女戦士「眠りの森?」 (103)
女戦士(胸を張って言おう。私は女の子が大好きだ)
女戦士(いや、子じゃなくても、竿と玉がなければどんな人でも愛せる自信がある)
女戦士(そんな私は、ある噂を耳にして、それなりに深い森の中を進んでいた)
女戦士(なんでも一人の女性が眠っているとの事だ)
女戦士(ただの女性ではない。あまりの美しさゆえに、魔女によって眠りにつかされた絶世の美女)
女戦士(その話を聞いて黙っていられる私ではない。即決、即行動。迷いも躊躇いもなく、森に入った)
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女戦士(道のりはそれなりに厳しい物ではあった。険しい獣道。四方八方から襲い来る魔物たち)
女戦士(誰一人として、噂の美女を起こせないという事に納得出来る難易度だった)
女戦士(しかし私は単身で辿り着いた。体の内側から溢れるレズパワーのおかげで)
女戦士(なのに……なのに……)
オッサン「グゴー……グゴー……」
女戦士「オッサンじゃん! くっせぇオッサンじゃん!」
女戦士「おっかしーと思ってたんだよなー! 険しいちゃ険しかったけど、ここまで近くの村から半日で来れるしさ!」
女戦士「その村で情報を集めると、みんなして後悔するからやめとけって憐れんだ目で見て来たしさ!」
女戦士「聞いた時に教えてくれよ! 美女どころか、女でもない髭面のオッサンだって! いびきのうるせぇオッサンだって!」
女戦士「そりゃ誰も起こさねぇわな!」
オッサン「グゴー……グッ……」
オッサン「……」
女戦士「……? いびきが止まった?」
オッサン「………………グゴー……」
女戦士「クソ生意気に、睡眠時無呼吸症候群になってんじゃねぇ!」
オッサン「ぐほぁ!」
女戦士「あまりの苛立ちのせいで、斧の峰で全力腹パンをしてしまった。ちなみに良心は痛んでない」
オッサン「グフッ、ゴホッ……」
女戦士「あっ、やべぇ。コイツ、起きちゃ――」
オッサン「……グゴー」
女戦士「起きないのかよ!」
オッサン「起きたに決まってんだろうが!」
女戦士「!?」
オッサン「あー、腹痛ぇ。最低な目覚めだぜ」
女戦士「び、びっくりした……」
オッサン「そりゃ、こっちのセリフだっての。たくっ、もっとましに起こしやがれ」
女戦士「知ったこっちゃない」
オッサン「そうかよ。……ん? なんか鼻がムズムズするな。フンっ!」
女戦士「汚っ! 鼻から虫を吹き出すんじゃねぇよ!」
オッサン「小生意気な虫め。人の体を巣にしやがって」
女戦士「こんな森ん中で寝てりゃ、穴から虫の一匹や二匹は入るだろ……いや、十匹以上いたけどさ」
オッサン「なんか体中から変な臭いがするし、水浴びでもすっかね」
女戦士「近くに川はないぞ」
オッサン「嘘っ!?」
女戦士「川はこの森を避けるように流れてるからな。出ないと辿り着けない」
オッサン「あー、そういやそうだったな。少し我慢しねぇといけねぇか」
女戦士「ところで」
オッサン「あん?」
女戦士「オッサンはなんでこんなところで寝てたんだよ」
オッサン「んなもん、決まってるじゃねぇか。イケメンの俺が眠ってりゃ、美女がキスして起こしてくれるだろ」
女戦士「はぁ?」
オッサン「でも、折角知り合いに無理言って頼んだってのに、起こしに来たのがこんなんだったとはな……」
女戦士「こんなんで悪かったな。つーか、私はオッサンにキスなんてしてねぇぞ」
オッサン「正確には女が触れたら、だったがな。大方、斧振り回した時にその長ぇ赤い髪が俺に当たったんだろ」
女戦士「あとで百回は髪を洗っておかないと……。って言うかさ、なんでこんな森ん中を選んだんだ?」
オッサン「眠れる森の漢って話を知らねぇのか?」
女戦士「美女だよ、美女! 誰が好き好んで、こんな森の中まで小汚ぇオッサン起こしに来るんだ!」
オッサン「お前、来たじゃん」
女戦士「絶世の美女って聞いたから私は来たんだ!」
オッサン「あん? なんで、んな事になってんだ?」
女戦士「私が聞きてぇよ!」
オッサン「まぁ、心当たりはあるけどな。ってか、あいつ以外に考えられねぇ」
女戦士「オッサンを眠らせたやつか?」
オッサン「勘がいいじゃねぇか」
女戦士「話の流れ的にな」
オッサン「それはそれとして、レズの嬢ちゃん」
女戦士「誰がレズだ!」
オッサン「じゃあ、バイなのか? 可愛らしい顔してるくせに。人は見かけによらねぇな」
女戦士「私はレズだ!」
オッサン「否定したばっかりじゃねぇかよ……」
女戦士「オッサンに言われると全てがムカついてね。ところで、なんでレズってわかった?」
オッサン「俺を美女と思って来たんだろ? で、その寝ている美女のおっぱいを揉んだりしたかったんだろ?」
女戦士「生温いよ。揉むだけじゃ私は満足しないね。舐めて吸って、順を追って舌を下半身へ……グフフフ」
オッサン「これまた真性だな」
女戦士「悪いか?」
オッサン「捕まらないように気をつけな」
女戦士「オッサンに気を遣われるまでもない。これでも、無理強いはしない主義だ」
オッサン(眠ってる美女を襲いに来たやつのセリフじゃねぇな)
女戦士「なんか言いたそうだな」
オッサン「うんや。じゃ、俺は行くけど、もう話す事はねぇよな?」
女戦士「聞きたい事聞いたから、もういいや。むさい男はさっさと消えな」
オッサン「そうする」
女戦士「はぁ。ただのくたびれ儲けだったなぁ……」
近くの村
女戦士「……で、なんでオッサンは素っ裸で張りつけ系晒し者にされてるんだよ」
オッサン「聞いてくれよ。どっかの童話にある桃太郎の如く、川を流されてたらさ、ここの村人に捕まってよぉ」
女戦士(人が苦労しながら帰って来たら、このオッサンは……)
村人「黙れ、変質者! お前にこの村で口を開く権利などない!」
オッサン「そんなぁ……嬢ちゃん。嬢ちゃんからも、なんとか言ってやってくれよ」
女戦士「えっと……少しこの変態に質問してもいいですか?」
村人「……あなたはこの村を救ってくれた恩人だ。少しなら目を瞑る」
オッサン「えっ、なんだなんだ? 嬢ちゃん、この村の英雄だったのか?」
村人「黙れと言っているだろうが!」
オッサン「はーい……」
女戦士「じゃあ、質問するけど、なんでオッサンは川を流れてたんだ?」
オッサン「木の枝に干してた服が風にビュービュー。川にボッチャン、ユラユラ。飛び込んだら、川の中の岩にゴッツンコ」
村人「……なに言ってるんだ、お前」
女戦士「運がなかったな」
村人(理解出来たの!?)
オッサン「そう思うだろ? だから助けてくれよ」
女戦士「今回も運が悪かったって事で、また眠れば? 半日前までぐっすり寝てたし」
オッサン「いやぁ、今度の眠りは起きられなくなりそうだからな。慎ましく遠慮させて頂きたい」
女戦士「確かに慎ましいな、オッサンのそこは」
オッサン「そ、そっちは大きくなるし! 全力で五倍だし! 25センチ級だし!」
女戦士「服着てないのに、顔隠してるほどのシャイボーイじゃないか」
オッサン「やめろォ! オッサンの息子を苛めるのは止めろォッ!」
女戦士「じゃ、そういう事で」
オッサン「ここまで人おちょくっておいて、結局見捨てんのかよ!」
女戦士「私にオッサン助けるだけのメリットがないし」
オッサン「メリット? クククッ、ならば断末魔の代わりに叫んでやる。お嬢ちゃんがレズだという事を!」
オッサン「どうだ! メリットはなくとも、デメリットが出来たぞ!」
女戦士「この村の人、全員知ってるから問題ないな」
オッサン「えっ、嘘? マジで」
村人「あまり、知りたくなかったがな……」
女戦士「村を助けた代わりに、可愛らしい少女数人と戯れたから」
オッサン「うわぁ……」
女戦士「田舎の少女は良い。清らかな素朴さで尽くしてくれる。ジャックポッドを引き当てた時のコインみたいに脳汁が出た」
オッサン「こんな身になってる俺が言うのもあれだけど、嬢ちゃん、絶対英雄じゃねぇよ」
女戦士「見返りなしで命賭けてどうする」
オッサン「そりゃご尤も」
女戦士「そんなわけで、助けて欲しかったら女を用意しろ」
オッサン「完全に賊のセリフだよな、それ」
女戦士「で、どうなんだ? 出来るのか出来ないのか?」
オッサン「……年齢の上限は?」
女戦士「私の守備範囲は、へその緒を切った後から心臓が止まるまでだ」
村人(わかってたけど、この女もやべぇ)
オッサン「よし乗った。心当たりがある」
女戦士「それは、オッサンを眠らせた人か?」
オッサン「俺に友達少ないみたいな考えは止めて下さい、本当に」
女戦士「別の人か。その友人とやらを私が得られる確率は?」
オッサン「高くて二割ってところか」
女戦士「見た目によらず正直だな。普通、嘘でも十割と言うぞ」
オッサン「素直で誠実が俺のセールスポイントでな」
女戦士「二割……まっ、一応許容範囲内か」
オッサン「よっし! 交渉成立だな。兄ちゃん、この縄解いてくれよ」
村人「ならん!」
女戦士「そこをなんとかなりませんか? 主に私のために」
村人「ほんっと、あんたは欲に忠実だな!」
村長「ずいぶんと賑やかのようだの」
村人「そ、村長!」
村長「遅れてすまんのぅ。して、不審者とはこの者か?」
村人「はい、ですが女戦士もこの変態と取引をしまして、少々面倒な事に」
村長「構わん。その人を解放しておやりなさい」
村人「はっ! この粗末な物から切り刻めば……村長、今なんと?」
オッサン「粗末言うな」
村長「縄を解きなさいと、私は言ったのじゃよ」
村人「で、ですが……いえ、畏まりました。降ろすぞ、皮被り」
オッサン「あのさ、俺、いい加減泣いちゃうよ?」
村人「黙ってろ、ポークビッツ」
オッサン「……ぐすっ」
女戦士(あれ? 私、いらない雰囲気?)
村長「お久しぶりですな。随分と長い間、眠っておられたようで」
オッサン「あれ? 俺の事知ってんの?」
村長「無理もありませんか。わしは、こーんなに小さな鼻たれ小僧でしたからのぅ」
オッサン「鼻垂れ……あぁ、あのチビか! でっかくなったなぁ!」
女戦士(えっ? 知り合い? っていうか、チビって何年前の話だ?)
村長「ホッホッホ。今じゃ腰も曲がって縮んでしまいましたが、数年前まではもう少し大きかったんですぞ」
オッサン「そっかそっか。あのチビが今や村長か。感慨深くなるぜ」
村長「私が生きている間にお目覚めになられて、大変嬉しく思います」
オッサン「よせやい。んな事言われたら、照れちまうだろうが」
村人「そ、村長、この変態とお知り合いなのですか?」
村長「このお方はな、過去にこの村を救って下さったんじゃよ」
村人(この村を救ってくれるのは、変態だけなのか……)
村長「時に、お召し物はいかがなされました?」
オッサン「あー、完全に川に流されたみたいでな。まっ、元々カビだらけで虫食いだらけだったから良いけど」
村長「では、私の家へお越し下さい。ご用意しますぞ」
オッサン「おっ、悪ぃな」
村長「いえいえ。さっ、ご案内します。こちらへ」
女戦士(私、空気)
村人(村から出ていけ、変態女)
女戦士(私はレズだ。変態じゃない)
村人(どっちにしても変態だ)
女戦士(失敬な!)
