二宮飛鳥「悲しみを引きずって」 (43)

初SSで超稚拙だけど、飛鳥が可愛すぎて衝動を抑えられないから書く

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 ボクは二宮飛鳥と言う名前をしている。
 年齢は14で、誕生日は二月三日の水瓶座、血液型はB型。
 言うまでもなく、ボクは人間で、なので一般的な14歳の少女の例に漏れず、ボクは中学生だ。社会という大きな括りの中で、ボクは与えられた通りに、与えられた道を進んでいる。
 目下、授業中である。
 眠たくなる教師の声を流しながら、ボクは窓の外を見た。いつも通りの光景がそこにある。
 青い空、白い雲、木の枝に乗る小さな鳥。綺麗な青い鳥。
 ――いや、まって。青い鳥って、そうそう見られるものではない気がする。
 思わず瞳を奪われて、じぃと見つめていると小鳥はどこかに飛んで行ってしまった。青い鳥と言えば幸運の象徴であったと記憶している、なにかいいことがあるのかもしれないな――なんて、そんな風に胸を高鳴らせてしまうボクは、やっぱり少し痛いヤツなのだろうな、とそう思った。

 そもそも、幸運がついていたのだとしたならば、こんなに悲しい思いは抱かずに済んだはずなのだ。
「おい二宮、具合でも悪いのか?」
 かけられた声にハッとして、声の主である国語教師を見る。どうにも叱られると思っていたのに、相手は心配気にこちらを覗きこんでいた。これはいったいどうしたことだろう。
 とりあえず、教師に対する言葉遣いにて、当たり障りなく事を済ますとしよう。
「大丈夫です、ぼぅっとしていて。なんでもないです」
「大丈夫なもんか、人はな、意味もなく泣いたりしないんだ。具合が悪いなら保健室に行きなさい」
 言われてハッとした。と同時に頬を触れば確かに湿っていた。
 情けない――というか恥ずかしかった。ボクは具合なんて悪くもないのに、一刻も早くその場を後にしたくて咄嗟に嘘を吐いて、教室を出た。



 ボクは少しだけ普通じゃない。
 ――なんて言い方をすると、ちょっと痛々しいかな、けれどボクがボクを言い表すとき、なによりも真っ先に口を吐くのはきっとこの言葉で間違いないんだから、仕方ない。
 アイドル――偶像。それがボクの一面。日常を生きるボクからする、非日常的なボク。自慢じゃないけれどボクは、新人アイドルという括りの中ではそこそこ人気のあるアイドルをやらせてもらっている。
 人々の想像の中に生き、人々の夢想を受け、人々から支持され、ボクはそんなファンのみんなに『なにか』を届け与える。それがなにであるかは、実はボクにもわからなくて、受け取ってくれた人が、受け取る前より少しだけ幸せになってくれる、そんなものであればいいなと思っている。
 それがボク、二宮飛鳥のちょっと普通じゃないところ。
 そしてそんな、普通じゃないボクの普通じゃなさを誰よりも早く見抜いて、手を引いてくれた普通じゃない男が目の前の彼、Pさん。職業プロデューサーで通称もプロデューサーである。
 仕事用のスーツをきっちりと着こなす姿はどこか凛々しく、けれどその表情はどこか困り顔であった。


「で、どうしたんだ、まだ昼前だってのに。今日はオフだったよな? 学校は?」

「学校は……午前中で終わりだったんだ」

「嘘つけ」

「嘘じゃないさ、事実ボクはこうしてキミの前に――」

「大切な担当アイドルのスケジュール管理――もとい、学校の予定は一通り目を通してる。プロデューサー舐めちゃあだめだぜ」

 したり顔でそう言われた。お茶を出しつつ、そう言われた。
 プロデューサーが自前でお茶をくんでいるという事は、つまり今この事務所には事務員さんこと千川ちひろさんはいないのだろう。何かしらの用事で留守であるのか、はたまた今日は休暇かなにかなのか、どちらにせよ珍しい事だった。

