兄「妹にはやっぱ爆発だな」 (54)

兄「うー寒い寒い、朝はやっぱ冷えるなあ…」

妹「あ、おはようございますお兄様」

妹「珍しく早起きですね?」

兄「たまたまだたまたま」

兄「それより妹、火をくれ火を」

妹「わかりました、私の指の近くにどうぞ」

兄「おう」

ボッ

兄「あーあったかい、やっぱ便利だなこれ」

妹「お役にたてて何よりです」

妹の指先からは火が出ている。

ライターとか使ったわけでも、マッチとか擦ったわけでもない。

こいつは念ずるとどこにでも火を放てる。

なぜかって?


それはうちの妹が超能力者だからだ。

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妹がはじめに超能力を使ったのは、彼女が五歳の頃。

台所でこけそうになった母親を起こそうとしてサイコキネシスを放った。

母は驚き、父といろいろ相談して、施設に隔離でもしようかと考えたらしい。

しかし俺が説得し、なんとか妹は家族の一員のままでいられた。


―――が、彼女の超能力はそれだけに終わらなかった。

小学三年生の頃、テレパシーやテレキネシスを発現。

小学六年生の頃、発火能力やサイコメトリーを発現。

中学二年の頃、瞬間移動や透視、千里眼を発現。

他にも色々能力をもっているが、俺の観測した限り、今の妹の能力の数は99にものぼる。

フルに使えば、一国を滅ぼすくらいは朝飯前の力を持っているだろう。

近所でも妹のことは有名で、英雄視するやつもいれば、煙たがって冷たくするやつもいる。

良くも悪くも、人とは違う存在なのだ。

それでも妹の存在を認めてくれる人がいるのは、俺はありがたいことだと思っている。

妹自身も、きっとそうだろう。

ただ、超能力者としての妹の名が知れて、もっとも危惧すべきことは…


悪用する奴が現れること。


今のところそんなやつの話は聞いたことないが、いつこいつのことを嗅ぎ付けてやってくるかはわからない。

兄として、家族として、俺が守ってやらなくては。

妹「お兄様、なにをぼーっとしてらっしゃるんですか?」

兄「ああいや、別に」

兄「それより高校生活はどうだ、慣れてきたか?」

妹「むう、らしくないこと聞きますね、熱でもあります?」

兄「うるさいな、いいだろ別に」

妹「私の超能力サーモグラフィーによるとお兄様は少し熱っぽいです」

兄「火にあたってるからだろうが」

妹「ああ、なるほど」

兄「…それで?」

妹「ええと…女子たちの多くは気味悪がったり、私の陰口を言ったりしているようですが…」

妹「それも全員じゃありません、一部の娘たちは優しく接してくれます」

兄「そうか、それならよかった」

妹「男子のほうは、押しの強い子が多くて困ってます…」

兄「くっ、うちの妹がかわいいからって…悪い虫がつきそうならすぐ言えよ?」

妹「か、かわいいだなんてそんな…」

兄「当たり前だ、お前は俺の自慢の妹だからな」

兄「何かあったらすぐ兄貴を頼れ、いいな?」

妹「はい…短小包茎ですけど」

兄「透視を使うな透視を」

ピンポーン

兄「あれ、こんな朝っぱらから来客かよ」

妹「お兄様、私が出ます」

兄「変な勧誘とかだったら能力使って追い返していいよ」

妹「わかっています」

ガチャッ

妹「はあい」

科学者「どうも」

妹「…あの、どちらさまでしょうか?」

科学者「私は科学者というもの…超能力者の妹さんがこちらにいると伺ってやってきた次第」

妹「ええと…それなら私ですけど…」

科学者「おお、あなたが!失礼、顔写真を拝見したことがなかったもので」

妹「いえ、それより私に用とはいったい…?」

科学者「…それについては、少し長くなりそうでね…迷惑でなければお邪魔させてもらいたいのだが…」

妹(…テレパシーで見る限り、嘘はなにもついていない…信用してもいいでしょう)

