咲「キャバクラ行ったら世界が変わった」霞「ええ、よくってよ」 (318)



始めに以下の注意点をご参照ください


※これはわりとなんでも許せる人向けの霞咲のような何かです
※たぶんキャバクラの出番は最初以外そんなにない
※書き溜めなしのマイペース脳内更新
※コメディのつもりで書きます
※咲さんはかわいい(半ギレ)
※おっぱい不足
※わりとなんでも許せる人向け




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――繁華街――

揺杏「らっさいらっさい! かわいい子揃ってるよー!」

揺杏「仕事帰りの一杯だけでも大歓迎! クラブ・ドラゴンゲート!」

揺杏「あ! そこの御嬢さん! どうどう? うちは女性にも人気がありまっせ!」

咲「え、私?」

揺杏「そう! そこのかわいい御嬢さん! 行っちゃう? 入っちゃう? なんだったらトイレだけでも貸しちゃうよ! まあトイレは入れるところじゃなくて、出すところだけど!」

咲「は、はあ・・・?」

咲(あ、キャバクラの呼び込みか・・・そういえば、この辺は規制が緩いからよく声をかけられるって、お父さんが言ってたな)

咲(でも・・・かわいいって言われちゃった・・・えへへ)ニタア

揺杏「!?」ビクッ

揺杏(立ち止まってニヤけてる、なんだコイ・・・この人、マジきめぇ)

咲「・・・」

揺杏「あ、あの・・・入って、行きます?」

咲「・・・かわいい・・・えへへ・・・咲さんかわいい・・・えへへへ」ニヤニヤ

揺杏(マジきめぇ! なんか自分の世界に入ってんだけど!)

揺杏「ちょっと御嬢さん! マジ大丈夫ですか!?」

咲「え? あ、は、はい。大丈夫です、かわいいです」

揺杏「は、はあ・・・(やべぇ、声かける相手失敗したくせえ)」

咲「入ってもいいですか?」

揺杏「え?」

咲「お店・・・呼び込みしてるって事は、予約なしでも入れるんですよね?」

揺杏「え? あ、ああ毎度! 一名様ごあんな~い!」



――クラブ・ドラゴンゲート店内――


咲(気分が良かったから入ってみたけど、キャバクラって初めてだから緊張してきたよ)ドキドキ

咲(へー、中はけっこう高級っぽい感じ。客引きしてたけど、人気が無い店ってわけではなさそう)

ハギヨシ「いらっしゃいませ、ようこそクラブ・ドラゴンゲートへ」

咲「!?」

咲(びっくりした、この店員さんどこから現れたの?)

ハギヨシ「お迎え出来て光栄です。失礼ですが、ご予約のお客様でしょうか?」

咲「いいえ・・・こういうところ来るの初めてなんですけど、大丈夫ですか?」

ハギヨシ「もちろん、歓迎させていただきます。では席までエスコートさせていただきます」

咲「は、はい」

ツカツカ

咲(なんかカッコイイ人が出てきたから、ホストクラブなのかと一瞬思ったけど。周りを見る限りテーブルについてるのはホステスさんだ)

咲(キャバクラっておじさんの男性客ばかりってイメージだけど、私以外にもチラホラ女性客が混じってるな)

ハギヨシ「こちらの席へどうぞ。ただいまキャストがウェルカムドリンクをお持ちしますが、お先にご注文ご指名などはございますか?」

咲「え? あ、大丈夫です、お任せします」

ハギヨシ「かしこまりました」ススッ




咲(ふー、なんか私いまインハイの決勝卓より緊張してるよ)

咲(さっきの店員さん、キャストって言ってたけど、それってホステスさんの事かな?)

咲(知らない人と一緒にお酒飲むなんて初めて・・・ちゃんとお話しできるかな)

咲(私が出せる話題って言ったら、本か麻雀くらいだから少し不安かも)


カツカツカツカツ


咲(あ、来たみたい・・・)

霞「お待たせしました、カスミと申します。お隣失礼します」

咲「え?」

霞「え?」


それはかつて麻雀のインターハイで戦った二人の、思いがけない再会だった






咲「鹿児島のおねーさん・・・石戸さん?」

霞「もしかして清澄の・・・咲ちゃん?」

咲「やっぱり・・・・・・びっくりしました」

霞「私もよ、まさかこんな所でまた会うなんて・・・偶然、なのかしら?」

咲「はい、たまたま呼び込みに惹きつけられて入ったお店だったので・・・」

霞「そうなの・・・」

咲「はい・・・」

霞「・・・あ、もし良かったら他の子に代わってもらうわ。知ってる顔が相手だと、こういうお店の意味が無いわよね?」

咲「あ、待ってください。キャバクラって初めてで、実はちょっと心細かったんです・・・」

咲「・・・石戸さんが嫌じゃなければ、隣にいてください。私としてはその方がありがたいです」

霞「そう? そう言ってもらえるなら良かったわ・・・あ、ウェルカムドリンクです、どうぞ」

咲「ありがとうございます」

霞「・・・」

咲「・・・」ゴクゴク



隣り合って座る咲と霞。

数年ぶりの再会に戸惑い、しばし沈黙する二人だが、仕事柄かそれを先に破ったのは霞だった。


霞「本当に久しぶり・・・咲ちゃんはまだ麻雀を続けているの?」

咲「あ、はい、続けてます。一応プロにもなれました」

霞「そうだったの・・・すごいわ。いえ、でも咲ちゃんの実力なら驚くような話でも無かったわね」

咲「石戸さんは麻雀をやめてしまったんですか? 神代さんもプロにはならなかったみたいですが」

霞「・・・私は元々、家の修行の一環で麻雀をやっていただけだったから。他の子は解らないけど、私はもうずっと牌に触っていないわね」

咲「そうだったんですか。あれ・・・他の人の事も解らない? 永水の人達って親戚じゃなかったんですか?」

霞「私、家を・・・神宮を一人だけ出たから」

咲「あ・・・」

霞「ふふ、私の話なんてきっと面白くないわ。それよりプロになった咲ちゃんの活躍を聞きたいわ。よかったら聞かせてくれる?」

霞「私、テレビとか見ないから、そういう話に疎くて・・・」

咲(今ちょっとだけ、石戸さん暗い表情になった・・・きっと触れられたくない話だったんだね。悪い事しちゃった)

咲「・・・活躍っていっても、大した話はないですよ?」

霞「うそうそ、引き出しがあるって顔してるわよ? おねーさんは誤魔化せません」エヘン

咲「う・・・じゃあちょっとだけ」




咲は最近のプロ雀士としての活動をかいつまんで霞に話す


霞「・・・ふんふむ、今年は三冠もとったのね。すごいわ、もう雲の上の人みたい」

咲「なんか・・・自慢しちゃったみたいで恥ずかしいです」テレテレ

霞「そんなことないわ、咲ちゃんの活躍は誇るに値できるものだし、私も麻雀をやっていた時の事を思い出せて楽しいもの」

咲「・・・私、けっこう話下手なのに、石戸さん相手なら何故か言葉が止まらなくて。聞き上手なんですね」

霞「うふふ、それが仕事だもの。あ、それと咲ちゃん、できればここではカスミって呼んでほしいわ・・・一応そういうお店だから」

咲(・・・あ、そうか源氏名)

咲「気が付かなくてすいません・・・その、霞さん」テレ

霞「はーい」

咲「ちょっと・・・照れちゃいますね。というか源氏名って本名使わないんじゃないですか?」

霞「細かい事は言いっこ無しよ。それより咲ちゃん、グラスが空いたけど何か頼む?」

咲「じゃあ、できるだけ高いお酒でお願いします」

霞「え? どうしたの? うちの店、けっこうお高いけど大丈夫?」

咲「大丈夫です、普段は本くらいしかお金使う事ないですし・・・それに指名したわけでもないのに、霞さんにずっとついててもらって申し訳ないです」

霞「そんな気をつかわなくていいのよ・・・ここは楽しくお酒を飲む場所だから、自分の好きなようにふるまっていいの」

咲「それならこれでいいんです、私久しぶりにお酒飲むのが楽しいって気分なので」

霞「あらあら、そう? じゃあ新鋭プロ雀士さんには、いっぱい飲んでいってもらおうかしら」

咲「はい、霞さんも付き合ってくださいね」

霞「うふふ、分かっていますとも」


――二時間後――


咲「う・・・」ドサ

霞「え、ちょっと、咲ちゃん!?」

咲「きもちわるい・・・飲みすぎちゃったみたい」

霞「ええ? さっきまで全然平気そうだったのに・・・もしかして限界超えるまで、酔いがまわらないタイプ?」

咲「そうかもしれません、お酒を飲む機会が少ないので知らなかった・・・うう」

霞「ごめんなさい気付かないで・・・タクシー、呼んだ方がいいわね」

咲「あ・・・待ってください。私、まだ・・・帰りたくない」

霞「ん、どうして?」

咲「・・・この時期は、ちょっと家に居ずらい理由がありまして」

霞「この時期?」

咲「はい・・・いま麻雀の世界大会といえる国際戦が開催されてて、国内のプロから代表選手が選ばれるんですけど・・・」

霞「あ、そういえばそんな事、お客さんが話してたわね」

咲「実は私、代表で出た国際戦で失格になった事があるんです」

霞「え?」

咲「強い人とあたれたのが嬉しくて・・・対局中に麻雀って楽しいよねを言っちゃったんです」

咲「そしたら審判に止められまして・・・つられて歌いだした同卓のミョンファさんと一緒に失格になりました」

霞「あらあら・・・」


咲「その時から連盟からは国際試合禁止の処分を受けまして・・・自分の浅慮のせいだって解ってるんですけど、この時期になるとその時の話が各所で蒸し返されて・・・」

霞「そうだったの・・・それはつらいわね」

咲「照お姉ちゃんが活躍してるだけに、なかなか過去の事にならないんですよね・・・」

咲「いまだに『宮永姉妹のマナ悪の方』とか『宮永姉妹の愛想の無い方』とか、『国内三冠()なお国際戦は・・・』とか、ネタにされ続ける始末」

咲「他にも、『眼力だけで人を殺しそう』とか『観戦してたら眼鏡が割れる』とか、謂れのない中傷もうけるし・・・」

霞(それは謂れのない事でもないような・・・)

咲「はあ・・・せめてお姉ちゃんみたいに営業スマイルがうまくてマスコミ映えすれば、なんて思ったり」

霞「そうだったの・・・あ、でもお家に帰りたくないっていうのはどうして? まさかお家にも何か嫌がらせが?」

咲「・・・いえ、両親がお姉ちゃんの応援したくても、私がいると気をつかわせちゃうので」

霞(けなげな・・・)

※咲は実家暮らしですが、アラフォーになっても実家暮らしのプロもいるから何も問題ないよ!


咲「あ、愚痴になっちゃいましたね・・・こんな話聞かせてしまってすいません」

霞「ううん、いいのよ。ここはそういう外の嫌な事を吐き出す場所でもあるのだから、何も遠慮はいらないわ」

咲「・・・不思議、和ちゃん相手でもこんな話できないのに、自然と言葉にできちゃう」

霞「うふふ、お酒の力かしら?」

咲「いいえ、霞さんが相手だから・・・かもしれないです」

霞「え?」

咲「なんて・・・えへへへへへ」グテー

霞(・・・なんだ、酔ってるだけね)

霞(でもちょっと嬉しいわ)

咲「よし! 決めました! 今日はここで飲み明かします!」

霞「え?」

咲「スタッフーーーー!」

ハギヨシ「お客様、お呼びでしょうか?」

咲「このお店にある一番高いお酒、五本くらい持ってきてください」

霞「ちょ、ちょっと咲ちゃん?」

ハギヨシ「・・・お客様、まことに失礼ですが、お先にお支払いのご確認をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

咲「ロンおぶモチ! カード一括、責任払いで!」スチャ

ハギヨシ「・・・かしこまりました」

咲「今日はこれ、アゲアゲでもいいんですよね? 脱いでもいいですか?」

霞「え?」

咲「靴・・・ってもう脱いじゃった、えへへ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

霞(な、なにやら大変な事になってる気がするわ、咲ちゃん目が据わってるし)

咲「キャバクラって楽しいよね!」ゴウッ

霞「」


――数時間後――


咲「すぴー・・・すぴー・・・」zzz

揺杏「うわあ、空瓶の数マジすげえ・・・ドン引きだけど」

ハギヨシ「・・・このお客様だけで普段の一日の売り上げを超えました」

揺杏「他のテーブルにまで高いお酒奢ってましたよね。うわあ、なんか見た事ないラベルのワインが転がってんですけど・・・」

ハギヨシ「ドン ペリニヨンのレゼルブ ドゥ ラ ベイですね、ドンペリゴールドとも呼ばれます」

揺杏「ゴールド? ドンペリピンクは聞いた事ありますけど」

ハギヨシ「ピンクと呼ばれるロゼヴィンテージと比べると、ゴールドは年代にもよりますが通常五倍ほどの値が付きます」

揺杏「五倍とか・・・なんすかこの人、どっかの社長とかっすか?」

ハギヨシ「プロ雀士の方ですね、拝見したことがあります」

ハギヨシ「それにしても困りましたね、もう閉店ですが熟睡されていらっしゃるご様子」

ハギヨシ「タクシーを呼ぶにしても、お住まいが分からないと送れませんし・・・カスミさん、名刺などは頂いてますか?」

霞「あ、いいえ・・・そういえば、貰っていませんでしたわ」

ハギヨシ「・・・そうですか、困りましたね。荷物を漁るような真似はできませんし」

揺杏「適当なホテルまで送って部屋に運ぶのはどうですか?」

ハギヨシ「泥酔状態の女性をホテルに連れ込むようでよくありませんね、噂になればこの店のイメージダウンにもなりかねます」

ハギヨシ「それに、宮永咲プロといえば今はデリケートな時期。スキャンダルを捏造されてしまう恐れもあります」

揺杏「うーん、じゃあどうしますか? これじゃ店しめれないし」


霞「・・・あの、では私の家に咲ちゃんを泊めるのはどうでしょう?」

ハギヨシ「カスミさんの?」

霞「はい、一応は古い知り合いですから・・・それなら何かあっても、久々に会った友人の家に泊まった、で済ませる事ができます」

ハギヨシ「なるほど・・・そうですね、カスミさんの家ならマスコミの目にもとまりにくい場所にありますし、いいかもしれません」

ハギヨシ「ではタクシーを呼んでおきましょう」

揺杏「あ、タクシーまでは私が運びまっす、地味にガタイがいいのだけが取り柄なんで」

霞「じゃあ、お願いしますね・・・」

霞(不思議な気分ね、神宮にいた頃の知り合いとの再会は、それほど快いものでは無いはずなのに・・・)

霞(・・・でも、自分で驚くくらいすんなりと、泊めると言ってしまった)

霞(神宮にいた頃を感じるものは全部捨ててきたのに、その頃を思い出す咲ちゃんに、私はいったい何を感じているの?)

咲「すぴー・・・すぴー・・・」zzzz

霞(うふふ・・・かわいい寝顔)

霞(考え過ぎね・・・久々の上客に浮ついた、そういう事よ、きっと・・・)


華々しく活躍しながらも、過去の失敗によりイマイチ認められないプロ雀士

生まれ育った家と過去を捨てて、夜の街で働く華となったキャバ嬢

二人の夜は更けて更けて、そして当然のように日が明ける


見切り発車なのでとりあえずここまでっす
付き合ってくれた方いたらありがとうございました

――霞宅・早朝――

チュン チュン

咲「ん・・・ん?」

咲(朝か・・・)

咲(あれ? でも何か違和感がある・・・)

咲(・・・お布団で寝てる、ココ私の家じゃない?)

咲(そうだ・・・昨日は家に居づらかったから街をブラついて・・・キャバクラに入って・・・)

咲(あれ・・・その後の事・・・あんまり覚えてない)

トントントントン

咲「ん、良い匂い・・・? お味噌汁かな?」

霞「あら咲ちゃん、起こしちゃった? ごめんなさい狭い部屋で」

咲「霞さん!? え? じゃあここ・・・」

霞「あ、ごめんなさい。いきなり知らない場所で目が覚めて混乱するわよね」

霞「昨日は咲ちゃんがお店で酔いつぶれちゃって、目を覚ましそうに無かったから私の家に泊まってもらう事になったの」

咲「あ、やっぱりそうだったんですね・・・」

咲「・・・あんまり覚えてないんですが。すいません、いっぱいご迷惑かけちゃいましたよね?」

霞「うふふ、気にしないで。私の方こそ酔いつぶれるまで飲ませてしまって、キャスト失格よ」

霞「それより二日酔いはないかしら? 一応お薬も用意してあるのよ」

咲「ええと・・・それは大丈夫みたいです。ちょっとだけ手先の痺れが残ってますけど、それだけなので」

霞「そう? ならよかったわ。でも凄いわね、あれだけ飲んだら普通は酷い二日酔いになるのに・・・やっぱり若さかしら?」

咲「えーと、どう・・・なんでしょう?」

咲(なんとなく、ハッキリと答え難いのはなぜなのかな?)

霞「じゃあ、お詫びという訳ではないのだけれど、よかったら朝食食べていってくれないかしら?」

咲「そんな悪いですよ・・・」

霞「遠慮はしないでね。なんて、大したものは出せないけれど」

咲(あ・・・すでに二人分用意してある)

咲(それに良い匂い嗅いだせいか、お腹もすいてきたよ)

咲(そう言えば、昨日は夕食を外で食べる気だったのに、お酒のつまみくらいしか食べてなかったな)

咲「・・・やっぱり、もらってもいいですか?」

霞「よかった。じゃあもう少しだけ待っててね、もうすぐできるから」

咲「はい」

トントントン

霞「ふんふむ♪ ふんふむ♪」

軽快な包丁の音に合わせるように鼻歌を歌う霞

その後ろで布団を畳みながら、咲は落ち着かない様子で霞の住まいを眺める

咲(・・・なんて言うか今時珍しい、趣きのあるアパート。四畳半に台所がついただけというシンプルさ)

咲(家具も必要最低限で、テレビも置いてない・・・あ、でも本棚はある)

咲(本棚に並んでいるのは・・・資格試験の教本や問題集?)

霞「咲ちゃーん」

咲「はい!?」ビクッ

霞「? できましたよ、さあ一緒に食べましょうか」

咲「あ・・・はい、いただきます」


畳みによく似合うちゃぶ台に、霞は朝食を並べていく

並ぶのは白米、ネギの入ったシジミの味噌汁と焼いたサンマという、和食の定番

他にもビン詰めの梅干し等も自由に取れるように添えてあった

咲「ん・・・あ、おいしい」

霞「うふふ、口に合ってよかった。誰かに食べてもらう機会は無いから、本当はちょっと不安だったの」

咲「すごくおいしいですよ、なんていうか・・・すごく優しい味がします」

咲「もしかして、ここに並んでるものって、二日酔いに効くものだったりします?」

霞「え?」キョトン

咲「あ、ごめんなさいテキトーなこと言って・・・なんとなくそんな気がしただけなので」

霞「ううん、違うの・・・咲ちゃんの言ってる事当たっているわ」

霞「味噌汁のシジミも、サンマに付け合せた大根おろしも、あと梅干しも二日酔いに効くって言われてるの」

霞「お水の仕事をしてると、自然とそういう知識が身に付いてきちゃうのね」

咲「そうだったんですか・・・でも、きっとそれで、こんなに優しい味がしたんですね」

霞「・・・」

咲「霞さん?」

霞「あ、ごめんなさい・・・なんでもないの、ちょっと嬉しくなっちゃって」

霞「やっぱりいいものね、こうして誰かと一緒に食卓を囲むのは・・・ふう」

咲(ん・・・?)


霞「あら・・・そうだわごめんなさい、のんびりしちゃってたけど、私これから出かけなきゃいけないの」

咲「え? こんな朝早くですか?」

霞「ええ、お弁当屋さんのアルバイトがあるのよ・・・咲ちゃんはどうしましょう? 二日酔いなら、ここで休んでいてもらおうと思っていたのだけれど、大丈夫ならもう帰りたいわよね?」

咲「あ、ええと・・・その」

霞「?」

咲「・・・ずうずうしいお願いなんですけど、霞さんが帰ってくるまでお留守番していてもいいですか?」

霞「いいえ、ずうずうしいだなんて、全然構わないわ。もともと、ゆっくり休んでもらうつもりでいたから」

霞「でもどうしたの? あ、もしかしてやっぱり二日酔いの症状が出てきちゃった?」

咲「あ、違うんですけど・・・あ、いえやっぱりそうかもしれません」

霞「そうだったの・・・気づかなくてごめんなさい、じゃあお薬も飲んでゆっくり休んでいてね」

咲「はい・・・ありがとうございます」

霞「それじゃあ、行ってきます。あ、何かあったらアルバイト先の番号がこれだから連絡してね」

咲「解りました」



そうして、朝早くから出かけていく霞を見送る咲


咲(嘘ついちゃった・・・本当は二日酔いじゃないのに)

咲(霞さん、夜の仕事だけでも大変そうなのに、他の仕事も掛け持ちしてるんだ・・・)

咲(・・・そのせいなのかな、どこか不調そうに見えた)

咲(なんとなく・・・昔のインハイの二回戦で竹井部長が不調になった時とかよりも、深刻な何かを感じたような気がする)

咲(霞さんが帰ってきたら、それとなく話してみよう・・・)

咲(・・・それに、酔いつぶれた挙句、泊めてもらってご飯も貰って、そのお礼もちゃんとしたいしね)

――霞宅周辺・昼頃――


霞(ふう、今日はお客様多かったわ・・・お弁当屋さんも少し忙しくなってきたわね)

霞(うふふ、でも店長からは、看板娘の霞ちゃんのおかげだって言われちゃった)

霞(看板娘・・・娘・・・うふふ)ニヤニヤ

霞(ハッ・・・いけない、こんな風に思いだし笑いをしていると、揺杏ちゃんにきめえって言われちゃう! 慎まないといけないわね)

霞(さて、お惣菜の残りも貰えたし、これと合わせて何か昼食も、咲ちゃんに用意してみようかしら・・・)

霞(・・・いやだわ私)

霞(ご飯がおいしいって言われたからって、舞い上がってるのかも・・・?)

霞(咲ちゃんはお酒が入らなければ遠慮がちな子みたいだし、ただのお世辞に決まっているのに・・・)


そんな色々を頭の中で思い描き、逡巡しながら霞は自宅である古いアパートまで行き着く


霞(・・・あれ? 何か良い匂いがする・・・私の部屋から、かしら?)