 六面壁の立方体、そこに二人きりとなってしまうと、逃げ場はない。

「はぁ……キミには敵わないな。ああ、いいよ、白状するさ。ボクは今日学校を抜け出してきたんだ。授業中に少しいろいろあってね、気がついたら――」

「事務所の前で膝抱えてうずくまってたと?」

「う、うん、間違いないよ」

「そりゃまた……なんていうか、いつにもまして、飛鳥らしいというか、いや、この場合は飛鳥らしからぬ飛鳥らしさと言えばいいのだろうか……むむむ、難しい」

「なんだいそれ……」


「いやさ、ほら、普段の良くわからない言動よりも、よりわけわからないだろう? じゃあこの場合飛鳥らしいと言っていいのかと疑問がな」

「……そこはかとなく馬鹿にしているだろう?」

「実は少しな」

 ちらり、と、先ほど出されたお茶へと視線を向けた。つい先ほどまでゆらゆらとたちこめていた湯気は失せ、水面にはわずかに埃が浮かんでしまっている。
 ――うん、これなら、大丈夫だろう。

「いやいやいや、まってまって! なんでお茶を振りかぶるの!?」

「世の中、万物全てになるべくしてそうであるっていう理があるだろう? つまり――そういう事さ」

「わかんない! いつも以上にわかんないよ飛鳥ッ!?」



「酷い目にあった」

「キミが酷いことを言うからだ、自業自得、因果覿面、因果はめぐる糸車ってやつさ」

 水も滴る良いプロデューサーの完成から数分、タオルで身体の水気を取り終えて、先ほどより若干疲れたような表情で帰ってきたプロデューサーは、今度はお茶を入れることなくボクの目の前に座った。
 ジッと、見つめられる。思わずそらしてしまうほどに、真剣な眼差しでボクを覗いた。まるで心の中すらも覗かれてしまっているのではなかろうかと、それほどにジッと。

「はぁ、それで、実際どうしたんだよ」

 心底心配したような、そんな優しい声色だった。先ほどまでのおちゃらけた雰囲気がなくなって、唐突に押されたプロデューサーの『スイッチ』、いつもの、と言ってしまうには頻度は低く、けれど極稀にと言ってしまうには少し違う気がするほどのバランスで押されるそのスイッチが入った彼は、ボクにとってすると少しばかり苦手だったりする。普段飄々としていて、ふざけた様子が多くうかがえる癖に、ここぞというときに限って彼はあまりに的確にボクの心に入り込んでくる、そして、何かしらを『奪って』行くのだ。
 悩みであったり、怒りであったり、寂しさであったり、何かしらを。
 毎回かならず、後に残っているのはボクにとって都合がいい、喜ばしい結果だけれど、思春期真っ盛りのボクからすると、まるで心を毟り取られる様な不安感があるのも事実なのである、プロデューサーが信頼に値する相手であるからいいものの、たまらない話であることには変わりない。

 小さなテーブルを挟んでソファに座るボク達の間には、以降何とも言えない重い空気がのしかかった。
 きゅっと口を噤んで顔を伏すボクと、何も言わずにそんなボクを見つめているプロデューサー。
 事務所の壁に立てかけられた時計の秒針がこつこつと鳴るたび、まるで固く閉ざした口をノックでもされているかのような錯覚に襲われて、言い寄らぬプレッシャーに折れ、ボクは結局、我慢ならずに言葉を紡いだ。

「な、なんでもないんだ……ほんとに。ほら、ボクは『痛いヤツ』だから、少し不良ぶって授業を抜け出したくなったんだよ、これもボクの世界へのささやかな抵抗さ」

 ただし、紡いだ言葉はまったくの虚実。

「嘘だな」

 そして故に、それはあまりに弱々しく、意味を持たなかったらしい。

「またそれか、ボクは信用されてないのかな」

「……あのなぁ、普通に考えればわかるんだ。お前さ、事務所の前で俺に声かけられた時、目が真っ赤だったんだぞ」

「そ、それは……目にゴミが」

「それも嘘。様子がおかしいって点で言うなら、さっきだってそうだ。普段飛鳥はどんなに苛立っても暴力に訴えるような娘じゃないじゃないか。俺だって丸め込まれることがあるくらいに、言葉巧みに言葉を遣うじゃないか。お得意の『痛いヤツ』特有のそれだろう?」
 
 何かあったんじゃないのか、悩みなら聞くぞ?
 そう付け足して、プロデューサーはまた黙ってしまう。あくまでボクから話すまで、無理矢理に動くことはしないのだろう。

 また二人の間に音はなくなって、静寂にノックが響いた。言い訳を探してパクパクとしばらく音を出すことなく動いていた口は、とっくに閉じて、顔を伏せたまま数十秒が過ぎる、そのたった数十秒がまるで数時間にも感じられて、耐えられなくなって、それでとうとうボクは決壊した。

