【俺ガイル】 八幡「俺はまだ選ばない」 (35)
いつものように部室へ向かう途中で、見知った背中を見かけた。白衣である。
その時点で該当者など一人しかいない。一応俺も教え子の身だ、上下関係は守らねばなるまい。こういう考えが将来社会の歯車になる際に役立っていくんだろうか。
「平塚先せ……」
しかし言葉はしりすぼみに霧散した。
俺の本能が警鐘をガンガン鳴らしまくったのだ。今声掛けると絶対やばい。
時折声が漏れ聞こえてくる、
「男なんて……」「ああ……」「結婚したい……」
……本当に、誰かもらってやる奴はいないのかなあ……。
出崎演出みたく斜線を背負うその姿に、俺は掛ける言葉を持っていなかった。
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部室には雪ノ下と由比ヶ浜が既に居た。どうやら宿題をやっているらしい、由比ヶ浜の。
「えーっと……この文章を訳しなさい、だって。……」
「……何でそこで固まるのかしら? 解らない単語を辞書で調べるくらいはできるでしょう」
「……Iってラブ?」
おいおいマジかよ。恋愛脳もそこまでいくと尊敬できるレベルだ。
「うす」
「あ、ヒッキ―だ」
「あら、比企谷くん、遅かったのね」
定位置と化している椅子に腰を下ろし、文庫本も装備する。
「日直だったからな……普段は俺に気を払わねえんだから、例外なくスルーしてくれればいいのにな」
「自ら孤独を選ぶのね……いっそ今すぐ孤独死したらどうかしら」
冷ややかな目線で繰り出される毒舌を受け流す。もう半年ほどもこんな扱いだと、いい加減慣れてしまって、反駁するのも億劫だ。
「えー……ヒッキ―、人の言葉を無視するのはダメだよ? 人にやられたら嫌なことはやっちゃダメって言われなかった?」
「由比ヶ浜さん、そんな常識をこの男に説いても無意味よ。それに先ほどの私の言葉で決意を固めてしまったようだし、邪魔するのも悪いわ」
「何で俺がここで息絶えるのが確定したみたいになってんの? 俺は悪口言われたんだから憐れまれる方なんじゃないの?」
まあ、どうせ何か言ったところでこんなオチが着いたに違いない。言っても言わなくても悪い方にとらえられるとか、一体どうしろというのか。選択肢が出たと思ったら選んだ先は全部同じ、みたいな感じか。バグ起きてるぞ、業者回収まだかよ。
由比ヶ浜があははーと笑って、話題を変える。それ、フォローのつもりなんですかね。
「そういえば、平塚先生って最近部室来ないよね」
「さっき見たぞ、廊下で」
先ほどみた光景を脳裏に思い浮かべながら答える。……若干気持ちが沈んだ。
「あ、そうなんだ。なんで来ないのかなー」
「あの人も色々忙しいのでしょう。仮にも教師だもの」
「まあ、忙しいことはそうなんだろうな。本職でなのかは知らねえけど」
「? 何か知っていそうな口ぶりね」
雪ノ下が目ざとく反応する。
隠す理由も無いので、さっき見たことをざっと説明した。
「……先生、大変だね……」
儚むような声を絞り出したのは由比ヶ浜。
「忙しいことには変わりないのだし、私たちには何もできないわ。そっとしておくのが一番なのでしょうね」
さらりと無関心を決め込む雪ノ下。
どちらも他人事といった様子だ。
確かにその通りだから、こいつらの反応は何ら間違ってはいない。
しかし俺は思うのである。
平塚先生の年齢は三十歳前後だ。対して、俺たちは十七、八歳。
せいぜい十年後には、俺たちも先生と同じ境遇に立たされることとなる。そうなったとき、先生のようになっていないなどと、自信を持って断言できるような奴が、この場にいるのだろうか? と。
まず俺だが、決して出来ないという自信がある。たかが十年やそこらで、これまで培ってきたぼっちスキルが解消されるとはとても思えない。天涯孤独を貫き通すまである。
由比ヶ浜は、この中では最もその可能性は低いだろう。現在もクラス内カーストの上位に属しているくらいだ。知らないうちに彼氏ができて気付いたら子持ち、というのは実にありそうな話である。しかし如何せん頭が残念だから、そこが致命的な結果を招くやもしれない。
そして雪ノ下。出会ってからこれまでの間で多少、性格は軟化の傾向にある。
だが、それはこいつから日常的に罵詈雑言を浴びせられている俺の評価だ。耐性の無い野郎がこいつと相対したら、プライドの一本や二本はあっさりへし折られてしまうだろう。なまじっか出来が良いもんだから、相手へ求めるものも生半ではあるまい。孤独ルートを歩んでくだろうことは想像に難くない。
結論。
全員やばい。
俺が脳内で理論を完成させ、ふと周りに目を向けると、疑念の視線がこっちを向いていた。
「なんか変なこと考えてる顔してた……」
「な、なんのことでせう……」
「動揺があからささますぎるわね……何でこれで文化祭のとき、あれだけの立ち居振る舞いができたのかしら……」
こめかみを押さえる雪ノ下とは対照的に、由比ヶ浜はずいっと詰め寄ってくる。
「何考えてたの? ほら言えっ!」
ちょ、近い近いっ……!
