑張る姿に嫌気が差したのか」
社長「グループにいた数人が彼に暴力を振るった」
社長「誰も見てない時に、いろいろな嫌がらせを受けたらしい」
社長「それでも彼はこう言った」
社長「アイドル達のプロデューサーとして俺は負けない」
社長「皆をトップアイドルにするために、この研修を大事にしたい…と」
社長「彼はそう言って頑張っていた」
社長「頑張っていたんだがね…」
社長「研修も残り1ヶ月になったところで、彼から電話があったんだ」
社長「泣きながらこう言ったよ」
社長「帰りたい」
春香「………」
社長「私に帰国の許可を貰おうとしたんだ」
社長「だが…」
社長「私はそれを断ってしまった」
社長「キミのためにも、アイドルの諸君のためにも」
社長「ここでやめてどうするんだと」
社長「私は怒鳴ってしまった」
春香「………」
社長「営業目的じゃない、私はただ…」
社長「彼に人として成長して欲しかった」
社長「彼が頑張った5ヶ月間を、無駄にしたくなかったんだ」
社長「…これが、私の知る彼のハリウッドでの出来事だ」
春香「………」
春香「知ってたんですね…」
春香「プロデューサーさんに何があったのか」
社長「ああ、知っていた」
社長「私が日記を少ししか見せなかったのも」
社長「知らない振りをしていたのも」
社長「天海君達に余計な感情を入れないようにするためだ」
社長「純粋にがんばろうとしていたアイドルの諸君には」
社長「とても重い出来事だと思った」
社長「済まない、私の責任だ…」
社長「私を恨むかい?」
春香「………」
春香「…いえ」
恨んだりなんかしない
社長を責めたりもしない
誰が悪いなんてこともない
社長「…ライブを」
社長「中止にすることだってできる」
春香「え?」
社長「だが、どうするかはもう…」
社長「私が決めていいことでは無いのかもしれない」
社長「天海君…キミが決めてもいい」
春香「……」
社長「もうそろそろ着く頃だ」
社長「天海君の考えを、彼や律子君達に伝えくるといい」
春香「社長…」
「お疲れ様です、小鳥さん」
「お疲れ様ですー」
「お……さま…です」
プロデューサーさん達が事務所に戻ってくる
社長「さぁ…行きなさい」
私は社長室を出る
プロデューサーさんの過去…
いろいろ知った上での決断
ライブをどうするか、
選択権は私に与えられた
今日はもう終わりです
読んでくれてありがとうございます
春香「………」
小鳥さんはお茶の用意をして
律子さんはソファーに座っていて
プロデューサーさんとやよいはその近くに立っている
やよいは、見るだけで疲れているのが良く分かる
かなり疲労が溜まっているのだろう
春香「お疲れ様です」
P「………」
やよい「おつか…さ…です…リーダ」
春香「………」グッ
P「体は大丈夫なのか?」
春香「はい」
律子「話は社長から聞いているわ」
春香「社長から?」
律子「ええ」
律子「それで練習を切り上げてきたの」
私が事務所に来た時には既に連絡を入れていたようだ
プロデューサーさんは律子さんに何かを告げると
やよいを連れて事務所を出て行った
律子「プロデューサー殿とやよいは社用車に戻ったわ」
律子「事務所から少し離れたところに停めてあるの」
春香「………」
ライブをどうするか
やよいは私から直接聞くのが怖いらしく
律子さんの伝言という形をとったらしい
それも、事務所から離れたところでの待機
律子「やよいは、どうしても踊れるようにならないの」
律子「その時は踊れても、すぐに踊れなくなるのよ」
春香「………」
律子「春香も分かってると思うけど、ライブまで後3日」
律子「ライブをやるなら、もう半端なことはできないわ」
律子「やよいも頑張りたいとは言ってるんだけど」
春香「そうですか」
今日が終わればライブまで後3日
危機感はあるつもりだ
律子「ダンスを簡単にする方法も考えたけど、それはやよいが嫌がるし」
律子「やるならやる、やらないならやらないで」
律子「ここではっきりさせて置かないと、精神的にも悪いから」
律子「ちょうどいい機会だと思うわ」
律子「春香の気持ちを聞かせてくれないかしら」
春香「はい」
そうですね
皆前を向いてるなら大丈夫ですよ
たとえライブを中止にしても
皆なら大丈夫
今は体の無事を優先すべきです
春香「ライブは…中止でお願いします」
律子「わかっ……」
律子「え?」
律子「中止?」
春香「はい」
律子「どうしてなの…春香」
律子「あんなに頑張ってたじゃない」
春香「……」
律子「私最近言いなりになってた気がするの」
春香「え?」
律子「プロデューサー殿の言うことを聞いてるうちに、私自身の考え方を失くしてた」
律子「何となく心に穴が空いてた気がしてたわ」
律子「プロデューサー殿にはたかれても目を逸らさなかった春香を見て気づいたの」
律子「春香には感謝してるわ」
律子「だから、また春香にひとこと言って欲しいの」
律子「やよいも必ず踊れるようになるわ」
律子「皆のために必死に頑張ってたじゃない…春香!」
春香「中止でお願いします」
皆のためを思ってこそ
中止にするんです
律子「……そう」
律子「伝えてくるわね」
律子さんはドアに向かって歩いて行く
ちょっと怒ってたかな
でも、もう出て行ったし
こうするべきなんだと思う
プロデューサーさんも中止にしたいって言ってたし
これで…いいんだよね
皆私を責めたりするのだろうか
でも
………………え
春香「何で…」
春香「何でここにいるの?」
伊織「………」
何が起こってるの
何で伊織がここにいるのかな
さっきそこのドア、律子さんが通ったよね
伊織「あんたを見かけたから着いて来ただけよ」
私を外で見かけた
よく分からない
今まで部屋の外で隠れてたっていうの
春香「はは、趣味悪いね伊織」
伊織「何て言ったの?」
私の軽い皮肉を意ともせず、伊織は聞いてくる
何て言った
どういう意味
いや、もう分かっている
ここで聞くことといったら
ひとつしかない
春香「中止にする」
伊織「……」
伊織「理由を言いなさい」
春香「皆を思ってのことだよ」
その言葉が伊織は気に入らなかったようだ
近くの壁を叩いて、私に怒鳴りかけてくる
伊織「ふざけんじゃないわよ!」
何で
ライブを中止にしたことが気に入らなかったのか
私が中止にしたことが嫌だったのか
伊織はいつも私に怪訝な顔をする
伊織は皆のことを心配に思ってないのだろうか
春香「もし足壊したら、響ちゃん後悔するよ?」
伊織「響は後悔しないわ」
私の問いに伊織は自信を持って即答した
それだよ
私を悩ませるその自信は
何処からやってくるの
春香「やよいも倒れるかもしれないよ」
伊織「それでもやよいは立ち続けるわ」
何で…
何でそんなに、前を向けるの
伊織「自分の意志を持ってるのよ」
伊織「あんたはどう?」
伊織「人の事ばかり気遣って」
伊織「他人にいつも振り回されて」
春香「仕方ないよ!」
皆の事を気にせずにはいられない
小鳥さんだってこう言った
どんな時でも、自分の事より他人の事を気づかう私だからこそ
私はそういう性格
実際そのおかげで皆はまた変われた
そうでしょ
伊織「やよいは辞めたいと言ったの?」
伊織「あんたは気遣ってるつもりでも」
伊織「中止にしたらやよいは自分のせいだって思うじゃない」
伊織「頑張ってる皆が1番可哀想じゃない」
伊織は私を睨む
これ以上に無いくらい
伊織「今度こそ、やよいの心が折れてしまうじゃない!」
春香「私が…」
私の気遣いが皆を悲しませる
私の気遣いが…邪魔?
分からないよ
心配になるのは仕方の無いこと
するなって方が無理
伊織は、私のそういう気遣いが嫌いなの
だから私の言う団結を否定して
伊織は私のことが
でも、不思議と伊織から敵意は感じなかった
伊織「いい加減にしなさいよ…」
伊織「協力なんかできるはずないじゃない」
伊織「あんた自身はどうしたいのか、それを先に言いなさいよ!」
春香「私は…私は!」
私はライブをやりたくない
そう思ってるよ!
なのに…
何で私は走ってるのだろう
私が走ってるのはやよいのもと
それってつまり…
皆の事を考えないようにするとしても
私にはライブに出る理由が無いはず
なのに
何で私は走ってるの
「そう、何で走ってるの?」
私はビルの玄関で立ち止まる
私を止めた声の主は他でもない
私だった
「ここから先はもう戻れないよ」
「私自身がライブをやる理由」
「はっきりしないなら、ここを通らない方がいいと思うな」
私がライブをやる理由
春香「私は」
ライブを成功させ、プロデューサーさんを助ける
今を乗り越えて、皆とまた笑いたい
そのためにライブの練習をすることを、私は疑問に思った
響ちゃんの足の状態
貴音さんは気を失い
あずささんも、やよいも、他の皆も
そんな深刻な状況に、私の気持ちは砕かれた
元々私が持っていたライブをやる理由
その気持ちは今も持っている
でも
それ以外に今の私を押す気持ち
足引っ張りたくありません
恩返しがしたいんだ
認めてもらうの
歌いたいと思ってる
……………………。
わたくしの好きで食しているもの…それで良いのです
春香「………」
わたくしの好きで食しているもの…それで良いのです
春香「ふふ」
やっと分かった、私の気持ち
数日間迷い続けていた私に
今ならはっきりと言える
私はライブに出たい
簡単なことだ
私は玄関から外へ駆け抜ける
「いいの?」
春香「うん、いいよ」
春香「私は、アイドルが好きだから」
ステージで歌うのが好き
私を待ってくれているファンの皆が好き
皆のために歌うのが好き
だからライブをやりたい
皆のために、私はアイドルでいたい
この気持ちを忘れたくない
春香「やよい!」
律子「春香…まだやよいには」
春香「絶対ライブ中止にしないから!」
春香「今踊れなくたっていいよ」
春香「やよいが思うままに練習しなよ!」
春香「絶対ライブやろうね!」
やよい「リー…春香…さん」
後がどうなるかなんて分からない
でも、今はライブをやりたい
それに集中したい
私はライブをやる道を選んだ
やよい「今から…練習したい…です」
律子「今から?」
春香「近くに公園があります」
その後やよいは練習を重ねた
やよいはとても楽しそうだった
夜遅くまで練習は続いた
夜の街が私達を見守っているような
そんな気がした
http://imgur.com/5NukFCB.jpg
伊織「あんたはどう?」
今日はもう終わりです
絵はまた描きたくなったので描きました!
読んでくれてありがとうございます
P「やよい、今日はもうこの辺にしたらどうだ?」
やよい「え?」
プロデューサーさんに言われて私も携帯を確認する
もう結構な時間だ
私自身、時間を忘れるほど
やよいは熱心に練習していた
早く家に帰って、明日に備えなければいいけない
私は2日間ほとんど練習をしていない
よく考えれば私にも余裕はない
春香「私も、もう帰りますね」
気を引き締めないといけない
挨拶して帰ろうとする私を
プロデューサーさんが呼び止めた
P「今日はもう遅い」
P「車で帰ったらどうだ?」
春香「いえ、大丈夫です」
春香「終電にはまだ間に合いますから」
……………………
……………………
プロデューサーさんから連絡があった
部屋で一息つきながら、明日の準備をする
明日からは、練習場に集合するらしい
春香「これ見るの何度目かな」
飾ってあるアリーナライブの写真を手に取る
私だけが置いていかれ
途方に暮れていた頃を思うと
とても今の私は考えられない
春香「……」
私は小さく拳を握りしめた
朝早く起きた私は支度をすると、練習場へ向かう
今までは事務所に向かっていたこともあり
家から直接練習場に向かうことが
追い込みを掛けていることを実感させる
春香「おはようございます」
中の雰囲気も、いつもより緊張感があった
まだ数人しか来ていなかったものの、
すぐに残りの皆もやってきて
あっという間に全員が集まった
春香「よし」
練習への準備をしていた私に声がかかる
伊織「元気はあるのね」
春香「伊織」
春香「珍しいね、伊織から話しかけてくるなんて」
伊織「そうでもないわよ」
伊織は軽く流す
そんな伊織を見ながら気がついた
…目の下にあった隈は、もう治ったんだね
春香「昨日はありがとね、伊織」
伊織「……」
春香「伊織のおかげで、考えが変わったかな」
伊織「……」
伊織「それで?」
春香「え?」
伊織「何でライブをやるのよ」
春香「なんでって…」
伊織「ライブをやらないと皆が可哀想だからとか」
伊織「言うんじゃないわよね?」
春香「……」
伊織の問いに少し戸惑った
でも、何が言いたいのかは分かる
春香「私がやりたいと思ったからだよ」
伊織「……」
伊織「そう」
伊織はじっと私を見る
伊織「それでいいのよ」
私にそう言った伊織は
背を向けると、そのまま歩いて行った
なかなか更新できず、すみません
律子「はい、集まって」
律子さんの声に皆は集まる
この少しの間だけでも、皆の気迫が伝わってくる
私も、もう気後れはしない
これからの練習内容、説明
いろいろな話に対して
私は1番熱心に話を聞き
誰よりもすっきりとした返事をしただろう
春香「よし」
私はもう一度気合を入れて練習に臨んだ
♪~~~~~~~~
静かな曲に合わせる
静か、といってもタイミングが取り辛い
2日もまともに練習をしていないブランクは、とても大きかった
春香「あっ」
ガタッ!
律子「ちょっとストップ!」
律子さんが私の元に寄ってくる
私はすぐに立ち上がろうとしたが
中々立ち上がれなかった
思ったより足を強く打ったかな
正直、とても痛い
春香「……」
でも…
私、頑張るから
春香「大丈夫です」
伊織「何で笑顔が出るのよ」
今はライブがやりたくてしょうがない
疲れなんか気にならない
私が思っている以上に体は軽い
私達には、ライブを楽しみに待ってくれている
ファンの人達がいる
辛い練習もがんばれるよ
春香「よし」
私はひたすら練習に打ち込んだ
……………………
……………………
律子「はい、午前の練習はこれで終わりね」
律子「午後も長いからしっかり休憩取るのよ?」
午前の練習が終わる
私にとって、練習は予想以上に厳しく
私はかなり息が上がっていた
ちょっと飛ばし過ぎちゃったかな
春香「……」
タオルを頭にかけた私は
少し考えた
午後の練習は
休憩を取れば問題ないだろう
体も慣れてきたころだし
さっきのダンスで遅れがちだった所も
修正できると思う
春香「……」
私はそれで済むかもしれない
ただ
一つ気になる事があった
律子「今から呼ばれた人はちょっと来てくれないかしら」
律子さんから召集がかかる
呼ばれたのは私と響ちゃんと貴音さん
それから、やよいだった
貴音「どうかなさったのですか?」
P「お前たちには、少し確かめたい事があったんだ」
真面目な顔つきでプロデューサーさんは話す
P「まずは響と貴音だ」
P「響は…見たところ問題なさそうだが」
P「足は大丈夫なのか?」
響「痛み止めを使ってからは何ともないぞ」
P「……」
P「貴音も、身体は大丈夫なのか?」
貴音「わたくしも、特に異常はありません」
P「そうか…」
プロデューサーさんは頭を抱える
P「お前たちの気持ちは十分伝わっている」
それだけ言って黙り込む
そして、それ以来何も話すことはなかった
貴音「あなた様?」
P「ああ、すまない」
プロデューサーさんは顔を上げると
そのまま2人を解放した
………………
私とやよいがその場に残される
呼応ミスはごめんなさい
できれば修正したいですね
全部終わってからリメイクやればええんよ
やよい「あの…」
律子「あなた達には私から話すわ」
律子さんは私達に顔を向けると
真面目な表情になる
律子「寧ろ…今呼び出したのは、あなた達2人なのよ」
律子「さっきの練習の時、とにかく合ってなかったわ」
春香「…はい」
律子「他にもミスしたり遅れたりした子もいたけど」
律子「春香とやよいが特に目立ってたわね」
春香「……」
自覚はある
実際最初にミスをしたのは私
それ以降も私はミスが多かった
いくら2日も間を空けたとはいっても
見逃していいことではない
今日までにダンスを完璧に踊れるようにならないと
皆に迷惑がかかるし
それに、もうダンスを合わせられるかどうかを
争っている場合じゃない
時間がない
午後の練習だけで間に合うだろうか
律子「でも、春香の動きは良くなってきているわ」
律子「このままやれば問題ないと思うのよ」
春香「はい」
律子さんは私にそう言ってくれる
私自身そう思っていたことだし
少しだけ、自信がついた
春香「がんばります」
元気出たかな
でも
私の不安が和らいだところで
また、別の不安が押し寄せてくる
さっきから気になっていたこと
それは
律子「問題は、やよいね」
やよいのことだった
律子「もう今日中に踊れるようにならないと、本気でまずいのよ」
やよい「……」
律子「逆に言えば、今日踊れるようになったら」
律子「後2日はもう、練習を重ねるだけなの」
律子「ライブを締めくくる最後のステージがどうなるかは」
律子「やよいにかかってるのよ」
やよい「うぅ」
プレッシャーからか、やよいは心細そうな顔をする
そう、
ライブへの意気込みは十分
でも技術はまた別問題だ
私と違ってやよいは何倍もの練習を積んできた
……貴音さんを探す時も
私が1人街を彷徨っていた時も
やよいは、プロデューサーさんと2人で
いつもダンスの練習をしていた
昨日の夜だって、練習したよね
ただの練習ならまだしも
プロデューサーさんとマンツーマンでの指導
1度私も指導を受けたことはある
だから、どんなに辛いか私にはよく分かる
…だからこそ
ブランクを埋めるだけの私と違って
ずっと練習しても踊れるようにならないやよいの方が
踊れるようになることが何倍も難しい
思いは強くても、技術が足らなかったら
全て台無し
やよいは皆のライブに対する思いを背負っている
プレッシャーは凄いものだと思う
それに…
このまま練習して踊れるようになる保証はない
なら、どうするか
………………………
決まってるよ
春香「がんばろうね、やよい!」
やよい「え?」
春香「やよいなら大丈夫だよ」
春香「ずっと…練習してきたんだよ」
春香「だからきっと…ね、やよい」
春香「踊れるようになるよ」
律子「そうよやよい、暗い顔する必要はないわ」
律子「ミスなんか恐れずに思いっきりやりなさい」
やよい「……」
やよい「はい」
私もがんばるから
やよいも、がんばろうよ
律子「さ、午後に向けて準備をしなさい」
律子さんは私達2人の背中を押す
律子「身体はちゃんと休めておくのよ?」
春香「……」
春香「はい」
背中を押されるがままに私は歩いた
午後に向けて、準備をしよう
私も気を引き締めないと
ダンスが完成するか
私とやよいにかかっている
ここまで来て、絶対無駄になんかしない
春香「よし」
私、やるよ
ライブを待っているファンの人達のためにも
これからの私達のためにも
……………………
次の練習でものにしてみせる
律子「そろそろ時間よ、集まりなさい」
私は皆が集まる元へ歩く
いろいろなものを背負った
ライブの練習が始まった
>>698
なるほど、考えてみます
見てる方、ありがとうございます
律子「よし、じゃあ最初は全部通してみるわ」
律子「最後まで通すから、本番のつもりでやりなさい」
春香「はい」
よし、やるよ
前にはペンライトを振るファンの人達がいると思って
……………………
いざ、本番だと思うと緊張するね
私は深呼吸して、そろそろ始まる曲に耳をすませた
♪~~~~~~~~
やがて、静かな曲が流れ始めた
静かでゆっくりした動きだからこそ、小さなミスが目立つ
ゆっくりだからこそ、完璧に踊るのが難しい
春香「…うわっ」
イントロの部分だけでも、リズムがずれるそうになる
でも大丈夫…体は慣れてきた、リズムはちゃんと取れている
歌い出しはすんなり入れた
人差し指を前に出し、目の前に広げる
……………………
このままいけばいいな
これからまた難しくなるんだけど
両手を胸にあてる
その手を広げて一回転…
春香「よし」
ずれることなくできた
次はサビに入るところ
曲が一番盛り上がる部分、その入り出しは重要だね
春香「……」
そろそろだね、両手を前に出して
ここで…!
春香「あっ」
サビに入るタイミングが取り辛い場面で、私は思いっきりタイミングがずれた
律子さんの表情が少し険しくなる
その顔で、一瞬私をにらんだ
春香「……」
もう少しだった
体が慣れてきて、いけると思った
動きも決して悪くない、寧ろ順調だったはず…
何で
私は悔しさと疑問を抱えながらダンスを踊り続け、その後曲は最後まで続いた
春香「ふぅ」
踊り終わって一息ついた私は、近くにいた真美に話しかけた
春香「やっぱり難しいね」
真美「そうですね…」
2人して軽く笑う
でも、すぐに表情は曇る
笑ってる場合じゃない
正直ミスだらけで、私は上手く踊れなかった
…大丈夫かな
静まった練習場の中で、律子さんは黙って皆を見ていた
下を向いて考え込む
険しい顔をしたり、たまにニヤッとしたり
手を組んで黙り込むその表情からは、決していいものを感じない
やがて、律子さんは口を開いた
律子「そうね……正直酷いわ」
予想通りの感想だった
律子「とてもライブで見せられるようなものじゃないわね」
律子「特に…1番盛り上がらないといけない所での、あの動きは何かしら?」
律子「盛り上がるところで全部ダメにしてるわね、春香」
春香「……」
律子さんは私の目を確実に捉える
さっきまでの律子さんと違うとても厳しい表情に、私は少し狼狽えた
律子「あなたはずれ過ぎなのよ!」
春香「…はい」
最初に崩したのは、明らかに私だ
その後やよいが終始ずれっぱなしで、皆にも私のミスが影響した
私が1番踊れなかったかもしれない
春香「うぅ…」
やるって決めたのに、できなかった
さっきまで優しかった律子さんも、今は私に苛立っているように見える
ちょっと悲しいかな……
律子「それと…」
私は顔を上げる
律子さんはまだ、私を見ていた
話は終わっていない
何を言うんだろう
私は率直な疑問を浮かべる
他にもミスはあったし、その事について怒られるのだろうか
さっきはやるよ、なんて思ってたけど
正直、最後までミスなく踊り切ることは無理だと、私は思っていた
律子さんは口を開く
律子「確実に良くなってるわ、その調子で頑張りなさい」
春香「よく…なってる」
律子「ほら、どんどんいくわよ」
律子「次からは細かくいくから、皆自分の踊りに集中しなさい」
皆、何事もなかったかのように準備を始める
私のミスなんか気にもしない様子で
真美も、私に両手でガッツポーズを見せてくれた
真美「春香さん、がんばりましょう」
春香「……」
そうだ、よくなっている
ミスなんか恐れるなって、さっき律子さんが言ったばかりだよ
またこれから頑張ればいいよ
春香「うん」
私は深く息を吸って吐き出す
勿論、気を入れ直すために
私はその後も練習に励んだ
律子さんの指導に、プロデューサーさんも偶に加わる
とても指導は厳しい
でもそれは八つ当たりでも、私に対する苛立ちでもない
春香「あっ」
ミスする度に指導を受けては、リズムがずれて曲が止まる
手拍子での指導も入った
でも、私はやめない
私は少しずつ、動きが良くなっていく
リズムもずれなくなっていく
律子「もうちょっと!」
練習は続き、皆がダンスを踊るなか
律子さんは私に鼓舞を入れる
律子「タイミングが重要なのよ?」
律子「分かってるわね!」
律子さんの声に応えるように、私は気力を振り絞る
律子「そこ!」
そして…
春香「…できた」
私は終始、ミスすることなく
リズムもずれることもなく、完璧に踊りきった
春香「あっはは」
あまりの嬉しさに、私は声を漏らした
一緒に踊っていた皆も私に微笑む
いいね…この一体感
とても久しぶりな気がする
騒動が起きて練習が中断したころに比べたら
今はとてもまとまってるよ
律子「できたじゃない」
春香「はい!」
よし、これでライブを迎えられる
やったよやよい!
……………………
春香「やよい?」
何かを忘れていた気がする
……………………
自分のダンスに集中していて
周りなんか見ていなかった
やよいはどこ?
私を見ている皆を見回すが、やよいは見つからない
何処にいるの?
必死に辺りを見回す
その時、そっぽを向いてる伊織が目に映った
伊織は私を見ているんじゃない、やよいを見てるんだよね
伊織が見ている先にやよいは居た
春香「やよい」
足が勝手に動いて、やよいの元へ向かう
やよい「う……うぅ」
やよいの顔は暗い
春香「やよい…」
名前を呼ぶ以外に、言葉が出てこない
こういう時って何言えばいいんだろう
まさか、いやその通り
やよいは全く踊れるようになっていなかった
私だけ踊れるようになって、私だけ喜んで
私よりも練習してきたやよいは踊れなくて
やよいは自分より遥かに練習をしていない人に、先を越された
P「皆後ろに下がるんだ、やよい1人で練習をする」
春香「待ってください」
春香「私も一緒に」
律子「何言ってるの、春香は休みなさい」
やよい「春香さん」
やよいは黙って私を見る
心配しないでください
そう言ってるように見えた
私は自分1人、浮かれていた私を少し嫌いに思った
文体が最初の頃と変わっていたことに気づきました
実際どれが見やすいのでしょうか?
私は皆がいる所へ歩いていく
春「……」
やよい、ごめん
それとがんばって
私にできることは祈ることくらい
大丈夫、やよいなら踊れるようになるよ
いや、ならないとダメだよ
一番がんばってきたんだから
「やよい!」
誰かがやよいを呼んだ
やよい「伊織さん?」
伊織「がんばりなさい」
私の横で1人立ち、腕を組んでやよいを見据えている
やよい「はい」
少し、やよいは元気が出たようだった
P「始めるぞ」
プロデューサーさんは合図をかけ、曲がなりだす
……………………
私がどんどん踊れるようになって
あと少し、あと少しって
自分に言い聞かせてた時も
やよいは1人俯いていたのかな
すぐにストップがかかる
P「もうちょっと早く動き出すんだ」
やよい「はい」
もう一度曲が流れ、
やよいは音楽に耳を澄ませる
そして、やよいは動き出す
P「ストップ」
P「…もう少し、早くていい」
やよい「はい」
もう一度、最初から
P「焦らなくていい」
プロデューサーさんに頷いて、やよいはダンスに集中する
曲が流れ、それに合わせてやよいは動き出す
が、曲はすぐに止まった
P「おい、動き出すタイミングが分からないのか?」
やよい「……」
やよい「分からないです」
P「なに?」
分からないというやよいに
そう言うやよいに、プロデューサーさんだけでなく私達も驚いた
P「今までそんな状態でやってたのか?」
やよい「……」
P「何度も教えただろ……ったく」
少し苛立ちを見せるプロデューサーさん
でも、怒鳴ることはなく
1から丁寧にやよいに指導をし始める
P「ここまでは分かったか?」
やよい「はい」
P「よし、やってみろ」
すごいと思う
私は踊れるようになっているという自覚があったから、何度だめでも踊り続けることができた
やよいは…
何度やっても上手く踊れるようにならないのに、全然上達しないのに
がんばり続けられるのは、すごいね
P「今のは良かったぞ」
やよい「はい」
P「もう1回やってみろ」
プロデューサーさんは付きっきりでやよいに指導する
やよいもそれに応えるように、ダンスに集中して踊って見せる
でも、なかなか上手くいかない
P「また、ずれたな」
やよい「……」
1回できては、できなくなり
また踊れるようになったかと思えば
…また踊れなくなる
……………………
そんな気が遠くなるような練習が続く
何度も何度もやり直して、
何とかイントロの部分の動きができるようになったものの
…それだけでも、1時間かかった
P「ちょっと、休憩するか?」
やよい「いいです」
P「そうか…じゃあ、次にいくぞ?」
やよい「はい」
休むことなく、練習は続く
少しくらい休んでもいいのに
…私はそう心の中でつぶやいた
P「そうだな…最初の動きを簡単に言ってみろ」
やよい「8カウント立ち止まったままで」
P「……」
やよい「9カウント目に動き出して、8カウントかけて前へ出ます」
P「まぁ、そんなところだ」
P「手の動きは分かるか?」
やよい「はい」
昨日の夜、やよいに聞いた
練習したいというやよいと公園に向かっている時に、気になったこと
家の皆の食事はどうするの?
それに、やよいはなんて答えたっけ
……………………
全部作り置きしてます
…そう言ったよね
お皿を洗ったりとかは、私がしますけど
細かいことは長介がやってくれてます
…と、やよいは付け加えた
その時のやよいの顔は、とても心配そうだった
普通なら、やよいは家事を優先すると思う
実際私が皆を食事に誘った時も、
家事があるからってやよいは帰ったし
…まぁ結局、食事には行かなかったんただけど
春香「……」
じゃあなんでやよいは練習を優先したのか
やよいは、練習がきついからとか
余裕がないからとかそんな理由で家事を疎かにするような
そういうことはしない
どんな負担になったとしても
当たり前のように家事をするだろう
……………………
弟さんの強い意志に負けたんだっけ
やよい「……」
やよいは熱心に練習している
何度だめでも、何度怒鳴られても
辞めたいとは言わないし、決してそんな顔はしない
だからとは言わないけど、
やよいには踊れるようになって欲しい
P「よし、まずはこの部分だ」
曲が流れ出す
それに合わせてやよいは踊る
長い長い個別練習
見ているだけなのは逆に疲れるかもしれない
正直…練習したいとは思ってるかも
でも、やよいが頑張ってるから応援したい
あとはやよいだけ
踊れるようになって、やよい
……………………
……………………
いつしか見ている私達も
プロデューサーさんと同じように
やよいの練習を熱心に見るようになっていた
曲が止まる
P「頭では分かってるんだよな?」
やよい「……」
P「……」
プロデューサーさんが悩むと同時に、
私達も同じように考える
響「何で…なんだ?」
初めて踊るとかなら分かる
でも、ずっと練習してきて踊れない
それも、リズムが常に遅かったり
動きに目立つような癖があったり
そういうのならまだ分かる
でも、やよいは
毎回動きもバラバラで、リズムも変わる
はっきり言えば、でたらめ
何故だろう
そう思う私達と同じように
プロデューサーさんも暫く考えていた
P「とりあえず…ここの振りができるようになったら、最初からここまで通す」
P「いいな?」
やよい「はい」
P「じゃあいくぞ」
曲が流れ出す
P「そう、そうだ…その調子だやよい」
やよい「はい」
P「じゃあもう一回だ」
プロデューサーさんとやよいは、2人で練習を続ける
少しずつ、本当に少しずつ
やよいは踊れるようになっていく
でも、かなり時間がかかる
……もうどれくらい練習しただろうか
休憩します
亜美「何か見てる方もちょっと疲れるね」
真美「だね…」
伊織「黙って見てなさいよ」
見ているだけだった皆が、少し疲れ始めた
無理もない
やよいの個別練習が始まって、もう2時間経った
雪歩「ふぅ」
真「ボク達、このままでいいのかな?」
見ているだけ、というのも確かに辛い
私は右側に座っていた真美に話しかけた
春香「やよい、大丈夫かな?」
真美「うーん」
春香「少しずつだけど、踊れるようにはなってるよね」
真美「でも、まだ1番も終わってないですね」
春香「……」
真美の言うとおり
2時間かけて、まだ1番の振り付けすら終わってない
時間に余裕はない
伊織「いいから黙って見てなさいよ!」
伊織は小さく怒鳴る
やよいをじっと見て、目を離さない
分かってるよ
何もやよいに苛立ってるわけじゃない
応援している
…でも、それとは別に不安も出てくる
ついつい皆、お互いに何か話してしまう
P「よし、ここの振りはできた、1度最初から通す」
P「いいな?」
やよい「はい」
P「じゃあいくぞ?」
曲が流れ、やよいはダンスに集中する
プロデューサーさんも、じっとやよいを見る
私もやよいも見る
でも
春香「え?」
私はあっけにとられた
P「また、踊れなくなったのか?」
やよい「……」
やよいは、イントロの部分が踊れなくなっていた
P「頭では分かってるんだよな?」
やよい「……」
P「次、どう動けばいいか分かってるんだよな?」
やよい「…はい」
P「……」
P「くそっ…何でなんだ!」
P「いつもより丁寧に教えた、やよいだって踊れた」
律子「プロデューサー殿」
P「……」
P「これじゃ今までと同じだな、どうすればいい」
春香「……」
以前何回か聞いた
その時は踊れても、踊れなくなる
まさか、ここまでだったなんて
とても想像はできなかった
……………あれ?
これって大丈夫なのかな
少し焦りを感じる
これじゃ、何回やっても踊れるようになるとは思えない
不安が大きくなる
練習場の空気が張り詰めていく
後がどんどん無くなっていく
どうすればいい?
……………………
そんな時、律子さんがある提案を出した
律子「手拍子でやってみたらどうですかね?」
P「何て言った…律子」
律子「手拍子で合わせるんですよ」
律子「やよいは体に動きを覚えこませればいいと思うんです」
P「今まで、散々踊ってきたんだ…体は覚えてる」
P「それに、もうそんな所から始めてる場合じゃない」
律子「でも、リズムが取れれば、音楽にも合わせられるようになると思うんですよ」
律子「そうしたら、あっという間だと思いませんか?」
P「……」
暫く黙っていたプロデューサーさんは
やがて、決断をくだした
P「やよい、手拍子でいくぞ」
やよい「はい」
P「俺が見るから、手拍子を頼む」
律子「よし…やよい、いくわよ」
手拍子での練習が始まる
律子さんのコールに合わせて、やよいは動く
P「違う、そこはもっと速くだ」
P「ここは右から足を出すんだよ!」
プロデューサーさんの声も大きくなっていく
…怒鳴るような指導も増える
でも、勘違いしないでやよい
何で踊れないんだとか、そういうことは思ってないよ
やよいに苛立ってなんかない、がんばって
練習はとても長く続いた
……………………
……………………
個別練習が始まって、4時間が経った
律子「部分的にやりましたけど、振りは全部できましたね」
P「やよいには、手拍子の方が良かったかもしれないな」
P「ただ、通して踊れるかは別だが」
律子「さっきよりも覚えもいいですし、今度は大丈夫ですよ」
P「……」
プロデューサーさんも、律子さんも
さすがに疲れているようだった
それはそうだ
ぶっ続けで4時間もやよいの指導をした
疲れて当然、見ている私達もくたくただ
……ただ、それ以上にやよいの体力の消耗が激しかった
やよいは膝に手を付き、下を向いている
もうこれ以上練習をするのは無理だろう
P「やよい、これが最後だ」
やよい「はい」
律子「大丈夫よ、自信を持ちなさい」
律子「さっきよりも動きは良くなってるわ…体も動きを覚えてるはずだから、思いっきりやりなさい」
P「じゃあ、最初から通すぞ」
これが最後のチャンス
手拍子に変えて、部分的にだけど
やよいはみるみる踊れるようになった
たった2時間で最後の振りまで踊れた
……あとは、通すだけ
今、私達765プロの未来を背負っているといっても、過言じゃないと思う
伊織「……」
皆の緊張が伝わる
練習場の空気が張り詰める
やがて、曲が流れ出した
春香「お願い」
踊ってやよい
ここで踊れなかったら、もうライブに間に合わない
いや、それよりも
ここまで頑張ったやよいを楽にさせて
春香「やよい!」
私は誰かに祈るように拳を握る
……………………
やがて、やよいは動き出す
静かな音楽に合わせてやよいは踊る
そして、次の瞬間
やよいはリズムが乱れてしまった
春香「なんで…!」
曲が止まる
プロデューサーさんも、律子さんも
ただ黙っていることしかできなかった
やよいは踊れなかった
イントロの部分で乱れてしまった
……個別練習を始める4時間前と、何も変わっていなかった
やよい「……」
もうダメかもしれない
やよいは頑張ったよ
誰も責めたりはしないと思う
伊織「何で…なんでなのよ、やよい!」
伊織「もう一度踊りなさい、踊れないなんて認めないわ」
伊織「踊れるはずよ」
やよい「伊織さん」
伊織「あんたも早く曲を流しなさいよ!」
P「ああ」
プロデューサーさんは急いで曲を流す
やよい「がんばります、伊織さん」
やよいは小さく伊織に微笑んだ
曲が流れ、やよいはダンスに集中する
伊織は立ってやよいを見守る
春香「やよい」
そうだ、まだ諦めていない
藁にもすがる思いで、私は自分を奮い立たせた
まだ何とかなるかもしれない
やよい…がんばって
そろそろ動き出すタイミング、まずはここから
……………………
でも、やよいは動かなかった
P「ん?」
曲が止まる
違う、やよいは動かなかったんじゃない
動けなかった
春香「そんな」
やよいは膝に手をついて、荒く呼吸する
過酷な練習を続けてきたやよいは
もう体が動かなくなっていた
練習場は沈黙に包まれる
……………………
ライブを目の前にして
あと少しというところで
全てを諦めることになった
やよいは膝に手をついたまま動かない
下を向いたまま顔を動かそうともしない
1番辛いのは、やよいだろう
P「……」
律子「……」
律子「どう、しますか?」
P「……」
P「タオルと水を持ってこい」
やよい「……」
やよいは泣こうともしない
涙も出ないのだろう
分かりたくないけど
やよいの気持ちが伝わってくる
律子「やよい、タオルと水よ…ほらそんな顔しないで」
俯いたまま顔が見えないはずのやよいに向かって、律子さんは呼びかける
律子「よくがんばったわ、やよい」
律子「何も自分を責める必要はないわよ」
やよいは少しも動こうとしない
顔は見えないが、どんな表情をしているかは想像できる
………できる?
私は自分に問う、想像できる?
いや、分からない
やよいがどんな顔をしているのか
涙も流さないで、何も喋らないで、ずっと固まったままのやよいは
今、何を考えてるの!
そんなやよいは不意に何かを言った
春香「え?」
何かを言った
………何て言った
やよいが言ったことを、頭の中で整理する
踊れませんでした
そうじゃない
すみません
いや、それも…違う
私、最低ですね
ううん、違うよ
どれも違うよ
やよいは!
やよい「こんなだめな私と練習して、迷惑じゃないですか?」
「バカね」
小さな声が、練習場に響いた
私の横を伊織が通り過ぎていった
伊織「バカ言ってんじゃないわよ…」
伊織「私は楽しいわ」
伊織「あんた……そんなこと、考えてたわけ?」
伊織「腹立つわね」
やよい「……」
伊織「よく聞きなさいやよい、1度しか言わないわ」
伊織「あんたと合わせて踊ってる時も、あんたがミスをした時も、あんたが練習してるのを見ている時も」
伊織「迷惑だなんて思うわけないじゃない」
伊織「あんたが何度ミスしたって」
伊織「あんたのことをお荷物だなんて思わないわよ」
やよい「……」
伊織「……」
伊織「そんなやよいと、私はステージに立ちたいと思ってるわ」
伊織「そんなこと考えてる暇があるなら」
伊織「さっさと踊れるようになりなさいよ」
やよい「伊織…ちゃん」
伊織「次そんなこと聞いたら許さないわ」
伊織は黙って、私達の元へ歩いてくる
その表情は怒りなのか、悲しみなのか
いろいろな物が混じっていた
春香「そうだねぇ」
できる、できるよ
春香「できるよやよい!」
誰よりも練習してきたんだもん
そんなやよいが踊れないなんて
こんな形で終わってしまうなんて
そんなのおかしいよ
やよい「春香さん…」
響「そうだ、できるぞやよい!」
貴音「ふふ、できないはずがないでしょう」
皆、口々にやよいに言葉を投げかける
さっきまで沈黙に包まれていた練習場は
皆の声で埋め尽くされた
とても賑やかだ
いつかの騒動が起きた時のように
…そんなこともあったね
でも、これは違う
気分が悪くなるようなものじゃない
今…すごく気分がいいよ
何でこんなに前向きになれるんだろうね!
やよい「……私、やります」
P「お前ら」
やよいに呼びかける皆を
驚いた表情で、プロデューサーさんは見ていた
今日はもう終わりです
……………………
再び練習場は沈黙に包まれる
やよいは息を整えて、ダンスの準備をする
P「いいんだな?」
プロデューサーさんの問いかけに頷いたやよいは、最初のポーズをとった
やがて曲が流れ始め、やよいはそれに合わせて動き始める
春香「……」
踊れるかどうかは別として、最後まで持つだろうか
水分も取って少し休憩したものの、そのことが少し気がかりになった
……その考えを狙い澄ましたかのように、やよいは倒れる
春香「……」
P「おい…!」
やよい「もう一回お願いします」
やよいは、近寄ろうとするプロデューサーさんに曲のやり直しを要求する
P「だが…」
やよい「私は大丈夫です、プロデューサー」
やよい「こんなにダメな私を、皆応援してくれます…私はいくらでも踊れます」
やよい「怖かったです…全然踊れない私を、皆は迷惑に思ってるんじゃないかなって」
やよい「不安で、不安でいっぱいでした」
やよい「でも、こんな私を皆応援してくれます、だから…お願いします」
いつか伊織が言ったように、やよいは倒れても立ち上がってみせる
P「……」
P「分かった…いくぞ、やよい」
やよい「はい……………あ」
春香「…え」
その時だった
P「………ん?」
やよいの体は沈んでいき、床に膝をついた
伊織「…やよい?」
やよい「……」
やよいは呆然と床を見ている
その様子が、何かの抜け殻のようなものに見えた
春香「やよい…」
さっきの一回で限界だった
そういうことなのだろうか
ふと横を見て映った伊織の顔も、呆気にとられていた
伊織「やよい!」
伊織がやよいの元に走っていく
それに反応するように、やよいは立ち上がった
やよい「大丈夫だよ、伊織ちゃん」
伊織「え…」
伊織に微笑んだやよいは、そのままダンスを踊り始めた
何度やっても踊れなかった部分の繋ぎも、綺麗に繋げて踊っていく
伊織「…やよい?」
今までのやよいとは別人のようにリズムをとる
静かな練習場にステップを踏む音が響き渡る
…………
こんなダメな私と練習して、迷惑じゃないですか
前からそんな気持ちを抱えていたのだろう
響ちゃんの足の痛みから始まったちょっとした不安で踊れなくなるようなやよいは、
迷惑じゃないかという思いが、どこかでダンスに影響していたのかもしれない
難しいようで、簡単なことだった
やよい「…できました」
やよいは最後まで華麗に踊ってみせた
伊織「……」
春香「…うん」
皆静かに頷く
P「よし、できたんだな…」
P「今から一人、一人ダンスのチェックだ」
全員「はい!」
P「律子、やよいを頼む」
律子「やよい、今日はもう休みなさい…それからーーー」
やよいが踊りきり、活気付く練習場
P「ライブまで気を抜くな、完璧に仕上げるんだ、いいな!」
全員「はい!」
その後私達はダンスのチェックを受け、簡単な修正点などをそれぞれ伝えられ、その日の練習は終了した
それから時は流れていった
多少疲れは残っていたものの
やよいも次の日には回復し、皆でダンスを合わせる練習が始まる
伝えられた修正点をそれぞれで合わせ修正し、ソロから全体まで調整
それぞれが納得できるまで練習を重ね、ダンスが仕上がっていく
皆の思いも強くなり、真剣な雰囲気が漂う練習場での練習も続き
順調にライブに向けて練習は進んでいった
………………………
そして、ライブ前日
ハードだった練習も終盤を迎え、
私達は最後の調整を終えたところだった
律子「…はい、オッケーよ」
全員「……」
律子「そうね…私が見る限りかなりいい感じだわ、そこは自信を持ちなさい」
全員「……」
律子「もう何も言うことはないんだけど、そうね…敢えて言うなら、ライブもこの調子でやりなさいってことくらいかしら」
律子「あと、明日何があるか分からないから、多少のことは対応できるように各自、ライブの流れ、順番などはしっかりと把握しておきなさい」
律子「…って、それは言わなくても分かるわね」
落ち着いた様子で話す律子さんは、言いたいことは言い終えた、というような顔で皆を見回す
律子「そうね…皆は何か聞きたいこととかあるかしら?」
律子「何かあるなら言っておきなさいよ?」
律子「……」
律子「…ないわね」
律子さんは周りを見回して頷く
そうやって一通り話が終わった時、練習場のドアが開いた
「お…」
律子「社長…」
春香「…え」
社長「どうやら、もうライブに向けての準備は整ったようだねぇ」
社長がドアを閉めて中に入ってくる
律子「何かあったんですか?」
社長「いやいや、ただ、ライブ前にアイドルの諸君がどんな顔をしているのか、見ておきたくてねぇ」
社長は律子さんの横に立って皆を見回し、腰に手を回して大きく頷く
社長「うん、大丈夫そうだ」
社長「そうそう、ここに来たのはもうひとつ理由があるんだがね、この後時間は空いてるかい?」
律子「この後ですか?」
社長「そんなに時間はとらない、アイドルの諸君も含めて、一度事務所に来てみてはどうかね?」
律子「社長が言うのなら私は構いませんが」
春香「私も行きます」
社長「そう言ってもらえると、助かるよ」
私に続いて皆も返事をしていき、私達は一度事務所に向かうことになった
……………………
私たちがやってきたのは、事務所があるビルの屋上だった
春香「うわぁ」
貴音「月が美しゅうございます」
夜空に浮かんでいる沢山の星を見上げ、
私達は夜の景色を眺める
社長「昔、ここに集まったことを覚えてるかい」
社長「ここに来たのは何でもない、君たちがその時にどんな気持ちでいたのか、何を願っていたのか…」
社長「何でもいい、その時と今を比べて何か感じて欲しかったんだ」
社長「わがまま言ってすまない」
社長の言葉を背景に、私は夜空を見上げる
そんなこともあったねぇ
………
何か懐かしさを感じると共に、寂しさを感じた私はつい口ずさんだ
春香「私…何を願ってたんだっけ」
伊織「あんた、そんなことも覚えてないの」
春香「え…私、なんて言ってたのかな」
伊織「…転ばなくなりますように、だったわね」
春香「えぇ~」
真「ははっ、春香らしいよ」
亜美「でもでも~、もっと面白いこと願ってた人も居ましたよね」
真美「そうそう」
小鳥「……」
小鳥「…あら?」
亜美「んっふっふー」
真美「ピ…音無さんは何て願ってたんでしたっけ?」
あずさ「……」
雪歩「あはは」
響「言わなくても、何となく分かるぞ」
やよい「え、なんて言ってたんですか?」
小鳥「…ふふ」
真美「あれ?」
亜美「音無…さん?」
小鳥「そんなこともあったわね…皆、ここでお願いごとしてたわね」
亜美「………え」
亜美と真美のからかいに、懐かしそうに微笑む小鳥さんに私達も静かになる
なんだろう
あの頃にはもう戻ることはできない
その時、昔のことがとても大切なもののように思えた
ここには、前と同じように皆がいる
こうして夜空を眺めていたのも覚えている
同じことをしているのに何かが違うような
違うことは悪いことじゃないんだけど…
……………
また、時が経ってこうして集まったら、その時も私は同じことを考えるのかな
私は皆の顔を見回す
その中に、1人夜空を眺めている美希がいた
春香「美希」
美希「……え」
春香「あ、えーと…美希は何してるのかなって」
美希「ふーん」
春香「って、最近あまり話してなかったかな」
美希「そんなの、いつものことなの」
春香「え?」
美希「あはっ、今のは冗談なの」
美希は軽く笑った後、また夜空を見ながら静かに話す
美希「…ミキね、とっても練習がんばったの」
美希「誰とも話す暇もないくらい」
美希「…だから、話してないんだと思うな」
春香「そっかぁ…」
考えてみればそうかもしれない
皆でライブの練習のことについて決めた次の日も、美希は一足先に練習場でレッスンを受けていた
美希のライブに対しての思いが強いことを改めて実感する
千早「私もよ」
春香「え?」
千早「私も、自分なりにがんばったつもり」
千早「春香と、公園で歌った時から、なんとなく…とても、練習せざるおえなくなったから」
春香「…そっか」
響「明日の今頃は、もうライブやってるんだよな」
真「…そうだね」
千早「私は、明日上手くいくか分からないけど、今までやってきたことを信じてやり切るつもりよ」
響「うぅ…なんか緊張してきたぞ」
皆の様子を見ながら、私は夜空を見る
今、こうして明日のライブに向けて
皆でがんばろうとしていることが嬉しいというか、なんていうか
また、皆で笑うことができるなら、私は
春香「ねぇ、みんな」
私は私に顔を向ける皆に話す
春香「もう少し、簡単な理由じゃいけないかな」
美希「え?」
春香「皆、いろんな目標、理由があって明日のライブに臨む気持ちは大事だけど、もっとこう…」
春香「ファンの皆に楽しんでもらいたいとか、そういう簡単な理由じゃだめかな」
春香「ファンの前で歌ったり踊ったり、そうして皆にライブを楽しんでもらいたい」
春香「だから、私は明日のライブ、楽しみかな」
今の私はどんな顔をしているのだろう
楽しみ、そういう私はどんな表情をしているのだろう
…私を見る皆の顔を見るからに、私は楽しそうな顔をしているのだろう
美希「ふふ…やっぱり春香なの、ミキ、すっごく大事なことを忘れていたかな」
「絶対ライブ成功させようね」
皆で手を重ねて空へ上げる
いよいよ、明日
どうなるか分からないけど、精一杯やりきりたい
その後も、私達はしばらく夜空を眺めていた
長い間更新できず、すみません
ちなみに上の絵に書いてある店の名前は、トトキです
植物です
………………………
…朝、
テーブルの上には温かいミルク
春香「……」
私は、いつもの違い少し肌寒く感じた朝に、体を温めていた
春香「ふぅ…」
一息ついた私は、ライブ表を見る
ライブが始まるのは、空が薄暗くなり
道を灯りが照らし始める頃
夕方と夜の間…簡単に言えば、そんなところだろう
だから、朝は特に自由にしていていいのだけれど、早めに支度をして外に出る準備をする
…何と無く落ち着かない…
私は部屋に飾ってある、アリーナライブの写真を見ると、そのまま家を出た
千早「春香、こっちよ」
春香「あ……」
千早ちゃんの声に、私は振り返る
朝から外に出たのは他でもない
昨日の夜、千早ちゃんと待ち合わせる約束をしていたのだ
私は千早ちゃんの元に駆け寄る
春香「急にごめんね、ライブまで千早ちゃんと一緒にいたいなぁ…なんて思って」
千早「別にいいわ…私も一人で居るよりは、全然いいから」
千早ちゃんは私を見て、特に問題なさそうに話す
千早「それで、ライブまで何をしているのかしら…私、まだそれを聞いてないから」
春香「あ…」
千早「……?」
何をする、それを聞いた私は、手を頭の後ろ側まで持っていく
肝心なことを忘れていた
春香「あはは…ごめん」
目の前に軽くため息をつく千早ちゃんが映る
まぁいいわ
…それを今から考えましょう…
と、千早ちゃんは気にしない様子で話してくれた
春香「うーん」
今日はライブ
カラオケやゲームセンターみたいな、
遊びに行くような場所は避けたいところ
静かな所といっても、図書館とかは違う気もする
………
純粋に行きたい所があるとすれば、それは千早ちゃんと話した…
千早「公園…はどうかしら」
春香「うん、私もそう思ってた」
……………………
……………………
ベンチに座った私と千早ちゃんは、
公園の様子を見ながら、当たり障りのない話をする
時には、遠くを歩く猫を見て指を指したり、笑ったり…
ほんとに、どうでもいいようなことを話して、着々と時間は進んでいく
そして、時間が経つに連れ、いつしか話はライブのことへと変わっていった
春香「そういえば、千早ちゃんが歌ったのもこの公園だったね」
千早「そうね」
春香「あの時は、皆これからどうなるんだろう…ってとても不安に思ってたけど」
千早「私なんか、1人で練習しようとしてたわね…その、あの時はありがとう」
春香「もう、それ何回も聞いたよ」
千早「ふふ…」
春香「礼を言うなら私の方かなぁ」
春香「千早ちゃんが居なかったら、皆の、乗り越えたいって気持ちが分からないままだったから」
千早「…そのためにも、今日のライブは成功させないといけないわね」
春香「……」
春香「ねぇ…千早ちゃん」
千早「……」
春香「乗り越えるって、何なのかな」
春香「今日のライブが成功して、ファンもいっぱい楽しめて、最高のライブになったとしたら…」
春香「それで、乗り越えたことになるのかな」
千早「それは…」
千早ちゃんは、黙ったまま暫く考えていた
春香「ふふ…なーんて、ライブはライブだもん」
春香「ファンの人達に楽しんでもらえるように、頑張ろうね」
千早「…ええ」
一通り話が終わったところで、私は再び公園を見渡す
気がつかないうちに話し込んでいたようで、
周りには、弁当を持って食事をする人達が居た
春香「もうそんな時間なんだ」
千早「私達も、お昼食べたら…ライブ会場に向かいましょう、リハーサルもあることだし」
春香「そうだね」
ライブがどんどん近くなる
熱心に練習をしてきたから、そこまで不安はない
でも、熱心に練習してきたからこそ、緊張したりもする
…いよいよライブだね…
私は自分に言い聞かせるように呟く
千早「そろそろ行きましょう」
私と千早ちゃんは食事を済ませると、ライブ会場へと足を進めた
……………………
……………………
まだ昼過ぎだというのに、ライブ会場の中は薄暗かった
いや、昼過ぎに関わらず建物の中は薄暗い
さっきまで外に居たせいか、やけに暗く感じるのかな
春香「ちょっと来るの早すぎたかな」
千早「そう…みたいね」
設備の確認などをしている人達を除くと、
それ以外は誰も来て居ないように見える
…ほんとに、早すぎたかな?
その時、横からコツコツという足音と共に、私と千早ちゃんを呼ぶ声がした
律子「2人もと来たのね」
春香「律子さん」
律子さんが、片手にスケジュール表を抱え立っていた
そのまま、私達に向かって歩いてくる
春香「あの…ちょっと早過ぎたりしちゃいました?」
私は朝と同じように片手を頭の後側まで持っていく
…ちょっと早いわね…という返事を予想した
でも、律子さんは
律子「何言ってるの」
背を向けて歩いて来た方向へ帰っていく
律子「すでに結構来てるわよ、あなた達も控え室に来なさい」
私と千早ちゃんは、手招きする律子さんに着いていく
あるであろう控え室へと向かって行った
「雪歩、それ…とってくれないかな」
「うん…はい」
「分かってるな、ラーメンはダメだからな」
「ふふ…心得ております」
「やよい…」
控え室の中は、騒がしい雰囲気だった
春香「皆…来てたんだ」
美希は既に衣装に着替えて、準備万端
他の皆も、そろそろ準備が終わりそうな状態
全員来てるわけじゃなさそうだけど…
亜美と真美、それからあずささんはまだ来ていない
いや、来てない方が普通かもしれない
来てる方がおかしい…?
でも、今までの皆のライブに対する姿勢を考えると、これも当たり前なのかな
私はそう思った
春香「はは…集合時間にリハーサルが終わりそうな勢いだね」
律子「さっ、春香と千早も衣装に着替えて準備をしなさい…音声確認、いろいろあるでしょ」
「こんにちは!」
亜美と真美も控え室に来たようだった
私に一礼すると、中へと入って行く
千早「私も、リハーサルの準備をするから」
千早ちゃんも、自分の持ち場へと入っていく
ライブ会場に来て、心構えが変わったのか、雰囲気は一変した
春香「う、うん」
私も勢いに飲まれ、私の持ち場へと歩いて行った
こんにちはって何か違和感ある
そうそう、仕事なんだから「おはようございます」なんじゃないか?って意味
業界だと時間帯関係なく「おはようございます」って挨拶してるイメージ
おはようございます、ですね
指摘ありがとうございますm(_ _)m
自分の持ち場に着くと、
鏡越しにぐるっと周りを見渡す
皆が衣装を合わせている姿や、さっきまで一緒にいた千早ちゃん、それからライブ中継用のテレビ……
私も準備始めようかな
そうして準備に取り掛かった時だった
「…遅かったわね」
私の横からの声だ
春香「伊織…」
私の横には、既に衣装に着替えてしまっている伊織がいた
春香「遅いって…私はまだ早い方だと思ってたけど」
伊織「…はぁ」
私の返事に伊織はため息を軽くつく
…なんか今日はため息つかれてばっかりだね
伊織「あんた、ほんとに分かってるの?…このライブで結果がでるのよ」
伊織「リーダーのあんたが一番分かってると思ってたけど」
春香「うぅ…ごめん」
伊織「……」
伊織「…ま、早いというのも分からなくないわ」
私に気を遣ったのか、伊織はさりげなく付け加えると、また準備をし始める
春香「…えぇと」
まずは衣装に着替えようかな
最初はソロだから、ソロ用の衣装に…
念のために全体用の衣装も確認してた方がいいよね
私は用意してある衣装を取り出すと、手に持ったまま鏡を見ながら、すっ…と合わせる
衣装は問題ないし、そろそろ着替えを…
…その時、私の横の席からガタッと音がした
春香「伊織…もう行くの?」
伊織「会場に慣れておくのよ…それよりあんたも早く来なさいよね、リハーサルがあるんだから」
伊織はそのまま控え室から部屋の外へ出て行く
春香「……」
…私も、早く準備してしまおうかな
私はその後無言で準備を進めた
…奥にはステージ
私は、小走りでそこへ向かっていた
控え室で気がついたら私一人
千早ちゃんはとっくに準備を済ませていたらしく、私より後に来た亜美と真美も既に居なかった
…ちょっと長くなり過ぎたかな
私は少し息を切らしながらステージに着いた
ステージには、千早ちゃんがソロのリハーサルを始めていて、亜美と真美が次に並んでいる
…そこまで遅れてなかったみたいだね
私はホッとしながら隅にいる皆の所へ向かった
春香「おまたせ~」
響「お…来たな」
雪歩「似合ってます、春香さん」
私は皆に笑いながら応える
春香「よかったぁ、遅れたかと思っちゃった…」
本音なのか冗談なのか分からないようなことを言うも、皆の顔を見ながら少し異変を感じた
…なんか、暗いような
響「あぁ…それなんだけどな」
別にそこまで気にすることもないんだけど…
と、言いにくそうな顔をする響ちゃんの横に伊織がやってくる
伊織「あずさが来てないのよ」
伊織は腕を組みながら冷たく言い捨てる
伊織「電話も入れてみたけど、出ないし連絡もないし…もう、何してるのよ」
伊織の言葉に多少皆も不安の色を見せる
……
少しの間だけ、沈黙が走った
千早「春香…次、空いてるわよ」
春香「え?」
私は千早ちゃんの報告を聞いて、ステージに目を移す
…今は亜美と真美がリハーサル中
千早ちゃんは今リハーサルから戻って来たようだった
春香「うん…じゃあ、私行ってくるね」
私は手を振って、皆から離れて行った
………………
今はまだ昼過ぎ
実際、集合時間にすらなっていない
まだ来ていないとはいっても、遅れているという表現はどうなのだろう
…でも、電話に出ない連絡もない
そのことが少し気にかかった
まるで、いつかの貴音さんのような
……………………
私のリハーサルが終わっても、あずささんは会場に来なかった
皆リハーサルを終え、一応やることはやり終えたなか、何もすることがないままライブ会場を静寂が包む
伊織「…出ないわね」
時折電話をかけるものの、やっぱり繋がらない
そうこうしているうちに、どんどん時間は過ぎていく
………集合時間
あずささんはまだ来ない
伊織「ちょっと… 遅刻じゃない!」
皆の顔も不安になっていく
流石にこれ以上はまずいかも…!
その時、会場に足音が鳴り響いた
「遅れました~」
あずささんが遠くから息を切らしながら走ってくる
あずさ「ほんとにごめんなさい、すぐに準備します~」
私達の前で必死に謝るあずささんに、伊織が言う
伊織「理由は後で聞くわ、早く準備しなさい」
あずさ「…はい~」
あずささんは控え室に速足で向かっていく
……
私の前を通り過ぎる時、ちらっと見たあずささんの顔が、とても焦っているように見えた
時間が経ち、あずささんがやって来てようやく会場に全員が揃う
伊織「皆リハーサルはもう終わってるから、早くしなさい…あずさが終わった後、ラストの所のリハーサルやるわよ」
伊織に頷いたあずささんは、ごめんね、とひとこと言ってステージに向かう
そのままあずささんのリハーサルが始まり、会場は久しぶりに賑やかになった
春香「あずささん、何かあったのかな…道に迷ったとは思わないけど」
伊織「分からないわ」
あずささんの歌声が会場に響くなか、伊織は腕を組み、じっと前を見ながら答える
伊織「でも、何かあったに違いないわ」
伊織「昨日、亜美とあずさには口酸っぱく言ったつもりよ…遅れてくるなんてありえない」
春香「…うん」
さっきも言ったけど後であずさには聞くつもりよ、と伊織は言う
…私は軽く頷いた
大事じゃなければいいけど
やがて、あずささんのリハーサルも終わり、ステージに全員が集まった
伊織「私達だけでもリハーサルを終わらせといて良かったわね」
皆が輪になっているなか、伊織が言う
集合時間に遅刻しても、それから掛かった時間はあずささんのリハーサルだけで、実際はまだまだ時間に余裕はある
…偶然? だけど早めに来ておいてよかったのかな
あずさ「ほんとにごめんなさ~い」
申し訳なさそうに謝るあずささんに、真美が応える
真美「そういうこともありますよ、気にしないでください…!」
真美に笑顔を向けるあずささんを見て、私は少しほっとした
…それにしても、ライブの練習の時も真美は私を励ましてくれたりしたね
まだまだイタズラっぽい所もあるけど、なんか気が利くようになったというか…
…その時、伊織がまた口を開いた
伊織「さっき皆のリハーサルの様子を見てたけど、真は少しずれてる所があったわね」
真「えっ…あ、うん…ボクも自覚はしてるから…本番じゃ、ちゃんと合わせるよ」
少し戸惑ったように話す真を見て、伊織は腕を組みながら、言う
伊織「それならいいけど…あんた、トップバッターなんだから頼むわよ」
頷く真を見て、伊織は目線を変える
伊織「真とペアの雪歩は、私が見る限り問題なかったわ…それと、」
ぺらぺらと話す伊織を見て、私は少し申し訳ないような気持ちになる
…ほんとは、こういうことはリーダーの私が言わないとだめなんだけど…
私がリハーサルに来た時には、皆はもうリハーサルを終えていたし…じゃあ、何々するよとかのひとことはどうなのって…それも伊織に言われるし
なんかごめんね…伊織
伊織「それじゃ、全体のリハーサル始めるわよ」
私の横で伊織が合図した
皆がそれぞれの位置に着くなか、伊織が私に声を掛ける
伊織「あんた、さっきからなに下向いてるのよ」
春香「えっ」
伊織は鋭い目つきで私に話す
伊織「何度も言わせんじゃないわよ、あんた…リーダーなのよ」
春香「…ごめん」
うぅ…今そのことについて考えてました
伊織「…まぁ今更そんなことはどうでもいいわ」
伊織「多少あんたにも事情はあるだろうし、皆緊張してるわ…今のうちに慣れておきなさい、下を向くんじゃないわよ」
伊織は、私に背を向けて自分の位置に歩いていく
春香「…うん」
私はステージの中心へと歩いていった
………………………
伊織「結構動きやすかったわ…感触は良かったわね」
全体でのリハーサルも終わり、ライブまで完全に待機する状態になった所で、また皆で輪になっていた
その中で伊織が話している
伊織「やよいも大丈夫そうじゃない」
ちらっと伊織がやよいを見ると、やよいは照れたように笑う
…やよいと伊織がこんなやりとりをするのを見るのは久しぶりだね
伊織「それで…一応やることは終わったわけだけど」
伊織が腕を組みながら考え込むように話すと、響ちゃんもそれに合わせて、言う
響「……終わったな」
真「うん…」
皆、やることがなくなり黙り込む
……
もし、リーダーの私が何か言うとして、こういう時は…どうすればいいんだろう
私もやることはもうないんだけどね…
あとはライブまで集中することくらいかな
そんな時、雪歩が話を切り出した
雪歩「あのぉ…リハーサルの終了までまだ時間あるので、少しだけステージを使ってもいいですか?」
千早「ええ…私もお願いしたいわ」
雪歩に続いて千早ちゃんも希望する
それに続いてどんどん皆も口を開き始めた
響「あ、それなら自分もう一回だけ軽くダンスやっておきたいな…なぁ、貴音」
貴音「わたくしは構いませんが…」
伊織「そうね…私は私でしなければいけないことがあるから……私は休憩をとりたいわね」
亜美「ねぇ…どうする~」
真美「う~ん」
リハーサル、休憩、考え中…
それぞれの意見が出るなか、私も何かすることがないか考える
………
うぅ…何も思いつかないけど
あえて言うなら、今は控え室にいたいかな
そんな時、珍しく美希が真面目な顔で私に聞いてきた
美希「どうするの…春香?」
春香「えっ…」
伊織も私をじっと見ている
…こういうことは、やっぱりリーダーが決めないといけないのかな
それじゃぁ…
春香「じゃあ、今から自由で…」
伊織「…そうね、それがいいわね」
伊織は小さく頷くと、
伊織「あずさ…!」
あずささんを呼びながら、ステージから降りていく
…やがて皆もそれぞれ行動に移り、ステージの上は数人だけとなった
千早「すみません…マイクお願いします」
千早ちゃんの声を背景に、私はステージを降りて控え室に向かう
…控え室に行っても、何もすることはないんだけどね
私は、たくさん椅子が並んでいる広い会場を横目で見ながら、狭い通路へと足を踏み入れた
……
「ああ…それで、」
通路を歩いていると、何やら話し声が聞こえてくる
…なんだろう、控え室のほうからだけど
そう思った私は、今向かっている控え室の方へ、曲がり角を曲がる
律子「あら…春香、リハーサルはもう終わったの?」
春香「律子さんにプロデュ……!」
曲がり角の先には、律子さんとプロデューサーさん…
それから、小鳥さんが立っていた
小鳥「ふふ…」
小鳥さんはニコニコ顔で私に微笑む
……三人で揃って話なんて、
やっぱり、プロデューサーさん達にとっても…このライブは重要なものなんですね
とりあえず私は、質問に答えた
春香「あ…はい、リハーサルは終わりました」
律子「そう」
律子さんは頷くと、私の後ろ側をキョロキョロと見て、言う
律子「皆は…どうしたの?」
春香「えっ…あ、それは…」
私は、今わけあって自由時間にしていることを伝える
律子「そうねぇ…」
すると、律子さんは少し考えるそぶりを見せた
律子「もうライブまで二時間もないわ、ライブが始まる一時間前には、会場に人が入るようになってるの……さっき、ちらっと外を見たけど、もう既に人が並んでたわ」
律子「だから、早めにリハーサルを終わらせて会場の設備を見直さないと…会場に人を入れることができないのよ」
春香「わっ…じゃあ私、皆に言ってきます」
律子「いや、春香はここに居なさい、ライブ前は控え室に集合することになってるし……それに、私は今からステージ側に行かないといけないから」
丁寧に話す律子さんは、プロデューサーさん達にひとこと告げると、ステージ側へと走っていく
……
私と、プロデューサーさんと、小鳥さんだけがその場に残った
静まり返った空間で、しばらく沈黙が続く
……
そして、ふとプロデューサーさんが口を開いた
P「春香…ちょっといいか?」
プロデューサーさんはそう言うと、私に背を向けて歩いていく
小鳥さんも、私に意味あり気な顔を見せると、頷いて歩いていく
春香「…はいっ」
…なんだろう
私は二人の背中を追いながら歩いていく
…連れて来られたのは、
ステージのすぐそばにある、スタンバイ用の場所だった
ステージの上で千早ちゃんが歌っている
…その隅の方で、雪歩達が順番を待っている
その様子をしばらく見ていたプロデューサーさんは、やがて、ステージとは別の方向に歩き出し、階段を登っていく…
P「こっちだ」
小鳥さんも階段を登り、私もその階段を登る
…辿り着いたのは、密室だった
P「…入るんだ」
春香「はい……あれっ」
部屋に入った瞬間、会場に響いていた千早ちゃんの歌声が聞こえなくなり、周りは不思議なほど静かになる
その不思議なくらい静かな部屋で、私とプロデューサーさんと、小鳥さんの三人だけとなった
……
………………
P「…よく見えるだろう?」
プロデューサーさんはカーテンを開けると、小さな枠からガラス越しにステージを見る
春香「…はい」
私もガラスからステージを見降ろす
…そこには、千早ちゃんがステージから降りて行く姿や、
響ちゃんがステージの中心へと歩いていく姿が、はっきりと見えた
……こんな場所があったなんて
P「ここは…ライブの状況確認、音声操作、いろいろなことに使っている…この会場じゃ、ここで音源の管理をしているんだ」
そう言って、プロデューサーさんは別のカーテンを開ける
P「音が聞こえないから、何か事故があった時は…ここからスタンバイ側のサインを見て、音を止める」
静かに話していたプロデューサーさんは、開けたカーテンを全て閉めると、私の方に向きを変える
P「ここに来たのは他でもない……春香には、伝えておかないといけないからな」
そう言って、プロデューサーさんは真面目な顔になった
P「ライブの間…俺や小鳥さんはほとんどこの部屋かスタンバイ場にいる」
P「律子は控え室の方にいるが、ずっといるわけじゃない……俺や小鳥さんも、ちょくちょくそっちに向かうが、だいたい控え室は春香達だけだと思ってくれ」
真面目な顔で話していたプロデューサーさんは、ひとこと…こう言った
P「そっちは…任せてもいいか?」
春香「……」
P「お前達のステージを、俺は見届けなければいけない」
…私は黙る
P「この一週間の練習で、俺はお前達に驚かされたんだ……辛いだろうと思った練習も、お前達はこなしてきた」
P「春香…過酷な練習をさせてすまない」
P「でもだな…それをこなすだけの思いがあるのなら……最後に、その思いを…このステージで見せてくれないか?」
春香「プロデューサーさん……」
静かに話すプロデューサーさんから…
何かを願うようなものが、私に伝わってきた
……
プロデューサーさんの素直な気持ちを聞いたのは…久しぶりな気がする
今…ちょっとだけ、昔のプロデューサーさんを見た気がします
「……」
私は、静かに返事した
「…ふふ、少し昔の話でもしましょうか!」
その時、静かだった部屋に…ポンッという音が鳴る
春香「うわぁ」
ニコニコ顔の小鳥さんが、両手を揃えて笑っていた
春香「ちょっと…びっくりしたじゃないですか…!」
小鳥「いいじゃない春香ちゃん、前はあんなに暗い顔をしていたのよ」
珍しくハイテンションで話す小鳥さんが私の目の前に映る
小鳥「そうね…あれは、プロデューサーさんが事務所にやってきた日のことだったわ……」
最近静かに話す小鳥さんしか見てなかった気がするけど…元々は、こんなふうに話してたっけ…
その後、心地いいとも言える小鳥さんの長話が、密室の中で続いた
………………
………………
小鳥「ごめんなさい春香ちゃん! つい話し込んじゃって…」
春香「いえ…じゃあ、私行ってきますね!」
時は経ち、私は少し焦り気味に部屋を出る
あまりにも小鳥さんの話が長くなってしまい、気がついたらとっくにライブ開始一時間前を過ぎている始末
聞き入ってしまった私も悪いんだけど…
プロデューサーさんが気づかなかったらどうするんですか…皆、もう控え室に集まってますよ!!
そう思いながら、階段を降りている時だった
……ワイワイ……ガヤガヤ……
春香「…あれっ」
私は足を止めて、ステージの方を眺める
ちらっと見えたステージ前の客席は、既に人が埋まっていた
春香「そうなんだ…もう会場は開いてるんだね」
密室にいたから気がつかなかったけど…
会場の雰囲気は、ガラリと変わってとても賑やかになっている
……ほんとに集中しないといけないね
私は、体が重くなるのを感じ、気を引き締めて控え室へと向かった
伊織「あんた…どこにいたのよ…!」
控え室に戻って早々、私は伊織に怒鳴られる
うぅ…ごめん
春香「ごめん…ちょっと話があって」
伊織「話…?」
伊織は私の言葉に少し考えるそぶりを見せると、納得したような顔をした
伊織「今、ライブの順番の確認をしているのよ…もう先に始めてるわ」
そう言って、伊織は紙をペラペラと空中で揺らす
壁に立ててある時計を見ると、もう既にライブ開始の40分前…
…ほんとにごめん
私は、集まってる皆のところに割って入る
伊織「いい、最初は真と雪歩のペア…次が響と貴音、それから…」
急ぐように伊織は話し、確認がものすごい速さで進んでいく
…ちょっと速すぎないかな
私は、少し焦り気味にも見える伊織をちらっと見た
伊織「そして、最後は私とやよいで前半は終わりよ」
伊織は一通り皆の名前を呼び終えると、さっと目線を私に向ける
春香「……っ」
…なにかな
伊織「…中盤の最初はあんたなんだから、頼んだわよ」
鋭い目で私を見ていた伊織は、
静かに…でも、よく通る声で私に言った
伊織「いい流れならそのまま…万が一のことがあったらこの中盤の最初で立て直す…あんたのポジションは、とても大事なんだから」
伊織「トークでできるだけ盛り上げるつもりよ…その後のあんたのステージで、一気にファンの人達を盛り上げてくれないかしら」
春香「……うん」
私は、じっと私を見る伊織に頷く
プレッシャー…覚悟…
自分でもいろいろと感じるような返事だった
いつも真剣な表情をしているけど、今の伊織はもっと真剣な顔をしているね
なんか頼られたの久しぶりな気が…って、そんなことはいいの
私、頑張らないと……
…でも、
伊織……なにか、焦ってないかな
その時、伊織は足をツカツカさせながら腕を組み、落ち着かない様子で、言った
伊織「それで…律子達は何してるのよ」
春香「……え?」
私は控え室を見渡した
1…2…3.............数人足りない?
何度か数え直しても、周りに集まってるのは10人も居なかった
……どういうこと?
急いでいたから気がつかなかったけど、皆まだ集まってないのかな
戸惑う私を見て、伊織は更に戸惑ったように言う
伊織「…あんた、知ってるんじゃないの?」
春香「えっと…よく分かんない、律子さんに他の皆は…まだ、ここに集まってないのかな」
ちょっと…と、
伊織は気の抜けたような声を出す
伊織「あんたが言ってた話って、なんだったのよ」
春香「えっ…それはプロデューサーさんの」
よく状況が分からないなか、控え室のドアが開いた
律子「ごめんなさい…待たせたわ!」
律子さんに、雪歩、響ちゃん、千早ちゃんに……
他にも、ステージを使っていた人達がぞろぞろと入ってくる
伊織「律子…?」
何があったの、というような顔で、伊織が話しかける
律子「今から話すわ」
早口で話す律子さんの横で、響ちゃんが焦ったように話す
響「そんなに大きく取り上げなくても…自分は大丈夫だぞ」
雪歩「響ちゃん…」
千早「…今はそんなことを言っていられない」
律子「ちょっと黙ってなさい…!」
少し揉め合うように話す皆を、律子さんは止めると私達に目を向けて、言った
律子「遅れてごめんなさい」
律子「…ええと、そんなに身構えなくていいわ…私の思い違いかもしれないから」
律子「さっき…リハーサルの途中で、響のダンスが一時中断して、リズムがずれたから…私が足を見ていたのよ」
春香「……………えっ」
律子さんが話す横で、響ちゃんが俯いた
伊織「足って…それで、どうなのよ」
律子「…そう言われても」
伊織の問いに、口ごもる律子さんは力なく答える
律子「痛み止めで痛みを止めてるだけなんだから、良いわけないじゃない…この前も言ったけど、立っていられるのが不思議だわ」
響「だから…」
俯いていた響ちゃんが、顔を上げて強く言う
響「自分は大丈夫だぞ…今だってこうして立ってるんだし、それに…練習の時だって何ともなかったじゃないか…!」
律子「それは…そうだけど」
響「心配かけてるのは悪いと思ってる…でと、ほんとに大丈夫なんだ」
伊織「ダンスが中断したってどういうこと?」
響「それは…」
響ちゃんが話すには、こうだった
ステップを踏みながら前に歩き、前から後ろに下がる時に…後ろに下がらず、そのまま前に歩き出てしまったらしい
…後ろに下がれなかった?
響「ダンスの振りが…少し飛んだんだ」
本人はそう話す
そんな響ちゃんを、伊織はじっと見る
響「…ほんとなんだ」
響ちゃんも、伊織をじっと見る
………
お互いに目を離さないまま時間が過ぎる
響「……っ」
そして、響ちゃんが目をそらしかけた時だった
貴音「…もういいでしょう、響」
響「…えっ」
律子さん達の後ろにいた貴音さんが、前に出てきて、言った
貴音「嘘はよくありません」
響「た…貴音まで」
戸惑う響ちゃんに、貴音さんは優しく話しかける
貴音「心配をかけたくないという思いは十分伝わってきます……ですが、嘘というものは、より人を不安にさせるもの」
貴音「…ほんとうのことを話すのです…何よりわたくしには、ただ振り付けを忘れたようには見えませんでした」
響「……」
下を見て黙っていた響ちゃんは、やがて、言った
響「少しだけ…痛かった」
貴音「……」
響「でも一瞬だけなんだ…久しぶりに痛くなったから、びっくりしてダンスを止めただけだぞ」
律子「ちょっとステップを踏んでみなさい」
響「…分かった」
……タタッ……タッタタッ……
響ちゃんは華麗にステップを踏んで見せる
…意外と、大丈夫そうだね
響「ほら…大丈夫だぞ」
手を広げて、大丈夫というように響ちゃんは視線を送る
律子さんは、黙ったままその様子を見ていた
伊織「とは言っても…ステージに立ったら、また足が痛むかもしれないじゃない」
響「それは…もしそうなっても、絶対に踊りきる」
何を言っても、響ちゃんはライブに出ることだけは譲らなかった
そんななか、控え室に放送が流れる
控え室の外からも、同じ放送が流れる
…その放送は、会場全体に流れているようだった
「まもなく開演いたします。開演に先立ちまして、皆様にお願い致します」
「会場内での飲食、喫煙は……」
えっ…という声が、控え室で飛び交った
…私も、驚いたように言った
律子さんが腕時計を見る
律子「もう15分前じゃない…」
真「どうしよう…ボク、もう行かなきゃ」
雪歩「わ、私も…」
皆、焦ったように口々に話し始める
律子「もう変更も効かないわ……とにかく、最初に出番が回ってくる人はスタンバイ場に行きなさい」
真「は、はい…!」
真に続き、雪歩も返事する
…なんか、すごい緊張が
その時、響ちゃんが言った
響「自分は二番目だから、もう行くぞ」
律子「響…ほんとに、大丈夫なのよね」
心配そうに話す律子さんに、伊織が言う
伊織「律子…今何を言ってももう遅いわ…それより、締まらないわね」
伊織「ちゃんと送り出してあげなさい」
律子「伊織…」
律子さんは、頭を抱えると…分かったわ、と顔を上げた
律子「私たちが弱気になってたら、ライブを見に来ている人達に思いが伝わらないわ…今はライブのことに集中するのよ」
律子「それじゃあ…」
律子さんは、軽く息を吸うと…強く言い放った
律子「…行ってきなさい!」
響ちゃん達は頷いて控え室から出て行く
…今は、ファンの人達に最高のステージを見せることに集中しよう
正直、私も余裕はないかも
なんか久しぶりかな…こんなに緊張するのは
ドタバタするなか、ライブが幕を開けた
…って、始まったばかりなのに焦っちゃダメだね
まずは、控え室にいる私達が落ち着かないとね…
ーーー ラ イ ブ 編 ーーー
CHANGIN' MY WORLD
変わる世界 輝け!
「みんな~~~…今日は、ライブを見に来てくれてありがとう!」
…ワー!!
…ワー!!
控え室で待機の状態にある私含めて皆、
モニター越しに、ライブの様子を見る
真っ暗なステージから、真の声が会場全体に響く
…なんか、始まってもないのに…すごく盛り上がってるね
「今日は皆で盛り上がろう!!」
??~~~~
ワーーーーー!!!!
ワーー!!!ワーーーーー!!!
キャーー!!!
真のかけ声と共に、ライブの最初を飾る曲が流れ始めた
待ちに待った、というように会場全体が湧き上がる
それにしても…
春香「…すごい、熱気だね」
始まったばかりにしては尋常じゃないほど騒がしい会場の雰囲気が、モニター越しにも伝わってきた
伊織「なによこれ……何で、こんなに盛り上がってるのよ」
伊織もあっけにとられて、モニターを見つめている
…なんか、急に緊張してきたような
思ってた以上に会場は盛り上がってるよ
正直、中継を見ていただけでも…勢いに押されちゃったかな
春香「……」
真と雪歩…大丈夫かな
プレッシャーに飲まれるには十分と言えるほどの歓声が上がったなか、ステージにライトが照らされた
………
「CHANGIN’ MY WORLD!!
変わるせかい~~輝け!」
ワーーーーー!!
ライトと共に真と雪歩の姿がステージに現れ、会場は更に盛り上がる
ハイ!!ハイ!!ハイ!!……
「CHANGIN’ MY WORLD!!
私のせかい~~」
大量のペンライトが会場に揺れる
律子「まずいわね…」
律子さんが厳しい表情で口ずさんだ
うぅ…真と雪歩、完全に声が上ずってるよ
律子「ファンの人達からのちょっとしたサプライズかしら…多分、勢いをつけようとしてくれてるんだわ」
律子「でも…これはちょっと、あの二人には逆効果だったかもしれないわね」
律子「最初はちゃんとしたステージを披露しないと…ファンにとっても、私達にとっても、後につなげにくい所があるわ」
亜美「そんな…」
真美「うう…がんばってください…!」
やよい「真さん…雪歩さん…」
律子「難しいわね…後の人達で立て直すしか」
そんな時、落ち着いた声が控え室に響いた
……
美希「私のモノ チェンジー……」
静かで楽しそうな歌声
その声に、控え室は静かになる
律子「美希…」
美希「あはっ…賑やかで楽しいの」
美希は、モニターから少し離れた所の椅子に座り、輪っかのようなものを指でクルクルさせながら、言う
美希「ファンの人達が楽しんでるなら、ミキ達も楽しめばいいと思うなー…」
美希は、鼻歌交じりに真達の歌に合わせる
美希「そのほうが、キラキラで…ワクワクするの」
その姿は、とても落ち着いていた
伊織「気楽なものね」
そんななか、伊織が言う
伊織「言いたいことは分かるけど…ファンがここまでしてくれてるんだから、それにちゃんと応えないでどうするのよ」
律子「そうねぇ…」
そんななか、
律子さんは、しばらく考えるように首を傾げ、考えをまとめながら喋るように、言った
律子「どっちにしても、出だしで躓いてしまったことに変わりはないわ」
律子「ファンがとても好意的にこのライブを迎えてくれるなら、私達もそれにのってライブを盛り上げればいいかもしれない」
律子「でも…」
律子「どうであれ、ファンを盛り上げるのは私達なの…この先は、私達自身でライブを盛り上げていかないといけないわ」
とはいえ……と律子さんは眼鏡を軽く触る
律子「上がってしまったなら仕方ないわね…二人が戻ってきたら、温かく迎えてあげなさい」
真達はどうにか歌い終え、ステージは真っ暗になる
……
会場の雰囲気は、可もなく不可もなくって反応だね
大事にはならなかったみたい
伊織「この様子じゃ…響達も雰囲気に飲まれてるかもしれないわ」
伊織は腕を組みながら言う
……立て直すとしたら、ここにいる私達でどうにかしないと
伊織「だから……」
次の瞬間、伊織はくるっと向きを変え、その先にいる人物を見た
伊織「亜美…真美」
亜美「はい…」
真美「……」
伊織「あんた達二人にかかってるんだから、頼んだわよ」
ライブはまだまだ長いんだから、思いっきりやりなさい、と伊織は言う
亜美「は…はいっ」
真美「がんばります…」
真美「じゃあ…行ってきます」
亜美も真美も、すっかり会場の雰囲気に飲まれているようだった
…無理もないかな
私も圧倒されちゃったし、こんな時に順番が回ってきたら、私だってとても緊張する
…でも、亜美……真美……
亜美「…大丈夫かな」
真美「…がんばらないと」
…なんでだろう
私には、スタンバイ場へと控え室のドアに向かう二人の姿が、とても弱々しく見える
二人は一緒!
そんなふうにいつも一緒にいた亜美と真美は
時にはいたずらしたりするけど、悪気があってしてるわけじゃない
どれもこれも、楽しむためにやっていて…そして、それは亜美と真美だからできること
何をやる時も二人で支え合ってきたんだよね
……ねぇ、亜美…真美
敬語や話し方とか、いろいろ意識する気持ちは大事だと思う
でも、亜美と真美自身も変わらなくちゃいけないのかな…
そんなに…思い詰める必要無いんじゃないかな
春香「待って」
亜美「え……」
真美「……」
ドアの前で、亜美と真美が振り向いた
春香「ほ…ほらっ」
私は二人の元に走り寄る
春香「笑おうよ…もっとこう…楽しもうよ」
真美「春香…さん?」
春香「はるるんだよ、真美」
真美「えっ……」
真美は戸惑ったように、目をおろおろとさせる
春香「自然体、自然体…もっと、気楽でいいから」
やっぱり私は、以前の亜美と真美のままで居て欲しい
…だめ…かな?
亜美「はる…」
亜美と真美はしばらく黙ったまま、私を見ていた
「…んふっ」
一瞬見えた、二人の顔
何処かいたずらっぽさを感じさせる
落ち着きはらった声
……
「ちょっとだけだかんね」
ドアを開けて、二人がスタンバイ場へと向かっていく
亜美「はるるんの期待に応えないといけませんなー」
真美「うん、いってくるねー」
二人の足音が遠ざかっていく
……
控え室のモニターから歓声があがる
響ちゃん達のステージが始まったようだった
春香「…うん」
私は皆の集まるモニターへと歩く
…大丈夫、大丈夫…まだまだこれから
私は自分にそう言い聞かせた
909:名無しNIPPER[sage]
2014/10/23(木) 13:37:35.41 ID:GttPlI5cO
春香「いつからだろう」
同名でスレを立て直すので、削除お願いします
これ本人?
このSSまとめへのコメント
展開がくどすぎて何がしたいのかわからん
見ててうんざりする
まーた大正義春香さんかよ
こういうのもう飽きたし長いしでくっそつまらん
春香うぜええええ
それに比べて伊織は人間味があっていいわ
春香ごときよりよっぽどリーダーに向いてる
春香のキチガイっぷりが全面に出てて胸糞悪い
逆に伊織の正論っぷりが際立ってる
今まで長編SSいろいろ読んだけどこれが群を抜いてひどい
読んでる途中で飽きたわ、それも半分もいかず
言うほどひどいか?普通に続き気になったけど
ひどいと思うなら見なければいいんじゃない。ただのイチャコラのSSより見ていて面白いと思うよ。
なんだか19の「音楽」を思い出すね