男「そこに、いるんだろう?」 妖怪「……」(68)


男「木の上にいるんだろう?」

妖怪「……」

男「降りておいでよ、話そう」

妖怪「……何も話すことなどない」

男「そう言わずに」

妖怪「失せろ」


男「いいじゃないか、話したいんだ。暇だろう?」

妖怪「勝手に声をかけておいて暇妖怪認定とは……」

男「実際暇だろう?」

妖怪「私にはここでこの地域を見守る義務があるのだ」

男「そこの鳥の巣を見ていただけだろう?」

妖怪「……」

男「雛が孵っているね。よかったな」

妖怪「だまれ」

男「ここは俺の通学路なんだ」

妖怪「勝手に語りだすな。私には関係ない」

男「だから知ってる。君が俺に気づいていたことも、その巣をずっと見守っていた事も」

妖怪「黙れと言っている」

男「俺が君の事を認識できている事には気づいていなかったみたいだね」

妖怪「何かうるさい人間が喚いているな。頭がおかしい奴なのだろうか」

男「さっき声をかけた時にビクッとしてた気配が伝わってきたよ」

妖怪「だまれ!!」

男「毎日そわそわしながら巣を見続ける毎日だったね」

妖怪「うるさい」

男「雨の日は巣が落ちないかどうか心配そうだったな」

妖怪「だまれだまれだまれ」

男「そっと巣の土台部分の木の枝を増やしてやったりしていたね。
  親鳥が巣を離れた少しの間に、気づかせないように」

妖怪「なんなのだお前は」

男「優しいんだな」

妖怪「なんなのだお前は!!」

男「俺はただの人間の学生さ、知っているだろう?」

妖怪「貴様のことなど知らぬ!ただこの道を通っている人の子、それだけだ」

男「でも、もう俺たちは会話をしただろう?」

妖怪「ぐぬ……」

男「こっちへ降りておいでよ。今は俺以外に人間はいない」

妖怪「なぜ私が降りなければならないんだ、お前と話をせねばならぬのだ」

男「何故なら俺が話したいからだ、そして俺はそこへは行けないからな高くて」

妖怪「百歩譲って話がしたいだけならばこの状態でもいいだろうが」

男「うーん、じゃあ今日は帰るよ」

妖怪「え?」

男「明日また来るな」  スタスタスタッ

妖怪「……ぁ…………」

妖怪「………………なんなのだっ!!」

翌日

男「おーい」

妖怪「……」

男「おーいって、妖怪さーん」

妖怪「……」

男「あれぇ?……」 スタスタッ

妖怪「な、なんだ!!」

男「あ」

妖怪「あ……」

男「話をしよう」

妖怪「お前と話すことなどないと言ったろう」

男「でも今声をかけてくれたじゃないか」

妖怪「そ、それはお前が」

男「昨日は気づいたのに今日は気づかなかったからか?」

妖怪「ぐ……」

男「演技さ。気づいてたよ、声かけてくれるかなって思って」

妖怪「なっ!!?」

男「ははっ」

妖怪「こ、この!人の子の分際で私を弄んだな!?」

男「だけどごめん。今日は忙しいから話す暇がないみたいんだ」 

妖怪「えっ」

男「それを伝えるためだけに呼んだ、だから明日だ。また明日な」スタスタッ

妖怪「……」

妖怪(なんなのだあの人の子は)

妖怪(突然話しかけてきたと思ったら帰って)

妖怪(また話しかけてきたと思ったら帰って)

妖怪(私をなんだと思っているのだ!!)