こうなってしまうと男というのは脆いものだ。口を割らせたければ女子を密着させればいい。女子高生なら尚よし。
とはいえそのまんま詳らかにするわけにもいかないので、ソフト&ウェット(柔らかくそして濡れている)に説明した。
反応としては大して変わり無かったと思うが。
「かっちーん……」
擬音で感情を表すガハマさん。
「そう……」
言葉少なな雪ノ下。いや怖い、マジ怖いって。
「……そう怒んなよ。たかが俺の想像だぞ」
「比企谷くんごときの想像の中ですら、私の扱いがその程度というところに、とても憤りを覚えるわね……」
……なんか逆鱗に触れたっぽい。由比ヶ浜も頷いている。
「ならば、証明してみせましょうか。本当にあなたの考えている通りなのか、どうかを」
雪ノ下が挑みかかるような口調で言った。
……どうやって?
「……んで?」
普段より部室が広くなったかのような錯覚がする。真ん中に置かれている机を全て隅に追いやったのだ。
がらんとした部屋の真ん中、俺は由比ヶ浜と並ぶようにして立っている。目の前には雪ノ下が映画監督さながらにふんぞり返っている。
これから何をするのかといえば、
「さっき説明したでしょう。演じるのよ、結婚生活を」
……ということである。要はオママゴトみたいなもんだ。
二人が先攻後攻を決め、新婚夫婦という設定で俺と寸劇を演じる。男は俺しかいないので続投である。判定は俺に一任。
「優劣はどうやってつけりゃ良いんだ」
「良いと思った方、で良いわ」
「だからその判断基準を……」
「それ、女の子に聞くの? だからヒッキ―ってダメなんじゃないの?」
由比ヶ浜が思いっきり見下しながらそう言った。言葉って、シンプルであればあるほど心を傷つけるんだよ?
反論ができるはずもないが。
「で、由比ヶ浜からなのか」
「うん。さっきジャンケンで決めたから」
こういう勝負って、大体先攻が負けるパターンだよな……とは言わない。
「じゃあ、始め」
雪ノ下の合図が飛ぶ。
「…………」
「…………」
「…………」
………なにこれ?
「……あの、固まってないでどちらか動いてもらえないかしら」
「ああっ、ごめん! いきなりだったからっ」
確かにいきなりだったな。俺はアドリブにめちゃ弱いし、由比ヶ浜も強そうには見えない。
由比ヶ浜は咳払いをひとつして、
「じゃあ、し、新婚って設定で」
「いや、それはもう決まってただろ」
「か、確認、確認だからっ! ……んで、ヒッキ―が仕事から帰ってきたってとこからね!」
ふむ、ベタだがそれ故にやりやすそうなシチュエーションだ。
というわけで再開である。
「おーい、帰ったぞ」
「何その昭和のお父さん!? ……まあいいや……お帰りなさい?」
え、これ昭和なんだ……ウチの父親こんな感じなんだけど。だがセンスが古いというなら確かにそうではある。
由比ヶ浜は台詞を言い終え、そのまま沈黙した。
「おい、どうした」
「……っと、えー……っと……」
両手を腰あたりで組んでわさわさしている。なんなのビオレママなの?