「……前の……」

 最初は、チロチロと、まるでヒビから漏れ出す滴の様に。

「ん?」

「この前の……選挙のこと」

 次いで、徐々に量は増していき。

「ああ、第三回シンデレラガール総選挙の話のことか、それがどうした……って、おいおい、なんで泣いてるんだよ」

「だって、だってボクは……ボクはプロデューサーに……」

 終いには、涙すら零して、これ以上ないほどみっともなく、盛大に決壊した。

「プロデューサーの期待に応えられなかったんだ」

書き溜めが終わりました
需要がありそうならば、ここからさくさく書きつつ投下できたらなと思いま

思います

途中で送信してしまった

人見ててくれたんですね、初投下なので勝手がわからなかったりですごく不安でした


 ボクは、自他ともに認める新人アイドルだ。だから最初は、別にそれほどそれに真剣に意識を向けていたわけではない。
 第三回シンデレラガール総選挙。
 各プロダクションに所属する各アイドルが、ファンの投票によってトップを競う形式で行われる選挙、平たく言ってしまえば人気投票。
 この選挙には、本結果発表の前に、中間発表というものがあって、その時点での途中経過を伺う事の出来る仕組みが採用されていた。
 ボクもプロデューサーも、互いに選挙への意識はそれほどなく、そういえばそんなものもあったな、程度の感覚でその結果に目を通した。
 ボクにもファンはいるが、そんなものはどのアイドルにだって一定数いるわけで、それなりに人気をはくしている自覚と、それに対する感謝はあれど、ゆくゆくはそのラインに立ってやろうという気概はあれど、それでも決して現時点での自分がそれほどの高みに手を伸ばせる等とは、自惚れていはいなかった。
 だからこそ、その結果はいろいろな意味でボク達に衝撃を与えてくれた。

 その日、ボクがいつものように事務所のドアを開けて中に入ると、プロデューサーが血相を変えてボクへと向かって紙を突き出してきた。
 何かがプリントされたカラフルなものだった。文字が羅列してあったが、そうとうあわてている様子で紙がゆれまくっていて、手ブレでまったく読むことはできなかった。

「あす、飛鳥! やったぞ! すごいぞ!」

「ど、どうしたんだい一体、ずいぶんと取り乱しているみたいだね? 一度落ち着きなよ」

「ランクインだ!」

「なににだい?」

「入賞だ!」

「誰がだい?」

「俺のアイドル!」

「いや、誰?」

「そう! 俺のアイドルがやってくれました!」

 まるで子供の様にはしゃいで回るプロデューサーと、それを微笑ましそうに見つめている事務員ことちひろさん。いつも寡黙であったりするわけではなく、比較的明るい性格のプロデューサーと言えど、その喜びようは異常だった。
 持っていた紙を投げ捨てて、ひゃっほう、とよくわからにない奇声を発しているプロデューサー尻目に、ボクは投げられた紙を拾い上げる。 
 このよくわからない状況を理解する手掛かりが、間違いなくそこにあると思ったからだ。

「ああ、なんだ、噂に名高いシンデレラの……ちひろさん、プロデューサーどうしたんですか? お気に入りの娘が上位だったとかですか?」

「ふふ、そうね、プロデューサーさんの大好きな娘がランクインしてたんですって」

すいません、いまいち掲示板への書き込みもままならず

教えていただきありがとうございます

 とてもいい笑顔で返されたが、それを担当アイドルに伝えるというのもどうなのだろうかと考えてしまう。
 流石にここまで大げさに喜ばれれば、嫉妬心が沸くというモノだ、ボクが別にプロデューサーに恋愛感情を持っていなかったとしても、それは当然だろう。

「キミさ、少しはボクの心持ち――」

「いいから! いいから見てみろ! 最高だぞ!」

「ちょっと、いい加減そのテンションやめてくれないかな!?」

 女は、デートの時に他の女の話をされるとむかっ腹が立つというのを雑誌で読んだ記憶があるが、きっと遠からずな心情なのだろうな、と思いつつ指さされた紙の位置へと視線を転がす。



 『二宮飛鳥 46位』





 ボクはその場で紙を取り落して、尻餅をついてしまった。

風呂あがったのでいまからガリガリ書きます、少々お待ちを

 尻餅をついた理由は、当時はあまりの混乱ではっきりとこれだと断定はできなかったけれど、けれど今ではそれもはっきりとしていた。
 自分がランクインできたことに対する驚き、それもある。
 自分の努力が報われた喜び、それもある。
 自分のファンの皆への感謝、それもある。
 けれどそれ以上に、なによりも、どんなことりも、目の前の男――目の前のプロデューサー、その喜びの源が自分であったこと、自分がプロデューサーをこれほどまでに喜ばせることができたこと、それがなによりもうれしくて、あまりの感動に、力が抜けてしまったのだ。