妹「…わかりました、どうぞ上がってください」

科学者「申し訳ない」

兄「…粗茶ですけど、どうぞ」

科学者「いやいや、お構いなく」

兄「それよりもあんた…いったい何者なんです」

科学者「…警戒されているようだね、当然か」

科学者「私の名は科学者、こう見えても超能力研究の第一人者といわれている」

兄「超能力研究の第一人者…」

兄「…ってことは、妹の力を、悪用しようって魂胆じゃ…」

科学者「ああ…困ったことに職業柄、うちの同僚には実際そういうやつがいる」

兄「……」

科学者「だがしかし彼女は実験動物ではない、れっきとした人間だ」

科学者「たしかに我々にとって妹さんが興味深い存在であることに違いはない」

科学者「とはいえ、私利私欲のために彼女に何かしようというほど、我々は落ちぶれてはいないつもりだ」

科学者「それにそもそも、我々は既に厚意ある超能力者に実験体となってもらって研究を進めている」

科学者「だから妹さんに協力してもらう必要性は現状ほとんど無いと言える」

兄「ならよかった…その同僚って人にも、念押しといてくださいよ?」

科学者「無論、その辺はぬかりなく」

妹「…科学者さん、そろそろ本題に入っていただきたいです」

科学者「ああ失礼、長くなったね」

科学者「…しかし本当は君、テレパシーで私の考えはわかっているだろう?」

妹「…はい」プルプル

兄「妹…どうした?震えてるのか?」

妹「い、いえ…大丈夫です…」

兄「…俺がそばにいるから、怖がる必要なんかない」

妹「お兄様…」

科学者「…彼女の口から話してもらったほうが手っ取り早いのではと思ったが」

科学者「その様子じゃ、無理に話してもらうこともないね」

科学者「お兄さん、落ち着いて聞いて…そして、冷静に事実を受け止めてほしい」

兄「…は、はい…」


科学者「…あなたの妹さんは今日の夜…100番目の超能力に覚醒する」

科学者「そしてそうなったとき…妹さんは…」


科学者「この街を巻き込み、爆発する」


兄「…え?」

科学者「…今言った通りだ」

兄「な…何言って…ば、爆発?」

科学者「そう」

兄「え、えっと…よく意味が…」

科学者「そうだね…もう少し噛み砕いて説明するならば」

科学者「…今夜妹さんの新しい能力が目覚めれば、彼女はこの街を爆発に巻き込んで…」

科学者「…死亡する、ということだ」

妹「……」

兄「なっ…なに馬鹿な事言って…!」

科学者「――俺が妹のそばにずっといて、誰よりこいつのことをわかってる…」

科学者「…だから、そんなのデタラメだろ」

兄「…!」

科学者「あなたは、そう思っている…違うか?」

兄「…あんたも超能力者なのか」

科学者「いいや私は違う、さっきも言った通りの、何の能力もないしがない科学者さ」

科学者「…だが超能力者の研究ばかりしているうちに、簡単なテレパシー…」

科学者「…せいぜい読唇、読心術の発展形にすぎないが、その程度のことなら技術化できるようになってね」

科学者「まあもっとも、今の君の心理くらいならそんなもの使わなくても読み取れる」

科学者「なにしろ、巷で今最も有名な超能力者の、その親族なわけだからね」

兄「……」

兄「…妹、彼の言っていることは…本当、なんだよな」

妹「…はい、嘘はついていません…一回も」

兄「…お前、知ってたか…?」

妹「……」フルフル

科学者「…超能力者は自分の発現する能力を予知することはできない…未来予知をもってしても」

兄「…まあ、昔っからそうだったもんな…」

科学者「…ちなみに我々は今まで似た例を幾度となく見てきた」

科学者「我々の実験に協力してもらった超能力者たちは…みな100番目の能力は【自爆】だった」

兄「…もしかして、その度に街が滅んだり…?」

科学者「いや、我々の監視下にある人々は街を滅ぼしてなどいない」

科学者「我々の研究施設に、爆発する超能力者を隔離する部屋が存在するからね」

科学者「…ただ、我々の知らないところに存在する超能力者がどうなっているか…」

科学者「…また、その住処がどうなっているかは、当然ながら我々の知るところではない」

兄「……」