と、漸く顔を上げて上目づかいで言った。
「……、ご飯にする、お風呂にする? ……それとも……あたし?」
……またえらく古典的だな。人のこと言えんぞコイツ。ていうか照れながら言うのやめろ。マジっぽさ増してるから。
当然俺の選ぶ答えは決まっている。
「飯で」
「わかった、ご飯ね……って、えぇっ!?」
驚愕するガハマさんだった。いやよく考えてみろ。仕事から帰ってきたらまずは飯だろう。よりリアリティを追及した結果だ。それに嫁に求めるのはまず飯の美味さである。ソースは関白宣言。どこまで行っても昭和。
そういう意味では由比ヶ浜は致命的な気がするが……まあいいか。実際そうなるわけでなし。
続いて夕飯のシーンである。椅子は片付けてしまったので立ちっぱだ。シュール。
「どうー、今日は結構自信あるんだよ!」
「美味い美味い」
「……何その適当な返事。もっと味わってくんない?」
「そうよ比企谷くん。演技の中でくらいしっかり味わいなさい。現実では味わっていたら健康に害を及ぼしてしまうのだから」
「えっ、ゆきのんそれってどういう……」
雪ノ下から演技指導が入る。言い方アレだけど確かにそうだよな。こいつの料理スキルが改善するとは思えんし。そう考えると、由比ヶ浜ルートは食生活が恐ろしいことになりそうである。
特に会話の無いまま食事シーンを終えようとしていると、
「ねえ、何も会話が無いっておかしくない? 一応家族って設定じゃん?」
「日本人の食卓に会話はいらんだろ。それがマナーってやつだ」
「え、そういうもんなの?」
「食事中は沈黙こそが美。こういう伝統をこそ大切にしていきたい所存です」
「いや、でも今食べてないしさ……」
「リアリティを追及している。なんなら霞を食むレベル」
「人を超越してしまっているのだけれど……」
そんな他愛も無い会話があり、風呂シーンはすっ飛ばし、就寝シーンとなる。
「じゃ、寝るから」
「ええ……こういうのって夫婦一緒に寝るもんじゃないの……?」
「お前は俺より先に寝ちゃダメだし、俺より先に起きてもダメだ。それこそ日本の美。ソースはさだまさし」
「ヒッキ―昭和に染まり過ぎだよ……」
と、そこで雪ノ下がぱんぱん、と手を叩いた。終了の合図のようだ。
「なんというか……全体的に由比ヶ浜さんに同情したくなってしまったわ」
「ゆきのん……私、ヒッキ―とやっていく自信無くなっちゃったよ……って! いや、元々無いよっ!? これっぽっちも!!」
嘆くのか否定するのかどっちかにしろ。あと俺もお前とどうこうとかは考えたこと無い。……いや、ホントだよ? 勘違いしないためにフラグを進んで回避する俺のスルースキルの高さは表彰されるまであると思っている。トゥルーエンドはヒロインの誰ともくっつかないED。うわーもしあったら売れねえなこれ。
雪ノ下は難しい顔をしながら立ち上がり、
「正直、私がやっても特に変わらない気はするのだけれど……一応、やりましょうか」
なに諦観に満ちた表情でため息吐いてんの?
そもそもこれ、お前の発案だよね?