「本当にありがとうな、飛鳥」

 そういって、年甲斐もなく涙を滲ませて微笑むその顔が、ボクをなによりも誇らしい気持ちにさせ、ボクはそれをもって、どんなことよりも喜べたのだ。

「それなのに……それなのにボクは……くぅうう」

 止まれと、何度も心の中で叫んだ。自分に涙を流して同情してもらう資格なんてないのだ。プロデューサーは常に最前を尽くしていた、その実感が確かにボクにはあって、それと比べて思い返せばボクはなんども仕事を失敗していたのだから。
 よしんば、与えられた仕事を完璧にこなしたとして、けれど結果が追いつかないのであれば、つまりそれはボクの責任なのだから。
 ボクは知っていた。
 中途発表の時の結果に、少なからずの――いや、大きな期待を胸に本結果を見たプロデューサーが、一瞬だが確かに表情を曇らせていたことを。
 ボクは気がついていた。
 それをボクに悟られまいと、その後ずっと明るく振舞っていたプロデューサーに。
 ボクは見てしまった。
 悔しさに涙を流すボクを慰め、寮まで送ったその後で、プロデューサーが一人事務所で涙を流していたことを。
 後悔とは、とても厄介なものだ。先に立たないモノだから、決して対策を講じることはできず、たいていの場合は予想だにしない形で、ボクの心に楔の様に突き刺さる。
 今回ボクに突き刺さったそれは、今までで一位二位を争う規模で、だからボクはこんなにも苦しんでいる。
 俯いていた顔を上げようとする、逃げる事をやめようと思った。
 きっと、顔を上げればそこには怒りの表情を浮かべたプロデューサーが――いや、もしかすれば悲しみの表情かもしれない、どちらにせよ、ボクの見たくない、ボクが見たかったのとは逆ベクトルのそれがそこにあるのだろうと思った。
 ――思ったら、怖くなってやっぱり顔を上げられなかった。

「なぁ、飛鳥」

 ピクリ、と肩を震わせてしまう。いつもなら安心感さえ覚えるその声は、今はなんだかとっても恐ろしかった、それはとっても寂しい事なと、より一層涙が溢れた。自覚するとどんどん沈み込んでいく心、それを引き戻したのは、続く言葉。

「飛鳥さ、なにか勘違いしてるよ、俺は別にそんなに気にしちゃいない――」

「嘘は……つくもんじゃないよ、プロデューサー」

 絞り出すように、弱々しい声が事務所に溶ける。

「ボク知ってるんだ……ごめんね、ボクの力不足だった、ほんとに、ほんとに申し訳ないと思ってるよ、だから嘘なんてつかないんでいいんだ」

 ほんとにか細い声だけれど、それでも続けた。

「ボクは知ってるよ、プロデューサーが泣いてたのも、知ってるんだ。結果発表の夜、一人で泣いてた。キミはボクを理解ってくれているから、なによりも、誰よりもボクに優しいから、あの日一人で泣いたんだろう?」

「なっ!? ……見てたのか、はは、なんだ、見られてたのかよ、格好悪いなぁ、もう」

 漏れ出てた力のない笑声、きっと今プロデューサーはひどい顔をしているのだろう、それが怖くて結局ボクは顔を上げられない。
 いつも斜めに構えている、なんて言われていい気になっていたボクは、結局肝心なところでこの様だ。
 プロデューサーを前に、ここ一番で斜めになんて構えられない。どうしようもないくらいに『痛いヤツ』。

「あー、格好悪いなぁ、もう……――でもな、それでもな、違うぞ」

 ここにきて、まだボクを庇うのか、やめてくれよ、これ以上はもう、ボクがボクを許せなくなりそうだ、これ以上惨めな思いはしたくないんだ。

「――ッ まだ、まだそうやって! なにが違うっていうんだい!」

「違うんだよ! 俺は別に、お前を庇おうとしたわけじゃない! そこが違う! だから……だから! そんな顔するな」

 頬に触れたあったかい感触、まっすぐに見つめてくる二つの黒――ああ、なるほど、ボクは顔を上げたのか。
 大きな掌が、ボクの顔をまるで割れ物にでも触るかのような慎重さで触れた。涙を払うようにボクの顔を撫でる。すごく心地良い。ふと気がつく、目の前のプロデューサーの表情が自分の想像していたそれとはかけ離れている事実に。
 強い顔――それは言葉としては、日本語としては間違っているのだろうが、けれど一言でその表情を表そうとすれば、それが一番しっくりくると思えたのだ。
 凛々しく、雄々しく、なによりもまっすぐ前を見つめていた。

