モバP「反応データ収集ねぇ…」(164)
遅筆ゆえごゆるりと。
描写を少々加えております。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1372022699
秋葉「ロボに感情を組み込みたいから協力してくれ」
P「おっけー。断ってもどうせ何かを人質に取られて無理矢理協力させられるに決まってる」
秋葉「聞きわけがいいな。交渉用の、Pのパソコンから出てきた由愛のパンチラ写真が無駄になってしまった」
P「はははマジやめろよお前そういうの」
秋葉「はははこっちの台詞だ。担当アイドルを超ローアングル撮影とか正気の沙汰ではない」
http://i.imgur.com/420de0B.jpg?1
池袋秋葉(14歳。超科学の申し子。SFかファンタジーかというスペック)
http://i.imgur.com/pS3OqGZ.jpg?1
成宮由愛(13歳。ママに勝手に応募された子。水彩画が得意)
秋葉「で、だ。大抵の日常的なデータはアイドルたちから採ることが出来たんだが」
秋葉「あまり日常では起こり得ない部分のデータが欲しくてな」
P「日常で起こらないなら反応をプログラムしておく意味無いだろ」
秋葉「お、口答えするのか。パンチラ写真が火を噴くぞ」
P「由愛ちゃんを怪獣みたいに言うな!」
秋葉「比喩だ。それで、まずコンピューターが欲しい反応を提示する」
P「ふむふむ」
秋葉「そして既に取り込み済みのアイドルたちの情報から、そのデータを採取するのに最適な人物がはじき出される」
P「ふむふむ」
秋葉「あとはPが、頑張るだけだ」
P「マジか」
秋葉「これを耳につけておけ。超科学の産物だ。心の声が聞こえる」
コードの無いイヤホンのような物を手渡される。
超科学ってすごい。
耳に装着。
耳が塞がってしまったが、周りの音が聞こえにくくなる、というようなことはないみたいだ。
秋葉「あとは表面上の反応と内面の反応をメモしてきてくれればそれでいい」
P「そこだけアナログだな」
P「…」
秋葉「何を見ている」
P「…」
秋葉「私の心は聞こえないように設定してある」
P「なーんだ」
秋葉「では早速、コンピューターが欲する最初の反応は、『声を掛けるたびに舌打ちが返ってきた時の反応』だそうだ」
P「いやに具体的」
秋葉「これを採取するために最適なアイドルは…出た、『成宮由愛』だ」
P「お前は由愛ちゃんに何か恨みでもあるのか。やだよ、そんなことしたら由愛ちゃんが可哀想だ」
秋葉「このパンチラ写真をまず早苗さんに見せてみようと思う」
http://i.imgur.com/BiNCjIG.jpg?1
片桐早苗(28歳。警官アイドル。悪を滅するモバマスの破壊的な良心)
P「ごめんね由愛ちゃん俺も命が大事だから」
秋葉「頑張ってきてくれ」
由愛(Pさんいるかな。営業とか行っちゃったかな)
由愛(いるといいなー)
カチャッ
由愛「おはようございます」
P「…」
由愛(Pさんいた!えへへ、昨日描いた絵、見てもらおう)
由愛(ちょっと、自信作。Pさんの好きな青系の色もたくさん使ったし、上手だねって言ってもらえたら嬉しいな)
P「…」
由愛ちゃんの内心が聞こえている。
これから、絵を見せようと話しかけてきた由愛ちゃんに舌打ちを返さなければならないと思うと、心が痛む。
開始前からもうやめたい。
ああ、俺の好きな色とか考えながら描いてきてくれたのに。
舌打ちされたら、悲しいだろうな、がっかりするだろうな。
ああ、今日も由愛ちゃんはあんなに可愛らしいというのに。
スカートひらひらで、髪の毛もふもふで、期待しているのを押し隠すような小さい笑顔で。
これからあの顔を曇らせなければならない。
ああああ由愛ちゃん今日はどんなパンツ穿いてるんだろう。
由愛(いつ見せにいこうかな)
由愛(いきなり見せにいったら、上手く描けたの自慢しにきたみたいになっちゃうかも)
由愛(でも、早く見てもらいたい。会話の、自然な感じで出来ないかな)
由愛(昨日のお天気の話から入って、公園にお散歩にー、みたいな感じで、絵を描いてたら夕方になっちゃっててー、みたいな)
由愛(あくまで絵の話はおまけ程度な感じにして、メインは夢中になりすぎた失敗談みたいな)
由愛(そしたらPさんが「絵ー描いたの?見せて見せて」とかそういうふうになって、最初はちょっと嫌がったほうがいいかな)
由愛(結局のところこれ見せたかったんだなみたいに思われたら恥ずかしい)
P「…」
会話のシミュレート始めちゃった!
心が痛む!
由愛ちゃん、そんな会話は成り立たないんだ、ごめんよ。
舌打ちで一発終了なんだ。
由愛(よし、そんな感じで。よぉし)
P(そんな意気込まないでくれ…)
由愛「あ、あの、Pさん、今日はすごく晴れてますね。あの、昨日も、すごくいいお天気で」
P「…チッ」
由愛「!!」ビクッ
由愛「あ、ごめん、なさい…」
P(こちらこそ…)
由愛(…Pさん、今日は機嫌悪いんだ)
由愛(機嫌、良くなってもらいたいな)
由愛(絵は、まあいいや、いつでも見てもらえるもんね)
由愛(いつもPさんにたくさんお世話になってるから、今日は私が、Pさんのために何か、出来ることをやろう)
由愛(お茶とか淹れようかな)
P「…」
絵のことはもういいんだ。
俺のために何かをって…いい子だなぁ由愛ちゃんは。
とりあえずメモ、舌打ちをするとびくっとなる。
そして相手の精神衛生を考え動き始める。
由愛ちゃんが俺から離れ、ぱたぱたと給湯室のほうへ向かって行った。
お茶を淹れる音が聞こえる。
冷蔵庫もあけたらしい、プリンあった!という心の声が届いた。
由愛(私が買っておいたやつ、誰かに食べられちゃってもいいかなって思ってたけど、残っててよかった)
由愛(これ、Pさんもおいしいって言ってたお店のプリン、これで、少しでも笑ってくれたら、いいな)
由愛(『由愛ちゃんは優しいなー』とか、言われちゃったりして…あああ気持ち悪いな私、なに変なこと考えてるの)
由愛(今はPさんのために、ってやってるんだから、見返りなんか求めちゃ駄目なのに)
由愛(とりあえずこれとお茶、持って行こう)
パタパタパタッ
由愛「Pさん、あの、お茶、淹れました。あと、これ、プリン、Pさんがおいしいって、言ってたやつです」
P「…」
めげずに話しかけてくれる由愛ちゃんマジ愛してる。
温かい湯気を立てる湯のみが机に置かれた。
やはり暑いときも熱いお茶だよね、夏バテしにくくなる。
由愛「Pさん、今日は、あの、何だか元気無いみたいだから、あの、それで」
由愛「これ食べて、元気が出たら、いいなって、あの…」
P「…チッ」
由愛「!!」ビクッ
由愛「…あ」
由愛ちゃんが何かに気付いたらしい声を上げる。
一拍置いて、プリンが手から取り落とされた。
蓋がついていたおかげでこぼれずに済んだが、中ではおそらく、形が崩れてしまっているだろう。
とりあえずメモ、びっくりする、あとプリンを落とす。
由愛ちゃんが慌て、プリンを拾おうと屈む。
由愛(Pさん、多分、機嫌悪いんじゃないんだ…)
由愛(私が、うざかったんだ)
床に片膝を着き、転がったプリンに手を掛けたまま、由愛ちゃんは動きを止めてしまった。
うざいとか、あるわけないのに。
由愛(すぐ絵を見せびらかそうとするし、お茶淹れたくらいでいい気になるし)
由愛(そういうのがうざかったんだ)
由愛(あとこの前のお仕事でも失敗あったし、フォローしてもらうばっかりで役に立たないし)
由愛(すぐ泣くし、駄目駄目で成長無いから、嫌われちゃったんだ)
由愛(優しいとか言ってもらえるわけないよ。なに思い上がってるんだろう)
由愛(…うざい子のくせに)
P「秋葉あああああ!!限界だぁああああああああ!!」
由愛「!!」ビクッ
秋葉「おっ、戻ったな助手。で、どうだった」
P「あ、これもう死のう、と思った。死んで詫びるしかないと」
秋葉「Pの感想を聞いてるわけじゃないのだが」
P「ネタばらししたら泣いちゃって大変だったんだぞ。その瞬間だよ、『あ、死のう』と思ったのは」
秋葉「どうせその後、撫でたりさすったりぎゅっと抱きしめたりしてフォローを入れたんだろう?」
P「うん、あと持ち上げて振り回したりした。一緒にプリンも食べた。今度の休日に二人で絵を描きに出掛ける約束もした」
秋葉「よかったではないか」
P「うん、超よかった、秋葉ありがとう。しかしやはり由愛ちゃんは天使だな」
秋葉「では次にコンピューターが欲するデータだが」
P「おい、何がどう天使なのか聞けよ、おい、聞けよおい」
秋葉「お次は『貰ったプレゼントがビックリ箱だったときの反応』だそうだ」
P「さっきと比べて精神的にかなり楽だな、ただの悪戯じゃないか」
P「というかそれなら麗奈がやってるだろうし、そういうところからデータを取ればいいんじゃないか」
http://i.imgur.com/XzCqg65.jpg?1
小関麗奈(13歳。いたずらっ子。画像はバズーカで空を飛ぼうとしたときのもの)
P「あ、もしかして麗奈が対象なのか?あいつが悪戯される側なのはレアだし」
秋葉「このデータを得るために最適なアイドルは…『イヴ・サンタクロース』」
http://i.imgur.com/SLIrxFM.jpg?1
イヴ・サンタクロース(19歳。裸を晒してスカウトされたサンタ。事務所では流石に服を着ているのではないかと思う)
P「…なまじ展開が想像できる分つらい」
節子、秋葉ちゃう晶葉や
イヴ「おはようございます~。サンタさんですよ~」
イヴ(…Pさんいないんですかねー。今日はとっておきのプレゼントを持ってきたのに)
カチャッ
P「お、イヴ、おはよう」
イヴ「あ、Pさーん!おはようございます~」
イヴ「今日はPさんにですね、いいもの持って来ましたよ~」
イヴ「じゃじゃーん、これです~」
P「トマトだ」
イヴ「はい!女子寮のお庭で栽培したトマトです~」
P「ありがとう、お昼に食べるよ」
イブ「おいしいトマトですから味わって食べてくださいね~」
P「うん。しかしこれ、でかいしつやつやだな!おいしそうだ!」
イヴ(Pさん喜んでくれました。よかったですー)
イヴ(サンタ冥利につきますねー)
P「俺もイヴにプレゼントがある」
イヴ「えっ?」
P「ちょっと待ってろ」
イヴ(Pさんが?私にプレゼント?Pさんはサンタじゃないのに?)
イヴ(新しいお仕事でしょうか。あ、衣装?なんでしょう、どきどきしますー!)
イヴ(人からプレゼント貰うなんて子供の頃以来ですー。いつもはみんなに振りまくほうですからねー)
P「…」
>>9
ごめん。由愛ちゃんに気を取られすぎた。
久々に貰ったプレゼントがビックリ箱。
俺なら物凄く落胆する。
トマトを机に置き、既に配置してあったカラフルな色合いの箱を手に取る。
赤いリボンで装飾された、手の平より少し大きい程度の四角い箱だ。
それに目を留めたイヴが、あっ、と声を漏らした。
イヴ(衣装じゃない!普通のプレゼントですー!)
イヴ(衣装でも嬉しかったけど、Pさんが私に用意してくれたプレゼント、三倍くらいは嬉しいですー!)
イヴ(綺麗に包装されてるし、なんでしょう。あ、でも、高価なものだったら少し申し訳ないですねー)
イヴ(私からのプレゼントはトマトですし)
P「…」
めっちゃ期待してる!
ごめんねこれビックリ箱なの!
開けると中からばね仕掛けのピエロが飛び出てくるの!
イヴは箱を大事そうに受け取ると、どきどきした様子でソファーに腰掛けた。
膝の上に乗せたプレゼントをしばらく嬉しそうに眺めた後、ゆっくりとリボンを解き始める。
堪えきれないらしい期待が、笑みとなって表情に漏れ出している。
イヴ(高価なものでなくてもいいですー。Pさんが、私のために選んでくれたんならなんでも)
イヴ(嬉しい。プレゼント嬉しい。なんだろうなんだろう)
イヴ(嬉しすぎてすぐ開けちゃうのがもったいないですー!)
イヴ(…あ!もしかして!)
イヴ(このまえ営業について行ったとき、立ち寄った雑貨屋さんで私が見てたマグカップ!)
イヴ(あれ可愛いと思って気にしてたこと、気付いててくれたのかもしれません!)
もうやめてー!
それ以上期待を膨らませないで!
ビックリ箱なの!
見た目もいかにもな派手派手の箱で、明らかに怪しいでしょうに!
もう!
…。
ん?待てよ?マグカップ?
イヴ(いやいやそんなはずないです。そんな期待通りに欲しいものがもらえるわけ…)
イヴ(でも、もしそうだったらどうしよう)
イヴ(そうだったら、嬉しいな)
イヴ(いやいや、違う違う、多分、何か、お饅頭とかですよーきっと。それでも嬉しいですー)
イヴ(…でも、もしかしたら)
外し終えたリボンを、イヴは丁寧に畳んで座る傍らへと置いた。
蓋に手を掛け、こくりと喉を鳴らし、そして、開けると同時に。
かちりと何かが音を立て、ばねに押されたピエロが勢いよく飛び出した。
覗き込むようにしていたイヴの額に、ピエロがむにっと当たる。
イヴ「きゃあ!」
驚いたあまり、イヴがソファーの上で引っくり返った。
膝の上から落ちたビックリ箱が床に転がり、みよんみよんとばねを揺らす。
メモメモ、引っくり返る。
イヴ「えっ?えっ?何?なんですか?」
イヴ(びっくりした、びっくりした、びっくりした!何か飛び出た!ぶつかった!)
イヴ(生きてる?生き物?なに?)
P「ビックリ箱」
イヴ「ビックリ、箱…」
言いながらイヴは起き上がり、転がった玩具を確認する。
そうして事態が飲み込めると、あー、と声を漏らしながら、乱れたスカートの裾を直した。
イヴ(イタズラ…)
イヴ(よくよく考えたら、当然です。トマトのお返しにマグカップがもらえるわけないじゃないですかー)
イヴ(がっかりしちゃだめです。当たり前なんですから)
イヴ(そもそも、私はサンタでPさんはサンタじゃないんだから、プレゼントをもらえると期待するほうがおかしいです)
イヴ(馬鹿ですねー私は)
イヴ(Pさんがイタズラをしかけてきたんだから、楽しそうにしなくちゃ)
イヴ(笑わなくちゃです)
イヴ「も~、びっくりしましたよ~!なにするんですか~!」
イヴ(悲しくない、がっかりなんかしてない)
イヴ(ちゃんと笑えてるでしょうか)
イヴ(Pさんが期待していた通りの反応をしなくちゃ)
イヴ「いい子にしてないと、クリスマスにプレゼント貰えないんですからね~!」
イヴ(馬鹿な悪い子は、プレゼントを貰えない…)
発する声と内面とを両方聞きながら、踵を返し事務机へと近付く。
一番下の引き出しに、もう一つ箱が入っているのを思い出したのだ。
引き出しを開け、その箱を取り出す。
笑いながら怒り、同時に悲しむという器用な芸当をこなすイヴは、床へと向かいがちな視線のせいか、こちらの所作には気が付いていないようだった。
俯き気味のその眼前に、白地に赤と緑の星が入った包装の箱を差し出す。
イヴが気付き、顔を上げた。
P「今度は本物」
イヴ「えっ?」
P「前にイヴが欲しそうにしてたから」
イヴ「…っ! …えっ、なんですか~もう」
P「イヴがいい子だからプレゼント」
イヴ「…」
今まで忘れていたという事は言えない。
心を読んでいますという事はもっと言えない。
晶葉「で、それをもらってイヴはどうした」
P「しばらくは警戒するふりしてた。『また飛び出てきます、また飛び出てきますよ~』って言いながら」
晶葉「結局マグカップだったんだろう?喜んでたか?」
P「一生大事にするらしい」
晶葉「よかったではないか」
P「うん、よかった。赤面イヴというレアなものが見れた。晶葉ありがとう」
晶葉「では次といこうか」
P「俺の心が罪悪感で破裂寸前なんだが」
晶葉「お、『貰ったマグカップを叩き割られたときの反応』だそうだ」
P「あ、これ破裂だわ」
晶葉「ははは今のは嘘だ。冗談冗談」
P「はははマジやめろ」
とりあえず由愛ちゃんとイヴ。また書いたら投下します。
晶葉、名前間違えてごめんね。池袋とアキバだなーって思ってたらこんなことに。
晶葉「では続けよう。続いては、『ムツゴロウさん並の可愛がりをされたときの反応』」
P「おお、これなら誰も悲しい思いをしなくて済むな。出来れば年少組みが良い」
晶葉「最適なアイドルは…『藤居朋』だ」
P「おおう…」
http://i.imgur.com/Q7i7XPw.jpg?1
藤居朋(19歳。占いに人生をゆだねる少女。何故なのか敬語を使ってくれない)
カチャッ
朋「あ、P、おはよう」
P「!!」ガタッ
朋「な、何よ。何テンション上げてんの。それより聞いてよ、今日朝の占いでさ」
P「おいで、朋おいで!」
朋「…どうしたのよ」
朋(…あ、またあたし何かやらかしたのかも)
朋(朝の占い最悪だったし。怒ってるのかな)
朋「あたし、なんかやった?」
P「…」
朋が警戒している。
呼んでいるのにこっちへこようとはしない。
さて、こういうときムツゴロウさんならどうするか。
おそらく、問答無用で近付き、力任せに撫でまくるのだろう。
踏み潰されたって戦うに違いない。
大股で大胆に近付く。
朋が怯えたように体を震わせた。
朋「ご、ごめん、なんか失敗あったんでしょ」
朋「あたしが謝りに行ってすむことだったら、いいんだけど…」
P「朋!」
ガシッ ギュッ
朋「!!」
P「よーしよしよしよしよしいい子だなあ朋は!よしよしよしよし!よし!よーし!」
ナデナデナデナデ
朋「は?え?何?何すんのよいきなり。離して!」
P「よしよし可愛いなあもう!」
朋(なにこれ?なんなの?どうしちゃったのP)
朋(いつも何気なく手繋いできたりいきなり肩抱いたりとか不意打ちスキンシップはあるけど)
朋(っていうか可愛いとか普通に言わないでよ。そんなことばっかり言ってるからみんな勘違いするんだってば!)
P「よしよしよし」
朋が滅茶苦茶に戸惑っている。
そうか、可愛いって言うの駄目なのか、女の子ってそう言われたら喜ぶんだとばかり思ってた。
でもムツゴロウさんは言うだろうから、俺も今は言っちゃうもんね。
P「朋をよく観察してみましょう!」
朋「えっ?えっ?」
P「髪がもさもさしています」
朋「なっ、あ、あたしだって気にしてるのよそれ。ちゃんと纏めてるんだから文句無いでしょ」
P「可愛いですね!」
朋「なんなのよ!」
P「正面から見てみます」
抱き寄せていた朋の体を少しだけ離し、正面から顔を見据える。
朋は一瞬だけ目を合わせ、すぐに横を向いてしまった。
P「一瞬でしたがやっぱり可愛いですね」
朋「や、やめてよもう…」
朋(なんなの、なんなの?)
朋(今日は恋愛運も最悪だったし、『そういう事』じゃないよね)
朋(いつも『由愛ちゃん大好き』って言ってるし、他にも可愛い子いっぱいいるのにあたしにくるわけないし)
朋(でも、じゃあ、なんなの?どういうつもり?からかってるの?)
P「よーしよし」ナデナデ
朋の顔が赤みを帯びていく。
ちょっと一回離れよう、メモを取らなくては。
朋を一旦解放し、机に向かってメモ帳を広げ、ボールペンを走らせる。
メモ、てんぱる。
メモを終え、再び愛でようと振り返ると、朋は口元を両手で押さえてしゃがみ込んでいた。
朋(意味わかんない、もう全然意味わかんない…)
ちょっとよく分からなくなっているらしい。
安心しろ、俺も全然わからん。
さて、あとムツゴロウさんは何をしていただろうか。
よく聞くエピソードだと、指を食われたとかなんとか。
というわけで小さくなっている朋に向かって手を差し伸べ、指を広げてみせる。
朋「…何?手相みるの?その前にこれどういう事だか説明…」
P「食え」
朋「…は?」
P「どの指でもいいから食え」
朋「もぉおお何なのよぉ!」
声を荒げる朋に近付き、頭が同じ高さになるまで腰を落とす。
口元を押さえていた手を退かそうと掴んでみると、微かに震えているようだった。
案外大した抵抗も無く、両の手を下ろさせることが出来た。
露わになった唇に、とりあえずこれと思い人差し指を近づけてみる。
触れる。
柔らかい。
そのまま口内に指を侵入させ舌に触れると、びくっと震えて奥のほうへ引っ込んでいってしまった。
朋(P…おかしくなっちゃったんだ)
朋(私の不運が伝染して、何か酷いことがあって、おかしくなっちゃったんだ…)
朋(可哀想なP…どうしたらいいの、どうしたら元に戻るの)
なにやら狂人認定されている模様。
やはり指を食べさせるのはやめて、撫でるのをもっとたくさんやったほうがいいか。
メモを取るために指を引き抜く。
唇と指先との間で、唾液が糸を引いた。
ティッシュで拭き取り、メモ。
ええと、狂ったと思われる、と。
朋「手、洗ってよ、汚いよ」
P「ん?そうか?」
別にそうでもないと思ったが、朋がなにやら恥ずかしそうにしているので、給湯室で手を洗うことに。
背中のほうから、朋の心が聞こえてくる。
朋(言葉が通じた!ちょっと正気に戻ったんだ!この気を逃す手は無いわ!)
朋(何があったのか聞かなくちゃ)
朋(安心しなさいP、あんたはあたしが助けてあげるわ!ピラミッドパワーとかで!)
手を洗い、ハンカチで水気を拭きとりながら朋のもとへ戻る。
朋はなんだか決意を秘めたような表情で立ち上がっていた。
朋「P!何があったのか教えなさいよ!あと、とりあえず開運の呼吸法を教えるわ!まず息を大きく吸って!」
気にせず近付き抱きしめ、もさもさの髪をまた撫でる。
ナデナデナデ
ヨーシヨシヨシ
朋(…またなの?でも、負けないわ!)
あとムツゴロウさんって何してたっけ。
…確か、象の、おしっこを、手ですくって飲んだとか。
P「よしよしよし可愛い可愛い…朋?」
朋「何?戻った?やったわ!」
P「トイレ行きたくない?」
朋「…えっ?」
P「トイレ。出ない?あ、おしっこのほうね」
朋「…」
朋「…P」
P「何?出る?」
朋の目に何かが光った。
よく見るとそれは涙で、頬を渡り顎の線をなぞって滴り落ちる。
あ、やばい、泣いちゃった。
朋は強い力で精一杯という風に抱きついてきながら、震える唇を開いて小さく言う。
朋「あたしがずっとついててあげる。ずっとPと一緒に居るわ。怖いことなんて何も無いから…」
朋「だから…病院行こ…?」
晶葉「お、来たな。どうだ、いい思いができたか?」
P「なんか本気で心配された」
晶葉「何をしたんだきみは…ネタばらしはしたのか?」
P「した。口を利いてくれなくなった。心の声も『馬鹿みたい』しか聞こえないし」
晶葉「そうとう酷いことをしてきたらしいな」
P「でも朋の意外な一面もたくさん見れた。案外色っぽいかったよあの子。あと優しくしてもらった」
晶葉「よかったではないか」
P「まあ、その点に関しては、晶葉ありがとうと言わざるを得ない」
晶葉「では次さくさくいくよー。お次はこちら」
P「軽いの来い軽いの来い軽いの来い」
晶葉「『談笑中に突然発狂されたときの反応』、これだ」
P「あー大惨事の予感。対象は?」
晶葉「ええと、『安部菜々』、だそうだ」
P「あー」
http://i.imgur.com/8Rp81Gc.jpg?1
安部菜々(永遠の17歳。らしい。ウサミン星からやってきたウサミン星人。らしい)
そんなこんなで朋ちゃん。
また夜にでも投下します。
夜に書こうと思ったのに朝だこれ。
不備が多いようで申し訳ありません。
何分初のssで、試行錯誤を重ねながら書いておりますゆえどうかご容赦を。
画像は末尾の文字を消さないと、見られない人が出てしまうのですね。ありがとうございます、勉強になりました。
期待してくださっている方、励みになっておりますありがとうございます。
菜々(こうかな?こっちのほうがいいかな?ラブリーなパワーを送信です♪)
菜々(んー、いまいち決まらない)
P「…」
菜々が姿見の前で、決めポーズなのか何なのか、とにかく何らかのラブリーを練習している。
さて突然の発狂とは、今ここで奇声を上げたりすればいいのだろうか。
いや、確か条件は「談笑中に」だったな。
まずは菜々との会話を始めなければならない。
P「菜々、迷ってるのか?俺なんか手伝うことあるか?」
菜々「んー、じゃあちょっと見て下さい」
菜々「今度のライブで菜々センターじゃないですか。それで間奏中に、ファンの皆さんに向かってパワーをお届けしたいんですけど」
菜々「手のハート、これと、これ、どっちがいいですかね」
P「ちょっと両方やってみて」
菜々「はい。じゃあ胸の前に両手でハートを作るこのポーズから、『ウサミンからハートのパワーをお届けです♪』っていうのと」
菜々「顔の横にハートを作るのからの、『ピルピルッ!ウサミン星から電波を受信!皆さんにもラブリーなパワーを送信です♪』っていうのです」
P「ファン一号の俺から言わせて貰えば、二番目のやつの方が好みかなぁ」
菜々「じゃあー…そっちにしちゃおうかなー、んー」
菜々「…やっぱりもう少しだけ、色々練習してみます!」
P「熱心だ。いいことだ。しっくりくるのが出来ると良いな」
菜々「はい!ありがとうございますPさん!」
菜々(…ちょっと恥ずかしかった。でもPさんは、後のやつの方が好みなんだってわかったし)
菜々(大体そっちで決まりかな。でももっともっと研究しますよ!最高のラブリーをお届けするんです!)
菜々(あ、そうだ)
菜々「Pさん」
P「ん?」
菜々「感謝の気持ち、Pさんに届け、ラブリービーム送信っ♪キャハっ☆」
P「ぴぃいいいいいいいいい!!!!!!」
菜々「!!?」
P「…ぴっ、ぴっ、ぴっ」
菜々「???」
P「ぴぃいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
菜々「!!?」
P「感謝なんてとんでもない、菜々のためならなんのそのだよ。でもありがとな、元気出るわー」
菜々「???」
菜々(???)
P「…」
机に向き直りメモを取る。
混乱による思考停止、若干の怯えを含む、と。
菜々はラブリービームを送信する体勢のまま固まり、高速で現実を把握しようとするかのように目をしばたたいた。
そうして停止から十五秒、やっとのことで活動を再開したウサミン星人が、ははっ、と乾いた笑い声を上げた。
菜々「もおー、元気出しすぎですよー。ちょっと怖かったじゃないですかぁ!ぷんぷん!」
P「そうか?すまん」
菜々「そうですよー!ポケモンが飛び出してきたかと思いましたよー」
菜々「あの、じゃあ菜々は練習を再開しますので…」
P「うん、頑張れ」
菜々「…」
菜々(すごくビックリした。すごく怖かった)
菜々(どうしちゃったんだろうPさん。ストレス、かな、それで精神を…)
菜々(お仕事、辛いのかな。これだけの数のアイドルをプロデュースするって、やっぱり大変だろうし)
菜々(カウンセラーの人とかって、たしか企業の専属の人がいたりするんじゃなかったっけ)
菜々(早いうちにお薬とか出してもらったほうが…お薬?)
菜々(お薬…え、うそ、もしかして…いや、ないない、あり得ないそんなこと、Pさんはそんな弱い人じゃない!)
P「…」
とんでもない方向に話が進んでいる感じだ。
早苗さん登場もそう遠くない未来のように感じる。
菜々(もう少し、様子を確かめてみなくちゃ)
菜々(もし、万が一、そういうことなんだったりしたら…菜々は…)
菜々「Pさん!」
P「ん?」
菜々「やっぱりもう少しお喋りしてもいいですか?」
P「練習いいのか?」
菜々「もうかれこれ二時間もやってるので、そろそろ休憩を挟もうかなと思って」
菜々「Pさんとお喋りしたいですし!キャハっ☆あ、でも、お仕事の邪魔になっちゃいますか…?」
P「いや、俺も休憩したいと思ってたところだ。どれ、お茶入れてくるか」
菜々「あ、菜々がやりますよぉ♪ご主人様はそこに座っててください!」
菜々が小さな体を弾ませるように、給湯室へと駆けて行く。
装飾の多いメイド服がひらひらと揺れている。
菜々(普通に会話、出来てるよね。疲れてるっていう感じでもないし)
菜々(でも、空元気かもしれないし、油断は出来ない)
お盆を手に菜々が戻り、ソファーへと腰を下ろす。
そうして座る隣へもう一人分のスペースを空け、そこをぽすぽすと叩いている。
菜々「Pさん、こっちです!」
呼ばれて移動し隣に腰掛けると、菜々はえへへと笑みを見せた。
お茶を手に取り、こちらへ差し出してくる。
菜々「お菓子もありますからねっ」
P「俺が買っといたお菓子です」
菜々「そうでした!失敗失敗、テヘッ☆」
菜々「…」
菜々「Pさん、最近の調子はどうですか?」
P「調子?いいよ、すごくいい。特に今、可愛い子の隣でお茶を飲めるなんて!」
菜々「可愛い子って菜々ですか!?えへへっ、嬉しいっ、きゅんきゅんしますね☆」
菜々「あ、そうだ、菜々の悩み聞いてくださいよー。その後でPさんの悩みも聞いちゃいますのでっ」
菜々が身振り手振りを交えながら、近況についてを語り始める。
ご近所で何があった、スーパーでファンの人に声を掛けられた、ウサミン星の習わしでは、他にもいろいろ。
他愛の無い話を終始笑みで語り、菜々はふと静かになった。
こちらの目を見詰めながら、こちらの手の上に小さな手を重ねてくる。
多少の気恥ずかしさを感じ、顔ごと逸らして視線を回避。
菜々「Pさんは、何か悩みとかないんですか?菜々、何でも聞いちゃいますよ」
P「悩み?いや、特には」
強いて言うなら、あと一回くらい発狂しておこうと思うのだが、どのタイミングにしようということくらいか。
菜々「ホントに、何も無いですか?」
P「うん」
菜々「お仕事、辛かったりとか、そういうのも?」
P「仕事は、んー、大変だけど、やりがいのある楽しい仕事だよ。女の子に囲まれてるしな!」
茶化してみるが、菜々は目と目を合わせようとしてくるばかりで、真面目な顔を崩そうともしない。
菜々、こんな顔も出来るんだな。
17歳とは思えない大人っぽさだ。
菜々「Pさん、菜々の目、見て下さい」
こんな真剣にそんなことを言われては、従うより他にない。
仕方なしと目を見据えると、菜々は身を乗り出すようにして顔を近づけてきた。
吐息を感じられるレベルの距離。
人に見られたら、まあ、まずい。
見詰め合うこと何秒か、菜々はふっと息をつき、重ねていた手で俺の手を柔らかく包むと、えへへ、と言って相好を崩した。
菜々「信じてますよ、Pさん♪」
P「ん、なんか、気を遣わせたみたいだな。ありがとう菜々」
菜々「はいっ!」
と、そこで。
黒い影が視界の端、床の辺りを横切った。
菜々「わっ、きゃっ、虫がいますよ!」
P「虫だぁああああああああうひゃああああああ!!!!!」
菜々「!!」
P「ひいいいいいいいいいい虫だよぉおおおおおおおお!!!!!」
勢いよく立ち上がり、不要な広告の束を丸めて虫を追いかける。
部屋の角へと追い詰め、思うさま叩く、叩く叩くまた叩く。
P「虫!虫大好き!ああああああああん好きだよおおおおおお!!!!!」
バスバスバスッ
菜々「」
P「虫だよぉおおお!!!おおおおおんおんおん!!!!」
P「虫!虫潰れた!大好き虫!」
P「らーんらーらららーらーらーん♪」
潰れた虫を鷲掴みに、スキップで窓へと駆け寄る。
窓を開け放ち一旦部屋の反対の壁まで下がり、助走をつけて。
P「虫大好きなのおおおおおおおお!!!!!」
ポーイッ
菜々「」
落ちていく死骸を飛び跳ねながら見送り、側転で部屋の中央へ。
辺りをきょろきょろと見回した後、事務机の横に置かれたごみ箱に頭から突っ込む。
頭にごみ箱を被ったまま、事務所の床を這い回って言う。
P「虫の真似」ワサワサッ
菜々「ひっ」
P「これ虫の真似」ワサワサッ
室内を三週、そろそろいいかと思い、おもむろに立ち上がってスーツについた汚れを払う。
ごみ箱も外し、元の位置へ。
P「菜々、もう安心だ。虫は倒した」
菜々「…Pさん」
菜々(怖い、怖い、でも…)
菜々「…Pさん、菜々たちに言えないようなこと、してるんじゃないですか?」
P(!!)
P(由愛ちゃんのパンチラ盗撮の件か!!)
菜々「…私の学生時代の友達に、辛いことがあって、使っちゃいけないお薬に手を出した女の子がいました」
菜々「その子は、十年経った今でも、まだ病院に通っています」
P(なんだお薬か。使わないよそんなの)
P「菜々の年齢、十年前、学生時代、これらを考えるとその友達が薬物に手を出したのは…」
P「ぎりぎりで小学一年生か。すごいな。というか菜々は今も学生時代を爆走中だろうに」
菜々「茶化さないで下さい!今はそんなことどうでもいいんです!」
P「ごめんなさい」
菜々「早苗さんには、言いません」
菜々「だから、もう、やめて下さい…」
菜々「辛いなら、菜々がどんな事でもして、何を使ってでも癒してあげますから…」
菜々「だから!」
P「キョーイッ」
菜々「Pさん!」
晶葉「まったく、誤解を解くのに私までかりだされるとはな」
P「あれは仕方ない。もうなんか何言ってもどうしようもなかった」
晶葉「…泣いてたな」
P「うん。可哀想だった」
晶葉「たまには泣かせずに済ませられないのか助手よ」
P「いや、お題が悪いよ。でも菜々のこと抱きしめちゃったもんね」
P「知ってるか?背は小さいのに胸が、こう、なんというか、あの、すごいんだ!」
晶葉「よかったではないか」
P「晶葉いつもありがとう」
晶葉「さあさあ次だ、コンピューターは次にこれを欲している!『食べているものを取り上げられたときの反応』!」
P「出た、またそういう系。やめてあげてよそれ系の子は絶対泣いちゃうよ」
晶葉「最適とはじき出されたアイドルは…『大原みちる』!」
P「新人さんじゃんか」
http://i.imgur.com/cXkeowa.jpg
大原みちる(15歳。焼きそばパンをおかずにフランスパンを食べる女の子)
菜々でした。また書けたら投下します。
筆が遅いので、時々(三日に一回くらい)更新を確かめる程度に読んで下されば幸いです。
P「みちる仕事どうだ?そろそろ慣れてきたか?」
みちる「フゴッ」
P「あ、すまん、食べてからでいいぞ」
みちる「フゴフ」
みちる(…おいしい)
みちる(パンおいしい)
みちる(パン…)
みちる(…)
みちる(おいしい!)
みちる「モグモグモグモグモグモグモグ…ゴックン」
みちる「お仕事楽しいですよ。あたしがアイドルなんてって思ってたけど、なってよかったです、アイドル」ガサガサッ
みちる(次は…あんぱん!)テレーン
P「そうか、スカウトして正解だったな。やる気も十分だし、そのうちでかい仕事取ってくるからな」
みちる「モグモグモグモグ」
みちる(おいしい!)
P「…」
フランスパンを丸ごと平らげ、続いてあんぱんを頬張っているみちる。
思考は今のところ単純で、おいしい、パン、の二つだけしかない。
みちる(パンおいしい)
P「幸せそうだな」
みちる「モグモグ…ゴックン」
みちる「食べてるときは幸せです!」
みちる「あ、そろそろお昼ですよPさん、お昼ご飯は何食べましょうか」
P「そのパンがお昼じゃないのか」
みちる「あははー!これはあんぱんですよ!」
P「そうか」
みちる(おいしい!)
P「じゃあ俺も昼飯にするかな」
みちる「…あれ?お昼、トマト一個ですか?」
P「あとで何か別に食べるよ。あ、これはやらないぞ、大事なトマトだからな」
みちる「そうなんですか。あ、じゃあパン分けてあげますよ!」
P「…」
さて、ではそろそろ課せられた役割をこなすとしますか。
何が好きですかー、なんてことを言いながら紙袋を探っているみちるにゆっくり近付き、とりあえず手に持っていた食べかけのあんぱんを掠め取る。
みちる「あっ」
P「これもらう」
みちる「あははー!あんぱん好きなんですか!取らなくても新しいのありますよ!」
またがさがさとやり始めたみちるを尻目に、奪ったあんぱんを食べてみる。
と、みちるの動きが止まった。
みちる(Pさん、あれ食べちゃった…食べかけだったのに)
みちる(なんか恥ずい…Pさんそういうの気にしないんだ)
みちる「あー、あははー、何か好きなパンとかありますか?」
P「これが好き」
みちる「あ、じゃあそれあげます、ってもう食べてますね、あははー…」
みちる「じゃああたしは、こっちの、焼きそばパンににようかな!」テレーン
P「…」
みちるが焼きそばパンの包装を外し、端にかぶりつく。
もぐもぐしながら視線がちらりとこちらへ向かい、すぐにまた逸らされた。
パンとおいしい以外の初めての思考、俺が食べかけのあんぱんを食べてしまったことをかなり気にしているらしい。
もっと超然とした奴なのかと思っていたが、案外ちゃんと15歳の女の子だ。
みちる(Pさんすごい見てる…見られるのは別に気にならないけど…)
みちる(焼きそばパンも欲しいのかな。あんぱん食べ終わっちゃったみたいだし)
みちる(これも取る気じゃないよね?思いっきり噛み付き跡とか残ってるし、流石に恥ずかしすぎる…)
P(よし、奪って食べよう)
近付くと、みちるの体がぴくりと跳ねた。
パンをもぐもぐしながら体の向きを変え、紙袋と焼きそばパンを守るように背中を丸めている。
細い肩を掴んで強引にこちらを向かせ、驚くみちるの口から焼きそばパンを毟り取る。
そして食べる。
みちるが口の中に残っていた分のパンを飲み込み、呆然とこちらを見詰めた。
みちる「あのー、パン、そんなに好きなんですか…?」
P「いや、別に」モグモグ
みちる(好きじゃないなら何で取るの…しかも食べかけのやつばっかり)
みちる(なんか、もう食べにくい…また取られるかもだし)
みちる(て言うかさっきから近いよPさん…殆ど抱きつこうとしてる感じだよ…)
思考は混乱気味だし近さは丁度よかったしなので、チャンスと思いパンのたくさん入った紙袋を丸ごと奪ってみる。
みちるが何やら切ない声を上げた。
P「これは没収。返さない。で、今どんな気持ち?」
みちる「パン…」
みちる(あたしのパン…)
みちる「…」
止まってしまった。
動かず、心の声も聞こえない。
メモ、止まる。
メモを終え、あまりにも完全停止なみちるを、袋から取り出したフランスパンでつついてみる。
頬をぺちぺちやっても反応は無い、が、口先をつんと突いた瞬間動きがあった。
がぶりとフランスパンの先に噛み付き、長いパンの中程を両手でしっかりとホールド。
飛ぶように足を交差させ、体を捻り反転させる勢いで見事にフランスパンを奪い返された。
しまった、と思うまもなく、みちるが脱兎よろしく逃げていく。
紙袋を抱えたまま追いかける。
室内をばたばた逃げ回っていたみちるだが、のろかったのですぐ捕まえることが出来た。
先程虫を潰した角に追い込み、壁に押し付けて動きを封じる。
P「はい駄目ー、フランスパン没収。くわえてる先っちょもよこせ」
みちる「ふぐぅ…」
P「抵抗するな」
押さえつけていた手を離し、口からはみ出たパンの端を摘んで引っ張るも、がっちり咥えられているので中々離れない。
抱えていたパンの袋を一旦置き、鼻をつまんで呼吸を止めさせてみる。
離れた。
さすがにパンの欠片よりは、酸素が大事だったようだ。
みちる(とられちゃった、パン、また…)
みちる(って言うか、えっ、それは流石に食べないよね、よだれでべとべとだし…)
みちる(食べないよね、えっ、食べるの?どうするのそれ!)
つい先程まで咥えられていたパン。
流石にこれを食べるのは俺も抵抗がある。
しかし。
みちる(食べるんだ、食べる気だ、食べちゃうんだ…!)
みちる(どうしよう…パン、好きじゃないって言ってたのに、どうして…)
不安と期待が入り混じった様子。
何やら呼吸も荒げている。
まあいいか、食べたれ食べたれ。
みちる「!!」
みちる(ほんとに食べた…好きなんだ、やっぱり、好きなんだ)
みちる(この人あたしのこと好きなんだ…あたしたくさん食べるからよく男子とかにも引かれるけど、Pさんはよく食べる子好きなんだ)
みちる(じゃあ…)
みちるが突然しゃがみ込み、おいてあった紙袋に手を突っ込むと素早くあんぱん(二個目)を取り出した。
見る間に包装を破り取り、咥え、しかし食べずに見上げてくる。
没収しようと手を伸ばす、が、また逃げようとしたのでがっちり捕まえる。
みちる(Pさんの右手はあたしの手を押さえてる、左手は肩を…)
みちる(じゃあ、このあんぱん、どうやって奪うのかな…)
みちる(こんな抱きつくみたいな状態で、手を使わず奪うって言ったら、もう…)
P(ん、何だ、なぞなぞか…?そんなの簡単だ、口を使って奪えばいい)
顔を近づけ、みちるの咥えるパンの端に噛み付く。
みちるが目を瞑った。
何なの。
あんぱん(二個目)を食べ終えると、みちるは顔を真っ赤にしてへたり込んでしまった。
パンかすのついた唇を指先で押さえている。
みちる(これもう絶対好きってことだよね)
みちる(きっと髪型がクロワッサンみたいで可愛いとか思ってて、あたしのことも食べちゃいたいとか思ってるんだ)
みちる(じゃあ、じゃあ…)
みちるがまた紙袋に手を伸ばすが、もう個別に奪えばいいかと放っておく。
みちるはまたもあんぱん(三個目と四個目)を取り出し、襟元からブラウスの内側へと強引に押し込んだ。
二つのあんぱんが入った胸を両手で押さえ、やはり見上げてくる。
みちる(…こうしたら?これはどうするの?)
P「食べ物で遊ぶな」
みちる「!?」
晶葉「で?で?結局それはどうなったんだ?ん?」
P「なんでそんな興味津々?」
答える代わりに、袋に入った二個のあんぱんを掲げてみせる。
晶葉「すごいなきみは!今までよく逮捕されずやってこれたものだ!」
P「あと俺はみちるが好きってことになってしまった。こんど実家で作りたてのパンご馳走してくれるって」
晶葉「よかったではないか」
P「パン作り見学できるらしい。超楽しみ。晶葉ありがとう」
晶葉「ではあんぱん休憩の後、次に移るぞ。次に採るべきは…『徹底的に無視されたときの反応』」
P「イジメじゃん。俺は人の気持ちとか考えられる奴だから、駄目だと思ったらすぐやめるぞ」
晶葉「採取対象は…『白坂小梅』」
P「せっかく最近懐いてくれるようになったのに…」
http://i.imgur.com/WxW670d.jpg
白坂小梅(13歳。ホラーやスプラッタ映画が大好き。我々には見えない「あの子」とやらが見えている様子)
みちるでした。
無言の圧力系で一つ書いたのですが、ホラー風味でしかもみちるの印象が悪い感じの終わりになってしまったので書き直しました。
コレジャナイ感は目を瞑って下さい。また書けたら投下します。
小梅「お、おはよう、ございます…」
P「…」
事務机で書類をパソコンに打ち込みながら、早速の無視。
ごめんなー小梅、仕方なくなんだ。
人質を取られて仕方なく、無視するしかないんだ。
可哀想な小梅、きっとまたホラー映画とか借りてきて、一緒に見ようと思ってくれてたりしたんだろうに。
それなのにこの仕打ち!
誰のせいかと問われれば、俺が由愛ちゃんのパンチラ写真を集めていたからであって、俺のせいと答えるより他ない。
小梅(Pさん、返事、ない…声、小さかった、から、かも…)
小梅(もう少し、近くで…)
小梅「あ、あの、Pさん、お、おはよう…」
P「…」
小梅「…?」
小梅「…あっ」
小梅(Pさん、イヤホン、着けてる…音楽、聴いてる…?)
小梅(でも、コード、無い…無線、イヤホン…)
小梅(…耳栓?)
小梅(とにかく、聞こえない、みたい…なら)
P「…」
小梅が俺の裾を掴み、くいくいと引っ張ってくる。
でも無視!
可哀想!
反応がまるで無いこと小梅は首を傾げ、自分の手の平をしげしげと見詰めた。
裏返して手の甲も見ている。
手を見て、俺を見て、手を見て、そして、突然勢いよく飛びついてきた。
ぐっと声が漏れそうになるが、徹底無視なので我慢する。
小梅は抱きつく状態から片手を離し、その手を俺の目の前で振っている。
でも無視。
小梅(触っても、気付かない…)
小梅(顔の前で、手を振ってみても…気付かない)
小梅(抱きついても、反応、無い)
こちらからの反応が返ってこないことをひとしきり確認すると、小梅は抱きつく腕を放し、姿見に向かってぱたぱたと駆けていった。
姿見の正面に立ち、体のラインをなぞるように撫でている。
後ろを向いて振り返り、背中も確認。
小梅「映る…」
小梅(でも、これは…)
P(これは…?)
小梅(ここに、来る、途中…私、し、死んだ、かも…)
P「何だとぉ!?」
小梅「!!」ビクッ
P「…あっ」
そうか、と思い至る。
例の映画(もしくは霊の映画)みたいなあれだ、死んで幽霊になったから誰にも気付かれない、みたいな。
声は聞こえるし、姿は確認できるし触れられるし、冷静に考えれば小梅が死んだなんてあり得ない。
とりあえずメモ、自分が死んだと勘違いする。
さて、驚きのあまり思わず無視を忘れてしまって、どう対処したものか。
しかも心の声に対して反応してしまったし。
P「あー、えーと…」
P「卵1パック20円だとぉ!?菜々にも教えてあげなきゃ!」
小梅(Pさん…仕事、してたんじゃ、ないんだ…)
…真面目に仕事してたのに。
なんか損した。
小梅(あの子、なんだか、複雑そうな、顔してる…仲間に、なった?だって…)
小梅(…でも、これ、き、気付かれない、なら…)
小梅(とりあえず、登る…)
登るってどこに、と思っていると、小梅が近付いてきて隣に立った。
こちらの肩に手を置き、靴を脱ぎ、大胆に足を上げて膝の上に乗ろうとしている。
ちょっと、スカート!スカート!見えてないと思って足広げすぎ!
ちくしょうカメラどこだ!鞄の中だ!ちくしょうこの体勢からじゃ取れないちくしょう!
仕方ない、記憶に、焼き付けるんだ…!
小梅「えへへ…」
P「…」
あれ、何か、おかしい。
膝の上に乗るのは、まあいい、ちび共をたまに乗せてやってるし、大人組みもちょくちょく乗ってくるし。
でも、なんで小梅これ、向かい合った格好で?
腿の上に跨り、背中に手を回し、胸に顔を埋め、熱い息を服の上から体に注入するようにぼわぼわ吹いて遊んでいる。
そして極めつけに顔を上げ、えへへ、とこの笑顔である。
…。
抱き締めたい!
でも無視しなきゃいけないんだろこれ。
今回は小梅に辛い思いさせちゃうかもだし少しでやめようとか思ってたけど、違うわ、これ辛いの俺だわ。
拷問の類だわ。
小梅(肩車、とかも、しようかな…)
小梅(おんぶ、とか…)
P(いや、それはさすがに危ない)
P(あんな白くて柔らかそうなふとももに挟まれたら色んなものが危ない)
しかし思い立ったら即行動、が今日の小梅の方針らしい。
肩にその白い足が引っ掛けられ、頭を両側から掴まれた。
そうして腹筋を使い、小梅が一気に起き上がる。
…。
おかしいだろ、顔面方向から背面に向かっての肩車は、もはや何らかのいやらしいプレイだろ。
何かもう色々とまずかったので、目を瞑り思考を極力押さえつけ、呼吸を止めて嵐が過ぎるのを待つ。
小梅(Pさん、流石に、重さとか、感じてる、かな…)
小梅(よろよろ、してる…肩が、重いんだ…)
小梅(お憑かれ、さま…なんちゃって、ふふ…)
P(そういうのいいから、降りて、息止めてるの苦しい、あと13歳相手に反応しちゃいけないところが凶器と化しちゃいそう…)
小梅(あ…そ、そうだ)
何かを思いついた様子。
小梅がするすると降りていく。
よかった、助かった、まだ塀の内側での生活はしなくて済みそうだ。
靴を履き、再び傍らに小梅が立つ。
小梅(これは、さすがに、駄目、かな…気付かれない、けど、卑怯、って、言うか、酷いこと…)
小梅(でも…)
しばらく思考が、でも、と駄目、に支配された。
最終的にでもの方が勝ったらしく、小梅がこくりと喉を鳴らす。
何をするつもりだ。
と思った瞬間、触れられた、股間に、指先で。
ちょん、と軽く触れ、停止。
うお、と流石に反応しそうになったところで、小梅が突然走り出した。
あわわわわと言いつつ思考もあわわわわになりつつ、ソファーに飛び込んで丸くなる小梅。
小梅(触った、触っちゃった、触っちゃった…!)
小梅(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…!)
小梅(私、いけないことした、死にたい、爆発すればいいのに…!)
小梅(死にたい、死にたい、死にたい…あ、もう、死んでるんだった)
勘違い続行中。
あー、どうするか、今のは無かったことにしようか。
思春期だから仕方ない、ホラーやスプラッタだけが興味の対象ではないと分かってむしろ良かった、と言う感じで無かった事にしよう。
大人としてどう対応するのが正しいのかは分からないが、そんなことは聖職者にでも任せておこう。
小梅(Pさんに、謝らなきゃ…いけないこと、したから…)
小梅(…死んでる、のに、どうやって…?)
小梅(そ、そっか、死んでる、って、ことは、もう、普通の人、とは、お喋りしたり、出来ないんだ…)
小梅(Pさんとも、アイドルの、人たち、とも…)
小梅(謝らなきゃ、なのに…)
P「…」
小梅がソファーから起き上がり、こちらにおずおずと歩いてくる。
顔が赤くなったり、青くなったり、目が潤んだり、と忙しく表情を変化させている。
小梅「Pさん、気付いて…気付いて…」
小梅「あ、謝りたい、こと、あ、あるから…」
小梅「き、気付いて、ほしい…こっち、見て…」
小梅「…」
小梅「いけないこと、して、ごめん、なさい…」
小梅「…」
小梅「か、勝手、に、し、死んじゃって、ご、ごめん、なさい…」
小梅「お喋り、も、もっと、したかった…」
小梅「持ってくるって、言ってた、映画、まだ、も、持ってきて、ないのに…」
小梅「…あ、あの、アイドル、Pさんが、折角、してくれた、のに…」
小梅「トップ、アイドル、結局、なれない、まま…」
小梅「し、しん、死んじゃって、ごめんなさい…」
P「…」
そろそろ無視が限界だ。
小梅は生きているしトップアイドルも余裕でなれるよって教えてあげなきゃ。
でもどうする、ここでネタばらししたら、今までの行為も全て気付いていたと小梅につきつける事になる。
きちんと謝る気ではいるみたいだけど、性への興味とかそれに伴う罪悪感とか、すごく繊細な問題っぽいし。
何かいい落とし所はないものか。
小梅「Pさん、と、一緒に、お、お仕事、出来て、嬉しかった。あと、た、楽しかった」
小梅「もう、お仕事、は、無理、だけど…ずっと、い、一緒に、いる、から…」
小梅「ずっと、あの子と一緒に、み、見守って…Pさん達のこと、見てるから…」
小梅「寂しく…ない…」
小梅「寂しく、な、ない…はず…なんだけど…」
P「…」
小梅がうずくまって震え始めた。
限界だ、だがいいアイデアが思い浮かばない。
思い浮かばないから、悪いけど晶葉、全部イヤホンのせいにさせてもらうぞ。
心の声を聞くイヤホンを耳から外し、思い切り、派手に声を上げて伸びをする。
小梅がはっとして顔を上げた。
凝りをほぐすように首を回し、小梅を視界に納め、いま初めて気付いたふり。
P「あれ小梅、来てたのか、ごめんごめん気付かなかった」
小梅「えっ…?Pさん…み、見えてる…?」
P「見えてるよ、当たり前だろ」
小梅「でも、さ、さっきまで…」
P「ああ、このイヤホンのせいだな。晶葉印の物凄い集中できるアイテムだ。これしてたら多分、ぶん殴られても気付かないよ」
P「もしかして声掛けたりしてた?ごめんなー」
小梅「…Pさん、に、ひ、酷いこと、しました」
P「酷いことしましたか。駄目だろ酷いことしちゃ」
小梅「ご、ごめん、なさい…」
P「じゃあ仕返しに頭を鳥の巣みたいにしてやるからもっとこっち来い」
小梅「…うん」
寄って来た小梅の頭をもしゃもしゃと撫でる。
なすがままの小梅。
出来た、鳥の巣。
もさもさになった小梅が、こちらをじっと見詰めてきた。
小梅「なに、し、したか、聞かない、の…?」
P「言いたくないように見える」
小梅「…言ったら、多分、き、き、嫌いに、なる…」
P「おれ小梅になら何されても許しちゃうよ、可愛いから。まあ言わなくていいや、それより映画見よう映画」
小梅「…じゃあ…な、内緒…いつか、ち、ちゃんと、言うから…」
P「じゃあいつかちゃんと許すよ。さあ映画見よう映画」
何かに耳を澄ませるように上を見上げ、小梅がえへへと笑う。
P「ただいまー」
晶葉「おお助手、今回は随分と時間がかかった…なんだ、客人を連れてきてるなら先に言え」
P「え?誰もいないぞ?」
晶葉「茶ぐらいは出そう、まあこっちにきて座りたまえ。ええと、新しいシンデレラ候補か?」
P「晶葉?誰もいないぞ?何が見えてるの?」
晶葉「…」
P「…」
晶葉「なんちゃって!」
P「やめろよそういうのぉ!もおー!」
晶葉「まあたまには悪戯もするさ。で、時間をかけていいデータが取れたんだろうな?」
P「いいデータかどうかは分からないけど、色々と眼福モノだった、これ捗るわ」
晶葉「よかったではないか」
P「ああ、思い出すだけでやばい、あ、やばいやばい。晶葉ありがとうちょっとトイレ」
晶葉「はいはい次いくぞ次。お次に欲しいデータ、は…『ガチへこみしている人を見たときの反応』」
P「お、へこむのなら得意だ。家でよく体育座りとかしてるからな」
晶葉「対象は…ふむ、『櫻井桃華』だそうだ」
P「大人の威厳が粉砕するな」
http://i.imgur.com/oEi2HHq.jpg
櫻井桃華(12歳。お嬢様の中のお嬢様。大人びた物言いをするが、子供らしい部分も多い)
小梅でした。会話をしていないせいか、描写が多くなったような気がします。
いつもコメントをありがとうございます。みちるへの反応が多くて嬉しい。
また書けたら投下します。
桃華「ごきげんようですわ。あら? プロデューサーお一人だけですの?」
P「…ああ、桃華か、おはよう」
桃華「いかがいたしまして? いつものはぜるような元気は何処へやら、Pちゃまらしくないですわよ?」
P「いつものだって実は空元気だよ、俺なんか本当は臆病者の弱虫で…ああ、子供相手に何言ってんだ俺」
桃華「あら、失礼しちゃいますわ、子供だなんて。このほどはレディの扱いを心得てきたものと思っておりましたが、わたくしの勘違いだったようですわね」
P「ん、悪い…」
桃華「…本当に、どうしたんですの?」
桃華(Pちゃま、何かあったのかしら。こんなに気を落としてしまって…)
桃華(Pちゃまのこんなお姿…わたくしが、どうにか取り計らって差し上げなくては)
P「…」
まあ普通な反応だ。
優しく穏やかで自信家な桃華らしく、普通に心配している様子。
ため息でへこみを演出しつつメモ、眉尻が下がる、と。
桃華(深いため息、相当に参っているようですわね)
桃華(でも、安心なさってPちゃま。わたくしが必ず、Pちゃまの素敵な笑みを取り戻してみせますわ)
桃華「今日のPちゃまは、なにやら少し消沈気味に見えますの」
桃華「だから、仕方ありませんわね、このわたくしが色々とお世話を焼いて差し上げますわ」
小さな鞄をソファーに置き、桃華が優雅な所作で給湯室へと消える。
かちゃかちゃとカップを用意する音と共に、色々と探しているらしい思考が聞こえてきた。
桃華(茶葉はどちらに…?これは緑茶のようですわね。紅茶はどこにお隠れになって?)
桃華(カップは、本当にこれを使ってもよろしいのかしら。あら、ポットはどこ?)
桃華(食器棚の奥にドーナツが隠してありましたわ!)
そうして待つこと数分、桃華がお盆にオレンジジュースの入ったコップを二つ載せて戻ってきた。
こぼさないようにと緊張しているのか表情は固く、ジュースの表面はゆらゆらと波立っている。
ゆっくりとした動きでそっとお盆をテーブルに置き、桃華がほっと一息つく。
一仕事やり終えたみたいな顔。
桃華「ビタミンを摂って元気も回復ですわ!」
P「桃華に気を遣わせてしまって、俺はもう本当に死ぬしかない」
桃華「もうっ、そんなことお気になさらなくていいんですのよ?さあ、こちらへいらして」
呼ばれたのでだらだらしながらソファーへ移動。
桃華が隣に腰掛け、ぴったりと寄り添ってきた。
コップになみなみ注がれたオレンジジュースを手渡され、どーもと気の無い言葉を返す。
ジュースを一口だけ飲みお盆へ戻すと、桃華が小さく笑みを作って口を開いた。
桃華「Pちゃま、わたくしにしてほしいこと、他にはありませんの?」
P「いや、もう、俺のようなクズのために桃華にあれこれさせるなんて…」
桃華「そうご自分を卑下なさらないで下さいまし」
P「だってなんかもう失敗ばっかりで、何やってもうまくいかない。俺人間として生きるの向いてないんだよきっと」
桃華「…もう、仕方のないひと」
ソファーの上に膝で立ち、桃華がひしと抱きついてくる。
頭が細い腕と薄い胸に囲われ、ほのかに甘い香りとかすかに柔らかな感触とで、逮捕も秒読みしかし幸せみたいな状態。
桃華が後ろに寝転べば、頭をホールドされている俺は、小さな身体に被さるように倒れこむしかない。
桃華「わたくし今、とても幸せですの。Pちゃまがわたくしのプロデューサーで、アイドルとして活動することが出来て」
桃華「この幸せも、Pちゃまは失敗の結果だとおっしゃいますの?」
P「桃華は素材がよかったんだ、俺の手柄じゃない」
桃華「あら、履き違えないで下さいまし。アイドルになれたから幸せなのではありませんわ」
桃華「それに、素質があったとおっしゃりたいようですけれど、断言いたしますわ、Pちゃまなくしてアイドル櫻井桃華はあり得なかったと」
P「そんなことないだろ。桃華は可愛いからきっと誰がプロデュースしたってアイドルに――」
言う途中、抱く腕に力が込められた。
口元に発展途上のふくらみが押し当てられ、言葉は中断させられる。
桃華「お聞きになって。まず一つ目に。籠の中でいい気になっていた不遜な小娘を外に連れ出し、世界の広さを教えて下さったのは誰でしたかしら」
桃華「二つ目に。失敗の絶えなかった未熟者を、共に悲しみ共に怒り、笑ったり泣いたりしながらずっと支えて下さったのはどこのどなた?」
P「…泣いてはいない」
桃華「うふふっ、そうでしたわね、少なくともアイドルの前では」
桃華「兎にも角にも、わたくしにドレスを着せ舞踏会へとお連れになった魔法使いは、他ならぬPちゃまでしてよ」
いつの間にか頭を撫でられている。
後頭部を小さな手がさらさらと滑っていく感触が心地よい。
桃華「お分かりになりまして?無力だなんてとんだ勘違いですわ」
桃華「人間ですもの、いかに敏腕なプロデューサーといえども、生きている以上多少の失敗はついて回るものですわ」
桃華「それが偶然に重なっただけ、少し続いただけですのよ。顔を上げて、負けるものか、今度こそはと笑い飛ばしておやりなさいな」
桃華「強引かもしれませんけれど、笑っていれば大抵の事はどうにかなってしまうものですわ」
…どこかで聞いた台詞だ、と思ったら、これデビューしたての頃の桃華に、俺が言った言葉そのままだ。
聞くほど安い台詞なのに、なんで覚えてんの、ちょっと恥ずかしいですわ。
メモ、今は体勢的にちょっと無理だ、あとでメモしよう。
台詞をそっくり返される、と。
桃華「笑い方を忘れてしまったなら、わたくしをお頼りになって」
桃華「辛いときは甘えても構いませんのよ?顔を上げるのが難しいのでしたら、わたくしが支えになって差し上げますわ」
桃華「わたくしの大切なパートナーが、わたくしにそうしてくれたように」
これも一部俺の言った台詞だ。
本当にへこんでいるときならまだしも、冷静な状態で言われると、やはりちょっと恥ずかしい。
P「桃華は優しいなあ」
桃華「あら、いまさらお気づきになって?」
桃華(…なんて。これが優しい言葉だとおっしゃるのならば、本当に優しいのはPちゃまの方ですわ)
桃華(お気づきではないようですけれど、これは全て、Pちゃまがわたくしに言って下さった言葉なんですもの)
桃華(わたくしの、大切な宝物なんですのよ?)
前言撤回、ちょっとじゃない、超恥ずかしい。
でもなんか少し嬉しい、なんだこの気持ち、恋か。
あああでも俺には由愛ちゃんがぁああ。
桃華「…さあ、Pちゃま、全てお分かりになられたのならば、優しいわたくしにご褒美を頂けませんこと?」
P「ご褒美?」
桃華「ええ、パートナーなんですもの、一方的にわたくしばかり撫でているのでは不公平ですわ。それに、背中のほうが少し寂しいんですの」
桃華「Pちゃま、桃華を抱いてくださいまし」
鼻血が出るかと思った。
桃華の背とソファーとの間に腕を差し込み、身を起こすと共に抱き上げる。
座った膝の上に華奢なその身を乗せてやり、やわらかく巻いた髪をなぞるように頭頂部から背中までを撫で下ろす。
こちらの胸にぎゅっと顔を押し付け、桃華がなにやら甘い吐息を漏らした。
桃華(これたまらないですわ…もっと強く抱いて、もっと撫でてほしいんですの…)
桃華(わたくしもまだまだ未熟ですわね。どんどん欲が出てきてしまいますわ)
桃華(…言ってしまおうかしら)
何を、と思ったが心の声に反応することはご法度である。
桃華が小さく身を捩じらせ、呟くように小さく言う。
桃華「…三つ目を申し上げても、よろしくて?」
P「三つ目とは」
桃華(わたくしがPちゃまの言葉を信じてこられた理由…)
桃華(Pちゃまが隣におられてこそ、輝くアイドルになれるわけ…)
桃華「…そのまま、顔を見ずにお聞きになって」
P「はい」
桃華「わたくし、Pちゃまのこと、お慕いしておりますの」
桃華「子供の戯れ言とお笑いにならないで。アイドルとしてもレディとしても、まだまだ未熟なわたくしですけれど」
桃華「この気持ちだけは、他の誰にも負ける気はありませんのよ」
P「…」
視線を下げてみる。
スーツの胸元に顔が埋められているせいで表情はわからないが、耳が赤くなっているのが確認できた。
恥らう桃華可愛い!
桃華(言ってしまいましたわ…)
桃華(でも、Pちゃまの気持ちもわたくし、きちんと正しく存じ上げておりますのよ?)
桃華(由愛さん、とても可愛らしい方ですものね。今のままでは、到底敵いそうにありませんわ)
桃華(だから…)
桃華「Pちゃま」
P「なんでしょう」
桃華「わたくしが必ず、シンデレラの玉座をものにしてみせますわ」
桃華「ですからそれまでは、良きパートナーとして、隣にこの身を置かせて下さいまし」
P「もちろん。桃華みたいないい子に慕われて俺は幸せだな!俺も桃華のことお慕いしておりますのよ」
桃華「ふふっ、嬉しいですわ、Pちゃま」
桃華(慕うの意味がすれ違っているのでしょうけれど、今はそれでも構いませんわ)
ん?
慕う、尊敬しているとか、懐いているとか、そういう感じの意味でしょうに。
安心しろ桃華、ばっちり伝わっているぞ!
とりあえず桃華の背後、見えない位置にてメモを取る。
ええと、やる気が増す。
桃華「…もう自信は回復しまして?」
P「ああ、桃華のおかげで元気出た!よし、じゃあ行くか!」
桃華「やりましたわ!その意気ですのよPちゃま!でも、行くってどちらへ?」
P「はいじゃあ桃華、これ持って」
疑問符を浮かべる桃華を膝の上から降ろし、あらかじめ用意しておいたロープを手渡す。
天井に引っ掛けられそうな部分を探し、椅子を持ってその真下へ移動、靴を脱いで椅子に登る。
P「桃華ロープちょうだい」
桃華「??」
受け取ったロープを天井から吊るし、長さを調節、ぶらぶらとする先端は輪の形になるよう結ぶ。
その輪に頭が通ることを確認し、完成。
P「出来た!」
桃華「えっ、えっ?」
P「じゃあ、ちょっと行ってくる」
桃華「だめー!!」
桃華が足にしがみついてきた。
ぐらぐらする、危ない。
桃華「ちょーっとちょっとちょっとPちゃま!?今までのやり取り全部台無しにする気ですの!?」
桃華「そっちはそんなコンビニ感覚で行っていいところじゃありませんのよ!」
P「ちょ、桃華、ぐらぐらする、ちょっ」
桃華「だめですの!わたくしを置いて行かないで下さいまし!」
P「危ない!倒れる!落ちるから、死ぬから!」
桃華「死んだらだめですのぉ!」
P「待って待ってほんとに待って!死なないけどこれこのままだと死ぬ危険あるから待って!」
P「あっ…」
晶葉「それで、死の淵を垣間見てきた感想は?」
P「うふふお花畑…」
晶葉「まあ、少女の心に負荷をかけまくった代償にしては安いほうだろう」
晶葉「そういえば今回は、何か素敵な特典はついてこなかったのか?」
P「桃華の家に招待された。『こうなったらもう強硬手段しかありませんわ!』とか言って」
晶葉「ほう」
P「あそこの家、出てくる料理がすごい美味いんだ。まさかまた食べられる日が来るとは」
晶葉「よかったではないか」
P「まあよかったかな、痛い思いしたけど。晶葉ありがとう」
晶葉「では、次と参ろうか。ええと、『意味深な贈り物をされたときの反応』だと」
P「プレゼント系か…。でも意味深な贈り物って例えば何よ」
晶葉「…キノコとか」
P「なんだそれ。あっ、もしかして精一杯の下ネタか?」
晶葉「…これを採るのに適したアイドルは、『榊原里美』」
P「そのコンピューター、『適した』って言葉の意味わかってる?」
http://i.imgur.com/TJIavL4.jpg
榊原里美(17歳。超天然系のわがままボディ。さとみんなのか、はたまたあざとみんなのか)
そういうわけで桃華ちゃまでした。
お嬢様言葉は難しいですね。でもきらり語や各種方言(特に熊本中二弁)に比べればまだ優しい方でしょうか。
HTML化の際にやりやすいとのことなのでトリップをつけてみました。ではまた書けたら投下しに来ます。
さて、色々なものを用意してみた。
まずは意味深代表、花。
種類によって様々な深い意味を持つ花は、貰えばその花言葉を考えてもやもやすること間違いなしである。
さとみんが花言葉を知っているのかどうか、知らなかったら調べるくらいの意欲があるのかどうかは不明だが。
今回選ばれたのは桃の花。
由愛ちゃんにあげようと思って花屋さんに無理やり咲かせてもらったものを、少し惜しいが流用する。
桃の花言葉は「あなたに夢中」などなど。
桃の枝を植えた小さな鉢の底には、我が家の合鍵を貼り付けておいた。
花プラス鍵、これはもうもやもやどころの話ではないはずだふふふ。
里美「おはようございます~」
そうこうしているうちにさとみんが来てしまった。
残りの贈り物も不備がないか手早く最終確認。
テーマパークのチケット二枚。
これには避妊用のゴムをおまけで付けておいた。
次いで指輪。
安物だし別に意味深でもないし、これは使うかどうか分からないが。
さてでは花からいってみようか。
挨拶におはようと返しながら振り返り、さっそく花を差し出そうとするが、しかし。
P「なんでパジャマ」
里美「??」
P「パジャマのまま来たのか?」
里美「パジャマじゃないですぅ」
P「パジャマだよ、どこからどう見てもパジャマだよ」
里美「??」
里美(パジャマじゃないのに~…)
不満げな思考を漏らしながら、さとみんが下を向いて自分の格好を確認する。
大きな胸をふにょふにょ触り、腰に触り、振り返ってお尻のほうも確認し、そして。
里美(あ、これパジャマですぅ)
P「…」
里美「…」
P「…」
里美「…ふぇぇ、お兄ちゃ~ん」
P「はいはい、困ったときのお兄ちゃんですよ。よしよし大丈夫、平気だ、ほら泣かない泣かない。私服っぽい衣装あるから着替えておいで」
最近のさとみんは、俺をお兄ちゃんと呼ぶことに抵抗がなくなってきた。
待つこと数分、さとみんが衣装に着替えて戻ってきた。
ボタンを掛け違えていたので直してやる。
何やらしょんぼりした様子。
アイスでも食べさせてご機嫌を取ろう。
P「ほらさとみんアイスだぞ、ホームランバーだぞ」
里美「アイス!」
里美「…」ペロペロ
里美「あまーい」
P「そうだな。よしよし、たんとお食べ」ナデナデ
里美「えへへぇ」
里美(お兄ちゃん優しい。お兄ちゃんがずっと一緒にいてくれたらいいのに)
里美(お食事のときとか、お風呂とか、寝るときも一緒だったらいいなぁ)
里美(そうなったら嬉しい。しかもらくらくです)
P(便利な人だと思われてる…)
その内きちんと一人で生きられるよう躾けてやらねばならない。
さて前振りが長くなったたが、そろそろデータ収集に移ろうと思う。
桃の鉢を手に取り、ソファーに座ってホームランバーをぺろぺろしているさとみんに差し出す。
P「あげる」
里美「桃の花です~。綺麗ですねぇ」
P「なんと、分かるのかさとみん」
里美「私の家のお庭にもあるんですぅ~。それで、誰にあげてきたらよろしいでしょう?」
P「さとみんにあげる」
里美「ふえ?」
P「さとみんにあげる」
里美「ふわぁ…私ですか~?ありがとうございますぅ」
鉢を受け取り大事そうに抱え、花の香りを味わうように目を瞑るさとみん。
匂いをかぐことで色も移るのか、頬が段々と桃色に染まってきた。
メモ、桃を貰って桃色に。
里美(桃の花、嬉しい…大事にしよう…)
P「さとみんアイス、溶けてる溶けてる」
里美「あぁ~…」
胸元に垂れたアイスをティッシュで拭ってやる。
ふにふにとやわらかい感触。
これもう普通にエロ行為だよ、やってらんねえよ。
ふにふにされつつ様々な角度から桃を眺めていたさとみんが、ふと鍵の存在に気づいたようだ。
あっ、という心の声が聞こえた。
里美(鍵がついてましたよ~。…これ、もしかして!)
ばっと立ち上がり鉢を置き、鍵とアイスだけ持ってぱたぱた何処かに駆けていく。
アイス垂れてるよさとみん。
慌てた様子でさとみんが退出、俺は床に垂れたアイスを拭く係である。
ドアをがちゃがちゃといじくる音がしばらく続き、違った、という残念そうな思考とともにさとみんが再び部屋に入ってきた。
里美「違いましたぁ」
P「なぜ事務所の鍵だと思った」
里美「とうとう私がプロダクションの代表かと思ったんですぅ」
P「とうとうっていうのは、自分が代表になると前から薄々思っていたということか」
里美「一番のアイドルになりたいんですぅ」
里美「それで、お兄ちゃんが撫でてくれたり、ぎゅ~ってしたりして下さいます」
P「そうなのか」
メモ、意外な野心を覗かせる。
とりあえず垂れ続けるアイスのために皿を用意してやり、さとみんには一度手を洗わせる。
給湯室から鼻歌が響く中、二つ目のプレゼントを用意。
テーマパークのチケット。
チケットを二枚も贈る奴は大抵の場合、一緒に行きたいという気持ちが満載である。
加えて近藤さんちのゴムときたもんだ。
これはもう遊園地でゴンドラなどなどに乗った後、ベッドで夜のゴンドラごっこをしようじゃないかと読めるに違いない。
何がそんなに嬉しいのかご機嫌な様子で戻ってきたさとみんに、チケットの入った封筒を渡す。
開けて中を覗き込み、さとみんが不思議そうな声を上げた。
封筒を逆さにしてふりふりし、ゴムだけ取り出す。
里美「ほわぁ…」
さっそく開封。
待て待て何考えてるんださとみん。
さとみんはアイドルだし十七歳だし、しかもここは事務所だぞ、待て待てさとみん何考えてるんださとみん。
丸まった部分を伸ばしてしげしげと観察し、また何を思い立ったのか、あっ、という思考とともに立ち上がる。
伸ばされたゴムを片手にぱたぱたと出て行ってしまった。
何なの。
そして慌てた様子で戻ってきた。
手には水を容れられてぱっつんぱっつんになったゴムの姿が!
里美「お兄ちゃ~ん!いっぱい、いっぱい入りましたぁ~!」
さとみんと水風船の組み合わせ、嫌な予感しかしない。
と思った瞬間、さとみんが転んだ。
そら見ろ!
宙に投げ出された透明なおっぱいみたいなものを受け止めようと飛び込むが、全然届かない。
床に叩きつけられ破裂、かと思いきや、思わぬ弾力でおっぱいが跳ねた。
やるじゃねえか0.03ミリ、信頼度も大幅アップだ。
メモ、抜群の耐久性。
里美「ふえぇ…」
P「よしよし平気だ痛くない、大丈夫、さとみん立つんだ、一人で立てるな?」
里美「…うん」
P「偉いぞさとみん!おいでおいで、撫でてやる」
里美「ふわぁ…お兄ちゃ~ん」
おっぱいを回収してからおっぱいも回収、ソファーに座らせてやる。
里美「アイス、溶けてしまいましたね~…」
P「ホームランバーには時々奇跡が内包されてるから、最後まで食べてみろ」
里美「??」
P「棒に何か字が書いてあったりしないか?」
里美「…ホームラン」
P「大当たりじゃないか。なんとアイスがもう一本貰える」
里美「ほわぁ…」
さとみんが嬉しそうに、こちらに棒を差し出してくる。
P「…買ったお店に持っていくともう一本貰える」
里美「そうなんですかぁ~。じゃあ行ってきますぅ」
言うが早いか、さとみんが出て行ってしまった。
さっきから何なんだその行動力は。
閉まったドアに、レッスンまでには帰っておいでと声を掛けておく。
買ったコンビニはすぐ近くだし、一人で行かせても大丈夫だろう。
さとみんが戻るまで、俺は仕事に精を出すとする。
と思ったが甘かった。
一時間ほど経った頃に電話がかかってきた。
電話の主はさとみんで、なにやらべそをかいている様子。
里美『戻れないですぅ…お兄ちゃ~ん』
はいはい、困ったときのお兄ちゃんですよ。
暗くなりつつある夕焼けの中迎えに行くと、さとみんは公園のベンチに腰掛けてうな垂れていた。
手には未だ交換できていないアイスの棒と、赤い花弁の小さな花。
里美「…お兄ちゃん…ふぇぇ」
P「よしよし怖くないぞ、いつだって絶対迎えに来てやるから安心だ」
里美「…うん」
P「その花はどうしたんだ?」
里美「お兄ちゃんに、お返しをしようと思ったんですぅ…」
P「買ったのか?お金は持ってたのか?」
里美「お兄ちゃんが持たせてくれた『もしもの時のための小物入れ』に、お金も入れておいたんです~」
P「そういうお金はもしもの時しか使っちゃ駄目だろうに。また足しておくんだぞ」
里美「ほわぁ、わかりました~」
P「じゃあ帰るぞ。アイスも交換してもらおうな」
里美「えへへぇ~」
さとみんがぎゅっと腕にしがみついてくる。
赤い花を差し出されたので受け取り、ありがとうと礼を述べて受け取った。
里美「あの…桃の花、本当に私がいただいてもよろしいのでしょうかぁ」
P「もちろん」
里美「…じゃあ、そのデイジーもお兄ちゃ…Pさんに、差し上げますぅ」
P「ありがと、大事に育てるからな」
里美「はい」
里美(お兄ちゃんがお兄ちゃんで、でも本当はお兄ちゃんじゃなくてよかった)
P「…」
ちょっとよく分からんぞさとみん。
P「戻ったぞー」
晶葉「おかえり、また時間がかかったな」
P「予測不能な動きが多かったから」
晶葉「おや、花はプレゼントしたのではないのか?その赤いのは確か…」
P「さとみんがくれた。デイジーだって。俺が贈ったのは桃の花だ」
晶葉「ほほう…」
P「なんだよ」
晶葉「いや、なんでも。よかったではないか」
P「ああ、地味な花だと思ってたけど、よく見るとすごく愛らしいなこれ。晶葉のおかげでもあるわけだしありがとう晶葉」
P「ああ、そうだ、この指輪晶葉にあげる」
晶葉「指輪?」
P「うん。安物だけどな」
晶葉「そうか。ありがとう、嬉しいよ」
P「…もっと、キュートな感じに恥ずかしがったり照れたりしてほしかった。何だ、クール系に転向する気か?」
晶葉「別にいいではないか…。それとも何か?キュートではないと?」
P「いいや、超キュートだけれども、抱きしめたいけれども」
晶葉「そうだろう。ではお次と行こうか。コンピューターが欲する反応は…ほう、そう来たか」
P「どうした、何て出た」
晶葉「少し待ってくれ…これは、どうしたものか」
P「なんだよ、気になる、見せて見せて」
晶葉「ええい、画面を覗き込むな!乙女の秘密だぞ!」
P「はいはい」
晶葉「…」
晶葉「…ふむ、まあこれでいいか。コンピューターが欲する反応は、『他のアイドルに対する愛を語られたときの反応』だ」
P「おっ、いいじゃないか、普通の世間話っぽい」
晶葉「採取に当たって最も適切なアイドルは、『佐久間まゆ』」
P「まゆか。まゆなら俺の話を茶化さず聞いてくれるだろうし、そのコンピューターにしてはいいチョイスだな」
http://i.imgur.com/lkUHHUR.jpg
佐久間まゆ(16歳。献身的で愛の深い少女。左手首を見せようとしないのは、おそらく恋愛成就のおまじない)
P「でもまゆ今日は休みだぞ」
晶葉「私が適当に呼び出しておこう。Pは仕事をしていたまえ」
P「はーい」
さとみんでした。描写多いですねすみません。
今までのを読み返してみたらキュートばかりでした。しかしお次もキュートです。
いつもコメントをありがとうございます。ではまた書けたら投下します。
P「あなたに夢中」
里美「あなたと同じ」
けっこ待った無し!
まゆ(もうすぐ会える)
まゆ(Pさん……大好きなPさん……この扉の向こうに)
まゆ(服、変じゃないかしら。いきなりだったから、あんまり選んでる時間なかった……)
まゆ(……とりあえず、にやけて変な顔にならないようにしなくちゃ。深呼吸、深呼吸……)
何やら扉の向こうから、恋する乙女な心の声が聞こえてくる。
いつもこんなに恋愛思考全開なのだろうか。
まゆのような可愛らしい女の子に想いを寄せられて、俺という男はかなりの幸せ野郎である。
コンコンコンッ
P「うぇいうぇーい」
カチャッ
まゆ「失礼します」
P「おっ、来たなまゆ」
まゆ「はい、晶葉ちゃんから電話を貰って、Pさんがまゆにお話があるって…」
P「……」
なるほど、俺から話があって呼び出したとかそういう感じになっているのか。
アイドルに対する愛を語るため呼び出すって、何事なの。
人によっては怒って帰ってしまう事もあるだろうが、さて、まゆはどういう反応を示すか。
まゆ(やっぱりPさんかっこいい……はぁ、好き)
P(何がそんなにいいんだろう。俺よく変わり者だって言われるんだけど)
P「とりあえず座るといい」
まゆ「じゃあ、となりに失礼しますね」
腕と腕とが触れ合う距離で、まゆが隣に腰を降ろす。
微笑みを湛えた目で見つめられ、少しどきどきしてしまった。
自然な動きでこちらの腿の上に置かれた小さな手が、何だか微妙にくすぐったい。
段々と、まゆの思考が単純化してきた。
隣、近く、二人きり、好き、大好き、といった端的なものが浮かんでは消えを繰り返している。
P「今日来てもらったのは他でもない」
まゆ「はい」
P「まゆにも由愛ちゃんの可愛らしさを存分に知ってもらおうと思ってだな」
まゆ「……由愛ちゃん?」
笑みが固まり、そして消えた。
これは……まじめに話を聞くモード?
聞く態勢も整ったようなので、では、と断ってから口を開く。
P「まず名前が可愛い。由愛ちゃん、ゆめ、これはやわらかい生き物と考えて間違いない」
P「そして実際やわらかい。お肉がどうとかじゃなくて、何だかふんわりしてる」
P「髪の毛とかふわふわだし。触ったことあるか? すごいぞ、超ふわふわ。まとまり難いのを気にしてる感じもまた可愛い」
P「気の弱いところもいいよな。守ってあげたくなるっていうか、安心させてあげたい」
P「服は基本的にママが買ってきたものを着ている。俺も買ってあげたい。って言うか買ってあげました、二着くらい」
P「たまに着てきてくれるんだよ。すっごい照れた感じで事務所に入ってくるの、超可愛い」
P「でも絵を描くときは着ないんだって。汚れたら困るからだそうで。汚れたらまた新しいの買ってあげるのに」
P「あと最初の頃は男の人苦手とか言ってたんだけど、今では膝に乗せてあげるとリラックスしすぎて寝ちゃうレベル」
P「しばらくすると寝てたと気づいて飛び起きるんだ。ごめんなさいごめんなさいって必死に謝ってくるのも可愛い」
P「でもそういうときにぎゅっとしてあげると静かになっちゃうの。耳とか真っ赤にして、身動き一つしない状態」
P「可愛い。由愛ちゃんが可愛い過ぎて生きるのが楽しい」
まゆ「……」
P「続きまして、朋の話」
まゆ「……」
まゆ(……どうして)
P(ん? 何か今反応が)
P「朋といえばまずあのもさもさポニーテール。いきなり触ると嫌がるけど、触りたいってお願いすると触らせてくれるんだ」
P「仕方ないとか言って。可愛いですね」
まゆ(……どうしてPさん)
P(あとでメモ取ろう。メモ、どうして)
P「占いに頼りきりだった朋から『あんたのこと信じてるから』とか言われたときは涙が出るかと思ったよ」
P「最近はへこんでるときでも俺が声掛けると元気になったりすんの。あの反応は反則だって」
P「ではお次はさとみんの話。妹系でおっぱいで天然系、これはもうほとんどチートキャラですよ」
P「やっぱりあのちょっと抜けてる感じがいいよな、お世話してあげたくなる」
P「今日も試しに俺の家の鍵渡してみたら、それを事務所の鍵だと勘違いしてさ」
P「いやホントに天然で可愛い、痛たたたたた痛い、痛いよまゆ」
まゆ「……えっ」
腿に添えられた手に、ぎゅっと力が込められていた。
指先が食い込み、スラックスに皺が寄っている。
まゆ「あっ、ごめん、なさい……あぁ、まゆ、何てことを」
P「痛いとか言ったけど平気だ、痛くない、俺強い子だから心配要らない。でも急にどうしたのまゆ」
まゆ「……」
まゆ「……Pさん、どうして他の子の話ばっかりするんですか」
まゆ「今日は、とっても嬉しかったんです」
まゆ「お仕事の邪魔になっちゃうかもって、会いたいの我慢してたら、晶葉ちゃんから電話があって」
まゆ「Pさんが、まゆを呼んでるって、お話、なんだろうって、わくわくしてたんです」
まゆ「Pさんのしてくれるお話なら、まゆ、何だって聞いてあげたいって思ってる」
まゆ「思ってるんですけど……でも、やっぱり、辛いんです……好きな人から、他の女の子が可愛いっていうお話を聞くのは……」
P「……まゆごめん、わかった、もういいよ。デリカシー無かった、謝る、ごめんなまゆ」
まゆ「どうして、他の子ばっかり、好きなのに、まゆはこんなに愛してるのに、まゆが悪いの? 悪いところは直しますから、何でも言って欲しい」
P「まゆ悪くないよ、ごめんな、撫でてやるから許して」
まゆ「Pさん好みの女の子になります、何をされたっていいんです、まゆが全部受け止めてあげますから、だから」
まゆ「まゆだけを見て欲しい、まゆだけに触れて欲しい、愛してるんです、本当に、心の底から」
P「まゆ、まゆ、悪かったよ、ごめんな、ほら抱っこしてあげるからこっちおいで」
何やらかを小さく呟き続けるまゆを腕の中に収め、ゆっくりと頭を撫でてやる。
荒くなっていた呼吸が、胸元で段々と落ち着いていくのがわかった。
無理無理、中止中止、まゆが可哀想である。
まゆ(撫でてもらうの気持ちいい……)
まゆ(とりあえずここまでは……あっ、いけない、集中集中)
P(ん? とりあえずもっと撫でてやるか)
P「まゆごめんな、ちょっとした実験で、反応を見たかったんだ」
まゆ「……実験、ですかぁ?」
P「うん。晶葉がロボット作るって言うんで、みんなのから色んな反応のデータを集めてたんだ」
まゆ「晶葉ちゃん……?」
P「まゆに嫌な思いさせたな。ごめんなまゆ」
まゆ「ふぅん……そう、晶葉ちゃん。そうなんですかぁ」
まゆ(そうよねぇ。まゆの気持ち知ってるのに、Pさんがわざわざ呼び出してまでまゆにこんなこと言うなんてあり得ない)
まゆ(Pさんはいつもまゆのことを気遣ってくれる、まゆを想ってくれている……なのに)
まゆ(晶葉ちゃん、そういう事するんだ。Pさんに変なことさせて、まゆの気持ちを掻き乱して……)
まゆ「……Pさん、喉かわきませんかぁ? ジュース取ってきますね」
P「ん、そうだな、たくさん喋ったから喉かわいた」
P「あと一応言っとくけど、俺のやり方が気遣い足り無さすぎだっただけで、晶葉が悪いんじゃないからな」
まゆ「……Pさんのそういう優しいところ、まゆ大好きです」
その後。
まゆの入れてくれたジュースを飲み膝枕で和みつつなでなでされていると、急激に眠気が襲ってきた。
目を開けていなくてはと思いながらも、まぶたが自動で落ちてくる。
あれ、なんでこんなに眠いんだ。
寝るな寝るな、折角まゆの膝枕で幸せなのに…。
……あ、駄目だこれ寝るわ。
やわらかなふとももの感触に癒されながら、曖昧な世界へ落ちてゆく…。
まゆ(ごめんなさい、Pさん)
……。
……。
「本当に大丈夫なのよねぇ?」
「しばらくすると分解されて水になってしまう薬だ。人体に影響はまるで無い」
「なら、いいけど……そろそろかしら?」
「そうだな」
「――」
「――」
もやもやした意識に、少女たちの会話する声が入り込んできた。
何だろう、よくわからない、夢かこれ。
頭が重く、会話も所々が聞こえるような聞こえないようなで、意味を捕らえることがほとんど出来ない。
なんだこれ、夢か。
「……おい待て、なんだそれは」
「何って……わからない? もともとは護身用なんだけど、少しだけ、ねぇ、うふふ、改造を」
「何故いまそんなものを取り出すのだ」
「……」
「待て、話が違うではないか! 予定ではこの後――」
「もういいの。もういいのよ。もう、用済みなの」
「何が……」
「ところで、いい指輪してるのねぇ。なんだかPさんが好みそうな、素敵な指輪…」
「これ、は、助手が、私にと……」
「ふぅん」
バチバチッ
「ぐぅっ――」
「――」
「――」
「……これ、なぁんだ?」カチッカチッ
「ぐっ、うぐ……それ、は」
「工具箱に、丁度いいのがあったの。これがあれば非力な女の子だって、太いワイヤーも軽く切れちゃうのよ」
「何を……っ!」
「――」
「やめ――」
「――」
「――っ!!」
……。
P「うおぁ!」
寝てた!
なんか怖い夢見た気がする!
最後に悲鳴が聞こえた気がする!
……なんで寝てたんだっけ?
あ、まゆだ、まゆに膝枕してもらってて寝ちゃったんだ。
いま何時……七時!?
これは、あれだ、帰ろう、まゆも帰っちゃったみたいだし。
誰か起こしてくれればいいのにー。
P「晶葉ー。あれ、いないのか? 晶葉ー、おーい」
帰り際に晶葉の研究部屋に立ち寄ってみるが、電気は消えているし静かだし、人のいる気配が無い。
何だ晶葉のやつ、帰るときに起こしてくれればいいのに。
明日にでも文句を言ってやろう。
心の声が聞こえるイヤホンを外し、作業机の上に置いて退出。
携帯を取り出してさとみんに電話をかける。
さすがに合鍵を持たせっぱなしは色々まずいだろうし返してもらおうと思ったのだが、あれ、出ない。
まだレッスン終わって間もなくくらいの時間のはずだけど、もう帰ったのかな、いつもは大喜びで電話に出るのに。
まあ、いいか、明日返してもらえば。
P「お腹空いたし帰ろう」
帰ってエビフライとか食べよう。
帰る道の途中、何度か晶葉とさとみんに電話をかけたが、どちらも出なかった。
俺からの電話に出ないなんて、寂しいじゃんかこんちくしょう。
もやもやしながらお腹を空かせ家に帰ると、まゆが居た。
誰に言うでもなく発したただいまの声に、おかえりなさいと返答があって驚く。
まゆ「お鞄、お持ちしますねぇ」
P「……」
まゆ「Pさん?」
P「こら!」
まゆ「!?」
P「勝手に人の家に入ったら駄目だろ!」
まゆ「……はい。あの、でもまゆ、お夕飯を作って――」
P「こら! 駄目だろ!」
まゆ「……ごめんなさい」
P「反省してるか?」
まゆ「してます……」
P「よし。じゃあご飯食べよう。何作ったの?」
まゆ「……エビフライを」
P「なんと。ちょうどエビフライが食べたかったんだ。まゆは俺のことよくわかってる」
まゆ「……本当に? うふふ、嬉しい、以心伝心ですね」
まゆ「あと揚げるだけなので、少し待っていてくださいねぇ」
P「ところでまゆ、どうやって入ったの?」
まゆ「……はい?」
P「いや、家に。鍵掛かってただろ」
まゆ「……」
まゆ「普通に、鍵を開けて入りましたよぉ?」
P「まゆピッキング出来るのか。今度やり方教えて」
まゆ「うふふ」
まゆと二人でお夕飯の時間、まゆの作ったエビフライとサラダはとても美味しかった。
ご飯も好みの硬さにばっちり炊けていたし、まゆは俺のことを本当によく理解しているのだなと感心してしまう。
食後の緑茶を飲みながら二人でまったり。
P「事務所で起きたら一人で寂しかった。まゆ起こしてくれればよかったのに」
まゆ「ごめんなさい、急ぎの用が入ってしまって……Pさんも気持ちよさそうに寝ていましたから、そのままにしておいてあげたくて」
P「そうなのか。でも次はいい夢見てる感じでも叩き起こして」
まゆ「はい、Pさんがそう言うなら」
まゆ「……それじゃあ、まゆは後片付けしちゃいますね」
P「俺もやる。一緒にやろう」
まゆ「……一緒に」
まゆ「……」
まゆ「いえ、Pさんは休んでいてください。お仕事でお疲れでしょう?」
P「いや、寝てたし。まゆ夕飯作ってくれたし。ごちそうさま」
まゆ「お粗末さまです。あの、でも、最後までまゆにやらせて下さい」
まゆ「Pさんのお役に立ちたいんです。それがまゆの、幸せですから」
P「そうなのか。じゃあ俺は何してよう」
まゆ「うふふっ、ごろごろしていてもいいですよぉ。あ、先に食後のお茶を淹れちゃいますね」
まゆ「フルーツも用意しましょうか。りんごがありましたよねぇ」
まゆに剥いてもらったりんごをしゃくしゃく食べつつ色々と考える。
その一、テーブルに置かれているナイフ、まゆがりんごを剥くのに使ったものだが、うちの物ではない。
どこから持ってきたのだろうか。
持ち歩いていたのかもしれない。
職質されたときに困るからやめるよう言ってやらねばならない。
その二、りんごを剥くまゆの手に注目していて気づいた、左手薬指の指輪。
あれ俺が晶葉にあげたやつと全く同じものだ。
まゆも同じところで買ったのだろうか。
いやもしかして、晶葉のやつ嬉しいとか言ってたけど本当は全然いらなくて、まゆにあげちゃったとか。
悲しい気持ちになる。
その三、いつの間にかまゆが着替えていることに今さら気付いた。
事務所に来たときはリボンのふりふりな服だったのに、今はシンプルなTシャツにショートパンツというとても簡単な装いだ。
ご飯を作るために動きやすい服に着替えたのだろうか。
まゆが洗い物を終えて一息ついたら色々と聞いてみよう。
その四、部屋の隅に置かれている紙袋、あれ何。
俺が買っといた何かだっけ、何が入ってるんだっけ。
覗いてみよう。
大き目の紙袋を手に取り開いて中を見てみる。
布地の何かが入っている。
取り出してみると、リボンのふりふりな服だった。
あ、まゆの服だ、何だまゆの荷物か。
この服、なんだか黒っぽいシミで汚れてしまっている。
ああ、汚れたから着替えたのか、でもこの黒っぽいの何だろう。
……まあいいか。
さて、先ほどまでまゆが着ていた服を広げて観察していると思ったら、ほんのりといけないことをしている気持ちになってきた。
ばれないように戻さねば。
あれ、袋の底にゴミみたいなのが入ってる。
ティッシュの塊、赤黒いシミがこれにも着いている。
あらあら、まゆったら、ごみと服を一緒に入れちゃって。
捨てておいてやろうと手に取ると、何かを包んでいるのか、硬いような柔らかいような不思議な感触がした。
ゴミじゃないのかもしれないと思い、一応確認しておこうとティッシュを広げてみる。
青白くて、細長い、二本の、アスパラをしょうゆに漬けたみたいな……。
……あっ。
指だ、人間の。
驚いたあまり、ティッシュごと手から取り落としてしまう。
二本の指が床に転がった。
女性のようにしなやかな指と、子供のように小さな指。
P「……」
P「まゆちょっと来て!」
まゆ「はぁい、呼ばれると嬉しくてすぐ来ちゃうまゆですよぉ」
まゆ「……あら」
P「あの、紙袋が何だっけって思って、開けたら、服と、これ、指、何これ」
まゆ「……」
まゆ「お菓子です」
P「は?」
まゆ「ドッキリのために作ったんです。クッキーと、マシュマロを加工して」
P「いや、でも、これはちょっとリアルすぎるけど」
まゆ「お菓子です。食べますか?」
P「え、本当にお菓子? でも、色合いとか、断面とか、血の感じとか……」
まゆ「……食べてみますか?」
P「遠慮しておく」
まゆ「……ふふ、ですよね、まゆも嫌です、あんなもの」
P「……あれ? 待て、何かおかしい」
まゆ「……」
まゆ「Pさん、あの、それより、その服……」
まゆ「あ、でもPさんが欲しいって言うなら、差し上げますけど」
P「服? あ、これか、すまん返す、勝手に広げてみたりしてごめん」
まゆ「いいんですよぉ、Pさんなら」
シミの着いた服を返すと、まゆはそれを受け取り紙袋へと乱雑に放り込んだ。
続いて転がる指も回収し、ティッシュで包み直し紙袋へ。
何かがおかしい。
P「とりあえず、こういう怖いドッキリはやめてくれ、超びびった」
まゆ「ごめんなさい……」
P「うん、もうするなよ、ホントに泣くぞ俺、怖いと結構すぐ泣くぞ」
まゆ「泣いてるPさんも見てみたいかも……」
まゆ「あっ、嘘です、冗談ですからそんな嫌そうな顔しないでください、そんな顔されたらまゆが泣きそうです」
P「……とりあえず、もうやめてね」
P「あっ、あとまゆにいくつか聞きたいことがあるんだけど」
まゆ「はい、なんでしょう」
P「まずあのナイフ、持ち歩いてたのか?」
まゆ「……はい、果物を剥いたりするのに、使い慣れたものがいいと思って」
P「料理するのに、包丁はうちのを使ったんだろ?」
まゆ「はい。でも、りんごの皮向きとかは、その……手に合ったものが、よくて」
P「そうか。まあいいや、でも持ち歩くときはちゃんと注意しなきゃ駄目だぞ」
まゆ「はい」
微笑むまゆ。
よしよしと撫でてやってから、次の質問へ。
P「その指輪は? 買ったのか?」
まゆ「……」
P「晶葉にあげたやつと同じに見えるんだけど、晶葉から貰ったの?」
まゆ「……約束、してくれました。指きり」
P「ん?」
まゆ「Pさんをたぶらかして、本当に、いけない子。でも、安心してください」
まゆ「もうしないって、約束してくれましたから。指きり、約束の証、うふふ……」
P「たぶらかされてないって。それ、晶葉から無理やり取ったんじゃないよな?」
P「まゆも欲しいんなら買ってあげるから、とりあえずそれは晶葉に返すんだ」
まゆ「そうじゃない……そういうことじゃ、ないんです」
P「そうじゃないって? どうなの?」
まゆ「いいじゃないですか、そんなの。それより、せっかく二人きりなんですからぁ、もっと楽しいお話をしましょう」
P「まだ質問がある。鍵、結局どうやってあけたの?」
まゆ「……」
P「さっきは流したけどピッキングってそんな簡単なものじゃないだろうし、どうやって部屋に入ったんだ」
まゆ「……うふふ」
まゆがこちらの胸に手をつき、寄り添うように体重を預けてきた。
突然の負荷に抵抗できず、そのまま後ろに倒れこむ。
覆いかぶさるように上に乗られ、少々強引なことをしないと身動きが取れない状態。
ショートパンツのポケットに手をいれ、まゆが一本の鍵を取り出す。
うちの鍵だ。
まゆ「ちゃんと言いましたよぉ、鍵を使って入ったって」
P「いつの間に合鍵なんか」
……合鍵。
うちの鍵は、二本しかない。
合鍵は元の鍵が無ければ作れない。
二本とも俺が持っているのに、作れるわけが……。
まゆ「浮かれてる女の子がいたんです」
P「えっ?」
まゆ「花を貰って浮かれてる女の子が。一緒に、鍵も貰ったって」
P「……」
待てよ? 一本は俺が持っている。
でも、今日だけ、たしか、もう一本は。
まゆ「Pさんの家の合鍵だなんて、そんなの許せない……でも」
まゆ「この子もしっかり約束してくれましたよぉ、もう二度とPさんを誘惑しないって」
まゆ「指きり、約束、うふふ、意外に強情で、指だけじゃ……うふふ、でも、もう安心ですよぉ」
まゆ「Pさんを駄目にするいけない虫たちは、まゆが駆除してあげますから」
P「……電話に出ないのは、そういうことか」
合点がいった。
全て把握した。
家にいたまゆ、俺に何も告げずいなくなり、電話に出ない晶葉とさとみん。
黒いシミの着いた服、指輪、指きり、約束、ティッシュに包まれた指。
なるほど、わかった、なんてこった。
P「まゆ、お前」
まゆ「うふふ」
P「お前、晶葉の実験に協力してるだろ」
まゆ「……えっ?」
P「となるとさとみんも協力者か。おかしいと思ったんだよ」
まゆ「えっ? えっ?」
P「自分で気づいてるかもだけど、今日のまゆの言動は不自然だったから」
まゆ「……まゆには、なんのことだか」
P「まゆ、手繋ごうか」
まゆ「えっ?」
P「ほら早く」
戸惑いながら、まゆが手に手を重ねてくる。
指を絡め、小さなまゆの手をしっかり握る。
P「じゃあまゆ、『プロデューサーとまゆの100の約束』その27を言ってみろ」
まゆ「あっ……ええと、その」
P「どうした、忘れちゃったのか? その27はまゆが決めたやつなのに」
まゆ「……手を繋いでいる時は、素直な気持ちを正直に言う、嘘をついたりごまかしたりしない」
P「よし、じゃあ質問。晶葉の実験に、協力してるな?」
まゆ「……はい」
P「ターゲットが俺で、俺から何らかの反応データをとってくるよう晶葉に頼まれた、ってことで間違いないか?」
まゆ「……その、通りです」
まゆが突然脱力し、倒れる俺の胸に顔を埋める勢いで突っ伏した。
ああー、と変な声が漏れている。
まゆ「ごめんなさい晶葉ちゃん、まゆ、失敗してしまいました……」
P「まさか俺がターゲットにされるとは。アイドルからデータを取る実験じゃないのか」
さとみんの実験が終わったあと、次の対象者が決まった際の晶葉の思案、画面を見るのを嫌ったやり取り。
あれは俺の名が表示されていたからなのだろう。
即席で偽の、別の「反応データ」をでっちあげ、俺に対する最適な仕掛け人は誰かと考えていたに違いない。
やられた、ちくしょう、やられる側ってこんな気持ちなのか。
まゆ「あの、まゆ、どこが駄目だったでしょう」
P「なんか、色々と違和感があったけど、一番はあれだな、切り取った指」
まゆ「指、ですか? 本物そっくりに、作ったらしいんですけど」
P「まゆ、あれ俺に食べさせようとしたじゃん。あれがおかしい」
まゆ「おかしかったですか」
P「まゆの行動原理は全部、俺のため、というところにつながるはず」
P「なのに床に落ちたものを、しかも自分でも『あんなもの』とか言ってるやつを、俺に食べさせようとするなんて」
P「これはもう、何か目的があって俺の心を揺さぶりに来てるとしか思えない」
P「怖がらせるために色々と積み上げてる最中、みたいな」
まゆ「無理がありましたか。ですよねぇ……あーあぁ、失敗」
失敗してがっかりしてるまゆ可愛い。
とりあえず、抱きつくみたいな姿勢で乗っかっているまゆをどかさなければならない。
足の付け根辺りまで露出した格好で腰元に跨られていては、色々とまずいのである。
まゆ「……Pさん、全然怖がりませんでしたねぇ」
P「いや、怖かったぞ、指とか」
まゆ「晶葉ちゃんや里美ちゃんに何かあったと思わせる予定だったんです、三人で打ち合わせして、指輪と鍵もお借りして」
まゆ「なのにPさん、心配する素振りも見せませんでした。まるで、二人の無事を確信してるみたいな」
P「無事をっていうか、危険があるとはまるで思ってなかった」
まゆ「まゆなら二人に危害を加えかねない、とは思わなかったんですかぁ?」
P「あの二人に限らず、身近な人に何かあったら俺すごい悲しむよ、超泣くね」
P「まゆが本気で俺の悲しむようなことをするなんてあり得ないから、心配の必要はないというわけです」
まゆ「……」
P「はい、じゃあ、『プロデューサーとまゆの100の約束』その5を言ってみろ」
まゆ「……相対的ではなく、絶対的な魅力を磨く」
P「まゆは俺との約束を破らない、何があっても。だからまゆは人を傷つけたりしません」
まゆ「……いま、急に言いたくなったので言いますけど」
P「ん?」
まゆ「大好きです」
P「うん。ありがとう」
まゆ「はい」
まゆ「では、まゆの携帯から晶葉ちゃんに電話をしてあげてください。実験終了の合図です」
P「わかった」
起き上がり俺の上から退いて、まゆは携帯を取り出した。
手早く操作し、差し出される。
晶葉の番号が画面に表示されていたので、通話ボタンを押して呼び出し開始。
数コールの後、晶葉が電話に出る。
晶葉「まゆ! 何故電源を切っていた! 今どこだ!?」
P「まゆかと思ったろ、残念だがプロデューサーだ」
晶葉「P……。そうか、いま家か!? まゆもそこに!? すぐ逃げてくれ!」
P「いやもう怖がらせようと思っても無駄だ。全て看破した」
晶葉「いいから逃げろ! 話し合っている暇は無いんだ!」
P「だから、ばれてるって。俺がデータ収集対象だったんだろ。やられたよ全く……」
とその時、玄関のほうで何やら物音がした。
がちゃがちゃと、扉をいじくる音。
鍵がかかっているのを確認したらしく、続いてインターホンの高い音が響く。
P「誰か来た。それじゃ、実験失敗で残念だったな、明日たっぷり仕返しするから覚えとけ」
晶葉「待て! 出るな! さな――」
電源ボタンを押して通話終了。
さて来客は誰だろう、いきなりドアを開けようとしたが何だったのだろうか。
覗き穴から外を窺うと、そこには担当するアイドルの一人が立っていた。
多少の驚きとともに、鍵を開けてドアも開けて声を掛ける。
P「どうしたの早苗さん」
早苗「Pくん……里美ちゃんが……」
……あっ、もしかして仕掛け人の一人だろうか。
とうとう登場したと思ったら、ちょっと出遅れてますよ早苗さん。
P「その件ならもうバレバレなんで……って何で泣いてるんですか、役に入り込みすぎだよ」
早苗「……中に、まゆちゃん、いるんでしょ?」
P「えっ、うん、まあ、いるにはいるけどあの、違うぞ、全然いやらしいこととかはしてないですよ、健全です」
早苗「あがらせてもらうわよ」
言うが早いか、早苗さんが俺を押しのけて部屋に入る。
何故かまだばれてないつもりらしい。
まあ、まゆから失敗したと告げてもらえばいいだろう。
そのあと三人で甘いものとか食べに行こう。
早苗「まゆちゃん」
まゆ「あらぁ、早苗さん、どうしたんです?」
早苗「あんたが……よくも、里美ちゃんを」
まゆ「えっ? あっ、どうして泣いて……」
早苗「可哀想な里美ちゃん。こんなことになるなら、もっと早く手を打っておけば」
まゆ「え? あの、Pさん、これは……?」
P「ん? 仕掛け人の一人じゃないのか? ドッキリ大失敗と教えてやれ」
まゆ「いえ、実験は、私たち三人だけで……」
P「えっ、じゃあこのひと何しに来たの?」
早苗「まゆちゃん、あんた、よくもこんな事しでかしてくれたわね」
何だか、並々ならぬ雰囲気になってきた。
早苗さんは本気で泣いているようだし、本気で怒っているようにも見える。
もしかして、さとみんがまゆに酷い事をされたという情報をどこからか聞きつけて、ということか?
P「あの、早苗さん? どこから聞いたか知らないけどまゆがさとみんを――」
早苗「Pくんは黙ってて!」
怒鳴り声に驚く間もなく、凄い力で突き飛ばされた。
壁に背中を打ち、変な声が漏れる。
まゆが悲鳴を上げて立ち上がり、こちらにかけて来ようとする。
が、早苗さんに腕を掴まれ阻まれていた。
まゆは怒りと嫌悪の篭った目で睨みつけるが、しかし早苗さんは意に介した様子も無い。
そのまままゆの腕を引っ張り、床に倒す。
これは、まずいかもしれん。
止めに入ろうと、打ちつけた背中をいたたと押さえながら立ち上がる。
しかし、一歩を踏み出すより早く、一言を発するより早く、早苗さんはテーブルの上に置かれていたナイフを手に取り――。
早苗「あんたみたいなキチガイ、最初からこうしておけば良かった」
まゆの胸に思い切り、深々と根元まで突き刺した。
……えっ?
まゆが苦痛に顔をゆがめ、声にならないうめき声を漏らす。
ナイフを握る手をどかそうと必死に早苗さんの腕を掴み、身体をよじり、一度大きく咳き込んだかと思うと、そのまま脱力して動かなくなった。
P「……まゆ? 早苗さん、えっ、なに? まゆ? 早苗さんそれ、えっ?」
早苗「もっと早く、こうしておけば……あはは、誰も、里美ちゃんだって、傷つかずに……」
まゆの胸からナイフを抜き取り、早苗さんがよろよろと立ち上がる。
恐れを含んだ顔でまゆから離れるように後ずさり、壁に背をついて座り込んだ。
対照的に俺はまゆに素早く近寄り、頬に手を沿え、口元に耳を近づけてみる。
……息をしていない。
まゆが。
まゆが死んでしまった。
P「まゆ……」
胸を一突き、助かるはずも無い。
受け入れられない、こんな現実は受け入れたくない。
しかし、どうにも、受け入れるしかないようだった。
今まさに生命を散らしたまゆに対し俺がしてやれることなんて、一つしかない。
混乱する頭が、なぜかその一つだけを思い浮かべた。
心臓が止まってからも何十秒かは、脳に残った酸素の分だけ感覚が消えずにいるという都市伝説。
数秒しかないのであれば、せめてもの事を果たすべく、受け入れて行動に移すしかない。
触れているのが分かるかもしれないと思い手をとって、聞こえているかもしれないと思い言葉を紡ぐ。
P「まゆ、まゆ大好きだよ。俺もまゆが一番大好きだ」
おそらくまゆが、最も喜ぶのではないかと思われる言葉。
最後にこんな事を言うのが良いのか悪いのか今の頭では判断がつかないが、それでも言ってやりたかった。
まゆの胸に顔を埋め、名を呼び続ける。
まゆ、まゆ。
ちくしょう、なんでこんな……。
まゆ。
胸から溢れた赤いものが口の中に入ってきたが、構わず名を呼ぶ。
まゆ、まゆ。
どうして、まゆが。
ちくしょう……。
……。
……。
ちくしょう、ケチャップだこれ。
あっ、心臓も動いてるよこれ!
P「……騙しやがったな」
まゆ「……ごめんなさい」
頭を抱くように、まゆの腕が後頭部に回された。
まゆ、本当に死んでしまったかと思った。
まゆ生きてて良かった、騙されたけど本当に良かった!
P「良かった、まゆが生きてて良かった……」
まゆ「……早苗さん、撮れましたか?」
早苗「バッチリだよー」
急に和んだ空気に顔を上げ、振り返る。
いつの間にか早苗さんが、携帯のカメラをこちらに向けて構えていた。
早苗さんが携帯をちょちょいと操作し、こちらに画面を見せる。
動画が流れていた。
『まゆ、まゆ大好きだよ。俺もまゆが一番大好きだ』
P「……」
まゆ「言い値で買います」
早苗「いいよ、あげるよ。あとで送っておくから。……ええと、Pくん、ごめんね? あ、これ、刃が引っ込むナイフね」
まゆ「根元だけ本物なんです、りんごの皮を剥けるように。ごめんなさいPさん」
P「許さない」
まゆ「怒って、ますよね」
P「今は怒ってない。まゆが生きてて安心してる。でもあとで凄い怒る」
まゆ「ごめんなさい。まゆは動画欲しさにPさんが悲しむことも平気でしちゃう悪い子なんです……」
P「悪い子は嫌いだ」
まゆ「……っ! ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません……。許してください……」
P「……反省してるか?」
まゆ「して、ます」
P「そうか。じゃあ、まゆが生きてることを実感したいからこっちおいで」
まゆ「はい」
寄ってきたまゆを抱きとめ、これでもかとばかりに頭を撫でる。
頬を寄せ、吐息を感じ、実感する。
P「まゆ生きてる。良かった」
まゆ「ごめんなさい」
P「いいよ。甘いものでも食べに行って笑い話にしよう」
早苗「あっ! あたしも! 食べたいなー」
P「早苗さんは駄目」
早苗「なんでよ」
P「まゆをキチガイ呼ばわりしたから駄目」
早苗「……それは、まあ、ごめん」
まゆ「Pさん、これ、全部まゆが書いたシナリオなんです」
まゆ「早苗さんは台本に忠実にやって下さっただけなので、怒らないであげてください」
P「……早苗さんも反省してるか?」
早苗「してる、やりすぎた、ごめん」
P「じゃあ早苗さんも連れて行ってやる」
ホントにごめんね、と繰り返す早苗さん。
腕の中で小さくなっているまゆ。
ふと一つ吐息をついてから、まゆが顔を上げた。
どうしたと問うように見つめてみると、まゆは照れくさそうに、おずおずと口を開いた。
まゆ「あの、動画は持っていても、いいですか……?」
P「おはよう」
晶葉「おはよう助手……もしかして怒っているか?」
P「怒ってる、と言いたいところだが、データ取られる側の気持ちがわかったので何とも言えない」
晶葉「……やりすぎだった、かな」
P「シナリオはまゆなんだろ。まゆには十分怒っておいたから、もういいよ」
晶葉「すまなかった」
P「ああ、まゆからこれ、指輪。貸してくれてありがとうってさ」
晶葉「そうか。大事な指輪だからな」
P「で、色々聞かせて欲しいんだが」
晶葉「何でも聞いてくれたまえ」
P「今回コンピューターが出した収集するべき本当の反応は?」
晶葉「『大切な人に危機が迫ったときの反応』、対象はお分かりの通り、Pだ」
P「俺アイドルじゃないのに……。まゆを起用したのはなんで?」
晶葉「集中力と演技力のある人間が必要だったからな。心の声を聞かれても計画がばれないように、『Pさん大好き』で心を埋められるまゆが適役だった」
P「そんなの装置を外させとけばよかっただろ」
晶葉「急に外させたのでは助手に警戒されると思ってだな。まゆは心の中まで演技が完璧だっただろ」
P「全然気づかなかった。あっ、途中で怖い夢見た気がするんだけど、あれも晶葉の仕業か」
晶葉「ああ、眠りが浅くなる頃を見計らって、軽く印象付けをだな。あってもなくても良かったんだが、まあダメ押しみたいなものだ」
P「印象に残っているような、残っていないような」
晶葉「失敗だったか。ああそうだ、最初は助手が夢に見たことのような、私に危機が迫るシナリオを用意していたんだ」
P「そうなのか」
晶葉「しかしまゆが大切な人役は絶対自分がやりたいと言うもので、結局ああいう筋書きになった」
P「ほほう、大切な人役を自分でやるつもりだったのか」
晶葉「ん? そうだが?」
P「そうか、自分が俺の大切な人だという自信があるのか、ほほう」
晶葉「……何だ、それは、大切じゃないって、ことか」
P「いや、超大切。しょんぼりするな、大切だよ、凄く」
晶葉「……」
P「ほんとに、マジで」
晶葉「そうか」
P「そうだとも」
晶葉「ならいい。では次と参ろうか」
P「懲りはしないのね」
晶葉「次にコンピューターが欲する反応は『執拗なセクハラを受けたときの反応』だそうだ」
P「やるまでもないだろ。嫌がられて、俺がクビになって、終わりだ」
晶葉「いや、この会社はきみを失うわけにはいかないから大丈夫だ」
P「マジか。で、俺は誰にセクハラすればいいの、データのために仕方なく、仕方なくやるよ俺は」
晶葉「これを採取するのに最も適したアイドルは……適した人物は、『千川ちひろ』だ」
P「だから、アイドルじゃないじゃん」
http://i.imgur.com/2ndLBmh.jpg
千川ちひろ(年齢不詳の事務員。守銭奴のヒールだなどと言われているが、案外お茶目ないい人なのではという説も支持したい)
まゆを二ヶ月も書いてましたすみません。落ちてるんじゃないかと思ったら、残ってて良かった。
なれない事はするものではありませんね、次からはまた馬鹿みたいな話にします。ではまた書けたら投下しに参ります。
例のイヤホンを受け取り、晶葉の研究部屋から事務室に戻る。
音を立てないようにそっと扉を開け、入室、やはり音を立てないように閉める。
ターゲットである事務員ちひろさんは、ソファーに座って何かの資料をぺらぺらとめくっていた。
テーブルの上には湯気を立てる湯飲みが置かれていて、なにやらまったりお仕事に取り組んでいる様子。
いたずら心に多少わくわくしながら傍らまでこっそり近づき、声を掛ける。
P「おはようございます」
ちひろ「わっ! びっくりした! もう、忍び寄るのやめてって言ってるじゃないですか」
P「普通に挨拶したのに」
ちひろ「そうですね、先週は後ろでいきなりクラッカー鳴らされましたからね。その点は進歩したと言えます」
P「ちひろさんを驚かすのが生きがいだから。あれあれ、俺はちゃんと朝の挨拶したのに、ちひろさんからの挨拶が聞こえないぞ」
ちひろ「……おはようございます」
ちひろさんが頬をぷくっと膨らませて可愛い顔をしていたので、わき腹をつついて空気を吐き出させておいた。
きゃあきゃあ言いながら身体を捩って逃げようとする姿が嗜虐心をそそる。
さてしかし、苛めている場合ではないのである。
セクハラとは具体的に、どういうことをすればいいのだろうか。
真面目に普通に生きてきたので、そういうことにはとても疎いわけで。
反撃しようとしたのかなんなのか、こちらのわき腹をくすぐろうとちひろさんが手を伸ばしてきたので、がっと掴む。
華奢な体躯ごとがっちり掴まえて逆にくすぐり回してやることで返り討ちとし、さらに考える。
セクハラ、セクシャルハラスメント、性的いやがらせ。
ふむ、何かちょっと見えてきた気がする。
ちひろ「あははははっ、やめてやめて、降参、降参ですっ! あはっ、ちょっと、降参っ」
P「じゃあ解放」
さてじゃあまずはどうするか。
昨日のまゆの一件でデータを取られる側の気持ちがわかったので、あまりやりすぎないよう心がけるつもりだ。
軽くいこう、軽く。
くすぐられて嬉しそうに呼吸を荒げているちひろさんを解放し、テーブルを挟んで対面のソファーに腰を下ろす。
ちひろ(ちょっと楽しかった……言うともっとやられちゃうから言わないけど)
P(もっとやりたい)
もっとやりたかったがぐっと堪え、さっさとデータ収集をこなすとする。
では軽く、様子見のジャブ程度に。
P「ちひろさん」
ちひろ「はぁ、はぁ……な、何ですかもう。あ、そうだ遊んでる場合じゃないですよ、スタミナドリンクとエナジードリンクが10本セットに――」
P「セックスさせてください」
ちひろ「……ふん?」
変な声が漏れている。
思考は停止している模様。
漫画なら頭上に疑問符が浮かべられているような表情でぽかんとしている。
言われた言葉を確かめるため繰り返そうとしたのか口を開き、最初の一文字を発した瞬間に理解したようだ。
こちらを見つめたまま、顔がほんのり赤くなる。
ちひろ「なに言ってるんですか」
P「いや、ちひろさんとセックスしたいなと思って」
ちひろ「駄目ですよ、やめましょうよそういう冗談、ここには小さい子だって来るんだから」
P「今は俺とちひろさんしかいない。って言うか冗談ではない」
ちひろ「……」
P「……」
俯いてしまった。
凄い、恥ずかしがってる、貴重だ。
もしかして純粋乙女だったりするんだろうか。
二十台も半ばだしさすがに経験無しとかではないだろけど、いや、でもこの反応はあり得ないでもないぞこれ。
赤くなったちひろさんの思考が、イヤホンを通して聞こえてくる。
ちひろ(なにこれ、どういうことこれ)
ちひろ(プロデューサーさんもこういうこと言うんだ、ちょっと意外)
ちひろ(いつもの悪戯かな。多分そうだ、私が恥ずかしがってるの見て楽しんでるんだ)
ちひろ(それにしてもいきなりセックスとか……わっ、わっ、想像しちゃった、だめだめだめ)
ちひろ(あー、自己嫌悪、何なのもう……)
見た目に変化はないが、頭の中では凄いことになっているようだ。
どんな想像したんだろう、声が聞こえるだけで映像が送られてこないのが悔やまれる。
どうのこうのすれば見えたりとかそういう機能が無いものかと試行錯誤していると、唐突にちひろさんが立ち上がった。
読んでいた資料をソファーに置き、火照った顔で呟くように言う。
ちひろ「お茶淹れてきます。あっ、コーヒーのほうがいいですか?」
P「お茶で」
返答にはいと一つ頷き、ちひろさんが給湯室に消える。
はぐらかされたという事なのだろうか。
とりあえずメモを取っておこう。
なんて書くか、ええと、エロい想像をする、とこれでいいか。
ちひろ(びっくりした、けど、悪戯だよね。ほんと意地悪な人)
ちひろ(アイドルの子達にはすごい優しいのに、私にだけ意地悪するんだもん、困ったもので)
ちひろ(……私だけ、特別とか。いや、いやいや、ないないない、何考えてるんだろ、馬鹿みたい、あり得ない)
ちひろ(あり得たとしても困るし、会社の同僚ってだけで、別に、まあちょっと素敵かなと思ったことも無いでもないけど)
ちひろ(ライブの後とかアイドルの子達と一緒になって飛び跳ねて喜んでるところとかは可愛いと思ったりしたけど、でも)
ちひろ(男性として意識したこととかは、まあ、って言うか私が女性として見られてないし、多分)
ちひろ(あれだけ可愛い子達に囲まれてるのに、私なんて、ねえ、いや私もラブレターとか貰ったことあるけど、そういうことじゃなくて)
ちひろ(なんなのこれ、もう本当に……)
ちひろ(……)
ちひろ(お茶こぼれてた)
お茶をこぼした様子。
そして思考がすごい事になっている。
普通に可愛いと思うけどなちひろさん、茶目っ気があって、気が利いて。
ちひろ(だめだ、もうよそう、考えるのをやめよう)
ちひろ(はいやめ、やめやめ。お茶持っていって、適当にツッコミとかいれて、それであとはいつも通り)
ちひろ(ろくな抵抗とかしないからいつも意地悪されるんだ多分。強気にいかなきゃ、強気に)
ちひろ(やり返したりしよう、仕返ししよう仕返し)
そうしてお茶をこぼしたことなど無かったかのように戻ってきたちひろさん。
顔の赤みは既に引いている。
仕返しするつもりらしいから、警戒していなくては。
あの熱々のお茶を、頭からかけられたりとかするかもしれん。
いや、叩きつけられたりとか、血が出るのも覚悟しておこう。
メモ、仕返しされる。
さあ迎撃準備万端だ! おら! かかってこい!
ちひろ「はい、お待たせしました」
P「ありがとう」
ちひろ「あっ、百円になりまーす」
P「金取るのか」
ちひろ「あはは、冗談ですよーだ。変なこと言うから、仕返しです」
……仕返しが、些細過ぎる。
仕返しっていうのは、もっとこう、ねえ、悪戯を後悔するレベルでやってあげなくてはですよ。
あっ、でも悪戯も仕返しも愛がなくちゃだめだぞ、愛がないとただの犯罪者だ。
淹れてもらったお茶をすすって一息つき、湯飲みを置いて口を開く。
P「駄目ってことでしょうか」
ちひろ「はい? だめって?」
P「だから、セックスはさせてもらえないと」
ちひろ「……もう、やめましょうよ、ほんとに困ってしまいますよ私」
ちひろ(あっ、強気にいかなきゃ)
ちひろ「訴えますからね、なーんて」
P「ああ、そう」
言葉を受け、ぱたりとソファーに倒れてみる。
手足を投げ出しだらだらして見せ、がっかりしたという感情を大々的に演出してから大きな声を出す。
P「あーあ。あーあーあー! ちひろさんとセックスしてぇなあー!」
ちひろ「ちょっ……!」
P「駄目?」
ちひろ「だめですってば」
P「じゃあ諦めます。ので代わりに胸を揉ませていただいても?」
ちひろ「いただいても? じゃないですよ、何ですか胸って」
P「おっぱいを揉ませていただいても?」
ちひろ「いや言い方じゃないです」
ちひろ(強気に、強気に)
ちひろ「あっ、でも一分で一万円ならいいですよ、とか言ってみたりして」
ふふん、と悪戯っ子のような表情で言うちひろさん。
勝ったような顔をしているので、負けるものかと財布を取り出し中から一万円札を三枚抜き取る。
扇状に広げ、テーブルに置く。
P「じゃあ三分で」
ちひろ「……」
固まってしまった。
心なしかしょんぼりしているようにも見える。
しまったかもしれない、お金を出すのは流石にやりすぎだったかもしれない。
ちひろ(……新しいMP3プレーヤーが欲しかったしあとランチを豪華に、じゃなくて、だめだめ、そうじゃないでしょ私)
ちひろ(本気、じゃないよね。それともほんとに? ほんとにそういう事したいって思ってるのかな)
ちひろ(それなら普通に口説いてくださいよって感じだ。そしたら、まあ、嬉しい、とか、思うかもだし)
ちひろ(……本気でこのお金出したんだとしたら、悲しい。ちょっとがっかり)
ちひろ(お金払えばえっち出来るような女だと思われてるってことだもんね。プロデューサーさん、そんなふうに考える人じゃないとは、思うけど)
ちひろ(もしかして、馬鹿にされてるのかな、私。社員としては私のほうが少し先輩だけど、プロデューサーさんに比べたら会社への貢献度とか低いし)
ちひろ(アイドルの子達と仲良くなれるように私のことも構ってくれてるんだと思ってたけど、違うのかも、普通にイジメられてたのかも)
ちひろ(なんか凄い悲しくなってきた)
P「あの、ごめん、悪かったから、ちょっとずつ涙ぐむのは、あの、罪悪感が、アレですので」
ちひろ「……涙ぐんでないです」
P「うん、そうだ、涙ぐんでない、ないけどほら、これ、ハンカチ」
P「ちゃんと洗ってあってきれいだから是非使って、目元に当てて柔軟剤の素晴らしさを実感してみて下さい」
あわあわしながら立ち上がり、ハンカチを手にテーブルを迂回。
手渡されたハンカチで顔を隠し下を向いてしまったちひろさんの隣に腰掛け、どうしようか迷った挙句、肩を抱いて引き寄せてみた。
鼻をすする音が聞こえたので、とりあえず頭を撫でてみる。
P「あの、ごめんなさい、いや本当に」
ちひろ「……実際に、お金出すのは、やりすぎです」
P「だと思ったんですよ俺も。でもなんか、負けられないって思って、なんか、手が勝手に……」
ちひろ「ちょっと、ショックでした。お金で、からだ売るような、人だと、思われてるのかもって」
P「思ってない、全然思ってないです。あり得ないです」
ちひろ「そりゃあ、いつもお金のことばっかり、言ってるかもだし、でも、事務の仕事だし」
P「うんうん。お仕事ですものね」
ちひろ「一分一万円、とか、言った私も悪かったですけど」
P「悪くない、大丈夫、全然悪くない」
ちひろ「何か、今日のプロデューサーさん、いつもより意地悪です」
P「ごめんなさい、俺はどうしようもない意地悪クソ野郎ですごめんなさい」
ちひろ「なんで、今日は、えっちな事ばっかり、言うんですか」
P「……」
どうするかこれ。
実験ですとか言える空気ではないっぽい。
ごまかすか、そうしよう、ごまかすのが最善に決まってる。
P「反応が可愛いから、つい」
ちひろ「……なにそれ」
P「ごめんなさい。やりすぎました反省してます」
ちひろ「しかも急に優しくするし」
P「反省の証です」
ちひろ「こんなふうに抱きしめたりして、勘違いされるとか思わないんですか」
P「勘違いと言いますと」
ちひろ「……私のこと、好きなのかもとか」
P「いや、そこは、好きに決まっているでしょうに」
俺という人間は、嫌いな奴とは目も合わせないし言葉も交わさないというタイプの協調性皆無野郎なのである。
撫でたり慰めたりしている時点でかなり好意的に思っているということを読み取って欲しい。
というか、こんなに愛らしい事務員さんを嫌う人間なんていないでしょうに。
金の亡者で鬼や悪魔をぶん殴ってへらへら笑うレベルの性悪とかならまだしも。
アイドル達にも慕われているのに、もしかして気づいていなかったりするのだろうか。
ちひろ(……好きなんだ)
P「さて、俺の大好きな優しいちひろさんは、そろそろ許してくれる頃合いなんじゃないかと思うのですが」
ちひろ「どうしようかな」
P「じゃあお昼おごるから許して」
ちひろ「お金で解決ですか」
P「じゃあ夕飯もおごるから許して。今日は頑張って早く終わらせて飲みに行こう」
ちひろ「酔わせていやらしいことする気ですね」
P「しない、絶対しない、神に誓って。両親の名誉にかけてもいい」
ちひろ「……もうよく分かんない」
P「ん?」
ちひろ「お店、私が決めてもいいなら奢られてあげます」
P「お手柔らかに」
ちひろ「だめです、手加減無しです」
P「致し方ない」
ちひろ「……あの、お化粧直しに行きたいんで、その、離してもらえると」
P「泣き止んでますか?」
ちひろ「もともと泣いてないです」
P「そうですね」
最後に強くぎゅっとしてやわらかさと温かみを堪能し、二回ほど撫でてからやっと解放する。
顔は上げずにハンカチで隠したままゆるゆる離れていくので、どんな表情をしているのかは確認できなかった。
ちひろ(プロデューサーさん、そっか、好きなんだ。なんか、さらっと言われちゃった)
ちひろ(返事、どうしたらいいだろ。何か、タイミングが……っていうか、私はどう思ってるんでしょう)
ちひろ(プロデューサーさんの近くにいると安心するっていうのは、事実なんだよなぁ。ハグされるの気持ちよかったし)
ちひろ(……今日一日、考えさせてもらおう。夜のご飯のときに返事すれば、いいよね)
ちひろ(お仕事頑張って、早く終わらせられるようにしよう)
P(……)
ええと、メモ、仕事に対して意欲的になる。
……このメモ合ってるか? 何か違うような気がするんだが。
何を間違えているのか考えていると、トイレに向かっていたちひろさんが振り返り、そういえば、と口を開いた。
ハンカチから目元だけ覗かせ、涙の余韻を残した鼻声で続けて言う。
ちひろ「スタミナドリンクとエナジードリンクが10本セットに5本おまけが付いてくるらしいんですけど」
P「いやらしい話をした後にスタミナドリンクって言われると、変な想像をしてしまう」
ちひろ「……ばか」
P「冗談、ごめん」
ちひろ「それで、どうします?」
P「50セットずつ発注しといて下さい。今日もたくさん飲む予定なんで」
ちひろ「……やっぱりいやらしいこと考えてる」
P「どえらい誤解だ」
P「見ろ、スタドリとエナドリ貰った」
晶葉「おお、よかったではないか」
P「『終業まで頑張りましょう』だって、事務員可愛いなぁおい、これもデータ収集の特典なのか。晶葉ありがとう、どっち飲みたい?」
晶葉「いや、いらんよ。それまずいんだもん」
P「そうか? 病み付きになる味だと思うけど。疲労がポンと飛ぶし」
晶葉「危ない言い方をするんじゃない。というかセクハラがどう作用すればスタドリとエナドリになるんだ」
P「よくわからん。けどなんか最終的にはなんか機嫌良かったよ」
晶葉「……ちひろっちはもしかして、言いにくいんだが、その、特殊なアレの人なのか?」
P「微妙なところだ。でも毎日悪戯してても笑顔だし、意地悪した直後でも優しいな、そういえば」
晶葉「そうなのか」
P「……」
晶葉「……」
P「ちひろっちって」
晶葉「何だ、いいではないか、結構仲が良いんだぞ私達は。さてさて次に移ろうか」
P「軽めのをお願いしますコンピューター様」
晶葉「コンピューター様によると次に採るべき反応は、えーと、『ただただ見つめられたときの反応』!」
P「らくらくじゃないか。見てればいいんだろ、見るだけ、らくらく」
晶葉「これを採るのに最適なアイドルは……『片桐早苗』だ!」
http://i.imgur.com/uUK5V63.jpg
片桐早苗(28歳。はっちゃっけっぷりが素敵なお姉さん。トランジスタグラマーとかいう謎の才能の持ち主)
P「その人、俺がデータ収集してるの知ってるだろ」
晶葉「知っているな」
P「心の声の件も知ってるのか?」
晶葉「知っているはずだ」
P「どうすんだよ」
晶葉「知っているからこそ取れる反応もあるはずだ。どうにかこうにか、なんやかややってうやむやとこう、いい感じに」
P「アドバイス下手!」
そういうわけで事務員でした。何だかいい人過ぎたような気もするけど、まあ、大丈夫、多分。
さて前回で早苗さんの印象が何だかなという感じになってしまったので、次は急遽早苗さん救済回です。
ではまた書けたら投下しに来ますです。
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