という訳で役者交代である。
シチュエーションは先ほどと変わらず、俺の帰宅からだ。設定から差を出すわけにはいかない。
ドアを開けるモーションを取る。
「うす」
「ただいま、も言えないの? ダメだダメだとは思っていたけれど。最低限の挨拶すらも欠けているなんて、いよいよ落ちぶれているわね」
……第一声から罵声浴びせられたんですけど……。
「いや、お前……仕事から帰ってきた旦那に向かってそんなこと言っちゃうの? 家と職場のストレスで自殺に追い込みたいの?」
「そもそも比企谷くんがまともな職に就けるとは思わないわ。それにおそらく私も働いているでしょうし、割合としては7:3というところではないかしら? ならば、家事の一切をあなたがやるのが当然よね。私はむしろ労わられなくてはならないわ」
「リアルすぎんだろ……そこまで考えてるなら俺を専業主夫にしてほしいんだが。というかそれこそが俺の夢だし」
「嫌よ。何故私があなたを養わなければならないの?」
「一応家族って設定ですしおすし……」
「夫婦って、言い換えると一番身近な他人、なのよね」
協調性ゼロかよ。結婚した動機を疑いたくなるな。
流れで飯は俺が用意した、演技ではあるが。こんな生活がリアルであったら三日で逃亡する自信がある。
「……味付けが濃いわね。味覚障害を患っているのかしら」
「いやお前何言ってんの? エア飯の味を知覚できるとかどんな特殊能力?」
「多分こうだろう、という仮定に基づいての発言よ。あなたの料理がまともな味だとは思えないし」
「何さらっと貶しちゃってくれてんのかねえ……そうかもしれんということが腹立たしいが」
「あと、メニューのレパートリーが貧困ね。この献立は一週間前に食べたわ。栄養のバランスも最低。私が体調を崩したらあなたに責任の八割があるわね」
「……お前の設定どんだけ細かいんだよ。あと、言い方が悪意に満ちすぎてて俺が殺意持ってる風になってんじゃねえか。どこの熟年夫婦だ」
俺に暴言を吐きたいが為にこんなことやりだしたんじゃねえのかと疑うレベルである。
その後も、食事後の皿洗いに文句を言い、風呂の温度にケチをつけ、翌日の朝食の下拵えにまで口を出し、もう姑じゃねえかと言えるほどの細かさを発揮する雪ノ下雪乃であった。
こんなにめんどくさい奴だったら、貰い手いないかもな……多分。
「なあ、もう終わっていいか? 演技でこんなに心のヒットポイント削られると思ってなかったんだけど」
「まだよ。寝るところまでやるって最初に決めておいたでしょう」
そうだっけ? 由比ヶ浜のときは流れでそこまでやったが、特に決めてはなかった気もするが……まあいい。乗りかかった泥船である。さっさと沈没してしまえばいい。
寝るといっても立ちんぼである。一体この状態で何をしろと。
「比企谷くん」
「あん?」
「先に寝たらダメよ。一家の大黒柱を寝かしつけてから寝なさい」
大黒柱て。完全にこいつが主導権握ってるじゃねえか。いや実際そうなるんだろうけど。
ふう、というため息が聞こえ、
「やはりダメね。あなたといると私の負担が大きすぎるわ」
「寝る前に離婚宣言突きつけるとかお前どんだけ俺の心を虐めたいわけ?」
「違うわ。これはまとめよ」
いつ演技終わったし。自由すぎだろこいつ。
「少しでも更生してくれないかしらね……」
やれやれといった感じで呟かれた。
二人合わせて一時間経ってないはずなんだが、何で俺はここまで疲れてしまっているんだろうか。
「ほえー……」
アホな声がしたと思ったら案の定由比ヶ浜だった。そういやこいつ全然喋ってなかったな。
「どうした由比ヶ浜。ついに声の出し方すら忘れたのか?」
「忘れてないしっ! ……ちょっと、凄いなーと思ってただけだよ」
どこにそんな要素があったんだろうか。俺と由比ヶ浜の見ている世界には甚だしくズレがあるらしい。
「ゆきのん、色んなこと考えてるんだなーって。……うん。私ももっとがんばろっと」
なにやら闘志を燃やし始めた様子である。やる気になるのはいいことだ。俺を巻き込まない範囲で励んで頂きたいものだ。
「……それで」
雪ノ下の声に振り向く。腕を組んでこちらを見ていた。
「判定を聞きましょうか。どちらが良かったのかしら?」
……あー、そういえばそんな話だったな……。
ぶっちゃけ途中から苦痛でしかなかったので、当初のコンセプトを完全に忘れていた。演技であるにしろ、夫婦生活ってもっと潤いあるもんじゃないの? ささくれしか出来なかったんだけど。
