ーー「そうだ、オレの名は…」 (529)



「ちゃんと縛ったか!?」

「ああ、大丈夫だ。……っ!! おいっ!! 見ろよ、槍で刺したのに…もう傷が治ってやがる」

「けっ!! 全く気味の悪いガキだぜ」

「早いとこ捨てて帰ろうぜ、この山も薄気味悪いしよ…」

「ああ、そうだな…」


ーー

ーーーー

ーーーーーー


    ー化け物、怪物、悪魔、他にも色々言われたー


      ー得た物は無い、失った物も無いー

    
    ー最初から何も持ってはいなかったのだからー


   ー僕は一人だった…生まれた時からずっとずっと…ー


  ー自分の身を守る為、何人の人生を終わらせただろう?ー




        ………思い出せない………





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1358102077



ーーーーーー

ーーーー

ーー


「この糞ガキ!!」

 ドガッ!! 「うぐっ…止めてよっ…父さん…」

「オレはお前の親父なんかじゃねぇ!! ったく…何でこんなガキを預からなくちゃならねぇんだ!!」

 ドゴッ!! 「がはっ…!!」バタッ…


 このままじゃ…いつか殺される…


「チッ…気絶したか…刺そうが、殴ろうが傷が治りやがる、気味が悪いぜ…水ぶっかけて起こすか」クルッ


………殺されるくらいなら…


「…あ? 起きたのかよ…ん? 何だぁ?」


「…………………」ズズ…

 ズオォォォアッ!!!


「な…何だよ……何だよ『それ』は!!」

 前頭部から後頭部に掛けて曲がった二本の角…

 瞳は紅く輝き、周りの空気は禍々しく揺らいでいる。


「あ、悪魔……」

 闇の中でも分かる程の黒。
 
 角・紅い瞳…

身体はまだ小さく、人の姿を留めてはいるが悪魔と呼ぶに相応しい。


「……ハァァァ…」

「ヒィッ…く、来るなぁっ!!」

「……グゥッ…ウゥルオァァァアァッ!!!」

野獣の如き咆哮と共に放たれた拳は、

「来っゴシャッ!!!


顎を砕き頭部を跡形も無く消し飛ばし。

少年に父と呼ばれた男は頭部の無いまま数歩よろめくと…

関節が無くなった様にぐにゃりと倒れた。



    ーああ…そうだ…初めて殺したのはー


       ー義理の父親だったー



ーーーーーー

ーーーー

ーー


『起きて…目を覚まして…!!』


ーー「ん…うぅ……」

少女「…大丈夫?」

ーー「………助けて…くれたの?」

少女「まあ…そうなるのかなぁ」

ーー「…………」

少女「えぇと…私はネア、アンタ名前は?」

ーー「名前は……無い…」

ネア「ふぅん…」

ーー「…あれ…耳が……エルフ…」

ネア「えぇ、そうよ」

ーー「本当にいたんだ…なら今まで…」

ネア「待って、まず聞きたい事があるの」

ーー「なに?」

ネア「アンタ、人間じゃないわよね?」

ーー「……分からない」

ネア「……まあいいわ…多分もう直ぐ迎えが来るから」

ーー「『僕』に迎え? 誰が?」

ネア「そういう意味じゃなくて、アンタを此処、『プロテア』に連れて来た事が少々…かなり問題みたいで…」


ガチャッ!!

青年「ネア、ソイツが?」

ネア「ハンク…アンタねぇ、ノックくらいしなさいよ…」

ハンク「悪い悪い…でも急ぎなんだ!! 早く女王様の所に連れて行かないと…」


(獣人までいるのか…)

ハンク「まあ、そういう事で少年、一緒に来て貰うぞ?」

ーー「分かった」

ネア「詳しい事は女王様に聞きなさい、んじゃ」スゥ

パタン……

ハンク「………………」スッ

ガチャッ!!

ハンク「お前も来るんだよ!!」

ネア「……だよねぇ」

ハンク「全く……馬車を用意してあるから乗ってくれ」

ーーーーーー

ーーーー

ーー

ガララッ…ガラッ…

ハンク「そうか、境界の山に…」

ネア「薬草を取りに山を越えたら偶然見つけたのよ!! いやぁ、びっくりしたわ…」

ハンク「あのなぁ…外界は危険だから結界からは絶対に出るなって言われてるだろうが…」


『結界』か、山々に囲まれているとは言え見つからないのは不思議だった…だから見つからなかったのか。



ーー「外界って?」

ハンク「ん? ああ、人間が住んでる領域の事さ」

ーー「…へぇ」

綺麗な所だ…近頃は田舎だってこんなに自然が残ってる所は少ないのに。

ネア「あっ、城が見えてきた」

ーー「……凄い」


自分も城を見た事くらいある、でもあんなに綺麗な城を見たのは初めてだ。

派手な装飾は無い、だからこそ美しく感じられた。

幻想的って言うのかな…建物を見てこんな気持ちになったのも初めてだ。


ハンク「着いたぞ、行こう…」

ネア「此処に来て事の重大さが分かって来たわ……」

ハンク「女王様の裁量に任せるしかない、それに…結界から出るだけでも重罪なんだ……」

ネア「分かってる…」

ーー「………(何故ネアは僕を助けたのだろう?)」

ー城門前ー

ハンク「カルアさん、連れて来ました」

カルア「来たか、女王陛下が謁見の間でお待ちだ。此処からは私が引き受ける」

エルフの騎士、此処は女性でも騎士になれるのか…

ハンク「はい、じゃあオレはこれで」

カルア「ああ、ご苦労だったな」

ハンク「いや良いですって、んじゃな少年!! その…ネア…」

ネア「大丈夫だって!!」

ハンク「あ、ああ…そうだな!!」

カルア「……では、行くぞ」



門を抜けると庭…と言うより花畑が広がっている。


ネア「いつ見ても綺麗ね」

カルア「女王陛下自ら手入れする事もあるからな。それよりネア、お前は結界を踏み越えた…分かっているな?」

ネア「ええ…分かってる」

ーー「どうなるの?」

カルア「……結界を出た上に君の様な外界の者を連れて来たんだ…」

ーー「…………」

ネア「処刑されるかもね」

ーー「……?(分かってたなら尚更だ…何で僕を此処に……)」

カルア「着いたぞ……女王陛下!! お連れしました!!」

女王「入りなさい」

カルア「はっ!!」

ギィィィ…


あのエルフが女王様? まだ十七・八歳位なのに。

女王の周りを囲むのは全て女性騎士だ、男の騎士は居ないのか…

女王「私の名はセシリア、此のプロテアの地を統べる女王です、ネア…貴方はまだ諦めてないのね…」

ネア「明日には完成するわ…外界で取ってきた薬草を調合すればね」

カルア「…!!」

セシリア「…!! そう……なら、その薬の調合は他の者に任せます」

ーー「……………」

ネア「分かったわ」

セシリア「薬の完成は喜ばしい事、けれど結界を踏み越え、外界から知らぬ者を連れて来た『プロテアの掟』を破った罪は極めて重罪です」

ネア「そうね…」

セシリア「ネア…貴女を処刑しなければなりません」

ネア「そっか……そうだよね」

何で受け入れられる? 他人の僕を助けて処刑されるのに…

薬? 結界? プロテアの掟?

分からない…


セシリア「問題は貴方です…此の地に入れたと言う事は人間では無い筈。けれど貴方の姿は人間以外の何者でも無い…貴方は『何』なのです?」

ーー「どうせ僕も殺すくせに…」

カルア「なッ!? 貴様ッ!!」

セシリア「カルア…良いのです。答えてはくれませんか?」

カルア「くっ……」

ーー「悪魔・化け物…そう呼ばれてきた。名前は無い…」

セシリア「何故、悪魔と?」

ーー「傷の治りが早かったり槍や剣で刺されても死ななかった…他の人間が出来ない様な事も出来た…」

カルア・ネア「……!!」

セシリア「……他の人間が出来ない事、とは?」

ーー「力が強かったり、足が速かったり色々……周り人は異常だって言ってた」

セシリア「ならば何故、城へ来る途中に逃げなかったのですか?」

ーー「何度も追われて…もう疲れた、諦めた…でも一つだけお願いがあります」

セシリア「…何でしょう?」

ーー「ネアを処刑しないで僕を処刑して欲しい。ネアは『薬』を完成させる為に行動した、さっきのセシリア達の表情からすれば…きっと凄い事なんだと思うから」

ネア「…えっ?…」

カルア「…何を……」

ーー「此処に人間は入れない…でも人間の姿をした『何か』が入ってきた、僕の存在が不気味なんだろ……なら僕を殺せばいい」


カルア「(何だあの目は…それに、何故あんな顔が出来る!?)」

セシリア「…………」

ーー「此処の掟なんて分からない、けどネアの罪が重いのは分かったよ…でも人を助ける為に行動した人が死ぬのは変だ…と、思う」

セシリア「それは貴方の主観・主張でしょう?」

ーー「そうだよ…だから、僕の主張が通らなくて……ネアを処刑するって言うなら」


ーー「僕はセシリアを殺すよ」


セシリア「……ッ!!」

カルア・ネア「……なっ!?」

唯一言、『殺す』と言う言葉に騎士達は戸惑い…誰一人動けずにいた。

たった一人の少年の言葉に呑まれ、皆は背筋に冷たい何かを感じていた。

だが、少年の『気』に当てられた一人の騎士が斬り掛かる。

カルア「や、止めろッ!! カレンッ!!」

その叫びはカレンと呼ばれた女性騎士には届かない…

そして、突き出された剣は少年の胸を貫いた。


ーー「痛い…でもダメだ」

カレン「ひっ…!!」

ーー「胸じゃダメだと思う…首を斬り落とさないと、まだ首を斬り落とされた事は無いから保証出来ないけど……」

カレン「う、うあぁッ!!」

彼女は錯乱し、少年の胸から剣を引き抜き首を斬り落とさんと振り下ろす…

ガギィッ!!!

が、突然現れた男によって剣は防がれた。

セシリア「ルシアン…!!」

ルシアン「女王の前で何やってんだよ…馬鹿か? お前…」

カレン「あっ…うあぁ……」

正気を取り戻し、強張った全身の力が抜け膝から崩れ落ちた。


ルシアン「気を失ったか…おい、カルア!! お前が運んでどっかに寝かせとけ!!」

カルア「は、はい!! 分かりました!!」


ルシアン「全く…オイ」

ーー「なに?」

ルシアン「話しは聞いてた…ネアを助けようとしたのは良いがな、殺すってのは何だ?」

ーー「僕を助けてくれたのはネアが初めてなんだ…だから生きて欲しかった」

ネア「……えっ?」

騎士達『………!?』

ルシアン「(ネアを助ける、その為に殺す? ハッタリじゃない。多分コイツは『それ』しか手段を知らないんだ)」


ルシアン「諦めた顔してる割に瞳は殺気に満ちてるな…何人殺した?」

ーー「…………………」

ルシアン「どうした?」

ーー「正確な数は覚えてないんだ……」

騎士達『………………!!』ゾクッ…

その答えに嘘は無い、冷静に思い出そうとしている少年の姿は皆に言い知れぬ恐怖を与えた。


ルシアン「……セシリア!! コイツはオレが預かる!!」

セシリア「えっ、ルシアン…何を…?」

ルシアン「オレがコイツに『生』を教える。それとオレからも頼む、ネアの事は許してやってくれ……掟を破ってまで、病に冒された人々を救おうとしたんだ」

ネア「ルシアン…」

ルシアン「それにネアの親友セシリアで無く『女王として』接し、決断したのは褒めてやる…だがこんな事態だ、其処まで徹する必要は無い」

セシリア「………っ!!」

ネア「セシリア…」

ルシアン「それに……」

セシリア「……何です?」

ルシアン「そうしないとコイツが何をするか分からねえからな…」

ーー「…………」

セシリア「良いでしょう……分かりました、その子はルシアンに任せます。それとネア、掟を破るのはこれで最後にして…」

ネア「セシリア……」

ーー「僕を殺さなくていいの?」

ルシアン「(コイツは生きる事への執着が無いのか? こりゃあ苦労しそうだぜ)」


ルシアン「お前はオレが預かるって言ったろ? 行くぞ」

ーー「…分かった。あ、ネア」

ネア「ど、どうしたの?」

ーー「どうして助けてくれたの?」

ネア「理由は無いわ……違う…わね…もう、誰かが死ぬのは見たくないから」

ーー「(死ぬのを見たくない…それが理由……それが助ける理由…)」

ーー「ネア、助けてくれてありがとう」

ネア「……!! うんっ!!(きっとこの子は純粋なんだ…だからルシアンは教えるつもりなんだ…生きる事を)」

ルシアン「ネア、薬…頼むぜ?」

ネア「任せて!!」

ルシアン「んじゃ、オレはコイツと行くから。おい、セシリアに謝れ」

ーー「…ごめんなさい」

セシリア「いえ、大丈夫ですよ。ですがルシアン…この子は…」

ルシアン「心配いらねえよ、やるっつったらやってやる!! んじゃな!!」


セシリア「ルシアン……大丈夫かしら?」

ネア「時間は掛かるだろうけど、きっと上手く行く。セシリア…ごめんね……」

セシリア「謝らないで、まだ私だって…何で私が…女王なんてっ…お母さん……」ポロッ

ネア「っ…セシリア…」

セシリア「ごめんなさい…ネアも辛いのに…」

ネア「ううん、大丈夫……薬が完成したらもう誰も悲しまずに済むわ」

セシリア「ええ…過去は変わらない。だから前を見なければ…」

ーーーーーー

ーーーー

ーー

カレン「んっ…うぅっ」

カルア「カレン、大丈夫?」

カレン「姉さん…私……あ、あの子は?」

カルア「大丈夫だ、ルシアン殿が預かる様だからな」

カレン「そう…ルシアンさんが…」

カルア「だが、あの子は一体何者だ? エルフ・ドワーフ・獣人でもない…此の地に入れたのなら人間では無い筈なのに」

カレン「そうですね……あ、姉さん」

カルア「どうした?」

カレン「…私、明日ルシアンさんの所に行って来ます」

カルア「何故だ? まさか…」

カレン「ち、違うよ!! 謝りに行くの…」

カルア「しかしカレン、あの子と会って平静で居られるか?」

カレン「さっきは…上手く言えないけど、あの子が……あの場所全てを飲み込んでしまいそうな……そんな感じがしたの、そしたら身体が動いてた」

カルア「カレンの言う事は分からんでも無い。確かに異常な気だった、殺気などでは無く…異質の……」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ルシアン「もう直ぐオレん家だ」

ーー「ルシアン」

ルシアン「ん、何だ?」

ーー「ネアの作ってる薬って何?」

ルシアン「特効薬さ…不治の病、まあ罹ったら最後、死んじまう病気のな…」

ーー「治せないの?」

ルシアン「ああ、最近流行りだして死者が急激に増えた、症状を抑えたりは出来たんだが……若い奴も年寄りも数ヶ月で死んじまった」

ーー「何でネアは掟を破ってまで薬を?」

ルシアン「ああ…ネアの両親も特効薬を作ろうとしたんだが、道半ばで死んじまってな…ネアは意志を継いだのさ」

ーー「ネアとセシリアは何歳?」

ルシアン「何だ急に…ありゃまだ17くらいだ」

ーー「……………」

ルシアン「どうした?」

ーー「セシリアは17歳で女王様に?」

ルシアン「セシリアの両親も病気で死んじまったからな…」

ーー「…そっか……」

ルシアン「まぁ、ネアが特効薬を完成させるんだ。もう大丈夫さ」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ルシアン「よし…飯も食ったし、そうだ…お前の名前を決めたんだ。無いとこれから不便だろうしな」

ーー「僕の…名前」

ルシアン「ああ、…自分で言うのも何だか格好いい名前だぜ?」

ーー「へぇ…」

ルシアン「興味ねぇツラしやがって…まあいい、今日からお前は…」

ーー「…………」

ルシアン「ラキだ!!」

ラキ「………」

ルシアン「何だよ? 昔の本にラキって格好いい名前の…あれっ? ラキだっけか…」

ラキ「………………」

ルシアン「ま、まあ…兎に角!! 今日からお前は、ラキだ!!」

ラキ「分かった」

ルシアン「どうだ、気に入ったか?」

ラキ「呼び易くて良いと思う」


ルシアン「まあ……いいや、後は何かやりたい事とか気になる事はあるか?」

ラキ「……剣、ルシアンに剣を教えて欲しい」

ルシアン「……何でだ?」

ラキ「カレンって言う騎士の剣を止めたのが凄かったから」

ルシアン「へぇ……まあ良い、分かった。明日は色々案内するから今日はもう寝るぞ」

ラキ「分かった」

ルシアン「……お休み、ラキ」

ラキ「お休み、ルシアン」

ルシアン「(時間が掛かるのは分かってる、今はまずラキが何者かは置いとく…笑ったり泣いたり、そんな顔が出来る様にしてやりてえ)」

ルシアン「(若い連中は兎も角、年寄り連中の皆が生きてたらラキは殺されてたかも知れねえ…結界から出たら即刻死刑、外界から誰かを連れてくるなんざ言語道断…若造のオレが言うのも変な台詞だが、時代も世代も変わって行くんだろうな)」

ラキ「(なんか変だ、凄く落ち着く……ルシアンの家も、此の土地の雰囲気も…何でだろう?)」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

チュン…チュンチュン

ラキ「朝だ…ルシアン、起きて」

ルシアン「うぅん…」

ラキ「起きないな……少し歩いて来よう…」

ガチャ…パタン……

ラキ「田んぼ・畑・山…やっぱり綺麗だ」

カァンッ…カァンッ…カンッ…

ラキ「(何の音かな? 行ってみよう)」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

カンッ!! カァンッ!!!

ラキ「鍛冶屋…」

ガチャ…パタン

ラキ「おじゃまします」

青年「ふっ!! ふっ!! ふっ!!!」

カァン!! カァン!! カァン!!

青年「ふぅ…こんなもんだな」

ラキ「朝からお疲れさまです」

青年「おうっ!! まあ日課だからな…身体が鈍っちゃ鍛冶屋は出来ねえ!!」

ラキ「なる程…(茶色の肌、長い腕…ドワーフかな? でも背は低くないんだ…寧ろ大きい)」

青年「…………ん?」

ラキ「……?」

青年「……お前誰だよっ!!」

ラキ「名前はラキ」

青年「ラキか…オレはガルトだ!!」

ラキ「ガルトは早起きだな」

ガルト「まあな!! 早寝早起きが健康の秘訣だな、うん」

ラキ「じゃあルシアンは?」

ガルト「ああ…アイツはダメだ!! 剣士の癖に気合いが足りん!!」

ラキ「気合い…」

ガルト「そうだ!! 気合いだ!! 下腹に力入れるのを心掛けろ!!」

ラキ「うん、分かった。ガルト、色々教えてくれてありがとう。頑張ってください」

ガルト「おうっ!! ありがとよ!!」

ガチャ…パタン……


ギィッ…

親父「おいガルト、誰か来たのか?」

ガルト「ああ、良く分からんがラキって言う奴だ」

親父「ラキ…聞いた事ねえなぁ…ウッ!! ゴホッゴホッ!!」

ガルト「親父…」

親父「んな顔すんな…オレは死なねえよ、まだ引退する歳でもねえからな!! ゴホッ…」

ガルト「……ああ!! 親父は死なねえ!! きっと、気合いがたりねえんだ!!」

親父「ガハハッ!! そうだな!!」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ラキ「(下腹に力か…あ、ネアの所に行こう)」

ネア「やっと出来た…沢山の人が死んだ、セシリアの母さんも…私の両親も…でもこれで治せる。早く配らないと…ハンクにでも頼もうかな」

コンコンッ…

ネア「はいはい……どうぞ」

ラキ「おじゃまします」

ネア「え…? こんな早くにどうしたの?」

ラキ「ネアに会いたいから来た。薬は出来た?」

ネア「へっ……?(えっ!? いやいや…違う違う、純粋に言ってるだけだって!!)」

ラキ「大丈夫?」

ネア「大丈夫大丈夫!! 薬は出来たわよ、これで…病は必ず治る!!」


ラキ「そっか、じゃあセシリアもカルアもルシアンも喜ぶね」

ネア「そうね(昨日、殺すとか言ってた奴とは思えないわね、益々コイツが分からないわ…)」

ラキ「ネア、昨日ルシアンが僕に名前をくれたんだ」

ネア「良かったじゃない、アイツのセンス悪そうだけど……で、名前は?」

ラキ「ラキ、呼び易くて良いと思う」

ネア「呼び易さなんだ…でも思った程悪く無いわね、『ラキ』か…改めてよろしくね、ラキ」

ラキ「うん、よろしく。何か出来る事ある?」

ネア「ず、随分急ね……じゃあ、そこの薬箱を城に運んでくれる? 騎士達に渡せば済むし、念の為手紙も書くから大丈夫よ」


ラキ「分かった。……よし、この箱を城まで運べば良いんだな?」

ネア「うん、ちょっと待ってね………よし、この手紙もよろしくね」

ラキ「分かった」

ネア「じゃあ、行ってらっしゃい」

ラキ「…………」

ネア「ラキ? どうしたの?」

ラキ「……何でもない、『行って来ます』」

ネア「……? うん、行ってらっしゃい」ニコ

ガチャ…パタン

ラキ「(行ってらっしゃい…初めて言われた、何か変な感じだ)」

ラキ「よし、行こう」


ネア「ふう、疲れたぁ…(昨日出会ったばかりの相手に頼んじゃった。でも…ラキは悪い奴じゃない。純粋って言うか……ううん、違う…ラキはきっと何も知らないんだ…善悪とかじゃなく、だから)」

ラキ『オレはセシリアを殺す』

ネア「(だからあんな真っ直ぐな瞳で言えるんだ……殺すと言った時、私に会いに来たと言った時……同じ瞳をしてた…『同じ』真っ直ぐな瞳……)」

ネア「……薬は出来たし…寝よ……」ボフッ


>>23 訂正

『僕はセシリアを殺すよ』 でした。

今日は此処までです。


まだ序盤ですが感想、指摘があればお願い致しします。


続き期待してる
個人的にはどんな世界なのか説明が欲しい

一一(にのまえはじめ)かと思ったわ


>>26 書いてはいるんですが、まだ先になります。

あくまで自分の中でのイメージですがサモンナイト3の様な感じです。

>>27 一十一(にのまえじゅういち)を思い出した。


投下します。


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ラキ「……あれ?」

ガルト「ハァッ…ハァッ…」

ラキ「ガルト、どうしたの?」

ガルト「ハッハァッ…ラキか…親父が…親父が倒れたんだ」

ラキ「あの病気なの?」

ガルト「ああそうだ!!」 

ラキ「そっか…」

ガルト「じゃあ、オレはネアの家に行く!! またなっ!!」

ダダダッ…!!

ラキ「行っちゃった……」

ラキ「(早く城に届けて騎士に運んで貰わないと……でも、僕がガルトの家に行って薬を渡した方が早い。でもネアと城へ届けるって約束したし…)」

ラキ「行こう……」



ーーーーーー

ーーーー

ーー

ドンドンッ!! ガチャ!!

ガルト「ネア!! 起きてくれ!!」

ネア「うぅ…なによぉ…うるさいわね……」

ガルト「親父が倒れた!! 薬は出来たのか!?」

ネア「イザークさんが!? そんなっ…薬ならさっき全部城に……」

ガルト「……ッ!! ちくしょう…」

ネア「症状を抑える薬ならある!! ガルトの家に行きましょう!!」

ガルト「分かった!!」

ハンク「おーい、どうしたぁ? あれっ…ガルト? どうしたんだ? 朝っぱらから大声だして…ドアは開けっぱな」

ネア「ハンク!! 良いところに来たわ!! 馬車を用意して、事情は後で説明するわ!!」

ハンク「わ、分かった!!」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ガラガラッ!!

ハンク「えっ!? イザークさんが!?」

ガルト「ああ、咳が止まらなくて…熱も酷い」

ネア「まずいわね…急がないと…」

ハンク「ところで薬は誰に預けたんだ?」

ネア「昨日の子、ラキに預けたわ」

ハンク「おいおい…大丈」

ガルト「ラキ!? ラキならネアの家に行く途中で会ったぞ!! でも薬の事なんて…」

ネア「えっ…そんな……」

ハンク「アイツ…まさか薬を」

ネア「そんな事っ!!」

ハンク「昨日会ったばかりの奴だ!! そんな直ぐに信用出来ないだろ!!」

ガルト「……そうか、あいつが外界からネアが連れて来た……」

ネア「……っ!!」


カレン『おーい!! ちょっと止まってー!!!』

ハンク「んっ!?……カレンさん?」

ネア「ちょっと止めて!!」

ハンク「あ、ああ…」

ガルト「お、おい!!」

ネア「ちょっと黙って!!」

ガルト「っ…何なんだよ!!」

カレン「ネア、昨日の子知らない? ルシアンさんの家に行ったけど2人共いな」

ネア「カレン!! ラキは城に来なかった!?」

カレン「えっ、ラキ?」 

ネア「昨日の子よ…」

カレン「ラキ君って言うんだ…城には来なかったけど、どうしたの?」

ネア「…ッ!!……説明してる暇ははいわ!! 取り敢えず乗って!!」

カレン「え、ええ、分かったわ」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ガララッ…ガラララ…

ハンク「着いたぞ!!」

ネア「……行きましょう!!」ダッ


ガチャ!!

ガルト「親父っ!!」

ルシアン「おい!! おい!! ラキ、返事しろっ!!」

ガルト「ルシアン、何で此処に…? 親父は…」

イザーク「ガルト、オレは大丈夫だ…だが、こいつが……」

ラキ「…ハァッ…ハァッハァッ………」

ネア「…えっ!? ラキ? 何でラキが…」

イザーク「………」

ラキ「ハァッ…ハァッハァッ」

ルシアン「ラキ!!」

ガルト「酷い汗だ…おい、ネア!!」

カレン「どうなってるの? なんでラキ君が倒れてるの…?」

ネア「まさか…」

ハンク「イザークさん…何が……あったんですか?」


ーネア・到着前ー


ラキ「着いた…」

ガチャ…

イザーク「ゴホッゴホッ…うぅっ…」

ラキ「大丈夫?」

イザーク「……誰…だ?」

ラキ「僕はラキ。ネアが作った薬を持って来た、飲んでください」

イザーク「お前がラキ……知らねえゴホッ筈だ…昨日入っゴホッ来たって言う外界者は…お前だな? 外界者が持って来た物なんゴホッゴホッ飲めるか…」

ラキ「ネアが書いた手紙もある」

イザーク「…信用…出来るゴホッか…よ」


ラキ「………(この薬はネアが掟を破ってまで作った物…僕はどうしたら…)」

イザーク「ゴホッ…ウグッ…」


ーネア『もう、誰かが死ぬのは見たくない』ー


ラキ「僕の事は信じなくて良い…でも、これはネアが作った薬なんだ。信じて…」

イザーク「…信ゴホッじれ…かよ………」

ラキ「なら僕が今からこの薬を飲むよ。そしたら飲んで欲しい…」ゴクッ

イザーク「な…に…をバカな」

ラキ「僕は飲んだよ…だから飲んで、僕はネアの薬を信じてる…」スッ

イザーク「……………」

イザーク「…………………」ゴクッ


ルシアン「うんぁ…あれ? ラキ? 何処行ったんだよ…全く…」

そうだ、ガルトに練習用の剣でも頼むか…そしたらラキの奴も喜ぶかね?

まあ、アイツは自分から何かやらかす質じゃないしな…大丈夫だろ。

ルシアン「まっ、取り敢えず行くか」

ガチャ…パタン…

ーーーーーー

ーーーー

ーー

ラキ「楽になった?」

イザーク「…ああ、大分…良くなった…」

ラキ「良かった…これでネアもガルトも喜ぶ」

イザーク「…変わった奴だ……」

ガチャ…パタン…

ルシアン「ガルト、頼みがあるんだがって…あれっ!? 何でラキが居るんだよ!? それにオッサン、起きてて平気なのか?」

イザーク「ルシアン…いや、コイツがネアの薬を…」

ラキ「…っ!!……あ…うぅっ……」フラッ

バタッ……

イザーク「おっ、おい!!」

ルシアン「ラキ!? おい!! どうした!?」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

イザーク「済まねえ……」

ネア「…そんなっ!! 子供が原液でこの薬を飲んだら最悪死ぬかも知れない……」

ルシアン「……起きちまった事は仕方ねえ…ネア、出来る事は手伝う…指示してくれ」

ネア「分かった、まずルシアンはラキを家に運んで。家に着いたら汗を拭いて着替えさせて…私は一旦家に戻って点滴道具を持ってくるわ…今の状態でラキを馬車に乗せるのは良くない……」

ルシアン「分かった、ラキを担いで先に行ってる…じゃあ後でな」

ガチャ…

ネア「カレンは城に薬を運んで…ガルトは……イザークさんに付いてて…」

カレン「ええ、分かったわ!!」

ガルト「…っ……分かった」

ネア「ハンク!! 行くわよ!!」ダッ

ハンク「お、おう!!」ダッ

カレン「う、結構重い…ラキ君、よく背負えたな…私も行きます。では…」

パタン……


イザーク「オレは、オレは大馬鹿野郎だ!! アイツの目には最初から嘘は無かった…なのに外界者だからって…!!」

ガルト「親父……今は休んでくれ、そんで落ち着いたらルシアンの家に行こう…」

イザーク「……ああ、そうだな…」

ーーーーーー

ーーーー

ーー

ルシアン「よしっ、着替えもさせたし後はネアを待つだけだな」

ラキ「ハァッ…ハァッ…」ズ…

ルシアン「ん、何だ…?」


ラキ「………うぅ…あぁッ!!」ゴッ

ズオォォォォッ!!


突如の変貌。


二つの角・紅い瞳…


ラキの周囲の空気が禍々しく歪む…


ルシアン「これは……」

ラキ「…ハァァァアアッ……」ググッ

ルシアン「……ラキ、お前は………」


ラキ「……ガァッ!!」

ダンッ!! 単純な突進…だが影が尾を引く程に速い。

ルシアン「ぐっ…」

両肩を掴み勢いを止めるがルシアンの腹に、

ズドッ!!っとラキの右拳がめり込んだ。


ルシアン「グッ!!(なんつう力だ…流石に舐めすぎたか……)」

ドガンッ!! 家の壁を突き破り地面に大の字になりながら考える…

ルシアン「よっと…(ネアが来る前に何とかしねえとな)」

ラキ「フゥゥッ……」

ルシアン「まだ半覚醒…思考が無いだけ逆に質が悪いぜ…」


ラキ「……ガアァッ!!」

鋭く滑らかな回し蹴りが顔面に迫る、


ズオッ!! ルシアン「へぇ…」スッ

それをルシアンは上半身を逸らし躱す。

ラキ「フゥゥ…ゥゥアァ…」

ルシアン「ラキ、オレに剣を習いたいって言ったな…」

そう言って背に掛けていた剣を抜く…柄から刃の先まで白銀に輝く両刃直剣。

刀身は長く厚め、単純に…デカい。

どちらかと言えば細身のルシアンには、両手で振れるかどうかも怪しい代物。

だが、

ルシアン「見せてやるよ、行くぜ?」

ザヒュッ!!っとまるで枯れ枝でも振り回す様に片手で振るう。


ラキ「……ッ!!」

凄まじい剣の圧力…瞬時に後方に大きく跳び躱す。


ルシアン「ははっ、何だよラキ…驚いた顔も出来るんじゃねぇか!!」

ラキ「……ガァッ!!」

ダンッ!! 再び突進、先程より数段速い。


ルシアン「これで終いだ……」

ブンッ!!! 剣の『面』でラキの左脇を『叩く』…そして、

ズドンッ…と鈍い衝突音と共に…


ラキ「ガッ…!!」

ドシャァッ…と地面を滑り、ラキは気を失った。

ルシアン「まだガキだしな……げっ!! 家が……」

まるで其処が最初からそうで在ったかの様に、綺麗な人型の穴がポッカリと空いていた。

ルシアン「よし、ガルトに塞がせよう…おっ?」

ラキを見ると角は消え、禍々しい気配も消えている。

ルシアン「何故急に目覚めたんだ…なんにせよ戻って良かったぜ……あん?」

袖が破け露出した右腕を見ると、肌は黒く染まり皮膚が甲殻の様になっている。


ルシアン「やっぱりオレが引き取って正解だったな…」

ラキ「………うぅっ、ルシアン…? あれ?」

ルシアン「いずれ話す、それより…」

ガララッ…ガララ…

ネア「ラキ!!」タタッ

ルシアン「ネアに謝れ…」ニコ

ラキ「……?」

ネア「ラキ!! 大丈夫!?」

ラキ「ネア…ごめん?」

ネア「……バカッ!!!! イザークさんは弱ってたんだから、無理矢理飲ませる事も出来たでしょ!! 薬は本物なんだからラキが飲む必要なんて無かったでしょ!!」

ラキ「無理矢理……これからそうする」

ネア「はぁぁ……何なのよ…何なのよ!?」

ラキ「え? 分かんないけど…ガルトの父さんは良くなった?」

ネア「なったわよ!!」


ハンク「お、おいおい…ラキだって疲」

ネア「ハンク!! アンタ、ラキが薬をどうにかしたと思ってたんでしょ?」

ハンク「うっ…」

ネア「謝れ…早くしろ…」

ハンク「ひっ…!! ラキ!! 疑って済まなかった!!」

ラキ「疑う?」

ルシアン「ははっ、まあいいじゃねぇか」

ネア「あのねぇ……最初からルシアンが付いてれば、こんな大事にはならなかったんじゃないの? ねぇ?」

ルシアン「悪い悪いっ、ははっ……」

ネア「…何だそれは? 反省してんのか?」


ハンク「掟を破った奴が良く言うよ…」

ネア「ん? なに? はっきり言いなさいよ」

ハンク「……何でもないです(こえぇぇ…)」

ラキ「……あっ…れ…」フラッ

バタンッ…

ネア「ラキ!?」

ルシアン「(やはり負担が大きかったか…)」

ルシアン「中に運ぼう、色々あって家の中が滅茶苦茶なんだ……ハンクも手伝ってくれ」

ハンク「ああ、分かった!!」ダッ

ネア「本当に何なのよ…もうっ…」タタッ


ーーーーーー

ーーーー

ーー

【プロテア】

人ならざる者達が住む、隔絶された秘境の地。

周囲は山に囲まれ、未だ豊かな自然に囲まれている。

外界側の山麓の森林も結界に覆われている為、『人間』の出入りのは不可能。

結界には特殊な幻惑の法が掛けられており、外界側の山麓に広がる森林は人間に『誘いの森』と呼ばれている。

何故人間と彼等が分かたれたのかは諸説あるが、

種族の違い・文化の違いに因って戦が起きた(開拓や自然を巡る衝突からとも言われている)。

戦は、長期続いた。

その後、双方共に戦に疲れ果て…その時が訪れる。

エルフ・獣人・ドワーフの三種族が終わりの無い戦を捨て、『何処か』に移り住んだ……

と言うのが最も有力な説である。

人と別れ数百年とも数千年とも言われているが、当時の記述はどちら側にも一切無く。

現在、人間の中ではエルフ・ドワーフ・獣人は絵本でしか知らぬ空想の存在であり。

プロテアでも人間との戦の起こりは御伽噺として語り継がれているのみ。

何より永い時を経た事により、彼等には人間に特別な感情・興味など無い。

そもそも自然を愛し、日々を暮らす彼等にとって、『発展』を目指す人間とは関わり合いになりたくないのだろう。


ー#1 終了ー



ルシアン「…と言う訳だ」

セシリア「そうですか…あの子が……」

ルシアン「まっ、そこは置いといて、オレには何故ラキがオッサンを助けたのかが分からねえ。本来なら褒めるべきなんだがな…」

セシリア「そうですね、あの子が誰かを助けるなど…何かあったのでしょうか? あの子の心を動かす『何か』が」

ルシアン「かもな…だがラキの『芯』は変わっちゃいない。オレが危惧してんのはラキの力ではなく心だ。なまじ力を持ってるが故にな…」

セシリア「ええ……今回の出来事は兎も角、あの子の力については伏せた方が良いですね」

ルシアン「ああ頼む。んじゃ、ラキが起きたら連れて来る」

セシリア「ところでネアは?」

ルシアン「ネアならラキに付きっきりだよ。寝てるだけだってのに…ラキが起きたら、ついでにネアも連れて来る」

セシリア「ふふっ…ええ、分かりました」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ラキ「すぅ…ぅ…ぅぅん」

ネア「……近くで見ると本当に綺麗な顔してるわね…寝顔は可愛いし、髪も…まだ11・2歳くらいかな…?」

ラキ「うぅ…ぁたす…て」

ネア「…!? ラキ…(今までどんな暮らしをしてたの? 悪魔・化け物と呼ばれて、追われて…逃げて…誰も頼れず。人を…殺して、何も分からないまま…ずっと…)」

ラキ「あぁ……うぅっ…」

ネア「…っ!!…今は…私が居るから」

ギュッ…

ラキ「…うぅ…くぅ…くぅ…」

ネア「お休み…ラキ…」

…………
……

ルシアン「全く……茶化そうかと思ったが仕方ねえ、イザークのオッサンの所で寝るか…」


今日は此処で終わります。

次はもう少し書き溜めが出来たら投下します。

ラキを山へ放置した方々は結界の手前で、と言う事でどうか宜しくお願いします……

ありがとうございました!!


ー翌朝ー

イザーク「ラキに剣を?」

ガルト「よっし!! 恩返しだな!!」

ルシアン「声でけぇよ…そうだ、喜ぶかは分からねえがな…ガルト、頼めるか?」

イザーク「待て、それはオレが造る…コレはオレの恩返しだ…」

ガルト「でも親父、まだ身体が…」

イザーク「オレぁもう大丈夫だ!! ラキの坊主に渾身の一振りを渡して頭下げる…」

ルシアン「病み上がりな上に三日三晩寝ずの作業なんだろ? 大丈夫かよ…」

イザーク「大丈夫だってんだろ!! 任せろ!!」

ルシアン「ああ分かったよ!! うるせえな!! 全く…」

ガルト「それで、どんな剣が良いんだ?」


ルシアン「そうだな…」

ガルト「なんだ、決めてなかったのか?」

ルシアン「いや、両刃直剣でいいん」

イザーク「ダメだ!! オレが決めてオレが造る!! 気に入らなきゃ何度でも造ってやる!!」 

ルシアン「うるせえっ!! 朝からでけぇ声出すな!!」

イザーク「兎に角オレに任せろ!! ガルト!! 今から始めるぞ!!」

ガルト「おう!! 分かった!!」

ルシアン「ああ!! もう勝手にしろよ……オレは帰る……ああ、うるせえ…」



ーーーーーー

ーーーー

ーー

カルア「そうか…あの少年がイザーク殿を…」

カレン「うん…不思議だよね。助けた事を疑問に思うなんて」

カルア「そうだな…だが、あの場に居た者達なら皆が不思議がるさ…」

カレン「何て言うのかな…ラキ君は悪では無い、だからこそ危うい感じがする」

カルア「ふむ…確かに善悪の判断が出来ないとなると厄介だな…」

カレン「でも…それでも誰かを助ける為に自分の命を投げ出す様な事は普通は出来ないよ……」

カルア「それが美しい事だと?」

カレン「それは…」


カルア「カレン…私はあの少年にとって、助ける為に命を投げ出す事、殺す為に命を投げ出す事は同じなんだと、そう思える…」

カレン「そう…なのかな?」

カルア「だがルシアン殿が居る、少年が変わ」

カレン「あ、あのね、姉さん…」

カルア「ん、なんだ?」

カレン「『私達』も…だよ。私達にもラキ君に教えてあげられる事はあるよ」

カルア「カレン…そうだな、ルシアン殿だけに任せるのはいかんな…」

カレン「うんっ!!」

カルア「何より薬が完成し皆が救われた…喜ばしい事だ。ところで…」

カレン「え? なに?」

カルア「謝ったのか?」

カレン「…ラキ君が起きたら……謝ります…」

カルア「ふふっ…」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ー5日後ー

チュン…チュンチュン

ラキ「うぅん…朝だ…」

ルシアン「お? やっと起きたか。6日も寝てたんだぞ、お前」

ラキ「おはよう、ルシアン。ネアとハンクは?」

ルシアン「お前は一切動じないな……ネアはそこで寝てるぜ、ハンクは畑仕事で帰ったがな」

ネア「すぅ…すぅ…ぅん…」

ラキ「そっか、ネアはずっと此処に?」

ルシアン「ああ、熱も汗も引いたんだが…此処に居るって聞かなくてな」

ラキ「ネア…また助けてくれたんだ。ルシアンもありがとう」

ルシアン「気にすんな、それよりラキに渡す物がある。ちょっと外に出てろ、オレも直ぐ行く」

ラキ「分かった」

ガチャ…パタン


ルシアン「(喜ぶと良いんだが。ラキの事だ…あまり期待出来ないな)」

ラキ「(やっぱり落ち着く…川とかあるのかな? 釣りとかしたいな)」

ガチャ…

ルシアン「ラキ、どうした?」

ラキ「釣りがしたいと思ってた」

ルシアン「………(分かんねえ)」

ルシアン「まあいい、取り敢えずコレだ」

ラキ「竿?」

ルシアン「何処をどう見ても剣だろうが…ほら、受け取れ」

ラキ「これを、僕に…」

ルシアン「ああ、イザークのオッサン…ガルトの親父が作った剣だ。お前にはまだデカいだろう……抜けるか?」

ラキ「…うん……」スッ

抜かれた剣は両刃では無く片刃。

刃と柄の間には装飾された円形の金具が固定され、柄は細紐で丁寧にギチッと結われている。

刀身はやや厚く緩やかに反っており、刃には浅い溝とうっすら波の様な紋様が見える。

ルシアンの剣には剛直で叩き伏せる様な威圧感がある。

ラキの剣はしなやかで美しいが、その美しさの中に確かな危うさがあった。


ラキ「綺麗だけど、ルシアンのと全然違うね」

ルシアン「オッサンが三日三晩寝ずに造った剣だ。ソイツはオレのと違って振り回すだけじゃ斬れねぇぞ」

ラキ「……振っていい?」

ルシアン「ああ、いいぜ(おっ? 結構気に入ったか?)」

ヒョゥッ!! と風を斬り裂く様な音…迫力は余り無いが鋭い斬れ味が伝わってくる。

ルシアン「(へぇ…ガキのクセに様になってやがる)」

ラキ「ルシアン…凄く気に入ったよ、ありがとう」

ルシアン「それはオッサンに直接言ってやれ…多分、いや絶対に泣く。今まで誰も持ってくれないんで昔からぼやいてたんだ」

ラキ「そうなんだ、後で行こう」

ルシアン「そうしてやれ、本当はオッサンが直接渡す筈だったんだが流石に堪えた見たいでな」

ラキ「そっか…分かった」


ネア「うぅん…うるさいわね……あれ? ラキ? ドアが空いてる…外に」

ルシアン「なあラキ、お前に聞きたい事がある」

ラキ「なに?」

ルシアン「何故、オッサンを助けた?」

ラキ「ネアに…」

ネア「(な、なに? 私何かしたっけ?)」

ラキ「ネアに何で僕を助けたのか聞いた時…もう誰かが死ぬのは見たくない。そう言ったんだ」

ネア「…………」

ルシアン「…それで?」

ラキ「それが僕を助けた理由なら、僕が誰かを助ける理由もそれでいいと思った。それに、ネアに誰かが死ぬのを見せたくなかった」

ネア「…ラキ……」


ルシアン「なる程な…まあいいさ。ところでネア、いつまで盗み聞きしてるつもりだ?」

ネア「お、おはよう!! ラキ、起きてたの!?」

ルシアン「お前…下手くそだな…」

ネア「うっさい!!」

ラキ「おはよう。ネア、ありがとう」ニコ

ラキは初めて微笑んだ…柔らかい、優しい笑顔…

彼自身は気付いてはいないだろうが。


ネア「……!!? えっ!? あっ…うんっ!!」ニコ

ルシアン「へぇ……(結構早かったな…いや、ネアが特別なのか)」

ルシアン「あ…そうだ、今日こそは此処を案内するぞ。ネアも来い、セシリアが会いたがってたからな」

ネア「本当に!? 分かった、私も行く」

ラキ「最初は何処に行くの?」

ルシアン「まずは獣人族の所だな、ハンクがいる所だ」


これで投下終了します。

見てくれてる方、レスくれた方、

ありがとうございました!!


詳しい説明ありがとう
次も期待してます


>>60 ありがとうございます!!

見てくれる人いるんだなぁ…ありがてぇ…良かったぁ

ミスの無いように頑張りますので!!

ありがとうございました!!


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ルシアン「まあ、そんな感じで各種族に分かれて暮らしてる訳だ」

ラキ「ネアとガルトの家は? 周りには家なかったよ?」

ネア「うちの両親があの場所を随分気に入ってね、親の反対を押し切って移ったみたい」

ラキ「そうなんだ」

ルシアン「イザークのオッサンの場合は仕事に集中出来ないから、らしい。だが腕は一流だ、それにオッサンは自分が気に入った奴にしか剣は造らない。騎士連中だってオッサンの剣を持ってる奴は殆ど居ないんだぜ?」

ラキ「そうなの? 僕、持ってて良いのかな…」

ネア「良いんじゃない? 幾ら頼んでも断られる人の方が多いんだし。プロテアではイザークさんの剣を持つって凄い事なのよ?」


ラキ「へぇ、そんなに凄い人なんだ。大事にしよう…」

ルシアン「ああ、そうしてやれ」

ラキ「でも、ルシアンは何で一人で住んでるの? それにルシアンはどの種族でもないし」

ルシアン「まあ色々だ…いつかラキにも話すさ」

ネア「…………」

ラキ「うん、分かった」

ルシアン「おっ、着いたぞ」


【獣人の里】

ラキ「……(畑・田んぼ…綺麗だな)」

ルシアン「おい!! ハンク!!」

ハンク「ん? おっ!? ラキ、目が覚めたのか!!」

ラキ「うん、おはよう」

ハンク「…相変わらずだな。まあいいさ、つまんない所だけど見ていってくれ」

ネア「大変そうね」

ハンク「まあな、そろそろ収穫の時期だし。冬に備えな」

「おい、ハンク!! 何やってんだ!!」

ハンク「げっ、姉ちゃん」


ネア「ジーナさん!!」

ジーナ「ネア、良く来たな!!」

ルシアン「ようジーナ、久しぶりだな」

ジーナ「お、おう…ひ、久しぶりだな。ん? そいつがラキか?」

ラキ「初めまして、何でジーナは僕を知ってるの?」

ジーナ「ん? そりゃあ、外界者がガルトのオヤジを助けた!! って皆が大騒ぎだったからな。まあ外界者だろうがアタシは気にしないけどな、ハンクと違って」

ハンク「ちょっ!? 姉ちゃん、それはもういいだろ…」

ネア「ふふっ…相変わらずね」

ルシアン「早く嫁に行けば良いのに、なあハンク?」

ハンク「…え?…いやあ……(この馬鹿やろうッ!! 余計な事言うなッ!!)」


ルシアン「なんだ? まさかジーナお姉ちゃんが居ないと寂バキッ!!

ネア「(コイツはホントに馬鹿ね…)」

ルシアン「痛ってぇな!! 何しやバキッ!!」

ラキ「(なにかの合図なのかな?)」

ジーナ「ハンクッ!!」

ハンク「はい!! 何でしょう!?」

ジーナ「アタシは狩りに行ってくる…」

ハンク「はい!! お気を付けて!!」


…………

……

ルシアン「ったく…ジーナの奴、ありゃ何なんだ!? 嫁の貰い手が無いからってイラつ

ビュンッ!! ルシアン「おっと…」

もうジーナの姿は小さくなっているにも拘わらず、放たれた矢はルシアンの腕を掠めた。

ルシアン「何でだよ!? 言いたい事あんなら言えよ!! 矢を放つ前になっ!!」

ジーナ『バカッ!!!』

ネア「あーあ、行っちゃった…」

ルシアン「な、何だよ…」

ハンク「なあ、ルシアン…もう辞めちまえよ……」

ルシアン「何をだよ!?」


ハンク「取り敢えず里長…ライルに挨拶して来いよ、オレは仕事に戻るからさ」

ルシアン「おい、無視すんな」

ネア「そうね、ラキ行きましょ?」

ラキ「分かった」

ルシアン「おい…」

ハンク「ネアはライルの家分かるよな?」

ネア「ええ、大丈夫。んじゃね」

ハンク「おう、じゃあな」

ラキ「ハンク、ありがとう」

ハンク「お、おう!!」

ルシアン「なあ…」


…………

……

ルシアン「確かに結婚云々は悪かったよな…どうっすっかな…」

ネア「はぁ…今度一緒に狩りにでも行けば許してくれるんじゃない?」

ルシアン「なる程、獲物仕留めりゃ喜ぶわけだな…」

ラキ「ルシアン、僕も行ってみたい」

ルシアン「おっ? じゃあ三人で一緒に行こうぜ」

ラキ「分かった」

ネア「………(ジーナさん…頑張って!!)」

ルシアン「ん…此処だな」

ガチャッ…パタン

ルシアン「ライル、居るか?」


ライル「あのなぁ…ノックくらい覚えろよ。で、そいつがラキか?」

ルシアン「ああ、本当はもっと早く来る筈だったんだがな…」

ラキ「初めまして、ライル」

ネア「久しぶりね」

ライル「おう、宜しくな。ネアも来てくれたのか、ネアの薬でこの里の奴も救われた。ありがとな」

ネア「うん…でも、ごめんね。もっと早く完成させてればライルの両親だって…」

ライル「んな事はねえよ、確かに親は死んじまったが……今は里の皆が笑ってる…それは他の里の連中も同じ筈だ。それに、親父や母ちゃんが何を見て何を守ってたのか分かる気がするんだよ」

ルシアン「へぇ…すっかり里長だな、お前」

ライル「人が折角良い話してんのに…テメエは変わんねえな。ところで、ジーナには会ったか?」

ルシアン「ああ……二発殴られて、矢を一本…」


ライル「はぁ……お前さぁ…もう辞めちまえよ」

ルシアン「だから何をだよ!?」

ライル「まっ、これから宜しくな。あと、ラキ…ルシアンの家が嫌になったら何時でも来いよ」

ラキ「うん、分かった」

ルシアン「ラキ!?」

ネア「あははっ!!」

ライル「で? 次はドワーフの里か?」

ルシアン「この野郎…ああ、そうだよ」

コンコンッ…

ライル「入っていいぞ」

ガチャッ…パタン

ライル「イネスか…どうした?」


イネス「あの、お弁当作ったから…」

ライル「えっ? もう昼か…飯くらい作れんのに…ありがとな」

イネス「へへっ、うん…」

ライル「見ての通り先客が居てな、コイツがイザークさんを助けたラキだ」

イネス「へぇ、この子がラキちゃんかぁ…」

ルシアン「イネス…ラキは男だ。『ちゃん』はねえだろ…」

イネス「だって可愛いし…ねえ、ネア?」

ネア「えっ!? ま、まあ…そうね」

ライル「イネス、悪いが仕事が残っててな……一緒に昼飯食うのはまた今度な?」

イネス「ううん、大丈夫…んじゃ、またね…」

ガチャッ…パタン…


ネア「…………(ライルも大差無いわね…)」

ライル「な、何だよ…?」

ルシアン「お前さぁ…辞めちまえよ」

ライル「はぁっ!? 何をだよ!?」

ネア「…ラキ、行きましょ?」

ラキ「うん、分かった。お邪魔しました」

ガチャッ…パタン…

ルシアン「おいっ!? オレも行くわ、んじゃな!!」

ガチャッ…バタンッ

ライル「ったく、何なんだよ…」

…………

……

ライル「あっ……弁当うめえ」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ルシアン「さて、次はドワーフの里だな」

ラキ「皆、鍛冶屋なの?」

ネア「そんな事ないわよ? でもまあ、建築と鍛冶屋くらいね…」

ルシアン「城とか、民家は全部ドワーフの仕事だな」

ラキ「凄いね…釣り竿とかも作ってくれるかな?」

ルシアン「まだ釣りしたかったのか…まあ、今度行こうぜ」

ネア「ラキは釣りが好きなの?」

ラキ「やった事は無いけど、プロテアは自然でいっぱいだし川は綺麗だから泳いだりとかもしたい」


ネア「てっきり退屈だと思ってたけど…気に入った?」

ラキ「うん、なんか落ち着くんだ。向こうに居た頃はこんな気持ちになったこと無い」

ネア「そっか…(そりゃ、追われて逃げて…だもんね……)」

ルシアン「なあ…ラキ、向こう側ってどうなってんだ?」

ラキ「汚い、何かどろどろしてる。戦争とかするし……建物とかはそんなに変わらないけど…こっちの方が良い」

ネア「戦争!? 人間同士で?(なる程、どろどろ…か)」

ルシアン「武器はどうだ?」

ラキ「火を着けるとドカンってなるやつと、最近は火を着けて弾を飛ばすやつが出てきた」

ルシアン「爆弾か…弾を飛ばすってのは大砲か?」

ラキ「違う、手で持つやつ」

ルシアン「小型化させた様な物か…まっ、関係ねえか」

ネア「物騒ね…見つからなくて良かったわ……」

ラキ「だから…プロテアに来れて良かった」

ルシアン「ははっ!! そりゃ良かった!!」

ネア「ふふっ、あっ、そろそろ着くわね」


【ドワーフの里】

ラキ「…大工さんばっかりだね」

ネア「家屋の修繕とか、冬に備えて木々を囲ったりするのよ。プロテアはかなり雪が降るからね」

ラキ「雪か…あっ、エルフも居るよ?」

ルシアン「ああ、剣の手入れに来てんだろうな」

ラキ「何で騎士には女性エルフが多いの?」

ルシアン「いや、男の騎士も居るんだがエルフは大半は医師になる。それに大昔から女王に仕えるのは女騎士と決まってるみたいでな」

ラキ「へぇ…そうなんだ」

「よっ!! 元気か?」

ルシアン「おおっ!! ウォルトじゃねえか、大工仕事はどうだ?」

ウォルト「最近は新築が少なくてな……それよりさっき」


ラキ「あっ、男の騎士が居る」

ネア「げっ、タリウス…ルシアン、アイツこっちに来るよ?」

ウォルト「タリウスが来たって言おうと思ったんだが…」

ルシアン「はぁ…どうせ嫌味だろ。暇な奴だぜ」

如何にも『騎士』と言う感のする屈強で厳つい男。

背にはルシアンの剣よりもさらに大きな剣を背負っている。

ルシアン「なんだよ?」

タリウス「ふん、お前に用は無い。其処の外界者に用がある」

ラキ「なに?」

タリウス「ふん、一丁前に剣なんぞ持ちやがって。随分弱々しい剣だな」


ラキ「弱くない、ガルトの父さんが造ってくれた…気合いの入った剣だから」

ウォルト「……!!(コイツがラキか…)」

タリウス「なっ!? 何故、お前の様な外界者にイザーク殿が……あの方の目も随分曇ったのだな」

ウォルト「お、おい、言い過ぎ」

ネア「ぐちぐち五月蝿い!! 自分がイザークさんに剣を造って貰えなかったからって嫉妬!? それに外界者じゃなくてラキよ!! そんなんだからイザークさんもアンタに剣を作らなかったのよ!!」

バシィッ!! ネア「きゃあっ!!」

決して軽くは無い平手打ち、

ネアは吹き飛ばされ地面に倒れ込む。

タリウス「黙れ!! 掟破りが偉そうに…女王も私情を挟むとは甘い、まだまだ子供だな」

ルシアン「……おいウォルト、ネアをエルフの里に連れて行ってくれ」 

ウォルト「あ、ああ…分かった!!」


ラキ「何で…ネアを叩いたの?」

いつの間にか周囲に人集りが出来ており、

皆が皆、苦々しい顔をしている。

タリウスの性格は以前から周知の事なのだろう。

そんな中でタリウスは続ける…

タリウス「罪人を叩いて何が悪い、処刑に比べれば軽いものだろう? 外界者、本来はお前も処刑されて当然なのだからな?」

ラキ「…………(なんだろう? この人の言葉を聞く度に胸が…もやもやする…苦しい…のかな?)」

タリウス「まあ、掟破りの小娘には外界者が似合いだ。特効薬を作ったらしいが、『病を蔓延させた』のも案外其処の小」

ラキ「それ以上喋るな、お前の言葉でネアを汚すな」

ルシアン「……………」

タリウス「ふん、元々薄汚い小娘だ。これ以上どう汚すと言うんだ?」


ラキ「黙れ!!!」

ラキ「お前は汚い…プロテアに居るべきじゃない…お前には『外界』が良く似合ってる」

タリウス「な、何だとッ!? この外界者がッ!! 今、此処で斬られても文句は言えんぞ!!!」

ラキ「ネアの言う通り…ぐちぐち五月蝿い。僕を本当に斬るなら早く剣を抜け、『外界者』」

タリウス「き、貴様ァァァ!!!」

愚か者は剣を抜き、ラキの頭上に振り下ろす。

ドズッ!!  ラキ「ぐぅっ……」

ラキは身を捩り狙いは逸らしたが、

大剣はラキの右肩口から真っ直ぐに入り、半ば『埋まっている』。


『キャアアアアア!!!』

絶叫……それに応じる様に、

『うわぁぁ!! 斬りやがった!! キャアアッ!!』

人集りは瞬時に散った。


ラキ「……ろ…す」

タリウス「な…に…?」

ラキ「ネアを汚した……お前を殺す」

ラキは右肩に埋まった剣を『右手』で跳ね上げ、

タリウスの股間を思い切り蹴り上げる。

ズドッ!! タリウス「うぎゃああッ!!」

膝を付き悶絶するタリウスに、


ドッゴォッ!!と大凡の子供に出せる力を遥かに超えた拳が衝突する。

タリウス「げェブハァッ!!!」

ラキ「お前は…ネアを汚した…」

ルシアン「ラキ」

ラキ「ルシアン、どうしたの?」

いつもと変わらぬ表情…傷は塞がっているものの、

衣服は紅く染まっている。

殺人的なその拳も……


ルシアン「ネアは何て言った?」

ラキ「……………」

ルシアン「それで良い…エルフの里に行け、ネアが待ってる。オレは後から行く」

ラキ「分かった」

…………

……

ルシアン「さて…タリウス、お前は『女王を侮辱』した挙げ句『無抵抗』の子供を斬った。何か言う事はあるか?」

タリウス「だ、だずげ」

ルシアン「なに言ってるか分かんねえよ」

ザンッ!!! タリウス「げゃっ…」

吹き出す鮮血、


その直後タリウスの身体は光の粒となり天へ昇る。


ルシアン「良いよな、幾ら汚ねえ生き方しても死ねば光の粒だ……」

ルシアン「ラキ…男の騎士が少ねえのはな、こういう馬鹿の所為で『こういう事』が起こるからさ」

ルシアン「さて、オレも行くか…」


今日は此処で終了します。

今更ですが、オリジナルです。

ありがとうございました!!


レスありがとうございます!!

今日は投下出来ないです…

ごめんなさい…

見てくれている方、ありがとうございます!!


【プロテア・追記】

プロテアに於ける死の概念や事柄は外界とは異なる。

プロテアに住む者達の場合、遺体は残らない。

何故かは不明だが、プロテアの死者の魂は光の粒となり自然に還ると言われている。

その魂は、土や木・草花に至る全てに活力を与え、彼等は自然に生かされる。

死者は自然を活かし、プロテアの民は自然に生かされる。

結界内だけでは? と考えた者も居たらしいが外界で死んだ者が居ない為、真偽不明。

あくまで伝説に過ぎないが、

その昔、罪人の魂が大岩に宿り人々を次々と襲ったと言う…

その為か、プロテアでは如何なる罪人でも礼節を持って弔い・墓を建て、女王自身も魂の浄化を祈る。

此もまたプロテアと外界の違いである。

#2  



何も書かないのもあれなので…コレだけですが投下します。

なるべく早いうちに続きを投下します。

ありがとうございました。

舞ってる

自分のペースでやってくださいな


>>88 まさか舞っていただけるとは…

>>89 嬉しいです…ありがとうございます!! 

投下します。


ーーーーーー

ーーーー

ーー

【エルフの里】

ラキ「着いた…あっ、ウォルト」

ウォルト「お、おいっ!! 血塗れじゃねえか!? お前もパルマ婆さんの所に」

ラキ「ネアは、ネアは大丈夫なの?」

ウォルト「あ、ああ、大丈夫だ(右肩からバッサリいかれてる…だが傷が無い。コイツは…)」

ラキ「僕もそこに行く」

ウォルト「分かった…だけど着替えてからだ。そんなもん見たら、ネアがまたぶっ倒れちまう」

ラキ「そっか、分かった」

…………

……

パルマ「ネア…大丈夫かい?」

ネア「うん、もう平気だよ。ありがとうパルマさん」

パルマ「いいさ、ネアが薬を完成させなけりゃ私も死んでたからね…ありがとうよ」

コンコンッ…

パルマ「お入りなさい」

ガチャ…パタン…

ラキ「ネア…大丈夫?」

ネア「うん、もう平気。あれ? ラキ…服…」

ラキ「そっか、良かった。服は血が付いたから着替えた」 

ネア「…そう…なんだ……」

ラキ「ネア、僕は殺してないよ?」


ネア「……そう(ラキ…そうじゃないの。私はラキに傷付いて欲しくない…まだ一週間しか経ってないけどラキは変わってきてる。
笑顔も見せてくれた…プロテアを好きだと言った…良い方向に向かってたのに)」

パルマ「この坊やがイザークを助けたラキかい?」

ネア「うん…」

ラキ「よろしく、パルマ」

パルマ「ええ、よろしく坊や。それとネア…」

ネア「なに、パルマさん?」

パルマ「思った事は言葉にして伝えなさい」

ネア「……!! うん、そうだよね…」

ラキ「どうしたの?」

ネア「ラキ、少し話したい事あるの。外に出ましょう」


ラキ「分かった。パルマ、ありがとう」

パルマ「ふふっ、いいんだよ…ほら、行っといで」

ネア「うん、ありがとうパルマさん。またね」

ガチャ…パタン…

パルマ「ネア、その坊やは大丈夫だよ。お前の気持ちは必ず伝わるよ…」

…………

……

ネア「えっと…そうだ、あそこに座りましょ?」

ラキ「うん」

……………

……

ネア「そう…タリウスがそんな事を…ラキは平気? 傷は治ってるけど出血は…」

ラキ「慣れてるから大丈夫。でも…」

ネア「どうしたの?」

ラキ「あんな気持ちになったのは初めてなんだ。
あいつがネアに酷い事を言った時、ネアが叩かれた時…胸がもやもやして、凄く……嫌な感じだった」

ネア「そっか…ラキ、ごめんね」

ラキ「なんでネアが謝るの? ネアは何も悪くない」

ネア「違うの…ラキはプロテアを綺麗だって、好きだって言ってくれた。
なのに…ラキが言ってた『どろどろ』を見せちゃったから」

ラキ「大丈夫…向こう側でも沢山痛い事・嫌な事はあったから。
でも、ネアやルシアンみたいな人は居なかった…ネアは僕を助けてくれた、ルシアンは会ったその日に僕を家に住ませてくれた」

ネア「…うん」

ラキ「だからネアが叩かれた時、あいつがネアに酷い事を言った時は殺そうと思った」

ネア「……そう」

ネア「それにね? ネアが痛いと僕も痛くなるんだ…あいつに斬られた時よりも…確かに痛かった」

ネア「………(ラキは理解出来てない、でも感じたんだ。
自分で言うのもなんだけど、その……私が傷付けられるのは嫌だと、そして傷付けられた者の痛みを…)」

ラキ「ネア、顔真っ赤だよ…大丈夫?」


ネア「だ、大丈夫!! 私は大丈夫…うん…」

ラキ「そっか、あのね?」

ネア「うん? どうしたの?」

ラキ「ネアも好きだよ」

そう言って柔らかに微笑む…それはネアにとって


ある意味では凄まじい破壊力を秘めた兵器に違いなかった。


ネア「えっ…!? そ、そうっ!? あ、うぅ……
(まあ可愛い…って違う!! なによ今の笑顔は!! しかも…好きって言ったわよね!?)」

ラキ「ネア? 顔抑えてるけど、まだ痛いの?」

ネア「ち、違うの!! 大丈夫よ…私は大丈夫…大丈夫だから」

ラキ「そっか、でもルシアン遅いね…何してるんだろ?」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ルシアン「『女王への侮辱』及び『傷害』『殺人未遂』以上の罪でタリウスを処刑した」

セシリア「そうですか……分かりました。ネアは無事ですか?」

ルシアン「ウォルトにエルフの里、パルマ婆さんの所に運ばせた」

セシリア「そう…なら良かった」

ルシアン「それと、タリウスの奴は以前から騎士である事を鼻に掛けていたんだが、両親を病で亡くしてからは恐喝紛いの事もしていたそうだ…」

セシリア「そうですか…騎士の不始末は私が裁かなければならないのに。ルシアン、申し訳ありません」

ルシアン「いいさ…オレにはコレくらいしか出来ねえからな。それより!!」

セシリア「急に何です?」

ルシアン「いやあ、預かった者としてはダメな話しなんだが。
敢えてタリウスとラキのやり取りを見てたんだよ」

セシリア「ルシアン…」

ルシアン「いや!! いつでも止めれたから大丈夫だ」

セシリア「それなら尚更でしょう…何故、止めなかったの?」


ルシアン「まあ聞けよ、タリウスの野郎がネアに暴言を吐いて」

セシリア「…!! ネアに何て言ったの!?」

ルシアン「セシリア…最後まで聞いてくれ」

セシリア「取り乱しました…続けて下さい」

ルシアン「……そしたらよ、ラキが怒ったんだ!! しかも怒鳴り声まで上げて!!」

セシリア「想像出来ませんね…まだ一週間とは言え変化しているのでしょうか?」

ルシアン「そうだな、何よりネアの存在がデカい。
これから沢山の奴と触れ合えばもっと変わって行く筈だ」

セシリア「嬉しそうね? ルシアンがそんなに喜ぶ所をみるのは初めてかも知れないわ」

ルシアン「嬉しくもなるさ、一週間前…最初に出会ったラキは『生きながら死んでる』そんな感じだった。
それは此処に来る前からだったんだろうが今は違う…色んな物に興味を持ってる。
一度だけだか笑顔も見せた、感情を出す様になってきてるんだ」

セシリア「そう、あの子が笑顔を…いつか、些細な事で笑顔になれる様になれれば良いわね…」

ルシアン「ああ、そうだな…エルフの里に二人を待たせてある。今から連れて来る」

セシリア「ネアに無理はさせないで…私は明日でも大丈夫だから」

ルシアン「良いのか? ネアもセシリアに会いたがってたぜ?」

セシリア「ホント!? あっ…コホン…じゃあ、日が暮れる前に頼みます」

ルシアン「全く、はいはい…分かりましたよ」


ーーーーーー

ーーーー

ーー

ラキ「くぅ…くぅ…ぅん」

ネア「寝ちゃった…仕方ないよね、6日振りに起きたらあんな事起きたんだもの…疲れたよね?」


ネアの手が自然とラキの頭を撫でる…

さらさらと指通りの良い髪に子供らしい寝顔。

自分が外界から連れてきた不思議な少年…

5日前は『殺す』と『会いに来た』を同じ表情で言う少年だった。

けれど先程、ネアを好きだと言った少年は…



確かに、『笑って』いたのだ。


ネア「…………」

ラキ「くぅ…くぅ…」

ネア「(ありがとう…ラキ…)」

ラキ「うぅ…あ…ネア、おはよう」

ネア「ふふっ…おはよう、城には行けそう?」

ラキ「うん…行ける……」

ネア「大丈夫? 眠そうだけど」


ラキ「気合いで何とかする」

ネア「あははっ、何それ?」

ラキ「ガルトが教えてくれた」

ネア「全く…無理しちゃダメよ?」

ラキ「分かった。あっ、ルシアンだ」

ルシアン「よっ、待たせたな。セシリアが待ってるし行こうぜ」

ネア「アンタね…待たせて置いてゴメンも言えないの?」

ルシアン「いやぁ、膝枕か…良いねえ…邪魔しちゃ悪いと起きるまで待ってたん

ネア「このッ!!」

ルシアン「だぎゃッ!!」

ネアの蹴りはルシアンの股間を捉えた。

ルシアン「お、お前…そ、れは…反則…だろ…」

膝を付きうずくまっている、効果は抜群のようだ…

ネア「ラキ!! 行きましょ!!」

ラキ「うん、分かった」

ルシアン「ま、待てって…お、おい」

ネア「パルマさんに頭でも見て貰ったら!? きっと悪性の腫瘍があるに違いないわ!!」


…………

……

ルシアン「普通あそこまでやるか? ラキもネアには気を付けろよ」

ラキ「ねえ、ルシアン」

ルシアン「あん? どうした?」

ラキ「もうやめちまえよ」

ルシアン「何をだよ!? 流行ってんのかそれ!?」

ネア「あははっ!! ラキにまでっ!! あははっ!!」

ルシアン「どこで覚えたんだよ…全く…」

ラキ「ハンクが使ってた、こういう時に言うんじゃないの?」

ネア「あー可笑しい…ラキは言われた事とかは全部覚えてるみたいよ? ガルトからも気合いを教えて貰ったんだって」

ルシアン「そうか…これからは付き合う奴を選ばないとダメだな」

ネア「その筆頭がアンタよ…」

ルシアン「おい…」

ネア「ねえ…タリウスは…」

ルシアン「処刑されたよ。女王への侮辱と、殺人未遂でな…」

ネア「そう…」

ラキ「ネア、悲しいの?」

ネア「……嫌な奴でも死んだって聞くとね。それに私があんな事言ったのが…」

ラキ「ネアは悪くない」

ネア「ラキ……」

ルシアン「ネア、タリウスは罪を犯し処刑された。
そこには納得も理解も必要無い…『タリウス』の罪なんだ。
セシリアだって辛い筈だ、タリウスは騎士だった…色々思う所もあるだろう」

ネア「……そうだね…私、早くセシリアに会いたい」

ラキ「ネア、大丈夫?」

ネア「うん、もう大丈夫」

ルシアン「ほら、行くぞ。セシリアに日が暮れる前に来いって言われてるからな」


…………

……

ルシアン「よし、間に合ったな」

ネア「さっ、早く行きましょ」

ラキ「うん。あ、カレンだ…久しぶり」

カレン「ラキ君…久しぶり。ルシアンさんとネアもお久しぶりですね。
あの……少しラキ君と話しがしたいんですが…」

ルシアン「いいぜ、じゃあオレ達は先に行ってる」

カレン「ありがとうございます」

ネア「ラキ、話しが終わったら来なさいよ?」

ラキ「うん、分かった」

カレン「話しが終わったら私が連れて行きます」

ルシアン「ああ、頼む」

ネア「カレン、よろしくね?」

カレン「うん、大丈夫…」


…………

……

カレン「ラキ君…この前はごめんなさい」

ラキ「剣で刺した時のこと?」

カレン「うっ…はい…」

ラキ「痛かったけど、慣れてるから平気」

カレン「そう…なんだ…」

ラキ「うん、だから謝らなくてもいい」

カレン「…ッ!! 違うの、私は…私は、ラキ君を傷付けた自分が許せなくて……だから謝ったの…」

ラキ「そっか、じゃあ…カレンが許せないカレンを僕が許すよ」

カレン「えっ……ラキ君は…不思議な子だね……ありがとう」

ラキ「ありがとう?」


カレン「ふふっ、分かんない?」

ラキ「うん、分かんない」

カレン「それでもいいの、いつか分かると思うから。あれ? ラキ君、剣なんて持ってたんだ?」

ラキ「うん、ガルトの父さんが僕に造ってくれた」

カレン「イザークさんが!? 凄い…凄いよラキ君!! イザークさんの造った剣を持ってる人なんて十人も居ないんだから!!」

ラキ「そう言えば…ルシアンもネアもそんな事言ってた」

カレン「あんまり凄さが伝わってないね…」

ラキ「じゃあ、どれくらい凄いの?」

カレン「うーん……そうだね、魚が喋るくらい…かな?」

ラキ「そんなに凄いんだ…」

カレン「うん、しかもラキ君が持ってる剣は皆が持ってる剣とは何もかもが違うから、もっと凄いよ?」

ラキ「魚が五匹喋るくらい凄い?」

カレン「うーん、最早…百匹以上だよ!!」

ラキ「そ…そんなに……」


カレン「ふふっ…ちょっとびっくりしたね、凄さが伝わった?」

ラキ「うん、良く分かった。凄く大事にする」

カレン「良かった。ラキ君、あの…お願いがあるんだけど」

ラキ「なに?」

カレン「その剣を抜いて見せてくれないかな?」

ラキ「うん、良いよ」

カレン「ありがとう!!」

ラキは背中に差したままでは鞘から抜刀出来ない為、

背から外した後両手に持ち、ゆっくりと鞘から刃を抜き放つ。


そして露わになった刃を目にしたカレンは、

その刀身に目を奪われ息を呑んだ…


カレン「…すごい……綺麗…」

カルア「ああ…綺麗な剣だな…」

カレン「うん…って、あれっ!? 姉さん!? いつの間に…」


ラキ「カルア、久しぶり」

カルア「ああ、久しぶりだな。もう身体は良いのか?」

ラキ「うん、大丈夫」

カレン「なんで姉さペチンッ

カレン「痛いっ…なんで頭叩くの?」

カルア「此処は城内だぞ? 鞘から刃を抜かせるなど言語道断だ」

カレン「姉さんだって綺麗って言ってたくせに…」

カルア「ん? 何だと?」

カレン「……ごめんなさい」

ラキ「カルアはカレンの姉さんだったんだ…コレはもう仕舞っていい?」

カルア「ああ、……ラキ…だったな」

ラキ「うん、名前はルシアンが付けてくれた」

カルア「そうか…ラキ、その剣はイザーク殿が?」

ラキ「うん、まだ御礼言ってないけど」


カレン「あのね、姉さんの剣もイザークさんが造ったんだよ」

ラキ「カルアは凄いな…魚何匹くらい?」

カルア「は? 魚?」

カレン「うーん、八十匹…くらいかな…」

ラキ「凄い…でも、カルアの剣は細いね。なんで?」

カルア「うむ…私の剣は斬ると言うより、突く事に特化した剣だからな。刀身は柔らかく変則的な攻撃が出来る」

ラキ「分かんないから今度見せて」

カルア「ほぉ…剣術に興味があるのか?」

カレン「何で剣術が?」

ラキ「カレンに首を斬られそうになった時のルシアンが凄かったから」

カレン「そ、そうなんだ。なんか…複雑だけど…」

カルア「因みにルシアンの剣もイザーク殿が造ったんだぞ?」

ラキ「そうなんだ、魚何匹?」

カレン「あの剣はねー、もう犬が『にゃー』って鳴くくらい凄いよ…
剣の強度、そしてあのシンプルな美しさ…
何より凄いのは、あの剣を片手で振れるルシアンさんだけどね」

ラキ「…そんなに…ルシアンは本当に凄いんだな……」


カルア「何だか分からんが、私の剣の評価は低い様だな…カレン」

カレン「違うよ!! 姉さんのだってイザークさんが考え出したんだし…
剣を『しならせる』為に全く新しい技法を編み出したんだよ?」

カルア「分かった分かった……だがルシアン殿の剣は確かに別格だな……
刃だけではなく、柄から切っ先に至る全てが特殊な鉱石から造られている」

ラキ「へぇ…今度ちゃんと見せて貰うよ。あっ…そろそろ行かないと」

カレン「うあっ!! そうだったね、んじゃ行こっか」

カルア「何処に行くんだ?」

カレン「女王陛下の所だよ?」

カルア「そうか、ならば私も行こう…待たせるといけない。急ぐぞ」

ラキ「分かった」


今日は此処で終了です。

改行してみたんですが、少しは見やすくなったでしょうか?

見てくれている方、レスくれた方、


ありがとうございました!!

お、きてた!

次も楽しみにしとります

面白い。続きを待ってます!


>>108 ありがとうございます!!

今日は投下出来ませんが…2・3日後には投下します。

あと、レスしてくれるたびに見てくれてる人いるんだな…と、嬉しくなります。

見てくれている方も、今までレスしてくれた方も本当にありがとうございます。


>>109 ありがとうございます!!

面白い

最近歳のせいかカタカナの名前が覚えられない

誰か登場人物まとめてくれないかなー(チラッ


《人物紹介》

ラキ・不明・ネアに助けられた少年。

セシリア・エルフの若き女王・両親共に病で死亡。

ネア・エルフ・医師・薬師・セシリアの親友、両親共に病で死亡。

カルア・エルフの騎士・カレンの姉・しっかり者だが、考えが少々堅い。

カレン・エルフの騎士・カルアの妹・剣の話が好き、若干…うましか。

ルシアン・不明・ラキを引き取った。

ガルト・ドワーフ・イザークの息子

イザーク・ドワーフ・超一流鍛冶屋だが自分が認めた者にしか剣は造らない。

ハンク・獣人・ジーナの弟。

ジーナ・獣人・ハンクの姉・ルシアンが……。

ライル・獣人・若き里長、病で両親を亡くすが里長として里に尽している。

イネス・獣人・ライルを気に掛ける女性ライルが…。

ウォルト・ドワーフ・ルシアンの友達で大工さん。

パルマ・エルフ・医者・優しいお婆ちゃん。

タリウス・エルフ騎士・女王を侮辱した罪でルシアンが処刑した、病で両親を亡くし荒んでいた。

>>112 ありがとうございます!!

>>113 こんな簡単な感じで良ければ…


《人物紹介》

ラキ・不明・ネアに助けられた少年。

セシリア・エルフの若き女王・両親共に病で死亡。

ネア・エルフ・医師・薬師・セシリアの親友、両親共に病で死亡。

カルア・エルフの騎士・カレンの姉・しっかり者だが、考えが少々堅い。

カレン・エルフの騎士・カルアの妹・剣の話が好き、若干…うましか。

ルシアン・不明・ラキを引き取った。

ガルト・ドワーフ・イザークの息子

イザーク・ドワーフ・超一流鍛冶屋だが自分が認めた者にしか剣は造らない。

ハンク・獣人・ジーナの弟。

ジーナ・獣人・ハンクの姉・ルシアンが……。

ライル・獣人・若き里長、病で両親を亡くすが里長として里に尽している。

イネス・獣人・ライルを気に掛ける女性ライルが…。

ウォルト・ドワーフ・ルシアンの友達で大工さん。

パルマ・エルフ・医者・優しいお婆ちゃん。

タリウス・エルフ騎士・女王を侮辱した罪でルシアンが処刑した、病で両親を亡くし荒んでいた。

>>112 ありがとうございます!!

>>113 こんな簡単な感じで良ければ…


…………

……

ネア「セシリア…ごめんね、私が挑発する様な事を言ったから…」

セシリア「過ぎた事だから仕方ないよ…タリウスは本当の意味での『騎士』ではなかった。
それに、私の事も気に入らない様な感は前からあったから…」

ネア「そっか…やっぱり女王は辛い?」

セシリア「うん…でもね? カルアや他の騎士も頑張ってくれてるから大丈夫」

ネア「カルアが女王側近騎士になったんだっけ?」

セシリア「うん、皆を指揮して冬に備えて各里の食料備蓄調査とか…たまに私に剣術の稽古…
他にも沢山…カルアには本当に感謝してる」

ネア「カルアは真面目だからね、カレンはちょっと抜けてるけど…」

セシリア「カレンは凄く優しいよ? カルアは私に女王として接するけどカレンは柔らかいって言うか…温かい感じかな」



ネア「あははっ、あの二人は凄く良いバランスだよね」

セシリア「ふふっ、うん。あのね、ネア」

ネア「どうしたの?」

セシリア「今日は泊まっていかない? やっぱり少し…」

ネア「勿論!! 私もセシリアと居たいし」

セシリア「良かった…ありがとう、ネア…」

ネア「沢山話そうね?」

セシリア「うんっ!!」

女王では無くセシリアとして居られる…

それは若くして女王になった彼女の何よりの幸福なのだろう。


…………

……

ラキ「あっ、ルシアン、何してるの?」

ルシアン「オレが居ると邪魔だからな…」

カレン「ルシアンさんは、こういう時は空気読めるのになあ…ジーナさん、かわいそう…」

カルア「カレン、いきなり失礼だぞ…確かにルシアン殿は多少、あれだが…」

ルシアン「あのなぁカルア、お前も大概失礼だからな?」

ラキ「入らないの?」

ルシアン「そうだな、多分ネアは今日城に泊まるだろう。挨拶だけして帰るか…」

コンコンッ!!

ルシアン『セシリア!! ラキが来たから入って良いか!?』

セシリア「はい、どうぞ」

ガチャ…パタン


カルア「女王陛下、失礼致します」

カレン「女王様、お邪魔します」

ラキ「セシリア、久しぶり」

セシリア「お久しぶりです、ラキ」

ネア「お邪魔しますって…それより遅かったわね?」

ラキ「カレンから剣の凄さを教えてもらった」

ネア「ラキの剣の?」

ラキ「カルアとルシアンのも教えてもらったよ、犬がにゃーって鳴くくらい凄いんだ」

ルシアン「カレンも相変わらずだな…」

ネア「ぷっ…なにそれ? カレンが教えたの?」

ラキ「うん、僕の剣は魚百匹喋るくらいなんだって」

カルア「カレン…お前は…」

カレン「姉さん、分かってるから…あと恥ずかしいから追求しないで」

セシリア「カレンらしい例えですね」

カレン「えへへ…ありがとうございます!!」

ネア「(でも、ラキが『にゃー』って可愛いわね…)」


ルシアン「カレンは剣の話し好きだからな…そんなんじゃ男が出来ないぞ?」

カレン「ルシアンさんには言われたくないです…」

ルシアン「お前さぁ…今日酷くないか?」

カルア「ルシアン殿、私もカレンに同意だ。ルシアン殿は少し考えた方が良い」

ネア「ルシアンに言われちゃお終いよね」

ルシアン「…オレなにかしたか?」

セシリア「ラキ、身体はどうですか?」

ラキ「大丈夫、少し眠いけど」

セシリア「ふふっ、そう…
(前とはまるで印象が違う、変わるものなのね…ルシアンが喜ぶのも分かる気がする)」

ネア「ルシアン、私は城に泊まってくから」

ルシアン「まあそんな気はしてた。今日、ライルに顔合わせは済ませたんだが…
ドワーフ・エルフの里はまだだ…残りは後日だな」

セシリア「そうですか…良ければ騎士が馬車で送りますが?」

ルシアン「おっ、そうか。じゃあ頼む」


セシリア「ではカレン、他の騎士に馬車の用意をさせて」

カレン「えっ、私も馬車くらい」

カルア「カレン…この前もそう言って田んぼに落ちただろう。早く行け」

カレン「はーい…女王様、お邪魔しました」

ネア「……もう何も言わないわ」

ガチャ…パタン

ルシアン「じゃあ、オレとラキも外で待つか…」

ネア「ラキ、またね」

ラキ「うん、今日はありがとう」

セシリア「……(表情が柔らかい)」

カルア「…(短い間で変わるものだな…)」

ネア「うんっ!!」

ラキ「セシリア、カルア、またね」

セシリア「ええ、また…」

カルア「機会があれば来い、剣術を教えてやる」

ルシアン「なんだ? カルアにも教えて貰うのか?」

ラキ「うん、見てみたいから」

ルシアン「まあオレとカルアじゃ全然違うから良いかもな…まっ、取り敢えず帰るわ」

ラキ「みんなまたね」

ガチャ…パタン


…………

……

カルア「ネア、ラキは…その、変わった…のか?」

ネア「変わったって言うより学んでるんだと思う…
ラキは私が叩かれた時、嫌な気持ちになった…そう言ってた」

カルア「……自らに与えられた痛みでは無く、友人や大切な者が傷付く辛さを知った…と、言う事か」

ネア「それは…分からない。ラキにとって私が何なのか? なんてラキに聞いても多分分からないと思うから……」

セシリア「それに…私達はラキが外界で何をしていたかは詳しくは知らない。
けれど、何も知らないまま追われ…殺し…生き延びて来た。
誰から何を教えられる事もなく、一人きりで…そして、殺す事すら日常の一部になっていたのね…」

ネア「でも、それでも…ラキは此処が好きだと言ってくれた。
根拠は無いけど此処に居れば変わっていく…私はそう思う」

カルア「そうだな…私は私が出来る事をする。
それに、ルシアン殿やネアにばかり頼るのは駄目だと…カレンが教えてくれた」


セシリア「ええ…そうね。それに…ついこの前までプロテアの皆は病に怯え、皆が大切な人を亡くした。
あの子は見かけよりずっと幼くて、無垢で純粋で無知…
今はまだ何も出来ない私が言えた事では無いけれど…此処『プロテア女王』としてラキを含め皆を守りたい」

カルア「病の脅威が去ってもプロテアの状況は良いとは言えない。
皆が尽力し、受け継ぎ、生きて行かなければならないな…」

ネア「まっ、考えても暗くなるだけだし出来る事をしましょ?
カルアは真面目過ぎ、少しは力を抜いたら?」

カルア「そ、そうか?」

セシリア「ふふっ、少しカレンを見習ったら? ああ言う柔らかさはカルアには必要だわ」

カルア「柔らかさ…ですか?」

セシリア「今日は三人で寝ましょうか? カルアも一緒にね」

カルア「そんな…!! 私は」

セシリア「カルア、私は貴方を友人だと思って居ます。
友人に側に居て欲しいと言って何かおかしいですか?」

カルア「女王陛下…」


セシリア「カルア、セシリアと呼んで」

カルア「……分かった。セシリア、私は女王陛下もセシリアも支えよう」

ネア「全く…堅いんだから…早くセシリアの部屋に行きましょ?」

カルア「これでもかなり勇気を振り絞ったんだが……」

セシリア「カレンは二人の時セシリアって呼ぶわよ?」

カルア「なっ!? カレンッ…!! 明日は早朝から剣術訓練だな」

ネア「あーあ、かわいそうに……」

ーーーーー

ーーー

ーー

ルシアン「飯も食ったし寝るか」

ラキ「うん」

ルシアン「イザークのオッサンに礼を言うのは明日だな」

ラキ「分かった」

ルシアン「それと…ラキ、何故タリウスとやり合った時剣を使わなかった?」

ラキ「なんか嫌だったから」


ルシアン「ははっ、そうか!! それをオッサンに聞かせたら喜ぶな」

ラキ「なんで? 剣を使った方が嬉しいんじゃないの?」

ルシアン「いや、そう言う事じゃねえ…剣を振るう者の意志の問題だ」

ラキ「分かんない、どういうこと?」

ルシアン「そうだな…ネアを傷付ける為に剣を使う、ネアを守る為に剣を使う…これは同じか?」

ラキ「違う、と思う」

ルシアン「だろ? 『志』の為に剣を振るう者、『大切な何か』の為に剣を振るう者。
タリウスの様な傷付ける為の剣を振るう者。まあ…他にも色々ある」

ラキ「剣を振るう者の意志…」

ルシアン「いつか分かる。ラキ、いいか……『強くなれ』」

ラキ「ルシアン、強いってどんな風に?」

ルシアン「それも自分で見つけるんだ」

ラキ「そっか、分かった」

ルシアン「んじゃ、寝るか」

ラキ「うん、おやすみなさい」

ルシアン「ああ、おやすみ」


短いですが今日は此処で終了です。

見てくれている方、レスくれた方、

ありがとうございます!!

乙!
次も楽しみにしてるぜー



俺の一言のために登場人物まとめてくれてありがとう

一気に読ませてもらった
非常に面白い


>>127 >>129 ありがとうございます!!

>>128 まだ増えます……またまとめますので。

投下します。


ラキ「(強いって何だろう? 沢山刺されたりしたし、沢山殺した…
けどルシアンが言ってるのとは違う…それに僕に大切な物なんて…)」


ーネア『もう、誰かが死ぬのは見たくないから』ー

ーネア『うん、行ってらっしゃい』ー

ーネア『あははっ、何それ?』ー


ラキ「(なんか…ネアが居なったりするのは嫌だな、笑って欲しい。
あと、痛くなって欲しくないな。僕が痛くなってもネアには……
でもネアは物じゃないし…やっぱり分かんないな)」


ルシアン「(強くなれ…か、柄にもない事言っちまったな)」


ーラキ『強いってどんな風に?』ー


ルシアン「(それはお前が見つけるんだ…見て・感じて・時に傷付いて。
そしたら後は心で決めろ…オレが出来るのはその手助けと力の使い方だけだ)」


……………

……

イネス「私、どうしたら良いかな?」

ジーナ「知るかよ、弁当一緒に食ってるだけ良いじゃねえか…後は…」

イネス「ん? なに?」

ジーナ「お、押し倒すとか…どうだ?」

イネス「……ジーナはルシアンに出来る?」

ジーナ「は、はあ? ア、アタシは別に良いんだよ!! 今はイネスの話しだろ!?」

イネス「はぁ…伝わらないのかなぁ」

ジーナ「好きだって言えば? そしたら流石に気付くだろ」

イネス「でも、ライルは里長の仕事で大変そうだし…手伝えるだけでも今は良いかなって思うんだ」

ジーナ「答え出てんなら聞くなよな…」

イネス「ふふっ、ごめんね。ジーナはどうなの? 上手く行ってる?」

ジーナ「うっ…はぁ…何かさ、アイツの前だと素直になれなくて…早く嫁に行けとか言われるし」

イネス「その馬鹿はちゃんと殴った?」

ジーナ「うん…何で気付いてくんねえのかな…優しくしなきゃダメなのか? でも柄じゃないし…」

イネス「ライルより厄介よね…確かに顔は良いけど」

ジーナ「顔だけじゃねえよ…優しいし、強いし、何かさ…アイツと一緒に居たいんだよ」

イネス「うん、私もライル見てるとそんな気持ちになる」

ジーナ「そっか…自分でも良く分かんねえけど、コイツなんだなって…そう思うんだ」

イネス「ジーナ…一緒に頑張ろう?」

ジーナ「うん…」



ハンク「(…よし……今度ルシアンを殴ろう)」


………………

……

イザーク「おい、ガルト!!」

ガルト「どうした? また湿布の張り替えか!?」

イザーク「違う、ラキの話だ…」

ガルト「ああ…ドワーフの里での話しか。ラキの奴タリウスに斬られたんだってな」

イザーク「それもそうだが。ラキの奴、剣抜かなかったみてえなんだ」

ガルト「何だよ? 親父はラキにタリウスを斬って欲しかったのか?」

イザーク「違うわ馬鹿たれ!! ラキはつくづく不思議な奴だと思ってな…」

ガルト「ま、ラキならその内来るだろ。それに、持ってたって事は気に入ったって事だろ!?」

イザーク「ま、そうだな!! あれはルシアンのアホに作った剣と同等、オレの最高傑作だ!! まあ、他のも全部最高傑作だがな、ガハハ!!」

ガルト「(何にしても、親父が元気になって良かったぜ!! ありがとな、ラキ…
今日は居なかったし…明日行ってみるか、礼言わないとな)」


ー翌日・早朝ー

チュンチュン…

ラキ「朝だ、ルシアンは…」

ルシアン「うぅん…んぁ…」

ラキ「寝てる…」


ールシアン『ラキ、いいか……強くなれ』ー


ーカルア『剣術を教えてやる』ー


ラキ「城に行こう」

ルシアン「うぅ…んがっ…」

ラキ「…………」

ガチャ…

ラキ「ルシアン、『行って来ます』」

パタン…

ラキ「すぅ…はぁぁ(空気も綺麗だ…頭がすっきりする)」

ラキ「よし、行こう」


……………

……

騎士「ラキ!! こんな早くに何の用だ!?」

ラキ「だれ? なんで僕の名前を…」

騎士「私はルファ!! カルアさんの一番弟子にして」

ラキ「ルファは元気だね
(ネアと同じくらいの女の子…獣人の騎士も居るんだ…)」

ルファ「最後まで言わせてよ……」

ラキ「今からカルアに剣術教えて貰うから後で聞く」

ルファ「なにっ!? ならば私を倒してからにして貰おうか!!」

ラキ「ねえ、ルファ」

ルファ「なになに?」

ラキ「めんどくさい」

ルファ「良く言われる!! さあ修練場に行こうっ!!」


ラキ「カルアは?」

ルファ「うーん、今日はまだ見て無いなぁ…何時もなら修練場に居る筈だよ?」

ラキ「じゃあ行く」

ルファ「ラキはさぁ、私なんて眼中に無い感じ?」

ラキ「違う、ルファが強いのは分かる…気がする」

ルファ「ふぅん…なんで?」

ラキ「剣を二本持ってるから」

ルファ「それだけかよー」

ラキ「ちゃんと『両方振れる』から持ってるんでしょ?」

ルファ「おっ!! ラキは面白いな!!」

ラキ「ルファ、早く行こう」

ルファ「よっしゃ、んじゃ行こう!!」


………………

……

ルファ「まだ来てないみたい….」

ラキ「じゃあ、待ってる」

ルファ「うーん、暇だから勝負しようよ!!」

ラキ「うん、分かった」

ルファ「じゃあ、コレ使って」

渡されたのは柔軟性のある枝か何かを何本か纏め、

その上から布を被せて作られた物だった。

ラキ「コレはなに?」

ルファ「練習様の柔剣ってヤツだ。叩かれりゃ痛いけど大怪我はしない!!」

ラキ「ふぅん…」

ルファ「じゃあ始めるよ? 先に当てた方が勝ち!!」

ラキ「分かった。あ、ルファは二本じゃないの?」

ルファ「えっ? 見たいの!?」

ラキ「うん、気になる。見せて?」

ルファ「そっかぁ…へへっ、全くラキは仕方ないなぁ…」

内心、嬉しくて仕方ないのだろう…

尻尾がぶんぶんと暴れている。


ルファは柔剣を両手に持ち腰を落とし、両手をだらりと下げ前傾を取る。


ルファ「じゃあ、行っくぞー!!」

ダンッ!!と床を蹴り凄まじい速さでラキに向かう。


ラキ「……(速いなあ)」

ルファ「おりゃ!!」

一つはラキの右脇腹を、一つは首を狙う。


ラキ「(ルファはやっぱり強い)」

パシィッ…!! と乾いた音が響く。


ルファ「うわっ!? 凄いね!!」


右脇腹に迫る柔剣は右手に持った柔剣で弾き。

もう一方はラキから一歩踏み込み、

ルファの右手首を左手で掴む事で防いだ。


ルファ「タリウスに斬られたって聞いたけど、なんで私のは防げるの?
私の剣の方がタリウスより断然速いのにさ」

ラキ「あの時は頭がごちゃごちゃしてた」

ルファ「そっか、そりゃ仕方ない…なっ!!」

ルファはその場で跳び、ラキの顎目掛けて右膝を繰り出し…


ラキ「うん、仕方ない」

ラキはルファが空中に跳んだ瞬間、右の上段蹴りを放つ。


ルファ「わっ!? 凄い凄い!!」

喜色満面の笑みを浮かべながら畳んだ右脚を伸ばし、

ラキの左肩に脚を掛け後方に大きく跳んだ…


ルファ「よっ…って速っ!!」

だが、着地する前にラキは其処まで迫っていた。


そして、着地寸前の脚に向けて…

パシィッ!! ルファ「痛っ、あーあ、やられちゃった…」

そう言ってルファが肩を落とすと、

元気一杯だった尻尾もへにゃりとうなだれてしまった。


ラキ「ルファは強いよ?」

ルファ「でも負けちゃったよ…ラキは何かやってたの?」

ラキ「ううん。沢山痛い事されたから、どうやったら相手が嫌か分かるだけ」

ルファ「ふぅん…普通脚なんて狙わないしね。悔しいなぁ…」

ラキ「もう一回、勝負する?」

ルファ「うんっ!! 今度は負けないよー!!」

ラキ「僕から行くよ?」

ダンッ!! 柔剣を右手に持ち、ルファの様に低く構えた前傾突進、

ルファ「やっぱ速い、ねっ!!」

直進してきたラキを横に躱し即座に後頭部へ振り下ろす。


バッチィッ!! ルファ「やっぱラキは凄いよ!!」


だが、ラキの『後ろから』遅れ出た柔剣に弾かれる。

柔剣を引き擦り突進していたラキは、

後方に引いた柔剣を大きな円を描く様に前方に繰り出す事でルファの柔剣を弾いた。

ルファにはラキの背中から柔剣が『生えた』ように見えただろう。


ラキ「ルファも速い」

ラキは前傾から体制を立て直し、

間髪入れずルファの左脇腹を凪払いに行く。

ルファ「でも…」

ルファはそれをバシッ!!と右の柔剣で上から叩き落とし、

左の柔剣をラキの左肩へ…

バシッ!! ラキ「あっ…」

ルファ「まだまだですなぁー」

ラキ「負けた」

ルファ「速いし力も強い…でも、剣術はそれだけじゃないのさ…」

ラキ「へぇ、なる程…ルファは凄いな」

ルファ「はっはっは!! もっと褒めたまえ!!」

へにゃりとなっていた尻尾は元気を取り戻しブンブンと暴れている…


ラキ「あっ、カルアだ。見てたのかな?」

ルファ「…………(まじかよ…)」

カルア「ルファ!! 素人に勝って何が『剣術はそれだけじゃないのさ』だ!!
しかも素人相手に二刀使うとは何事だ!!」

ルファ「うぅ…ごめんなさい」

頭と共に尻尾も垂れる…

ラキ「カルア、僕から頼んだんだ。ルファは悪くないよ?」

カルア「知っているさ、見てたからな」

ルファ「見てたなら止めてくれれば良かったのに…」

カルア「なんだ?」

ルファ「何でもありません!!」

ラキ「カレンは? 一緒じゃないの?」

ルファ「(上手い!! ラキ様は分かってるね!!)」


カルア「あぁ…カレンならネアとセシ…んっ、女王陛下と寝てるんでな」

ラキ「そっか、カルアはルファより強い?」

ルファ「(えぇ!? このタイミングでその質問はいかんでしょ!!)」

カルア「なんだ、気になるのか?」

カルアは口元を歪めニヤリと笑っている。

その笑みの意味を知らず…

ルファ「…………(やめてやめてやめてやめて…)」

ラキ「うん、気になる」

無垢な天使・兼悪魔はそう言ったのだった…

カルア「ふふっ、そうかそうか…」

ルファ「(ぎゃああああっ!! も、もうダメだ…やられる…)」

カルア「ルファ、ラキがどうしても見たいらしい、二刀で良い…構えろ」

ルファ「……はい」

カルア「返事ッ!!」

ルファ「はいっ!!」


……………

……

ルファ「ふぅ…行きます!!」

カルア「来い…」

ダンッ!! 先ほどと同じ構えから直進…だが先より速い。

対するカルアは片手持ちで柔剣を前に突き出した半身の右構え。

ルファ「(あれが邪魔なんだよねー、でも低く入れば!!)」

ルファ「うりゃッ!!」

左膝と右脇腹を同時に狙う、

ルファ「(届くっ!!)」

確信、相手に自分の剣が触れると言うイメージ…

しかし、カルアは柔剣が身体に触れるか否かの『その瞬間』一歩引いて躱し…

ルファの二刀が空を切り交差した後、瞬時に間合いを詰め軽くルファの額を突いた。

トンッ…

ルファ「またかぁ…
(距離感が凄いんだよなぁ…『見切り』ってやつ? まあ、コレで済んで良かった)」


カルア「ルファ、何故脚を狙った?」

ルファ「ラキの真似をしてみました。脚と胴を同時に狙えば動揺して当たるか、後退するかな…と、思って。
後退した直後に突きを合わせられましたけど」

カルア「それはいい。だが、ルファ」

ルファ「はい!!」

カルア「二度の攻撃で止まるな。それと相手に『届いた』と思った時こそ油断するな。
三、四、その先まで剣を振れ、折角二刀使えるんだからな。
それにいつも直線的過ぎる…緩急を付けろ、勝負を急ぐな」

ルファ「はい!! 分かりました!!」

カルア「ラキ」

ラキ「なに?」

カルア「先のルファとの試合は見ていたが振りが大きい。
細かく、鋭く振ってみる事を心掛けると良い」

ラキ「うん、分かった」

カルア「まあ、まだ始めてもいないから仕方な」

ヒュッ!! ビョゥッ!!

ラキ「(こうかな? こっちかな?)」


ラキは振るう、ただ思うままに…


まるで全身が剣の為に動いているような、そして舞踏のような動き。


ルファ「わぁ…綺麗な動きするなぁ」

カルア「………!!
(普通は腕で力強く振ろうと思い身体が硬くなるものだが…ルファの言う通り美しい。
柔らかく、流れる様な…『どう振れば最短か』分かっているようだ…)」


ちょっと中途半端ですが今日は此処で終了します。

戦闘はどうでしょうか? イメージ出来るくらい伝われば良いんですが…

その点の意見・感想があれば宜しくお願いします。

見てくれた方、レスくれた方、

ありがとうございました!!

乙乙
特に問題無くイメージできたよ
次も楽しみにしてるぜ




>>147 良かった…ありがとうございます!!

>>148 ありがとうございます!!

今日は投下出来ません、2・3日後になると思います…


ー番外編ー


ルシアン「は? 感情の起伏が激しくなる薬?」

ネア「そう、コレをラキに飲ませて欲しいの。
効果はすぐ切れるから大丈夫よ」

ルシアン「そんなもん飲ませてどうすんだよ?」

ネア「ラキは通算二回しか笑っていない!! 他の人にもラキの笑顔を見せてあげたいの!!」

ルシアン「仕方ねえな…分かったよ。じゃあ呼んでくるわ」

ネア「ありがとう…よろしくね」

……………

……

ラキ「コレを飲めばいいの?」

ルシアン「ああ、ネアの頼みなんだ」

ラキ「そっか、分かった」ゴクッ

ルシアン「ラキ、どうだ?」

ラキ「うっ…」


ルシアン「お、おい!! 大丈夫か?」

ラキ「う、うん。大丈夫…」

ルシアン「(で、こっから一芝居打てば良いんだよな?)」

ルシアン「なあ…ラキ」

ラキ「なに?」

ルシアン「ネアが…ネアが…」

ラキ「ネアがどうしたの?」

ルシアン「ネアが……ハンクに攫われた…」

ラキ「…!! 行って来ます!!」

ダッ!!

ルシアン「これでいいのか?」

ネア「ええ、後は脚本通りに…行くわよ!!」

ルシアン「はいはい(ハンク…死ぬなよ…)」



……………

……

ラキ「ハンク!! ネアを何処に隠した!? 答えろ!!」

ハンク「はあ? 何の事やら、オレは知らねえなぁ…
(何でオレまでこんな芝居に付き合わなきゃならないんだよ)」

ラキ「仕方ない…」

ハンク「待て待て待て!! 剣を抜くな!!」

ジーナ「ラキ!! やめな!!」

ラキ「ジーナ…でも、ネアが…う、うぅっ…」

ハンク「(ラキが、ラキが泣きやがった!! ネアの薬は本物か!!)」

ジーナ「ネアは…もう……」

ハンク「(ん? ちょっと待て、何かおかしくねえか?)」

ラキ「うぅっ……ひっぐ…どうしたの?」

カレン「落ち着いて聞いて…ラキ君」

ハンク「お前はどっから出てきたんだよ」


ラキ「グスッ……分かった」

カレン「ネアは……ハンクに…」

ラキ「えっ? なに? 早く教えてよ!!」

ジーナ「ハンクは……ネアを食っちまったのさ……」

ハンク「おい、聞いてねえぞ!! 誰だ!? こんな脚本考えた奴は!!」

ラキ「そ、そんな…ネアが…食べ…られた?」

カルア「ああ、ハンクは前からしきりに『ネアを食べたい』とボヤいてたからな…」

ハンク「カルアさん!? アンタなに言ってんの!?」

セシリア「うぅっ…ネア…ネアァァッ!!」

ガルト「ネアァァァッ!!!」

ハンク「女王様…失礼ですが言わせて貰います。馬鹿じゃねえの?
それとガルト、お前はうるせえだけだよ」


ラキ「ハンク…お前を殺す」

ジーナ「やっちまいな!!」

ハンク「お前がやられちまえ!!」

ラキ「……ハンク、覚悟しろ」

ハンク「お、おい、洒落にならねえって!! 目がマジだぞコイツ!!」

ラキはゆっくりと剣を構える……

ハンク「げっ!! ラキ…いいか…落ち着け、コレはお芝居だ」

ラキ「ネアの……ネアの仇!!」

ハンク「聞いてねえ!! おい、や、やめろぉぉ!!」









『待ちなさい!!』


ネア「ラキ!! 私は生きてるわ!!」

ラキ「ネア!! 生きてたの!? 食べられたんじゃ…」

ネア「ぎりぎりの所でアレしたから大丈夫よ…アレしなかったら危なかったわ」

ハンク「ふざけんな、アレってなんだよ」

ラキ「そっか…良かった。本当に、良かったよ」

ハンク「納得すんな、馬鹿かお前」




ネアの無事を喜び、安堵した後……




















   ーラキは…笑ったー







ハンク「オレ、外界行くわ」


ー完ー


何故か書きたくなって書いてしまいました…

全く本筋に関係ない話しで申し訳ないです。

見てくれている方、レスくれた方、

ありがとうございました!!

ハンクかわいそうww
こういうのもいいなー
本編も期待してるぜ


>>157 ありがとうございます!!


【プロテア・追記】

異なる種族の結婚・出産について。


 男性ー女性ー子供

エルフ・獣人=獣人

獣人・エルフ


【プロテア・追記】

異なる種族の結婚・出産について。


 男性ー女性ー子供

エルフ・獣人=獣人

獣人・エルフ


【プロテア・追記】

異なる種族の結婚・出産について。


 男性ー女性ー子供

エルフ・獣人ー獣人

獣人・エルフーエルフ

エルフ・ドワーフードワーフ

ドワーフ・エルフーエルフ

獣人・ドワーフードワーフ

ドワーフ・獣人ー獣人


と、この様に生まれる可能性が高いが必ずしも上記の通りではない。

その為、産まれてくる子供の種族は母親によって決まると言って良い。

両種族の特徴・エルフの耳に獣人の尻尾などを持つ者は存在せず、あくまでもどちらかの種族として生まれる。

何故かは未だに不明。

今では全く珍しい事ではないが、大昔は同種族以外の結婚は認められてはいなかった。

その当時、異なる種族の子供は純血(同種族同士の子供)に劣り、尚且つ異形の種が生まれると言われていた。

だが、そんな症例は過去・現在通して見ても一切無い。


#3


【プロテア・追記】

ー騎士・剣士についてー

三種族がプロテアに移り住んだ頃、一人のエルフが女王(戦を放棄し移り住むと決まった時には既に男性は少く、女性と子供が殆どだった)になる。

プロテア初代女王は現在では失われた『魔法』を使えたと言う、

結界は彼女が考案したものと見て良いだろう。

その後、彼女は皆を見事に纏め上げ、内々で万が一にも争いが起きぬ様に各種族ごとの里を作る。

ドワーフには建築・鍛冶等を、

エルフには医学等を、

獣人には狩猟・農業等を任せた。


こうして三種族にはそれぞれ役割が与えられ、皆が支え合い平穏に暮らしていた。

そして皆が家を持ち、象徴となる城も建ちプロテアの基盤が成ったのだが、

ある冬、食料の備蓄も足りず餓死者も出た最悪の年…遂に争いが起きてしまう。

この時、暴徒を鎮圧し女王及び民を守った者達、それが騎士の始まりである。

女王は以前から武力を持つ事を嫌っていたが、この件を境に女王及び民を守る『騎士』を設立。

この時の騎士は殆どが女性エルフであった、現在もエルフが多いのはその名残と思われる。

女王は『もしも』の場合(最悪の事態ー結界の破壊)をも考慮し設立した…とも言われる。

だが、そもそもプロテアでは滅多に争いが起きない為、

民の抱える問題を解決する者達、と言う認識が定着する。

それでも訓練等は現在もされており、有事の際は何時でも動ける。

現在はエルフだけでは無く、獣人・ドワーフの騎士も居る。

ー剣士ー

剣士の称号を持つ者は騎士を指揮する権限を持ち、剣士の称号を名乗れるのは一人。

何故、称号が剣士なのかは不明。

次代の剣士は当代の剣士と女王が選ぶ。

とは言え、別段地位が高くなる訳では無く騎士の長と言う認識が正しい。


#4


イコールは多用出来ないんだ…

二度もやらかして申し訳ありません。

今日は設定のみになります。

見てくれている方、レスくれた方、

ありがとうございます!!


あげてしまいました、確認ミスです。

申し訳ありませんでした…

暗い×中二×ファンタジー


>>165 暗いですかね?

でも、見てくれてありがとうございます。

そんなに暗くないでしょ。
面白いから好きなように書いてくれ。


>>167 ありがとうございます!!