ピーー チチッ

妖怪「……かわいい」 

妖怪「よかったな、お前たち。孵ったな」

翌日

男「妖怪さーん」

妖怪「…………」

男「今日は話せるんだ、話そう」

妖怪「お前と話すことなどない」

男「とりあえず降りてきておくれよ」

妖怪「断る」

男「なんでだよ」

妖怪「ここからでもお前の顔は見える」

男「俺はあんまり見えないんだがな高くて」

妖怪「それがどうした」

男「顔を見て話したいんだ」

妖怪「…………」

男「な?頼むよ」

妖怪「……本当に、なんなのだお前は」 スタッ

男「おお!降りてくれたな、ありがとう!」

妖怪「……半径三歩以内に近づくな」

男「わかった」

妖怪「なんで、私と話をしたいのだ」

男「妖怪さんと話すのは人生初なんだ。というか妖怪と会うのも人生上初めてだったりする」

妖怪「当たり前だ、我々妖怪がそんなに簡単に人の子と話すわけなかろう」

男「その割には結構隠れずに堂々と木の上にいつもいるよな」

妖怪「この辺りの人の子は私に気づかないのだ」

男「俺は気づいたんだけどな」

妖怪「お前みたいな人の子はいなかったのだこの地域に」

男「俺がいるじゃないか」

妖怪「ぐぬぬ……とにかくいなかったのだ今まで!」

男「まぁいいんだその話は置いておこう」

妖怪「本当に馴れ馴れしい奴だ」

男「人間と話したのは怪生上はじめてかい?」

妖怪「なんだその怪生というのは」

男「妖怪の人生上だから。妖生上にしたほうがよかったか?」

妖怪「わかりにくい!!」

男「で、どうなんだ?」

妖怪「……お前が初めてだ」

男「そうか、じゃあお互い色々聞きたいことがあるだろう?」

妖怪「ない」

男「俺はあるからあなたもあるという設定で話をしよう」

妖怪「設定ってなんだ!」

男「まぁまぁ、とりあえずここで立ち話もなんだし。そこの大きな石の上に座ろう」

妖怪「お前は変わっているだろ、人の子よ」

男「よっこいしょ」

妖怪「…………」

男「あれ?立ったままでいいのかい?」

妖怪「いい、話とはなんだ」

男「ああ。えっと」

妖怪「?」

男「きみは、あのご神木に宿る神様かい?」

妖怪「……ち、違う」

男「神様ではないのか」

妖怪「わ、私は妖怪だ。そのような存在では、ない」

男「崇められたら妖怪も神になったりするだろう?」

妖怪「違う!!神の役職を持つものが人の子と話すなどありえん!!」

男「という決まりみたいなのが妖怪の世界にあるから隠したいわけだな?」

妖怪「だまれぇい!!!!」

男「意外と面倒そうだな妖怪の世界も」

妖怪「何も知らぬ人の子の分際で知ったような口を利くな」

男「不快だったなら謝るよ。ごめんなさい」

妖怪「ただ知ったような口は利くなと言っているだけだ」

男「俺、男って言うんだ。よろしく」

妖怪「自己紹介のタイミングがおかしいだろお前は!?」

男「きみの名前は、あるのかい?」

妖怪「……あるわけなかろう。人の子に教える名など」

男「あるけど教えないのか。じゃあ木ちゃんでいいか?」

妖怪「妖怪さんのほうがマシだばか者!」

男「あははっ、まぁじゃあいいや。んーと、何年生きてるんだ?」

妖怪「え?」

男「この世に自分の意識が芽生えて、何年になるんだ?」

妖怪「そんなもの、数えたこともないわ」

男「そうかぁ……ちなみに俺は18年だ」

妖怪「一瞬に等しいな」

男「でも、俺はその時間で赤ん坊からあなたと話せる今の姿にまでなった」

妖怪「確かにそれはそう……だが」

男「この木の樹齢と同じぐらい生きてるんだろうなきみは」

妖怪「ふん」

男「樹齢数百年ってレベルだろうし……すごいな」

妖怪「……」

男「今日はこれぐらいにしよう。また明日も来ていいか?」

妖怪「……話は終わりか。ならば帰れ」