妹「…そもそも、私以外に超能力持ってる人って…そんなにいるんですね」

科学者「意外だったか?」

妹「はい…私もそんな人たちと会えてたら…今よりもっと、変わってたのかもしれませんね…」

兄「妹…」

科学者「…本当はもっと早くに伝えに来るつもりだったんだが…こちらも忙しかった」

科学者「こんな形で伝えることになってしまって…本当に申し訳なかったと思っている…」

兄「…あなたたちが、なんとかしてくれることは…できないんですか」

科学者「…すまない、少なくとも現研究段階の成果では…どうにも…」

兄「…そう…ですか…」

科学者「…ただ…」

兄「…?」

科学者「…いや、余計な希望を持たせては酷だ、忘れてくれ」

科学者「身勝手だがそろそろお暇させていただきたい」

科学者「それにこれ以上、私なんかに時間を取らせても嫌だろう、二人とも」

兄「いえ、そんな」

兄「お気遣いありがとうございます…はじめは疑ってすみませんでした」

科学者「何、慣れているさ…それに君が謝ることなどないよ」

科学者「時間になったら我々の施設に来てくれ、そこで―――」

妹「はい、わかっています」

科学者「…そうか…住所と時間を記した紙はここに置いておく、遅れないように頼む」

妹「はい」

科学者「…では、失礼…邪魔したね」

兄「ありがとうございました」

ガチャッ バタン

兄「……」

妹「……」

兄「…悪い人じゃなくて、よかったな…」

妹「…はい」

兄「……」

妹「…お兄様」

兄「…なんだ」

妹「私、私…うっ」

兄「……」

妹「私…死にたくありません…うっ、うう…」グスッ

兄「…妹…」ギュッ

妹「…うっ、うっ、ううっ…うわああああああああああ!!!!」

兄「妹…」

…かけてやる言葉が、何も見つからなかった。

ただただ、黙って抱きしめてやることしか。

それだけしか、俺にはできなかった。

兄「…落ち着いたか?」

妹「はい…すみません」

兄「謝るのはこっちだ、何もできなくてごめん」

妹「いえ…そばにいてくれただけで十分です」

兄「妹…」

兄「…こんなこと言うのもなんだけど…まあ、悲観しててもしょうがないし」

兄「何か楽しいことしようか!」

妹「楽しいこと、ですか?」

兄「おう!どっか行きたいとことか…やりたいこととか、ないか?」

妹「んー…それなら」

兄「?」

―――

兄「遊園地…ほんとにここでよかったのか?」

妹「はい…テレパシーがうるさいから、来るのはこわかったんですけど」

妹「…これで、最後なので」

兄「……」

妹「あっ、辛気臭いのは無しでしたよね!」

妹「私、ジェットコースター乗りたいです!」

兄「…よーし、わかった!一緒に乗ろう!」

兄「速いからって、びびってちびるなよ?」

妹「そんなに子供じゃありません!」

―――

兄「あー楽しかった…妹はどうだった?」

妹「すっごく楽しかったです!ちょっと酔っちゃいましたけど…」

兄「…でも乗ってる間、大分叫んでたよな?『きゃー助けてくださーい、死んじゃいます―』ってさ」

妹「なっ、やっ、やめてください!恥ずかしいです…///」

兄「あはは、ごめんごめん」

兄「次は何乗る?」

妹「連続絶叫系は嫌ですから…コーヒーカップがいいです」

兄「あれも酔いそうだけど、いいの?」

妹「えっ…そうなんですか?」

兄「だってぐるぐる回るしさ」

妹「うー…どうしましょう…」

兄「…迷ってても仕方ない、行こうぜ!」グイッ

妹「あっ、ちょっと!」

―――

兄「…今度はどうだった?」

妹「た、楽しかったですけど…想像以上に速く回りますね…」

兄「もう少し遅くもできたんだけどな」

妹「お兄様、いじわるしたんですか!?」

兄「あはは、まあまあいいじゃんいいじゃん」

妹「むむー…じゃあ今度はあれがいいです」

兄「えっ…お、お化け屋敷?」

妹「…あれ、なんですかその顔は?もしかして行きたくないとか…?」

兄「そ、そそそんなわけないだろう、行くぞ!」

妹「ふふ、はあい」

妹(聞こえます、心の声で『怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い』と言っているのが…)