では投下します。


カレン「ネア!! 起きて!!」

ネア「なによぉ…まだ早いでしょ?」

カレン「女王様と姉さんは起きて行っちゃったよ?」

ネア「私は女王様じゃないから寝る…」

カレン「そっか、私はラキ君が修練場に来てるって聞いたから見てくるね」

ネア「いい朝ね…散歩したくなるわ」

カレン「そうだね…じゃあ、『お散歩』に行こう」

ネア「カレンって意地悪いわね」

カレン「ラキ君の話しするとネアをからかえるから、楽しくて楽しくて…」

ネア「はぁ…もう慣れたから良いわよ。えっと…修練場だっけ?」

カルア「うん、ルファと二人で修練場に行ったみたいだよ?」


ネア「なんでルファが出てくんのよ…」

カルア「それは分かんないけど、ラキ君は姉さんに会いに来たんじゃないかな?」

ネア「ああ…昨日剣術教えるとか言ってたし、早速来たわけね。
ラキは真剣な気持ちで来てるだろうし…邪魔にならない様にしないと」

カレン「あっ、そっか…そうだよね」

ネア「ま、行きましょ?」

カレン「うん!!」

…………………

……

カレン「あっ、姉さん。入らないの?」

カルア「いや、ルファとラキがこれから試合…と言うより遊ぶようだ。
少し見てみたくてな…」

ネア「遊ぶって言ったって…ルファの奴、柔剣二本持ったわよ?」

カルア「あの馬鹿、ラキに乗せられたな…まあ、危なくなったら止めるさ」

カレン「ねえ、始めるみたいだよ?」


ールファ『じゃあ、行っくぞー!!』ー


ネア「ねえ、あれ本気じゃない?」

カレン「危ない!! 姉さん、止めな」


ールファ『わっ!? 凄いね!!』ー


カレン「止めた……あんなに簡単に」

カルア「初見で二刀を止めるとは…『慣れて』いるのか…」

カレン「慣れるって…」

カレン「刃を向けられる事にさ。私は…そう感じるよ」

ネア「そうね……普通は緊張したりするもの。でも、ラキにはそれが全く無いわ」

カレン「ラキ君……」

カルア「カレン、見ていろ…」

カレン「速い…ルファの動きに付いて行けるなんて」

ネア「蹴ったり跳ねたり…あれが剣術なの?」

カレン「ルファの闘い方が独特なんだよ…でも、二人とも楽しそう…」


ールファ「うわっ!? 凄い凄い!!」ー


ネア「よくあんな奇抜な動き出来るわね…」

カレン「ラキ君、基本を覚えれば凄く強くなると思う」

カレン「そうだな、ああ言った類は見る者が見れば楽しいかも知れんが。動きが大き過ぎる……その為…」

ネア「あっ…ラキが勝った」

カレン「隙が生まれるんだよね」

カルア「全く……ルファの奴は遊び過ぎだ。ん?」

ネア「ふふっ、もう一度やるみたい」

……………

……

カルア「終わったか…私は修練場に入る、カレンとネアはどうする?」

ネア「私は場違いだから…此処から見てるわ」

カレン「私も場違いだから此処で

ペチンッ カレン「痛っ…何で叩くの?」

カルア「カレン…お前も騎士だろうが。
まあ良い…カレンは女王陛下の側に付いていろ」

カレン「はっ!! 了解しました!!」

カルア「良し。では、宜しく頼む」


………………

……

ネア「全く、急に真面目になるんだから…じゃあ、私も何かしようかな」

カレン「ラキ君におにぎり作ってあげたら? あんなに動いたらお腹空くと思うし」

ネア「え? うん…そうね、そうするわ。ありがとう、カレン」

カレン「いえいえ。じゃあ、ネアが厨房借りれる様に頼んでおくから」

老人「おや…ネアにカレン。久しぶりじゃな」

カレン「ファーガスさん!? 何故此処に?」

ネア「家の場所忘れたとかじゃないの? とうとうボケた?」

ファーガス「儂はまだ呆けとらんわい!! 全く、パルマの奴が儂の若い頃の話しなどネアに聞かせるから…」

ネア「小さい頃から無茶ばっかりで、怪我すると直ぐ私に泣きついて…好きな子に振られては泣」

ファーガス「わ、分かった分かった!! もうよい…パルマめ、覚えとれ…」


カレン「あははっ、流石のファーガスさんもパルマさんには適いませんね」

ファーガス「ふんっ、奴は幼い頃からちーっとも変わらんな!!」

ネア「って、パルマさんも言ってたわよ」

カレン「ぷっ…ふふっ…」

ファーガス「ぬぅ……あっ、そうじゃった。
儂は修練場に行くんじゃ、いかんいかん」

ネア「はいはい、行ってらっしゃい」

ファーガス「ネアよ…パルマに似ると結婚出来んぞ?」

カレン「あれ? ファーガスさんも独身ですよね?」

ファーガス「……では、さらばじゃ!!」

ダッ!! と、老人とは思えぬ速さで駆けていく…

ネア「言い返せなくて逃げたわね」

カレン「うん、逃げたね…」


ファーガス「全く…やれやれじゃ。さて、行くかの」

ガラッ…パタン…

ファーガス「ん?……ほぉ、面白い子が居るのぉ。剣と話しとるようじゃ」

ルファ「ファーガス爺さんだ!! どうしたの!?」

カルア「ファーガス殿…!! お久しぶりです」

ファーガス「うむ、ルファは相変わらず元気じゃな。カルアも元気そうで何よりじゃ」

カルア「しかし、何故此処へ?」

ファーガス「急に足が向いてな、理由は無い。じゃが来てみれば…あれじゃ……」

視線の先には、表情は変わらぬものの楽しそうに剣を振るう少年が居た。

ラキ「(もう少し力を抜いて…)」

斬り下ろしと同時、剣は即座に辿った軌道を戻り跳ね上がる…

そこから突きを放ち、一歩踏み込んで横凪。

拙い部分はあるが流れるままに剣を振るう。


ファーガス「あの子がルシアンの引き取った子か、名前は……なんじゃったかな?」

ルファ「ラキだよー」

ファーガス「そうじゃったな。どれ、折角会えたんじゃ、ドワーフの里長としてイザークの件の礼をせねばな」

ルファ「ラキ、ちょっと来てー!!」

ラキ「なに? あ、はじめまして…僕はラキ」

ファーガス「儂の名はファーガスじゃ、ドワーフの里長をやっとる。
イザークの件…里長として礼を言う、ありがとう」

ラキ「薬作ったのはネアだから。
それにガルトの父さんが剣を造ってくれたから、お礼はいい」

ファーガス「ほぉ、イザークが…」

ルファ「いいなぁ!! 私も頼んだら造ってくれるかな!?」

カルア「ルファ、お前の剣は特注品だ。欲張るな」

ルファ「カルアさんだって特注品に満足出来ずにイザークさんに…」

カルア「ん? なんだ?」

ルファ「何でもありません!!」

ラキ「なんでファーガスは此処に来たの? 散歩?」

ファーガス「ははっ、まあ…そんなもんじゃな」

カルア「ラキ、ファーガス殿はプロテア随一の騎士だったんだ。
ルシアン殿に剣術を教えたのはファーガス殿なんだぞ?」


ファーガス「ルシアンか……久しく会っとらんなぁ…挨拶くらい来いっちゅうんじゃ」

ラキ「……ファーガスはルシアンより強い?」


ファーガス「今でも儂が勝つ」


カルア「……ッ!!」

ただの言葉、声を張った訳でもない。

だがそれだけで空気がビリビリと震えるような威圧感。

それは先程までの温厚な老人から吹き出したとは思えぬ凄まじいものだった。

ファーガス「いかんいかん…年老いても抜け切らんなぁ」

カルア「(齢六十、老いて尚これ程の威圧感……この方は、やはり強い)」

ルファ「ファーガス爺さんは剣の話しになると怖いな?」

ファーガス「ルファよ、男なんぞ幾ら年老いても根は変わらんのだ。 
カルア、驚かせて済まんな」

カルア「いえ、『剣士・ファーガス』が健在で何よりです」

ファーガス「当代の剣士はルシアンじゃ、今の儂はドワーフの里長じゃよ」


ラキ「ファーガス」

ファーガス「ん? なんじゃ?」

ラキ「僕と勝負してください」

カルア「ラキ!? なにを…!?」

ファーガス「何故じゃ? 何故儂と?」

ラキ「ファーガスは強い、だから剣が見たい」

ファーガス「ふむ……
(探求心…話しを聞くに、あまり感情を出さぬ少年だと思っておったが……)」

ファーガス「どうやら…そうでもなさそうじゃな
(力への渇望かそれとも…それに瞳が綺麗過ぎる…少々、危ういな)」

少年が向ける眼差しは真っ直ぐだった。

その奥深くには何が宿り、何を欲しているのか…


ルファ「ん? ファーガス爺さん、どうしたの?」

カルア「ファーガス殿、申し訳ありません。ラキはま」

ファーガス「カルア、よい。ラキよ」

ラキ「なに?」

ファーガス「お主は礼はいらんと言った、だが何かしら礼はせねばなるまい。
お主のその願いを受け、それを礼としよう」

ラキ「ありがとう、ファーガス。
(ルシアンに剣を教えた人と闘えば強くなれるかな…)」


ールシアン『ラキ、いいか…強くなれ』ー


ラキ「(大切な物は、まだ分からないけど…)」

ファーガス「カルア、柔剣を…」

カルア「はっ!! これをお使い下さい」

ファーガス「久々じゃなぁ…では、ルファが試合開始の合図をしておくれ」

ルファ「うん、分かった!!」


カルア「(何故ファーガス殿は受けたのだ? 確かにラキには光る物があるが…素人に変わりは無い。
それに、後にも先にも教えを受けたのはルシアン殿のみ。
我々騎士も助言等はされた事はあっても試合した者など居ない、ファーガス殿の中で何が…)」


両者が距離を取る、先程のルファとラキの時の軽々しさは微塵も無い。

修練場は静まり、響くのは床の軋みだけ。

そして……


ルファ「始めっ!!!」

ファーガスの構えは柔剣を背後に隠したような右構え。

カルア「(居合い…)」

ラキは柔剣をだらりと構えたまま動かない。

ファーガス「ラキよ、来ぬのなら……儂から行くぞ」

スッ…

構えはそのままにラキに迫る、

バチィッ!!! ファーガス「(初見で此を止めるか…やはり才がある)」

ファーガスは誰もが届かない、そう思う場所から打ち抜いた。

ドワーフの長い腕だからこそ出来る居合い。

右側頭部を狙ったがラキは受け止めて見せた。


ラキ「(凄く速いし長い、入ってみよう)」

ダンッ!! とファーガス打ち終わりと同時に大きく踏み込み、

空いた鳩尾を突きに行く。


ファーガス「ふむ…」

身を捩り躱すと、柄頭をラキの頭上へ振り下ろす、


ラキ「(……?)」

一瞬ピクリと身体を震わせ、

即座にファーガスの右脇をすり抜け距離を取る。


ファーガス「(ほう、これも躱すか…感も良い。先が楽しみじゃな)」

カルア「(視界の外からの攻撃すら躱すのか!?
ラキ…それも『外界での日常』がもたらした物なのか?)」

ラキ「……………」

ファーガス「むっ…」

ラキは先程ファーガスが見せた構えを取る、

ファーガスからすれば挑発行為に見えなくもない。


ファーガス「(否…挑発などでは無い。此奴は本気じゃ…)」

ダン!! 踏み込みと共に打ち抜かれた柔剣は下から上への逆袈裟、

ファーガス「(鋭いが…)」

…届かない。


ファーガス「(此で終わりではないのじゃろう?)」

ラキは其処からもう一歩踏み込む。

空を切り、切っ先が天井を向いていた柔剣は描いた軌道を戻りファーガスの左肩へ、

ファーガス「(やはりな…ラキよ、剣が好きか!! 分かるぞ!!)」

バチィッ!! 狙いを予見していたファーガスは難なく防ぐ。


ラキ「(やっぱり止められた)」

ファーガス「(久々に面白い、ならば…)」

ズオッ!! ラキの顔面に向けて突きを放つ、

ラキ「……!!」

咄嗟に屈んで躱すが、

ファーガス「(ラキよ、こういうやり方もあるんじゃ)」

突き出された柔剣は戻る事無く、そのまま背中に振り下ろされ、

バチィッ!! ラキ「………」


ルファ「し、勝負ありっ!!」


ダンッ!!

カレン「なっ…ラキ!! 試合は終わりだ!! 止まれ!!」

だが、その声はラキには届かない…

ファーガス「(ルシアンに似とる…)」

ラキ「(少し違う、もっと…)」

踏み込みと共に再び居合いを放つ、狙いは右膝。

ファーガス「(懐かしいのぉ…ならば、此はどう防ぐ? 見せてみよ)」

ファーガスは一歩退くと同時に柔剣を振り下ろ…


ラキ「(こうかな)」


ファーガス「むっ!!」

ダンッ!!と、さらに一歩踏み込む。

右膝を狙ったラキの柔剣は突如軌道を変え跳ね上がり、

柔剣の切っ先がファーガスの胸をジリッと掠めた。


カルア「なっ…ファーガス殿に…」

ラキ「(今のはいい感じ)」

ルファ「すっげー!!! 剣がビョンッ!!ってなった!!」


ファーガス「(いかんいかん…思い出に浸ってしまった。
此では、またパルマに馬鹿にされてしまうわい)」


カルア「(右膝への居合い斬り、其処から剣を『両手持ち』に切り替え軌道を変えた…
躱すのを見込んでの連撃、剣を持ったばかりの者が出来る動きとは思えん)」


ファーガス「ラキよ、楽しいか?」

ラキ「楽しい。ファーガスは? 頭ごちゃごちゃしてるの?」

ファーガス「…いやはや、見抜かれるとは…ラキ、お主は強くなりたいのか?」

ラキ「ルシアンが強くなれって言った、後は剣を振るう者の意志とか言ってた」

ファーガス「ふむ…では、何故強くなりたい? 何故力を求める?」

ラキ「え……(何でだろう? まだ分かんない)」

ファーガス「おっ、隙在りじゃ」

ベチッ…… ラキ「あ…やられた」

ファーガス「ほっほ、儂の勝ちじゃな」

ルファ「えぇー!! ファーガス爺さんズルいよ!!」

ファーガス「勝ちは勝ちじゃ、柔剣でなければ死んどったぞ?」


ルファ「そうだけどさぁ…もっとズバッ!! って感じで勝って欲しかったなぁ…」

カルア「ルファ、今の試合はファーガス殿が先に取っただろう?
本来ならあれで勝負は終わっていたんだ」

ルファ「えぇー、でもつまん」

カルア「返事は?」

ルファ「はいっ!!」

カルア「ファーガス殿、ラキが失礼を…」

ファーガス「(入れおった。この儂に…真剣であれば掠めただけでは済まなかった。
ふふっ、面白い……)」

カルア「あの、ファーガス殿?」

ファーガス「ん? ああ気にせんで良い…ラキには才がある、感も良い…ルシアンを思い出す」

カルア「えっ? ルシアン殿とは型が違いますよ? ラキは流麗と言うか…」

ファーガス「いや、そうではない。瞳が似とるんじゃ…
プロテアでは戦など無い、剣術など意味は無いかも知れん。
じゃが、何時何が起こるか分からん。そんな『何か』を心配をする者は居らんじゃろうが…ルシアンは違った」


カルア「なにが違ったのですか?」

ファーガス「力への渇望…執着と言っても良いじゃろう。
あの子にも『それ』がある…だが、ラキは…無垢が故にルシアンより危うい」

カルア「…!! ならばこそ、ラキには師が必要では?」

ファーガス「いや、あの子に師は必要無いじゃろう…この柔剣、素人ならば軽いが故に強く振る。
結果、太刀筋が歪み・軸もぶれる筈…」

カルア「…確かに、私も初めはそうでした」

ファーガス「ラキは剣に教わっておるんじゃ、どう振れば? 握りは? 角度は? その全てをな…」

カルア「ですがラキの場合、剣術より精神面を」

ファーガス「焦るなカルア、人は早々には変わらんよ…
安心せい、ルシアンがおる。奴はいい加減じゃが物事を投げる奴では決してない」

カルア「そう…ですね」


ファーガス「病で前女王陛下が亡くなり…これから世代も代わる。
この先プロテアを守るのはセシリアを筆頭とした若者達。
その中にラキも居ればよいと…儂はそう思ったよ」

カルア「私は不安なのです。本来ならば世代交代は自然になされる筈…
ですが病により前女王陛下を始め、重要な役割を持った方々も亡くなりました。
私は役割を全う出来るのか…女王陛下を支える事が出来るのか…」

ファーガス「気負い過ぎるのはお主の悪い癖じゃ。今を見なさい」

カルア「ですが…」

ファーガス「ふむ…では、向こうを見てみなさい」

カルア「えっ?」

ルファ「ラキ、もっかい勝負しようよ!!」

ラキ「お腹空いたからいい」

ルファ「逃げんのかよー?」

ラキ「逃げてない。朝ご飯食べてないからお腹空いてる」

ルファ「えぇー、もう一回くらい良いじゃ」


ガラッ…パタン…


ネア「皆、疲れたでしょ? おにぎりとお茶持ってきたから食べて」


ラキ「あ、ネア。おはよう」

ネア「ラキ、おはよう。楽しかった?」

ラキ「うん、楽しかった。ネアが作ってくれたの?」

ネア「う、うん。でも…私、こういうの下手だか…

ラキ「いただきます」モグ

ネア「あっ、ラキ!?」

ラキ「うん、美味しいよ?」

ネア「そ、そう? 良かった…」

ルファ「むっ……」

ネア「ルファ? どうしたの?」

ルファ「何でもない…私も食べる!!」

ファーガス「はははっ!! ああやって生きるのが一番良いんじゃ。
ラキは一人ではない。それはカルア…お主もじゃ」

カルア「……!! はいっ…」


今日は此処で投下終了します。

見てくれている方、レスくれた方、

ありがとうございました!!


ーーーーーー

ーーー



ルシアン「また居ねえし…ま、どうせ城だろ。でもまあ、良く起きれたもんだな…」


ー昨夜ー

ルシアン「ぅん…便所いこ…ん? ラキ…何処行っ」

ヒュン…ヒュッ…

ルシアン「外からか…なんだ?」

ガチャッ…

ラキ「違う…もっと軽く」

ヒュッ!!

ラキ「こんな感じかな」

ルシアン「(あの剣、余程気に入ったんだな…あ、便所便所)」


………………

……

ルシアン「ま、カルアが付いてりゃ何とかなんだろ」

ドンドン!! ガチャ!!

ガルト「ラキは居るか!?」

ルシアン「うるせえっ!! 居ねえよ!!」

ガルト「悪い悪い!! ラキは何処行ったんだ!?」

ルシアン「うるせえっつってんだろ!! はぁ……城だと思うぜ?」

ガルト「そうか、入れ違いになると悪いし待つか…」

ルシアン「お前さ、何で普通に居座れんの?」

ガルト「ルシアンだってこの前家に泊まったろ? 別に良いじゃねえか、なっ!?」

ルシアン「分かった、分かったから静かにしてくれ」

ガルト「おうっ!!」

ルシアン「……………」


ーーーーーー

ーーー



ファーガス「ネア、握り飯美味かったぞ。ところでラキ、お主の剣を見せてくれんか?」

ラキ「うん、いいよ。はい」

ファーガス「ふむ……ちょっと下がっていなさい」

ラキ「分かった」

ファーガスは居合いの構えを取る…

ズズ…

カルア「うっ……
(凄まじい…まるで動くことすら禁じられた様な、そんな感覚……)」

ビョウッ!!!と、まるで刃圏に在る全てを斬り伏せるような居合い斬り。


ネア・ルファ『凄い・速ぇ…』

ファーガス「やはり……この剣は居合いに向いておる。
ラキよ、今は無理じゃろうが…いずれ此を自らの物とし、儂に見せてみよ」


ラキ「うん、分かった」

カルア「……では、私は各里を巡回して来る」

ルファ「カルアさん!! 巡回は私が行きます!!」

カルア「ん? 珍しいな…分かった、頼んだぞ?」

ルファ「はいっ!! じゃあ、ラキも一緒に行こう?」

ラキ「うん、いいよ。僕もエルフの里長に挨拶しに行くから」

ネア「なら私も行くわ…薬を完成させてから暇だし」

ルファ「ほう…」

ネア「何よ? 私が居たら悪いわけ?」

ルファ「べっつにー」

ネア「そう…ラキ、行きましょ?」

ラキ「うん、分かった」

ガラッ…パタン

ルファ「えっ!? あぁ…もうっ!!」

ガラッ!! バタン!!


ファーガス「青春じゃなあ…ウン」

カルア「ファーガス殿、何故…ラキにあそこまで?」

ファーガス「あの子の先が見たいだけじゃ。
それに、あの剣はイザークが儂の為に考案した剣でな…」

カルア「えっ!? ならば何故…ファーガス殿が持っていないのです?」

ファーガス「遅かったんじゃ…完成したのは儂が剣士を退いた後、受け取る事は出来なんだ…
今やあの時よりもかなり改善されとるがな」

カルア「そんな事が……あのですね、剣は美しいのですが少々頼りなく見えると言うか…
かなり前ですが、イザーク殿にその類の剣を勧められ断った者も居たようで…」

ファーガス「ふむ…物騒な例えになるが四・五人を重ねて寝かせる状態して試し斬りでもすれば…
間違い無く全員斬れる、それも刃こぼれ一切せずに」

カルア「なっ!?」

ファーガス「まあ簡単な話し、ルシアンの剣をあの形に凝縮したとでも思えばよい。
間違い無くイザークの最高傑作じゃな」

カルア「あの……今、欲しいとは?」

ファーガス「ははっ!! 確かに欲しい!! じゃがな…
こんな老いぼれが持つより、未来ある若者が持った方が剣も喜ぶじゃろ」


少し微妙ですがやはりこの辺にします。

ありがとうございました!!

ふむ


やっぱり強いジジイはかっこいいな
次も期待

>>198 ありがとうございます。見てる方が居ると分かっただけでも嬉しいです…ホントに。

>>199 自分も書いてて気分が良くなる人物です。ありがとうございます!!

また2・3日後には投下したいです。

見てる方、レスくれた方、

本当にありがとうございます。

後、新しい人物が出たら人物一覧みたいにした方が良いでしょうか?

個人的にはまとめるのはもっと増えたらでいいと思うけど
まぁでも>>1の好きなようにやってください
俺はwktkして待ってます

なんだなんだ、面白いじゃないか

待ってるよ

獣人の見た目ってのは、顔がまんま獣なわけじゃなく、ケモミミだったり獣毛が生えてたりする程度?


では、もう少し登場人物が揃ったら一覧にしてみます。

>>201 >>202 やっぱり、待ってる・面白いと言われると嬉しいもんですね……ありがとうございます!! 

>>203 そうですね、自分はそんなイメージで書いてます。可愛らしい感じです。
これはあくまで>>1のイメージですので、あまり気にせず見て下さい。

たぶんこれ

てかぐぐったら一発だったな

見てくれている方、レスくれる方がいて、とにかく嬉しいです。

ありがとうございます!!

投下します。


カレン「セシリア……此処に居たんだ」

セシリア「カレン…この花畑はお母さんが造った場所だから…」

カレン「そっか、綺麗だよね…」

セシリア「良く一緒に水やりしたり草毟りしたり…
ふふっ…懐かしいなあ……」

カレン「皆のお母さんみたいな人だったね…」

セシリア「ええ、皆に優しかった。お母さんも、お父さんも……」

カレン「そうだったね……」

セシリア「あ……」

風が吹いた…

柔らかく、ふわりと包み込むような……優しい風。


セシリア「(お母さん、私は……)」


彼女は女王、プロテアで唯一の存在。

だが同時に、まだ十七歳の娘でしかない。


セシリア「(もう私は両親に甘える事も、相談する事も出来ない。
でも辛いのは…親を亡くしたのは私だけじゃない。
だからこそ私は『女王』として、強く・気高く生きなければならない。
だけど分かんないよ……お母さん、お父さん、『女王』ってなに?)」


セシリア「…ふぅっ……あ、そう言えばファーガスさん来てたね」

カレン「セシリアも会ったんだ? でもファーガスさんって元気だよね? もう七十歳近いのに……」

セシリア「えっ!? ファーガスさんって六十歳じゃないの?」

カレン「ネアに聞いた話しによると、そう言い張ってるだけみたいだよ?
パルマさんが情報源だから間違いない」

セシリア「ふふっ、じゃあ間違いないわね。
ファーガスさん…変な所で意地張るんだから」

カレン「若者に舐められたくないとかなんとか…ファーガスさんって子供っぽいよね?」

セシリア「考え方がちょっとね? そんなの全然気にする必要ないのに…」


カレン「あ、あのね……セシリア、あんまり無理しちゃ駄目だよ?
姉さんもそういう所あるけど、一つの事に囚われると大切な事を忘れちゃうから…」

セシリア「…っ!! ねえ、カレン…」

カレン「どうしたの?」

セシリア「ありがとう…」

カレン「いいよ、友達だもん。辛いなら私が女王様になろっか?」

セシリア「ふふっ、カレンが女王様かぁ…カルアが苦労しそうだね?」

カレン「うっ……ずっと怒られてばかりは嫌だなあ。
『カレン!! 自覚が足りん!!』とか…」

セシリア「あははっ、似てる似てる!! あんまり笑わせないでよ、もうっ…」

カレン「ふふっ、ごめんごめん。
(私には姉さんみたいに仕事でセシリアの負担を軽くしたり出来ない。
だから…せめてセシリアがいつでも笑顔でいられるようにしたい。
『今は』それだけ出来れば良い……)」


ーーーーーー

ーーー



ルファ「何でネアまで来るんだよー」

ネア「今は暇だから。それにアンタ…エルフの里長の事知らないわけ?」

ルファ「ニコラさんだろ? そのくらい知ってるって」

ネア「そのニコラさんは私の叔母さんなの。母さんの妹ね」

ルファ「えっ!? そうなのか!?」

ネア「皆知ってるわよ…そんなだからカルアに怒られるのよ」

ルファ「うっ…」

ラキ「へぇ…ネアと似てる?」

ネア「いえ、似てないわ。少し変わってるし」

ルファ「ネアも変わってるよ?」


ネア「うっさいわね…ラキ、気を付けてね? その為に付いて来たんだから」

ラキ「分かった。気を付ける」

ルファ「ラキ、何かされちゃうのか?」

ネア「まあ…着けば分かるわ」

………………

……

ルファ「此処だよな?」

ネア「ええ……入りましょう」

ラキ「……(何に気を付ければ良いんだろう?)」

コンコンッ…

『はい、どうぞー』

ガチャ…パタン…

ネア「ニコラさん、久しぶり」

ニコラ「あら、ネアじゃない!! 薬の完成おめでとう…お疲れ様…」

ネア「うん…ありがとう」

ルファ「ニコラさん、こんにちは!!」

ニコラ「ルファちゃんも来てくれたの? 嬉しいわ」

ルファ「ニコラさん、もう『ちゃん』は止めてくれよ。私もネアと同い年なんだからさあ…」

ニコラ「可愛くて良いのに…あら? そっちの子は…」


ニコラ「可愛いっ!!」

ギュッ!! ラキ「…ネア、どうしよう」

ネア「ニコラさん!! ラキから離れて!!」

ニコラ「嫌だ!! 何この子…可愛すぎるわ…家で育てたい…」

ネア「ニコラ『叔母さん』…離れて」

ニコラ「あ? 『ニコラさん』だろ?」

ルファ「あっ、離れた…」

ラキ「……(避けれなかった…それに変な感じだ。
痛くないし温かかった…こんなの初めてだな)」

ネア「はぁ…他の二人には挨拶済んだみたいだから、エルフの里長にも挨拶しに来たのよ」

ニコラ「ラキ君、今日から家に住まない? ルシアンの所なんかより美味しい料理食べられるわよ?」

ネア「話し聞きなさいよ」

ラキ「いい、僕はルシアンの家好きだから」


ニコラ「そう…なら、仕方ないわね」

ネア「騎士の見てる前で縄なんか出さないで、捕まるわよ?」

ニコラ「…まあ良いわ。取り敢えずこっちへ来て座って頂戴、二人に話したい事もあるから」

ルファ「ネアの言う通り変わってんなー」

ネア「お茶に変な薬混ぜないでね」

ニコラ「混ぜないわよ。全く、ネアったら変なこと言わないで…」

ネア「目を見て言ってよ…不安になるから」

ラキ「(似てなくもない、気がする)」

…………………

……

ルファ「で、話ってなんだ?」

ニコラ「例の病で両親を亡くした子供が居るのは知ってるわね?」

ネア「ええ、知ってるわ。今は一時的に各里の集会所に身を寄せてるって話しね」

ルファ「カルアさんは孤児院を建てるって言ってたけど」

ラキ「(『親』お父さん、お母さんのこと…
僕には最初からいない、いないと困るのかな? 分かんないな)」


ニコラ「今は里長や皆が協力しているから大丈夫なのだけど。
でもね、住む場所や食事は問題じゃない…問題なのは子供達の心の方…
当たり前だけど塞ぎ込んでる子が多いわ」

ネア「……そうね。何か、出来れば良いんだけど…」

ルファ「何しても無駄だよ」

ネア「なっ…ルファ!! アンタ何言ってんの!?」

ルファ「優しくされても痛いだけだ…ネアだって分かるだろ!?
優しくされて傷付く子だって居るんだ!!」

ネア「…っ!!」

ニコラ「そうね、同情や憐れみは幼くても感じ取れる…それがルファちゃんの言う痛みなのでしょう。
でも誰かと触れ合う事で少しでも和らげる事が出来れば…と、私は考えているわ。勿論、他の里長達もね…」

ルファ「……………」

ネア「ニコラさん……何で、そんな話しを私達に?」

ニコラ「とても嫌な言い方になるけれど、同じ痛みを持つ者には心を開くかと思ったの…」

ルファ「ッ!! ぶざけんな!! 皆痛いんだ!! 苦しいんだ!!
お帰りを言ってくれる人も、お休みを言う人も居ない!!
そんな子達に、『辛かったね、私も同じだよ』なんて言えって言うのか!!」

ネア「ルファ!! 落ち着きなさい!! 『私達』にしか出来ない事もある、ニコラさんはそう言ってるだけよ!!」

ニコラ「ネア、ルファちゃん、ごめんなさい。
でもね、一切心を開かず食事も取らず、会話してくれない…そんな子も中には居るの…」

ルファ「……っ!!」


ラキ「それはなんで? なにが辛いの? ご飯も寝る場所もあるのに」

ルファ「…え……ラキ、なに言ってんだ?」

ネア「…………(ラキは外界では追われて逃げていたと言ってた……でも、親は…)」

ニコラ「ラキ君、何故『今の話し』を疑問に思うの?
ラキ君に父さん、母さんは…」

ラキ「僕にお母さんは最初から居なかったし、父さんは殺した。義理のお父さんだったけど」

ニコラ「………!!(この子は…)」

ネア「えっ?…殺……した?」

ルファ「…殺した…って、何…言ってんだよ…ラキ…」

ラキ「僕を殺そうとした、だから殺した。
親が居ないから辛いとか、ご飯を食べないとか僕には分からない。
その子達は死にたいから食べないの? なら死」

ネア「っ!!…ラキ…もう…やめて」

ルファ「(ラキ…何で、何でそんな顔で言えんだよ…)」

ラキ「ネア、ルファ? 悲しいの?」


ルファ「(親を亡くしたとか…そんなんじゃない。ラキは…ネアや私とは『違う』)」

ネア「大丈夫よ…ラキ、外で…待ってて…お願い…」

ラキ「うん、分かった」

ガチャ…パタン…

ネア「…私…ラキの事、何も知らなかったのね。
知ってたつもりになってただけだったんだ……」

ルファ「私もカルアさんからラキの事は聞いてた……
けど、ラキはもっと『深い』所に居る…そんな感じがする…」

ニコラ「あの子はきっと『親』と言う存在を最初から知らないのね……
私も大体の事情は聞いたのだけど、今話していた子供達とは『一人ぼっち』の意味が違い過ぎる。
外界は…そんなに酷い状況なのかしら…」

ネア「(どろどろ……『戦争』…か)」

ルファ「(ラキは…何を見て、生きてきたんだろう……)」

ニコラ「それはまず置いておきましょう…それと二人共、貴方達も辛いのに…本当にごめんなさい。
でも、このまま心を閉ざしたままでいる…そんな子供達は見ていられないわ」

ルファ「そう…だよな。怒鳴ったりしてごめん…」

ネア「時間…掛かりそうね…
(私は…ラキに何をしてあげられるのかな…?)」

ニコラ「確かに、ネアの言う通り時間が掛かりそうね……
(あの子達も、ラキ君もね……)」


ラキ「(ネア、痛くないのに悲しい顔してた。僕が何も知らないからかな…)」

ラキ「(そうだ、この前ネアと座った所に行こう…)」


………………

……

ラキ「あれ、誰だろう」

見知らぬエルフの少女が近付いてくる。

ラキよりも幼い、7・8歳くらいだろうか。

少女「……ラキ?」

ラキ「そうだよ、君は?」

少女「リズ」

ラキ「そう、リズは僕になにか用?」

リズ「ラキは外界から来たんだよね?」

ラキ「うん、そうだよ」

リズ「ラキは外界に家族いないの?」

ラキ「いない、最初からいなかった」

リズ「…そっか、リズにはいたけど…死んじゃったの」

ラキ「あの病気?」

リズ「そう、病気で死んだの…薬が出来る少し前に。
ネアが…早く薬を完成させてれば死ななかったのに」

ラキ「ネアは悪くない。掟を破ってまで薬を完成させたんだから」

リズ「そんなの、親がいないラキにはリズの気持ちなんて分かんないよっ!!」

ラキ「うん、分かんない。親が死んだからご飯食べないとか話さなくなるとか、リズもそうなの?」


リズ「っ!! うるさい!! リズが死んだって悲しんでくれる人はいないんだ!!
だから別にリズがご飯食べなくたって誰も…」

ラキ「そうだね、僕はリズが死んだって悲しくない」

リズ「……っ」

ラキ「でもリズは死にたい人の目をしてないよ? なんで?」

リズ「っ!!…うるさい!! じ、じゃあ、ここで死んでやるっ!!」

そう言って、何処に隠していたのか包丁を取り出し自らに突き付ける。

ラキ「リズ、やっぱり死んじゃダメだよ」

リズ「な、なに急に!! 目の前でリズに死なれると困るから!?」

ラキ「違う。ネアは、もう誰かが死ぬのは見たくないって言ってた。
だからリズに死なれるのは嫌だ」

リズ「ラキはおかしいよ…ラキはリズが死んでも良いのに、ネアがそう言ったからリズが死ぬのがイヤなの?」

ラキ「うん、そうだよ。僕は別に誰が死んでも嫌じゃない。
あ、でもネアとかルシアン…カルアにハンクとか他にも……皆が死ぬのは嫌だな。なんか分かんないけど」


リズ「っ…うぅっ…リズは、リズは一人ぼっちなんだ!! お父さんもお母さんも…もういない!!
だからっ、もういいっ!!」

そう叫び、リズは包丁を喉元へグッと引き寄せ…

ぼたぼたと血が地面へ滴り落ちる。


リズ「えっ…な、なんで…」

ラキ「リズ、やっぱりダメだよ。良く分かんないけど…リズが死ぬのは『僕も』見たくない」

だが刃から滴る血はリズの物ではなく、

刃を掴んだラキの手のひらからこぼれ落ちた物だった。


リズ「あっ…ご、ごめ…んな…さぃ…
(最初から止めるつもりだった。誰かに心配して欲しかっただけ…だったのに…)」

ラキ「謝らなくていいよ。もう止めてくれれば」

ラキの思い掛けない行動にリズは驚愕し包丁から手を離す、


リズ「うっ…ぅぁっ…」

そして、ラキの手のひらから流れ出る血を見て気を失い、

そのままふらりとラキにもたれ掛かった。

ラキ「リズ、大丈夫? お腹…空いてたのかな?」


………………

……

ルファ「劇とかどうだ? 小さい子だけだし何とか…」

ネア「それだと露骨過ぎない? 失敗したら目も当てられない状況になるわよ…」

ルファ「うっ……じゃあ、やっぱり炊き出しとか皆でご飯食べるのが一番良いかな…」

ニコラ「そうね。まあ、いずれ各里長と女王陛下で話すから案は沢山あった方が」

ガチャ…パタン…

ラキ「ネア、リズが倒れた」

ネア「はっ? なんでリズが…って、ラキ…服に血が…」

ルファ「しかも何で包丁…」

ニコラ「ラキ君、リズは其処に寝かせて。それと、何があったの?」

ラキ「リズがリズを刺そうとしたから止めた。血は僕のだから大丈夫」

ニコラ「…そう。ラキ君、何故リズを止めたの?」

ネア・ルファ「………!!」


ラキ「僕が嫌だったから。ん、やっぱり分かんない…でも、気付いたら包丁掴んでた」

ネア「(『僕が』って言った…ラキは自分の意志で止めたんだ……)」

ルファ「(『ラキは違う』、それは外界でずっと死に近い場所に居たからだと思ってたけど。
そんなんじゃなくて、ただ…知らないだけなんだ。自分がリズに向けた感情も自分の行動も……
ラキは真っ直ぐで…きっと優しい『心』を持ってる。そう、思いたい……)」

ニコラ「そう…ラキ君、ありがとう」

ラキ「………(頭がぐるぐるする、何で僕はリズを助けたのかな…死ぬ所を見るのが嫌だったから?
何で嫌だったんだろう…でも、リズがネアだったら僕は同じ事してた)」

ラキ「ぁっ…れ…」

バタン…

ネア「ちょっと、ラキ!! 大丈夫!?」

ルファ「ど、どうしたんだ? ち、血が出過ぎたのか?」

ニコラ「あら? 熱がある……もしかしたら知恵熱、じゃないかしら?」

ルファ「えっ? それってちっちゃい子がなるヤツだろ?」

ネア「ルファ、ラキはその『ちっちゃい子』と変わらないわ…きっと理解出来なかったのよ」

ニコラ「ラキ君、大丈夫?」

ラキ「うん、ちょっとぼーっとするけど…」


ニコラ「じゃあ、まず血が付いた服を着替えないとね。
そうね…うん…コレが良いわ(女の子用だけど)」

ルファ「(ラキ、可愛いな。本当に女の子みたいだ)」

ネア「わぁ…可愛いわね…」

ラキ「ネア、さっきのニコラと似てるね」

ネア「…へ!? ち、違う違う。そう…服、服が可愛いのよ…」

ニコラ「ふふっ、ネアも素直じゃないんだから…」

ネア「私はニコラさんとは違うから」

ルファ「ラキ、似合うな。すっごく可愛いぞ?」

ラキ「ありがとう。でもふりふりしてて変な感じ…」

ルファ「まあ女の子のだしなー」

リズ「うっ…ぅん…あっ…」

ラキ「おはよう、リズ。大丈夫?」

リズ「……なんで女の子の服着てるの?」


ラキ「血が付いたから着替えた」

リズ「ねえ…ラキ?」

ラキ「なに?」

リズ「お兄ちゃんって呼んで良い?」

ネア「なっ!? 起きて早々なに言ってんの!?」

ルファ「リズも変なヤツだなー」

ラキ「僕はリズのお兄ちゃんじゃないよ?」

リズ「リズを助けてくれた!! リズが死んじゃ嫌だって言った!!」

ラキ「あ、うん。言った」

ニコラ「(リズ…この子も先に話した子供達の中の一人なのだけど…ラキ君、何したのかしら?)」

リズ「お兄ちゃんになってくれたら……リズ、がんばるから…」

ネア「リズ、バッカじゃないの!? アンタ、人に迷惑掛けといてなに言っ

ラキ「お兄ちゃんにはなれないけど、呼ぶだけなら別に」

ネア「ちょっとラキ!?」


リズ「やったぁ!! ねえ、ラキお兄ちゃん?」

ラキ「なに? リズ」

リズ「えへへ…リズはね? もう一人ぼっちじゃないんだよ?」

ラキ「そっか、良かったね。リズ」

リズ「うんっ!!」

ネア「はあ…ラキの周りは変なのばっかりね…」

ルファ「ネアも変だけどなー」

ネア「ルファには言われたくないわ…」

ニコラ「ラキ君、急で悪いけどリズをルシアンの所に連れて行ってちょうだい」

ラキ「うん、分かった」

ニコラ「今から手紙を書くから少し待っててね…
(リズがあんな笑顔を見せるなんて…信じられないわ)」

ネア「ニコラさん、何を企んでるの?」

ニコラ「企んでなんかいないわ、最善だと思う事をするだけよ…」


ニコラ「じゃあ、お願いね?」

ラキ「うん、大丈夫」

リズ「ラキお兄ちゃん、早く行こう?」

ネア「はぁ…私も行くわ。帰り道一緒だし」

ルファ「なあ、ネア」

ネア「どうしたの?」

ルファ「今日…ネアの家に泊まって良いか?」

ネア「ルファ…ええ、勿論良いわよ。じゃあ、皆で行きましょ? ニコラさん、さっきの話し…宜しくね」

ニコラ「ええ、女王陛下及び各里長できちんと話し合うわ。何か案が決まれば協力してね?
ネアもルファちゃんも…出来ればラキ君もね…」

ネア「ええ、分かったわ」

ルファ「うん、絶対協力する」

ラキ「分かんないけど、分かった」

リズ「ラキお兄ちゃん、早く行こうよ?」

ニコラ「ふふっ、ありがとう。じゃあ、またね」

ネア「またね、ニコラさん」

ガチャ…パタン…

ニコラ「私やパルマさんが幾ら話し掛けても駄目だった。リズにはほんの少しの憐れみや同情すら敏感に感じ取る事が出来たんだわ……
ラキ君には私達と違って『それ』が無い、だからリズはラキ君に…」


短いですが今日は此処で投下終了します。すいません…

見てくれている方、レスくれた方、

ありがとうございました!!

何故か分かりませんが今日は、書き込み終了しました。ってなるのが遅かったです。

酉変えたのと関係あるんでしょうか? と言うか変える必要があったのか…

意見や感想があれば、どうぞ宜しくお願いします。

乙!
やっぱ面白い
次も期待してます


面白い。

おつ
だんだん人間らしくなってるけど外界の人みたいにはならないでほしいな

面白い

>>1です。

>>232 >>233 >>235 
嬉しいです…ありがとうございます!!