男「うん、明日も来るよ!じゃあまた!」 スタスタスタッ

妖怪「…………」

翌日

男「妖怪さーん」

妖怪「懲りもせず何度も来るなお前は」

男「せっかく妖怪さんと話せるんだからな。来るさ」

妖怪「雨が激しく降っているが、来たのだな」

男「傘を持ってるから大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」

妖怪「し、心配などしちぇいない!誰がするか誰が!」

男「さてと、じゃあ今日もあの石の上に座って話そうか」

妖怪「雨で濡れているぞ、お前の尻が濡れるぞ座ったら」

男「それはそうだな……というわけでご神木の目の前にある神社で話そう」

妖怪「勝手にそこに入っていいと思っているのか人の子よ」

男「入っていいかい?」

妖怪「……まぁいいが」

男「いいんじゃん」

妖怪「今のは私が許可したからだろうがっ!!」

男「よっこらせ」

妖怪「……」

男「横に座って話さないか?雨を見ながら」

妖怪「馬鹿かお前は」

男「そうか、半径三歩以内はだめだったな」

妖怪「それもあるが雨を見てどうする」

男「風情があると思って」

妖怪「そんなものはない」

男「さて話すか」

妖怪「何なのだお前は本当に……」

30分後

ザッーーーーー

妖怪「……」

男「……」

妖怪「……ず、ずっと黙っているな」

男「ああ……」

妖怪「……」

男「この神社も、色々あったんだろうなと思って」

妖怪「……」

男「思いを、馳せていた」

妖怪「それはまぁ、それなりだ」

男「全部見てきたんだろう?」

妖怪「それはな」

男「……嫌になったことはないかい?」

妖怪「え?」

男「たくさんの人間が、好き勝手にお参りしてきたりしたんだろう?」

妖怪「……」

男「善良な人間だけではなかったはずだろう?自分勝手な人間も大勢いただろうに」

妖怪「……ふっ」

男「?」

妖怪「人の子の癖に変なことを考えているなお前」

男「……そうかな」

妖怪「そうさ。人の子というものはそもそも自分勝手なものだ」

男「ふむ」

妖怪「勝手に私もご神木とやらにされたがな、もともとは普通の木だ」

男「まぁそれはそうか」

妖怪「でも、それでもな」

男「?}

妖怪「その自分勝手な人間の性から色々な現象は生じるものなのだ」

男「そうか」

妖怪「そうだ、それを見守るモノは私以外にも大勢いる」

男「人間が気づかないだけか」

妖怪「お前のように気づく者もいるらしいがな」

男「ははっ……でもそうか。そうだな」

妖怪「この神社もそうした現象の一つだ」

妖怪「そして、この私の存在も」

男「君は人間を嫌ってはいないんだね」

妖怪「え?まぁ……嫌いではないな」

男「勝手に祀られていい迷惑だぁとか思ってる可能性もあるだろう?」

妖怪「そんな事は思わないさ」

男「そうか……優しいな本当に」

妖怪「な、なんでそうなる」

男「俺がきみの立場なら絶対面倒くさがるからな。何で俺が祀られなきゃならないんだよって」

妖怪「お前とは心の器が違うのだ」

男「そのとおりだな。すごいよ」

妖怪「……す、素直に受け取らないで茶化すところだろうに」

男「照れてるのか?」

妖怪「断じてそんなことはない!」

男「色々な人の祈りを勝手にお祈りされる立場になって、色々なしがらみが産まれたりして

  それでも……神になることを受け入れる。俺たち人間は勝手だから」

妖怪「……」

男「他のあなたが見えない人間の変わりにお礼を言うよ」

妖怪「え?」

男「……ありがとう」

妖怪「…………」


ザッーーーーーーーーーーーー

翌日

男「また来たよー」

妖怪「本当によく来るな。他にすることはないのかお前は」

男「ないな、ここできみと話すこと以上に重要なことなんてないよ」

妖怪「ぐ……ぬ……そうか……」

男「鳥は最近どうだい?」

妖怪「あの子達なら元気に育っているさ」

男「そうか、よかった」

妖怪「もうすぐ巣立ちの準備に入るだろう」

男「今までも沢山見てきたのだろう?」

妖怪「だからなんだ」

男「見守ってきたんだな」

妖怪「……なんだ……と言ってる」

男「ははっ、いや……なんでもない」

妖怪「人の子よ、私に隠し事をしてもいいと思っているのか?」

男「思っているね」

妖怪「き、気になるだろうが!教えろ」

男「女神みたいだなと思ってさ」

妖怪「なっ!?」

男「あの鳥たち……いや、この木に宿っている生物たちは幸せものだと思って」

男「だってこんなにも優しい妖怪さんが見守ってくれているんだから」

妖怪「……な、なんなのだぁお前は」

男「すごい声を出すなぁ、ははっ。まぁ表情がわからないのは辛いけどね」

妖怪「え?」

男「実は俺、あなたの存在と姿の輪郭は判るんだけど顔とかは見えてないんだよ」

妖怪「……そう、なのか……」

男「ああ。だから素直に色々言えるのかもしれない。

  面と向かって話すのは苦手なほうでね」

妖怪「お前の私を視る力が弱いということか」

男「さぁ?何故か君が鳥の世話をしている様子は気配でよく判ったんだけどね」

妖怪「……ならば」


妖怪「これでどうだ」

男「!!」

妖怪「み、見えるか……?」

男「みえ、る」

妖怪「そ、そうか……」

男「予想よりもずっと美人なんだな」

妖怪「何を言うか!馬鹿かお前は!」

男「その着物も綺麗だ。似合っているね」

妖怪「こ、これは……昔……ちょっとな」

男「自分で作ったのか?」

妖怪「まぁ……」

男「人間の女の子よりよっぽど能力が高そうだな」

妖怪「ひ、人の子と私を比べるんじゃない!失礼な!」

男「ごめんごめん」

妖怪「別に人の子を見下しているわけではないが、比較する類の話ではないという事だからな!」

男「わかった。……それにしても」

妖怪「……」 モジモジ

男「本当にきれいだ」

妖怪「うるさい!と、というか面と向かって話さないんじゃなかったのか!?」

男「面と向かって話さないと勿体無いぐらい美人だったからさ」

妖怪「うるさぁい!!!」

翌日

男「今日も来たよ」

妖怪「そうか」

男「今日は最初からよく見えるよ」

妖怪「うるさいぞ人の子よ」

男「ははっ、それでさ……」



翌日


男「今日は何を話そうか」

妖怪「お前と話すことなど、鳥のことぐらいしかないわ」

男「じゃあそうしよう、どうだい?最近は」

妖怪「2匹巣立った」

男「そっか!!よかったなぁ……」

妖怪「ふふっ……」

一週間後

男「話す話題がなくなったけど来たよ」

妖怪「何か作ってくればいいだろう!馬鹿なのかお前は」

男「うーむごめん」

妖怪「まぁいい今日は私が話す」

男「お、なになに?」


一週間後

男「今日はうれしそうだな」

妖怪「そんな事はないぞ」

男「鳥が全部巣立ったのか」

妖怪「そんな事は言ってないだろう?」

男「満面の笑みだな」

妖怪「成長が遅れていた最後の一羽がな」

男「そうか……よかった」

妖怪「ああ!」

1ヵ月後

男「やぁ」

妖怪「今日はいつもより遅かったな」

男「ちょっと、ね」

妖怪「ん?おい!」

男「なに?」

妖怪「……熱があるんだろう」

男「何のこと?」

妖怪「今日は帰れ」

男「……だいじょう 妖怪「大丈夫じゃないだろう!」

妖怪「帰れ!」

男「……また、明日」

妖怪「…………」


妖怪(大丈夫だろうか……)

妖怪(そういえばあいつは一人暮らしだと言っていた)

妖怪(ちゃんと安静にしているだろうか……)

妖怪(何か……何かないだろうか……)

妖怪(人の病は、どうすれば……)

妖怪「!!」 ハッ!!

妖怪「わ、私は……何を……」

妖怪「考えている……?」

翌日

男「やあ」

妖怪「だ、大丈夫か」

男「うん、もう元気だ」

妖怪「本当か?まだ顔色が悪いぞ」

男「病み上がりだからさ。まぁ風邪だろう、妖怪さんの顔を見たら元気が出たよ」

妖怪「じ、神社の中に簡単だが横たわれるものを作った」

男「……ありがとう」

妖怪「いいんだ……お、お前が不調だと」

男「だと?」

妖怪「……ちょ、調子が狂うのだ!だからさっさと治すがいい!」

翌々日

男「やぁ」

妖怪「き、昨日は何故来なかったのだ!?」

男「ちょっと、用事があってさ。事前に言わなくてごめん」

妖怪「いや……いいが、いや、うんよくないぞ!!ばか者!」

男「ごめんね」

妖怪「……きょ、今日は何の話をする?」

男「そうだな、あっそうだ!これ持ってきたんだ」

妖怪「?」

男「花だよ。ほら、綺麗だろう?」

妖怪「あ……」

男「耳の上に、つけてみてくれ」

妖怪「……そこに、置いてくれ」

男「直接つけていいか?」

妖怪「だ、だめだ!」

男「なぜ?」

妖怪「私に触れてはならない」

男「……なぜ?」 ソッ

妖怪「やめろ、来るな」

男「なら逃げていい」

妖怪「来るな」

男「……」

妖怪「来るなと……言ってい、る……」

男「……」


ソッ

妖怪「……」

男「……似合っている。とっても」


男「きれいだよ」

妖怪「………………」

妖怪「綺麗なんかでは、ない」

男「触れてしまって、ごめんなさい」

妖怪「…………」

男「ずっと半径三歩以内には近づかないようにしてきたけどさ」

妖怪「……」

男「この花は、どうしてもつけたくてさ」

妖怪「……」

男「言い訳だよなただの。ごめん、もう触らないから」

妖怪「い、一度触ってしまえばもう何度触っても同じだ」

男「……」

妖怪「だから、もういい」

男「……」

ギュッ

男「!!」

妖怪「……もういい」

男「暖かい手だ。ほんとうに」

妖怪「お前の手が冷たいだけだ」

男「そっか」

妖怪「…………この花飾り、ありがとう」

男「気にいってくれたかい?」

妖怪「ああ、これはいいものだ」

男「結構いい値段したんだ」

妖怪「大切にしよう。大切に……するからな」

男「ああ……グッ!!カハッ……」

妖怪「!?お、おい!!!」

男「……い、いやなんでも」

妖怪「血を吐いてなんでもないわけないだろう!!!」

男「そう……か」

妖怪「……うそをついたな?もう元気ではなかったのだな?」

男「……」

妖怪「何故嘘をつくのだ!?どうして!!!」

男「……今日は、帰るよ」

妖怪「ふざけるな!!送っていく!!」

男「!?で、でも君は」

妖怪「家はここから30分の処と言っていたな。いくぞ!!」

男「山の外だから、来れないんじゃ?」

妖怪「大丈夫だ」

妖怪(少しの間ならば……力を宿せば……少しなら……)

男の家

妖怪「ここ、だな……そうなんだな?」

男「ああ……」

妖怪「開けるぞ」

男「それにしても、その格好」

妖怪「着物だと目立つ」

男「いや、まぁそうだが巫女さんの姿も目立つからね?」

妖怪「ぐぬ……いいからほらっ!!布団へ!」

男「ありがと、う」

妖怪(何か……どうすれば……)

男「そこに、いてくれるだけでいいよ」

妖怪「な、何か薬を……探す」

男「そんなものはない」

妖怪「え?」

男「ないんだ、ははっ」

妖怪「……どういう、ことだ」

男「元々、病気なんだよ。俺」

妖怪「ぇ……」

男「体の細胞がだんだんと壊れてくとかなんとかで……とにかく身体が壊れていく病気なんだ」

妖怪「……そんな…………嘘だろう?」

男「カハッ!!!」

妖怪「男!!」

男「ぁ……初めて名前、呼んでくれた、な」

妖怪「そ、そんな事はいいから!!……どうすれば……」

男「……」 スッーーー

妖怪「……」

妖怪(どうすればいい……私に何ができる……男のために何ができる……)

リイイイイイイイイイイイン!!!!!!

妖怪「!!!!???」

リィィィィィィィン!!!!!

妖怪「な、なんだこれは!」 ガチャッ

「あ、もしもし?男君ですか?」

妖怪(人の声!?)

妖怪「あ……」

「もしもし?」

妖怪「……(えーい!!!)……はい」

「あ、えーと。男君のお宅ですよね?」

妖怪「はい」

「あなたは?」

妖怪「……男…の……その」

「ああ彼女さんですか」

妖怪「!!そ、その!!」

「ならば男君はそこにいるんですね?安静にしていますか?」

妖怪「え……」

「安静にしていますか?男君は」

妖怪「……寝ています」

「そうですか、まさかまたあの神社に行っているんじゃないかと思って心配しましたよ」

妖怪「ぇ……」

「男君の身体はもうそろそろ再入院しないとまずいでしょうから、こうして定期的に電話しているんですが」

妖怪「再入院……?」

「まだ流石に血を吐くまでは言ってないと思いますが、もし少しでも血を吐いたりしたら
 すぐに病院へ連れてきてください。もう医者として本人の意思よりも本人の命が助かることを優先に考えて行動しますので」

妖怪「……血を…」

「え?」

妖怪「血を……いっぱい吐いています」

「え!?本当ですか!?そ、そんな……すぐに向かいます!!そのまま男君を安静に!!」

妖怪「……」

「くそっ……だからあの呪われた神木へは近づかないようにと……」




妖怪「え?」

「あなたはそこの地元の方ですか?ならば知ってるでしょう?呪われたご神木の話」

妖怪「……どういう……」

「その地域には人の生命を吸い取るとの言い伝えのあるご神木があるんですよ。
 中々迷信めいた話なんですが、実際そこにある神社へ参拝していた多くの方が早死にしているとかで」

妖怪「…………ぁ……」

「男君はどうやらそこに定期的に行っているらしいんです。
 流石に迷信だろうし、私は止めはしませんでしたが最近はそこに行くまでに
 体力を使ってしまうという理由で控えるように言っていたんです」

妖怪「…………あぁ……」

「何かご存知ないですか?彼女さん。男君はもう長時間動けるような身体ではないんです。
 少しだけ体調がよくなったから産まれ故郷であるその街ですごしたいという本人の希望で
 少しの期間だけお試しで帰っているだけなのですよ」



妖怪「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


妖怪(私は何故男に近づくなと言った?)

妖怪(私は何故人に見える形になれる?)

妖怪(私の神社に何故長い間人が来ない?)

妖怪(何故?)

妖怪「うあああああああああああああああ!!!!!!!」

妖怪「私は私は……わたしはぁ……」

男「ど……した……?」

妖怪「!」 ビクッ!!