―――

兄「…く、暗いな」

妹「そうですか?十分明るいじゃないですか」

兄「…お前の目は明度変えられるからいいだろうけどさ…!」

『あーかったりぃ…段々驚かすの疲れて来たな…』

妹(…あ、曲がった先にお化け役の人が…)

妹(…でもお兄様には内緒にしておきましょう)

兄「しかしお化けなんていないじゃねーかどこにも」

兄「こりゃあ楽勝…」

お化け「キェエェェエェエェェェェエェエエェ!!!!!!!!!!!」

兄「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

妹「…おもしろい」

―――

兄「ぜぇ、はあ、ぜぇ、はあ…」

妹「お疲れ様です、ジュース買ってきました」

兄「わ、悪いな…」ゴクゴク

妹「いえ、いいもの見させていただきましたから♪」

兄「…お前、いやなやつだなー…」

妹「褒めてます?」

兄「褒めてない!お前絶対お化けあそこにいるってわかってたよな!?」

妹「もちろん♪」

兄「ったく、教えてくれたっていいじゃねーか、マセガキめ…」

兄「…で、次はどうする?」

妹「えっと…かんらん…」

兄「…?」

妹「…よりも、先にあれがしたいです!」

兄「あれ?」

―――

兄「…あれって、映画鑑賞のこと?」

妹「はい!テレパシーで毎回ネタバレ食らうので、なかなか来る気になれなかったんですが…」

兄「…似たような悩みを持ってる超能力者を知ってる」

妹「さ、ネタバレされないうちに早く!」

兄「はいよ」

―――

兄「恋愛ものか」

妹「…もう誰と誰がくっつくかわかっちゃったんですけど…」

兄「そ、そりゃご愁傷様…でもせめてくっつくまでの経緯を楽しもうぜ」

妹「なるほど、そういう見方をすればいいんですね」

兄「そうすりゃ退屈しないだろう」

妹「はい!」

―――

兄「いやーまさかあいつらがああなるとは」

妹「私もびっくりでした…まさかあんなふうにくっつくなんて」

兄「な?結末わかってても、大事なのは過程だ」

兄「それがわかってりゃネタバレ食らっても楽しめる」

妹「そうですね…ありがとうございます!新鮮な気持ちです」

兄「そうか、そいつぁよかった」

妹「…まあ、それでも知らないに越したことはないと思いますけどね」

兄「それを言うな」

―――

妹「お兄様!私、次は買い物がしたいです!」

兄「買い物?でもそれは―――」

妹「――…今日で死ぬ私には、必要ないだろって?」

兄「あ、いや、そんなこと…」

妹「…私に嘘は通じませんよ」

兄「…ごめん…」

妹「いえ、いいんです…それは私だってわかっていることですし」

妹「…でも私、一度思いっきりショッピングしてみたくって」

兄「…そうか、女の子だもんな」

兄「よし、行こう!」

妹「はい!」

―――

兄「…お菓子、ぬいぐるみ、花、洋服…さすがに買いすぎじゃ…」

妹「いいんですよ、代金はすべてお兄様もちですから!」

兄「…ほんっとに容赦ねえなあ…」

妹「…それとも、やっぱりだめですか…?」

兄「…そんなわけないだろ?さ、今度はなに買うんだ?」

妹「お兄様…えっと、下着売り場に!」

兄「おいばか!なんでわざわざ…」

妹「どきっとしました?」

兄「…し、した」

妹「…妹の下着に、ですか?」

兄「ち、ちが…ばかやろう、からかうなら金出さないぞ?」

妹「えー」

兄「えーじゃない!」

―――

妹「あー楽しかった!」

兄「よかったよかった…が、量が多すぎる…」

妹「…その…実はまだ行きたいところがあるんですけれど…」

兄「い、行くのはいいけど、先にこれ置いてきてもいい?」

妹「あ、はい…ですよね、すみません…」

兄「き、気にするな気にするな…あはは」

妹「えっと…前見えます?お兄様」

兄「まあ、なんとか」

妹「危なくなったらサイコキネシスで支えますから」

兄「支えるんじゃなくて、お前がそれで持ってくれよ」

妹「…あ、そっか」

兄「…お互い今更気づいたな」

妹「ですねー…」

妹「でも五個以上同時に物体操作するとコントロール利かなくなっちゃうので…」

兄「ああ、五個も持ってくれれば十分だよ」

妹「わかりました」ヒョイヒョイッ

兄「うわ、大分軽くなった」

妹「それはよかったで―――」

兄「…?…妹?」

妹「…10キロ先、小さな男の子が事故に遭いそうです」

兄「なんだと…!」

妹「行ってきてもいいですか?お兄様」

兄「当然だ、荷物は任せて行って来い」

妹「ありがとうございます!」シュンッ

兄「…千里眼と瞬間移動、サイコキネシスで人の命が守れるんだもんな」

兄「改めて思うけど、やっぱすごいやつだな…」

兄「…あっ、ていうかアポート使えば荷物持つ必要なかったんじゃ…」

兄「…まあいいか」

―――

キキィィイィイィイィィ!!!!!!!!

