ガッツ「駆逐してやるぜ……一匹残らず」(32)


ガッツ「ここは……どこだ?」

 黒き甲冑を身に纏い、身の丈を越す大剣を背負う剣士。

 彼は、戦闘中にある魔物の攻撃を受けて意識を失っていた。

 目を覚ました時、そこは見た事もない路地裏だった……。

 怒号、悲鳴、更にその原因。

 地獄と形容するにふさわしい光景の中で剣士は溜め息を一つ。

ガッツ「やれやれ、今度の相手は‘でかぶつ’かよ」

 彼の中で、地獄とは慣れ親しんだ場所でしかない。

 一通り身体と装備に異常がないか確認すると、その黒き剣士‘ガッツ’は、まるで散歩にでも出かけるかのように歩き出した。

 逃げ惑う人の波に逆らうように歩く。

 首の烙印に疼きは無い。

 ならばコイツ等は何だ?

ガッツ「図体ばかりでかいだけの小物かテメー等」

 ガッツの眼前、二階建ての民家より尚高いその位置にある二つの目。
不格好ではあるが基本は人型らしいソレは、嘲笑のような笑みを浮かべてガッツを見下ろしていた。

ガッツ「巨人、て奴か。 高ぇ位置から見下ろしてんじゃねーぞ化けモン」

 巨人の手がガッツに伸びる。
 ガッツはそれに呼応するように背にある大剣に手を伸ばす。

 ドン、と称するしかない音を立て巨人の両手が宙を舞った。

ガッツ「案外軽ぃな」

 巨人の手を叩き斬った物。

 ソレは――。



 それは。

 剣と呼ぶには大き過ぎた。

 余りに、大きく、分厚く、そして、大雑把過ぎた。

 まさしくソレは。


 鉄塊だった。



 切り口から蒸気を噴き出しながらガッツを見る巨人。


ガッツ「チッ、面倒臭ぇ野郎だ、回復すんのかよ」

 ガッツは剣を振りかぶり、一気に距離を詰めると巨人の大木のような脚を両断する。

ガッツ「この手の野郎は、頭を吹き飛ばすか首を斬り跳ばしゃ良いって相場が決まってんだ」
 足を失い転倒する巨人。

 ガッツの眼前には無防備にうなじが晒されている。

ガッツ「届いたぜ、デカ物」

 再び肉を両断する鈍い音が辺りに響く。

 小さな馬車程もある首が跳ねられる音だった。

ガッツ「成る程、コイツで殺れんだな」

 蒸気になり消えていく巨体。
 この黒き剣士には、街を蹂躙する恐怖の象徴である巨人は、取るに足らない雑魚でしかなかった。


 黒き暴風となり駆け抜けるガッツ。

 通りざまに巨人の脚を斬り跳ばし、うなじにその大剣‘ドラゴン殺し’を突き立て削ぎ落とす。

 数体殺す内に、首を斬り跳ばさずともうなじの一部を削ぎ落とせば殺傷できるという事に気がついた。


ガッツ「無駄に多いんだよテメー等」

 振り下ろす刃で殺し、返す刃でまた殺す。

 それは、さながら刃の暴風。
 間合いに生命の存在を許さない命を刈り取る荒々しき風であった。

ガッツ「あいつ等無事なら良いが……」

 一体、また一体と巨人は刈り取られていった。

 この地獄で今、狩る者と狩られる者は入れ替わった。


 ガッツは焦燥感に駆られて街を疾走する。

 守るべきと誓いを立てた女の姿が、それを後押ししてくれる仲間の姿が見えないのだ。

 人を襲う巨人が犇めくこの場ではなるべく早く合流したい。
 仲間達はそれなりに場数を踏んではいるが、この巨体に有効な攻撃手段があるのは自分だ。
ガッツ「どけぇぇッッ!!」


 その咆哮は獲物を狩る凶暴な獣のように恐ろしく、群からはぐれた羊のように羊のように悲痛なものだった。



 不意にガッツは足を止める。


ガッツ「急いでるっつうのに何でこんな……チッ、クソッタレ」

 目線の先には幼い二人と中年の男。 幼い二人は恐らくは兄弟かなにかであろう。

 中年の方は先程からちらちらと見た格好だ。 この町に駐在する兵士であると推測する。


 二人は、潰れた家の前で泣き叫んでいる。

 よく見ると生き埋めになっている女が居た。

ガッツ「母親か……」

 中年の男が一対の剣を抜き迫る巨人に向かう。


中年「コイツをぶっ倒して三人とも助ける」

 ガッツは察した。

 この中年では勝てない、と。



 中年は訓練を詰んでいるのであろう。

 戦う術を身につけてはいるかもしれない。

 だが。

中年「ひ……」

 戦う心を身につけては居なかった。


中年「すまんっ」

 察した通り中年は逃げ出した。

 母親は見捨てるようだ。

 妥当な判断だ。

ガッツ「気にいらねぇな」

 誰に対してか分からない悪態をつくとガッツは駆け出した。



 中年に抱えられた二人の内の一人。

 鋭い瞳をした少年、エレン・イェーガーは憎しみに満ちた目で巨人を睨みつけ、有らん限りの悪態を叫ぶ。

 それは、巨人に対してだけではない。 世界に対して、そして無力すぎる自分に対して。


 そんな無慈悲な世界を遮るように、黒き外套がはためく。

ガッツ「何も出来ねぇなら吠えんじゃねえ」


 エレンの視界を遮ったのは、身の丈を超える大剣を背負った屈強な男の姿。


 それは、絶望さえも塗り潰す漆黒だった。


 この後目にした光景を、エレンは生涯忘れる事はないだろう。


 巨人の前に立ち塞がった男が背の剣を抜き放つ。

 エレンは驚愕した。

 あのような剣が存在するのか、と。

 そして、そんな剣を振るう人間が居るのかと。


 剣と呼ぶには余りに巨大なソレは、まさしく鉄塊だとエレンは思った。



 その後の展開は一方的ですらあった。 言うならば屠殺。

 反撃すら許さぬ圧倒的な暴力であった。


ガッツ「おい、ガキ」

エレン「アンタつえぇな……」

ガッツ「不平不満を口にしたらあのデカ物は死んでくれんのか?」

エレン「はぁ?」

ガッツ「出来もしねぇのにダラダラと文句言うぐらいなら、その口で奴らに噛みつきやがれ。 何も出来ねぇ無力なガキの泣き言聞いてくれる程世界は優しかねーぞ?」

 ガッツはそう言うと背を向けて歩き出す。

ガッツ「世界を変えたきゃテメーで強くなるしかねえんだ。 逃げ出した先に、楽園なんざありゃしねぇのさ…」

エレン「……」


ガッツ「随分と、骨のありそうな奴が居るじゃねえか」

 エレン達から離れた場所。

 閉じられかけた城門の前に居たのは他の巨人とは明らかに毛色の違う巨人。

 その表皮は見るからに硬質で、まるで鎧のようだ。


ガッツ「随分と硬そうじゃねえか」

 更に周囲には敵意に満ちた巨人の群が集まってきている。


ガッツ「やるしか、ねえようだな」

 その身に宿る獣を押さえつけながら、ガッツは臨戦態勢へと移った。


 砲弾の如き怒涛の勢いで鎧の巨人は突進を始める。


ガッツ「あの妖精擬きに比べりゃあ速くねぇ」

 突進を回避しつつ、その速さの源である足へドラゴン殺しを振るう。

鎧の巨人「ッッ!?」

 鎧の巨人はその衝撃に耐えきれずに転倒。 地面を何度か転ぶとガッツを睨みつけた。

 ドラゴン殺しがぶつかった右臑には大きな亀裂が走り、間からは蒸気が勢いよく噴き出している。


ガッツ「チッ、ぶった斬るつもりだったんだがな」



 動きを止めたガッツに巨人達が一斉に遅いかかる。


ガッツ「邪魔すんじゃねえっ!!」

 義手を掲げ、更にドラゴン殺しを構える。


 十分に引き付けると同時に義手はその真価を示した。


 爆炎と共に砲弾を打ち出す義手。 それは迫る巨人の首から上を吹き飛ばす。

 砲弾の反動を利用して周囲の巨人の脚を叩き斬るとその勢いで更に跳躍。


 群から抜け出しドラゴン殺しを構え直す。


ガッツ「首落とさなきゃ死なねえ上にすぐ治りやがるのか、めんどくせぇ」

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