女戦士「まぁ、明日には発ちますよ。今日は完全に日が沈んだから、一泊くらいさせて欲しいんですが」
村人「宿屋までの案内はしないからな」
女戦士「そこまでして貰うつもりはありませんよ。じゃ、お休みー」
宿屋
女戦士「はぁ、疲れた……。昨日の夜はハーレム堪能して、あまり寝てないし、今夜はぐっすり……」
オッサン「夜も遅くにこんばんはー!」
女戦士「うるせぇよ! 寝かせろよ! そもそもなんで私の部屋に入って来てんだよ!」
オッサン「怒鳴るなよ。ビビってちびっちゃうだろ?」
女戦士「で、なんの用だ? さっさと話してさっさと帰ってくんないかな?」
オッサン「猥談しようぜ猥談。お前、どんな娘が好みなんだ?」
女戦士「チンコがなけりゃ誰でも愛せる自信はあるけど、しいて言うなら――じゃねぇよ! 用を言えっつってんだろ!」
オッサン「うーん、そのノリツッコミはイマイチだな。ありきたりで真新しさがねぇ。はっきり言うと、使い古されてるからつまらない」
女戦士「なんで私がダメ出しされなきゃならないんだよ……で、本当になにしに来たんだ?」
オッサン「明日は早めに出発するから遅れるなよ? と言いに来た」
女戦士「はぁ? なんで私がオッサンに同行しなきゃならないんだ?」
オッサン「なんだ、俺の知り合いの女を紹介しなくていいのか? なら、別に――」
女戦士「夜明け前には出発の準備を終わらせよう」
オッサン「その無駄に凛々しい顔にイラっとするが、用件はそれだけだ」
女戦士「わかったよ。私は寝るからさっさと帰れ」
オッサン「へいへい」
翌朝
オッサン「お、来たな」
女戦士「当然。それより、その馬はどうした?」
オッサン「ちょっと長旅になりそうだってチビに――あぁ、今は村長か。どっちでも良いけど、そいつに話したらくれた」
女戦士「そりゃいい。旅が楽になるな」
オッサン「二頭用意して貰ったが、嬢ちゃんは馬に乗れるのか?」
女戦士「乗馬中のプレイは私の十八番だ」
オッサン「……すげぇな、お前」
女戦士「褒めるなよ」
オッサン「呆れてるだけだ」
女戦士「それより、目的地はどこだ? 昨日、聞きそびれたけど」
オッサン「中央都市だ」
女戦士「都会だな」
オッサン「そこにある教会本部が目的地になる。知り合いがそこにいるって、村長から聞いた」
女戦士「教会、だと……?」
オッサン「なんだ? その反応」
女戦士「シスターか! シスターとヤれるのか!?」
オッサン「……お前、どんだけシスターに飢えてんだよ。俺でもドン引きするぞ」
女戦士「シスターは身持ちが固くてな。私の話術を持ってしても、誰一人として股を開かなかったんだ。まさか、幾度となく枕を涙で濡らした相手と……」
女戦士「あっ、想像しただけで鼻血が……」
オッサン「とりあえず知り合いを紹介するが、その後はお前次第だからな」
女戦士「それで充分だ。行くぞ! 早く行くぞ! ほら、さっさと馬に乗れ!」
オッサン「はいはい」
女戦士「進め、馬! シスターの穴まで一直線だ!」
オッサン「ホント、最低な性格してるな、この嬢ちゃん」
数日後
女戦士「クソッ、辿り着くまで何日もかかってしまった……」
オッサン「普通、一ヶ月は必要な距離をたった数日で走り切ってくれたんだ。少しは馬に感謝してやれよ」
女戦士「だがしかし! シスターの下の穴はもう目の前だ!」
オッサン「聞けよ! 悪かったな、馬たち。あんなの乗せてくれてよ」
女戦士「道中、何度も魔物に襲われたが、私の行方を妨げる事など不可能だったな。ハッハッハ!」
オッサン「鬼神の如く、斧を振り回してたもんな、お前。馬、もう少し頑張って俺について来い」
女戦士「行くぞ、オッサン! 私のエデンへ!」
オッサン「お前のエデンじゃなくて、教会本部だけどな。その前に、俺は馬を適当な厩舎に預けてくる」
女戦士「私は先に行ってるからな」
オッサン「お前一人で行っても意味はないだろうが、好きにしろ」
女戦士「おう!」
少しして
オッサン「……お前、なんで教会本部の真ん前で地面に項垂れてるんだ?」
女戦士「……出禁になってたの、忘れてた」
オッサン(誰でも気易く足を運べるような場所がモットーだったはずの所を出禁って……こいつ、何したんだよ)
オッサン「どうでもいいか。入るぞ」
女戦士「私が一緒でも平気なのか……?」
オッサン「さぁな。ダメだったら外で大人しく待ってろ。俺が連れて来てやるよ」
女戦士「話がわかるオッサンは大好きだ! あっ、性的な意味でも、恋愛的な意味でもないからな?」
オッサン「はいはい。たのもー」
受付「ようこそ。こちらは教会本部となっております。ご用件を……いえ、その前に、後ろの方はちょっと……」
オッサン「後ろのアホがなにしたか知らんが、大人しくさせるから見逃してやってくれ。それより、神官はいるか?」
女戦士「アホじゃないやい。ちょっと興奮しちゃっただけだもん」
受付「神官様ですか? えぇ、本日は外出の予定もなく、こちらでお仕事をなされております」
オッサン「なら伝えてくれ。眠りから覚めたイケメンの旧友が会いに来たって」
受付「畏まりました。少々お待ち下さい」
オッサン「さてと、受付の嬢ちゃんが呼んで来てくれるまでのんびり待とうぜ」
女戦士「あぁ、思い出すこの匂い……ダメだ、また過ちを犯してしまう。治まれ、我がエクスタシーゲージ」
オッサン「無理やりは主義じゃねぇって言ったのはどこのどいつだ」
女戦士「時と場合によるだろ、そんなもん」
オッサン「知るか」
女戦士「白い物を見ると汚したくならないか? あっ、オッサンは男だから、白い物をぶっかける側だったな」
オッサン「黙れよ」
受付「お連れしました」
オッサン「早っ。え? さっき受付カウンターの奥の部屋に入ったばかりじゃん」
神官「あなたが眠っている間に、世の中は便利になって行ったのですよ」
オッサン「おっ、神官。久しぶり、っつった方がいいか?」
神官「えぇ、お久しぶりです。長い眠りから覚めても、なにも変わっていないようでなにより」
オッサン「お前こそ変わってねぇな。若作りも大概にしとけよ」
神官「女性はいつまでも美しくありたいのですよ」
オッサン「そうですか」
女戦士「なぁなぁ」
オッサン「あん? なんだよ?」
女戦士「神官って名前が出た時も思ったけど、この人ってあれじゃないか? 昔、魔王を倒した勇者様御一行の……」
オッサン「そうだぞ。勇者の仲間の一人だ」
女戦士「マジで!? えっ? じゃあそんな方と知り合いのオッサンも?」
神官「はい。彼も仲間の一人ですよ」
受付「ただのイケメンぶりたい髭面のオッサンかと思ってました……」
オッサン「聞こえてんぞ」
女戦士「英雄の一人が森ん中で爆睡しながら鼻の中に虫を飼ってるとはな」
オッサン「ほっとけ」
神官「こうして再び顔を合わせ、言葉を交わす機会に恵まれた事、神に感謝しなければなりませんね」
オッサン「山の神も、海の神も、ついでに湖の女神も、ろくな神様じゃなかったけどな」
神官「耳が痛いお話ですね。それより、積もる話もあるでしょう。私の部屋に行きませんか? 続きはそちらで」
オッサン「それでいいか?」
女戦士「私は場所を選ばない。しいて言うなら、ベッドかソファがあれば文句なしなんだが」
神官「なんのお話ですか?」
オッサン「いやさ、こいつとちょっとした約束をしたもんでな」
女戦士「抱かせて下さい!」
神官「……」
受付「神官様、以前お話した、教会内の女性に涎を垂らしながら襲いかかろうとしていた者は、彼女です」
オッサン「涎って、お前……」
女戦士「我慢出来なかった。反省はしてない」
オッサン「少しはしろよ」
女戦士「あの……ダメですか?」
神官「ダメです。私は神に身を捧げております。そのような行為は、致しません」
女戦士「嘘つき! オッサンの嘘つき!」
オッサン「俺は紹介するだけって言ったじゃねぇか」
女戦士「シスターじゃないじゃん! 英雄の一人であらせられる神官様だなんて聞いてない! 緊張して深入り出来ない! 深く入れたいけれども!」
オッサン「緊張してた割には、抱かせて下さい、ってはっきりと言ったよな、お前」
受付(深く入れたいって部分はスルーなんですね)
女戦士「神官様と一晩を共に出来るのなら、自棄になってでも言うだろ、普通」
オッサン「普通の人間はもうちっと理性で行動出来ると思うぞ」
女戦士「今時のやつは欲がないな。私としてはライバルが減って大助かりだが」
オッサン「何十年も寝てた俺に、今時のやつの欲深さがわかるわけねぇだろうが。それより、どうする?」
女戦士「流石の私でも、相手が悪過ぎる……そうだ! 受付のお嬢さん、今晩私と――」
受付「お断りします」
女戦士「そこをなんとか」
受付「無理です」
女戦士「力尽くで」
受付「兵を呼びます」
女戦士「……」
受付「……」
神官「色々残念な子ですが、楽しい子ですね」
オッサン「一緒にいると疲れるがな」
神官「なおさら嬉しいのでは?」
オッサン「俺が嬉しがる理由なんてないだろ。俺、Mじゃねぇし。それにあいつとは数日前に会ったばかりだ」
神官「ですが、あの子は――」
オッサン「おい、嬢ちゃん。約束は果たしたし、俺はもう行くからな」
女戦士「次はどこに行く気だ?」
オッサン「次は賢者の所だな。そうそう、神官はあいつがどこにいるのか知らねぇか?」
神官「エルフの森で静かに研究を続けていますよ」
女戦士「エルフ!?」
受付(すっごく食いつきましたね、この人)
オッサン「あそこか。あいつ、あの場所気に行ってたもんな」
神官「悲しいお話ですが、旅をしていた当時、賢者さんもエルフさんたちも人間嫌いで静かな場所を好むため、意気投合していた事をよく覚えています」
オッサン「しかもエルフって種は、賢者に負けず劣らず熱心な研究家だったもんな」
神官「それは今も昔も変わりませんよ」
オッサン「賢者もエルフたちも変わった所の方が想像出来ねぇよ。あいつらの研究馬鹿っぷりは一種の病気だ」
神官「ふふっ、そうですね」
女戦士「オッサン! オッサン!」
オッサン「んだよ、でけぇ声で」
女戦士「私も行く! 私も連れてけ!」
オッサン「……うん、そう言うと思ってたけどよ」
女戦士「私、エルフって見た事ないんだ。全員が美女って噂だし……ぐへへへ。おっと、涎と鼻血が」
神官「あの、お止はしませんが、人間とエルフの協和に溝を作るような真似だけはどうか……」
女戦士「心配ご無用です、神官様」
オッサン「ここでやった事を思い出してみろ」
女戦士「視界に入った女の子に、片っ端から襲いかかっただけだ」
オッサン「もうさ、なんて言うかさ……ぶん殴っていいか?」
女戦士「男が女に手を上げるのか。勇者様のお仲間と言っても、ピン切りだな」
オッサン「女である以前に、お前は変態だ」
女戦士「違う。私はド変態だ」
オッサン「……もう、どうでもいいよ」
神官「あの、本当にすぐ発たれるのですか?」
オッサン「ん? あぁ、まぁな。勇者のやつにもなるべく早く会いてぇし」
女戦士「なんだ、オッサンはホモだったのか?」
オッサン「よし、歯を食い縛れ」
神官「どうして彼が同性愛者だと思ったのですか?」
女戦士「だって、長い間寝てて、起きて一番会いたいのが男の勇者様だなんて」
オッサン「そう言うんじゃねぇよ。こっちには色々事情があんだ」
受付(違ったんですね……彼のムキムキした肉体でしたら、間違いなく勇者様と夜の旅にイっていたのかと思っていましたのに)
オッサン「……? なんだ? 急に寒気が……」
神官「風邪ですか?」
オッサン「どうだろうな。熱っぽくはねぇし、気にしねぇけど」
神官「念のため、お薬を用意します」
オッサン「いらねぇって、んなの」
神官「そう言わずに。受付さん、旅が楽になるアイテムもいくつか持ってきていただけませんか?」
受付「はい」
オッサン「旅が楽になるアイテムって、あれか? 望んだ場所にテレポートが出来る宝玉とかか? あれって高いだろ、金額的な意味で」
神官「これでも私、お金持ちなんですよ?」
オッサン「こんなとこで教会関係者の黒い一面を晒すなよ。つーか、いい年してまだ金第一主義か?」
神官「お金のお風呂に入って、お金のお布団で寝るのが私の日課です」
オッサン「そうですか」
神官「それはそれとしまして、実はあのアイテム、複製が容易になって昔より大分お安くなったんですよ」
オッサン「あぁ、さっき便利な世の中になったってのは、そう言う意味か。受付の嬢ちゃんがすぐ戻って来れたわけだ」
女戦士「安くなったと言っても金で買わないといけないからな。年中金欠の私には中々手が出せない」
オッサン「どうせお前は、無駄使いばっかしてるからなんだろ?」
女戦士「夜に使う大人の玩具は無駄なんかじゃない!」
オッサン「はいはい」
神官「十数年ほど前から近距離用の物も売っておりまして、これが便利なのですよ。一度で壊れる長距離用とは違い、複数回使用出来ますし」
オッサン「近いんなら、足を使って歩け」
神官「この堕落を知ってしまいますと、もう抜けだせませんね」
オッサン「堕落って理解してる分、性質が悪いな」
神官「神に仕える身なれど、所詮人間。欲には勝てません」
女戦士「うんうん」
オッサン「お前ら……」
受付「お待たせしました。何種類かの飲み薬と外傷用の軟膏や包帯。加えて長距離用の宝玉をいくつか、この袋に入れておきました」
オッサン「悪いな。助かる」
受付「いえ」
女戦士「準備も整っただろ? 行こう! すぐ行こう! 早く行こう!」
オッサン「欲しい物を買って貰えるって親と約束した子供か、お前は」
女戦士「私が欲しいのはエルフの女体だけだ」
オッサン「一々、キリッとした顔すんな。クッソ腹立つ」
女戦士「オッサン、袋漁るからな。……あったあった、テレポートの宝玉。じゃあ、飛ぶぞ」
オッサン「はいはい。んなわけで、俺らは行くから」
神官「それでは、また後ほどお会いしましょう」
オッサン「……おう」
女戦士「私たちはこれで失礼します。いざ、我が楽園へ!」
エルフの森
女戦士「着いたー! エルフがわんさかいる!」
オッサン「すげぇ、さっきの口ぶりから来た事はないだろうに、エルフの森の中にある村にホールインワンしやがったよ」
女戦士「私のエロパワーを舐めるな。私はエルフにむしゃぶりつきたいがな」
オッサン「……本当に、人間とエルフの関係を乱す事だけはすんなよ? いや、マジで」
女戦士「しないって」
青年エルフ「貴様ら、ここがエルフの土地と知って飛んで来たのか? 相応の覚悟は出来ているんだろうな」
オッサン「おっ、青年エルフじゃん。おひさ」
青年エルフ「……なんだ、貴様か。どこかの森に眠らせて来たと賢者が話していたが、起きたのか?」
オッサン「そう言う事。賢者に会うために入らせて貰ったけど、いいよな?」
青年エルフ「許可証は持ってるのか?」
オッサン「許可証?」
女戦士「エルフの村どころか、森に入るためには許可証が必要なんだよ。それは国が発行してて、得るのが難しい。そのせいで私は入れなかった」
オッサン「ややこしい制度が出来たもんだな。いや、入った途端、問答無用で矢で射られた以前と比べりゃ、丸くなったと言うべきか」
青年エルフ「持っていないのか? ならば、貴様とて留めておくわけにはいかん。見逃してやる代わりに、早急に出て行け」
オッサン「見逃すついでに、賢者に会わせてくれよ」
女戦士「ついでに、幼女と少女と熟女と老女にも」
青年エルフ「……」
女戦士「なぁ、なんか私、すっごい睨まれてるんだけど?」
オッサン「数秒前の自分の言葉を忘れたのか?」
青年エルフ「なんにしても、許可証のない者にこの地での自由はない。帰れ」
オッサン「そう堅っ苦しい事言うなよ。俺と青年エルフとの仲だろ?」
女戦士「なんだ、やっぱりホモじゃないか」
青年エルフ「……」
オッサン「違うっての! お前も引くな! 下がるな!」
賢者「やれやれ、騒がしい。懐かしい声も混ざってて、集中力が切れてしまったよ。どうしてくれるんだい?」
オッサン「おう、賢者じゃねぇか。お前も神官に負けず劣らず若作りしてんな。記憶にある姿と変わってねぇ」
賢者「まだ寝ぼけているのかい? 僕がエルフたちと同レベルの長寿になれる薬を開発した事さえ忘れているなんて」
オッサン「テレポートの宝玉を複製し易くしたり、近距離用を作ったりしたのもお前だろ? 便利な世の中になったって、神官が言ってたぞ」
賢者「ちょっとした移動時間が勿体ないからね」
オッサン「天才ってやつはすげぇな。……っと、それより!」
賢者「なんだい、急に大声を出したりして。僕の繊細な耳が壊れたらどうするつもりなのかな?」
オッサン「耳なんかどーでもいいんだよ! お前、俺が寝てる所に、女が寝てるって噂流しやがっただろ!」
賢者「うん、流したね。ほら、眠れる森の美女って有名じゃないか。だから戯れにね」
オッサン「なんかすっげぇ蹴られてる跡とか、唾吐きかけられてる跡があったんだからな!」
女戦士「ほっといても汚れてたんだから、足跡とか唾くらいいいじゃん」
オッサン「うっせ!」
賢者「眠っている間に限定していたとはいえ、僕が君の肉体の表面に張った結界のおかげで外傷はないのだろう? なら、文句を言われる筋合いはないと思うけど」
オッサン「それはそうだけどよぉ……。なんか、納得出来ねぇ」
青年エルフ「おい賢者、何故出て来た。貴様が来たせいで、話がややこしくなってしまった」
賢者「言っただろう? 集中力が切れたと。また高めるにしても、元を断たなければ意味がならないからね」
オッサン「俺は完全に邪魔者扱いかよ……」
女戦士「オッサンは邪魔者扱いで結構だけど、私は優秀だ。何日か泊めてくれたら、必ず利がある」
青年エルフ「……やつより貴様の方が物騒でおぞましい気がするぞ、人間の小娘」
女戦士「なんだと!?」
オッサン「なんでそんなに驚いてるんだよ。事実じゃねぇか」
女戦士「くっ、だがここで引き下がるわけには……ん? おーい、こっちを眺めてる幼女ちゃんと少女ちゃん。お姉ちゃんとイクほど楽しい事しない?」
青年エルフ「こいつはかなり危険人物だな」
オッサン「同意しとく」
賢者「そんな事より、僕に用があってここに来たんだろう? 早くその用を済ませてくれないかい? 一分一秒が惜しい」
オッサン「用なんてねぇよ。おはようの挨拶をしに来ただけだ」
賢者「そうか。なら、早く去ってくれない?」
オッサン「そうすっか。あまり歓迎されてねぇみたいだしな」
青年エルフ「みたいではない。していない」