「俺はさ、俺が情けなくなったんだ。一人で舞い上がって、勝手に落ち込んで、それで飛鳥には何もしてやれない、叩き落されて初めて気がついたんだ、俺は自分勝手に喜んで、それで結果お前に向かうプレッシャーとか、そういうの一切考えてやれてなかった……ほんとに、ほんとにごめんな。挙句に体制気にして隠れてシクシクとか、笑えないよな。そんなに苦しませてしまったのは、俺の責任だ」

「そ、そんなことないさ、ボクだって、ボクだって嬉しかったんだ。ボクにアイドルっていう非日常を見せてくれたキミに、非日常をくれたキミに、やっと恩が返せたんだって、だから……自分勝手なんかじゃあないよ。だからボクにこそ責任が――」

「いや、俺に――」

「いやいや、ボクに――」

「いやいやいや、俺に――」

「いやいやいやいや――って、ふふ、これはいつまで続くんだろうね」

「はは、ははは、まったくだ、いや、本当に」

 ああ、やっぱりすごい。

 プロデューサーは結局、ボクからまた『なにか』を奪っている。あっという間だ、どこで奪われたのかなんて全然気が付けない。でも確信だけは持てる、だって、今こうして笑いあえているのだ。
 実際問題、なにも解決なんてしてないのに、なのに、なんだか今は見えてる世界が違う気がする。

「結局、ボクは悪かったんだよね、それは変わらないはずなんだ、なのになんなんだろうね、キミはとても不思議だ」

「言い出すなら俺だって、なにも変わっちゃいないんだ、悪かったんだから、今回はお互い溜めこんでたのが悪かったんだ、きっと」

「そうだ、、そうしよう、そこで折り合いをつけてしまおう、でなければボクらはずっーと、同じことを繰り返しそうだ」

「なにより、前を向こうぜ、そうしよう。俺がんばるからさ! これまで以上に飛鳥の素晴らしさを周りに伝えるんだ! 仕事もそうだし、ライブだって、絶対もっと飛鳥は輝ける! ……って、これじゃあまたプレッシャーを与えてるな」

「ううん、そんなことないさ、ボクを一番理解ってるキミがそういうなら、きっとボクはまだまだ輝けるんだ。非日常はすぐそこにあって、でもまだまだ果ては遠い、さぁ、目指そう、一緒に!」

 そういって、ボクは顔に添えられたその手を取る。温もりを手放すのは少しだけもったいなかった気もするれれど、今はそれどころではない。
 がっちりと、しっかりと、手を握る、握手――ううん、違うね、もっと大きな意味をもつ何かだ。

「果てしない、最果て(トップアイドル)を!」

 今回プロデューサーが奪っていったのは、きっと楔だけ。だから根本はなにも解決していない、でも考えてみれば人間はいつだって要らない物をたくさん抱える生き物じゃないか。
 だから、きっとこの悔しさと悲しみは、ボクの一部として、これからずっと引きずっていくのが正しいのだ。
 切り捨てること、振り切ること、諦めること、前に進む方法はそれだけじゃない。
 逃げだと笑われるかもしれない、ならば笑えばいい、ボクはそれだって引きずって、きっちり果てまで逃げ切ってやるまでだ。

「さぁ、もっとボクに非日常を見せてくれ!」

 それが、ボクの新しい居場所なのだから。






「おう! まかせとけ! そのわけわからなさが飛鳥の最大の武器だぞ!」

「……よし、プロデューサー、熱々のお茶を用意しよう」

                                       おわり

無事終了です
二宮飛鳥はほんとに可愛い、こんなわけのわからないSSを書いてしまったのも全部飛鳥が可愛すぎるのがいけないんだ。

いろいろ教えてくださった方ありがとうございました。
初SSだったのですが、思っていた以上に四苦八苦でした、書いてるうちに目指していた地点がころころ変わっちゃって
青い鳥の伏線回収忘れてて泣きそう

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