男「泣いて、るの……かい?」


妖怪「ごめん、なさい」

男「ぇ……」

妖怪「ごめんなさい……ごめんなさい……」

男「何が……」

妖怪「お前は私には触れてはいけなかった」

妖怪「お前は私に会ってはいけなかった……」

妖怪「ごめんなさい」

男「……誰かから……何かを、聞いた……のか?」


妖怪「ヒッグッ……ごめ……エグッ……」

男「…………何も、関係ない」

妖怪「……」

男「君が俺の生命を吸い取るご神木……とか思ってるんじゃないだろうね?」

妖怪「……」

男「そんなことは、ないからな」

妖怪「……」

男「それどころか、ぎゃく、さ……君に、会えたから……」

妖怪「……」

男「俺は……生きる希望が……出てきた……んだ」

妖怪「うそを……言うな」


男「本当さ……もう死ぬしかないのかと、絶望感に打ち菱がられていた俺に」

妖怪「……」

男「君は……」

妖怪「…………」

男「なぁ」

妖怪「なん、だ」

男「連れて行ってくれないか」

妖怪「え……」

男「あの、神社へ」


妖怪「で、でもさっきこれから男の声で」

男「ああ……お医者さんから聞いたのか……来るって?」

妖怪「……」 コクッ

男「もう……病院には戻りたくないんだ」

妖怪「……」

男「どうか、連れて行ってくれないか」

妖怪「……」

男「俺は……もう…………だから……」

妖怪「あの場所は……」


ソッ

妖怪「!!」

男「あの場所で……きみと……お願いだ」

妖怪「お前は……馬鹿なのだな」

男「何とでも、言って……く……れ……」


妖怪「……お前、こんなに軽かったのだな」

男「」

妖怪「なんで、気づかなかったのだろうか……」

妖怪「人の子に私が見えるはずもないのに、何故だと……」

妖怪「何か理由があったはずなのにな……」

妖怪「私は……なんと……愚かなのだろう……」

妖怪「私は……うれしかった」

妖怪「嬉しかったのだよ。男よ」

妖怪「私と楽しい話をしてくれて、私をやさしいと言ってくれて」

妖怪「私に花飾りをくれて……」

妖怪「私に、触れて……くれて……」

神社

妖怪「来たぞ、男よ」

男「……」

妖怪「思い出したよ、私は呪われているのだ」

男「……」

妖怪「私の木に触れたものは過去にもみな早くに病気で死んだのだ」

男「……」

妖怪「そんな木の本体である私と毎日一緒にいたのだ、お前は」

男「……」

妖怪「……ヒッグッ……」

男「……」

妖怪「私は……ヒッグッ……何という事を……エグッ……」

男「あり、がとう」

妖怪「!!! 男!!!」

男「……君は、何にも悪くない」

妖怪「私は……お前のその優しさに甘えたのだ、私達は会話をしてはいけなかった。
    出会ってはいけなかったのだ……」

男「そんな事を言わないでおくれ、綺麗な顔を台無しにしながら言う台詞じゃない」

妖怪「……」

男「ここに着てから、気持ちが落ち着いて、身体も……幾分マシになった」

妖怪「……」

男「こっちへ来てくれ。手を……」

妖怪「いけない」

男「頼む……伝えたいことがあるんだ……」

妖怪「……なんだ」

男「来てくれたら、言う」

妖怪「……卑怯者め、私はもうお前とは」

男「グッ!!!……くっ……なら……」

クイッ

妖怪「!!」

男「へへ」

妖怪「……やめ」

男「俺は、君と出会えたことは人生で一番の宝物だと思っているよ」

妖怪「……」

男「君が呪われたご神木であろうと、君は優しいすばらしい神様だ」

妖怪「……」

男「俺にとっては、本当にすばらしい時間だった。君と過ごした少しの間は」

妖怪「……男……」

男「……君は、悠久の時を生きる素晴らしい存在だ」

妖怪「……」

男「俺に、出会ってくれてどうもありがとう」

妖怪「……男」

男「恥ずかしいが……もう無理だから言うよ」

妖怪「ぇ……」

男「こんな一瞬の時を生きた奴なんかに言われても、かもしれないけど」

妖怪「男?」



男「愛しています」


妖怪「ぁ……」

男「愛しています、妖怪さん。大好きですよ」

妖怪「……ぁぁ……」

男「俺は……もう……だけど…………君は……」

妖怪「私もだ」

男「……」

妖怪「私も……男のことが好きだ……」

男「……」

妖怪「だからいくな……私と暮らそう……私がお前を守ってやる……だから……」

男「ありが……とう」

妖怪「……男!!!」


男「」

妖怪「…………なぜだ……ヒッグッ」

妖怪「何故こんな……ヒッグッ」

妖怪「私はこの人間を愛しているのに……何故この人間は死ぬのだ」

妖怪「ぁぁぁ……」

妖怪「私は……絶対に……男と暮らすのだ……」



妖怪「……神なんて役職はいらない」

妖怪「もう何もいらない」

妖怪「男と同じ場所へ……私はもう男だけでいい」

妖怪「愛しているんだ……愛してしまったのだ……」


妖怪「私は…………もう……」

妖怪「……男……」





妖怪「…………私の本当の名は…………………」


男「……ここは……」

男「俺は……死んだのか」

男「…………そうか」

ソッ

男「え……!!!」

「この、髪飾り……どうだ?」

男「……どう、して」

「男のいないあの世界に、未練がなくなったのだ」

男「そ、そんな……だって」

「わがままをしてみたのだ、神様に。もう私は男と一緒にいる」

男「本当……に?」

「ああ……もう私を一人にしないでおくれ」




「愛しているよ、男」

終わりです。高鈴さんの「愛してる」という曲を聴きながら。

乙!
本当の名前ってなんだ?

>>62
秘密です。
裏設定的には本当に上位な存在に自分の真名を言うと色々能力やら
役職やらが返還されて云々とか考えていました。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom