男「剣技大会第四位かぁ」 (113)

酒場

男「微妙だよなぁ」

??「はっはっはー。微妙なもんか、そりゃこの国で四番の実力者ってことだぜ? あ、この兄ちゃんと同じの一つ」

はーと溜め息を吐く男の横に、髭を肥やした大男が笑いながら席に着いた。

男「? だれよ、お前。むさいからあっち行っててくれ」

傭兵「そうつれねぇこと言うなよな。俺は傭兵ってんだ。アンタ名は?」

男「剣士だよ。っていうか、一人にしといてくれよ! 今ナイーブなの、俺は」

傭兵「偽名だろ、それ?」
男「アンタもだろ。酒の席で本名出すかよ」

傭兵を追っ払うのを諦めたのか、男はそっぽを向いてグラスを傾けた。

傭兵「なに、そっちにボインなねーちゃんでもいたか?」

自分が邪見にされてるとは考えていない様子の傭兵は、豪快に笑い続けている。


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男「こんな傭兵崩ればっかの酒場に女が………よかったな傭兵とやら、女がいるぞ」

傭兵「んあ、まじで!」

男「ああ、ほらあそこ。声かけて保護でもしてこいよ」

傭兵「お、きれいな娘………って、ありゃあまさか」

男の指差したところには、王宮仕えのメイド服を来たブロンドの髪の少女がいた。

男「ほら、いって来いよ。褒賞金貰えるかもだぜ?」
傭兵「行って王宮まで連れてけってか? こんな不祥事の目撃者、あの王様が生かしとくかよ」

男「メイド服着るくらいなら、あの髪隠したほうがいいだろうに。何考えてんのかねぇ、お姫サマってやつは」

傭兵「あそこまで長い金髪なんて、城下町にゃあいないよな、普通」

男「ま、関わらないが吉だ」

傭兵「だな。俺達は酒に酔ってて何も知らない、覚えてない。店長、もう一杯!」

他のやつらもそう思っているのだろう。証拠に彼女の回りに小さな円が出来ている。

男「てかアンタ何自然に横で飲んでるんだよ。どっか行けよ」

傭兵「いいじゃねーかよ。混んでるんだからさ」

男「あのなぁ………。もういい、俺はもう帰る」

ガタッと男が立ち上がる。

傭兵「おいおい、そりゃないだろ?」

姫「あ、見つけました!」

二つの声は同時だった。

男がおそるおそる振り返ると、こちらを指差す金髪メイドが一人。そのままを首戻すと店長がいる。

男「あ、ああ。店長?」

姫「いいえ」

男「あの酒樽?」

姫「あなたですよ。剣技大会第四位の剣士さん!」

男「ヒトチガイデス」

姫「いいえ、貴方みたいな雰囲気の人はそういませんよ。ふふん」

男「ボクこのクニのコトバ、ワカリマセーン。デハ、サヨウナリャ」

混乱してわけの解らないことを言い出す男を無視して、姫は男の前へとやって来る。

そして何かを手渡した。

姫「はい。これ」

男「あ、俺の手紙! やっべ、落としてた!?」

姫「宮内に落ちてたんですよ」

男は手紙を受けとると、一拍間をあけて、

男「うわー、ありがたいなぁ。流石宮廷メイドさんだなぁ、やさしいなぁ。ありがとー!」

と言った。随分な棒読みで。

姫「へ? あ。そうです『メイド』な私に感謝するがよいですます」

ありがとうと男が改めて言う。

姫「それでですね。そのお手紙、誰のかを調べるために中身を見てしまったんです」

男「あ、見たの? まぁいいけどさ」

姫「明日、帝国へ立つそうですね。それで、もしよければなんですが、その。私も」
傭兵「さて、そろそろ次に行こうか剣士。今日はのむぞ! はっはっはー」

姫の言葉を傭兵の大声がかき消した。それにきょとんとしている姫に追い撃ちをかける。

男「あ、ああ、そうだな! もう一軒行こう、そうしよう!」

傭兵「それじゃあ綺麗なメイドさん。さよならー」

姫「あ、待って」

二人は会計とは明らかに多い金額をカウンターに置いて、逃げるように店を出た。

路地裏

男「はぁ……ありがとな。傭兵」

傭兵「いいってことよ。そういや、お前さん帝国に知り合いがいたりするのか?」

男「俺、実は帝国出身なんだよな」

傭兵「へえ。なんでこの国へ?」

男「その………勘当されて逃げてきた」

傭兵「あー……」

男「俺のことはどうでもいい。それよりさっきの姫モドキだ」

傭兵「モドキってか本人だよな、ありゃ」

男「最後、アンタが遮った言葉」

傭兵「私も連れてって、だよな。恐らく」

男「なんかイヤなことでもあんのかな」

心配するように呟く男に、傭兵が励ましの言葉をかける。

傭兵「だいじょうぶ! 王様の姫サマへっ溺愛っぷりは剣士も知ってるだろ?」

だから心配ねーよと傭兵は言った。

男「そかね? ほんじゃま、もう一軒行きますか」

傭兵「止めとけよ。あした出るんだろ?」

男「いや、さっきは助かったしな。礼をさせてくれ」

傭兵「だったら、俺も着いていっていいか?」

男「帝国に?」

傭兵「おうよ」

男「なんでまた」

傭兵「最近団体で傭兵やるやつらが増えてきてさ、俺みたいなソロは肩身が狭いのよ」

男「だから帝国で傭兵をやろうと?」

傭兵「ああ。でも旅費にする金も無かったんだが、旅人の付き添いならギルドからある程度の旅費が出るんだ」

男「なるほどね。でもその付き添いって傭兵としての契約が必要なんじゃねぇの?」

傭兵「いや。剣技大会第四位の護衛となりゃあ、顔パスみたいなもんだ」

男「剣技大会第四位なんだから、むしろ護衛いらないだろ、とはならないのか?」

傭兵「最近物騒な上に、四位がやられでもしたら、国が甘く見られるからな」

男「ほうほう」

傭兵「ついでに向こうをいろいろ案内してくれると嬉しい」

あわよくば男の知り合いに依頼を取り付けよう、という魂胆だろう。勘当されたと言っていたから望みは薄いものの。

男「ふむ」

傭兵「な、頼むよ。明日一で書類にサインするだけで、護衛一人と二人分の旅費がでるんだぜ?」

悪くない話だと傭兵が付け加えた。

男「うーん。俺は多対一がとくいなんだがなぁ」

傭兵「何人雇っても襲われる、受身の状態じゃあ多対一にはなりにくいだろ?」
男「あ? ああ。そうだなぁ」

傭兵「よし、じゃあ決まりだな?」

男「まぁ、いいか。明日からよろしく頼むぜ」

男がそう言うと、傭兵はニカッと白い歯を見せて笑った。

傭兵「おうよ」



男「あ、でもむさいからあんま近づかないで」

誰も見てなさそうだけど、いったんここまで。

寝オチするまで書こうかなっと。


王国ギルド本部

傭兵「うぃーっす」

受付嬢「傭兵さん。こんな朝早くからどうしたんですか」

傭兵「護衛するから旅費申請にね」

受付嬢「護衛ですか、傭兵が? 珍しいですね」

傭兵「おう。気に入ったやつがいてな。ほら、こいつ」

半分寝ている男を、大男は猫を摘まむように軽々と持ち上げて見せた。

受付嬢「ああ、第四位の」

男「なんだその知ってはいるけど、興味ないみたいな言い方は」

受付嬢「だって、四位ですもの」

傭兵「微妙だよな」

受付嬢「第四位まで賞金はでますのに、四位だけ表彰されずメダルもないとか………微妙すぎですよね」

傭兵「賞金がでるってのがネックですよな」

男「はん、言ってろ言ってろ」

受付嬢「はい、ここにサインして下さい。支給金は門を出るときに受け取って下さいね。では、よい旅をー」

傭兵「うむ!」

ずんずんと先に歩いて行く大男を追いかけようとする男に、受付嬢が声をかけた。

受付嬢「そうそう、昨日戦士さんがきて貴方を探してましたよ」

男「第一位が?」

受付嬢「はい。しかしあの人カッコイイですよねー」

男「カッコイイって、確かにカッコイイけどさ。あいつアレでも」

受付嬢「ですよねですよねっ! 同性からみてもそうなんですね」

男の言葉を遮り受付嬢が捲し立てた。

男「いや、だからあいつはあんなんでも歴としたおん……聞いてないな」

商店街

男「ここにいたか」

傭兵「食料の買い込みをな。……遅かったじゃないか。受付嬢でも口説いてたか?」

男「かっさばくぞアンタ」

傭兵「冷たいねえ、相変わらず」

男「そうだ、支給金ってのはどれくらい出るんだ?」

傭兵「だいたい一人と半分かな」

傭兵「もともと護衛でひどい扱いをうけてた傭兵を救うための制度だから。
けっこう高めの設定だ。そもそも傭兵はめったに王国から出ないしな」

男「ほう、お得だな」

傭兵「この国が傭兵のおかげで戦争に買ったってのを、王はよく知ってるからな」

城門前

男「さて、出発しますか」
商店街で一度別れた二人は城門前で落ち合った。

傭兵「馬車で行くのか?」

男が馬車馬に餌をやっているのを見て、傭兵がそう聞いた。

男「ああ、アンタのおかげで臨時収入があったんでね。国境までは馬車さ」

馬車を借りるのにはお金がかかるとは言え、長距離移動の場合、日数短縮にもなり得になることが多い。

傭兵「御者は俺がやろうか?」

男「できるのか。なら、交代制で頼めるか?」

傭兵「あたぼうよ、任しとけ」

男「アンタが荷物積んだら出発するぞ」

傭兵「あいよ。……蓋のしてない木箱があるがいいのか? なんか王国特別金貨がたんまりあるが。何に使うんだ……」

王国特別金貨とは、毎年王の生誕の日と納涼祭に作られる特別なデザインの金貨のことだ。

男「コレクターに売るんだよ。なかなかのもうけだぜ? 金貨には関税もかかんねぇしな。あ、蓋しといてくれ」

傭兵「頭いいな、お前。よし、積みおわったぞ!」

男「おーし、しゅっぱ………おい、そこのやつ危ないから退いとけよ」

男は近くに立つ二人組を見つけて注意をする。

??「あ、見つけた!」

男はその台詞にデジャビュを感じた。

男「げっ、第一位……」

戦士「恩人に向かって、げっはないだろ」

傭兵「なになに、アンタ等知り合い?」

男「この国に来たとき世話になったんだよ」

戦士「そんな感じ。で、そういう君は?」

傭兵「傭兵ってんだ。こいつとは昨日知り合ってな、帝国まで着いていくことになった」

はっはっはーと笑う傭兵。

戦士「うん。剣士が好きそうなタイプだ」

男「どこがだよ……」

戦士「なんだかんだ言いながら、こういう構ってきてくれるタイプが好きだろ、君は」

男「そんなやつらしか周りにいないだけだ」

戦士(それが証拠じゃないか)

男「用がないならそこをどいてくれ。今日中にはとなり町に着いていたい」

戦士「そうそう、君が帝国に行くってんで飛んできたんだよ」

男「んだよ」

戦士「ボクらも連れてってよ」

男「………ボクらってのは、横のフードを目深に被ったヤツのことか」

背の高い戦士の横に佇む小柄な影。

戦士「うん。調合士の少女ちゃんだ」

少女「……よろしく」

傭兵「調合士ってなんだ?」

男「珍しいからな。知らないのも無理はない」

戦士「薬や爆薬とかを扱う人の中で、国から認可された人のことだよ。一般には医者とか薬師っていうね」

傭兵「へぇ。嬢ちゃんは何をするんだ?」

少女「薬も、ばくだんも、両方できます………です、はい」

男「両方認可されてるってことか。そりゃすげぇ」

傭兵には凄さがいまいちわからなかったが、男が手放しに誉めるのを見てずいぶんすごいんだなと理解した。

戦士「それで、連れてってくれるのかい?」

男「馬車移動は国境までだぞ」

戦士「もともと歩くつもりだったからね、問題ないさ」

少女「ない……です」

投下しゅうりょー。出勤してきます。

第四位の剣士が出てくるの最近まとめで見た気がする

>>19
まじで?
詳細kwwsk

男「んじゃ、改めて。俺は剣士、剣技大会第四位の片手剣使いだ」

傭兵「俺の名前は傭兵だ。武器はなんでも使うが、基本は槍だな。
現在、絶賛彼女募集中ヨロシク!」

戦士「ボクは戦士、本業は王国ギルド所属の冒険家だよ。武器は両手剣さ、宜しく頼む」

少女「私は少女、です。爆弾投げたりしますです」

男「よし、さっさと出よう。乗りな」

戦士「ボクが御者やろうか?」

男「俺と傭兵と交代制なんだ」

戦士「だったらボクもやるよ。次交代するのはボクでいいだろ、傭兵クン」

傭兵「いいぜ」

戦士「じゃ、そゆことで」

そう言い、戦士は御者台に座る男の横に腰を下ろした。必然的に少女と傭兵は荷台へと乗り込む。

男が後ろを確認すると、小窓から支給金を受けとる傭兵が目に入った。

戦士「出発しんこー!」

外れの森

男「よう、戦士さんや」

御者台に座る男が、同じく御者台にいる戦士に話しかけた。

戦士「なんだい」

男「何を企んでる」

トーンを一つ落とした声で自分は本気だと男は主張する。

戦士「企んでなんかないさ」

後ろの荷台から聞こえてくる噛み合わない会話を受けて、男は話を続ける。

男「少女のことだよ。調合士を連れ歩くなんて、正気かアンタ?」

調合士に認められるための条件はいくつかあるが、その中の一つに特殊薬の調合がある。医療に置いて、絶大な効果を発揮するそれらの薬は使用方法によって、その効果を一転し体に害を与えるものになる。

一時的に気分がよくなる効果があったりするが、体の中から蝕まれて行く。

この薬は同時に強い依存性があり、質の悪いゴロツキ御用達の薬になっている。

そこが問題だ。前述したように、調合士の数は少ない。薬の需要と供給が全く釣り合っていないのだ。

故に調合士は質の悪いやからに狙われる。だからこその男の言葉なのだ。

戦士「正気も正気さ。だからこそ、君を頼りに来たんだよ」

男「俺がアンタの頼みを断れないのをしってて?」

戦士「誰かを守る戦い、多対一の戦いなら、君一択だからね」

男「多対一は得意だが、守りながら戦うのは嫌いだぜ」

戦士「でも得意だろ? 君の目なら十二分さ」

男「ま、逃げ足だけが取り柄みたいなもんだからな、俺は」

戦士「そうかな?」

男「そうだよ」

戦士「ま、そいうことにしときますかね」

そんなこんな話していると、後ろから傭兵が顔を覗かせた。

傭兵「よう。結局今日はどこまで行く予定だ?」

少女「となり町までいくんです?」

男「予定じゃね」

傭兵「そか、ほいじゃそろそろ御者代わるぜ」

男「お。それじゃ近くの湖にでも停まりますかね」



休憩ついでに、四人は水浴びをすることになった。現在は女たちが水浴び中だ。

傭兵「後ろにはあられもない姿の女性陣がいる。これが振り向かずにいられるか!? 否、いられるわけがない!!」

男「やめといたほうがいいぞ。何時もなら『覗いちゃ ダ メ だ ゾ ☆』とか言っちゃう戦士が、
『覗くなよ、ゼッタイ』とか言ってるんだからな」

傭兵「戦士には驚いたな。遠くから見てるぶんにゃ、男にしか見えなかったからな。まさか、女とは」

男「俺からしたら女性以外のなんに見えるのか、ってもんだけどな」

男はわからないと首を横に振った。

傭兵「うむ、俺としたことが女性を見誤るとは………」

男「お前はブレないなぁ」

傭兵「ところで、なんで俺達は湖から百メートル以上離されてるんだ?」

現在、彼等は湖から百メートル近く離れた場所に座っている。

男「アンタを危険視してんだろ」

傭兵「そうか?」

そうか? そうか……と一人頷く傭兵を横目に、男は昨日の姫を頭に浮かべる。

昨日の姫の行動は男にとって、非常に予想外のことだった。

というのも、男は剣技大会で姫を目にしたときに賢そうだという印象を受けていたのだ。

だから昨日のバカ丸出しのあの行動は、予想外であったと同時に不自然でもあった。

男(あれは、本当に姫だったのか?)

一瞬浮かんだ考えを男はすぐさまかきけす。

男(宮廷のメイド服を揃えられて、あの金髪、間違いなく姫だろう。極めつけは顔に声だ。あれは別人とは思えない)

男(だとすれば、なにか理由があると考えるべきだ)

男「なあ、傭兵。姫についての情報はなにかないか?」

傭兵「なんだ、昨日のことをまだ引っ張ってんのか?」

男「ああ、そんなとこだ」

傭兵「姫、ね。そうだ、最近神聖国の皇子と婚約を結んだとか、結んでないとか」

男「神聖国ってアレか、神に祈れば魔法を使えるとか言ってる」

傭兵「魔法なんて有り得ねぇってのによ」

男「だよな」

男(婚約か。それがイヤで帝国に亡命希望ってか……いや、ちと安直すぎるな)

神聖国。聖書を国の基本理念とし、魔法の行使を目指している国。

魔法は架空のものだとされており、それを至上とする神聖国は他国に白い目で見られている。

男「ん?」

何かに気付いたのか、男がさっと立ち上がった。

隣を見ると、傭兵も立ち上がっている。

傭兵「気付いたか?」

男「一人。王都を出てからずっとつけてたヤツだ。気配を消しきれていないな」

傭兵「素人か。俺はふとした拍子に見失ってたから、それなりの訓練を受けていそうだが」

男「殺気はない」

彼等をつける理由があり、それなりの訓練を受けていそうな人間で、殺気はない。

二人とも思い当たる人物がいたのか、頭痛を抑えるように頭を抱えた。

傭兵「姫さんか」

男「もしくはその関係者……来るぞ」

暗い木々の間から、宮廷のメイド服を着た女が現れた。だが、その髪は金ではなく黒だった。

メイド「お初にお目にかかります。私、王国第一姫の侍女を務めさせて戴いております、メイドと申します」

傭兵「! 小せえのにでけえ……」

男「どこをみてんだよ」

メイド「軽蔑します……」

傭兵「うっ………それで、何の用なんだよ、宮廷仕えの侍女サマがよ!」

男「話を反らしたぞ、オイ」

メイド「女性に不快な思いをさせて、謝罪も無しとは……最低ですね」

傭兵「どうもすみませんねぇ!」

メイド 「随分なげやりな謝罪ですが、まあいいでしょう。早速本題に移らせていただきます」

メイドは男が頷くのを見て、口を開いた。

メイド「ずばり、姫さまが消えました」

傭兵「家出か」

メイド「おそらく。家出にせよ拐われたにせよ、手引きするものは必要です」

男「それで、なんで俺達のところへ?」

メイド「貴方が昨日接触した女性、実は姫さまだったのです(棒)!」

傭兵「な、なんだってー(棒)」

男「それは気付かなかったなぁ(棒)」

男「とまぁ、冗談はさておき。俺達が姫を連れてるんじゃないかって?」

メイド「ですね」

男「それなら答はノーだ。酒場以降、姫をみかけてすらいねぇよ」

そう言うと男はおおげさに首を振ってみせた。

メイド「……そうですか。こころあたりはあなた方くらいだったのですがね」

傭兵「重ね重ね悪いね」

メイド「! そうです。私もあなた方の旅に参加してもよろしいでしょうか」

ぽんとメイドが手を叩いた
男「あくまでもあんたは、姫が接触するなら俺達だと思ってんだな?」

メイド「可能性はあるのです。一人くらい候補を監視していても問題はないでしょう」

傭兵「ホンネは?」

メイド「姫さまを探すとか野暮なことしたくありません」

メイドの答えを受けて、男は彼女が姫の家出の理由を知っているのではないかと疑った。

傭兵「なんにせよ、女が増えるのは賛成だ。旅費はあるんだろ?」

メイド「姫さまの情報を買うことも考えて、豪華旅行でも余りあるほどは」

男「なんでアンタが受け答えしてんのさ、傭兵さんよ。それとメイドさんとやら、お断りだ。姫なんかに関わってられるか」

メイド「一月にこれくらいを情報料として進呈しましょう」

ずいっと男の目の前へメイドの手が突き出される。指は五本とも立てられた状態だ。

男「ご、五枚?」

メイド「五十です」

男「銀貨……?」

メイド「金貨です」

ばっと男はマントを脱ぎ、地面へと広げた。

男「どうぞ、お座り下さい。あ、飲物はいかがでしょうか?
あまり種類はありませんが、果汁を搾ったものや酒も揃えております」

傭兵「変わり身早いな、オイ」

男「俺が信じるのは、自分と師匠とお金様だけだ!」

メイド「はぁ……」

メイドは多少ひいているようだ。

男「お前らは金の力をわかっていない!」

傭兵「おいおい、何を力説しだしてんだよ」

傭兵の言葉を無視して男は続ける。

男「金があればなんでもできる。豪華な食事も食べられるし、遊んで暮らせるし、若い女も股を開く!」

傭兵「ちょっと口を閉じろお前」

男「なんだよ……。とにかく、金は力だ。いくら強くても金がなけりゃ生きていけない。お金バンザイ!」

傭兵「俺の護衛の話を受けたのは支給金のためか」

メイド「信用できそうで、できなさそうな方ですね」

男「大丈夫、仲間を裏切ったりはしないからさ」

あっけらかんとした風に言う男に傭兵は苦笑する。

傭兵(そもそも、お前さんにとって俺達が仲間のカテゴリーなのか、っていうね?)

戦士「なーにゲス思想を力説してるんだい」

男「ゲス思想とか言うな。つぅか遅かったな」

戦士「オンナノコにはいろいろあんの」

少女「すみません」

戦士「謝らなくてもいいって。て、あれ? なしてメイドさんがいるんだ?」

男「お、知り合いだったのか」

戦士「知り合いもなにも、表彰式のときいたじゃないか」

男「それは遠回しの皮肉か?」

戦士「ああ…第四位は表彰式に呼ばれないんだったか」

少女「何て言うか………微妙ですね」

男「ちぃ!」

傭兵「はっはっはー」

戦士「やあ」

メイド「はい。数日ぶりですね戦士さん」

男「彼女も同行することになった」

戦士「なんでまた」

男「金の力は偉大だ」キリッ

キメ顔の男は置いておいて(無視とも言う)戦士は傭兵の方へ顔を向けた。

傭兵「姫さんが家出だってよ」

無視されていじけたのか、男は地面に横になった。

少女「………」

戦士「それで?」

傭兵「なんか帝国に行きたがってたっぽいのよ」

戦士「それでボクたちのところへきたのか」

メイド「そんなところです」

倒れていた男が起き上がった。

男「一人。格好は山賊だが、プロだな」

戦士「偵察かな。山賊だと思って放っといたけど、プロならマズイね」

傭兵「狙いは姫か、調合士か」

少女「私は気づきませんでしたが……打倒第一位かもしれませんね」

メイド「安全牌で第四位狙いの可能性も」

傭兵「俺以外狙われる理由あり、か」

男「アンタの仕事の怨みかもよ?」

傭兵「むう……」

メイド「ろくな人がいませんね」

男「メイドさんは戦える方?」

メイド「王宮剣術ならば姫さまのお付き合いのため、少々」

男「使えないな」

むっとするメイドだが、そこは堪えて口を閉じていた。戦士の言葉をさえぎらまいと思ったからかもしれない。

戦士「戦闘のとき、少女はボクと一緒にいて。援護を頼むよ」

少女「は、はい」

男「ま、今のところは何もない。ここは先を急ぐべきかな」

男に同意するように傭兵が頷く。

傭兵「だな。触らぬ神にたたりなしだ」

戦士「なにそれ」

傭兵「あ、いやこれは」

メイド「ことわざのひとつですね。確か……山岳同盟のものだったかと」

男「アンタって実は知的?」

傭兵「たまたま知ってたんだよ、俺が知的にみえるか?」キリッ

少女「自分で言うあたりが、なんかもう……」

最近携帯の調子が悪い。

PCもお亡くなりになられたし、他の家電もそろそろかね。





傭兵「つ、ついたーぜ!」

男「なんか、疲れたな」

少女「お尻が痛いです……」

戦士「取り敢えず宿屋だね、なんでもいいから一服したいよ」

傭兵「それなら、ギルドが運営してる宿屋があるはずだから、そこに行こう。俺がいるから安くなるはずだぜ」

安くなるというフレーズに男の目がキラリと光った。

男「よし、行こう。すぐ行こう!」

傭兵「お前はぶれないなぁ」

戦士「個性的ってことでさ」

三人の後ろでは、生気の抜けたように突っ立っているメイドに少女が話しかけていた。

少女「メイドさん?」

メイド「」

顔の前で手を振ってみるも、反応はない。

少女「メイドさーん、置いてかれますよ?」

肩を叩いても一向に反応はない。

少女「あのぅ、メイドさーん?」

頬をぺちぺちと叩くとやっと反応があった。

メイド「うう……近衛兵に料理長? 男同士でなに、を……」

少女「ふぇっ? メイドさん!?」

ナニを想像したのか、少女はあたふたとしている。

メイド「はっ! ここはどこ? 私は姫?」

メイド「ここは王都の隣町で、あなたはメイドさんです」

メイド「すみません、お見苦しいところを…」

少女「大丈夫ですよ」

メイド「ところで、他の皆さま方は先に行かれたのでしょうか?」

少女「え?」

少女は後ろを振り返り、錆びた風見鶏のように、ゆっくりと首をもとにもどした。

少女「置いていかれました」

メイド「」

ミス

>>37の最初に

空が赤らむころ、一行は隣町へと到着した。旅に慣れていないのか、皆疲れた顔をしている。

を付け加えて下さい。

男「さて、と。狙われてる可能性が高い二人を、あえて孤立させてみたが、」

戦士「ネズミは網にかかるかな?」

世間知らずの二人が、最大級に焦っているのも知らず、第一位と四位は呑気に会話をしていた。

男「どうだかね。それより、俺達のどっちかが狙われてるかも知れないんだ。気をつけろよ」

戦士「大丈夫さ、ボクの強さは御存知だろう?」

男「一対一なら、俺の知る限りアンタは最強だよ。だが、多対一には慣れてないだろ」

『強さ』で言えば戦士は最強だろうと男は思っている。だが、彼女には『強かさ』が足りない。

もっと言えば脆いのだ、精神的に。そこにつけこめば、容易く瓦解する。

戦士「まあね。でも、負ける気はしないな」

男「油断大敵。前にそれで負けただろうが、よりによって一対一で、この俺に」
戦士「………だね、ゆだんたいてきだ。でも言い訳させてもらうと、あの変なのはさすがに予想外だったんだよ。結局なんなの、あれ?」

男「常に敵の予想外な行動をとるのが、戦いの常套手段だ」

それに、と。

男は続ける。





男「教えたら次に使えなくなるだろ」




さらりと男はそう言った。

戦士の顔から表情が消えた。そのままたっぷり数秒間、固まっていた。

何かを言おうとして口を開いたが、そこから声が発せられることはなかった。

男「戦士?」

男が訝しげな顔をする。

ああ、心配をかけているなと戦士は思ったが、それはどうでもよかった。

戦士(ああ、そうか)

彼は、

次があると思っている。

戦士が男と出会って数年はたった。男が剣技大会なんてのに出たのも、彼女が頼んだからに他ならない。

故に彼には信頼されていると戦士は思っていた。

けれど、違った。

彼は――――

男「どうしたよ」

戦士「あ、いや。その、傭兵は無事かなと、思ってね」

男「報告にギルドへ向かったんだ。相手の本拠地でことを起こす馬鹿はいないさ」

戦士「そっか、そう、だよね」

男「本当にどうした。気分でも悪いのか? なんなら先に宿へ」

戦士「いやだ!」

男「っ……、なんだよ。疲れてるのか?」

戦士「今は、君と一緒にいたいんだ……頼む」

ぎゅっと、戦士も無意識の内に男へ抱きついていた。

男「な、ぁ…………???」

今は、彼と離れたくなかった。

目を離したすきに何処かへ行ってしまいそうで。

戦士(怖い。人と付き合うのはこんなにも痛みを伴うものだったかな……)

わたわたと慌てる男が可愛くて、戦士はさらに強く抱きついた。

メイド「ひとだかりが出来てるから来てみれば」

少女「人がめさくさ焦ってるときに、あの二人はなーにをしてるんでしょうかねぇ」

フードの奥の顔は見えないが、少女はにっこりと笑っていることだろう。隣のメイドよろしく。

メイド「心が荒むのは私だけでしょうか」

少女「火薬を詰めた木箱に火をつけて、投下したいくらいですね」


メイド「………」

少女「………」



メイド「はぁ……。私達はもう少し、迷子になっていましょうか」

少女「見世物じゃありませんよー」

メイド(一日目でこれじゃ、先が思いやられますね、全く)

現時点でのキャラ紹介

男(剣士)
帝国出身の剣技大会第四位。一族から勘当されており、王国に逃げてきた。
金の亡者。


傭兵
傭兵ギルドに登録しているひげ面の大男。
無類の女好き。


戦士
男口調の剣技大会第一位。
王国に来たばかりの男を世話した人物で、彼をとても気に入っている。
実は、武具ジャンキー。


少女
常にフードを被っている調合士の女の子。史上最年少の調合士だが、パーティーの誰にも気付いてもらえなくて、若干いじけている。
ふとした拍子に毒舌を発揮する、意外とバイオレンスな子。


メイド
宮廷メイドの頂点、王族付きのメイドさん。姫の侍女。混乱すると「私は姫?」と言うらしい。
姫様LOVE。


おうさま
王国の頂点。娘命な親バカ。でも妻はそこまででもない。
姫様LOVE。

少女「もう。なんで抱き合ってる男女をじろじろ見るなんて、不粋なことをするんでしょうかね」

メイド「それは現在進行形で見ている私達のことですか?」

少女「私達は知り合いだからいいんですっ!」

メイド「はぁ……?」

少女のよくわからない理論にメイドは首を傾げている。

その耳に、風をきるような音が聞こえたと同時、視界から男の姿が消え、尻餅をついた戦士だけがいた。

少女のキャッと言う悲鳴と、カンと何かが落ちた音に後ろを振り返る。

そこには、どこにでもいそうな男性を組みしいている男がいた。

横では男に命じられて少女がナイフを拾っている。

メイド「なに……?」

その意味を理解した瞬間、膝が笑って立っていられなくなった。

メイド(今、死んでた)

風の音はナイフが振りおろされるときのもの。耳元で、真っ直ぐ振りおろされれば、

メイド「っ!」

メイドは立場上、命を狙われたことも何回かある。だが、あそこまで接近されたことはなかった。

いつも姫付きの近衛兵が守ってくれていたからだ。

いま近衛兵はそばにいない。いつだって守ってくれていた彼等は、いないのだ。

それに気付いて彼女は急にこころ細くなった。

メイド(私が、自分から出てきたのに………笑える)
男「よう、立てるか?」

男がメイドに手を差し出した。後ろでは少女が何故か楽しそうな顔をしている。

メイド「ありがとうございます。情けないことに、少し立てそうにないです」

それを聞くと男はひょいとメイドを持ち上げ、背負った。

メイド「あの、助けてくださって、どうもありがとうございます」

男「いいさ。仲間を助けるのは当たり前、だろ? アンタも仲間だと思ってるんなら、俺のときも助けてくれよ」

メイド「そう……ですか」

助けてくれる人がいる。

心細さはいつの間にか消えていた。

男は戦士に抱きつかれながらも、後ろに迷子二人がいることに気づいていた。

男(あーあ、どうやって言い訳するかな)

無意識に戦士の頭をぽんぽん叩くと、彼女がぴくっと震えた。

男(あー、こいつかわいいなちくしょう。いや、知ってたけどさ?)

もうちょっとこのままでもいいかなと男は思っていたが、どうもそうは言っていられないようで。

男(不審人物アリ)

真っ直ぐ、迷子二人に近づく男がひとり。

男(普通のやつっぽいが歩き方がちがう。殺る気あんのか、あいつ)

メイドが首を右にひねった。と、同時に不審人物がスピードを上げた。

男(きたっ)

戦士を振りほどき、一気に距離を詰める。

右足を振り下ろすようにナイフを飛ばす。そのまま右足を軸に右回転、空いた左足で不審人物を蹴り飛ばした。

顎に綺麗に入って、ゴリと嫌な音がした。

男(うっわ、痛そう)

だが、そんなのは関係ない。容赦なく、地面に組み敷く。

男「少女、ナイフを確保」

少女「へ、あっ、はい」

男(さて、こいつはどうしよう。あまり時間はないからな、爪でも剥がすか?)

恐る恐るナイフを拾っている少女を見る。

男「適役がいるじゃないか」

少女「へ?」

可愛らしい声をあげる少女の前に、気絶している不審者を突き出す。

男「臨床実験、したくない?」

少女の目がキランと光った。

不審者は少女に任せて、男はメイドに近寄った。

腰が抜けたようで、地面に座っている。こんなときでも上品な座り方なのが、育ちのよさを物語っている。

男「よう、立てるか?」

男が手を差し出すとメイドは少し驚いた顔をした。

メイド「ありがとうございます。情けないことに、少し立てそうにないです」

そう言ってメイドは弱々しく笑った。自嘲の笑みだ。

男(なーにをそんな落ち込んでるのかね?)

男は命を狙われた怖さなぞ、とうに忘れている。

ひょいと持ち上げるとメイドはさらに驚いた顔をした。その顔をみてると笑ってしまいそうで、男は背中にメイドを移動した。

メイド「あの、助けてくださって、どうもありがとうございます」

男は何となく、彼女はありがとうと言い慣れていないような気がした。

男「いいさ。仲間を助けるのは当たり前、だろ? アンタも仲間だと思ってるんなら、俺のときも助けてくれよ」

メイド「そう、ですか」

男はそのまま宿屋へと向かった。



戦士「仲間ってのが、どんなに脆い言葉なのか。彼女はわかってるのかな……」

おいてけぼりにされた戦士は、尻餅をついた体勢のままそう呟いた。

宿・男部屋

男「っはぁー、いい湯だった」

少女「あ、お帰りなさいです、剣士さん」

男が風呂から部屋へと戻ると、ご機嫌の少女が膨れっ面の男性とともに、満面の笑みで出迎えてくれた。

最早膨れっ面というべきではないほどに顔の原型を止めていないが。

相部屋の傭兵は、部屋の隅で三角座りをしてガタガタ震えている。

男「あー。それ、さっきの? なにか吐いた?」

膨れっ面男を指差す。

少女「ええ、さっきのやつです。手始めに、鈍痛を伴いながら皮膚が腫れ上がっていく薬を打ってみたんですが、失敗でしたね。
これじゃまともに喋れやしませんし」

なので、と少女は言う。

少女「腫れがひいたころ、恐らく二、三十分あとだと思うんですが。そのときに自白してくれるよう、今苦痛を与えてるんです
例としては×××を[ピー]したりですね。他にも……」

男「そ、そうか」

熱弁する少女に顔を向けつつ、横目で膨れっ面をみると、必至で男に助けを求めていた。

だが、自分が臨床実験にと差し出しただけに、いまさら返してとは言えない男であった。

取り敢えず手を合わせておいた。

男「誰を狙ったものなのかが問題だな。それがわからないと対策のしようがない」

傭兵「少女じゃないのか? じゃないと、メイドを殺す意味が見えない」

少女「わ、私?」

戦士「姫様狙いなら、メイドを殺す必要はない。むしろ泳がせておいたほうが姫様との接触があるかもしれない」

男「よっ、風呂はどうだったよ」

戦士「っ……な、なかなかだたね」

男「そか」

傭兵(なかなかだたね?)
少女(噛んだ)

メイド「それでは、少女さんを狙う理由は何でしょうか」

男「調合士だからってのが一番の候補かな? もしくは、失礼だが個人的な恨みとか」

傭兵「少女ちゃん、心当たりは?」

傭兵に呼び掛けられ、小躍りしながら怪しい薬を使っていた少女は、くるりと振り向いた。

少女「何のですか?」

戦士「殺し屋に狙われる理由について。だれかに逆恨みされてるとかさ」

少女がくいっと首を捻る。

少女「心当たりはありませんね………私が気付いてないだけかも知れませんけど」

ふむ、と戦士。

戦士「仕事上のトラブルとかはなかったのかい? 利権とか」

少女「えっと………?」

男「自分から話を振ってなんだけど。その辺はさ、いいじゃん。
あんまり踏み込んでいい話題じゃないし。狙われる理由なんて知っても意味は無いんだからさ。」

戦士「や、しかしだな」

男「な?」

戦士「………そうだな。やめだやめ、やめやめ」

場を仕切り直すようにメイドが口を開いた。

メイド「ところで、夕飯はいかがしましょう。その膨れっ面がいる以上、下の食堂でというわけにはいきませんが……?」

男「下の食堂でなにか作って貰おうか。軽く食べれるものとか」

メイド「それでは、私が」

男「いや、アンタは休んどきなよ。作って貰ってる間に酒の一杯でも飲みたいしね」

傭兵「いいね。俺もいくぜ」

二人は部屋を出て、食堂に向かった。

メイド「………行きましたね」

戦士「? そうだね」

メイド「では戦士さん」

戦士「なんだい」

メイド「剣士さんとはどのような関係で?」

戦士「ふぁっ!?」

食堂

男「出発してまだ一日目。なのに、色々あったな」

ジョッキを傾けながら男がうんざりと呟いた。

傭兵「さみしい男旅の予定が、オンナノコ三人が加わって、その後殺し屋に狙われた」

ふむ、と傭兵。

傭兵「………事実だけを並べると、大したことないな」

男「まとめすぎだバカ。調合士だったり姫だったりあるだろうが」

傭兵「そうそう、件の姫さんだが、何やらきな臭い話になってるぜ」

男「あによ?」

傭兵「さっきギルドで聞いてきた噂んだがな。神聖国に嫁いだ王族が次々と行方不明になったり、殺されたりしているらしい」

男「はぁ?」

傭兵「神聖国に向かう道中に襲われるんだとよ。で、その後みつからない」

傭兵「護衛を担当したやつらは神隠しだって言ってる。なんでも、有り得ないことばっか起こったとか」

男「有り得ないこと、ね」

指で顎をなぞりながら傭兵は話を続ける。

傭兵「それは魔法の仕業じゃないかって話だぜ」

男「魔法………」

傭兵「昼間、湖んとこで有り得ないとか言っといてなんだがな。魔法、あり得るかも知れねー。
てか、あったらいいなぁ。透明化の魔法とかよぉ」

男「アホか。にしても、魔法の仕業じゃないか、ね。ということはだ。
ギルドは、その事件の犯人は神聖国に関係のあるものだとみてるわけだ」

魔法を研究しているものは、神聖国を除いてもそれなりの数が存在する。

だが、でかでかと魔法を研究していまーすと公言しているのは神聖国ぐらいのものだ。

傭兵「もしくは、魔法の表面化を恐れた第三者」

男「本気で面倒なことになってきた……」

カウンターに肘をつき、男は頭を抱え込んだ。

男(いっそ逃げるか? けど、師匠から緊急帰還命令が出てるしなぁ……
行きたくねぇー)

傭兵「そいやお前さんはなんで勘当されたんだ? や、答えたくないならいいんだが」

男「むぅ………詳しくは話せないからな。んー、簡単に言えば妹のため?」

傭兵「シスコン?」

男「清い家族愛を劣等感などとよぶでない」

コツン。傭兵の頭を軽く小突く。

傭兵「すみませんねぇ」

男「まるで誠意を感じない………来たか」

傭兵「どうした」

男「膨れっ面君のお仲間さ。おれらの部屋に向かって二人、進行中」

傭兵「おいおい、それは不味いんじゃあ……」

女三人の身を心配するような傭兵に男は首を横に振った。

男「落ち着け、曲がりなりにも剣技大会第一位がいるんだぜ。心配無用さ」

それに、と男は言葉を続ける。

男「メイドは王宮剣技を一通りこなしている。それに知ってるか?
王国に滞在する調合士ってのには、週一で格闘訓練を義務づけされているんだ。ついでに調合士はたしなみとして、暗器を修得してる」

男「薬を身体中に仕込んでるぜ。やつらは爆弾抱えて歩いてるのさ」

寝落ちしました。すみません。

今日の昼あたり、またきます。

時は戻って男部屋

少女がダミ声をあげながら、巨大な鞄からビーカーを取り出した。

少女「てててててってってー♪ 濃硫酸DXー」

戦士「なんだい……その不吉な名前」

少女「濃硫酸………っぽい薬物DXですよ。全然不吉じゃありません!」

メイド「っぽいというところが更に不吉さを強調してますね」

少女「あれー?」

少女「まぁいいや。ってい」

昼間捕らえた男に少女はビーカーの中身を垂らす。

じゅっ

「う゛あああぁぁぁぁあああ! があっ、あっ、う゛う゛あっ」

濃硫酸ですら有り得ないほどの煙をあげて、濃硫酸DXは男の肌を溶かしていく。

戦士「ひっ。そ、それは大丈夫なの!? いろんな意味でさ!」

少女「のーぷろぶれむっ! 特定の物質と反応させないと有害ガスとかは出ませんし。」

少女「触れなきゃ危険はありません!」

メイド「触れたら最高に危険だと言うことですよね。なにがどうなればそんな危険なものが出来上がる訳ですか」

半ば独り言で呟くメイドに少女は何かを思い出す仕草をする。

少女「まずは大量の蟻酸、蟻の種類は南の砂漠の国に生息するハレツアリを使用。それに」

メイド「もう結構です。そういうことじゃ無かったんですが」

メイド「アレですか、貴女は皮肉の解らない天然お馬鹿さんですか」

少女「緋肉くらい分かりますよ! それに、私は天然バカの実では無いです」

戦士「少女はもう喋らないでおこうか? 自分の首を締めることになるよ」

あきれ顔の戦士。

因みに、少女の言う緋肉とは巨大蛇からとれる特上肉のことで、バカの実は列島国に生えるバカの木になる実のことである。

少女「さてと、もう喋れますよね? 貴殿方の狙いは誰……いえ、何ですか」

少女は茶番は仕舞いだと目を細くする。

「………誰が」

捕らえた男が悪態をつく。それに少女は再びビーカーを持ち上げ、ダミ声で

少女「てててててってってー♪ 濃硫酸でらっK」

「わーっ、話す話します話させてーっ!!」

後ろ手を縛られたまま身を捩らせ男は叫んだ。

「俺たちは雇われただけだ。誰にかは解らない。なんせしたっぱなもんでね」

メイド「狙いは……?」

「………お」

男が口を開いたと同時、ヒュッと何かが窓の向こうから飛んできた。

それはそのまま直進して、男の頬を貫通した。

戦士「矢………っ! みんな伏せて!」

戦士の言葉に反応して世間知らず二人が身を伏せる。
カカッと数本の矢が壁にささる。それを待っていたように戦士は傍らの長机を横に倒した。

三人は長机の陰へと隠れる。

メイド「っ……敵襲ですか?」

戦士「本命は口封じ、かな」

メイド「毒矢ですかね。頬に刺さっただけなのにあの男、もう死んでます」

話している間にも弓矢による襲撃は続いている。何度も机に矢がささり、既に盾としても机としても使用できない状態だ。

因みに、少女は私の実験体! などと嘆いている。

メイド(この調合士、一見コミカルにも思える。けれど、彼女も確実に、普通とは違う感性を持っている。それもかなり危険な思想だ
もしかすると、このパーティー一の危険人物は彼女の可能性も……)

戦士「そろそろ机もヤバいけど………っ、攻撃もやみそうにないね」

少女「スモーク焚いて逃げますか? 少女印の煙玉ありますよ?」

戦士「敵も構造くらい把握してるさ。視界を奪えても逃げ道に集中放火されればなす術もない……
かと言って、他の方法もない、か。最終手段はそれで行こう」

メイド「机を盾に逃げてみるのは」

戦士「机の大きさからして、それができるのは一人のときだけだね。重さを考えるならこのなかじゃボクだけってことになる」

メイドの提案を戦士が即、切って捨てた。メイドもそれがわかっていたのだろう。ですよねーと呟いている。

戦士「マズイね、これは」

万事休すか、戦士がそう考えたとき、紺のマントをはためかせ、男が颯爽とあらわれた………ッ!

男「やー、たすけがひつようかい(棒)」

右頬に大きな瘤を作って。

戦士「………助けは有難いのだけれど。その頬、なに?」

男「やー、あのさ。お前第一位じゃん?」

戦士「そうだね」

男「あいつ、歩く爆弾じゃん?」

少女のことだ。

戦士「頷きはしないでおこうか」

そんな不名誉な称号を少女のためにも認める訳にはいかない。否定もあえてしないが。

男「俺いらないじゃん? それで……」

戦士「それで?」

男「そう傭兵に言ったら、ぐーで殴られた。あれは本気だったな……
君らも傭兵無には気を付けなされ」

レディは大切に扱え! なんて叫んでいたのは、傭兵の名誉のためナイショである。いわずもながのような気がするが。

男「弓矢はちょっと予想外だったけど。まあ、飛び道具ならば俺の出番だな」

剣技大会上位ランカーどもが暢気に会話している横で、世間知らずどもは信じられない光景を目にしていた。

矢が、落ちていくのだ。だれもなにもしていないのに、突風に煽られたようにパタリと地面に落ちる。

メイド(空間が、揺れてる?)

先程から、一瞬だが空間が揺れてるいるのをメイドは目撃していた。真夏の陽炎のように、揺らぐ。

男「はははははぁーっ! 俺こそが、魔弾の射手と呼ばれたかった男よ!」

男(よばれたがったのではない、決して)

さっき誤爆して死にたくなったので、今日はここまでです。
あしたは頑張りたい。


てかこの後の展開どうしましょ。
あーなってこうなるのは決めてるのですが、どうやってあーなってこうすれば良いのやら。
文才とアイデアが欲しいですね。

戦士(また法螺吹いてるよ)

叫び、仁王立ちする男へ攻撃が集中する。

だが、それも当たらない。
一瞬にして速度を失ったかのように、何倍もの重力を受けたかのように。十数本もの矢は床に落下していく。

それを、久しぶりに見たなと戦士は呟いた。

足を肩幅に開き、確りと立ち手を前に突き出す。

その姿を最後に見たのは、をあの鬱々とした場所から連れ出してくれたときだ。

あれこそが、男の強さ。あれが、彼が多対一が得意だと豪語する理由。

戦士(種は簡単、だからあまり使いたくないとか言ってたけど。既に数回見ている僕にも全く原理が分からないんだけど)

あんな不可解な。ともすれば奇跡とも言える現象。あれをたった一人の人間が、手をかざすだけで可能にしている。

しかも、あのポーズはただの格好つけだという。

それは、

それはまるで

戦士(魔法)

やがて、攻撃が止むと男はポケットから小さな石を取り出して口元に持ってきた。

男「傭兵、そっちはどうだ」

男が石に言葉を投げ掛けると、石が細かく震えた。そこからはノイズとともに傭兵の声が聞こえてくる。

傭兵『おう。お前さんがうまく囮をしてくれたんで、難なく倒せたぜ』

男の妙なテンションは囮のためだった。そうでなくとも彼は戦闘中テンションが上がるタイプなのだが。

傭兵『しかしスゲーな、この石。数百メールは離れてるのに、会話ができる』

メイド「もしかして遠話水晶でしょうか?」

男「よく知ってるな…って、王族にはいまや必需品か。これは遠話水晶って言ってな、特殊な波動を常時出してるんだ」

男「それで近くの遠話水晶どうしで共鳴するのさ。その原理を使えば、こうして離れた場所でも会話が可能なんだ」

男「範囲は精々半径2,3キロってとこだけどな。それでもリレーみたいに中継用の遠話水晶を通せばもっと遠くても会話ができる。緊急時なんかはこれを利用して、国家間で連絡を取り合ったりするんだ」

傭兵『ほぉ。ん? それだと近くに遠話水晶があれば、盗み聞きが出来るじゃないか』

こういうところに気付くあたり、傭兵もただ力自慢なゴロツキとは違うのだと実感する。

男(というか、見た目に似合わず知的だよな傭兵って。いや、髭をそれば割と……)

男「そこは波長をチューニングするんだよ。稀少な宝石なんかを水晶に組み込んでな。大きさ形なんかも多少だが波長を変化させる」

すべてのものが、波動を放出している。

極端な話そのへんの石ころでも遠話水晶のように共鳴はしているのだ。ただ、その距離が遠話水晶が極端に長いというだけで。

純度の低い道端の石ころの場合、せいぜい数センチ程度の距離になってしまうのだ。

なので、遠話水晶を使う。ただ、純度な遠話水晶だと全ての遠話水晶と共鳴してしまう。

そこで別の物質を遠話水晶に組み込む。そうすれば水晶の波長は変化し、同じ条件の水晶としか共鳴しなくなる。
これまた極端な話、組み込むのはそのへんの石ころでも良い。秘密保持の点で言えば、様々な物質が混ざった石ころは波動を合わせるのがほぼ不可能で、盗み聞きができないためむしろ好条件だ。安価でもある。

しかし、その条件は味方にも当てはまる。共鳴させるには、相手側も同じ条件の石ころを探さねばならないのだ。

だから純度が高く、かつ入手しづらい宝石を使う。盗聴のリスクは高まるが、純度の高いものをつかえばノイズも少くスムーズに共鳴するから、プラスマイナスはゼロだ。

男「ってわけ、理解した?」

傭兵『なんとなく?』

男「ま、そんなもんか。そいつふんじばって戻ってこいよ。こっちはまだ一人来客中だからゆっくりかつ安全にな」

傭兵『了解』

傭兵が肯定するのを聞き水晶をポケットにしまった男は、そのまま空いた窓の方を見る。

男「待たせてすまんな。だけど、そっちが名乗らないせいでもあるんだぜ?」

??「あら? 気づいてたのね」

戦士(ボクが気づけなかった? なんて隠密能力なんだ)

少女(だ、だいなまいとぼでーです。ごくり」

ひょいとサッシに足をかけ、褐色の肌をした女性が現れる。その格好はまるで劇団の踊り子のように露出度が高い。

その格好に彼女のスタイルのよい肉体も相まって、なんとも妖艶な雰囲気を醸し出している。

男(あの格好……)

??「はじめまして、私は………そうね、魔女子ちゃんとでも呼んでね」

男「魔女“子”って年でもないだろ?」

魔女「あらやだ。おねーさんだってまだ二十代なのよ?」

男「若い部類だが魔女子はないだろ。容姿からして」

女性陣の目が魔女の豊満な肉体へと移る。たわわな胸。露出している引き絞られた腰。女性的な尻、むっちりとした太もも。

そのスタイルに戦士と少女(無い胸達)が衝撃を受けた。

戦士「結局は胸か、この変態!」

少女「おっぱい魔神!」

メイド「こっちを見ないでいただけませんか」

魔女「エッチ」

男「は、はぁ!?」

魔女「ともあれ、ここでドンパチする気はもうないわ。いったん退散することにしましょう」

男「逃がすと思うか?」

男が逃がさないと一歩前に出る。

魔女「わからない? 見逃してあげるって言ってるのよ
貴方のその攻撃方法は確かに画期的で強力なものよ。だけど私にはもう通用しない。タネは見切れた」

男「その露出狂ばりの格好からしてまさかとは思ったが、やっぱりアンタ………」

魔女「んんー、その回答は急ぎすぎかな」

男と魔女子の視線が交差する。

戦士「ちょっといいかい。見逃してあげる? 聞き捨てならないんだけど?」

魔女「なによ貴女」

戦士「剣技大会第一位の戦士だよ、露出狂女。それぐらい知っとこうよ、遅れてるんじゃないかい?」

魔女「はん、“王国”剣技大会のことなんか気にしてる暇は無いのよ。それに私は剣なんて小道具を使うよりも、自分の身体で戦う方が好きだから」

そう言って魔女は、胸元に添えた右手を、自らのボディラインを強調するようにゆっくりと下におろしていく。

戦士「へぇ………剣をバカにするんだ」

戦士の怒りに剣をバカにされたこと以外のものも加わることとなった。

魔女「否定はすれど、バカにはしてないわ。被害妄想が過ぎるんじゃない? 可愛いお胸のお嬢さん」

戦士「    っ、×××! ×××××!」

意味もなく放送禁止用語を並べ立てる。

魔女「そうそう。君に一つだけ教えてあげる」

そう言って魔女は男のほうへ向き直した。

男「へえ、ずいぶん気前がいいな」

魔女「貴方のその攻撃に対して敬意をはらおうと思ってね。それの習得には並々ならぬ努力が必要だったでしょうから」

男「そりゃどうも」

魔女「貴方達、帝国を目指しているのでしょう? 近いうちに私達は帝国襲撃を予定してるわ」

男(! ブラフか……!?)

魔女「信じるも信じないも勝手だけれど、帝国行きは諦めるのが得策ね。そのまま神聖国にでも向かったらぁ?
貴方なら、歓迎されるわ。きっとね」

パチンとウインクをしてみせる魔女。その妖艶さに、確かに魔女だと少女は無意味に納得してしまった。

男「それは、遠回しな勧誘か」

魔女「んふ。貴方って本当に面白いわぁ。まだ出会ったばかりだけどお姉さん、貴方のこと好きになっちゃった」

メイド(この女、底が知れない)

少女(なんだか、みんな怖い顔してます……うう、私だけ完全に場違いです)

男「光栄だな。その流れですべての情報を流す気はないか?」

魔女「だーめ、よく言うでしょ。可愛い子には旅をさせよって」

男「さっきの情報は取引か」

魔女「さあ。でも、愛しの男クンなら見逃してくれるって信じてる」

男「………」

魔女「そう言うことで。貴方とはきっとまた会えるわ。そのときは、デートをしましょう約束よ? バイバイ」

シュン。布が勢いよく擦れたときにでる音とともに、魔女の姿が消えた。

闇にそまった何もない空間に、柑橘系の果物のような香りだけが、魔女がそこに存在していたのだと言っている。

男(香水、か? 山岳同盟のもののようだが)


傭兵「おーい、無事か?」

窓の下から傭兵の声が飛んできた。メイドが窓によって答える。

メイド「問題はありません。合流しましょう」

傭兵「おう、今行くー!」

傭兵が宿に入るのを確認してからメイドは窓から離れた。

メイド「聞こえていたでしょうが、今から来るそうです」

男「了解。今さらだが皆怪我はないか? 毒矢を使ってたみたいだし、かすっただけでもヤバイぞ」

少女「毒の解析はすみましたから、念のため解毒剤でも飲んでおきますか?」

少女に聞かれ、メイドは先までの濃硫酸DXとやらを思い出した。つうと彼女の頬を汗が伝う。

メイド「いえ、結構です」
全力で否定した。

少女「そ、そうですか?」

全力否定が何によるものか少女にはわかっていないようで、不思議そうに首をかしげている。

戦士「ひんにゅ………可愛い胸?……そんな…バ…な……AAじゃ…………Aぐらい……よせれば……私だ…て」

戦士は何やらブツブツと呟いている。

男はBは流石にあるのではと思っていたが、自己申告(無意識)によればAAのようだ。涙が出てきた。

傭兵「ういっす、お疲……れ?」

やがて戻った傭兵は、何故か泣いている男、ブツブツと呟いている戦士、
キラッキラして解毒剤を薦める少女、それを死んだ目で断り続けるメイド、という惨状をみてただただ困惑するばかりだった。

皆落ち着く頃には暇になった傭兵が寝ていて、四人に叩き起こされていた。

寝れなくて投下。

ぼーっとした頭でっかち書いたので、文がおかしいかも。
おやすみ。

暗い部屋に一瞬光が満ちた。

光が消え、視界が戻るとそこにはスタイルのよい踊り子のような格好をした女性が立っていた。

魔女「はろはろー。魔女子ちゃんだよー」

魔女の対極に座る男が重々しく口を開く。

「なんのようだ、女」

魔女「いやぁ……しばらくは様子見のつもりだったんだけど。すきな人に予告をしちゃったわけ、だったら絶対にやらなきゃならないでしょ?」

魔女「てわけで、お命頂戴皇帝陛下!」

上に挙げた魔女の袖口からナイフが投擲される。その刀身は金属的な色はしていない。

皇帝「毒投げナイフか」

余裕綽々で帝国皇帝は椅子に座っている。皇帝にナイフは迫っていき、あたる寸前に金属音とともにナイフは弾かれた。

髭を蓄えた皇帝の横には若い金髪の男が立っている。その胸元にはクロスした槍のマーク、皇帝直属の近衛兵の制服だ。

皇帝「よくやった近衛長」
近衛長「はっ、ありがたき御言葉」

短めの槍を二つ、右手と左手にそれぞれ一本ずつ構えた近衛長はまっすぐに魔女を捉えたまま礼をした。

皇帝「のう、女。お前は今わし直属の近衛兵二十人に加え、第一部隊の十人、合計三十人に包囲されておる。諦めて投降するがいい」

魔女「ふふ。三十人ごときで私が止められるとでも?」

皇帝「ただの三十人ではないさ。帝国の強者たちを集めておる、経験も豊富な者たちだ。いまも弓兵がお前を狙っている」

魔女「ふうん、それは恐いわね。で、も、お姉さんはそれぐらいじゃあ……殺せないわよ」

近衛長「くっ、戯れ言を! 我々を侮辱するか! 弓兵射て!」

近衛長の掛け声と同時に魔女を基点にして四方八方から矢が放たれた。

魔女「もう、短期な子は嫌われちゃうゾ☆」

魔女が手を掲げると、轟と凄まじい風が起こった。風は彼女に迫る矢を方向転換させられ、全てが威力を増し皇帝へと迫る。

皇帝「ぬ!?」

近衛長(一体何が? いやそれよりも)

近衛長「陛下お動きにならぬよう……っはぁ!」

一閃。魔女が気づいたときには矢は全て真っ二つにされて床に落ちていた。

魔女「撤回しましょう……貴方は面白い。お姉さん早くも浮気しちゃいそう」

近衛長「それはそれは」

魔女「だから、もっとみせて頂戴!」

轟と風が魔女を包み込んだ。



==============

ズル。血塗れの槍が血塗れの近衛長の手から落とされた。その両手は細かく痙攣していて力が入らない様子だ。

近衛「ぐ……ふっ」

鎧がガシャンと音をたてながら近衛長が倒れた。顔だけを上げて憎々しげに魔女を睨み付けている。

そんな魔女は涼しげな顔で皇帝が座る椅子の手すりに座っている。

汗が一筋、頬を伝っているがその体は無傷だ。

魔女「んふふ」

ナイフを弄る魔女の横で皇帝は身を強ばらせて座っている。

皇帝「殺さないのか」

魔女「[ピーーー]気だったけど……やっぱり好きな人の故郷を蹂躙するのってイヤじゃなぁい? だから、降伏なさい」

皇帝「NOだな、我が帝国に降伏などありえん」

魔女「あーもう、堅物ね! お姉さんのバックにいる組織ぐらい見当がついてるんでしょう。降伏するのが正解だってことくらい、わかるはずよ?」

がしがしと頭をかく魔女。彼女には珍しく焦りの色が見える。

皇帝「………これはまさか、貴様の独断専行か。おかしいとは思ったのだ。あの組織が一人しか送ってこないなどあり得ぬ」

魔女「………そこまでわかってるなら、察しなさいよ」

皇帝(この女、まさか帝国へのダメージを最低限に止めようとしているのか)

皇帝「組織の一員ともあろうものが感情で動くとはな。この行動、成功したとしても大目玉だろうに」

皇帝「理由は何だ」

魔女は答えない。いつしか魔女の手はナイフを握りしめているだけだった。

皇帝「組織の人間をそこまで変えた者は一体……」

沈黙。暗い部屋に近衛兵たちの唸り声だけが聞こえてくる。

魔女「アンタがこの帝都から追放した人物だよ」

皇帝「………そうか、やつか。それならば納得もいく、やつにはこの私ですら頭を垂れかねんオーラがあった」

魔女「だけどアンタはあの人を追放した!」

手すりからおり、皇帝の正面から彼の目を見る。その目はどこか悲しげだと魔女は感じた。

皇帝「しかたなかったのだ。やつは、人間の域を超えていた。やつは魔族だったのだから」

魔女「魔族だって私達と同じ人間だ」

絞り出すように震えた声で魔女が言った。

ナイフを弄る魔女の横で皇帝は身を強ばらせて座っている。

皇帝「殺さないのか」

魔女「殺す気だったけど……やっぱり好きな人の故郷を蹂躙するのってイヤじゃなぁい? だから、降伏なさい」

皇帝「NOだな、我が帝国に降伏などありえん」

魔女「あーもう、堅物ね! お姉さんのバックにいる組織ぐらい見当がついてるんでしょう。降伏するのが正解だってことくらい、わかるはずよ?」

がしがしと頭をかく魔女。彼女には珍しく焦りの色が見える。

皇帝「………これはまさか、貴様の独断専行か。おかしいとは思ったのだ。あの組織が一人しか送ってこないなどあり得ぬ」

魔女「………そこまでわかってるなら、察しなさいよ」

皇帝(この女、まさか帝国へのダメージを最低限に止めようとしているのか)

皇帝「組織の一員ともあろうものが感情で動くとはな。この行動、成功したとしても大目玉だろうに」

皇帝「理由は何だ」

魔女は答えない。いつしか魔女の手はナイフを握りしめているだけだった。

皇帝「組織の人間をそこまで変えた者は一体……」

沈黙。暗い部屋に近衛兵たちの唸り声だけが聞こえてくる。

魔女「アンタがこの帝都から追放した人物だよ」

皇帝「………そうか、やつか。それならば納得もいく、やつにはこの私ですら頭を垂れかねんオーラがあった」

魔女「だけどアンタはあの人を追放した!」

手すりからおり、皇帝の正面から彼の目を見る。その目はどこか悲しげだと魔女は感じた。

皇帝「しかたなかったのだ。やつは、人間の域を超えていた。やつは……魔族だったのだから」

魔女「魔族だって、私達と同じ人間だっ」

絞り出すように震えた声で魔女が言った。

ケータイが死んでました。
このさいスマホにすべきか……いや、だがしかし……

今から書いてきます。
なんか気付いたら魔女に妙な設定が加わってた……どーしよ。

皇帝「五体不満足で生まれてきた幼子を、赤目で髪や肌の白い少女を、同じ日にうまれた二人の赤子を、両の目の色が異なる成年を、足が三本ある若者を」

意志の強い目が魔女を見据える。

皇帝「世が人間扱いしたことなどないのだよ」

悲しいことにな。皇帝はそう続けた。

魔女「………そうだと言って、納得しろというの!? 納得したというの!?」

皇帝「諦めねばならんことなど世にごまんとある」

諭すように皇帝は言う。その姿は、どこか自分に言い聞かせているようにも感じられた。

魔女「それで納得したの? 納得してしまったの? アナタは」

それでもいいのかと、それで満足なのかと魔女は言外に問う。

皇帝「私の言は私だけのものではないのだよ。一国を預かる者として、これに逆らうのは得策ではないと判断した」

魔女「この、ことなかれ主義がっ!」

皇帝「結構。だがな、貴様は私との対話に一体なにを求めているのだ? 私がああ言うのはわかりきっていたはずだ」

魔女「…………」

魔女は口を開かない。

皇帝「答えぬ。答えられぬか。貴様は甘いな、感情にとらわれすぎだ」

魔女「なにを」

言って、と言おうとしてだがしかし、彼女の言葉が紡がれることはなかった。

原因はその腹。紅い円の、やや上を突き抜ける槍。

近衛長「コヒュー………ヒュー………コヒュー………」

魔女「か……ふっ……」

吐血して倒れる魔女。投げ出された右手が地を掻いた。

皇帝「我が近衛兵団が一回殺したぐらいでくたばると思うたか」

魔女「フツーは、死ぬわよね………っ……」

皇帝「残念だが、読みは外れたようだ」

魔女「あは……ホント、残念」

カクンと魔女の首が落ちる。

皇帝「気絶したか。近衛長、治療したのちに特別房へ放り込んでおけ」

近衛長「殺さないのですか?」

皇帝「[ピーーー]のも拷問にかけてからだ。全快するまで待たねばならんが」

皇帝はその目に焼き付けるように魔女をみる。

皇帝「しかし、ヤツか」

生きている近衛兵に短く命令した近衛長は皇帝の横にたった。

近衛長「四十年ほど前ですか。陛下が即位してまもなくに……」

皇帝「ああ。紛れもないこの私が追放した。確か追放後は魔王と名乗っていたのだったな」

近衛長「魔法が達者な若者だったと聞き及んでおります」

皇帝「ああ、追放するには惜しい人物だった」

近衛長「確か、かの剣聖の長女を勇者として送り込んだのでしたね」

皇帝「あの娘も父親を超える才能があった。勇者に討伐されたものだとばかり思っていたがな……」

翌日。

剣技大会第四位とそのご一行は、相も変わらずガッタンゴットン馬車に揺られていた。

ローテーションの順番で戦士が御者をしている。当然、その横には次の担当の傭兵がいるのだが、手狭な御者台にはなぜかメイドまでが座っていた。

理由は、簡潔に言うとメイドが御者を習いたいと言い出したからなのだが。

それならば、無理して三人座る必要もないのだ。戦士が御者をつとめ、横に座るメイドに教える。それでいいはずなのである。

だがそこに戦士が教え下手だという事実が加わると、一気にややこしい話になった。

教え下手だから自分は教えられないと言う戦士に、ギルドでの教員資格を持っているらしい傭兵が、教えようかと提案した。

そこで順番を変えて傭兵が御者、隣にメイドが座るという構図になれば万事解決だった。けれど、戦士が首を縦には振らなかった。

順番を変えるのはイヤだと言うのだ。元来、頑固な一面も持ち合わせる戦士だが、この言動の裏には昨日の夜に活躍出来なかったという焦りのようなものがあったのではないだろうか。

そんなわけで、御者の戦士、講師役の傭兵、生徒のメイド三人が御者台に座るはめになった。

戦士が御者を担当するときに教えを請えばいいのだが、生憎それに気づいたのは男だけであり、荷台が広くなるので男は特に口も出さなかった。もうけもん、程度にしか思っていなかったのだが。

男はその判断をそうそうに後悔することとなった。

男(き、気まずいっ!)

一行は出発時の男二人に加え、王都で女二人、森で一女の、合計五人のメンバーだ。そんな中、三人が御者台に座れば必然的に荷台には二人が残る。

男と、少女である。

狭い空間に知り合って間もない男女が二人きり。

方や基本静かな敬語娘、方や弱冠人間嫌いの皮肉男。

男 少女((き、気まずいっ!))

>>90

×戦士が御者を担当するときに教えを請えばいいのだが、

○傭兵が御者を担当するときに~

男「あー、こうやって話すのは初めてだったな」

少女「そ、そうですねっ!」

話を切り出されて嬉しいのやら悲しいのやら、少女は微妙な気持ちになった。

男「なんだ。その、少女は調合士なんだよな」

少女「はい」

男「昨夜の事を鑑みるになかなか腕も良さそうじゃないか」

少女「そ、そうですか? えへへ………」

少女は照れ臭そうに笑った。

男「ん? ……少女は今いくつだ?」

少女「16です」

男「16………?」

少女「どうかしました?」
何かを思い出すように額に手を当てる男をみて、少女は首を傾げた。

男「えっと、もしかしてさ」

少女「?」

男「少女って、噂の史上最年少の調合士?」

瞬間、少女の顔がパアッと明るくなった。

少女「気づいちゃいました? えへへー」

男(おっとぉ、これは面倒臭い流れか?)

少女「私は別にー………………んん」

男は彼女の自慢話を延々と聞かされることを覚悟したが、どうやら自重してくれたようだ。

変わりに男から誉めてあげることにした。

男「いやしかしすごいよ少女は。大人、それも長年研究を続けた学者でも難しいと言われる狭き門。そんな調合士試験にその年で受かるなんて、世辞抜きで感心したし、尊敬もするよ」

少女「えへ、えへへー」

誉められ慣れていないのか、誉められるのが好きなのか、少女はでっれでれだ。

にへら。そんな擬音が似合う笑顔である。

男「………」

少女「…どうかしました?」

男「あ、いや。なんか妹を思い出してた」

少女「妹さんがいるんですか?」

男「ああ。丁度アンタぐらいの歳でさ。何時もは誰かの後ろに隠れてるのに、好きなこととなるとすっげえいい笑顔を見せるんだよ」
男「ああ、うん。少女にそっくりだな」

少女も普段は静かにしているくせに、昨夜のようにバーサークすることが稀によくある。

伝説や童話などのことになると、途端に饒舌になる彼の妹と本当によく似ている。

男「最後に会ったのは俺がまだ十代半ばのガキのころでさ。まだ十歳にもなってなかった。当時の俺の胸辺りに顔があってな、それがぴこぴこ動き回ってんだ」

少女も、小さな女の子が走り回る姿を想像して、ああそれは可愛いなと感想を抱いた。

少女「剣士さん、妹さんがお好きなんですね」

男「くそったれな親戚一堂のなかでも、あいつと従妹だけは嫌いになれなかったなぁ」

少女「へぇ………でもなぜ何年も会ってないんです?」

少女の問いに男の表情がくもる。

男「まあ、なんだ。いろいろあってさ、お恥ずかしながら、勘当されちまったのさ」

仲間同士の仲を深めたいんだが、こういうストーリーとあまり関係のない会話って書くの苦手。
話を膨らませるのが苦手なのかな?

今日は休みなんで、今から寝て起きたら書こうと思う。

少女「感動……?」

男「心動かされたんじゃなくて、縁を切られたんだよ」

少女「そ…う、ですか。それは………お気の毒でした?」

男「ま、妹に会えないって以外は特に気にしてないんだがな。もともと独り暮らしをするつもりだったから」

少女「そうなんですか。でも妹さん寂しがってますよ、きっと」

少女に言われ、男は苦い顔をした。

男「それを考えると、気が重いよ。随分なお兄ちゃん子だったからなぁ」

少女「なつかれてたんですね」

男「近所に同年代の子どもはいなかったし、従妹とも五歳以上歳が離れてたから。遊び相手が俺ぐらいしかいなかったんだよ」

なんどままごとに付き合わされたか。そう言って男は天井を見上げた。

少女の目には懐かしそうでいて、寂しそうな目をしているように見えた。

男「少女は? 兄弟姉妹はいるのか?」

少女「私ですか? 私はいませんね。でも、仲のよかった兄のような人はいました」

男「過去形……?」

少女「長いこと、会ってないんです」

男「その……生きて」

少女「わかりません。けど、最近になって帝国にいるって情報を入手しまして」

男「……それで俺たちに着いてきたのか」

少女「はい」

男「見つかると、いいな」

少女「はい!」

フードの下の顔は見えないが、男は少女が笑ったんだと感じた。

少女「ところで、剣士さんはなぜ帝国へ?」

男にさっき勘当されたと聞かされたので、帰省という線は低い。

男「ん、なんというか。まだ勘当されてないころ、家庭教師みたいなことをしてくれる人がいたんだよ。その人に帰還命令を出されてさ」

少女「はあ………?」

いまいちよくわからないようで、少女はきょとんとしている。

男「師匠から呼び出されるときって、大抵が面倒事か説教なんだよなぁ。あー、ヤダヤダ気が重い」

行かなきゃいいのでは? と思った少女だが、おそらくそう言うわけにもいかないのだろう。男はぶちぶちと文句を言っていた。

少女「………進路を変更したのはやっぱり昨夜のことを受けてですか?」

しばらくの沈黙の後、少女がそう切り出した。

男「気付いてた?」

少女「明らかに迂回してますもん。仕事で各地を廻ることの多い私ですから解りましたけど」

きっとメイドさんは気付いてませんよ、とのこと。

男「まあ、あんだけの事がありゃあな。あの魔女子とやら、異常な雰囲気がした。あれはヤバイ」

言って男は少女をじっと見た。

少女「ですね。ああいうのは一見は普通に見えるから厄介です。変装されては道端ですれ違ってもわからないかも」

男(魔法、か)

そんなこんな話していると、馬車が減速してまえから傭兵が首を出してきた。

傭兵「よう、お二人さん。農家のひとが羊の乳をわけてくれるってんで買いに行くとこだ。女性の分なら奢るが、いるかい?」

少女「いただきます。けど、お金はきちんと払いますよ」

傭兵「いいや、俺にもカッコつけさせてくれよ。な?」

因みに、御者台に座る女性二人は傭兵の奢る発言に二つ返事で、ごちそうさまと答えたそうな。

男「俺もー」

傭兵「お前さんは自分で払うんだな、ついでだから買ってきてはやるよ」

男「おい、ここだけの話、俺って実は女なんだぜ」

傭兵「なにっ? ……俺っ娘か……イイな」

男「アホか。ほら、さっさと行ってこい」

傭兵「いや、結局どっちだよ!」

男「アンタはどっちに見えんだよ」

男は傭兵に顔を近づけ、イタズラっぽく笑って見せた。

傭兵「俺はその………どっちだ?」

男の顔は、端から見ている少女には邪悪な笑みにしか見えなかった。

男「奢ってみればわかるかもよ?」

傭兵「お、おう………」

ぶつくさ言いながら顔を引っ込めた傭兵に、やはりばかだなこいつと男は見識を改めた。

因みに彼はれっきとした男である。

暫くして、ミルクを持った傭兵が戻ってきた。

傭兵「あいよ、お二人さん。おい剣士、今回はお前さんの無駄な演技力に免じて奢っといてやるよ」

男「そりゃどーも。はったりだけで帝都から王国まできたからね、そいつにかんしちゃ一家言持ちよ」

傭兵「かー、やだね」

戦士「ボクもそのはったりとやらにどれだけ悩まされたか」

メイド「いまもどんなはったりをかましているか、分かりませんね」

周りから不審な目で見られて、男は無言でミルクに口をつけた。

傭兵「ま、さっさと飲んで、さっさと行こうや。さっきちらっと嫌な噂を小耳にしたもんでよ」

少女「ウワサ、です?」

傭兵は芝居がかった態度で大きく頷いた。

傭兵「なんでも、最近この辺りには牛男〈ミノタウロス〉が出るらしい」

戦士「ミノ……なんだって?」

メイド「ミノタウロス。伝承によく記述されている、半人半牛の怪物ですね。その昔、人間、魔族、ミノタウロスで覇権を争ったとか」

戦士「よく知ってるね」

男「ミノタウロスは肉体が強靭で、ギルドでは戦神として祀ることもあるしな。王宮メイドとしては常識なんだろう」

戦士「へぇー」

男「というかアンタはギルド所属だろうが、何故知らない」

戦士「いや、ボク朝会とか出たことないし。それにスカウトだったから入試も受けなかったんだよ」

少女「あれ? 祀るほどなのに、なぜ嫌な噂なんですか?」

傭兵「ミノタウロスの噂は、その実正体が山賊だったてのが多いのよ。幽霊の正体見たり枯れ尾花ってな」

男「それじゃ、さっさと出発しますか。次の御者は傭兵か?」

傭兵「おうよ、メイドちゃんに手取り足取り教えてやるぜ」

メイド「御者で手を離すのはどうなんでしょう」

同日、帝都。

皇帝「あの女はいつ頃回復する」

皇帝は書類に目を通しながら、遠話水晶に言葉を投げかけた。

少しの間があり、水晶が震える。

近衛長『目を見張るような回復力ですが、それでも早くて明日ですね』

流石帝国、といったところだろうか。その音声にノイズは少ない。ほぼ肉声のままである。

伊達に技術力一位を名乗ってはいない。そもそも、遠話水晶を実用化したのも帝国である。

皇帝「明日か。近衛長、お前はどう見る。その女のバックの組織は、一体何をしたいのだ?」

近衛長『お言葉ですが、考えるだけムダでしょう。魔法という、こちらにとってほぼ未知の技術を使ううえ、その情報秘匿はたいしたものです』

近衛長『そもそも我々は、それが何かすらわからずに魔法と呼んでいるのですよ。あれが超科学という可能性すら否定は不可能です』

皇帝「原理もわからずに使っている物など腐るほどある。我々がここにこうしているという事さえ、事細かに全て説明することなど私にはできぬよ」

近衛長『そうですね………っと、何やらノイズが』

近衛長の言うように一瞬水晶がノイズを発した。

『あー、てすてす。聞こえてるかい? 我友よ』

水晶から皇帝、近衛兵長そのどちらでもない声が響く。

皇帝「………! 貴様、魔王か」

魔王『そうとも。久しいね皇子……っともう皇帝だったか、悪いね』

皇帝「………、何の用だ」

魔王『む、なんだいその喧嘩腰は。竹馬の友に合ったというに』

皇帝「竹馬の友だと? 魔王だとかよくわからん名を名乗りおって、私がそれでどれだけ迷惑したか」

魔王『ふーん、迷惑したんだ?』

皇帝「しないとでも、おうたのか!?」

魔王『そりゃよかった』

皇帝「くっ、貴様ぁ」

魔王『だから言ったでしょ、俺を追放したら後悔するって』

そう言って魔王は無邪気に笑った。

魔王『ま、いいや。本題に入ろう、俺だってなにも君と話すためだけにこんなことをしてるわけじゃないしね』

皇帝「貴様ならば、やりかねんがな」

魔王『わぉ、俺ってば信頼されてるぅ』

皇帝「ちっ、食えんやつだ」

魔王『俺の用ってのは、魔女子ちゃんのことさ。なんか勝手に出てったと思ったら勝手なことしてたみたいね、謝るから返してくんない? ゴメーン』

そのまったく誠意のない謝罪に皇帝は苛立ちを隠せない。気のせいかノイズまで彼をおちょくっているように感じられる。

皇帝「昨日の女か。返すわけがなかろう」

魔王『………………そっか、ならいいや。諦めた』

意外にも魔王はあっさりと諦めたようだった。

魔王『でも、丁重に扱えよ。傷でもつけたなら明日にはお前の命が無いと思え』

皇帝「脅しか? 効かんな」

魔王『強がりはよせよ。君になら解るはずだ、俺にはそれが可能だってことが』

皇帝「ほざけ」

皇帝がそう言葉を発した瞬間、ゾンッと物凄い重圧を感じたと皇帝が思ったときには、彼の使う長机は跡形もなく消え去っていた。

皇帝「………相変わらず、規格外だな」

つ、と皇帝の頬を汗が伝った。

どうも消えた(少なくとも、その様に見えた)のは長机だけのようで、乗せてあったインクやペン類が床に転がっている。

魔王『気をつけなよ? 明日は我が身だぜ』

この飄々とした、それでいて全てを見下した態度。皇帝は魔王のそんなところが気に入らなく、同時に恐れている。

魔王がその気になればおそらく、この大陸の国という国を滅ぼすことなど容易いだろう。

皇帝「神にでも、なったつもりか!?」

皇帝の激昂にも似た魔王を詰る声に、当の魔王は小さく苦笑した。

物わかりのわるい子供を諭すように、魔王は言葉を紡ぐ。

魔王『神? 笑わせるない、俺は魔王だよ』

魔王『ま、そんなわけだからさ。捕虜としての扱いを希望するよ、それ以上は望まない』

ヨロシクね、と言って魔王は通信を切った。

皇帝「………」

皇帝が小さく息を吐くと同時に水晶が再びノイズを発した。

魔王『そうだ。魔女子ちゃんの入ってる組織? 的なのが今日中に帝国を襲うそうだよ』

皇帝「………」

魔王『脅しただけじゃ心配だしね、彼女をそれなりの待遇にしてくれるために多少の情報を与えようかと、ね?』

皇帝「信用できるか!」

魔王『ま、信用するかしないかは好きにしな。でも、君が俺以外に殺されるのは気に食わないから』

皇帝「貴様な……」

魔王「いざってときは君だけ助けてやるよ。今日の夕時かな」

なぜかその言葉は、肉声そのものを聞いているかのように感じられた。

耳元で囁いているような。

そんな考えが脳裏を過る。皇帝は反射的に振り向いた。

皇帝「………、流石の奴でもそれはないか」

誰もいない空間に一安心して、皇帝は知らず深く息を吐いた。

魔王「こっちだよ」

皇帝「!?」

大きな動作で正面を向くと、肘が愛用の長机にぶつかり、皇帝は思わず舌打ちをした。

皇帝「机が……」

魔王「消すのが簡単なら戻すのも簡単なのさ」

消えたはずの長机に悠々と魔王が座っている。

見れば床に落ちたインクや資料が元通り、正確に机の上にある。

魔王「や、懐かしい顔だろ? ………しっかし君は老けたねぇ。いやさ、君だってそんな身分だ。何度か見かけてはいたんだけれど………間近で見るとやっぱり違うもんだね」

皇帝「っ………そういう貴様は全く変わっておらんな。四十年前のまま、何も変わっていない!」

怒りから、恐怖から、皇帝は震えた声を絞り出すように発していた。

否、確かにいま怒りと恐怖の二つの感情が皇帝の心のなかを席巻している。

ただ、その割合は怒り2、恐怖8だ。皇帝は魔王を恐れていた。

魔王はまるで、全ての人から優男というイメージを抽出し、それを混ぜ合わせて創ったような外見をしている。

皇帝が恐れるのはそのオーラ。先日の魔女子襲撃の際、皇帝本人が口にしたように魔王には若かりし頃は覇王とまで呼ばれた皇帝さえも、無条件降伏をさせかねないオーラがあるのだ。

魔王「思ったよりも速く先方が到着したみたいでね、慌てて来たんだよ」

皇帝「先方?」

魔王「そう、名前は知らないけど。俺の魔女子ちゃんが勝手に所属してた組織」

口調こそ変わらなかったが、俺の魔女子ちゃんが~のくだりで魔王が怒っているのを皇帝は察した。

皇帝「貴様と、あの女は恋仲なのか?」

ぴたり。

机の上で前へ後ろへ身を揺らしていた魔王は、皇帝の言葉に固まった。

怒らせたかと皇帝は不安に思ったが、魔王の顔は予想を裏切る表情を浮かべていた。

良い意味でか悪い意味でかは判断不能。

魔王「そ、そう見える、そう思う?」

まるで初恋の男と二人きりにされた生娘のようにそわそわする魔王。

正直、きもい。

皇帝「そんなふうには見えんな」

そもそも二人が接触しているところを皇帝は一度も見ていない。

また魔王の表情が凍った。

今度は恐らく、悪い方に予想外。触ったら崩れ落ちそうな気までする。

皇帝「おい、まさか。まさか。魔王ともあろう者が、色恋に悩んでいるなどと言うのか!?」

魔王「う、うるさいやい! 魔王だって人間だぜ!?」

皇帝「相手はあの魔女か!」

魔王「そうだよ! そうですよ! なんなんだよ、もう! ぱっとしない剣技大会第四位(笑)なんか誘惑してさ」

俺の何がダメなんだよーーーっ! 魔王はそう叫ぶと、

魔王「………魔女子ちゃんのとこに行ってくる」

と言って姿を消してしまった。

皇帝「………」

皇帝(あれ、敵が来るとかは?)

酉をつけ忘れていましたが、私です。

修学旅行のごたごたで、暫く来ることが出来ませんでした。

それもこれも、阿蘇山に行くと言って聞かなかった学年主任が悪いのです。
だから熊本城にしようとあれほど………

とまあ、またぼちぼち書いていこうと思うので
目を通していただけると、ありがたいです。

一方、ぱっとしない第四位(笑)御一行は、ぱっとしない上に守銭奴な第四位の発案で湖にやって来ていた。

王都から真っ直ぐの道には途中で川が流れており、そこには橋が架かっている。
が、その橋、馬車が通るのにはバカ高い通行料が必要なのだ。

そこでドケチな誰かさんは、少し遠回りだが川下の湖で、船に乗せてもらうことにしたのだ。

船ならば、馬車だから高くなることもないし、何より安いからだ。

そんな湖を見て、傭兵が思わずといったように叫び出した。

傭兵「海っ! だっ! っ!」

男「海じゃない、湖だ」

戦士「水海?」

男「うん? なにか違う気がする」

メイド「水着も何もありませんよ。前回の水浴びもなにもありませんでしたし、なんのための湖ですか?」

男「メタ発言止めなさい! それと水浴びのときサービスがなかったのは、主にアンタのせいだと思うのだが」

メイド登場中に女子同士のキャッキャウフフは終了していた模様。

メイド「チッ。海のバカヤロー!!」

男「キャラが崩壊している!? 若干少女とキャラ被りしているからといって、そんな風に差別化を図らずとも!」

そして海ではない。

少女「ペロッ これは!」

男「青酸カリ?」

少女「石灰が多量に含まれてますね、上流の火山によるものでしょうね」

男「突っ込みが俺しかいねぇ!」

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