運転手「バカヤロー、危ねえだろ!飛び出してくんなガキ!」

妹「ふう…間に合った」

妹「大丈夫?ボク」

男の子「うん!ありがとー、エスパーのおねえちゃん!」

妹「ふふ、お姉ちゃんのこと知ってるの?」

男の子「うん!ボクね、おねえちゃんのことだいすき!」

男の子「ちょうのうりょく、すっごくかっこいいんだもん!」

妹「そうかな?いいことばかりじゃないんだけどな」

男の子「だいじょうぶ、おねえちゃんつよいもん!」

男の子「ボクもおねえちゃんみたくつよくなりたい!」

妹「お姉ちゃんは、強くなんか…」

男の子「ボクしょうらい、エスパーになるのがゆめなんだ!」

妹「…エスパーに?」

男の子「うん!そうしたら、ボク、いっぱいいろんなひとのことたすけたい!」

男の子「…そのときは、いっしょにひとだすけしようね!」

妹「……」

妹「…うん、絶対」

母親「…ちょっと男の子くん!危ないでしょ飛び出したりしたら!」

母親「すみませんうちの子が迷惑かけてしまって…」

『…この子、最近テレビでよく見るインチキ娘?…超能力なんて嘘っぱちでしょ、どうせ』

妹「……」

妹「いえ、そんな」

母親「超能力使って助けてくださったんですよね?本当に、ありがとうございました」

『きっとトラックの運転手さんが避けてくれただけよ、この子はなんにもしてないんでしょうね』

妹「……」

妹「…いえ、いいんですよお礼なんて」

妹「それじゃあ、私はこれで…」

―――

妹「お兄様、無事に助けてきました!」

兄「いや、無事じゃないだろ」

妹「へっ…」

兄「顔見ればわかる、また嫌な目で見られてきたな?」

妹「…それは…でも、もう慣れっこですし!」

兄「嘘吐くなよ、明らかに悲しい目をしてる」

妹「……」

兄「…偏見の目があるのは仕方ない」

兄「仮に力を証明したって、化け物扱いされかねないからどうしようもないのもわかってる」

兄「…だからせめて、つらいならつらいって言え」

妹「うう…お兄様ぁ…」

兄「…よしよし」

妹「…でも、つらいのは…それだけじゃないんです…」

兄「…?」

妹「…人の悪意も人の善意も、テレパシーだと筒抜けなんです」

妹「…純粋に無邪気に、私の助けたあの男の子は…エスパーになりたがってた」

妹「そして…将来私と一緒に人助けしようって…」

兄「…そうか」

妹「…私にはもう…明日なんて来ないんですよ…」

妹「でも…そんなこと、そんなこと言えない…!」

妹「私…私、まだ生きたいのに…!」

妹「せっかくこんな力持ってるのに…何もできずに死ぬんなら…」

妹「私…何のために超能力者として生まれたんでしょうか…」

兄「……」

―――

妹「……」

妹「…お兄様、まだ続けるんですか…?」

兄「…死ぬか生きるかの問題は後だ」

兄「お前が来たいって言ったんだろ、水族館」

妹「そうですけど…」

兄「だったら、とりあえず今は楽しもう」

兄「悩んで時間食うより、楽しんで時間食ったほうが気分いいだろ?」

妹「…そうですかね」

兄「そうそう!ほらはやく行こうぜ?」グイッ

妹「あうっ」

―――

妹「わあ、イルカだー…おっきい…」

兄「ショーもやってるみたいだけど、見に行くか?」

妹「見たいです!あ、でもまだ時間あるみたいですよ?」

『イルカショー何時からだっけ?』
『んーと…あと三十分後だねー』

兄「そうか…じゃあそれまでなんか魚でも見てるか」

妹「はい!」

―――

妹「お兄様!カクレクマノミですよ!」

兄「ああ、ニモか」

妹「はい!いるんですねえ水族館に」

兄「そうだなあ…あ、あっちマンボウいるぞ」

妹「うわわわマンボウ!?すごい、おっきい!」

兄「マンボウってすぐ死ぬらしいな、めっちゃ繊細だとかなんとか」

妹「えー!?ほんとですかそれ」

兄「詳しくは知らないけどね」

兄「ただ、その分いっぱい卵産んで、生き残りが出るのに賭けるんだと」

妹「そうなんですか…」

兄「質より量のギャンブルだけど、弱くても明日につながる力があるってのはいいよな」

妹「…お兄様…」

兄「…あーごめん、他意も悪気もない、行こう」

―――

妹「わーすごい!ジャンプしましたよジャンプ!」

兄「まあイルカだしなー」

妹「…反応薄いですね」

兄「いやだって、すごいのはこれからだぜ?ほら、見てろ」

妹「…?」

兄「ほらあれ、輪くぐり!」

妹「うわっ、すごーい!」

兄「ボール遊びもしてるぜ」

妹「器用ですねえ…すごい」

兄「あんまり乗り出すと水飛沫かかるから気をつけろよ?」

妹「かかりません、念力バリア張ってるので」

兄「ああそう…つくづく便利だな、超能力」

―――

妹「あー楽しかった!でもすっかり夕方になっちゃいましたね」

兄「そうだなー…」

妹「…ねえお兄様」

兄「…ん?」

妹「私、最後に…絶対に行きたい場所があるんですけど」

兄「どこだ?」



妹「…観覧車、二人で乗りましょう」

―――

妹「わあ、たかーい…」

兄「ああ、夕日も見えるぞ」

妹「本当だ…きれーい…」

兄「…なんか、信じられないな」

妹「何がですか?」

兄「もうすぐ、お前が…死ぬなんて、さ」

妹「せっかく忘れてたのに…」

兄「…ごめん」

妹「いいですよ、現実逃避しても仕方ないですから」

妹「…私にもやっぱり、信じられませんよ」

妹「お兄様と過ごす一日も…今日が最後だなんてね」

兄「……」

妹「…最後だから、私…伝えておきたいんですけど」

兄「…ああ」

妹「私…私、お兄様のことが、好きです」

兄「…ああ、知ってる」

兄「俺も好きだよ、お前のこと」

兄「兄妹だもんな」

妹「お兄様―――違うんですよ、私は…!」

兄「やめろ、それ以上言うな!」

妹「…お兄様」

兄「…今より別れが、つらくなるだろ」

妹「…それは…確かにそうかもしれませんけど…」

妹「それは…私だってそうですけど」

妹「でも、だけど…やっぱり、伝えておきたいです」

兄「…!」

妹「だって今伝えないと、私…絶対に死んでからも後悔します」

兄「妹…」

妹「…実はお兄様の気持ちもわかってるんですよ、テレパシーでね」

兄「…はは、せっかく観覧車なのに、それじゃムードもへったくれもねえな…」

妹「えへへ…だけど、嬉しいですよ?」

妹「相手の心がわかっていれば…好きって言葉を疑わなくても済むじゃないですか」

兄「…ああ、そうかもな」

妹「超能力じゃできないこともある」

妹「超能力なんていらないってときもある」

妹「でも私、超能力者でよかったです」

妹「…そのおかげで、こんなに好きって伝わるんだから」

兄「やめろ、照れくさいだろ…」

妹「…ふふ、お兄様」

妹「超能力じゃ、あなたに好きって伝えられないから」

妹「私、直接言います、示します」

兄「…し、示す?」

妹「はい!」スッ

ちゅっ

兄「…っ!///」

妹「大好きです、お兄様♪」

兄「…ほんとにませたガキだな、お前は…///」

兄「…俺も大好きだよ、妹」

妹「えへへ…嬉しいです」

妹「今日…私、最高の一日になりました!」

妹「お兄様…本当にありがとうございました!」

兄「…いや、こっちこそ楽しかった…ありがとう」

妹「えへへ…」

妹「……」

妹「……」

妹「…そろそろ、時間ですね」

兄「…ああ…段々暗くなってきたもんな」

妹「…行きましょう、お兄様」

妹「最後まで…見届けていてください」

兄「…ああ、もちろん」

―――

科学者「ようこそ二人とも、私の施設に」

科学者「…どうだった?一日有意義に過ごせたか?」

兄「はい、おかげさまで」

妹「……」ペコリ

科学者「そうか、それならよかった…」

科学者「しかし本当なら、もっと前から同じように過ごせたはずなんだがね…」

科学者「重ねてお詫び申し上げたい、すまなかった、私のせいで…」

妹「やめてください、謝らないで」

妹「そんなに前から言われていても…悩む時間が増えただけ、怯える時間が増えただけです」

妹「私は…知れたのが今朝で、よかったと思ってますから」

科学者「妹さん…すまない」

妹「…部屋はどこですか?連れて行ってください、未練のないうちに」

科学者「ああ、そうだね、そうしよう…ついておいで、こっちだ」

兄「……」

―――

妹「…何もない、真っ白い部屋…」

科学者「…ここで君はあと10分程待機していてほしい」

妹「…そうすれば、能力が目覚め…私は爆発する…」

科学者「…そうだ」

妹「わかりました…覚悟はできているつもりです」

科学者「すまないな…本当に…」

妹「…いえ」

科学者「…それでは、私は外で待機しているよ」

妹「はい」

―――

妹「…これで五分」

妹「特に何も変わりはないけど…やっぱり、一分前くらいになったら…」

妹「……」

妹「…あれ、おかしいな…震えが…」

妹「お兄様、お兄様…!」

妹「…聞こえないんですか…?外から、ガラス越しに見えているのに!」

妹「…うう…怖い…怖い、怖い…!」

妹「怖いです…私、やっぱり嫌です…まだ死にたくないです…」

妹「私…まだ生きたいですっ!!」

妹「お兄様と手をつないで一緒に歩きたいです」

妹「お兄様とキスしたい、えっちなこともしたいです」

妹「ウェディングドレスもまだ着てない、子供もまだ産んでない、孫の顔も見てない!!」

妹「一日じゃ…私、やりたいこと全部できないです!!」

妹「やり残したことが、大きすぎます…!」

妹「お兄様、お兄様!私、お兄様が大好きです!」

妹「また…またそばにいてほしい…抱きしめてほしい…」

妹「こんなっ…こんな何もない寂しい場所でっ…」

妹「私っ、死にたくないっ!!!!」

妹「うっ…ひっく、ぐすっ、えぐっ…」

パァァァ…

妹「…光ってる…私の体…」

妹「能力が、目覚める前兆…?」

妹「やだ、やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ…!!!」

妹「うっ、ううぅっ、ふぅ…っ!!」

妹「あっ、ぎっ、ぐぁ…ぁっ、いやっ、いやああああああ…!」

妹「おにい、さ、まぁ…!!」

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―――

兄「…妹…妹、妹おおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

科学者「……」

兄「……なあ、科学者さん…妹は、どうしてこんな…」

科学者「…かつて超能力者たちは…戦争に利用されていた時代があった」

科学者「彼らは自分たちのそんな運命に嫌気がさして…自分たちの能力に手を加え」

