エルー「キリさん!? 何してるんですか!?」(58)

エルー「この手錠、何ですか!? どこ触ってるんです!?」ガチャガチャ

キリ「暴れるなよ、暴れるな」グイグイ

エルー「ちょっ…と!」バキッ

キリ「いだっ!」ドタンッ

キリ「な、何も頭殴らなくてもいいじゃないか…」ズキズキ

エルー「自業自得でしょ! 人が寝てる間に、何してくれてるんですか!」

エルー(ん? 寝てる間?)

エルー「キリさん。私夕方に貴方のお手伝いしてた途中から、記憶がないんですが」

キリ「あんたの飲み物に入ってた睡眠薬がよく効いたみたいだ。いやー、俺も手先が器用とはいえ作るのには苦労を…」

エルー「……」

キリ「すみませんでした」

エルー「はぁー…とにかく、この手錠外してくださいよ」

キリ「うん」カチャカチャ

エルー(…なんで、こんな事したんですか)


トロイの特効薬が完成し、根絶が始まっている今の世界
私たち二人は小さな家で、新しい生活を始めていたのだが……

翌日

エルー「――ということがありまして」

スイ「なんであたしに相談すんだよ」

エルー「身近ですぐに相談できる人っていったら、スイさんしかいなくて」

スイ「あーあー分かった分かった、皆まで言わんでいい」

スイ「お前のダチ、今じゃ国中を駆け回ってるんだろ? トロイをひとつ残らず根絶やしにするためによ」

エルー「はい」

『もう十分、貴方たちは働いてくれた。後は私たちに任せて休んでくれればいい』
『ありがとう』

エルー(そう、シスター・マーサも皆も言ってたけど。こんな日々じゃ…)

スイ「キリの野郎が変な行動取ったのは、昨日が初めてだったのか?」

エルー「いえ、今までにも何度かあって。ほとんど要領を得ないことばっかりで」

スイ「やっぱりな」

エルー「何か、知ってるんですか?」

スイ「お前ら二人が一緒に住むようになってから、一週間経ったときの頃だっけな」


キリ「スイ、少し喧嘩してほしい」

スイ「は?」

キリ「いいから、ほら構えろ」アチョー

スイ「…いきなり何のつもりか知らねーけど、あたしはもう昔のあたしじゃないんだ。むやみやたらと喧嘩染みた真似は」

キリ「来ないならこっちから行くぞ!」ブォン!

スイ「!」バシッ

キリ「さすがだな、腕は鈍ってないみたいだ」ニヤ

スイ「お前なあ…!」

スイ「拳を振り上げたのはそっちだ、こっちも全力でいかせてもらおうじゃねえか!」ガキン、バチン

キリ「その輪っか見るのも、なんだか久しぶりだな」ズイッ

スイ(間合いを、詰めてきた!?)

キリ「こうやってこっちも輪の中に入れば!」ガシッ

スイ「こ、の!」

キリ「自由に動かせないな!」

スイ「馬鹿にすんじゃねえ!」
スイ(一旦アヴィーを分解して…)

キリ「あっ」

スイ「こういう使い方もできるんだよ!」ヒュパッ

キリ「パーツで殴りかかるなんて棒術か何か!?」

スイ「オラァ!」ズギャン!

キリ「うおっ!」

ガシャーン!

スイ(やべっ、勢い余って廃材の中に突っ込ませちまった)
スイ「おい、キリ。無事か?」

スイ「無事なら返事を」 ガシャン、ドンドン、ガシィン
スイ(何の音だ?)

キリ「武器使えるのはそっちだけじゃないぜ」ヌゥ

スイ(こいつ、廃材で即席の武器を…薙刀かなんかのつもりか?)
スイ「手先のよさは相変わらずみてーだな」

キリ「お前みたいに強くないからよ、小細工させてもらう」

スイ「そうか、なら」

スイ「真正面からぶっ潰す!」ズンッ!!

――数分後

スイ「なあ、キリ。なんでこんなことしたんだよ」

キリ「……」ボロボロ

スイ「思いっきりぶっ飛ばしちまったけどよ…なんか、恨み買うようなことしたか? あたし」

スイ「確かに昔っから勝手なことばっかしたもんな。恨まれてたって」

キリ「そうじゃねえよ。俺の『勝手な』八つ当たりだ」

スイ「八つ当たり?」

キリ「俺もあの旅で強くなった。そこら辺の男相手じゃ酷い怪我させてしまう。お前ぐらいの強さじゃないと」

スイ「いや、八つ当たりってどういう意味」
キリ「すまん。またな」スッ

スイ「あっ、おい! …いっちまった」

スイ「――とまあ、だいたいこーいう感じだったな」フゥ

エルー(それであの時ボロボロだったんだ…転んだとか言ってたのに)

スイ「あたしには分からねえ。なんか細かい事情があるにせよ、そういうのは苦手だ」

スイ「すまねえ、力になれそうもなくて」

エルー「…こう言ってはなんですけど、スイさん、ほんと変わりましたよね」

スイ「…あの旅をして、少し落ち着いただけよ」

スイ「ファランにも、感謝しないとな」ボソッ

エルー「…ですね」

スイ「伝えれたら、キリに伝えといてくれ。女に変なことするぐらいなら、あたしが受け止めてやるって」

エルー「はいっ。話聞いてくれて、ありがとうございました!」ペコリ

スイ「ああ、あばよ!」

スイ「…出てきたらどうだ?」

「気づいていたか」スッ

スイ「ずっと陰からこそこそと聞いてるなんて人がわりーな」

「お前こそ、まるで人が死んでしまったかのような話し方をするな」

スイ「げっ、そこも聞いてたのかよ」

スイ「全部聞いてたなら、師匠らしく助言でもしてやったらどうよ。ファラン?」

ファラン「俺がしなくても、あいつらなら自分たちで解決するだろうさ」

スイ「感じわりー」

スイ「そんだけ教え子のことが信じられるってことか?」ニィッ

ファラン「そういう言い方は嫌いだ」

スイ「変わらねーな、お前も」

スイ「そういや、なんでこの街に?」

ファラン「…虫の知らせだ」

スイ「なんだかんだで、心配性なんだな…」

ファラン「余計なお世話だ」プイ

スイ「ああ、そうかよ」

スイ「まあ、理由はどうあれこうやってまた会えたんだ」

ファラン「そうだな」

スイ「久しぶりに稽古つけてくれても」ガキン、バチン

スイ「いいんじゃねえか?」ズイッ

ファラン「…そういうところは変わらないな」

スイ「余計なお世話だぜ」

ファラン「…いいだろう」ハァ

ファラン「場所を変えるぞ。ここでは少々狭い上に、周りに人もいる」

スイ「そうこなくっちゃ」ニヤリ

すげえダブルアーツだよな?

これめっちゃ好きだったわ

>>13
原作終了後の捏造設定です、申し訳ない

連載再開希望活動に熱入れてたなあ…



書き置き『少しの間家を空けます、すみません。 エルーより』

キリ「…………」

キリ「あああああぁぁぁ…!!」ゴロゴロゴロゴロ


「この家? あってるよね? …うん、あってるあってる」

「こんにちはー! 二人とも、お久しぶ…」
キリ「嫌われたああああああぁぁぁぁぁぁ…!!」ゴロゴロゴロゴロ
「うえっ!? ちょ、ちょっと! どないしたんキリさん!?」
キリ「あああああぁぁ…あ? あんたは?」

「え、えっと、覚えてるよね?」

キリ「シスター・ハイネ…!」
ハイネ「よかった! 覚えててくれ」
キリ「ハイネー! 俺はどうしたら…」シクシク
ハイネ「と、とりあえず落ち着いて、な?」オロオロ

とりあえず今日はここまで

一方、その頃

「――へぇ、だから今はいろんな人に話聞いて回ってるわけね」

エルー「そうですね…もしかして、嫌われたんですかね、私」

エルー「キリさんに……もし、もしそうだったら……」

「それ本気で言ってる?」

エルー「えっ、だって…」

「あっはっはっはっはっはっ!」

エルー「わ、笑わなくてもいいじゃないですか!」

「ひー、ひー、…いや、ごめんごめん」

エルー「もう…えっと、今の偽名は」

「ああ、今はチトゲ」
「師匠! それ一個前の偽名です!」

「あれ? そうだっけ?」アハハ

アイラ「アイラ。アイラ・マルーよ」

アイラ「まあ『予言おばさん』の方が呼びやすいかもね」

エルー「アイラさん、私は本気なんです」

エルー「あの旅をしていた頃から、そして、これからも」

アイラ「…ごめんね、笑ったりして」

アイラ「大丈夫だって思うの。占うまでもない」

エルー「ですが…」

アイラ「だって、ずっとずっと手を繋ぎながら、旅を続けて」

アイラ「厳しくて、苦しい戦いが何度もあって、挫けそうになって」

アイラ「それでも、貴方のことも、キリは守り抜いたでしょう?」

エルー「…はい」

アイラ「だから、きっと大丈夫よ」

アイラ「繋いできた手みたいに、これからも信じていれば!」

「…師匠」

アイラ「ん?」

「師匠って、抜けてる割にはたまにいいこと言いますよね」

アイラ「なによ、ムージー! 誰が抜けてるって!?」プンプン

ムージー「だから、信じてね。エルーちゃん」

エルー「ムージーさん」

ムージー「師匠は、占いでもなんでも、嘘は絶対つかないから!」

エルー「…はい!」

アイラ(……いいとこ持っていってくれちゃって)フフフ

コミックス何度確認してもあの目が見えないお弟子さんの名前出てこないんだけど
Wikiにしか載ってないような気がするんだけどそれは大丈夫なんですかね

アイラ(…キリ。エルーちゃんのこと、絶対に幸せにしてあげなさいよ)

アイラ(でないと許さないんだからね)


同時刻

キリ「――という、感じでして」ドヨーン

ハイネ「…正直に言わせてもらうとやな」

キリ「ああ」

ハイネ「これがトロイを世界から無くした英雄の一人の現状だと思うと」
キリ「皆まで言うなよ、ははは」ドンヨリ

ハイネ「うーん…ウチは、今の今まで誰かに恋愛感情っていうの抱いたことないから、詳しい心情は正直分かりませんけど」

キリ「ハイネ…」
キリ(そうだったな…この人も、小さな頃からずっとシスターの道を…)

ハイネ「でも」

キリ「でも?」

ハイネ「何かを、誰かを大切にする気持ちっていうのは分かります!」

ハイネ「二人に助けてもらったから、なおのこと!」

キリ「覚えてたのか、あの日のこと」ハハハ

ハイネ「忘れるわけありませんて!」アハハ

>>21
コミックス3巻のおまけページみたいなところのラフスケッチに名前書いてあるよ

>>24
今確認してきた…ムージーさん以外にも色々載ってた
ごめんなさい

ハイネ「…ちゃんと、真正面から向き合って、話して、謝って」

ハイネ「そうすりゃ大丈夫ですよ、きっと!」

キリ「…ありがとう」

ハイネ「あー! なんか慣れない真似してもうた! こういうことするためにここまで来たわけじゃないのにー」

キリ「そういや、今日はなんでここへ?」

ハイネ「この街の近くに寄る予定だったから、ついでに来てみたんです」

ハイネ「それにしても、いい家ですねここ!」

キリ「ああ。丘の上だから、ここから街が見下ろせたりしてな」

キリ「外装のデザインとかはエルーがやって…俺にはやらせてくれなくてな」シュン

ハイネ「あらら、それはそれは」

バタンッ!

「キリくん! すぐにここから離れろ!」

キリ「ヘイム?」

ハイネ「どちら様?」

キリ「ああ、今俺たちの護衛をやってくれてる」
ヘイム「話は後だ、襲撃だ!」

キリ「…なんだって?」

ヘイム「何人かは倒したが、野党の連中まで大量に雇ってるみたいだ!」

ヘイム「ガゼルの残党と見て、間違いないだろう」

ハイネ「えぇっ!?」

キリ「…できれば、来てほしくなかったな」ハァ

同刻。タームとデオドラドの間、馬車の中にて


エルー「こんな時に再会できるなんて、思ってもなかったよ!」

「私も、できることならもっと落ち着いて話せるときがよかった」

エルー「でも、こっちに来るなら連絡ぐらい入れてくれればいいのに」

エルー「ああ、でも…アンディも忙しそうだしね」

アンディ「私が自分から引き受けてることだ。だが、今回は…」

エルー「…穏やかな話じゃ、なさそうだね」

アンディ「単刀直入に言う。ガゼルの残党が、タームの付近で確認されたという情報が入った」

エルー「えっ…!?」

アンディ「知っての通り、幹部たちがいなくなった後は、金で雇われていた暗殺者たちも散り散りに」

アンディ「そのほとんどが捕えられ、一部は野党化。鎮圧は順調に進んでいるが」

エルー「タームの近くに…」

アンディ「急な話ですまない。できるだけこの情報を早く、エルーやキリ君には伝えるべきだった」

アンディ「わざわざ『元』ガゼルの連中があの街付近をうろつく理由は」

エルー「…やっぱり、私たちが標的ってことだよね?」

アンディ「そういうことになる」

アンディ「活動の遅さから考えて、襲撃など早々できるものではないと推測されているが」

アンディ「万が一、ということもある。だから私は一人だけでも、こちらに出向くことにした」

エルー(…キリさん、ヘイムさん……!)

ヘイム(残党どもがキリくんたちを逆恨みして襲撃してくるというのは、十分考えられたことだ)

ヘイム(だから私は、彼らの盾としてここにいる)

「たった一人に何手こずってる!」
「数はこっちが上なんだ、畳み掛けろ!」

ヘイム(……何もできなかったあの頃とは)

ヘイム(何もできずに終わったあの頃とは)

「奴の武器は剣だけだ! 撃て、撃て!」ヒュン!ヒュン!

ヘイム(違うッ!!)

ズ ワ オ !!

「…は?」ポカーン
「矢が、弾かれた?」

ヘイム「ハアアアアアァァァッ!!」ズバンッ!

「「ぐああああおお……」」ドサッ

「ふ、二人いっぺんに…」
「お、おい! こんな奴がいるだなんて聞いてねえぞ!」
「畜生! 付き合ってられるか!」
「逃げるな! 戦え!」
「金のためだろうが!」

ヘイム「ここは通さん…!」キッ

スイ「人がいない場所選んだよな? なあ?」

ファラン「そのはずだが?」

スイ「なーんで周りに殺気づいた連中が集まってるんだ?」

ファラン「さあな」

「見つけたぜ、髪がやたらと長い女!」
「もう一人の男はなんだよ?」
「知るか! まとめてやっちまえ!」

スイ「もしかして、ガゼルの残りカスか?」

ファラン「それと、恐らくは野党の連中だな。金で雇われているのだろう」

ファラン「目的は『足止め』か何かか」

スイ「ふーん、まあいいや」ガチン、バキン、ガキン、バチン

スイ「向こうから仕掛けてくるなら、遠慮なくぶっ潰せる。だろ?」ニヤァ

ファラン(虫の知らせは、これのことだったのか?)

スイ「いくよ、アヴィー、アヴィーJr.(ジュニア)」クルクルクルクルクルクルクルクル…

スイ「あはっ! やっぱたまらねえな、この感覚」ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン…

「…なに回してんだ? こいつ」
「二つの、輪っか?」

ファラン(こいつがやりすぎないよう)

スイ「二人の(ダブル)…」ヒュパッ

ファラン(監視のための)

スイ「巨人の指環(オーガーズリング)!!」

ガ オ ン ッ !

とりあえず、今日はここまで
カバー裏の双華ネタにしたけど、輪っか二つ扱うのってやっぱり難しそう

キリ「ハァ、ハァ…」ダダダッ
ハイネ「ハァ、ハァッ!」ダダダッ

キリ「よし、ここまで来れば大丈夫だ」ピタッ

ハイネ「えっ?」

キリ「この先の坂道を下ったら、すぐに街への近道が見つかる。ちょっと急で危ないけどな」

キリ「憲兵呼ぶのと…あと、できたらスイも連れてきてくれ。そっちはどこにいるか分かりづらいかもだけどよ」

ハイネ「き、キリさんはどないしはるんです!? 逃げないんですか!?」

キリ「俺は戦うよ」

キリ「自分の都合で、また誰かが傷つくって思うと、逃げてなんかいられない」グッ

ハイネ「で、でもぉ! 気持ちは分かりますけど!」

「いたぞー!」
「あのガキだな!」

ハイネ(別働隊!?)

キリ「心配すんな、こう見えて俺も」

「金のためだ!」ビュオッ!
「死んでもらうぜ!」シュバッ!



クルンッ クルンッ

(あれ? オレたち飛び掛かったはずじゃ)
(なんでオレ、オレたち『回ってるんだ』?)

キリ「強くなれたから」

ズドムッ!

ハイネ(……あっという間に、二人とも受け流して)

ハイネ(倒して、拳一発ずつ……!)

キリ「この通り」ニッ

ハイネ(強い、っていうか何今の動き!? 綺麗! ダンスみたい!)

キリ「…あー、見とれてないで早く逃げてくれないか」

ハイネ「ハッ!? す、すんません!」

ハイネ「…怪我だけは、しないでくださいよ! 約束ですからね!」ダッ

キリ「任せとけ!」

キリ(……って格好つけたけど)


「なんだ、あいつらやられてるじゃねーか」
「外してんじゃねえよ馬鹿!」
「あーあ、もう滅茶苦茶だよ」


キリ(『やるかやられるか』ってのは、やっぱりこええな)

キリ「ホラホラどうした! いい大人が揃いも揃って恥ずかしくないのか!」

キリ(最も、絶対に死ぬつもりはないけどな…あの人にまだ、謝れてねえんだよ!)

ドコンッ!

「ぐふっ!」ドサッ

アンディ「後ろががら空きだったぞ」

キリ「アンディ!? あんたアンディか! なんでここに」
アンディ「前から来た!」

キリ「いや、それは分かってるけど」ヒュンヒュンヒュン

「なんだこれ…糸!? 糸が、取れない!」
「縫い付けられてやがる! くそ、離せコラ!」
「暴れたら余計くっつくだろ…じっとしろお前ら!」

アンディ「坂を下ってきたハイネと会ってな。襲われてると聞いて、先に来た」バキィ!

「がはっ!」

キリ「なるほど、とにかくそりゃ心強い!」ドコォ!

「うあああぁぁ…」

アンディ「エルーも一緒だ」

キリ「……そうか」

アンディ「すまなかった」

キリ「?」

アンディ「今回の襲撃のことを、もっと早くに警戒するべきべきだった」

アンディ「我々は油断していた。またこんな危険に巻き込んでしまって」
キリ「ストップ!」

キリ「詳しい事情は分からないけどさ、アンディはこうやって助けに来てくれたじゃん」

キリ「久々に会えたんだから、辛気臭い面はやめとこうぜ!」

アンディ「キリ君…」

エルー「あらら、お邪魔でしたか?」

キリ「あっ…」

アンディ「…エルー、馬車の中で話は聞けた」

アンディ「君の今の気持ちも分かるがっ後ろぉ!」

エルー「はっ!」グルンッ

バキィ!

「うわあああああぁぁぁっ!」

アンディ(なんて見事な回し蹴り…あの様子じゃ、気づけていたのか?)

エルー「ふぅ」

キリ「エルー、あの」
エルー「話は全部後にしましょう、キリさん」

キリ「…エルー」

エルー「今は、降りかかる危機を振り払いましょう」

キリ「また、手を貸してくれるのか?」

エルー「『絶対その手は離さない』…そう言ってくれたのはキリさんの方ですよ」ニコッ

キリ「…そうだったな」

キリ「ヘイムはまだ戦ってるはずだ、行こう!」

エルー「はい!」

アンディ(心配するだけ、無駄だったようだな)


アンディ(この二人の絆は、裂かれない)



ドコォ!

ヘイム「ぐああっ!」

「けっ…消耗させただけで、傷一つつけてねえのか」

「これじゃ、前金払った意味がねえぜ」

ヘイム(つ、強い! この男…薬で自分の肉体を強くしてるのか?)

「あのガキどもはどこへ逃げた? えぇ? 探しても、別働隊も帰ってこねえしよ」

ヘイム(だが)

ヘイム「…貴様、ガゼルの残党だな」

「それがどうした?」

ヘイム「貴様のような人間に、教えてやることは何一つない!」

「…そうか」

「じゃあ死ね!」ビュオッ!

ヘイム(来るっ!)

――ヒュパッ シュパッ

「ああ? なんだこりゃ…糸に針?」ググッ

ヘイム(…やっぱり、戻ってきたか。君は、君たちはそういう子だったな)


キリ「好き勝手やるのはそこまでだぜ、ガゼル野郎」グイッ

エルー「ヘイムさん、大丈夫ですか!」

ヘイム「無事だ! すまない!」

「……また、手ェ繋いで登場か」

「この糸と針は金髪のガキ、テメーのか」ブチッ

キリ「あら、簡単に引きちぎられた。自信作だったんだけどな」

エルー「…キリさん、あの男」

キリ「ああ。体は大分変ってるけど、顔つきはよーく覚えてる」

キリ「ヴィグって奴だったな。忘れたくても忘れられねーよ、初めて命を狙ってきた奴のことなんてな」

ヴィグ「ああ、俺だってテメーらのことを忘れられりゃどんなに嬉しかったことか」

ヴィグ「ガゼルの消滅と同時に、自分の食い扶持すら俺はまともに稼げなくなっちまったんだ!」

ヴィグ「テメーらさえいなけりゃ、俺だってまだまだ楽しく生きてられたのによ! 全部台無しにしやがって!」

エルー「何を言うかと思えば」ハァ
キリ「逆恨みとは情けなーい」プププ

ヴィグ「笑っていられるのも今のうちだぜ」

ヴィグ「俺の相棒が、お友達の首をこっちに持ってきてる頃だからな!」

スイ「その相棒ってのはこいつのことか?」ポイッ

ドサッ

キリ「思いのほか遅かったな」

スイ「久々に暴れちまったんだよ、許せって」ハハハ

ファラン「オレに止められてよかったな。周りの被害も最小限に収めることができた」

スイ「言うなよ…」
スイ(久々に会ったハイネにもドン引きされたし…)

「う、うぅ…」

ヴィグ「れ、レンケ!?」

レンケ「すまない、ヴィグ。思ったよりずっと強かったよ…」

レンケ「雇った連中も、あっという間に殲滅されて…」

ヴィグ「んなっ…!?」

アンディ「残ったのはお前だけのようだな」ザッ

エルー「アンディ」

アンディ「憲兵が続々と到着して、野党もお縄につき始めている」

アンディ「こっちに来るのも時間の問題だぞ、残党め」

キリ「だ、そうだ」

ヴィグ「…く、くそがき、クソガキ、クソガキどもが、どこまでも俺の邪魔をして……!!」ピクピク

ヴィグ「ぶち殺してやるぜ、お前ら二人だけでもなァ…手を繋いだまま逝け!!」ギラギラ


エルー「いきましょう、キリさん」ザッ

キリ「ああ」スッ

スイ「助太刀はいらなさそうだな」

アンディ「そのようだ。離れていようか」

ヘイム(離れていても力を感じる…こんなに強かったのか、あの二人は)

ファラン(再び見れる日が来るとはな、『双戦舞』を)


キリ(言葉がなくとも分かる)
エルー(感覚が、フレアを通して伝わってくる)

キリ(これくらい、いつも伝えれりゃなあ)
エルー(このくらい伝えてくださいよ、日頃の気持ち)


「「――レッツ!」」

やっぱりヘイムさんはかませにしかならないじゃないか(後悔)

――数時間後。


ガチャッ

キリ「ただいまー」

エルー「おかえりなさい。どうでした?」

キリ「辺り一面調査したけど、隠れてた連中も順次捕まってるらしい。もう安心だってよ」

キリ「念のため、ミリティアシスターが教会から派遣されるみたいだけどな」

エルー「そうですか、よかった…」

キリ「あいつも薬で強くなってたけど見かけ倒しだったし、まあ大丈夫だろ」

エルー「ですね」

キリ「…ごめん、エルー」

エルー「えっ?」

キリ「おかしなこといっぱいして、いっぱい不安にさせて、本当にごめん」

キリ「ガキじゃねえのにさ、もう。情けねえ」

エルー「…質問、いいですか?」

エルー「今まで、どうして…その、変なことばっかりしてきたんです?」

キリ「……不安から、だ」

キリ「あの旅が終わって、やっと二人で落ち着いて暮らせるようになって」

キリ「そしたら、今まで見えてこなかったものも見えるようになって」

キリ「誰かを、こんなに好きになったのなんて初めてだったから、色んなことが不安になって、訳分かんない行動取るようになって」

エルー「キリさん…」

キリ「言い訳だ、全部。本当に、本当にごめん」

エルー「キリ」

ギュッ

キリ「…エルー?」

エルー「私も、ごめんなさい」

エルー「好きな人が不安になっていたのに、それに気づいてあげられなくて、ごめんなさい」

キリ「…なんか、謝ってばっかだな俺たち」ハハハ

エルー「お互い様、ってことになるんですかね」フフフ

キリ「チャラになる?」

エルー「なるんじゃないでしょうか」

キリ「そっか、よかったー」ホッ

エルー「安心して油断してると、出ていくかもしれませんよ」

キリ「えっ……」

エルー「冗談です」

キリ「ビビらせるなよぉ」

エルー「キリ。もう少しだけ、抱きしめてもらってていいですか?」

キリ「そうしたいのは、やまやまなんだけど」

エルー「?」

キリ「熱い、体が」

エルー「フレアって体温まで上げる効果ありましたっけ?」

キリ「いや、そうじゃなくて!」

エルー「あっ…そういうことですか」

キリ「だから、できれば離れてほしいっていうか」

エルー「私は、いつでもいいですよ」

エルー「むしろ、今までこういうことあまりなくて、それもちょっと不安だったというか」

エルー「あ、睡眠薬の件はノーカウントで」
キリ「分かった」

グイッ

エルー「あっ」

翌日。


キリ「――というわけで、今回はなんとかなったよ」

キリ「ずっと言えなかったけど…八つ当たりしてごめんな、スイ」

スイ「あれぐらいならいつでも受け止めてやるよ」

スイ「例の針と糸まで持ち出されるのは少し勘弁だけどな」

キリ「これか? これな、針に矢みたいな返しがついてて、一度刺さったら」
スイ「分かったからあたしには使うなよ。あたしもできるだけ手加減するからお前も手加減してくれよ」

スイ「そういや、ハイネとアンディどこ行ったか知ってるか?」

キリ「ああ、朝早くに出発していったよ。仕事関連らしいぜ。スイにもよろしくってよ」

スイ「そうだったのか…アンディとはまた手合せしたかったんだけどな」キッ

キリ(根本は変わってないんだなお前…手加減できてるの?)

キリ「まあ、いつの間にやらいなくなってたファランはともかく、ハイネとアンディの二人はまたこの街に来てくれるだろうさ」

スイ「なんか取決めでもしたのか?」

キリ「あの旅のことを改めてまとめたくて、当時の話を二人の視点から聞きたいってエルーが言ってな。できたら小説にもしたいらしい」

スイ「題名は決まってるのか?」

キリ「それは――」


おわり

おまけ。ほんぺ開始前にて


キリ「」カチャカチャガチャガチャガタガタ

エルー(ミンクさんとウラテスさんに連れられてオススメの喫茶店に行き、帰ってきたら)

エルー(家の側の工房で大好きな人が無言で何かやってました)

キリ「もう少しうまくブッ刺したいんだけどなー」

エルー「キリさん?」

キリ「ああ、エルー。おかえり」

キリ「やっぱ上手く作ろうとしたらなー。毒でも塗るかなあ」カチカチゴチャゴチャ

エルー(お母様、お父様、なんだか最近のキリさんは恐いです)

おわり

ありがとうございました

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