社畜だけでなく、専業主夫の夢も諦めざるを得ないのかと、若干将来への不安を覚えてしまうレベル。
そんなわけで、正直どっちも大差ない。敢えて選ぶなら、まだダメージの少なかった由比ヶ浜ではあるが……。
二人からの視線で針のムシロ状態のそこへ、軽やかなノックが耳を打った。
「どうぞ」
雪ノ下の声に応じて扉を開けたのは――天使だった。
違う、戸塚だった。
あれ? どっちだっけ? 戸塚は天使? 天使は戸塚? つまり二つはイコール。どっちでもいいということか。戸塚マジ天使。
「あ、八幡。探してたんだよ。一緒に帰ろうかなと思って――」
その声を聴きながら、俺は至福に包まれつつ一つの結論を見出した。
「よし。戸塚の勝ちで」
「え? 何が……かな?」
「はい?」
「どういうことかしら。それは……」
いやだって、夫婦ってお互いが癒し癒されるものじゃないですか。その意味で戸塚ほど条件を満たす人物はいない。次点で妹。流石に近親なので、答えは戸塚。Q.E.D.(証明終了)。完璧な理論すぎる。
「よし、戸塚帰ろう。さあ帰ろう今すぐ帰ろう」
「え? でも二人が」
「いいんだ。あいつらは修業が足りていなかった」
「……ねえ、ゆきのん。ヒッキ―って実は……」
「……そうね。そろそろ真剣に考慮すべきなのかもね……」
ぼそぼそと囁きあう女どもを尻目に、俺は戸塚と手を取り合って廊下を駆けた。
……俺はあくまで今を大事にしたいのだ。ならば現時点で選ぶのは戸塚以外あり得ない。この一瞬を君と生きる。
今後それが、どうなるかは判らないが。
END
これで終了です。
短編でした。
また機会があれば書きます。
読んで下さった方、ありがとうございました。
レス余りまくったから別の短編も書きます。
―雪ノ下が来た―
雪ノ下雪乃が、何でかしらんが家に来た。
いやまあ、来た理由はわかっている。色々建前を並び立ててはいるが、要は、
「……何かしら」
「……いや別に……」
氷点下の視線で睨みつけられる。何も言うな、言ったら殺す、的な威圧である。
雪ノ下の前には猫がいる。我が家の愛猫、カマクラだ。俺から目を外した雪ノ下は再び猫に向き直ると、先ほどから続けている行為を再開した。
まあ、撫でているだけなんだが。
時折、会話でもしているみたく、
「にゃー」
「にゃー」
ちなみにはじめがカマクラだ。本当に意思疎通取れてんのか。少なくとも飼い主の俺よりは通じ合っているのかもしれない。
そんなことを来訪してから延々とやっている。かれこれ三時間くらいになる。俺はすることもないのでソファで寝っころがり携帯ゲームをしている。第三者が見れば何この異質空間、とでも思われそうだが、その心配には及ばない。両親は仕事、小町も友達の付き合いとかで帰宅が遅い。もしかして男なんじゃないだろうな。あれ、本当にそうだったらどうしよう。とりあえず相手の住所を調べ上げるか。
そんな思考の間も、雪ノ下は飽きることなく猫を撫で続けている。
よく続くな……。
ある意味感心の眼差しを送ると、ノータイムで気付かれた。反応良すぎだろ。撫ですぎて猫化しちゃったんじゃないの?
「何かしら? 言いたいことがあるなら言った方が楽よ」
「……言いながら目を鋭くしてくのは何でなんですかねえ」
「そうね。あなたを楽にさせる為かしら」
キル・ユーと同じこと言ってる、この女。おっかねえ。というか、
「見られるのが嫌なら、せめて別の部屋でやればいいじゃねえか……。もう何時間もやっといて、その反応はどうなんだよ」
雪ノ下ははっとした顔をした。次いで壁の時計を確認。あ、マジで気付いてなかったのかコイツ。
今日はここまで
読んでくれた人ありがとう
軽く咳払いをしながら立ち上がる。
「ま、まあ……そうね。時間の経過に気が行っていなかったから、少々長居をしてしまったようだけれど」
「少々なのか長いのかどっちだよ」
勿論長いと長居の区別はついている。一応。
雪ノ下が反駁しようとすると、
ぐぅぅぅぅ……という、間の抜けた音が鳴った。
発生源は俺ではない。
目の前の女の赤面具合を見ても、それは明らかだ。
ならばこう言うのが良いだろう。
「腹、減ったな……そろそろ夕飯時だし」
ヤバイ、今の俺超イケメン。歩いてたら見知らぬ女子から唐突に告白されるレベル。
本当に今日は終わり
お疲れ様でした
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