京太郎「……ワグナリア?」(249)


※NOTクロス
※咲キャラによるWORKING!!
※長野勢中心
※年齢、苗字、血縁関係などの改変あり


【すべてのはじまり】


和「――トラン『ワグナリア』、アルバイト絶賛募集中でーす」

和「あ、どうですかそこの方……そうですか、すいません……」

京太郎(あの人、さっきからずっと一人でああしてるな)ボー

和「笑顔の絶えない楽しい職場です、どうか……」

和「あっ、どうですかアルバイト、始めてみませんか?」

京太郎(この寒い中よくやるなぁ)ボー

和「……うう。全然ダメです。世知辛い世の中です」シクシク

京太郎(それにしても……)ジー

和(いいえ、諦めてはいけません和! こんなことでへこたれたりしません!)

和「もう一頑張りです!」ユサッ



京太郎(いいものをおもちでいらっしゃる)ジー

和「!?」ゾクッ


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1369151888


【名推理】


京太郎(よく見たらあの人、コートの下に制服着てるな)

京太郎(ということは……? よし、話しかけてみよう)

京太郎「すいませーん」

和「! アルバイト希望の方ですか!?」ガバッ

京太郎「あ、いえ、そういうわけじゃあ」

和「違うんですか……」ガーン

京太郎「そんなに落ち込まなくても……ところで一つお聞きしたいんですけど」

和「え? あ、はい、なんでしょう?」



京太郎「ワグナリアってコスプレキャバクラかなにかなんですか?」ジー

和「どこに注視しながらの発言ですかそれは」


【痛恨】


和「はい、これ」つ学生証

京太郎「ええっ!? マジもんの高校生!?」ガーン

京太郎(つーかウチの高校の先輩だこの人!)ガガーン

和(なんだか変な人につかまってしまいましたね……はぁ)

和(……いえ、しかし)ハッ

和(この勧誘を始めて以来、向こうから話しかけてきてくれたのはこの人が最初です)

和(もしかしたら、最初で最後になるかもしれない)

和(多少変な人でも、なんとか逃がさずに確保したいところ……!)グッ

和「あ、あの!」

京太郎「ちくしょうっ! なんてこった!!」ドンッ

和「」ビクッ



京太郎「こんなでかいおもちが校内に存在することに、今の今まで気が付かなかったなんて……痛恨の極みだッ!!!」ガンガンガン

和(どうしよう逃げたい)


【志望動機】


和(……めげるんじゃありません、和! まずはどうにかお店まで引っ張って……!)

和「こほん。あの、須賀くんでしたっけ?」

京太郎「はい、なんでしょうおっ……先輩」

和(『おっ』?)

和「……ファミリーレストラン『ワグナリア』で、よかったら働いてみませんか?」

京太郎「わかりました働きます」

和「まずは一度、店舗の方に見学に来てもらうだけでも…………え?」

京太郎「働きます」

和「!? ちょ、もうちょっとよく考えてからの方が」オロオロ

京太郎「いいえ、みなまで聞かずとも働かせていただきますよ!」キラキラ

和(こ、こんな簡単に話が進んでいいものなのでしょうか……?)オロオロ



京太郎「どうぞよろしくお願いします、おっぱ……じゃなかった先輩!!」キラキラ

和「ちょっとよく考えさせてください」


【というわけで】


京太郎「本日からこちらでお世話になります、須賀京太郎16歳です!」ペコ

透華「店長の龍門渕透華ですわ。残りのメンバーは和に紹介してもらいなさいな」

和「ちょうどお客様の少ない時間帯ですから、都合がいいですね」

和「今いるのは二の四の五の……私と店長を除いて四人。手早く済ませてしまいましょう」

和「わからないことがあったらなんでも聞いてくださいね?」

京太郎「はい、よろしくお願いします!」ニコニコ



透華「……ちょっと、和」ヒソヒソ

和「……はい、なんでしょう?」ヒソヒソ

透華「結局のところ、どういうわけでアレを勧誘するに至ったんですの?」

京太郎「~~♪」ニコニコ

透華「途中経過を聞いても何一つ納得できる点がないのですが」

和「……消去法です」シクシク

透華「……」


【一目瞭然】


和「まあ、その、悪い人ではないと思うので」

透華「まあ、なんて説得力のないフォロー」

京太郎「ほらほら、早く行きましょうよおっ……先輩!」

和「……」

透華「ほら、なんて説得力のない言動」

和(返す言葉がありません)

透華「須賀くん、お客様の前で品のない発言は慎んでくださいまし」

京太郎「……」ジー

透華「言動如何によっては即時解雇も視野に入れて……ちょっとあなた、聞いてますの?」

京太郎「あっ、すいません。なんか無意識の内に比較してしまって」

透華「比較? なにをですの?」キョトン

京太郎「あはは、そんなの決まってるじゃないですか」

京太郎「先輩と店長のおも」


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/ ̄(_ヽ ノ::、_  | ||ヽ___,,,、-'''''´ ̄
ヽ_  ̄;;;;;ノ`   
/   ヽ::::ヽ      ,   ヽ、し',.

ヽ__,,,,:;;;;ノ      ;l     ) (_
/`´  ::、:::::ヽ   ̄ヽ; i    ノ ( ̄ヽ 
l、__;ノ;;;;;_ノ   /___

 i'    ; :) _,, 〃=iヽ<.i   '''''―-
 ヽ―==ニ-'''_ // ノ


透華「『悪い人じゃない』でしたっけ?」ギロッ

和「返す言葉もございません」ペコッ

京太郎「申し訳ございません」ボロッ


【生まれつき】


京太郎「以後気を付けます」ペコペコ

透華「当たり前ですわ、まったく」プンプン

透華「それじゃあ仕事のやり方まで含めて、なにかあったら和に聞くように」

京太郎「はい」

透華「……ああそうでしたわ、この場ではっきりと言っておきますけれど」

京太郎「はあ」

透華「私からあなたにご教授できることなど、なに一つありませんから。そのつもりでいるように」

京太郎「はあ……(さすがに怒らせちまったみたいだな……)」



透華「なにせ私、仕事できませんもの」

京太郎「えっ」

透華「なにせ私、筋金入りのお嬢様気質ですもの」

京太郎「えっ!?」


【エース兼四番兼ヘッドコーチ】


和「こちらがキッチンスタッフの萩原さん」

京太郎「須賀京太郎です、今日からよろしくお願いします!」ペコ

ハギヨシ「お目にかかれて光栄ですよ。以後よろしく」ニコ

和「ここのアルバイトが長い人は大抵、ハギヨシさんと呼んでいます」

京太郎(なんかすっげえ仕事できそうな人だなー)

和「ハギヨシさんはウチのエースなんですよ」

和「どんなに忙しい時間帯でも、不足なくキッチンを回せるのはこの方のおかげです」

ハギヨシ「これはこれは、汗顔の至りにございますね」ニコ

京太郎「へえ(やっぱりなぁ)」

和「フロアの人手が足りない時に手伝ってもらうこともありますし」

京太郎「へえ……」

和「店長がいらっしゃらない時の代理責任者でもあります。クレーム対応とか」

京太郎「……」

和「ぶっちゃけ『ハギヨシさんさえいればウチの店舗は回る』と内外でもっぱらの評判です」

京太郎「あの、先輩」

和「はい?」



京太郎「……俺を雇う必要がどこにあったんでしょうか」

和「……さあ?」

ハギヨシ「……」ニコニコ


【笑顔の絶えない職場】


美穂子「その子が新しく入ったアルバイトですか?」

京太郎(あれは……おもち!?)ピク

和「ああ、紹介しますね須賀くん」

和「ハギヨシさんと同じく、キッチンスタッフの福路美穂子さんです」

美穂子「どうも」ニコ

京太郎「どうぞよろしくお願いします!」キラキラ

和「福路さん、こちらは……」

美穂子「和さんと同じ高校の後輩の、須賀京太郎くんよね? 楽しくやっていきましょう」ニコ

京太郎「いえ、こちらこそ!」キラキラ

美穂子「うふふ」ニコ

京太郎(この人もいい人っぽいなぁ)ニコ

和(須賀くん、早速溶け込めたみたいで一安心ですね)ニコ



京太郎(……あれ? 先輩と同じ高校だってこと、誰かに喋ったっけ?)ハテ

美穂子「うふふふふ」ニコニコ


【絡みつく謎】


京&和「「ありがとうございましたー」」ペコ

和「レジの方はだいたいわかりましたか?」

京太郎「はい、バッチリです」

和「それじゃあ次は……あっ、チーフ」

一「んん? その子がとーかの言ってた、新しいアルバイトさんかな?」

和「はい、そうです。須賀くん、ご挨拶を」

京太郎「須賀京太郎って言います。以後、よろしくお願いします!」ペコ

一「ボクは国広一。一応フロアスタッフのチーフやらせてもらってるんだ」

一「はじめまして須賀くん、これから一緒にがんばってこうね!」ニコ

京太郎「はい!」

京太郎(ホントにいい人ばっかりだなぁ、この職場……)ジーン

京太郎(この国広ってチーフさんも、元気が良くて人当たりグッドだし)

京太郎(まあ、おもちが皆無な点だけは玉に瑕だけどな)キリッ



一「わからないことがあったらなんでも聞いてねー」ジャラ

京太郎「はい………………ってええっ!?」ビクッ


【解(ほど)けない謎】


ピンポーン


一「おっと、8卓様がお呼びだ。じゃあボクは行くけど、研修がんばってねー!」


ジャラジャラ


京太郎「……」

和「今の時間、フロア担当はもう一人いるんですけど……忙しそうですから後にしましょう」

京太郎「……」

和「それじゃあ次は裏スペースでの仕事のやり方を……須賀くん?」

京太郎「すいません、今チーフに聞きそびれたんですけど」

和「まあ。わからないことだったら私に聞いてくれてもいいんですよ?」

和「なにしろ私、先輩ですし」ドヤッ

京太郎「じゃあ聞きますね」

和「はいっ」



京太郎「……なんでチーフは、両手首に手錠してるんですか?」

和「……」

京太郎「でっち上げでいいからなんか答えてくださいよ!? なんで目ぇ逸らすんですかすごい不安になるんですけどぉ!」


【譲れない一線】


京太郎(おもちに導かれるまま始めたバイトだったけど、結構慣れてきたな)オサラジャブー

京太郎(職場の雰囲気もいいし、長続きしそうだ)フキフキ

和「はぁ」ズズーン

京太郎「あ、お疲れ様ですせんぱ……なんかホントに疲れてますね」

和「ちょっと聞いてくれますか、須賀くん」

京太郎「俺でよければいくらでも!」

和「今お皿を運んだお客様、ちょっとその、ガラが悪くていらっしゃって」

京太郎「ふんふん」

和「お皿を受け取る時、明らかにわざと、その……手を……///」

京太郎「……! ま、まさか、その……アレを?」

和「うう……ほ、ほんの少しだけなんですけれど……///」

京太郎「ふっ……ざけやがって!! 許せねぇ、なんてヤツだ!!」

和「須賀くん……」ジーン



京太郎「YESおっぱいNOタッチ! 見るのはいいけど触っちゃやーよ!」

京太郎「霊長類として最低限守るべきラインだろうがそこはーっ!!」ドンッ

和「須賀くん」


【??「先輩は俺にとってミジンコと同じレベル」】


京太郎(なぜかご立腹になった先輩は、しかしある程度の元気を取り戻して仕事に復帰していったのでした。まる)フキフキ

京太郎「ああ、でも。おっきい先輩はかわいいなぁ」デレデレ

透華「……呆れた御仁ですこと。福路さんの言ったとおり、本当に筋金入りですのね」

京太郎「あ、店長」

透華「一つ忠告申し上げておきますけれど」

京太郎「はい?」

透華「たとい従業員の間でも、セクハラ訴訟に発展するような行為は慎んでくださいまし」

京太郎「いややりませんからそんなこと! 客だろが同僚だろうがセクハラはセクハラでしょ」

透華「……」

京太郎「ミジンコを見るような目はやめてください。俺がなにをしたっていうんですか」プンプン

透華(元ネタが元ネタだけに、相対的に変態度が薄まって見えるのは気のせいなのでしょうか……)



京太郎「ああ、それにしてもおもちのおっきい先輩かわいい」ウットリ

京太郎「いや、むしろ先輩のおっきいおもちこそがかわいい!」デレデレ

透華(……気のせいですわね)


【おもち学】


ハギヨシ「なかなかに難儀な人材を獲得されましたね、店長」

透華「あらハギヨシ、いましたの」

ハギヨシ「声が聞こえましたもので」

京太郎「ひどいな、ハギヨシさんまで俺を変人扱いして」

ハギヨシ「いえいえ、変人扱いなどととんでもない」ニコ

透華「変態扱いしてるんですの」

京太郎「変態でもありませんってば!」

京太郎「もしかして二人とも、俺のことを巨乳に狂った性犯罪者予備軍だとか思ってません!?」

透華「思ってますわ」

ハギヨシ「現状の認識能力には事欠いていらっしゃらないようでなによりです」ニコ

京太郎「ひでえ誤解だな……いいですか、いい機会ですからハッキリさせておきますよ」

京太郎「俺にとってのおもちっていうのはですね……」

ハギヨシ「いうのは?」



京太郎「おもち以外の何物でもないんですよ!!」ドーン

透華「は?」


【おもち道】


京太郎「いやだから、おもちはおもちなんですって」

透華「そりゃあ、おもちはおもちでしょうけど」

京太郎「おもちに対して性的欲求を抱く人間なんていないでしょう?」

透華「あなたは抱いてるじゃありませんの」

京太郎「抱いてません! 俺はあくまで、おもち的なおもちを愛でたいだけです!」

透華「おもち的じゃないおもちなんて存在しますの?」

京太郎「現に今そこにあるじゃないですか」

透華「え?」キョトン

ハギヨシ「ごっほん。つまり須賀くんは、おもち的なおもちとそうでない、おもち的でないおもちに関して、しかとした区別の境界線をおもちということですね?」

京太郎「当たり前じゃないですか! おもちじゃないおもちなんておもちじゃありません!」

ハギヨシ「ふうむ。するとおもちが仮におもちではなくなった時あなたにとってのおもちがおもちであったとしても」

京太郎「そうです、おもちがおもちでおもちのおもちに……」

ハギヨシ「おもちはおもちとおもちをもちて……」

透華「……ハギヨシ」

ハギヨシ「はっ」



透華「あなた面白がってますわね。主に私の困り顔を見て」

ハギヨシ「はっはっは」


【おもち教】


透華「要するに、まとめるとこういうことですわね」

ハギヨシ「須賀くんは『丸くてやわらかい物体』に対して、さも愛玩動物に抱くかのような慈しみを覚える、と」

京太郎「ええ。例えばおもちとか」

透華「……ええ、と。この場合のおもちというのは」

京太郎「正月に食べる餅のことです。といってもサ○ウの切り餅とかはNGです」

京太郎「あんな四角くて平らな物体、視界に入れただけで吐き気がします」ケッ

京太郎「うちの正月は、必ず餅米から餅を作ることに決めてますから」

透華「……」

ハギヨシ「……他には?」

京太郎「お団子とか、ビーチボールとか、シュークリームとか。あ、カー○ィも捨てがたい!」

京太郎「ああいうのを見てると、それだけで心が癒されるんですよー」ホンワカ

透華「……」

ハギヨシ「……ええ、と。すると極論、あなたは『胸部の豊かな女性』が好きなのではなく」

京太郎「はい。『女性の豊かな胸部』が好きなんです」

京太郎「あ、先輩は別ですよ? 先輩の笑顔は柔らかくて丸っこい感じがするんで」ニコニコ

京太郎「でもさすがに、餅に対してセクハラ働く気にはなれませんしー」ヘラヘラ

透華「……」

ハギヨシ「……」

透華「ハギヨシ」

ハギヨシ「はっ」



透華「……この男、元ネタ以上の劇物やもしれませんわ」

ハギヨシ「……」←否定できない


【進化論】


京太郎「そういえば店長って、歳幾つなんですか?」コップジャブー

京太郎(相当若く見えるけど)フキフキ

透華「ふむ? 20ですけれど、それがなにか?」

京太郎(若っ! 予想以上に若っ!!)

京太郎「そ、その歳で店長任されるなんて、すごい偉業ですね」

透華「ふふふ、そうでしょうそうでしょう?」ドヤァ

京太郎(偉業っつーか、異常ともとれるけどな。にしても)

京太郎「そうっすか、20ですか。それは残念」

透華「?」



京太郎「だってその歳じゃあそろそろ、おもちの成長が見込めなくなってきますもんねー」アハハ


〈後日〉


京太郎「俺のシフト週7になってるんですがこれは」

透華「16ならまだまた成長の余地があるんでしょう? とっとと適応なさい」フン


【未知との遭遇一日前】


京太郎「ちわーっす」

和「こんにちは、須賀くん」

京太郎「こんにちは先輩!」キラキラ

美穂子「過酷なシフトにもへこたれないで、須賀くんは偉いわね」ニコニコ

京太郎「はは、こういうの慣れてるんで……あれ?」

和「どうかしましたか?」

京太郎「俺毎日来てるのに、ほらこのシフト表の」

京太郎「この人には会ったことないなぁ、と思って」チョンチョン

和「あー……その、彼女にはちょっと事情が……」


「7卓の御注文上がりましたー」


和「あっいけない、急がないと」

和「ごめんなさい須賀くん、この話はまた今度!」ダッ

京太郎「あっ……福路さんはこの人のこと、なにか知ってますか?」

美穂子「うーん」

京太郎「福路さん?」

美穂子「会えばわかるし、会えなかったらわからない」ニコ

美穂子「そういうことでいいんじゃないでしょうかー?」スタスタ

京太郎「え、どういう意味……行っちまったよ」

京太郎「まあ、いいや。俺も仕事仕事っと」




(それにしても、いったいどういう人なんだか――――この、宮永咲って人は)




続きそうで続かない……ようでやっぱり続くかも
のどっちを先輩にした理由は「おっぱい先輩」がやりたかった、ただそれだけです

それじゃあ機会があったらまたお会いしましょう
ご一読ありがとうございました


帰ってきてスレ覗いたらなんなんだろうこの申し訳なさは
あいまいな言い方してどうもすいませんでした
とりあえず申請をキャンセルしにいってきますねー
そしたら投下します


【未知との遭遇五分前】


京太郎「お待たせいたしました、ハンバーグ定食です……ふぅ」

一「須賀くん須賀くん、ちょっといいかな」

京太郎「どうかしました、チーフ?」

一「バックから出しておいてほしい物があるんだけど……」

京太郎「ふむふむ……ああ、あの箱高いとこにありますもんね、わかりました」

一「お願いねー」


〈バックヤード〉


京太郎「あれ、このシフト表」

京太郎(例の宮永さん、今日これから入ることになってるみたいだな)


ガチャ


咲「……あ」

京太郎「ん、もしかして宮永さんですか? はじめまして、俺須賀きょ」

咲「…………とこ」

京太郎「へ?」

咲「おとこ、おとこ……おとこおとこおとこ」ガクガク

京太郎「あ、あのー? だいじょっぶすか?」


「いやああああああああああああああああああっ、男いやだぁぁぁああっっっ!!!!!

「!?」





「カンーーーーーーっっ!!!!!」





「!!!???」


ドグシャアアアッ!!!


【未知との遭遇一分後】


咲「……」

京太郎「……すいません、誰か俺に状況を説明してくれませんか」

京太郎「できれば筋道立てて、わかりやすくしてもらえると助かります」

京太郎「誰かさんのせいで頭がクラクラするもんで」ギロ

咲「ひっ」ビク

美穂子「まあまあ、こらえて須賀くん」ドウドウ

京太郎「なんで狩られる側が狩る側に怯えられなきゃいけないんだよ!」

一「えーっと、事情を一から説明すると、だったね……」

京太郎「よろしくお願いします」

和「まず、そこの咲さんは重度の男性恐怖症でして」

京太郎「ふむ」

ハギヨシ「故にこれまで、男性のフロアスタッフとは常にシフトをずらして入ってもらっていたのですが」

京太郎「なるほど」

透華「その、なんですか。私がうっかり、シフトの組み方を間違えてしまって」

京太郎「……まあ、百歩譲ってそれはいいとしましょう」



美穂子「それでつい、『カン』しちゃったということですね」ニコ

咲「ご、ごごご、ごめんなさい……えへ♪」

京太郎「そこだーーーっっ!!!! 一番の問題はそこなんだよーーーーーっ!!!」ダンッ


【調教済み】


京太郎「『カン』ってなんなんだよ『カン』って!! どうしてそこだけ痛みに満ちたGファンタジー展開してるんですか!」

京太郎「明らかに世界観に合致してないでしょうが!!」

咲「ま、麻雀は……ファンタジーだよ……?」

京太郎「ない。絶対ない。そんな麻雀この世にあってはならない」

京太郎「腕が回転したり竜巻が巻き起こったり卓が爆発するような麻雀なんてこの世には存在するわけがないんだ……」ブツブツ

透華(例示が嫌に具体的ですわね……)

京太郎「先輩。先輩からもなんとか言ってやってください」

和「……」

京太郎「先輩ならわかってくれますよね。麻雀はリアルなんです」

京太郎「オカルトでもファンタジーでもデスティニーでもデスティニー2でもなくリア」

和「須賀くん」

京太郎「は、はい! さあ言ってやってください、『そんなオカルト」



和「……麻雀はね……ファンタジーなんですよ……ふふ、あはは……」ウツロ

京太郎「せんぱぁぁぁい!? この店であなたの身に一体なにが起こったというんですかせんぱーい!!」


【パターン構築】


美穂子「むかーしむかしのインハイで、敗戦のショックから牌を握れなくなった選手がいたんだけど、須賀くんは知ってるかしら?」

京太郎「……ま、まあ。一応はその、知ってますけど」

美穂子「それと同じことが今、須賀くんの身に起こった、と」

美穂子「そう考えればいいんだと思うわ」ニコ

京太郎「なにが『いい』のかさっぱりわかりません。ちっとも症状が同じじゃありません」

京太郎「……っていうかその時勝った人、今じゃトッププロじゃないですか」

透華「そう。つまり、そういうことですわね」

咲「……」オドオド

京太郎「……マジですか? 本当に、『これ』が? 冗談じゃなくて?」

咲「」カチン


カンッ!!

ブゲラァッ!!


美穂子「ね?」ニコニコ

京太郎「な、なにが『ね?』なのかさっぱりわかりません……」ボロッ

咲「ふんだ」


【降雨コールド】


京太郎「わかりました、わかりましたよ」

京太郎「千歩譲って、この切り餅が麻雀の天才であることは認めてやります」

咲「き、切り餅?」

京太郎「貧乳ってことだよ口に出させんな」チッ

咲「」カチン


カンッ!!

ブゲラァッ!!


京太郎「……そ、それにしたって、おかしいとは思いませんか?」ボロッ

ハギヨシ「まあ、すでにおかしいことだらけではあるんですがね」

京太郎「なんでこの人、雀卓にも着いてないのにカンできるんですか?」

京太郎「そこだけは絶対に、圧倒的におかしいですよね? ね?」


「「「「「「…………」」」」」」


京太郎「おい全員揃って目を逸らすのやめろ。最後の最後でこじつけ放棄すんな」


【(以下省略)】


透華「ほらほら、皆さんそろそろ持ち場に戻りなさいな。これからが書き入れ時ですわよ」パンパン


「「「「はーい」」」」ゾロゾロ


京太郎「ちょっ……くそ、店長! 待ってくださいよ!」

透華「まだなにか御用でも?」チッ

京太郎「舌打ちしてーのはこっちだよ! なんですかシフト組み間違いって!」

京太郎「俺の命に関わることなんだから勘弁してくださいよホント!」

透華「んー……あー……」

透華「……ほら、この際だから、そろそろ宮永さんもご病気を克服するべきではないかなぁ、と思い立ちまして」

咲「ふえっ!?」ビク

京太郎「言い訳するならもうちょっと本腰入れてやってくださいさっき間違えたって認めましたよねアンタぁ……!」

透華「いい機会ですからあなたも病気の治療に本腰を入れてはいかが?」

京太郎「は? 俺は至って普通にど真ん中ストライクの真人間ですよ?」キョトン

透華「……」



京太郎「まったく。こんな薄っぺらな大学ノートと一緒にしないでほしいですね」ハン

咲「」カチン


【自己暗示】


京太郎「っててぇ……っていうかこの人、こんなんで仕事できるんですか?」

京太郎「どう足掻いたって客の半数は男性じゃないですか。無理でしょ」

咲「むっ。し、仕事は仕事として割り切れるもん!」

京太郎「ほーう……? じゃあ見せてもらいましょうか」


〈裏スペース〉


ハギヨシ「はい、宮永さん。12卓のラーメン上がりです」ニコ

咲「ひっ……お、落ち着け私……あれは女……女女女……」ブツブツ

京太郎「……」



咲「女ったら女、あるいはオカマ……はたまたホ」

京太郎「そのへんにしておけよ」

ハギヨシ「はっはっは」

京太郎「アンタも否定しろ!!」


【人命第一】


咲「……」ブツブツ

客(お、注文来たかな?)

咲「ら、ラーメンお待たせ……たせ……せ……」ガクブル

客「?」

咲「……やっぱり無理ぃぃぃぃぃ!!!!!」ダッ

客「ちょ、俺のラーメン!?」ガーン



咲「ごめんなさいあなたの存在が無理なんですぅぅぅぅ!!!!」ダダダ

客「そこまで!?」ガーン

咲「このままじゃ死んじゃいますぅぅぅぅ!!!!(お客様が)」ダダダダダ

客「えええええええええええ!!!!??」ガガーン



京太郎「……ダメだ。ダメすぎる」


【京咲はじまったな(棒)】


咲「」ズーン

透華「女性客への対応は完璧ですのにねぇ」

京太郎「……本当ですか? この分だとそれすら怪しいんですけど」

和「ええ、間違いありません。その点に関しては私もチーフも、ハギヨシさんでさえも太鼓判を押すほどです」

京太郎(この店におけるハギヨシさんの立ち位置はいったいどうなってるんだ)



透華「まあ、しかし。やはりいずれは解決せねばならない問題でしょうね……宮永さん」

咲「な、なんですか透華さん……」オドオド

透華「店長命令ですわ。須賀くんで男嫌いを治しなさい」

京太郎「え゛」

咲「えっ!?」

透華「別にあだ名で呼ぶほど親密な仲になれ、と言ってるわけではありませんの」

透華「あなただって、一生このままでいいとは思ってないでしょう?」

咲「それは……確かにそうですけど……」モジモジ

和「がんばりましょう、咲さん。私も応援しますよ」ニコ

京太郎(この店における俺の立ち位置はいったいどうなってしまうんだ……)ズーン



透華「責任は私がとりますわ(棒)」

京太郎「被害は俺が被るんですよ!!」


【ラブスコープ】


咲「そ、そりゃあ私だって、男が憎いってわけじゃないですけど……」

京太郎(どうだか)ケッ

咲「日常的にカンされちゃうであろう須賀くんの立場になると、そういうわけにも……」チラッ

京太郎「……別にいいっすよ。そんな心配しなくても」ニコ

咲「え……」ドキ



京太郎「訴えるつもりならこの時点でとっくに訴えてるから」ニコニコ

京太郎「アンタへの好感度なんかとっくにマイナス値振り切ってるから」ニコニコ

京太郎「ど・う・ぞ・ご心配もご遠慮もなさらないでくださいませ――――この壁掛けホワイトボードが」ハン

咲「」カチン


カンッ!!

ブゲラァッ!!


和(本当に大丈夫なんでしょうか……?)


【インフォームド・コンセント】


咲「ぜーっ、はーっ」

京太郎「かっ、くぅっ……そういえば、店長」フラフラ

透華「む?」

京太郎「この場合治すのは男嫌いと『カン』、どっちになるんですか?」

透華「……ああ」

京太郎「……」

透華「ううん……」

京太郎「……」



透華「店と宮永さんに実害が出ているのは男嫌いの方ですわね」シレッ

京太郎「俺に実害が出るのは『カン』の方なんですけどねちくしょー!」


【無形文化財】


透華「宮永さんの雀力は全国区ですもの、今さらどうこうなる問題でもありませんわ」

和「ある種、日本の財産と呼んでも差し支えないですものね」

咲「そ、そんなこと……///」モジモジ

京太郎「そのために俺を犠牲にしようってんですか」ゲンナリ

透華「若い才能は何物にも勝る宝ですわ」

咲「あうあう///」

京太郎(大人って汚ねぇよな……つーかこの人、部活やってないのか?)



透華「だいたいもったいないじゃありませんの。宮永さんから『カン』を取り上げたら」

京太郎「ああ、なんの取り柄も残らなさそうですもんね」ニコ

咲「そ、そんなこと~~~!!」

和「咲さん抑えて! 抑えてくださいー!」ガシッ


【所信表明演説】


透華「では、決まりのようですわね」

咲「はい。と、時々なら……須賀くんと、シフト合わせてくださって結構です」

京太郎「いいえ」

咲「え」

京太郎「毎日でいいです。宮永さんが来る日は毎日合わせてもらって結構」

咲「え、え」

京太郎「こんなレフ板とのお付き合い、一日でも早く終わらせたいですからね」

咲「」イラッ

和(抑えて抑えて!)ガシッ

京太郎「その分密度を上げてくださって結構」

透華「……宮永さんも、それでよろしいですか?」

咲「っ! 結構! 結構なことです! それでお願いします!!」

透華「承りました」メモメモ

咲「……」ギロ

京太郎「……なんすか」ハン


咲「不本意ながら、これからよろしくお願いしますね、須賀くん……!」バチッ

京太郎「こちらこそ。本来なら願い下げなんだけどな、宮永さん……!」バチバチッ




「「ふふ、ふふふ、ふふふふふ……!!」」




和「……透華さん。私今、とても不安です……」

透華「はじめー、はぎよしー。紅茶が飲みたくなってきましたわー」

和「透華さん、私今ますます不安になりました」


本日ここまで!
なんもかんも>>1が悪かったということでどうかお収めいただきたく思います
今後は発言に気を付けるようにします

ただですね、次いつ来れるとか明言しにくい私的な事情がありまして
最低限週一が目標かな、ぐらいのことしか言えません
その一方で明日来ないとも言いきれないし
まあ期待せずにお待ちいただいて、忘れる寸前ぐらいで覗いてもらえれば幸いです

重ね重ねになりますが、お騒がせして申し訳ございませんでした
一週間以内にまたお会いできることを祈って、おやすみなさいませ


デレた伊波ちゃんよりデレる寸前のヘタレ小鳥遊が可愛いと>>1の中でもっぱらの評判
まあそこまで行くための道のりが途方もないんですけどね
んじゃ、投下いきまーす


【はたらく魔王さま】


京太郎「……」ソワソワ

ハギヨシ「おや須賀くん、時計を頻りに気にしてますが。もう上がりですか?」

京太郎「ああいや、そういうんじゃないんですよ」

京太郎「……ただ、そろそろだなぁと思って」

ハギヨシ「なにがですか?」

咲「……」スタスタ

ハギヨシ(あ)

咲「こんにちは、須賀くんっ!」


カンッ!!

ブゲラァッ!!


咲「ハギヨシさん、今日もよろしくお願いしますっ!」タイムカードガチャー

ハギヨシ「はあ」

咲「それじゃあホール入りますっ!」スタスタ

ハギヨシ「……で、なにがそろそろなんでしたっけ?」



京太郎「……魔王の出勤」ゲホゴホ

ハギヨシ(須賀くんの中で早くも魔王認定が成立したようです)


【リーチ】


京太郎「よく考えたらハギヨシさんって」

ハギヨシ「はい?」

京太郎「ここのバイト長いんですよね?」

ハギヨシ「ええ、かれこれ4~5年になりますが」

京太郎「宮永さんと時間帯被ったことは?」

ハギヨシ「それはもう、10や20ではききませんよ」

京太郎「『カン』された回数は?」

ハギヨシ「0ですね」

京太郎「どうやってんですか一体!?」ガバッ

ハギヨシ「はは、落ち着いてください。私は単に、彼女の射程範囲内を避け続けているだけです」

ハギヨシ「残念ながら、今後の治療計画には役立てられそうもありませんよ」

京太郎「なんだ……もしかしたらと思ったのに」

ハギヨシ「はっはっは。では、私は調理に戻りますね」スタスタ

京太郎「あ、じゃあ俺もホールに……」

京太郎「……」

京太郎「……」



京太郎(『カン』の射程範囲ってなんだ……?)


【息を吸うように】


〈裏スペース〉


京太郎「っしょ、よいしょ……あー重」

咲「あ」

京太郎「あ」


カンッ!!

ブゲラァッ!!


〈フロア〉


咲「~~♪」←掃除中

京太郎「あ」

咲「あ」


カンッ!!

バマツゥ!?


〈休憩スペース〉


京太郎「やっと休k」


カンッ!!

アヒィン!!


咲「ごめんなさぁぁぁい!!!!」ダッ

京太郎(ほ、本当にわざとじゃないんだろうな……?)ボロッ


【自滅】


和「もう、ダメですよ咲さん。須賀くんのことあんなになぐ……殴っ、て?」ハテ

咲「だって、だってぇ……」グス

和「なにかしら、咲さんの方から歩み寄りを見せてあげるべきだと思います」

咲「そ、そんなのどうやれば」

和「そうですね。まずは須賀くんの好みを知ることから始めるべきかと」

咲「須賀くんの……好み?」

和「なんでも彼、やわらかくて丸い物が大好きなんだそうです」

咲「やわらかくて……丸い……」ハッ



咲「ああ、だから須賀くんって原村さんに甘いんだ」ポン

和「おっきくないです!」

咲「え」

和「これでもコンプレックスなんですからね私! 咲さんのバカー! 持たざる者の傲慢ー!」ウワーン

咲「ええええええええ!!!???」ガーン


【ヒット&アウェイ】


〈裏スペース〉


咲「す、須賀くーん」

京太郎「なんですか、宮永さ………………は?」

咲「み、みんなにリサーチして、須賀くんの好みを再現してみました……」ボイン

京太郎「……」

咲「た、タオル詰めただけなんだけどね、あはは」

京太郎「……」

咲「す、須賀くん? なにか御感想は」



京太郎「タオルより先に脳みそ詰めたらどうですか? このデモンズウォールが」ハン


カンッ!!

ブゲラァッ!!


咲「せっかく! 私が! 歩み寄って! あげたのにぃ!!」カンカンカン

美穂子(歩み寄ったというより、間合いを詰めて即後退しただけに見えたけれど……)


【戦略目標】


咲「これでも私努力してるのに! 今日は『カン』5回で済んだなとか」

咲「さっきのはスーカンツものだったけどなんとかサンカンツで我慢できたなとか!」

咲「寝ても覚めても須賀くんのことばっかり考えてるのに!」

美穂子「あらあらまあまあ」

咲「なのになんなのあの男! 信じられない!」

咲「福路さぁん、私どうすればいいんですかぁ!」サメザメ

美穂子「……トバさなければいいんじゃないかしら?」

咲「うっ」グサ

美穂子「でも、原村さんの言ったことは正しいわ。歩み寄る姿勢を失くさないことが大事だと思うの」

咲「ですよね、ですよね! とにかく相手の好みに合わせられれば、今後の戦局も有利!」

美穂子(……戦局?)

咲「というわけで私、これからもがんばって!」フンス



咲「胸、おっきくします!」ドーン

美穂子「……」

咲「よーし、がんばるぞー!」オー

美穂子(……明らかに手段と目的を取り違えているけれど)

美穂子(面白そうだから黙っておきましょう♪)ウフフ


【蝶の様に舞い】


京太郎「はーあ」ボロッ

ハギヨシ「お疲れのようですね」

京太郎「そりゃあ、当然のことだと思いません?」

咲「あ」バッタリ


カンッ!!

ブゲラァッ!!


咲「ごめんなさぁぁぁぁいいいい!!!」ダッ

ハギヨシ「……まあ、やむを得ませんね」

京太郎「でしょ?」ガフッグフッ

ハギヨシ「ただ、このままでは事態が進展しないことも確かですよ?」

ハギヨシ「理不尽に思えるかもしれませんが、須賀くんの方からも一定の歩み寄りを見せるべきかと」

ハギヨシ「どうあれ、店長の依頼を請け負ってしまった身分なのですからね」

京太郎「それは……正論ですね」

ハギヨシ「でしょう?」ニコ



京太郎「すると俺は、どういう足運びであの人の懐に潜り込むべきなんでしょうか?」シュッシュッ

ハギヨシ(……目が本気ですね)


【蝉の様に落ちる】


京太郎(まずは軽い世間話から入るか)

京太郎「宮永さーん」

咲「ひっ! な、なに?」

京太郎(だからなんで俺が怯えられなきゃなんねーんだよこのぬりかべが)イラッ

京太郎(……いや、抑えろ抑えろ)フルフル

京太郎「そっから動かないで。その距離でいいから、ちょっと話でもしようぜ」

咲「え……?」キョトン

京太郎「『え』じゃないだろ、本当に男嫌い治す気あんのか?」

咲「あ、あるよ! すっごくあるよ!」

咲「せ、せっかくこうやって、須賀くんに体張ってもらってるんだし……」モジモジ

咲「真剣にやらなきゃ、さすがに申し訳が立たないっていうか……」モジモジ

京太郎「……」

咲「な、なんか言ってよ!」

京太郎「い、いや。宮永さんって、俺が思ってたよりマジメな人なんだな、と」

咲「ん、う、わぁ……そ、それ、褒めてるようで褒めてないから、ねっ!?」


カンッ!!

ブゲラァッ!!


咲「……あ。ご、ごめんなさい!」ペコペコ

京太郎「……もういいよ。慣れましたよ。射程範囲を見切れない俺が悪いんですよ」ブツブツ

咲「……」

京太郎「……」



京&咲((いざ二人になると話が続かない……!))ダラダラ


【彼女の理由】


京太郎「あーっ、と。そういえば」

咲「な、なんでしょう」ピク

京太郎「宮永さん、部活とかやってないの?」

咲「え?」

京太郎「いやさ、大会出るぐらい麻雀上手いなら、普通バイトなんてする暇なさそうなもんじゃん?」

咲「……えっと。一応、部活には入ってるんだけどね」

咲「その。部活に出ると、あんまりいい顔されなくて」

京太郎「えっ」

京太郎(も、もしかしていじめられてんのか?)

京太郎(この人の性格ならありえそうな話ではあるけど……)



咲「私と練習すると、精神はともかく肉体が持たないからって」

咲「みんなして土下座で『お願いだから部室に来てくれるな』って頼まれちゃってぇ……」シクシク

京太郎(なんだいじめてる側か)ホッ


【彼女の事情】


京太郎「でもさ、なにも空き時間をバイトに当てなくてもよかったんじゃないのか?」

京太郎「部活に出れないなら出れないで、なにか別の練習方法を模索したって……」

咲「えっと、ね。実は今、欲しいものがあって」

京太郎(ああなるほど、そういう動機もあるのか)

京太郎「で、なにが欲しいの?」

咲「……自由」

京太郎「えっ」

咲「一刻も早く家を出て、一人暮らしがしたいの」

咲「このままじゃ私……お父さんに……!」ブルブル

京太郎(まさか、彼女の男嫌いには父親の影が?)

京太郎(日々の生活を実の親におびやかされてるんだとしたら、そりゃさすがに可哀想……)



咲「お父さんの体に、一生消えない傷を刻んじゃうっ!!」ワッ

京太郎(なんだおびやかす側か)ホッ


【先輩は心配】


和「あっ、どうでしたか須賀くん。咲さんとお話してたみたいですけど」

京太郎「あ、先輩!」ニコ

京太郎「意外と長く話せましたよ。何事もやってみるもんですねー」

和(! これは好感触かもしれませんっ)

和(やはり同じ職場で働く仲間同士、仲良くしてほしいですからね)

和「それで。お話してみた結果、咲さんへの印象は変わりましたか?」

京太郎「んー……」


『私と練習すると、精神はともかく肉体が持たないからって』


京太郎「……」


『お父さんの体に、一生消えない傷を刻んじゃうっ!!』




京太郎「……ますます怖くなりました」ガクガク

和「……あれ?」


【先輩の心配は……?】


和「咲さん」

咲「あ、原村さん……さっきはごめんなさい」ペコ

和「い、いえいえ。私こそ大人げなかったですから。おっきくもないですけど」

和「それより、須賀くんとのおしゃべりはどうでしたか?」

咲「……一発、やっちゃいました……」ズーン

和「ああ……」

咲「……」

和(やはり、この二人の仲を取り持つのは難しいのでしょうか……?)

咲「……」


『宮永さんって、俺が思ってたよりマジメな人なんだな、と』


咲「……どきどきしちゃって」ボソ

和「え?」

咲「お、お父さん以外の男の人に褒められるの、初めてで(ハギヨシさんとは基本顔合わせないし)」

咲「それで、なんか顔が、熱くなっちゃって」モジモジ

咲「びっくりして……つい、やっちゃいましたぁ!///」ドキドキ



和(……あれ? 意外と簡単かも?)


泉さんに関してはだいぶ前に別のキャラでネタを練っちゃったので……
ガイトさん好きな人はごめんなさいね
他の姉妹についてはお察しです


【彼の事情】


京太郎「休憩入りまーす」

一「おっと、お疲れ須賀くん」

京太郎「チーフもお疲れ様です」

一「ホント、ご苦労様だよねぇ。今日は何回ぐらいやられたの?」

京太郎「10回目までは数えてたんですけどね」

一「……須賀くんって丈夫な体してるね」

京太郎「そうですか?」

一「ボクなら出勤前に家族宛ての遺書をしたためておくね。須賀くんもどう?」ケラケラ

京太郎「はは……その家族で慣れてますから」

一「へ?」



京太郎「あのぐらい家に帰れば日常茶飯事ですから……はは」ウツロ

一「須賀くんやっぱり遺書はいいや! まったく洒落にならなさそうだから!!」


【須賀四姉妹】


一「っていうかなに? 須賀くんの家庭環境どうなってるの?」

京太郎「よく家族で食後の麻雀するんですよ」

一「ああ、そういう……よっぽど強いご家族なんだね」

京太郎「ええ。小六の妹がいるんですけど、そいつはリトルで県代表に選ばれました」

一「わっ、すごいじゃん妹さん」

京太郎「三人の姉のうち一番歳近いのは、中学時代インターミドルに出ましたし」

一「お、おう。お姉さんが三人も……」

京太郎「一番上のは高校時代、団体戦でインハイ出場してますね」

一(なにこの麻雀一家)



京太郎「んで二番目の姉は高校、大学通じてインハイインカレ七連覇を達成しました」

一「!?」

京太郎「今は売れない小説家やってます」

一「なんで!?」


【判断基準】


京太郎「まあ、うちの家族の話なんざどうでもいいじゃないですか……」ズーン

一「露骨にテンション下がったね」

京太郎「それよりチーフ、その手に持ってるものは?」

一「ああこれ? 今月の月間目標だよ。休憩室に貼っておかなきゃだからね」

京太郎「えっ、そういうのもチーフが考えるもんなんですか?」

一「いやぁそれが……」



一『とーか、そろそろ月間目標変えないと』

透華『あら、もうそんな時期でしたの』

一『うん。ちなみに前のは「整理整頓」ね』

透華『……月間目標というと、お客様の目には』

一『届かないね、休憩室に貼るから』

透華『つまり、目立てませんわね』

一『そうだね、目立てないね』

透華『……一』

一『うん』

透華『あとはよろしく』



一「ああいう割り切りの良さがとーかの美点だよねぇ……」ウットリ

京太郎(大丈夫かこの店)


【人のふり見て】


貼り紙『お客様の目線で行動しましょう はじめ』

一「というわけで、これが今月の月間目標でーす」

京太郎「へえ、なかなかいい目標ですね」

一「でしょ?」ジャラ

一「自分では気が付かないことでも、他人から見るとおかしいなー、ってことあるもんね」ジャラジャラ

京太郎「あー、あるある」

一「あるよねー」ジャラジャラジャラ



京太郎「……ええ、まったく。今、まさにそことかにもありますよね」

一「?」ジャラジャラジャラジャラ←常時手錠装備


【右ストレートでぶっとばす】


和「休憩入ります」

咲「交代の時間ですよぉ……ってあれ、なんの話を……?」

京太郎「でもこの目標、一部達成できなさそうな人がいますね」

一「え、そうかな……?」

京太郎「ええ。男性客の目線が一部分に集中する人とか」

和「」ガーン


カンッ!!

ブゲラァッ!!


京太郎「……そもそも男性客と目を合わせられない人とか!」ギロ

咲「で、できるもん! 接客のいろはでしょ、相手の目を見てまっすぐ」

京太郎「えっ」

一「えっ」

和「えっ」

咲「なにその反応!? 私だってやればできるもん、まっすぐ……」

京太郎「まっすぐ?」

咲「まっすぐ……まっすぐ……」



咲「――――え、抉る」

美穂子「宮永さん、それはヤクザのいろはだと思うわ」

京太郎(福路さんいつの間に)


【アンチエイジング】


京太郎(福路さんいつの間にかいなくなってるな……)キョロキョロ

和「わ、私だってがんばりますとも。お客様の身になって考えることは大切ですからね」

咲「一緒にがんばろう、原村さん!」

和「ええ!」

一「ちなみに、がんばるってなにを?」

和「え」

京太郎「先輩はそのままでも十分、おっきくてかわいいですよ」デレッ

和「おっきくないです! えっと、ええっと……そう!」



和「胸を小さくします!」フンス

京太郎「や め て く だ さ い」ガシッ

咲「それは私への当てつけですか原村さん」ガシッ

和「ひっ!?」ビク


【ただ君のために】


美穂子「ねえねえ国広さん?」

京太郎(福路さんいつの間に)

一「どうかしたの福路さん?」

美穂子「この目標……店長自身は守れるのかしら?」


「「「「…………」」」」


京太郎(無理だな)

咲(無理かな)

和(無理ですね)

一「……」


〈後日〉


京太郎「あれ。月間目標、結局直したのか。なになに」



貼り紙『店長の目線で行動しましょう はじめ&はぎよし』

京太郎(……ダメだこの店)


【託された意志】


透華「はじめー、紅茶が飲みたいですわー」

一「はーいただいまー♪」

京太郎「……」



咲「お、お……」

客「?」

咲「お飛ばししてもよろしいでしょうかお客様!?」

客「!?」

和「咲さん落ち着いてくださーい!」ガシッ

京太郎「……」



京太郎(ダメだ。この店の将来……というか近未来が心配で心配で仕方ない)

美穂子「須賀くーん」

京太郎「はい?」

美穂子「がんばってくださいね♪」

京太郎「……」



京太郎(俺ががんばるしかないってことか……)ズーン


【ぶれない男】


京太郎「そっかー、お母さん待ってるのかー」ナデナデ

幼女「うん! ママ、おてあらいいってるんだじぇ!」

京太郎「ははっ。偉いなー、大人しくしてて」ナデナデ

幼女「んへへー」

透華「……」

和「……」

京太郎「あれ、どうかしましたか店長に先輩」

透華「あなた、ロリコンのケまでありますの……?」ドンビキ

京太郎「ありません。断じて違います。そこはハッキリ否定しておきます」

和「ほっ……じゃあ須賀くんは純粋に、子供の愛らしさに庇護欲をそそられている、というわけですね?」



京太郎「いえ。幼児の頭部って丸っこくて、ほっぺもやわらかいじゃないですか!」キラキラ

透華「……」

和「……」


【悲しきさだめ】


京太郎「ありがとうございましたー」ペコ

幼女「おにいちゃんまたねー!」

京太郎「またねー」

京太郎「はぁぁ。やっぱり子供は無邪気だなぁ。喋ってるだけで癒されるなぁ」ニコニコ

和(理由はどうあれ。こうして見てると、本当に子供が好きなんですね)

京太郎「……はぁぁ」

和「?」



京太郎「アレが成長して、日本人の大多数を占める貧乳へと退化するのかと思うと」

京太郎「反吐が出る」ケッ

和(ほ、ほんと、見てて心配になるぐらい……)ダラダラ


【だってか弱い女の子だもん】


京太郎(さ、今日の仕事もそろそろ終わりだな)コップフキフキ

京太郎「ん? なんかホールが騒がしいな……」



男A「うっひょ、巨乳ウェイトレスさんはっけーん。どっか遊びに行かない?」

和「や、やめてください、困ります!」

男B「んなカタいこと言わないでよー。どうせもうすぐ閉店なんだろ? この後ヒマ? ヒマだよなぁ?」



京太郎「っ、なんだアイツら……!」

美穂子「はい、ストップよ須賀くん。ちょっと落ち着きましょう」ガシ

京太郎「止めないでください福路さん! 男として黙ってられません!!」

美穂子「ああいうお客様への対応はね、店長に任せるのが筋なの」

京太郎「その店長がアレなんじゃないすか! 今日はハギヨシさんもいないし!」

京太郎「……あっ! 宮永さんちょうどいいところに!」

咲「ふえっ!?」ビク

京太郎「あっちで先輩が大変なことになってるんだ! 助けてやってくれ!」



咲「む、無理だよぉそんなの! 私なんかじゃ手も足も出ないもん!」ガクブル

京太郎「毎日毎日手と足以外のもん出してんだろーが!」


【非暴力不服従】


美穂子「まあまあ……ほら、店長が行ったわ。これで一安心」ニコ

京太郎「なにを安心しろっていうんですか! 店長は宮永さんとは違うんですよ!?」

咲「なにが!?」ガーン

京太郎「なにもかもがだよ!」



和「あ、とっ、透華さん!」

透華「お客様? 当店のウェイトレスになにか至らぬ点がございましたでしょうか?」

男A「……あ? なんだよアンタ、お呼びじゃねーんだよ」

男B「っつーか貧乳に用はねーから。とっとと失せ」


ガッツーン×2


男A&B「「かっ……か……あぁあ゛……!?」」ピクピク

京太郎(うわぁ……なんのためらいもなく急所蹴り上げやがった……)モジモジ



透華「お客様、暴力は困りますわ」シレッ

男A「ええええええ!?」

男B「ええええええええええ!?」

京太郎「ええええええええええええええ!?」


【考えてみるに】


男A「んっ、だ、このアマ! 店員が客に暴力振るっていいと思ってんのか!」

男B「店長出せ店長!」

透華「私が店長ですがなにか?」シレッ

男A&B「「えええええええええええええええええええええええ!!!???」」

男A「なんだこの店!?」

男B「こんな凶暴な店長聞いたことねぇ!」

京太郎(店員も大概なんだよなぁ)

男A「ちくしょう二度と来るかこんな店!」

男B「覚えてろよ!」

透華「はっ。二度と来ない客を覚えておくほど暇じゃありませんわ」シレッ



美穂子「ね、どうにかなったでしょう?」ニコ

京太郎「た、確かにこの場は収まりましたけど……今の連中に店の悪評でも立てられたら……」

咲「それはすばらじゃないかもね……」



京太郎(……ああいや、すでに手遅れか)ジー

咲「す、須賀くん? なんでそんな、私のこと見つめて……///」モジモジ


【おもてなし】


美穂子「大丈夫。ウチの店長にかかれば、パパっと解決しちゃうから」

京太郎「パパっと、って……」

美穂子「ふふ、見てればわかるわ」



透華「……さて。一、携帯を」

一「はいはーい。和、だいじょぶだった? 怪我とかない?」

和「はい。透華さんのおかげで、なんともありません」

和(ぶっちゃけ慣れてますし)

一「うんうん、よかったよかった。いつものところに繋げばいいんだよね、とーか?」ピポパ

透華「ええ。いつもの番号を」

一「はい、どーぞ」つケータイ

透華「私ですわ」

京太郎(……?)

透華「今出たお客様を、別邸にご招待してもてなしなさい」

透華「ええ、ええ。最上級のおもてなしで結構。そう、『飽きるまでコース』で」

透華「え、人格? まあいいんじゃありませんの、少しぐらい変わっても」

京太郎「!?」

透華「では、後のことは任せますわよ」ピッ



美穂子「ね、どうにかなりそうでしょう?」ニコ

京太郎「……どうにかなりそうです、俺の頭が」


かたなし姉妹の出番は遠い
山田の出番はもっと遠い
早くそこまで辿りつきたいもんですね

ではまた


【疑惑の判定】


咲「チーズグラタンとハンバーグステーキが一点ですね?」

咲「かしこまりました。少々お待ち下さい♪」ニコ

咲「あ、はいっ。お水おかわりですね。今お持ちしまーす♪」ニコニコ



京太郎「……誰だ、アレは」

和「誰って……咲さんじゃないですか」

京太郎「宮永さん、ちょっといい?」

咲「ひゃうっ!? なななな、なに?」ビクビク

京太郎「女性客への接客は、絵に描いたように完璧なんだな」

京太郎「……もしかしてアレですか。女性が好きな方でいらっしゃるんですか」ススス

咲「違うよ!? なんで不自然に距離とるの!?」

京太郎「いやまあ、距離は自然に。ほら、『カン』怖いし」ススス

咲「心の距離のことだよ!」

京太郎「もともと近くねーよ」

和「……」ホワホワ

京太郎「あれ、先輩。急に黙っちゃってどうかしましたか?」



和「!? わわ、私は違いますよ!? ノーマルですよ!? あらぬ欲望おっきくないですよ!?」アタフタ

京太郎(あらぬ欲望を向けられる頻度は高いと思うけど……)


【等価交換】


京太郎「あれを男性客にも分け隔てなくできれば、なんの問題もないのになぁ」

咲「うっ。か、簡単に言わないでほしいな……」

咲「『それさえできれば』ができないから苦労してるんだもん……」シクシク

和「な、泣かないでください、咲さん」ナデナデ

和「最近は須賀くんと普通におしゃべりできてるじゃないですか」ヨシヨシ

咲「ですよね!?」

京太郎「……まあ、否定はしないけど」

咲「よかったー、汗水流して努力した甲斐があったよ」ニコニコ

和「よかったですね」ニコニコ

京太郎「その分俺が血を流してるんだよ!」


【特別な人】


咲「私ね、男嫌い治せるように、精一杯がんばるよ」

京太郎「ぜひそーしてください」ハァ

咲「なんかね。須賀くんって、他の男の人と違う感じがするの……///」モジ

京太郎「……けっ」プイ

和(あら、なんだかいいムードです)

和(この二人、付き合いは短いのに不思議と通じ合っているところがあるんですよね)

和(こんなオカルトならありですね)ニコ



咲「須賀くんって……いくら点棒毟っても大丈夫な気がするんだもん///」

京太郎「んなことだろうと思ったよ、けっ」

和(……通じ合うのも場況によりけり、ですかね)


【おもい人】


京太郎「ん?」


ジャラジャラ


京太郎「……俺、実は最近、気になってる人がいまして」

咲「え」

和「ええっ」

京太郎「彼女のことを考えると、夜も眠れません」

咲「彼女!?」

和「ということは、恋ですかっ?」

京太郎「いえ、全然。そういうのははっきり言って……」

京太郎「……はぁ」

京太郎「…………はぁぁ」



京太郎「ありえないです。はぁぁぁ」

咲「須賀くんって時々、発言が異常に重いよね」

和「どういう人生を歩んできたんでしょうか」


【善悪の彼岸】


京太郎「で、話を戻しますけど」

京太郎「チーフの一さんのことなんですけど。気になりません?」

和「一さん、ですか?」



一「ありがとうございました、またのご来店をー」ニコ



咲「なんていうか……純粋に可愛い人だよね」

和「手先がとても器用で、ホールの仕事に関してもさすがの一言に尽きますし」

咲「私たちに対しても細かく目配りしてくれて、すっごく優しいの」

京太郎「あの、そういうこっちゃなくて」



一「~~♪」ジャラジャラ



京太郎「手錠。どういうことなんですかアレは? なんであんなモノが?」

和「……えっと。なんででしょうね?」

咲「えっと。好きなんじゃない、手錠?」

京太郎「……」

咲「あ、もちろん良い意味でだよ!?」アタフタ

京太郎「どのあたりに良い悪いの境界線があるのかぜひ教えてくれ」


【みんないったい何と】


透華「一のアレのことなら、なにも心配いりませんわよ」

咲「透華さん」

透華「彼女が手錠のせいでミスを犯したことがありまして?」

和「……私の知る限りでは、一度もないですね」

京太郎「強いて言うなら手錠してることがすでにミスですけどね」

透華「あれぐらい、一にはいいハンデキャップなのですわ」フフン

京太郎「なにと闘ってるんですかあんたらは……」

透華「聞きたくて?」

京太郎「……」


『え、人格? まあいいんじゃありませんの、少しぐらい変わっても』


京太郎「遠慮しときます」

透華「あらそう」


【どちらにせよ】


一「プレートお熱いのでお気を付けください」ジャラ

客A「え、あ、はい……」

客B「……」ジロジロ

一「? いかがなさいましたか、お客様?」ジャラジャラ

客A(なんなんだよこの店……)ドンビキ

客B(緊縛趣味があるのかな、この子……)ゾクゾク

京太郎「……」


〈休憩室〉


京太郎「ハギヨシさんに、チーフのことで相談があるんですけど……」

ハギヨシ「国広さん、ですか?」

京太郎「あの手錠、どうにかなりませんかね?」

京太郎「お客様もなんか意味深な目線向けてますし、色々まずいと思うんですけど」

ハギヨシ「ふむう……」



ハギヨシ「お客様の厳しい視線に晒されるのは、飲食店の宿命ですよ」ニコ

京太郎「厳しいっつうか怪しいんですよ!! 怪しむ目線か怪しい目線かの二択なんですよぉ!!」


【当たり障りのない話術】


京太郎「っていうか店長以下みんな気にしなさすぎですよね?」

ハギヨシ「はあ」

京太郎「これって俺だけがおかしいわけじゃないですよね?」

ハギヨシ「そうですねぇ」

京太郎「俺は正常な人間ですよね!?」

ハギヨシ「かもしれませんねぇ」

京太郎「この変人だらけのレストランにあって、俺こそが最後の砦としてがんばらなくちゃ……!」グッ

ハギヨシ「……」



京太郎「あ、先輩は別ですけどね」ニコッ

ハギヨシ「そうですね。(四捨五入すれば)正常(と呼べなくもない)ですね、須賀くんは」

京太郎「でしょう!?」

ハギヨシ「……」


【三つ子の魂】


京太郎「ええっとそれでなんでしたっけ、そうチーフの手錠!」

京太郎「なんで仕事中にあんなもんしてるんですか?」

京太郎「正直ちょっと近寄りがたいです」

ハギヨシ「プライベートでもしているそうですが」

京太郎「もっと近寄りがたくなりました」

ハギヨシ「ははは」

京太郎「あと、店長の紅茶も淹れすぎですし!」ダンッ

ハギヨシ「数を減らすように進言しておきましょうか?」

京太郎「いっぱいだろうが一杯だろうが店のモン飲んでる時点で問題なんですよ!」

京太郎「中途半端な気遣いやめてもらえません!?」

ハギヨシ「ははは……しかしあれは、口で言って解決する類の話ではありませんから」

京太郎「え、なんでですか?」

ハギヨシ「小学生の頃から、だそうで。どちらも」

京太郎「はあ?」


【二人の過去】


〈それは今から10年くらい前のことでした〉


一『~~♪』ジャラジャラ

少年A『おいくにひろー、なんでお前てじょうなんかしてんだよー』

少年B『さてはお前、はんざいしゃだろー。うわー、こえーこえー』


〈当時のボクは、どういう訳かいじめられっ子でした〉

京太郎「ホント、どういう訳でしょうね」


少年A『はんざいしゃめ、たいほしてやるー!』

少年B『ろうやに入れてやるー!』

一『やめて、やめてよ~』ジャラジャラ


〈そこに颯爽と現れたのが……〉


透華『なにをやっていますの、あなたたち?』ザッ


〈正義の味方のとーかちゃん(9才)だったのです!!〉


少年A『なんだよてめーじゃますんひぃぃぃぃっっ!!!???』ビクビクッ!!

黒服黒服黒服透華黒服黒服黒服『『『『『『『…………』』』』』』』ゴゴゴゴゴゴゴゴ

京太郎「あれ!?」ビクビクッ!!


【唯一の人】


透華『よわいものイジメとはかんしんしませんわね』

黒服『……』

少年AB『『』』ガクブル



京太郎「うわぁ。後ろに黒服並べて言う台詞かよ、意地悪ぃな」

〈結果的には透華一人でブチのめしてたよ。ためらうそぶりもない開幕金的で〉

京太郎「うわぁ………………うわぁ」



透華『ふん、口ほどにもないれんちゅうでしたわね』

黒服『お嬢様、お怪我などは』

透華『でしゃばるんじゃありませんの』

黒服『は……』ペコ

一『か、かっこいい……!』キラキラ



一「というわけで、それからずーっと透華の側にいるんだー♪」メデタシメデタシ

ハギヨシ「心温まるお話でございました」パチパチ

京太郎「俺の股間は急に冷えました」モジモジ


【一子相伝の技、あるいは業】


ハギヨシ「国広さんは幼少の砌より、一途に店長をお慕いしているのですね。ご立派なことです」ニコ

京太郎(そうか……?)

一「え、えへへ、そんなこと……」テレテレ

京太郎(あるか……?)

ハギヨシ「……」ニコニコ

京太郎「あの、チーフ?」

一「? なーに?」

京太郎「もう理解できてる思いますけど、その手錠……」

一「ああこれ? 恥ずかしいなぁ、変でしょ?」テレテレ

京太郎「はい、変です(チーフが)」



一「実はね、両親がマジシャンやってて。その関係で」テレテレ

京太郎「ご両親とどんな関係だとそうなるんですか!?」

一「両親との関係は両親だけど」


【一歩進んで一歩下がる】


京太郎「ご両親がマジシャンだからって手錠する理由には……」

一「縄抜けの訓練だよ」

京太郎「抜けてるところ見たことがないんですが」

一「……いやぁほら、世の中なにかと大変で、危険なご時世だし?」

京太郎「あなたがタイヘンなキケン代表ですチーフ。っていうか今ちょっと言い淀みましたよね?」


「はじめー、紅茶ー」


一「はーいただいまー♪」

一「というわけだから、ボク行くねっ」ジャラジャラ

京太郎「あ……」

ハギヨシ「何事も対話が大事です。どうでしたか須賀くん、疑問は晴れましたか?」

京太郎「……疑問は、解決しました」

ハギヨシ「それは重畳」

京太郎「……」


「ふっふふ~ん♪ 紅茶、お紅茶ティータイム~♪」ジャラジャラジャラ


京太郎(事態は何も解決してねーんだけどな……)


本日ここまで
遅々として話が進みませんな
まあ長い目で見てやってください


【セットプレイ】


〈休憩室〉


美穂子「あ、ハギヨシさ~ん」

ハギヨシ「おや」

和「こんなところにいたんですか、二人とも」

京太郎「せんぱぁい」デレッ

美穂子「厨房忙しくなりそうなので、そろそろ戻ってもらえますか?」ニコ

ハギヨシ「はは、これは失礼。すぐ参ります」ニコ

京太郎(なんだろう、微妙な緊迫感を感じる)

ハギヨシ「ああ、その前に。原村さん、ちょっと」

和「……どうかしましたか?」ススス

京太郎「? 先輩、どうしてハギヨシさんから距離を……」



ハギヨシ「御髪をおイジりしてもよろしいでしょうか?」ニコ

京太郎「なんで!?」

和「……いいですけど、変なのだけはやめてくださいね」ムスッ

京太郎「いいんだ!?」


【※ただし】


ハギヨシ「実は以前、美容師の修業をしておりまして」

京太郎「はあ」

ハギヨシ「時折、こう。発作的に」クイクイ

京太郎「嫌な発作ですね」

ハギヨシ「今日はツインテールにしてみましょうか」

和「……むう」

京太郎「ハギヨシさんのルックスじゃなかったらセクハラですよねこれ」

ハギヨシ「ははは」

和「そういう意味では、ハギヨシさんも十二分に変人なんですよね……」

京太郎「よくあることなんですか?」

美穂子「ええ、割とよく」

和「なんだか子供扱いされてるようで、複雑な気分です……」

京太郎「先輩は十五分に大人ですよぉ」デレッ

和「須賀くんはまず自分がセクハラで訴えられないか心配しましょうね」


【ほわったぁびゅーてぃふるわーるど】


和「……ふう。結構なお手前でした」サラァ

ハギヨシ「光栄にございます」ペコ

京太郎「おお、なんだか素人目にも艶が増したような」

和「ふふ、そうですか?」

ハギヨシ「美しい髪は女性の財産。丹念に手入れせねば人類の損失ですよ」

京太郎「そういう屁理屈こねてくるわけだ……」

美穂子「ハギヨシさん、今度私にもお願いしますね」ニコ

ハギヨシ「喜んで」ニコ

京太郎「あ、他の人にもやってるんですか」

美穂子「ええ、割とよく」

和「この間はチーフもやってもらってましたね」

京太郎「へえ」



ハギヨシ「というわけですから、いずれ須賀くんもどうですか?」ニコ

京太郎「その流れで俺の名前出るの明らかにおかしいですよね?」


【前提条件からして】


〈裏スペース〉


京太郎「……」コップジャー

ハギヨシ「22番様のサラダ上がりました。あと二十秒で唐揚げが出来るので一緒にお願いします」

京太郎「……あ、ハギヨシさん。ハギヨシさんは女性スタッフの髪を梳くのが趣味なんですよね?」

ハギヨシ「趣味かどうかは微妙なところですが」

京太郎「先輩の髪は、やりますよね」

ハギヨシ「はい」

京太郎「福路さんのもおやりになりますよね」

ハギヨシ「ええ、おやりになります」

京太郎「チーフのも」

ハギヨシ「むしろ向こうから頼まれましたね。唐揚げ上がりました」

京太郎「宮永さんは……まあ計算に入れなくてもいいか」

咲「!?」←通りすがり



咲「ちょ、須賀くん!? 私だって立派な女の子だよ!?」

京太郎「黙れベルリンの壁」

咲「」カチン


【沈黙の艦隊】


カンッ!!

ブゲラァッ!!


咲「22番いってきます!」プンプン

京太郎「っててえ……念のため聞いときますけど、宮永さんには」

ハギヨシ「近寄れませんから、無理ですね」ニコ

京太郎「ですよねー……だとすると」

ハギヨシ「すると?」

京太郎「店長の髪は梳かないんですか?」

京太郎「あの人に関してだけは、不思議とそういう話を聞かないんですけど」

ハギヨシ「ふむ。上司の御髪となると、さすがの私も。そうおいそれとはいきませんね」

京太郎「はあ、そういうもんですか」

ハギヨシ「ええ、そういうもんです」

京太郎「……」

ハギヨシ「……」

京太郎(……あ、あれ? なんか得も言われぬ圧迫感を感じるぞ?)タラリ



一「……」ジー


【当然の帰結】


京太郎「ふー。本日のお仕事終了っと」

和「お疲れ様です、須賀くん」ニコ

京太郎「はい、先輩もお疲れ様です」ニコ

透華「ふう……」

和「あ、透華さんもお疲れですか?」

京太郎「んなわけないでしょ、働かないのに」

和「す、須賀くん……」

透華「まあ失礼な」

和「そ、そうですよ須賀くん、ちょっと言い過」



透華「働かないからこその悩みというのもあるのですわよ?」ハァ

京太郎「じゃあ働け」

和「……」


【踏み出せ限界突破】


和「ま、まあまあ。透華さん、なにかお悩みですか?」

透華「この店に卸されている茶葉にも、いい加減飽きが来ましたわ」

京太郎「結局紅茶のことしか考えてないんですね……」

透華「そろそろ新しいのが入ってきてもいい時期ですわね」

京太郎「?」

和「えっ、それって……もしかして『おとう』さん、帰ってくるんですか?」

京太郎「?? 誰ですか?」

透華「我が店舗の担当マネージャーですの」

透華「本社の人間ですから、形式的には私の上司ということになりますわね」

京太郎「上司……ってことは、店長より偉いんですか」

透華「ええ」

京太郎「店長より……偉い……?」

京太郎「……」

京太郎「……」



京太郎「え!? 『これ』より偉ぶることって人類に可能なんですか!?」ガーン

透華「シフト増やしますわよ」

京太郎「今より!?」←週7


【ジョージ=ナッカータ】


和「大丈夫ですよ、須賀くん。『おとう』さんはいい人ですから」

京太郎「ほっ……」

透華「まるで私がいい人じゃないみたいな言い草ですこと」

和「そ、そんなことは!」アタフタ

京太郎(あるけどな)

京太郎「で、その『音尾(?)』っていうのがマネージャーさんの名前ってわけですね?」

透華「違いますわよ?」

京太郎「え? いや、でも今先輩が」



和「私の『お父』さんなんです」

京太郎「はいぃぃぃ!?!?」

和「血は繋がってないんですけど。一緒に暮らしたこともないんですけど」

京太郎「えええええええええええ!?!?!? それのどのへんが」

和「声が同じで……」

京太郎「似てるとかじゃなくて!?」

和「『おとお』さんのトーンの方が優しげで、個人的には好きです」

京太郎「その話今する必要ありました!?」


【ラブリーネーミング】


和父「というわけで、ただいま戻りました」キリッ

京太郎(おお。なんだかとってもロマンスグレー。弁護士バッジとか似合いそうだな)

和父「君が新人バイトくんかな? はじめまして」

京太郎「あっ、はい! 須賀京太郎と言います!」ペコ

和父「はは、そうかしこまらなくとも。いつもご苦労様」

京太郎(あっ、この人いい人だ)

和「お帰りなさい、おとうさん」ニコ

和父「ああ。ご苦労様だったね、原村さん」

京太郎(……この会話から違和感を拭いきれない)

和父「龍門渕店長も。私が不在の間、ご苦労様でした」

透華「ええ、ええ。それはそれは苦労しましたわよ、おとうさん」ハァ

京太郎(苦労してたのは主に俺だ)

京太郎「……あれ? 店長もマネージャーのこと、『おとう』さんって呼ぶんですか」

和父「……」



和父「本名、誰にも覚えてもらえなくて……」グスッ

京太郎(あっ、この人かわいそうな人だ)


【精神的ヒエラルキー】


和「だって親しみやすいじゃないですか、おとうさん」ニコニコ

透華「そう。コミュニケーションのためですのよおとうさん」ダラー

京太郎「先輩はともかくアンタはメンドくさがってるだけでしょうが」

和父「ははは……まあ、影の薄い私が悪いんだ」

和父「須賀くんも基本、私のことはいないものと思ってくれて構わない」

和父「たまにいるおじさん、ぐらいの認識でいいから」

和父「仕事に関しても、原則龍門渕さんの方針に従ってくれれば」

京太郎「……なんかさっきから質問ばっかりなんですけど、いいですか?」

和父「なにかな?」

京太郎「マネージャーって、店長より偉いんじゃ?」

和父「……」チラッ

透華「はじめー、のどがかわきましたわー」



和父「あの人より偉く振る舞うなんて私には無理だよ……」グスッ

京太郎(あっ、この人わりかしダメな人だ)

和(というか紅茶に飽きてたはずでは……?)


【今、私の願いごとが】


和父「ああそうだ龍門渕さん、紅茶で思い出しましたよ」

透華「仕入れてきましたの!?」ガバッ

和父「ええ、ええ。ざっと10ほどの銘柄を」

透華「はじめー、やっぱり紅茶は後でいいですわー!」

京太郎(不憫なチーフ……)ホロリ

和「今回はどちらに行ってたんですか?」

和父「さあ……色々回ったから、よく覚えてないな」

京太郎「いつも店にいないのは仕入れのためだったんですか?」

和父「……」

和「……」

透華「……」

京太郎(え、なにこの空気)



和父「妻が……行方不明で……」グスッ

京太郎「はい!?」

和父「スーパーに……牛乳を買いに行くって言ったきり……」グスッ

京太郎「迷子じゃねーか!」

和「おとうさんが買ってくる茶葉は、奥さんを探しに行った土地のお土産なんですよ」

透華「あら、上等なカシミールチャイですこと」

京太郎「心当たりが国外!? 奥さん羽でも生えてるんですか!?」


【そうさ僕たちは】


和父「国内はあらかた捜索を終えてしまったんだよ……」グスッ

和「いつ聞いてもすごいですね、おとうさんの奥さんの方向音痴ぶり……」

京太郎「日本中を『あらかた』捜索できるこの人も十分すごいですけどね」

透華「くんくん。さて、どれから飲みましょうか」つ袋

和父「……似てるなぁ」シミジミ

京太郎「え。似てるってまさか、店長が奥さんにですか?」

和父「ああいや、その袋に印刷されてる」


     ∧∧
   ノl (゚Д゚,,)/ミヽ
 ←O‐<⊂ニ lヾミミヾ
   ヽj |  |~
      U^U


和父「これがね」

京太郎「やっぱり羽生えてんじゃねーか!」

和父「まさしく天使のような人だった、私にとっては」

京太郎「やかましい!」

和父「というわけで、こういう人を見かけたらぜひ一報を」

京太郎「MMRに相談してください……」


ほのぼのファミレス四コマと美少女麻雀漫画で抜刀描写を挟んでくる雑誌があるらしい
次は一週間以内に来れるようがんばります
ではおやすみなさい

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