オッサン「そうはっきりと言われると、オッサンでも傷つくんだからな……」
青年エルフ「それより問題は貴様の連れだ。いい加減、大人しくしろ!」
女戦士「フフン。お前みたいなひょろっちいやつに、リビドー溢れた私の行動を押さえられると思うなよ」
青年「待て! うわっ、馬鹿力が過ぎるだろ、お前! 全体重かけて引いても平然と歩きやがって!」
オッサン「頑張れー、青年エルフ」
賢者「……次は勇者の所に向かうのかい?」
オッサン「よくわかったな」
賢者「神官にはもう会ったような口ぶりだったじゃないか」
オッサン「そうだったな。邪魔した。俺らはもう行くから、のんびり新しい発明でもしててくれ」
賢者「のんびりしている暇なんて、僕にはないよ」
オッサン「そりゃ大変だ」
賢者「そうだった。これを君が連れて来た子に渡してあげたら?」
オッサン「あん? なんでお前がこれを持ってんだ?」
賢者「神官が持ってたらしいけど、僕に任されてね。ほら、僕って長寿でしょ? 神官より君と再会する可能性が高かったから」
オッサン「納得。後で渡すとすっかな」
賢者「……正直、僕は君が理解出来ないね」
オッサン「いきなりだな。どした?」
賢者「普段はガサツで直情的で感情任せな行動しか出来ない君が、どうしてそんなに平然としていられるのかと思って」
オッサン「お前もオッサンになればわかるだろうよ」
賢者「眠っていた君より、僕の方が精神的にはずっと上だけど? 元々下にいたつもりもないし」
オッサン「口の減らねぇガキだ。とにかく、俺らはもう行くよ。おい、そこのド変態。行くぞ」
女戦士「えっ、本当にもう行くのか!? もう少し! もう少しだけ頼む! 大丈夫、三十分あれば、五エルフを満足させられる自信あるから!」
オッサン「ツッコミどころ満載だな。とりあえず、五エルフって単位は初めて聞いた」
青年エルフ「た、頼むから、この人間の女を連れて行ってくれ。こ、こいつ、力が強過ぎて、私一人では抑え切れない……!」
オッサン「そうする。ほら、大人しくしろ」
女戦士「い、嫌だ! 私はここでいろんな女の子のエルフと絡むんだ! あっ、そこのお姉さん、私と黄金水を飲ませ合わな――」
とある場所
女戦士「……酷い。酷過ぎる。二連続で生殺しなんて……と言うか、ここはどこだ?」
オッサン「荒野だ」
女戦士「そりゃ、見ればわかるけど。もしかして、あそこのぽっつり建ってる家が勇者様のお家か?」
オッサン「多分な」
女戦士「随分小さくて古い家だな。世界を救った方が住まう家には見えない」
オッサン「あれは住む事を目的として建てたわけじゃないしな」
女戦士「? 家なんて住んでこそじゃないのか? 休憩用の山小屋じゃないだろうに」
オッサン「色々あんだよ。それより、ほれ」
女戦士「おっと。なんだこれ? ネックレスか? 白っぽい透明な宝石が付いてるな」
オッサン「やるよ」
女戦士「なるほど、これを使って女の子を誘えというわけだな。光り物には疎い私だが、中々価値のあるような物に見える」
オッサン「……まっ、好きに使え。そいつはお前のもんだ」
女戦士「真顔でそんな反応されるとは思ってなかった。つまんね」
オッサン「俺になにを求めてんだよ」
女戦士「いきなり私にプレゼントだなんて、どうしたんだ?」
オッサン「そいつはお前に縁のあるもんだからな」
女戦士「私に?」
オッサン「気にしなくていい。さて、行くぞ」
女戦士「あっ、ちょっと待て。気になるだろ!」
オッサン「おーい。勇者、いるんだろ? 入るぞ」
神官「どうぞお入り下さい」
女戦士「あれ? 今の声って、神官様じゃないか? なんでここに?」
オッサン「あいつが言ってただろ? また後ほどって」
女戦士「随分と早い後ほどだな」
オッサン「一分でも後だったら後ほどだろ?」
女戦士「そうだけど、何か腑に落ちない……」
オッサン「邪魔するぜ」
女戦士「失礼しまーす」
勇者「……待っていた、戦士」
オッサン「随分遅刻しちまったみてぇだな。神官や賢者と違って、シワシワヨボヨボのじいちゃんじゃねぇか」
勇者「無駄話をする気はない。お前の得物はそこだ。手に取れ」
オッサン「おぉ、我が愛斧。随分と丁重に扱ってくれたんだな。錆び一つねぇ」
女戦士「デカッ。なにそれ? 馬よりでかくないか? そんなの持てないだろ」
オッサン「なに言ってんだ。ほれ、この通りよ」
女戦士「……実はすごかったんだな、オッサン。そう言えば、エルフの森でもこの私が簡単に首根っこ掴まれたっけ」
勇者「……先に行くぞ」
オッサン「置いてくなよ。一緒に行こうぜ」
女戦士「あの、神官様。勇者様はオッサンとどちらへ? テレポートで飛んだから地理がわからないんですけど、この辺に物騒な魔物でもいるんですか?」
神官「すぐそこです。私はお二人の帰りを待ちますが、あなたはどうしますか?」
女戦士「どうするもなにも、オッサンたちがなにをしようとしてるのかさえ、知らないんですが」
神官「……勇者様と戦士様は、今から決闘をするつもりなのでしょう」
女戦士「……は? えっ? どうしてですか? オッサンも勇者様の仲間だったのでは?」
神官「あなたは、どうしてこんな荒野にこんな建物があるか、戦士様からお聞きになりましたか?」
女戦士「いえ、色々あるとしか」
神官「では、お教えいたします。ここの傍――あの二人が向かう場所に、一つのお墓があるのです」
女戦士「墓?」
神官「私たちの仲間で、勇者様と戦士様の幼馴染でもあった、魔法遣い様の物です。彼女は、魔王との戦いの時に……」
女戦士「勇者様の仲間に魔法遣いがいたなんて、初耳です」
神官「本来は各国を挙げて盛大に弔われたかもしれません。ですが、静かに眠りたいという彼女の意思を尊重して、隠していました」
女戦士「この建物は、魔法遣い様の墓守りが待機するための物だったんですね」
神官「はい」
女戦士「……あの、どうしてそのお話を私に?」
神官「あなたが、その魔法遣い様の生まれ変わりだったからです」
女戦士「……はい?」
神官「戦士様を起こせるのは、魔法遣い様と同じ魂を持った方だけ。賢者様がそう条件を付けて、戦士様に眠りの魔法をかけたのです」
女戦士「同じ魂……ですか。一つお尋ねしたいのですが、このネックレスは、その魔法遣い様の物ですか?」
神官「賢者様、ちゃんと渡して頂けたのですね」
女戦士「渡してくれたのは、オッサンでしたけど」
神官「その品は、魔法遣い様が生前の頃、戦士様がお渡しになった物なのです。自分が渡すより、と賢者様は考えたのでしょう。……ふふっ」
女戦士「どうされました?」
神官「いえ、顔を赤くしてそちらのネックレスを渡そうとする当時の戦士様を思い出しまして」
女戦士「想像したら、気分悪くなりそうな絵面ですね。……もしかして、あのオッサンは魔法遣い様の事が……?」
神官「えぇ。それに、勇者様も」
女戦士「そうですか。にしても、色恋沙汰で決闘とは、男って馬鹿ですね」
神官「本当に。魔法遣い様も、そのような事を決して望まないでしょうに。だからこそ、身を呈して戦士様を守り抜いたのですから」
女戦士「……ん? あのオッサンが足を引っ張って、魔法遣い様は亡くなられてしまったんですか?」
神官「仕方なかったのです。魔王との決戦に備えて、少しでも私たちの体力を残そうと、魔王城への道中でも、魔王城内でも最前線で斧を振ってくれました」
女戦士「結果、その決戦の時に満身創痍だったわけですね」
神官「加えて、魔王には特殊な剣以外の物理の攻撃が効きませんでした。何度も言いますが、仕方なかったのです。戦士様を責められる人なんていません」
女戦士「ですが勇者様は違う、と言う事ですか?」
神官「英雄と呼ばれる勇者様も、一人の人間。彼を止める事は、私にも、賢者様にも出来ません」
女戦士「私なら出来る、そう聞こえましたが?」
神官「それも難しいでしょう。含みがあるように聞こえたのでしたら謝罪します。私には待つ事しか出来ないと言いたかっただけなのです」
女戦士「……決闘、ねぇ」
神官「世は平和になりました。その発端となった方々が争う事になるなんて、世界はあまりに残酷で、神はあまりに辛い試練を我らに課します」
女戦士「個人的意見を言わせて頂ければ、本人たちが望む戦いです。口出しする気はありません」
神官「はい。止めて欲しいと私もお願いするつもりはありません」
女戦士「ですが、前世の私が残した物だったら、見物くらいしてきますよ。どうなろうとも」
神官「ありがとう、ございます……」
女戦士「どういたしまして」
魔法遣いの墓
オッサン「折角連れて来てやったんだ。少しくらい話してもよかったんじゃねぇの?」
勇者「あの子は魔法遣いじゃない。お前もそのくらいわかっているだろ」
オッサン「まぁな」
勇者「……魔法遣いに挨拶をする時間はくれてやる」
オッサン「いらねぇよ。別人とは言え、魔法遣いと同じように、女大好きのド変態と数日ほど一緒にいたからな」
勇者「そうか」
オッサン「んな事より、その体で伝説の剣を振れんのか?」
勇者「常に剣を振り続け、感覚が薄れないように魔物を狩り続けた。鈍りはない」
オッサン「草原だったここが荒野になった理由はそれか。魔物の血は植物にとって猛毒だったもんな。この墓の周りだけ草木が残ってるのは流石だ」
勇者「この場所を守る事が、俺の生涯の役割だからな。勇者としてじゃなく、俺個人として」
オッサン「そうか」
勇者「……構える前に、言いたい事がある」
オッサン「何でも言え。耳は塞がねぇよ」
勇者「……お前には本当に感謝してる。お前がいなかったら、俺は何度死んだかわからない」
オッサン「お互い様だ」
勇者「平時では、いつも一番後ろで俺たちの事を見守ってくれてたな。危険な地では、いつも先頭を歩いて俺たちの盾となってくれてた」
オッサン「マイペースなだけだ」
勇者「俺は、お前の事を今でも尊敬している」
オッサン「俺もお前を尊敬してる」
勇者「ありがとう」
オッサン「こちらこそだ」
勇者「……戦士」
オッサン「あん?」
勇者「どうしても譲れないモノがあるって、苦しい。苦し過ぎるよ……」
オッサン「そうだなぁ。俺もそう思う」
勇者「でも、だからこそ僕は戦士を許せないんだ」
オッサン「……そっか」
勇者「僕は――俺は俺が決めた事をやめるつもりはない」
オッサン「その頑なまでの一途さのおかげで、魔王を倒せたんだもんな」
勇者「俺は賭けに勝った」
オッサン「賢者のアホが余計な噂を流さなきゃ、俺が勝ってたはずなんだけどな」
勇者「目が覚めた後、よく俺の所まで来てくれたな」
オッサン「寝る前に約束してたからな、お前と」
勇者「……始めるぞ」
オッサン「そうすっか」
勇者「剣に鈍りはないと言ったが、やはり体力が劣っているのは事実。だから宣言だ。一突きで終わらせる」
オッサン「お前はやけに突きに拘ってたもんな。今じゃどれほどのもんか、想像も出来ねぇよ」
勇者「期待は裏切らない、とだけ言っておく」
オッサン「頼もしいお言葉だ」
女戦士(……終わってた、か。来るのがちょっと遅かったな)
勇者「……何故だ。何故、斧を振ろうとさえしなかった」
オッサン「バーカ。俺はじいちゃんっ子なんだよ。老いぼれのお前を斬れるか」
勇者「苦しいか?」
オッサン「未知の体験だ。胸に剣が刺さると、中々痛いぜ。涙が出てきそうだ」
勇者「その割には、随分と饒舌だな」
オッサン「もう一眠りする前だ。もっと喋らせろよ」
女戦士「私もそのお喋りにも混ぜろ」
オッサン「……なんだ、お前も来たのか」
女戦士「神官様から事情は伺った。馬鹿だなぁ、オッサンらは」
オッサン「馬鹿なくらい……ごほっ。カッコいいだろ?」
女戦士「口から真っ赤な涎垂らすなよ。笑えない」
オッサン「笑ってくれた方が、気が楽なんだがな」
女戦士「なら、絶対に笑ってやらない」
オッサン「ひねくれた嬢ちゃんだ」
勇者「……最後の一時を安らかに過ごしてくれ、戦士。あとでまた来る」
オッサン「気ィ遣わして、悪いな」
勇者「俺に出来る事なんて、その程度しかない。じゃあ、また後でな」
オッサン「おう。お前がのんびり来るまで、待っていてやるよ」
勇者「のんびりする気はないがな」
オッサン「そう言うなって」
女戦士「……なぁ、勇者さん。一つだけ聞きたい」
勇者「あとにしろ」
女戦士「あんたはさ、これで満足なのか?」
勇者「……年を取り過ぎた。正しいとか、悪いとか、そんな事はもうわからん。……それだけだな? 俺は行く」
女戦士「……オッサン。あんたはどうだ?」
オッサン「満足してるに決まってんだろ? 俺のために、いい年して泣いてくれるダチがいるんだからよ」
女戦士「そのいい年したダチに重たいもん背負わせるあんたは、相当な卑怯もんだ」
オッサン「違ぇねぇ」
女戦士「……死ぬ前に、いくつか聞きたい事がある。答えろ」
オッサン「手短に頼むぜ。残ってる時間はそんなになさそうだからよ」
女戦士「オッサンはさ、私に――魔法遣い様の生まれ変わりに会いたかったのか?」
オッサン「うんや? 会いたいとは思わなかったな。会えるとも。だから、気楽に寝てたんだけど」
女戦士「あんな森で寝てたのは、勇者様の手を汚させないためだったのか」
オッサン「勇者は昔っから泣き虫でな。子供ん頃は、俺と魔法遣いが近所の悪ガキから守ってやったもんだ」
女戦士「オッサンの息子は今でも立派に子供のまんまだけどな」
オッサン「クッソ。ぶん殴ってやりてぇのに、もう指一本動かせねぇ」
女戦士「まだ目は見えるか?」
オッサン「瞼が開いてるかどうかさえ、もうわかんねぇや。ちっと耳も遠くなってら。もっと大きな声で話してくれ」
女戦士「嫌だ。めんどくさい。なんで私が男のためにそんな事をしなきゃらなないんだ」
オッサン「優しくしてくれてもよくないか? 最後くらい」
女戦士「オッサンが女だったらそうしたんだけどな」
オッサン「男だった事に後悔した事は、少ししかねぇよ」
女戦士「どんな時だ?」
オッサン「魔法遣いが女湯に入った時とか」
女戦士「最低だな」
オッサン「お前に言われたくはなかったぜ」
女戦士「……本当に、生きたくはなかったのか?」
オッサン「あぁ、本当にこれで満足だ。これ以上ないほどに」
女戦士「最後に聞かせろ。もし、もしも私が――」
オッサン(私が、なんだよ。最後まではっきりと言えっての)
オッサン(……いや、俺の耳が完全に壊れただけだな。なんも聞こえねぇ。呆気ねぇ最後だけど、俺らしいか)
『人を言い訳に使って欲しくはないわね』
オッサン(なんだ。耳に馴染んだ声が聞こえやがる。なぁ、魔法遣い)
『死ぬなら私の目の届かない場所で死になさいよ、筋肉馬鹿』
オッサン(愛した女に看取られながら死にたいもんなんだよ、男ってやつは)
『看取ろうにも、もう私に体なんてないわよ』
オッサン(気分の問題だ)
『あんたの気分なんて知らないわよ。私の気分が害された。充分、あんたは罪人ね』
オッサン(どんな罰を受けるのやら。くわばらくわばら)
『決めたわ。これがいい。うん、今のあんたからすれば、最悪のお仕置きよ』
オッサン(お手柔らかにな)
『いーや。でもまぁ、ちゃんと罰を受けたらお褒美くらいあげるわよ。だからさ……もうちょっとだけ頑張んなさい、戦士』
勇者の家
勇者「……」
神官「おかえりなさい」
勇者「……戦士を殺して来た」
神官「戦士さんはそう簡単に死んだりはしませんよ」
勇者「無抵抗の相手を仕留められないほど、僕の腕は鈍ってないよ」
神官「無抵抗……やはり、戦士様は最初からそのつもりでしたか」
勇者「真剣勝負って約束だったのに。約束事には五月蠅かったくせに、二度も破られちゃった」
神官「……私は、今も昔も、戦士様ほど律儀な方を存じません」
勇者「僕もだよ。だからこそ、悔しい」
神官「そう、ですか」
勇者「……これで、僕は勇者じゃなくなった。ただの人殺しだ。仲間殺しの殺人者だ」
神官「えぇ。その罪は、一生消える事がありません。償い切れるモノでもありません」
勇者「そうだね。その通りだよ」
神官「ですので、私もお手伝い致します。私も今回の責任を担う義務があります。残り短い人生、勇者様のお傍に」
勇者「断っても、神官は聞き入れてくれないんだよね?」
神官「ご存知の通りですよ」
勇者「好きにしなよ」
神官「はい。勝手にしますね」
勇者「……でも、今は、今だけは一人にして欲しい。お願いだ……」
神官「……はい」
エルフの森
青年エルフ「……もう、あいつらの戦いに決着がついた頃か」
賢者「さてね。二人の命だ。二人の好きにさせるよ。僕には関係ない」
青年エルフ「冷たいやつだ」
賢者「僕は人間って種が嫌いだからね」
青年エルフ「数十年前に魔王を討った者の言葉ではないな」
賢者「人類のためじゃないさ。目障りだっただけ」
青年エルフ「……賢者。もう手元は離れたんだ。そろそろアレについて教えて欲しい」
賢者「あのネックレスについていた宝石の事かい?」
青年エルフ「君はずっとあの宝石を研究してたじゃないか。何か特別なモノだったんだろ?」
賢者「特別……そうだね、あれは特別だったよ」
青年エルフ「だった?」
賢者「今はお手頃な宝石分の価値しかない、ただの石さ。多分ね」
青年エルフ「特別だった頃の価値について、教えて欲しいのだが」
賢者「君たちには散々嫌がらせを受けたからね。どうしようかな」
青年エルフ「何十年も前の事じゃないか」
賢者「僕って執念深い性質でね」
青年エルフ(知っている。いやと言うほど)
賢者「けれど、そうだね。この土地に住む事を許してくれたから、ヒントをあげよう」
青年エルフ「とりあえずはそれでいい。で、ヒントとは?」
賢者「あの石の名前はユーレックサイト。心を見通す効果があるんだって」
青年エルフ「その石の名に聞き覚えはある。確かにそんな事が出来たら便利だな。魔石や宝玉でさえないただの石に、そんな効果があるとは思えんが」
賢者「僕も石そのものの効果なんて信じちゃいないよ。他人に興味がないから、別に心なんて読めなくてもいいし」
賢者(でも心が読めたら、なにかが起きた時にその影響で相手がどんな事をするか程度、予知する事は可能。最悪を考慮に入れた対策も)
賢者(まっ、それは相手を分析さえすれば、石の力がなくても予想出来る)
賢者(僕にさえ理解出来ない相手でも、長年同じ時間を過ごした幼馴染なら尚更、ね)
終わり
読んでくれてありがとう
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