ガチャッ

咲「あ、霞さんおかえりなさい」

霞「た、ただいま・・・どうしたの咲ちゃん? その恰好」

家に帰った霞を出迎えたのは、エプロン姿の咲だった

咲「えへへ、昨日と朝のお礼にご飯でも作って待ってようと思っていたんですけど・・・」

咲「近所のスーパーを探すのに迷ってしまって、霞さんが帰ってくるまでに間に合いませんでしたね・・・」

咲「あ、勝手に台所借りてしまってすいません」ペッコリン

霞「いいえ、構わないけれど・・・そんな気を遣わなくてもよかったのよ?」

咲「違いますよ、ご飯のお礼はご飯でする。先輩からそれは当然のことだって言われてますから」

霞「そ、そう?」

咲「それよりお疲れでしょう? もう少しでできますから、座って待っていてくださいね」

霞「え、ええ・・・それじゃあ、お言葉に甘えて」

霞(なんか咲ちゃんが、ちょっと強引な気がしたりしなかったりするのだけれど・・・)

霞(でも、せっかく作ってくれると言っているのだから、待っていましょうか)

咲「きゃあああああああ!?」ドンガラガッシャーン

霞「え?」

咲「うわああああああああ!?」ドンガラガッシャーン

霞「」

――三十分後――

咲「はあはあ・・・できました」

霞(咲ちゃん、すごく満身創痍だけど何を作ってくれたのかしら?)

霞(台所の惨状とか、昨日とは別の意味で、色々と大変な事になっているけれど。うん・・・どんなものが出てきても、平静でいる心構えをしておきましょうか)

咲「どうぞ、野菜炒めです」コト

霞(!? こ、これは・・・思いのほか普通の・・・えーと、料理と言っていいのかしら?)

咲「・・・すみません、こんなものしか作れなくて。父と二人暮らしが長かったもので、その・・・」ズーン

霞「お、落ち込まないで、ね? ほら、すごくおいしそうじゃない! うん! ちゃんと全部しっかり火が通ってる! おいしいわ!」シャキシャキ

咲「・・・すみません、ちょっと焦がしちゃってすみません」ズズーン

霞(う、フォローしたつもりが、更に落ち込ませてしまったわ。ど、どうしましょうどうしましょう)オロオロ

霞「あ、そうだわ、これお弁当屋さんで貰ったお惣菜、余りものだけど一緒にたべましょう?」

咲「・・・はい」


咲(何をやっているんだろ私・・・霞さんのどこが不調なのか見極めるつもりだったのに、むしろ気を遣わせている・・・)

咲(麻雀以外は本当に駄目なんだな私・・・というか麻雀でも失態を犯しているから、駄目なとこしかない気がする・・・)

咲(こんな私が他の誰かの心配をする事自体、なんだかおこがましい気がしてきたよ・・・)

霞「咲ちゃんの野菜炒めおいしいわ、少し甘めの味付けがされてる所とか、とても私の好みよ」

咲「え? 甘い? ・・・う、これは」

咲「・・・すみません、塩と砂糖間違えるとか今時漫画でもやらない失敗をしてすみません」ズズズーン

霞(・・・さすがに咲ちゃんが、普段ちゃんと日常生活を送れているのか心配になってきたわ)


――食後――


霞「ごちそうさまでした」

咲「ごちそうさまでした」

霞「さて・・・と、じゃあ洗い物は任せてね」

咲「あ、それは私が・・・」

ズッテーーーン

咲「あ、足が痺れ・・・」

霞「うふふ、無理しなくていいからくつろいでいてちょうだい。私、洗い物得意だから」

咲「うう、すみません」

咲(駄目すぎるよ私、駄目の極みだよ・・・)

霞「ふう・・・よっこいしょ」

グキッ

霞「え? あ・・・」

ドサッ

咲「!?」

咲(霞さんが倒れた!? うそ、まさかこれが?)

霞「う、うう・・・」

咲「霞さん! しっかりしてください霞さん!」

咲「霞さあああああああああん!」


――1時間後――


憩「これは・・・ぎっくり腰やね」

霞「」ズーン

咲「そ、そう・・・ですか」

憩「まあ一週間は安静にしとくのが一番や、そもそもそのぐらいは痛くて起き上がれんと思うし」

霞「」ズズーン

咲「ありがとうございます先生、わざわざ診察に来てもらって」

憩「いえいえ、じゃあ湿布と痛み止め出しときます。くれぐれも悪化せんように気を付けてくださいな」

診察を終えた医師が帰り、アパートの部屋で霞と咲二人きりになる

腰に負担をかけないよう、うつ伏せの恰好になっている霞に付き添うように咲は残っていた

霞「」ズーン

咲(うわあ、霞さんがすごく落ち込んでるよ・・・うつ伏せで表情は見えないけど、鬱オーラが全身から滲み出してる)

咲「あ、あの霞さん・・・気を落とさないで下さいね?」

霞「ふ、ふふ、笑ってくれていいのよ咲ちゃん。昔から初美ちゃんとかにBBABBAとネタにされてきた私だけど、二十代でぎっくり腰だなんて・・・」レイプメ

咲(いや全然笑えません)


咲「あの、若くてもぎっくり腰になる人もいるって、先生も言ってたじゃないですか。疲れが溜まったり睡眠不足が原因になったりもするって」

咲「差し出がましいですが・・・少し無理をして働き過ぎていたんじゃないんですか?」

霞「う・・・」

霞「・・・そうかもしれないわね・・・はあ・・・」

咲「・・・・・・ごめんなさい」ポロポロ

霞「え!? ど、どうしたの咲ちゃん」

霞(いきなり泣き出しちゃったわ・・・)オロオロ

咲「私・・・実は霞さんの不調に気付いてたんです」グス

霞「え?」

咲「言い出せませんでしたけど、朝に霞さんが出ていく時・・・何かおかしいって気付いて・・・その何かが具体的には解らなかったので、的外れな事を言って不安にさせるより、できれば見極めてから伝えようと思って・・・」

霞「そう・・・そうだったの、それでお留守番をするって言ったのね?」

咲「はい・・・でも逆効果だったかもしれません。ぎっくり腰の引き金も、私が作ったようなものですし・・・」

咲「・・・私って、ほんと駄目ですよね。肝心な時に役に立たないで、いつも失敗ばかりなんです」ポロポロ

霞「そんな・・・咲ちゃんは何も悪くないわ・・・う、痛ッ」

腰の痛みに耐えながら、霞は体の向きをゆっくり変える


咲「霞さん!? 安静にしてなきゃだめですよ!」

霞「だい・・・じょうぶ・・・それより、涙を拭いて咲ちゃん」

そう言って霞は、咲の頬をつたっていた涙を手で拭う

霞「・・・優しい子ね咲ちゃんは・・・私の事を気にかけてなければ、そうして傷つかずに済んだのに・・・今も心配してここに残ってくれて」

咲「そんな、私はそんなことないです・・・ただ」

霞「ただ?」

咲「霞さんが優しいんです。お店でも、ご飯の味も・・・だから私もその優しさを少しでも返そうと思っただけで・・・」

霞「咲ちゃん・・・」

霞「・・・・・・ねえ、少し昔話をしてもいい?」

咲「昔話・・・ですか?」

霞「ええ、昔話と言っても、私が神宮を出た時の話なのだけど・・・」

咲「え・・・いいんですか?」

霞「何がかしら?」

咲「・・・お店では、その辺の話をすることを避けたいような感じでしたから・・・その」

霞「あら、うふふ・・・咲ちゃんには隠し事できないわね、なんでもお見通しみたい」

咲「たまに言われるんです、麻雀で色んな気配を見てきたせいか・・・他人の機微を察してしまうことがあって」

霞(ふんふむ、そういう事もあるのね・・・狭いところに力を集中させるだけでなく、そうやって他の事にも流用できる力の形も)

霞(そういえば・・・うちのクラブの指名ナンバーワンの尭深ちゃんも、ハーベストタイムでお客様を呼び寄せるし、才能のある子は何をさせてもすごいのかしらね)


咲「霞さん?」

霞「あ、ごめんなさい考え事をしてしまって・・・それよりも私の話ね・・・咲ちゃんに聞いてもらいたいの」

咲「は、はい」

真剣な顔で聞く体制を整える咲に、霞は温和な微笑みを向けながら話し出す

霞「私ね・・・自分がどういう存在なのか分からなかったの」

咲「え?」

霞「詳しい事は言えないけど、生まれた時からある人の代わりになる事が義務付けられていて・・・周りにいる大人も同年代の子も、それが当然だと思っていて、そしてそういう家に生まれた私も、それが当たり前だと思っていて」

咲「・・・」

霞「でも、ある日その当たり前に疑問をもってしまったの・・・石戸霞という私は、本当にその生き方を望んでいるのかって、ね」

霞「そして、気がつけば私はいつの間にか家を出ていた・・・」

咲「・・・そう、だったんですか」

霞「ええ・・・今思えば、それは思春期特有の悩みみたいで、ちょっと恥ずかしいのだけどね」

霞「でも世間は思っていたより厳しくて、私は家に守られていたんだなってたまに実感するの」

咲「後悔、してるんですか?」

霞「うふふ、してないつもりだったんだけどね・・・働いて、少しでも認められれば嬉しいし、誰かの代わりじゃない石戸霞がここに居るんだって実感したから」

霞「でも・・・無理はしていたみたい、こうした形で体にでてしまったんですもの・・・咲ちゃんにまで心配と迷惑をかけてしまって、本当に情けないわ私」

咲「そんな、私は別に・・・」


霞「ううん、私・・・家に、神宮に戻る事にするわ、どのみちこの体じゃしばらくは働けないし、日常生活だって難しいもの」

咲「霞さん・・・」

咲(どうしよう・・・本当にそれでいいの? 霞さんは・・・私は)

咲(よくない、気がする・・・いや、私が嫌だ)

咲「あの・・・霞さん」

霞「ん?」

咲「神宮に戻るのは、もう少し待ってみませんか? もしかしたら、気が変わるかもってこともあるかもしれませんし」

霞「いえ・・・でも」

咲「せめて体が治ってから、その時にまた改めて考えてもらうってのでは、いけませんか?」

咲「治るまでは、私が霞さんのお世話をしますから」

霞「え!? そんなの悪いわ・・・同情で、そこまでの事をしてくれなくても・・・」

咲「違います、同情じゃありません。私はただ・・・霞さんとお酒を飲めたのが楽しかったから・・・」

咲「昨日は本当に楽しかったんです・・・麻雀の調子も下がってて気分が沈んでいた時に、霞さんと会えて、久しぶりに楽しい気分を思い出させてもらいました」

霞「咲ちゃん・・・」

咲「もしも霞さんが神宮を出ずににいたなら、こうして会う事も無く、私はそんな気持ちを思い出せなかったと思うんです」

咲「わがままを言ってすいません・・・でも私、霞さんがせっかく築いたものを、仕方なくでやめてほしくない」

霞「・・・」

咲「どうかお願いします、体が治るまで神宮に戻るのは保留にしてください」ペコリ


霞「・・・」ツー

咲「!?」

霞「あら、やだ・・・涙がでてきちゃった。いやだわ歳をとると涙もろくて・・・」

咲「あ、いえ・・・」

霞「もう咲ちゃん、そこは嘘でもまだ若いですって言ってくれないと」プンプン

咲「あ、すみません、驚いちゃって・・・」

霞「ふふ、驚いたのはこっちの方よ、咲ちゃんって意外と強引なのね・・・でも、言ってくれた事、すごく嬉しい・・・本当に」

咲「じゃあ・・・」

霞「お言葉に甘えてみようかしら・・・私も本当は、こんな形で神宮に戻るのは違うって思っていたから・・・」

霞「でも本当にいいの? 動けない人間の世話って大変よ咲ちゃん・・・私も昔、御爺様のお世話をさせてもらった事があるけど」

咲「はい! 全力以上でお世話させて頂きます!」

霞(すごいやる気・・・嬉しいけど、ちょっと不安もあるかしら・・・小蒔ちゃんといい、頑張り屋さんは裏目に出る事があるから・・・)

霞(なんて・・・それは私も他人の事は言えないのよね。頑張ってみた結果がぎっくり腰だもの・・・)

霞「じゃあ、よろしくお願いします咲ちゃん」

咲「はい!」


こうして、ぎっくり腰になった霞の世話をする為に、しばらく咲は共同生活を送る事になった

――数日後――


えり「さあまもなく始まります麻雀プロ・アマチュア交流戦、実況はわたくし針生と、解説は三尋木プロにお越しいただいております」

咏「どもどもー」

えり「今回で十四回目の開催となりますこの交流戦、国内大会で優秀な成績を収めたアマチュア選手と、現役のプロ選手の意地をかけた戦いとなりますが」

えり「さてどうでしょう三尋木プロ、プロの目から見て特に注目すべき選手はおりますでしょうか?」

咏「さーてねぃ。でもまぁアマチュアから一人挙げるなら、ちゃちゃのんかねぃ」

えり「ちゃちゃのん・・・もとい佐々野選手は現役アイドルでありながら、アマチュアの大会でタイトルを獲得していますね」

咏「どうしてもアイドル的に騒がれがちみたいだけど、いくらかのプロには迫れる実力を持ってんじゃないかねぃ、しらんけど」

えり「なるほど・・・では次はプロの中での注目選手を教えていただけますか?」

咏「わかんねー、今は国際戦の最中で有力プロはそっちに行っちゃってるし」パタパタ

えり(この人はよくも・・・皆思っていても言わない事をズケズケと)

えり「いえしかし、競技人口が年々増え続け、その実力も常に高まりつづける日本の麻雀界。日本代表に選ばれなかった選手の中にも、今年活躍した選手は存在しています」

えり「今回初の参加になります宮永咲プロなどはいかがでしょう? 以前の国際戦では代表選手に選ばれ、今年は国内で三冠を獲得し話題を集めた選手ですが」


咏「宮永ちゃん? ふーむ、じゃあ同じ団体だしちょっと贔屓目に紹介しようかねぃ」

えり「いえ普通に紹介してください」

咏「きっちりしてんねー。じゃあ普通に紹介すっけど、あのこはこの顔ぶれの中じゃあ、まあ頭一つ飛び出してる」

えり「贔屓目なしの三尋木プロからお墨付きがもらえました宮永プロ、流石は国内三冠という訳ですね?」

咏「いや、しらんし」

えり「」イラッ

咏「あのこはさぁームラがあんだよねーいろいろと、それにこの時期は調子を落としがちだし、まぁ例年通りならアマチュアでも、一見いい勝負もできたんじゃあないかい?」

えり「例年通りなら一見いい勝負? 一見いい勝負という言葉も気になりますが、例年というのはどういう事でしょう? 今年は何か違うということでしょうか?」

咏「まぁねぃ、ちょうど会場のカメラが回ったし、宮永ちゃんのあのツラみてみろよアナウンサー」

えり「え?」

咏「ありゃバイオレンス感充分だねー」ニヤ

えり「・・・? どういう? ・・・あ、試合開始のようです。引き続き実況と解説は・・・・・・」


――対局会場――


東二局・親佐々野いちご


いちご「ツモ、2600オールじゃ」

いちご(よし、今日はええ感じじゃ・・・)

いちご(このプロアマ交流戦、活躍できればプロの実業団の目にもとまれる・・・もうちゃちゃのんをただのアイドルやとは言わせんよ)

いちご(しかしその為には・・・)チラッ

咲「・・・」ゴゴゴゴゴゴゴ

いちご(・・・宮永姉妹の営業スマイルが下手な方、こいつに勝たんといかんのじゃ)

いちご(しかし東一局は流局じゃったが、宮永は倍満の手を聴牌しとった・・・しかも他家の鳴きがなかったなら海底で和了ってたいうオマケつき)

いちご(フリテンじゃったおかげで流局になったが、まさか海底牌が見えとったのじゃろか?)

いちご(・・・いやいや、偶然、たまたまじゃろう、天江衣じゃあるまいし)

東二局・一本場

八順目

いちご(よし、張った・・・じゃが捨てるのは三索か)

いちご(・・・まだ場に一枚も出てないのう)

いちご(でも親番じゃしここは押していく場面じゃろ。ちゃちゃんの一手はこれ)

いちご「リーチ」コト

咲「カン・・・」

いちご「!?」

いちご(大明槓じゃと・・・宮永プロ、ここまで一度もカンをせんで不気味じゃったが・・・まさか)

咲「ツモ・・・」

いちご(・・・やっぱり嶺上開花か、どっかのアホなプロと違って「開花ならずや」みたいなハッタリじゃのうて)

パラパラパラ

いちご「う、これは!?」

咲「・・・緑一色です」ゴッ

いちご(嘘じゃろ・・・役満、しかも責任払いとか)

いちご「そんなん考慮しとらんよ・・・」ジワア


――放送室――


えり「だ、第一試合は東二局一本場で決着・・・これは何と言っていいか」

咏「あっはっは、ちょーおもしれー」

えり「・・・さすがは三冠という事でしょうか、しかし宮永プロが試合で役満を和了ったのは、もしかしてこれが初めてではないでしょうか?」

咏「お、さすが勉強家だねぃ、出場者の過去の牌譜はチェック済みてわけかい?」

えり「全てではありませんが一応、役満を和了った試合などは項目で真っ先に出てくるので、私に見落としが無ければですが」

咏「まああの子、役満聴牌しそうな時はあえて崩したりするからねぇ、和了りにいったのはプロになって初めてだろうよ」

えり「えーと、それは何か理由があっての事でしょうか?」

咏「わかんねー、全てがわかんねー」パタパタ

えり「」イラッ

えり(絶対わかりにわかってるこの人・・・)

えり(まあでも、特殊な打ち筋については、こういう場であまり語られたくないプロも多いって先輩アナが言ってたし・・・三尋木プロなりに気を使ってるからなのかもしれないけど)

えり「・・・ええでは、一旦コマーシャルです。第二試合はもうまもなく始まります」


CM中


咏「わりぃけど、ちょっと出てくるね」

えり「は!? ちょっと三尋木プロ、CM なんて一分もありませんよ!」

咏「早めに戻っからさぁ、なんとかつないでおいてねぃ」ヒラヒラ

えり「おいーーーーーー!!」

――選手控室――


咲「・・・」

ドアガチャ

咏「おーっす宮永ちゃん、お疲れー」

咲「え? 三尋木さん?」

咲「どうしてここに? 解説の仕事はどうしたんですか?」

咏「細かい事は気にすんなよ若人。それより実況席から見させてもらったけど、今日はいい感じにバイオレンスじゃねぇ?」

咲「・・・ええと、まあ」

咏「交流戦とかいつもはプラマイゼロでお茶を濁すのに、今日はずいぶん勝負を急いだんじゃなぃかい?」

咲「う・・・そう、ですかね」

咏「話したくない事ならいいけどねぃ、一応は同じチームのキャプテンとして聞いておこうと思っただけさ」

咲「・・・いえ、話したくないって程の事ではないんですけど・・・ただ、勝負を急いだのは・・・今日は少し早く帰りたい用事がありまして」

咏「へ?」

咲「その・・・それだけです」

咏「ぶっ!」

咏「・・・ぷぷ、あっはっはっはっは! なるほどねぃ・・・そうかぃそうかぃ」

咲「三尋木さん?」

咏「いやいや、宮永ちゃんは国際戦やってる時期は、いつも調子を落としてたからねぃ。国際戦の監督になったトシさんから、留守の間は気にかけておきなって言われてたんだ」

咏「でも宮永ちゃん、今日はいい調子で突然どうしたかと思っていたけど・・・何だ、ただの春かぃ」

咲「ぶっ!?」


咲「春違います! そういうのじゃなくて、友達! 友達がぎっくり腰で倒れたので看病したくて! それで早く帰りたいって事です!」

咏「ええー違うのかぃ? つまんねー」

咲(この人ほんと言動も行動も発想も自由人だよ・・・アラサーなのに中学生くらいに見えるし。良い人なんだけどね)

咏「おっと流石に戻らないとやべぇ。それじゃぁ宮永ちゃん、今日は実況席から楽しませてもらうねぃ」

咲「あ、やっぱり解説抜け出してきてたんですね。しりませんよ監督が帰った時に絞られても」

咏「はっは、じゃぁの若人」トテトテトテ

咲「・・・」

咲(そっか・・・私、結構周りにも心配かけてたのか。自分の事ばかりで気付いてなかったな)

咲(霞さんの事を考えて、目を向けるべきところが多くなったからかな? 今日は牌がいつもよりよく見える気がする)

咲(三尋木さんに心配をかけたお詫びは、対局の内容で出来そうだよ)

咲(それに、早く帰ってしっかり、霞さんのお世話もしないとだし)

咲「あ、靴下脱ぐの忘れてた」ヌギヌギ



世間の目が国際戦一色となっていた裏で行われ、注目の薄かったその日のプロ・アマチュア交流戦

目にしたごく一部の麻雀ファンのみが、その日の宮永咲プロの独壇場と打ち立てた伝説を語り継ぐ事になる

それは咲と同卓となった者にとっては、トラウマとなってもおかしくないような対局内容だったが、解説をした三尋木咏は番組の最後にこうコメントを残している


咏「トラウマ背負う覚悟もない奴が、プロ相手にしようと思うなんて甘すぎじゃねぇ?」


今日はここまでっす
マイペースってレベルじゃないくらい日が空いちゃいましたが、今後はもう少し間隔短く投下できると思います・・・たぶん

――霞宅周辺――



咲「でもあきらめたーらおわーりー きもーちをリセットしてー もどーる場ー所ーへー♪」ランラン

咲(今日は久々に麻雀をいい感じで打てたし、予定よりもずっと早く終わらせられた)

咲(色々買い物もできたし。さあ、早く霞さんの所へ帰ろう)

――霞がぎっくり腰になってからここ数日、咲はプロ雀士の仕事をこなしながら、霞宅を往復する毎日を送っていた

――仕事の時間の関係で霞宅に泊まる事もあり、実家暮らしの長い咲は両親から心配されたりしているが、なんとかその生活に慣れ始めていた

そんなある日の事・・・

咲「ただいま霞さん」

ドアガチャ

霞「おかえりなさい咲ちゃん」

咲「お弁当買ってきました、おでんもありますよ」

霞「わあ、嬉しい。お腹ペコペコだったの」

咲「ふふ、私もです。一緒に食べましょうか」


霞「ええ。寝そべったままでお行儀が悪いけど許してね」

腰に負担をかけないように慎重に、うつ伏せの体勢をとろうとする霞

咲「あ、霞さん、良かったらこれ使ってください」スス

霞「え? これは、クッション?」

咲「はい、うつ伏せ用の腰の負担を軽減するやつです」

霞「あらあら、今さらだけどなんだか悪い気がするわ、ここまで至れり尽くせりだなんて・・・」

咲「それは言いっこなしですよ霞さん」

霞「ありがとう、じゃあ気を取り直して使わせてもらおうかしら・・・まあ」ムギュ

咲「どうですか使い心地は?」

霞「凄いわこれ、本当に腰が楽になったわ」ポムポム

霞「らっくらくーよ、ありがとうね咲ちゃん」

咲「い、いえ、それならよかったです」

咲(やった喜んでもらえた! 選ぶのに苦労した甲斐があったよ)グッ

咲(店員さんに、胸が大きい人が使うのに適した物はありますかって聞いた時は、かなり憐れみの混じった視線を私の胸に向けられたけど、でも選んでよかった)


霞「咲ちゃんの持ってきてくれた本のおかげで、ずっと寝たきりでも退屈しなかったし、本当にいくら感謝しても足りないわ」

咲「そんな、大袈裟ですよ。友達ならこれくらい当然です」

霞「え?」

咲(あ! しまった・・・三尋木さんとの話の流れのせいで、友達だって口に出しちゃった・・・馴れ馴れしかったかな?)

霞「いま・・・友達って・・・」

咲「そ、そうです・・・なんて、えへへ」

霞「う、嬉しい」

咲「え?」

霞「私って友達いないから・・・子供の時から家の都合で交友関係が制限されてたし、そのせいなのか、うまく同年代の友達が作れないのよ・・・」

霞「だから咲ちゃんが友達になってくれるなら、本当に嬉しいわ」ニコニコ

咲「う・・・はい」カア

咲(なんだろう・・・霞さんの言葉は飾り気がないっていうか、ストレートに物を言うから、すごく照れちゃうな)テレテレ

咲(絶対いま、私の顔真っ赤だ・・・話題を変えよう)


咲「あ、そうだ霞さん、実は他にも持ってきた物があったんです」ガサゴソ ハイ

霞「ん? これって携帯ゲーム機かしら?」

咲「はい、連盟からの貰い物でソフトは一本しか持ってないんですけど」

霞「なになに・・・プロ麻雀ポータブル? あ、もしかしてこのパッケージに載ってるのって咲ちゃんじゃない?」

咲「う・・・よくわかりましたね、隅っこに小っちゃくまざっててディフォルメされたアニメ絵なのに」

霞「うふふ、クセ毛がしっかり再現されてるもの。あら? よく見れば他にも見た事あるような顔がいっぱい」

咲「そうですね、私達の世代だとお姉ちゃんや愛宕さんや臼沢さん、それに和ちゃんもいます。麻雀プロの一線にいる人を、プレイヤーキャラとして使えるというのがコンセプトのゲームですから」

咲「有名な人は支配や得意な打ち筋も再現されてたり、あとはローカルルールやローカル役も自由に設定できるんです」

霞「あらあら、すごく面白そうね・・・これを私に?」

咲「はい、これなら腰に負担をかけず寝ながらでもできますし、いいかと思って」

霞「嬉しいわ。腰が治ったら何かお返しをさせてね」

咲「そんな、いいですよ気にせずに・・・元々貰い物ですから」

霞「駄目よ、それじゃ私の気が収まらないわ。それに、何も遠慮は無しにしましょう・・・」

霞「・・・だって私達、友達なのでしょう?」ニコニコ

咲「う・・・は、はい」カアッ

咲(話題を変えたつもりが戻ってきちゃった・・・)



ドン!


咲「!?」

霞「!?」

咲(え、今の音なに? 壁ドンかな? そんなうるさくしてなかったし、霞さんの話だと隣には誰も住んでいないはずだったけど・・・)

ドンドン!

咲(あ、叩かれているのはドアみたいだ。誰かきたのかな?)

霞「あら誰かしら? 珍しいわね・・・」

咲「あ、私代わりに出てみますよ」

何か重要な用事だった場合、霞一人の時間は出られないので咲は代わりに出る事にした

念のため、チェーンロックはかけながら、咲はドアを開ける


咲「え!?」

和「こんばんは咲さん」

咲「和ちゃん!? うそ、なんで・・・今は国際戦の代表に選ばれて日本に居ないはずじゃ・・・」

和「はい、そうだったんですけど、咲さんの顔を見たくて帰ってきちゃいました」ニコッ

咲「きちゃいましたって・・・え、国際戦は!?」

和「もう個人戦は終わりましたし、団体戦は補欠なので大丈夫です。書置きしてきましたし」

咲「大丈夫じゃないよね!? 書置きとか、そんな軽いノリで登録選手がいなくなったら大問題だよ!」

和「補欠は私だけじゃありません、何かあっても交代要員はいます。園城寺さんとか」

咲「一壮戦で休憩なしの国際ルールで園城寺さんが出たら死んじゃうでしょ!」

和「HAHAHA面白い冗談ですね、麻雀やって人が死ぬとか、そんなオカルトありえません」

咲「解ってて言ってるでしょ! 鬼! 悪魔! ピンク!」

霞「さ、咲ちゃんどうしたの、玄関先でそんな大声出して・・・誰か知り合いでも来たの?」

バタン!(ドアを閉める音)

咲「いえ、誰も来てません」


霞「え? ・・・でも話し声が」

咲「私は何も見てません、見てたとしてもきっと幻覚です」ハハ

霞(咲ちゃんの目が虚ろに!? いったい何を見たの?)

咲「気にしないでください本当に、きっと霞さんに迷惑がかかる事は間違いありませんから」

和「そうです気にしないでください。というか私と咲さんの二人の時間を邪魔しないでくださいシリコンBBA」

咲「!?」

霞「!?」

咲「和ちゃん!? どこから湧いて出たの!?」

和「会いたいと願う心とちょっとした冒険心があれば、私と咲さんを阻む存在などこの世にありません」

咲「そんなポエムは聞いてないよ!」

霞「ま、まあまあ落ち着いて咲ちゃん。あまり騒ぐとご近所様に・・・ね?」

咲「あ・・・すいません」

和「咲さんは悪くありませんよ、悪いのは壁の薄いこの建物です」

咲「・・・和ちゃんはちょっと黙っててもらえるかな?」

霞(咲ちゃんの目が荒んだ目に・・・この子確か原村和ちゃんよね、清澄で咲ちゃんのチームメイトだった)


咲「・・・紹介します霞さん。こちらは原村和ちゃん、職業は私と同じプロ雀士で、一応友達です」

和「照れずに親友と紹介して頂いてもいいんですよ咲さん。な、なんならもっと深い仲だと・・・」ポッ

咲「と、も、だ、ち、です」

霞「そ、そう・・・あ、私は石戸霞です。よろしくお願いしますね和ちゃん」

和「ふん」プイ

霞「え?」

咲「ちょ、ちょっと和ちゃん! ほとんど初対面の相手にその態度は失礼すぎるよ!」

和「そうは言っても咲さん、そこのパイレーツゴーストは私から夢を奪った憎き相手、そうそう仲良くできるはずもありません」プクー

霞「夢?」

和「・・・咲さんとの事情は聞きました。ぎっくり腰で倒れて以来、世話を焼いてもらっているそうじゃないですか」

霞「え、ええ・・・」

咲「なんで和ちゃんがそれを知ってるの? ここの場所もそうだけど、お父さん達以外には言ってないのに・・・あ、まさか盗ty」

和「盗聴とかはしてませんよ?」

咲「え? じゃあどうして?」

和「国際戦の選手村で、お義姉さんと同じ宿舎があてがわれていて本当に良かったです。お義姉さんが日本にいるお義父さんと、電話で咲さんの事を話しているのを『偶然』聞いたのです」


咲「偶然ね・・・まあいいけど、とりあえずお義父さんやお義姉さんって呼び方はやめてね」

和「そんな事より聞きましたよ! 浮いた噂の一つも無く、実家暮らしアラサー街道一直線のあの咲さんが、ここにお泊りとかしてるそうじゃないですか!」

咲「・・・散々な言いようだね和ちゃん。大体私が実家暮らしなのって、半分くらいは和ちゃんがやらかした諸々のせいで、一人暮らしをお父さんたちに認められてないからなのに」

和「咲さんとお泊り・・・二人きりで一つ屋根の下(血涙)・・・ブツブツ・・・霞咲とか二回戦が終わった時点でとっくに絶滅したと思ってたのに・・・ブツブツ・・・」

咲「私の話聞いてないし・・・」

和「咲さんの初めてのお泊りは、咲さんの初めての友達であるこの私とであってしかるべきだったはず! その夢をぽっと出の泥棒乳袋に奪われた悔しさ! そのカルマ許しがたし!」

咲「初めてのお泊りとか、初めての友達とか、さっきから明らかに私の事ディスってるよね!?」

和「この語尾が~よね! ~だよ! ってなるアラサーみたいなツッコミも、本来私にだけ向けられるべきなんです、それを、それを!」
 
咲「それは心配しなくても和ちゃんにしかしてないよ! そもそもアラサーって言われるほどわたし年取ってないから!」

霞(こんな感情的な咲ちゃん初めて見たわ・・・なにか疎外感を感じてしまうわね)


咲「もう・・・和ちゃん、本当に何しに来たの? そろそろ本気で怒ってもいい?」ゴゴゴ

和「」ビクッ

和「い、いえ。ただ私は、少し様子を見に来ただけで、本当はすぐ帰ろうと思っていたんですが・・・」チラッ

霞「ん?」

和「先ほどの二人の百合百合しい場面に、感情のままドアを叩いてしまいました。ドアドンです」

咲「百合百合しいって・・・三尋木さんもそうだけど、やめてよすぐそういう発想になるの。普通に仲良くお話ししてただけでしょ」

霞(百合百合しい場面ってどういう意味かしら? 百合の花言葉はたしか威厳とか無垢って言葉だったと思うけど・・・これがジェネレーションギャップ?)

和「とにかくここで帰ってしまっては、この原村一生の恥」

咲「・・・和ちゃんはもっと恥に思っていい部分がいっぱいあると思うよ」

和「こうなれば勝負です石戸霞!」ババアーン

霞「え?」

咲「え? ・・・ってちょっと和ちゃん、脈絡無いにもほどがあるよ! 唐突に表れていきなり勝負を挑むとか、そんな話してなかったよね!?」


和「理由はありますよ、どうやらこの石戸霞は咲さんの友人として認可されたそうじゃないですか・・・」

咲(認可って・・・特許か何かみたいに言わないでよ)

和「・・・本来咲さんの友人枠は厳正な審査を通らなければいけないんです。あの公式に認められた咲日和でさえ、その辺の描写は厳しく制限されているのに・・・」

咲(特許か何かみたいな扱いだった!?)

和「だからこの私こと原村和が今この場で、石戸霞が咲さんの友人に相応しいかどうかを試して差し上げます!」

霞「・・・」ポカーン

咲「あの、霞さん。和ちゃんの言ってる事は何も気にしなくていいですよ、ちょっと色々こじらせてしまっているだけですから」

霞「え? ええ・・・」

咲「だいたい和ちゃん、霞さんは腰を痛めて動けないんだよ? 今この場で勝負だなんて、無理を言わないで」

和「ならば負担にならないような勝負内容ならいいのでしょう? 例えば、そのゲーム・・・プロ麻雀ポータブル、略してプロポを使うとか」

咲「え?」

和「麻雀のルールが分かっているなら、少し触れば簡単にプレイできるようになるはずです」

咲「・・・あのね和ちゃん。日本代表がゲームとはいえ麻雀で勝負を挑むだなんて、ずるいとは思わないの?」

和「双方納得のいくハンデをつければ問題ありません。細かい設定ができる事がウリのゲームですから」


和「どうですか石戸霞。私との勝負、受けますか? それとも私と咲さんの結婚を祝福しますか?」

咲「話がすり替わってるよ!」

和「申し訳ありませんが、咲さんは黙っていてください。これは私と石戸霞の問題なのです」

咲(ええー・・・)

霞「・・・いいでしょう。その勝負、受けて立ちましょうか」

咲「霞さん!?」

霞「なんとなくだけど、感じたわ。この勝負はきっと、咲ちゃんと友人関係を続けていくのに避けては通れない事なのだと・・・」

霞(原村和ちゃん・・・この子は無視できない、そんな気がするわ)

和「良くお分かりですね。なにせ私は学校の屋上で昼食を一緒に食べたりおかずを分け合ったりした事があるくらい、咲さんとの友情を深め合っていますからね」ドヤ

霞「あらあら、それなら私は咲ちゃんに昼食を作ってもらった事があるのよ? それはつまり、同じくらい仲が深まっているということなのかしら?」

和「!?」


和「つ、つつ、作ってもらった? そ、そそそれは、手作りって・・・いや、そんなはずは・・・」

霞「? もちろん手作りよ(野菜炒めだけど)」

和「」ガーン

霞「え?」

和「そんな馬鹿な・・・お弁当に冷凍食品しか入れないあの咲さんが・・・手作り料理だなんて・・・そんなオカルトありえません」ガクッ

咲「ちょ、ちょっと!」

霞(なんか勝手に自滅したわこの子・・・)

和「く・・・お泊りどころか手料理まで、どこまで私の夢を奪う気ですか石戸霞」プルプル

和「かくなるうえは、この悔しさも勝負において晴らさせてもらいます」ガフッ

咲(あ、やっぱりするんだ勝負)

霞(すでに満身創痍のような気がするのだけれど)


今日はここまでっす
もう少しキリのいいところまで終わらせてから投下したかったですが断念
リッツが休載しないで頑張ってるので自分も続きを頑張ります(希望的観測)


なんか張り切ってるピンクさんいるけど霞咲ssで良いんだよね?

>>85
>>1には霞咲のような何かって書いてありますねえ(予防線)

突如現れた原村和の申し出により、麻雀ゲームを使って勝負する事になった石戸霞

唐突な流れの中、困惑する宮永咲をよそに勝負は始まろうとしていた


和「プロポの操作方法は充分に理解できましたか?」

霞「ええ、十字キーと〇ボタンで操作するだけだから問題ないわ」

和「そうでしょう。いくら石戸さんがドルアーガやゼビウスで育った世代とはいえ、基本は同じでしょうから」

霞「ドルアーガ? ゼビウス?」

和「・・・なんでもありません」

和(チョイスしたゲームが古すぎて、嫌味が空振りしてしまいましたか)

咲「和ちゃん、ハンデの事忘れてないよね?」

和「当然です、私にもプロ雀士としてのプライドがあります。提示させていただくハンディキャップは・・・そうですね、私は1翻でのみ和了できるというのはどうでしょう?」

霞「1翻でのみ? 1翻以上ではなく?」

和「あくまで1翻でのみ、です。リーチして裏が乗っても私の負けで」

霞「あらあら、随分と不利な条件で勝負をしてくれるのね」


和「それ以外にもう二つ、石戸さんの持ち点はこちらの倍の5万点スタートで構いません、また半荘戦一回でハコにならなければ点差に限らず石戸さんの勝ちでいいしょう」

霞「・・・それは流石に、こちらが有利すぎるのではなくて?」

和「その代り、こちらの1翻のみ縛りに邪魔になりそうなローカル役やローカルルールは設定で外させてもらい、使用キャラの能力が発動しないように対局はSOAモード設定で行う・・・これでいかがですか?」

咲(和ちゃんはデジタル打ちだから、SOAモードでやりたがるのは解るけど、それ以外は随分と自分に不利な条件を提示した・・・)

霞「それだけハンデをつけられては気が引けるくらいだけど、麻雀にブランクがある私としてはありがたいわね」

和「ではハンデはそれでいきましょう。それと私達二人以外はCPUを入れ、ハコになってゲームが終了しないようCPUの持ち点は無限にします」

霞「私は点棒を守りきれば勝利なのだから構わないわ」


和「どうですか咲さん?」

咲(つまるところ、霞さんが点棒を守りきれば霞さんの勝ち、和ちゃんが霞さんをトバせば和ちゃんの勝ち・・・)

咲(守りが得意だった霞さんを相手に、1翻のみという縛りで5万点を削りきるのは至難の業・・・ここまでの条件なら私が口出すわけにはいかない)

咲「・・・霞さんがいいなら、それで。でもズルはしないでね」

和「もちろん、チートやツールの類は使いません。なんなら咲さんが、後ろから見ていてくれてもいいんですよ?」

咲「じゃあ、一応そうするよ」
  
和「ふふふ、咲さんに見られながらゲームができるなんて幸せです」

霞「・・・始めましょう」


ゲームスタート



和「まずは通信対戦モードにしてキャラ選択です、私は当然咲さんを選びます」

霞「あら先に選ぶなんてずるいわ、私も咲ちゃんにしたかったのに」

和「同キャラ対戦もできますからどうぞ・・・でも私が使う咲さんの方が一枚上手ですけどね」

咲「どういう事?」

和「ふふふ、私はDLCで咲さんの水着姿をダウンロードしてあります! 無課金のニワカは相手になりませんよ!」ドヤア

咲「・・・それ別に対局に影響しないでしょ」

和「何を言いますか、水着姿で恥ずかしそうに卓につく咲さんを見ながら、現実の咲さんに見られてプレイする。私はもう有頂天ですよ」

咲「いいから早く始めてよ・・・」

和「ちなみに、自分の水着姿を私が操作するのを見る気分はどうですか咲さん?」

咲「じ、実写じゃないから恥ずかしくないもん!」

※ゲーム内のアバターは咲アニメEDみたいな三頭身の絵です

霞(水着の咲ちゃん・・・羨ましいわね。後でやり方を教えてもらいましょう)


東一局 親・原村和

和「紀家は私ですね・・・では言わせてもらいましょう」

霞「?」

和「この対局に東二局は来ません」ババーン

霞「え?」

咲「え?」

和「ふふ・・・まあ見ていて下さい」


三順目

和「ツモ・・・800オール」

霞「はい」-800

霞(速い・・・けど安いわね。当たり前だけど1翻でしか和了れないならツモの削りは微々たるもの)

和「・・・」ファサッ

霞(けど、不気味・・・何か普通じゃない気配を感じるわ)

咲(後ろから見てる分には普通に麻雀ゲームしてるだけ。でも、和ちゃんに少しだけ違和感があるような・・・)


東一局一本場

和「・・・カン」

咲「!?」

霞(私の捨て牌で大明槓?)

和「嶺上開花のみ・・・1500点の一本場は1800です」

霞「はい」-1800

咲(どういうこと? あの和ちゃんが嶺上開花なんて・・・ありえないよ)

霞(掴まされていた? いえそれよりこの感じ・・・)

和「・・・」

霞(人・・・じゃない?)


東一局二本場

和「ツモ・・・500オールの二本場は700オール」

霞「う・・・はい」-700

霞(守るのは得意だけど、こうも簡単にツモ和了りされてしまうと)

咲(これ、本当に麻雀なの? 何かおかしいよ)

和「・・・」ファサッファサッ

霞(この子はこの対局に東二局は無いと言った・・・)

霞(まさか本当に、東一局で終わらせる気なの?)

東一局三本場

和「ロン・・・1000点の三本場は1900です」

霞「!?」

咲(CPUからのロン和了り? 親番の積み棒を増やしたかったのかな? ん・・・?)

咲(積み棒・・・まさか、和ちゃんの狙いって・・・)

霞(・・・まずいわね)


和「どうやら、気付いたようですね。おふたりとも」

霞「ええ、1翻のみで和了する縛り、それでどうやって5万点を削る気でいるのか不思議だったけれど・・・こんな方法を取ろうとするなんて」

咲「和ちゃんが狙ってるのは八連荘だよね?」

和「そうです、8回連続して和了した場合に成立するローカル役の役満。これならば1翻でのみ和了できるというハンデを覆すことができる」

霞(設定で外していたのは和ちゃんが不利になるローカル役やローカルルールと言っていたから、これを残すのは当たり前よね)

咲(でもおかしい。デジタル打ちの和ちゃんがそんな方法を取るなんて・・・麻雀にはどうやっても和了できない局があって当然なのは、分かりきっているはずなのに)

和「困惑していますね二人とも・・・分かりますよ、八連荘なんてよほどの偶然が重ならない限り、めったにお目にかかれる事ではありませんから」

和「しかし現実と違ってゲームは違います。その気になれば八連荘する事は難しくない・・・」

咲「え?」


和「開始時に乱数を調整して状況再現、配牌と山を望む形でスタートさせる」

和「次局へ移る為の決定権は、点数表示画面を終了できる和了した者にある為、そこでまた配牌と山の調整が可能。乱数のパターンを把握すれば常にゲーム内の卓上を私の望むものでスタートできる」

和「ゆえに今日の私はTASすら凌駕する存在です」

咲(・・・和ちゃんが何を言ってるのか全然わからない)

霞(・・・和ちゃんが何を言ってるのか全然わからないわ)

咲「よくわからないけど、それってズルをしてるって事?」

和「違いますよ、仕様を理解し、それを活用する。私なりに本気で勝負に挑んでいるだけです」

和「さあ続けましょう、最後まで手は抜きません」


こうして和は次局もその次も、連続和了を続ける

フレーム単位で調整し、ツール無しで乱数を読み切るその姿はまさにデジタルの化身そのもの


東一局七本場


和「ツモ、500オールの七本場は1200オール」

霞「はい・・・」-1200

霞(とうとう七連続和了・・・ここから先の和ちゃんの和了は、すべて八連荘で役満になる)

霞(ツモでも大きく削られ、直撃なら一発トビもあり得る)

咲「霞さん・・・」

和「ふふふ、もう勝負は見えましたか?」

霞「まだ、分からないわ」

和「強がりを言いますね、でもその減らず口がいつまで続くでしょうか」

咲(何でちょっと悪役風の口調なの?)

咲(でも和ちゃん、本気だ・・・ただのゲームなのに本気で勝ちにいってる)

霞「・・・」

霞(この勝負・・・受けるべきではなかったかもしれないわ)

霞(ただの余興、最初はそうかもしれないと思っていたけれど。これはそういう類のものじゃない・・・)

和「・・・」ゴゴゴゴゴゴ

霞(・・・私も覚悟を決める時、苦手分野いかせてもらおうかしら)


咲「!?」

咲「だ、駄目です霞さん!」

霞「!? 咲ちゃん?」

和「?」

咲「それは・・・それだけはやっちゃいけない事です」

霞(咲ちゃん・・・鋭い子ね。でも)

霞「いいえ、やらせてもらうわ。この勝負、負けてはいけない・・・その為に、一度は捨てた石戸の力を使います」

咲「そんな、だって祓う人はいないし・・・それに体も不調なのに大丈夫なんですか?」

霞「どうかしらね、近所の神社で祓えるものが降りてくるかはわからない・・・」

咲「ならやめてください! こんな勝負で危険な事をしなくても・・・」

霞「・・・」


咲「!?」

咲(霞さんの顔つき・・・すごく真剣だ、霞さんも本気でこの勝負に挑んでる・・・)


和「・・・」

咲(それに和ちゃんに感じた違和感も・・・少しずつ増してきてるような気がする)

霞「ごめんなさい咲ちゃん、いっぱいお世話してもらったのに・・・」

咲「そんな・・・」

咲(まさか霞さんは、和ちゃんに感じる違和感の正体に気付いてるの? だから今、無理をしようとしてるの?)

咲(・・・わからない、けど・・・見てるだけなのはいけない・・・そんな気がする)

咲「待ってください霞さん、せめてもう一局だけその力を使うのは」

霞「いいえ・・・でも」

咲「勝負所なのは分かってます、それでももう一局だけは・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

霞「!?」ブルンブルン

霞(この感じ、昔インハイの大将戦の時に感じた、咲ちゃんの支配?)

咲「お願いします」ゴゴゴゴゴゴ

霞「え、ええ・・・分かったわ」


東一局八本場


和(ありえません・・・ここにきて、ツモが狙ったものになっていない)

咲「・・・」ゴゴゴゴゴ

和(背中が冷たい・・・こんなはずじゃ。こんなモノを敵に回すつもりは・・・)

咲(・・・基本はネトマに近い、大事なのは応用を利かせる事。私に合う形で、私に合わせてもらう)

霞(ツモが良いわ・・・やっぱりこれって咲ちゃんのおかげ? 昔よりもずっと支配の力が強く感じるわ)

咲(他人の勝負に手出しするみたいで気が引けるけど・・・ごめんね和ちゃん、この局だけは霞さんの手助けをさせてもうよ)


霞「カン・・・」

和「!?」

和(暗槓? そんな・・・私の乱数調整が及んでいない・・・)

霞「もう一つカンです・・・」

和「!?」

霞「さらにもう一つ・・・カン」

和「!!」

霞「ツモ・・・トイトイ、三暗刻、三槓子・・・いいえこれは」

咲(このゲームには古今東西のローカルルールやローカル役が実装されてる・・・だから親の八連荘を阻止した子に与えられるあの役も、当然実装されてる)

霞「破回八連荘(ポーホイパーレンチャン)・・・役満です」

和「ぐ・・・はい」

和(八連荘だけ設定で残すのはあからさま過ぎるので、あえて残したのが裏目に出ましたか・・・)

そして親も移り、乱数も大きく変動した事で、和の1翻のみで和了するという縛りは守りの得意な霞には通用しなくなった


――ゲーム終了――



霞(ふう・・・なんとか守りきったわね)

霞(恐ろしいものは降ろさずにすんだ・・・さあ後は・・・)

和「く、殺せ!」

咲「・・・何言ってるの和ちゃん」

霞「そうね、消えてもらおうかしら」

咲「霞さん?」

霞「戻るべき場所にお帰りなさい、ここは貴方のいるべき所ではないわ」

和「・・・石戸霞・・・覚えていなさい・・・この私が消えても、いずれ第二、第三の私が貴方の前に現れ・・・」スウ

咲「!?」


原村和の体が半透明になって、そして消えていく


咲「和ちゃんが消えた!? え? どういう事?」

霞「やっぱり・・・そうだったのね」

咲「霞さん? 何か知って・・・」



ガンバッチャッタガンバッタワレワレトンナンシャーペーワーイワーイ


咲「!?」ビクッ

咲「あ、ケータイの着信・・・えっと・・・え!? 和ちゃんから!?」


慌ててケータイの通話ボタンを押す咲


咲「・・・もしもし」

和『あ、咲さん・・・テレビ見てましたか?』

咲「え? テレビ?」

和『もう、その様子だと見てなかったんですね。凄いですよ国際戦! いまさっき日本代表の団体戦優勝が決まりました!!』

咲「え・・・ちょっと待って、和ちゃん今どこから電話してるの?」

和『どこって、国際戦の会場に決まってるじゃないですか・・・私も一応補欠で選手登録されてるんですから』

咲「???」


和『私の出番はありませんでしたが皆凄かったですよ。先鋒のお義姉さんはドイツのドライブリレンのニーマン相手にプラス収支です。なぜかニーマンの眼鏡が割れてました』

和『次鋒戦は臼沢さんがリードを守り、体調が悪かったのか途中で倒れましたけど・・・交代した園城寺さんも決死の表情で一度も振り込まずに繋ぎ・・・』

和『中堅戦と副将戦は、野依さんと赤土さんが年長者の威厳をみせる見事な打ち回しでリードを広げ・・・』

和『大将戦は戒能さんがあのエヴァーグリーンをシャットアウトして、そのまま優勝です』

咲「そう・・・なんだ」

和『もう、咲さんちゃんと聞いてました? もうすぐ表彰式なので電話を切らなければいけませんが・・・次は一緒に出られるように、お互い頑張りましょうね』

咲「う、うん」

和『約束ですよ! こんな不確かな約束事を私がするのは、咲さんだけなんですからね!』

咲「うん、うん・・・それじゃ」プチ


そして電話が切れる

先程まで目の前に居たはずの和からの電話が、遠く国際戦の会場からのものだと聞き、戸惑いを隠せない咲

その疑問の答えを霞は知っていた


霞「今の電話の相手が本当の和ちゃんよ」

咲「本当の?」

霞「ええ、そして私に勝負を挑んできた和ちゃん、アレはおそらく悪霊の類・・・」

咲「!?」

霞「昔から寄ってきやすいの私、恐ろしいものや悪いものが・・・石戸の血がそういう運命を背負っているから」

霞「あれが和ちゃんの姿をとっていたのは、彼女の思念も混ざっていたのでしょうね。遠くの地から届くほどの強い思念が、あるいは彼女の中に眠っているオカルトそのものが、ここに漂っていた悪いものと結びついた。モテモテね咲ちゃんは、うふふ」

咲「わ、笑い事じゃないです!」

咲(ドアを閉めたのに中に入ってきたり、私が違和感を感じたのは、そういう事なの?)

咲「・・・じゃあ霞さんは、そういうものだって解っていて勝負を受けたんですか?」

霞「そうね。そうじゃないかという予感めいたものだったけど、結局は当たっていたわね」

咲「どうして・・・」

霞「もう・・・言ったじゃない。私が咲ちゃんと友人関係を続けていくなら、この勝負は避けては通れない道だって」

咲「あ・・・」

霞「・・・もしかしたら、今後もこういう事があるかもしれないわ。さっきのは消えてくれたけど、最悪憑りつかれる事もあるかもしれない」

咲「・・・」

霞「気味が悪いでしょ? 子供の頃から交友関係が制限されていたって言うのは、そういう事なの。実際に起こるまでは、説明しても信じられないだろうから言わなかったけど・・・」


咲「気味が悪いだなんて・・・そんな事思ってません」

霞「え?」

咲「でも、ちょっと怒ってます。先に教えてくれなかった事には」ゴゴゴゴゴ

霞「さ、咲ちゃん?」

咲「・・・無理しないでください霞さん、さっきだって自分の負担を省みずに降ろそうとして・・・心配、してるんですよ」ウルウル

霞「・・・うん・・・ごめんなさい」

咲「悪霊とか別に気にしません・・・お姉ちゃんや小鍛冶さんと麻雀打つ方がきっと怖いです」

霞(それはそれでどうなんでしょう)

咲「次は私が戦います、何があっても霞さんを守ります。だから・・・」

霞「咲ちゃん・・・」

咲「・・・」


霞「・・・ええ、そうね。私も咲ちゃんを守るわ、もう大事な大事なお友達だもの」

咲「うん、約束ですよ」

霞「ええ」

霞(そうよ、ここは霧島神宮とは違う・・・家を出たのに、私はまだ教えに縛られていたのね・・・)

霞(でもこれからは違う・・・咲ちゃんと一緒に生きていくわ)


障害を乗り越え、また一つ近づいた二人の距離

そしてもう一つ、その場に残っていたものがあった


霞「あら? このゲーム・・・」

咲「あ、ニセ和ちゃんが持ってきた物、置いて消えちゃったから残っていたんですね」

霞「そうみたいね・・・でも使えるみたい」

咲「本当ですね」

霞「ねえ咲ちゃん・・・よかったら」

咲「はい! 私もちょうど思ってたところです、一緒にゲームしましょう」

霞「うふふ、嬉しい・・・でも手加減してね」

咲「えへへ、それはどうでしょうかねえ」

霞「もう! それなら私は水着の咲ちゃんを使わせてもらいます」

咲「そ、それはダメです!」


キャッキャ ウフフ


このあと滅茶苦茶ゲームした




今日はここまでっす
霞さん誕生日おめでとうの気持ちを込めました

今日で完結できれば良かったんですが・・・不甲斐なくもまだ続きます

――1週間後・霞宅――

平穏無事な一週間が過ぎた

咲の助けもあり、霞はぎっくり腰を悪化させる事なく療養し、日常生活に戻れるまで回復できた


霞「どうかしら?」クルクル

咲「あ、かわいいです」

霞「うふふ、ありがとう」ニコニコ

霞「でもそうじゃなくて、私の調子、良くなったように見える?」

咲「うん・・・そっちも、特に問題あるようには感じないです」

霞「そう、良かったわ。咲ちゃんのお墨付きが貰えたなら、もう大丈夫ね」

咲(・・・霞さんのぎっくり腰、完治したみたい)

咲(嬉しい事なのに、なんだか寂しい気もする・・・それはやっぱり、私がここに来る理由がもうなくなっちゃうからなのかな)

咲(・・・それに、霞さんが神境に戻らないとも限らないし)


霞「・・・ねえ咲ちゃん、これ貰ってくれないかしら?」

咲「え?」


霞は咲に向かって手を差し出した

その手に握られていたのは、霞の家の合鍵


咲「霞さん・・・これって」

霞「良かったら持っていて・・・いつでも好きな時に来てね。私がここにいる時も、いない時でもいつでも大丈夫だから」

咲「か、霞さん」ウルウル

霞「ほ、ほら! 咲ちゃんみたいなかわいい子が、夜の街を徘徊するのは危ないし! キャバクラ通いに嵌ってしまったら金銭面でも大変だし! そういう意味で、お家に居ずらい時とかここを使ってもいいって事で・・・ね」

咲「はい・・・」

霞「あ、それと咲ちゃんにもう一つ、ちゃんと言っておかないといけないわね」

咲「え?」

霞「もう神境に帰るなんて言わないわ。ここでちゃんと私らしく生きられる道を探してみる・・・そう決めたわ」

咲「霞さん・・・」


霞「ありがとう咲ちゃん、貴方のおかげで少し前向きになれた・・・駄目になりそうな時に支えてくれて、本当にありがとう」

咲「そんな、私は大した事してないです」

霞「いいの、私が大した事をしてもらったと思ってるから」

咲「・・・はい」テレテレ

霞「うふふ。あ! もうお店に出なくちゃいけない時間だわ、急がないと。復帰初日から遅刻なんて恥ずかしいものね」


霞「それじゃ咲ちゃんまたしても慌ただしくてごめんなさい、いつかちゃんとお礼しますからね」パタパタ

咲「ううん、行ってらっしゃい霞さん」

霞「はい、行ってきます」

パタン

咲(お礼とか気にしなくていいのに・・・)

咲(私は、この合鍵を貰えただけで十分だよ)

咲(良かった、霞さんが帰ってくるのがこの場所で)



ヤクソクーノ バーショーヘ オーバーフューチャアアアアアアアアアアアアアア

咲「!?」ビクンッ

咲(あ、ケータイの着信だ・・・えっと、三尋木さんから? あの人から電話が来るなんて珍しいな)

咲「もしもし宮永です」

咏「おっす宮永ちゃん、三尋木だけどいま大丈夫かい?」

咲「ええ大丈夫ですけど、何かあったんですか?」

咏「うん、ちょっとねぇ。だけど、電話口じゃ言いたくない事なんだ・・・」

咲「え?」

咏「・・・悪いんだけど、いま出てこれるかい?」

咲「構わないですけど・・・」

咲(三尋木さん、ちょっと深刻そうだけど、何があったんだろう?)

咏「じゃあ、いつも打ち上げとかで使ってるファミレスに来てねぃ」

咲「解りました」


――ファミレス――


咲は三尋木咏に呼び出され、所属団体の打ち上げとかでよく使われているファミレスに来た


咏「あ、宮永ちゃんこっちこっち!」パタパタ

咲「はい、遅れてすいません」ハアハア

えり「いいえ、いきなり呼び出したこの人が悪いんですよ。だから謝らなくていいと思います」

手招きされて咲がついたテーブルには、放送局アナウンサーの針生えりも三尋木咏と並んで座っていた

咲「あ、針生さん・・・どうも御無沙汰しています」ペッコリン

えり「これはどうもご丁寧に。宮永プロは礼儀正しいですね、誰かさんも少しは見習うべきだと思いますよ」チラッ

咏「誰かさんて誰の事かぜんぜんわかんねー、存じ上げぬ」パタパタ

えり「」イラッ


咲(う、まさか針生さんもいるなんて・・・私、テレビ局と何か問題になるような事をやっちゃったのかな?)

えり「コホン、ほら三尋木プロ。いきなり呼び出された宮永プロが困惑してます、早く本題を伝えるべきでは?」

咏「えー、いきなり言っちゃうとかありえねー。もうちょっと勿体つけようぜ?」

咲「な、何ですか。何かあったなら教えてください」

咏「うーん、どうしようかねぃ?」

えり「私から言ってもいいんですよ?」

咏「あ、それは嫌だねぃ。しょーがない、えりちゃんにネタばらしされる前に教えてあげようか、知らんけど」

咲(な、なんだろう。なんか三尋木さん電話と違ってニヤニヤして楽しそうな気がするけど・・・)


咏「なんと!」

咲「!?」ビクッ

咏「宮永ちゃんの国際試合の参加禁止処分が解けて、日本代表選抜への復帰が決まったらしーよ」

咲「・・・え?」

咏「うん」

咲「え?」


咲「??????」

えり「・・・ほら、やっぱり最初からちゃんと伝えておけば良かったじゃないですか。宮永プロ、どんな顔していいか分からなくなってますよ」

咏「あれー? もっと喜んでくれるかと思ってたんだけどねぃ」

咲「・・・えっと、今の本当ですか?」

えり「それどころか三尋木プロ・・・疑われているじゃないですか。普段の行いが適当だからこういうことになるんです」

咏「う、流石にショックをうけるねぃ」グサッ

咲「あ、違います! 疑ってる訳じゃなくて・・・その、実感がわかなくて・・・・・・すいません」


えり「・・・まあ、そうでしょうね。でも、三尋木プロの言っている事は本当です。発表はまだですが、局のデスクに聞いた話なので間違いありません」

咏「ほらほらどうだぃ? あのえりちゃんが言うんだ、間違いないよねぃ? しらんけど」

咲(・・・申し訳ないけど、針生さんが言った事で、三尋木さんよりも信憑性が増したのは本当だ・・・)

咲(私がまた代表選抜に? でもなんで・・・)

咏「なんで許されたのか、理由がわかんねーって顔してるねぃ?」

咲「そう・・・ですね」

咏「じゃあ教えてあげよーかぃ。宮永ちゃんの国際試合への復帰が決まったのは・・・今回の国際戦で日本が優勝できたからじゃねーかな、知らんけど」

咲「え? えーと・・・でも日本が優勝した事と、私の謹慎が解けたのは関係ないような気がするんですけど・・・」

咏「いやいや、関係あるんだよねぃこれが」

咲「?」


咏「実は日本が世界大会の団体戦で優勝した事って、過去に何度かあったんだけどさぁ、連覇は一度もした事ないんだよねぇ」

咏「だからこそ次も勝って初の連覇を狙う為、代表選抜も協会も本腰入れて動き出してる。まあそんな中、国内で三冠とってこの前のプロアマ交流戦でも大活躍した宮永ちゃんを、遊ばせておくわけにはいかんでしょって事かねぃ?」チラッ

えり「・・・なんでそこで私を見るんですか?」

咏「いやー私の可愛い後輩たる宮永ちゃんを、マスコミはボッコボコに叩いてくれたからねぃ、耳が痛いんじゃねー?」

えり「・・・確かに一時期取り上げられてはいましたが、最近はそうでもないでしょう。それと、私をマスコミ代表みたいに扱うのやめてください」

咏「ふーん、しらんけど」

えり「」イラッ

咲「あ、あの! なんとなく流れは解りました」

咏「お、そうかぃ?」

咲「はい。でも・・・実際、私がいなくても優勝してるのに、今更代表に復帰する意味はあるんでしょうか?」


咏「無いって事はないんじゃねー。優勝国ってのはそれだけ次からマークがきつくなるからさー、今回活躍した選手も今まで以上に分析、研究されて、厳しい事になるのは間違いないよねぃ」

咏「その点、宮永ちゃんはしばらく国際戦に出てなかったし。こういっちゃなんだけど、国際戦で失格になった後から調子落としてたりしてたから、相手にとっちゃ未知数になるわけだ」


咲「あ、なるほど・・・」

咏「参加禁止処分も、国際連盟じゃなく日本の麻雀協会から、自粛する意味で出てただけだしねぃ。協会が良いって言うなら、宮永ちゃんが気にする事はもうないのさ」

えり(・・・調子落としてても国内で三冠とってるのに、二人ともそれが当たり前のように話してる)

えり(史上最年少で八冠をとった小鍛冶プロのように、トッププロと呼ばれる人達ってそういうものなの?)


咏「つーか、こまけぇことはいいんだよ!」

咲「!?」

咏「理由はともかく、代表選抜に宮永ちゃんが復帰できる! わかんねーことは後にしてさ、今はそれを喜ぶのがいいんじゃねー?」

咲「は、はい」

咏「という訳で、宮永ちゃんの日本代表復帰を祝う会の始まりー」

咲「ええ!? これ、そういう集まりだったんですか!?」

えり「・・・そうですよ。三尋木プロが変な言い方で呼び出したから誤解したでしょうけどね。まったく、普通に本当の事を教えてから呼び出せばよかったのに」

咏「それじゃバイオレンス感足りなくねー?」

えり「そんなものはいりません」キッパリ

咏「ちぇー」


えり「祝いたいなら普通に祝えばいいのに・・・しかも自分が一番に祝いたいからって、知ったその日にすぐ呼び出すなんて、宮永プロの迷惑も少しは考えないと」

咏「わ、わかんねー、全てがわかんねー」

えり「しかも本当はファミレスじゃなく、お高い料亭でやろうとしてましたよね? 時間が時間だっただけに、当日予約を断られたって拗ねてましたよね?」

咏「あーあー、それ言うなよぅ・・・じゃなかった、し、しらんし」プイッ

咲(あ、三尋木さん照れてる)



咏「そうだ、ドリンクバー頼んであるから行ってくるねぃ!」

咲「私も行きますよ」スッ

咏「いーっていーって、主賓は座ってなよ。ちゃんと三人分持ってくるから」タタタ

えり(逃げたな)

えり「ふう・・・まったくいい歳なのにまだまだ子供っぽいですね三尋木プロは。宮永プロもそう思いませんか?」

咲「う、うーん。それはノーコメントでお願いします・・・」

えり「相手が先輩だからって気を遣わないでいいんですよ?」

咲「そ、そういうわけでは・・・祝ってもらえるのは嬉しいですし」

えり「・・・そうですか」

咲「・・・はい」


えり「・・・」

咲「・・・」

咲(き、気まずい、かも)

咲(そういえば、針生さんとはあまり一緒の仕事したことないんだった。針生さん、三尋木さんと一緒の事が多いし)

咲(なんというか・・・友達の友達と一緒にいるような、そんな感じに近いのかな?)

えり「宮永プロ」

咲「はい!?」ビクッ

えり「・・・そんな固くならず楽にして頂いて結構ですよ。今日は宮永プロの為のお祝いなんですから」

咲「は、はい。そうですね、えへへ」グギッ

えり(!? こ、これは・・・なんていう下手な愛想笑い!?)

えり(宮永プロの事、野依プロとはちょっと違ったタイプの人見知りだと三尋木プロは言っていたけど・・・一瞬、威嚇でもされたのかと思ってしまった)


咲「ど、どうかしました?」

えり「い、いえ・・・なんでもありません。そういえばすいません、こういう場は気心を知れた仲だけで集まったほうがいいと、三尋木プロには言ったんですが。『せっかく祝うなら人数が多い方がいい』って強引に連れてこられてしまって・・・」

咲「あ、そうだったんですね」

えり「でも、嫌々ついてきた訳ではありませんよ? うちの局は宮永プロの所属団体とは親交が深いですし、それに個人的に興味もありました」

咲「興味、ですか?」

えり「ええ、三尋木プロから宮永プロの事はよく聞いていたので・・・あの人が言っていましたよ、自分とよく似た子がいるって」

咲「私が・・・三尋木さんと似ている?」

えり「ふふ、全然違うと思っていましたが、この間のプロアマ交流戦でちょっとだけ、それが分かりました」

咲「う、うーん? 三尋木さんと私、麻雀の打ち筋も性格もあまり似てるとは思えないですが・・・」


えり「そうですね、三尋木プロと宮永プロ、一見すると似ても似つかないですが」

えり「・・・でも裸足で打っていた時の宮永プロ。まるで子供のように楽しそうに、全力を出せることが嬉しそうに、麻雀を打っていました。そういうところ、三尋木プロによく似ています」

咲「あ・・・」

えり「考えてみると意外といないものです、過去に活躍したプロ、現在活躍中のプロを合わせても、心の底から楽しそうに打つ人は」

えり「小鍛冶プロは鬱々とした顔で打ちますし、野依プロは怒っているように見えますし、戒能プロはクールですし、赤土プロはたまにメンタルの弱さが顔に出ますし、瑞原プロはなんか腹黒そうです」

咲(うん・・・さらっと、いろんな人が切られたのは黙っておくとして。言われてみれば楽しそうに麻雀打つ人って、プロではあまりいないかも)


えり「貴重だと思います、楽しさを表現できるというのは。見ている人に楽しさを伝える事、それはきっと麻雀という競技にも必要な事だと私は思いますから」

咲「・・・意識した事、ありませんでした」

えり「宮永プロはそれでいいんです(むしろ意識して笑ったらやばい)。以前の国際戦のように『一緒に楽しもうよ』と声に出してしまい失格になったのは残念でしたが、そんな事を口に出さなくても、多くの人に麻雀の楽しさを教えられる。そういう素養があると思います」

えり「そして私も放送に携わる者として、少しでもそれを伝える手伝いができたらと思います。これからの宮永プロの活躍、個人的にも応援してますから」

咲「は、はい!」

咲(なんか、すごく買いかぶられている気がするけど・・・でも、針生さんの言うように、麻雀の楽しさがもっと伝わってくれるなら、私も嬉しいな)

えり「・・・それにしても三尋木プロ、戻ってきませんね。まさかいい歳した大人が、ドリンクバーで遊んでいるんじゃ・・・」

咲(ありえるかも・・・というか、嬉しそうに混ぜてる姿が容易に想像できちゃう)


えり「そう言えば聞いてますか? 今回の国際戦に三尋木プロが不参加の理由」

咲「え? いえ、そういえば聞いてないです。針生さんは知っているんですか?」

えり「はい。どうやらあれ、三尋木プロなりの抗議だったみたいですよ。宮永プロが国際試合への参加禁止処分がいつまでも解かれない事への」

咲「え・・・・・・・・・ええ!?」

えり「まったく代表のエースが何をやっているんだって呆れますよ。『宮永ちゃんが出ないなら私も出ない』ってワガママ言って」

咲(そうだったんだ・・・三尋木さん、私の知らないところでそんな事を・・・)

えり「しかも出なかった割に日本が優勝しちゃったものだから、さっきまで拗ねてましたし。本当になにをやっているんだか・・・」

えり「・・・でも、そういう風に自分のイスをかけてまで、後輩の為に行動できるって言うのは、少しだけ尊敬できるといいますか、羨ましい気もしますけど・・・」


咏「まーねぃ、えりちゃんは若い女子アナを見かけるだけで、妬みや嫉みが顔を出すからねぃ」ヒョコリ

咲「!?」

えり「うわ!? 三尋木プロいつの間に・・・・・・聞いてたんですか?」

咏「まーねぃ。はいこれ、えりちゃんのドリンク、なんか色々混ぜたやつー」コト

咲(やっぱり混ぜてたんだ・・・)

えり「・・・どうも」

咏「宮永ちゃんには、はいメロンソーダ」コト

咲「ありがとうございます」

咏「いやいやー、えりちゃんが珍しくなんか楽しそうに話してると思ったら私の事かー、照れるねぃ」パタパタ

えり「白々しい・・・まさか、私にさっきの話をさせる為に席を外したんですか?」

咏「わかんねー、すべてがわかんねー」パタパタ

えり「ぐぅ・・・あなたという人は」イラッ

咲(・・・針生さんは気付いてないみたいだけど、三尋木さんの照れ隠しみたい。素直じゃないなあ)


咲「三尋木さん、ありがとうございます」

咏「うぇ? いきなりなんだい?」

咲「だって、私の為に協会に抗議してくれて、こうして復帰を祝ってくれて・・・私、三尋木さんみたいな先輩をもって幸せです」ニコリ

咏「・・・」ボッ

えり(うわ、直球の感謝の言葉に赤面してる・・・それにしても宮永プロ、こういう時はちゃんと笑えたんだ)

咲「私、こんどこそ日本代表としてしっかり闘えるように頑張ります。三尋木さんに負けないくらい、もっともっと麻雀を楽しめるように」

咏「み、宮永ちゃん・・・」

咲「一緒に楽しみましょう。ううん・・・一緒に楽しもうよ!」ゴウッ


咏「・・・・・・はは、まったく。一丁前の口をきいてくれるねぇ」

えり「あなたが他人の言動を注意できるような人ですか?」

咏「はいはい、わかってるよぅ。ふっ・・・代表復帰が決まっても、二の足踏むようなら活を入れようてあげようかと思ってたんだけどねぃ」

咏「むしろ、活を入れられたのは私の方だって気分だよ」

咲「三尋木さん?」

咏「うん、一緒に楽しもうかねぃ」

咲「はい!」

咏「言っておくけど、日本代表のエースの座はまだまだ誰にも譲る気はないよー。たとえそれが宮永ちゃんでもねぇ」ゴゴゴゴゴゴ

咲「どうでしょう? 今回はお姉ちゃんが先鋒で活躍したみたいですし、他の人もきっと大勢狙ってますよ」ゴゴゴゴゴゴ

えり(なんかテーブルに置いてあるコップがひとりでにカタカタしてるけど、気のせい気のせい)


咏「ふふ、楽しいねー、小鍛冶さんの一強時代とは違う・・・今ならあの人が一線を退いて、教える側にまわった気持ちが少しは解るよ」

そう言いながら、三尋木咏は席においてあった風呂敷を咲の前に差し出した

咲「? これ、なんですか?」

咏「私から宮永ちゃんに、復帰のお祝いの品だよ。良かったら受け取ってくれるかい? まあ、嫌だっつっても持って帰ってもらうけどねぇ」ハラリ

咲「これ・・・振袖!?」

咏「宮永ちゃんの為に選んだんだ。着なくてもいいけど、大事にはしてほしーかな、しらんけど」

咲「三尋木さん・・・こんなすごいものを、ありがとうございます大事にします」ペッコリン

えり(孫に晴着を送るおばあちゃんですか、なんて無粋な事を言うのはよそう)


咏「まあ、でもなんつーか、それ渡すのタイミングが悪かったかもねぃ」

咲「え?」

咏「だってほら、振袖って未婚女性が着るもんだろー? もしかしたら宮永ちゃん、もうそろそろ着れなくなるかもしれないからねぃ」ニヤニヤ

えり「?」

咲「そ、そんな事ありません!」

咏「はっはっは、わかんねーすべてがわかんねー」ケラケラ



何はともあれ宴もたけなわ

しのぎを削りあう事を楽しみとするプロ雀士達は、きたるべき大きな闘い為にその楽しみを誓い合った


今日はここまでっす、霞さんの出番が少なめなのは次回の為の布石という事で、どうか許してください

次回投下は霞咲のようななにかという注意書きに恥じぬよう、霞さんの出番と急展開やあるいは超展開も含めて終わりに向けて話が進む予定ですので、もうしばらくお付き合い頂けたら幸いです

※書けなかった部分のどうでもいい補足
この咏えりはそれなりに仕事で組んで長いですが、咏がちゃんとした打ち合わせしないから(咲日和)いまだに実況解説が噛み合わないって設定。
仲は、いい意味で遠慮しない感じで良好という具合


――クラブドラゴンゲート――


揺杏「おはざーっす」

霞「あら揺杏ちゃん、おはようございます」ペコリ

揺杏「あ、カスセン今日から復帰ですか。腰治ったんですねー」

霞「ええ、おかげさまで。長いお休みを頂いてごめんなさい」

揺杏「しょうがないっすよ、腰やっちゃったらマジ」

霞「私がいない間、お店は忙しかったかしら?」

揺杏「そーっすねー、なんか結構忙しかったですね。特に繁忙時間(ハーベストタイム)に来るお客さんが増えてる気がします」

霞「あらあら、そうなの?」


揺杏「ナンバーワンの渋谷さんの指名、いまものすごいっすよ。あと、呼び込みの亦野さんがお客さんを釣り上げる釣り上げるで、ヘルプもまわらないくらい」

霞「そう・・・それで揺杏ちゃんは、今日は外回りじゃなくてお店の中で接客なのね」

揺杏「呼び込みの方が好きなんですけどねー。らっさいらっさいって感じで」クイックイ

霞「そ、そう・・・あ、そう言えば今日は髪をおろしてるのね、髪おろしてる揺杏ちゃんって大人っぽくてかっこいいわ」

揺杏「え? あ、どーもありがとうございまーす・・・」

揺杏(なんかこのおb・・・この人に大人っぽいって言われるのってひっかかるものがあるんだよなー、他意はないんだろうけど)

揺杏「えっと、霞さんもマジかわいいっすよ」

霞「うふふ、ありがとう」


霞(かわいい、か・・・)

霞(揺杏ちゃんは社交辞令だろうけど、でもそういえば来る時に咲ちゃんにも言われたかしら)

揺杏「?」

霞「かわいい・・・うふふ・・・霞さんかわいい」ニマニマ

揺杏「!?」ビクッ

揺杏(なんかニヤニヤしてる!? このおb・・・この人、マジきめえ!!)



ハギヨシ「みなさん、おはようございます」

揺杏「あ、店長、おはようございまーっす」

霞「おはようございます店長、お休みを頂いて申し訳ありませんでした」ペコリ

ハギヨシ「いえ、従業員の不調に気が付いていなかった私の落ち度でもありますから、どうかお気になさらず」

ハギヨシ「それよりも、実は霞さんをご指名のお客様が、お店の外でお待ちでして、少し早いのですが開店にしようと思うのですがどうでしょう?」

霞「私に、指名? ええ、準備は出来てますが・・・」

ハギヨシ「では、7番テーブルまでお客様をご案内しておきます」

霞(私に指名? いったい誰かしら・・・まさか咲ちゃん?)


元々指名の多くない霞であり、しばらく休んでいた霞が、今日から出勤だった事を知っている常連のお客も少ないだろう

そんな消去法から、霞の頭には咲の顔が浮かんだ

しかし本当なら咲も、霞からの言いつけを守っているなら店に来るはずがない

それを霞がテーブルに行くまで気付かなかったのは、もしかしたら少しばかり浮かれていたからなのかもしれない


――7番テーブル――



霞「お待たせいたしました・・・・・・え?」

巴「・・・」

霞「そんな、まさか・・・巴ちゃん? 巴ちゃん・・・なの?」

巴「お久しぶりです霞さん」ペコ

パキーーン

霞が持ってきたウェルカムドリンクのグラスが落ちて割れる

狩宿巴――神代の分家として肩を並べたかつての友人が突然現れた事に、霞は困惑していた


霞「・・・そんな・・・どうして?」

巴「せっかく久々に会えたのに、そんな顔をしないでください」

霞「・・・ごめんなさい。でも、どうしてここが分かったの? 家の人には誰にも教えてないはずなのに・・・」

巴「神代宗家の影響力、霞さんならご存じの通りではないですか?」

霞「!?」

巴「誰が何処にいるのかなんて、調べようと思えば簡単に調べられます」

霞「そう・・・そうよね」

巴「それより、割れたグラスそのままで大丈夫なんですか?」

霞「・・・・・・あ! ごめんなさい、すぐにお取替えします」

霞がそう言うと、控えていたスタッフがグラスを回収してすぐに新しいものを用意する

周りにいるスタッフは皆、霞の様子がおかしい事に気付いていたが、関わるべきでないと察したのか、最低限の手伝いだけで奥に引っ込んでいった

キャバクラの従業員は修羅場っぽい空気には敏感なのだ


カラカラ

巴「・・・お変わり無いようで何よりです霞さん」

霞「巴ちゃんも・・・」

巴「最後に会ったのはいつでしたか?」

霞「・・・たしか、六年前だったかしら」

巴「そうでしたね。お別れした時は、私達はまだこうしてお酒を飲める歳でもありませんでした」

霞「・・・」

巴「・・・正直言うと、少し安心しました」

霞「え?」

巴「だって六年ですよ? それだけ離れてたら、私達の事なんてもう忘れてるかと思ってましたから。連絡だって貰えませんでしたし・・・」

霞「忘れたりなんてしないわ、神境を出ても、巴ちゃん達が私にとって大切な人達なのは変わりないもの・・・片時だって忘れる事はなかったわ」

巴「・・・本当にそうなら嬉しいです、でも」

霞「でも?」

巴「少し、今からする話が辛くなりました」

霞「・・・そう」


傾けたグラスを戻し、巴は神妙な表情を霞に向ける


巴「霞さん、どうして私がここに来たのか、実は察しがついているのではないですか?」

霞「やっぱり、ただお酒を飲みに来たわけじゃないのね・・・」

巴「はい」

霞「そうね、なんとなく分かるわ・・・ここのところ、いえ、もっと前から少しずつだけど・・・悪いものや恐ろしいものが増え始めているのを感じていたもの」

巴「・・・やはり、ここにもですか?」

霞「ええ、そしてそれに呼応するかのように、能力を持っている子達は、その力を高めていっている」

霞「つい数日前にも調子を崩していた私の所に物の怪が来たけど、ちょうど一緒にいたお友達が追い払ってくれたことがあったわ」

巴「そのお友達、宮永咲・・・ですね?」

霞「!?」


巴「すみません、祖母上様方が勝手に調べたんです。霞さんの事を、周辺人物まで事細かに。ここを突き止めたのも・・・」

霞「そう・・・あの人達が。まったく、変わらないものね」

巴「・・・すみません」

霞「どうして巴ちゃんが謝るの?」

巴「だって霞さんは祖母上様のやり方が許せないはずです。神境を出た理由だって、半ば強引に追い出されたと聞いてます・・・」

霞「・・・違うわ、私は自分探しの旅に出たかっただけよ」

巴「嘘です、思慮深い霞さんがその辺のOLみたいな口実で神境を出るはずありません。それに、霞さんが出ていく前に何があったか知っている者もいます」

霞「・・・むう、初美ちゃんね。おしゃべりさんなんだからまったく」 

巴「霞さんは祖母上様のやり方に憤っていたと聞きました。私達や姫様の事を、神事の為とはいえ道具のように扱っていると・・・」

霞「・・・」


巴「正直に言えば、神代の家に連なる者として生まれ、その義務果たすのが当然と教え込まれた私には、それは甘えだと思っていました」

巴「ですが、それを改めなければいけない事態が、今回起こってしまいました・・・」

悔やむように俯く巴、その顔には後悔と自責の念が浮かんでいる

霞「・・・小蒔ちゃんに何かあったの?」

巴「酷く恐ろしいもの・・・祖母上様が言うには、過去百年類をみないほどの厄災となりうるものが、姫様に降りてきてしまいました」

霞「!?」

巴「そのせいで姫様が本来担うべき神事もままならず、世の異能のバランスも崩れてきています」

霞(咲ちゃんの支配が強まっていたのは、そういう事だったのね。それに、麻雀の日本代表が一位になったというのも、バランスが崩れた影響なのかもしれないわ)

霞「それで、小蒔ちゃんは無事なの?」

巴「今の所は、狩宿と滝見の家の者が交代で鎮めていますので・・・しかし少しずつですが体が弱ってきているようです」

霞「そんな・・・」


巴「そしてつい数日前です。霞さんの後任として、姫様のアマガツとなる役割を担っていた明星ちゃんが儀式を行ったのですが・・・」

霞「・・・どう、なったの?」

巴「・・・・・・制御できず、恐ろしいものは姫様に戻ってしまい、明星ちゃんはそのまま意識不明となってしまいました」

霞「・・・」

巴「そして私達は姫様を救う手だてを失いました・・・巫女としての力もそうですが、姫様と歳と血が近い者は、もう神境にはいません」

霞「・・・そう、それで私の所にきたというわけね」

巴「・・・すみません」

霞「巴ちゃんが謝る事じゃないわ。祖母上様達の言いつけで来たのでしょう? 自ら追い出した者に頭を下げに来ない所は、面目を守りたがるあの人達のやりそうな事だわ」

巴「・・・はい、『明星が失敗したのなら霞を呼び戻せ。自分の意志で戻らぬようなら、手段は選ぶな』と」

巴「そして、霞さんを使う儀式は、明星ちゃんの時とは違って、完全に人柱(ひとばしら)として扱うと言っておりました。制御できぬようなら・・・」

霞「・・・その場で殺す、または生きたまま封印され、この体が恐ろしいモノの入れ物となるわけね?」


霞「そしてそれすらも失敗したのなら・・・あの人達は小蒔ちゃんも切り捨てようと言うのでしょう?」

巴「う・・・そうです。まだ若い方ばかりですが、神代当家は次の姫巫女の選出も考えている様子です」

巴「それを聞いた時、私はあの方々が信じられなくなりました。そして今までに受けた教えの全ても・・・」

巴「私は使い捨てでも別にいい、姫様の為ならばと・・・そして姫様だけはそんな扱いはされないと、そう思っていたのに」

霞「巴ちゃん・・・」

霞「・・・本当に変わらないわ。いえ、ずっとそうしてきたから、きっと変わり方が分からないのね、あの家は」

巴「・・・」

霞「いいわ、戻りましょう神境に・・・」

巴「!?」


巴「い、いいんですか!? そんな簡単に決めて」

霞「いいも悪いもないわ。小蒔ちゃんが大変な時に、私が何もしないでどうするの?」

巴「でも・・・少なくとも霞さんは無事で済むはずないのに」

霞「巴ちゃんも今言ったじゃない、自分は使い捨てでもいいって。私もそのつもり」

巴「霞さん・・・」

霞「理由はどうあれ、神境を出てからのこの六年、大変な事もあったけど自分の時間を過ごす事ができたわ。その時間を、私はいつか小蒔ちゃんに返さないとって思っていたもの」

霞「小蒔ちゃんはずっと、この世の多くの人の代わりに自分を犠牲にして姫巫女として生きてきた。その小蒔ちゃんの代わりを私は務めてあげたいの、心から」

巴「・・・」

霞の想いに敬服したのか、巴は自然とこうべを垂れていた

いや、それどころか床に手をついていた


霞「ちょ、巴ちゃん!?」

巴「今の私には・・・これくらいしか誠意を見せられる方法がありません、ごめんなさい」ドゲザア

霞「土下座はやめて! いいから、本当に!」

巴「でも」

霞「いいから顔をあげて? ね?」

巴「はい・・・」

霞「大丈夫だから。それより私は、巴ちゃんが小蒔ちゃんの事を、当家よりも一番に考えていてくれる事がとても嬉しいの。だから、大丈夫・・・」

巴「霞さん・・・」ツー

霞「涙を拭いて巴ちゃん。貴方はこれまでのように、小蒔ちゃんを一番に見ていてあげてね」

巴「はい・・・」



巴「・・・では、私は一旦神境に戻ります」

霞「私もすぐ一緒に行った方がいいかしら?」

巴「いえ、儀式の準備もありますし・・・突然の事で、霞さんも整理したい事などあるでしょうから、一週間ほど猶予は貰えるように祖母上様に話してみます」

霞「・・・一週間もいいの? 小蒔ちゃんは大丈夫?」

巴「今は落ち着いていますし、私が傍に常に連れ添って、いつでも鎮められるように尽力します」

霞「そう、ありがとう巴ちゃん」

巴「それはこちらのセリフです・・・では霞さんの準備が終わりましたら連絡をください、迎えの者を寄越しますので」

霞「分かったわ」

巴「では・・・」


そう言って巴はもう一度だけ霞に深く頭を下げ店を出て行った




霞(さてと・・・大変な事になったわね)

霞(巴ちゃんの言った整理とは、身辺整理の事ね・・・きっともう戻ってこられないだろうから)

ハギヨシ「霞さん」

霞「あ、店長」

霞(そうだ、まずお店を辞めなくちゃいけないから、ちゃんとお話ししておかないと)

ハギヨシ「申し上げにくいことなんですが、霞さん・・・貴方を解雇しなければいけません」

霞「え?」

霞(いきなり何故? 辞める話をする手間は省けたけど・・・)

揺杏「カスセンまじパネェっす・・・復帰一日目にいきなりお客さんに土下座させて泣かせるとか、痺れる通り越してドン引きですわマジ」

霞「」

ハギヨシ「そういう事です、いままでありがとうございました」

霞「・・・はい」


事情を知らない周囲に誤解を与えてしまった結果、話せるはずもない理由を誤魔化す手間が省けた事を良かったと思うか悪かったと思うか、霞はとても複雑な心境だった

そしてその店には、泣いてる客を裸にして土下座させたキャストがいたらしいという、少し誇張されたレジェンドが残る事になった



――次の日・霞宅――


霞「・・・」モグモグ

咲「・・・」モグモグ

咲(今日は霞さんの様子がおかしい気がする・・・)

咲(国際選抜の復帰が決まったことを報告しようと思ったけど、そんな空気じゃない気がする)

咲(昨日、お店で何かあったのかな?)

咲「・・・」モグモグゴクン

霞「・・・」モグモグ

咲「ごちそうさまでした」

霞「・・・!? あ、はいお粗末様でした」


咲「どうしたんですか霞さん?」

霞「え? 何がかしら?」ビクッ

咲「何か様子が変でしたけど、考え事ですか?」

霞「い、いえそんな事ないわ。いつも通りよ」アセアセ

咲「?」

咲(やっぱり、何かあった感じだけど・・・でも話せない事もあるだろうし、追求しすぎるのもよくないよね)


霞「ねえ、咲ちゃん・・・次の休みの日っていつ?」

咲「休みですか? えーと・・・明々後日が一日オフです」

霞「・・・そう」

咲「?」

霞「その・・・良かったらその日、私と一緒にお出かけしてくれないかしら?」

咲「え?」

霞「ダメ?」

咲「だ、だめじゃないですよ。けど、どうしたんですか?」

霞「・・・咲ちゃんとお出かけしてみたくて。それと、どうしても一度行ってみたかったところがあるの」

咲「う・・・」

咲(やっぱり何か様子がおかしい気がするけど、でもせっかく霞さんが誘ってくれてるんだから無下にはしたくないな)


霞「やっぱり・・・ダメ?」

咲「いいえ、何も予定が無かったので嬉しいです。行きましょうか」

霞「――うん、やった!」パアア

咲(あ、かわいい)



――約束の日・動物園――


咲(意外・・・霞さんの行ってみたい場所って動物園だったんだ)

タッタッタッタ

霞「お待たせ咲ちゃん!」ハアハア

咲「おはようございます霞さん」

霞「遅れてごめんなさい、待ったでしょう?」

咲「いいえ、今来たばかりです」

霞「ほんと? 怒ってない?」

咲「そんな事で怒らないです。さあ入りましょうか」

霞「うん・・・あれ?」

咲「どうしました?」

霞「咲ちゃんの向かおうとしてる方、入口と真逆よ?」

咲「」


――動物園・入口広場――


咲(動物園か・・・来たのっていつ以来だろう?)

咲(平日の昼だからか、あんまり他に人はいないみたい)キョロキョロ

咲(ゆっくりみれて良さそうだけど・・・よくよく考えたら大人二人で動物園って、けっこう恥ずかしいかも・・・)

霞「あれ、咲ちゃんどうしたの? 顔が赤いわ、もしかして風邪?」

咲「え? あ、これは大丈夫です。そういうのじゃないです」

霞「そう? ならいいけど」


咲「・・・」

霞「あ、そうだ。はい、咲ちゃん」スッ

咲「手?」

ギュッ

咲「!?」

霞「はぐれないように手を繋いでいきましょうか」

咲「は、はい」カアアア

咲(・・・恥ずかしさが二倍になりました)

咲(でも・・・たまにはいいかな、こういうのも)


動物園の様子はダイジェスト気味でお送りします


――像――

パオーン

霞「鼻が長いわねー(小学生並みの感想)」

咲「鼻が長いですねー(小学生並みの感想)」

――キリン――

ムシャムシャ

咲「見てください霞さん! 私の出した葉っぱ食べてくれてる!」

霞「私も! 私もやりたいわ!」キャッキャ


――バイソン――

ノッシノッシ

霞「彼はきっと強いわ(確信)」

咲「え?」


――乗馬体験――

カッポカッポ

霞「見て咲ちゃん! 乗ってるわ、馬に!(倒置法)」ユッサユッサ

咲(霞さん! 飼育員さん達の視線が、馬が歩くたびに揺れる胸に釘付けですよ! 言えないけど)


――羊――

モフモフ

霞「癒されるわねー」モフモフ

咲「癒されますねー」モフモフ


そんな感じで霞と咲の二人は園内をほとんど回り終えた

――休憩所――


霞「ふう、色々回ったし休憩しましょうか」

咲「そうですね」

霞「少しはしゃぎ過ぎたかしら? ごめんなさいね咲ちゃん、連れまわしてしまって」

咲「そんな事ないですよ、私も色々見れて楽しいです。こういう所、なかなか来る機会はありませんから」

霞「うふふ、それならよかった」

咲「あ、でも、どうして動物園だったんです? 霞さんのイメージからは想像できなかったんですけど」


霞「・・・そうねえ、ずっと憧れだった場所だから」

咲「憧れ?」

霞「うん、子供の時からずっとね、屋久島は山ばかりだったし、神境に入ってからも行く機会が無かったから。私にとっては動物園や遊園地は憧れで、夢みたいなものだったの」

咲「そうだったんですか・・・」

霞「それに、たぶん一人じゃ来れなかったわ。一人でここにきたら、私の場合だときっと寂しさの方が勝っていたと思うもの」

霞「だからこうして楽しめているのは全部咲ちゃんのおかげよ、本当にありがとう」

咲「霞さん・・・そんな、私も楽しい休日を過ごせてますし、おあいこですよ」テレテレ

霞「咲ちゃん・・・」


咲「そうだ、休憩がてらアレに乗ってみませんか?」

霞「アレ?」

咲の指差した方には、動物園の中心にそびえる観覧車があった

咲「さっき通りがかった時に乗りたそうな顔してましたよ?」

霞「・・・もう、本当に目聡いんだから。でもいいの?」

咲「遠慮なんて今更ですよ! さあ、行きましょう」タッ

霞「うん・・・あ、でも待って咲ちゃん」スタップ

咲「?」

霞「そっちは、逆方向よ」

咲「」


――観覧車――


霞「すごいわこの観覧車、上から園内が全部見下ろせるようになってるのね。考えた人はきっと天才ね」

咲「ふふふ、大袈裟ですよ」

霞「あ・・・夕日」

咲「本当だ、綺麗ですね」

霞「もう、そんな時間が経っていたのね・・・」

咲「あっという間でしたね」

霞「・・・」

咲「・・・」

霞(不思議・・・咲ちゃんといると、時々なんでも伝わりなんでも伝わってくるように感じる)

霞(まるで、深い部分で繋がっているみたいに・・・)

霞(でもそれに甘えていたらダメよね、ちゃんと言葉にしないと全部は伝わらない・・・)


霞「咲ちゃん」

咲「はい?」

霞「・・・」

咲「・・・?」

霞「また、一緒に来てくれる?」

咲「うん、勿論です」

霞「うん、良かった・・・」

霞(やっぱりもう少し。もう少しだけ甘えさせて)


――動物園・入口広場――

ピンポンパンポーーン

アナウンス『まもなく閉園となります園内にお残りのお客様は・・・』


霞「あらあら、もう出ないといけないわね」

咲「そうですね。でもその前に、ちょっとだけそこの売店に寄ってもいいですか?」

霞「売店? お土産でも買うの?」

咲「はい、そんな感じです」


――売店――


咲「霞さん、このキーホルダーどうですか?」

霞「あら、動物のキーホルダーなのね、それすごく可愛いわ」

咲「でも他のも可愛いから、こういう時選ぶのが悩ましいですね」ムムム

霞(咲ちゃん、あんなに真剣に選んでる。きっとそれだけ大切な人へのお土産なのね)

霞「そう言えば咲ちゃん、キーホルダーといえばいつもつけているのがあったわよね。それは誰かからのお土産?」

咲「あ、これは・・・高一の麻雀の合同合宿の時に神社にお参りをしたんですが、その時に和ちゃんから貰ったんです」

咲「でも貰ったというよりは交換ですね。私も自分が買ったものを和ちゃんにあげて・・・確かその時からです、私達が名前で呼び合うようになったのも」


霞「そう・・・そうなの。じゃあ二人にとっては、そのキーホルダーが友情の証みたいなものなのね?」

咲「そう言われると、何だか照れちゃいますけど」エヘヘ

霞(じゃあ、きっと今選んでいるものも・・・原村和ちゃんにあげるものなのね)

咲「決まりました! 霞さん!」

霞「?」

咲「これ、よかったら貰ってください」スッ

霞「!?」

咲「霞さん風に言うなら友情の証しです・・・ダメですか?」

霞「咲ちゃん・・・本当に私に?」

咲「うん、また一緒に来る約束もしましたし、忘れないようにという意味も込めて・・・」

霞「咲ちゃん・・・嬉しい」


霞「私からも貰ってくれる?」

咲「はい、大事にします」

霞「うん、私も・・・死ぬまで肌身離さず持っているわ」

咲「ふふ、大袈裟ですってば」

霞「そうね・・・でも本当に嬉しい」

咲「霞さん?」

霞「・・・・・・私達も名前で呼び合う事にしましょうか?」

咲「何を言ってるんですか、最初からそうじゃないですか」

霞「そうね、うふふ・・・私、何を言ってるのかしら・・・忘れて頂戴」

霞(危ないわ、冗談で誤魔化さなければ泣きそうだった・・・)


グーー


咲「あ・・・」

霞「お腹の虫が鳴いちゃったわね。ねえ咲ちゃん、良かったら今から家に来ない? 今日のお礼に御馳走を用意するわ」

咲「やった、霞さんの料理はおいしいから嬉しいです」

霞「ええ、腕によりをかけるわ」



――霞宅――


食事も終わり、夜も遅くなったので咲は霞の家に泊まる事になった

霞がぎっくり腰で動けなくなった時も、何度か咲は泊まっていたので、二人の中では当然の流れであった


霞「じゃあ、電気を消すわね」

咲「はい」

パチン


咲「・・・」

霞「・・・」

咲「・・・」

霞「・・・」

咲「・・・」

霞「ねえ、咲ちゃん」


咲「どうしました?」

霞「咲ちゃんの布団に一緒に入ってもいい?」

咲「ふえッ!?」

咲「い、いきなりどうしたんですか?(変な声出ちゃったよ)」

霞「じゃあお邪魔しますね」ガサゴソ

咲「良いって言ってませんよ!?」

霞「嫌なら出るわ、ごめんなさい」

咲「・・・い、嫌とも言ってないです。解りました、どうぞ入ってください」

霞「うん、ありがとう」


咲「・・・」フイッ

霞「咲ちゃん、どうしてそっぽ向くの?」

咲「それは・・・二人で寝る時はこうして背中を合わせれば、温かいんです」

咲(本当は近すぎて恥ずかしいからだけど)

霞「本当?」ピト

咲「!?」ビクッ

霞「あ、本当だわ、咲ちゃんの背中、とても暖かい」

咲「・・・霞さんの背中は冷たいですね」

霞「うん、体温が低いの、家系的なものかしら・・・死人みたいって言われた事もあるわ」

咲「そんな酷い言い方で?」

霞「それも家系的なものせいかしら・・・あ、それより咲ちゃんちょっとベランダの方見てみて」


咲「ベランダ?」

咲「あ、月が出てる・・・満月ですね」

霞「ええ、今日は月が綺麗ね」

咲「ですね」

霞「今日は月が綺麗ね」

咲「なんで繰り返したんですか?」

霞「・・・どうしても言っておきたかったから」

咲「・・・」


――数分後――


霞「ねえ咲ちゃん・・・まだ起きてる?」

咲「・・・スピー」zzz

霞「・・・寝ちゃったのね」

霞(結局・・・伝えられなかった。伝える機会はいっぱいあったのに、ダメね私)

霞「ねえ咲ちゃん、私が前に神境を出た理由を話した時の事、覚えてる?」

咲「・・・」zzz

霞「私はあの時誰かの代わりじゃない生き方をしたかったからと言ったけど、本当は半分だけの本当なの」

咲「・・・」zzz

霞「私は、私以外の皆にも、誰かの代わりじゃない生き方をしてもらいたかった」


霞(小蒔ちゃんにも、初美ちゃんにも、明星ちゃんにも、巴ちゃんにも、春ちゃんにも、湧ちゃんにも・・・みんなみんなしきたりや家に縛られず、自分の望む生き方をしてもらいたかった)

咲「・・・」zzz

霞「・・・結局私は何も変えられず、一人だけ神境を出る事になったけど、それでもまだその時の想いが残ってる」

咲「・・・」zzz

霞「だから私は神境に戻るわ・・・私がいなくなっても。今ならその想いを巴ちゃん達が継いでくれて、いつか変わる時がくるかもしれない」

咲「・・・」zzz

霞(それに異変の影響が出やすいのは、咲ちゃんのような強い能力を持つ人達・・・私が小蒔ちゃんの身代わりとなってそれが収まれば、悪い影響も出ない)

霞「さようなら咲ちゃん・・・大切な思い出をありがとう」

霞「そして・・・本当にごめんなさい」


――翌朝――

アガッテンナーウォウウォウ アガッテンゾーイェイイェイ

咲(ん? ・・・朝?)

目覚ましのアラーム音で目をさまし、身を起こす咲

咲(えっと、霞さんの家に泊まって・・・そうだ、お布団畳まなきゃ)

咲「あれ? 霞さん・・・?」

しかし一緒の布団で寝ていたはずの、霞の姿がないことに咲は気付き、周囲を見回す

すると、枕元に一通の手紙が残されているのを目にした

咲「そんな・・・霞さん・・・どうして・・・」

咲の中にも予感はあった

霞の発する言葉の端々にもその予兆はあった

だが咲は信じていた、霞がいなくなるはずがないと、だから何も聞かずに共に過ごした


しかし手紙の一文目に書かれた『さようなら咲ちゃん』という言葉は、明らかな別れを告げているものだった

今日はここまでっす
そして次の投下で完結する予定です
今回溜めた鬱憤は全部次回で晴れるはずなのでコメディとタイトル詐欺にならないように燃え尽きようと思います


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――次の日――


霞がいなくなって24時間が経過した

その間ずっと、咲は待っていた

霞が残した手紙を握りしめ、それが何かの冗談である事を信じて、ずっと霞と過ごした部屋で待っていた

しかし霞は戻っては来なかった

不意だったはずの別れは、一晩で現実のものとして咲に突きつけられていた


咲(霞さん・・・霞さんがいなくなって、この部屋がとても広く感じるようになったよ)

咲(・・・とても寂しいよ)


霞の残した手紙には、別れの言葉と共にもう二度と会えないであろう、という事が遠回しに書かれてあった


咲(私・・・これからずっと、この寂しさを忘れずに生きていかなくちゃいけないの?)

咲(そんなの嫌だよ・・・)

咲(霞さん・・・せめてもう一度、会いたい)

ガラガラ

咲「!?」

その時ベランダの戸が開く音がした

ふさぎ込んでいた咲も、その音に反応して顔をあげる

もしかしたら・・・そんな思いが可能性を期待させた

咲「霞さん?」

和「もう一歩踏み出せるぅーわたーし待ってたよー♪」ニュースパークス

咲「」


和「絶対ゆっずっれない この時をまーってたよー」キミトチャンスチャンスツカモー

咲「待ってないよ・・・何しに来たの和ちゃん?(半ギレ)」

和「咲さんが落ち込んでいるのを察知して、こうして慰めに来ました」

咲「確かに落ち込んでるけど・・・ところでどうして和ちゃんはベランダに干してあった布団を抱えてるの?」

和「咲さんの香りがしたからです!」クンカクンカスーハー

咲「もう少し和ちゃんはブレても良いと思うよ・・・」


和「そのツッコミのキレのなさ・・・本当に落ち込んでいるんですね、咲さん・・・」シミジミ

咲「・・・私の状態をツッコミのキレで判断するのやめてよ」

和「さあ、咲さん元気出して下さい。和のここ、空いてますよ? 辛いなら私の胸で泣いてください」

咲「・・・いい」

和「遠慮せず」ポムポム

咲「ごめん・・・今は本当にいい。それに今は誰とも話せる気分じゃないし・・・八つ当たりで嫌な事を言っちゃいそうだから、お願い、出て行って」

和「咲さん・・・」

咲「・・・」

和「本当に・・・辛いんですね、石戸さんとお別れしたのが」

咲「・・・」


和「好きなんですか? 石戸さんの事」

咲「・・・・・・分からないよ」

和「分からないんですか? 自分の気持ちなのに?」

咲「・・・分からない」

和「本当に?」

咲「・・・」

咲「・・・分からないよ、何もかも」

咲「私がここまで落ち込む理由も、この胸のつかえも、喪失感も・・・」

咲「どうしてこんなに辛いのか分からないよ・・・霞さんとはちゃんと知り合ってから、そんなに長い時間を過ごした訳じゃないのに・・・」

和「・・・」

咲「私、どうすればよかったの・・・これからどうすればいいの・・・なにも分からないよ」

和「咲さん・・・」


和「とりあえず笑えばいいと思いますよ?」

咲「え?」

和「咲さんが望む、笑顔になれる未来を想像してください。そうすればおのずと、自分がどうすべきかどうか見えてくるはずです」

咲「私の・・・望む未来」

和「確かに咲さんは、石戸さんと知り合ってから、そんなに長い時間を過ごした訳じゃありません・・・」

和「でも、人が人を好きになるのに時間は関係ない・・・一瞬あれば済む事なんです」

咲「・・・」

和「もう一度聞きます。咲さんは石戸さんの事をどう思っているんですか?」

咲「・・・すき」

和「もう会えないって言われたからって、諦める事ができるんですか?」

咲「できない」

和「じゃあ、どうするんですか?」

咲「うん・・・和ちゃんの言いたいことが分かったよ。待ってたら駄目なんだ・・・」

咲「本当にすきなら、待ってないで自分から会いに行かなくちゃ」

咲「そして伝えなきゃ・・・私の気持ちを」

和「ええ、よくできました」


咲「和ちゃん・・・励ましてくれてありがとう」

咲「・・・でも本当は、あなた誰? 和ちゃんと似てるけど、ちょっと違う感じがするよ。前に現れた偽物さん?」

和「ふふ、和であってますよ・・・ただし原村ではありませんが」

和「私は青山和・・・すべての時にたゆたう者です」

咲「え?」

和「今は原村和の肉体を借りていますが、本来の私はこことは別に次元に存在しています」

咲「あ・・・そうなんですか」

咲(なんだろう・・・全然意味わからない事言われているのに、何かしっくりくるこの感じ・・・)

和「分からなくても、咲さんなら感じられるはずです。そしてだからこそ、私は貴方の前に現れました」

和「咲さんの能力の本質は、人と深くつながる事。姉の言葉で嶺上開花で和了できるようになったように、周りと同調してプラマイゼロにできるように・・・」

和「違う次元の存在である私ともつながりを持つ事ができる」


咲「・・・なるほど(わかったような、わからないような)」

和「ふふ、私の事はわからなくても構いません。それより咲さんに今必要なのはもっと別の事・・・私はこの体の本来の持ち主である原村和に、それを託されてここに来ました」


そう言って和は咲に向かって手を伸ばした


咲「え、ちょっと和ちゃん、何をするの?」

和「貴方の中に眠っている力を引き出します。のどっちのような潜在能力の封印と解放、それが私、青山和の能力です」ススス

咲「ま、待って近い、近い」

和「石戸霞は霧島神境にいます、麻雀しか取り柄のない今の咲さんでは、向かっても門前払いでつまみ出されるのがオチです。だから少しだけ我慢しててください」ズイッ

咲「なにげに言い分が酷いよ! あと近い!」


和「すみません、異能のバランスが崩れているとはいえ、この世界に私が干渉できる時間は限られています・・・心の準備のあるなしは待ってあげられません」

咲「え、ええー」

和「さあ、咲さん・・・輝いて ここ一番! 自分の直感を信じて! 受け取って下さい私からのミラクルラッシュ!」


パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


咲(え、本当に・・・なにこれ)

咲(体の隅々まで何かが溢れてくる・・・でも嫌な感じしない、それどころか本当の私をようやく取り戻したかのような気分)

和(すごい・・・これは士栗や、あの運命奏者よりも上かもしれない)

和(宿主の原村和の願いとはいえ、ひょっとしたら私はとんでもないモノを呼び起こしてしまったのかもしれない・・・)

和(ですが・・・私ができるのはここまで、その力で何を成すのか、それは貴方次第です咲さん)


――おはようございます咲さん


咲「・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴ



宮永咲――覚醒

――アイキャッチ――

http://i.imgur.com/oAvbk5O.jpg


―― CM ――


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青山和も大活躍!(大嘘)


――アイキャッチ――

http://i.imgur.com/yyAWkrE.jpg?1


――霧島神境・座敷牢――


霞(・・・)

霞(神境に戻ってから、今日で三日目かしら?)

霞(牢の中は日の光が入ってこないから、時間の感覚がつかみにくいわね。でも運んできてくれる食事の時間は同じはずだから、きっとそのくらいね)

霞(そうすると、儀式の時間はまもなく・・・なのかしら)

霞(食事と言えば・・・咲ちゃん、ちゃんとご飯食べてるかしら?)


霞は神境に戻ってきてすぐ、日も差さぬ座敷牢に幽閉されていた

決して逃げ出せぬよう外部との接触も断たれ、厳重に管理される立場にある


霞(小蒔ちゃんの様子も見ておきたかったけど、この分だと儀式の時まで出してもらえそうになさそうね)

霞(・・・そしてその時が、私の最期かしら)


カツンカツン


霞(あら、足音? 誰か来たのかしら・・・食事はさっき運んでこられたばかりなのにおかしいわね・・・)

初美「あわわ、まっくらですよー。霞ちゃーん、ここにいるんですかー?」

霞「初美ちゃん!?」


初美「あ、いましたねー」

霞「どうしてここに? 立ち入りを許されたの?」

初美「いいえー、イジワルオババ共は許してくれなかったので、私が勝手にきたんですよー」

霞「そんな・・・ダメじゃない。見つかったら大変でしょ」

初美「ちょっとくらい大丈夫ですよー。霞ちゃんはお堅いですねー」

霞「もう、人の気も知らないで」


初美「ふっふっふ、それにしても災難ですねー、せっかく帰ってきたのにいきなりブタ箱入りなんて」

霞「私はいいのよ、どんな扱いをされるのかは、巴ちゃんから話を聞いた時点で解っていたことだから」

初美「霞ちゃんは牛なんだからブタ箱はおかしいって、オババに抗議はしたんですけどねー」

霞「・・・それはどうもありがとう。せっかく来たんだから初美ちゃんもそこの隙間から入ってかない?」

初美「そんな小さくないですようー! あ、ひ、引っ張り込もうとしないでくださーい! 頭! 頭が嵌っちゃう!」ミチミチグイイイイイイイ

霞「ふう・・・もう、いつまでも子供みたいな事を言ってるんだから」

初美「うう、これでもオブラートに包んでいるのにー」メソメソ


初美「それよりも、幼馴染がせっかく会いに来たんだから、霞ちゃんももっと歓迎してくれてもいいじゃないですかー」

霞「・・・・・・歓迎なんてできるわけないじゃない。どっちにしても、すぐにお別れなのに」

初美「霞ちゃん・・・」

霞「戻ってくる前、外の友達とお別れする時も・・・どんな顔をして、どんな事を言えばいいのか分からなくて、結局手紙だけ残してきちゃった」

初美「・・・私にもそうする気だったんですか?」

霞「そうね・・・でも、ここには書く物がないから壁に血文字になったかもしれないわね」

初美「そんな呪いみたいな方法でお別れされるなんて、嫌すぎますよー」


初美「そんなに辛くなるなら戻ってこなければ良かったのに、馬鹿ですねー」

霞「そうね・・・」

初美「今だって、本当は出たいんじゃないですか?」

霞「・・・」

初美「霞ちゃん、なんだったら私がそこから出してあげますよ?」

霞「え?」

初美「神境は儀式の準備で人が駆り出されてますし、神宮の方も閉めるわけにはいかないから、逃げるならいましかないです」

霞「初美ちゃん・・・ダメよ、小蒔ちゃんはどうするの?」

初美「姫様は、私がなんとかしますよー」

霞「なんとかって・・・そんな簡単じゃないでしょ?」


初美「簡単じゃなくても、それでもなんとかします。姫様も霞ちゃんも、私にとっては大事な存在なんです、どっちかなんて選べるわけないです! そんなの!」

霞「それは違うわ。選ぶ必要はないし、初美ちゃんが何かする必要もない。犠牲になるのは私・・・もう決まった事なの」

初美「霞ちゃん・・・」

霞「初美ちゃんの気持ちは嬉しいけど、でもだからといってそれに甘えるわけにはいかない・・・私はもう、初美ちゃんの後ろをついて行くだけの自分をとっくに卒業したの」

初美「でも・・・置いていかなくてもいいじゃないですかー」グス

霞「あらあら、初美ちゃんは置いて行ったじゃない? 七つの時に」

初美「う、神境に入った時の事ですかー、そんな昔の事根に持ってたんですねー・・・」

霞「あの時ほど寂しくて、自分の未熟さを嘆いた事はなかったもの」


初美「だからって、霞ちゃんは急いで大人になりすぎですよー・・・色々追い抜かれる方の身にもなってくださいー」グス

霞「ふふ、今の私が大人になれた結果だとしたら・・・思っていたよりも大人になるのって悲しい事ばかりじゃなかったわ」

霞「子供の私じゃ叶えられなかった夢を叶える事ができた・・・ずっと行ってみたかった動物園にも行ってこれたもの」

初美「・・・そんなのいつだっていけますよー」

霞「いいえ、最初で最後・・・それが輝かしい思い出として私に残っている、それで充分」

霞「だから初美ちゃんは、小蒔ちゃん達ともっといっぱい思い出を作ってあげて。その為に犠牲になれるのなら、私はもうちっともつらくないし、かなしくない」

初美「霞ちゃん・・・」

霞「あんまり巴ちゃんや春ちゃんを困らせたらダメよ? 小蒔ちゃんに甘えるのもダメ、初美ちゃんはお姉さんなんだから」

初美「うっさいですよークソBBA、最後の最後にお説教なんて聞きたくないです」メソメソ

霞「あらあら、ごめんなさい・・・」



カツンカツン


霞「?」

初美「!?」

霞(あら、また誰か来たわ・・・これは)

祖母「む、そこに居るのは誰ですか?」

初美「げぇ! オババ!」

霞「祖母上様・・・」

祖母「初美・・・なぜ貴方がここに居るのです? 立ち入りは禁じていたはずですよ?」

初美「あわわ、それは・・・」

霞「初美ちゃんはただお別れを言いに来てくれただけです。儀式にのぞむ私に心残りが無いようにと・・・」

祖母「・・・・・・本当ですか初美?」

初美「・・・それは」

霞「初美ちゃん」ニコ

初美「・・・霞ちゃん」


初美(あくまでも・・・自分の覚悟は曲げない気なんですねー)

初美「そうですよー。儀式に邪念が入らないようにお別れしたかっただけですよー」

祖母「・・・・・・ふむ、まあいいでしょう。言いつけを守らなかった罰則は後で与えます、とりあえず今は神境の鳥居の外に行きなさい。巴達もそこに向うように言いつけておきます」

初美「え?」

祖母「儀式の準備が整いました。儀式の進行は私と分家の尊老だけで行います。貴方達の斎場への立ち入りは断固禁止します」

初美「そんな・・・あんまりですよー。私達だけハブにするだなんてー」

祖母「お別れは済ませたのでしょう? 問題は無いはずです」ギロッ

初美「う・・・」

祖母「霞も、それでいいですね?」

霞「ええ、構いません。むしろありがたいくらいです」

初美「霞ちゃん・・・」

霞「・・・」ニコッ


霞は初美に笑顔だけ向け、座敷牢の鍵を開けて手招きする祖母の後ろをついて行く

ただ笑って去ったのは、初美にかける言葉がやっぱり見つからなかったから

そして初美もまた、霞にかける言葉はもうなかった


初美(霞ちゃん・・・貴方の覚悟はわかりました。だからもう私はなにも言わないですよー)

初美(でも、私は霞ちゃんを一人にしません・・・もしも儀式で霞ちゃんが命を落とすようなことになれば・・・)

初美(・・・私も一緒に、鬼籍に入ってあげますよー)

初美(その時は、あの世でいっぱい小言を聞いてあげますから・・・)




儀式の時は、もう間もなく迫ろうとしていた

――霧島神境・鳥居――


初美「・・・」

スタスタ

巴「あ、はっちゃん、もう来てたんだ」

初美「んー巴ちゃんにはるるも、二人もオババに追い出されて来たんですかー?」

春「・・・」コクリ

巴「うん、姫様だけは斎場に移動して儀式を始めるみたい・・・」

初美「姫様の様子はどうでしたかー?」

巴「それが、今日は少し調子が悪そうだったの・・・」

春「・・・心配」

巴「そうだね、うちのお爺様がついてくれているけど流石に・・・」


初美「そうだったんですか・・・心配ですね」

巴「でも、私達に出来る事は儀式の成功を祈る事だけ。余計な事は考えずに吉報を待とう」

春「・・・」コクリ


巴「ところではっちゃんの方はどうだったの?」

初美「私ですかー? 何の事でしょう?」

巴「とぼけなくていいよ。霞さんのところ、行ってきたんでしょ?」

初美「ありゃりゃー、ばれてましたか」

巴「うん、霞さんが戻ってきてからずっとソワソワしてたし、今日は朝からいなくなってたから会いに行ったんだと思ったよ」


初美「そうですねー。まあ、私の方はわざわざ話すような事はありませんでしたよー」

巴「ほんとに?」

初美「本当ですよー。せいぜいちょっとフラれたくらいなもんです、いやいやーこれでしっかりと儀式の成功を祈れるってもんですよー」ウンウン

巴「・・・はっちゃん、泣きたかったら泣いてもいいんだよ?」

春「・・・黒糖食べる?」

初美「な、なんですかー二人して気持ち悪い。変な慰めはいらないですよー」


巴「やっぱり霞さんはすごいね」

初美「え? いきなりどうしたんですか巴ちゃん?」

巴「なんとなくね、そう思ったの。さっきすれ違ったけど、笑顔を見せる余裕があるくらい堂々としてて立派だった。儀式に望む苦しさや悲しさはあるはずなのに、それをおくびにも出してなかった」

巴「私じゃ、ああは振る舞えないと思う。霞さんがいなくなってその代わりになろうとした事もあったけど、でも結局それも叶わなかったし・・・」

初美「・・・ハブにされちゃいましたしねー」

巴「うん、まだまだ修行が足りない。そんなんで、今日の事をいつか霞さんに胸を張れる日が来るのかな・・・」

春「・・・だいじょうぶ」

巴「え?」

春「いつか自慢できる日が来る・・・必ず」

巴「春ちゃん・・・うん、そうだね、そうだといいね」

初美「うんうん、じゃあ頼みましたよー」

巴「何を他人事みたいに言ってるの? はっちゃんも一緒にだよ」

初美「いや、私は・・・・・・!?」ピクッ


『ぎゃあああああああああああああああああ!!???』




巴「!?」

春「!?」

初美「!?」

巴「今の悲鳴は何!? 十曽ちゃんの声!?」

初美「神宮の方から聞こえましたよー!!」



キイーーーーーーーーーーーーーン


巴「!?」

初美「!?」

春「!?」


巴「な、なにこの感じ・・・大気が、鳴いている?」

初美「う、うぷ・・・は、吐き気がします。なんですかこの気配・・・」

春「・・・来る」


ペタペタ


突然こだました十曽湧の悲鳴、それに連続するように現れるモノ

霧島神宮と神境を隔てる鳥居、そこへ続く石段を登ってくる邪悪な気配

巴達三人はそれにいち早く気付きながら、しかし緊張で硬直した体を動かせず

自分達の体の感覚が戻った時には、既にその邪悪な気配の持ち主は視界の内まで迫っていた



巴(あれはまさか・・・でも、おかしい、前はここまでの気配じゃなかった)

春(これは・・・人じゃない)


ペタペタと石段を登ってくるのは一人の女性

異界の魔物によって眠れる力を引き出され

引き離された半身を求め、迷い込んだ魔物


ペタペタペタペタ


咲「・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


咲が裸足でやってくる




初美「な、なんですかあれー! こんなプレッシャー、初めてですよー!!」

巴「私に聞かないでよ、でもあれってたぶん宮永咲・・・のはず」

巴(でも振袖に裸足・・・なんでそんな恰好を? それにこの人外めいた波動の正体は何?)

春「・・・あれはたぶん、鬼女・紅葉」

初美「え?」


初美と巴が狼狽する中、鬼界の知識に精通する滝見の家に生まれた春は、咲を見てその身に宿すものの本質を見破った



春「・・・鬼女・紅葉は長野県に伝わる伝説」


子宝に恵まれなかった夫婦が第六天魔王に祈り、子を授かる

その子は魔王の力を宿し、山里を荒らし、その存在は京まで轟き、出陣した兵すら返り討ちにして、降魔の剣によって征伐されるまで混乱を呼ぶことになった


巴「アレが・・・その鬼女だっていうの?」

春「おそらく先祖返り・・・」

巴(そんな・・・だとしても、どうしていまになって急に? 霞さん・・・もしかしてこれは恐ろしいモノを呼び寄せる、石戸の業が成した事なの?)


ペタペタ

咲「・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴ


初美「ひいいい!? あ、あんなのが神境に入っていいんですかー!?」

巴「いいわけないでしょ!! 止まりなさい宮永咲!!」


咲「私に・・・何か用ですか?」ピタッ


巴(ふう、言葉は通じるのね・・・でも油断はできない)

巴「ここから先は霧島神境、参拝は霧島神宮までしか開放されておらず許しが無ければ不法侵入となります、どうかお引き取りを」

初美「そ、そそそうですよー! 帰れ帰れ!」


咲「・・・」ガンリキピシャー


初美「ひっ!?」

巴「はっちゃん、ビビりすぎ・・・弱みを見せちゃダメ」



咲「・・・この先から霞さんを感じます。そこを、どいてください」


巴(やっぱり霞さんを追ってここに? でもこんな魔物が、神境の鳥居を跨ぐなんて見過ごしていいはずない!)

巴「はっちゃん! 春ちゃん! 陣形を組むよ」

初美「や、やるんですか巴ちゃん?」

春「・・・鳳天舞の陣」

巴「うん! 私が中心になる・・・二人は私に力を集中させて。宮永咲、貴方を絶対に通しはしない!」


咲「邪魔をするんですか? それなら・・・」


咲「全部ゴッ倒してここを通ります」ゴゴゴゴゴゴゴゴ



巴「う・・・」ビリビリ

巴(一言一言発する言葉にも大きな力を感じる・・・祝詞でもないのになんなの)

初美「うう、巴ちゃんこれは無茶な相手かもしれませんよー・・・」

春「・・・」カタカタ

巴「いいえ、やってみせる! 私達の修行はこういうモノを相手にする時の為にあったんだから!」


決心をつけた巴は能力を開放する

呼び起こすは、神職の者が本来頼らざるべき力

恐ろしいモノを鎮める力を攻撃に転化させた、狩宿の家に伝わる外法

その名は『鬼道』――


巴「―― 鉄砂の壁 僧形の塔 ――」

巴「――  灼鉄熒熒 ――」

巴「――  湛然として終に音無し ――」


巴「―― 縛道の七十五・五柱鉄貫! ――」


ボボ ボボ ボボ ボボ ボボ ボボ

咲「!?」

巴の鬼道により、地面から隆起した五つの柱

鉄の鎖に繋がれたそれらは咲を囲み、その五体を封印する

初美「やりましたか!?」

巴「うん、これを受けて動けるモノはそういない。キンクリさえされなければ私だってこのくらいの活躍は・・・」

春「・・・だめ」カタカタ

巴「え?」

ミシ ピシピシ ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアン


初美「!?」

巴「!?」

鬼道によって生み出された五つの柱は突然崩れ砕けた

その中からは平然と、咲が歩み出てくる

巴「そんな全く通用しないなんて、そんなはずは・・・」


咲「・・・もう、いいですか?」ゴゴゴゴゴゴゴ


初美「巴ちゃん!!」

巴「いや、だったら何度でも! ―― 鉄砂の壁 僧形の塔・・・」


咲「遅い ―― 縛道の七十五・五柱鉄貫 ――」ドーン


巴「そ、そんな!? 詠唱破棄!? いや、それよりもどうしてお前が狩宿の鬼道を!?」



咲「残念ですけど、ここはもう貴方のテリトリーじゃない・・・」


巴「ば、化け物・・・はっちゃん、春ちゃん、逃げて・・・」

ズズーーーーーン

巴が先ほど生み出した五つの柱、咲はそれと同じものを生み出し

巴は驚愕の中、その柱によって封印された


初美「あ、あわわ・・・」カタカタ

春「やはり通じなかった・・・第六天魔王の住処は他化自在天」ボソ

春「・・・そこで生まれた者は、『他の変現する楽事をかけて自由に己が悦楽とする』といわれてる・・・」ボソ


鬼女・紅葉は第六天魔王によって他化自在天で生まれたモノ

宮永咲が鬼女・紅葉の先祖返りならば、その本質もまた同じ

『麻雀ってたのしいよね』そう言っていた宮永咲の本質が、他化自在天の『他の変現する楽事をかけて自由に己が悦楽とする』という事からきていたなどと、この時まで誰も気付きようも無かった



初美「つまりそれって・・・巴ちゃんの鬼道も、私の鬼門も、はるるの鬼界も通用しないってことですかー!?」

春「・・・」コクリ

初美「そ、そんなー」


咲「もう二度と牌を持てなくなってもいい・・・そういう覚悟で私はここに来ました」

咲「化け物と呼ばれても、鬼になり果てても、もう一度・・・霞さんに逢うまで止まりません」

咲「―― 破道の九十・黒棺 ――」ゴオオオオオオオオオオオオオオオ

初美「」

春「」


初美も春も、巴と同じくなすすべなく

第六天魔王の力を存分に発揮した咲によって、その場に崩れた


すいません次で終わると大見得切っておきながら、今日はここまでっす。思ったより長くなったので一旦投下しました
次の投下で今度こそ完結する予定です(希望的観測で一週間)

なんでも許せる人レベルが今回で爆上がりしましたが、もう少しだけお付き合いいただけるとありがたいです

――霧島神境・斎場――


『  天清浄 地清浄 内外清浄 六根清浄と 祓給う  』

『  天清浄とは 天の七曜九曜 二十八宿を清め  』

『  地清浄とは 地の神三十六神を 清め   』

『  内外清浄とは 家内三寳大荒神を 清め   』

『  六根清浄とは 其身其體の穢れを 祓給 清め給ふ事の由を 八百万の神等 諸共に  』

『  小男鹿の 八の御耳を 振立て聞し食と申す  』


厳粛であった斎場の中、祝詞(のりと)を唱える声が響いている

神代の分家――石戸、薄墨、滝見、狩宿、十曽、それらに連なる者達が集まり

あらゆる物事を祓い清める『天地一切清浄祓(てんちいっさいしょうじょうばらい)』によりてこれから始まる儀式の成功を祈る

そして円を描くようにして祝詞を唱える者達の中心には二人

神代小蒔と石戸霞が向かい合っていた



小蒔「・・・カ・・・・・・カスミ・・・チャン?」

霞「うん、そうよ小蒔ちゃん。私の事、ちゃんと分かる?」

小蒔「ワカ・・・ル・・・・・・」

霞(小蒔ちゃん・・・意識が朦朧としているみたい。辛そう・・・憑りついたものに抗っているのね)

祖母「さあ霞、準備は整いました・・・始めなさい」

霞「はい、祖母上様」

小蒔「・・・ナニヲイッテ・・・・・・・・・カスミチャン・・・マサカ」

霞「もう大丈夫だから、楽にしていてね小蒔ちゃん。もう、眠っていいのよ」

小蒔「・・・ダメ・・・ソレハダメ・・・・・・カスミチャン」

霞「辛かったでしょう、今まで・・・でも、もう苦しい思いは私がさせないから」

そう言って霞は、小蒔を抱きしめた

小蒔がその身に宿したモノを引き受ける為に、体を重ねあわせる


小蒔「カスミ・・・霞ちゃん!!」

霞「貴方を苦しめるものは私が連れて行く、さようなら小蒔ちゃん」

小蒔「い、いや・・・いやああああああああああ」

霞(これで良かった、これでいいのよ・・・)

霞(私は小蒔ちゃんのアマガツなのだから)

小蒔に憑りついた恐ろしいモノが、霞の体に乗り移っていく

体の芯に巣食い、身も心も侵し尽くそうとする意志

それに抗う為に、霞は自ら死を選ぶ

人柱となるその任を全うするために、恐ろしいモノと共に心を閉ざして精神の消滅を選ぶ

それが恐ろしいモノを外に出さぬための石戸の秘呪、天岩戸(あまのいわと)



霞(五感が失われていくのがわかる・・・こうして、なにもかも失われ・・・そして死ぬ。ああ、それは・・・なんて、孤独)

霞(でも・・・どうして? もう何も見えない、何も聞こえない、何も感じないのに・・・どうしてこんなに近くに感じるの・・・咲ちゃん)


最後の最後に咲の存在を感じながら、霞は静かにその場で事切れた




――霧島神境・斎場へ向かう通路――


那岐「―― 鬼に逢うては鬼を斬る 魔物に逢うては魔物を斬る ――」

那岐「―― ツルギの理、此処に在り! ――」

那岐「新免那岐――抜刀! エイヤーーーーーーーー!!」シャキーン

       |
   \  __  /
   _ (m) _ピコーン
      |ミ|
   /  .`´  \
咲「パリイ」


ペシン

那岐「!?」

那岐(馬鹿な、この者・・・素手で真剣を弾いただと!? 恐れは無いのか!?)


咲「―― 獅子には肉を 狗には骨を 龍には無垢なる魂を ――」

咲「―― 今宵の虎徹は血に飢えている ――」シャキーン

那岐「な!? なぜ貴様が新免の技を!? ぎゃあああああああああああ・・・」ドサッ






咲(ふう・・・今のでここにいた警備の人は最後かな)

咲(帯刀した人までいるなんて・・・あの和ちゃんの言った通り、いつもの私なら社の中に入る事すら無理だったよ。感謝しないとね)

咲(でも、霞さんの気配を追ってここまで来たけれど。おかしい・・・さっきから霞さんが感じられなくなった・・・)

咲(まさか・・・)

嫌な予感がする

その逸る気持ちが抑えられず、咲は走り出す


トットットットットット


咲(ん、ここ・・・大勢の人の気配がする。ここに居るの?)

咲は通路の先にあった部屋に人の気配を感じて、そのまま迷いなく戸を開ける


祖母「む・・・妙な気配がすると思っていましたが、これはまた奇怪なモノが紛れ込んだようですね」

ジロジロ

咲「・・・!?」

そこは霧島神境の斎場

異分子である咲の存在を見咎めるように、そこに集っていた者達の視線が集まる


祖母「せっかく姫様が久方ぶりの穏やかな眠りにつかれたのに・・・巴達は何をやっていたのです」

咲「あ・・・あれは・・・」

だが咲は、その場にいる者達からの無遠慮な視線にも、明確な敵意にも一切の関心を抱かず、ただ目の先にあった一人の女性の姿だけに注目していた

そう、そこに打ち捨てられたように横たわった霞の姿だけが、咲の目には映っていた


咲「霞さん!!」

霞「・・・」

霞に向かって咲は叫ぶように呼びかける

だがその声が、まるで届いていないかのように霞は何の反応も示さない

否、もう届いていないのだ


祖母「無駄ですよ鬼子よ・・・霞はもう呼びかけに答える事も立ち上がる事も出来ない、そこにあるのはもう石戸霞ではなく、アマガツとなったただの人形」

祖母「石戸の秘呪は死せることにより完成する、憑りついたものを決して外に出さず、そして自らの体を恐ろしいモノに操らせるような事も無い・・・」

祖母「霞はよくやってくれました・・・あとはそれを神域にて封印し、恐ろしいモノが完全に消滅するのを待ちましょう」

咲「・・・はい?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「「「「「!?」」」」」


咲が巻き起こす領域の変化、支配

それは神域にほど近いこの斎場でさえ起こりえた


咲「霞さんが死んだ? まさか・・・そんな事はありえません」

ペチペチ

咲は倒れている霞の方にゆっくりと歩み寄る


祖母「それ以上近づく事はゆるしません鬼子! 皆の者! その者を捕えなさい!」

咲「・・・うるさい」

イイイー ギャアアア ナンダコイツ ホコリニカケテ デヤアアアア
ココハトオサン グワーーーーー マモレナカッタ

投げかけられる言葉には耳をかさず、邪魔する者はねじ伏せ

こんな結末は信じない、その一心で咲は霞に歩み寄った

咲「霞さん・・・」

霞「・・・」

咲「嘘、だよね・・・目をあけて・・・」

霞「・・・」

咲「私の声・・・もう聞こえないの? どうしても伝えたい言葉があってここまで来たの・・・お願い・・・!! 目を、あけてよ!!」

霞「・・・」

咲「うう・・・そんな・・・」フルフル


霞の亡骸を前に、ただただうなだれる姿

見た目には、死を前にして無力なただのヒト



祖母「む、無駄だと言いました。何度呼びかけても霞はもう・・・」

咲「・・・貴方達がやったの?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

祖母「!?」


一転、無力なヒトは恐ろしい鬼となる

嘆く気持ちが塗り替わり、周りにいる者達への憎しみとなる

怒髪天をつく怒りが咲から放たれる


祖母(こ、この娘、更に邪気を増した・・・馬鹿な、祝詞によって浄化されたこの斎場において鬼門が開いている!?)

祖母(な、何がはじまるというのです?)

咲「許さない・・・貴方達・・・絶対に許さない」

咲(許さないゴッ倒す殺す最大限苦しませて消し炭に滅びよ残酷にその幻想も何もかも跡形もなく覚悟はいいか裁くのはまっすぐ行ってぶっとばす罪を数えろ有罪天から墜ちよ泣け叫べそして闇にのまれよハラワタを切り裂いて打ち貫く一掃する明日は来ないボロ雑巾のように駆逐する毀すひねり潰す散れ溶けろ玉砕黄昏よりも暗き断末魔刻む抉る絶望の淵に泥にまみれろ消えない痛み恨みふさわしい死を狂気の中で嘆き悲しみくうくうお腹が鳴りまして殺戮と血と人の皮を被った悪魔め黄泉平坂を越えて行け!!)


祖母「ひっ」

祖母(恐ろしいモノが集まっている・・・こんな小娘がどうしてこのような力を!?)



憎悪がこもった鬼神の支配

咲が見せたそれは前代未聞、天地万物が灰塵と帰すかのような厄災の予兆をその場にいる者達に与えた




だが、それが最大の高まりを見せた時――


和「いけません咲さん!!」

咲「え?」


ピカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアパアアアアアアアアアアアアアアアアアアア アーア 


斎場は輝かしい光に包まれた







咲「あれ? 私・・・」

和「咲さん、間に合ってよかったです」


気が付くと咲の背には暖かな感触と共に、原村和の気配があった


咲「和ちゃん・・・どうして」

和「どうしたもこうしたもありませんよ、何をやっているんです?」

咲「何って、復讐だよ・・・霞さんの」

咲「この人達に思い知らなくちゃいけない、自分達の犯した罪の重さを」

和「何を言っているんです咲さん・・・復讐って、咲さんはそんな事の為に、霧島神境まで来たわけじゃないでしょう?」

咲「・・・でも、もう霞さんは」

和「しっかりしてください咲さん!」

咲「え?」

和「咲さんは大事な事を見失っています、復讐よりも憎むよりもまず、先にやらなければいけないことがあるでしょう!」

咲「・・・」

和「そして見失っているのはそれだけじゃありません・・・咲さんは大事にすべき本当の自分自身をも見失ってしまっています」

咲「本当に自分自身?」

和「はい、貴方が持つ優しさ、温かさ、時にはドジで、時には頼りになり、臆病なところもあって、でもやると決めたらゆずらない・・・そういうところを私はずっと、見てきました」


咲「・・・和ちゃん」

和「そして石戸さんも・・・咲さんのそういう所に惹かれていたはずです、今の力に溺れた咲さんを見たら、きっと悲しみます。咲さんはそれでいいんですか?」

咲「霞さんに・・・嫌、良くない。そうか、そうだね・・・和ちゃん、こんな事で霞さんは喜ぶはずがない・・・」

和「ええ」

咲「ありがとう和ちゃん、私もう少しで取り返しがつかなくなるところだったかもしれない」

和「ふふ、解ってくれればいいんです」

和(いつまでも世話が焼ける人です・・・そして石戸霞、敵に塩を送るのはこれで最後ですよ!)


パアアアアアアアアアアアアアア アーア


咲「あれ? 和ちゃん・・・消えた?」

咲が背に感じていた和の気配はいつの間にか消えていた

咲の支配によって開かれた鬼門も閉じられ、現れた恐ろしいモノ達も斎場から消え失せている

そして代わりのように、咲の手の平にはある物が収まっていた 

咲(これって・・・和ちゃんの・・・)

咲の手にあったのは、かつて原村和と神社で交換したストラップ

霞が咲と和の友情の証しだと称した物

次の瞬間にそれは、その役目を終えたようにバラバラに崩れ去った




祖母(な、何が起こったのです?)

祖母(あの鬼子が鬼門を開き、斎場が邪気で満たされたのはわかりました・・・でも妙な光がそれを祓った)

祖母(もしや・・・あの鬼子が持っていた人形、あれがアマガツとなって邪気を祓ったというのか?)

咲「・・・」スウ


斎場にいる者達が、その場の変化に対応できず呆然とする中

咲はもう一度、霞のもとに歩み寄りその冷たい体を抱き上げた


霞「・・・」

咲「霞さん、さっきは言いそびれちゃったけど、私が貴方に伝えたかった事・・・聞いて下さい」

霞「・・・」

咲「聞いてなくても・・・言いますから」

霞「・・・」


咲「私、霞さんと過ごせて本当に良かった。短い間だったけど、嬉しくて、楽しくて、久しく忘れていたものを思い出せました」

霞「・・・」

咲「初めてキャバクラに行った時、秘めていた自分の弱い部分をさらけ出して・・・それを受け止めてくれた事、本当に嬉しかった」

霞「・・・」

咲「楽しさだけじゃなくて、苦しみも悲しみも分かち合ってくれて・・・多分私はその時からずっと、霞さんと色んな事を分かち合っていきたいと思うようになっていたんだと思う」

霞「・・・」

咲「これからもずっと、分かち合っていきたかった・・・貴方と、もっと、ずっと一緒にいたかった」ポロポロ

霞「・・・」

咲「うぐ・・・えぐ・・・間に合わなくて本当にごめんなさい、霞さん・・・」ポロポロ

スッ

咲「・・・え?」



咲の頬を伝っていた涙、それを拭う手

体温のない冷たい手、だが何故か暖かさの感じる手の感触に驚き、泣きじゃくっていた咲の嗚咽が止んだ


霞「また・・・私のせいで泣かせてしまったわね・・・ごめんなさい咲ちゃん」

咲「か、霞さん!」

祖母「なんですと!?」

祖母(霞が目覚めた!? そんな馬鹿な、もう体から魂は抜けきっていたはず・・・なぜ、奇跡だとでもいうのですか!?)

霞「・・・声が聞こえたの、死に近づいた私を呼ぶ声が、咲ちゃんの声が。だから私、戻ってきちゃった」

咲「霞さん、良かった・・・本当に。嬉しいです、もう一度会えて」

霞「私も嬉しい・・・まさかこんな所まで、咲ちゃんが来てくれるなんて思っていなかったから」

咲「どこにだって行きます、霞さんのいる所なら」

霞「うん・・・」


咲「でも、もういなくなったりしないで下さい」

霞「うん・・・」

咲「これ・・・私の独りよがりじゃないですよね?」

霞「うん・・・私も同じ気持ち」

霞「ただいま咲ちゃん」ギュッ

咲「・・・おかえりなさい、霞さん」ギュッ


死びととなった霞が命の鼓動を吹き返す

その奇跡を呼び込んだのは、神道ではありえないはずの天使の御業なのか

再会を喜び合い、抱き合う咲と霞

しかし、彼女達にはまだ乗り越えなくていけない問題がある



祖母「二人とも離れなさい!」

霞「祖母上様・・・」

祖母「貴方達はどちらも危険なモノを宿している・・・解りませんか? 今なお触発し合って、増長せんとする恐ろしいモノの力が!」


霞に宿る恐ろしいモノと咲に宿る他化自在天の力

霧島神境の者達にとってそれは、恐怖すべきものであり異端として排除の対象なのだ


霞「・・・」

咲「霞さん・・・大丈夫です」

霞「咲ちゃん?」

咲「あの人達が恐れるものがなんなのか、なんとなくわかります。そして・・・私がそれを使って何をすべきなのか、今ようやく解りました」

霞「・・・うん、もしかしたら私も今、同じことを思っていたかもしれないわ」


霞(咲ちゃんの想いが伝わってくる、そして私の想いが伝わっていくのも解る・・・私達いま、とても深く繋がっているのね・・・)

霞(いえ、繋がっているというよりも・・・一つになる、二人で一つの意識を共有してる)

霞(制御できなかった恐ろしいモノもまるで静けさを保っている・・・互いが互いのアマガツとなるように、凶事を分け合っているのね)

咲(はい・・・そして、私達ふたりならきっと、それを形に出来る)

祖母「!?」

祖母「あ、貴方達! 何をするつもりです!?」

咲「もしかしたら、これは多くの人に影響を与える罪深いことかもしれない・・・霞さんはそれでも、私と共に歩んでくれますか?」

霞「うんもちろん・・・私も咲ちゃんとおんなじ気持ち、もう離れない・・・咲ちゃんと分かち合っていけるなら、共に地獄に落ちる事も怖くない・・・」

咲「うん・・・やりましょう、霞さん!」

霞「ええ、よくってよ」


ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


祖母「こ、これは・・・この力、この予兆は!?」


霞「申し訳ありません祖母上様・・・貴方達が恐れたモノの力、いまそれを使います」



――神の領域――



霞・咲「―― 彼女ほど 真実に誓いを守った者はなく ――」


霞・咲「―― 彼女ほど 誠実に契約を守った者もなく  ――」


霞・咲「―― 彼女ほど 純粋に人を愛した者はいない ――」


霞・咲「―― だが彼女ほど 総ての誓いと総ての契約 総ての愛を裏切った者もまたいない ――」


霞・咲「―― 汝ら それが理解できるか? ――」


霞・咲「―― 我を焦がすこの炎が 総ての穢れと総ての不浄を祓い清める  ――」


霞・咲「―― 祓いを及ぼし 穢れを流し 熔かし解放して尊きものへ 至高の黄金として輝かせよう  ――」


霞・咲「―― すでに神々の黄昏は始まったゆえに・・・ ――」


霞・咲「―― 我はこの荘厳なる神域を燃やし尽くす者となる ――」


火の粉が舞い 火が灯り それが集まり炎となる

その炎は積み重なって 天へと伸びていく

そう、まるで槓のように・・・
 



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霞・咲「―― 修羅曼荼羅・大焦熱地獄 激痛の槓 ――」

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曼荼羅(マンダラ)とは宇宙をあらわし――

修羅曼荼羅とは、すなわち破壊愛の宇宙――

それは、愛の為に宇宙の・・・自分達の世界を変えようとした二人の起こした驚異であり神変――

燃え上がった二人の愛は天を突き、世界のありようを塗り替えた――





   ._.. -''″     .__..__,、           -=ニ゙゙ニ--- -......,,,,,_、     .'`-┷lli..,, ,_
. ‐'″  _,,.. -ー''''^゙゙二ri'ニ.... ....、............. ...._,,,_            ゙゙゙゙̄''''lllll,,,,_
..,.. -''"゛          _,,,.. --ー''''."゙.´                       ̄''''―
    _,,,,,       ` ̄ ̄ ゙゙゙̄! ,,__      .,,,,..uuii、;;;;;;y ......,,,,_,i-............ ......,,,,
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...ノ'"  .,.. -''',゙..r''“゙゙“´             i|  i     |i               `'''ー、、
  _..-'"゛ _..-                 i|    i  |i                   `'ゝ
'"  .,..ッr'"                i|      |i                   ヽ
.., ''ソ゛                       i|      |i
゛ l゙                     i| i      |i
 .!                    i|        |i
  ヽ                    i|   i     |i
   .`'-、、,                i|    i     |i                   _..-'´
      `''ー  ,,_           i|        |i          _,,,.. -‐''"
              ´゙'''ー . ,_      i|          |i   . _____ii;;;;;;ニ二......、
.,,_. : =i i ,,、          ,゙,゙;;;;;;;;;;; i|          |i              '''''''''''''''''''''''''''
  .`゙''''~ .`''ー .. ,,,,____ .__.`゙゙'''''~ i|          |i ー''''''''三゙゙..........---;;;;='   ._,,..
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`゙"'''―- ....,,,_     `゙`-`-二,゙", ,i|           |i  -¬''"´    .__,,,,,,,_,,,,..
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           、       i|               |i   l.    '、 ヽ  .  ..,
/  . ./    ./       i|               |i.  ヽ   ヽ .ヽ. \ \
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 /  ./ 、  ,/./       .  i|                   |i .、 .l.  ヽ  .ヽ .\ ヽ
″ ./  /  ./ ,i′      i|                     |i.  ..l.  .ヽ  .ヽ ヽ.
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――霧島神境・斎場――


霞「・・・」

咲「・・・」

祖母「・・・な、何をしたお前たち」

ドヨドヨ


斎場はどよめいていた

霞と咲――二人が見せた力、視界いっぱいに広がっていた膨大な炎

それが収まった時、何一つとして燃えていたものはなかったのだから


霞「・・・あの炎は、決して消えぬ炎、されど燃やすものは現実のものではありません。感じませんか? 貴方がたにとってもっとも身近なものが消えている事に」

祖母「・・・ハッ!? まさか」

霞「はい、この場所と神の世界を繋ぐ場所・・・言うなれば高天原(タカマガハラ)と中つ国を隔てる場所に炎を流出させて塞ぎました・・・これでもう、荒ぶる神も千早ぶる神もこの世へ出てくることはできないでしょう」

咲(オカルトは消え・・・これでもう、神様のきまぐれで霞さんが犠牲になるような事は起こらない)


祖母「馬鹿な! なんという事をしたのです! 自分たちが何をしたのか本当に解っているのですか!?」

霞「解っています祖母上様。これは神の庇護をも拒む事・・・これから先、人が神の力に頼る事は出来なくなるでしょう」

祖母「解っていてなぜ、神を失う事が神代にとって・・・いや、この国にとって、どれほどの影響を及ぼすか・・・」

霞「神などいなくとも、人はやっていけます」

祖母「!?」

霞「私は、そう思わせてくれる人に出会えたから・・・」チラリ

咲「霞さん・・・」ウン

霞「・・・時代を作っていくのは人、そして人に寄り添うべきは人であるべきだと思います。そしてだからこそ、神の為に人が犠牲になる事はもう終わりにするべき、そう思いました」


祖母「詭弁を・・・! そう思える事こそが高慢だと知りなさい!」

祖母「お前たちのように誰もが皆、通じ合えるわけではない。家族も友人も恋人もいない、そんな寄る辺なき者達はどうなります! 神に祈るしか無い者達はこれからどうすればいい!」

霞「それは・・・」

咲「霞さん」スッ

霞「咲ちゃん?」

咲「ここからは私が、私だけが伝えられる言葉でいいます」

祖母「なんですか、部外者は控えていなさい!」

咲「いいえ退きません、お婆さん・・・家族も友人も恋人もいない、そんな人たちはどうすればいいと、いいましたよね?」

祖母「・・・ええ」

咲「キャバクラに行けばいいと思います!」

祖母「!?」


咲「ちょっとしたきっかけで見ている世界が一変する事もある、私はキャバクラに行って、霞さんと出会って、それを再認識しました」

咲「前はキャバクラには良い印象を持っていなかったけど、今は違うと言える。麻雀が好きではないと思っていても、好きになる事もある・・・そうやって否定したものに踏み込んで認めて、自分の認識を変え世界を広げていく。人はそれができるはずです」

霞(そう、それができるなら・・・人はもう神の手を離れて独り立ちする時)

咲「古きものを重んじるのもいいでしょう、でもそれに囚われていては進めない、進めなくなると私はそう思います」

咲「そのために、まずはキャバクラに行きましょう! そして一緒に楽しもうよ!」グッ

祖母「」



祖母(なんですかこれは・・・戯れ言にしか思えないのに、この娘の言葉が妙に心に響く・・・)

小蒔「すばらしいです!」

祖母「!? 姫様、目覚めておられたのですか!?」

小蒔「はい。霞ちゃんと宮永さん、二人が成した事も全て見ていました」

霞「小蒔ちゃん・・・私」

小蒔「もっと誇ってください霞ちゃん、貴方は私や皆を救ってくれたんですから・・・そして、良い人に出会えたみたいで良かったです。お二人の事、全力以上で祝福させていただきます!」

咲「しゅ、祝福って・・・そんな」

祖母「姫様! この者達は神代の築いてきたものを完膚なきまでに打ち毀したのですぞ! それを姫巫女たる貴方が許されてよいのですか!?」

小蒔「いいえばあや、もう神は消え私は姫巫女の資格はなくなりました。今はただの神代小蒔として、二人の成した事を自分の意志で支持しようと思います」

小蒔「キャバクラ・・・一度行ってみたいと思っていました! 宮永さん! 私を一緒に連れて行ってください!」

祖母「」



巴「・・・宮永咲の支配が消えて急いで駆け付けてみたら、何なのこの展開?」

初美「さ、さあ? でも私としては、姫様も霞ちゃんも楽しそうだから良かったですよー。意識不明だった明星ちゃんも目覚めたみたいですし、湧ちゃんも大事なかったみたいですしね」

春「・・・めでたしめでたし?」



祖母「嘆かわしい事・・・これまで鬼籍に入った者達に、私はなんと顔向けすれば・・・」

小蒔「いいえ、きっとすべてはこの時の為にあったのです」

祖母「姫様?」

小蒔「神代の為に犠牲となってきた者達は、いつかきっと誰かがそれを変えてくれると信じていたから、自分の子や孫が神の手を離れる時代を築いてくれると信じていたから、その為にその身を捧げてくれていた・・・私はそう思います」

小蒔「そしてばあや・・・貴方もそう。もう心を鬼にして神代の為に労苦する必要も無くなったのです」

祖母「・・・」


小蒔「鬼籍に入った者達の事は私が決して忘れません。そして、それでも笑っていようと思います、かの者達も分まで」

祖母「・・・解りました、もう何も言いますまい」

祖母「ふう、『ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川・・・』とはよく言ったものです。季節が変われば紅葉でも、久々に見に行くとしましょう」

小蒔「はい、長生きしてくださいね」



――こうして、宮永咲と石戸霞によって世界はありようを変えた

神の手を離れた新たな世界ではオカルトめいた力は全く無くなってしまったが、世間的にはそれほど気にされる事も無かった

だが巫女としての任を解かれ自由となった神代小蒔達は、咲の言葉と初めて行ったキャバクラに感銘を受け、キャバ嬢の道を進む

そして龍門渕グループと協力して巫女キャバクラを全国展開すると、世はまさに大キャバクラ時代の到来を迎えた

そんな中、佐々野いちごは牌のおねえさんとなり、上重漫の実家のお好み焼き屋は潰れたがそれもまた、新たな時代の動きであった

そして一年の月日が流れる――








――エピローグ・クラブドラゴンゲート――




和「酒! 飲まずにはいられないッ!」ガバガバ

初美「お、お客さんーいくらなんでも飲み過ぎですよー」

和「いいんです今日は、今日だけは酒に溺れさせてください!」

初美「な、何か嫌なことでもあったんですかー?」

和「うう・・・それがですね・・・学生時代からずっと片思いしていた人が、ケッコンカッコガチしてしまいまして・・・うう、それでも面と向かって一生親友だよって言われてかなり嬉しかった自分と、NTRの三文字を浮かび上がらせてくる自分で葛藤して・・・もうお酒で忘れるしかないんです!」

初美「・・・そうなんですか、それはお辛いですねー。私も同じような事があったからよく解りますよー・・・うう」

初美「そう言う事なら今日はとことん飲んで騒ぎましょう! 私も付き合いますよー!」

和「はい! うわあああああああああああんッ咲さああああああああああああああん!!」ガバガバ

初美「うわあああああああああああんッ霞ちゃああああああああああああああん!!」ガバガバ






咏「うわぁ、あっちの席は随分と賑やかみたいだねぃ」

えり「騒がしすぎません? 静かに飲みたい人もいるのに・・・お店の人に注意してもらいましょうか」

咏「お堅いねぇ、こういうのも楽しんで飲むのもまた風流じゃないかぃ? 知らんけど」

えり「・・・そう言う割に三尋木プロ、お酒、進んでませんよ? 苦手なんですか?」

咏「うーん、そうでもないんだけどねぃ。はぁーあ」

えり「ひょっとして、宮永咲プロの事でショックでも受けてるんですか?」

咏「・・・いや、しらんし」

えり「いつになく解りやすいですね。仕事の解説もその調子でお願いします」

咏「からかってんなら帰る・・・えりちゃんの酒の肴にはなりたくねー」


えり「ふふ、拗ねないで下さい。これあげますから」スッ

咏「何だいこれ? コーヒー?」

えり「ええ、メニューに入ってたので頼みました。最近のキャバクラはこういうのも置いてるみたいですね」

咏「それはいいけど、なんでこれを私に?」

えり「こういう言葉があります『たいていの問題は、コーヒー一杯飲んでいる内に自分の中で解決するものだ、あとはそれを実行できるかどうか』と」

えり「歳をとると酒に逃げるのも辛くなりますからね、今の三尋木プロにはちょうどいいかと思いまして」

咏「・・・じゃあ、もらっておこうかねぃ」

えり「はい、じゃあそれ飲んだら切り替えて下さいね。若いツバメを逃したくらいでしょげてたら、アラサーなんてやってられませんよ」

咏「ええぇー」

えり「仕事の一環で来てますからね。今度のキャバクラレポート、しっかり成功させて次に繋げますよ!」

咏「・・・・・・鬼め」




巴「はあ・・・まだ開店まもないってのに、はっちゃんへべれけじゃない! いい加減、うちのナンバーワンの自覚をもってほしいよ」

小蒔「いいじゃないですか、楽しそうで。今日は私がヘルプに入りますよ」

巴「ひめ・・・小蒔ちゃんは今日はお休みでしょう、大丈夫私がやりますから」

小蒔「・・・私、いらない子ですか?」ショボン

巴「そうじゃなくて! もう、春ちゃんはどこいったの!?」


春「・・・」ポリポリ

尭深「・・・」ズズズ

春「・・・黒糖食べる?」

尭深「うん・・・お茶飲む?」ポリポリ

春「うん」ズズズ

尭深(・・・やっぱり黒糖はお茶にあう)ズズズポリポリ

春(・・・やっぱりお茶は黒糖にあう)ポリポリズズズ

巴「なんで店の中でおばあちゃんの縁側みたいなやり取りしてるの!?」

小蒔「全力以上でおもてなし致します!」

巴「ひめ・・・小蒔ちゃんは勝手にテーブルについてるし!? ああもう!」

巴「やっぱり私じゃこの人達まとめるの無理! 霞さん、早く戻ってきて!!」




――エピローグ・屋久島――



咲「・・・」

霞「咲ちゃん、こんな所にいたの?」

咲「あ、霞さん。うん、ちょっといろいろ考え事してて」

霞「となり、いいかしら?」

咲「もちろん」

ペタン

霞「咲ちゃんが・・・何を考えてたのか聞いても良い?」

咲「大したことじゃないよ? この景色を見て霞さんは育ったのかなとか、ここが森林限界かなとか、そんなところ」

霞「そう・・・」

咲「本当にきれいな所、山があって、緑があって」

霞「うふふ、それしかないけどね」

咲「ううん、それだけでいいよ私。霞さんがいて、私がいて・・・こんな綺麗な景色が目の前に開けてる。これ以上の贅沢はありえない」

霞「咲ちゃん・・・・・そうね。私も、子供の頃から見てきた景色なのに、不思議といま感動しているわ」

咲「・・・ずっと続くといいな」

霞「え?」

咲「あ、ごめんなさい・・・独り言」カアッ


霞「・・・ふふ、ずっとここに居てもいいわ。ずっと一緒よ咲ちゃん、約束したでしょ?」

咲「霞さん・・・」

霞「これからどんな時代になっても、何があってもずっと・・・・・・ね?」

咲「うん!」

咲(もう私は、嶺上開花もプラマイゼロも前みたいに出来なくなった・・・)

咲(・・・それでも私は麻雀をやめてない、それはきっと私が麻雀を大好きだから)

咲(きっとこの世界は、本当に好きなものとは決して離れられないようになっているんだと思う)

咲(そして同じように、私は本当に大好きな人と一生離れる事が無いと思う・・・)

霞「ねえ咲ちゃん」

咲「え?」

霞「大好きよ」

咲「わ、私もです・・・」カアッ











かつての神話は終わりを迎えようとしている――

神と呼ばれたモノ達の時代は幕を閉じ、古き価値観は時のかなたに消えていく――

そして人はこれからも時を紡ぎ、命を燃やして生きていく――


次の時代がどうなるのか、それは誰にもわからない――

だが、世界がどんな形になろうとも――


キャバクラは――いつもそこにある







咲「キャバクラ行ったら世界が変わった」霞「ええ、よくってよ」――カン!



これで完結です、スレが立ってから半年ほどの間お付き合いありがとうございました。
自分の書きたいものを全部詰め込んでやりたい放題できたのでとても満足しています。

正統派な霞咲を望まれた方にはいろいろ何ぞこれと思われたかとおもいますが、少しでもアリですねと思ってくれたなら幸いです。


咲さんかわいい

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年07月11日 (金) 22:43:49   ID: cEs_dyqA

咲霞結婚方向で進めて下さい

2 :  SS好きの774さん   2014年08月19日 (火) 19:16:29   ID: mLL_rWtB

咏咲結婚方向で進めて下さい

3 :  SS好きの774さん   2014年09月10日 (水) 07:40:58   ID: ur-xhrev

SOA

4 :  SS好きの0716さん   2014年12月07日 (日) 06:39:53   ID: -IM6WLB0

まだなのかぁ~続き気になってしょうがない

5 :  SS好きの0716さん   2014年12月10日 (水) 05:01:37   ID: ogUNVMfJ

ありがとうございました
楽しく読ませていただきました
次回作もたのしみにしています

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