>>234 心の変化を表現出来ているか凄く不安でしたが、伝わってるみたいで良かったです。
彼は大丈夫です、そうはなりません。

今日は投下出来ませんが…近いうち投下します。


【人物紹介】

【ラキ】ー不明ー
ネアによってプロテアに連れて来られた正体不明の少年。
感情の発露が乏しく周りと噛み合っているのか、いないのか。
『初めて』救いの手を出してくれたネアには特別な感情を抱いている。
出会い、接した者には少なからず思う所がある様だが…
やはり『よく分からない』ようだ。

【セシリア】ーエルフの若き女王ー
両親共に病で亡くしている。『女王』であろうとして行き過ぎる事もある。
ネアとは親友で『セシリア』として頼りにしている。

【ネア】ーエルフの医師・薬師ー
両親共に病で亡くしている。セシリアとは親友で互いに支え合う。
蔓延する病を止める為、掟を破り外界の山林へ薬草を取りに行く。
其処でラキと出会いプロテアに連れてきた。
ラキが笑顔を向けた唯一の存在、膝枕とかした。

【カルア】ーエルフの騎士ー
カレンの姉・剣術の腕も良く、しっかり者だが考えが少々堅く考え込み易い。
女王、そしてセシリア自身を守ると誓う。

【カレン】ーエルフの騎士ー
カルアの妹・人当たりが良く、優しく柔らかな性格、若干……。
姉の様には出来ないが自分なりにセシリアを支えようとしている。

【ルシアン】ー不明ー
当代の剣士、ラキを引き取った。
剣士なのに色々言われる、ジーナには矢で射られ…ネアには玉を蹴られた。

【ガルト】ードワーフー
イザークの息子で鍛冶職人。ラキに気合いを教えた、本当にうるせえ。

【イザーク】ードワーフー
超一流鍛冶職人だが自分が認めた者にしか剣を造らない頑固者。ラキに命を救われた、結構うるさい。

【ハンク】ー獣人ー
ジーナの弟・姉の行く末を案じ、日々胃を痛める心優しき青年。主に結婚とか…

【ジーナ】ー獣人ー
ハンクの姉・気が強く、狩りが好き。
ルシアンの事が…でも素直になれなくて……矢を放つ。

【ライル】ー獣人ー
若き里長、病で両親を亡くすが父を継ぎ、里長として里に尽くす。ルシアンを馬鹿にしていたが、人の事は言えない。

【イネス】ー獣人ー
ライルを気に掛けており、お昼のお弁当は欠かさない。料理上手な女性。ライルが…

【ウォルト】ードワーフー
ルシアンの友達で大工さん、最近新築が少ないので困っている模様。

【パルマ】ーエルフ・医師ー
優しいお婆ちゃん。ファーガスとは幼い頃からの付き合いで、ファーガスの恥ずかしい過去を沢山知ってる。

【ルファ】ー獣人の騎士ー
カルアの一番弟子で活発な女の子。
ラキを気に入ったようだが、それと同時にラキの心も案じている。

【ファーガス】ードワーフー
現在は里長、お爺ちゃんだが先代の剣士でルシアンの師。
七十歳間近らしいが六十歳だと主張する永遠の六十代。
パルマお婆さんとは幼い頃からの付き合いで、弱み…その他諸々を握られている模様。

【ニコラ】ーエルフー
エルフの里長でルファのおばさん・ルファのお母さんの妹。
小さい子が……ルファも若干そこら辺似てるのかも知れない。
両親を失った子供達のこれからを気に掛けている。

【リズ】ーエルフー
両親を病で亡くした少女。
幼いながらに自分は誰にも必要されない存在なのだと考え至る。
一切の同情・憐れみを持たずに接したラキに『救われ』兄と慕っている。


【タリウス・故人】ーエルフの騎士ー
女王侮辱・障害・殺人未遂の罪によりルシアンに処刑される。
彼もまた、両親を亡くしていて酷く荒んでいた様である。


詰め込み過ぎて見辛いですかね…

今度人物紹介する時は二つに分けて投下します。

見てくれた方、レスくれた方、

ありがとうございました!!

いやいや特に見づらいとは感じなかったよ
投下楽しみにしてる

ニコラの紹介のネアがルファになってたから99点


なんて酷いミスを…申し訳ありません。

ー訂正ー

【ニコラ】ーエルフー
エルフの里長でネアのおばさん・ネアのお母さんの妹。
小さい子が……ネアも若干そこら辺似てるのかも知れない。
両親を失った子供達のこれからを気に掛けている。


>>239 ありがとうございます!!

>>240 全く気付きませんでした…助かりました、ありがとうございます!!

名前がしっかりあるせいか、誰が誰か一覧を見ててもピンとこない…


>>243 それは登場人物の顔や服装などが思い浮かばないと言うことですよね?

オリジナルな上に名前ありなので、そこは申し訳ないとしか言えません…

何かやりようがあれば良いのですが、すいません…

ああ!
なんか俺のせいで困らせてる。

単に普段この板で

エルフ騎士♂「つー」

勇者「かー」

みたいな名前の代わりに職業と種族、性別がついてるSSばかり読んでいたから……
名前と種族、職業をすべて一致させながら読むくせがなくて……

いや、本当に気を使わせてしまって申し訳ないです。

乏しい想像力も災いして、地の文が少ないSSの性質もあって、キャラが多いと、種族、性格、人物の相関関係、そして名前などが一致しないんです!

ちゃんと理解できるように読み直して来ます!
本当に申し訳ありませんでした

ああ!
なんか俺のせいで困らせてる。
種族の特徴はおおよそ把握してますが、普段この板で

エルフ騎士♂「つー」

勇者「かー」

みたいな名前の代わりに職業と種族、性別がついてるSSばかり読んでいたから……
名前と種族、職業をすべて一致させながら読むくせがなくて……

いや、本当に気を使わせてしまって申し訳ないです。

乏しい想像力も災いして、地の文が少ないSSの性質もあって、キャラが多いと、種族、性格、人物の相関関係、そして名前などが一致しないんです!

ちゃんと理解できるように読み直して来ます!
本当に申し訳ありませんでした


>>248 気にしないで下さい、自分でも気になっていた部分だったので…

勇者の物語や人気作のクロスなどがある中で名前付きオリジナルを書くのは正直かなり怖かったんですが、

こうして見てくれる人がいると分かっただけでも凄く嬉しいです。

ありがとうございます。

では投下します。


………………

……

リズ「ラキお兄ちゃん、手つないでいい?」

ラキ「うん、いいよ」

ルファ「お兄ちゃんって言うよりお姉ちゃんだな? 女の子の服着てるし」

ネア「ええ、そうね…って言うかリズ、アンタ反省してんの?」

リズ「……………」

ネア「へぇ…私は無視するんだ」

ラキ「リズ、なんでネアを無視するの?」

リズ「だって、ネアが薬作るの遅かったから……」

ネア「…………」

ラキ「リズ、ネアは薬作るために掟を破って結界を出たんだ。
本当なら処刑されてたんだよ?」

リズ「うん、知ってる。でも…」


ルファ「(リズの歳なら…そうだよな。ネアも…辛いな)」

ラキ「僕を助けてくれたのもネアなんだ。
リズを助けた僕を助けたんだから……えっと、僕より凄いんだよ?」

リズ「ラキお兄ちゃんの方が凄いもん」

ネア「はぁ…もう良いわ。でも、謝る事も出来ないリズを見たら…
ラキお兄ちゃんはどう思うのかしらね?」

リズ「くっ…」

ラキ「…リズ?」

ネア「あらリズ、どうしたの?」

ルファ「(ネア…そこまで謝らせたいのか。何か…ちっちゃいな…)」

リズ「…ネア・ルファ、心配かけてごめんなさい」

ルファ「気にすんな。でも、もう危ないことすんなよ?」

リズ「……うん」

ネア「仕方ないわね。ま、許してあげるわ」


リズ「…ばかネア」

ネア「はぁっ!? なんですって!?」

ラキ「リズ、ネアにそんな事言うのはダメだよ」

リズ「うっ…はい」

ルファ「ラキには素直だなー」

ネア「ふんっ、リズはダメな妹ね?」

リズ「ふんっ…ぺったんこのクセに」

ネア「なっ!? そこまでじゃないわよ!!」

ラキ「リズ、ぺったんこってなに?」

リズ「ひかえめで良い人のことだよ?」

ラキ「へえ…リズは物知りだね」


ネア「くっ、この小娘が…」

ルファ「(やっぱちっちゃいなー、しかも小娘って…)」

リズ「ラキお兄ちゃん、ネアがこわいかおしてるー」

ラキ「大丈夫、ネアは優しいから」

ネア「…!! ラキ…ありがと…」

リズ「むっ……ていっ」

ゲシッ!! とラキが見てないのを確認してネアに蹴りを入れるリズ…


ネア「痛っ…リズ、アンタねぇ…」

ルファ「はははっ!! 仲良いなー姉妹みたいだぞ?」

ネア「こんな妹はいらないわよ」

リズ「ダメな姉と出来た妹…」

ネア「…コイツ……」

ネアはネアで、ラキに見えないようにリズの二の腕をつねる…


リズ「痛っ…年上のくせに」

ネア「一回は一回よ…年上も年下も関係無いわ」

リズ「そんなだから、ぺったんこなんだね?」

ネア「ちょっと来い、白黒付けてやる」

リズ「あっ…引っぱんないでよ!!」

引き摺った先でネアとリズの幼稚な口論が始まった。


ルファ「行っちゃったな? なあ…ラキ、あのさ」

ラキ「なに?」

ルファ「あの、上手く言えないけどさ……私はラキのこと好きだ。
だから、ラキがあんまり死ぬとか殺す…とか嫌なんだ。
それに、ラキが怪我したりすんのは見たくない…無茶しちゃダメだぞ?」

ラキ「そっか、分かった。僕もルファが痛くなったり死んだりしたら……嫌だから。
あと、僕もルファが好きだよ。ルファは…うん、あったかい感じがするから」


ネアに向けた笑顔とは別の、優しく穏やかな微笑み…

それはルファの心に安らぎを与え…ふわりと溶け込んでいった。


ルファ「……!! うんっ!! ありがとな!!」

ラキ「(ニコラの時と似てる。
なんか胸の中が変な感じだけど…嫌じゃないな)」


ネア「ふう…待たせたわね。行きましょ?」

ラキ「うん、分かった」

リズ「うぅ…ぐりぐりされて頭痛い」

ルファ「あははっ!! じゃあ行くかー
(ラキは気付いてんのかな? さっきのラキはすっごく優しい顔してたんだ。
それに、ラキの笑顔も…私には『あったかい』んだよ?)」

………………

……


ネア「じゃあルファと私は此処で。じゃあ、またね」

ルファ「ラキ・リズ、またなー」

ラキ「うん、またね」

リズ「ルファ、ばいばい」

ネア「リズ…アンタ、またやられたいの?」

リズ「ばいばいバカ…ネア」

ネア「……ラキ」

ラキ「なに?」

ネア「今度、城に行くときは一緒に行きましょ?」

ラキ「うん、分かった」

リズ「…ラキお兄ちゃん、リズも行きたい」

ラキ「うん、いいよ」

ネア・リズ「………」

ルファ「ははっ、もう仲良しだなー」


………………

……

ルファ「お邪魔しまーす」

ネア「いらっしゃい、ルファ。もうすぐ日も落ちるし、ご飯にする?」

ルファ「私が作るよ、泊めて貰うんだしさ」

ネア「え!? ルファって料理出来るの!?」

ルファ「まあなー、母さんの料理手伝ったりしてたから…」

ネア「……ルファ、ニコラさんだって子供達を思って…」

ルファ「大丈夫…分かってる。でも…やっぱり寂しいんだ…家に帰っ…てもだれもっいな…くて」


ただ、あふれる……親を亡くした子の悲しみと寂しさ、

取り戻すことの出来ない日々が蘇っては消え…その繰り返し。

誰も悪くはない。

病…それは平等に、皆に訪れ…死を与えた。

それは、ルファの両親にも……


ルファ「グスッ…ごめんな? ネアだって…父さん・母さん亡くしたのに……」


すっ…と抱き寄せネアがつぶやく…


ネア「いいのよ、泣きたい時は…泣いた方がいいわ」

ルファ「うっ…ヒッグ…うっ…うぁぁぁっ!!」

ネア「(ルファ、ごめんね…私がもっと早く薬を完成させていれば…
いえ、これじゃダメね…過去ではなく今を…前を見ないと。
それにルファは、誰にも涙を見せられなかった…騎士として、守る立場の者として…)」

ルファ「グスッ…ぅっ…もう、大丈夫…」


ネア「ルファ、アンタは強いわね」

ルファ「泣き虫なのにか?」

ネア「セシリアも私も泣いたわ…何度もね」

ルファ「女王様も…?」

ネア「ええ、でも此でセシリアもルファも私も…三人共泣いた…
だから今度は…三人一緒に『笑いましょう』?」

ルファ「……!! うん…ネアも強いな」

ネア「皆で強くならないとね。病の脅威は去ったけれど、リズのような子供達もいる…」

ルファ「うん…そっか、そうだよな!!
んじゃ!! 沢山泣いたし、ご飯作るか!!」

ネア「…!! ええ、そうね
(ルファ…やっぱアンタは強いわよ)」


…………………

……

ガチャ…パタン…

ラキ「ルシアン、『ただいま』 あっ、ガルトだ」

ガルト「おうっ、おかえり!! 久しぶりだなラキ!!」

ルシアン「…『おかえり』やっと帰って来たな。ん? ラキ……何で女の服着てんだ?
それに後ろに居んのは誰だ?」

ラキ「この子はリズだよ? 服は血が付いたから着替えた。
あと、ニコラからルシアンに手紙」

ルシアン「血? …まあいい。
へぇ…リズか、良く懐いたな…それよりニコラから手紙? 面倒な事じゃねえだろうな…」

ガルト「なんて書いてるんだ?」

ルシアン「…………リズを預かって下さい。」

リズ「わあっ…一緒に住めるんだ。
ラキお兄ちゃんが本当のお兄ちゃんになるんだ…」

ルシアン「ちょっ!! 待て待て待て!! いきなり過ぎんだろ!?」


ガルト「別にいいだろ? ずっと家で寝てるだけなんだから」

ルシアン「はぁ…リズ、お前は良いのかよ?」

リズ「ラキお兄ちゃんと一緒ならいいっ!!」

ガルト「ラキに妹が出来たのか!! めでたいな!!」

ルシアン「うるせえ!! オレには全くめでたくねえよ!! ああ…なんでだよぉ…」

ガルト「『集会所に居て私達が世話をするより、
ラキ君と居た方がリズには良いと判断しました。』って書いてあるぞ?」

ルシアン「随分勝手な判断だな……で、あとは…?」

ガルト「『ラキ君に感情の授業を受けさせて下さい。先生はルシアン、もちろん貴方です。』だってよ」

ルシアン「はぁっ!? 何だそりゃ……ったく仕方ねえな。分かったよ…」

ラキ「リズも此処に住むの?」

ルシアン「…ああ、断ったらニコラに何されるか分かんねえ」


リズ「やったー!!」

ラキ「じゃあ、これからよろしく。リズ」

リズ「うんっ」

ルシアン「(ニコラにすらどうにも出来なかったリズが…何でラキに懐いてんだ?
そのリズがあんなに笑ってる。まあ…聞けば良いか……)」

ガルト「ラキ!!」

ラキ「なに?」

ガルト「家に来てくれ!! 親父がその剣の感想聞きてえってさ!!」

ラキ「うん、分かった」

リズ「私も」

ルシアン「リズには聞きたい事がある。残れ」

リズ「……うん」

ラキ「じゃあ、行ってきます」


ルシアン「おうっ、行ってこい。ガルト、頼むぞ?」

ガルト「任せろ!! 早めに帰すからよ!!」

ルシアン「うるせえ、早く行け」

ガルト「んじゃ、ルシアン、リズもまたな!!」

ガチャ…バタン…


ルシアン「……リズ、ラキと何があった?」

リズ「心配して欲しくて…集会所の台所からほうちょう持って…」

ルシアン「そんで?」

リズ「ニコラさんのお家に行く途中でラキお兄ちゃんと会ったの…」

ルシアン「…………」

リズ「みんなはリズのことなぐさめたり、かわいそうな顔するのにラキお兄ちゃんは違ったんだ…」


ルシアン「ラキが女の服着てんのは?」

リズ「…ほうちょうで…リズがリズを刺すふりしようとしたら、ラキお兄ちゃんが掴んで止めたの…」

ルシアン「そうか、じゃあ最後の質問だ…何でラキなんだ?」

リズ「ほかの人とはリズを見るときの顔とかが違うから。
ラキお兄ちゃんは『リズだけ』を見てくれる…だから好き。
それにリズが死んじゃいやだ…って『本当に』言ってくれたから」

ルシアン「そうか…まあ、過ぎた事だしな…色々聞いて悪かった。
これから一緒に暮らすんだ、よろしくな…リズ」

リズ「ルシアンはいらないのに…」

ルシアン「てめえ……さっきのしおらしい態度は何だったんだよ。
はぁっ…ラキが帰って来る前に飯でも作るか」

リズ「リズが作るからいい」

ルシアン「おっ? 料理出来んのか、すげぇな…じゃあ頼むわ」


リズ「ラキお兄ちゃんにはリズが作るから、ルシアンのはルシアンが作って」

ルシアン「…へぇ……じゃあ、ラキお兄ちゃんに教えてあげないとな?」

リズ「ルシアンのも作る」

ルシアン「最初からそうしろよ。
つーか何でお前はそんな嫌な顔出来んだよ……オレの家なんだから少しは

リズ「気がちるから話しかけないで」

ルシアン「もう出て行けよ、お前…」

リズ「…はぁっ……まったく…」

ルシアン「何でお前が呆れてんだよ!!」

リズ「ルシアンのうつわ? がちっちゃいからだよ?」

ルシアン「こっ…このガキっ…!!」

リズ「うるさい、あっち行ってて」

ルシアン「…うっ……はいはい、分かったよ」

リズ「『はい』は一回でしょ」

ルシアン「……はい」


………………

……

ガルト「親父!! 連れてきたぜ!!」

イザーク「おお!! 久しぶりだな、ラキ!!」

ラキ「うん、久しぶり」

イザーク「ん? 何で女の服着てんだ? おい、ガルト」

ガルト「なんだ?」

イザーク「お前の小せえ頃の服着せてやれ…
ニコラみてえな奴に見つかったら連れてかれちまう」

ガルト「そうだな…」

……………

……

ラキ「ガルト、ありがとう」

ガルト「おうっ!! やっぱこっちのが良いな!!」

イザーク「ところでラキ、身体は大丈夫か? タリウスに斬られたって聞いたが…」

ラキ「うん、僕は大丈夫。イザークは大丈夫?」


イザーク「ああ大丈夫だ!! ラキ、お前のお陰だ。ありがとな…」

ガルト「ラキ…親父を助けてくれて本当にありがとな…」

ラキ「……(『ありがとう』、言われると何か不思議な感じ)」

イザーク「ん? どうした?」

ラキ「…イザークに剣を造って貰ったから、僕もありがとう」

イザーク「ラキ、あのな…その剣は……どうだ?」

ガルト「(親父…やっぱ不安だったのか)」

ラキ「凄く気に入った、昨日の夜も振った。あと、ファーガスに居合い教えて貰った」

イザーク「そうか、そりゃ良かった!! ん、ちょっと待て!? ファーガスさんが何だって!?」

ラキ「今日、修練場でこの剣を使って居合いを見せて貰った。
ファーガスが『やはり居合いに向いとる』って言ってた」

イザーク「…!! ファーガスさんっ……ありがてえ…」


ラキ「イザーク、悲しいの?」

イザーク「いや、嬉しいのさ。ラキ、その剣はな…元々ファーガスさんの為に造り始めたんだ。
居合いを最大限に活かせる剣が欲しい…って頼まれてな。もう、何十年も前の話しだ…
でもな…結局ファーガスさんが現役の時に渡す事は叶わなかった」

ガルト「(だからあんなに熱が入ってたのか…オレが小せえ頃から造ってたからな。
直接じゃないにしても『渡せて』嬉しいんだろうな)」

ラキ「へぇ…あと、ファーガスから『これを我が物としいつか儂に見せてみよ』って言われた」

イザーク「…!! そうか……いいかラキ、その剣にはオレの魂とファーガスさんの意志が詰まってる。
お前は継いだんだ…迷惑かも知れねえが、頼むぜ?」

ラキ「継いだ? それはどうすればいいの?」

イザーク「そうだな…誰よりも強く・誰よりも優しい奴になれ」

ラキ「…うん、分かった。一番強くなって一番優しくなる」

ガルト「ラキ…お前、親父が言ってること分かんのか?」

ラキ「今は分かんない。でも、自分で見つけて約束は守る」


イザーク「……!! ガハハッ、ガルト!! オレの目に狂いは無かったぞ!!」

ガルト「ああ、良かったな…親父」

イザーク「ああ…今日は鍛冶職人になって最高の日だ……」


鍛冶職人は…笑いながら涙した。

たった一人の者の為に造り始めた剣……

その剣は約束から何十年の時を経て完成した。

だがそれは本人に渡す事は叶わず、更に時が経った。


そして、『今』


外界からやって来た少年の手に、



否…自分を救った男の手に、確かに受け継がれたのだ。


今日は此処で投下終了します。

見てくれてる方、レスくれた方、

ありがとうございました!!

乙乙!


>>274・275・276・277

沢山の乙をありがとうございます!!

また2・3日中に投下しますので、よろしくお願いします。


………………

……

セシリア「…ファーガスさんがそんな事を……」

カレン「ラキ君、凄いね…ファーガスさんにそこまで言って貰えるなんて」

カルア「そこで一つ提案がある」

セシリア「…? どうしたの?」

カルア「まだ早過ぎるかも知れないが、ラキを騎士候補に推薦したいと思う。
勿論、女王陛下と保護者であるルシアン殿。
何よりラキの了承を得られればの話しだが…」

カレン「えっ!? 姉さん、急にどうしたの?」

セシリア「訳を聞かせてもらえる?」

カルア「ラキには言葉より剣を通して学ばせた方が良い…今日のラキを見て、私はそう思った。
相手の剣から信念や意志、そういった物をラキは感じ取れる。
それが怒りや憎しみ…或いは強さを求める純粋な意志であっても……」


カレン「剣を通して相手の意志を感じ取る?」

カルア「そうだ。ルファとの試合時、表情は変わらないものの打ち合いを楽しんでいた。
対して、ファーガス殿との試合時は貪欲…あの方を前にして居合いを試みる程にな」

カレン「ラ、ラキ君、凄い度胸だね…私は無理だ……」

セシリア「では、ラキは相手の技や剣に宿る相手の『何か』を感じ取れると言うの?」

カルア「私はそう感じた。決定的だったのはファーガス殿の迷い…と言うか何と言うか……
兎に角、ラキがそれを指摘した時だ。
ラキは対峙した者の剣を通して心の機微を読み取る事すら出来るのではないか……そう思った」

カレン「なんか…もう達人みたいだね」

カルア「今の話しだけを聞けばな…」

カレン「どういうこと?」


セシリア「カルアはラキの精神面を心配しているのね?」

カルア「ああ……私はラキの剣の『向かう先』がファーガス殿と同じく楽しみでもある…
だが同時に、先に話したラキの『力への渇望』に関しては危うさを感じる…だから今の内に」

カレン「あのね…姉さん」

カルア「なんだ?」

カレン「ラキ君は大丈夫だよ。私達はその手助けをするだけで良いと思う…
だから…無理に型にはめる様なやり方は違う気がする」

カルア「……!! だが…」

セシリア「カルア、『力』だけを見ては駄目よ。ラキ自身を…あの子の心を見なければ」

カルア「っ!! セシリア…そうだな。その通りだ…済まない」

カレン「『ファーガス殿に気負い過ぎと言われた』ってさっき自分で言ってたのに…」

カルア「うっ…コレはもう癖と言うか……」


セシリア「カルア…思慮深いのは良いことだけれど、一人で考え込まずに話してね?
一つの事に囚われると大事なことを見失ってしまうから…」

カルア「……!! セシリア、ありがとう」

セシリア「って私もカレンに言われたから。ねっ? カレン」

カルア「なっ…!! カレンが言ったのか!?」

カレン「えへへ…」

カルア「だがその通りだ…もう少し視野を広げて生きねば…」

セシリア「でもね、カルア」

カルア「ん? どうした?」

セシリア「私もラキに騎士になって欲しいとは思うわ。
男性の騎士達全てでは無いけれど、タリウスの様な者が居たのは事実…
新しい何かが必要だとは思っていたの」

カレン「それが…ラキ君?」

セシリア「ええ、外界から来た者が騎士になる、などとなれば少なからず反発はあるでしょう…
けれど、ラキにはカルアやファーガスさんが言った様に可能性に満ち溢れている。
其処に賭けてみたい、これは女王としての考えでもあるわ」

カルア「なるほど…」

セシリア「でもね? ラキには沢山の者と触れ合って大事な何かを見つけて欲しい。
そして、ラキが求めラキが望む強さもね…」


カレン「やっぱりセシリアは女王様だね!! 格好良いい!!」

ペシッ… カレン「姉さん、痛いよ…」

カルア「女王陛下なのだから当たり前だ。何を言っているんだお前は…」

セシリア「カルア・カレン。恥ずかしいから止めて…」

カレン「あははっ、ごめんね?」

セシリア「まったく…もうっ…」

カルア「(自身が求め、自身の望む強さか…)」

カルア「私も見つけなければ…」

カレン「姉さんどうしたの?」

カルア「カレン…お前は少し考え過ぎろ」

カレン「えっ!? 私はコレでも結構…」

セシリア「ふふっ、二人はそのままが一番よ? 無理して変わる必要はないわ」

カレン「セシリア、ありがとう!!」

ギュウッ… セシリア「ふふっ、はいはい…」

カルア「カレン、あまり引っ付くな」

セシリア「(私は…私は私の目指す『女王』になければならない…
私はお母さんにはなれない、兄さんも……)」


…………………

……

パルマ「ファーガス、久々に来たと思ったら…また剣の話し?
剣士を退いて里長になっても相変わらず剣術馬鹿なのね…」

ファーガス「ふん、何とでも言え…」

パルマ「坊やはそんなにルシアンに似ていたの?」

ファーガス「…ああ、懐かしかった。
己の目指す強さが分からず、悩みながらも剣を振る姿……被って見えた」

パルマ「坊やはルシアンでは無いわよ?」

ファーガス「分かっとる。それに…」

パルマ「どうしたの?」

ファーガス「イザークが儂の為に造った剣をラキが持っとる…そこに何か運命を感じる。
それもあって期待せずにはいられんのだ」

パルマ「はぁ…六十過ぎてもこんな話しばかり。本当にあなたは変わらないわね」

ファーガス「ふん、そう言いながら茶菓子を出すお前も全く変わっとらんわ」


パルマ「はいはい…それ食べたら帰りなさいよ?
日も暮れるし、田んぼに落ちないように気を付けなさいよ?」

ファーガス「落ちんわ!! 全く、お前がネアに余計な事を吹き込むから儂は

パルマ「血圧上がるわよ?」

ファーガス「ぐっ…兎に角、あまり子供達に余計な事を教えるのは止せ」

パルマ「みんな笑ってるのだから良いじゃない」

ファーガス「それが嫌なんじゃ!!」

パルマ「はいはい、分かりました」

ファーガス「大体お前は幼い頃から………」

パルマ「(ふふっ…ファーガス、あなたは本当に変わらないわね…
カルアや一部の騎士には、今でも剣士ファーガスなんて呼ばれているけれど、あなたは本当にあなたのまま…)」

ファーガス「パルマ、聞いとんのか!?」

パルマ「はいはい、聞いてますよ」


………………

……

ラキ「ルシアン・リズ、ただいま」

リズ「ラキお兄ちゃんおかえり!! リズ、ご飯作ったから食べて?」

ラキ「えらいね、リズ」

リズ「えへへ…ほめられたー」

ルシアン「……おかえり」

ラキ「ルシアン、どうしたの?」

ルシアン「いや…娘を持つ父親はこんなものかと考えてただけだ」

ラキ「娘? リズのこと?」

リズ「ルシアンはけっこんできないから大丈夫だよ?」

ルシアン「うるせえ!! オレだっていずれはだな…」

リズ「ラキお兄ちゃん、ご飯食べよ?」

ラキ「うん、分かった」


ルシアン「リズ…やっぱ出て行け」

リズ「剣士なのにちっちゃいね。あっ、だからおよめさん来ないんだ」

ルシアン「…なあ、ラキ」

ラキ「なに?」

ルシアン「手、大丈夫か? 痛まないか?」

リズ「……っ!!」

ラキ「うん、大丈夫」

ルシアン「そうか…良かった。
でも、ばい菌が入ってるかも分からない、明日パルマ婆さんに見て貰おうな?」


チラリとリズを見る…

小さい大人の小さい復讐である。


リズ「くっ…!!」

ルシアン「いや、リズは気にしなくて良いんだぞ?
もう家族なんだ………過ぎた事はいいさ」


リズ「ルシアン…」

ルシアン「ん? どうしたんだい、リズ?」

リズ「……ごめんなさい」

ルシアン「あれ? 急にどうしたのかな?」

リズ「うっ…グスッ…ヒッグ…うぅ…」

ルシアン「けっ、どうせウソ泣きだろ」

ラキ「リズ、どうしたの?」

リズ「グスッ…」スッ

ルシアン「ちょっ!! 待て待て!! 何で包丁持つんだよ!?」

ラキ「まだ料理終わってなかったのかな」

ルシアン「違うわ!! あれは完全に殺る時の目だろうが!!」



こうして、ルシアン家の夜は更けていく……


ラキ・リズ「くぅ…ぅん…すぅ…」

ルシアン「(この家も随分賑やかになったもんだ。『家族』か……
親父はどうだったんだろうな…今のオレと同じ気分だったのか?
なあ親父…オレは強くなったか? あの時より、強く……)」

ーーーーーー

ーーー



【二十数年前】


騎士「ファーガスさん」

ファーガス「ミルズか、どうした?」

ミルズ「あの…不思議な話しなんですが」

ファーガス「どうした? らしくないな…はっきり言ってみろ」

ミルズ「赤子を拾いました。ですが、どうやら人間のようで…」

ファーガス「なんだと? まさか結界から出たのか!?」

ミルズ「違いますよ!! エルフの里近くの山林からおかしな泣き声がすると言うので行ったんですが」

ファーガス「泣き声の主がその赤子だったと?」

ミルズ「ええ、その通りです。今は一応オレの家に…」

ファーガス「人間の赤子がプロテアに…前代未聞だな。
直ぐに女王陛下に伝えなければ」

ミルズ「オレが行ってきます!!」

若きエルフの騎士は、謁見の間へと全力で走り出す。


ファーガス「待てっ!! ミルズ!! くっ…行ってしまったか。
あの馬鹿者、王女アメリア様との婚姻前だと言うのに…」






       【ルシアン・過去編】



短いですが今日は此処で終了します。申し訳無いです。

本来は翌日に移る予定だったんですが、やってしまいました。

自然に導入出来ているか不安で仕方無い…

感想などあれば、ぜひ宜しくお願いします。

見てくれてる方、レスくれた方、ありがとうございました!!

おつ

乙乙
やはりルシアン人間だったのか
インフルエンザで寝てるけど楽しみにしてる

乙でした。

やはりルシアンは人間か


>>296 >>297 >>299 >>300

ありがとうございます!!

今年のインフルエンザは熱とかではなく、吐き気とか内臓系? が酷いらしいですね…

うがい手洗いをしっかりして気を付けて下さい。



ニコラ「ミルズお兄ちゃん!!」

ミルズ「ん? ニコラか、何かあったのか?」

ニコラ「あのね、エルフの里近くの林から変な鳴き声が聞こえるの…」

ミルズ「鳴き声? 誰か見に行ったか?」

ニコラ「ううん…怖くて誰も行ってない」

ミルズ「良かった…じゃあオレが今から見に行く。
ニコラは里の皆に伝えてくれるかい?」

ニコラ「うん、分かった!!」


ミルズ「鳴き声…獣か何かか? まあ、行けば分かるか」


【エルフの里近辺・林】


ォギャア…ォギャア…

ミルズ「確かに不気味ではあるな」

オギァア…オギァア…

ミルズ「ん…? この『泣き声』まさか!!」


赤ん坊「おぎゃあ!! おぎゃあ!!」

其処に居たのは獣などでは無く、

毛布すら掛けられていない…裸の赤子だった。


ミルズ「もう大丈夫だ。寒かったな…」

赤子を抱き上げ、上着で包む。


ミルズ「一体誰が…ん?」

その赤子には本来あるべき物が無かった。

尻尾も、日に焼けた様な肌も、尖った耳も…


ミルズ「まさか…『人間』なのか?」

赤ん坊「たぁっ…キャッキャッ!!」

ミルズ「笑ってる…まあ、取り敢えず家に連れて行こう」

………………

……

「おぎゃあ!! おぎゃあ!!」

ミルズ「ああっ!! 分かった分かった!!」

「たぁぃ!! うぅっ!!」

ミルズ「抱くと泣き止む。降ろすと…」


「ぅぅっ…おぎゃあ!! おぎゃあ!!」

ミルズ「泣き出す…抱き上げると」

「たぁぃ!! キャッキャッ…」

ミルズ「ご機嫌だな……お前」

「たぁた!! たぁっ!!」

ミルズ「城に、まずはファーガスさんに報告しよう。
ちょっと待ってろ…必ず戻る。だから泣くなよ?」

「ぅっ…ぅ…ぅぅっ」

ミルズ「よし、偉いぞ? すぐ戻るからな」

「たぁぃ!!」

ミルズ「よし、行ってくる」


【謁見の間】


ミルズ「報告は以上です。マルセラ女王陛下」

マルセラ「では現在、私とファーガス以外は知らないのね?」

ミルズ「ええ、話しておりません」

マルセラ「これはどういう事なのかしら…」

ミルズ「…と、言いますと?」

マルセラ「どの種族にも属さない…となれば人間以外に有り得ない。
けれどプロテアに人間は入れない…それは現在に至る数千数百年で証明されている。
その赤子は一体『何』なのか…」

ミルズ「確かに、女王陛下はどうお考えですか?」

マルセラ「種族云々は兎も角として、速やかに外界に出すべきでしょうね」

ミルズ「ですが、まだ赤子です…
プロテアの民として生きる事も可能ではないでしょうか?」


マルセラ「では誰が育てるのです?
そして、民はその赤子をどう『見る』でしょう?
時が経ち、その赤子が成長した時…周囲との違いに耐えられるかしら?」


ミルズ「ならば、オレが育てます」


マルセラ「ミルズ、貴方は自分で何を言っているのか分かっているのですか?
我が娘、アメリアとの結婚はどうするつもり?」

ミルズ「一つの命を終わらせて得た幸せなど…オレには耐えられません」

マルセラ「アメリアの気持ちは考えているのかしら?」

ミルズ「彼女は赤子を外界へ棄てた男を愛する様な…そんな女性ではありません」

マルセラ「……では、その事実を伏せれば良いでしょう?」


ミルズ「オレはあの子の笑顔を見てしまった。
あの子を外界に棄て彼女に事実を伏せても、いつか子を授かり…
我が子の笑顔を見た時、あの子の笑顔が必ず頭をよぎるでしょう。
それに、彼女には隠し事を一切しないと決めています」

マルセラ「……アメリア、入りなさい」

ミルズ「え…?」

ガチャ…パタン…

アメリア「母様…趣味が悪過ぎます。
こんな…ミルズを試すような真似をするなんて」

マルセラ「その割に顔はにやけているけれど」

アメリア「母様、ふざけないで」

ミルズ「女王陛下、これはどういう事でしょうか?」


マルセラ「どの種族でも無いけれど尊い命に変わりは無い…
命を軽んじる様な者との結婚など許す事は出来ない。
かなり意地の悪いやり方ですが此の機に試させて貰いました」

アメリア「ミルズ、ごめんなさい…」

ミルズ「アメリア、オレは気にしてないよ」

アメリア「母様…結婚は」

マルセラ「結婚は認めます」

アメリア「(はあ…良かった…)」

マルセラ「ですが、条件があります」

ミルズ「…条件とは何でしょう?」

マルセラ「城内の者に育児を任せる事は勿論、
住居その他全て貴方達で用意しなさい、私は一切援助しません。
そして貴方達だけでその赤子を、そうですね……七つまで育て皆に示しなさい。
それまでは子を成す事、城に住む事は許しません。
これを受け入れるのなら結婚を許可します」


アメリア「分かりました」

マルセラ「アメリア、簡単に言ってくれるけど育児の大変さを知っているの?
自分を投げ出してでも子を守らなければならないのよ?
しかもその赤子は貴方達の子では無い、
その赤子に人生を捧げる覚悟が貴方達にあるのかしら?」

ミルズ「オレは結婚の為に赤子を引き取った訳ではありません。
自分の意思で育てると決めました。覚悟はしています」

アメリア「母様、私は何があろうとミルズだと決めています。
血の繋がりが無くとも二人の子として育てて見せます」

マルセラ「分かりました…この件は速やかに民に公表します。
女王が許可したとなれば皆も納得はしないにせよ反対はしない筈…
それと、住居は獣人の里の外れになさい。
後、住居が建つまでは同棲は無しよ?」

ミルズ「承知しました。お心遣い、感謝致します」


マルセラ「ミルズは直ちに準備なさい。
アメリアには話しがあります。残りなさい」

ミルズ「はっ、では失礼致します」

ガチャ…パタン…


マルセラ「他の者に預けると言う選択は無かったのかしら?」

アメリア「ミルズには他の者に迷惑を掛けて得た幸せなど受け入れられないわ。
それに…母様が許可してくれるとは思わなかった」

マルセラ「私だって子持ちの男と可愛い一人娘を結婚させるのは本当は嫌よ?
だけど、それじゃ女王としても母としても器が小さ過ぎるでしょう?
人間だろうと他の何かであろうと、
命を軽んじる様な女王には誰も着いて来てはくれないわ」

アメリア「それはそうだけど…皆はその子を受け入れてくれるかしら?」


マルセラ「その為にどの里にも属さない場所に住居を構えるのよ。
三種族のどれにも該当しない赤子を怖れる者も居るでしょうからね…
でも時間が経てば徐々に受け入れる者も増えるわ。
まあ、貴方達がしっかり育てられればだけれど」

アメリア「そうね…と言うか母様、父様には言わなくて良いの?」

マルセラ「あの人はミルズを気に入っているから反対するわけが無いわ。
貴方をミルズを勧めた…と言うかゴリ押ししたのもあの人でしょう?」

アメリア「それは別に関係無いわ。
父様に教えられる前からミルズの事は気になっていたから…」

マルセラ「はいはい…」

アメリア「……母様だってミルズの事いい男だって言ってたじゃない」

マルセラ「間違い無くミルズはいい男よ?
しかも見知らぬ赤ちゃんを拾って迷い無く、
『オレが育てます』なんて真っ直ぐな瞳で言われた時にはキュンと来たわ。
二十代だったら一発で惚れてたわね…」

アメリア「もう五十近いんだから止めてよ…」

マルセラ「うっさいわね…いいじゃない別に…」

アメリア「ふふっ…(ありがとう、母様……)」


………………

……

ミルズ「と言う訳でセオドア、家を建ててくれないか?」

セオドア「お前さぁ…急過ぎんだろ。ったく仕方ねえな…分かったよ」

ミルズ「悪いな、お前の家も子供が産まれたばかりで大変なのに…
息子さん、ウォルトだったか?」

セオドア「ああ、今は嫁が面倒見てくれてる。
夜泣きじゃないだけ楽なもんさ…」

ミルズ「そうか…オレも、頑張らないとな…」


セオドア「じゃあ仲間を集めて直ぐに取り掛かる。
かなり急げば三週間で出来る筈だ」

ミルズ「ありがとう。じゃあ、頼む…」

セオドア「なあ、ミルズ」

ミルズ「ん? なんだ?」

セオドア「お前達の息子が歩ける様になったら連れて来い。
そんで、家の息子と仲良くしてやってくれ」

ミルズ「…!! ありがとう…セオドア」

ガチャ…パタン


セオドア「やっぱりすげえ奴だな…並の奴が言える事じゃねえ。
しかも女王様…嫁の母親に面と向かって…
王から気に入られるのも良く分かるぜ。
兎に角、今はオレがミルズにしてやれる事をしないと……
よっしゃ!! 早速取り掛かるか!!」


………………

……

ミルズ「(育児のやり方は分かったが、やはり実践となると大変だな…
おしめ替えたりとか…)」

「すぅ…すぅ…」

ミルズ「後は、名前か…」


【数時間後】


ミルズ「よし…決めた。
これならきっとアメリアも気に入ってくれる」


「すぅ…ぅん…」

『父』はそっと頭を撫で、


優しく…囁くように『息子』の名を呼ぶ……








ミルズ「ルシアン……お前の名はルシアンだ…」


今日は此処で終了します。

今回は自分なりにかなり考えて書きました…少なくて申し訳ないですが…

見てくれてる方、レスくれた方、ありがとうございます!!

皆さん体調に気をつけて下さいね。


ー訂正ー

マルセラ「あの人はミルズを気に入っているから反対するわけが無いわ。
貴方にミルズを薦めた…と言うかゴリ押ししたのもあの人でしょう?」

でした。

乙。
展開が楽しみ。

一つ質問だけど、年齢の尺度は人間と一緒でよい?


こんばんは。

何か急に書けたので投下します。


【翌日・修練場】


ファーガス「そうか、そう決めたのなら仕方無い。
      女王陛下の寛大な処置に感謝せねばならんな…」

ミルズ「はい、結婚を許していただけるとは思いませんでした…
    女王陛下として母として、中々出来る決断では無いでしょうから」

ファーガス「それ程にお前を信頼しているのだろう。
      それよりミルズ、子を置いて平気なのか?」

ミルズ「ええ、オレの家でアメリアが世話をしてくれていますから」

ファーガス「そうか、子の名は決まったのか?」

ミルズ「はい、ルシアンと名付けました。
    男の子ならオレが、女の子はアメリアが名付けると決めていたので」


ファーガス「ルシアンか…ふむ、良い名だな」

ミルズ「ありがとうございます。アメリアから両陛下も気に入っていたと聞いたので一安心です。
    それよりファーガスさん、大事な話しとは?」

ファーガス「ああ、そうだったな…
      まだ確信は無いが我々、騎士の一部で何かを企んでいる感がある」

ミルズ「それは……マーカスですね?」

ファーガス「…!? お前には昔から驚かされてばかりだ…
      何故、奴に考え至ったのか聞かせてくれるか?」


ミルズ「彼は素晴らしい騎士です。ですが、隠しきれない野心を感じます。
    ヴェンデル陛下も『それ』を危惧している…そう仰っていましたから」

ファーガス「全く、ヴェンデルも『息子』には口が軽いようだな……
      だが今の所は動きはない、思い過ごしなら良いのだが…用心しておいた方が良いだろうな」

「口が軽いとは言ってくれるな…ファーガス」

ミルズ「ヴェンデル陛下…」

ファーガス「はぁ…お前にも驚かされてばかりだよ。ヴェンデル…」

ヴェンデル「ふん、修練が足りねえんだよ。
      それにミルズ、『お父さん』と呼べと言ってるだろうが!!」


ミルズ「いえ、七年後…ルシアンが七つになり城に入るまでは……」

ヴェンデル「えぇー、オレが呼べって言ってんだから良いじゃねえか。ほれ、呼んでみろ」

ファーガス「それよりヴェンデル、マーカスの事は…」

ヴェンデル「ん? まだ先だろうな。オレとマルセラが年取って、
      ミルズ・アメリアに代替わりする辺りを狙うんじゃねえの?」

ファーガス「(全く、相変わらず『こういう時』は鋭いな。いや、最早『見えている』のか…)」

ミルズ「ヴェンデル陛下、オレは…」

ヴェンデル「案ずるな息子よ。オレはお前とファーガスを信頼している。
      それにマーカスが何を企んでいようがオレは負けないさ」

ファーガス「相変わらず強気だな、お前は…心配していたのが馬鹿らしく思えるよ」

ヴェンデル「はははっ!! オレは王だからな、小さい事は気にしないのさ」


ファーガス「剣術に関しても、もう少し考える頭があれば剣士になれたのにな?」

ヴェンデル「この野郎…お前は腕長いからめんどくせぇんだよ。
     それにオレよりお前が強かった…だからお前が『剣士』なんだろうが」

ファーガス「……ヴェンデ

ヴェンデル「ま、本気出せばオレが勝つけどな」

ファーガス「こ、この野郎…
      大体な、居合いを素手で掴むのはお前くらいだ!! この単細胞が!!」

ヴェンデル「その割に随分焦った顔してたけど?」

ファーガス「お前の発想に呆れただけだ!! 柔剣だから良いものの…」

ヴェンデル「遠くからペチペチペチペチ…
      五月蠅くて仕方ねえんだよ、お前の剣術は」

ファーガス「なんだとっ!? まあ、負け犬の遠吠えだしな」


ヴェンデル「あ? やる気か、お前?」

ファーガス「……ほら、柔剣だ。先に当てたら勝ちだ…いいな?」

ヴェンデル「…いいだろう。息子よ、合図を頼む」

ミルズ「はい、分かりました。
   (この二人は本当に仲が良い。試合中は苛烈極まりないと言うのに…)」

ミルズ「では…始めっ!!」

ヴェンデル「あ、パルマだ…」

ファーガス「パルマだとっ!? 一体何しに


ベチッ!! ファーガス「…………」


ヴェンデル「勝ーちー」

ファーガス「き、貴様ぁ…卑怯

ヴェンデル「余所見するファーガス君が悪いと思います」


ファーガス「……もう一度だ」

ヴェンデル「ん? 聞こえないんだが?」

ファーガス「ぐっ…!! もう一度、勝負してくれ!!」

ヴェンデル「仕方無いなあ…息子よ、頼む」

ミルズ「はぁ…分かりました。では、始め!!」

ファーガス「ん? マルセラが来たぞ?」

ヴェンデル「馬鹿め…そんな手に引っ掛かるか!!」


ベチッ!! ヴェンデル「いってえ!! 誰だ!?」


マルセラ「貴男、何をしているの?」

ヴェンデル「げっ…マルセラ。何で柔剣持ってんだよ…」

マルセラ「全く…何処に行ったかと思えば…」


ヴェンデル「マルセラ、今日も…綺麗だよ……」


ベチッ!! ヴェンデル「なんで叩くの!? オレは王様だぞ!?」


マルセラ「私は女王よ!! ミルズ、ごめんなさいね?」

ミルズ「いえっ、そんな……
    剣術もですが皆に分け隔て無く接するヴェンデル陛下を尊敬してますから…」

ヴェンデル「流石我が息子…素晴らしいな」

マルセラ「はぁ…ファーガスも馬鹿の相手させて悪いわね?」

ファーガス「いや、マルセラも大変だな。こんな馬鹿の世話するのは…」

マルセラ「ええ、今からでもミルズと取り替えたいわ」

ヴェンデル「ミルズ…娘では飽きたらず、我が妻・マルセラまで奪うつもりか!!」


マルセラ「ヴェンデル!! 戻るわよ…」

ヴェンデル「はい…分かりました」


ガララ…パタン


ミルズ「女王陛下は凄いですね…」

ファーガス「奴らは昔からああなんだ。
      幼い頃は四人で遊んだものだが、仕切り役は何時もパルマとマルセラだった」

ミルズ「やはりプロテアの女性は強い…」

ファーガス「ミルズ」

ミルズ「はい、何でしょうか?」

ファーガス「俺と、勝負してくれ」


ミルズ「何故ですか…」

ファーガス「お前は何か隠している…何かが足りない。お前の剣には奥がある…
      今、修練場には俺とお前だけだ。見せてくれないか?」

ミルズ「……分かりました」

ファーガス「では、柔剣を…」

ミルズは足元に落ちている『二本』の柔剣を手に取る。

そして、右手の柔剣を頭上に掲げ…

左手の柔剣はやや突き出した形で構えた。


ファーガス「それがお前の…」

ミルズ「はい、二刀などふざけていると思われても仕方無いですが」


ファーガス「そうは思わん。さあ…始めるぞ」

刀身を背後に隠す様な居合いの構え。

修練場の空気が変わり、ビシッと軋む…

発した言葉から感じたのは圧倒的な威圧感と…


ミルズ「(唯々、強い……)」

ファーガス「行くぞ…ミルズ」

間合いを詰め、通常届かぬ距離から居合いを放つ、

バシッ!! と響いた音は、

ミルズが瞬時に柔剣を交差させファーガスの柔剣を受け防いだ音だった。


ファーガス「(面白い!!)」

ミルズ「………すぅ…はぁ…」

ダンッ!! 強く床を蹴り一瞬で間合いを詰め、右の柔剣で首を薙に行く。

ビシィッ!! ファーガス「(片手だからと侮っていた訳ではないが、予想以上に…重い)」

伸ばした柔剣を即座に戻し防ぐが鳩尾に左の突きが迫る…

ファーガスは身を捩り躱し、一歩退いて顔面に突きを放つ。


ミルズ「(流石に…鋭い!!)」

即座に屈み躱すが、突き出された柔剣は戻らず…

ミルズの背に振り下ろされる。

バシィ…


ファーガス「ミルズ…お前は強くなった!! 面白いっ!!」

背に振り下ろした柔剣は、

ミルズの左肩に担ぐ様な形で据えられた柔剣に防がれていた。


ミルズ「……シッ!!」

そして、間を置かず右の柔剣で胴を狙うが引き戻した柔剣の柄頭で弾かれる。

勢い止まらず、続けざま左の柔剣で右足を狙う…

だがファーガスは自ら間合いを詰め、

ミルズの両腕の間に入り込む形で密着し、止めて見せた。


ファーガス「此処からどうする? 柔剣は振れまい」

そう言って頭上に柄頭を振り下ろす。


ミルズ「………………」

瞬間、ミルズはグルンッ!!とその場で身体を回転させる。


ファーガス「なにっ!?」

ミルズは右腕を戻し、密着した状態から柔剣を『振った』

本来の握りなら不可能だが、

ミルズはファーガスの背後で『逆手』に持ち替え、

肘を身体に引き付け折り畳む事で密着状態から柔剣を振ったのだ。


バッチィッ!!! ファーガス「くッ!!」

こうして下から繰り出されたミルズの柔剣は、

振り下ろされるファーガスの右腕を思い切り弾いた……


ファーガス「見事だ…ミルズ」

ミルズ「…ありがとうございます」

ファーガス「どうした? 俺から一本取ったと言うのに浮かない顔だな」

ミルズ「いえ、今のは身体が動いただけで…本来な

ファーガス「違う。今の発想も素晴らしいが…
      その、『瞬間の発想』を試合で出せると言う事が素晴らしいのだ。
      並々ならぬ修練を積んだのだな…」

ミルズ「ファーガスさんに…勝つ為です」

ファーガス「……フッ、ハハハッ!! 負けた負けた!! ミルズ、お前は良い騎士になった!!」

ミルズ「…!! ありがとうございます!!」


今日は此処で終了します。段々短くなっている気がします。

最初にあげてしまった為、開き直りました…

改行を少し変えたのですが見やすくなったでしょうか?

見てくれてる方、レスしてくれた方、ありがとうございました!!


【過去編・登場人物】


【ルシアン】【不明】
エルフの里近くの林で発見された赤ん坊。
名付け親はミルズ。

【ミルズ】【エルフの若き騎士】
裸のまま捨てられていた赤ん坊を発見、自ら引き取りルシアンと名付けた。

【アメリア】【エルフの王女】
結婚間近にミルズが拾った赤ん坊を引き取ると言うが、
ミルズへの気持ちは一切変わらず、自身の息子として育てると誓った。

【マルセラ】【プロテアの女王・エルフ】
プロテアを統べる者、アメリアの母。
娘の婚約者であるミルズが赤ん坊を引き取るのを許し、結婚も条件付きで許した。

【ヴェンデル】【プロテアの王・エルフ】
アメリアの父、ファーガスとは幼い頃からの付き合いで親友。
ミルズにお父さんと呼ばれたい…今日この頃。

【ファーガス】【ドワーフ・剣士】
40代・そろそろ引退を考えている。
ヴェンデルとは親友で共に剣術を磨いた。

【セオドア】【ドワーフ・大工】
ミルズの友人で、ウォルトの父。ミルズに新居を頼まれる。


何か分からない点などありましたら

>>318のように質問していただければ答えますので。

乙!
面白いよ!
出来たら、人物紹介に大体でいーんで年齢を...

過去編は約20年前くらい?


【人物紹介】


【ラキ】ー不明ー11・2歳

ネアによってプロテアに連れて来られた正体不明の少年。
感情の発露が乏しく周りと噛み合っているのか、いないのか。
『初めて』救いの手を出してくれたネアには特別な感情を抱いている。
出会い、接した者には少なからず思う所がある様だが…
やはり『よく分からない』ようだ。


【セシリア】ープロテアの若き女王ー17歳

両親共に病で亡くしている。『女王』であろうとして行き過ぎる事もある。
ネアとは親友で『セシリア』として頼りにしている。


【ネア】ーエルフの医師・薬師ー17歳

両親共に病で亡くしている。セシリアとは親友で互いに支え合う。
蔓延する病を止める為、掟を破り外界の山林へ薬草を取りに行く。
其処でラキと出会いプロテアに連れてきた。
ラキが笑顔を向けた唯一の存在、膝枕とかした。

【カルア】ーエルフの騎士ー19歳

カレンの姉・剣術の腕も良く、しっかり者だが考えが少々堅く考え込み易い。
女王、そしてセシリア自身を守ると誓う。

【カレン】ーエルフの騎士ー18歳

カルアの妹・人当たりが良く、優しく柔らかな性格、若干……。
姉の様には出来ないが自分なりにセシリアを支えようとしている。

【ルシアン】ー不明ー24歳

当代の剣士、ラキを引き取った。
剣士なのに色々言われる、ジーナには矢で射られ…ネアには玉を蹴られた。

【ガルト】ードワーフー20代

イザークの息子で鍛冶職人。ラキに気合いを教えた、うるせえ。

【イザーク】ードワーフー40代半ば

超一流鍛冶職人だが自分が認めた者にしか剣を造らない頑固者。
ラキに命を救われた、結構うるさい。

【ハンク】ー獣人ー18歳

ジーナの弟・姉の行く末を案じ、日々胃を痛める心優しき青年。主に結婚とか…


【イザーク】ードワーフー40代半ば

超一流鍛冶職人だが自分が認めた者にしか剣を造らない頑固者。
ラキに命を救われた、結構うるさい。

【ハンク】ー獣人ー18歳

ジーナの弟・姉の行く末を案じ、日々胃を痛める心優しき青年。主に結婚とか…

【ジーナ】ー獣人ー22歳

ハンクの姉・気が強く、狩りが好き。
ルシアンの事が…でも素直になれなくて……矢を放つ。

【ライル】ー獣人ー24歳

若き里長、病で両親を亡くすが父を継ぎ、里長として里に尽くす。
ルシアンを馬鹿にしていたが、人の事言えない。

【イネス】ー獣人ー24歳

ライルを気に掛けており、お昼のお弁当は欠かさない。料理上手な女性。ライルが…

【ウォルト】ードワーフー24歳

ルシアンの友達で大工さん、最近新築が少ないので困っている模様。

【パルマ】ーエルフ・医師ー60代後半

優しいお婆ちゃん。ファーガスとは幼い頃からの付き合いで、ファーガスの恥ずかしい事を沢山知ってる。

【ルファ】ー獣人の騎士ー17歳

カルアの一番弟子で活発な女の子。
ラキを気に入ったようだが、それと同時にラキの心も案じている。

【ファーガス】ードワーフー60代後半

現在は里長、お爺ちゃんだが先代の剣士でルシアンの師。
七十歳間近らしいが六十歳だと主張する永遠の六十代。
パルマお婆さんとは幼い頃からの付き合いで、弱み…その他諸々を握られている模様。

【ニコラ】ーエルフー30代

エルフの里長でネアのおばさん・ネアのお母さんの妹。
小さい子が……ネアも若干そこら辺似てるのかも知れない。
両親を失った子供達のこれからを気に掛けている。

【リズ】ーエルフー7・8歳

両親を病で亡くした少女。
幼いながらに自分は誰にも必要されない存在なのだと考え至る。
一切の同情・憐れみを持たずに接したラキに『救われ』兄と慕っている。


【タリウス・故人】ーエルフの騎士ー
女王侮辱・障害・殺人未遂の罪によりルシアンに処刑される。
彼もまた、両親を亡くしていて酷く荒んでいた様である。


【過去編・登場人物】


【ルシアン】【不明】
エルフの里近くの林で発見された赤ん坊。
名付け親はミルズ。

【ミルズ】【エルフの若き騎士】23歳
裸のまま捨てられていた赤ん坊を発見、自ら引き取りルシアンと名付けた。

【アメリア】【エルフの王女】21歳
結婚間近にミルズが拾った赤ん坊を引き取ると言うが、
ミルズへの気持ちは一切変わらず、自身の息子として育てると誓った。

【マルセラ】【プロテアの女王・エルフ】40代半ば?

プロテアを統べる者、アメリアの母。
娘の婚約者であるミルズが赤ん坊を引き取るのを許し、結婚も条件付きで許した。

【ヴェンデル】【プロテアの王・エルフ】40代半ば

アメリアの父、ファーガスとは幼い頃からの付き合いで親友。
ミルズにお父さんと呼ばれたい…今日この頃。

【ファーガス】【ドワーフ・剣士】40代半ば

40代・そろそろ引退を考えている。
ヴェンデルとは親友で共に剣術を磨いた。

【セオドア】【ドワーフ・大工】23歳

ミルズの友人で、ウォルトの父。ミルズに新居を頼まれる。


>>342 セシリアやネアの年齢は序盤に書いていましたが、他の人物の年齢は書いてませんでしたね。
こんな感じでどうでしょうか? 

>>343 24年前になりますね。

登場人物のイメージと年齢に違和感は無いでしょうか?


エルフは人と比べて長寿ってわけでもないのかな?


>>348 はい。エルフ・獣人・ドワーフ共に人間より長寿と言う訳ではありません。

ありがとうございます!
カレンがネア達より年上なのは驚いたw
イメージしやすくなってますます楽しめますb
次は本編の続き待ってます!


>>350 役にたったみたいで良かったです!!

投下します。


………………

……


アメリア「ルシアン…」

ルシアン「すぅ…すぅ…」

アメリア「私とミルズの子…
    (母様の言っていた通り育児は大変ね…寝かせるのも一苦労。
     でもこの子の可愛い寝顔を見れば育児の辛さなんて些細な事…
     これからは母としてこの子を守って行かなければ)」

コンコン…

アメリア「はい、どうぞ」


ガチャ…パタン


ミルズ「ただいま、アメリア」

アメリア「お帰りなさい。随分早かったけど…」


ミルズ「ああ、フィオナとケイトが馬車で送っ


ガチャ!!


フィオナ「よっ、アメリア!! 元気か!?」

アメリア「……フィオナ、静かにして…」

ルシアン「…んっ…すぅ…すぅ」

アメリア「はぁ…良かった……」

フィオナ「へへっ、ごめんごめん…」

ミルズ「アメリアに会いたいって聞かなくてな」

フィオナ「いやー可愛いなぁ…
     アメリアに赤ちゃんか…私も赤ちゃん欲しいなー」

アメリア「そんなに急がなくても大丈夫。フィオナは可愛いから」


フィオナ「そっかなー?」


パタン…


ケイト「フィオナ、扉は開けたら閉めろ。
    それに何時まで話してるつもりだ? 早くアメリア様を城に

フィオナ「ケイトだって赤ちゃん見たくて来たくせに」

ケイト「…違う、ミルズ殿を送り届けに来ただけだ…」

フィオナ「じゃあ、馬車で待ってろよー」

ケイト「ま、まあ良いじゃないか。しかし可愛いな…」

アメリア「はぁ…フィオナ・ケイト、城に戻りましょう?」

ケイト「ち、ちょっと待ってくれ、もう少し…」

アメリア「全く、もう…」

ミルズ「アメリア、ありがとう。大変だっただろう?」

アメリア「ううん、平気。それよりミルズ、ファーガスさんは何て?」


ミルズ「マーカスが何か企んでるらしい…
    ヴェンデル陛下とファーガスさんに用心しておけと言われた」

アメリア「マーカス…確かミルズと同世代の騎士だったわね。
     でも、赤ちゃんに夢中の二人は知ってるの? 話して大丈夫?」

ケイト・フィオナ「「女王陛下に聞いたから大丈夫」」

ミルズ「二人共君の側近騎士だ…女王陛下から話しは聞いてるさ」

アメリア「二人共仕事はしっかりするのだけど少し抜けてるのよね…
     ケイトは馬車の運転出来ないし…フィオナは剣術ばかりだし」

ミルズ「女王陛下が選んだのだから問題ないさ」

アメリア「そうだけど…母様は『私にはヴェンデルが居るから大丈夫』とか言ってるし。
     私にだってミルズが居るから平気なのに…」

フィオナ「そんな事言うと一緒に寝てあげないぞー?」

アメリア「何時もフィオナが勝手に入って来るんじゃない…」


ケイト「え? でも昨日は嬉しすぎて眠れな

アメリア「早く帰りましょう。母様に怒られるわ」

フィオナ「そうだな。んじゃ、帰るか」

ケイト「ではミルズ殿、我々はこれで失礼致します」

ミルズ「ああ、送ってくれてありがとう」


ガチャ…パタン…


アメリア「ねえ、ミルズ」

ミルズ「ん? どうした?」

アメリア「あの…その……あ、愛してるわ」

ミルズ「ああ、オレも愛してる」

アメリア「ふぁ!?
    (うぅ…何時も私ばっかりドキドキしてミルズは全然動揺しない…何か悔しいなぁ)」

ミルズ「どうした?」

アメリア「へっ? ううん、大丈夫。じ、じゃあまたね」

ミルズ「…? ああ、また」

ガチャ…パタン…


………………

……

セオドア「と、言うわけでお前も手伝え」

イザーク「仕方ねえな…分かったよ。
     しかしミルズの奴、女王陛下に面と向かってそんな事言うとは…流石オレの認めた男。
     ファーガスさん・ヴェンデルさんが入れ込むのも良く分かるぜ」

セオドア「馬鹿正直だし、やるって言ったら曲げねえ頑固な奴だが…
     見てて気分の良い奴だよ、アイツは」

イザーク「そうだな…よっしゃ!!
     さっさと家建てて幸せな新婚生活を送らせてやろうじゃねえか!!」

セオドア「何だよ、渋々受けた様な顔だったのに随分乗り気じゃねえか」

イザーク「うっせえ!!」


ガチャ…パタン…


イザーク「いらっしゃい!! えっ!? ファーガスさん!?」

ファーガス「イザーク、セオドア久しぶりだな。
      それよりイザーク、突然で悪いがお前に頼みがある」

………………

……

ファーガス「どうだ? 出来そうか?」

セオドア「へぇ……話しを聞くだけでも随分変わった剣だな」

イザーク「ああ、正直かなり難しい…なにせ今まで造ってきた剣とは全く違うからな。
     ですが必ず造って見せます…何たってファーガスさんの頼みですから!!」

ファーガス「済まないな、イザーク。宜しく頼む」

イザーク「それよりファーガスさん、一つ聞きたいことが…」

ファーガス「なんだ? 言ってみろ」

イザーク「この剣は『誰を』超える為に?」


ファーガス「……二人共、誰にも言うなよ」

イザーク・セオドア「「分かりました」」

ファーガス「ミルズだ。つい先程、俺はミルズに負けた」

イザーク「なっ!? ファーガスさんが負けた!?」

セオドア「すげえ奴だとは思ってたが、まさかファーガスさんに勝つとは…」

ファーガス「馬鹿者!! デカい声を出すな!!」

イザーク「すんません!!」

ファーガス「ふぅ…まあ真剣で勝負する事は無いだろうが、今の俺を超えなければミルズには勝てん。
      居合い自体にまだまだ改善の余地はあるからな…
      だが剣が完成すれば相手が刃圏に入った瞬間に倒す…俺の理想の居合いに手が届く」

イザーク「ミルズは其処まで?」

ファーガス「ああ、強かった…奴は俺を超える為に修練したと言っていた。
      負けたが、全く悪い気はしなかったな…」

セオドア「あの……ミルズの奴はどうやってファーガスさんに勝ったんです?」


ファーガス「二刀、奴は二刀使った……二刀だから俺に勝てた訳ではない。
      ミルズ自身も勿論強い、練り上げられた良い剣術だった」

イザーク「やっぱりな……だからミルズは」

セオドア「やっぱりって、お前知ってたのか?」

イザーク「ああ、実はミルズにも剣を頼まれててな」

ファーガス「もう完成したのか? 良ければ見せてくれ」

イザーク「分かりました…ミルズには言わないで下さいよ? これです……」


全く同じ両刃直剣が二本…

他の剣と違うのは柄が通常より長めに造られている事だ。


セオドア「ん? 何だこれ…」


片方の剣の柄頭には突起が、

もう片方の剣の柄頭には窪みがある。


ファーガス「フッ…ハハハッ!! ミルズめ…!! まだ『先』があると言うのか」

セオドア「おいおい…こんな剣見たことねえぞ…」

イザーク「ああ…オレもミルズの発想には驚いた。
     後にも先にも『コレ』を扱えるのはミルズしか居ねえだろう……」

ファーガス「(ふふっ、面白い…ミルズは俺を超えた。
      だが剣に終わりは無い。ミルズよ、次は負けんぞ…)」


………………

……

ーその日の夜ー


アメリア「で、二人共一緒に寝るのね」

フィオナ「まあまあ、色々聞きたい事もあるし」

ケイト「全く…仕方のない奴だな」

アメリア「ケイト…貴方もフィオナの事言えないわよ?」

ケイト「うっ…済まない。正直気になって…」

アメリア「なにが?」

フィオナ「どこまで行ったんだ?」

アメリア「へっ!? いきなり何よ…」

フィオナ「もう、『した』のか?」

アメリア「うぅ…そんなのはまだ全然ないよ…
     ルシアンが七つになるまでは駄目だって母様も……」

ケイト「なのに子持ちか…複雑だな……」

アメリア「別に良いじゃない…二人で決めたんだから……」


フィオナ「ミルズも男だからなー、浮気したりしてな?」

アメリア「……しないもん」

ケイト「フィオナ、不安を煽るな」

アメリア「ミルズは浮気なんてしないもん…」

フィオナ「ミルズは格好いいからなー、女騎士の中にも

アメリア「誰? 何人居るの? 名前は?」

ケイト「アメリア…それを聞いてどうするんだ?」

アメリア「……ふふっ」

目は全く笑っておらず口元だけ笑っている…

不穏な事を考えているのは間違いないだろう。


フィオナ「じ、冗談だって…」

アメリア「嘘は…ダ メ だ よ ?」

フィオナ「ひっ!! 本当、本当だって!!」

アメリア「そう…あんまり驚かさないでよ。でないと私……」

フィオナ「(でないと…なんだよっ!? 怖いよ!!)」

ケイト「(ミルズ殿絡みでからかうのは止めた方が良いな…)」


ーーーーーー

ーーー



【三週間後】

ミルズ「ありがとう!! セオドア・イザーク!!」

イザーク「ガハハッ!! まあ、オレに掛かればこんなもんだ!!」

セオドア「喜んでくれて何よりだ。だが…イザーク」

イザーク「なんだ?」

セオドア「なんでお前の家まで建てなきゃならねえんだよ!!」

イザーク「いやぁ、前から静かな所で仕事してえと思っててな。
     ミルズが家建てるっつうからついでに、な?」

セオドア「な? じゃねえよアホ!! 息子ほったらかして仕事仕事で嫁に滅茶苦茶に言われたんだぞ!?」

イザーク「うるせえ!! 別に良いだろ!? オレだってもうすぐ結婚すんだから!!」

ミルズ「セオドア、許してやれよ。
    イザークが手伝ってくれなきゃ此処まで早く建たなかったんだ。何よりめでたい事じゃないか」


セオドア「ぐっ…まあ、そうだよな。
     しかしイザークも結婚か、一生独身かと思ってたが」

イザーク「好き勝手言いやがって…まあ、なんだ…その、ガキが生まれたら…宜しくな」

ミルズ「ああ、近所なんだし宜しく頼む」

セオドア「ミルズ、馬鹿が近くに居ると大変だろうが頼むぜ?」

イザーク「人が素直になったっつうのに…てめえは…」

ミルズ「(今日から此処がアメリアとルシアン…そしてオレの三人の家…
    父として夫として、しっかりしないとな…)」


……………

……

マルセラ「式は城に戻って来てからするのね?」

アメリア「うん、その方が合ってる気がするから」

ヴェンデル「花嫁姿も七年後までお預けかよ…なげえなぁ」

マルセラ「まあ、式を挙げたのに城に住まないんじゃ可笑しな話しだものね。
     ところで、ミルズはどうしてるの?」

アメリア「荷物を運んで新居に向かったわ、勿論ルシアンも一緒に」

ヴェンデル「なあ、マルセラ」

マルセラ「どうしたの?」

ヴェンデル「オレも向こうで暮らすってのは

マルセラ「却下」


ヴェンデル「……………」

アメリア「じゃあ、行くから……」

マルセラ「ええ、ああ言った手前…見送りは出来ないけれど、しっかりね?」

アメリア「うん、ありがとう母様」

ヴェンデル「たまには顔見せろよ?
      城に来るなとは言われて無いんだから」

アメリア「父様もありがとう…じゃあ、行ってきます」

ガチャ…パタン…


ヴェンデル「行っちまったな…あ、泣きそう」

マルセラ「全く、しっかりしなさいよ…涙は七年後に取って置きなさい」

ヴェンデル「ああ…そうだな…」


【夕方】

ミルズ「アメリア、これから宜しく頼む」

アメリア「ええ、ミルズがこの子を育てると言った時は正直驚いたけれど…
     私は貴男の妻としてルシアンの母としてずっと側にいるわ」

ミルズ「ありがとう、アメリア」

アメリア「ねえ…ミルズ」

ミルズ「どうした?」

アメリア「マーカスが何を企んでいるのかは分からないけれど、
     危機が迫ったらこの子だけは守らなければならないわ」

ミルズ「守るさ。君も、ルシアンも…勿論プロテアの皆も。
    前にも話したが、オレの両親は早くに亡くなった…でもパルマさんを始め沢山の人がオレを支えてくれた。
    だからオレは必ず守って見せるよ、その為に騎士になった…その為に強くなったんだから」

アメリア「……貴男の両親はきっと立派な方だったのね。
     そうでなければ貴男の様な、真っ直ぐで綺麗な瞳を持つ人が生まれる訳がないもの……」

ミルズ「ありがとう……アメリア」

「おぎゃあ!! おぎゃあ!!」

アメリア「ふふっ…王子様がお腹を空かせて起きたみたい」

ミルズ「ははっ、みたいだな。さて、夕御飯にするか!!」



【過去編#1  終】


【五年後】

ルシアン「父さん、母さん、ウォルトとあそんでくる!!」

アメリア「気を付けてね? あまり危ない事しちゃダメよ?」

ミルズ「喧嘩はするなよ?」

ルシアン「分かってるって!! じゃあ行ってきます!!」


ガチャ…バタン…


アメリア「もう五年…私達の心配なんて必要無かったわね。
     周りと身体が違うなんて悩んでる様子もないし…ライル君に駆けっこで勝ったって聞いた時は驚いたけど」

ミルズ「『人間』ではないのかもしれないな…
    だが『ルシアン』であることには変わりは無い、今まで通りで良いだろう」

アメリア「ええ、そうね。それより…」

ミルズ「ああ、まだ見つからない。
    もし死んでいるか、外界に出たのならなら君と女王陛下は『分かる』筈だからな」

アメリア「ええ、生きていてプロテアに居るのは間違いないわ。
     早く見つかると良いのだけれど…」


………………

……

ルシアン「わりぃわりぃ、待たせたな」

ウォルト「で、今日はどこ行く?」

ルシアン「うーん…んじゃ、ライルんトコに行くか!!」

ウォルト「なんだよ…結局いつも通りだな。
     エルフの里には行かねえのか?」

ルシアン「タリウスがムカつくからな…ぶっ飛ばしたから良いけど。
      もんだいはニコラだ、なんか変なの飲まされて女の服着せられたから行きたくねえ…」

ウォルト「ああ…お前が泣いてるの見たのはあれが初めてだったな。
     薬ってこわいな……」

ルシアン「そうだな……」

ウォルト「んじゃ、ライルんトコ行くか」

ルシアン「おうっ!!」




【獣人の里】

ライル「よっ、今日は何するよ?」

ウォルト「何だよ、イネスとジーナまでいんのか」

ライル「しかたねえだろ? くっついて来るんだから」

イネス「ちがう、ぐうぜん会っただけ」

ルシアン「ウソつけ、遊ぶ時ぜったいいるじゃねえか」

ジーナ「ねえ、おままごとしたい」

ルシアン「この前やったろ? 今日は山に行こうぜ」

イネス「木登りする?」

ウォルト「オレ登れねえよ…」

ライル「まあ、とりあえずひみつきち行こうぜ」

ルシアン「そうだな!!」

ジーナ「アタシも行きたい」


ウォルト「あぶねえからダメだ。ジーナはまだ小せえし」

ライル「そうだな…」

イネス「んじゃ、私はジーナといっしょに

ジーナ「やだ、アタシもひみつきち行く」

ルシアン「……分かった!! ジーナはオレがおんぶしてやる。
     んで、暗くなる前にもどれば大丈夫だ!!」

ジーナ「いいの?」

ルシアン「ああ、いいぜ!! みんなで行った方が楽しいしな」

ウォルト「そうだな…ジーナごめんな? なかま外れみたいにして」

ライル「だな…オレもごめん」

ジーナ「だいじょうぶ。みんなありがとう」

ライル「イネス、つかれたら言えよ? おんぶするから」

イネス「うん、ありがとうライル」

ルシアン「んじゃ、しゅっぱつ!!」


【山・秘密基地】

ルシアン「はぁー、つかれたな」

ジーナ「ルシアン、ありがとう」

ルシアン「いいっていいって」

ライル「ルシアン、水持ってきたから飲めよ」

ルシアン「お、ありがとな」

イネス「おにぎりも持ってきたから…食べて?」

ウォルト「さすがイネス。んじゃ、いただきます」


………………

……

ウォルト「また、けんじゅつか?」

ルシアン「ん? イネスとジーナは?」

ライル「おままごと中」

ルシアン「そっか」

ライル「お前、けんじゅつならってんの?」

ルシアン「いや、なんか最近へんなオッサンが来て教えてくれるんだ」

ライル「へんなオッサン?」

ルシアン「お面かぶってるから顔は分かんねえけど、めっちゃくちゃつえぇんだよ」

ウォルト「へぇー、どんなの教えてもらったんだ?」


ルシアン「よし、ちょっと見てろよ」

かなり大きい枝を右肩に担ぎ、

腰を落とし体勢を低くする、そして…

ダンッと大きく踏み込み振り下ろす。

どうやら相手の懐に一気に飛び込み、一撃で終わらせる剣術の様だ。


ライル「すげえな!!」

ウォルト「よくそんなデカいのふれるな…
     なにもんだよ、お前……」

ルシアン「はははっ!! オレにも分かんねえ!!
     でもよ…タリウスに『みみなし』とか言われるし…『ほんとう』のこどもじゃないとか言われるんだ…」

ライル「けっ……気にすんな!! オレらがいる!! 
    それにミルズさんもアメリアさんも、ルシアンの『ほんとう』の父ちゃん母ちゃんだよ!!」

ウォルト「だな、じゃなきゃあんなにやさしくないだろ!?」

ルシアン「そっか……そうだよな!!」



『きゃああああ!!』


ルシアン「…!! イネスか!?」

ライル「ッ!! おい、もどるぞ!!」

ウォルト「おうっ!!」

…………………

……

イネス「ジーナ!! だいじょうぶ!?」

ジーナ「ヒッグ…グスッ…いたいよぉ」

ジーナの右腕からは血が流れ、

指先にまで垂れている…


「……ヒッ…ヒヒッ……」

イネス「ウーゴさん…なんで…」

ウーゴ「……カカッ…ヒヒッ……」

ウーゴと呼ばれた男は剣を片手に薄ら笑いを浮かべ、

瞳は何処を見ているのか分からない…

ただ、正気では無い事は確かだ。


ライル「やめろっ!!」

ウォルト「おい!! あの人、行方知れずになってたウーゴさんじゃねえか?」

ルシアン「んな事はいい!! おい、イネスとジーナからはなれろ!!」

ウーゴ「……ケヒッ……」

ルシアンの声を聞いた直後、

ウーゴは一直線にルシアンに向かい剣を振り下ろした。


ルシアン「っぶねえな!!」

身を捩り躱すが、ウーゴは次の攻撃に移っている。


ルシアン「ッ!! ライル!! ジーナをおぶって逃げろ!! ウォルトとイネスもだ!!
     そんで父さんに伝えてくれ!!」

ウーゴの攻撃を躱しながら指示を飛ばす、

どうやらウーゴの標的はルシアン一人のようだった。


ライル「わ、わかった!! ジーナ、早くつかまれ」

ジーナ「で、でもルシアンが…」

ルシアン「いいから早く行けッ!!!」

ウォルト「…ッ!! 行こう、早く里のみんなとミルズさんに伝えるんだ!!」

ライル「よし、急ぐぞ!!」

イネス「う、うん!!」


……………

……

ルシアン「ウーゴのオッサン!! どうしたんだよ!!」

ウーゴ「…キキッ…ヒャヒッ……」

声は届かず、尚も攻撃は続く…

理性は失われていながら太刀筋は鋭い。

そして遂に……凶刃がルシアンを捉えた。

ルシアン「ぐっ…!!」

右肩に、ざくりと刃が沈んで行く。


ルシアン「(いってぇ!! ダメだ…ころされる……)」


「おらぁぁぁ!!」

その時、

雄叫びと共に現れた小さな影がウーゴにドンッと思い切り身体をぶつける…

ウーゴは剣を掴んだまま吹き飛び、地面に倒れた。


ルシアン「ウォルト!? なんで…」

ウォルト「へへっ、オレは足が遅いからな…連絡はイネスに任せてもどって来た」

ルシアン「バカ野郎、ありがとな…」フラッ

ウォルト「おい、大丈夫か!?」

ルシアン「ああ、今の内に早く逃げよう。
     ウーゴのオッサンは普通じゃ無かった」


ウォルト「ああ…そうだ

ザシュッ…  ウォルト「うあぁッ!!」

ウーゴは既に背後に迫っていた…

そしてウォルトの背中を躊躇い無く…斬り裂いた。


ウーゴ「……ヒャヒッ…フヒャ……」

ルシアン「ウォルト!! おいっ!!」

ウォルト「いてぇ…ルシアンもジーナもこんなに痛かったのか……ルシアン、傷…大丈夫か?」

ルシアン「……!!
    (最初から逃げれば良かったんだ。
     オレはバカだ…ウォルトの方がオレよりずっと強いじゃねえか。
     でも……でもっ!!)」


ルシアン「ジーナとウォルトを傷付けたのは許せねえっ!!!」


感情が爆発する、

        血液が沸騰する、


  そして、小さな身体に収まり切らない怒りは…


ルシアン「ウォォアアアアアッ!!!」


    凄まじい咆哮と共に、その姿を現す…


       ぎらりと輝く紅い瞳……


     額から後頭部へと続く二本の角。


  全身は漆黒に覆われ…異質の気を纏っている。


『人間』では無い……その風貌は……悪魔のそれだ。


ウォルト「……ルシアン…?」

ルシアン「…………」

ゆっくりとウォルトを抱き起こし、

ルシアンは背中にそっと手のひらを当てる……


ウォルト「痛く…ねえ…治った、のか?
     ッ!? ルシアン!! あぶねえっ!!」

ウーゴ「………ヒャヒャ!!」

ドチャッ!! とルシアンの右肩に剣が振り下ろされ、

鳩尾の辺りまで深く斬り裂かれる…

だが忽ち傷は塞がり、ルシアンは立ち上がる。


ウーゴ「ヒッ!! ヒィィッ!!」

思考は無くとも恐怖は感じるのか、剣を手放し数歩退く……

ルシアンはグルリと振り向き、

背に刺さった剣を『鳩尾』から、ずるりと引き抜くと右肩に担ぎ…



ルシアン「グルォォアアア!!!」

咆哮…そして……


ズッ!! ウーゴ「ゲャァッ!!」

振り抜かれた剣は左肩から右脇腹に抜け…

血飛沫を上げた後、光の粒となり天に昇った。


ルシアン「うっ…あぁっ…」

直後、纏っていたモノはルシアンの身体から煙のように抜けて行き、

そのまま地面に突っ伏した…


ウォルト「おい!! ルシアン!! しっかりしろ!!」


今日は此処で終了します。

分けようかとも思ったんですが書きため残すのも嫌なので一気に投下しました。

どうだったでしょうか?

感想・質問等などあれば是非お願いします。



見てくれた方、レスくれた方、ありがとうございます!!

お疲れ。面白いわ。

ルシアンもなのか…


………………

……

アメリア「…!! ミルズ…」

ミルズ「ん? どうした?」

アメリア「……『一人』亡くなったわ」

ミルズ「ッ!! 残りの三人は…」

アメリア「大丈夫……生きてるわ。
     騎士が四人も行方不明、これだけでも異常だと言うのに……」

ミルズ「ああ、夜を徹して捜索したが結局見つからなかった。
    もう十分休んだし、そろそろオレも捜しに行かないと…」


ガチャッ!!

アメリア「イネスちゃん!? どうし

イネス「ミルズさん、アメリアさん!! ルシアンが!! ルシアンが!!」


ミルズ「……!! イネスちゃん落ち着いて…
    何があったのか話してくれるかい?」

アメリア「ゆっくりでいいから、ね?」

イネス「う、うん…えっとライル、ルシアン、ウォルト、ジーナと一緒にひみつきちに行ったの」

アメリア「うん、それで?」

イネス「それで、それッで、ひみッつきちで遊んでたらウーゴさんが来て…
    いきなりジーナに…グスッ…ジーナを剣で…そしッたらルシアン達が助けッに来てッれて……
    ウーゴさウッが…グスッ…ル…アンに、それッでルシアンがはやく逃げッろって…ウッうわぁぁぁっ!!」

アメリア「ッ!! イネスちゃん、もう大丈夫よ……
    (ウーゴさんが? 信じられない…何故こんな……)」

イネス「ウッ…グスッ…ウゥッ」

ミルズ「アメリア、行ってくる。イネスちゃんを頼む……」

アメリア「ええ、分かったわ」


パタン…


………………

……


ミルズ「(アメリアは『分かる』が、『誰が』死んだかまでは分からない。
     ルシアン、無事で居てくれ…!!)」


「「「ミルズ」」」


ミルズ「ロドニー!? ヴァルとワルターまで!! 皆無事だったのか!!
    皆、心配したんだぞ? 今まで何処


「「「ミルズ…お前に伝えたい事がある」」」

ミルズ「……!? 『誰』だ…?
   (皆生気が無い…明らかに様子がおかしい。一体何が…)」


「「「ミルズ、お前は誰も救えない」」」

ミルズ「……どういう意味だ」


「「「これは実験……『次』を楽しみにしていてくれ」」」

ミルズ「実験、『次』? 何を言っている…」


三人は一斉に剣を抜き、


「「「 お前は 誰も 救えない 」」」


ミルズ「なにを…!?」

自らの首筋に刃を当てる……


ミルズ「…!? おいッ!! 止せッ!!!」


そして、ゆっくりと…刃を滑らせる……


ミルズ「止めろぉぉぉぉッ!!!」


ぶしゃっ……


夥しい量の鮮血を吹き出し…同時、光の粒となる。

彼等に告げられた言葉が幾度も蘇り、消えていく……








「「「お前は 誰も 救えない」」」








ミルズ「ぐっ、うぅっ……ウォォアアアアアッ!!!」


ーーーーーー

ーーー



マルセラ「行方不明の騎士四名が死亡…」

ミルズ「はい、ウォルト君の話しを聞いた限りウーゴさんは『普通』では無かったと…」

ヴェンデル「ミルズ、お前の前に現れた三人は『次』と言ったんだな?」

ミルズ「はい、確かに。実験だとも言っていました…
    薬物による物か、或いは洗脳に近いような感があります」

ヴェンデル「……マーカスか」

マルセラ「かも知れないわね…でも証拠は無い」

ミルズ「ファーガスさんから『剣士』を継いで四年。
    なのに、オレは彼等の言う通り……救えなかった」

マルセラ「『敵』の狙いは貴方の心を折る事……
     ウーゴはルシアンを狙っていたそうだし、間違い無いでしょう」


ミルズ「両陛下、オレはどうしたら……」

ヴェンデル「生きて守れ、実験と称して殺された四人の為にもな。
      それとミルズ…ルシアンの話しだが」

ミルズ「はい、ウォルト君によると…
    角が生え、瞳は紅く、身体は真っ暗闇みたいだった…と」

ヴェンデル「マルセラ、やはりルシアンは『人間』じゃねぇな。
      だが、そんな種族は聞いた事も見た事もねぇぞ」

マルセラ「……先程その話しをミルズに聞いた時、幼い頃にお婆様に聞かされた御伽噺を思い出したわ。
     何千年も昔、人間との戦争を放棄して此処プロテアに移住する事を決めた…その退き口。
     三種族を守る為に散ったもう一つの種族……」

ミルズ「その種族とは…?」


マルセラ「瞳は紅く、暗黒を身に纏い、額には二本の角。
     どの種族より優れ、圧倒的な力を持つ……魔の者達」


ミルズ「…!! ルシアンはその種族だと?」

マルセラ「その種族が存在し、生き延びていたのなら間違い無く現在も我々と共にプロテアに居る……
     でもプロテアに彼等は存在しない、と言う事は絶滅したと考えて間違い無いでしょう」

ミルズ「ならば何故…」

マルセラ「これは私の願い……と言うか妄想なのだけど聞いてくれるかしら」

ヴェンデル「聞かせてくれ」

ミルズ「……………」

マルセラ「もし『魂』と言う物が確かに存在するのなら…
     帰ってきた……そうね、帰ってきたのではないかと思うの」

ミルズ「それは、どういう?」


マルセラ「先のお婆様の話しが御伽噺などではなく真実だとしたら…
     絶滅した種族の魂がプロテアに、故郷に帰って来たのかも知れない。
     何千年の時を経て、自分達が命を賭して守った者達の住む場所にね……」

ミルズ「その『魂』がルシアンだと?」

マルセラ「私はそう思いたいわ」

ヴェンデル「だが、話しを聞いた限り過ぎた力だ。
      物事の善し悪しなら兎も角、力の扱い方は教える事は出来ねえ」

マルセラ「ええ、そうね……」


ヴェンデル「祖父として不甲斐ねぇが……
      其ればかりはルシアン自身が見つけなければならない」

ミルズ「ルシアンは大丈夫です。
    結果ウーゴさんを……殺してしまいましたが明らかに他者を守る為。
    守る為なら殺しても良いとは決して言えませんが、力の使い方として間違ってはいない筈です」

ヴェンデル「ああ、そうだな……
      取り敢えず、ルシアンの力については信頼出来る極一部の者にしか伝えていない。
       今は余計な混乱を生むだけだろうからな……」

ミルズ「そう…ですね」

マルセラ「それよりミルズ」

ミルズ「…はい」

マルセラ「気を強く持ちなさい、貴方は私が認めた剣士よ。
     剣士として、父として、夫として強く生きなさい」

ミルズ「……!! はい、分かりました」




…………………

……

ファーガス「話しは終わったか?」

ミルズ「はい、アメリアとルシアンは?」

ファーガス「昔アメリアが使っていた部屋で寝ている。
      部屋の前にはケイトとフィオナが付いているから大丈夫だ」

ミルズ「そうですか…」

ファーガス「ミルズ……剣士とは何だ? お前の思い描く剣士とは?」

ミルズ「……守護する者、救う者、皆の為に力を振るう者。
    オレは、そう思ってきました。なのに……」


ファーガス「ロドニー、ウーゴ、ヴァル、ワルター。
      ウーゴは良き先輩として……他の三名はお前を慕い尊敬していた騎士達だった。
      だから、お前は彼等を守らなければならない」

ミルズ「え? ですが…皆、亡くなりました。もう……」

ファーガス「まだだ、まだ残っている」

ミルズ「………分かりません」

ファーガス「……魂だ。彼等の尊い命が奪われた今、
      救い、守るのは、亡くなった彼等騎士の誇り高き魂」

ミルズ「彼等の魂……」

ファーガス「これから訪れるのは魂の闘争、『強くなれ』ミルズ」

ミルズ「……!! はっ!! 有り難う御座います!!!」


>>369 >>388 ありがとうございます!!

短いですがここで切ります。

見てくれてる方、レスくれた方、ありがとうございます!!

感想などありましたら是非お願いします。


過去編が長いなとは思ったけど、面白い展開になってきた。

追いついた
面白い期待してる


>>402 >>405 ありがとうございます!!

>>403 過去編に入って不安でしたが、そう言ってもらえて凄く嬉しいです!!

>>404 頑張ります…嬉しいです!!


投下します。


………………

……

フィオナ「ケイト、大丈夫か? 赤ちゃん産んだばかりなのに……」

ケイト「大丈夫だ。旦那が行ってこいと言ってくれたんでな……
    それに、アメリアが辛い時は側に居ると約束した」

フィオナ「そうだな…ルシアンは大丈夫かな?
     ウーゴさんなんて私がルシアンを抱きに行った先で何回も会ったし、良い人だった……のにな」

ケイト「ああ、それを実験と称して……考えるだけで腹が立ってくる。
    黒幕はマーカスに違いは無いが証拠が無い、ヴァル、ワルター、ロドニーはルシアン殿を慕っていた」


フィオナ「……今の騎士達はミルズとマーカスで真っ二つに別れてるからなー。
     疑われると分かってやっているなら、かなり質が悪いよ」

ケイト「分かってやっているのさ……ミルズ殿を苦しめる、『今回』はそれだけの為」

フィオナ「『次』か……」

ケイト「私が奴なら…ルシアンが七つになり城に入る頃だな。
    だが…そう簡単に動く奴では無いだろう」

フィオナ「うん……」


………………

……

ルシアン「ぅ…ん…母さん……」

アメリア「すぅ…すぅ……」

ルシアン「もう夕方……ここは城か? ウォルトは…」

『ヴェンデル陛下、どうしたんですか? そんなお面を着けて』

『いいから、入れてくれ』

『変なお面だなー』

『えっ? 格好良くないか、コレ?』


ガチャ…パタン


「ルシアン……起きてたのか。大丈夫か?」


ルシアン「爺ちゃんだったのか…」

ヴェンデル「バレちゃ仕方ねぇな…
      ルシアン、大事な話しがある。ちょっと着いて来い」

ルシアン「おう、分かった」


ガチャ…パタン…


ケイト「ルシアン、起きたのか…
    ヴェンデル陛下、ルシアンを連れてどちらへ?」

ヴェンデル「修練場へ行く。アメリアが起きたら言っといてくれ」

ケイト「了解しました」

フィオナ「ルシアン、大丈夫か?」

ルシアン「うん、オレは大丈夫。
     それよりウォルトは? ウォルトとジーナは大丈夫なのか?」


ケイト「……ああ、二人共に無事だ」

ルシアン「そっか……良かった」

フィオナ「…………」

ヴェンデル「ルシアン、行くぞ」

ルシアン「おうっ!!」

………………

……

フィオナ「ルシアン…覚えてないんだな」

ケイト「その方が良いかも知れん。
    先程フィオナも言ったが、ウーゴ殿はルシアンが幼い頃からミルズ殿とアメリアを気に掛けて何度も家に行っていたからな……」

フィオナ「……なんか、嫌だな」

ケイト「ああ…そうだな」


【修練場】


ルシアン「爺ちゃんが教えてくれてたのか、爺ちゃんつえぇんだな」

ヴェンデル「まあな、本気出せばファーガスも一発で倒せるぜ?」

ルシアン「ホントか!? すげえな…」

ヴェンデル「なあルシアン」

ルシアン「どうした?」

ヴェンデル「今からオレが、爺ちゃんが質問するから答えてくれ」

ルシアン「なんだ? 急にこわい顔して?
     でも分かった。しつもんってなんだ?」

ヴェンデル「………ルシアン、ウォルトがウーゴに斬られた後の事を覚えているか?」


ルシアン「覚えてない…ウォルトから血がたくさん出て、死んじゃいやだって思ったんだ。
     そしたら体がブワッてあつくなって、後は……覚えてない」

ヴェンデル「ルシアン、ウォルトは助かりウーゴは死んだ」

ルシアン「ウーゴのオッサンが…?」

ヴェンデル「(迫り来るその時の為。
       オレの我が侭、オレの孫ならばと……だが死から目を逸らしてはならない。
       今伝えなければ其処を突かれる、いずれ来る闘いの時に…)」

ルシアン「爺ちゃん、どうした?」

ヴェンデル「……ウーゴを殺したのはルシアン、お前だ」


ルシアン「えっ……爺ちゃん…なに言ってんだ…?」


ヴェンデル「その場にはお前とウォルトしか居なかった。
      それに、お前が助けたウォルトが言ったんだ。間違い無い」

ルシアン「そんなの…そんなのうそだ……」

ヴェンデル「お前はウォルトが…
      お前を助ける為に身体を張った友が嘘を吐いてるって言ってんのか?」

ルシアン「…ッ!! だって…オレは覚えてない!!」

ヴェンデル「ならウォルトはどうやって助かった? 誰が助けた?
      お前とウォルト、ウーゴ以外その場に居なかったのに」

ルシアン「……分かんねえよ」


ヴェンデル「瞳が紅くなり、身体は真っ暗闇、二本の角。
      それがウォルトを助け、ウーゴを殺した『お前の姿』だ」

ルシアン「そんなの分かんねえよ!!!」

ヴェンデル「お前は三種族でも人間でもない」

ルシアン「ッ!! じゃあオレは『何』なんだよ!! ばけものか!? あくまか!?」


微かだが瞳に紅が見えた……


ヴェンデル「……ルシアン、受け入れろ。
      ウォルトを助け、ウーゴを殺したのはお前だ」

ルシアン「ちがう!!! オレはそんなことしてない!!」


ヴェンデル「ウォルトは見ていた、剣でウーゴを殺したお前をな」

ルシアン「……そんなのうそだッ!!!」


瞳の紅が増す、髪が逆立つ…

徐々に身体が闇に包まれてゆく……


ヴェンデル「……ウーゴを殺したのは、ルシアン…お前なんだ」

ルシアン「うっ…ウォォアアアアア!!!」


拒絶か自己防衛か……そして崩壊、変貌し…


『それ』は姿を現した。


ヴェンデル「(伝なきゃならねえ、命を……コイツに、『ルシアン』に。
       流石にまだ五つの可愛い孫に『事実』突き付けるのは…
       いや……もう覚悟は出来てる)」

ルシアン「グォアアアッ!!!」

ビシッと床が軋み、ルシアンは突進する。

ヴェンデルは、『祖父』は場から動かない…そして、

ぼきぼきっ…と砕け、折れる音が響く。


ヴェンデル「ぐっ…!!」

凄まじい速度の突進を受けながらも、退かない……


ルシアン「ハァアアアア……」

眼前の『敵』を倒す為、

拳を脇腹へ放つ…

めきゃっ…と肋骨を砕き、拳が突き刺さる。


ヴェンデル「がっ…いってえっ…!!」

耐えきれず膝を付き、

紅い瞳を見つめ、祖父は言う。


ヴェンデル「ルシアン、お前が何だろうと構わねぇよ。
      でもな…力に逃げるのは止めろ。お前は友を救ったが一人の命を奪った。
      これは変えようのない事実だ。逃げるな、ルシアン…」

ルシアン「ウゥ…アァアアア!!」

ヴェンデル「駄目な爺ちゃんだ……まだ小せえのに難しい話ししてゴメンな…」

ルシアン「…アッグ……アァ…」


動きが止まる。躊躇しているのか、言葉を理解しているのか……


ヴェンデル「ルシアン…オレは『何』なんだ? って言ってたな。
      そんなのは簡単な事だ、教えてやる……」

ルシアン「ガァァッ!!」

だが、再度動き出す。

そして膝を付いたヴェンデルの顔面へ右拳を……


ヴェンデル「お前はアメリアとミルズの息子で…オレとマルセラの可愛い可愛い孫だ」


突如、拳がビタリと止まる……


ヴェンデル「だから……」




ルシアンの紅い瞳から、




ヴェンデル「だから、もう『泣くな』」








『涙』が、あふれていた……


ルシアン「アア…うぅっ……はぁっ、はぁっ…」

ヴェンデル「……目、覚めたか?」

ルシアン「……!! 真っ黒だ……角も…ある」

身体のあちこちを触りながら、

ルシアンは自身の変化を目の当たりにする。


ヴェンデル「ルシアン、怖れるな。
     『それ』は誰かを救う力だ。傷付ける為のもんじゃねえよ…」

ルシアン「でも角生えて、体が真っ黒だ……爺ちゃんは怖くねえのか?」

ヴェンデル「ははっ!! オレには天使に見えるぜ?
      色が黒いのは、どっかの馬鹿が間違えたのさ」

ルシアン「じゃあ角は?」

ヴェンデル「輪っかと間違えたんだろ……ッ…うぐっ…」


ルシアン「爺ちゃん!? オレがなんかやったのか!?」

ヴェンデル「爺ちゃんの胸に飛び込んで来ただけだ。
      ちょっと勢いがあり過ぎたけどな……」

ルシアン「爺ちゃん……腹、いてえのか…?」

姿はそのままに、ヴェンデルの脇腹に手を当てる……


ヴェンデル「……!?
     (痛みが消…いや『治って』るのか!?)」

ルシアン「早くパルマの婆ちゃんのトコに……
     でも体が戻んねえ…爺ちゃん、オレどうし

ヴェンデル「大丈夫だ。もう治ったからな」

ルシアン「んなわけねえだろ!? むりすんなよ…」


ルシアン「んなわけねえだろ!? むりすんなよ…」

ヴェンデル「ルシアン、聞け。
      お前に脇腹触られた時、良く分かんねえが治った」

ルシアン「そんなわけねえよ……」

ヴェンデル「爺ちゃんは嘘を吐かねえから本当だ……もう、大丈夫だ」

ルシアン「爺ちゃん、あたま大丈夫か?」

ヴェンデル「……心配すんな、大丈夫だ。
      お前の力は壊す事も癒やす事も出来るみてえだな」

ルシアン「治ったなら何でも良いけど…
     でも体が戻んねえ…戻れっ、戻れっ!!」


ヴェンデル「……ったく、仕方ねえな」

そう言ってルシアンの頭に手を伸ばし、撫でる……

ただそれだけ、撫でただけ。

だが角は消え、瞳も戻る。

そして身体に纏わりつく黒は、すっ…と失せた。


ルシアン「あっ、戻った……」

ヴェンデル「よし、じゃあもう一つだけ言っとく事がある」

ルシアン「ん? なんだ?」

ヴェンデル「ルシアン、[ピーーー]のは駄目な事だ。
      でもな、救える命を救わねえ方がもっと駄目だ…と、オレは思う。
      だからウーゴの事を忘れるな……責めてるわけじゃないぞ?
      アイツが普通じゃなかったのは聞いてるからな」


ヴェンデル「……ったく、仕方ねえな」

そう言ってルシアンの頭に手を伸ばし、撫でる……

ただそれだけ、撫でただけ。

だが…角は消え、瞳が戻る。

そして身体に纏わりつく黒は、すっ…と失せた。


ルシアン「あっ、戻った……」

ヴェンデル「よし、じゃあもう一つだけ言っとく事がある」

ルシアン「ん? なんだ?」

ヴェンデル「ルシアン、殺すのは駄目な事だ。
      でもな、救える命を救わねえ方がもっと駄目だ…と、オレは思う。
      だからウーゴの事を忘れるな……責めてるわけじゃないぞ?
      アイツが普通じゃなかったのは聞いてるからな」


ルシアン「うん、分かった。絶対忘れねえ……
     でも、ウーゴのオッサンはなんで」

ウーゴを「『そうさせた』悪者が居るのさ」

ルシアン「悪者?」

ヴェンデル「そうだ。だから明日から毎日オレと剣術の稽古をする。
      身も心も鍛えて『変わっても』お前のままで居られる様にする為に。
      そうすればミルズの……親父の助けに必ずなる」

ルシアン「……父さんは悪者と闘ってんのか?」

ヴェンデル「ああ、本当の闘いは少し先だろうけどな…」

ルシアン「そっか…じゃあやるよ。
     オレは父さんの息子で…爺ちゃんの孫だからな!!」

ヴェンデル「……!! ははっ、はははっ!!
      ああ、お前は正真正銘、間違い無くオレの孫だ!!」


それから二年が経ち……


ミルズ、アメリア、ルシアンは城に入った。

城に入りルシアンが八つになる頃、長女セシリアが誕生。

セシリア誕生の際も動きは無く、

狙いはヴェンデルの予想通り王位継承の時であると決定付けられた。

そして、この時からルシアンはファーガスの元に預けられる事となる。

これはセシリアが生まれた直後だった為、

口には出さずとも誰もがルシアンは捨てられたのではないかと考えた。

実際は『そう』見せかけた偽装であり、

マーカスの目からルシアン(ルシアンの力)を遠ざける為に成された処置である。

故に親族は当然の事、尚且つ女王の命により城の者の見送り等一切許されないと言う徹底されたものだった。


だが此はルシアン自身も承知しての事。




そしてルシアンが十五の頃、遂に王位継承の時が訪れる。





【過去編#2 終了】


ああ…もう……本当にごめんなさい。

今日は此処で終了します。

ピーッてなりましたね…真面目な場面でピーッて…

見てくれた方、レスしてくれた方、ありがとうございました!!


感想等ありましたら是非お願いします。



【王位継承式・前日】 【ドワーフの里・山林】


ファーガス「なっとらん!!」

ルシアン「うっせえ!! 遠くからペチペチペチペチ…面倒くせえんだよ!!」

ファーガス「ああ…確かにお前は『ヴェンデル』の孫だ……
      十三の頃、柔剣を素手で掴んだ時点で気付くべきだった」

ルシアン「馬鹿にしてんのか爺…」

ファーガス「この糞餓鬼、まだやられ足りん様だな…」


「はいはい、そこら辺で止めなさい。
 それに血の気が多いのはファーガスもヴェンデルも変わらないわよ」


ルシアン「パルマの婆ちゃん、弁当作って来てくれたのか!?
     全く…爺もパルマの婆ちゃんと結婚してり


バッチィッッ!!! ルシアン「いってえ!!! 人がよそ見してる時に…この卑怯者!!」


ファーガス「よそ見する方が悪いんじゃ、馬鹿者」

パルマ「確かにミルズよりヴェンデルに似てるわね」

ファーガス「ふん、忌々しい程に似とるわ…」

パルマ「ふふっ、取り敢えず食べましょう?」

ルシアン「んじゃ、いただきます」

ファーガス「パルマ、いつも済まんな…」

パルマ「マルセラの頼みだもの仕方無いわ。
    ファーガスも早く食べなさい、ルシアンに全部取られちゃうわよ?」

ファーガス「コイツはちっとも遠慮せんからな……では、いただきます」


………………

……


パルマ「用も済んだし、私は戻るわ。
    あまり熱くなり過ぎ無いようにしなさいよ?」

ルシアン「分かってるって、弁当ありがとな!!」

ファーガス「いつも済まんな…」

パルマ「いいのよ……私にはこれくらいしか出来ないから。
    ルシアン、頑張りなさい……」

ルシアン「おう、ありがとな」

ファーガス「…………」

ルシアン「爺、どうした?」

ファーガス「……いや、何でもない」

ルシアン「……?」


……………

……

ルシアン「全く、爺ちゃんが『オレが教える事は無い、ファーガスのトコで修行しろ』って言うから仕方無く来てやったのに……
     爺ちゃんとは型も何も違うからやりずらくて仕方ねえよ」

ファーガス「ヴェンデルの剣術はお前に合っている、故に儂に預けたのだ。
      相性の悪い相手にも勝てるようにな…」

ルシアン「まあ、最近は勝てる様になってきたからな。
     爺ちゃんの剣術の方が強いってのが証明された訳だ」

ファーガス「馬鹿者!! 慢心するなと何度も言っとるだろうが!!
     (奴の目指した剣術は豪快、且つ付け入る隙を与えない剣術だったが限界があった。
      それは連撃の際、関節に負荷が掛かり過ぎる事。だが、ルシアンは物にしつつある)」

ルシアン「ああ、分かってる……爺、もう一度頼む」

ファーガス「うむ、良いだろう」


ルシアンは右肩に担ぐ様な構え。

ファーガスは刀身を背後に隠した居合いの構え。


ルシアン「じゃあ、行くぜ!!」

一気に間合いを詰め担いだ柔剣を袈裟斬りに振り下ろす。


ファーガス「(……見てみるか)

左肩を引く最小限の動きで躱す。


ルシアン「(よし、こっからだ)」

地面すれすれまで振り下ろされた柔剣はグンッと戻り右脇へ……が、これも躱される。

振り抜いた際、ルシアンの胴はがら空き。


ファーガス「(………)」

だがファーガスは動かない、
まだ子供とは言え十年間絶やさず修練を続けた者がこんなあからさまな隙を生むわけがない。


ルシアン「(やっぱ読まれてんのか…)」

思い切り振り抜いた柔剣は、
勢いはそのままにルシアンの背面をぐるりと一周しファーガスの右肩に迫る。

バヂッッ!! ファーガス「(うむ…重い)」


ルシアン「(受けた……次は)」

瞬時に柔剣を戻し、肘を身体に引き付け……

ズッ!! と突きを放つ。


ファーガス「むっ…」

突きは一度では終わらない、

二、三、四……と速度が増していく。


ファーガス「(これがヴェンデルの目指した剣術か…燃え広がる炎の如き剛の剣。
     『普通』ならば筋肉は断裂し、肩など外れている筈……魔の者達…か)」


胸や肩・顔面や腕へと次々に的を変え放たれる突き。

ファーガスは柔剣を振り子の様に小刻みに左右に動かし一つ一つ確実に弾く。


ルシアン「(これで決める!!!)」

最後の突きは敢えて狙わずにいた胴…

ズドッ!! ルシアン「がっ…!!」


ファーガス「甘いわ…最後の突きの溜めが大き過ぎる。
      狙いが丸分かりだ……馬鹿者」

だがルシアンの突きが届く前にファーガスの突きが鳩尾に入った。


ルシアン「……爺の腕がなげえんだよ」


ファーガス「言い訳か? ミルズは一度も言い訳なぞしなかったが……」

ルシアン「言い訳じゃねえ!! ほら…あれだ…事実を言ったまでだ」

ファーガス「…ルシアン」

ルシアン「何だよ、真面目な顔して」

ファーガス「お前の為に剣が在るのではない、剣の為にお前が在るのだ。
      剣はお前自身、お前自身が剣。いや……全てがお前の為に在り、お前は全ての為に在ると知れ」

ルシアン「分かんねえ…けど忘れねえ。覚えとく」

ファーガス「今はそれでいい。ルシアン、明日の事だが」

ルシアン「分かってるよ、全部の里守れば良いんだろ?」

ファーガス「そうだ、だが…斬れるか?」

ルシアン「斬れる。斬って……背負う」


ファーガス「そうか…ならば何も言うまい。それと……『変われる』様にはなったのか?」

ルシアン「ああ、大丈夫だ。多少荒っぽくなったりするけど…他は問題無い」

ファーガス「ヴェンデルに言われた事を忘れるな。力に逃げてはならん、そして力に酔ってもいかん」

ルシアン「分かった」

ファーガス「よし…今日は終いだ『家』に帰れ」

ルシアン「その……なんだ…爺、いつもありがとな」

ファーガス「……!? ふん、いいからさっさと帰れ」

ルシアン「おう、じゃあな」

ファーガス「(以前と比べ、気負いや堅さがなくなり柔らかくなってきている。成長か……)」


……………

……


ジーナ「なあイネス、ルシアンの奴は大丈夫かな?」

イネス「城から……その…出てからファーガスさんの所で騎士になる為に修行? してるみたいだけど……
   『あの時』から遊ばなくなったし、会っても素っ気ないし」

ジーナ「……だよな。なんか戦が起きるって言うし…心配だな…」

イネス「ねえ、ジーナ」

ジーナ「なんだ?」

イネス「ルシアンが好き?」

ジーナ「へっ!? あ…えっと……うん、アタシはルシアンが好きだ」

イネス「ふふっ…そっか、じゃあ今度は私達が助けないとね?」

ジーナ「…!! そっか…そうだな」



ウォルト「だってよ…ライル」

ライル「じゃあ、オレらもやるか?」

ウォルト「当たり前だろ? アイツは友達だ。あれから殆ど会わなくなったけど……それは変わんねえよ」


ライル「ああ…そうだな!!」

ウォルト「馬鹿!! デカい声だす


ズンッ!! ウォルト「ナァッ!!!」


ジーナ「聞こえてんだよ!! バカ!!」

ウォルト「待…て…本当に痛く…て声が……出ねえ」

ライル「ジーナ、ソコを蹴るのはこれっきりにしてくれ…見てるだけで痛くなる」

イネス「盗み聞きはダメだと思うな…」

ライル「ひっ!! なんで背後取ってんだよ!! こえぇよ!!」

ジーナ「今聞いた事、ルシアンに言ったら」

ライル「言わねえ言わねえ!! だから玉蹴るのは止めてくれ!!」

ウォルト「…いてぇ…いてぇよぉ」

イネス「男の子なんだからしっかりしてよ」

ウォルト「じゃあ男の子の蹴っちゃいけない所蹴るなよ!! 痛すぎて涙も出ねえよ……」

ライル「と、とにかくルシアンが一人で無茶しないようにオレ達で助けるんだろ?」


ジーナ「うん、だから……」

ウォルト「分かってるって!! もう『あの時』とは違うんだ。オレ達にも何か出来る事がある筈だ」

ライル「そうだな、仲間外れは嫌だしな」

イネス「うん、そうだね」

ジーナ「ホントか!? じゃあ…」

ライル「でも闘うのはダメだ…オレ達とルシアンじゃ違い過ぎる」

ウォルト「じゃあどうするよ?」

ライル「囮くらいか?」

ウォルト「お前らは良いけどオレは捕まるじゃねえか……」

ジーナ「…………」

イネス「……………」

ウォルト「ちょっと待て、何か言えよ…」

ライル「取り敢えず出来る事をする!! これで行こう」

イネス・ジーナ「うん!! おうっ!!」


ウォルト「おい…」


………………

……

ルシアン「ただいま……
    (父さん、母さんと暮らした家……今はオレ一人)」

ガルト「よっ、お帰り!!」

ルシアン「なんでお前が居るんだよ!!」

ガルト「親父がルシアン寂しがってるから行って来いって」

ルシアン「…ったく、変な気使うんじゃねえよ」

ガルト「ルシアン、もうすぐだな…」

ルシアン「ああ…そうだな」

ガルト「闘うのか?」

ルシアン「……ああ」

ガルト「…そうか」

ルシアン「もう里長を通して避難場所や戦闘の準備は始まってんだろ?」

ガルト「ああ、親父はミルズさんから直接聞いてたよ。ルシアンはどうするんだ?」

ルシアン「民を巻き込む怖れもある。各里をマーカス側の騎士から守れってよ」

ガルト「……長かったな、ルシアン」


ルシアン「ああ…十年、十年間修練してきた。
     城を出てからは父さん、母さん…爺ちゃんと婆ちゃんとも会わず、毎日毎日な…」

ガルト「…………」

ルシアン「妹にすらオレの存在を伏せて……でもまあ、父さん…家族の助けになりてえから自分で望んで修練してきた。
     だから周りの奴等に捨てられたとか言われても平気だったよ」

ガルト「ルシアン」

ルシアン「なんだ?」

ガルト「お前は一人じゃねえぞ」

ルシアン「……!!」

ガルト「ライル、イネス、ウォルト、ジーナ、勿論オレも……
    皆がいるんだ!! だから大丈夫だ!!」

ルシアン「…お前は本当にうるせえな……まあ、ありがとよ」

ガルト「それとルシアン、これを受け取ってくれ…親父からだ」


ルシアン「剣……オレの為に?」

ガルト「頼みに来たのはお前の爺ちゃんだ。
『絶対に折れない、何でもぶった斬れる、そんな剣を作ってくれ』そう言ってたよ」

ルシアン「ははっ、爺ちゃんらしいな……コレがオレの剣か、見るからに重そうだな」

ガルト「と言うか、お前しか振れないだろうな…持ってくるの大変だったんだぞ?」

ルシアン「ありがとよ、でも…オレはこの剣で…

ガルト「分かってる。でもな…『それ』が剣だ。守る為だろうが何だろうが結局は傷付ける物に変わりない。
    でも、どう使うか…剣を持つ者の意志によって剣は変わる」

ルシアン「それはオッサンが?」

ガルト「ああ、そうだ」

ルシアン「そうか…覚えとく」

ガルト「んじゃ!! 飯にしようぜ!!」

ルシアン「誰が作んだよ?」

ガルト「ルシアンに決まってんだろ?」

ルシアン「ガルト…お前もう帰れ……」


………………

……

「いよいよだね?」

ミルズ「……マーカス」

マーカス「君が王になる日をどれだけ待った事か……とても楽しみだ」

ミルズ「随分待たせたな」

マーカス「待たされた分、きちんと祝う準備が出来たから良いさ」

ミルズ「……なあ、マーカス」

マーカス「何だい?」

ミルズ「救うとか救えないとか…そうじゃない。失う覚悟は出来てる」

マーカス「素晴らしい……君は強くなった。実に楽しみだよ」

ミルズ「マーカス……お前は何を望んでいる?」

マーカス「望みなどないさ、役割だよ。私には私の、君には君の役割がある……それだけだ」

ミルズ「……そうか」

マーカス「では、また会おう」



ミルズ「ああ…また会おう」


………………

……

ケイト「いよいよか…不謹慎だが被害は城内だけで済んで欲しい。里の皆が心配だ」

フィオナ「一応避難場所とか色々決めてるみたいだけどな…戦が起きる前にマーカスを取っ捕まえれば…」

ケイト「なんの証拠も無く騎士内で絶大な信頼のある者を捕まえれば終いだろうが」

フィオナ「だよな…面倒臭いな?」

ケイト「確かにな…分かっていながら手出し出来ないのはムカムカする」

フィオナ「あれから十年、ルシアンは家族と会えずに毎日頑張ってた……
     女王様もセシリアには戦が終わるまでルシアンの存在を伝えないとかしてたし」

ケイト「兄が居るとなれば会いたがるに決まっている……徹底して民に印象付けたかったのだろうな」

フィオナ「……ルシアンを捨てたってか?」

ケイト「……ルシアンの力を隠す為だ。ルシアン自身も承知しての策…子供が背負うには大き過ぎるとは思うがな」

フィオナ「ルシアンは凄いな…泣かなかったし堂々としてた……」

ケイト「ああ、父の…ミルズ殿の力になりたいと、そう言っていたからな。
    意志が強い所はミルズ殿に似ているな…性格はヴェンデル陛下に似ているが」

フィオナ「でも、戦が終われば家族揃って暮らせる」

ケイト「そうだな、だから私達が出来る事をしよう。プロテアの為、アメリアの為、我が子の為に」

フィオナ「……うん、そうだな」



【王位継承式前日・深夜】


ミルズ「セシリアは?」

アメリア「眠ってるわ。それより……」

ミルズ「大丈夫だ。この戦が終われば四人で暮らせる…そうなればセシリアに兄の存在を隠す事も無くなる」

アメリア「もう七年も会ってない……戦の為に其処までしなければならないなんて」

ミルズ「其処までしなければルシアンを守れなかった。
    あの子に少しでも情があるとなれば即座に感づかれ、狙われていた。
    何よりあの子の力はマーカスに気付かれてはならなかった」

アメリア「そうね……」

ミルズ「もう夜も更けた。そろそろ…」


アメリア「ええ……分かったわ」


………………

……


マーカス「我々の目的はプロテアを支配し、然るべき『準備』の後、外界へ進出する事だ。
     我々は優れた力を持ちながら幽閉された哀れな者達……だが今こそ示すのだ、我々が優れた種である事を!!」



「「「おおぉっ!!!」」」



マーカス「では誓いの杯を交わそう。我々の未来の為……勝利を!!」



「「「勝利を!!!」」」



マーカス「(我ながら茶番をやっているな……)」




「「「うっ…ぐぅっ……」」」




マーカス「(効いてきたか……もう後戻りは出来ない。
      これが私の『役目』、プロテアを照らし導くのは……)」


……………

……

マルセラ「ヴェンデル…」

ヴェンデル「ん? どうした?」

マルセラ「何が起きてもあの子達……
     ミルズとアメリア、そしてルシアンとセシリアは私達が例えどうなろうと……」

ヴェンデル「死ぬ事なんて考えなくていい……家族全員で暮らす、それだけ考えてれば」

マルセラ「……そうね。皆で笑って暮らす…それだけで良い。他には何も望まないわ」

ヴェンデル「だな、早く成長したルシアンを見たいもんだ。
      オレに似てかなりイイ男になってるに違いねえ」

マルセラ「ふふっ、そうね。早く会いたいわ、何よりセシリアに会わせたい……」

ヴェンデル「ああ…」

マルセラ「………ヴェンデル、明日は早いしもう休みましょう」

ヴェンデル「……そうだな。お休み、マルセラ」


マルセラ「お休みなさい、ヴェンデル」

まだかなー


投下します。


【王位継承式前日・深夜】


ルシアン「(眠れねえ……剣でも振るか)」

ガチャ…パタン


ルシアン「(明日…いや、もう今日か……オレはあの時とは違う。
      殺す事で、誰かの人生を絶つ事で誰かを守れるんだったら……いや、これじゃダメだ。
      どうしたら殺しが正しくなるか…なんて考えるな。そんな都合の良いもんは存在しねえ)」


「ルシアン」


ルシアン「誰っ…!? えっ? 母さん?」

アメリア「眠れないの?」

ルシアン「うん…って、なんで此処に…びっくりし過ぎて頭が回らねえよ」

アメリア「城が狙われるのは間違いない…だからシルヴィアとネヴィルの所に来たの。セシリアと一緒に」

ルシアン「そっか…」


アメリア「ねえルシアン、もし本当に戦が起きたなら…其処に正義なんて無い。
     唯一正しいのは戦を…間違いを終わらせることだけ……だと私は思うわ」


ルシアン「そっか…うん、そうかも知れねえな。ありがとう、母さん」

アメリア「背、大きくなったわね……『強く』なれた?」

ルシアン「うーん…分かんねえ。でも父さんの強さとはきっと違うと思う」

アメリア「目指す強さは違っても見ている物はミルズと同じ……
     真っ直ぐで綺麗な瞳、とても似てるわよ?」

ルシアン「そうかな……ん? あれは…!!」

アメリア「狼煙…エルフ里からだわ。まさか始まったの!?」

ルシアン「ッ!! 母さん、おんぶすっから掴まれ!! オレが連れてく!!」

アメリア「え、ええ…分かったわ」


ルシアン「よしっ、行くぞ!!」



………………

……


ガチャ!!


ルシアン「シルヴィアの姉さん!! ネヴィルの兄さん!!」

シルヴィア「ルシアン!? どうしたの!?」

アメリア「エルフの里から狼煙が上がったの……」

シルヴィア「…!! そんな…ニコラ……」

ネヴィル「シルヴィア……今は無事を祈ろう」

シルヴィア「…そうね……」

ルシアン「戦は始まっちまった。母さんとセシリアを頼む」

ネヴィル「ああ、任せてくれたまえ」


ルシアン「それと来る途中オッサンとガルトにも伝えといた。何かあれば必ず助けになってくれる筈だ」

シルヴィア「ありがとう、ルシアン。助かるわ」

ネヴィル「……ルシアン君、行くのかい?」

ルシアン「……ああ、行くよ」


「母さん、どうしたの? あれ…お兄ちゃんだれ?」


ネヴィル「セシリアちゃん…目が覚めたのかい?」

ルシアン「……っ…
    (大きくなったな、七年だもんな……当たり前か)」

アメリア「セシリア…何でもないわ、母さんは大丈夫よ。
     ルシアン、終わったら……皆で、家族皆で暮らしましょう」

ルシアン「うん!! じゃあ…行ってくる!!」


バタン…


セシリア「母さん、何でないてるの? かなしいの?」

アメリア「大丈夫……母さんは大丈夫よ…」

シルヴィア「……セシリア、ネアは?」

セシリア「ねてるよ?」

ネヴィル「じゃあ起こしてくれるかい? 少しお話しがあるんだ」

セシリア「うん、わかった」

シルヴィア「アメリア…」

アメリア「大丈夫…あの子は父様の孫で、ミルズの息子だもの…」


シルヴィア「ええ…そうね」


………………

……

【ドワーフの里】


ファーガス「セオドア!! 避難は終わったか!?」

セオドア「はい、終わりました!! ですが何故エルフの里に……」

ファーガス「……分からん(パルマ…死んでくれるなよ)」

ファーガス「ところで獣人の里には…」

セオドア「それが…」

ファーガス「どうした?」

セオドア「家のバカが、『オレが伝えてくる』と……」

ファーガス「あの馬鹿者……だがクライヴに任せれば安全であろう」

セオドア「そうですね。あの…ファーガスさん」

ファーガス「なんだ?」

セオドア「助けに…エルフの里に行かないんですか」

ファーガス「……儂が離れている時に攻められれば元も子もない。
      里の者が避難場所に身を潜めているとは言え、侵入を許せばいずれ見つかってしまう」

セオドア「そう…ですね」


ファーガス「案ずるな、ヴェンデルはすでに騎士を向かわせている筈だ。
      城が手薄になるからと言って騎士を割くのを躊躇う男ではない」


………………

……

【獣人の里】


クライヴ「ライル、ウォルト!! お前等も早く行け!!」

ライル「……親父」

クライヴ「なんだ」

ライル「オレ達を…ルシアンのとこに行かせてくれ」

クライヴ「クソガキ、殴られてえのか?」

ウォルト「……クライヴさん、行かせて下さい」

ライル「殴られても行くぜ…アイツは友達なんだ……」

クライヴ「お前等もか?」

イネス・ジーナ「…ッ!! はい…」


クライヴ「……特別任務だ。お前等四人は里の外れにある三軒の家に『始まった』と伝えて来い。
     それが終わったらすぐに帰って来い、いいな」


ライル「…!! 分かった!!」

クライヴ「後、間違っても『闘おう』何て思うな。お前等が死んで一番悲しむのは親だ…それを忘れんなよ」

ジーナ「うん…分かった」

イネス「…はい、分かりました」

ウォルト「あの、クライヴさんは奴等が来たら…闘うんですか?」

クライヴ「ああ、里で闘える奴はオレを含め少ししか居ねえがやるしかねえ。
     それに里……いや、子供達と爺さん婆さんを守るのはオレ達の役目だからな。
     分かったら早く行け、独りは辛いだろうからな……」


「「「「…!! はい!!」」」」


……………

……

【エルフの里】


『『アメリアとセシリアは何処だ』』

パルマ「城に居るでしょう。とっとと城を攻めれば良いでしょうに…」

『『戦が始まる前日だ。城に居る可能性は低い。故に信頼の置ける者の所に身を寄せている可能性が高い』』

パルマ「……私の家には居ないわね
   (複数人が同じ言葉を口にしている。薬物を飲ませ洗脳でもしたのかしら…
    以前ミルズに聞いたけれど確かに気味が悪いわね……)」

『『貴女にも用がある、同行を願おう』』

パルマ「…ええ、いいでしょう
   (胸騒ぎがしたから皆を無理やり起こして避難させたけど…正解だったわ。『この』騎士達は正気では無い、しかし統率されている。
    それも不気味だけど何より生気がまるで感じられ無い。最早人形だわ…惨い事を……)」

『『では、火を放て』』

『『了解』』

パルマ「…!! 何を!?」

『『里の何処かに隠れている可能性もある』』

人形と化した騎士達は、松明を持ち至る所に火を着けていく…

パルマ「止めなさいっ!!」

『『黙らせろ』』

『『了解』』


ドスッ… パルマ「うっ…」


「おい……今すぐパルマの婆さんを離せ」


『『パルマを連れドワーフの里へ迎え、ルシアンは我々が』』

『『了解』』

二十名程が残りルシアンの行く手を阻む様に陣を組み、

『『戦闘開始』』

そして一斉に剣を抜き放つ。


ルシアン「(パルマの婆さん、すぐ行くから待っててくれ。
      爺、大丈夫だ…もうオレは力には逃げねえ)」

周囲を燃やす炎、その熱が剣を通して伝わってくるのか…

自身の内から湧き上がる何かが剣を熱くしているのか…

ルシアンの瞳が紅く輝く……


ルシアン「覚悟は出来てる。来ねえなら……」

右肩に銀の大剣を担ぎ…


ルシアン「……行くぜ」

土が深く抉れる程凄まじい踏み込みと共に、


一直線に『敵』へと向かって行く。


>>460 ありがとうございます。

今日は此処で終了です。

時間掛かった割に少なくて申し訳ない…

見てくれてる方、待ってくれてた方、ありがとうございます!!

感想などありましら是非お願いします。

おっつ
漫画でも回想シーンが長いとだれるよな

それと俺の頭がやばいww
ちょっと間が空くとキャラと名前が一致しなくなる


>>475 ありがとうございます。
    独特な語尾でもつければ良かったです。『だってばよ』的な…

投下します。 



『『防御』』


ルシアン「(母さん、ごめん。
      間違いは間違いでしか終わりに出来ないみたいだ……)」

右足を軸にぐるりと身体を回転させ、担いだ剣を横一文字に思い切り振り抜く。


『『あぎゃっ…』』

バギンッ!! と剣を叩き折り、斬り伏せる。


『『突撃』』

何事も無かった様に、一切の迷いも無く、告げられる。

そして間を置かず前方左右から敵が迫る。


ルシアン「(奴等には怒りも憎しみもねえ……
      胸が痛てぇ…まるで自分に剣を突き刺してるみてえだ)」

ルシアンは攻撃を躱し、躊躇わず…斬った。


『『突撃』』

     『『突撃』』

          『『突撃』』

               『『突撃』』


繰り返し…繰り返し…ルシアンは斬り続けた。


………………

……


ルシアン「………終わっ…た。火…消さねえと…」

二十数名を斬り伏せたにも関わらず息一つ切らしていない。

疲弊しているのは心だった…『背負う』などとは言ったものの十五の子供。

先程までの死と隣り合わせと言う状況から脱し、

独りとなった今、込み上げて来るのは勝利の喜びなどでは無く……


ルシアン「ゴフッ…げほっ…げェッ…」

単純に、斬り殺した罪悪感と吐き気だけだった。


ルシアン「ハァッ…ハァッ…やる…ぞ」

息を整え…ルシアンは『変わる』。


角や瞳は以前と同じだが皮膚は甲殻類の装甲、纏う空気も以前とは違う。


ルシアン「…大丈…夫だ」

そう、言い聞かせる。

そして身体を思い切り捻り、大剣を面にして振るう。

瞬間

ゴォッ!! と凄まじい風が吹き、一瞬の内に周囲の炎を掻き消した。


ルシアン「よ…し、次は…次は何をしたら……うっ…」

二十数名の死に顔が蘇る。

『自分』が斬った、殺した者の顔…顔…顔…顔…顔…顔…


顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔


顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔


顔顔顔顔顔顔顔……


ルシアン「げはっ…げっ…ゥゲェッ…ハァッ…ハァッ」


「ルシアン!!」


ルシアン「ハァッ…ハァッ…? あ? ニコ…ラ…?」

ニコラ「…ッ!!」

掛ける言葉が見つからない。

何を言っても届かないと……そう感じた。


ルシアン「早く…戻れよ。また来るかも…知れねえ」

ニコラ「もう……いいよ。辛いなら…もう、いいから」

返り血と吐瀉物にまみれ膝を突くルシアン、


それを見た途端ニコラの瞳から涙があふれ、気付けば抱きしめていた。


ルシアン「…ゲロつくぞ」

ニコラ「馬鹿…いいよ…そんなのいいから……だから」

ルシアン「ニコラ……オレ…は、殺した…」

ニコラ「グスッ…だから、そんな顔…しないでよ」

まるで先程まで戦っていた騎士の様な生気の無い表情。

ニコラは只抱きしめる事しか出来なかった。


ルシアン「泣くなよニコラ……なあ…オレは、弱いな」

ニコラ「弱くてもいい……ごめんね? ルシアンなら大丈夫だって……勝手に思ってた」

ルシアン「うぅっ…オレ…は、オレはッ…」


ニコラ「もういいよ…だから、泣いていいんだよ?」


ルシアン「うっ、うぅっ…うあぁぁぁああッ!!!」


押し留めていた感情が爆発し、涙があふれ出す…

ルシアンは感情を殺す事で他者を殺めた自分から目を背けたが、


何から逃れようと『自分』からは決して逃れることは出来ない。


………………

……

ニコラ「…落ち着いた?」

ルシアン「……ああ、大丈夫だ」

ニコラ「また『あんな顔』したら叩くわよ」

ルシアン「……ニコラ、ありがとな」

ニコラ「……うん」

ルシアン「もう、逃げねえから」

ニコラ「……うん(虚勢じゃない…もう『大丈夫』だね)」

別段何かが変わった訳では無い、


だが……認め、受け入れたルシアンの瞳は以前より強い光を宿していた。


【ドワーフの里】


ファーガス「……来たか」

手にした剣の柄に手を掛け、構えを取る。


『『動くな』』

ファーガス「何?」

『『動けばパルマを殺す』』

ファーガス「パルマだと…? 何を言っ

前方に居る者達が左右に開く、するとその奥に気を失っているパルマが見えた。


ファーガス「…………」

それを見たファーガスは俯き、剣を地に置き膝を突く。


『『それでいい』』

剣を抜き数人がファーガスに近付く、だが誰も気付いていない。

彼等が人形では無かったら、

『騎士』として此処に立っていたのなら気付いただろう…

ファーガスの瞳に、気配に、諦めの色など一切無い事に。


『『殺ッ

言葉を発した瞬間、近づいた者全ての身体が『ずれた』。

ファーガスが見ていたのは近付く者の足だった。


己の刃圏に入った『敵』を斬る為に。


ファーガス「………」

『『パルマを殺せ』』

『『了解』』

即座にパルマに剣を振り下ろす。


ファーガス「遅い…」

斬り終えた直後、ファーガスは既に間合いを詰めていた。

パルマに剣は振り下ろされる事無く、剣を持った腕のみがくるりと宙を舞う。

そして残った敵のど真ん中に飛び込み、剣を振るう。


『『は…』』

十数名は居た者達全員が状況を理解出来ていない。

ある者は胴を、ある者は首を斬られている。

ああ、自分は斬られたのだ……


そう認識した時、其処に居た敵全てが光の粒となり消えた。


………………

……

ファーガス「パルマ」

パルマ「なにかしら?」

ファーガス「怪我は無いか?」

パルマ「…ええ」

ファーガス「そうか」

パルマ「ファーガス、怪我は無い?」

ファーガス「ああ、大丈夫だ」

パルマ「……そう」


「パルマさん!! ファーガスさん!!」


ファーガス「フィオナか…」

パルマ「遅かったわね」

フィオナ「途中で邪魔が入って……パルマさんはなんで此処に居るんだ?」

パルマ「私が居れば『どうにかなる』と勘違いしたのよ…
    それより里に戻らないと、送ってくれるかしら?」

フィオナ「…?? よし、分かった」

ファーガス「エルフの里、獣人の里には?」

フィオナ「エルフの里は、その…ルシアンが終わらせてた。
     獣人の里にはケイトが向かってる。」

パルマ「…!! そう……ルシアンが…」

ファーガス「……そうか、此処はもう大丈夫だ。パルマを頼む」

フィオナ「分かった」

パルマ「ファーガス、ありがとう。助かったわ」

ファーガス「礼はいい、早く里に戻れ。皆が待っている」

パルマ「……ええ、そうね。フィオナお願いするわ」

フィオナ「んじゃ、行こう」


ファーガス「……(これが戦……下らん)」


………………

……

【獣人の里】

クライヴ「皆無事か!? ヤバくなったら怪我人連れて直ぐ逃げろよ!! いいな!!」

「「おうっ!!!」」


『『突撃』』


クライヴ「チッ…うざってえんだよ!! オラ!!!」

突き出される刃を全て躱し敵の懐に転がり込む、

そして逆立ちの状態から畳んだ腕をぐんと伸ばし顎に蹴りを放つ。


『『あギァッ!!』』

獣人の本気の蹴りは容易く骨を砕き、文字通り首を引っこ抜く。


クライヴ「チッ…まだ来やがる」


「全騎士に告ぐ!! 直ちに『敵』を殲滅せよ!!」


「「はっ!!!」」


クライヴ「おお!! ケイトか、助かったぜ!!」

ケイト「皆、無事ですか!? 」

クライヴ「ああ、怪我人は何人か居るが大丈夫だ!! エルフの里は無事だったのか!?」

ケイト「ええ、ルシアンが……里の皆は無事です」

クライヴ「…!! そうか、ルシアンが……

     (クソが、ガキに重てえモン背負わせちまった……ミルズ、てめえはそれでいいのかよ?
      つーかアイツ等は無事なのか? ライル、死ぬんじゃねえぞ)」

ケイト「クライヴ殿…」

クライヴ「ああ、分かってる。今はこっちだな…」

人形と化しているは言え元は騎士、気を抜けば殺される。


『『突撃』』


人形故に、彼等には一切の迷いや躊躇いは無いのだから。



今日は此処で終了します。

読んでくれてる方ありがとうございます。


少しですが投下します。


【里の外れ】


ライル「じゃあルシアンはエルフの里に?」

シルヴィア「ええ」

ネヴィル「ルシアン君は覚悟しているだろうが……心配だね」

ジーナ「アイツは負けないよ」

ネヴィル「ジーナちゃん、そうじゃない。ルシアン君の気持ち、『心』を心配してるんだ。
     人を殺して平気な訳が無い。ルシアン君は確かに強いけれど、子供なんだよ」

ライル「(だから親父は……)」

イネス「……!! シルヴィアさん、ネヴィルさん、誰か来ます」

ネヴィル「……!! 分かった。では君達、頼むよ?」


ウォルト「はい」


……………

……


『『捜せ』』

『『了解』』

シルヴィア・ネヴィル「……………」


【屋根裏】


ライル「よし、敵は居ないな……縄は掛けたし早く行こう。イネスがセシリアを、ジーナがネアを背負って降りる。
    そしたら直ぐにアメリアさんと一緒にエルフの里に向かってくれ。
    ウォルトとオレは最後に降りる、いいな?」

ウォルト「おうっ、分かった」

アメリア「ライル君、ウォルト君、イネスちゃん、ジーナちゃん、ごめんなさい。巻き込んでしまって……」

ジーナ「ううん、良かった」


アメリア「えっ?」


ウォルト「オレ達は戦ったり出来ないけど……友達のお母さんを助ける事が出来る」

イネス「あの時、私達は何も出来なかったから。だから嬉しいんです」

アメリア「……!! 皆、ありがとう……」

セシリア「ネア、私こわい……」

ネア「大丈夫だよ、セシリア。私もいっしょだから、ね?」

セシリア「ネア……うん、ありがとう」

アメリア「セシリア、先に降りて待ってるわ。泣いちゃだめよ?」

セシリア「うんっ、わかった」


アメリア、イネス、ジーナの順に降り、エルフの里へ走り出す。

後はライルとウォルトが降りるのみ……


だが、そこで屋根裏の床扉が開けられた。


『『発見した』』


ライル「クソッ!!」

ウォルト「ライル、高いけど…跳べるか?」

ライル「オレは平気だ。でもウォルト、お前は……

ウォルト「ドワーフの里に行ってファーガス爺さんを呼んで来てくれ。
     ライル、お前の脚なら直ぐだろ?」

ライル「ッ!! ああ、分かった!!」


敵は其処まで迫っている、迷っている時間など無い。

ライルは即座に飛び降りドワーフの里へと走り出した。


『『捕らえろ』』

『『了解』』



ウォルト「(ライル、頼むぜ)」


……………

……


格里に多く向かわせた為か、ネヴィル夫妻の家に来た敵は十人に満たない。

だが、戦える者は居ない。


ウォルト「(縄も掛けられて無いし動ける。けど、動いたところで何も出来やしねえ……)」


『『何処に逃がした』』

ネヴィル「済まないが答えられない。私に聞くよりも捜しに行った方が早いと思うが?」

シルヴィア「(マズいわね…私達は覚悟はしてたけど、ウォルトが……)


『『殺せ』』

『『了か


ガチャ!!



「ネヴィル、シルヴィア、ウォルト!!」


ネヴィル「イザーク!!」

イザーク「おら!! 掛かってきやがれ!!」


滅茶苦茶に剣を振り回し声を張り上げる。

そして、敵の目は全てイザークへと向いた…


「おい…逃げるぞ」

ウォルト「……!! ガルト…!?
     ネヴィルさん、シルヴィアさん!!」


その僅かな隙を突いて四人は裏口へ走り出す。


『『戦闘開始』』


イザーク「おら!!」

背負っていた大きい袋を敵に叩きつける。


すると袋は容易く破れ、中から大量の白い粉が飛散した。



イザーク「おっしゃ!!」


敵の視界を奪い、逃走。


イザーク「コレでも食らえ!!」


だがイザークの投げつけた剣が敵の剣にぶつかり、


直後


ドガンッ!! と爆発した……


ガルト「なんだ!? 何か爆発したぞ!?」



ウォルト「何が起きたんだよ……イザークさん大丈夫か?」


ネヴィル「……ガルト君、イザークが背負っていた袋の中身は?」

シルヴィア「聞かなくていいわ……やってくれたわね」

ウォルト・ガルト「……??」

ネヴィル「本人は理解していないだろうが助かった。
     あのままでは私達も捕まっていただろうからね……戻ろう、イザークが心配だ」



シルヴィア「そうね、無事だといいけれど……」


此処で終了します。

読んでくれてる方、ありがとうございます。



【娘6の家・深夜】


吸血鬼「(どうすっかなあ……)」モヤモヤ…


吸血鬼「(ほら、オレって基本頼まれたら弱いタイプじゃん?)」


吸血鬼「(オレは優しいからなあ)」


吸血鬼「(しかも強いしな)」


吸血鬼「(そしてカッコいいし)」


吸血鬼「(全く……困ったもんだぜ!!)」


吸血鬼「(………………)」


吸血鬼「(……………………)」




吸血鬼「(…………………………)」スピー



つづく

間違えました。申し訳ないです。

少ないですが、投下します。



………………

……


【エルフの里】


イザーク「いってえ……」

パルマ「痛いのが分かるなら大丈夫よ。無知と言うのは怖いわね……」

ネヴィル「全くです。あの爆発の中、この程度済んだのが奇跡ですよ」

ガルト「親父、大丈夫か?」

イザーク「んな顔すんなガルト。オレは大丈夫だ!!」


ーーーーー


シルヴィア「ニコラ、無事で良かったわ」

ニコラ「姉さんも無事で良かった……
    爆発の音が聞こえた時、本当に心配したんだから」

シルヴィア「イザークの馬鹿がやってくれたのよ……
      でも、アレが無かったら此処に着く前に殺されてたわ。家の一軒くらい安い物よ」


ニコラ「ふふっ、そうね」




ーーーーー


ルシアン「皆……済まねえな」

ウォルト「馬鹿、謝るな。それより泣いたんだって? ニコラに聞いたぞ?」

ルシアン「うっせえ!! ニコラの奴余計な事言いやがって……」

ライル「なあ、ルシアン」

ルシアン「ん? なんだ?」

ライル「皆、あの頃からずっと心配してたんだ。
    だから、もう一人で無茶すんなよ」

ルシアン「……ああ、分かった。イネスもジーナもありがとな」

ジーナ「うん。でも……大丈夫か? その……」

イネス「……ジーナ」

ジーナ「あっ、ごめん……」

ルシアン「もう大丈夫だ。やった事から、『自分』からは逃げねえって決めたからな。
     それに、何を言っても殺した事に変わりはねえよ」

ジーナ「ル、ルシアンはルシアンだ!! アタシは怖くないぞ!!」

イネス「……そうだね。ルシアン、ごめん」

ライル「ジーナ……そうだな。何も変わりゃしねえよ」

ウォルト「お前のその痛みはオレ達には分かんねえ。けど、うん。やっぱ変わんねえよ」


ルシアン「…!! ライル、ウォルト、イネス、ジーナ……ありがとう」


ーーーーー


ファーガス「なら、城にはヴェンデルとミルズの部下しかいないと言うのか!?」

マルセラ「ええ、ヴェンデルとミルズが決めた事よ」

アメリア「……そんな!!」

ファーガス「あの馬鹿共め!! 儂は今から城へ行く!!
      フィオナ、獣人の里はどうなった!!」

フィオナ「はっ!! 先程戦闘は終わった様です。
     多少の怪我人は居ますが皆無事です!!」

ファーガス「うむ、なら問題は無い……行ってくる」

アメリア「……ファーガスさん」

ファーガス「なんだ?」

アメリア「父を、ミルズを……頼みます」

マルセラ「……………」


ファーガス「ああ……分かっている」


ーーーーー

アメリア「母様、顔色が悪いわ。少し休んだ方が……」

マルセラ「私は平気よ……あの子達を見ていれば良くなるわ」


セシリア「ネア、ありがとう」

ネア「いいよ。セシリアは友達だからね!!」

セシリア「えへへっ、うん!!」



マルセラ「(ヴェンデル……貴男は……)」


ーーーーー


ルシアン「爺、城に行くのか?」

ファーガス「ああ、そうだ」

ルシアン「頼む、オレも行かせてくれ」

ファーガス「(短い間に此処まで……口先だけで無い。覚悟は出来ている様だな)」

ファーガス「……よし、ならば着いて来い」


ルシアン「ああ、分かった」


……………

……

マーカス「里に全ての女性騎士を出撃させるとは……
     『そうしなければ』私が出て来ないと分かっていた様ですね」

ヴェンデル「ハァッ…ハァッ…ゴフッ……」


膝を突き吐血、ヴェンデルの体には深い切り傷と無数の痣が出来ている。

対するマーカスは、無傷。


マーカス「ですが、私の力量を測り間違えた」

ヴェンデル「(マルセラは騎士の出撃と共に逃がした。
       微かだが剣戟の音が聞こえる……ミルズ、生きてくれ)」


マーカス「……ヴェンデル陛下。貴方の役目はこれで終わりです」


振り下ろされる剣、血は失われ立つ事すら出来ない。

動ける筈が無い、躱せる筈が無い。

だが王は、父は、祖父は動いた……


ヴェンデル最期の炎、命そのものを乗せた剣。



マーカス「なっ!?」


ヴェンデルの右肩にざくりと突き刺さる。

が、止まらない。


ヴェンデル「舐めッ……なよ」


そして一歩踏み込み突きを放つ。


マーカス「……残念でしたね」

ヴェンデル「(外したか……ははっ、情けねえな。アメリア、ミルズ、ルシアン、セシリア……
       あ、そういや結局ミルズにお父さんって呼ばれなかったな。アイツは堅物だからな、仕方ねえか……)」

マーカス「これで終わりですね。さようなら、ヴェンデル陛下」



ヴェンデル「(マルセラ……愛してる)」




ザシュッ……


………………

……


二刀を手に敵の合間を駆け抜ける。

躱し、受け流し、弾き……そして斬る。

その動きに一切の無駄は無く、躊躇いも無い。

行く手を阻む敵は一瞬の交差の後、光の粒となり消えていく。


ミルズ「もう、オレだけか……」


ミルズに付き従い共に戦った騎士は少なかった。

敵からは数で劣り終始劣勢だったが、

彼等は最期まで臆する事無く戦い、散っていった。

蘇る言葉………


『『お前は誰も救えない』』



ミルズ「オレは、そうかもしれないな……」



『『突撃』』


ミルズ「だがオレは……共に戦った彼等に『救われた』」


二刀の柄頭を合わせぐいと捻ると二刀の柄頭が繋がる。

繋がった柄を握り締め槍を突く様に構える。


前方、左右、後方から敵が迫る……

死を怖れぬ人形と化した騎士達。


残り二十数名。


振り下ろされる剣を躱し喉を突き、

引き抜き様ぐるりと回転し左右の敵の腹を切り裂く、

そして敵を背にしたまま後方に跳び、胸を貫いた。



ミルズ「彼等は何かを守る為に戦い、死んだ。
    死者を救う事は出来ない。だから、彼等が守ろうとした物をオレが守る」


次回の投下で過去編は終わると思います。

読んでくれてる方、ありがとうございます。


レスありがとうございます!!

投下します。



【エルフの里】


ウォルト「行っちまったな……」

ライル「ミルズさんと爺ちゃんが心配なんだろ。でも、戦で再開するなんてな……」

ウォルト「ああ……そうだな」

イネス「あの時、あんな事が起きなきゃ……
    ルシアンが誰かを傷付ける事も、傷付く事も無かったのに」

ジーナ「アイツ、大丈夫かな?」

ライル「大丈夫だろ。よく分かんねえけど、アイツの目を見たらそう思ったよ」

ウォルト「そうだな。まっ、オレ達は出来る事しようぜ!!」

ジーナ「出来る事って?」

ウォルト「そりゃあ、その……」

イネス「獣人の里から怪我人運ばれてくるって言うし、パルマさんの手伝いとか?」



ライル「ああ、それならオレ達にも出来そうだな!! 親父にも謝らねえと……」



ーーーーーー


セシリア「みんなケガしてるね……」

ネア「うん……」

セシリア「お父さんとお爺ちゃん、大丈夫かな?」

ネア「セシリアの父さんもお爺ちゃんも強いもん、大丈夫だよ!!」

セシリア「……うん」


マルセラ「……………」

アメリア「母様、ファーガスさんがきっと……」

マルセラ「ええ、そうね……ッ!!」


突如、マルセラは走り出す。


アメリア「えっ? 母様!?」



マルセラの視線の先、少し離れた場所。

其処にはセシリアとネアの背後に近付く一人の騎士が見えた。

予感、直感、あの騎士は『敵』なのだとマルセラに告げる。


セシリア「あれ? お婆ちゃん?」


剣が抜かれ、騎士は剣を『横に』振り抜く。


剣は、『二人』を抱き締めたマルセラの背に深く突き刺さった。


マルセラ「…ッ!! ネア、セシリア、じっとしていなさい」

セシリア「お婆ちゃん? どうしたの?」

ネア「女王さま?」

マルセラ「……目を、閉じなさい」


アメリア「ッ!! フィオナ!!」


母様!! そう叫びたいのを抑えフィオナを呼ぶ。


フィオナ「ん? どうし……なっ!?」


一瞬、そして走る。



ガギッ……


フィオナ「(何で、何で此処に!! 『敵』はまだ居るのか!?)」


迷い、考える時間などない。

フィオナは剣を弾き上げ、斬った。

騎士の瞳は虚ろのまま、光の粒となり消えて行く。


セシリア「お婆ちゃん? まだあけちゃだめ?」

ネア「おまじないかな?」

マルセラ「もう少し、もう……少し我慢して頂戴……」

フィオナ「パルマさん!!!」

マルセラ「………(見せてはいけない。パルマ、早く来て)」


パルマ「マルセラ、もう……『大丈夫』よ」



マルセラ「ネア、セシリア、目を閉じたまま振り向きなさい……絶対に目を開けては駄目よ?」

セシリア・ネア「……?? はーい」


ゆっくりと手を離し、二人は振り向く。

すると、パルマは湿らせた布を二人の口元に軽く押し当てた。


パルマ「眠らせたわ……暫く起きない筈よ」

マルセラ「ありがとう……パルマ」


そう告げた後、ゆっくりと瞳を閉じ……マルセラは意識を失った。


アメリア「母様!! 母様しっかりして!!」



フィオナ「ッ!! 全騎士に告ぐ!! 周囲を警戒しろ!!」



「「はっ!!!」」



……………

……


ミルズ「増援!? まだ居るのか!!」


残り四、五名となった時、窓や正面入り口から敵が現れる。


『『戦闘開始』』


「父さん!!」


ミルズ「……!? ルシアンか!? ファーガスさんまで!!」

ファーガス「ミルズ、此処は儂とルシアンに任せろ!! お前はヴェンデルの元へ急げ!!」

ミルズ「(戦で息子の成長を知る事になるとは……ルシアン、辛かっただろう。済まない……)」

ファーガス「何をしている!! 早く行け!!」

ミルズ「はっ!! ありがとうございます!!」


息子と言葉を交わす時間は無い。



成長した息子の姿を目に焼き付け、ミルズは上の階に向けて走り出した。



ファーガス「ざっと四十……ルシアン、行けるか?」

ルシアン「ああ、大丈夫だ。(もう目は背けない、自分からも逃げねえ)」

ファーガス「ならば、行くぞ」

ルシアン「(爺ちゃん、無事でいてくれ……)」


『『突撃』』


周囲をぐるりと囲まれ、前後左右から敵が迫る。

ルシアンは自ら敵に向かい、思い切り薙払う。

一瞬にして三人が光の粒となる。

が、新たに窓や正面入り口から敵が侵入してくる。


ルシアン「(大丈夫だ……集中しろ)」


瞳が紅く輝き角が生え、全身を黒の装甲が覆う。


空気が軋み、敵も一瞬怯む。



ルシアン「行くぜ」


一瞬で間合いを詰め右肩に担いだ剣を振り下ろす。


『『がっ!?』』


剣ごと叩き斬り、周囲の床がごっそり抉れる。


ファーガス「(魔の者達……あれ程の力を持ちながら何故絶滅したのだ? 
       いや、何よりあの状態で理性が無ければ、闘争のみを欲する種族だったのなら……)」


正に圧倒的、

最早技術云々では無い、力そのものが違い過ぎるのだ。

防ぎようが無い、天災の如き力。

それが容赦なく振るわれる。

ルシアンに迷いは無い、そして決意していた。

死者を、自らが殺めた者を、


何より、そうした自分自身を決して忘れまいと。



………………

……


マーカス「待っていたよ。ミルズ」

ミルズ「……………」


ヴェンデルの姿は無い、在るのは剣のみ。

認める他無い……

ヴェンデルは、父は死んだのだと。


ミルズ「(結局オレは父と呼べなかった。
     負ける筈が無い、死ぬ筈が無い。いつか父と呼べる日が来る……そう思っていた)」


言葉交わさぬまま二刀を構え、一直線にマーカスへ向かい剣を振るう。

右肩、左脇、右足へ次々に繰り出すが悉く防がれる。


マーカス「そう焦らないでくれ……」


そう呟き、鳩尾への突きを躱しミルズの右腕を薙払う。


ミルズ「………………」



躱す事も、防ぐ事すらせず、剣はミルズの右腕に深々と突き刺さる。



マーカス「ば、馬鹿な……君はなッ


ミルズ「……………」


淡々と、冷え切った表情のまま、マーカスの腹に左の剣を突き刺す。

そして背から突き出した剣を引き抜き、告げる。


ミルズ「………終わりだ」


マーカス「がっ…!!」

ミルズ「……………」

マーカス「こんな……あまりに呆気ない。これっ、で終わりか」

ミルズ「ああ、お前の闘争はこれで終わりだ」

マーカス「君は魂、を信じッるか?」

ミルズ「……………」

マーカス「君の息子ルシアンが現れる前っ……私に何かがッ宿っ
     いつ、しか私、は抑えられぬ程、闘争を欲していた」


ミルズ「ふざけるな……これはお前の望んだ戦。誰でもない、お前自身の魂がそうしたんだ。
    例えお前の言う『それ』が真実だとしても、お前は許されはしない」



マーカス「そう、だな……だ、が私は満足……だ。君は私を救って、くれ、た……私の魂は、救われ……た」

ミルズ「そうか……」


柔らかな笑みを浮かべ、マーカスは消えて逝く。


ミルズ「……この戦は、本当にマーカスの言った通ッ……ぐっ…」

抑え込んでいた痛みが吹き出し、ガクンと膝を突く。

ミルズは父の剣を見つめ、思う。この戦は何だったのか……


ミルズ「(意味など無い。ただ皆が傷付き、何かを失っただけだ……)」


始まりも無く終わりも無いような、

たった一人の男が望み、欲した戦。

ただそれだけの為に多くの騎士が亡くなり、父も逝った。


ミルズ「オレの魂は……どうなんだろうな」


先の言葉を思い出し、



そう呟いた後、ミルズの意識は深く沈んで行った。


………………

……

【エルフの里】


クライヴ「ん? ファーガスの爺さんだ……終わったみてえだな」

ライル「なあ、親父」

クライヴ「ん? なんだ?」

ライル「この戦って何だったんだ?」

クライヴ「……さあな。そんなモンはマーカスのクソ野郎にしか分かんねえさ」

ライル「意味分かんねえ内に戦が始まって、いつの間にか終わってた。
    騎士は沢山……死んじまったし、ルシアンの婆ちゃんだって」

クライヴ「意味なんざ無くたって戦になりゃ嫁や息子が殺される。
     それが嫌なら、守りてえなら……辛かろうが何だろうが戦うしかねえ」

ライル「ルシアンの爺ちゃんとミルズさん、大丈夫かな?」



クライヴ「……ミルズの野郎が息子残して死ぬなんざあり得ねぇよ」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom