「ねえ、まるで雪みたいだね」
「え、そう?そうかぁ……?」
「ふーん。まあいいや」
とクリスタはそっけなく言ってから、私より二歩ほど先でくるりと振り向いた。
金色の髪の毛が空を映してきらきらと光り、そしてふたたび謎めいた言葉を口にした。
「ねえ、秒速5センチなんだって」
「ん、何が?」
「なんだと思う?」
「わかんないな」
「すこしは自分で考えてよねユミル」
そんなことを言われても分からないので、私は分からないと素直に言う。
「桜の花びらの落ちるスピードだよ。秒速5センチメートル」
みたいなユミクリがみたい
びょうそくごせんちめーとる。不思議な響きだ。私は素直に感心する。
「ふーん。クリスタ、よくそんなこと知ってたな」
ふふ、とクリスタは嬉しそうに笑う。
「もっとあるよ。雨は秒速5メートル。雲は秒速1センチ」
「くも?くもって空の雲か?」
「そう、空の雲」
「雲も落ちてるってのか?浮いてるだけじゃなくてか?」
「雲も落ちてるの。浮いてるんじゃなくて。小さな雨粒の集まりだから。雲はすごく大きくて遠いから浮いてるように見えるだけ。
雲の粒はゆっくり落ちながらだんだん大きくなって、雨や雪になって、地上に降るの」
「……ふうん」
と、私は本当に感心して空を眺め、それからまた桜を眺めた。クリスタのころころした少女らしい声で楽しげそうにそういうことを話されると、
そんなことがまるで何か大切なこの世界の真理のように思える。秒速5センチメートル。
「……ふうん」
と、クリスタが私の言葉をからかうように繰り返し、唐突に駆け出した。
「あ、待てよクリスタ!」
私はあわてて彼女の背を追う。
※ ※ ※
クリスタと出会ってから――訓練兵団に入隊式から解散式までの三年間において、私とクリスタは似たもの同士だったと思う。
入隊式初日、芋女にパンと水を与えている彼女の表情を今でも覚えている。
きっとこいつが噂の少女だと思い、すぐに少女にすがるような親近感を覚えた。だから、最初に話しかけたのは私の方からだった。
そして私たちはすぐに仲良く(始めの頃は一方的に)なった。
私たちは訓練所の宿舎に住んでいて、訓練も共に行い、クリスタのベッドは隣だった。
だから私たちはごく自然にお互いを必要とし、休み時間や訓練後の多くをふたりで過ごした。
そして当然の成り行きとして、同期からはよくからかわれることにもなった。
今振り返れば当時の同期たちの言葉も行動もたわいもないものだったけれど、あの頃はまだ、私はそういう出来事を上手くやり過ごすことができなかったし、一つひとつの出来事にいちいち深く傷ついていた。
そして私とクリスタは、ますますお互いを必要とするようになっていった。
疲れた、基本は秒速5センチメートルの小説をもとにのんびり時間を決めずに書いていこうかと
俺が書いてやる!っていう乗っ取り歓迎
ある時、こんなことがあった。昼休み、トイレに行っていた私が教室に入ると、クリスタが黒板の前にひとりで立ちつくしていた。
黒板には(今思えば実にありふれた嫌がらせとして)相合い傘に私とクリスタの名前が書かれていて、同期たちは遠巻きにひそひそと囁きあい、立ちつくすクリスタを眺めている。
クリスタはその嫌がらせをやめて欲しくて、あるいは落書きを消してしまいたくて黒板の前まで出たのだが、きっと恥ずかしさのあまり途中で動けなくなってしまったのだ。
その姿を見た私はかっとなって、無言で教室に入り黒板消しを掴みがむしゃらに落書きにこすりつけ、自分でもわけの分からないままクリスタの手を引いて教室を走り出た。
背後に同期の沸き立つような嬌声が聞こえたけれど、無視して私たちは走り続けた。自分でも信じられないくらい大胆な行動をしてしまったことと、握ったクリスタの手の柔らかさに目眩がするような高鳴りを覚えながら、私は初めてこの世界は怖くない、と感じていた。
この先の人生でどんなに嫌なことがあろうとも――この先もたくさんあるに決まっている、訓練や仕事、私の秘密や慣れない人々――、クリスタさえいてくれれば私はそれに耐えることができる。
恋愛と呼ぶにはまだ幼すぎる感情だったにせよ、私はその時にははっきりとクリスタが好きだったし、クリスタも同じように思っていることをはっきりと感じていた。
きつくつないだ手から、走る足取りから、私はそれをますます確信することができた。お互いがいれば私たちはこの先、何も怖くはないと、強く思った。
そしてその思いは、クリスタと過ごした三年間、褪せることなくより強固なものとなり続けていった。
レスありがとう、そしてダズ編じゃなくてごめんね
この先どうしよう、巨人中にしとくんだった…
はっきりと惹かれあいながら、ずっと一緒にいたいと願いながら、でもそれが叶わないことだってあるということを、私たちは、
――もしかしたら犠牲の経験を通じることによって――
感じ、恐れていたのかもしれない。
いつか大切な相手と会えなくなってしまった時のために、相手の断片を必死で交換しあっていたのかもしれない。
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