科学者「一定の能力値を超えることで自爆、自らの長寿化を防いだ…といわれている」

科学者「これはおそらく…超能力者たちすべてのさだめなのかもな…」

兄「…理不尽だ…そんなの…」

兄「時代は変わっただろ…もう、戦争なんかしなくていいのに…」

兄「妹は…そんな時代の遺物に巻き込まれて死んだっていうのかよ…」

科学者「…確かに妹さんは死んだ…」

科学者「だが、気休めかもしれないが…私にも信じがたいが、希望はある」

兄「…なに!?」

科学者「いや、私が話をするより…あれを見たほうが早いな」

兄「え…」

兄「なんだ、あれ…肉塊が集まって、妹に戻っていく…!?」

科学者「…妹さんの100の能力をあとから詳しく調べたんだが…」

科学者「どうやら彼女の能力のうちに【治癒】の能力があったようだね」

兄「…もしかして、それで蘇生を…!?」

科学者「ああ…治癒能力持ちの能力者は非常に珍しく、私も過去に一件しか例を見たことがなくってね」

科学者「だからろくに調べもせずに爆発の件だけを話し進めてしまった」

科学者「君たちには…詫びても詫びきれないね…」

兄「…じ、じゃあなんでさっき言ってくれなかったんですか…!?」

科学者「…さっきも言った通り、気休めになっては気の毒だと思った」

科学者「治癒能力持ち自体珍しすぎて、結果が未知数だったからね」

科学者「それに二人とも強い決意が瞳に表れていたから…邪魔はできなかった」

科学者「言い訳ばかりになるね…本当にすまない」

兄「…いえ、それより…妹、妹!」

タッタッタッタッ

妹「お兄様、お兄様…!」

兄「妹…生きてるぞ、お前!」

妹「はい!」

兄「まだ生きられるんだ!」

妹「うう…はい!」

兄「明日も明後日も明々後日も…その先ずっとまで、お前は生きてられる!」

兄「男の子とした約束だって…叶えられるんだよ!」

妹「はい…はい!」

兄「よかった…本当によかった…」

妹「えへへ…私、やっぱり超能力者に生まれてよかったです!」

―――

兄「うー寒い寒い、朝はやっぱ冷えるなあ…」

妹「あ、おはようございますお兄様」

妹「珍しく早起きですね?」

兄「たまたまだたまたま」

兄「それより妹、火をくれ火を」

妹「いえ、生憎火は切らしているので…」

兄「え?」

ムギュッ

兄「…あっ…///あーあったかい、やっぱ便利だなーお前はー!///」

妹「お役にたてて何よりです」

兄「…ったく、急に大胆になりやがって…」

妹「胸があたってるの、意識してるんですか?」

兄「なっ、て、テレパシー使うな!恥ずかしいだろうが!///」

妹「いいじゃないですかあ、私たちしかいないんですから♪」

兄「…あーもう!」

妹「お兄様?」

兄「なんだよ!」

妹「大好きです」

兄「……」

兄「…俺も、大好き」

妹「…♪」

―終―

―おまけ―

兄「…どーん」ボソッ

妹「!?」

兄「どかーんどかーん」ボソッ

妹「ひ、ひぃっ…」

兄「ニュースーパーダイナマイト」ボソッ

妹「や、やめてください!」

妹は例の事件以来爆発がトラウマになってしまったらしい。

やりすぎない程度にだが、からかっているとわりと面白い。


兄「妹にはやっぱ爆発だな」

兄「効果てきめんだわー…」

兄「…どかーん」ボソッ

妹「や、やめてくださいいいいいいい!!!!!」

はい
依頼出してきまーす

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