安心院「自転車乗れない」 (35)

人吉「思い返すと色々あったよな」

人吉「初めは普通に生徒会として生徒の悩みを解決するだけだったのが、フラスコ計画とかいう謎の実験に関わるようになって」

人吉「そのせいで学園の地下で暴れるわ、生徒会を乗っ取られそうになるわ」

人吉「挙句にめだかちゃんと生徒会長の座をかけて戦うことになったりして」

人吉「そんなこの一年で起きた色々が、もとを辿れば安心院さんの出来ない事探しのためだったっていうんだから笑っちまうぜ」

人吉「で、さっき何て言ったんですか?」

安心院「僕に自転車の乗り方を教えてよ」

人吉「何でだよ!!」


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安心院「先週なんとなく自転車に乗ってみようとしてみたら、乗れないことが判明してね。今まで自転車に乗ろうとしたこともなかったから、知らなかったよ」

人吉「あんた1京のスキルとか自慢してたじゃん!!」

人吉「というか出来ない事がなさ過ぎて色々やってきたのに、え?なんで自転車?よりによって自転車!?」

人吉「さんざん人を振り回しておいてこんなオチとかありえねえ」

安心院「ふふふ、元気いいね。何かいい事でもあったのかい?」

人吉「いや、いい事とかじゃ」

安心院「僕が自転車に乗れないのがそんなに嬉しいかい?」ズイッ

人吉「ちょっ近……っていうか怖い!笑顔が怖い!」

安心院「まあね、人吉くんはおろか自転車が誕生するよりも前から生きていて」

安心院「1京とかぶっちゃけ自分でもやりすぎだと思うぐらいスキルを持っている人外にして」

安心院「君がこれまで箱庭学園で体験した出来事のいわば黒幕の安心院さんが、まさか自転車に乗れないなんて人吉くんにとって計り知れない衝撃だろうし驚いて当然だ」

人吉「あ、ああ」

安心院「でもね人吉くん。そんな君にもこれだけは知っておいてほしい」

人吉「え?」

安心院「君の1億倍は僕の方が衝撃受けてるからね」ガクガク

人吉「膝!膝震えてるぞ!?」

安心院「正直今こうやって立っているだけで精一杯というか、それ以上煽られると一週間でここまで持ち直したメンタルが崩壊しそう」プルプル

人吉「もしや、このごろ安心院さんを学園で見なかった理由って!?」

安心院「やば……泣きそう……また一週間泣きそう……。涙って涸れないんだ、初めて知ったよ……」プルプル

人吉「ごめんなさい!!調子に乗ってほんとごめんなさい!!」

人吉「えっと、落ち着いたか?」

安心院「ああ、大丈夫、見苦しいところを見せたね。代わりに今度与次郎の着替えシーンを見せてあげよう」

人吉「いらねえよ!?」

安心院「欲視力は改造しちゃったからね。最近は覗きもご無沙汰だろう」

人吉「してねえよ!?なに人を犯罪者にしてくれてんだ!?」

安心院「誰にも言わないから安心しなさい(安心院さんだけに)」

人吉「だからしてねえって!そのわかってるよって顔やめろ!」

安心院「安心しなさい(安心院さんだけに)」

人吉「しつけえよ!」

人吉「確認するけど、本当に自転車に乗れないだけなのか?なんらかの事情で自転車のスキルが使えなくなってるとかじゃなく?」

安心院「ああ、そんなスキルは元から持っていないよ。バイクとか三輪車のスキルならあるんだけど」

人吉「……」

安心院「今、三輪車に乗る僕を想像したろ」

人吉「し、してない」

人吉(心を読まれたのかと思った)

安心院「これぐらいスキルを使わなくてもわかるって」

人吉「読まないでください」

人吉(あとは今までのが全部演技で、安心院さんの暇つぶしの可能性もあるけど)

安心院「……」

人吉(ま、いいか)

安心院「あれ、いいのかい?」

人吉「いいよ、安心院さんに巻き込まれるのはいつものことだし」

人吉「それに安心院さんと過ごす時間ってのも俺、結構好きだから」

安心院「そういう台詞はめだかちゃんに……いや、いいか」

人吉「何か言ったか?」

安心院「……いつか地獄耳のスキルも貸してやるよ」

人吉「てか反則っぽいけど半纏さんに頼めばいいんじゃねえの?」

安心院「……」

人吉「あれ?そういえばいないな、半纏さん。なんかさっきから違和感があると思ったら」

安心院「半纏なら先週海の底に沈めた」

人吉「何してんの、あんた!?」

安心院「あいつ……笑ったんだ。僕が自転車で転ぶのを見て……」ギリリ

人吉「そのぐらいで沈めるとかやりす……あの人笑うの!?」

安心院「ああ、笑った。指をさして笑いやがった。あんな顔百年以上連れ添って初めてみた」

人吉「そもそも俺はあの人の普段の顔も知らないけど」

安心院「ちなみに笑い声はグォッフォフォだったよ」

人吉「あの人サンシャインだったの!?」

人吉「でもなんで俺なんだよ?自分で言うのも何だけど、もっと適任がいっぱいいるんじゃないのか?」

安心院「そうでもないよ。言うまでもなく過負荷は駄目だぜ。というか球磨川くんは絶対駄目だ」

人吉「それはわかってる」

安心院「あと悪平等、僕の端末たちも駄目だ。僕にも面子というか隠したい恥はある」

人吉「それは、まあ」

安心院「それとめだかちゃんも駄目だ」

人吉「めだかちゃん駄目か?俺よりずっと上手いけど」

安心院「……君さ、それ本気で言ってる?あの子が人に自転車の乗り方を教えられると本気で思ってる?」

人吉「……すみません」

安心院「せいぜい、体にあった自転車でないと姿勢が悪くなるとか言われるだけさ」

人吉「でも俺なんかで」

安心院「こら」ギュッ

人吉「ちょ、何して!?」

安心院「確かに君より優秀な奴はたくさんいる。もっとも僕がその最たる者だけれど。そんな僕を相手にして自分の能力に不安を持つのは仕方のないことだ」

安心院「けど、だからといって君は自分で出来ることを放り投げるような男じゃないだろう?君を頼る奴を見放すような男じゃないだろう?」

安心院「めだかちゃんに勝利し、箱庭学園の生徒会長となった人吉善吉はそんな男じゃないはずだ」

人吉「……ごめん、目が覚めた」

安心院「それは重畳。いつもならこんなに優しくしないけど、今日は教わる側だし大目に見てやるよ」

安心院「でも忘れないでくれ。君より優秀な人間がたくさんいるこの学園で、僕が君を選んだわけを」

人吉(そうだ。自分が大したことない奴だってのは、めだかちゃんと会った時から知ってることじゃねえか)

人吉(選挙でめだかちゃんに勝ったからって、それは変わらない。うぬぼれるな、人吉善吉!)

人吉(こうして安心院さんが、誰よりもまず俺に頼ってくれたんだ。だったらそれに応えるのがすじってもんだろ!)

安心院「いや人吉くんが最初ってわけじゃないけど」

人吉「……え?」

安心院「初めは阿久根くんに頼もうとしたんだけど、鰐塚の奴もそばにいたから断念して」

安心院「次に屋久島くんに頼もうと思ったけど、金銭を要求されそうだから断念して」

安心院「その後真黒くんに頼んでみた結果、人吉くんを推されたから、こうして頼みにきたわけさ」

人吉「俺が全然一番でもないどころかすげー後回しだったこと以上に、出番あまりない屋久島先輩が俺より先に候補にあがったことがショックなんだけど!!」

安心院「おいおい、君がいないところでもそれぞれの人生があって出番があるんだぜ。漫画じゃないんだから」

人吉「ちょっと前まで世界を漫画だと思ってた人に言われた!?それにしてもなんで屋久島先輩!?あの人水泳部だろ!」

安心院「彼は阿久根くんと同じ万能型だからね、水泳が特に合っているというだけで、自転車だって人一倍乗れるんだよ」

人吉「釈然としないけど、屋久島先輩のことはわかった。でも真黒さんはどうして俺を…」

安心院「こら」ギュッ

安心院「確かに君より優秀な奴は」

人吉「もういいよ!ってか結局俺を選んだの、あんたじゃなくて真黒さんじゃねえか!感動して損した!!」

安心院「いいじゃないか、それだけ真黒くんに信頼されてるってことだぜ。軍艦塔に善吉ちゃんルームが作られる日も近いよ」

人吉「やめて!まじやめて!!」

安心院「マジな話、人吉くんがめだかちゃんと結婚して、真黒くんの義理の弟になったら大変だと思うぜ。義理だろうと弟だろうと、妹として愛してくる……かも」

人吉「ひぃいい!!」

安心院「と、冗談じゃない話はともかく」

人吉「待った!その『冗談じゃない』ってのは『あってたまるか』の意味であって『本当の話』って意味じゃないですよね!?」

安心院「……冗談じゃない話はともかく」

人吉「なんか言って!!」

安心院「真黒くんが、なんで人吉くんを推したかはわからないんだよね」

人吉「え、それぐらい心を読めばわかるんじゃないか?」

安心院「おいおい、そうやって僕を覗き仲間にしようとするなよ」

人吉「俺が覗きしてること前提かよ!?」

安心院「まあ、真黒くんに関しては僕ができるだけ心を読まないようにしている、というのが正しい」

人吉(そういや二人は中学のころに生徒会で一緒だったって聞いたな。やっぱりその辺の付き合いみたいのがあるのか?)

「そういえば行橋、お前は真黒くんのこと避けていたな。何故だ?」

「変態がうつるからだよ」

人吉「さて、ぐだぐだ言ってても始まらないから、ウチの近くの公園に自転車持ってきたわけだけど。とりあえずどの程度かわからないんで、走ってみてくれ」

安心院「ああ、わかった。先に言っておくけど笑うなよ」

人吉「笑わねえよ」

安心院「よいしょっと」

安心院「さて……」

人吉(あれ?走りださないぞ?)

安心院「」ブツブツ

人吉(何だ?なんかぶつぶつ言ってる?)

安心院「『散重心(体重を散らすスキル)』『人間的得意点(リミッターを解除するスキル)』『誰かさんが転んだ(動体視力向上のスキル)』『玄人肌視(肌で感じるスキル)』『風の吹くまま(風を司るスキル)』『死の歩道橋(道を司るスキル)』『自我速度(速度を司るスキル)』『怒り心頭に発しない(何にも恐れなくなるスキル)』『そのままの君が好き(気休めのスキル)』『猫の耳も借りたい(猫耳を生やすスキル)』『絶飲絶食(栄養補給不要のスキル)』『自分の脳に聞いてみろ(脳内麻薬のスキル)』『人体強度(単に強いスキル)』『失態失敗(失敗しないスキル)』『善行」ブツブツ

人吉「ちょっと待てーー!!」

安心院「どうしたんだい、今ちょっと準備に忙しいんだけど」

人吉「たかが自転車乗るためにどんだけスキル使う気だよ!?あとテンパって猫耳生えてんぞ!!」

安心院「え?あ、本当だ。いけない、いけない」

人吉「もう禁止!スキルの使用禁止!!」

安心院「おいおい、スキル禁止ってそりゃないぜ。それじゃあ普通の人間と変わらないじゃないか」

人吉「つうかスキルとか使われても、俺にはどう教えればいいかわかんねえよ」

人吉「俺が教えられるのは、多くの凡人がやるような普通の練習方法だけだ。転んだり擦りむいたりしながら、フラフラとした運転を繰り返す、そんなありふれた練習だけだ」

人吉「安心院さんにとっては、すごく退屈でつまらない時間になると思う。やめたいって言うのならそれでもかまわない。けどもしもやるっていうのなら、安心院さんが自転車に乗れるようになるまで全力で付き合ってやる」

人吉「どうするよ?」

安心院「……やれやれ、まさか僕が少年漫画よろしく泥臭い練習をする日がくるとはね」

人吉「少年漫画でもねえよ、こんな練習風景。わざわざ描写するほどのことじゃない、多くの人が経験したことのある努力だ」

安心院「君こそいいのかい、最後まで付き合うとか言っちゃって。新生徒会長で忙しいはずだろう?生徒の頼みとはいえ、一人の生徒にばかりかまけてはいられないんじゃないかい?」

人吉「あー、忙しくないっていったら嘘になるけど。でもほら、言っただろ」

人吉「俺、安心院さんと過ごす時間、結構好きだから」

安心院「……はぁ」

人吉「な、なんすか?」

安心院「なんでもないよ、なんでもね」

人吉(その後の練習については、本当に特筆すべきことはない普通の練習だった)

人吉(初めて自転車に乗る人間が味わう痛みを、安心院さんも同じように味わった)

人吉(意外だったのは、そうして出来た傷を安心院さんはスキルで治そうとしなかったことだ。流石にそれぐらいは使っていいのでは、と思ったけれど安心院さんは)

安心院「今回は最後まで、真黒くんの思惑に乗ることにしたよ」

人吉(と言うだけだった)

人吉(安心院さんが自転車に乗れるようになるまで、どの程度かかったかは本人のために秘密にしておくけれど)

人吉(最後に見せたあの笑顔を、俺は忘れないことだろう)

十年後

人吉「いてて……十年ぶりとはいえ、めだかちゃん容赦なかったな」

「それはお互い様だろ。君たち、自分の歳を考えなよ」

人吉「確かに大人気なかったよな。でも俺とめだかちゃんの決闘は、やっぱりこうじゃないと」

「そうかい。気が早いけど結婚おめでとう、人吉くん」

人吉「ありがとう、あ……ああああ!?」

「なんだよ、うるさいな。近所迷惑だぜ」

人吉「な、なんでここに、いやじゃなく生きて」

「だからうるさいって。そんな事より今日は君に頼みがあってきたんだ。君にしか頼めないことだ」

人吉「俺に頼み!?なんですか、いったいどんな!?」

「僕に逆上がりを教えてよ」

人吉「あんたほんと自由だな!?」

おわり!

乙です!

ところで『怒り心頭に発しない(アングリーアンブレラ)』って何にも怒れなくなるスキルじゃなかった?
恐怖心をどうにかしたいなら『恐るべき大人達(トリプルテリブル)』と『哀喜楽怒(フィーリングミキサー)』を組み合わせるとか、『人唇(ヒューリップ)』とか…
まさか安心院さん、自分のスキル効果を間違えるほどテンパってる…? だとしたら可愛いな

おつ
【失敗しない】スキルがあって自転車の運転に【失敗する】ってもう因果律とかの話なんじゃ

>>33
たぶんうっかりミスとかを回避する能力なんじゃないのかな?
成功率70%の出来事を成功率100%にする、みたいな
あくまで『失敗しない』だけで『必ず成功する』わけではないってことかも

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