男「サラリーマンでヒーロー」 (7)

けたたましく鳴り響くアラーム音。

工場の一角で三層のパトランプは輝いていた。
その表示色は赤。

意味するものは危険、警告、非常事態。

自動車用の製品を形作るプレス機に取り付けられたものだった。

工場内特有の油の臭い。

赤黒い血が地面を這うようにして広がる。

彼女は薄暗い工場の一角で、頭部のなくなった同僚を発見した。

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変わり映えのしない毎日。

今の職場に配属になった当初は、窓の外をかけていく見慣れない風景に新鮮味を感じたものだった。
しかし、そんなものは1週間もあれば消えてしまう。

経済新聞に折り目を付けて、隣の客の迷惑にならないように一枚ずつめくっていく。


増税、派遣切り。日本の企業の見通し。

暗い話題を伝える紙面。
内容は変われど、受ける印象は変わらない。

自動車関連とバッテリー関連では好調を維持。


「いいね。俺もその好景気にあやかりたいもんだ」
心のなかでぽつりと呟いてみた。

悲しいかな、客先にその手の事業は少ない。

豊野自動車のおひざもとともなれば、明るい話題も聞けるのだろうか。
そんな意味のないことを電車に揺られながら考えてみる。

上司からは数字で詰められ、客先からは納期や価格で叩かれる。

常に、というわけでもないがそれが雇われサラリーマンの悲しさだ。

通路を挟んで隣の座席。
高校生がGWの話題で盛り上がっている。

まだ若い。
会社ではそういわれるが、本物の若者を見るとやはり老いを感じずにはいられない。

やり残しがないように、精一杯楽しめよ。

そんなささやかなエールは電車のブレーキ音にかき消された。

「月初からついてないな」

「すみません……。人身事故でして……。」


本当についていない。
朝から人身事故に巻き込まれるとは。

オフィスには始業時間の40分前に入る。
そんな自分に課したルールが功を奏した。

電車をすぐに乗り換え、駅から職場までは全力疾走。

真新しい革靴と踵の靴擦れを代償に20分程度の遅刻で会社につくことができた。


「仕方のないことについては、何も言わないさ。アポイントのあるんだから早く行け」


中肉中背に、整髪料で整えた短髪。
グレーのスーツに身を包んだ上司はそれだけ言うと自分のデスクへと戻っていった。

こういう理解のある上司の下に付けたことは幸せなのだろう。


「外回り行ってきます!」


少しでも心象はよくしておこう。
そんな下心を、いつもよりも気持大きめな声に乗せてみた。

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